IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランドの特許一覧

特許7000501大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法
<>
  • 特許-大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法 図1
  • 特許-大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法 図2
  • 特許-大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法 図3
  • 特許-大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法 図4
  • 特許-大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法 図5
  • 特許-大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法 図6
  • 特許-大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法 図7
  • 特許-大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】大型2ストロークユニフロー掃気ガス燃料エンジン、及び、燃焼室の状態を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20220112BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20220112BHJP
   F02D 19/02 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
F02M21/02 311D
F02M21/02 311F
F02D13/02 A
F02D19/02 F
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020098065
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2020200831
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】PA201970370
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】イェンスン キム
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン マーク
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特許第5452730(JP,B2)
【文献】特開2005-048692(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114482(WO,A1)
【文献】特開2015-132206(JP,A)
【文献】特開2011-220121(JP,A)
【文献】特開2017-133464(JP,A)
【文献】特開2014-020276(JP,A)
【文献】特開2014-206127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 25/00
F02M 21/00
F02B 43/00
F02D 13/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス運転モードにおいて主燃料としてガス燃料で動作する大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関であって、
それぞれシリンダライナ、ピストン、シリンダカバーで画定される複数の燃焼室と;
前記燃焼室に掃気を導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナの下部領域に配される掃気ポートと;
前記シリンダカバーの中央部に配され、排気弁により制御される排気排出口と;
可変タイミング排気弁駆動システムと;
前記機関に関連付けられる少なくとも一つのコントローラと;
を備え、前記少なくとも一つのコントローラは、機関の動作条件に関わらず、前記燃焼室内の状態が、圧縮中に、プレイグニッションに向かうような状態に進んだり、ミスファイアに向かうような状態に進んだりしないように、
前記可変タイミング排気弁駆動システムを用いて前記排気弁の開閉タイミングを決定及び制御し;
前記ピストンの上昇ストロークの間に前記燃焼室に導入されるガス燃料の量を決定及び制御し;
前記燃焼室の平均圧縮空気過剰率を決定又は測定し;
燃焼開始時における前記燃焼室のバルク圧縮温度を決定又は測定し;
運転条件依存値である圧縮空気過剰率下閾値、圧縮空気過剰率上閾値、バルク圧縮温度下閾値、バルク圧縮温度上閾値を決定し;
前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率下閾値を下回る場合、圧縮空気過剰率を上げるための少なくとも一つの方策を実行し;
前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率上閾値を上回る場合、圧縮空気過剰率を下げるための少なくとも一つの方策を実行し;
前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための少なくとも一つの方策を実行し;
前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための少なくとも一つの方策を実行する;
ように構成される、機関。
【請求項2】
前記少なくとも一つのコントローラは、前記燃焼室内の瞬間的な平均圧縮空気過剰率を決定する圧縮空気過剰率観測手段を備えるか、そのような圧縮空気過剰率観測手段に接続される、請求項1に記載の機関。
【請求項3】
前記少なくとも一つのコントローラは、前記燃焼室の瞬間的なバルク圧縮温度を決定するバルク圧縮温度観測手段を備えるか、そのようなバルク圧縮温度観測手段に接続される、請求項1又は2に記載の機関。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の機関であって、前記圧縮空気過剰率を上げるための少なくとも一つの方策は、次に掲げる方策から選択される:
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを早くすること;
・ 掃気バイパス弁を有する掃気バイパスを備える機関である場合、前記掃気バイパス弁を閉じるか、該掃気バイパス弁の絞りを強くすること;
・ ホットシリンダバイパス制御弁を有するホットシリンダバイパスを備える機関である場合、前記ホットシリンダバイパス制御弁を開けるか、該ホットシリンダバイパス制御弁の絞りを弱くすること;
・ 補助ブロワを備える機関である場合、前記補助ブロワをアクティブにすること;
・ 可変ジオメトリタービンを備える機関である場合、有効タービン流路面積を減少させること;
・ ターボ過給機アシストを備える機関である場合、ターボ過給機の速度を増すこと。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の機関であって、前記圧縮空気過剰率を下げるための少なくとも一つの方策は、次に掲げる方策から選択される:
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを遅くすること;
・ コールド掃気バイパスを備える機関である場合、コールド掃気バイパス弁を開けるか、該コールド掃気バイパス制御弁の絞りを弱くすること;
・ 排気バイパスを備える機関である場合、排気バイパス制御弁を開けるか、該排気バイパス制御弁の絞りを弱くすること;
