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特許7000458長時間作用性グラチラマー及び脂肪由来幹細胞での多発性硬化症の治療
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】長時間作用性グラチラマー及び脂肪由来幹細胞での多発性硬化症の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/02 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220203BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220203BHJP
   A61K 9/113 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K38/02
A61K35/28
A61P25/00
A61K38/10
A61K38/16
A61K47/34
A61K9/113
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/26
A61K47/38
A61P43/00 121
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019563100
(86)(22)【出願日】2017-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 IL2017050535
(87)【国際公開番号】W WO2018211486
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】519398386
【氏名又は名称】ステム セル メディスン リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】511224254
【氏名又は名称】マピ ファーマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】マロム,エフド
(72)【発明者】
【氏名】ブレイク キメルマン,ナダブ
(72)【発明者】
【氏名】グリンスパン,フリーダ
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-521796(JP,A)
【文献】特表2013-516403(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0065638(US,A1)
【文献】特表2020-519645(JP,A)
【文献】Journal of Translational Medicine,BioMed Central,2009年04月24日,7,29
【文献】Nature Reviews Neurology,Springer Nature,2010年04月20日,6,5,247-255
【文献】Mediators of Inflammation,Hindawi Publishing,2016年09月28日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 35/00
A61P 25/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枢神経系(CNS)に投与されるヒト脂肪由来幹細胞(hADSC)と組み合わせて多発性硬化症の治療に使用するための医薬組成物であって、酢酸グラチラマーを含み、非経口投与用の持続放出性デポー形態であり、
前記hADSCは、3~10の継代数まで継代培養された単離hADSCである、
医薬組成物。
【請求項2】
前記hADSCは、3~5の継代数まで継代培養された単離hADSCである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
hADSCと同じ日に投与するための、またはhADSCとは別々の日に投与するための、請求項1に記載の医薬組成物であって、酢酸グラチラマーを含む前記医薬組成物の投与と前記hADSCの投与の間の期間が1~14日の範囲である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
1~6週ごとに1回投与するための、または4週ごとに1回投与するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
hADSCの前に投与するための、またはhADSCの後に投与するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
筋肉内投与用に製剤化された、筋肉内注射による投与のための、または
皮下移植用に製剤化された、皮下注射による投与のための、
請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
髄腔内投与、脳室内投与又は側脳室内(ICV)投与によって投与されるhADSCと組み合わせて多発性硬化症の治療に使用するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記hADSCが自己である、または前記hADSCが同種異系である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記hADSCが、前記細胞の少なくとも95%がCD44、CD73及びCD90を発現し、前記細胞の少なくとも90%がCD105を発現し、かつ前記細胞の少なくとも95%がCD45、CD19、CD11B及びHLADRを発現しないことによって特徴付けられ、任意選択で、前記hADSCが、前記細胞の0.1~10%がCD34を発現することによってさらに特徴付けられてもよい、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
1回の投与あたり約10~3×10個の細胞という用量で投与されるhADSCと組み合わせて投与するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記酢酸グラチラマーが、約0.14のグルタミン酸、約0.43のアラニン、約0.10のチロシン及び約0.33のリジンのモル比でL-アラニン、L-グルタミン酸、L-リジン、及びL-チロシンの酢酸塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記酢酸グラチラマーが、約15~約100個のアミノ酸を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
酢酸グラチラマーの医薬として許容される生分解性又は非生分解性の担体を含む、請求項1に記載の医薬組成物であって、任意選択で、前記担体は、ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリ(D,L-ラクチド)(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリオルトエステル、ポリアルカン無水物、ゼラチン、コラーゲン、酸化セルロース、及びポリホスファゼンからなる群から選択されてもよい、医薬組成物。
【請求項14】
中油中水型二重乳化プロセスによって調製される微粒子の形態である、請求項1に記載の医薬組成物であって、
任意選択で、前記微粒子は、治療有効量の酢酸グラチラマーを含む内部水相と、生分解性ポリマー及び非生分解性ポリマーから選択される担体を含む水不混和性ポリマー相と、外部水相と、を含んでもよく、
任意選択で、前記水不混和性ポリマー相は、PLA及びPLGAから選択される生分解性ポリマーを含んでもよく、前記外部水相は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロック共重合体及びセルロースエステルから選択される界面活性剤を含んでもよい、
医薬組成物。
【請求項15】
酢酸グラチラマーを約20~500mg含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
進行型の多発性硬化症を患っている対象に投与するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラチラマーの医薬として許容される塩の長時間作用性剤形の投与及び脂肪由来幹細胞の投与を含む、多発性硬化症のための治療レジメンに関する。特に、本発明は、持続放出性酢酸グラチラマーの筋肉内又は皮下投与、及び脂肪由来幹細胞の脳室内又は髄腔内投与を含む併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、典型的には若年成人で生じ、男性よりも女性により見られる中枢神経系(CNS)の慢性炎症性疾患である。MSは、脳及び脊髄中の神経細胞同士が互いに伝達し身体機能を制御する能力に影響を与える。臨床障害は、CNSの軸索の周りの保護鞘であるミエリンの炎症と関連し、それは自己免疫攻撃及び神経変性プロセスによって損傷している。その結果、脳及び脊髄の白質は、局所性病変(プラーク)によって瘢痕化し、神経機能障害をもたらす。MSの症状にはいくつかのパターンがある。ほとんどの患者は、再発寛解(RRMS)過程を初期の段階で経験し、これは予測不可能な再発後の部分的回復又は完全な回復(寛解)期間を特徴とし、ある時点で進行型(PMS)になる。そのような進行型MSは、二次性進行型MS(SPMS)として分類される。一部の患者は症状の発症から進行型の過程を経験し、そのような疾患パターンは一次性進行型MS(PPMS)として分類される。
【0003】
再発寛解型MS患者は、典型的には、急性発作(再発)の間はコルチコステロイドで治療され、新たな再発及び障害の進行を防ぐために、免疫調節薬又は免疫抑制薬で治療される。より重篤な場合には、これらには、インターフェロンβ(アボネックス(Avonex(登録商標))、レビフ(Rebif(登録商標))、ベタセロン(Betaseron(登録商標)))、酢酸グラチラマー(コパキソン(Copaxone(登録商標))、ジメチルフマレート(テクフィデラ(Tecfidera(登録商標))、フィンゴリモド(ジレニア(Gilenya(登録商標))、ナタリズマブ(タイサブリ(Tysabri(登録商標))及び化学療法剤ミトキサントロンが含まれる。進行型MSは、同様の薬を用いて治療される場合もあるが、治療は主に、症状及びリハビリテーションを管理することに焦点が当てられている。最近の調査では、進行型MSは現在利用できる疾患修飾治療薬が不足していることを強調している(Doshi and Chataway,2016,Clinical Medicine,16(6):s53-s59)。オクレリズマブ(オクレブス(OCREVUS(商標))は、2016年に米国食品医薬品局(FDA)によってPPMSのための画期的治療薬指定を許可されたヒト化抗CD20モノクローナル抗体である(Investor Update by Roche,Basel,February 17,2016)。
