(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】増悪予兆装置、酸素濃縮装置および増悪予兆システム
(51)【国際特許分類】
A61M 16/10 20060101AFI20220112BHJP
A61M 16/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A61M16/10 B
A61M16/00 305B
(21)【出願番号】P 2019518735
(86)(22)【出願日】2018-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2018018130
(87)【国際公開番号】W WO2018212067
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2019-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2017099274
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】松本 貞佳
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-034341(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0350427(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/10
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の呼吸データを連続的に検知する呼吸検知手段と、
前記検知された患者の連続する呼吸データから、睡眠中
に計測したすべての1分間の呼吸回数のうち、呼吸
回数が一定時間低
くかつ安定している状態にあ
る呼吸データである安定呼吸データを算出する算出手段と、
ある一定期間に算出された前記安定呼吸データに応じて、前記患者における急性増悪の発生を予測する予測手段と、を備えた増悪予測装置。
【請求項2】
前記安定呼吸データは、呼吸
回数が一定時間低
くかつ安定している状態にあ
る(a)患者の呼吸数の下位値、(b)患者の呼気と吸気との時間比率、(c)患者の呼気時間、の内の少なくともいずれかである、請求項1に記載の増悪予測装置。
【請求項3】
前記安定呼吸データは、呼吸
回数が一定時間低
くかつ安定している状態にあ
る(a)現在の患者の呼吸圧力パターンと、予め定められた平常時呼吸圧力パターンとの間の相関係数、(b)現在の患者の呼吸圧力パターンと、予め定められた急性増悪時呼吸圧力パターンとの間の相関係数、の内の少なくとも一方である、請求項1に記載の増悪予測装置。
【請求項4】
空気中から酸素を濃縮して酸素富化気体を生成する生成手段と、
生成された酸素を患者へ供給する酸素供給通路と、
前記酸素供給通路に設けられた患者の呼吸データを連続的に検知する呼吸検知手段と、
前記検知された患者の連続する呼吸データから、睡眠中
に計測したすべての1分間の呼吸回数のうち、呼吸
回数が一定時間低
くかつ安定している状態にあ
る呼吸データである安定呼吸データを算出する算出手段と、
ある一定期間に算出された前記安定呼吸データに応じて、前記患者における急性増悪の発生を予測する予測手段と、を備えた酸素濃縮装置。
【請求項5】
患者の呼吸データを連続的に検知する呼吸検知手段と、前記検知された患者のすべての呼吸データを外部へ送信する送信手段と、を有する患者側端末と、
前記送信された患者の呼吸データを受信して、前記受信した患者の連続する呼吸データから、睡眠中
に計測したすべての1分間の呼吸回数のうち、呼吸
回数が一定時間低
くかつ安定している状態の呼吸データである安定呼吸データを算出する算出手段と、ある一定期
間に算出された前記安定呼吸データに応じて、前記患者における急性増悪の発生を予測する予測手段と、を備えた外部端末と、を備えた増悪予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増悪予兆装置、酸素濃縮装置および増悪予兆システムに関し、特に在宅酸素療法を受ける呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の急性増悪を事前に予測し迅速な対応を可能にし、通常外来時に於ける医療者による診断や治療方針の決定・変更に役立つ情報提供が可能である構成に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の酸素を分離濃縮して酸素富化気体を得るための呼吸用気体供給装置(以下、酸素濃縮装置ともいう)が開発され、呼吸器疾患患者を中心に低酸素血症を呈する各種疾患に対して酸素濃縮装置を用いた酸素療法を処方することが次第に普及するようになってきた。
【0003】
斯かる酸素療法は患者が医療機関に入院しつつ実施される場合もあるが、患者の基礎疾患(呼吸器疾患、心疾患など低酸素血症を呈する各種疾患)が慢性症状を呈し、長期に渡ってこの酸素療法を実行して症状の平静化、安定化を図る必要がある場合には、患者の自宅に上記の酸素濃縮装置を設置し、この酸素濃縮装置が供給する酸素富化された気体をカニューラと呼ぶ管部材を用いて患者の鼻腔付近まで導いて、患者が吸引を行う治療方法も行われている。この種の治療方法を特に、在宅酸素療法あるいはHOT(Home Oxygen Therapy)とも称する。