・ 排気再循環管を備える機関である場合、該排気再循環管の排気再循環ブロワをアクティブにするか、該排気再循環ブロワの回転数を上げること;
・ 可変ジオメトリタービンを備える機関である場合、有効タービン流路面積を増大させること;
・ 液体燃料着火システムを備える機関である場合、ガス燃料の割合を減らすこと、及び、液体燃料の割合を増やすこと;
・ 前記排気弁とターボ過給機入口の間に熱交換器を有する機関である場合、前記熱交換器で排気から抽出する熱量を増やすこと;
・ ターボ過給機アシストを備える機関である場合、ターボ過給機のアシストを減らすこと。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の機関であって、前記バルク圧縮温度を上げるための少なくとも一つの方策は、次に掲げる方策から選択される:
・ コールドシリンダバイパス制御弁を有するコールドシリンダバイパスを備える機関である場合、前記コールドシリンダバイパス制御弁を開けるか、該コールドシリンダバイパス制御弁の絞りを弱くすること;
・ ホットシリンダバイパス制御弁を有するホットシリンダバイパスを備える機関である場合、前記ホットシリンダバイパス制御弁を開けるか、該ホットシリンダバイパス制御弁の絞りを弱くすること;
・ 掃気冷却器バイパス制御弁を有する掃気冷却器バイパスを備える機関である場合、前記掃気冷却器バイパス制御弁を開けるか、該掃気冷却器バイパス弁の絞りを弱くすること;
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを早くすること。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の機関であって、前記バルク圧縮温度を下げるための少なくとも一つの方策は、次に掲げる方策から選択される:
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを変えることを一時的に抑制すること;
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを遅くすること;
・ ホットシリンダバイパスを備える機関である場合、ホットシリンダバイパス制御弁を閉じるか、該ホットシリンダバイパス制御弁を絞ること;
・ 補助ブロワを備える機関である場合、前記補助ブロワをアクティブにすること;
・ ウォーターインジェクションを備える機関である場合、圧縮行程中に燃焼室に水を噴射すること。
【請求項8】
前記少なくとも一つのコントローラは、前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、前記圧縮空気過剰率下閾値より低い最低圧縮空気過剰率閾値を下回る場合、圧縮空気過剰率を上げるための更なる方策を実行するように構成される、請求項1から7のいずれかに記載の機関。
【請求項9】
前記少なくとも一つのコントローラは、前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、前記圧縮空気過剰率上閾値より高い最大圧縮空気過剰率閾値を上回る場合、圧縮空気過剰率を下げるための更なる方策を実行するように構成される、請求項1から8のいずれかに記載の機関。
【請求項10】
前記少なくとも一つのコントローラは、前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、前記バルク圧縮温度下閾値より低い最低バルク圧縮温度閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための更なる方策を実行するように構成される、請求項1から9のいずれかに記載の機関。
【請求項11】
前記少なくとも一つのコントローラは、前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、前記バルク圧縮温度上閾値より高い最大バルク圧縮温度閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための更なる方策を実行するように構成される、請求項1から10のいずれかに記載の機関。
【請求項12】
ガス運転モードにおいて主燃料としてガス燃料で動作する大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関を制御する方法であって、前記機関は、
それぞれシリンダライナ、ピストン、シリンダカバーで画定される複数の燃焼室と;
前記燃焼室に掃気を導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナの下部領域に配される掃気ポートと;
前記シリンダカバーの中央部に配され、排気弁により制御される排気排出口と;
可変タイミング排気弁駆動システムと;
前記機関に関連付けられる少なくとも一つのコントローラと;
を備え、
機関の動作条件に関わらず、前記燃焼室内の状態が、圧縮中に、プレイグニッションに向かうような状態に進んだり、ミスファイアに向かうような状態に進んだりしないように、前記少なくとも一つのコントローラによって、
前記可変タイミング排気弁駆動システムを用いて前記排気弁の開閉タイミングを決定及び制御することと;
前記ピストンの上昇ストロークの間に前記燃焼室に導入されるガス燃料の量を決定及び制御することと;
前記燃焼室の平均圧縮空気過剰率を決定又は測定することと;
燃焼開始時における前記燃焼室のバルク圧縮温度を決定又は測定することと;
運転条件依存値である圧縮空気過剰率下閾値、圧縮空気過剰率上閾値、バルク圧縮温度下閾値、バルク圧縮温度上閾値を決定することと;
前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率下閾値を下回る場合、圧縮空気過剰率を上げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率上閾値を上回る場合、圧縮空気過剰率を下げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ガス燃料を使用する大型2ストローク内燃機関に関し、特に、シリンダライナに配される燃料弁から噴射されるガス燃料によって運転される、クロスヘッド式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関に関する。
【背景】
【0002】
クロスヘッド式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関は、例えば大型船舶の推進システムや、発電プラントの原動機として用いられる。この大型2ストロークエンジンのサイズは巨大である。サイズが巨大であることだけが理由ではないが、この大型2ストロークエンジンは、他の内燃機関とは異なる構造を有する。例えば排気弁の重量は400kgに達することもあり、ピストンの直径も100cmに達することがある。運転中における燃焼室の最大圧力は、典型的には数百barになる。このような高い圧力レベルとピストンサイズから生まれる力は莫大なものである。
【0003】
大型2ストロークターボ過給式内燃機関には、シリンダライナの長手方向中央付近に設けられる燃料弁から導入されるガス燃料で運転されるタイプのものがある。このタイプのエンジンにおいて、ガス燃料は、ピストンの上昇ストロークの途中であって、排気弁が閉じるかなり前に、シリンダ内に導入される。エンジンは、燃焼室内においてガス燃料と掃気との混合物を圧縮し、圧縮された混合気を上死点(TDC)又はその付近で同期着火手段(例えばパイロット油着火手段)によって点火する。
【0004】
大型2ストロークターボ過給式内燃機関において、ピストンが上死点(TDC)又はその付近でガス燃料を噴射する場合、燃焼室内の圧縮圧力はほぼ最大になっている。それに比べると、シリンダライナに配される燃料弁を用いる上記のタイプのガス導入は、燃焼室の圧力が比較的低い時にガス燃料を噴射するため、かなり低い燃料噴射圧力を用いることができるという利点を有する。TDC又はその付近でガス燃料を噴射するタイプのエンジンの場合、既にほぼ最大圧力となっている燃焼室の圧力よりも、更に十分に高い燃料噴射圧力を実現しなければならない。このような極めて高い圧力でガス燃料を扱うことができる燃料システムは、高価かつ複雑である。その理由には、ガス燃料の揮発性や高圧下の挙動があり、それによって燃料システムの鋼部材の中に(又はそれらを通じて)拡散していくことがある。
