(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】補因子の非存在下で凝固活性を有する、及び/又は、第IX因子凝固活性が増加した第IX因子変異体、並びに、出血性疾患を処置するためのその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220128BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220128BHJP
C07K 14/745 20060101ALI20220128BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20220128BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20220128BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20220128BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220128BHJP
C12N 9/64 20060101ALI20220128BHJP
C12Q 1/56 20060101ALI20220128BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C07K14/745
C12Q1/37
A61P7/04
A61K38/36
A61K48/00
C12N9/64 Z
C12Q1/56
C12N15/57
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019176968
(22)【出願日】2019-09-27
(62)【分割の表示】P 2016537997の分割
【原出願日】2014-12-03
【審査請求日】2019-10-03
(32)【優先日】2013-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511025329
【氏名又は名称】デーエルカー-ブルートシュペンデディーンスト・バーデン-ヴェルテンブルク-ヘッセン・ゲーゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】DRK-BLUTSPENDEDIENST BADEN-WURTTEMBERG-HESSEN GGMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】シュットルンプ,ヨルク
(72)【発明者】
【氏名】クアド-リッシー,パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】ミラノフ,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ザイフリート,エアハルト
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-528913(JP,A)
【文献】国際公開第2007/149406(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00~19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型と比較して補因子の存在下において増加した凝固活性を有することを特徴とする、第IX因子(F.IX)の変異体であって、
該補因子は、第VIII因子(F.VIII)又は活性化第VIII因子(F.IIIa)であり、
V10K/R338L/S377W変異体、
V10K/R338L/S377W/L6F変異体、
V10K/R338L/S377W/E243D変異体、
V10K/R338L/S377W/E224G変異体、
V10K/R338L/S377W/L6F/E224G変異体、
V10K/R338L/S377W/E243D/E224G変異体、
V10K/R338L/S377W/K265T変異体、
K5A/R338L/S377W変異体、
K5A/V10K/R338L/S377W変異体、
G4Y/V86A/R338L/S377W変異体、及び
G4Y/V86A/R338L/S377W/K265T変異体、
から選択される、第IX因子の変異体。
【請求項2】
V10K/R338L/S377W変異体、
K5A/V10K/R338L/S377W変異体、及び
G4Y/V86A/R338L/S377W変異体、
から選択される、請求項
1の第IX因子の変異体。
【請求項3】
変異体に、さらなる化合物又は部分含む、請求項1
又は2の第IX因子の変異体。
【請求項4】
さらなる化合物又は部分が、変異体に、共有結合的に付着している、請求項
3の第IX因子の変異体。
【請求項5】
さらなる化合物又は部分が、タンパク質、ラベル及び/又はバイオポリマー/ポリマーを含む、請求項
4の第IX因子の変異体。
【請求項6】
請求項
5の第IX因子の変異体をコードする核酸。
【請求項7】
プロモーター及び/又は転写終結配列に作動可能に連結されている、請求項
6記載の核酸。
【請求項8】
遺伝子修復のための発現プラスミド、遺伝子療法構築物、ウイルス性ベクター及び非ウイルスベクター又は鋳型である、請求項
6又は7記載の核酸。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれか1項の少なくとも1つの第IX因子の変異体又は請求項6の少なくとも1つの核酸を含む、医薬組成物。
【請求項10】
さらに、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む、請求項
9の医薬組成物。
【請求項11】
疾病の診断、予防及び/又は治療に使用するための、請求項1~
5のいずれか1項の第IX因子の変異体、請求項
6~8の核酸、又は請求項
9又は10の医薬組成物。
【請求項12】
出血性疾患又は出血の治療に使用するための、請求項1~
5のいずれか1項の第IX因子の変異体、請求項
6~8の核酸、又は請求項
9又は10の医薬組成物。
【請求項13】
出血性疾患が、血友病A、第F.VIII因子若しくは第F.VIIIa因子、血友病Bに対する阻害性抗体によって引き起こされたか若しくは合併した血友病であり
及び/又は、出血性疾患又は出血が、たとえば、新生児凝固障害、重度の肝疾病;ハイリスクな手術技法;外傷性失血;骨髄移植;血小板減少症及び血小板機能異常症;経口抗凝固療法の迅速な逆転;第V因子、第VII因子、第X因子及び第XI因子の先天性欠乏症;並びにフォンヴィルブランド因子に対するインヒビターによるフォンヴィルブランド病、大きな損傷に関連した失血、脳出血、血小板機能異常症を含む、バイパス剤が使用される出血性疾患である、請求項
12の第IX因子の変異体、核酸、又は医薬組成物。
【請求項14】
細胞療法、遺伝子療法又は送達、タンパク質輸液療法のための、請求項
11~13の第IX因子の変異体、核酸、又は医薬組成物。
【請求項15】
遺伝子療法又は遺伝子送達構築物が、ウイルス性又は非ウイルス性ベクターであり、及び/又は、遺伝子療法又は遺伝子送達構築物が、キトサンナノ粒子に製剤化されている、第IX因子の変異体、核酸、又は医薬組成物を含む遺伝子療法又は遺伝子送達構築物の使用を含む、遺伝子療法又は送達のための、請求項
14の第IX因子の変異体、核酸、又は医薬組成物。
【請求項16】
遺伝子療法又は遺伝子送達構築物が、ミニサークルベクターである、請求項
15の第IX因子の変異体、核酸、又は医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~
5のいずれかの変異第IX因子の使用を含む、抗凝固剤をスクリーニングするための方法。
【請求項18】
抗凝固剤が、F.IXaを直接阻害する物質である、請求項
17の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補因子の非存在下において凝固活性を有することを特徴とする第IX因子(F.IX)又は活性化第IX因子(F.IXa)の変異体に関する。本発明はさらに、第IX因子(F.IX)又は活性化第IX因子(F.IXa)の変異体に関し、ここで、該変異体は、野生型と比較して増加したF.IX凝固活性を有することを特徴とする。本発明はさらに、出血性疾患、特に血友病A及び/若しくは血友病B、又はF.VIIIに対する阻害性抗体によって引き起こされたか若しくはこれに合併した血友病の治療及び/又は予防のためのこれらの変異体の使用に関する。本発明はまた、所望の特性を有し、したがって、それぞれの特定の治療適用のためにテーラーメードできる、第IX因子(F.IX)のさらなる変異体にも関する。
【0002】
発明の背景
凝固第IX因子
血液凝固第IX因子(F.IX)は、凝固カスケードにおいて中心的な役割を果たしている。F.IXは、一本鎖の不活性なチモーゲンとして血漿中を循環するトリプシン様のビタミンK依存性セリンプロテアーゼである(DiScipio et al., 1977; Davie et al., 1991)。第IX因子は、第XIa因子又は第VIIa因子-組織因子のいずれかによってCa2+依存的に活性化される。活性化には、活性化第VII因子(F.VIIa)-組織因子複合体又は活性化第XI因子(F.XIa)のいずれかによる2つのペプチド結合の開裂により(Fujikawa et al., 1974; Lindquist et al., 1978)、35残基の活性化ペプチドを除去することが必要である。
【0003】
F.IXはマルチドメインタンパク質である。N末端γ-カルボキシグルタミン酸(GLA)ドメインに、2つの上皮成長因子様(EGF)反復配列、活性化ペプチド(AP)、及びトリプシン様の活性部位を含むC末端セリンプロテアーゼドメインが続く(DiScipio et al., 1978)。このドメイン構造は、凝固因子のセリンプロテアーゼファミリーを規定し(Furie and Furie, 1988)、これには、第II因子(F.II)、第VII因子(F.VII)、第X因子(F.X)、第XI因子(F.XI)、第XII因子(F.XII)、及びプロテインC(PC)も含まれる。このファミリー内で、F.IXaは独特なタンパク質分解特性を有する。リン脂質表面上でのF.IXaとF.VIIIaの複合体の形成は、天然基質であるF.Xに対する反応性を106倍増加させるが(Duffy and Lollar, 1992)、対応するF.X配列を有するペプチドの開裂は実質的に全く観察されなかった(McRae et al., 1981)。
【0004】
Freedman et al.(1996)は、第IX因子の膜結合部位が、アミノ酸残基1~11に存することを提唱した。特にロイシン6、フェニルアラニン9、及びバリン10が、脂質二重層内に埋もれたFIXタンパク質の外面上で疎水性部位を形成することが同定された。
【0005】