【0004】
MSのための全ての治療選択肢は、部分的にしか効果的ではない。
【0005】
酢酸グラチラマー:
酢酸グラチラマー(GA)としても知られ、コパキソン(登録商標)という商品名で市販されているコポリマー1は、ミエリン塩基性タンパク質で発見されたL-グルタミン酸、L-アラニン、L-チロシン及びL-リジンの4個のアミノ酸で構成されるランダムポリマー(平均分子量6.4kD)である。アミノ酸の平均モル分率は、それぞれ、0.141、0.427、0.095及び0.338であり、コポリマー1の平均分子量は4,700~11,000ダルトンである。酢酸グラチラマーは、L-アラニン、L-リジン及びL-チロシンを有するL-グルタミン酸ポリマー、酢酸塩(塩)と化学的に命名される。その構造式は、(Glu、Ala、Lys、Tyr)xCHCOOH又は(CNO_CNO_C14_C11NO)xC[CAS-147245-92-9]、おおよその比はGlu14Ala43Tyr10Lyz34x(CHCOOH)20である。コパキソン(登録商標)は、皮下注射用の透明で、無色からわずかに黄色の、滅菌済み非発熱性溶液である。各ミリリットルは、20mgの酢酸グラチラマー及び40mgのマンニトールを含有する。溶液のpH範囲は、約5.5~7.0である。コパキソン(登録商標)は、再発型の多発性硬化症を有する患者の治療に適応される。
【0006】
この共重合体のいくつかの重要な免疫学的性質は現れているが、酢酸グラチラマーの作用機序は不明である。酢酸グラチラマーの投与は、T細胞の集団が炎症促進性Th1細胞から炎症応答を抑制する制御性Th2細胞にシフトさせる(FDA コパキソン(登録商標)ラベル)。ミエリン塩基性タンパク質に似ていることを考慮すると、酢酸グラチラマーはまた、デコイとしても作用し、ミエリンに対する自己免疫応答を迂回させることができる。しかしながら、血液脳関門の完全性は、少なくとも治療の初期段階では、酢酸グラチラマーによってはっきりとした影響は受けない。
【0007】
酢酸グラチラマーのデポーシステム:
米国特許第8,377,885号は、多発性硬化症の治療における皮下若しくは筋肉内注入又は注射に適するデポー形態の治療有効量のグラチラマーを含む長時間作用性経口医薬組成物、特に、治療有効量の酢酸グラチラマーを含む組成物を開示している。
【0008】
米国特許第8,796,226号は、酢酸グラチラマー及び少なくとも1種類の追加の薬物を含むデポー組成物を開示している。
【0009】
自己免疫疾患及び/又は神経変性疾患の治療のための間葉系幹細胞(MSC):
MSCは、もともと成人骨髄内で特定された多能性自己再生細胞源である。自然に、それらは分化して、骨芽細胞、軟骨細胞及び脂肪細胞を生成する。MSCは、胚性幹(ES)細胞に代わる多能性幹細胞の入手しやすい源を提供する。MSCは、自己供給源に由来することができ、また、同種の使用に有利な免疫特権的性質によって特徴付けられるので、細胞療法における免疫抑制の必要性を潜在的に回避する。
【0010】
MSCベースの治療は、移植片対宿主病、脳卒中、心筋梗塞、肺線維症及び自己免疫疾患を含むいくつかの症状の前臨床試験において有効であることが示されている。MSCはまた、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病(HD)及び多発性硬化症(MS)などの神経変性疾患に対する治療ツールとして広く研究されている。MSCは、神経変性疾患の文脈内の2つの態様、すなわち、特定の条件下で神経細胞に分化転換するその能力と、その神経保護作用及び免疫調節作用に関連して議論されてきた。脳に移植すると、MSCは、損傷組織を保護し、その再生を誘導する神経栄養因子及び成長因子を生成する。さらに、MSCはまた、例えば、脳におけるグリア由来又は脳由来の神経栄養因子を過剰発現するように遺伝子改変されている遺伝子送達ビヒクルとして検討されている。MSCが関与する臨床試験は、現在、MS、ALS、外傷性脳損傷、脊髄損傷及び脳卒中のために進められている。
【0011】
脂肪由来幹細胞(ADSC):
過去数十年にわたって、脂肪組織が、エネルギー貯蔵所としての主な機能に加えて、多能ストローマ細胞のための豊富な供給源であることも示されている(Zuk et al.,Mol Biol Cell 2002;13:4279-4295)。
【0012】
WO2010/045645は、脂肪組織から脂肪幹細胞を回収する方法を開示している。
【0013】
米国特許第8,021,882号は、脂肪幹細胞の培養物を提供し、その上清を収集することにより、神経傷害の治療のための幹細胞馴化培地を生成する方法を開示している。
【0014】
Constantin et al.(2009)Stem Cells.,27(10):2624-35は、慢性実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)のマウスへの脂肪由来間葉系幹細胞の静脈内投与を研究した。
【0015】
Stepien et al.(2016)Mediators of Inflammation,vol.2016は、自家脂肪幹細胞の髄腔内注入で治療されたRRMS又はSPMSのMS患者の1年間の経過観察を報告している。
【0016】
WO 2006/057003では、とりわけ、グラチラマーと組み合わせて骨髄由来の幹細胞を用いる幹細胞治療の方法を開示している。
【0017】
Aharoni et al.(2009)J Neuroimmunol.,215(1-2):73-83では、脳室内又は腹腔内いずれかに移植される筋前駆細胞(MPC)と酢酸グラチラマーでのEAE誘導マウスの同時治療を報告している。
【0018】
多発性硬化症、特に進行型の疾患を有する患者を治療するための改善された方法が当技術分野において必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、いくつかの態様によると、多発性硬化症(MS)のための併用療法であって、治療有効量のグラチラマーの医薬として許容される塩、例えば、酢酸グラチラマーを含む長時間作用性医薬組成物と脂肪由来幹細胞(ADSC)を使用する併用療法を提供する。特定の実施形態において、本発明は、多発性硬化症の治療方法であって、持続放出性デポー形態で酢酸グラチラマーを非経口投与することと、中枢神経系に脂肪由来幹細胞を投与することと、を含む方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、多発性硬化症の動物モデルにおける臨床スコアに対するデポー形態の酢酸グラチラマーと脂肪由来幹細胞の組み合わせの相乗効果に一部基づいている。組み合わせは、疾患スコアを低下させ、その発症を遅延させることに特に有効であること、また疾患の進行を有意に遅らせることが分かった。予想外に、低用量の酢酸グラチラマーのデポー製剤は、高用量に比べて細胞と組み合わせた場合に、より効果的であることが分かった。そのため、いくつかの実施形態によれば、本明細書に提供する方法及び組成物は、酢酸グラチラマーを単独で投与した場合に必要とされる用量に比べて、患者に与えられる酢酸グラチラマーの用量を低下させることを可能にする。
【発明の効果】
【0021】
一態様によれば、本発明は、多発性硬化症を治療する方法であって、それを必要とする対象に、酢酸グラチラマーを含み、持続放出性デポー形態の医薬組成物を非経口投与することと、ヒト脂肪由来幹細胞(hADSC)を対象の中枢神経系(CNS)に投与することと、を含む方法を提供する。
【0022】
別の態様によれば、本発明は、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物であって、中枢神経系(CNS)に投与されるヒト脂肪由来幹細胞(hADSC)と組み合わせて、多発性硬化症の治療に使用するための非経口投与用持続放出性デポー形態の医薬組成物を提供する。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマー及びhADSCを含む医薬組成物は、同じ日に投与される。
【0024】
他の実施形態によれば、酢酸グラチラマー及びhADSCを含む医薬組成物は、別々の日に投与される。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物の投与とhADSCの投与との間の期間は、1~14日の範囲である。追加の実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物の投与とhADSCの投与との間の期間は、1~2週の範囲である。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、1~15週ごとに1回投与される。追加の実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、1~10週ごとに1回投与される。さらに追加の実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、2~6週ごとに1回投与される。いくつかの特定の実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、4週ごとに1回投与される。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、hADSCは1回投与される。
【0028】
他の実施形態によれば、hADSCは、2回以上、例えば、2回、3回、4回など投与される。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。いくつかの実施形態によれば、hADSCは、2~8ヶ月ごとに1回投与される。追加の実施形態によれば、hADSCは、3~12ヶ月ごとに1回投与される。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、hADSCの投与前に最初に投与される。
【0030】
他の実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、hADSCの投与後に2番目に投与される。
【0031】
他の実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、皮下移植のために製剤化され、投与は皮下注射による。