【0005】
このため、圧縮ストロークの途中にガス燃料を噴射するエンジンの燃料供給システムは、TDC又はその付近でガス燃料を噴射するエンジンのものに比べて、コストがずっと低い。
【0006】
しかし、圧縮ストロークの途中にガス燃料を噴射する場合、ピストンは、ガス燃料と掃気の混合物を圧縮することになるが、これには異常早期着火(プレイグニッション)の危険性を伴う。非常に薄い混合気で運転することにより、プレイグニッションの危険性を減少させることができる。しかし、薄い混合気を用いると、ミスファイアの危険性が増大する。
【0007】
このため、上記のような大型2ストロークターボ過給型内燃機関において、プレイグニッションやディーゼルノックの問題を解消または少なくとも減少させるために、圧縮中の燃焼室の状態の制御を改善することの必要性が存在する。プレイグニッションやミスファイアが発生することを防ぐためには、燃焼室の状態を非常に的確に制御することが必要になる。
【0008】
エンジンが定常状態で運転されているとき、エンジンのパフォーマンス設計は通常、プレイグニッションが発生しないようになされている。これは、燃焼室の設計や燃料噴射のタイミング、排気弁のタイミングを、注意深く選択することによって達成されている。しかし、熱帯において運転するという条件や、(エンジンが定常運転していないなどの)その他の外部要因は避けられず、そのような場合、燃焼室の状態が、プレイグニッションやミスファイアを誘導してしまうことがある。
【0009】
EP2634398は、主燃料として燃料ガスで運転される2ストロークエンジンを開示している。そのクレーム1には、シリンダ内の空燃比を計算する空燃比コントローラを用い、複数のシリンダに供給される空気流量を調整することで、平均空燃比を制御することが記載されている。またこの空燃比コントローラは、各シリンダの空燃比を計算し、排気弁の閉鎖タイミングを調整することで、空燃比を制御することも記載されている。空燃比は上限閾値及び下限閾値の間に保たれる。しかしこれでは、全ての運転条件においてプレイグニッションを防止するには不十分である。
【摘要】
【0010】
上述の課題を解決するか又は少なくとも緩和する、エンジン及び方法を提供することが目的の一つである。
【0011】
この目的やその他の目的が、本願の実施形態により達成される。具体的な実装形態も、発明の詳細な説明や図面から明らかになる。
【0012】
第1の側面によれば、次のエンジンが提供される。
【0013】
ガス運転モードにおいて主燃料としてガス燃料で動作する大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関であって、それぞれシリンダライナ、ピストン、シリンダカバーで画定される複数の燃焼室と、前記燃焼室に掃気を導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナに配される掃気ポートと、前記シリンダカバーに配され、排気弁により制御される排気排出口と、可変タイミング排気弁駆動システムと、前記機関に関連付けられる少なくとも一つのコントローラとを備え、前記少なくとも一つのコントローラは、
前記排気弁の開閉タイミングを決定及び制御し;
前記燃焼室に導入されるガス燃料の量を決定及び制御し;
前記燃焼室の平均圧縮空気過剰率(average compression air excess ratio)を決定又は測定し;
燃焼開始時における前記燃焼室のバルク圧縮温度(bulk compression temperature)を決定又は測定し;
前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率下閾値を下回る場合、圧縮空気過剰率を上げるための少なくとも一つの方策を実行し;
前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率上閾値を上回る場合、圧縮空気過剰率を下げるための少なくとも一つの方策を実行し;
前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための少なくとも一つの方策を実行し;
前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための少なくとも一つの方策を実行する;
ように構成される、機関。
【0014】
バルク圧縮温度や空燃比を調整する動作を行うことにより、バルク圧縮温度及び圧縮空気過剰率を上下の閾値の間に維持するコントローラを大型2ストローク機関に提供することによって、圧縮中の燃焼室の状態が、プレイグニッションに向かうような状態に進んだり、ミスファイアに向かうような状態に進んだりしないようにされる。このため、上に定義されるようなコントローラを備える大型2ストローク機関は、事実上運転条件に関わらず、プレイグニッションやミスファイアの危険性なしに運転されることができる。
【0015】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記少なくとも一つのコントローラは、燃焼室の瞬間的な平均圧縮空気過剰率を決定する圧縮空気過剰率観測手段を備えるか、そのような圧縮空気過剰率観測手段に接続される。
【0016】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記少なくとも一つのコントローラは、燃焼室の瞬間的なバルク圧縮温度を決定するバルク圧縮温度観測手段を備えるか、そのようなバルク圧縮温度に接続される。
【0017】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記圧縮空気過剰率下閾値、前記圧縮空気過剰率上閾値、前記バルク圧縮温度下閾値、前記バルク圧縮温度上閾値は、いずれもエンジン負荷に依存するパラメータである。
【0018】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記圧縮空気過剰率を上げるための少なくとも一つの方策は、次に掲げる方策から選択される。
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを早くすること。
・ 掃気バイパスを備える機関である場合、前記掃気バイパスを閉じるか、該掃気バイパスの絞りを強くすること。
・ ホットシリンダバイパスを備える機関である場合、ホットシリンダバイパス制御弁を開けるか、該ホットシリンダバイパス制御弁の絞りを弱くすること。
・ 補助ブロワを備える機関である場合、前記補助ブロワをアクティブにすること。
・ 可変ジオメトリタービンを備える機関である場合、有効タービン流路面積を減少させること。
・ ターボ過給機アシストを備える機関である場合、ターボ過給機の速度を増すこと。
・ 排気再循環系を備える機関である場合、排気再循環ブロワの回転数を下げること。
・ ガス燃料及び液体燃料の両方で動作する機関である場合、液体燃料の割合を増すこと。
【0019】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記圧縮空気過剰率を下げるための少なくとも一つの方策は、次に掲げる方策から選択される。
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを遅くすること。
・ 掃気バイパスを備える機関である場合、前記掃気バイパスを開けるか、該掃気バイパス制御弁の絞りを弱くすること。
・ 排気再循環系を備える機関である場合、排気再循環管の排気再循環ブロワをアクティブにするか、該排気再循環ブロワの回転数を上げること。
・ 排気バイパスを備える機関である場合、排気バイパス制御弁を開けるか、該排気バイパス制御弁の絞りを弱くすること。
・ 可変ジオメトリタービンを備える機関である場合、有効タービン流路面積を増大させること。