【0004】
上記の在宅酸素療法は1985年に保険が適用されて以降、主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核後遺症を対象として処方が行なわれている。その患者数の概要はわが国においては約26万人であり、それに対して在宅酸素療法を行っている患者数は約16万人に上る(2016年時点)。
【0005】
このようにHOT導入により呼吸器疾患患者を中心に在宅療養が可能となる一方、HOTを処方される患者(以下、HOT患者と表記する)数の増加と共に医療上の管理が重要な課題になってきたが、現状ではHOT患者の在宅中の医療情報は殆ど把握されていない。従来より、外来診療において月1,2回の動脈血液ガスや経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定が実施されているが、それのみでは患者の診断及び治療効果を決定するのに十分な医学的情報が得られなかった。
【0006】
しかしながら、近年、呼吸数を計測できるデバイスやシステムが開発され、呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の増悪予兆のための研究がなされている。非特許文献1によれば、COPD患者89名に対し3ヶ月間、(1)8:00~16:00、(2)16:00~24:00、(3)24:00~8:00の時間帯の平均呼吸数を観察すると、COPD増悪による入院に至った患者30名は、いずれも5日前から平均呼吸数が増加する傾向を示した。また、特許文献1や特許文献2に示されている様に、平均呼吸数或いは呼吸数中央値でのモニタリングに於いて、COPD増悪予兆ができるシステムが考案されている。
【0007】
高崎らは非特許文献2において、一方向送受信システムとテレビ電話を具備する双方向送受信システムを用いた重症慢性閉塞性肺疾患患者を対象とした遠隔医療の有効性を検討している。この検討結果において、急性増悪をきたし入院となった患者の各種生体情報パラメータを在宅療法日誌から読み取った結果、(1)動脈血酸素飽和度(SaO2)は入院10日前から有意な低下を示したこと、(2)心拍数の増加、呼吸数の増加、体温の増加、体重の変動、はそれぞれ入院約3週間前から有意な変化を示したことが明らかにされている。
【0008】
更に、小川らは非特許文献3において、慢性呼吸不全患者に対して呼吸生理学的な検査を実施することにより呼吸筋疲労から人工呼吸器による換気補助への移行を予知することが出来るかどうか等を検討している。この検討結果において、肺活量に対する1回換気量の割合(VT/VC)と、1分間の呼吸数はそれぞれ呼吸筋疲労の予測値となることが明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-137251号公報
【文献】特許第5916618号公報
【文献】特開2002-85566号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】CHEST Original Research 「Monitoring Breathing Rate at Home Allows Early Identification of COPD Exacerbations」
【文献】木田厚瑞 研究班:公害健康被害補償予防協会委託業務報告書1999年度「高齢・重症の患者の日常生活、保険指導のあり方に関する研究」報告書(II-1-(2)地域の医師会及び開業医との連携による、高齢、重症慢性閉塞性肺疾患の包括ケアに関する研究、P31~P43)
【文献】小川一彦、古賀俊彦:慢性呼吸不全患者における呼吸筋力の評価(日本呼吸管理学会誌 第4巻第3号、1995年3月、P164~P166)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の各公知文献が明らかにしている如く、患者の呼吸数等の呼吸機能に関わる生体情報の推移を観察すれば呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の急性増悪を前もって予測することが可能であるものの、在宅患者を対象にこの予測を実施する場合、患者の呼吸を計測するための機器を新たに患者宅に設置し、患者自身や患者家族がこの計測器を操作し、計測されたデータを伝送するための通信手段を設置するか、あるいは医療検査業者等の担当者が患者宅を訪問してデータを回収し、更に専門知識を有する解析担当者が伝送あるいは回収されたデータを解析して急性増悪発生可能性を判定する作業を連日継続しなければならず大きな経済的負担となる恐れがあった。更に、患者や患者家族が行わなければならない計測器操作やデータ送信操作のわずらわしさも無視できないことから、現実には実施が困難であった。また、計測デバイスを常に身に着けておくことは患者のQOLという観点から実現するのは困難である。
【0012】
また、今まで報告されている平均呼吸数や中央値という指標は、覚醒時においては労作による影響、また睡眠時においては睡眠ステージの変化による呼吸数への影響(呼吸数の揺らぎ)が考慮されておらず、増悪予兆の指標としては早期発見や精度という観点では不十分である可能性もある。
【0013】
