IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イェンネワイン バイオテクノロジー ゲーエムベーハーの特許一覧

特許7000396微生物発酵からの中性ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)の効果的な精製のためのプロセス
<>
  • 特許-微生物発酵からの中性ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)の効果的な精製のためのプロセス 図1
  • 特許-微生物発酵からの中性ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)の効果的な精製のためのプロセス 図2
  • 特許-微生物発酵からの中性ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)の効果的な精製のためのプロセス 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】微生物発酵からの中性ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)の効果的な精製のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/00 20060101AFI20220203BHJP
   C07H 3/06 20060101ALI20220203BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220203BHJP
   A23K 20/163 20160101ALN20220203BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20220203BHJP
   A61P 1/04 20060101ALN20220203BHJP
   A61K 31/702 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C12P19/00
C07H3/06
C12N1/21
A23K20/163
A23L33/10
A61P1/04
A61K31/702
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019191254
(22)【出願日】2019-10-18
(62)【分割の表示】P 2016547592の分割
【原出願日】2014-12-23
(65)【公開番号】P2020014482
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2019-11-15
(31)【優先権主張番号】14151737.5
(32)【優先日】2014-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511297753
【氏名又は名称】クリスチャン・ハンセン・ハーエムオー・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Chr. Hansen HMO GmbH
【住所又は居所原語表記】Maarweg 32 53619 Rheinbreitbach Germany
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェンネワイン シュテファン
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/112777(WO,A2)
【文献】欧州特許出願公開第02479263(EP,A1)
【文献】国際公開第2009/008362(WO,A1)
【文献】特表2001-514865(JP,A)
【文献】特表2012-520666(JP,A)
【文献】特開2013-121343(JP,A)
【文献】国際公開第2006/038552(WO,A1)
【文献】特開2003-047402(JP,A)
【文献】特開昭63-273491(JP,A)
【文献】特表2012-522827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00
C12N 1/00
C12N 15/00
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)を組換え微生物を使用する微生物発酵によって得られる発酵ブロスからバッチ式または連続式で精製するためのプロセスにおいて、前記発酵ブロスは、中性HMO、バイオマス、培地成分および混入物を含み、
前記中性HMOは、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、ラクト-N-トリオースII、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-ネオフコペンタオース、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-ネオフコペンタオースV、ラクト-N-ジフコヘキサオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースII、6’-ガラクトシルラクトース、3’-ガラクトシルラクトース、ラクト-N-ヘキサオースおよびラクト-N-ネオヘキサオースからなる群から選択され、
前記発酵ブロス中の前記中性HMOの純度は80%未満であり、
前記発酵ブロスは、以下の精製ステップi)~iv)に適用され、
i)前記バイオマスの前記発酵ブロスからの分離ステップ、
ii)正帯電物質の除去のための陽イオン交換体処理ステップ、
iii)負帯電物質の除去のための陰イオン交換体処理ステップ、
iv)電気透析ステップ、
前記中性HMOを80%以上の純度で含む精製された溶液が提供され、
前記精製された溶液は、DNA、タンパク質、および組換え遺伝子材料を含まず、
前記精製された溶液は、減菌濾過され、エンドトキシン除去に供され、
前記精製された溶液は、噴霧乾燥されることを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記発酵ブロス中の前記中性HMOの前記純度は、70%以下であり、かつ/または前記精製された溶液は、85%以上の純度で前記中性HMOを含むことを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記発酵ブロスからのバイオマスの分離は、
)限外濾過;および/または
)クロスフローフィルターによる濾過;によって実現されことを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記精製ステップii)~iv)の少なくとも1つは、前記プロセス中に少なくとも1回繰り返されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記精製ステップi)~iv)の少なくとも1つの後に、色を与える物質および大型のオリゴ糖を活性炭素に吸着させるための少なくとも1回の活性炭素処理を前記発酵ブロスに行うことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