・ 液体燃料着火システムを備える機関である場合、ガス燃料の割合を減らすこと、及び、液体燃料の割合を増やすこと。
・ ターボ過給機アシストを備える機関である場合、ターボ過給機のアシストを減らすこと。
【0020】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記バルク圧縮温度を上げるための少なくとも一つの方策は、次に掲げる方策から選択される。
・ シリンダバイパスを備える機関である場合、前記シリンダバイパスを開けるか、該シリンダバイパス制御弁の絞りを弱くすること。
・ ホットシリンダバイパスを備える機関である場合、ホットシリンダバイパス制御弁を開けるか、該ホットシリンダバイパス制御弁の絞りを弱くすること。
・ コールドシリンダバイパスを備える機関である場合、コールドシリンダバイパス制御弁を開けるか、該コールドシリンダバイパス制御弁の絞りを弱くすること。
・ 掃気冷却器バイパスを備える機関である場合、前記掃気冷却器バイパス制御弁を開けるか、該掃気冷却器バイパスの絞りを弱くすること。
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを早くすること。
【0021】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記バルク圧縮温度を下げるための少なくとも一つの方策は、次に掲げる方策から選択される。
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを変えることを一時的に抑制すること。
・ 前記排気弁を閉じるタイミングを遅くすること。
・ ホットシリンダバイパスを備える機関である場合、ホットシリンダバイパス制御弁を閉じるか、該ホットシリンダバイパス制御弁を絞ること。
・ 補助ブロワを備える機関である場合、前記補助ブロワをアクティブにすること。
・ ウォーターインジェクションを備える機関である場合、圧縮行程中に燃焼室に水を噴射すること。
【0022】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記少なくとも一つのコントローラは、前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、前記圧縮空気過剰率下閾値より低い最低圧縮空気過剰率閾値を下回る場合、圧縮空気過剰率を上げるための更なる方策を実行するように構成される。
【0023】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記少なくとも一つのコントローラは、前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、前記圧縮空気過剰率上閾値より高い最大圧縮空気過剰率閾値を上回る場合、圧縮空気過剰率を下げるための更なる方策を実行するように構成される。
【0024】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記少なくとも一つのコントローラは、前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、前記バルク圧縮温度下閾値より低い最低バルク圧縮温度閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための更なる方策を実行するように構成される。
【0025】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記少なくとも一つのコントローラは、前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、前記バルク圧縮温度上閾値より高い最大バルク圧縮温度閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための更なる方策を実行するように構成される。
【0026】
前記第1の側面の実装形態の一例において、加圧ガス燃料の供給部から燃料導入弁を通じて供給されるガス燃料を前記燃焼室に導入するために、前記シリンダライナに一つ又は複数のガス燃料導入孔が配される。
【0027】
前記第1の側面の実装形態の一例において、ガス運転モードにおいて、燃焼室で混合気を着火するために、液体燃料が噴射される。
【0028】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関は、液体燃料を運転モードにおいて、液体燃料で運転されるように構成される。
【0029】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記圧縮空気過剰率は重量に基づく比率である。
【0030】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、前記圧縮空気過剰率下閾値より高くなった場合、圧縮空気過剰率を上げるための前記少なくとも一つの方策を実行することを停止する。
【0031】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、前記圧縮空気過剰率上閾値より低くなった場合、圧縮空気過剰率を下げるための前記少なくとも一つの方策を実行することを停止する。
【0032】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、前記バルク圧縮温度下閾値より高くなった場合、バルク圧縮温度を上げるための前記少なくとも一つの方策を実行することを停止する。
【0033】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは、前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、前記バルク圧縮温度上閾値より低くなった場合、バルク圧縮温度を下げるための前記少なくとも一つの方策を実行することを停止する。
【0034】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記コントローラは、既定のルックアップテーブルに従って、前記排気弁駆動システム及び前記燃料導入弁を制御する。このルックアップテーブルは、機関の負荷に応じた排気弁の開閉タイミングを示し、また、機関の負荷に応じた燃料導入弁の開閉を示す。
【0035】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記ガス導入孔は、前記シリンダライナの長手方向のおよそ中央部に配される。
【0036】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関はユニフロー掃気機関である。
【0037】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記ガス導入孔は前記シリンダライナの中心部に向けられており、前記掃気ボートの上端部より上に位置している。
【0038】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関は着火を行うための着火システムを有する。前記着火システムは前記電子制御ユニットにより制御される。前記着火システムは、好ましくはTDC又はその付近で前記電子制御ユニットにより制御されて着火を開始する。前記着火システムは、例えばレーザー着火システムのような、電子着火システムであってもよい。前記着火システムは又は、液体着火システムを備えていてもよい。前記コントローラが着火を開始すべきと判断すると、前記液体着火システムは液体燃料を着火するように電子的に制御される。前記着火システムは、液体燃料が噴射されるプレチャンバを有していてもよい。
【0039】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記最低圧縮空気過剰率閾値、前記最大圧縮空気過剰率閾値、前記最低バルク圧縮温度閾値、前記最大バルク圧縮温度閾値は、いずれもエンジン動作条件に依存するパラメータである。例えばエンジン負荷、周囲温度、周囲湿度、エンジン回転数のような条件に依存するパラメータである。