更に従来の酸素濃縮装置の構成に言及すれば、例えば特許文献1に示すように患者の吸気に同調して酸素濃縮気体を供給するために圧力検出部により具現化した呼吸検知手段を有する酸素濃縮装置は既に提案されているものの、もとより生体情報の継続的な観察や急性増悪発生の予測を可能とする構成ではなく、医療機関の医療従事者などが増悪予兆を迅速に知り得ることはできなかった。
【0014】
本発明は上記の状況に鑑みなされたものであって、経済的な負担や操作の煩わしさを招くことなく、在宅で療養する呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の急性増悪を一層早期に且つ高い精度で事前に予測可能とし迅速な対応が可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明によれば、患者の呼吸データを連続的に検知する呼吸検知手段と、前記検知された患者の連続する呼吸データから、呼吸数が一定時間低くかつ安定している状態の呼吸データである安定呼吸データを算出する算出手段と、ある一定期間に算出された前記安定呼吸データに応じて、前記患者における急性増悪の発生を予測する予測手段と、を備えた増悪予測装置が提供される。
【0016】
また本発明の別の態様によれば、空気中から酸素を濃縮して酸素富化気体を生成する生成手段と、生成された酸素を患者へ供給する酸素供給通路と、前記酸素供給通路に設けられた患者の呼吸データを連続的に検知する呼吸検知手段と、前記検知された患者の連続す
る呼吸データから、呼吸数が一定時間低くかつ安定している状態の呼吸データである安定呼吸データを算出する算出手段と、ある一定期間に算出された前記安定呼吸データに応じて、前記患者における急性増悪の発生を予測する予測手段と、を備えた酸素濃縮装置が提供される。
【0017】
また本発明の別の態様によれば、患者の呼吸データを連続的に検知する呼吸検知手段と、前記検知された患者のすべての呼吸データを外部へ送信する送信手段と、を有する患者側端末と、前記送信された患者の呼吸データを受信して、前記受信した患者の連続する呼吸データから、呼吸数が一定時間低くかつ安定している状態の呼吸データである安定呼吸データを算出する算出手段と、ある一定期間に算出された前記安定呼吸データに応じて、前記患者における急性増悪の発生を予測する予測手段と、を備えた外部端末と、を備えた増悪予測システムが提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、経済的な負担や操作のわずらわしさを招くことなく、在宅で療養する呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の急性増悪を一層早期に且つ高い精度で事前に予測可能とし迅速な対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る増悪予測装置を備えた酸素濃縮装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る増悪予測システムの構成図である。
【
図5】呼吸数とSpO2を同時に計測した場合の波形を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る好ましい実施例である酸素濃縮装置を、各図面を参照して説明する。
【0021】
〔実施の形態に係る酸素濃縮装置の基本構成〕
図1は本発明の実施の形態に係る好ましい実施例である増悪予測装置を備えた酸素濃縮装置の構成図である。本実施例の酸素濃縮装置1は、主に在宅酸素療法に用いるために空気中の窒素を分離し高濃度酸素(酸素富化気体)を供給する装置であり、例えば、酸素より窒素を選択的に吸着し得る吸着剤としてモレキュラーシーブゼオライト5A、13X、或いはリチウム系ゼオライトなどを吸着筒(吸着ユニット5内)に充填し、吸着筒に空気圧縮装置(コンプレッサ4)によって作られた加圧空気を供給することで、酸素富化気体を取り出す圧力変動吸着型の酸素濃縮装置である。なお、
図1中、各ブロック間を接続する矢印は空気の流れを表し、実線は各ブロック間の電気的接続を表す。
【0022】
コンプレッサ4は、コンプレッサ4を駆動させるためのコンプレッサ駆動モーターを具備しており、コンプレッサ駆動モーターは後述する流量制御部14a によって設定された回転数を実現するように電源制御部3が生成出力する駆動電流に従いコンプレッサ4を回転駆動させる。コンプレッサ4が有する圧縮機構部は、コンプレッサ駆動モーターによって得た回転力によって空気を圧縮するものであり、その圧縮方式によって様々な種類が存在し、往復運動式のピストンタイプや回転式のスクロールタイプなどが一般的によく用いられているが、大気中の空気を圧縮できるものであればどのタイプを用いても構わない。
【0023】
電源制御部3は上述のようにコンプレッサ4を駆動する駆動電流出力のほかに、装置1に含まれる各構成へ電力を供給する機能を有する。
【0024】
尚、本実施例の酸素濃縮装置1を
図1に示すように可搬型として構成した場合には、従来の典型的な固定設置型酸素濃縮装置では家庭用AC電源のみからの電力供給方法であったのを改め、内蔵バッテリー、家庭用AC電源、及び自動車の車載DC電源、のスリーウェイ電源方式とすることも考えられる。そのために、装置外部に面する筐体外周部には電源入力端2を設け、ここを通じてAC電源ユニット15または、自動車車内のシガーライター接点に接続する車載電源ユニット16から直流にて電力の供給を受けることが出来る。
