(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】がん治療のための遺伝子改変NK-92細胞およびモノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
A61K 35/17 20150101AFI20220203BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220203BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20220203BHJP
C12N 5/16 20060101ALI20220203BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220203BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220203BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220203BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220203BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/26 20060101ALI20220203BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
A61K35/17 Z ZNA
A61K39/395 M
A61K39/395 T
A61K38/20
C12N5/16
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P43/00 121
A61K38/02
A61K38/17
C12N15/12
C12N15/26
C07K16/30
(21)【出願番号】P 2020133495
(22)【出願日】2020-08-06
(62)【分割の表示】P 2017550603の分割
【原出願日】2016-03-25
【審査請求日】2020-08-21
(32)【優先日】2015-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516104043
【氏名又は名称】イミュニティーバイオ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】リー ティエン
(72)【発明者】
【氏名】クリンゲマン ハンス ジー.
(72)【発明者】
【氏名】サイモン バリー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ボイセル ローレント
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0292156(US,A1)
【文献】特表2008-505071(JP,A)
【文献】J Immunol.,2008年,180,p.6392-6401
【文献】Blood,2005年,105,p.4247-4254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 38/00
A61K 39/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NK-92細胞株
由来の操作された複数のNK-92細胞を含む組成物であって、該操作されたNK-92細胞株が、成熟形態のCD16ポリペプチドの158位にバリンを有するCD16ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および、小胞体(ER)に標的指向されたインターロイキン2(IL-2)
ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、バイシストロニックな核酸構築物で遺伝子改変され、該
NK-92細胞株がモノクローナル抗体との組み合わせで増強されたADCC活性を示す、該組成物。
【請求項2】
さらに抗体を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
CD16ポリペプチドが、SEQ ID NO:2と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1
または2記載の組成物。
【請求項4】
CD16ポリペプチドがSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む、請求項1
または2記載の組成物。
【請求項5】
操作されたNK-92細胞株が、自殺遺伝子を発現するようにさらに改変され
ている、請求項1~
4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
がんを有するヒト対象への投与用に製剤化され
た、請求項1
~5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
ヒト対象が、非小細胞肺がん、多発性骨髄腫、白血病、非ホジキンリンパ腫、転移性乳がん、または胃がんを有する、請求項
6記載の組成物。
【請求項8】
ADCCを誘導するモノクローナル抗体を含む、請求項2~
7のいずれか一項の
組成物。
【請求項9】
モノクローナル抗体が、アレムツズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、アベルマブ、ダラツムマブ、セツキシマブまたはエロツズマブである、請求項
8記載の
組成物。
【請求項10】
標的がん抗原に対するモノクローナル抗体とともに対象に投与された場合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を示す操作されたNK-92細胞株を得る方法であって、以下の段階を含む方法:
NK-92細胞にバイシストロニックな核酸構築物を導入する段階であって、該バイシストロニックな核酸構築物が成熟形態のCD16ポリペプチドの158位にバリンを有するCD16ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および、小胞体(ER)に標的指向されたインターロイキン2(IL-2
)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、段階;
CD16ポリペプチドおよびIL-2ポリペプチドを発現し、抗体との組み合わせにおいてADCC活性を示すクローンを選択する段階;および
操作されたNK-92細胞株を確立するために
該クローンを培養する段階。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年3月27日に出願された米国仮特許出願第62/139,258号の優先権の恩典を主張するものであり、その開示は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
モノクローナル抗体(mAb)を用いた抗がん治療は、特に化学療法と組み合わせた場合に、がん患者の臨床転帰を大幅に改善してきた。しかしながら、多くの場合、該患者は最終的には再発する。ナチュラルキラー細胞は、細胞ベースの免疫療法のための細胞傷害性エフェクター細胞としても使用することができる。
【0003】
NK-92は、非ホジキンリンパ腫に罹患した患者の血液中で発見され、その後エクスビボで不死化された、細胞溶解性のがん細胞株である。NK-92細胞は、NK細胞に由来するが、活性化受容体の大部分を保持する一方で、正常なNK細胞によって提示される主要な抑制性受容体を欠いている。しかしながら、NK-92細胞は、正常な細胞を攻撃することもないし、ヒトにおいて許容できない免疫拒絶反応を誘発することもない。NK-92細胞株の特徴付けは、WO 1998/49268(特許文献1)および米国特許出願公開第2002-0068044号(特許文献2)に開示されている。NK-92細胞はまた、ある種のがんの治療において有望な治療剤としても評価されている。
【0004】
NK-92細胞は、NK細胞に関連する活性化受容体および細胞溶解経路のほぼ全てを保持するが、その細胞表面上にCD16を発現しない。CD16は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)に向けてNK細胞を活性化するために、抗体のFc部分を認識してこれに結合するFc受容体である。CD16受容体が存在しないため、NK-92細胞はADCC機序を介して標的細胞を溶解することができない。
【0005】
本発明は、抗がん治療を必要とする対象に、Fc受容体を発現するNK-92細胞を、同時にまたはその後に投与することで、いくつかの分子抗体の細胞傷害効果を増強させることによって、上述した問題の解決法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO 1998/49268
【文献】米国特許出願公開第2002-0068044号