Chang et al.(2002)は、F.IXのEGF2様ドメイン内の残基102~108が、F.Xへの適切な結合にとって重要であることを記載している。Wilkinson et al.は、残基88~109(しかしArg94ではない)についても類似した結果を得、リン脂質小胞又は血小板上でのF.X活性化複合体の会合にとってのその重要性を提唱した(Wilkinson et al., 2002-a, Wilkinson et al., 2002-b)。
【0006】
活性化第IX因子(F.IXa)は次いで、カルシウムイオン、膜表面(リン脂質)、及び非酵素的なタンパク質補因子、活性化第VIII因子(F.VIIIa)の存在に依存的である反応において、第X因子(F.X)を活性化する(Davie et al., 1991)。
【0007】
止血におけるF.IXaの重要性は、F.IX遺伝子に突然変異を有する個体における出血性疾患の血友病Bの発症によって反映される(Gianelli et al., 1998)。F.IXaは、その補因子FVIIIaの非存在下では天然基質又は合成基質に対して非常に僅かなタンパク質分解活性しか示さない。F.VIIIaの結合により、F.Xに対するタンパク質分解活性は106倍増加するが、一方、ペプチド基質を用いての活性はあまり影響を受けないままである(Duffy and Lollar, 1992; McRae et al., 1981)。F.IXaモデュレーションの後者の基質依存性活性は、同じように、関連した凝血酵素である活性型PC(補因子はプロテインS)、F.Xa(補因子は第Va因子)、F.VIIa(補因子は組織因子)、及びFIIa(補因子はトロンボモジュリン)にも観察され、これはその補因子の存在下で、その天然基質と共に有意な活性又は特異的な変化を達成する(Mann et al.2003)。全ての凝血セリンプロテアーゼは、広範な構造的及び機能的相同性を共有する。
【0008】
さらに、凝固第IXa因子(F.IXa)及び第Xa因子(F.Xa)は両方共、リン脂質表面において補因子と共にある場合にのみ効果的に天然基質を開裂する。Hopfner et al.(1997)は、大腸菌において切断短縮されたF.IXa(rf9a)及びF.Xa(rf10a)の変異体を調査して、F.Xaより104倍低いF.IXaのアミド分解活性の差の決定基を同定した。F.IXa及びF.Xaの結晶構造に基づいて、4つの特徴的な活性部位成分(すなわち、キモトリプシン番号付けに基づいて、Glu219、148-ループ、Ile213、99-ループ)をその後、rf9aとrf10aとの間で交換した。さらに、4つ全ての突然変異を組み合わせることにより、本質的にF.Xa特性がrf9aに導入され、すなわちアミド分解活性は、F.Xa基質選択性と共に130倍増加した。
【0009】
酵素的には、F.IXaは、補因子である第VIIIa因子(F.VIIIa)の存在下でも向上しないその非常に低いアミド分解活性によって特徴付けられ、この点において、F.IXaは全ての他の凝固因子と異なっている。F.IXa-F.VIIIa複合体の活性化は、その巨大分子基質である第X因子(F.X)を必要とする。活性部位の近くに位置する99-ループが、F.IXaの低い活性の原因の一部であり、なぜならそれは、サブサイトS2-S4においてカノニカルな基質の結合に干渉するコンフォメーションを採っているからである。Sichler et al.(2003)は、残基Lys-98及びTyr-99(キモトリプシン番号付け)が、F.IXaのアミド分解特性に決定的に連関していることを開示している。Tyr-99をより小さな残基と交換すると、全体的に活性が減少しただけでなく、S1における結合も損なわれた。Lys-98をより小さく非荷電の残基と交換すると、活性は増加した。Lys-98、Tyr-177及びTyr-94の同時突然変異誘発(rf9-Y94F/K98T/Y177T、キモトリプシン番号付け)は、7000倍増加した活性及び第Xa因子に対して変化した特異性を有する酵素を産生した。Sichler et al.(2003)は、これらの残基が第IXa因子の低い活性を説明すると結論付けた。Sichler et al.(2003)は、この三重突然変異体のrf9-Y94F/K98T/Y177T(キモトリプシン番号付け)がおそらく、補因子及び基質への結合によって生理学的に誘発されるコンフォメーション変化を模倣するのだろうと結論付けた。
【0010】
国際公開公報第2010/012451号は、補因子の非存在下でも凝固活性を有する第IX因子変異体、及び、出血性疾患を処置するためのその使用を開示する。国際公開公報第2010/012451号では、本発明者らは、特に、突然変異V181I、K265T及びI383Vを含有している、工学操作された第IX因子変異体ITVが、第VIII因子を迂回することができ、中和抗体の存在下でF.VIIIノックアウトマウスの血友病表現型を修正することができることを実証した(Milanov et al., 2012)。
【0011】
血友病
最もよく知られている凝固因子疾患は血友病である。血友病は、生体が血液凝固又は凝血を制御する能力を損なう、遺伝性の遺伝子疾患のファミリー名である。最もよく見られる形態である血友病Aは、第VIII因子(F.VIII)遺伝子の突然変異によって引き起こされ、これにより、F.VIIIの欠損症が起こる。遺伝は、X連鎖劣性であり;したがって、男性は発症するが、女性はキャリアであるか又は非常に稀に軽度の表現型を示す。5,000人中1人の男性が発症する。血友病Bは、第IX因子(F.IX)欠損症としても知られ、これは2番目に最もよく見られるタイプの血友病であるが、血友病Bは血友病Aよりもはるかに頻度が少ない。
【0012】
これらの遺伝子欠損症は、正常な凝固過程に必要とされる凝血因子の血漿中凝固因子レベルを下げる可能性がある。血管が損傷されると、一時的な瘡蓋が形成されるが、欠乏している凝血因子が、血塊を維持するのに必要とされるフィブリンの形成を妨げる。したがって、血友病患者は健常人よりも強くは出血しないが、はるかにより長い時間出血する。重度の血友病患者は、小さな損傷でさえ、何日間、何週間も続くか、又はもう二度と完全には治癒しない失血が生じる可能性がある。ここでの重大なリスクは通常の小さな出血であり、これはF.VIIIの欠乏により、治癒するのに長い時間がかかる。脳又は関節内などの領域では、これは致命的であるか又は生命を衰弱させ得る。外部損傷による出血は正常であるが、後で起こる再出血及び内出血、特に筋肉、関節への出血、又は閉じた空間への出血の発生率は増加する。主な合併症は、関節血症、出血、消化管出血、及び月経過多を含む。
【0013】
血友病の治癒法はないが、欠損している凝固因子の定期的な点滴、すなわち血友病AではF.VIII、又は血友病BではF.IXを用いて制御することができる。
【0014】
西洋諸国では、血友病の治療の一般的な標準は、2つのカテゴリーの1つに該当する:(i)予防、又は(ii)オンデマンド。予防は、自発的な出血エピソードを予防するに十分に高い凝固レベルを保持するように、定期的なスケジュールでの凝固因子の点滴を含む。オンデマンド処置は、一旦、出血エピソードが発生したらそれらを処置することを含む。
【0015】
しかしながら、幾人かの血友病患者は、彼らに投与された補充因子に対する抗体(インヒビター)を発達させるので、該因子の量を増加しなければならないか、又は、非ヒト補充製品、例えばブタF.VIII又はその改変変異体を投与しなければならない、例えば、国際公開公報第01/68109A1号(エモリー大学)を参照。
【0016】
患者が、循環中のインヒビターの結果として補充凝固因子に対して不応性となった場合、これを組換えヒト第VII因子(ノボセブン(登録商標))を用いて克服し得る、欧州特許第1282438B1号及び欧州特許第1282439B1号(ノボノルディスク社)も参照。このアプローチのこれまでの限界は、それぞれ第VIII因子(10~14時間)又は第IX因子(18~39時間)と比較してそして製剤に応じて、第VIIa因子(2~3時間)の短い半減期であり、これが第VIIa因子を用いての予防療法を困難としている。さらに、より長い期間におよび第VIIa因子のようなすでに活性化されたプロテアーゼを使用するリスクは、血栓リスク、血管内皮の定常的な活性化及び血管傷害を通したリスク、腫瘍の成長又は転移を促進し得る向凝血シグナル伝達のリスクをはじめとする、リスクを有し得る。
【0017】
国際公開公報第02/40544A2号は、ヘパリンに対する突然変異体ヒトF.IXの親和性を野生型F.IXと比較して減少させる、ヘパリン結合ドメインにおける突然変異を含む突然変異体ヒト第IX因子、及び、血友病Bの治療介入におけるその使用を開示する。
【0018】
遺伝子療法
血友病は、遺伝子療法アプローチに理想的である。なぜなら、必要とされる凝血は血流中を循環しており、それ故、生体中の基本的にどこにでも発現され得るからである。さらに、重度な形態の疾病を患う患者の予防処置を用いての研究は、循環中の凝血因子の1%超の最小限の上昇が、すでに臨床結果を改善し得、そして疾病によって引き起こされる大半の病変、すなわち関節破壊を回避し得ることを実証した。いくつかの遺伝子療法アプローチが開発されたが、試験は依然として初期の臨床段階である。最も有望なアプローチは現在、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いての血友病Bの処置のためのものである。
【0019】
血友病Bを患うヒトの骨格筋へのAAVの筋肉内注射は安全であるが、第IX因子の治療レベルを達成するにはより高い用量が必要とされる。しかしながら、用量の漸増はこのアプローチでは可能ではない。なぜなら、阻害抗体形成のリスクは、1箇所の注射部位あたりの筋肉中に発現されるF.IX抗原の量に依存するからである。血友病Bイヌモデルにおける推定により、ヒトにおいて約1%のF.IX発現レベルを得るには400回超の筋肉内注射が必要であろうという結論が得られた(Arruda et al., 2004)。それ故、この手順は、ヒトには適用できない。このアプローチの効力は、筋肉細胞外空間におけるF.IXの保持によって、及び高い発現率で完全に活性なF.IXを合成する筋肉の能力が低いことによって妨げられる。これらの限界を克服するために、Schuettrumpf et al.(2005)は、血友病Bマウスにおける筋肉又は肝臓に指向された発現のためのF.IX変異体をコードするAAVベクターを構築した。細胞外マトリックスに対して低い親和性を有する変異体であるAAV-F.IX-K5A/V10K(F.IX番号付け)の筋肉内注射後の循環中のF.IXレベルは、野生型(WT)F.IXと比較して2~5倍高かったが、一方で、タンパク質特異的活性は同じままであった。F.IX-R338Aの発現は、それぞれ骨格筋又は肝臓にベクターを送達した後、F.IX-WTよりも2倍又は6倍高い比活性を有するタンパク質を生成した。F.IX-WT及び変異体形は、テールクリッピングアッセイにより攻撃した場合にインビボにおいて効果的な止血を提供する。重要なことには、AAV-F.IX変異体の筋肉内注射は、F.IX-WTに認容性のあるマウスにおいて、F.IXに対する抗体の形成を引き起こさなかった。最初にChang et al.(1998)によって記載された、前記R338A変異体の他に、より高いF.IX比活性を有する別の変異体であるV86Aが記載されている(Chang et al. 2002)。