【0025】
更に、酸素濃縮装置1の内部には取り外しが可能な態様にて繰り返し充電可能なバッテリー13が設けられており、電源入力端2を通じた電力供給が出来ない場合に、バッテリー13からの放電により電源制御部3へ電力を供給する。
【0026】
尚、バッテリー13への充電は、通常、バッテリー13を酸素濃縮装置1へ装着したまま、AC電源ユニット15または車載電源ユニット16から供給された電力が電源入力端2及び電源制御部3を経由して供給されることにより実行される。
【0027】
圧力変動型吸着型酸素濃縮装置である本実施例の酸素濃縮装置1は、
図1の構成図に示すように、酸素よりも窒素を選択的に吸着する吸着剤を充填した吸着筒(吸着ユニット5に含まれる)に、コンプレッサ4によって大気中から圧縮された加圧空気を供給し、吸着筒内部を加圧状態にして窒素を吸着させ、吸着されなかった酸素を取り出す。吸着筒より取り出された酸素を主とする酸素富化気体は、製品タンク6に貯留した後、センサ部7、呼吸検知部8を経て製品供給端9から装置1の外部へ供給され、酸素富化気体を酸素濃縮装置1から患者の鼻腔付近まで輸送するチューブ部材である鼻カニューラ1cを介して使用者(酸素療法患者)に供給される。
【0028】
ここで吸着剤は、1回の工程で吸着できる窒素の量が吸着剤の量や種類によって決まっているため、吸着剤に吸着される窒素の量が飽和する前に流路切換弁を切り換えて吸着筒を大気開放して吸着筒内部を減圧し、窒素を脱着させて吸着剤を再生させる。また、流路切換弁は、予め設定された時間によって切り換えられるようにメイン制御部14によって制御される。なお、一工程中の吸脱着量を増やすべく、真空ポンプを用いて、脱着工程における吸着筒内部の圧力を真空にしても良い。
【0029】
尚、本実施例の酸素濃縮装置1は、従来の酸素濃縮装置と同様に患者宅に設置固定されるよう構成しても良いが、より小型軽量として可搬型として実現するために、例えば、特許第3269626号公報に記載された構成を用いて、複数の吸着筒に対する加圧及び脱着のための気体流路を順次連続的に形成する回転バルブ手段を備えた吸着ユニット5とすることは望ましい態様である。
【0030】
流量設定部12は患者等使用者が操作して供給すべき酸素富化気体の流量を設定操作するためのもので、例えばダイアルスイッチを回転操作して、1リットル/分、2リットル/分、3リットル/分等の内から所望の選択値を選択操作すると、この選択値を検知した流量制御部14aがコンプレッサ4や吸着ユニット5の動作速度などを制御して、設定された所望の流量を実現するものである。すなわち、流量制御部14aは、電源制御部3を制御することでコンプレッサ4の駆動を制御するとともに、上述のように吸着ユニット5を制御して、患者へ供給される酸素富化気体の流量を制御する。本実施形態においては、流量制御部14aはCPU14に記録されている。
【0031】
センサ部7は、気体経路中の酸素富化気体の実流量を測定する。センサ部7は例えば特開2002-214012号公報等に記載されているように超音波センサからなり、鼻カニューラ1c内を流れる酸素富化気体の流れる方向と同方向及び逆方向の2つの音波、例えば超音波の伝播速度を測定し、2つの測定値の相違する量から、鼻カニューラ1c内を流れる酸素富化気体の実際の流量を測定することが出来る。測定された実流量に基づいてフィードバック制御を行うことで、流量制御部14aにおけるコンプレッサ4や吸着ユニット5への動作指示を修正する構成とすると好適である。センサ部7は酸素富化気体の実際の流量を測定することが可能であればよく、他の構成や方式を用いても良い。
【0032】
尚、本発明の実施に際して、酸素濃縮装置1の基本的な酸素濃縮機能に係る構成はここに説明を行う態様に限定されず、既に公知の構成、あるいは今後提案される様々な構成とすることが出来る。
【0033】
〔実施の形態に係る増悪予測装置〕
本実施形態に係る患者の増悪予測装置は、酸素濃縮装置1に設けられた呼吸検知部8と呼吸情報算出部14bを備える。本実施形態においては、呼吸情報算出部14bはCPU14に記録されている。流量制御部14aと呼吸情報算出部14bを別のCPUとしてもよい。
【0034】
酸素濃縮器1の酸素流路のセンサ部7の下流側には、呼吸検知部8が設けられている。本実施の形態に係る呼吸検知部8は、特開平7-96035号に記載されているように、呼気吸気に基づく圧力変動を検知する圧力変動検知手段と該検知手段の検知情報に基づいて呼吸数を求めるための情報処理手段を有した呼吸数測定装置である。該情報処理手段は、該検知手段によって検出された呼吸波形からなる検知情報を数値化する手段と、数値化された呼吸波形からドリフト成分(センサ信号のドリフト成分であり、使用環境の温度湿度や長期間使用による信号(パルス数)のずれにより発生するノイズ成分をいう。)を除いて基準化呼吸波形を求める基準化手段とを含む情報前処理手段と、該情報前処理手段により得られた整形呼吸波形の最大値または最小値を求め、さらに該最大値又は最小値に所定の検出レベル率を乗じて検出値を求めて、該整形呼吸波形が該検出値になった時点を呼吸数としてカウントする呼吸数カウント手段を具備したものである。呼吸検知部8により算出された呼吸数に関する情報は、呼吸情報算出部14bに送られる。
【0035】
