(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】三価クロム化合物を含む電解液を使用してクロムおよび酸化クロムのコーティングで被覆された金属ストリップの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/06 20060101AFI20220112BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20220112BHJP
C25D 15/02 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C25D3/06
C25D5/26 D
C25D15/02 G
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019221836
(22)【出願日】2019-12-09
【審査請求日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】10 2018 132 075.2
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513213841
【氏名又は名称】ティッセンクルップ ラッセルシュタイン ゲー エム ベー ハー
(73)【特許権者】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】ThyssenKrupp Allee 1 45143 Essen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア マルマン
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ モルス
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ゴーツ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス レンツ
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-519103(JP,A)
【文献】特表2016-528378(JP,A)
【文献】特表2016-505708(JP,A)
【文献】国際公開第2018/078582(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03378973(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00- 9/12
C25D 13/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング(B)で被覆された金属ストリップ(M)の製造方法であって、前記コーティング(B)が、クロム金属および酸化クロムを含み、前記コーティング(B)が、カソードとして接続されている金属ストリップ(M)を、電解時間中、電解液(E)と接触させることによって、三価クロム化合物を含む前記電解液(E)から前記金属ストリップ(M)上に電析される、製造方法であって、前記金属ストリップ(M)は、ストリップ移動方向に連続して配置され、且つ、少なくとも第1の電解槽(1a)または複数の電解槽のうちの前グループ(1a、1b)および最後の電解槽(1c)または複数の電解槽のうちの後グループ(1g、1h)を含む複数の電解槽(1a、1b、1c;1a~1h)を所定のストリップ移動速度(v)で連続して通過し、前記ストリップ移動方向の方向で見て少なくとも前記最後の電解槽(1c、1h)または複数の電解槽のうちの前記後グループ(1g、1h)の電解液(E)の温度は、電解槽の体積全体にわたる平均で、40℃未満であり、前記第1の電解槽(1a)または複数の電解槽のうちの前記前グループ(1a、1b)の電解液の平均温度は、前記最後の電解槽(1c)または複数の電解槽のうちの前記後グループ(1g、1h)の電解液の平均温度よりも高く、前記最後の電解槽(1c)または複数の電解槽のうちの後グループ(1g、1h)において、前記金属ストリップ(M)が前記電解液(E)と電解的に効果的に接触する電解時間(t
E)は、2.0秒未満であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記電解槽(1a~1h)の各々において、前記金属ストリップ(M)が前記電解液(E)と電解的に効果的に接触している前記電解時間(t
E)は、2.0秒未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解槽(1a~1h)の各々において、前記金属ストリップ(M)が前記電解液(E)と電解的に効果的に接触している前記電解時間(t
E)は、0.3~2.0秒であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属ストリップ(M)が前記電解液(E)と電解的に効果的に接触している総電解時間(t
E)は、2~16秒であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記最後の電解槽(1c)または複数の電解槽のうちの後グループ(1g、1h)の電解液の平均温度は、25℃~38℃であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1の電解槽(1a)または複数の電解槽のうちの前グループ(1a、1b)における電解液の平均温度は、40℃よりも高いことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
全ての電解槽(1a~1c;1a~1h)におけるそれぞれの電解槽の体積全体にわたる平均の電解液の温度は、20℃~40℃未満であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
全ての電解槽(1a~1c;1a~1h)におけるそれぞれの電解槽の体積全体にわたる平均の電解液の温度は、25℃~38℃であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属ストリップは、最初に第1の電解槽(1a)または複数の電解槽のうちの前グループ(1a、1b)を通過し、続いて第2の電解槽(1b)または複数の電解槽のうちの中間グループ(1c~1f)を通過し、最後に、最後の電解槽(1c)または複数の電解槽のうちの後グループ(1g、1h)を通過し、ここで、前記第1の電解槽(1a)または複数の電解槽のうちの前グループ(1a、1b)の電解液の平均温度は、前記最後の電解槽(1c)または複数の電解槽のうちの後グループ(1g、1h)の電解液の平均温度よりも高いことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ストリップ移動方向で見て、前記第1の電解槽(1a)または複数の電解槽のうちの前グループ(1a、1b)は低い電流密度(j
1)を有し、ストリップ移動方向で見て、それに続く前記第2の電解槽(1b)または複数の電解槽のうちの中間グループ(1c~1f)は中程度の電流密度(j