【発明の概要】
【0007】
発明の局面の概要
一局面において、本発明は、抗がん治療を必要とする対象に、標的がん細胞に対する細胞傷害効果を有するモノクローナル抗体と、Fc受容体を発現するように遺伝子操作されたNK-92細胞とを共投与することを含む。この組み合わせは、NK細胞の抗がん効果と治療用抗体の抗がん効果との相乗作用を与える。
【0008】
したがって、一実施態様では、本発明は、がんの治療を必要とする対象に、標的がん細胞に対する細胞傷害効果を有するモノクローナル抗体と、FcRを発現するNK-92細胞とを投与することを含む、該対象におけるがんを治療するための方法を提供する。いくつかの実施態様では、FcRはCD16である。本発明の一局面では、NK-92細胞は、SEQ ID NO:1と少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチド(158位にフェニルアラニンを有するFCγRIII-AまたはCD16(F-158))、またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも90%の同一性を有するポリペプチド(158位にバリンを有するCD16(F158V)、より親和性の高い形態)をコードするFc受容体を発現するように遺伝子改変される。典型的な実施態様では、CD16ポリペプチドは158位にバリンを有する。
【0009】
さらなる実施態様において、NK-92細胞は、IL-2などのサイトカインを発現するようにさらに改変される。いくつかの実施態様では、サイトカインを小胞体に標的指向させる。特定の実施態様では、サイトカインは、小胞体を標的指向するインターロイキン-2またはその変異体である。いくつかの実施態様において、NK-92細胞は、SEQ ID NO:7の配列を有するポリペプチドを発現するように改変される。
【0010】
他の実施態様において、NK-92細胞は、自殺遺伝子を発現するようにさらに改変される。一局面では、自殺遺伝子はiCas9である。
【0011】
本発明の組成物は、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、転移性乳がんまたは胃がんなどのがんを含むがこれらに限定されない、がんの治療に有用である。
【0012】
患者に投与されるモノクローナル抗体は、裸のモノクローナル抗体、コンジュゲート化されたモノクローナル抗体、または二重特異性モノクローナル抗体であり得る。いくつかの実施態様では、モノクローナル抗体は、アレムツズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、イブリツモマブ、ゲムツズマブ、ブレンツキシマブ、アドトラスツズマブ(adotranstuzumab)、ブリナツモマブ(blinatunomab)、ダラツムマブまたはエロツズマブである。
【0013】
いくつかの実施態様において、モノクローナル抗体とFcR発現NK-92細胞は、対象に同時に投与される。他の実施態様では、対象はモノクローナル抗体を投与され、続いて、モノクローナル抗体の投与後、例えば24時間以内に、または24~72時間以内に、FcR発現NK-92細胞を投与される。
【0014】
いくつかの局面において、本発明は、がんの治療のための、CD16などのFcRを発現するように遺伝子改変されたNK-92細胞と、細胞傷害性モノクローナル抗体との使用に関する。したがって、いくつかの実施態様では、本発明は、がんを有する患者のための、CD16を発現するように遺伝子改変されたNK-92細胞と、細胞傷害性モノクローナル抗体との使用を提供する。いくつかの実施態様では、Fc受容体は、成熟形態のCD16の158位にバリンを有するCD16である。いくつかの実施態様では、Fc受容体は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2と少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含むか、あるいは該ポリヌクレオチドはSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2をコードする。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、インターロイキン-2またはその変異体などのサイトカインを発現するように遺伝子改変される。いくつかの実施態様では、インターロイキン-2を小胞体に標的指向させる。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、SEQ ID NO:7に示されるインターロイキン-2配列を発現するように改変される。いくつかの実施態様では、Fc受容体と少なくとも1種のサイトカインは、異なるベクターによってコードされる。あるいは、Fc受容体と少なくとも1種のサイトカインは、同じベクターによってコードされる。いくつかの実施態様では、Fc受容体は158位にVを有するCD16ポリペプチドを含み、NK-92細胞はヒトインターロイキン-2を発現するようにさらに遺伝子改変され、その際、インターロイキン-2を小胞体に標的指向させる。FcR発現NK-92細胞はまた、iCas9などの自殺遺伝子を発現するようにさらに改変されてもよい。いくつかの実施態様では、がんは、白血病、非ホジキンリンパ腫、転移性乳がんまたは胃がんである。モノクローナル抗体は、裸のモノクローナル抗体、コンジュゲート化されたモノクローナル抗体、または二重特異性モノクローナル抗体であり得る。いくつかの実施態様では、モノクローナル抗体は、アレムツズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、イブリツモマブ、ブレンツキシマブ、ゲムツズマブ、アドトラスツズマブ、ブリナツモマブ、アベルマブ(avelumamab)、ダラツムマブまたはエロツズマブである。いくつかの実施態様では、モノクローナル抗体とFcR発現NK-92細胞は、対象に同時に投与される。いくつかの実施態様では、対象はモノクローナル抗体を投与され、続いて、遺伝子改変されたFcR発現NK-92細胞で治療される。いくつかの実施態様では、モノクローナル抗体は対象に静脈内注射される。他の実施態様では、遺伝子改変されたFcR発現NK-92細胞は骨髄に注入される。
【0015】
[本発明1001]
がんの治療を必要とする対象に、細胞傷害効果を有するモノクローナル抗体とFcRを発現するように遺伝子改変されたNK-92細胞とを投与することを含む、該対象におけるがんを治療するための方法。
[本発明1002]
Fc受容体が、成熟形態のCD16の158位にバリンを有するCD16ポリペプチドである、本発明1001の方法。
[本発明1003]
Fc受容体が、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含み、かつ158位にバリンを含む、本発明1001の方法。
[本発明1004]
Fc受容体がSEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含む、本発明1001の方法。
[本発明1005]
FcRを発現するNK-92細胞が、サイトカインを発現するように遺伝子改変される、本発明1001~1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
サイトカインがインターロイキン-2である、本発明1005の方法。
[本発明1007]
インターロイキン-2を小胞体に標的指向させる、本発明1008の方法。
[本発明1008]
Fc受容体および少なくとも1種のサイトカインが、異なるベクターによってコードされる、本発明1005の方法。
[本発明1009]
Fc受容体および少なくとも1種のサイトカインが、同じベクターによってコードされる、本発明1005の方法。
[本発明1010]
Fc受容体が、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含むCD16ポリペプチドを含み、NK-92細胞が、ヒトインターロイキン-2を発現するようにさらに遺伝子改変され、該インターロイキン-2が小胞体を標的指向する、本発明1001の方法。
[本発明1011]
FcRを発現するNK-92細胞が、自殺遺伝子を発現するようにさらに改変される、本発明1010の方法。
[本発明1012]
自殺遺伝子がiCas9である、本発明1011の方法。
[本発明1013]
FcRを発現するNK-02細胞が、自殺遺伝子を発現するようにさらに改変される、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1014]
自殺遺伝子がiCas9である、本発明1013の方法。
[本発明1015]
がんが多発性骨髄腫、白血病、非ホジキンリンパ腫、転移性乳がんまたは胃がんである、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1016]
モノクローナル抗体が、裸のモノクローナル抗体、コンジュゲート化されたモノクローナル抗体または二重特異性モノクローナル抗体である、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
