(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】ウェーブスプリング
(51)【国際特許分類】
F16F 1/32 20060101AFI20220112BHJP
F16D 25/0638 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
F16F1/32
F16D25/0638 100
(21)【出願番号】P 2019504663
(86)(22)【出願日】2018-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2018008957
(87)【国際公開番号】W WO2018164220
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2017044390
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】酒井 秀彰
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-170653(JP,A)
【文献】特開2007-253207(JP,A)
【文献】特開平11-230197(JP,A)
【文献】特開2014-206194(JP,A)
【文献】特開2012-167629(JP,A)
【文献】特開2010-048277(JP,A)
【文献】特開2006-300095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/00- 6/00
F16D 25/0638
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山部および谷部が周方向に交互に連ねられて形成された環状体を備え、
前記環状体に切欠部が形成され、
前記切欠部の周方向の端部が、前記山部および前記谷部の頂部を回避した部分に位置し、
前記環状体の外周面から径方向外側に突出する回転規制部を有
し、
前記切欠部は、前記頂部から周方向の両側に向けて延び、
前記切欠部の周方向の端部は、この頂部と、この頂部に対して周方向で隣り合う他の頂部と、の間に位置している、ウェーブスプリング。
【請求項2】
前記切欠部は、前記環状体に周方向に間隔を空けて複数形成され、
周方向で隣り合う前記切欠部同士の間の周方向における間隔は、前記切欠部の周方向における幅よりも大きい、請求項1に記載のウェーブスプリング。
【請求項3】
前記切欠部は、前記環状体の外周面から径方向内側に向けて窪んでいる、請求項1または2に記載のウェーブスプリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーブスプリングに関する。
本願は、2017年3月8日に日本に出願された特願2017-044390号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
一般にウェーブスプリングは、山部および谷部が周方向に交互に連ねられて形成された環状体を備えている。例えば下記特許文献1では、山部および谷部の高さ若しくは個数、又はウェーブスプリングの材質若しくは板厚を調整することで、このウェーブスプリングの荷重を調整することが示されている。また、環状体の内径若しくは外径を変更することによって、ウェーブスプリングの荷重を調整することも一般的に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のウェーブスプリングは一般的に、2つの部品の間に挟まれるように配設されて、これらの部品に環状体の山部若しくは谷部が接触することで荷重を発生させる。このため、山部および谷部の高さや、ウェーブスプリングの板厚を変更すると、相手部品に挟まれた状態におけるストローク量も変化してしまう。
また、この種のウェーブスプリングは、軸に嵌め込まれたり、筒の内側に収容されたりして用いられることも多い。このため、環状体の内径若しくは外径は、相手部品との位置関係によって制限され変更することができない場合がある。
以上のことから、ウェーブスプリングは相手部品との関係で設計上の制約を受けやすいため、所望の荷重特性を得ることが困難な場合がある。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、ウェーブスプリングの設計の自由度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るウェーブスプリングは、山部および谷部が周方向に交互に連ねられて形成された環状体を備え、前記環状体に切欠部が形成されている。