なお、呼吸検知部8の情報処理手段は上述のように呼吸情報算出部14bと別に設けられていてもよいが、呼吸情報算出部14bを情報処理手段として用いることもできる。この場合は呼吸検知部8の圧力変動検知手段によって取得された圧力変動情報が呼吸情報算出部14bに送られ、これに基づいて呼吸情報算出部14bにおいて呼吸数が算出される。呼吸検知部8において患者の呼吸を検知するための具体的な構成は、圧力変動検知手段によるもののほか、例えば、特開2002-272845号公報に記載された構成の如く、光マイクを用いて音声信号(患者の呼吸音)を光信号に変換したのち電圧信号に変換し、更に周波数に変換することにより周波数領域での解析を行い、周波数帯域の違いにより呼吸を検知する構成や、特開昭62-270170号公報に記載があるように鼻カニューラに焦電素子からなるセンサを設ける方法や、特公平5-71894号公報に記載があるようにダイヤフラム式圧力計で、導電性層を積層した高分子フィルムを用いて静電容量を検出する圧力検出器を用いる構成や、特開平2-88078号公報に記載があるように圧力検出器を酸素濃縮装置本体の酸素供給口近傍に設け、圧力検出器の信号に基づいて酸素富化気体の供給を制御する方法や、あるいはその他の方法により実現することが出来る。
【0036】
呼吸情報算出部14bは、上述のように取得した患者の呼吸数に基づいて、下記の指標を算出する。これらの指標を算出する意義および算出方法については後述する。算出された情報は、表示部10へ送られる。
(1)患者の呼吸数(下位値)
(2)患者の呼気時間
(3)患者の吸気時間
(4)患者の呼気時間と吸気時間との比率
(5)患者の急性増悪発生の予測結果
ここで、
図4の通り、(1)患者の呼吸数(下位値)とは、睡眠中に計測したすべての
1分間の呼吸回
数の内、呼吸回数が所定値(例えば下位20%)の範囲内で一定時間(例えば20分以上)、且つある呼吸数の範囲内(例えば±3BPM)で値が推移している安定した状態を示している部分のすべての数値を平均した値とする。また、(2)患者の呼気時間、(3)患者の吸気時間、(4)患者の呼気時間と吸気時間との比率は、いずれも呼吸数が一定時間低下して且つ安定している状態にある指標である。
【0037】
なお、所定値の範囲、一定時間、呼吸数の範囲については、全ての患者に共通な値が予め一律に設定されるか、医療従事者が医学的所見に従って値を設定することが可能である。
【0038】
本実施形態においては、酸素濃縮装置1にボタンや切替スイッチなどのインターフェイスを備えた構成とし、就寝前後のタイミングで患者が前記インターフェイスを操作することで、睡眠状態にあることを判定したときのデータを用いて上記各情報を算出する。
【0039】
表示部10は、液晶パネルのような表示部材とその周辺インターフェイス部を含んだ表示手段であって、呼吸情報算出部14bから送信された情報を酸素濃縮装置1の外部に対して表示する。表示部10が表示を行うデータの内容は、運転オン状態の表示、警報やアラームの表示、設定された流量の表示などのような従来の酸素濃縮装置でも表示が行われていた内容の他に、呼吸検知部8が検知した患者の呼吸数に基づいた上記(1)から(5)の指標の内の単数又は複数の情報を含む。
【0040】
〔実施の形態に係る増悪予測システム〕
上述の実施形態は、患者の呼吸数の算出および呼吸数に基づく指標の算出を酸素濃縮装置1の内部で実行するものであるが、これらは酸素濃縮装置1の外部に設置された演算装置を用いて実行することもできる。
図2は、本発明の別の実施の形態に係る増悪予測システムの構成図である。
【0041】
図1に示すように、酸素濃縮装置1は情報出力端11を備える。情報出力端11は酸素濃縮装置1内で算出されたデータを、無線あるいは有線伝送路を介して酸素濃縮装置1外の装置例えばパーソナルコンピュータへ送出するための出力端子あるいは送信インターフェイスであって、IrDA、RS-232C、USB、無線通信その他公知の通信規格に準じた構成であっても良い。
【0042】
情報出力端11から酸素濃縮装置1の外部へ出力されるデータは、例えば呼吸検知部8の圧力変動検知手段によって取得された圧力変動情報または呼吸情報算出部14bによって算出された上記(1)から(5)の指標の内の単数又は複数の情報である。
【0043】
情報出力端11から出力されたデータは遠隔の管理センタにある受信サーバ6bへ送信され、管理センタに配置された演算装置6aが、受信したデータを用いて患者の呼吸データに基づいた情報(呼吸数および/または上記(1)から(5)の指標)を算出するとともに、これらの情報を用いた患者の急性増悪の予測を実行する。在宅に設置された酸素濃縮装置から伝送路を介して患者の生体情報など種々の情報を遠隔の管理センタにある受信サーバ6bへ送信するための構成は、例えば本出願人が先に提案を行った特開平3-143451号公報、特開平5-309135号公報、特開平6-54910号公報、特開平6-233744号公報、及び特開平7-95963号公報などに詳細な記載があり、これらの構成を適宜援用して実現可能である。
【0044】
本実施形態においては、上記の患者の呼吸データに基づいた情報及び予測結果を管理センタから酸素濃縮装置1へ送信し、表示部10に表示させる、あるいは情報出力端11から出力する機能を有すると好適である。更に上記の患者の呼吸データに基づいた情報や予測結果は、算出後に演算装置6a内の図示しない記憶手段へ記憶しておき、必要な際に出力して表示などを行うことも可能である。このように構成することにより酸素濃縮装置1の構成がより簡潔となってコストが低減できる。さらに、管理センタの担当者や医療機関の医療従事者などが増悪予測を迅速に知り得て、患者宅に対して連絡や訪問を行うなど迅速な対応が可能となるメリットがある。また、通常外来の際の医療者による診断や治療方針の決定や変更にも役立つ。