【0020】
血友病Bと比較して血友病Aへの遺伝子療法戦略の適用は、F.IXと比較してF.VIIIのより高い免疫原性及びより大きなサイズによってさらに複雑化される。
【0021】
したがって、当技術分野において、出血性疾患、特に血友病A及び/又はBの治療及び/又は予防のための改良された手段及び方法を提供する必要がある。
【0022】
したがって、本発明は、先行技術において存在しているような出血性疾患の治療及び/又は予防のための方法及び手段をさらに改良することを目的とし、したがって、本発明の目的は、出血性疾患、特に血友病A及び/又はBの効果的で、特異的で及び標的化された治療及び/又は予防を可能とするさらに改良された方法及び手段を提供することである。
【0023】
補因子の非存在下で凝固活性を有する第IX因子の変異タンパク質
本発明によると、この目的は、第IX因子(F.IX)又は活性化第IX因子(F.IXa)の変異体を提供することによって解決され、F.IX変異体は、それが補因子の非存在下で凝固活性を有することを特徴とし、該補因子は第VIII因子(F.VIII)又は活性化第VIII因子(F.VIIIa)である。
【0024】
本明細書において使用される用語「変異体」は、好ましくは、天然に存在するタンパク質のアミノ酸の置換、付加(挿入)又は欠失の変異体又は誘導体をいう。変異体はさらに、改変アミノ酸、非天然アミノ酸、又はペプチド骨格/構造を模倣することのできるペプチド模倣体若しくはさらなる化合物を含む、アミノ酸配列を含む。変異体はまた、他の分子の一部による置換若しくはカップリング、又は他の分子とのカップリングを含み得る。
【0025】
アミノ酸置換は、他のアミノ酸による又はアイソスター(タンパク質のアミノ酸に対して構造的及び空間的に近い類似性を有する改変アミノ酸)による保存的並びに非保存的な置換、アミノ酸の付加、又はアイソスターの付加を含む。
【0026】
保存的なアミノ酸置換は、典型的には、同じクラスのアミノ酸間での置換に関する。これらのクラスは、例えば、
-非荷電極性側鎖を有するアミノ酸、例えばアスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン及びチロシン;
-塩基性側鎖を有するアミノ酸、例えばリジン、アルギニン及びヒスチジン;
-酸性側鎖を有するアミノ酸、例えばアスパラギン酸及びグルタミン酸;並びに
-非極性側鎖を有するアミノ酸、例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン及びシステインを含む。
【0027】
本特許出願内の第IX因子(F.IX)は、Kurachi and Davie, 1982によって記載されたヒトF.IXのタンパク質及びcDNAをいう。
mRNA/cDNAについてはRefseq NM_000133(配列番号1)、及び
タンパク質配列についてはRefseq NP_000124(配列番号2)。
配列番号2のアミノ酸配列は、F.IXのシグナルペプチド及びプロペプチドを含有する。実際の番号付けは、-46(Met)から始まり;+1はTyrである。
【0028】
F.IXの遺伝子並びにアミノ酸配列においていくつかの天然に生じた多形が存在する。キングス・カレッジ・ロンドンの血友病B突然変異データベースからのリスト(http://www.kcl.ac.uk/ip/petergreen/haemBdatabase.htmlを参照)を以下に示す。例えば、最も頻度の高い多形は147位であり、この位置においてトレオニンが個体群の67%において、そしてアラニンが33%において見い出され得る。興味深いことに、あまり頻度の高くないアラニンが、唯一入手できる組換えF.IX治療薬に存在する。
【0029】
【0030】
本特許出願内の活性化第IX因子(F.IXa)は、前記したような35アミノ酸活性化ペプチドの開裂を通して活性化されたF.IX分子をいう。
【0031】
凝固因子F.IX及びF.VIIIは両方共に常に、その機能を示し得る前に活性化されなくてはならないので、F.IX/F.IXa又はF.VIII/F.VIIIaの両方を同義語として使用することができる。
【0032】
アミノ酸残基の番号付けのために、F.IX番号付けシステムが使用される(Kurachi and Davie, 1982による、特記した場合を除く)。当技術分野において幾人かの著者によって、キモトリプシノーゲンの番号付けが、セリンプロテアーゼのキモトリプシンに対して相同性がある特定のアミノ酸の記載に使用されている。本発明では、キモトリプシン番号付けを、本明細書において明示した場合にのみ使用する。
【0033】
F.IXの「凝固活性」又は「機能的活性」は、F.IX比活性ということができ、これは通常、ユニット/mg(U/mg)で測定される。F.IXの1ユニット(1U)は1ミリリットル(ml)の正常なヒト血漿中のF.IXの量(これは5000ngのF.IXに相当する)といわれるので、通常の比活性は約200U/mgである。F.IXの比活性は、F.VIIIの存在下における血漿中のプロテアーゼ活性として定義されるので、補因子F.VIIIの非存在下における(凝固)活性についての当技術分野において使用されている定義は存在しない。それ故、F.VIIIの非存在下における凝固活性、これを「F.VIII様活性」とも呼ぶが、これは本明細書において等量の野生型F.IXがF.VIIIの存在下において示すであろう活性の比率として表現される。
【0034】
したがって、F.IX変異体は、それが血液中の凝固性F.VIIIの非存在によって引き起こされた凝血欠損症(これは、疾病の場合においては、F.VIIIタンパク質の非存在、欠陥のあるF.VIIIタンパク質の存在、又はF.VIIIタンパク質の阻害、例えば阻害抗体による阻害のいずれかに起因し得る)を修正する場合、補因子の非存在下において「凝固活性」を有する。
【0035】
凝血カスケードのビタミンK依存性セリンプロテアーゼの変異体、好ましくはF.IX変異体の「凝固活性」又は「機能的活性」を決定するために本発明において使用されるアッセイシステムは、aPTTに基づいた一段アッセイである。活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT又はAPTT)は、「内因性」凝血経路(現在では接触活性化経路といわれる)及び共通凝血経路の両方の効力を測定する成績指標である。それは、血液凝固における異常の検出とは別に、主要な抗凝血剤であるヘパリンを用いての処置効果をモニタリングするためにも使用される。試料中のF.VIII又はF.IXの活性レベルの決定のために、試験は、それぞれF.VIII又はF.IXの活性の測定のためにF.VIII又はF.IX欠損血漿中に試料を添加することによって行なわれる。この試験は、F.VIII又はF.IXの一段アッセイといわれる。現在、F.IX変異体のF.VIII非依存性活性を、一段アッセイによって、そしてF.VIII欠損血漿を使用して決定することができる。
【0036】
簡潔には、血液を、カルシウムと結合することによって凝血を抑止するシュウ酸塩又はクエン酸塩を用いて回収する。血漿を、遠心分離によって血液の血球部分から分離する。組換え発現されそして精製されたタンパク質の場合、前記タンパク質をイミダゾール緩衝液中で希釈する。試料を混合し、そして標準化した因子(VIII又はIX)欠損血漿に加える。内因性経路を活性化するために、リン脂質、アクチベーター(例えばシリカ、セライト、カオリン、エラグ酸)及びカルシウム(シュウ酸塩の抗凝血作用を逆転するため)を血漿試料中に混合する。血栓(血塊)が形成されるまでの時間を測定する。試験は、反応混合物に組織因子が存在しないことに因り「部分」と呼ばれる(Langdell et al., 1953参照)。
【0037】
好ましくは、本発明による第IX因子変異体は、臨床的に適切な凝固活性(又は臨床的妥当性を有する凝固活性)、すなわち、該変異体を、本明細書において以下に開示したような臨床適用に適したものにさせる凝固活性を有する。
【0038】
臨床的妥当性を有する好ましい凝固活性は、補因子F.VIIIの非存在下において前記変異体の1%以上の凝固活性であり、ここで、100%は、補因子F.VIII又はF.VIIIaの存在下における野生型F.IXの活性をいう。
【0039】
約1%を維持した第VIII因子又は第IX因子のレベルは、重度の血友病患者における主要な出血性合併症を予防するための予防処置レジメンにおいて十分である。F.VIIIの非存在下において「1%のF.VIII様」活性を有する第IX因子変異体を用いて、重度の血友病A患者において1%レベルに到達するためには、すでに生理的に存在するF.IXに加えて、正常(約5000ng/ml)の100%のF.IX変異体レベルが必要となろう。このような処置は実行可能と思われ、それ故、臨床的に適切な「第VIII因子様」活性は1%と推定される。
【0040】
1つの実施態様において、本発明の変異第IX因子は、好ましくはアミノ酸の置換、挿入及び/又は欠失による、99-ループの改変を含む。99-ループの改変を、隣接するアミノ酸残基か、該アミノ酸残基以外に99-ループと相互作用する残基のアミノ酸かの置換、挿入及び/又は欠失によりループ構造に影響を及ぼすことによっても達成することができる。
【0041】
第IX因子の99-ループ又は挿入ループ80~90(キモトリプシノーゲン番号付けによる)は、アミノ酸残基256~268(F.IX番号付け)を包含する。99-ループは活性部位の近くに位置し、そしてF.IXの活性化に役割を果たす。Sichler et al.(2003)によると、Tyr-177は不活性なコンフォメーションで99-ループを固定化し、これは生理的複合体において補因子F.VIIIaによって解き放たれる。その後、F.Xは、固定化されていない99-ループを再編成でき、その後、活性部位溝に結合する。
【0042】
国際公開公報第2010/012451号では、本発明者らは、特に、突然変異V181I、K265T及びI383Vを含有している、工学操作された第IX因子変異体ITVが、第VIII因子を迂回することができ、中和抗体の存在下でF.VIIIノックアウトマウスの血友病表現型を修正することができることを実証した(Milanov et al., 2012)。本発明では、活性の増加に寄与する異なる単一の突然変異を組み合わせることによって、さらなる改変が施されて、その補因子F.VIIIの非存在下でさらにより効果的なF.IX分子を作製する、並びに、その補因子F.VIIIの存在下で増加した比活性を有する強力なF.IX変異体を作製する。
【0043】
本発明は、第IX因子(F.IX)又は活性化第IX因子(F.IXa)の変異体を提供し、ここで、F.IX変異体は、それが補因子の非存在下で凝固活性を有することを特徴とし、該補因子は第VIII因子(F.VIII)又は活性化第VIII因子(F.VIIIa)である。