【0032】
いくつかの実施形態によれば、hADSCの投与は髄腔内投与によるものである。
【0033】
他の実施形態によれば、hADSCの投与は、脳室内投与又は側脳室内(ICV)投与、すなわち、脳室への投与によるものである。
【0034】
いくつかの実施形態によれば、hADSCは、脂肪吸引によって得られるヒト皮下脂肪に由来する。
【0035】
いくつかの実施形態によれば、hADSCは自己である。
【0036】
他の実施形態によれば、hADSCは同種である。
【0037】
いくつかの実施形態によれば、hADSCは、細胞の少なくとも95%がCD44、CD73及びCD90を発現し、細胞の少なくとも90%がCD105を発現し、かつ細胞の少なくとも95%がCD45、CD19、CD11B及びHLADRを発現しないことによって特徴付けられる。いくつかの実施形態によれば、hADSCは、さらに、細胞の0.1~10%がCD34を発現することによって特徴付けられる。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、hADSCの投与は、1回の投与あたり約10~3×10個の細胞を投与することを含む。
【0039】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマーは、約0.14のグルタミン酸、約0.43のアラニン、約0.10のチロシン、及び約0.33のリジンのモル比でL-アラニン、L-グルタミン酸、L-リジン、及びL-チロシンの酢酸塩を含む。
【0040】
他の実施形態によれば、酢酸グラチラマーは、約15~約100個のアミノ酸を含む。
【0041】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、酢酸グラチラマーを20~500mg含む。追加の実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、酢酸グラチラマーを20~250mg含む。さらに追加の実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、酢酸グラチラマーを20~100mg含む。
【0042】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、医薬として許容される生分解性又は非生分解性担体を含む。
【0043】
いくつかの実施形態によれば、担体は、ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリ(D,L-ラクチド)(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリオルトエステル、ポリアルカン無水物、ゼラチン、コラーゲン、酸化セルロース、及びポリホスファゼンからなる群から選択される。各可能性は、本発明の別々の実施形態を表す。
【0044】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマーを含む医薬組成物は、水中油中水型二重乳化プロセスによって調製される微粒子の形態である。
【0045】
いくつかの実施形態によれば、微粒子は、治療有効量の酢酸グラチラマーを含む内部水相、生分解性及び非生分解性ポリマーから選択される担体を含む水不混和性ポリマー相、及び外部水相を含む。いくつかの特定の実施形態において、水不混和性ポリマー相は、PLA及びPLGAから選択される生分解性ポリマーを含む。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0046】
追加の実施形態において、外部水相は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロック共重合体、及びセルロースエステルから選択される界面活性剤を含む。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0047】
本明細書に記載のように治療される対象は、典型的にはヒトである。いくつかの実施形態によれば、本発明の方法及び組成物は、進行型の多発性硬化症(MS)の治療に有用である。したがって、いくつかの実施形態によれば、対象は、進行性MSを患っている対象である。いくつかの特定の実施形態において、進行型MS、二次性進行型MSである。追加の特定の実施形態において、進行型MSは、一次性進行型MSである。
【0048】
本発明のこれらの態様及び特徴並びにさらなる態様及び特徴は、以下の詳細な説明、実施例及び特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】28日目までのAUC臨床スコア分析によって決定した時のEAEに対するGAデポー及びADSCの影響。薬剤を、0日目に単独で、又は一緒に投与した(GAデポー、2mg又は10mgのIM、ADSC、2×10個の細胞、ICV)。WFI及びコパキソン(Copaxome(登録商標))(SC注入)は対照として機能した。10mgのGAデポー及び2×10のADSC以外の全てのグループと比較してP<0.05;**コパキソン(登録商標)(2mg/日)又はWFIと比較してp<0.05;***WFIと比較してP<0.05、不等分散を仮定した単一因子ANOVA、続いて、片側二標本T検定、n=10/グループ、+/-標準誤差。
図2】28日目までの平均最大スコア分析によって決定した時のEAEに対するGAデポー及びADSCの影響。薬剤を、0日目に単独で、又は一緒に投与した(GAデポー、2mg又は10mgのIM、ADSC、2×10個の細胞、ICV)。WFI及びコパキソン(Copaxome(登録商標))(SC注入)は対照として機能した。ADSC及び10mgのGAデポー及び2×10のADSC以外の全てのグループと比較してP<0.05;**2×10のADSC及び2mgのGAデポー及び2×10のADSC以外の全てのグループと比較してP<0.05;***GA以外の全てのグループと比較してP<0.05、不等分散を仮定した単一因子ANOVA、続いて、片側二標本T検定、n=10/グループ、+/-標準誤差。
図3】28日目までの平均発症日分析によって決定した時のEAEに対するGAデポー及びADSCの影響。薬剤を、0日目に単独で、又は一緒に投与した(GAデポー、2mg又は10mgのIM、ADSC、2×10個の細胞、ICV)。WFI及びコパキソン(Copaxome(登録商標))(SC注入)は対照として機能した。全てのグループと比較してP<0.05;**2×10のADSC及び2mgのGAデポーと比較してP<0.05;***2×10のADSCと比較してP<0.05、不等分散を仮定した単一因子ANOVA、続いて、片側二標本T検定、n=10/グループ、+/-標準誤差。
図4】28日目までの平均臨床スコア分析によって決定した時のEAEに対するGAデポー及びADSCの影響。対照(SC注射用の水)、GAデポー、2mgのIM;GAデポー、10mgのIM;ADSC 2×10個の細胞のICV;GAデポー 10mgのIM及びADSC 2×10個の細胞ICV;GAデポー2mgのIM及びADSC 2×10個の細胞のICV;コパキソン(登録商標)(即時放出酢酸グラチラマー)2mgのSCでの免疫後0~28日目の平均臨床スコア。n=10/グループ、+/-標準誤差。統計解析のための表4を参照されたい。
図5】28日目までのMOG誘発性EAEマウスの体重に対するGAデポーとADSCの影響。体重を0日~28日目まで毎日測定した。死んだ動物については、動物が死ぬ前の最終重量測定値を最終体重として記録した。n=10/グループ、+/-標準誤差。統計解析については表5を参照されたい。
図6】28日目までのAUC臨床スコア分析によって決定した時のEAEに対するADSCの示された用量と組み合わせたGAデポーの影響。PBSと比較してP<0.05。
図7】28日目までの平均最大スコア分析によって決定した時のEAEに対するADSCの示された用量と組み合わせたGAデポーの影響。PBSと比較してP<0.05。
図8】28日目までの平均発症日分析によって決定した時のEAEに対するADSCの示された用量と組み合わせたGAデポーの影響。**200K、デポー、PBSと比較してP<0.05;PBSと比較してP<0.05。
図9】28日目までの平均臨床スコア分析によって決定した時のEAEに対するADSCの示された用量と組み合わせたGAデポーの影響。+/-標準誤差。
図10】MOG誘発性EAEマウスの体重に対するADSCの示された用量と組み合わせたGAデポーの影響。体重を45日目まで経過観察した。体重を、0~45日まで毎日測定した。死んだ動物については、動物が死ぬ前の最終重量測定値を最終体重として記録した。n=10/グループ、+/-標準誤差。
図11】継代数に応じたADSCの細胞表面マーカーの発現。実施例の節に記載されているように、細胞を脂肪組織から単離し、培養し、示されたマーカーの発現について分析した。結果は、9つの試料の平均値+/-標準偏差である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、いくつかの態様によると、中枢神経系に投与される脂肪由来幹細胞と組み合わせた長時間作用性注入用製剤中の酢酸グラチラマー(又はグラチラマーの任意の他の医薬として許容される塩)を用いて多発性硬化症を治療する組成物及び方法を提供する。
【0051】
酢酸グラチラマー長時間作用製剤(GAデポー)は、以前に説明され、インビトロでは酢酸グラチラマー放出プロファイルの分析で、かつインビボでは、マウスにおいてミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)で誘導される実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を用いて評価された。これらの研究では、GAデポーは、EAE症状の改善におけるコパキソン(登録商標)と同等の効力を実証した。GAデポーの10mg用量の1回投与は、疾患症状の低減及び全ての場合において、一貫して有効であり、2mgのコパキソン(登録商標)の毎日投与及び2mgのGAデポーの1回投与よりも優れていた。また、別の実験設定において、GAデポーの同様の有効性が、4~10mgの用量範囲で認められた。
【0052】
本発明の発明者らは、疾患の転帰に対するGAデポーと脂肪由来間葉系幹細胞の併用治療の効果を評価するために、MOG誘発性EAEモデルを利用した。MOGは、中枢神経系(CNS)における神経ミエリン形成の過程において重要であると考えられている糖タンパク質である。MOG 35~55ペプチドでの免疫化は、一般的に、C57BL/6マウスにおける慢性EAEの誘導のために使用される。ADSCがマウスの脳室(ICV)に注入されると、EAEはMOGを用いて誘導された。マウスを、幹細胞単独、GAデポー単独又はADSCと2mg若しくは10mgのGAデポーの組み合わせで処置した。