【0007】
上記態様に係るウェーブスプリングでは、環状体に切欠部が形成されている。この切欠部についての、配設される位置、数量、若しくは大きさ等の形態を変更することで、ウェーブスプリングの荷重特性を容易に調整することができる。そして、このように切欠部の形態を変更することは、ウェーブスプリングの外径若しくは内径、又は山部若しくは谷部の高さなどを変更する場合と比較して、相手部品による制約を受けにくい。従って、切欠部の形態を変更して荷重特性を調整することで、ウェーブスプリングの設計の自由度を向上させることができる。
【0008】
また、上記態様に係るウェーブスプリングにおいて、前記切欠部の周方向の端部が、前記山部および前記谷部の頂部を回避した部分に位置していてもよい。
【0009】
この場合、ウェーブスプリングにおいて応力が集中しやすい山部および谷部の頂部を回避した部分に、切欠部の周方向の端部が位置しているため、この端部に高い応力が作用してウェーブスプリングの強度が低下するのを抑えることができる。
また、上記態様に係るウェーブスプリングにおいて、前記切欠部は、前記環状体に周方向に間隔を空けて複数形成され、周方向で隣り合う前記切欠部同士の間の周方向における間隔は、前記切欠部の周方向における幅よりも大きくてもよい。
【0010】
また、上記態様に係るウェーブスプリングにおいて、前記切欠部は、前記環状体の外周面から径方向内側に向けて窪んでいてもよい。
【0011】
ウェーブスプリングでは、その外周側よりも、その内周側の方が比較的高い応力が作用する。このため、外周面に切欠部を設けることで、例えば内周面に切欠部を設けた場合と比較して、この切欠部の周辺に高い応力が作用してウェーブスプリングの強度が低下するのを抑えることができる。
【0012】
また、上記態様に係るウェーブスプリングは、前記環状体の外周面から径方向外側に突出する回転規制部を有していてもよい。
【0013】
この場合、回転規制部によって、ウェーブスプリングの回転を規制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記態様によれば、ウェーブスプリングの設計の自由度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る一実施形態として示したウェーブスプリングの概略図であって、(a)は平面図であり、(b)は(a)のA-A線矢視断面図である。
【
図2】
図1に示すウェーブスプリングが装着されたクラッチ装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るウェーブスプリングの一実施形態を、
図1を参照しながら説明する。
本実施形態のウェーブスプリング1は、
図1(a)に示すように、中心軸線Oを中心とする環状体13を備えている。ここで、本実施形態では、中心軸線Oに沿う方向を軸方向という。また、軸方向から見た平面視において、中心軸線Oに直交する方向を径方向といい、中心軸線O回りに周回する方向を周方向という。
ウェーブスプリング1は 、弾性変形可能な金属等の板材から、例えばプレス加工等を用いて形成されているが、ウェーブスプリング1の材質および加工方法は適宜変更してよい。
【0017】
図1(a)、(b)に示すように、環状体13は、軸方向に沿う一方側に向けて突となる山部11、および他方側に向けて突となる谷部12が、周方向に交互に連ねられて形成されている。すなわち、山部11は、ウェーブスプリング1を軸方向に挟む2つの領域の一方に向けて突となり、谷部12は、前記2つの領域の他方に向けて突となっている。ウェーブスプリング1は、環状体13の外周面(外周縁)から、径方向外側に向けて突出する回転規制部14を有している。回転規制部14は、環状体13の外周面に、周方向に等間隔を空けて複数配設されている。各回転規制部14は、平面視において矩形状を呈し、その4つの辺のうち、2辺が略径方向に延び、残りの2辺が略周方向に延びている。回転規制部14および環状体13はそれぞれ、同等の厚さの板体となっている。環状体13および回転規制部14は一体に形成され、軸方向を向くそれぞれの表裏面は段差なく連なっている。回転規制部14の周方向の大きさ(幅)は、径方向の全域にわたって同等になっている。
図1(a)は、ウェーブスプリング1を軸方向から見た平面図であり、
図1(b)は、ウェーブスプリング1を径方向から見た側面図である。
【0018】
なお、環状体13および回転規制部14をそれぞれ別部材として、両者を接合する等してもよい。回転規制部14は、板体に限らず例えばブロック体などに適宜変更してもよい。環状体13および回転規制部14それぞれの表裏面における境界部に段差を設けてもよい。回転規制部14の周方向の大きさを、例えば、径方向の外側に向かうに従い漸次、小さくしてもよいし、大きくしてもよい。