モノクローナル抗体が、アレムツズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、イブリツモマブ、ブレンツキシマブ、ゲムツズマブ、アドトラスツズマブ(adotranstuzumab)、ブリナツモマブ(blinatunomab)、アベルマブ(avelumamab)、ダラツムマブまたはエロツズマブである、本発明1016の方法。
[本発明1018]
モノクローナル抗体およびFcR発現NK-92細胞が前記対象に同時に投与される、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
前記対象がモノクローナル抗体を投与され、続いてFcR発現NK-92細胞で治療される、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1020]
モノクローナル抗体が前記対象に静脈内注射される、本発明1018または1019の方法。
[本発明1021]
遺伝子改変されたNK-92細胞が骨髄に注入される、本発明1018、1019または1020の方法。
前述の一般的な説明および下記の詳細な説明は、例示的かつ説明的なものであり、特許請求の範囲に記載の本発明のさらなる説明を提供することを目的としている。他の目的、利点および新規な特徴は、本発明の下記の詳細な説明から当業者には容易に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の目的、特徴および利点は、添付の図面と併せて考慮するとき、下記の開示を参照することで、より容易に理解されるであろう。
【0017】
【
図1】ERRS(小胞体保留シグナル)を有するIL-2の修飾型およびCD16を発現するプラスミドの概略図を示す。
【
図2】約2週間(
図2a)および約4週間(
図2b)での、
図1に示されるプラスミドベクターを用いてCD16を発現するように改変されたNK-92細胞におけるCD16の発現を示す例示的なデータを提供する。
【
図3】保存のために凍結され、その後培養のために解凍された改変NK-92細胞におけるCD16発現を示す例示的なデータを提供する。
【
図4】モノクローナル抗体と組み合わせて使用されたCD16発現NK-92細胞のADCC活性を示す例示的なデータを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
一局面において、本開示は、対象におけるがんの治療のための、FcRを発現するように改変されたNK-92細胞およびモノクローナル抗体の使用に関する。悪性細胞は、樹状細胞およびナチュラルキラー細胞などの自然免疫細胞と、T細胞およびB細胞などの適応免疫細胞とが提供する免疫学的防御を回避するための作用機序を発達させることができる。したがって、がんを有するまたはがんを有することが疑われる対象における腫瘍再発の発生率を低減することが緊急に必要とされている。
【0019】
NK-92細胞は、インビトロで容易に増殖させ拡大させることができるという魅力的な特徴を示す。しかしながら、それらはIgG Fc受容体FcγRIIIを発現しないため、これらの細胞は抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)を介して作用することができない。本発明は、IgG Fc受容体FcγRIIIを発現させるためのNK-92細胞の形質転換が、NK細胞-腫瘍細胞相互作用を増強させ、かつNK細胞を、ADCCを介して標的細胞を殺傷するモノクローナル抗体と協力して働かせるようにするであろう、という仮説に基づいている。したがって、NK-92細胞およびモノクローナル抗体の別個の細胞傷害効果は、モノクローナル抗体とNK-92細胞を、がんを有するまたはがん治療を必要とする対象に、同時にまたは近接した時間的関係で投与する場合に、増強され得る。
【0020】
したがって、本発明は、膜貫通免疫グロブリンγFc領域受容体III-Aの高親和性形態(そのポリペプチドの成熟形態の158位にバリンが存在するFcγRIll-AまたはCD16)を発現するように遺伝子改変されたNK-92細胞の使用を提供する。
【0021】
いくつかの実施態様では、FcRを発現するNK-92細胞は、IL-2を発現するようにさらに改変され得る。こうした細胞において、該細胞内でのIL-2の発現は、典型的には、小胞体に向けられる。この特徴は、心血管系、胃腸系、呼吸器系および神経系を侵す毒性などの、IL-2の全身投与の望ましくない作用を防止する。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞がIL-2を発現するようにさらに改変される場合、自律的増殖を有する突然変異体の潜在的発生につながる可能性があるIL-2の無秩序な内因性発現を防止するために、これらの細胞に自殺遺伝子をさらに挿入することができる。いくつかの実施態様では、自殺遺伝子はiCas9である。
【0022】
本発明に従って作製されたFcR発現NK-92細胞は、がん性疾患の有効な治療のために、がんを有するまたはがんを有することが疑われる対象に、がん性細胞を標的とするモノクローナル抗体と併用して投与される。
【0023】
FcR発現NK-92細胞の投与は、モノクローナル抗体の投与と同時に、または逐次的に行うことができる。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、対象がモノクローナル抗体で治療された後24時間以内に該対象に投与される。
【0024】
専門用語
特に他で定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲においては、以下の意味を有すると定義されるいくつかの用語が言及されるだろう。
【0026】
本明細書で使用する専門用語は、特定の実施態様を説明することを目的としたにすぎず、本発明を限定することを意図したものではない。本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数形をも含むことが意図される。
【0027】
範囲を含めた全ての数値表記、例えば、pH、温度、時間、濃度、量、分子量などは、必要に応じて、0.1または1.0ずつ(+)または(-)に変化する近似値である。必ずしも明記されないが、全ての数値表記の前には用語「約」を付すことができることを理解すべきである。また、必ずしも明記されないが、本明細書に記載される試薬は単なる例示であり、そのような試薬の等価物が当技術分野で公知であることも理解すべきである。
【0028】
「任意の」または「任意に」は、その後に記載される事象または状況が発生してもしなくてもよく、その記載はその事象または状況が起こる場合とそれが起こらない場合を含むことを意味する。
【0029】
用語「含む」は、組成物および方法が列挙された要素を含むが、他の要素を排除しないことを意味することが意図される。組成物および方法を定義するために使用される場合の「から本質的になる」とは、指定された材料またはステップと特許請求の範囲に記載の本発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものとを指す。「からなる」とは、痕跡量よりも多量の他の成分および記載された実質的な方法ステップ以外のものを排除することを意味するものとする。これらの移行句の各々によって定義される実施態様は、本発明の範囲内である。
【0030】
本発明を説明するために使用される「免疫療法」とは、単独であろうと組み合わせであろうと、抗体、天然のもしくは改変されたNK細胞またはT細胞との併用で、標的細胞に接触したとき細胞傷害性を誘導することができる、改変型または非改変型のNK-92細胞の使用を意味する。
【0031】
本発明を説明するために使用される「ナチュラルキラー(NK)細胞」とは、特定の抗原刺激の非存在下で、かつMHCクラスによる制限なしに、標的細胞を殺傷する免疫系の細胞である。標的細胞は腫瘍細胞またはウイルス保有細胞であり得る。NK細胞は、CD56表面マーカーの存在およびCD3表面マーカーの非存在によって特徴付けられる。
【0032】
用語「内因性NK細胞」は、NK-92細胞株とは区別される、ドナー(または患者)に由来するNK細胞を指すために使用される。内因性NK細胞は、一般的に、NK細胞が富化されている不均一な細胞集団である。内因性NK細胞は、患者の自己治療または同種異系治療用とすることができる。
【0033】
「NK-92細胞」とは、元来は非ホジキンリンパ腫の患者から得られた不死NK細胞株NK-92を指す。本発明において、別段の指示がない限り、用語「NK-92」は、元のNK-92細胞株ならびに(例えば、外因性遺伝子の導入により)改変されたNK-92細胞株を指すことを意図している。NK-92細胞ならびにその例示的かつ非限定的な改変は、米国特許第7,618,817号;第8,034,332号;および第8,313,943号に記載されており、これらの全ては、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0034】