【0045】
〔急性増悪の発生予測方法〕
本願発明者らが見出した呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の急性増悪の発生予測を行う原理を説明する。
【0046】
既に述べたように、近年、呼吸数を計測できるデバイスやシステムが開発され、呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の増悪予兆のための研究がなされている。しかし、従来より知られている呼吸器疾患の急性増悪の予兆を把握するために用いられてきた呼吸データは、計測した全てのデータの平均値であったり、中央値または瞬時値であった。これは、以後記載する覚醒時及び睡眠時に於ける「組織からの酸素需要」や「心臓や肺の酸素供給能」がいずれも変化して増加、或いは低下した数値を瞬時的にモニタしている状態、若しくはこれらの増加、低下した数値を含み算出された平均値や中央値をモニタしている状態のいずれかであることが考えられる。
【0047】
本願発明者らは長年に亘って在宅医療、特に在宅酸素療法の普及に従事した結果、酸素濃縮器を用いて治療を受ける患者や治療に関わる医療従事者から多様且つ有益な情報、教示を得る機会があった。得られた様々な情報を参酌した結果、本願発明者らは下記する(1)~(2)の様な、急性増悪を一層早期に且つ高い精度で事前に予測可能となりうる知見 を得た。
【0048】
(1)呼気吸気比率の模式図である
図3に示すように、まず健常者の呼気吸気比率においては、同図(A)のように吸気、すなわち空気を吸っている時間と、呼気、すなわち空気を吐いている時間との比率は概ね1:2である。一方、COPD患者は呼気時間が延びる傾向にある。同図(B)には呼気時間が延びて1:3である場合を示してある。これは、COPD疾患患者は多くの場合、気道が閉塞して気流が制限された状態にあるため、吸気時は胸郭が広がるため空気は入りやすいが、一方で空気を吐き出すときは狭くなっている気道から吐き出す必要があるため、すべて吐き出すまでに時間がかかることによる。一方で、増悪期にあるCOPD患者は呼気時間が逆に短くなる傾向にある。同図(C)には呼気時間が1:1まで縮んだ状態を示してある。このように増悪期に呼気時間が短くなるのは、増悪期には感染などのために気道が一層狭くなって換気量が減るので、単位時間当りの換気量を少しでも向上させようとして呼吸数、すなわち単位時間当りの吸気回数を増加させようとするからであると推察される。
【0049】
(2)呼吸とは組織や臓器の酸素需要を満たすために行われ、随意的呼吸と不随意的呼吸があると考えられている。随意的呼吸とは、多くの場合覚醒時に於いて大脳皮質中心前回の運動野からの随意的な支配とある範囲内であれば呼吸の速さと大きさを自由にコントロールすることができる意識的な呼吸のことを言う。一方、随意的な支配がなくなるとき、たとえば睡眠時に於いては、呼吸筋のリズミカルな収縮は持続しているが無意識で呼吸を行っている。これが不随意的呼吸であり、延髄の呼吸中枢を中心とした脳幹で支配され、大抵の場合で呼吸回数が安定していない状態(呼吸回数がゆらぎがある状態)と言われている(
図4)。 人間の呼吸回数は様々な要因で規定されるが、その一つとして「組織の酸素需要」と「心臓や肺の酸素供給能」の二つの要素のバランスで説明することが出来る。組織の酸素需要と各個人の心肺の酸素供給能から呼吸回数は決定されると考えられるが、呼吸数が低下して一定時間安定している状態というのは、「組織の酸素需要」は一定であり、組織の酸素需要が少ない状態であると予想される。もし呼吸数が低下した状態で「組織の酸素需要」が高くなった場合は、心臓や肺への代償機構がすぐに働き呼吸数を増加させるため、一定時間安定している状態は現れない。一方、夜間睡眠時における呼吸回数の内、増加している時間帯(上位値)に於いては、「組織の酸素需要」と「心臓や肺の酸素供給能」の双方が変動している状態により呼吸回数が増加していると推察する。すなわち「組織の酸素需要」が低く、安定していると考えられる睡眠時の呼吸数が低下した状態で且つ安定している状態に於いては、「心臓や肺の酸素供給能」の低下は呼吸数増加という形でより顕著にCOPDなどの呼吸器疾患をはじめとする諸疾患の増悪予兆として捉えることができると推察する。以上より、COPDなどの増悪予兆をより一層早期に且つ高い精度で事前に予測可能するためのモニタリング指標は、呼吸数が一定時間低下して安定している状態と推察できる。一定期間(日若しくは月単位)で、夜間睡眠時に於ける呼吸数が一定時間低下して且つ安定している状態(下位値)の数字をモニタリングし観察していくことで、在宅で療養する呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の急性増悪を従来の方法より一層早期に且つ高い精度で事前に予測可能となると考えられる。一方で、覚醒時に於いては、会話や食事、労作、部屋移動、トイレ、風呂といった活動をしており、睡眠時に比べ「組織の酸素需要」が頻繁に且つ多くあり、「心臓や肺の酸素供給能」の変化と複雑に混在していることのより分離することは困難である。覚醒時に於いて、「組織の酸素需要」が一定の状態で「心臓や肺の酸素供給能」のみが変化している時間帯を把握するためには、傾きや動き、振動や衝撃といった様々な情報が得られる加速度センサを備えた装置により体動している時間帯を把握することや患者へ与える負荷を一定にすることで、「心臓や肺の酸素供給能」のみ変化を知ることが出来る。