【0019】
次に、ウェーブスプリング1が装着されたクラッチ装置30について説明する。なお、不図示の構成は従来と同様であるため省略している。
【0020】
クラッチ装置30は、
図2に示されるように、ケース体(クラッチドラム)31と、筒状のピストン34と、環状のリターンスプリング35と、摩擦機構36と、ウェーブスプリング1と、クラッチハブ37と、スナップリング38と、を備えている。
これらのうち、ケース体31以外の部材1、34~38は、ケース体31の内側に収容されている。ピストン34、リターンスプリング35、摩擦機構36、クラッチハブ37、およびスナップリング38は、ウェーブスプリング1と同軸に配設されている。
【0021】
ケース体31は、例えばアルミニウム合金などで形成されている。
ピストン34は、横向きの有底筒状に形成されている。ピストン34の底壁部34aに、中心軸線Oと同軸に位置する貫通孔34bが形成され、この貫通孔34bの内側に、ケース体31に形成された支持突部31bが配設されている。ピストン34の周壁部34cにおける開放端部34dが、摩擦機構36に対して軸方向に対向している。ピストン34の周壁部34cの内側に、リターンスプリング35、およびスナップリング38が、軸方向に沿って底壁部34a側から開放端部34d側に向けてこの順に配設されている。
スナップリング38のうち、内周部は支持突部31bに固定され、外周部は、リターンスプリング35の内周部を軸方向に沿う開放端部34d側から支持している。
【0022】
リターンスプリング35は、支持突部31bに外嵌されている。リターンスプリング35の外周部は、ピストン34の内面に当接している。
ウェーブスプリング1は、ピストン34の周壁部34cにおける開放端部34dと摩擦機構36との間の軸方向の隙間に配設されている。ウェーブスプリング1の回転規制部14は、ケース体31の内面に形成された窪み部31aに係合される。これにより、ウェーブスプリング1のケース体31に対する中心軸線O回りの回転が規制される。
以上の構成において、ピストン34は、軸方向に沿う開放端部34d側(
図2の紙面右側)に移動したときに、リターンスプリング35およびウェーブスプリング1を押圧し弾性変形させる。このうち、リターンスプリング35によって、ピストン34が軸方向に復元移動させられ、ウェーブスプリング1によって、ピストン34が摩擦機構36に当接する際に生ずる衝撃力を緩和する。
【0023】
摩擦機構36は、ピストン34の開放端部34dに、軸方向に沿うピストン34の外側から対向して配設されている。摩擦機構36は、環状の従動プレート40と、従動プレート40より内径および外径が小さい環状の摩擦プレート39と、が軸方向に交互に配設されて構成されている。従動プレート40および摩擦プレート39は、中心軸線Oと同軸に配設されている。従動プレート40の外周面には、径方向の外側に向けて突出する外規制突片40aが形成されている。摩擦プレート39の内周面には、径方向の内側に向けて突出する内規制突片39aが形成されている。
【0024】
従動プレート40の外規制突片40aは、ケース体31の窪み部31aに係合されている。
窪み部31aは、軸方向に延びるとともに、径方向の内側に向けて開口した溝状に形成されている。窪み部31aは、軸方向から見て矩形状を呈し、その4つの辺のうちの2辺は略径方向に延びている。窪み部31aを画成する3つの内面31c、31dは、軸方向に真っ直ぐ延びている。窪み部31aを画成する内面31c、31dのうち、周方向で互いに対向する一対の対向面31cが、回転規制部14の周端面(周方向の一対の端面)に、周方向で対向している。内面31dは径方向内方に対向している。
【0025】
クラッチハブ37は、摩擦機構36における径方向の内側に配設されている。クラッチハブ37の外周面には、摩擦プレート39の内規制突片39aが係合する係合凹部37aが形成されている。
【0026】
ところで、上記したように、ウェーブスプリング1は、ケース体31内に収容され、ピストン34と摩擦機構36との間の隙間に配設されている。このため、ウェーブスプリング1の形状若しくは大きさを変更する場合には、ウェーブスプリング1の周辺の部材に干渉したり、周辺の部材との隙間が過剰に大きくなったりしないように配慮する必要がある。従って、ウェーブスプリング1の荷重特性を調整するため、例えば環状体13の内径若しくは外径を変更しようとしても、相手部品との関係でこのような変更ができない場合がある。また、例えば山部11および谷部12の高さや、ウェーブスプリング1の板厚を変更すると、ピストン34と摩擦機構36との間に挟まれた状態におけるウェーブスプリング1のストローク量も変化してしまう。このため、山部11および谷部12の高さや、ウェーブスプリング1の板厚の変更もできない場合がある。このように、ウェーブスプリング1は相手部品との関係で設計上の制約を受けやすく、所望の荷重特性を得ることが困難な場合がある。