「改変NK-92細胞」は、CD16などの、トランスジーンをコードするベクターをさらに含むNK-92細胞を指す。いくつかの実施態様では、FcR発現改変NK-92細胞は、IL-2などのサイトカインおよび/または自殺遺伝子を発現するようにさらに改変され得る。
【0035】
本明細書で使用する「非照射NK-92細胞」とは、照射されていないNK-92細胞である。照射は該細胞を成長・増殖不能にする。いくつかの実施態様では、患者の治療に先立って、投与用のNK-92細胞を治療施設またはどこか他の場所で照射することが想定される。なぜなら、照射と注入との間の時間は、最適な活性を維持するために4時間を超えないようにする必要があるからである。あるいは、NK-92細胞を別の機序によって不活性化することもできる。
【0036】
本発明を説明するために使用される、NK-92細胞の「不活性化」は、それらを増殖不能にする。不活性化はまた、NK-92細胞の死滅にも関連し得る。NK-92細胞は、それらが治療への応用において病理に関連した細胞の生体外サンプルを効果的にパージした後で、あるいはそれらが体内に存在する多くのまたは全ての標的細胞を効果的に殺傷するのに十分な時間哺乳動物の体内に存在した後で、不活性化され得ることが想定される。不活性化は、非限定的な例として、NK-92細胞が感受性である不活性化剤を投与することによって誘導することができる。
【0037】
本発明を説明するために使用される用語「細胞傷害性」および「細胞溶解性」とは、NK細胞のようなエフェクター細胞の活性を記述するために使用する場合、同義であることが意図される。一般に、細胞傷害活性は、様々な生物学的、生化学的、または生物物理学的機序のいずれかによって標的細胞を死滅させることに関係する。細胞溶解は、より具体的には、該エフェクターが標的細胞の原形質膜を溶解し、それによってその物理的完全性を破壊するという活性を指す。それは結果的に標的細胞の死滅をもたらす。理論に縛られることを望むものではないが、NK細胞の細胞傷害効果は細胞溶解によるものであると考えられる。
【0038】
細胞/細胞集団に関しての用語「殺傷する」は、その細胞/細胞集団の死につながる任意のタイプの操作を含むことに向けられる。
【0039】
用語「Fc受容体」は、Fc領域として知られる抗体の一部に結合することによって免疫細胞の防御機能に寄与する、特定の細胞(例えば、ナチュラルキラー細胞)の表面上に見出されるタンパク質を指す。細胞のFc受容体(FcR)への抗体のFc領域の結合は、抗体媒介性食作用または抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)を介して細胞の食作用または細胞傷害活性を刺激する。FcRは、それらが認識する抗体のタイプに基づいて分類される。例えば、Fc-γ受容体(FCγR)はIgGクラスの抗体に結合する。FCγRIII-A(CD16とも呼ばれる)は、IgG抗体に結合してADCCを活性化する低親和性Fc受容体である。FCγRIII-Aは典型的にはNK細胞上に見出される。CD16の天然形態をコードする代表的なポリヌクレオチド配列をSEQ ID NO:5に示す。
【0040】
用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはその類似体のいずれかのヌクレオチドの任意の長さのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、どのような三次元構造をとってもよく、既知または未知の任意の機能を果たし得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子断片(例えば、プローブ、プライマー、ESTまたはSAGEタグ)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体などの修飾ヌクレオチドを含むことができる。存在する場合、ヌクレオチド構造への修飾は、ポリヌクレオチドのアセンブリの前または後に付与され得る。ヌクレオチドの配列は非ヌクレオチド成分で中断されてもよい。ポリヌクレオチドは、重合の後に、例えば標識成分とのコンジュゲーションにより、さらに修飾することができる。この用語はまた、二本鎖分子と一本鎖分子の両方を指す。特に他に指定または要求がない限り、ポリヌクレオチドである本発明の任意の実施態様は、二本鎖形態と、二本鎖形態を構成することが知られるまたは予測される2本の相補的一本鎖形態の各々との両方を包含する。
【0041】
ポリヌクレオチドは、以下の4種のヌクレオチド塩基の特定の配列からなる:アデニン(A);シトシン(C);グアニン(G);チミン(T);ポリヌクレオチドがRNAである場合はチミンに代えてウラシル(U)。したがって、用語「ポリヌクレオチド配列」は、ポリヌクレオチド分子のアルファベット表示である。
【0042】
本明細書で使用する「同一性パーセント」とは、2つのペプチド間または2つの核酸分子間の配列同一性を指す。同一性パーセントは、比較のためにアライメントされ得る各配列中の位置を比較することによって決定することができる。比較された配列中のある位置が同じ塩基またはアミノ酸で占められる場合、これらの分子はその位置で同一である。本明細書で使用する語句「相同」もしくは「変異」ヌクレオチド配列、または「相同」もしくは「変異」アミノ酸配列とは、ヌクレオチドレベルまたはアミノ酸レベルでの、少なくとも特定のパーセンテージの同一性により特徴付けられる配列を指す。相同ヌクレオチド配列は、本明細書に記載のヌクレオチド配列の天然に存在する対立遺伝子変異体および突然変異体をコードする配列を含む。相同ヌクレオチド配列は、ヒト以外の哺乳動物種のタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。相同アミノ酸配列は、保存的アミノ酸置換を含みかつそのポリペプチドが同じ結合および/または活性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様では、相同ヌクレオチドまたはアミノ酸配列は、比較配列と少なくとも60%またはそれ以上、例えば少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%またはそれ以上の同一性を有する。いくつかの実施態様では、相同ヌクレオチドまたはアミノ酸配列は、比較配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。いくつかの実施態様では、相同アミノ酸配列は、15個以下、10個以下、5個以下または3個以下の保存的アミノ酸置換を有する。同一性パーセントは、例えば、SmithおよびWatermanのアルゴリズム(Adv. Appl. Math., 1981, 2, 482-489)を使用するGapプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for UNIX, Genetics Computer Group, University Research Park, Madison Wis.)により、デフォルト設定を用いて、決定することができる。
【0043】
用語「発現する」は、遺伝子産物の産生を指す。発現に言及する時の用語「一過性」とは、ポリヌクレオチドが細胞のゲノムに組み込まれていないことを意味する。
【0044】
用語「サイトカイン」(複数可)は、免疫系の細胞に作用する生物学的分子の一般的クラスを指す。本発明を実施する際に使用される例示的なサイトカインとしては、限定するものではないが、インターフェロンおよびインターロイキン(IL)、特にIL-2、IL-12、IL-15、IL-18およびIL-21が挙げられる。好ましい実施態様では、サイトカインはIL-2である。
【0045】
本明細書で使用する用語「ベクター」は、例えば形質転換のプロセスによって、ベクターが許容細胞内に配置された場合に複製することができるように、インタクトなレプリコンを含む、非染色体性の核酸を指す。ベクターは、細菌などの1つの細胞タイプにおいて複製することができるが、哺乳動物細胞などの別の細胞では複製する能力が限られている。ベクターはウイルス性であっても、非ウイルス性であってもよい。核酸を送達するための例示的な非ウイルスベクターには、以下が含まれる:裸のDNA;単独でまたはカチオン性ポリマーとの組み合わせで、カチオン性脂質と複合体を形成したDNA;アニオン性およびカチオン性リポソーム;不均一なポリリシン、一定の長さのオリゴペプチド、ポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマーと縮合したDNAを含むDNA-タンパク質複合体および粒子であって、場合によっては、リポソーム内に含まれるもの;ならびにウイルスとポリリシンDNAを含む三元複合体の使用。
【0046】