2)を有し、ストリップ移動方向で見て、前記最後の電解槽(1c)または複数の電解槽のうちの後グループ(1g、1h)は高い電流密度(j
3)を有し、j
1≦j
2<j
3であり、低い電流密度(j
1)は20A/dm
2よりも高いことを特徴とする、請求
項9に記載の方法。
【請求項11】
前記三価クロム化合物が、塩基性硫酸Cr(III)(Cr
2(SO
4)
3)を含むことを特徴とする、請求項1~10に記載の方法。
【請求項12】
前記電解液は、前記三価クロム化合物に加えて、少なくとも1種の錯化剤を含み、前記三価クロム化合物の重量割合と、前記錯化剤の重量割合との比が1:1.1~1:1.4であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
導電性を高めるために、前記電解液は、アルカリ金属硫酸塩を含み、および/またはハロゲン化物を含まず、および緩衝剤を含まないことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記電解液中の三価クロム化合物の濃度は、少なくとも10g/Lであることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記電解液のpH値(温度20℃で測定)は、2.0~3.0であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記金属ストリップは、少なくとも100m/分のストリップ移動速度で前記電解液を通って移動することを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記電解液から析出したコーティングは、少なくとも40mg/m
2のクロムのコーティング総重量を有し、クロムの析出総重量に含まれる酸化クロムの割合は、少なくとも5%であることを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記電解液から析出したコーティングは、酸化クロムとして結合したクロムの析出重量が、1m
2あたり少なくとも5mgのCrである、酸化クロム含量を有することを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記金属ストリップ(M)の表面上に析出したコーティング(B)は、クロム金属および酸化クロムのそれぞれの割合に関して異なる組成を各々有する少なくとも2つの層(B1、B3)を含み、前記金属ストリップに面する下層(B1)は、10%~15%の範囲内にある中程度の酸化クロムの重量割合を有し、上層(B3)は、30%超である高い酸化クロムの重量割合を有することを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記金属ストリップ(M)の表面上に析出したコーティングは、クロム金属および酸化クロムのそれぞれの割合に関して異なる組成を各々有する3つの層(B1、B2、B3)を含み、前記金属ストリップに面する下層(B1)は、10%~15%の範囲内にある中程度の酸化クロムの重量割合を有し、中間層(B2)は、2%~10%の範囲内にある低い酸化クロムの重量割合を有し、上層(B3)は、30%超である高い酸化クロムの重量割合を有することを特徴とする、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記コーティングの電析に続いて、有機材料のトップコートを、クロム金属および酸化クロム含有コーティング(B)に設けることを特徴とする、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記金属ストリップは、鋼ストリップ(ティンフリー鋼)または錫で被覆された鋼ストリップ(ブリキ)であることを特徴とする、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載のクロムおよび酸化クロムのコーティングで被覆された金属ストリップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
包装材料の製造において、クロムおよび酸化クロムで被覆された電解コーティング鋼板を使用できることが従来技術から知られており、この鋼板はティンフリー鋼(“Tin Free Steel”TFS)または「電解クロムコーティング鋼」(ECCS)として知られており、ブリキに代わるものである。このティンフリー鋼は、塗料または有機保護コーティング(例えば、PPまたはPETのポリマーコーティング)に特に有利な接着性を特徴とする。このクロムコーティング鋼板は、原則として20nm未満のクロムおよび酸化クロムの薄いコーティング厚にもかかわらず、包装材料の製造に使用される変形プロセス、例えば深絞り成形法やしごき加工における良好な耐食性と良好な加工性を特徴とする。
【0003】
金属クロムおよび酸化クロムを含むコーティングで鋼基板をコーティングするために、ストリップコーティングシステムでクロム(VI)含有電解質を使用してストリップ形状の鋼板上にコーティングを析出させる電解コーティング法を使用できることが従来技術から知られている。しかし、電解プロセスで使用されるクロム(VI)含有電解質には環境的に有害で健康を脅かす特性があるため、これらのコーティング法にはかなりの不利益が伴い、また、クロム(VI)含有材料の使用は間もなく禁止されるため、近い将来、代替のコーティング法に置き換えなければならないであろう。
【0004】
このため、電解質を含むクロム(VI)の使用を不要にする電解コーティング法が、最新技術で既に開発されている。例えば、特許文献1は、特にティンフリー鋼(被覆されていない鋼板)またはブリキ(錫で被覆された鋼板)であり得る導電性基板をクロム金属/酸化クロム(Cr/CrOx)層で電解コーティングする方法を開示しており、この方法では、カソードとして接続された基板を三価クロム化合物(Cr(III))を含む電解液と接触させ、クロム(III)イオンからクロム(VI)イオンへの酸化を抑制または少なくとも低減するアノードも提供され、電析中に基板の表面に形成される水素気泡が除去される。これに関連して、分離反応と電析コーティングの表面品質は電解液の温度に依存し、良好な表面外観を有するコーティングを製造するには30℃~70℃の電解液温度が適していることが観察された。好ましい温度範囲である40℃~60℃は、これらの温度で電解液が良好な導電性を有するため、効率的な析出反応を確保するのに有利であることがわかっている。
【0005】