【0050】
上記の知見(1)、(2)に基づいて、本願発明者らは、単位時間当りの呼吸数の増加(上位値、平均値、下位値)、呼吸数が低下し安定している状態に於ける吸気時間と呼気時間との比率の呼気時間が短くなる方向への変化、および呼気時間の短縮、の少なくともいずれかの発生を検出すれば、患者が現在増悪期にあることを知ることが出来、すなわち患者の急性増悪を前もって予測することが出来ることを見出し、本発明に至った。また患者の呼吸数が低下し安定している状態に於ける呼吸圧力パターン 、特に増悪期の呼吸圧力パターンは患者ごとの固有な特徴を有する圧力パターンを呈する。従って、ある患者の増悪期の呼吸圧力パターンを予め知った上で、現在の呼吸圧力パターンのモニタリングを継続すれば、呼吸圧力パターンが増悪期の圧力パターンに近づいたことを検出して患者が現在増悪期にあることを知ることが出来、上記と同様に患者の急性増悪を前もって予測することが出来る。
【0051】
〔増悪予測装置または増悪予測システムの動作〕
次に本実施例の増悪予測装置または増悪予測システムの動作を、患者の急性増悪の発生予測を行う動作を中心として説明する。必要に応じて装置1の接続図である
図2、呼気吸気比率の模式図である
図3、呼吸数のゆらぎの模式図である
図4を参照する。本実施例の増悪予測装置の呼吸情報算出部14bまたは増悪予測システムの演算装置6aは、上記した本願発明者らの知見に基づいて患者の急性増悪を前もって予測するよう構成されており、このためにまず、患者が酸素濃縮装置1を使用している状態において呼吸検知部8が検知した患者の呼吸のデータに基づいた下記の情報の内の少なくともいずれかの情報を取得する。 そして、これらの日々取得した呼吸データを経時的にモニタリングし複数日(例えば、数日~数ヶ月)に渡るトレンドを記憶する。
(1)患者の呼吸数(下位値)
(2)患者の呼気時間
(3)患者の吸気時間
(4)患者の呼気時間と吸気時間との比率
【0052】
そして呼吸情報算出部14bまたは演算装置6aは、記録したトレンドのある任意の時点での値や傾きと予め定めた閾値との大小関係を比較するなどして、取得した情報の値や傾きが予め定めた範囲内であるか、あるいは範囲外であるかを判定し、範囲内である場合には患者が現在増悪期にあると判定する。上記の予め定めた範囲とは、取得した情報の値がこの範囲外にあればこの患者が増悪期にあると推定されるように上記の閾値によって予め定められた範囲である。
【0053】
上記の閾値は、全ての患者に共通な値が予め一律に設定されるか、医療従事者が医学的所見に従って値を設定するか、あるいは医療従事者の精査のもとで酸素濃縮装置1の呼吸検知部8が取得した患者の呼吸データから呼吸情報算出部14bまたは演算装置6aが自動的に生成 した値を用いても良い。取得した指標が複数である場合には、呼吸情報算出部14bまたは演算装置6aはいずれか単数又は複数の指標の値の閾値に対する判断を用いる、あるいはそれらの判断と他の種々のパラメータの評価結果とを組み合わせる、 例えば、経皮動脈血酸素飽和度(SpO2)を複数日に渡り上記呼吸データと同タイミングで計測し、呼吸データとの関係性を考慮するなどして、患者が現在増悪期にあるか否かを判定する。
【0054】
判定の結果、急性増悪が予測される場合には、呼吸情報算出部14bまたは演算装置6aは表示部10へ判定結果を送信する。急性増悪が予測されるとの判定を受け取った場合には、表示部10は「呼吸数が増えています。医療機関へのご連絡をお勧めします。」などの警告メッセージを表示する。また、同様の内容を含んだ信号が情報出力端11より出力されて外部表示手段での表示や外部のプリンタによる表示が実行されるようにしてもよい。
【0055】
あるいはまた急性増悪が予測される場合には、それを知らせる信号が情報出力端11を経由して、管理センタの端末や医療機関の端末や医療従事者又は患者家族の携帯電話機などに送達されるよう構成してもよい。
【0056】
上記した所定閾値と測定データとの大小比較による判定とは別個に、あるいは平行して相関係数を算出して判定を行うよう構成しても良い。
【0057】
相関係数を用いた判定とは、予めこの患者の平常時の呼吸圧力パターン、及び/又は増悪事の呼吸圧力パターンを取得しておいて、現在の患者の呼吸圧力パターンをこれら取得済みのパターンとの間で公知技術であるパターンマッチングの手法に基づき比較することにより、現在の患者の呼吸圧力パターンが平常時の呼吸圧力パターン又は増悪時の呼吸圧力パターンに近いのか、あるいはこれら2つのパターンの内のどちらにより近いのかを知る方法である。
【0058】
〔増悪予測装置または増悪予測システムを備えた酸素濃縮装置の使用方法〕
通院先での呼吸データの表示や出力の手順を、本実施例の酸素濃縮装置1の一般的な使用方法を含めて、
図2を参照しつつ以下に説明することとする。
【0059】