本明細書で使用する用語「標的指向させる」(targeted)とは、限定するものではないが、細胞内または細胞外の適切な目的地にタンパク質またはポリペプチドを指向させることを含むことが意図される。「標的とする」「向ける」(targeting)は、典型的には、ポリペプチド鎖中の一続きのアミノ酸残基であるシグナルペプチドまたは標的指向性ペプチドを介して達成される。こうしたシグナルペプチドは、ポリペプチド配列内のどこにでも位置することができるが、多くの場合はN末端に位置する。シグナルペプチドがC末端にあるようにポリペプチドを操作することもできる。シグナルペプチドは、細胞外の区域、原形質膜への配置、ゴルジ、エンドソーム、小胞体(ER)、その他の細胞内区画へポリペプチドを方向づけることができる。例えば、C末端に特定のアミノ酸配列(例えば、KDEL)を有するポリペプチドは、ER内腔に保留されるか、またはER内腔に送り返される。
【0047】
用語「自殺遺伝子」は、細胞の負の選択を可能にするものである。自殺遺伝子は安全システムとして使用され、該遺伝子を発現する細胞を選択剤の導入によって死滅させることができる。これは、組換え遺伝子が突然変異を起こして、制御不能な細胞増殖をもたらす場合に望ましい。多くの自殺遺伝子系が同定されており、例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、水痘帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、大腸菌(Escherichia coli)gpt遺伝子、および大腸菌Deo遺伝子が挙げられる(さらに、例えば、Yazawa K, Fisher W E, Brunicardi F C: Current progress in suicide gene therapy for cancer. World J. Surg. 2002 July; 26(7):783-9を参照されたい)。一実施態様では、自殺遺伝子は誘導性カスパーゼ9 (iCas9)である(Di Stasi, (2011) "Inducible apoptosis as a safety switch for adoptive cell therapy." N Engl J Med 365: 1673-1683;さらに、Morgan, "Live and Let Die: A New Suicide Gene Therapy Moves to the Clinic" Molecular Therapy (2012); 20: 11-13を参照されたい)。TK遺伝子は、野生型または変異型TK遺伝子(例えば、tk30、tk75、sr39tk)であり得る。TKタンパク質を発現する細胞は、ガンシクロビルを用いて死滅させることができる。
【0048】
本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」は、培養下で成長して無限に増殖する能力がある細胞の単一クローンから産生される、純粋な標的特異的抗体を指す。本発明に従って使用することができるモノクローナル抗体には、がん性細胞上の抗原に結合してそれをブロックする裸の抗体が含まれる。一実施態様において、裸のモノクローナル抗体はアレムツズマブであり、これはリンパ球のCD52抗原に結合する。また、本発明に従って使用され得るモノクローナル抗体には、タグ付けされた、標識された、または負荷された抗体などのコンジュゲート化モノクローナル抗体も含まれる。具体的には、抗体は、薬物もしくは毒素でタグ付けまたは負荷されるか、放射性標識される。そのような抗体の例としては、限定するものではないが、CD20抗原を標的とするイブリツモマブ、CD30抗原を標的とするブレンツキシマブ、およびHER2タンパク質を標的とするトラスツズマブが挙げられる。本発明に従って使用され得る他のモノクローナル抗体は、リンパ腫細胞のCD19およびT細胞のCD3を標的とするブリナツモマブのような二重特異性モノクローナル抗体である。
【0049】
用語「患者」、「対象」、「個体」などは、本明細書では交換可能に使用され、本明細書に記載の方法に適している任意の動物またはその細胞(インビトロまたはインサイチューを問わない)を指す。特定の非限定的な実施態様では、患者、対象または個体はヒトである。
【0050】
用語「治療する」または「治療」は、ヒトなどの対象における本明細書に記載の疾患または障害の治療を包含し、(i)疾患または障害を抑制すること、すなわち、その発症を阻止すること;(ii)疾患または障害を緩和すること、すなわち、障害の退縮を引き起こすこと;(iii)障害の進行を遅らせること;および/または(iv)疾患または障害の1つ以上の症状を抑制する、緩和する、またはその進行を遅らせること;を含む。対象にモノクローナル抗体またはナチュラルキラー細胞を「投与する」または「投与」という用語は、意図した機能を果たすために該抗体または細胞を導入または送達する任意の経路を含む。投与は、該細胞またはモノクローナル抗体の送達に適したどのような経路で行ってもよい。したがって、送達経路は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下送達を含み得る。いくつかの実施態様では、モノクローナル抗体および/またはNK-92細胞は、例えば腫瘍への注入によって、腫瘍に直接投与される。投与には自己投与および他者による投与が含まれる。
【0051】
NK-92細胞
NK-92細胞株は、インターロイキン-2(IL-2)の存在下で増殖することが発見された独特の細胞株である。Gong et al., Leukemia 8:652-658 (1994)。これらの細胞は、様々ながんに対して高い細胞溶解活性を有する。NK-92細胞株は、広範な抗腫瘍細胞傷害性を有する均一ながん性NK細胞集団であり、増殖後に予測可能な収量で得られる。第I相臨床試験ではその安全性プロファイルが確認されている。
【0052】
NK-92細胞株は、CD56bright、CD2、CD7、CD11a、CD28、CD45、およびCD54表面マーカーを示すことが見出されている。さらに、それはCD1、CD3、CD4、CD5、CD8、CD10、CD14、CD16、CD19、CD20、CD23およびCD34マーカーを提示しない。培養下のNK-92細胞の増殖は、組換えインターロイキン-2(rIL-2)の存在に依存しており、1IU/mL程度の低用量でも増殖を維持するのに十分である。IL-7およびIL-12は長期増殖を支持しないし、IL-1α、IL-6、腫瘍壊死因子α、インターフェロンαおよびインターフェロンγを含めて、試験した他のサイトカイン類も支持しない。NK-92は、1:1の低いエフェクター:標的(E:T)比でさえも高い細胞傷害性を有する。Gong, et al., 前掲。NK-92細胞は、American Type Culture Collection (ATCC)にCRL-2407という名称で寄託されている。
【0053】
これまで、内因性NK細胞に関する研究では、輸送中のNK細胞活性化にとってIL-2 (1000IU/mL)が重要であること、しかし該細胞を37℃、5%二酸化炭素で維持する必要はないことが示されている。Koepsell, et al., Transfusion 53:398-403 (2013)。
【0054】
自殺遺伝子
用語「自殺遺伝子」は、細胞の負の選択を可能にするものである。自殺遺伝子は安全システムとして使用され、該遺伝子を発現する細胞を選択剤の導入によって死滅させることができる。これは、組換え遺伝子が突然変異を起こして、制御不能な細胞増殖をもたらす場合に望ましい。多くの自殺遺伝子系が同定されており、例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、水痘帯状疱疹ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、大腸菌gpt遺伝子、および大腸菌Deo遺伝子が挙げられる(さらに、例えば、Yazawa K, Fisher W E, Brunicardi F C: Current progress in suicide gene therapy for cancer. World J. Surg. 2002 July; 26(7):783-9を参照されたい)。本明細書で使用される場合、自殺遺伝子はNK-92細胞内で活性である。典型的には、自殺遺伝子は、該細胞に悪影響を及ぼさないが、特定の化合物の存在下では、該細胞を死滅させる、タンパク質をコードする。したがって、自殺遺伝子は、典型的にはシステムの一部である。
【0055】
一実施態様において、自殺遺伝子はチミジンキナーゼ(TK)遺伝子である。TK遺伝子は、野生型または変異型TK遺伝子(例えば、tk30、tk75、sr39tk)であり得る。TKタンパク質を発現する細胞は、ガンシクロビルを用いて死滅させることができる。
【0056】
別の実施態様では、自殺遺伝子はシトシンデアミナーゼであり、これは5-フルオロシトシンの存在下で細胞に対して毒性である。Garcia-Sanchez et al. "Cytosine deaminase adenoviral vector and 5-fluorocytosine selectively reduce breast cancer cells 1 million-fold when they contaminate hematopoietic cells: a potential purging method for autologous transplantation." Blood 1998 Jul 15;92(2):672-82。