【0044】
前記変異第IX因子又は活性化第IX因子は、アミノ酸置換V181I及び/又はI383Vと組み合わせて265位に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0045】
アミノ酸置換V181I及び/又はI383Vと組み合わせて265位にアミノ酸置換を有する変異体(好ましくはK265T又はK265A)は、本明細書において「基本変異第IX因子」と呼ばれる。
【0046】
好ましくは、本発明による変異第IX因子は、255~269、383、181、6、44、72、75、102、105、122、185、224、263、338及び/又は99-ループの改変の群より選択された位置に少なくとも1つのさらなるアミノ酸置換を含む。
【0047】
より好ましくは、変異第IX因子は、K265T、K265A、I383V、V181I、L6F、Q44H、W72R、F75V、S102N、S102K、S102P、S102R、S102Q、S102W、N105S、K122R、E185D、E185S、E185F、E185K、E185P、E185Q、E185R、E224G、E243D、I263S、R338E、T376A、及び/又は99-ループの改変から選択された少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0048】
本発明による変異第IX因子は、アミノ酸置換V181I及び/又はI383Vと組み合わせて265位に少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、
さらに、6、11、25、44、54、72、75、78、86、89、102、105、113、119、122、125、135、139、154、159、185、195、196、211、219、222、224、236、243、251、260、262、263、268、289、299、302、304、310、319、330、334、336、338、366、368、376、383、386、391、392、394、399、及び/又は99-ループの改変、
好ましくは255~269、383、6、44、72、75、102、105、122、185、224、263、338、及び/又は99-ループの改変、
より好ましくは6、102及び/又は185
の群から選択された位置にアミノ酸置換を含む。
【0049】
好ましい実施態様では、さらなるアミノ酸置換は、L6F、Q11R、F25L、Q44H、N54D、W72R、F75V、E78D、V86A、N89D、S102N、N105S、E113V、E119V、K122R、E125D、V135A、Q139E、D154N、T159S、E185D、Q195L、V196I、V211I、A219V、C222Y、E224G、I263S、H236L、E243D、I251V、N260K、A262D、I263S、H268D、H268R、C289R、F299T、F302Y、S304F、G310R、K319R、L330I、A334S、R338E、L336H、G366R、P368S、P368I、T376A、I383A、T386A、M391K、K392E、K394R、T399S、及び/又は99-ループの改変、
好ましくは、L6F、Q44H、W72R、F75V、S102N、S102K、S102P、S102R、S102Q、S102W、N105S、K122R、E185D、E185S、E185F、E185K、E185P、E185Q、E185R、E224G、E243D、I263S、R338E、T376A、及び/又は99-ループの改変、
より好ましくはL6F、S102N及び/又はE185D
の群から選択される。
【0050】
好ましい実施態様では、変異第IX因子は、さらなるアミノ酸置換と組み合わせて、好ましくはK265T、K265A、K265D、K265E、K265F、K265G、K265H、K265I、K265N、K265S及びK265Vから、より好ましくはK265T、K265Aから選択された、265位(キモトリプシノーゲンの番号付けによると98位)にアミノ酸置換を含む。
【0051】
好ましい実施態様では、前記の基本変異第IX因子は、以下の群の少なくとも1つのアミノ酸置換を含む:
グループA
-補因子F.VIIIの非存在下における凝固活性
(F.VIII非依存性活性)
野生型と比較して増加
グループB
-補因子F.VIIIの非存在下における凝固活性
F.VIII非依存性凝固活性は、基本変異体のそれぞれの凝固活性と比較して増加している
【0052】
【0053】
265位のアミノ酸の置換は、好ましくは、K265T、K265A、K265D、K265E、K265F、K265G、K265H、K265I、K265N、K265S及びK265V、好ましくはK265T、K265Aから選択される。
【0054】
好ましい実施態様では、さらなるアミノ酸置換は、6位、102位、及び185位から、
好ましくは、L6F、S102N、S102K、S102P、S102R、S102Q、S102W、E185D、E185S、E185F、E185K、E185P、E185Q、E185Rから選択され、
1つの実施態様では、265位のアミノ酸置換は、K265T又はK265Aである。
【0055】
本発明による変異第IX因子は、好ましくは、
V181I/K265T/I383V/L6F変異体、
V181I/K265T/I383V/S102N変異体、
V181I/K265T/I383V/E185D変異体、
V181I/K265T/I383V/E185S変異体、
V181I/K265T/I383V/L6F/S102N変異体、
V181I/K265T/I383V/L6F/S102K変異体、
V181I/K265T/I383V/S102N/E185D変異体、及び
V181I/K265T/I383V/S102N/E185S変異体
から選択される。
【0056】
本発明による変異第IX因子は、好ましくは、
V181I/K265A/I383V/L6F変異体、
V181I/K265A/I383V/S102N変異体、
V181I/K265A/I383V/E185D変異体、
V181I/K265A/I383V/E185S変異体、
V181I/K265A/I383V/L6F/S102N変異体、
V181I/K265A/I383V/L6F/S102K変異体、
V181I/K265A/I383V/S102N/E185D変異体、及び
V181I/K265A/I383V/S102N/E185S変異体
から選択される。
【0057】
より好ましくは、本発明による変異第IX因子は、
V181I/K265A/I383V/L6F変異体、及び
V181I/K265A/I383V/E185D変異体
から選択される。
【0058】
増加したF.IX凝固活性を有する第IX因子の変異タンパク質
本発明によると、この目的は、第IX因子(F.IX)又は活性化第IX因子(F.IXa)の変異体を提供することによって解決され、ここで、F.IX変異体は、それが野生型と比較してその補因子の存在下で増加した凝固活性を有することを特徴とし、ここで、該補因子は、第VIII因子(F.VIII)又は活性化第VIII因子(F.VIIIa)である。
【0059】
「その補因子の存在下において増加した凝固活性」という用語はまた、本明細書において「高機能F.IX活性」と呼ばれる。
【0060】
本発明による変異第IX因子は、好ましくは、5、6、10、11、44、72、75、78、102、105、122、135、159、185、186、211、224、243、262、263、268、327、338、367、368、376、383、394の群から選択された位置にアミノ酸置換を含み、
好ましくは、K5A、K5F、L6F、V10K、V10F、V10R、Q11R、Q11H、Q11K、Q44H、W72R、F75V、E78D、S102N、N105S、K122R、V135A、T159S、E185D、D186E、V211I、E224G、E243D、A262D、I263S、H268R、R327S、N367D、P368I、T376A、I383A、K394R、
より好ましくはK5A、L6F、Q11R、Q44H、W72R、F75V、E78D、S102N、N105S、K122R、E185D、D186E、V211I、E224G、E243D、I263S、T376A、K394R
の少なくとも1つと組み合わせて、アミノ酸置換R338L又はR338Eを含む。
【0061】
好ましくは、本発明による変異第IX因子は、5、6、10、11、44、72、75、102、105、122、185、224、243、263、338、376の群より選択された位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0062】
本発明は、第IX因子(F.IX)又は活性化第IX因子(F.IXa)の変異体を提供し、ここで、F.IX変異体は、それが野生型と比較してその補因子の存在下で増加した凝固活性を有することを特徴とし、ここで、該補因子は第VIII因子(F.VIII)又は活性化第VIII因子(F.VIIIa)である。
【0063】
前記の変異第IX因子又は活性化第IX因子は、377位のアミノ酸置換(好ましくはS377W)と組み合わせて、338位に少なくとも1つのアミノ酸置換(好ましくはR338L又はR338E)を含む。
【0064】
好ましい実施態様では、377位のアミノ酸置換(好ましくはS377W)と組み合わせて、338位にアミノ酸置換を含む前記変異第第IX因子(好ましくはR338L又はR338E)は、以下の群の少なくとも1つのアミノ酸置換を含む:
グループD
-補因子F.VIIIの存在下で増加した凝固活性
(F.VIII依存性活性)
野生型と比較して増加
【0065】
【0066】
本発明は、野生型と比較してその補因子の存在下で増加した凝固活性を有することを特徴とする、第IX因子(F.IX)変異体を提供し、
該補因子は第VIII因子(F.VIII)又は活性化第VIII因子(F.VIIIa)であり、
該変異第IX因子又は活性化第IX因子は、4、5、6、10、11、44、72、75、78、102、105、122、135、159、185、186、211、224、243、262、263、265、268、327、367、368、376、377、383、394、
好ましくは4、5、6、10、11、44、72、75、102、105、122、185、224、243、263、265、376、377、
より好ましくは377、10、4、5及び/又は265
の群から選択された位置のアミノ酸置換と組み合わせて、338位にアミノ酸置換を含む。
【0067】
好ましい実施態様では、さらなるアミノ酸置換は、G4Y、K5A、K5F、L6F、V10K、V10F、V10R、Q11R、Q11H、Q11K、Q44H、W72R、F75V、E78D、S102N、N105S、K122R、V135A、T159S、E185D、D186E、V211I、E224G、E243D、A262D、I263S、K265T、H268R、R327S、N367D、P368I、T376A、S377W、I383A、K394R、