a)精製ステップi)~iv)の少なくとも1つの後に;または
b)色を与える物質および大型のオリゴ糖活性炭素に吸着させるための少なくとも1回の活性炭素処理の後に;または
c)精製ステップi)~iv)の少なくとも1つの後に実施される濃縮ステップの前に;
前記中性ヒトミルクオリゴ糖を含む前記溶液を透析濾過および/または濃縮されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
ステップi)の前のステップで、グルコシダーゼ処理を発酵ブロスで実施してよことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記発酵ブロスは、前記精製ステップi)~iv)の少なくとも1つの後に、真空蒸発または逆浸透またはナノフィルトレーションを用いて
a)100g/L以上の濃度まで;かつ/または
b)真空蒸発または逆浸透の間、80℃より低温度で;かつ/または
c)80℃より低温度で、濃縮されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記精製溶液は滅菌濾過され、かつ/または、3kDaのフィルタによる前記精製溶液の濾過によるエンドトキシン除去に供されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記精製溶液を1.5Mより大きい濃度に濃縮し、温度25℃未満に冷却して、前記中性HMOの結晶性物質が得られることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記精製溶液は、20~60(w/v)の前記中性HMO濃度、110~150℃のノズル温度、および/または60~80℃の出口温度で噴霧乾燥されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、微生物発酵によって生成された中性ヒトミルクオリゴ糖(HMOs)の精製のための簡単なプロセスを開示する。このプロセスは、陽イオン交換体処理、陰イオン交換体処理、およびナノフィルトレーションおよび/または電気透析ステップの組合せを使用し、それにより大量の中性HMOsを高純度で効率的に精製することが可能である。中性HMOsの発酵生産で現在使用される精製とは逆に、提示されるプロセスは、クロマトグラフィー分離の必要なくHMOsの供給を可能にする。そのように精製されたHMOsは、噴霧乾燥によって固体形態で、結晶性物質として、または除菌濾過された濃縮物として得ることができる。提供されるHMOsは、タンパク質および使用した組換え微生物菌株に由来する組換え物質を含まないので、食品、医療用食品および飼料(例えばペットフード)用途での使用に非常によく適している。
【背景技術】
【0002】
人乳は、炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラルおよび微量元素の複雑な混合物を表す。際立って最も優勢な画分は炭水化物に代表され、これはラクトースと、より複雑なオリゴ糖とにさらに分けることができる。ラクトースはエネルギー源として使用されるのに対し、複合型オリゴ糖は、乳児によって代謝されない。複合型オリゴ糖の画分は、全炭水化物画分の1/10までを占め、おそらく150を超える異なるオリゴ糖で構成される。これらの複合型オリゴ糖の出現および濃度はヒトに特有であり、例えば家畜化された酪農動物のようなその他の哺乳動物の乳の中でこのように大量に見出すことはできない。
【0003】
人乳中にこれらの複合型オリゴ糖が存在することは既に長い間公知であり、これらのオリゴ糖の生理的機能は、数十年間医学研究の対象であった(Gura,T.(2014)Nature’s first functional food.Science 345(6198)747-749)。いくつかのより豊富なヒトミルクオリゴ糖に関して、具体的な機能が既に特定されている(Bode,L.(2012)Human milk oligosaccharides:every baby needs a sugar mama.Glycobiology 22(9),1147-1162.;Bode L,Jantscher-Krenn E(2012)Structure-function relationships of human milk oligosaccharides.Adv Nutr 3(3)383S-391S;Morrow AL,Ruiz-Palacios GM,Altaye M,Jiang X,Guerrero ML,Meinzen-Derr JK,Farkas T,Chaturvedi P,Pickering LK,Newburg DS(2004)Human milk oligosaccharides are associated with protection against diarrhea in breast-fed infants.J Pediatr 145(3)297-303)。
【0004】
個々のヒトミルクオリゴ糖の供給が限られていることと純粋な画分を得ることが困難なことが、一部のこれらの複合分子の化学経路の開発につながった。しかし、化学合成、酵素合成または発酵によるヒトミルクオリゴ糖の合成は、困難であることが分かった。食品用途に十分な品質だけでなく少なくとも大規模な量は、今日まで提供されることができない。この点で、特にヒトミルクオリゴ糖への化学合成経路(例えば、2’-フコシルラクトース;国際公開第2010/115935A1号参照)は、いくつかの有害化学物質を含み、それは最終生成物を汚染するリスクを課す。
【0005】
ヒトミルクオリゴ糖の化学合成に関する課題のために、いくつかの酵素的方法および発酵によるアプローチが開発された(Miyazaki et al.,(2010)Methods in Enzymol.480,511-524;Murata et al.,(1999)Glycoconj.J.16,189-195;Baumgartner,F.et al.,(2013)Microb.Cell Fact.12,40;Lee et al.,(2012)Microb.Cell Fact.11,48;米国特許第7,521,212B1号またはAlbermann et al.,(2001)Carbohydr.Res.334(2)p97-103)。しかし、これらの方法は、オリゴ糖の複合混合物を生み出し、すなわち望ましい生成物はラクトースなどの出発物質、生合成中間体ならびに個々の単糖およびポリペプチドなどの基質によって汚染されている。
【0006】
これらの複合混合物から個々のオリゴ糖生成物を精製するための最先端プロセスは、技術的に複雑であり、食品用途には不経済でもある。二糖類のラクトースまたはスクロースを乳清または糖蜜などの複合混合物から精製するために、複数の結晶化を含む産業規模のプロセスが開発された。前記方法の欠点は、それらが複雑であり、少ない収量しかもたらさないことである。
【0007】