特許文献1は、ストリップコーティングシステムでクロム金属/酸化クロム(Cr/CrOx)層を用いて帯状鋼板を電解コーティングする方法を開示しており、この方法では、カソードとして接続されている鋼板が、三価クロム化合物(Cr(III))を含む電解液を100m/分を超える高速のストリップ移動速度で通過する。コーティングの組成は、電解液中の三価クロム化合物(Cr(III))に含まれるクロム金属および酸化クロム成分以外の成分に応じて(硫酸クロムと炭化クロムも含まれ得る)、電解液が含まれている電解槽での電析プロセス中に設定されるアノードでの電解の電流密度に大きく依存することが観察された。電流密度の関数として3つの領域(レジームI、レジームII、レジームIII)が形成され、第1の電流密度閾値までの電流密度が低い第1の領域(レジームI)では鋼基板上にクロムを含む析出は起こらず、中程度の電流密度を有する第2の領域(レジームII)では電流密度と析出したコーティングの重量との間に線形関係があり、第2の電流密度閾値を超える電流密度(レジームIII)では析出したコーティングの部分的な分解が起こるため、この領域では、電流密度が増加するにつれて、析出したコーティング内のクロムのコーティング重量は最初に減少し、その後、より高い電流密度で安定した値に落ち着くことがわかった。中程度の電流密度を有する領域(レジームII)では主に金属クロムが(コーティングの総重量に対して)最大80重量%で鋼基板上に析出し、第2の電流密度閾値(レジームIII)を超えるとコーティングはより多くの酸化クロム含量を有し、電流密度がより高い領域ではコーティングの析出総重量の1/4~2/3になる。領域(レジームI~III)を互いに分ける電流密度閾値の値は、鋼板が電解液を通過するストリップ移動速度に依存することが判明した。
【0006】
特許文献2に記載されているように、クロム/酸化クロムコーティングで被覆されたティンフリー鋼(鋼板)が包装用途で使用するのに十分に高い耐食性を有することを保証するためには、従来のECCSの耐食性に匹敵する耐食性を実現するために少なくとも20mg/m2の最小コーティング重量が必要である。さらに、包装用途での使用に適した十分に高い耐食性を達成するためにコーティングは少なくとも5mg/m2の酸化クロムの最小コーティング重量を有する必要があることが示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2015/177314A1
【文献】WO2014/079909A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明によって解決される問題は、三価クロム化合物を含む電解液を使用して、クロムおよび酸化クロムのコーティングで被覆された金属ストリップを製造するために可能な最も効率的な方法を利用可能にすることであり、この方法はストリップコーティングシステムの工業規模で実施することができ、コーティングは、被覆された金属ストリップの十分に高い耐食性および有機コーティング、例えば塗料またはPETもしくはPPのポリマーフィルムなどの良好な接着ベースを確保するために可能な限り高い酸化クロム含量を含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この問題は、請求項1の特徴を備えた方法によって解決される。この方法の好ましい実施形態は、従属請求項以降に続く。
【0010】
本発明により開示される方法によれば、クロム金属と酸化クロムとを含むコーティングは、カソードとして接続されている金属ストリップを、ストリップ移動方向に連続して配置されている複数の電解槽に、所定のストリップ移動速度でストリップ移動方向に連続して通して電解液に接触させることによって、三価クロム化合物を含む電解液から金属ストリップ、特に鋼ストリップ上に電析され、ここで、ストリップ移動方向で見て少なくとも最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループの電解液は、電解槽の体積全体にわたる平均で、最高で40℃を超えない温度を有し、金属ストリップが最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループで電解液と電解的に効果的に接触している電解時間は2.0秒未満である。
【0011】
これに関連して、電解液の温度または電解槽の温度への任意の言及は、電解槽の全体積の平均として生じる平均温度を意味することを意図している。原則として、温度が電解槽の上部から下部に向かって上昇する温度勾配が存在する。本明細書において、酸化クロムという用語は、水酸化クロム、特に水酸化クロム(III)、酸化クロム(III)水和物、およびそれらの混合物を含むクロムの全ての酸化物形態(CrOx)を指す。
【0012】
電解液の温度が40℃以下になると、酸化クロムの形成が促進されることがわかった。したがって、電解液の温度が最高で40℃の場合、酸化クロムの含量がより多いコーティングを生成することができる。コーティング内の酸化クロムの含量が多いと、被覆された金属ストリップの耐食性が向上するという利点がある。コーティング内の酸化クロムの割合は、少なくとも最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループで、2.0秒以下の短い電解時間を確保することで増やすこともできる。さらに、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループでの短い電解時間により、好ましくは100m/分を超える速いストリップ移動速度での、ストリップコーティングシステムの連続プロセスによる電解コーティング法を実施することができる。
【0013】
金属ストリップが電解液と電解的に効果的に接触している、各電解槽における電解時間は、2秒未満であることが好ましく、金属ストリップが複数の電解槽を均一なストリップ移動速度で通過でき、電解槽は全て同一に設計され、ストリップ移動方向に前後に並んで配置されていることが好ましい。100m/分を超える好ましいストリップ移動速度では、各電解槽での電解時間は、好ましくは0.5秒~2.0秒、具体的には0.6秒~1.8秒である。使用されるストリップ移動速度に応じて、各電解槽内の電解時間は0.3秒~2.0秒、好ましくは0.5秒~1.4秒であってもよい。
【0014】
ストリップ移動方向に連続して配置された電解槽の数に応じて、金属ストリップが電解液と電解的に効果的に接触している総電解時間(tE)は、全ての電解槽にわたって好ましくは2~16秒、具体的には4秒~14秒である。
【0015】
析出効率の改善のためには、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの電解液の温度が最後の電解槽よりも高いことが有利であり得る。第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの電解液の温度は、50℃よりも高いことが好ましく、具体的には53℃~70℃であり、これは、この温度範囲で、クロムの、特にクロム金属の形態での、より効率的な析出を観察することができるためである。第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの電解液の温度が50℃よりも高く設定されている場合で、同時に最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループの電解液の温度が40℃よりも低く設定されている場合、金属ストリップの表面にコーティングを析出させることができ、このコーティングは、少なくとも1つの下層と1つの上層を含み、下層は第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループで析出し、上層は最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループで析出し、下層は上層と比べて少量の酸化クロムを含み、上層はより多くの酸化クロムを含む。金属ストリップの表面に面する下層の酸化クロムの重量割合は、好ましくは15%未満であり、上層では好ましくは40%を超える。