好ましくはK5A、L6F、Q11R、Q44H、W72R、F75V、E78D、S102N、N105S、K122R、E185D、D186E、V211I、E224G、E243D、I263S、K265T、T376A、S377W、K394R、
より好ましくはS377W、V10K、G4Y、K5A及び/又はK265T
の群から選択される。
【0068】
好ましい実施態様では、変異第IX因子は、
5位のアミノ酸置換、
10位のアミノ酸置換、及び/又は
377位のアミノ酸置換
と組み合わせて、338位にアミノ酸置換を含む。
【0069】
好ましくは、338位のアミノ酸置換は、R338L又はR338Eであり、
5位のアミノ酸置換はK5Aであり、
10位のアミノ酸置換はV10Kであり、
及び/又は377位のアミノ酸置換はS377Wである。
【0070】
本発明による変異第IX因子は、好ましくは、
V10K/R338L変異体、
R338L/S377W変異体、
V10K/R338L/S377W変異体、
V10K/R338L/S377W/L6F変異体、
V10K/R338L/S377W/E243D変異体、
V10K/R338L/S377W/E224G変異体、
V10K/R338L/S377W/L6F/E224G変異体、
V10K/R338L/S377W/E243D/E224G変異体、
V10K/R338L/S377W/K265T変異体、
K5A/R338L変異体、
K5A/R338L/S377W変異体、
K5A/V10K/R338L/S377W変異体、
G4Y/V86A/R338L/S377W変異体、及び
G4Y/V86A/R338L/S377W/K265T変異体
から選択される。
【0071】
免責事項:
本発明は、本発明者らの国際公開公報第2010/012451号のこれより以前の出願にすでに開示されている変異第IX因子を包含しない。特に、本発明は、以下を包含しない:
-単一変異体:R338A、S377W、G4Y、V86A、K265T、K265A、
-G4Y/V10K変異体、
-S340T/R338A/Y345T変異体、
-R338A/S377W変異体、
-S360A/R338A/S377W変異体、
-V86A/R338A/S377W変異体、
-G4Y/R338A/S377W変異体、
-R338A/K265T変異体、
-K265T/R338A/I383V変異体、
-Y259F/K265T/R338A/T340S/Y345T変異体、
-V181I、K265T/I383V変異体、
-V181I/K265T/R338A/S377W/I383V変異体。
【0072】
さらに、本発明は、Chang et al., 1998、国際公開公報第99/03496A1号、米国特許第2008/167219A1号、Chang et al., 2002若しくはKao et al., 2013に開示されているか、又はQuade-Lyssy et al., 2012に論評されているような、以下の変異体を包含しない:
-単一変異体:K5A、V10K、V86A、E277A、R338A、R338L、
-単一変異体:S102A、E113A、K122A、N105A、
-K5A/V10K変異体、
-V86A/E277A変異体、
-E277A/R338A変異体、
-V86A/E277A/R338A変異体、
-V86A/E277A/R338L変異体、
-Y259F/K265T/Y345T変異体。
【0073】
-コンジュゲート
好ましい実施態様では、本発明による第IX因子変異体は、該変異体に好ましくは共有結合的に付着した、さらなる化合物又は部分を含む(コンジュゲート)。
【0074】
好ましくは、さらなる化合物又は部分は、
-タンパク質、例えばアルブミン、
-ラベル、例えば発色団、フルオロフォア、アイソトープ、
及び/又は
-バイオポリマー/ポリマー、例えばキトサン、PEG
から選択される。
【0075】
1つの実施態様では、キトサン-コンジュゲートは、遺伝子療法に、例えばF.IX変異体の経口遺伝子送達に適している。
【0076】
F.IX変異体の核酸及び医薬組成物
本発明によると、上記の目的はさらに、本発明による変異第IX因子をコードする核酸を提供することによって解決される。
【0077】
「核酸」は、DNA、RNA及びその誘導体をいい、DNA及び/又はRNAは改変したヌクレオチド/ヌクレオシドを含む。
【0078】
好ましくは、核酸は、プロモーター及び/又は転写終結配列に作動可能に連結されている。好ましいプロモーター及び/又は転写終結配列は、ヒトα1抗トリプシンプロモーター、肝遺伝子座制御領域1、或いはサイトメガロウイルスプロモーター、及びヒト若しくはウシ成長ホルモン又はシミアンウイルス40に由来するポリアデニル化シグナルである。当業者は適切なプロモーター及び/又は転写終結配列を選択することができる。核酸は、例えばコードされたタンパク質を核酸から得ることができるように、核酸の転写/翻訳が、好ましくは細胞においてそれぞれのプロモーター/転写終結配列によって、及び細胞性転写/翻訳機械によって制御されている場合に、プロモーター及び/又は転写終結配列に「作動可能に連結」されている。
【0079】
好ましくは、核酸は、発現プラスミド、遺伝子療法構築物若しくは遺伝子送達構築物、遺伝子導入ベクターにコードされる配列、DNA改変若しくは修復のために使用される遺伝子配列、又は類似物である。
【0080】
好ましい遺伝子療法構築物又は遺伝子送達構築物は、ウイルス性ベクター及び非ウイルスベクター、例えばアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、プラスミドベクター、又は例えばSchuettrumpf et al., 2005及びMilanov et al., 2012に記載のようなミニサークルベクター、又はキトサンナノ粒子である。
【0081】
好ましい遺伝子療法構築物又は遺伝子送達構築物は、ミニサークルベクター、例えば肝臓に指向されるプロモーター又はCMVプロモーターの制御下にあるミニサークルベクターである。
【0082】
例えば、インビボでの発現のために、本発明による変異F.IXをコードする核酸(例えばF.IX発現カセット)を、ミニサークル産生プラスミド、例えばpMC.BESPX-MCS2(System Biosciences)に導入し、例えば強力な肝臓特異的エンハンサー/プロモーターHCR/hAAT(肝遺伝子座制御領域1/ヒトα-1-抗トリプシン)又はCMVプロモーターによって制御する。このようなミニサークルベクターは、キトサンナノ粒子に封入されると、注射によって、非経口的に、又は経口で投与され得る。詳細については実施例1を参照されたい。
【0083】
好ましい遺伝子療法構築物又は遺伝子送達構築物は、経口遺伝子療法に特に適し、かつ当技術分野において記載されている、キトサンナノ粒子である。Mao et al., 2001又はBowman & Leong, 2006を参照されたい。ナノ粒子は、キトサンと核酸、好ましくはDNAを含有する。
【0084】
キチンの部分的脱アセチル化から得られる無毒性で生分解性の多糖であるキトサンを、Bowman & Leong, 2006に論評されている、強力な経口での薬物及び遺伝子の送達システムとしてのナノ粒子を形成するために使用することができる。ナノ粒子は、陰イオン性DNAと、封入されたDNAを消化から保護し、かつ腸の経細胞透過性及び傍細胞透過性並びにその粘膜付着性を改善することによって腸への取り込みを増強させる陽イオン性キトサンとの間の、静電的相互作用を通して形成される。詳細については、実施例2を参照されたい。
【0085】
本発明によると、前記目的はさらに、本発明の少なくとも1つの第IX因子(F.IX)変異体又は本発明の少なくとも1つの核酸と、場合により薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤とを含む、医薬組成物を提供することによって解決される。
【0086】
適切な薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤は、当技術分野において公知である。当業者は、医薬組成物の目的とする適用、例えば処置しようとする疾患、処置しようとする患者、処置レジメンなどに応じて、好ましい薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を選択するだろう。
【0087】
医学用途
本発明によると、前記目的は、疾病の診断、予防及び/又は治療のために、本発明において開示したような、第IX因子変異体、又はそれらをコードする核酸、又は本発明の医薬組成物を提供することによってさらに解決される。
【0088】
診断、予防及び又は処置しようとする疾病は、好ましくは、出血性疾患又は出血である。
【0089】
「出血性疾患」は、好ましくは血友病A及び/又は血友病B、第VIII因子に対する阻害抗体によって、第VIII因子若しくは第IX因子の欠損によって、又は非機能的第VIII因子若しくは第IXタンパク質の存在によって引き起こされたか若しくは併発した血友病、あるいは任意の他の出血又は出血傾向である。
【0090】
好ましくは、出血性疾患は血友病A、第F.VIII因子又は第F.VIIIa因子に対する阻害抗体によって引き起こされたか又は併発した血友病、血友病Bである。
【0091】
好ましくは、出血性疾患又は出血は、例えば、新生児凝固障害;重度の肝疾病;ハイリスクな手術技法;外傷性失血;骨髄移植;血小板減少症及び血小板機能異常症;経口抗凝血療法の迅速な逆転;第V因子、第VII因子、第X因子及び第XI因子の先天性欠損症;並びにフォンヴィルブランド因子に対するインヒビターによるフォンヴィルブランド病、大きな損傷に関連した失血、脳出血、血小板機能異常症を含む、バイパス剤が使用される出血性疾患である。
【0092】
好ましくは、本発明の第IX因子(F.IX)変異体、核酸又は医薬組成物は、出血性疾患若しくは出血のタンパク質輸液療法、細胞療法、遺伝子送達若しくは遺伝子療法、及び/又は予防のために使用される。
【0093】
1つの実施態様では、遺伝子療法又は遺伝子送達は、第IX因子(F.IX)変異体、核酸、又は医薬組成物を含む、遺伝子療法構築物又は遺伝子送達構築物の使用を含む。
【0094】
好ましい遺伝子療法構築物又は遺伝子送達構築物は、ウイルス性ベクター及び非ウイルスベクター、例えばアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、プラスミドベクター、又は例えばSchuettrumpf et al., 2005及びMilanov et al., 2012に記載のようなミニサークルベクター、又はキトサンナノ粒子である。
【0095】
このようなミニサークルベクターは、注射によって、非経口で、又は経口で投与され得る。
【0096】
本発明の変異体は、タンパク質の投与、又は細胞若しくは遺伝子の治療薬の投与(ウイルス、DNA、RNA、又は他のベクター)を使用して、出血性疾患を患う患者を処置するのに適したツールである。処置のための疾病は、出血の処置のため及び予防治療のためのFVIIIに対する阻害抗体によってまた引き起こされたか又は合併した血友病A及びBである。