【0057】
別の実施態様では、自殺遺伝子は、イホスファミドまたはシクロホスファミドの存在下で毒性であるシトクロムP450である。例えば、Touati et al. "A suicide gene therapy combining the improvement of cyclophosphamide tumor cytotoxicity and the development of an anti-tumor immune response." Curr Gene Ther. 2014;14(3):236-46を参照されたい。
【0058】
別の実施態様では、自殺遺伝子はiCas9である。Di Stasi, (2011) "Inducible apoptosis as a safety switch for adoptive cell therapy." N Engl J Med 365: 1673-1683。さらに、Morgan, "Live and Let Die: A New Suicide Gene Therapy Moves to the Clinic" Molecular Therapy (2012); 20:11-13を参照されたい。iCas9タンパク質は、小分子AP1903の存在下でアポトーシスを誘導する。AP1903は生物学的に不活性な小分子であり、臨床試験において耐容性良好であることが示されており、養子細胞療法の状況において使用されている。
【0059】
Fc受容体
Fc受容体は抗体のFc部分に結合する。いくつかのFc受容体が知られており、それらは、その好ましいリガンド、親和性、発現、および抗体への結合後の効果によって相違する。
【0060】
【0061】
いくつかの実施態様において、NK-92細胞は、細胞表面上にFc受容体タンパク質を発現するように改変される。
【0062】
いくつかの実施態様では、Fc受容体はCD16である。本開示において、CD16の特定のアミノ酸残基は、SEQ ID NO:2を基準にして、またはSEQ ID NO:2と比べて1つの位置が異なるSEQ ID NO:1を基準にして指定される。したがって、本発明によるCD16ポリペプチドの「158位」のアミノ酸残基は、CD16ポリペプチドとSEQ ID NO:2を最大限にアライメントさせたときの、SEQ ID NO:2(またはSEQ ID NO:1)の158位に対応するアミノ酸残基である。いくつかの実施態様では、NK-92細胞は、該タンパク質の成熟形態の158位にフェニルアラニンを有する、例えばSEQ ID NO:1を有する、ヒトCD16を発現するように改変される。典型的な実施態様では、NK-92細胞は、該タンパク質の成熟形態の158位にバリンを有する、例えばSEQ ID NO:2を有する、ヒトCD16の高親和性形態を発現するように改変される。成熟タンパク質の158位は、天然のシグナルペプチドを含むCD16配列の176位に対応する。いくつかの実施態様では、CD16ポリペプチドは、SEQ ID NO:3またはSEQ ID NO:4の前駆体(すなわち、天然のシグナルペプチドを有する)ポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチドによってコードされる。
【0063】
いくつかの実施態様では、CD16ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、完全長CD16の176位(成熟CD16タンパク質の158位に対応する)にフェニルアラニンを有する、シグナルペプチドを含む完全長の天然に存在するCD16をコードするポリヌクレオチド配列と少なくとも約70%のポリヌクレオチド配列同一性を有する。いくつかの実施態様では、CD16ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、176位(成熟タンパク質の158位に対応する)にバリンを有する、シグナルペプチドを含む完全長の天然に存在するCD16をコードするポリヌクレオチド配列と少なくとも約70%のポリヌクレオチド配列同一性を有する。いくつかの実施態様では、CD16をコードするポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:5と少なくとも70%の同一性を有し、かつシグナルペプチドを含む完全長のCD16ポリペプチドの176位をコードするポリヌクレオチドの位置にバリンをコードするコドンを含む。いくつかの実施態様では、CD16をコードするポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:5と少なくとも90%の同一性を有し、かつ完全長CD16の176位にバリンをコードするコドンを含む。いくつかの実施態様では、CD16をコードするポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:5を含むが、完全長CD16の176位にバリンをコードするコドンを含む。
【0064】
いくつかの実施態様では、CD16ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも70%、80%、90%または95%の同一性を有するポリペプチドをコードする。いくつかの実施態様では、該ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:2に対して少なくとも70%の同一性または少なくとも80%の同一性を有しかつSEQ ID NO:2に関して決定される158位にバリンを含むポリペプチドをコードする。いくつかの実施態様では、該ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:2に対して少なくとも90%の同一性を有しかつSEQ ID NO:2に関して決定される158位にバリンを含むポリペプチドをコードする。いくつかの実施態様では、該ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:2に対して少なくとも95%の同一性を有しかつSEQ ID NO:2に関して決定される2位にバリンを含むポリペプチドをコードする。いくつかの実施態様では、該ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:2をコードする。いくつかの実施態様では、CD16ポリヌクレオチドは、シグナル配列を有するまたは有しないCD16の細胞外ドメイン、または完全長CD16の任意の他の断片、または、別のタンパク質のアミノ酸配列に融合されたCD16の少なくとも部分配列を含むキメラ受容体をコードする。他の実施態様では、エピトープタグペプチド、例えば、FLAG、myc、ポリヒスチジンまたはV5などが、抗エピトープタグペプチドモノクローナルまたはポリクローナル抗体を用いることによって細胞表面検出を助けるために、成熟ポリペプチドのアミノ末端ドメインに付加され得る。
【0065】
いくつかの実施態様において、相同CD16ポリヌクレオチドは、約150~約700、約750、または約800ポリヌクレオチドの長さであり得るが、700~800を超えるポリヌクレオチドを有するCD16変異体は本開示の範囲内である。
【0066】
相同ポリヌクレオチド配列には、CD16の変異体をコードするポリペプチド配列をコードするものが含まれる。相同ポリヌクレオチド配列には、SEQ ID NO:5に関連した天然に存在する対立遺伝子変異も含まれる。SEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列、その天然に存在する変異体、またはSEQ ID NO:1もしくはSEQ ID NO:2と少なくとも70%同一または少なくとも80%、90%、95%同一である配列を有するポリペプチドをコードする任意のポリヌクレオチドによるNK-92細胞のトランスフェクションは、本開示の範囲内である。いくつかの実施態様では、相同ポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2における保存的アミノ酸置換をコードする。いくつかの実施態様では、NK-92細胞は、天然のポリヌクレオチド配列とは異なるが同じポリペプチドをコードする、縮重している相同CD16ポリヌクレオチド配列を用いてトランスフェクトされる。
【0067】
他の例では、NK-92細胞を改変するために、CD16アミノ酸配列を変える多型を有するcDNA配列、例えば、CD16遺伝子に遺伝的多型を示す個体間の対立遺伝子変異などが使用される。他の例では、SEQ ID NO:5の配列とは異なるポリヌクレオチド配列を有する他の種由来のCD16遺伝子が、NK-92細胞を改変するために使用される。
【0068】