【0016】
ただし、実際的な理由から、電解槽内の電解液を均一な温度に設定することが有用であり得、この温度は(各電解槽の体積全体わたる平均で)全ての電解槽で好ましくは20℃~40℃、より好ましくは25℃~38℃である。
【0017】
析出プロセスは発熱性であるため、電解槽内の電解液を冷却して、好ましい温度を維持する必要がある。これは、電解槽の循環システムが一般的に相互接続されているという事実によって複雑になっている。したがって、機器の設計とセットアップの理由から、複雑な機器のセットアップを必要とする異なる温度設定を避けるために、全ての電解槽で同じ温度を維持することが有用であり得る。しかし、結果重視の観点から、特に被覆された金属ストリップの耐食性の改善に関しては、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの温度を、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループよりも高い温度に設定することが有利である。
【0018】
このため、本発明による方法の好ましい実施形態では、金属ストリップが少なくとも第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループを通過し、次に第2の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループを通過し、ここで、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの電解液の平均温度は、第2の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループの電解液の平均温度よりも高い。
【0019】
第2の好ましい実施形態によれば、金属ストリップは、最初に第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループを通過し、次に第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループを通過し、最後に、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループを通過し、ここで、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの電解液の平均温度および/または第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループの電解液の平均温度は、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループの電解液の平均温度よりも高い。
【0020】
金属ストリップ上の電析コーティングの組成は、電解液の温度だけでなく、電解電流密度にも依存する。析出したコーティングの(部分的な)分解が発生するレジームIIIの領域におけるより高い電流密度では、クロムの析出コーティング重量と電流密度との間に線形関係が観察されるレジームIIのより低い電流密度と比較して、コーティング内により高い割合の酸化クロムが形成されることが実証されている。したがって、クロム金属を高い割合で含む下層と、酸化クロムを高い割合で含む(好ましくは層のコーティング総重量の40重量%以上を占める)上層とを備えたコーティングを製造するには、ストリップ移動方向で見て第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループ、および適用可能な場合にはストリップ移動方向に続く第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループのそれぞれに低い電流密度j1およびj2を適用し、ストリップ移動方向で見て最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループには、レジームIIIの高い電流密度j3を適用することが有利であり、ここでj1およびj2は各々j3よりも低く、例えば100m/分のストリップ移動速度での低い電流密度j1およびj2は20A/dm2よりも各々高く(したがって、約20A/dm2の第1の電流密度閾値を超えるためレジームIIの領域内であり)、高い電流密度j3は50A/dm2よりも高い(したがって、第2の電流密度閾値を超えるためレジームIIIの領域内である)。ストリップ移動速度に応じて電流密度j1、j2、j3が増加するため、例えばストリップ移動速度が300m/分の場合、電流密度j1、j2は70A/dm2よりも高く、電流密度j3は130A/dm2よりも高い。
【0021】
特に好ましい実施形態によれば、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループは、ストリップ移動方向に続く第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループよりも低い電流密度を有しており、20A/dm2<j1≦j2<j3である。
【0022】
その結果、金属ストリップの表面に、3つの層を含むコーティングを析出させることができ、各層は、クロム金属と酸化クロムの比率に関して各々異なる組成を有しており、下層は金属ストリップに面し、具体的には10%~15%である、酸化クロムの重量割合が中程度である中重量部分を有し、中間層は、具体的には2%~10%である、酸化クロムの重量割合が低い低重量部分を有し、上層は、具体的には30%超、好ましくは50%超である、酸化クロムの重量割合が高い高重量部分を有する。有機トップコート、例えば有機塗料またはPETもしくはPPのポリマーフィルムの接着に関して、酸化クロムは金属クロムと比較して有機材料用の良好な接着ベース表面を形成することが実証されているため、酸化物の割合が高い層が外側表面にあることが好ましい。
【0023】
ストリップ走行方向に連続して配置された複数の電解槽を複数のグループに分割することによって、また、個々の電解槽にストリップ移動方向に増加する異なる電流密度を設定することによって、一方では100m/分以上の速いストリップ移動速度を維持することができ、また金属ストリップの少なくとも片面に十分に高いコーティング重量のコーティングを析出させることができ、他方では十分に高い耐食性を確保するために必要な少なくとも5mg/m2、好ましくは7mg/m2超の酸化クロム割合を含むコーティングを析出させることができる。酸化クロムのコーティング重量が高くなると、塗料または熱可塑性ポリマー材料の有機トップコートの接着力が低下することが観察されているため、酸化クロムのコーティング総重量は15mg/m2を超えないことが好ましい。このため、酸化クロムのコーティング重量は、5~15mg/m2であることが好ましい。