まず、患者1bが患者宅1aに居て酸素療法を受ける場合には、従来と同様に家庭用AC電源から電力供給を受けて本実施例の酸素濃縮装置1から酸素富化気体の吸入を行うことが出来る。また患者宅内でバッテリー13駆動で吸入を行えば、ACコンセントの制約なく患者1bは装置1を帯同して患者宅内を自由に移動しながら吸入が継続できるので、従来の固定設置型装置のように何メートルにも及ぶ長大な延長チューブ付きカニューラを酸素濃縮装置に接続し、この延長チューブ付きカニューラ経由で吸入を行う不便さが解消される。
【0060】
そして本実施例に特徴的な点として、演算装置6aは、酸素富化気体を供給している際に、常時、あるいは適当なタイミングで上記した患者の呼吸データ情報を演算し、CPU14内部のメモリ部(図示しない)に記録保持する。
【0061】
上記の情報が記録保持される媒体はCPU14内部のメモリではなく、独立して設けられたメモリ手段であってもよいし、あるいは脱着可能なメモリ手段として、医療機関2aへの通院時には酸素濃縮装置1全体ではなく、これら脱着可能なメモリ手段のみを取り出して医療機関2aへ持ち込むようにしても良い。あるいは通院先の医療機関2aへ酸素濃縮装置1を患者が持ち込むものの、上記の呼吸パターン情報を医療機関の情報機器に渡す方法として酸素濃縮装置1からこれら脱着可能なメモリ手段を取り外した後、医療機関の情報機器に取り付けて受け渡す、所謂、媒体渡しを行う様にしても良い。
【0062】
これらの呼吸パターン情報は、患者宅1a内ばかりではなく、患者の外出先3aにおいても生成がなされるようにしても勿論よい。
【0063】
そして定期的、例えば月に一度の通院日に、患者1bはこの酸素濃縮装置1を帯同して医療機関を訪れ、医療機関2aの医師2bは上記のようなあるいはその他の構成の呼吸データを、装置1の表示部10に表示させて確認する、あるいは伝送ケーブル2eその他の伝送路を介して情報出力端11と接続したパーソナルコンピュータで表示確認することにより、医療従事者による患者の容態の把握を助けて、在宅酸素療法の治療効果を大きく増進させることが出来る。
【0064】
呼吸データを図示しない印刷手段を用いて紙媒体に印刷するように構成することも勿論可能である。
【0065】
また、通院時に医療機関で出力された呼吸パターン情報は、セキュリティ管理の下でインターネット通信網5aを経由して、患者に対してこの医療機関2aと提携して診療を行う提携医療機関4aの提携医療機関端末4cへ送信されて、医療情報の共有化を行うこととしてもよい。
【0066】
〔呼吸数情報と他の情報を組み合わせた増悪予測〕
呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者は、夜間睡眠時のSpO2が低下するディサチュレーションが認められるとの報告がある。睡眠中のディサチュレーションは覚醒反応による睡眠の分断や肺高血圧、予後不良に結びつくことが知られている。これまで、呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の医療情報は殆ど把握されていなかった。従来より、外来診療において月1,2回の動脈血液ガスや経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定が実施されているが、それのみでは患者の診断及び治療効果を決定するのに十分な医学的情報が得られなかった。
【0067】
呼吸器疾患患者を中心としたHOT患者の夜間睡眠時の経皮動脈血酸素飽和度(SpO2)の低下は、呼吸情報と組み合わせることで、病態生理を把握および予測可能とし、その病態に沿った治療を適切なタイミングで実施するための情報提供を可能とする。
【0068】
図5に示すように、呼吸数は、睡眠時呼吸が安定していない状態(ゆらぎがある)があると言われており、夜間の呼吸(回数)の揺らぎとSpO2の変化を同時に観察することにより、生理学的に問題のない呼吸変化なのか、酸素需要に心肺機能が対応できていない状況なのかの判別が可能になる。例えば、夜間睡眠時のSpO2値が低下した際、呼吸数が低下した状態で一定時間安定している場合は、酸素需要に対して心肺機能が対応できていない状況と判断する。これは、人間の呼吸回数は様々な要因で規定されるが、その一つとして「組織の酸素需要」と「心臓や肺の酸素供給能」の二つの要素のバランスで説明することが出来る。組織の酸素需要と各個人の心肺の酸素供給能から呼吸回数は決定されると考えられるが、SpO2が低下する、すなわち「組織の酸素需要」が高くなった場合は、心臓や肺への代償機構がすぐに働き呼吸数を増加させるため、一定時間安定している状態は現れないと推察する。この場合の呼吸数が一定時間安定している状態というのは「心臓や肺の酸素供給能」が反応せず異常な状態である。上記のようなSpO2)の低下は呼吸情報と組み合わせることで、ディサチュレーションの程度が分類でき、その病態に沿った適切なタイミングの治療を実施するための情報提供が可能となる。呼吸情報としては呼吸数以外にも、I/E比や呼吸の強さ、I/E比と呼吸時間から得られる、吸気・呼気の傾き(の変化)を確認することも可能である。
【0069】
また呼吸情報やSpO2値を組合せてディサチュレーションの程度を算出し、酸素濃縮装置などの治療器へフィードバックすることで治療のためのパラメータ(例:在宅酸素療法に於ける酸素濃縮器の流量、酸素濃度)を制御することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 酸素濃縮装置
3 電源制御部
4 コンプレッサ
5 吸着ユニット
8 呼吸検知部
14 メイン制御部
6a 演算装置