【0097】
本発明者らは、本発明の変異体が、
-F.VIIIの非存在下でトロンビンの生成を用量依存的に向上させ、F.VIIIの存在下においても野生型F.IXと比較してあまり変わらない効果を示し、
-F.VIIIの存在下及び非存在下においてF.Xの活性化を向上させ、
-F.VIIIに対する阻害抗体の存在下で凝固時間を修正し(F.VIIIインヒビターの存在下でも試験したF.IX変異体の機能を確認)、
-事前に活性化されないが、チモーゲン様であり、
-インビボで凝固を修正し、出血を止める(F.IX変異体が、インビボにおいて止血活性のある治療薬として働くことができる最初の証拠である)
ことを実証した。さらなる詳細については、実施例6~8及び
図1~7を参照されたい。
【0098】
スクリーニング法
本発明によると、前記目的はさらに、抗凝固化合物(抗凝固剤)、好ましくはF.IXaを直接阻害する物質のスクリーニング法を提供することによって解決される。
【0099】
このような方法は、本明細書において定義されているような、本発明の少なくとも1つの変異第IX因子の使用を含む。
【0100】
このような方法において、テナーゼ複合体のさらなる成分は全く必要とされない(ここで、「テナーゼ」は活性型の血液凝固因子の第VIII因子(F.VIIIa)と第IX因子(F.IXa)との複合体をいう。それは、リン脂質表面上でカルシウムの存在下において形成し、そして第X因子の活性化に関与する)。
【0101】
記載した変異体の有益な態様は、F.VIIIa、並びにF.X開裂及び発色基質開裂の両方に向けてのより高い活性の必要性を伴わず、該変異体は、診断試験システムにおいて、又は、抗凝血剤として昔から望まれていたが、テナーゼ複合体での会合を伴わないとF.IXaの効力が低いために効果的なスクリーニングが不可能であった直接的なF.IXa阻害物質のための開発及びスクリーニングのために適したツールであることである。
【0102】
本発明によるスクリーニング法は、好ましくは、本発明の変異第IX因子に結合し、そして/又はその活性をモデュレーションする化合物を同定するための方法であり、好ましくは以下のステップを含む:
-試験しようとする化合物/物質を提供し、
-本発明の少なくとも1つの変異第IX因子を提供し、
-試験しようとする化合物/物質を、本発明の少なくとも1つの変異第IX因子と接触させ、
-該化合物/物質が、少なくとも1つの変異第IX因子に結合するかどうかを決定し、
-場合により、該化合物/物質が、少なくとも1つの変異第IX因子の活性をモデュレーションするかどうかを決定する。
【0103】
以下の実施例及び図面は本発明を説明するものであるが、しかしながらそれを制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【
図1A】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。トロンビン生成開始までの時間。
【
図1B】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。ピーク時のトロンビン。
【
図1C】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。速度指数。
【
図1D】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。AUC。
【
図1E】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。代表的なグラフ。
【
図2A】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。トロンビン生成開始までの時間。
【
図2B】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。ピーク時のトロンビン。
【
図2C】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。速度指数。
【
図2D】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。AUC。
【
図2E】F.VIII欠損血漿中におけるF.IX変異体ITVのトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。代表的なグラフ。
【
図3A】F.VIII欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。トロンビン生成開始までの時間。
【
図3B】F.VIII欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。ピーク時のトロンビン。
【
図3C】F.VIII欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。速度指数。
【
図3D】F.VIII欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。AUC。
【
図3E】F.VIII欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:20)。代表的なグラフ。
【
図4A】F.IX欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。トロンビン生成開始までの時間。
【
図4B】F.IX欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。ピーク時のトロンビン。
【
図4C】F.IX欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。速度指数。
【
図4D】F.IX欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。AUC。
【
図4E】F.IX欠損血漿中におけるF.VIII非依存的活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。代表的なグラフ。
【
図5A】F.IX欠損血漿中における高機能F.IX活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。トロンビン生成開始までの時間。
【
図5B】F.IX欠損血漿中における高機能F.IX活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。ピーク時のトロンビン。
【
図5C】F.IX欠損血漿中における高機能F.IX活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。速度指数。
【
図5D】F.IX欠損血漿中における高機能F.IX活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。AUC。
【
図5E】F.IX欠損血漿中における高機能F.IX活性を有するF.IX変異体のトロンビン生成アッセイ(RD 1:100)。代表的なグラフ。
【
図6A】F.VIIIの存在下におけるFIX変異体ITVによるF.Xの活性化。
【
図6B】F.VIIIの非存在下におけるFIX変異体ITVによるF.Xの活性化。
【
図6C】F.VIIIの存在下におけるF.VIII非依存性活性を有するFIX変異体によるF.Xの活性化。
【
図6D】F.VIIIの非存在下におけるF.VIII非依存性活性を有するFIX変異体によるF.Xの活性化。
【
図6E】F.VIIIの存在下における高機能F.IX活性を有するFIX変異体によるF.Xの活性化。
【
図7A】F.IX変異体のインビトロでの効力。FVIII中和抗体の存在下におけるF.IX変異体の凝固活性。
【
図7B】F.IX変異体のインビトロでの効力。F.IX変異体の活性化状態。
【
図8A】F.VIII非依存性活性を有するF.IX変異体のインビボでの効力。FVIII非依存性活性を有するF.IX変異体の発現後の、F.VIII欠損マウスにおける凝固時間。
【
図8B】F.VIII非依存性活性を有するF.IX変異体のインビボでの効力。FVIII非依存性活性を有するF.IX変異体の発現後の、F.VIII欠損マウスの表現型修正。
【
図9】FIX-WT(n=7)、FIX-FIAV(n=7)及びFIX-IDAV(n=7)をコードする肝臓に指向されるミニサークルベクター 25μgの水力学的注射後の、F.VIIIノックアウトマウスにおける、FVIII非依存性活性を有するFIX変異体のインビボでの効力。対照群は、野生型マウス(n=7)及びナイーブマウス(n=6)を含む。それぞれヒトF.IX欠損血漿又はF.VIII欠損血漿において1段階の凝固アッセイによって測定されたF.IX活性(A)及びF.VIII非依存性活性(B)を、注射から3日後に分析した。(C)屠殺から10分後に1.5mm直径で尾を切断した後の失血。(D)凝血亢進症のマーカーとしてのTATレベル。平均値±SEMが示されている。野生型FIX群との多重比較のためのホルム-シダック検定を使用した分散分析によると
*p<0.05及び
***p<0.001。
【
図10】HBマウスへのキトサン-DNAナノ粒子の経口投与後のインビボでのトランスフェクション効力。(A)タイムスケジュール。(B)1用量の製剤化されていない及びキトサンで製剤化されたeGFPの経口投与後の小腸におけるレポーター遺伝子GFPの免疫染色。GFP染色は、肝臓、脾臓及び大腸において検出不可能なままであった。(C)1回量の経口投与後の小腸へのキトサンで製剤化されたFIX-WT又は高機能FIXムテインの送達。(D)処置から72時間後の定量RT-PCRによって決定された1回の摂食後の組織におけるmRNA発現。データは平均値±標準偏差を示す、n=3/群。
【
図11】キトサン-DNAナノ粒子の経口投与後の小腸における機能的FIXタンパク質の発現。(A)摂食及び血液採取のためのタイムスケジュール。(B)FIX変異体を含有するキトサンで製剤化されたpcDNA3.1ベクターの経口送達。バーは平均値±SEMを示す、n=5/群。(C)コラーゲンIV結合部位に欠陥を有するFIXムテインを含有する、キトサンで製剤化されたミニサークルの経口送達。平均値±SEMが示されている、n=5~6/群。キトサン群/偽群との多重比較のためのダネット検定を使用した分散分析によると
*p<0.05。
【
図12】キトサンで製剤化されたFIXムテインの送達後のHBマウスの表現型の修正。(A)タイムスケジュール。(B)FIX-WT(n=7)、FIX-KLW(n=8)及びFIX-AKLW(n=7)をコードしている製剤化されたベクターの経口投与後の1.5mm直径で尾を切断した後のテールクリップ実験。対照群は、野生型マウス(n=6)及びナイーブHBマウス(n=7)を含む。(C)1段階aPTTによって測定された凝固時間、及び(D)凝血亢進症のマーカーとしてのTATレベル。平均値±SEMが示されている。HB群との多重比較のためのダネット検定を使用した分散分析によると