【0024】
第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループは、ストリップ移動方向で見て最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループの電流密度よりも低い電流密度j1およびj2をそれぞれ有するという事実により、エネルギーを節約できる。なぜなら、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループでは、アノードへの適用に必要な電流が低いからである。しかしながら、これにも関わらず、それぞれ第1の電解槽および複数の電解槽のうちの前グループならびに第2の電解槽および複数の電解槽のうちの中間グループに設定されている低い電流密度j1、j2でさえも、一定量の酸化クロムが金属基板上に析出できるため、形成されるコーティングは、十分に高いコーティング重量の酸化クロムを有する。ストリップ移動方向で見て最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループは、コーティングのコーティング総重量に対する酸化クロムの割合がより大きい高い電流密度j3に設定されているため、酸化クロムの大部分は、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループで析出される。
【0025】
第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループにおいて、析出したコーティングの析出総重量の特定の割合である約9%~15%は酸化クロムに起因するため、酸化クロムの結晶は、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループにおいて金属ストリップの表面に形成される。最後の電解槽および/または複数の電解槽のうちの後グループでは、これらの酸化クロム結晶は追加の酸化物結晶の成長のための核セルとして機能し、これは酸化クロムの析出効率、より具体的にはコーティングの析出総重量のうちの酸化クロムの割合が、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループで増加する理由を説明する。したがって、第1および第2の電解槽ならびに複数の電解槽のうちの前および中間グループでそれぞれ低い電流密度j1およびj2を使用することでエネルギーを節約しながら、金属ストリップ表面に好ましくは5mg/m2超の十分に高いコーティング重量の酸化クロムを生成することができる。
【0026】
コーティングの酸素含量は、より高い電流密度(結果として、より少ない酸化物含量)での電析中に得られる酸素含量よりも多いため、第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループおよび第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループで生成される酸化クロムの割合は、より高密度のコーティングを形成し、その結果耐食性が向上する。
【0027】
連続して配置された少なくとも2つ、好ましくは3つの電解槽または電解槽の複数のグループを使用すると、可能な限り低い電流密度で高いストリップ移動速度を維持でき、プロセスの効率が向上する。少なくとも100m/分の好ましいストリップ移動速度を維持するには、金属ストリップの少なくとも片面でクロム/酸化クロム層の析出を行うために少なくとも20A/dm2の電流密度が必要であることが実証されている。この電流密度20A/dm2は、約100m/分のストリップ移動速度での第1の電流密度閾値を表し、この閾値はレジームI(クロム析出なし)とレジームII(電流密度と析出するコーティングのクロムのコーティング重量との間に線形関係があるクロム析出)とを分ける。
【0028】
電解槽内の電流密度(j1、j2、j3)は、ストリップ移動速度に合わせて各々調整され、ストリップ移動速度とそれぞれの電流密度(j1、j2、j3)との間に少なくともほぼ線形関係が存在する。第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの電流密度が、第2の電解槽または複数の電解槽のうちの中間グループの電流密度よりも低い場合、有利である。第1の電解槽または複数の電解槽のうちの前グループの電流密度が低いと、金属ストリップの表面上に直接、好ましくは8%超、具体的には8%~15%、より好ましくは10重量%超の比較的高い酸化クロム含量を有する高密度の、したがって耐食性のあるクロム/酸化クロムコーティングが生成される。
【0029】
電解槽に電流密度(j1、j2、j3)を生成するには、好ましくは、2つのアノードが互いに対向して配置されたアノード対を各電解槽に配設し、金属ストリップを、アノード対の対向するアノード間を、通過させる。これにより、電流密度を金属ストリップの周囲に均一に分布させることが可能になる。ここで、各電解槽のアノード対に互いに独立して電流を流し、それによって電解槽に異なる電流密度(j1、j2、j3)を設定できるようにすることが好ましい。
【0030】
金属ストリップのストリップ移動速度は、各電解槽において、金属ストリップが電解液と電解的に効果的に接触している電解時間(tE)が1.0秒未満、具体的には0.5~1.0秒、好ましくは0.6秒~0.9秒となるような、ストリップ移動速度であることが好ましい。
【0031】
被覆された金属ストリップが十分に高い耐食性を有することを保証するために、本発明による方法によって金属ストリップ上に析出されたコーティングは、少なくとも40mg/m2、具体的には70mg/m2~180mg/m2のクロムのコーティング重量を有することが好ましい。コーティングの総重量に対するコーティングに含まれる酸化クロムの重量割合は、少なくとも5%、具体的には10%超、例えば11%~16%である。ここで、コーティングは、酸化クロムとして結合したクロムの析出重量が1m2あたり少なくとも3mgのCr、具体的には3~15mg/m2、好ましくは1m2あたり少なくとも7mgのCrである、酸化クロム含量を有する。
【0032】
本発明による方法では、単一の電解液が使用される、すなわち、全ての電解槽が同じ電解液で満たされることが好ましい。
【0033】
電解液の好ましい組成は、三価クロム化合物として塩基性硫酸Cr(III)(Cr2(SO4)3)を含む。この好ましい組成物および他の組成物の両方において、電解液中の三価クロム化合物の濃度は少なくとも10g/L、好ましくは15g/L超、具体的には20g/L以上である。電解液の他の有用な成分には、錯化剤、特にアルカリ金属カルボン酸塩、好ましくはギ酸の塩、特にギ酸カリウムまたはギ酸ナトリウムが含まれ得る。三価クロム化合物の重量割合と、錯化剤、特にギ酸塩の重量割合との比は、好ましくは1:1.1~1:1.4、より好ましくは1:1.2~1:1.3、具体的には1:1.25である。導電性を高めるために、電解液はアルカリ金属硫酸塩、好ましくは硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムを含んでもよい。電解液は、好ましくはハロゲン化物を含まず、特に塩化物イオンおよび臭化物イオンを含まず、緩衝剤を含まず、特にホウ酸緩衝液を含まない。