【0053】
本発明において初めて開示される驚くべき観察から、臨床スコア、平均発症日、最大平均疾患スコア及び罹患期間を含む、EAEに対するGAデポーとヒトADSCの組み合わせの相乗効果を実証する。
【0054】
そのため、本発明は、非経口投与による持続放出のための、グラチラマーの医薬として許容される塩、好ましくは酢酸グラチラマーの医薬製剤の投与、及びヒト間葉系脂肪由来幹細胞の投与を含む、治療方法並びに治療レジメンを提供する。これらの併用治療は、GA又は幹細胞での単独治療よりも優れた多発性硬化症の治療効果を与える。併用治療は、様々な臨床スコアによって決定されるように、効果の改善及び効果の長期化をもたらした。
【0055】
現在では、酢酸グラチラマーの長時間作用性剤形及び脂肪由来幹細胞の投与を含む、多発性硬化症の治療のための方法並びにレジメンは利用できない。このような併用療法は、多くの患者に、特に、神経症状又は身体障害を伴う疾患が進行した患者に有益である。具体的には、この治療は、多発性硬化症の進行型の患者に恩恵をもたらす。
【0056】
本明細書で使用される「治療」という用語は、多発性硬化症の発症後の症状の抑制又は軽減を指す。「治療」はまた、疾患、又はその少なくとも1つの症状の進行の速度を低下させることを包含する。多発性硬化症の発症後の一般的な症状には、視力低下又は視力喪失、つまずき及び不均一歩行、不明瞭な発語、並びに頻尿及び失禁が含まれるが、これらに限定されない。加えて、多発性硬化症は、気分の変化及びうつ病、筋肉の痙攣及び重度の麻痺を引き起こし得る。特に、該疾患は、衰弱、しびれ、震え、視力喪失、疼痛、麻痺、バランスの喪失、膀胱及び腸の機能障害、及び認知変化(一次症状)などの症状;繰り返される尿路感染症、廃用、姿勢調整及び胴体制御の不良、筋肉の不均衡、骨密度の低下、浅く非効率的な呼吸、及び床ずれ(二次症状);並びにうつ病(三次症状)によって特徴付けられる。いくつかの実施形態において、治療には、(i)病態の抑制、すなわち、その進行の停止;又は(ii)病態の緩和、すなわち、病態を後退させることが含まれる。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。いくつかの特定の実施形態において、本発明による多発性硬化症の治療は、疾患の進行を遅らせること、すなわち、障害の進行を遅らせることを含む。
【0057】
薬物が投与される「対象」は、哺乳動物、好ましくは、限定されないがヒトである。対象は、多発性硬化症を患っている、すなわち、多発性硬化症と診断される。
【0058】
本明細書で使用する「多発性硬化症」という用語は、上述の症状のうちの1以上を伴う中枢神経系の自己免疫疾患を指す。いくつかの実施形態において、MSは再発寛解型MSである。他の実施形態において、MSは進行型MSである。いくつかの実施形態において、進行型MSは二次性進行型MSである。他の実施形態において、進行型MSは一次性進行型MSである。追加の実施形態において、進行型MSは進行性再発型MSである。
【0059】
いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマー組成物は、2~6週ごとに投与される。いくつかの実施形態によれば、酢酸グラチラマー組成物は、4週間ごとに投与される。
【0060】
いくつかの実施形態によれば、ADSCは1回投与される。いくつかの実施形態によれば、ADSCは、複数回、例えば、2~8ヶ月ごとに、3~12ヶ月ごとに、又はより少ない頻度で投与される。
【0061】
いくつかの実施形態によれば、ADSCは1回投与され、酢酸グラチラマー組成物は、2~6週ごとに1回、例えば、4週ごとに1回投与される。
【0062】
追加の実施形態によれば、ADSCは、3~12ヶ月ごとに1回、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月ごとに1回投与され、酢酸グラチラマー組成物は、2~6週ごとに1回、例えば、4週ごとに1回に投与される。
【0063】
追加の実施形態によれば、ADSC及び酢酸グラチラマー組成物は、交互スケジュールに従って投与される。
【0064】
脂肪由来幹細胞
本発明は、脂肪由来間葉系幹細胞を利用する。本明細書で使用される場合、「ADSC」又は「hADSC」(すなわち、ヒト脂肪由来幹細胞)と略記される「脂肪由来間葉系幹細胞」又は「脂肪由来幹細胞」という用語は、脂肪組織から採取されるプラスチック接着性の多能性細胞を指す。細胞集団は、細胞の少なくとも95%がCD44、CD73及びCD90を発現し、細胞の少なくとも90%がCD105を発現し、かつ細胞の少なくとも95%がCD45、CD19、CD11B及びHLADRを発現しないことによって特徴付けられる。
【0065】
いくつかの実施形態において、細胞集団は、細胞の少なくとも98%がCD44、CD73及びCD90を発現し、細胞の少なくとも90%がCD105を発現し、かつ細胞の少なくとも98%がCD45、CD19、CD11B及びHLADRを発現しないことによって特徴付けられる。
【0066】
細胞集団はさらに、細胞の最大10%~20%がCD34を発現することによって特徴付けられる。いくつかの実施形態において、細胞集団は、細胞の最大5%、6%、7%、8%、9%又は10%がCD34を発現することによって特徴付けられる。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0067】
いくつかの実施形態において、細胞の少なくとも50%は、CD105、CD73、CD44及びCD90について陽性であり、CD45、CD19、CD11B及びHLADRについて陰性である。
【0068】
いくつかの実施形態によれば、ヒトADSCの90~100%は、マーカー:CD44、CD73及びCD90について陽性である。追加の実施形態によれば、ヒトADSCの少なくとも95%は、マーカー:CD44、CD73及びCD90について陽性である。さらに追加の実施形態によれば、ヒトADSCの少なくとも98%は、マーカーCD44、CD73及びCD90について陽性である。
【0069】
いくつかの実施形態によれば、ヒトADSCの65~100%は、CD105について陽性である。追加の実施形態によれば、hADSCの80~100%は、CD105について陽性である。さらに追加の実施形態によれば、hADSCの90~100%は、CD105について陽性である。さらに追加の実施形態によれば、hADSCの80~95%は、CD105について陽性である。
【0070】
いくつかの実施形態によれば、ヒトADSCの0.1~20%は、マーカーCD34を発現する。追加の実施形態によれば、ヒトADSCの0.1~10%は、マーカーCD34を発現する。さらに追加の実施形態によれば、ヒトADSCの0.1~5%は、マーカーCD34を発現する。さらに追加の実施形態によれば、ヒトADSCの0.5~2%は、マーカーCD34を発現する。
【0071】
他の実施形態によれば、hADSCの2~10%は、マーカーCD34について陽性である。他の実施形態によれば、hADSCの2~5%は、マーカーCD34について陽性である。いくつかの実施形態によれば、細胞の少なくとも90%は、例えば、細胞の少なくとも95%は、マーカーCD34について陰性である。
【0072】
いくつかの実施形態によれば、投与されるヒトADSCの少なくとも90%は、マーカー:CD45、CD19、CD11B及びHLADRについて陰性である。追加の実施形態によれば、投与されるヒトADSCの少なくとも95%は、マーカー:CD45、CD19、CD11B及びHLADRについて陰性である。さらに追加の実施形態によれば、投与されるヒトADSCの少なくとも98%は、マーカー:CD45、CD19、CD11B及びHLADRに対して陰性である。
【0073】
いくつかの実施形態によれば、注入されるヒトADSCの少なくとも50%は、CD105、CD73、CD44及びCD90について陽性であり、CD45、CD19、CD11B、及びHLADRについて陰性である。追加の実施形態によれば、注入されるヒトADSCの少なくとも60%、70%、80%又は90%は、CD105、CD73、CD44及びCD90について陽性であり、CD45、CD19、CD11B及びHLADRに対して陰性である。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0074】
細胞表面マーカー発現の特徴付けは、当技術分野で公知の方法、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いることによって行うことができる。FACSプロトコルは、例えば、Flow Cytometry Protocols,Methods in Molecular Biology Volume699 2011,編集者:Teresa S.Hawley,Robert G.Hawley Humana Pressの中で概説されている。例示的な手順は、以下に記載されている。
【0075】
多能性間質細胞/幹細胞の供給源としての脂肪組織は、他の供給源に比べていくつかの利点を有する(Baer PC,Geiger H.Stem Cells Int 2012;2012:812693)。例えば、皮下脂肪は、ヒトでは遍在しており、脂肪吸引法による吸引によって大量に容易に利用できる。脂肪吸引法は良好な耐容性手順であり、組織吸引物が大量に得られる。脂肪吸引物は、典型的には、医療廃棄物として廃棄され、脂肪由来間質細胞/幹細胞(ASC)の単離のための良好な出発物質として認められる。組織は、単離され、培養物中で増殖させることができる多数の多能性細胞を含有している。
【0076】
いくつかの実施形態によれば、ADSCは、ヒトの皮下脂肪に由来する。特定の実施形態によれば、細胞は、脂肪吸引法による吸引によって得られるヒト皮下脂肪に由来する。ADSCは、胃、臀部、大腿部、腕、首及び尻を含む身体の様々な領域における脂肪吸引手順によって得られ得る。脂肪吸引法のいずれかの手順は、当技術分野で知られているように、レーザ、超音波及び腹部形成術による脂肪除去を含むがこれらに限定されないADSCを得るために本発明に従って使用され得る。
【0077】