微生物発酵から複合型オリゴ糖、例えば特定のヒトミルクオリゴ糖などを精製するためにこれまでに選択される方法は、ゲル濾過クロマトグラフィーである。ゲル濾過クロマトグラフィーの欠点は、それが効率的にスケールアップできないことと、連続運転に適していないことである。従って、ゲル濾過クロマトグラフィーは、不経済であり、特定のヒトミルクオリゴ糖(2’-フコシルラクトースまたはラクト-N-テトラオースのように)を、人間の食品またはその他の用途、例えば動物用食品(例えばペットフード)などで使用するために合理的な量および品質で提供することを困難にする。動物用飼料またはペットフードとしての用途は、その他の哺乳動物もその乳中に人間と同じまたは同様の中性複合型オリゴ糖を含む(例えば、2’-フコシルラクトースは、イヌ、ブタ、チンパンジーの乳にも見出される)という理由から興味深い(Castanys-Munzo,E.,Martin,J.M&Prieto,P.A.(2013)2’-fucosyllactose:an abundant,genetically determined soluble glycan present in human milk.Nutr.Rev.71(12)773-789)。
【0008】
もう一つの問題は、微生物発酵において組換え菌株(組換え細菌株または酵母菌株)の使用であって、その結果、発酵生成物が組換え物質で汚染されることである。しかし、組換えDNAまたはタンパク質による汚染は、今日、監督機関および消費者に許容されない。特に組換えDNA分子の検出限界は非常に低い。現在、検出の黄金基準とみなされているqPCRに基づく検出を用いる場合、たった1つのDNA分子でさえも検出することができる。タンパク質は、その上に、アレルギー反応のリスクをもたらす。そのために望ましいオリゴ糖生成物から効率的に除去されるべきである。
【0009】
電気透析(ED)は、透析と電気分解を組み合わせた技術を表し、半透膜によるそれらの選択的エレクトロマイグレーションに基づく溶液中のイオンの分離または濃縮に使用することができる。電気透析の最初の産業用途は、1960年代初期に遡り、乳児用処方で用いるためのチーズ乳清の脱塩である。電気透析のさらに開発された用途には、ワイン、ブドウ液、リンゴ果汁およびオレンジ果汁などの飲料のpHの調整が含まれる。
【0010】
飲料水の製造のための汽水の真水化および乳児用食品製造のための乳清の脱塩は、現在、最大の応用範囲となっている。
【0011】
基本的な電気透析の原理は、直流発電機に接続されたイオンの伝導のための電解質に沈められた一対の電極からなる電解槽で構成される。直流発電機の陽極に接続された電極はアノードであり、陰極に接続された電極はカソードと呼ばれる。次に、電解質溶液は電流の流れを支える。この流れは負電荷イオンおよび正電荷イオンがそれぞれアノードおよびカソードの方へ動くことから生じる。電気透析に用いる膜は、本質的に、負または正の荷電基を有し、そのためにそれぞれ陽イオン性膜または陰イオン性膜と呼ばれる多孔性イオン交換樹脂のシートである。イオン交換体膜は、通常、ジビニルベンゼンで架橋された適切な官能基を(例えば陽イオン性膜または陰イオン性膜に、それぞれスルホン酸基または第四級アンモニウム基などを)有するポリスチレンでできている。電解質として、塩化ナトリウム、または酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムなどを用いることができる。その後、電気透析(electodialysis)スタックは、イオン減少を受ける流れが、イオン濃縮を受ける流れ(これら2つの溶液は、希釈液(diluate)(イオン減少を受ける)および濃縮液(イオン濃縮を受ける)とも呼ばれる)から十分に離れている2つの電極ブロック間のフィルタープレスのように、陰イオン性膜と陽イオン性膜が平行であるように構築される。電気透析プロセスの本質は膜スタックであり、それはスペーサーで分離され、2つの電極間に設置されたいくつかの陰イオン交換膜および陽イオン交換膜からなる。直流を印加することにより、陰イオンおよび陽イオンは膜を横切って電極の方に移動し、希釈液(diluate)(脱塩液)および濃縮液の流れを生じる。
【0012】
一般に、生成物が希釈液(diluate)から濃縮液の流れへ拡散する(しばしば、2つの流れの間の高い濃度差によって起こる)ことを防ぐために、用いる膜の孔径はやや小さい。バイオマスから分離した後、タンパク質および特に(全ゲノムのサイズの)組換えDNA分子は、望ましい生成物から定量的に除去される必要がある。できれば、そのような大きい分子(HMOsの分子サイズと比較)の電気透析は、どちらかといえば長いものとなり、希釈液(diluate)から濃縮液への望ましい生成物のかなりの損失を確実に伴うであろう。
【0013】
ダイアフィルトレーションは、膜透過性の成分を「洗い落とす」または除去するために、新鮮な水を溶液に添加することを伴うプロセスである。従って、ダイアフィルトレーションは、適切な膜を使用することによって、成分をそれらの分子サイズに基づいて分離するのに使用されることができる。ここでは、1以上の種が効果的に保持され、その他の種が膜透過性である。特に、ナノフィルトレーション膜を使用することによるダイアフィルトレーションは、低分子化合物を塩から分離するのに効果的である。一般に、ナノフィルトレーション膜は、150~300ダルトンの範囲の分子量カットオフを有する。今日、ナノフィルトレーション(NF)は、酪農産業で乳清の濃縮および脱塩に広く使用されている。ナノフィルトレーションは、人乳からヒトミルクオリゴ糖画分を濃縮するために既に用いられている。このアプローチでは、HMO画分をミルクラクトースから分離するために、ナノフィルトレーションはラクトースの酵素分解と組み合わせて使用されていた(Sarney D.B,Hale,C.,Frankel,G&Vulfson,E.N.(2000)A novel approach to the recovery of biological active oligosaccharides from milk using a combination of enzymatic treatment and nanofiltration.Biotechnol.Bioeng 69,461-467)。
【0014】
食品等級のヒトミルクオリゴ糖を微生物発酵から効率的に精製するための開発されたプロセスでは、ナノフィルトレーションは、望ましい生成物を濃縮するために、さらに膜透過性の塩を除去するためにも用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】国際公開第2010/115935A1号公報
【文献】米国特許第7,521,212B1号明細書
【文献】欧州特許第111151571.4号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】Gura,T.(2014)Nature’s first functional food.Science 345(6198)747-749
【文献】Bode,L.(2012)Human milk oligosaccharides:every baby needs a sugar mama.Glycobiology 22(9),1147-1162.