【0040】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関は圧縮空気過剰率を決定する状態観測手段を備える。この状態観測手段は、機関の入力と出力の測定に基づいて燃焼室の圧縮空気過剰率の推定値を提供するシステムである。ある実施形態の一例において、空気過剰率を決定する前記状態観測手段は、コンピュータにより実装される。
【0041】
前記第1の側面の実装形態の一例において、前記機関はバルク圧縮温度を決定する状態観測手段を備える。この状態観測手段は、機関の入力と出力の測定に基づいて燃焼室のバルク圧縮温度の推定値を提供するシステムである。ある実施形態の一例において、バルク圧縮温度を決定する前記状態観測手段は、コンピュータにより実装される。
【0042】
第2の側面によれば、次の方法が提供される。
【0043】
ガス運転モードにおいて主燃料としてガス燃料で動作する大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関を制御する方法であって、
前記機関は、それぞれシリンダライナ、ピストン、シリンダカバーで画定される複数の燃焼室と、前記燃焼室に掃気を導入するための掃気ポートであって、前記シリンダライナに配される掃気ポートと、前記シリンダカバーに配され、排気弁により制御される排気排出口と、可変タイミング排気弁駆動システムと、前記機関に関連付けられる少なくとも一つのコントローラとを備え、前記少なくとも一つのコントローラによって、
前記排気弁の開閉タイミングを決定及び制御することと;
前記燃焼室に導入されるガス燃料の量を決定及び制御することと;
前記燃焼室の平均圧縮空気過剰率を決定又は測定することと;
燃焼開始時における前記燃焼室のバルク圧縮温度を決定又は測定することと;
前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率下閾値を下回る場合、圧縮空気過剰率を上げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
前記決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率上閾値を上回る場合、圧縮空気過剰率を下げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
前記決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための少なくとも一つの方策を実行することと;
を含む、方法。
【0044】
これらの側面及び他の側面は、以下に説明される実施例により更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、様々な側面や実施形態、実装例を詳細に説明する。
図1】ある例示的実施形態に従う大型2ストロークディーゼル機関の正面図である。
図2図1の大型2ストローク機関の側面図である。
図3図1の大型2ストローク機関の第1の略図表現である。
図4図1の機関のシリンダフレーム及びシリンダライナの断面図である。シリンダカバー及び排気弁が取り付けられており、TDC及びBDCにおけるピストンも描かれている。
図5図1の機関の第2の略図表現である。
図6】圧縮温度観測手段及び圧縮空気過剰率観測手段の略図表現である。
図7】横軸をバルクシリンダ温度、縦軸を圧縮空気過剰率としたグラフを描いたものである。安全なゾーンと、それを囲む、安全ゾーンに戻るために何らかのアクションが取られなければならないゾーンが示されている。
図8】大型2ストローク機関を制御する方法の実施例を描いた図である。
【詳細説明】
【0046】
以下の詳細説明では、実施例のクロスヘッド式大型低速2ストロークターボ過給式内燃機関を参照して、内燃機関が説明される。図1図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関の実施例を描いている。このエンジンは、クランクシャフト8及びクロスヘッド9を有する。図1は正面図、図2は側面図である。図3は、図1,2のターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この例において、エンジンは直列に4本のシリンダを有する。ターボ過給式大型低速2ストローク内燃機関は通常、直列に配される4本から14本のシリンダを有する。これらのシリンダはエンジンフレーム11に担持される。またこのようなエンジンは、例えば、船舶の主機関や、発電所において発電機を動かすための固定型のエンジンとして用いられることができる。エンジンの全出力は、例えば、1,000kWから110000kWでありうる。
【0047】
この実施例におけるエンジンは、2ストロークユニフロー掃気エンジンであり、シリンダライナ1の下部領域に掃気ポート18が設けられ、シリンダライナ1の頂部中央には排気弁4が配される。掃気は、ピストンが掃気ポート18より下にある時に、掃気受け2から各シリンダ1の掃気ポート18へと導かれる。ガス燃料は、電子制御部60の制御下でガス燃料噴射弁30から導入される。これは、ピストンの上昇ストロークの間であって、ピストンが燃料弁30を通過する前に行われる。燃料弁は好ましくはシリンダライナの円周に亘って等間隔に分布するように配される。また好ましくは、シリンダライナの長手方向の中央付近に配される。従って、ガス燃料の噴射/導入は、圧縮圧力が比較的低い時に行われる。つまり、ピストンがTDCに達するときの圧縮圧力に比べればずっと低いときに行われる。
【0048】
ピストン10はシリンダライナ1の中で、ガス燃料と掃気の混合物を圧縮する。圧縮が行われ、TDC又はその付近で着火が開始される。着火は例えば、パイロット油燃料弁50からパイロット油(又はその他の適切な着火液)を噴射することによって、開始されてもよい。パイロット油燃料弁50好ましくはシリンダカバー22に配される。その後燃焼が生じ、排気ガスが生成される。別の形態の着火システムでは、パイロット油の代わりに、又はパイロット油に加えて、プリチャンバやレーザー着火、グロープラグ(いずれも図示されていない)などを、着火を促すために使用するものもある。
【0049】
排気弁4が開くと、排気ガスは、シリンダ1に設けられる排気ダクトを通って排気受け3へと流れ、さらに第1の排気管19を通ってターボ過給器5のタービン6へと進む。そこから排気ガスは、第2の排気管25を通ってエコノマイザ20へ流れ、さらに出口21から大気中へと放出される。タービン6は、シャフトを介してコンプレッサー7を駆動する。コンプレッサー9には、空気取り入れ口12を通じて外気が供給される。コンプレッサー7は、圧縮された掃気を、掃気受け2に繋がっている掃気管13へと送り込む。管13の掃気は、掃気を冷却するためのインタークーラー14を通過する。
【0050】
冷却された掃気は、電気モーター17により駆動される補助ブロワ16を通る。補助ブロワ16は、ターボ過給器5のコンプレッサー7が掃気受け2に必要とされる圧力を供給することができない場合、すなわちエンジンが低負荷又は部分負荷である場合に、掃気流を圧縮する。機関の負荷が高い場合は、ターボ過給器のコンプレッサー7が、十分に圧縮された掃気を供給することができるので、補助ブロワ16は、逆止め弁15によってバイパスされる。
【0051】
図4には、クロスヘッド式大型2ストロークエンジンのために設計されたシリンダライナ1が図示されている。エンジンのサイズに応じて、シリンダライナ1は様々な大きさに作られる。典型的な大きさとしては、直径が250mmから1000mmであり、それに対応する全長が1000mmから4500mmである。
【0052】