**p<0.01。
【0105】
実施例
実施例1
材料及び方法
非ウイルス性ベクター
プラスミドpcDNA(商標)3.1(インビトロジェン社、カールスバッド、CA、米国)は、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター/エンハンサーの制御下にある1.4kbのイントロンAのフラグメントとウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルとを含むヒトFIXミニ遺伝子を含有していた(Schuettrumpf et al., 2005)。インビボでの発現のために、ヒトFIX発現カセットをミニサークル産生プラスミドpMC.BESPX-MCS2(System Biosciences)に導入し、強力な肝臓特異的エンハンサー/プロモーターHCR/hAAT(肝遺伝子座制御領域1/ヒトα-1-抗トリプシン)によって制御された。ヌクレオチド置換を、クイックチェンジII XL-部位特異的突然変異誘発キット(Agilent technologies)を使用してhFIX cDNAに導入し、配列決定によって確認した。
【0106】
FIXムテインについてのランダムなスクリーニング
ランダムな突然変異を、製造業者によって記載されているようにGeneMorph II EZClone Domain Mutagenesisキット(Agilent technologies)によってV181I、K265T及びI383Vの置換(FIX-ITVと命名;Milanov et al., 2012)をすでに有しているpcDNA(商標)3.1のhFIX発現カセットに導入した。メガプライマー合成は、1.2kbのフラグメントを増幅するhFIX cDNAのエキソン2~8にかけての
正方向5’ TCTGAATCGGCCAAAGAGG ‘3[配列番号3]プライマー、及び
逆方向5’ CAGTTGACATACCGGGATACC ’3[配列番号4]プライマー
を使用して行なわれた。標的DNAの初期量を750ngに設定して、1kbあたり2.7の突然変異頻度を得た。プラスミドDNAを、QIAprep 96 Turbo Miniprepキット(キアゲン社)を使用して各々の個々の形質転換された大腸菌コロニー(総数:1600)から抽出した。HEK293T細胞を、96ウェルプレートでリポフェクション(リポフェクタミン;インビトロジェン社)によって、FIX-WT、FIX-ITV、又は個々の変異体をコードするプラスミドDNA 2.5μgを用いてトランスフェクトし、最初の細胞密度は5×104個の細胞/ウェルであった。10μg/mlのビタミンKの補充されたOptiMem培地中におけるタンパク質の発現は48時間かけて行なわれた。各々の変異体の回収された上清を、それぞれFVIIIの存在下及び非存在下において、市販の発色アッセイ(Biophen Faktor IX; Hyphen BioMed)を僅かに改変したものを使用してFIXバイパス活性及びFVIIIバイパス活性についてアッセイした。正常なヒト血漿(対照血漿N;シーメンス社)を標準曲線のために使用し、工学操作された変異体FIX-ITVを、活性レベルの比較のための参照基準として使用した。有望な変異体/クローンを配列決定して、活性の増加に関与する具体的なアミノ酸の置換を同定した。
【0107】
組換えタンパク質の産生
HEK293T細胞を、10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%L-グルタミンの補充されたDMEM中で培養し、トランスフェクションの24時間前に、1×106個の細胞/ウェルの初期細胞密度で6ウェルプレートに播種した。一過性の発現のために、細胞に、リン酸カルシウムにより媒介される沈降法を使用して、CMV-hFIX pcDNA(商標)3.1プラスミド 15μgを用いてトランスフェクトした。タンパク質の発現は、10μg/mlのビタミンKを含むが、血清及び抗生物質不含Opti-MEM中で行なわれた。トランスフェクションから24時間後に上清を回収し、FIX活性、ELISA、動的パラメーター、及びトロンビン生成についてアッセイした。
【0108】
凝血活性アッセイ及びFIX抗原
凝血活性を、以前に記載されているように(Milanov et al., 2012)、FIX欠損血漿又はFVIII欠損血漿における改変された1段階の活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)及び非活性化aPTT(naPTT)アッセイによって決定した。FIX比活性は、凝血活性を抗原レベルによって割ることによって算出され、野生型タンパク質(100%と設定)に対して標準化された。FIX抗原レベルは、記載のように(Schuettrumpf et al., 2005)、ELISAによって決定された。
【0109】
トロンビン生成アッセイ
トロンビン生成は、製造業者の説明書に従って市販のアッセイ(Technothrombin TGA; Technoclone)を用いて測定した。TGA RD緩衝液を、それぞれFVIII欠損血漿又はFIX欠損血漿中で1:20又は1:100の最終希釈率で使用した。FIXタンパク質の最終濃度は、TGA緩衝液(Technoclone)中で希釈された正常な血漿レベルの0.05%~5%であった。rhFIX(ベネフィクス;ファイザー社)又はrhFVIII(コージネイト;バイエル社)の製剤を対照として使用した。トロンビン生成分析を、提供されたTechnothrombinTGA評価ソフトウェアによって評価した。
【0110】
FVIIIaの存在下又は非存在下におけるFIXaによるFXの活性化
FIXタンパク質試料を、5mMのCaCl2の存在下、1:100の酵素/基質のモル比で室温で5時間かけて、活性化FXI(Haematologic Technologies)によってFIXaへと活性化した。次いで、FXIaを、プロテインGでコーティングされた磁気ビーズ(DynabeadsプロテインG;インビトロジェン社)に結合させたアフィニティ精製ヤギ抗FIX IgG(Haemachromdiagnostica)によって除去した。FX活性化を、10nMのrhFVIII(コージネイト(登録商標);バイエル社)及び1nMのFIXの存在下、又は、FVIIIの非存在下で4nMのFIXと共に、記載の通りに行なった(7)。反応を、37℃でマイクロタイタープレートリーダーで1分間隔で10分間405nmで測定した。吸光値を、pNAについての9600M-1cm-1のモル吸光係数、及び総容量100μlに対して0.5cmの光路長を使用して、モル濃度へと変換した。動態パラメーターを、ミカエリス-メンテンの式に従ってSigmaPlotバージョン12.0によって計算した。
【0111】
動物手順
全ての動物手順は、地域の動物の管理、保護及び使用の当局(Regierungsprasidium Darmstadt)によって認可された。C57Bl/6マウスはHarlan Laboratoriesから購入した。FVIII遺伝子のエキソン16の破壊を含有しているFXIII欠損マウスは、Charles River Laboratoriesから入手した。マウスは、実験開始時には9~12週令であった。肝臓に指向された遺伝子導入のために、FIX-WT又は変異体をコードしている非ウイルス性ベクターMC.HCR/hAAT.FIXを、以前に記載(Milanov et al., 2012)されているように、マウス1匹あたり25μgのベクター用量で尾静脈に水力学的に投与した。注射から3日後に、血液試料を後眼窩神経叢から採取した。テールクリップ出血アッセイを、以前に記載(Milanov et al., 2012)されているように行ない、575nmでのヘモグロビンの吸光度を測定することによって定量した。TAT複合体を、製造業者の説明書に従ってELISA(Enzygnost TAT; Siemens)によって測定した。
【0112】
統計
データの統計学的評価を、SigmaPlotバージョン12.0(Systat software Inc.、サンノゼ、米国)を使用して分散分析(ANOVA)によって行なった。
【0113】
結果
ITV変異体及びIAV変異体の特性をさらに向上させるために、本発明者らはさらなる突然変異を導入して、異なる特性を有するF.IX分子を作製した。
【0114】
表1~4は、試験された突然変異、及び、F.VIII欠損血漿又はF.IX欠損血漿中の変異体の活性を示す。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
F.VIII非依存性活性を有するF.IX突然変異体の肝臓での発現は、F.VIIIノックアウトマウスに止血をもたらす。
FIX突然変異体が、インビボでの凝血活性を改善し、かつHAマウスの出血表現型を修正する能力を調べるために、本発明者らは、FIX-WT又は変異体FIX-FIAV(IAV+L6F)又はFIX-IDAV(IAV+E185D)をコードしている肝臓に指向されるミニサークルを、25μgのベクター用量で、FVIIIノックアウトマウスの尾静脈に水力学的に注射した。遺伝子送達から3日後、突然変異体FIXの発現レベルは、全ての処置群において類似しており、正常の約300%の血漿中活性レベルに達した(
図9A)。FIX-IDAVで処置されたマウスのみが、有意により短い凝血時間を示し、1段階のaPTTアッセイによってFVIII欠損血漿中で測定したところ、FVIII非依存性活性は10%であった(
図9B)。それにも関わらず、FIX-FIAV及びFIX-IDAVの両方の突然変異体が、テールクリップ出血アッセイ後に血友病表現型を部分的に修正し(
図9C)、このことは、少量のFVIIIバイパス活性で、凝固カスケードを開始しかつ回復させるのに十分であることを示唆する。本発明者らはまた、凝固系の一般的な活性化マーカーを代表する、TAT複合体レベルに対するFIX突然変異体の効果も調べた。TATレベルは、全ての群において依然として同じであったが、個体間のばらつきは大きかった(
図9D)。
【0120】
実施例2
材料及び方法
組換えタンパク質の産生、及び凝固活性の測定
上記の実施例1を参照されたい。
【0121】
トロンビン生成アッセイ
トロンビン生成を、製造業者の説明書に従って市販のアッセイ(TechnothrombinTGA; Technoclone)を用いて測定した。TGA RD緩衝液を、それぞれFVIII欠損血漿又はFIX欠損血漿中で最終希釈率1:20又は1:100で使用した。FIXタンパク質の最終濃度は、TGA緩衝液(Technoclone)で希釈された正常な血漿レベルの0.05%~5%であった。rhFIX(ベネフィクス;ファイザー社)又はrhFVIII(コージネイト;ファイザー社)の製剤を対照として使用した。トロンビン生成の分析を、提供されたTechnothrombinTGA評価ソフトウェアによって評価した。
【0122】
FVIIIaの存在下及び非存在下におけるFIXaによるFXの活性化