【0034】
電解液のpH値(温度20℃で測定)は、好ましくは2.0~3.0、より好ましくは2.5~2.9であり、具体的には2.7である。電解液のpH値を調整するために硫酸などの酸を溶液に追加することができる。
【0035】
腐食に対する追加の保護、および包装材料内の酸含有内容物に対するバリアを提供するために、コーティングの電析に続いて、有機コーティング、具体的には塗料または熱可塑性材料、例えば、PET、PE、PP若しくはそれらの混合物のポリマーフィルムをクロム金属および酸化クロムのコーティング表面に施すことができる。
【0036】
関連する金属ストリップは、(最初は被覆されていない)鋼ストリップ(ティンフリー鋼ストリップ)または錫で被覆された鋼ストリップ(ブリキストリップ)であり得る。
【0037】
本発明は、添付の図面を参照し、以下の実施例に基づいてより詳細に説明されるが、これらの実施例は、添付の特許請求の範囲によって定義される保護範囲を決して限定することなく、単に例として本発明を説明することを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】ストリップ移動方向vに連続して配置されている3つの電解槽を備えた第1の実施形態において本発明により開示される方法を実施するためのストリップコーティングシステムの概略図である。
【
図2】ストリップ移動方向vに連続して配置されている8つの電解槽を備えた第2の実施形態において本発明により開示される方法を実施するためのストリップコーティングシステムの概略図である。
【
図3】第1の実施形態において本発明により開示された方法によって被覆された金属ストリップの断面図である。
【
図4】鋼ストリップ上に電析され、クロム金属、酸化クロムおよび炭化クロムを含む層のGDOESスペクトルを示す図であり、酸化クロムは層の表面に位置する。
【
図5】電解液の温度と電解時間の関数として、金属ストリップに析出した、クロム金属および酸化クロムを含むコーティングの析出重量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明によって開示される、第1の実施形態における方法を実施するためのストリップコーティングシステムの概略図を示す。ストリップコーティングシステムは、3つの電解槽1a、1b、1cを含み、これらは並んでまたは順次配置され、各々電解液Eで満たされている。最初の被覆されていない金属ストリップM、特に鋼ストリップが、電解槽1a~1cを連続して通過する。この目的のために、金属ストリップMは、コンベヤ装置(図示せず)によって、ストリップ移動方向vに、電解槽1a~1cを通って所定のストリップ移動速度で引っ張られる。電解槽1a~1cの上方には、電流ロールSが配設され、電流ロールSにより金属ストリップMはカソードとして接続されている。また、各電解槽にはガイドローラUが配設され、ガイドローラUの周りで金属ストリップMが案内され、それによって金属ストリップMは電解槽に出入りする。
【0040】
各電解槽1a~1c内には、少なくとも1つのアノード対APが電解液Eの液面より下に配設されている。図示の実施例では、ストリップ移動方向に連続して配置された2つのアノード対APが各電解槽1a~1cに配設されている。金属ストリップMは、アノード対APの対向するアノードの間を通過する。したがって、
図1の実施例では、各電解槽1a、1b、1cに2つのアノード対APが配置され、金属ストリップMはこれらのアノード対APを連続して通過するようになっている。ストリップ移動方向vで見て、最後の電解槽1cの最後の下流アノード対APcは、他のアノード対APの長さよりも短い長さを有する。結果として、この最後のアノード対APcでは、同じ量の電流を印加することで、より高い電流密度を生成することができる。
【0041】
関係する金属ストリップMは、冷間圧延された、最初は被覆されていない鋼ストリップ(ティンフリー鋼ストリップ)または錫で被覆された鋼ストリップ(ブリキストリップ)であり得る。電解プロセスの準備では、金属ストリップMを最初に脱脂し、すすぎ、酸洗いし、再度すすぎ、この前処理された形で金属ストリップMは次に電解槽1a~1cを連続して通過し、金属ストリップMは、電流ロールSを介して電流を供給することによりカソードとして接続されている。金属ストリップMが電解槽1a~1cを通過するストリップ移動速度は、少なくとも100m/分であり、最高900m/分であり得る。
【0042】
ストリップ移動方向vに連続して配置された電解槽1a~1cは、各々同じ電解液Eで満たされている。電解液Eは、三価クロム化合物、好ましくは塩基性硫酸Cr(III)[Cr2(SO4)3]を含む。三価クロム化合物に加えて、電解液は、好ましくは、少なくとも1つの錯化剤、例えばギ酸の塩、特にギ酸カリウムまたはギ酸ナトリウムも含む。三価クロム化合物の重量割合と、錯化剤、具体的にはギ酸塩の重量割合との比は、好ましくは1:1.1~1:1.4であり、最も好ましくは1:1.25である。導電性を高めるために、電解液Eは、硫酸カリウムまたは硫酸ナトリウムなどのアルカリ金属硫酸塩を含んでもよい。電解液E中の三価クロム化合物の濃度は少なくとも10g/L、最も好ましくは20g/L以上である。電解液のpH値は、硫酸などの酸を添加することにより、2.0~3.0の好ましい値、具体的にはpH=2.7に調整される。
【0043】
電解液Eの温度は、全ての電解槽1a~1cで同じであり得、本発明によれば、最高40℃である。しかしながら、本発明による方法の好ましい実施例では、電解槽1a~1c内の電解液の温度を異なる温度に設定することが可能である。例えば、最後の電解槽1cの電解液の温度は最高40℃であり得、それよりも上流に配設された電解槽1aおよび1bの電解液の温度はより高くてもよい。本発明による方法のこの実施形態では、最後の電解槽1cの電解液の温度は、好ましくは25℃~37℃であり、具体的には35℃である。この例では、最初の2つの電解槽1a、1bの電解液の温度は、好ましくは50℃~75℃であり、具体的には55℃である。電解槽1c内の電解液Eの温度がより低いため、電解槽1cでは酸化クロム含量の高いクロム/酸化クロム層の析出が促進される。
【0044】
これは、電解液の温度(T;℃)および電解時間(t
E;秒)の関数として金属ストリップに析出したコーティングBの酸化クロム部分のコーティング重量(CrOx;mg/m
2)を示す
図5によって明確に示されている。この図は、所定の電解時間(例えば、t
E=0.5秒)内で、高温よりも40℃未満の温度Tのほうが、より高いコーティング重量の酸化クロム(CrOx)が析出することを示している。約35℃の電解液の温度Tで酸化クロムのコーティング重量のピークが観察される。これは、本発明による40℃まで、好ましくは20℃~40℃の温度範囲で、酸化クロム部分が多いコーティングの析出が促進されることを示している。
【0045】
図5は、酸化クロムのコーティング重量が電解時間t