図4には、シリンダライナ1はシリンダフレーム23に載置され、シリンダライナ1の上にはシリンダカバー22が搭載されている様子が描かれている。シリンダライナ1とシリンダカバー22とは、その間からガスの漏出が生じないように連結されている。図4において、その下死点(BDC)と上死点(TDC)におけるピストン10の様子が破線で示されている。なおもちろん、これら2つの状態が同時に生じる訳ではなく、これら2つの状態は、クランクシャフト8の回転角で180度隔てられている。シリンダライナ1には、シリンダ潤滑孔25及びシリンダ潤滑ライン24が設けられる。これらはピストン10が潤滑ライン24を通過する際にシリンダ潤滑油を供給する。続いて(図示されていない)ピストンリングが、シリンダライナの走行面全体にシリンダ潤滑油を行き渡らせる。
【0053】
パイロット油弁50又は、パイロット油弁50を有するプレチャンバは通常、シリンダカバー22に搭載される。パイロット油弁50通常、各シリンダに1つ搭載される。パイロット油弁50は、図示されないパイロット油のソースに接続されている。パイロット油の噴射タイミングは電子制御ユニット60により制御される。
【0054】
燃料弁30はシリンダライナ1に装備される。燃料弁30は、シリンダライナ1の内面と実質的に同じ面に位置するノズルを有する。また燃料弁30の後端はシリンダライナ1の外壁から飛び出ている。典型的には1つ又は2つ、多くても3つか4つの燃料弁30が、各シリンダライナ1に設けられる。これらはシリンダライナ1の円周域に等間隔に配置される。本実施例において、燃料弁30は、シリンダライナ1の長手方向のちょうど中央部に配されている。
【0055】
図4は、ガス燃料供給管41を通じて複数のガス燃料弁30のそれぞれの入口に接続される加圧ガス燃料源40を備えるガス燃料供給システムの略図を示している。
【0056】
図5は、図2の機関と同様の機関の略図表現であるが、機関のガス交換装置が詳細に描かれている。周囲と同様の気圧及び温度で外気が取り込まれ、空気入口12を通じてターボ過給機5のコンプレッサー7へと送り込まれる。コンプレッサー7からは、圧縮された掃気が、掃気管13を通じて分岐ポイント28へと送られる。
【0057】
分岐ポイント28は、掃気が、ホットシリンダバイパス管29を通じて第1の排気管19のタービン接続部32へと分岐することを可能にする。ホットシリンダバイパス管29の流量は、ホットシリンダバイパス制御弁31によって制御される。ホットシリンダバイパス制御弁31は、コントローラ60によって電子的に制御される。ホットシリンダバイパス29を開けること、又はホットシリンダバイパス制御弁31の絞りを緩くすることは、圧縮空気過剰率を上げるという効果を奏し、またバルク圧縮温度を上げるという効果を有する。一方、ホットシリンダバイパス29を閉じること、又はホットシリンダバイパス制御弁31の絞りを強くすることは、圧縮空気過剰率を下げるという効果を奏し、またバルク圧縮温度を下げるという効果を有する。
【0058】
掃気管13には、インタークーラー14の上流に第1の掃気制御弁33が設けられる。また、インタークーラー14の下流には第2の掃気制御弁34が設けられる。掃気管13は、掃気受け2へと接続している。インタークーラー14からは、補助ブロワ16を備える管が分岐している。
【0059】
コールドシリンダバイパス管35は、掃気受け2を、第1の排気管19のタービン接続部32に接続する。コールドシリンダバイパス管35の流量は、コールドシリンダバイパス制御弁36によって制御される。コールドシリンダバイパス制御弁36は、コントローラ60によって電子的に制御される。コールドシリンダバイパス35を開けること、又はコールドシリンダバイパス制御弁36の絞りを緩くすることは、バルク圧縮温度を上げるという効果を有する。
【0060】
コールド掃気バイパス管37は、掃気が、掃気管2から周囲環境26へと逃げることを可能にする。コールド掃気バイパス管37の流量は、コールド掃気バイパス制御弁38によって制御される。コールド掃気バイパス制御弁38は、コントローラ60によって電子的に制御される。コールド掃気バイパス制御弁39を開けること、又はコールド掃気バイパス制御弁38の絞りを緩くすることは、掃気圧を下げるという効果を有し、圧縮空気過剰率を下げるという効果を有する。コールド掃気バイパス管37は、掃気受け2から分岐する必要はなく、インタークーラー14の下流であれば掃気管13のどの位置から分岐してもよい。
【0061】
排気受け3と掃気受け2との間を排気再循環管42が接続している。排気再循環管42は、排気再循環制御弁45と、再循環排気ガスクーラー44と、再循環排気ガスブロワ43とを有する。再循環排気ガスブロワ43及び排気再循環制御弁45はいずれも、コントローラ60の電子制御の下で、排気再循環管42の流量を調節するために用いられる。通常運転条件の下では、再循環排気ガスブロワ43がアクティブになっていない限り、排気再循環管42には排気は流れない。しかし、排気受け3内の圧力は通常、掃気受け2内の圧力より低いからである。このため、再循環排気ガスブロワ43がアクティブでない場合、排気再循環制御弁45は閉じられていなければならない。排気再循環管42は、排気受け3に直接接続していなくともよく、第1の排気管19のどこかの位置に接続していてもよい。また排気再循環管42は、掃気受け2に直接接続していなくともよく、インタークーラー14の下流であれば、掃気管13のどこかの位置に接続していてもよい。
【0062】
排気再循環管42において、再循環排気ガスブロワ43をアクティブにするか、再循環排気ガスブロワ43の回転数を上げることは、圧縮空気過剰率を下げ、またバルク圧縮温度を少し低下させる。
【0063】
排気受け3又は第1の排気管19からは、排気バイパス管39が分岐しており、所与の背圧で周囲環境27に接続している。排気バイパス制御弁40は、コントローラ60の電子制御の下で、排気バイパス管39の流量を調節するために用いられる。
【0064】
排気バイパス制御弁39を開けること、又は排気バイパス制御弁40の絞りを緩くすることは、シリンダ内の圧縮空気過剰率を下げる。
【0065】
選択触媒還元(SCR)リアクタ及びリアクタバイパス弁を備える機関においては、排気受け3からターボ過給機5のタービン6への流量のうちSCRリアクタを通過する流量が、コントローラ60の電子制御の下で調節される。
【0066】
図5において、コントローラ60により制御される上述の全ての要素のコントローラ60への接続は、破線を用いて表現されている。
【0067】
図6は、圧縮空気過剰率観測手段46及びバルク圧縮温度観測手段47を説明するための図である。
【0068】
圧縮空気過剰率観測手段46は、コンピュータにより実装されるアルゴリズムであり、掃気圧力、排気弁閉弁タイミング、シリンダの幾何学的形状、理論空燃比、噴射されたガスの量、についての情報を用いる。圧縮空気過剰率観測手段46は、コントローラ60の一部として実装されてもよく、コントローラ60とは異なるコンピュータやコントローラとして実装されてもよい。圧縮空気過剰率観測手段46は、(完全に)圧縮された混合気(すなわちピストン10がTDCにあるときの混合気)についての圧縮空気過剰率の推定値を出力として提供し、これをコントローラ60に送る。この推定値は、排気弁4が着座している時に燃焼室に捕えられた外気の質量を、噴射されたガスの全質量を完全燃焼させるために必要な空気の質量で割った比に基づく値である。
【0069】
バルク圧縮温度観測手段47もコンピュータにより実装されるアルゴリズムであり、掃気圧力、掃気温度、排気弁閉弁タイミング、クランク軸速度、についての情報を用いる。バルク圧縮温度観測手段47も、コントローラ60の一部として実装されてもよく、コントローラ60とは異なるコンピュータやコントローラとして実装されてもよい。バルク圧縮温度観測手段47は、ガス噴射開始からパイロット噴射時までの時間ウィンドウにおける燃焼室の最大バルク圧縮温度の推定値であるTcomp(Tc)を、出力として提供する。バルク圧縮温度観測手段47は、この推定値をコントローラ60に提供する。実施例によっては、Tcompは、ピストン10がTDCにあるときの推定値をいう。
【0070】
図7は、バルク圧縮温度(Tcomp)と圧縮空気過剰率(λ)をグラフ化したものである。圧縮空気過剰率下閾値、圧縮空気過剰率上閾値、バルク圧縮温度下閾値、バルク圧縮温度上閾値で定められる境界内のゾーンは、通常運転ゾーン51である。この通常運転ゾーン51において、コントローラ60は 現在の機関負荷に必要な燃料を供給すればよく、バルク圧縮温度や圧縮空気過剰率を変えるための如何なる方策も取る必要がない。