【文献】Bode L,Jantscher-Krenn E(2012)Structure-function relationships of human milk oligosaccharides.Adv Nutr 3(3)383S-391S
【文献】Morrow AL,Ruiz-Palacios GM,Altaye M,Jiang X,Guerrero ML,Meinzen-Derr JK,Farkas T,Chaturvedi P,Pickering LK,Newburg DS(2004)Human milk oligosaccharides are associated with protection against diarrhea in breast-fed infants.J Pediatr 145(3)297-303
【文献】Miyazaki et al.,(2010)Methods in Enzymol.480,511-524
【文献】Murata et al.,(1999)Glycoconj.J.16,189-195
【文献】Baumgartner,F.et al.,(2013)Microb.Cell Fact.12,40
【文献】Lee et al.,(2012)Microb.Cell Fact.11,48
【文献】Albermann et al.,(2001)Carbohydr.Res.334(2)p97-103
【文献】Castanys-Munzo,E.,Martin,J.M&Prieto,P.A.(2013)2’-fucosyllactose:an abundant,genetically determined soluble glycan present in human milk.Nutr.Rev.71(12)773-789
【文献】Sarney D.B,Hale,C.,Frankel,G&Vulfson,E.N.(2000)A novel approach to the recovery of biological active oligosaccharides from milk using a combination of enzymatic treatment and nanofiltration.Biotechnol.Bioeng 69,461-467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
この先行技術から始まり、技術的課題は、中性HMOsを大量に、高純度で、そして優れた収量で得るための新規なプロセスを提供することである。
【0018】
技術的課題は、請求項1に記載のプロセス、請求項15に記載のヒトミルクオリゴ糖(HMO)および請求項19に記載のHMOの使用によって解決される。従属クレームは有利な実施形態を示す。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、中性ヒトミルクオリゴ糖(HMO)を微生物発酵によって得られる発酵ブロスからバッチ式または連続式で精製するためのプロセスを提供する。ここでは、中性HMOを80%以上の純度で含む精製された溶液が提供される。発酵ブロスは、中性HMO、バイオマス、培地成分および混入物を含む。発酵ブロス中の中性HMOの純度は80%未満である。
【0020】
プロセスの間、発酵ブロスは、以下の精製ステップに適用される:
i)バイオマスの発酵ブロスからの分離、
ii)正帯電物質の除去のための陽イオン交換体処理、
iii)負帯電物質の除去のための陰イオン交換体処理、
iv)ナノフィルトレーションステップ(中性HMOの濃縮および/またはダイアフィルトレーションを含むかまたはそれからなる)および/または電気透析ステップ(特に塩およびその他の低分子量化合物の除去のため)。
【0021】
無細胞発酵ブロス中に存在する混入物は、例えば望ましい中性HMO以外のオリゴ糖、例えば一価および二価の塩、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、有機酸、核酸などである。望ましい中性HMOは、精製溶液中に80%以上の純度で得ることができる。
【0022】
本出願人は、本発明の精製プロセスによって、微生物発酵から中性HMOsの効率的な精製を達成することができ、その精製によりHMOが食品および飼料用途に適した純度で生成されることを見出した。さらに、このプロセスは、クロマトグラフィー分離ステップを必要としないので、費用対効果が高い。さらに、ステップiv)で電気透析ステップまたはナノフィルトレーションステップが実施されようと、両方のステップが連続して実施されようと、80%以上の純度が達成されることが見出された。
【0023】
本発明によるプロセスの1つの利点は、望ましい中性HMOsが、使用した組換え微生物発酵菌株からDNAおよびタンパク質を含まずに得られることである。特に、陽イオン交換体処理(ステップii)の実施は、例えば、正帯電タンパク質などの正帯電物質の除去を可能にする。従って、本発明の方法は、陽イオン交換体処理を実行しない先行技術で公知の従来の精製スキームと比較して、少ない正帯電混入物質を含むHMOを提供する。バイオマスから(好ましくは限外濾過によって)分離した発酵ブロスを陽イオン交換体(プロトン形態)に通した後に、得られる溶液は安定していて、室温または冷却下で数週間貯蔵することができ得ることがさらに見出された。さらに、最大50の増幅サイクルでの定量的PCRによって判断されるように、得られる中性HMOは組換え物質を含まない。さらに、本発明によるプロセスから得られる生成物は、少量のタンパク質またはタンパク質が存在しないことを特徴とする。
【0024】
さらに、本発明による中性HMOの精製は、非常に効率的であり、精製されたHMOの収量は未知の70%より多い(場合により75%より多い)(HMO濃縮物に対する無細胞発酵培地から求める)。
【0025】
従って、組換え発酵菌株を用いる発酵プロセスから、組換え遺伝子材料、エンドトキシンおよびタンパク質を含まない、高純度の中性HMOsを効率的に提供するための、バイオマスを分離するステップ、イオン交換体のステップ、ならびにナノフィルトレーションおよび/または電気透析のステップを含み、好ましくは活性炭素処理をさらに含むハイブリッドプロセスが提供される。本発明によるプロセスによって、大量の高品質のヒトミルクオリゴ糖を非常に簡便かつ経済的に提供することができる。