いくつかの例では、変異型ポリペプチドは、オリゴヌクレオチド媒介性(部位特異的)変異導入、アラニンスキャニング、およびPCR変異導入などの当技術分野で公知の方法を用いて作製される。部位特異的変異導入(Carter, 1986; Zoller and Smith, 1987)、カセット変異導入、制限選択変異導入(restriction selection mutagenesis)(Wells et al., 1985)または他の公知の技術を、クローニングされたDNAに対して実施して、CD16変異体を作製することができる(Ausubel, 2002; Sambrook and Russell, 2001)。
【0069】
いくつかの実施態様では、CD16をコードするポリヌクレオチドは、CD16の機能を変えることなく、CD16をコードするアミノ酸配列を変更するために変異される。例えば、「非必須」アミノ酸残基でのアミノ酸置換をもたらすポリヌクレオチド置換をSEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2において行うことができる。
【0070】
あるクラスのアミノ酸が同じクラスの別のアミノ酸と置換される、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2での保存的置換は、該置換がCD16ポリペプチドの活性を実質的に変更しない限り、開示されたCD16変異体の範囲内に入る。保存的置換は当業者に周知である。(1)ポリペプチド骨格の構造、例えば、βシートまたはαヘリックスコンフォメーション、(2)電荷、(3)疎水性、または(4)標的部位の側鎖の嵩高さ、に影響を及ぼす非保存的置換は、CD16ポリペプチドの機能または免疫学的独自性を変更する可能性がある。非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスに交換することを伴う。置換は、保存的置換部位に、より好ましくは非保存部位に、導入され得る。
【0071】
いくつかの実施態様において、CD16ポリペプチド変異体は、少なくとも200アミノ酸長であり、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも80%、または少なくとも90%の同一性を有する。いくつかの実施態様では、CD16ポリペプチド変異体は、少なくとも225アミノ酸長であり、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2に対して少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、または少なくとも80%、または少なくとも90%の同一性を有する。いくつかの実施態様では、CD16ポリペプチド変異体は、SEQ ID NO:2を基準に決定される158位にバリンを有する。
【0072】
いくつかの実施態様において、CD16ポリペプチドをコードする核酸は、CD16融合タンパク質をコードし得る。CD16融合ポリペプチドは、非CD16ポリペプチドと融合したCD16の任意の部分またはCD16全体を含む。融合ポリペプチドは組換え法を用いて簡便に作製される。例えば、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:2などのCD16ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、非CD16コードポリヌクレオチド(例えば、異種タンパク質のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチド配列)とインフレームで融合される。いくつかの実施態様では、異種ポリペプチド配列がCD16のC末端に融合された、またはCD16の内部に位置付けられた、融合ポリペプチドを作製することができる。典型的には、CD16細胞質ドメインの約30%までを置き換えることができる。こうした修飾は、発現を増強するか、または細胞傷害性(例えば、ADCC応答性)を高めることができる。他の例では、キメラタンパク質、例えばIg-a、Ig-B、CD3-e、CD3-d、DAP-12およびDAP-10を含むがこれらに限定されない、他のリンパ球活性化受容体由来のドメインが、CD16細胞質ドメインの一部に置き換わる。
【0073】
融合遺伝子は、自動DNA合成装置およびPCR増幅などの、従来の技術によって合成することができるが、PCR増幅では、2つの連続した遺伝子断片の間に相補的オーバーハングを生じるアンカープライマーを使用し、これらの断片をその後にアニーリングおよび再増幅してキメラ遺伝子配列を生成する(Ausubel, 2002)。融合部分にインフレームでCD16をサブクローニングすることを容易にする、多くのベクターが商業的に入手可能である。
【0074】
サイトカイン
NK-92細胞の細胞傷害性は、サイトカイン(例えば、インターロイキン-2 (IL-2))の存在に依存する。商業規模の培養でNK-92細胞を維持しかつ増やすために必要とされるIL-2を外部から加えて使用するには、かなりのコストがかかる。NK-92細胞の活性化を継続するのに十分な量でIL-2をヒト対象に投与することは、有害な副作用を引き起こすであろう。
【0075】
いくつかの実施態様において、FcR発現NK-92細胞は、少なくとも1種のサイトカインおよび自殺遺伝子を発現するようにさらに改変される。特定の実施態様では、少なくとも1種のサイトカインは、IL-2、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21またはその変異体である。好ましい実施態様では、サイトカインはIL-2である。特定の実施態様では、IL-2は小胞体を標的指向する変異体であり、自殺遺伝子はiCas9である。
【0076】
一実施態様において、IL-2は、IL-2を小胞体に向けるシグナル配列と共に発現される。いくつかの実施態様では、IL-2をコードするポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:7の配列を有するポリペプチドをコードする。理論に縛られるものではないが、IL-2を小胞体に向けると、細胞外にIL-2を放出することなく、オートクリン活性化に十分なレベルのIL-2を発現させることが可能である。Konstantinidis et al "Targeting IL-2 to the endoplasmic reticulum confines autocrine growth stimulation to NK-92 cells" Exp Hematol. 2005 Feb;33(2):159-64を参照されたい。FcR発現NK-92細胞の連続的な活性化は、例えば自殺遺伝子の存在によって、防止することができる。
【0077】
免疫療法
抗体は、感染した細胞、またはがん関連マーカーを発現する細胞を標的指向するために使用され得る。多くの抗体ががんの治療のために単独で承認されている。
【0078】
【0079】
抗体は、多くの作用機序を介してがんを治療することができる。抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、NK細胞などの免疫細胞が抗体に結合する場合に起こり、該抗体はCD16などのFc受容体を介して標的細胞に結合される。
【0080】
したがって、いくつかの実施態様では、CD16を発現するNK-92細胞は、特定のがん関連タンパク質に対する抗体と共に患者に投与される。
【0081】
FcRを発現するNK-92細胞の投与は、モノクローナル抗体の投与と同時に、または逐次的に行うことができる。FcRを発現するようにNK-92細胞を遺伝子改変すると、該細胞は抗体被覆標的細胞を認識しかつNK細胞介在性ADCCを誘発することが可能になり、その結果、迅速なNK細胞活性化が生じる。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、対象がモノクローナル抗体で治療された後に該対象に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、モノクローナル抗体を投与してから24時間以内、18時間以内、12時間以内、8時間以内、または6、5、4、3、2もしくは1時間以内に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、該抗体の投与後24時間から72時間までに投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、該抗体を投与してから1、2、3もしくは4日以内、またはそれを超えて投与される。
【0082】
いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞およびモノクローナル抗体は静脈内に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は骨髄に直接注入される。
【0083】