脂肪組織は、例えば、以下の実施例1に記載の手順に従って、脂肪由来幹細胞を単離するために処理される。調製方法は、典型的には、PBS及び生理食塩水などの緩衝剤、並びに/又はDMEM、StemMACS(商標)若しくはPlasma-Lyteなどの成長培地で組織を洗浄する工程、並びにコラゲナーゼなどの組織解離酵素で組織を処理する工程、並びに/又は組織を機械的攪拌/破壊に供する工程、を含む。試料の消化はまた、ディスパーゼ及びコラゲナーゼの組み合わせを用いて行うことができる。一般的に凝集されるリポソームは、遠心分離によって、幹細胞、並びに赤血球、内皮細胞、及び線維芽細胞などの他の細胞を含む遊離間質細胞から分離することができる。赤血球は、適切な溶解緩衝液を用いて懸濁ペレットから溶解することができ、残りの細胞は濾過又は遠心分離することができる。
【0078】
必要に応じて、細胞は、細胞選別によって分離されるか、又は免疫組織化学的に分離され得る。Bunnell et al.(2008)Methods.,45(2):115-120は、ADSCの単離の方法について概説している。
【0079】
いくつかの好ましい実施形態において、ADSCは、それを必要とする対象に供給される前(又は後の使用のために貯蔵される前)に培養される。好ましくは、細胞は、異物を含まない培地で培養される。いくつかの実施形態において、ADSCは、約80~100%集密度、例えば、約80%集密度まで成長させ、対象への投与前に3~10、好ましくは3~5、又は3~4の継代数まで継代培養される。そのため、いくつかの実施形態において、投与される細胞は3~5回継代される。いくつかの実施形態において、ADSCは、3回の継代数まで継代培養される。いくつかの実施形態において、ADSCは、4回の継代数まで継代培養される。いくつかの実施形態において、ADSCは、5回の継代数まで継代培養される。
【0080】
投与前に細胞を計数し、注入用に医薬として許容される希釈剤/担体で調製される。典型的には、細胞は、対象への投与前に濃縮される。濃度は、典型的には、1.6×10/ml~100×10/mlの範囲である。
【0081】
本発明の方法によれば、単回投与のための幹細胞組成物は、いくつかの実施形態において、10~3×10個のヒトADSCを含む。いくつかの実施形態によれば、組成物は、10~10個のヒトADSCを含む。追加の実施形態によれば、10~10個のヒトADSCは、1回の投与で注入される。さらに追加の実施形態によれば、200×10~300×10個のヒトADSCは、1回の投与で注入される。さらに追加の実施形態によれば、10~2×10個のヒトADSCは、1回の投与で注入される。
【0082】
いくつかの実施形態によれば、本発明のADSC組成物は、全身投与によって使用するためのものである。典型的には、投与は、対象の中枢神経系(CNS)への投与である。そのような投与は、血液脳関門をバイパスすることを目的とし得る。さらに他の実施形態によれば、ADSCは、脳の特定の領域に直接投与される。
【0083】
いくつかの実施形態によれば、組成物は、例えば、髄腔内投与によりCNSに投与される。いくつかの実施形態によれば、組成物は脊髄内投与される。他の実施形態によれば、組成物は、脳室内経路又は側脳室内(ICV)経路、すなわち、脳室への投与によるものである。
【0084】
脳室内薬物送達は、槽(C1~2椎骨)及び頭蓋内脳室の脳脊髄液への薬剤の送達である。薬剤を直接投与することにより、必要とされる薬剤が少ないほど、経口投与された薬物に見られる副作用と比べて、副作用は少ない。当技術分野で知られているように、薬剤は、典型的には、ポンプに接続された移植カテーテルを介して送達される。ポンプは、プログラム可能であり、埋込型又は体外型のいずれかであり得る。。
【0085】
髄腔内投与は、脳脊髄液(CSF)に達するように脊柱管、より具体的には、クモ膜下腔への注入を介する薬物の投与経路であり、脊椎麻酔、化学療法、又は疼痛管理の適用において有用である。この経路は、特に神経外科後に、特定の感染症と闘う薬物を導入するために使用される。薬物は、血液脳関門を回避するために、この方法を付与される必要がある。髄腔内及び硬膜外薬物送達は、薬物投与の脊髄内経路を含む。各経路は、脳脊髄液(CSF)に薬物を送達する。髄腔内送達は脊柱の髄腔内空間内のCSFへの薬物の直接注入を含むが、硬膜外腔に注入される薬物は、CSFに到達するために硬膜を通過しなければならない。そのようなものとして、硬膜外投与される薬物はまた全身循環に達する一方で、髄腔内投与される薬物は、脊柱及び脳室中を循環しているCSF内に限定される。
【0086】
グラチラマー製剤
本明細書で使用する「酢酸グラチラマー」という用語は、コパキソン(登録商標)という商品名で販売されており、それぞれ0.141、0.427、0.095、及び0.338の平均モル分率を有する4個の天然アミノ酸:L-グルタミン酸、L-アラニン、L-チロシン、及びL-リジンを含有する合成ポリペプチドの酢酸塩からなるコポリマー1として以前に知られていた化合物を指す。コパキソン(登録商標)中の酢酸グラチラマーの平均分子量は4,700~11,000ダルトン(FDAコパキソン(登録商標)ラベル)であり、アミノ酸の数は約15~約100個のアミノ酸の範囲である。この用語はまた、化学的誘導体及び化合物の類似体を指す。典型的には、化合物は、米国特許第5,981,589号、同第6,054,430号、同第6,342,476号、同第6,362,161号、同第6,620,847号、及び同第6,939,539号のいずれかで指定されるように調製され、特徴付けられ、これらの参考文献の各々の内容は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0087】
本明細書で使用する「非経口」という用語は、皮下(SC)、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮内(ID)、腹腔内(IP)などから選択される経路を指す。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0088】
いくつかの実施形態において、グラチラマー製剤は、筋肉内、皮下、経皮、静脈内、又は吸入投与によって投与される。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。ある特定の実施形態によれば、グラチラマー製剤は、皮下又は筋肉内注入のためのものである。
【0089】
本明細書で使用する「治療有効量」という用語は、多発性硬化症の症状、又は少なくとも1つの疾患症状の軽減という目標を達成するグラチラマーの量とみなすことを意図する。適切な用量は、各剤形を20
750mg含むが、これらに限定されない。しかしながら、投与されるグラチラマーの量は、選択された投与経路、患者の年齢、体重、及び患者の症状の重症度を含む様々なパラメータに応じて、医師によって決定されることが理解される。本発明の様々な実施形態によれば、グラチラマーの治療有効量は、約1mg~約500mg/日の範囲である。あるいは、そのようなグラチラマーの治療有効量は、約20mg~約100mg/日である。
【0090】
本明細書で使用する「長時間作用性」という用語は、対象の全体的な全身循環へ又は対象における局所的な作用部位へ、グラチラマー塩の長期放出性、持続放出性又は延長放出性を提供する組成物を指す。この用語は、さらに、対象におけるグラチラマー塩の作用(薬物動態)期間を、長期化、持続化又は延長化させる組成物を指し得る。そのような組成物はまた、本明細書では「持続放出性デポー形態」と呼ばれる。特定の実施形態において、本発明の長時間作用性医薬組成物は、1週間に1回から6ヶ月ごとに1回の範囲の投薬レジメンを提供する。それは、約1週から約6ヶ月の期間にわたって、治療有効量の医薬として許容されるグラチラマー塩を放出する。現在、より好ましい実施形態によれば、投薬レジメンは、週に1回から、月に2回(約2週ごとに1回)、月1回の範囲である。必要な作用期間に応じて、デポー製剤は、典型的には、活性成分を約20~750mg含有し、数週間から数ヶ月の範囲の期間にわたって放出されるように設計されている。
【0091】
特定の実施形態において、グラチラマー製剤は、担体1mLあたり20~30mgのGAの濃度で投与される。特定の実施形態において、担体は、注入用水(WFI)である。本明細書で使用する「注入用水」又は「WFI」という用語は、一般に、例えば、微粒子、溶解固形物、有機物、無機物、微生物及びエンドトキシン混入物の規制基準を満たす滅菌純水を意味する。特定の実施形態において、懸濁化剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、CMC)、緩衝剤(例えば、クエン酸塩)及び/又は等張化剤(例えば、NaCl)を含有するWFI又は緩衝液中のグラチラマー製剤が投与される。
【0092】
特定の実施形態において、グラチラマー製剤は、10%~40%の固体を含む。追加の実施形態において、グラチラマー製剤は、20%~30%の固体を含む。特定の実施形態において、グラチラマー製剤は、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)共重合体を含む。特定の実施形態において、PLGA共重合体は、ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)(50:50)共重合体である。いくつかの実施形態において、グラチラマー製剤は、GA40mgあたり150~1500mgのPLGA共重合体を含む。いくつかの特定の実施形態において、グラチラマー製剤は、GA40mgあたり550mgのPLGA共重合体を含む。特定の実施形態において、PLGA共重合体は、少なくとも部分的にGAをカプセル化する。特定の実施形態において、PLGA共重合体は、GAをカプセル化する。
【0093】
特定の実施形態において、GAの30%未満は、連続攪拌下、37℃のPBS中でデポー製剤から7日以内に放出される。特定の実施形態において、GAの20%超は、連続撹拌下、37℃のPBS中でデポー製剤から7~5日以内に放出される。特定の実施形態において、GAの45%未満は、連続撹拌下、37℃のPBS中でデポー製剤から14日以内に放出される。特定の実施形態において、GAの90%超は、連続撹拌下、37℃のPBS中でデポー製剤から28日以内に放出される。
【0094】