FIXタンパク質試料を、5mMのCaCl2の存在下で、酵素/基質のモル比1:100で、室温で5時間かけて、活性化FXI(Haematologic Technologies)によってFIXaへと活性化した。次いで、FXIaを、プロテインGでコーティングされた磁気ビーズ(DynabeadsプロテインG;インビトロジェン社)に結合させたアフィニティ精製ヤギ抗FXI IgG(Haemachrom diagnostica)によって除去した。FX活性化を、10nMのrhFVIII(コージネイト(登録商標)、バイエル社)及び1nMのFIXの存在下で、記載されているように(Hartmann et al., 2009)行なった。反応を、37℃でマイクロタイタープレートリーダーで1分間隔で10分間405nmで測定した。吸光値を、pNAについての9600M-1cm-1のモル吸光係数、及び総容量100μlに対して0.5cmの光路長を使用して、モル濃度へと変換した。動態パラメーターを、ミカエリス-メンテンの式に従ってSigmaPlotバージョン12.0によって計算した。
【0123】
キトサン/DNAナノ粒子の調製
ナノ粒子を、記載のように(Mao et al., 2001)複合体のコアセルベーションによって調製した。脱アセチル化度が75%超である高分子量のキトサン(シグマ-アルドリッチ社)を、50mMのNaOAc緩衝液に溶解して、pH5.5の0.02%~0.08%溶液とした。キトサン及び50mM Na2SO4緩衝液中50μg/ml又は100μg/mlのプラスミドDNA溶液を、別々に55℃まで加熱した。等容量(500μl)の両方の溶液を共に、高速ボルテックス下で30秒間混合した。ナノ粒子を経口投与まで室温で保存した。
【0124】
DNaseI保護アッセイ
キトサン/DNAナノ粒子(20μl、1μgに等しい)又は複合体を形成していないDNA(1μg)を、1、100、又は300mUのDNaseI(サーモフィッシャー社)のいずれかと共に37℃で1時間インキュベートした。反応を、EDTAの存在下で65℃で10分間の熱失活によって停止させた。37℃で4時間かけて0.8Uのキトサナーゼ(シグマ-アルドリッチ社)と共にさらにインキュベートすることにより、ナノ粒子からDNAが放出された。ベクターDNAの完全性を、0.8%アガロースゲル上でのその後の電気泳動によって調べた。
【0125】
動物手順
全ての動物手順は、地域の動物の管理、保護及び使用の当局(Regierungsprasidium Darmstadt)によって認可された。C57Bl/6マウスはHarlan Laboratoriesから購入した。C57Bl/6バックグラウンドのFIX欠損マウス(HBマウス)は、Katherine High(フィラデルフィア小児病院)によって親切にも提供された。マウスは、実験開始時には9~12週令であった。肝臓に指向された遺伝子導入のために、FIX-WT又は変異体をコードしている非ウイルス性遺伝子導入ベクターMC.HCR/hAATを、以前に記載(Milanov et al., 2012)されているように、マウス1匹あたり10μgのベクター用量で、尾静脈に水力学的に投与した。経口でのFIX遺伝子の送達のために、マウスに、キトサンナノ粒子として製剤化され、ベビーシリアルと混合された、CMVプロモーターにより駆動されるベクター(pcDNA3.1又はMC)を与えた。FIX欠損マウスの免疫化を、2IUのrhFIXタンパク質(ベネフィクス;ファイザー社)の2回の皮下注射によって不完全フロイントアジュバントの存在下で2週間の間隔で行なった。血液を、イソフルラン麻酔下で後眼窩神経叢から1/10容量の3.8%クエン酸ナトリウム緩衝液中に採取した。テールクリップアッセイを以前に記載(Milanov et al., 2012)されているように行ない、575nmでのヘモグロビンの吸光度を測定することによって定量した。
【0126】
免疫組織化学的検査
連続凍結切片(8~10μm)を、肝臓、脾臓、小腸、及び大腸から免疫蛍光染色のために得た。使用される抗体を表S1に列挙する。画像は、共焦点レーザー走査顕微鏡(LSM, Zeiss)を使用して撮影し、Zeiss software LSM Image Browserを用いて分析した。
【0127】
ナノ粒子の経口投与後のFIX発現のためのRT-PCR
全RNAを、脾臓、肝臓、十二指腸/空腸、回腸、及び大腸から、High pure RNA isolationキット(Roche Diagnostics Deutschland GmbH)を使用して単離した。High capacity cDNA reverse transcriptaseキット(Applied Biosystems)を、mRNAからcDNAへの翻訳のために使用した。定量リアルタイムPCRを、Power SYBR Green(Applied Biosystems)を用いて行なった。プライマー配列を表S2に列挙する。
【0128】
統計
データの統計学的評価を、SigmaPlotバージョン12.0(Systat software Inc.、サンノゼ、CA)を使用して分散分析(ANOVA)によって行なった。
【0129】
結果
野生型タンパク質、ITV変異体及びIAV変異体の特性をさらに向上させるために、本発明者らは、さらなる突然変異を単一で又は組み合わせて導入して、異なる特性を有するF.IX分子を作製した。
【0130】
表5及び6は、試験された突然変異、及び変異体の活性を示す。
【0131】
【0132】
【0133】
FIX突然変異体の肝臓での発現は、効果的に止血を引き起こす
インビボでFIX突然変異体の発現及び凝血活性を調べるために、本発明者らは、FIX-KLW、FIX-AKLW、FIX-YALW、又はFIX-WTのいずれかをコードしている肝臓に指向されたミニサークルを、10μgのベクター用量で、HBマウスの尾静脈に水力学的に注射した。遺伝子送達から3日後に、FIX発現レベルは、全ての処置群において正常な血漿レベルの約100%に達した(データは示されていない)。予想された通り、高機能なFIX突然変異体が選択されれば、3つ全ての突然変異体の凝血活性は、FIX-WTよりも最大10倍まで有意により高かった(
図8C)。活性の比と抗原により、FIX比活性の10~17倍の増加が判明した(p<0.05)。さらに、尾切断出血アッセイにより、止血的に正常なマウスと同等である、出血性表現型の完全な正常化が判明した(
図8D)。
【0134】
経口による遺伝子送達
キトサン-DNAナノ粒子の経口投与により、HBマウスの小腸においてFIXタンパク質が産生される。
まず、ナノ粒子の安定性及びトランスフェクション効率の特徴付けを、一連のインビトロでの実験で行なった(データは示されていない)。次に、ナノ粒子を経口投与した(
図10A)。インビボでは、キトサンで製剤化されたeGFPの1回量をHBマウスに経口投与した後に、小腸でのGFPの発現が成功裡に染色された(
図10B)。予想された通り、肝臓、脾臓又は大腸において(データは示されていない)、及び製剤化されていないベクターの投与後に、シグナルは全く検出されなかった。キトサンで製剤化されたFIX-WTの経口送達により、FIXの提示は、主に、内皮細胞周辺の微絨毛に位置し、部分的に細胞外マトリックス(ECM)に位置していることが判明した(
図10C、1列目)。しかし、また、FIXタンパク質と、FIXの天然リガンドであるコラーゲンIVとの共局在も認められ、よって、本発明者らは、コラーゲンIVが、循環中へのFIXタンパク質の放出を妨害する可能性があると仮定した(
図10C、3列目)。この障害を克服するために、どちらもコラーゲンIVへの低い親和性を伴う、FIX変異体のKLW又はAKLWを、HBマウスに投与した。全体的に同じような発現パターンが観察されたが、腸におけるFIX変異体の細胞外コラーゲンIVとの結合は僅かに減少したようにみえた(
図10C、4~5列目)。FIXmRNA発現は、全小腸において専ら検出され、このことは、免疫組織化学的染色によって得られた結果を確認し、この領域におけるナノ粒子の取り込みの選択性を示す。裸DNAと、偽プラスミドを含有しているナノ粒子の適用により、検出不可能な発現レベルが得られた(
図10D)。
【0135】
ヒトFIX突然変異体の反復経口投与により、HBマウスに止血がもたらされる
HBマウスは、実験設計計画(
図11A)に示されているように、キトサンで製剤化されたプラスミド又はMCベクターによって媒介される高機能FIX変異体の1日量を7回連続して受けた。FIX抗原発現は、1%という検出限界より低いままであった(データは示されていない)。しかし、コラーゲンIVに対する結合が損なわれた突然変異体(FIX-KLW及びFIX-AKLW対FIX-YALW)のFIX活性は、3日目から8日目の間に蓄積するようであり、8日目には(最も長い処置の時点)プラスミドで処置された群(
図11B)では3%までの範囲の、MCで処置された群(
図11C)では14%までの範囲のレベルに達した。経口による遺伝子療法を中止した後、FIX突然変異体の凝血活性は少なくとも3週間持続したが、有意なばらつきがあり、これは抗体の形成には関連しなかった(データは示されていない)。これに対し、キトサンで製剤化されたFIX-WT又は偽の経口送達後、凝血活性は検出限界(1%)未満のままであった(
図11B+C)。本発明者らは、テールクリップ出血アッセイにおいてインビボでの効力をさらに調べた(
図12A)。マウスは、FIX突然変異体の経口投与後に、1段階のaPTTによって測定された、有意により短いインビトロでの凝血時間を有していた(
図12B)。観察と一致して、FIX-KLW及びFIX-AKLWの発現は、HBマウスの出血表現型を部分的に修正した(
図12C)。凝血系の一般的な活性化マーカーを代表し、血友病の置換療法の脈絡で高機能な又は自然発生的な凝血の指標となるであろう、TAT複合体レベルは、全ての群において同じままであった(
図12D)。
【0136】
ここで、本発明者らは、血友病Bの処置のためのバイオポリマーキトサンに基づいたFIX突然変異体の経口での遺伝子送達の効力を実証する。経口での遺伝子送達と高機能な突然変異体を組み合わせることによって、機能的なFIXレベルを達成することができる。ヒトFIXに対するマウスの感作、及び従って、ヒトFIXに対する抗体の中和は、使用されたレジメンでは観察されなかった。血友病A(HA)を含む、経口遺伝子療法の一般的な原則が以前に記載されているが(例えばBowman et al., 2008)、本発明者らの今回の研究によって示される重要な進歩は、機能が最適化されたFIXと、このアプローチを用いて改良された送達システムの組合せに存し、その結果、治療タンパク質の臨床的に適切な量が放出される。それ故、提供されたデータは、ナノ粒子に基づいた経口遺伝子療法の確証的な原理証明データを反映するだけでなく、臨床的恩恵の可能性も示す。
【0137】
前記の説明、特許請求の範囲及び/又は添付の図面に開示された特徴は、別々に及びその任意の組合せの両方において、その多様な形態で本発明を実現するために重要であり得る。
【0138】
【配列表】