【0071】
しかし、シリンダライナ1内の状態が変化し、通常運転ゾーン51から離れてアクションゾーン52に入ると、コントローラ60は、そのような事態が生じることを防ぐための方策を取る。
【0072】
この目的のため、コントローラ60は、次のように構成される。
・ 決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率下閾値を下回る場合、圧縮空気過剰率を上げるための少なくとも一つの方策(Compression Air Excess Ratio Increasing Measure; CAERIM)を実行する。
・ 決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率上閾値を上回る場合、圧縮空気過剰率を下げるための少なくとも一つの方策(Compression Air Excess Ratio Decreasing Measure; AERDM)を実行する。
・ 決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための少なくとも一つの方策(Bulk Compression Temperature Increasing Measure; BCTIM)を実行する。
・ 決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための少なくとも一つの方策(Bulk Compression Temperature Decreasing Measure; BCTDM)を実行する。
【0073】
これらの方策を取ることにより、コントローラ60は、シリンダライナ1内の状態を通常ゾーン51の中に保つようにする。シリンダライナ1内の状態が通常ゾーン51の外に出てアクションゾーン52に入ってしまうことは、一時的に過ぎないようにする。アクションゾーン52は、危険ゾーン53に囲まれている。危険ゾーン53は、プレイグニッションやミスファイアが生じる可能性が高いゾーンである。
【0074】
ゾーン51、52、53の境界は、バルク圧縮温度や圧縮空気過剰率の上の閾値や下の閾値によって定められる。これらの閾値は個々のエンジンに対して経験的・実験的に定めることができ、例えばトライ&エラーや、エンジンサイクルのコンピュータシミュレーションによって、定めることができる。
【0075】
バルク圧縮温度及び圧縮空気過剰率の両方が通常運転ゾーン51を逸脱していると、観測手段46,47が示している場合、コントローラ60は、シリンダライナの状態を通常運転ゾーン51内に戻すべく、バルク圧縮温度を通常運転ゾーン51に戻す方策及び圧縮空気過剰率を通常運転ゾーン51に戻す方策の両方を遂行する。
【0076】
排気バイパス制御弁40を調節して(排気バイパス制御弁40を開位置へと移動して)、排気バイパス(Exhaust Gas Bypass; EGB)管39を開けること(過給機タービンの入口からタービン出口又は外環境への流れを増やすこと)は、掃気圧の大幅な低下をもたらし、従って燃焼室に捕えられる空気質量を大幅に減少させる。このため、この方策は、圧縮空気過剰率を下げる方策として適切である。この方策は、バルク圧縮温度には軽微な影響しか及ぼさない。エンジンが複数のターボ過給機を有する場合でも、EGBを排気受けに接続することで、1つのEGBだけで足りる場合がある。ただし、排気受けへの複数の流れが適切に混合する場所を選んで接続する必要がある。
【0077】
ホットシリンダバイパス制御弁31を開けること(過給機コンプレッサー出口から過給機タービン入口への流れを増やすこと)は、燃焼室内の圧縮空気過剰率及びバルク圧縮温度の上昇をもたらす。
【0078】
掃気バイパス制御弁38を開けることは、掃気受け2からコンプレッサー入口または外環境への流れを生成する。これは、排気バイパスと質的に同様の効果を、圧縮空気過剰率にもたらす。しかし掃気プロセスには、(従って燃焼室のバルク圧縮温度には、)異なる影響を及ぼす。掃気バイパス制御弁38を開けることが燃焼室の状態に与える影響は、排気バイパスに比べて迅速に現れる。
【0079】
コールドシリンダバイパス36を開けることは、排気受けから過給機タービン入口への流れを増加させる。これは、バルク圧縮温度の上昇をもたらす。しかし、圧縮空気過剰率にはほとんど影響がない。
【0080】
排気弁閉弁タイミングは、燃焼室内の圧縮圧力と掃気圧の比を決定する。このタイミングを変化させることは、燃焼室内の圧縮空気過剰率及びバルク圧縮温度の両方に大きな影響を及ぼす。
【0081】
排気弁開弁タイミングは、燃焼室内の掃気プロセスの初期段階に影響を及ぼす。このタイミングを変化させることは、エンジン効率と掃気プロセスに影響を与える。掃気プロセスが変化すると、結果としてバルク温度も変化する。排気弁4が非常に早く開くと、ピストン10が掃気ポート18を開いたときに、掃気受け2への流れは生じない。排気弁4が非常に遅く開くと、ピストン10が掃気ポート18を開いたとき、掃気受け2への大きな流れが生じる。これらの方策は掃気プロセスを変化させ、燃焼によって生じた'汚れた・熱い'ガスが次の燃焼ストロークに混入する割合を変化させる。
【0082】
つまり、排気弁4を開けるタイミングを遅くするほど、前の燃焼から混入する'汚れた・熱い'ガスが多くなり、圧縮空気過剰率が低下してバルク圧縮温度は上昇する。また、排気弁4を早く開けるほど、前の燃焼から混入する'汚れた・熱いガスが減って、圧縮空気過剰率が増加してバルク圧縮温度は低下する。排気弁4を早く閉じて圧縮圧力を高くすると、排気弁4から流出するガスの量が減り、多くのガスが燃焼室に留まる。これは、空気過剰率を増やす。圧縮圧力が高いと、燃焼室内でピストン10によってガスになされる圧縮のための仕事量が増加する。このことは、燃焼室内のガスの温度を上昇させる。
【0083】
排気再循環の流量を増やすことは、排気受け3から過給機コンプレッサー出口(又は掃気受け)への排気の流量を増やす。排気再循環の流量は、排気再循環ブロワ43をアクティブにするか、排気再循環ブロワ43の回転速度を上げることによって、増やすことができる。排気再循環の流量が増えると、圧縮空気過剰率は下がり、燃焼室中のバルク圧縮温度も少し低下する。
【0084】
補助ブロワ16の回転速度を上げると、燃焼室の圧縮空気過剰率が少し上昇し、バルク圧縮温度が低下する。
【0085】
ウォーターインジェクションを備える機関である場合、圧縮行程中に燃焼室に水を噴射することは、バルク圧縮温度を低下させる。
【0086】
掃気クーラーバイパス(図示されていない):インタークーラー14をバイパスさせることは、燃焼室のバルク圧縮温度を大きく上昇させる。一方、圧縮空気過剰率には小さな影響しか与えない。
【0087】
可変ジオメトリタービン6を備えるエンジンにおいて、タービン流路面積(turbine flow area)を減少させることは、掃気圧力の低下をもたらし、そのため燃焼室で捕えられる空気質量を減少させる。このためこの方策は、圧縮空気過剰率を下げる方策として適切である。この方策は、バルク圧縮温度には軽微な影響しか及ぼさない。
【0088】
ターボ過給機アシストを備えるエンジンの場合、アシストを強くしてターボ過給機5の速度を上げることは、圧縮空気過剰率の上昇をもたらす。この方策は、圧縮温度には軽微な影響しか及ぼさない。
【0089】
ガス燃料と液体燃料(例えば船舶用ディーゼル油)の比を変えることも、方策の一つとなる。噴射される全燃料エネルギー中のガス燃料の割合を少なくすると、圧縮空気過剰率が上昇する。ガス燃料の割合が少なくなることに対応して液体燃料の割合が増えるが、それによってクランク軸トルクが維持されることが確かとなる。
【0090】
排気受け内に熱交換器が搭載されるエンジンの場合(又は排気ガスの一部を受け取る熱交換器を有するエンジンの場合)、熱交換器を通る排気ガスの量を増やすこと、すなわち排気ガスから多くの熱を抽出することは、掃気圧の低下をもたらし、従って、燃焼室に捕えられる空気量が減少する。このためこの方策は、圧縮空気過剰率を下げる方策として適切である。この方策は、バルク圧縮温度には軽微な影響しか及ぼさない。熱交換器は蒸気の生成に使用されうる。