【0026】
中性HMOは、組換え微生物、好ましくは細菌または酵母、より好ましくは化学的に明確な培地で増殖した組換え微生物を使用する微生物発酵によって得られる発酵ブロスから精製されてもよい。場合により、ステップi)で分離されたバイオマスは、微生物発酵に再利用される。
【0027】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、発酵ブロス中の中性HMOの純度は、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下または5%以下であり、かつ/または精製された溶液は、85%以上、好ましくは90%以上の純度で中性HMOを含む。
【0028】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、中性HMOの収量は、70%より多く(場合により75%より多く)、かつ/または精製された溶液は、DNA、タンパク質、および/または組換え遺伝子材料を含まない。
【0029】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、中性HMOは、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、ラクト-N-トリオースII、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-ネオフコペンタオース、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-ネオフコペンタオースV、ラクト-N-ジフコヘキサオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースII、6’-ガラクトシルラクトース、3’-ガラクトシルラクトース、ラクト-N-ヘキサオースおよびラクト-N-ネオヘキサオースからなる群から選択される。
【0030】
本発明によるプロセスの特に好ましい実施形態では、中性HMOは、2’-フコシルラクトースである。
【0031】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、発酵ブロスからのバイオマスの分離は、
a)好ましくは、500kDaよりも大きい、より好ましくは150kDaよりも大きいバイオマスおよび物質を分離することによる、限外濾過;および/または
b)好ましくは100kDa以下のカットオフを有する、より好ましくは10kDa以下のカットオフを有する、さらにより好ましくは5kDa以下のカットオフを有するクロスフローフィルターによる濾過;
によって実現され、この際、ステップa)は、ステップb)の前に実施されることが好ましい。
【0032】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、本発明のプロセスの精製ステップii)~v)の少なくとも1つは、プロセス中に少なくとも1回繰り返される。
【0033】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、精製ステップi)~iv)の少なくとも1つの後に、色を与える物質および大型のオリゴ糖を活性炭素に吸着させるための少なくとも1回の活性炭素処理を発酵ブロスに行う。発酵ブロスにこの追加の精製ステップを加えることにより、色を与える物質および大型のオリゴ糖を発酵ブロスから除去することができる。
【0034】
本発明のプロセスは、
a)精製ステップi)~iv)の少なくとも1つの後に;または
b)色を与える物質および大型のオリゴ糖活性炭素に吸着させるための少なくとも1回の活性炭素処理の後に;または
c)精製ステップi)~iv)の少なくとも1つの後に実施される濃縮ステップの前に;
中性ヒトミルクオリゴ糖を含む溶液を透析濾過および/または濃縮することを特徴とし得る。好ましくは、前記溶液は、ナノフィルトレーション膜で、より好ましくは20Å以下のサイズ排除限界を有するナノフィルトレーション膜で透析濾過および/または濃縮される。最も好ましくは、溶液は、導電率が15mS/cm以下、好ましくは10mS/cm以下、より好ましくは5mS/cm以下に達するまで透析濾過される。
【0035】
ナノフィルトレーションを用いるダイアフィルトレーションは、HMO含有溶液の電気透析処理の前に、かなりの量の混入物を除去する前処理として効果的であることが見出された。その上、ナノフィルトレーションは、限外濾過ステップの後の低分子混入物の除去(前記除去は、HMO溶液をイオン交換処理の前に濃縮および脱塩するのに有益である)においても効率的であることが見出された。ヒトミルクオリゴ糖の精製において濃縮およびダイアフィルトレーションのためにナノフィルトレーション膜を使用することにより、より少ないエネルギーおよび加工コスト、ならびに生成物の品質の改良がもたらされる、それは、熱への曝露の減少に起因してメイラード反応およびアルドール反応の減少がもたらされるためである。
【0036】
ステップi)の前のステップで、グルコシダーゼ処理、好ましくはβ-グルコシダーゼ処理を発酵ブロスで実施してよく、前記処理は、好ましくは
a)望ましくない中間体、基質および/またはオリゴ糖副生成物の分解に適した1以上のグリコシダーゼ酵素類を発現することのできる微生物菌株を添加すること;および/または
b)好ましくは誘導物質を発酵ブロスに添加することにより、かつ/または発酵ブロスの温度を変えることにより、1以上のグリコシダーゼ酵素類を発現する発酵菌株を使用すること;および/または
c)1以上のグリコシダーゼ類、好ましくは少なくともβ-グルコシダーゼを粗酵素として、または精製酵素として発酵ブロスに添加すること
によって実施される。
【0037】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、発酵ブロスは、精製ステップi)~iv)の少なくとも1つの後に、好ましくは精製ステップiv)の後に、真空蒸発または逆浸透またはナノフィルトレーション(例えば、サイズ排除限界が20Å以下のナノフィルトレーション膜を用いるナノフィルトレーション)を用いて