Eと共に増加することも示している。好ましくは100m/分を超えるできるだけ速いストリップ移動速度で、ストリップコーティング法で実施できる可能な限り効率的なストリップコーティング法を創出するために、各電解槽1a~1cにおける2秒未満の短い電解時間が好ましい。また、
図5は、1秒未満の短い電解時間でも、電解液の温度が40℃以下、具体的には20℃~38℃の本発明による範囲内であれば、20mg/m
2を超える十分に高いコーティング重量の酸化クロムを得ることができることを示す。
【0046】
カソードとして接続され電解槽1a~1cを通過する金属ストリップMは、ストリップ移動速度に応じて、電解時間tEの間、電解液Eと電解的に効果的に接触する。ストリップ移動速度100~700m/分では、各電解槽1a、1b、1cにおける電解時間は0.5~2.0秒であることが好ましい。本発明によれば、高いコーティング効率および高いスループットを確保するために、ストリップ移動速度は十分に速く設定され、各電解槽1a、1b、1cにおける電解時間tEは2秒未満、具体的には0.6秒~1.8秒である。したがって、金属ストリップMが全ての電解槽1a~1cにわたって電解液Eと電解的に効果的に接触している総電解時間は1.8~5.4秒である。
【0047】
電解槽1a~1cに配設されたアノード対APには、各電解槽1a、1b、1cに同じ電流密度が存在するように直流電流を供給することができる。しかし、各々異なる組成を有する複数の層B1、B2、B3を含むコーティングBを金属ストリップM上に析出させるために、電解槽1a、1b、1cにおいて異なる電流密度を使用することも可能である。例えば、ストリップ移動方向vで見て上流の第1の電解槽1aでは低い電流密度j1を設定することができ、下流に続く第2の電解槽1bでは中程度の電流密度j2を設定することができ、下流の最後の電解槽1cでは高い電流密度j3を設定することができ、j1<j2<j3であり、低い電流密度j1はj1>20A/dm2である。
【0048】
電解槽1a~1cに設定された電流密度により、クロム金属・酸化クロムを含む層が金属ストリップMの少なくとも片面に電析され、それにより層B1、B2、B3が電解槽1a、1b、1cでそれぞれ生成される。個々の電解槽1a、1b、1c内の電流密度j1、j2、j3が異なるため、各電解析出層B1、B2、B3の組成(酸化クロムの割合)が異なる。
【0049】
図3は、本発明による方法を用いて片面に電解コーティングされた金属ストリップMの断面図を模式的に示す。金属ストリップMの片面に、個々の層B1、B2、B3で構成されるコーティングBが析出する。個々の層B1、B2、B3の各々は、電解槽1a、1b、1cの1つで表面に析出する。
【0050】
個々の層B1、B2、B3で構成されるコーティングBは、その主要成分として金属クロム(クロム金属)と酸化クロム(CrOx)とを含み、ここで、個々の層B1、B2、B3の各々は、電解槽1a、1b、1cの電流密度j
1、j
2、j
3がそれぞれ異なるため、クロム金属と酸化クロムのそれぞれの重量割合に関して異なる組成を有する。個々の層の異なる組成に寄与する可能性のある別の要因は、(
図5を参照して上記で説明したように)40℃未満の温度で酸化クロムの形成が促進されるため、個々の電解槽1a、1b、1cの電解液の温度が異なることである。可能な限り最高の酸化物含量の層B3を得るには、高い電流密度j
3(上流の電解槽の電流密度j
1、j
2よりも高い)と同時に、最後の電解槽1cで電解液温度を40℃未満に設定することが好ましい。
【0051】
レジームIIで生じる低い電流密度がコーティング内により高い酸化物レベルをもたらすため、第1の電解槽1aの電流密度j1が低いために、第1の電解槽1aで析出する層B1は、第2の(中間)電解槽1bで析出する層B2と比較して酸化物含量が多い。最後の電解槽1cでは、レジームIII内に収まる電流密度j3が設定され、好ましくは40重量%を超え、より好ましくは50重量%を超える酸化クロムの割合がコーティング内に生成される。
【0052】
一例として、表1は、異なるストリップ移動速度での個々の電解槽1a、1b、1cにおける適切な電流密度j1、j2、j3を示す。表1に示すように、第1の電解槽1aの電流密度j1は、第2の電解槽1bの電流密度j2よりもわずかに低く、下限値j0=20A/dm2よりも高い。最初の2つの電解槽1a、1bの電流密度j1、j2はレジームIIの電流密度であり、電流密度と電析クロムの量(または析出コーティング内のクロムのコーティング重量)との間には線形関係がある。第1の電解槽1aで使用される電流密度j1は、レジームI(クロムの析出が生じていない)とレジームIIとを分ける第1の電流密度閾値に近いことが好ましい。これらの低い電流密度j1では、クロム金属/酸化クロムコーティング(層B1)は、レジームII内に存在する電流密度で且つ電流密度j1よりも高い電流密度で生成されるコーティングよりも、クロム酸化物含量が多い状態で金属ストリップMの表面に析出される。したがって、第1の電解槽1aで析出する層B1は、第2の電解槽1bで析出する層B2よりも酸化クロム含量が多い。
【0053】
最後の電解槽1cでは、電流密度j3は、レジームIIとレジームIIIとを分ける第2の電流密度閾値を超えるように設定されることが好ましい。したがって、最後の電解槽1cの電流密度j3はレジームIIIに存在し、レジームIIIにおいてはクロム金属/酸化クロムコーティングの部分分解が起こり、レジームIIの電流密度で析出するよりもかなり高い割合の酸化クロムが析出する。したがって、最後の電解槽1cで析出するコーティングB3は、コーティングB1およびB2の酸化クロム含量よりも多い酸化クロム含量を有する。
【0054】
コーティングの電析に続いて、コーティングBで被覆された金属ストリップMをすすぎ、乾燥させ、油(例えばDOSオイル)を塗る。次に、コーティングBで電解コーティングされた金属ストリップM上のコーティングBの表面に有機カバーコートを設けることができる。有機カバーコートは、例えば有機塗料、またはPET、PP、PE若しくはそれらの混合物などの熱可塑性ポリマーのポリマーフィルムであってもよい。有機カバーコートは、コイルコーティング法またはパネルコーティング法によって設けることができ、パネルコーティング法では、被覆された金属ストリップを最初にパネルに分割し、続いて有機塗料で塗装するかポリマーフィルムでコーティングする。
【0055】
図2は、ストリップ移動方向vに連続して配置された8つの電解槽1a~1hを備えたストリップコーティングシステムの第2の実施形態を示す。電解槽1a~1hは、3つのグループ、すなわち最初の2つの電解槽1a、1bを含む前グループ、ストリップ移動方向に続く電解槽1c~1fを含む中間グループ、および最後の2つの電解槽1g、1hを含む後グループで構成されている。本発明によれば、電解槽1gおよび1hの後グループにおいて、電解液の温度は40℃以下である。最初の2つの電解槽1a、1bを含む前グループと、電解槽1c~1fを含む中間グループの温度は、後グループの温度と同じ温度、または後グループの温度と少なくともほぼ同じ温度、または後グループの温度よりも高い温度であり得る。析出効率を高めるために、前グループの電解槽1a、1bおよび中間グループの電解槽1c~1fにおける温度は50℃よりも高い温度、具体的には約55℃の温度が好ましい。しかし、実際的な理由から、電解槽1a~1hの全てを同じ温度に設定し、電解プロセス中に電解液を冷却することによりこの温度を維持することが有用であり得る。