【0027】
そこで本実施形態のウェーブスプリング1では、
図1(a)に示すように、環状体13に、切欠部13aが形成されている。切欠部13aは、環状体13の外周面から径方向内側に向けて窪んでいる。切欠部13aの径方向の深さは、環状体13の径方向における幅の半分以下となっている。切欠部13aの周方向における幅は、回転規制部14の周方向における幅よりも大きい。切欠部13aは、環状体13の外周面に、周方向に等間隔を空けて複数形成されている。周方向で隣り合う切欠部13a同士の間の周方向における間隔は、切欠部13aの周方向における幅よりも大きい。各切欠部13aは、周方向において、隣り合う回転規制部14同士の間に位置している。図示の例では、各切欠部13aは、環状体13の山部11における頂部から、周方向の両側に向けて延びている。すなわち、各切欠部13aの周方向における端部の間に、環状体13の山部11における頂部が位置している。ここで、各切欠部13aの周方向における端部は、山部11の頂部と谷部12の頂部との間に位置している。これにより、各切欠部13aの周方向の端部は、環状体13のうち、山部11および谷部12の頂部を回避した部分に位置している。また、切欠部13aの周方向における中央部は、環状体13の山部11の頂部と周方向に同等の位置に配置されている。切欠部13aを含めた環状体13の形状は、平面視において、中心軸線Oを中心として点対称となっている。
【0028】
本実施形態のウェーブスプリング1においては、切欠部13aについて、配設される位置、数量、若しくは大きさ等の形態を変更可能である。このため、ウェーブスプリング1の荷重特性を容易に調整することができる。そして、このように切欠部13aの形態を変更することは、ウェーブスプリング1の外径若しくは内径、又は山部11若しくは谷部12の高さなどを変更する場合と比較して、相手部品による制約を受けにくい。従って、切欠部13aの形態を変更して荷重特性を調整することで、ウェーブスプリング1の設計の自由度を向上させることができる。
【0029】
また、ウェーブスプリング1が弾性変形すると、山部11および谷部12の頂部に応力が集中しやすい。そこで、本実施形態では、切欠部13aの周方向の端部を、山部11および谷部12の頂部を回避した部分に位置させている。これにより、切欠部13aの周方向の端部に高い応力が作用して、ウェーブスプリング1の強度が低下するのを抑えることができる。一例では、切欠部13aの周方向の端部は、平面視において山部11および谷部12の頂部から、中心軸線O周りの角度がθ以上離れた位置(
図1(a)の斜線部Sの範囲外)にあればよい。なお、上記角度θは、ウェーブスプリング1が有する山部11および谷部12の数をNとすると、θ=N/2により定義される。
図1(a)の例では山部11および谷部12の数N=4であるため、θ=2°となる。
【0030】
さらに、ウェーブスプリング1が弾性変形すると、その外周側よりも、内周側に比較的高い応力が作用する。そこで、本実施形態では、環状体13の外周面から径方向内側に窪むように切欠部13aを設けている。これにより、例えば環状体13の内周面に切欠部13aを設けた場合と比較して、この切欠部13aの周辺に高い応力が作用してウェーブスプリング1の強度が低下するのを抑えることができる。
【0031】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0032】
例えば前記実施形態では、環状体13の外周側に回転規制部14が設けられていたが、これに限られない。例えば、環状体13の内周面から径方向内側に向けて突出する回転規制部によって、ウェーブスプリング1の回転を規制してもよい。
また、切欠部13aは、環状体13の内周側に配設されていてもよい。この場合、切欠部13aは、環状体13の内周面から径方向外側に向けて窪んでいてもよい。
また、回転規制部14は、環状体13の外周面若しくは内周面に、周方向に不均一な間隔を空けて複数配設されていてもよい。
【0033】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 ウェーブスプリング
11 山部
12 谷部
13 環状体
13a 切欠部
14 回転規制部
O 中心軸線