a)100g/L以上、好ましくは200g/L以上、より好ましくは300g/L以上の濃度まで;かつ/または
b)80℃より低く、好ましくは50℃より低く、より好ましくは20℃~50℃、さらにより好ましくは30℃~45℃、最も好ましくは35℃~45℃(真空蒸発または逆浸透に特に適切である)の温度で;かつ/または
c)80℃より低く、好ましくは50℃より低く、より好ましくは4℃~40℃の温度(ナノフィルトレーションに特に適切である)で
濃縮される。
【0038】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、精製溶液は滅菌濾過され、かつ/または、好ましくは3kDaのフィルタによる精製溶液の濾過によるエンドトキシン除去に供される。
【0039】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、中性HMO含有溶液は、一価および二価の塩などの荷電物質をさらに除去するために電気透析に供される。
【0040】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、精製溶液を1.5Mより大きい濃度に濃縮し、温度25℃未満、より好ましくは8℃未満に冷却して、中性HMOの結晶性物質が得られる。
【0041】
本発明によるプロセスのもう一つの好ましい実施形態では、精製溶液は噴霧乾燥、特に20~60(w/v)、好ましくは30~50(w/v)、より好ましくは35~45(w/v)の中性HMO濃度、110~150℃、好ましくは120~140℃、より好ましくは125~135℃のノズル温度、および/または60~80℃、好ましくは65~70℃の出口温度で噴霧乾燥される。
【0042】
さらに、本発明には、本発明によるプロセスによって製造できる中性ヒトミルクオリゴ糖(HMO)が含まれる。
【0043】
好ましい実施形態では、HMOは、除菌濾過された濃縮物、例えば、中性HMO生成物を30%(w/v)以上、より好ましくは40%(w/v)以上で含有する無菌濃縮物中に存在する。
【0044】
もう一つの好ましい実施形態では、HMOは、噴霧乾燥または結晶化されている。
【0045】
もう一つの好ましい実施形態では、HMOは、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、ラクト-N-トリオースII、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-ネオフコペンタオース、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-ネオフコペンタオースV、ラクト-N-ジフコヘキサオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースII、6’-ガラクトシルラクトース、3’-ガラクトシルラクトース、ラクト-N-ヘキサオースおよびラクト-N-ネオヘキサオースからなる群から選択される。
【0046】
特に好ましい実施形態では、HMOは、2’-フコシルラクトースである。
【0047】
もう一つの好ましい実施形態では、HMOは、
a)300g/l溶液で1mSi/cm未満の導電率を有し;
b)組換えDNA物質、場合によりDNAを含まず;かつ/または
c)組換え微生物由来のタンパク質、所望によりタンパク質を含まない。
【0048】
もう一つの好ましい実施形態は、医薬、好ましくは胃腸障害の予防または治療で使用するためのHMOに関する。
【0049】
さらに、本発明には、食品中の添加剤としての、好ましくは人間の食品および/またはペットフード中の添加剤としての、より好ましくは人間のベビーフード中の添加剤としての、本発明によるHMOの使用が含まれる。
【0050】
本願の主題は、特定の実施形態に制限されることはなく、以降の図および実施例を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】限外濾過、陽イオンおよび陰イオン交換体処理、活性炭素処理、ナノフィルトレーション、電気透析および濃縮のステップを含む、発酵ブロスから2’-フコシルラクトースを精製するための本発明によるプロセスの好ましい実施形態のスキームを示す。
図2】限外濾過、ナノフィルトレーション、陽イオンおよび陰イオン交換体処理、活性炭素処理、電気透析および濃縮のステップを含む、発酵ブロスから2’-フコシルラクトースを精製するための本発明によるプロセスの別の好ましい実施形態のスキームを示す。
図3】限外濾過、陽イオンおよび陰イオン交換体処理、ナノフィルトレーション、活性炭素処理、電気透析および濃縮のステップを含む、発酵ブロスから2’-フコシルラクトースを精製するための本発明によるプロセスの別の好ましい実施形態のスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0052】
実施例1:組換え微生物産生菌Iを用いる発酵からの2’-フコシルラクトースの精製。
大腸菌(E.coli)株(大腸菌BL21(DE3)ΔlacZ)を合成する組換え2’-フコシルラクトースを用い、wbgL遺伝子によりコード化されるゲノム組込み2’-フコシルトランスフェラーゼ(fucosyltransferase)(欧州特許第111151571.4号参照)を含有し、かつ、遺伝子galM、galK、galTおよびgalEを含む機能性galオペロンを含有する大腸菌lacY、manB、manC、gmdおよびfclのさらなるコピーを全て強い構成的テトラサイクリンプロモーターの制御下で有する、2’-フコシルラクトースのフィードバッチ発酵(feed-batch fermentation)を、限定された塩培地で増殖させた。限定された塩培地は、7g l-1NHPO、7g l-1HPO、2g l-1KOH、0.37g l-1クエン酸、1ml l-1消泡剤(Struktol J673、Schill+Seilacher社製)、1mM CaCl、4mM MgSO、微量元素および炭素源としての2%グリセロールからなった。