【0056】
電解槽のグループは異なる電流密度j1、j2、j3を有することが好ましく、前グループの電解槽1a、1bは低い電流密度j1を有し、中間グループの電解槽1c~1fは中程度の電流密度j2を有し、後グループの電解槽1g、1hは高い電流密度j3を有し、j1<j2<j3であり、低い電流密度j1はj1>20A/dm2である。
【0057】
表1と同様に、表2には、異なるストリップ移動速度vでの個々の電解槽1a~1hの例示的で適切な電流密度j1、j2、j3が列挙されており、前グループの電解槽1a、1bは低い電流密度j1に設定され、中間グループの電解槽1c~1fは中程度の電流密度j2に設定され、最後のグループの電解槽1g、1hは高い電流密度j3に設定され、j1<j2<j3である。
【0058】
電解槽1a、1bの前グループ、電解槽1c~1fの第2のグループ、および電解槽1g、1hの後グループでは、クロムおよび酸化クロムを含む第1の層B1、第2の層B2、および第3の層B3は、金属ストリップM上にそれぞれ電析する。
図1の実施例のように、異なる電流密度j
1、j
2、j
3により、また適用可能な場合には連続して配置された電解槽のグループ内の異なる温度により、層B1、B2、B3は異なる組成を有し、層B1は第2の層B2よりも高い割合の酸化クロムを含み、第3の層B3は2つの層B1、B2よりも高い酸化クロム部分を含む。
【0059】
したがって、
図2のストリップコーティングシステムを備えた本発明の方法によって金属ストリップMの表面に析出したコーティングBは、
図3に示すものと、ほぼ同じ組成および構造を有する。
【0060】
図2の実施例では、金属ストリップMが電解液Eと電解的に効果的に接触している総電解時間は、全ての電解槽1a~1hにわたり好ましくは16秒未満、具体的には4~16秒である。
【0061】
図2のストリップコーティングシステムは電解槽の数が多いため、必然的に総電解時間が長くなり、その時間の間、カソードとして接続されている金属ストリップは電解液Eと電解的に効果的に接触し、コーティングBをより高いコーティング重量で製造することが可能である。
【0062】
十分に高い耐食性を達成するために、コーティングBに析出したクロムの総重量は、好ましくは少なくとも40mg/m2、より好ましくは70mg/m2~180mg/m2である。析出したクロムの総重量に含まれる酸化クロムの割合は、コーティングBの総重量全体にわたる平均で、少なくとも5%であり、好ましくは10%~15%である。全体として、コーティングBは、酸化クロムとして結合したクロムの析出重量が、1m2あたり少なくとも3mgのクロム、具体的には3~15mg/m2である、酸化クロム含量を有することが好ましい。酸化クロムとして結合したクロムの析出重量は、コーティングBの総表面積全体で平均して、1m2あたり少なくとも7mgのクロムである。コーティングB表面への有機塗料または熱可塑性ポリマー材料の良好な接着は、最大約15mg/m2の酸化クロム重量で達成できる。酸化クロムのコーティング重量が大きくなると、塗料やポリマーフィルムなどの有機トップコートの接着性が低下する。したがって、コーティングB中の酸化クロムのコーティング重量の好ましい範囲は5~15mg/m2である。
【実施例】
【0063】
本発明を実施する方法を説明するために、鋼板をクロム/酸化クロムコーティングで被覆した実験室試験について以下に詳細に説明する。
【0064】
表3に、Cr(III)塩(Cr2(SO4)3)を含み、金属ストリップの電解コーティング用の実験装置でのコーティング試験に使用された電解液の組成の例を示す。使用した電解液のパラメータを表4に示す。電解液の成分として使用されるCr(III)塩には、可能な限り有機残留物が含まれていないほうがよい。Cr(III)塩は、Cr(VI)塩の還元により工業規模で製造できる。使用される還元剤は、クロムよりも反応性の高い金属(変形1)、または代替として有機成分(変形2)であることが好ましい。電解液のpH値は、硫酸を添加し、続いて脱イオン水で満たすことにより調整した。
【0065】
コーティング試験で使用された基板は、クロム/酸化クロム層で被覆された鋼板であった。この材料を、55℃でクロム(III)電解質で電解コーティングし、下の表5は、鋼板に存在するクロム金属と酸化クロムのコーティングを示す。表5は、大部分のクロム金属と少量の酸化クロムが生成されたことを示す。
【0066】
クロム金属の測定は、欧州規格EN10202(Cr金属、測光(欧州規格)ステップ2:120mL NaCO3および15mA/plane;電位ステップによって可視可能な十分な溶解、10mLの6%H2O2による酸化、測光@370nm)に従って行った。酸化クロムの測定も、欧州規格EN10202(酸化クロム、測光:(欧州規格)ステップ1:40mL NaOH(330g/L)、90℃で10分間の反応、10mLの6%H2O2による酸化、測光@370nm)に従って行った。
【0067】
実験室でのコーティングの準備では、基板を脱脂し(カソードとして接続した2.5A/dm2、30秒、水酸化ナトリウム溶液中70℃)、その後脱イオン水ですすいだ。金属上にコーティングが存在するため、酸洗工程は実施しなかった。
【0068】
コーティングのパラメータおよび結果:
表6および表7は、コーティング試験のパラメータと結果をまとめたものである。鋼ストリップの工業規模のコーティングを、ストリップ移動速度100m/分でシミュレートした。この速度では、60A/dm2の電流密度が試験を通して使用され且つ安定して維持され、この電流密度はレジームIIIの電流密度であり(表2を参照)、主に(少なくとも低温では)酸化クロムを発生させる。実験室試験では、電解液の温度とレジームIIIでの滞留時間(電解時間)の両方が変化した。全ての試験で、基板の下面が被覆された。表6で、レジームIIIでの電解時間は「時間(秒)セグメント1」として示されている。
【0069】
電解液の温度が22℃~約37℃の範囲では、コーティングの酸化クロム含量が増加し、約40℃以上の温度では、コーティング中の酸化クロムの割合が少ないことを観察することができる。したがって、本発明によれば、酸化クロムを高い割合で含むクロム含有コーティングを得るために、最高40℃の電解質温度が使用される。したがって、表面上に可能な限り最高の酸化クロム含量を有するコーティングを製造するために、本発明によるコーティングは、最後の電解槽または複数の電解槽のうちの後グループで40°未満の電解質温度で行われる。
【0070】
実験室試験では、それぞれのレジーム(セグメント)での電解時間は2秒未満であった。実験室試験では、電解時間の増加に伴い、酸化物のコーティング重量の増加が観察された。しかし、工業規模で実施されるプロセスにおける析出効率に関しては、そのようなプロセスで使用されるストリップ移動速度は100m/分を超えるため、2秒未満の短い電解時間が好ましい。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】