いくつかの実施形態において、本発明の方法で使用されるデポー製剤は、水、油若しくはワックス相中のグラチラマー又はその医薬として許容される塩の懸濁液、グラチラマー又はその医薬として許容される塩の難溶性高分子電解質複合体;グラチラマー又はその医薬として許容される塩と水混和性溶媒の組み合わせに基づく「インサイツ」ゲル形成マトリックス;及びグラチラマー又はその医薬として許容される塩が組み込まれた生分解性ポリマー微粒子を含むが、これらに限定されない。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。特定の実施形態において、本発明の組成物は、グラチラマー又はその医薬として許容される塩が、生分解性又は非生分解性の担体中に捕捉されている注入可能な微粒子の形態である。本発明の微粒子組成物は、水中油中水型二重乳濁液を含んでよい。本発明の範囲内に、グラチラマー又はその任意の医薬として許容される塩を含む内部水相、生分解性又は非生分解性ポリマーを含む油相又は水不混和相、及び外部水相を含む微粒子組成物がある。外部水相は、さらに、界面活性剤、好ましくは、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロック共重合体又はセルロースエステルを含み得る。「油相」及び「水不混和相」という用語は、本明細書では互換的に使用され得る。
【0095】
特定の実施形態によれば、本発明の長時間作用性医薬組成物は、水中油中水型二重乳化プロセスによって調製された微粒子の形態である。現在の好ましい実施形態において、本発明の長時間作用性医薬組成物は、治療有効量の医薬として許容されるグラチラマーの塩を含む内部水相、生分解性及び非生分解性ポリマーから選択される担体を含む水不混和性ポリマー相、及び外部水相を含む。他の現在の好ましい実施形態において、水不混和性ポリマー相は、PLA及びPLGAから選択される生分解性ポリマーを含む。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。追加の実施形態において、外部水相は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロック共重合体、及びセルロースエステルから選択される界面活性剤を含む。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0096】
いくつかの実施形態において、組成物は、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、酢酸塩、硝酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸、プロピオール酸塩(propiolate)、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、コハク酸トコフェリル、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-1,4-二酸塩、ヘキシン-1,6-二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、β-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、マンデル酸塩などの塩を含むが、これらに限定されない任意の他の医薬として許容されるグラチラマーの塩を含み得る。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0097】
共重合体は、当業者に利用可能な任意の手順によって作製することができる。例えば、共重合体は、縮合条件下で、溶液中の所望のモル比のアミノ酸を用いて、又は固相合成法によって作製することができる。縮合条件は、適切な温度、pH、及び一方のアミノ酸のカルボキシル基と別のアミノ酸のアミノ基を縮合させてペプチド結合を形成するための溶媒の条件を含む。縮合剤、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミドは、ペプチド結合の形成を促進するために使用することができる。
【0098】
ブロッキング基は、望ましくない副反応に対して、側鎖部分及びアミノ基又はカルボキシル基の一部などの官能基を保護するために使用することができる。内容が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第3,849,550号に開示されたプロセスは、本発明の共重合体を調製するために使用することができる。例えば、チロシン、アラニン、γ-ベンジルグルタメート及びN,ε-トリフルオロアセチルリジンのN-カルボキシ無水物は、周囲温度で、無水ジオキサン中で開始剤としてのジエチルアミンと共重合する。グルタミン酸のγ-カルボキシル基は、氷酢酸中、臭化水素によって脱ブロックすることができる。トリフルオロアセチル基は、1モルのピペリジンによってリジンから除去される。プロセスは、グルタミン酸、アラニン、チロシン、又はリジンのうちのいずれか1つに関連する反応を選択的に除去することによって、所望のアミノ酸、すなわち、コポリマー1の中の4個のアミノ酸のうちの3つを含有するペプチド及びポリペプチドを作製するために調整することができることを当業者なら容易に理解する。内容が参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,620,847号、同第6,362,161号、同第6,342,476号、同第6,054,430号、同第6,048,898号及び同第5,981,589号は、酢酸グラチラマー(Cop-1)を調製するための改良された方法を開示している。本出願の目的のために、「周囲温度」及び「室温」という用語は、典型的には、約20℃~約26℃の範囲の温度を意味する。
【0099】
GAの長時間作用性デポー製剤は、例えば、米国特許第8,377,885号に開示されている。非限定的な例では、GAデポーは、GAを装填したポリグラクチン微粒子を含む無菌凍結乾燥粉末である。この製剤は、注入用水に懸濁され、例えば、4週ごとに1回の筋肉内投与を意図している。
【0100】
共重合体の分子量は、ポリペプチド合成中又はポリマーが作製された後に調整することができる。ポリペプチド合成中に分子量を調節するために、合成条件又はアミノ酸の量は、ポリペプチドがおおよそ所望の長さに達した時に、その合成が停止するように調整される。合成後、所望の分子量を有するポリペプチドは、分子量サイズ分類カラム又はゲル上でのポリペプチドのクロマトグラフィーなどの任意の利用可能なサイズ選択手順、及び所望の分子量範囲の収集によって得ることができる。本発明のポリペプチドはまた、例えば、酸又は酵素的加水分解によって、部分的に加水分解して、高分子量種を除去し、次いで、精製して酸又は酵素を除去することができる。
【0101】
一実施形態において、所望の分子量を有する共重合体は、保護されたポリペプチドと臭化水素酸とを反応させて、所望の分子量プロファイルを有するトリフルオロアセチルポリペプチドを形成することを含むプロセスにより調製され得る。反応は、1以上の試験反応によって予め決定された時間及び温度で行われる。試験反応中に、時間及び温度は変更され、所与のバッチの試験ポリペプチドの分子量範囲が決定される。そのバッチのポリペプチドの最適分子量範囲を提供する試験条件が、バッチのために使用される。そのため、所望の分子量プロファイルを有するトリフルオロアセチルポリペプチドは、試験反応によって予め決定された時間及び温度で、保護されたポリペプチドと臭化水素酸とを反応させることを含むプロセスにより生成することができる。次いで、さらに、所望の分子量プロファイルを有するトリフルオロアセチルポリペプチドを水性ピペリジン溶液で処理して、所望の分子量を有する脱保護ポリペプチドを形成させる。
【0102】
現在の好ましい実施形態において、所与のバッチからの保護されたポリペプチドの試験試料を、約20~28℃の温度で、臭化水素酸と約10~50時間反応させる。そのバッチの最高の条件は、いくつかの試験反応を実行することによって決定される。例えば、一実施形態において、保護されたポリペプチドは、約26℃の温度で、臭化水素酸と約17時間反応させる。
【0103】
特定の実施形態において、剤形には、PLGAベースの注入可能なデポーシステム、非PLGAベースの注入可能なデポーシステム、及び注入用生分解性ゲル若しくは分散液などの生分解性の注入可能なデポーシステムが含まれるが、これらに限定されない。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。本明細書で使用する「生分解性」という用語は、少なくとも部分的に、周囲の組織液中に見られる物質との接触に起因して、又は細胞作用によって、経時的にその表面で侵食又は分解する成分を指す。特に、生分解性成分は、ポリラクチド、例えば、ポリ(D,L-ラクチド)、すなわち、PLAなどの乳酸系ポリマー;ポリグリコリド(PGA)、例えば、Durect社のLactel(登録商標)などのグリコール酸系ポリマー;ポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)、すなわち、PLGA、(Boehringer社のResomer(商標)RG-504、Resomer(商標)RG-502、Resomer(商標)RG-504H、Resomer(登録商標)RG-502H、Resomer(商標)RG-504S、Resomer(商標)RG-502S、Durect社のLactel(登録商標));ポリ(e-カプロラクトン)、すなわち、PCL(Durect社のLactel(登録商標))などのポリカプロラクトン;ポリ無水物;ポリ(セバシン酸)SA;ポリ(リシノール酸(ricenolic acid)RA;ポリ(フマル酸)、FA;ポリ(脂肪酸ダイマー(dimmer))、FAD;ポリ(テレフタル酸)、TA;ポリ(イソフタル酸)、IPA;ポリ(p-(カルボキシフェノキ)メタン)、CPM;ポリ(p-(カルボキシフェノキシ)プロパン)、CPP;ポリ(p-(カルボキシフェノキシ)ヘキサン)s CPH;ポリアミン、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル(CHDM:シス/トランス-シクロヘキシルジメタノール、HD:1,6-ヘキサンジオール;DETOU:(3,9-ジエチリデン-2,4,8,10-テトラオキサスピロウンデカン));ポリジオキサノン;ポリヒドロキシブチレート;ポリアルキレンオキサレート;ポリアミド;ポリエステルアミド;ポリウレタン;ポリアセタール;ポリケタール;ポリカーボネート;ポリオルトカーボネート;ポリシロキサン;ポリホスファゼン;コハク酸塩;ヒアルロン酸;ポリ(リンゴ酸);ポリ(アミノ酸);ポリヒドロキシバレレート;ポリアルキレンコハク酸塩;ポリビニルピロリドン;ポリスチレン;合成セルロースエステル;ポリアクリル酸;ポリ酪酸;トリブロック共重合体(PLGA-PEG-PLGA)、トリブロック共重合体(PEG-PLGA-PEG)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)、ポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)-ポリ(エチレンオキシド)トリブロック共重合体(PEO-PPO-PEO)、ポリ吉草酸;ポリエチレングリコール;ポリヒドロキシアルキルセルロース;キチン;キトサン;ポリオルトエステル及び共重合体、ターポリマー;コレステロール、レシチンなどの脂質;ポリ(グルタミン酸-コ-グルタミン酸エチル)など、又はそれらの混合物などのポリマーであるが、これらに限定されない。