【0053】
微量元素は、0.101g l-1ニトリロ三酢酸、pH6.5、0.056g l-1クエン酸鉄アンモニウム、0.01g l-1MnCl×4HO、0.002g l-1CoCl×6HO、0.001g l-1CuCl×2HO、0.002g l-1ホウ酸、0.009g l-1ZnSO×7HO、0.001g l-1NaMoO×2HO、0.002g l-1NaSeO、0.002g l-1NiSO×6HOで構成された。
【0054】
グリセロール供給材料は、グリセロール800g l-1、MgSO2.64g l-1および微量元素溶液4ml l-1からなった。2’-フコシルラクトース形成には、216g l-1のラクトース供給材料を用いた。pHはアンモニア溶液(25% v/v)を使用して制御した。フィードバッチ発酵(Feed batch fermentation)を、一定の通気および撹拌下で90時間、30℃で培養した。発酵の開始から90時間後、添加したラクトースの大部分は2’-フコシルラクトースに変換された。発酵上清になお存在するラクトースを除去するために、発酵の開始から90時間後に、第2の細菌株を発酵容器に添加した。
【0055】
添加した第2の細菌株は、最初に用いた細菌株と遺伝的に同一であったが、ゲノムを統合したβ-ガラクトシダーゼの発現だけが異なった。添加した二次細菌株をインキュベートすると、5時間以内に残留ラクトースが消失した。約10mlの、第2のβ-ガラクトシダーゼ発現細菌株の種菌を、発酵ブロス1lごとに添加した。
【0056】
次に、10kDaのカットオフを有するクロスフローフィルターを使用して、発酵培地から限外濾過によってバイオマスを分離した(Microdyn Nardir)。
【0057】
42g/lの2’-フコシルラクトースを含有する約1mの無細胞発酵培地を得た。次に、正帯電混入物を除去するために、無細胞発酵培地を強力な陽イオン交換体に通した(H形態のLewatit S 6368A(Lanxess)、イオン交換体の床体積の大きさは100lであった)。次に、2M水酸化ナトリウム溶液を添加して、得られた溶液をpH7に調整した。
【0058】
次に、溶液を(遅滞なく)陰イオン交換体カラムに通した(イオン交換体の床体積は100lであった)。使用した強力な陰イオン交換体Lewatit S 2568(Lanxess)は塩化物イオン(Cl)形態であった。得られた溶液を再びpH7に中和させた。次に、このようにして得た溶液を、Alfa-Laval NF99HFナノフィルトレーション膜および6容積の無菌の脱イオン水を用いてダイアフィルトレーションした。この溶液をナノフィルトレーション膜を用いてさらに濃縮し、200g/lの2’-フコシルラクトース溶液および7mS/cmの導電率が得られた。
【0059】
次に、メイラード反応生成物およびアルドール反応生成物などの色を与える物質を取り除くために、濃縮した2’-フコシルラクトース溶液を活性炭素で処理した。活性炭素として、1lの濃縮2’-フコシルラクトース溶液あたり20gのNorit GAC ENを使用し、著しく脱色された溶液を得た。
【0060】
このようにして得た濃縮2’-フコシルラクトース溶液を、次に、PC-Cell E200膜スタックを装備したPC-Cell BED 1-3電気透析装置(PC-Cell、ドイツ、ホイスヴァイラー)を用いて0.3mS/cmまで電気透析した。前記スタックは以下の膜を含んでいた:陽イオン交換膜CEM:PC SKおよび60Daのサイズ排除限界を有する陰イオン交換膜AEM:PcAcid60。0.025Mスルファミン酸(アミドスルホン酸)溶液をED法の電解質として使用した。
【0061】
その後、得られた溶液を次に40℃で真空濃縮して45%の2’-フコシルラクトース溶液を得た。濃縮した溶液を次にNa形態のイオン交換体、Lewatit S 6368 A(Lanxess)(使用したイオン交換体の床体積は10リットルであった)で再び処理し、中和後にCl形態の陰イオン交換体Lewatit S 2568(Lanxess)(用いたイオン交換体の床体積は10リットルであった)で処理した。
【0062】
次に、得られた2’-フコシルラクトース溶液を活性炭素(Norit DX1 Ultra)で処理した。1lの45%2’-フコシルラクトース溶液に対して30gの活性炭素を用いた。
【0063】
次に、溶液を、0.3mSi/cm未満の導電率が得られるまで再び電気透析に供した。
【0064】
その後、溶液を3kDaフィルタ(Pall Microza限外濾過用ホローファイバーモジュールSEP-2013、Pall社、ドライアイヒ)に通すことによって溶液を除菌濾過に供した。
【0065】
次に、得られた2’-フコシルラクトース溶液の一部を分析用に噴霧乾燥させた。
【0066】
NMRスペクトル記録のために、噴霧乾燥した生成物をヘキサジューテロジメチルスルホキシド(DMSO-d)に溶解させた。プロトンおよび13C分析のために、以下の特徴的な化学シフトが観察された:
【0067】
H NMR(500 MHz,DMSO-d)δ 6.63(d,J=6.5 Hz,1H),6.28(d,J=4.7 Hz,1H),5.21(d,J=2.4 Hz,1H),5.19(d,J=2.4 Hz,1H),5.01(d,J=2.2,2H),4.92(d,J=5.0 Hz,1H),4.89(dd,J=4.6,1.3 Hz,2H),4.78(d,J=5.3 Hz,1H),4.74(d,J=5.1 Hz,1H),4.63(m,6H),4.53(t,d,J=5.5,1H),4.46(d,J=5.2 Hz,1H),4.44(d,J=5.0 Hz,1H),4.38-4.26(m,5H),4.23(d,J=0.9,1H),4.05(d,J=0.9,1H),4.00(quin,J=3.3,1H),3.68-3.60(m,7H),3.59-3.50(m,13H),3.50-3.37(m,6H),3.24(dt,J=8.8,2.2 Hz,1H),3.14(m,2H),2.96(td,J=8.4,4.7 Hz,1H),1.04(d,J=6.1 Hz,3H),1.03(d,J=6.1 Hz,3H).