【0091】
ホット掃気バイパスを備えるエンジンの場合、ホット掃気バイパス制御弁を開けることは、コンプレッサー出口から外環境またはコンプレッサー入口への流れを生成又は増加させる。これは、掃気圧力を大きく低下させる。従って、燃焼室に捕えられる空気量が減少する。このためこの方策は、圧縮空気過剰率を下げる方策として適切である。この方策は、バルク圧縮温度には軽微な影響しか及ぼさない。
【0092】
ある実施例において、圧縮空気過剰率下閾値、圧縮空気過剰率上閾値、バルク圧縮温度下閾値、バルク圧縮温度上閾値は、いずれもエンジン動作条件に依存するパラメータである。エンジン動作条件は、エンジン負荷、周囲温度、周囲湿度、エンジン速度等のパラメータによって決定される。これらの動作条件パラメータは、例えばルックアップテーブルやアルゴリズム、これらの組み合わせ等を通じてコントローラ60が利用可能である。
【0093】
実施例によっては、コントローラ60は次のよう構成される。
・ 決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率下閾値より低い最低圧縮空気過剰率閾値を下回る場合、圧縮空気過剰率を上げるための更なる方策を実行する。この更なる方策は、例えば上述の方策から選択されたものであってもよい。
・ 決定又は測定した平均圧縮空気過剰率が、圧縮空気過剰率上閾値より高い最大圧縮空気過剰率閾値を上回る場合、圧縮空気過剰率を下げるための更なる方策を実行する。
・ 決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度下閾値より低い最低バルク圧縮温度閾値を下回る場合、バルク圧縮温度を上げるための更なる方策を実行する。
・ 決定又は測定したバルク圧縮温度が、バルク圧縮温度上閾値より高い最大バルク圧縮温度閾値を上回る場合、バルク圧縮温度を下げるための更なる方策を実行する。
【0094】
これら更なる方策が取られるのは、燃焼室の状態がアクションゾーン52から、アクションゾーンを囲む危険ゾーンに移動したときである。コントローラ60は、燃焼室の状態をアクションゾーン52に戻し、更に通常運転ゾーン51に戻すために、できるだけ多くの必要なアクションを取るように構成される。
【0095】
コントローラ60は、エンジンの動作状態を通常運転ゾーン51に戻すためのアクションを取ることは、(すなわち上述の方策を取ることは、)最小限にするように構成される。従ってコントローラ60は、燃焼室の状態が通常運転ゾーンに戻ったときには、上述の全て方策を停止するように構成される。
【0096】
図8は、コントローラ60の上述の構成に従ってエンジンを動作させる処理を説明するためのフローチャートである。
【0097】
処理が開始すると、コントローラは、圧縮空気過剰率が下閾値より低いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラは、圧縮空気過剰率が上閾値を逸脱しているかの調査に進む。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、圧縮空気過剰率を上昇させるための上述の方策のうちの一つを実行し、圧縮空気過剰率が最低閾値より低いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラは、圧縮空気過剰率が上閾値を逸脱しているかの調査に進む。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、圧縮空気過剰率を上昇させるための上述の方策を更に実行し、圧縮空気過剰率が上閾値を逸脱しているかの調査に進む。
【0098】
コントローラ60は、圧縮空気過剰率が上閾値より高いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラは、バルク圧縮温度が下閾値を逸脱しているかの調査に進む。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、圧縮空気過剰率を下げるための上述の方策のうちの一つを実行し、圧縮空気過剰率が最大閾値より高いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラは、コントローラは、バルク圧縮温度が下閾値を逸脱しているかの調査に進む。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、圧縮空気過剰率を上げるための上述の方策を更に実行し、バルク圧縮温度が下閾値を逸脱しているかの調査に進む。
【0099】
コントローラ60は、バルク圧縮温度が下閾値より低いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラは、次のステップであるバルク圧縮温度が上閾値より高いかどうかの調査に進む。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度を上昇させるための方策を実行し、バルク圧縮温度が最低閾値より低いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラ60の処理は、バルク圧縮温度が上閾値より高いかどうかを調査するステップに進む。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度を上昇させるための上述の方策を実行し、バルク圧縮温度が上閾値を逸脱しているかを調査するステップに進む。
【0100】
コントローラ60は、バルク圧縮温度が上閾値を逸脱しているかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラ60は、圧縮空気過剰率が下閾値より低いかどうかを調査するステップに戻る。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度を下げるための上述の方策のいずれかを実行する。次にコントローラ60は、バルク圧縮温度が最大閾値より高いかどうかを調査する。調査の結果がNoである場合、コントローラ60は、圧縮空気過剰率が下閾値より低いかどうかを調査するステップに戻る。調査の結果がYesである場合、コントローラ60は、バルク圧縮温度を下げるための上述の方策を更に実行し、その後、圧縮空気過剰率が下閾値より低いかどうかを調査するステップに移行する。
【0101】
実施例によっては、コントローラには、バルク圧縮温度を上昇または低下させるために利用可能な方策のうち、現在のエンジンの運転条件においてどれが最適な方策であるかを決定するためのアルゴリズムやルックアップテーブル等の情報が提供される。またコントローラ60には、圧縮空気過剰率を上昇または低下させるために利用可能な方策のうち、現在のエンジンの運転条件においてどれが最適な方策であるかを決定するためのアルゴリズムやルックアップテーブル等の情報が提供される。
【0102】
多くの側面及び実装形態が、いくつかの実施例と共に説明されてきた。しかし、本願の明細書や図面、特許請求の範囲を検討すれば、当業者は、特許請求の範囲に記載される発明を実施するにおいて、説明された実施例に加えて多くのバリエーションが存在することを理解し、また具現化することができるであろう。特許請求の範囲に記載される「備える」「有する」「含む」との語句は、記載されていない要素やステップが存在することを排除しない。特許請求の範囲において記載される要素の数が複数であると明示されていなくとも、当該要素が複数存在することを除外しない。特許請求の範囲に記載されるいくつかの要素の機能は、単一のプロセッサやコントローラ、その他のユニットによって遂行されてもよい。いくつかの事項が別々の従属請求項に記載されていても、これらを組み合わせて実施することを排除するものではなく、組み合わせて実施して利益を得ることができる。
【0103】
特許請求の範囲で使用されている符号は発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8