【0104】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、PLGA、PLA、PGA、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアルカン無水物(polyalkaneanhydrides)、ゼラチン、コラーゲン、酸化セルロース、及びポリホスファゼンなどから選択されるが、これらに限定されない生分解性ポリマーを含む。各可能性は、別々の実施形態を表す。
【0105】
現在の好ましい生分解性ポリマーは、乳酸系ポリマー、より好ましくは、ポリラクチド、又はポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)、すなわち、PLGAである。好ましくは、生分解性ポリマーは、組成物の約10%~約98%w/wの量で存在する。乳酸系ポリマーは、100:0~約0:100、好ましくは、100:0~約10:90の範囲内の乳酸対グリコール酸のモノマー比を有し、約1,000~200,000ダルトンの平均分子量を有する。しかしながら、生分解性ポリマーの量は、使用期間などのパラメータによって決定されることが理解される。
【0106】
本発明の組成物は、さらに、共界面活性剤、溶媒/共溶媒、水不混和性溶媒、水、水混和性溶媒、油性成分、親水性溶媒、乳化剤、防腐剤、酸化防止剤、消泡剤、安定剤、緩衝剤、PH調整剤、浸透圧剤、チャネル形成剤、浸透圧調整剤、又は当技術分野で公知の任意の他の賦形剤から選択されるが、これらに限定されない1種以上の医薬として許容される賦形剤(複数可)を含み得る。適切な共界面活性剤には、ポリエチレングリコール、「ポロキサマー」として知られるポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、デカグリセリルモノラウレート及びデカグリセリルモノミリステートなどのポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタンモノステアレートなどのソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標))などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油並びにポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの硬化ヒマシなど、又はそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。適切な溶媒/共溶媒には、アルコール、トリアセチン、ジメチルイソソルビド、グリコフロール、炭酸プロピレン、水、ジメチルアセトアミドなど、又はそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。適切な消泡剤には、シリコン乳濁液又はセスキオレイン酸ソルビタンが含まれるが、これらに限定されない。本発明の組成物中の成分の劣化を防止又は減少させるための適切な安定剤には、グリシン、α-トコフェロール又はアスコルビン酸、BHA、BHTなどの抗酸化剤、又はそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。適切な張度調整剤には、マンニトール、塩化ナトリウム、及びグルコースが含まれるが、これらに限定されない。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。適切な緩衝剤には、適切な陽イオンを有する酢酸塩、リン酸塩、及びクエン酸塩が含まれるが、これらに限定されない。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。
【0107】
本発明の組成物は、当技術分野で公知の任意の方法によって調製することができる。現在好ましいのは、コロイド状送達システム、例えば、生分解性微粒子へのグラチラマー又はその塩の共重合体の配合であり、そのため、粒子のポリマー壁を通る拡散によって、及び体内の水媒体又は生体液でのポリマー分解によって放出遅延が可能になる。本発明の組成物は、「二重乳化」として知られるプロセスによって注入可能な微粒子の形態で調製することができる。簡単に説明すると、水溶性共重合体の濃縮液を、水不混和性揮発性有機溶媒(例えば、塩化メチレン、クロロホルムなど)中の生分解性又は非生分解性ポリマー溶液中に分散させる。次いで、このようにして得られた「油中水型」(w/o)乳濁液を、界面活性剤(例えば、ポリビニルアルコール-PVA、ポリソルベート、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロック共重合体、セルロースエステルなど)を含有する連続外部水相に分散させて、「水中油中水型(w/o/w)二重乳濁液」の液滴を形成する。有機溶媒を蒸発させた後に、微粒子を固化し、濾過又は遠心分離によって収集する。収集した微粒子(MP)を精製水で洗浄し、界面活性剤及び非結合ペプチドの大部分を除去して、再び遠心分離する。洗浄したMPを収集し、添加剤なしに、又は凍結防止剤(マンニトール)を添加して凍結乾燥し、それらのその後の再構成を容易にする。
【0108】
「水中油中水型(w/o/w)二重乳濁液」の粒子サイズは、この工程で加えられる力の量、混合速度、界面活性剤の種類及び濃度などを含むが、これらに限定されない様々なパラメータによって決定することができる。適切な粒子サイズは、約1~100μmの範囲である。
【0109】
本発明のデポーシステムは、当業者に公知の任意の形態を包含する。適切な形態には、生分解性又は非生分解性ミクロスフェア、移植可能なロッド、移植可能なカプセル、及び移植可能なリングを含む任意の適切な幾何学的形状のインプラントが含まれるが、これらに限定されない。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。さらに企図されるのは、長期放出性ゲルデポー及び浸食性マトリックスである。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。適切な移植可能なシステムは、例えば、その内容全体が本明細書に組み込まれるUS2008/0063687号に記載されている。移植可能なロッドは、適切なマイクロ押出機を用いて、当技術分野で知られているように調製することができる。
【0110】
本発明の原理によれば、本発明の長時間作用性医薬組成物は、副作用の発生率の低下、局所レベル及び/又は全身レベルでの副作用の重症度の低下と共に、市販の毎日注入可能な剤形と同等又は優れた治療効果を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、実質的に類似の用量の酢酸グラチラマーの即時放出製剤と比較して、対象におけるグラチラマーの長期放出性又は長期作用を提供する。
【0111】
本発明に包含されるのは、酢酸グラチラマー又はグラチラマーの任意の他の医薬として許容される塩と、脂肪由来幹細胞及び必要に応じて少なくとも1種の他の活性薬剤との併用療法である。本発明の範囲内の活性剤には、インターフェロン、例えば、ペグ化若しくは非ペグ化α-インターフェロン、又はβ-インターフェロン、例えば、インターフェロンβ-1a又はインターフェロンβ-1b、又はτ-インターフェロン;必要に応じて抗増殖/抗新生物活性を有する免疫抑制剤、例えば、ミトキサントロン、メトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミド、又はステロイド、例えば、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン又はデキサメタゾン、又はステロイド分泌剤、例えば、ACTH;アデノシンデアミナーゼ阻害剤、例えば、クラドリビン;様々なT細胞表面マーカーに対するIV免疫グロブリンG(例えば、Neurology,1998,May 50(5):1273-81に開示されているような)モノクローナル抗体、例えば、ナタリズマブ(ANTEGREN(登録商標))又はアレムツズマブ;TH2促進サイトカイン、例えば、IL-4、IL-10、又はTH1促進サイトカインの発現を阻害する化合物、例えば、ホスホジエステラーゼ阻害剤、例えば、ペントキシフィリン;バクロフェン、ジアゼパム、ピラセタム、ダントロレン、ラモトリギン、リフルゾール(rifluzole)、チザニジン、クロニジン、ベータ遮断薬、シプロヘプタジン、オルフェナドリン又はカンナビノイドを含む抗痙縮剤;AMPA型グルタミン酸受容体アンタゴニスト、例えば、2,3-ジヒドロキシ-6-ニトロ-7-スルファモイルベンゾ(f)キノキサリン、[1,2,3,4,-テトラヒドロ-7-モルホリン-イル-2,3-ジオキソ-6-(トリフルオロメチル)キノキサリン-i-イル]メチルホスホネート、1-(4-アミノフェニル)-4-メチル-7,8-メチレンジオキシ-5H-2,3-ベンゾジアゼピン、又は(-)1-(4-アミノフェニル)-4-メチル-7,8-メチレン-ジオキシ-4,5-ジヒドロ-3-メチルカルバモイル-2,3-ベンゾジアゼピン;VCAM-1発現の阻害剤又はそのリガンドのアンタゴニスト、例えば、α4β1インテグリンVLA-4及び/又はα-4-β-7インテグリンのアンタゴニスト、例えば、ナタリズマブ(ANTEGREN(登録商標));抗マクロファージ遊走阻止因子(抗MIF);xii)カテプシンS阻害剤;xiii)mTor阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。各可能性は本発明の別々の実施形態を表す。現在の好ましい1つの他の活性剤は、免疫抑制剤のクラスに属するFTY720(2-アミノ-2-[2-(4-オクチルフェニル)エチル]プロパン-1,3-ジオール;フィンゴリモド)である。
【0112】
本発明は、ADSCの投与と共に、多発性硬化症の治療のために、それを必要とする個体への移植に適するデポー形態の酢酸グラチラマー又はグラチラマーの任意の他の医薬として許容される塩の使用を包含する。
【0113】
本発明は、酢酸グラチラマー又はグラチラマーの任意の他の医薬として許容される塩を含む医薬組成物であって、多発性硬化症の治療においてhADSCと共に使用するための持続放出性デポー形態である医薬組成物を包含する。