【0068】
13C NMR(126 MHz,DMSO-d)δ 100.99,100.85,100.35,100.25,96.59,92.02,78.13,77.78,77.16,77.01,75.27 75.05,74.67,73.70,72.33,71.62,71.56,70.91,69.90,69.64,68.75,68.16,66.33,60.17,59.82,59.67,16.37,16.36.
【0069】
化学シフトは、2’-フコシルラクトース構造と一致していることが見出された。
【0070】
このプロトコルを用いて、純度が94.5%の45%の2’-フコシルラクトース濃縮物を得ることができた(HPLC分析により決定)。主な混入物は、3’-フコシルラクトース(1.8%)、ジフコシルラクトース(2.9%)、およびラクトース(0.3%)であった。
【0071】
精製収量は約70%であった。
【0072】
重要なことに、組換え物質は、50サイクルのqPCRを用いて10gの凍結物質中に定量することができなかった。得られた物質中のタンパク質の量は、ナノ-ブラッドフォードアッセイ(Roth、ドイツ、カールスルーエ)を用いることによって、凍結乾燥物質1gあたり50μg未満として定量された。灰の総量は、0.19%で測定された。重金属の濃度は、0.1μg/物質gよりも低かった(ヒ素カドミウム、鉛および水銀)。エンドトキシンレベルは、2’-フコシルラクトース濃縮物1mlあたり0.005EU未満であると決定された。
【実施例2】
【0073】
実施例2:組換え微生物産生菌IIを用いる発酵からの2’-フコシルラクトースの精製。
【0074】
2’-フコシルラクトースを47g/Lの濃度で含む1mの微生物発酵を、100kDaのカットオフを有するクロスフローフィルター(Microdyn Nadir)によって濾過して、無細胞の発酵培地を得た。
【0075】
発酵培地として、以下の培地を用いた:主な培地成分:グリセロール 30g/l、NHPO 7g/l、KHPO 7g/l、クエン酸塩 0.3g/l、KOH 2g/l、MgSO・7HO 2g/l;微量元素:CaCl・6HO 20mg/l、ニトリロ三酢酸 101mg/l、クエン酸鉄アンモニウム 56mg/l、MnCl・4HO 9.8mg/l、CoCl・6HO 1.6 mg/l、CuCl・2HO 1mg/l、HBO 1.6mg/l、ZnSO・7HO 9mg/l、NaMoO・2HO 1.2mg/l、NaSeO 1.2mg/l;供給物質:グリセロールおよびラクトース。
【0076】
次に、正帯電混入物を除去するために、無細胞発酵培地をH形態の陽イオン交換体(Lewatit S 6368A(Lanxess))に通した(イオン交換体床の体積は100lであった)。次に、2M水酸化ナトリウム溶液を添加して、得られた溶液をpH7に調整した。次に、溶液を遅滞なく塩化物イオン(cloride)(Cl)形態の強力な陰イオン交換体Lewatit S 2568(Lanxess)を含む陰イオン交換体カラム(使用したイオン交換体床体積は100lであった)に通した。得られた溶液を再びpH7に中和させた。そのように得られた溶液を次にダイアフィルトレーションし(diafiltrated)(10容量の滅菌脱イオン水を使用)、ナノフィルトレーション膜(Alfa-Laval NF99HF)を用いて濃縮して、2’-フコシルラクトース溶液200g/lおよび約7mSi/cmの導電率を得た。
【0077】
次に、1lの濃縮2’-フコシルラクトース溶液につき20gのNorit GACENを使用して、濃縮2’-フコシルラクトース溶液を活性炭素で処理した。濾過した2’-フコシルラクトース溶液に、40g/lのNorit DX1 Ultra活性炭素を添加した。次に、溶液を4℃で約18時間、活性炭素に曝した。18時間後、活性炭素を濾過によって2’-フコシルラクトース溶液から除去した。
【0078】
次に、溶液を、PC-Cell E200膜スタックを装備したPC-Cell BED 1-3電気透析装置(PC-Cell、ドイツ、ホイスヴァイラー)を用いて0.3mS/cm未満の導電率まで電気透析した。前記スタックは以下の膜を含んでいた:陽イオン交換膜CEM:PC SKおよび60Daのサイズ排除限界を有する陰イオン交換膜AEM:PcAcid60。0.025Mスルファミン酸(アミドスルホン酸)溶液をED法の電解質として使用した。
【0079】
次に、得られた溶液を濃縮して40%の2’-フコシルラクトース溶液を得た。次に、得られた2’-フコシルラクトース溶液をLewatit S 2568(Lanxess)Cl型(床体積10リットル)に通し、活性炭素(Norit DX1 Ultra)で8℃で18時間処理した。次に、溶液を3kDaフィルタ(Pall Microza限外濾過用ホローファイバーモジュールSEP-2013、Pall社、ドライアイヒ)に通すことによって溶液を除菌濾過に供し、NUBILOSA LTC-GMP噴霧乾燥器(NUBILOSA、ドイツ、コンスタンツ)を用いて噴霧乾燥させた。
【0080】
このプロトコルを用いて、純度が94%の2’-フコシルラクトースを得ることができた(HPLC分析により決定)。主な混入物は、3’-フコシルラクトース(1.8%)、ジフコシルラクトース(3.2%)、およびラクトース(0.2%)であった。精製収量は約70%であった。
図1
図2
図3