【0114】
本発明はまた、少なくとも1つの追加の薬物、好ましくは、免疫抑制剤、特にフィンゴリモドと、酢酸グラチラマー及びADSCの組み合わせを包含する。
【0115】
本発明はさらに、多発性硬化症の治療においてhADSCと共に使用するための医薬の製造のための、それを必要とする対象に投与又は/対象への移植に適した、持続放出性デポー形態の酢酸グラチラマーの使用を包含する。
【0116】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態をより完全に説明するために提示されている。しかしながら、それらは、決して、本発明の広い範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示される原理の多くの変形及び変更を容易に考案することができる。
【0117】
実施例
実施例1-C57BL/6マウスにおけるMOG誘導性慢性EAEに対するGAデポー及びヒトADSCの効果
材料及び方法
酢酸グラチラマー:(商品名コパキソン(登録商標))予め充填されたシリンジ中20mg/ml、Teva Pharmaceutical Industries Ltd.,Petah-Tikva,Israel)。皮下注射(SC)用。
【0118】
酢酸グラチラマー(GA)デポーの生成及びGA放出プロファイル:GAデポーを、米国特許第8,377,885号に記載されているように調製し、凍結乾燥し、保存した。GAデポー製剤からのGAの放出プロファイルを、以下のように決定した:既知量の凍結乾燥GAデポー粉末をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、34日間、37℃で撹拌した。規則的な間隔で、試料を撹拌懸濁液から回収し、GAの量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて決定した。GAの含有率を、懸濁液中の既知量のGAデポーに基づいて計算した。投与(筋肉内、IM)のために、凍結乾燥GAデポー粉末を注入用滅菌水(WFI)に懸濁した。
【0119】
脳室内(ICV)注入用のヒト脂肪由来幹細胞(ADSC)の単離、特徴付け、培養及び調製:
細胞調製のプロトコル:
ADSCの単離:
ヒト組織由来の脂肪吸引物を、室温(RT)で等量のPBSで4回洗浄した。次いで、脂肪吸引物を振盪しながら、コラゲナーゼ(NB4、Serva)を用いて37℃で30分間消化した。その後、消化した試料をRTで10分間、300~500gで遠心分離し、未消化の脂肪を含む上部液体を除去した。異物を含まない増殖培地(StemMACS(商標)、Miltentyi)を等量添加することによって反応を停止させた後、RTで10分間、500gでさらに遠心分離した。得られたペレットを50mlの遠心分離管に移し、培地で洗浄し、同じ条件で遠心分離した。上清を除去し、ペレットを、25mlの赤血球溶解緩衝液(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)を用いて、RTで10分間再懸濁した。25mlのPBSを添加し、試料を5分間500gで遠心分離した。ペレットを、10mlの培地に再懸濁し、100μmフィルターを通して濾過し、その後、さらに10mlの培地を添加した。溶液を5分間、500gで遠心分離した。手順を、40μmのフィルターを用いて繰り返し、細胞を計数した。得られた細胞を間質血管画分(SVF)と呼ぶ。
【0120】
細胞培養:
SVFを、75cmあたり約2×10個の細胞密度で播種した。細胞を約80%集密度まで増殖させ、トリプシン処理し、最高3~4回継代培養した。次いで、細胞を収集し、マーカー:CD105、CD73、CD90、CD45、CD44、CD19、CD11B、HLADR及びCD34についてFACSによって分析した。細胞を、使用するまで液体窒素中で凍結保存した。使用する場合は、凍結した細胞を解凍し、50,000細胞/cmの濃度で播種し、一晩インキュベートした。細胞ICV注入の前に、細胞をトリプシン処理し、計数し、2×10細胞/PBS4μlの濃度で注入用に調製し、30分以下の間、使用するまで氷上に置いた。ICV注入を、定位システムを用いて行い、マウスの脳を傷つけないように注意した。
【0121】
動物:全ての動物試験は、地元の倫理委員会によって承認された。7~9週齢のC57BL/6雌マウスを、平均重量が同じ対照グループ又は治療グループに無作為に分けた。動物に、実験中、食物及び水を自由に与えた。
【0122】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の誘導:EAEを誘導するために、改変された完全フロイントアジュバント(CFA)(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)中のミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)35-55(GL Biochem co.Ltd,Shanghai,China)の乳濁液を、以下のように調製した:熱殺菌M.tuberculosis株H37RA(Sigma)をCFAに添加し、最終濃度を4mg/mLにした。その後、2mg/mLのMOG 35~55を、等量の改変CFAで乳化した。毛を剃ったマウスの背中の一箇所にこの乳濁液を皮下(SC)注射することによってEAEを誘導した後、0日目及びMOG免疫後48時間の時点で、PBS中のBordetella pertussis毒素(Sigma)を腹腔内注射した。
【0123】
測定:
疾患症状の発症から28日目まで、体重を毎日測定した。EAEを、免疫後0日目から28日目に、1日1回マウスの臨床スコアリングにより評価した(表1)。死んだ動物には臨床スコア5を与え、動物の死ぬ前の最終重量測定値を最終体重として記録した。
【0124】
表1:EAE臨床スコア
【表1】
【0125】
以下の計算は、臨床スコアの生データから導き出された:
最大スコアの平均値:
分析の指定日までの特定のグループ内の各マウスについて記載された最高スコアの平均値である。
平均疾患期間:
(各マウスについての分析の日-疾患発症日)の合計/(1グループ当たりのマウスの数)
平均発症日:
各マウスの疾患発症の日の合計/1グループあたりのマウスの数
臨床スコアの曲線下面積(AUC):
マイクロソフトエクセルを用いて計算され、疾患負荷を表す。
【0126】
実験計画:
EAEモデルの実験計画を表2に詳述する(各グループにおいてn=10)。
【0127】
表2:実験計画
【表2】
【0128】
統計解析:各データセットを、一要因分散分析(ANOVA)、続いて、不等分散を仮定する両側二標本スチューデントT検定、n=10/グループ、+/-標準誤差を用いて解析した。
【0129】
結果
試験物の最初の注射から28日まで計算された試験結果を、表3及び図1~5に記載する。
細胞の表現型
【表3】
【0130】
表3:EAEに対するGAデポー及びADSCの効果
【表4】
【0131】
統計解析を以下に詳述する。
表4:平均臨床スコアの統計解析(図4
【表5】
表5:平均臨床スコアの統計解析(図5
【表6】
【0132】
対照と比較してより低い平均最大スコア及び臨床スコアのAUCによって反映されるように、ADSC単独は、最大疾患スコア及び疾患負荷に対する有益な効果を示した。疾患スコアに対する有益な効果は、20日目付近でのみ始まった。ADSC単独は、対照と比較して疾患発症に対する効果を示さなかった。
【0133】
GAデポー2mg/10mg単独は、対照と比較して疾患の発症に対して有益な効果を示した。デポー単独は、最大疾患スコア又は疾患負荷に対する効果を示さなかった。
【0134】
ADSCとGAデポー2mg/10mgの組み合わせは、対照と比較して最大疾患スコア及び疾患負荷に対して有益な効果を示し、疾患の発症を遅らせた。重要なことに、これらの組み合わせは、全ての他のグループと比較して、いくつかの時点で実験を通して臨床スコアのより遅い増加(すなわち、より遅い疾患進行)を示し、成分間の相乗作用を示した。予想外に、ADSCとより低い用量のGAデポー(2mgデポー)の組み合わせは、特にこの点で有益であった。
【0135】
実験データは、ICV注射されるADSCと共に、IM注射されるGAデポーの明確な利点を示す。GAデポーとADSCの併用は、EAE症状の減衰に対して長期的な効果をもたらし、疾患負荷の大幅な低減につながった。
【0136】
実施例2-ADSCの用量応答
MOG誘発性EAEにおけるADSCの細胞用量治療効果を評価するために(上記のように)、異なる量(1×10又は2×10)のADSCを単独で、又は2mgのGAデポーのIM注射と組み合わせて、ICV投与のために使用した。実験計画を表6に詳述する(各グループにおいてn=10)。
【0137】
表6:実験計画
【表7】
【0138】
結果
試験物の最初の注入から28日まで計算した試験結果を図6~10に記載する。
【0139】
細胞用量効果が観察され、より高い用量の2×10細胞は、疾患負荷及び疾患スコアの低減において1×10用量よりも効果的であった。
【0140】
重要なことに、ADSCとGAデポーの組み合わせは、全ての他のグループと比較して、疾患の発症及びより遅い疾患進行において有意な遅延と共に明確な相乗効果を示した。
【0141】
実施例3-ADSCの細胞表面マーカーの分析
表7~15に、上記の実施例1に記載したように調製し、1~5回継代したADSCの9つの試料のFACS分析をまとめる。表16~17及び図11は、平均値+標準偏差(「StDev」)の値を示す。表及び図に見られるように、マーカーは、P3の後に安定化される。継代数P3~P4は、約14以下の集団倍加と同等である。
【0142】
表7
【表8】
【0143】
表8
【表9】
【0144】
表9
【表10】
【0145】
表10
【表11】
【0146】
表11
【表12】
【0147】
表12
【表13】
【0148】
表13
【表14】
【0149】
表14
【表15】
【0150】
表15
【表16】
【0151】
表16-平均
【表17】
【0152】
表17-標準偏差
【表18】
【0153】
本発明を具体的に記載してきたが、当業者なら、多くの変形及び改変がなされ得ることを理解する。したがって、本発明は、具体的に記載された実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、本発明の範囲及び概念は、以下の添付の特許請求の範囲を参照することにより容易に理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11