本発明の一局面において、FcR発現NK-92細胞は、治療用モノクローナル抗体、例えばアレムツズマブと組み合わせて、白血病を有する対象に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞はアレムツズマブと同時に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、対象がアレムツズマブで治療された後に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、アレムツズマブを投与してから24時間以内、18時間以内、12時間以内、8時間以内、または6、5、4、3、2もしくは1時間以内に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、アレムツズマブの投与後24~72時間に、またはそれ以後に投与される。
【0084】
さらなる局面において、FcR発現NK-92細胞は、乳がんまたは胃がんなどのがんを有する対象にトラスツズマブと組み合わせて投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞はトラスツズマブと同時に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞はトラスツズマブの後に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、トラスツズマブを投与してから24時間以内、18時間以内、12時間以内、8時間以内、または6、5、4、3、2もしくは1時間以内に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、トラスツズマブの投与後24~72時間に、またはそれ以後に投与される。
【0085】
さらなる局面において、FcR発現NK-92細胞は、ホジキンリンパ腫を有する対象にブレンツキシマブと組み合わせて投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞はブレンツキシマブと同時に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞はブレンツキシマブの後に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、ブレンツキシマブを投与してから24時間以内、18時間以内、12時間以内、8時間以内、または6、5、4、3、2もしくは1時間以内に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、ブレンツキシマブの投与後24~72時間に、またはそれ以後に投与される。
【0086】
さらなる局面において、FcR発現NK-92細胞は、多発性骨髄腫を有する対象にダラツムマブと組み合わせて投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞はダラツムマブと同時に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞はダラツムマブの後に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、ダラツムマブを投与してから24時間以内、18時間以内、12時間以内、8時間以内、または6、5、4、3、2もしくは1時間以内に投与される。いくつかの実施態様では、FcR発現NK-92細胞は、ダラツムマブの投与後24~72時間に、またはそれ以後に投与される。
【0087】
トランスジーン発現
トランスジーン(例えば、CD16およびIL-2)は、当業者に公知の任意の機序によって発現プラスミド内に遺伝子操作され得る。これらのトランスジーンは同じ発現プラスミド内に操作されてもよいし、異なってもよい。好ましい実施態様では、該トランスジーンは同じプラスミドで発現される。
【0088】
トランスジーンは、例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション、ヌクレオフェクション、または「遺伝子銃」を含む、当技術分野で公知の一過性トランスフェクション法を用いて、NK-92細胞に導入することができる。
【0089】
様々なベクターを用いてCD16およびIL-2を発現させることができる。いくつかの実施態様では、該ベクターはレトロウイルスベクターである。いくつかの実施態様では、該ベクターはプラスミドベクターである。使用できる他のウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、ポックスウイルスベクターなどが挙げられる。
【0090】
NK-92細胞は前記個体に細胞の絶対数で投与され、例えば、前記個体は、約1000個/注入から約100億個/注入までの細胞、例えば1回の注入につき約、少なくとも約、または多くても約1×108、1×107、5×107、1×106、5×106、1×105、5×105、1×104、5×104、1×103、5×103個(など)のNK-92細胞、またはいずれか2つの数字間の任意の範囲(端点を含む)を投与され得る。他の実施態様では、NK-92細胞は前記個体に細胞の相対数で投与され、例えば、前記個体は、個体1キログラムあたり約1000個から約100億個までの細胞、例えば個体1キログラムあたり約、少なくとも約、または多くても約1×108、1×107、5×107、1×106、5×106、1×105、5×105、1×104、5×104、1×103、5×103個(など)のNK-92細胞、またはいずれか2つの数字間の任意の範囲(端点を含む)を投与され得る。いくつかの実施態様では、約10億~約30億個のNK-92細胞が患者に投与される。他の実施態様では、総用量は体表面積のm2に基づいて計算することができ、例えば、m2あたり11×1011、1×1010、1×109、1×108、1×107個の細胞を含む。平均的な人は1.6~1.8m2である。
【0091】
NK-92細胞、以下に記載されるモノクローナル抗体および/または他の抗がん剤は、がん患者またはウイルス感染患者に1回投与されるか、あるいは複数回投与され、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22もしくは23時間ごとに1回、または1、2、3、4、5、6もしくは7日ごとに1回、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10週もしくはそれを超える週ごとに1回、またはいずれか2つの数字間の任意の範囲(端点を含む)ごとに1回、治療期間を通して投与することができる。
【実施例】
【0092】
以下の実施例は、例示のみを目的としたものであり、特許請求の範囲に記載の本発明の限定として解釈されるべきではない。当業者に利用可能な様々な代替技術および手法が存在しており、こうした技術は意図した発明を成功裏に実施することを同様に可能にするであろう。
【0093】
実施例1:CD16組換えレトロウイルスの調製
膜貫通免疫グロブリンγFc領域受容体III-A (FcγRIII-AまたはCD16)の低親和性成熟形態(SEQ ID NO:1)をコードするCD16 cDNA X52645.1[フェニルアラニン-158 (F158)、完全配列: SwissProt P08637 (SEQ ID NO:3)]、またはCD16受容体のより親和性の高い成熟形態をコードする多型変異体[バリン-158 (F158V)(SEQ ID NO:2)、完全配列: SwissProt VAR_008801(SEQ ID NO:4)]を、バイシストロニックなレトロウイルス発現ベクターpBMN-IRES-EGFP(スタンフォード大学(Stanford, CA)のG. Nolanから入手)に、BamHIおよびNotI制限部位を用いて標準的な方法に従ってサブクローニングした。
【0094】
該組換えベクターを10μLのPLUS(商標)試薬(Invitrogen社; Carlsbad, CA)と混合し、予め加温した無血清Opti-MEM(登録商標)(Invitrogen社; MEM、最小必須培地)を用いて100μLに希釈し、100μLの予め加温した無血清Opti-MEM(登録商標)中の8μLのLipofectamine(商標)(Invitrogen社)の添加によりさらに希釈して、室温で15分間インキュベートした。次いで、この混合物を、予め加温した無血清Opti-MEM(登録商標)の添加により全量1mLにした。Phoenix-Amphotropicパッケージング細胞(スタンフォード大学(Stanford, CA)のG. Nolanから入手; (Kinsella and Nolan, 1996))を6ウェルプレートで70~80%コンフルエントになるまで増殖させ、6mLの予め加温した無血清Opti-MEM(登録商標)培地(Invitrogen社)で洗浄した。該培地を除去した後、Lipofectamine(商標)PLUS(商標)試薬中の組換えベクターの溶液1mLを各ウェルに添加し、該細胞を7%CO2/残りは空気の雰囲気下で、37℃で少なくとも3時間インキュベートした。10%ウシ胎児血清(FBS)を含有する予め加温したRPMI培地4mLを各ウェルに添加し、該細胞を7%CO2/残りは空気の雰囲気下で、37℃で一晩インキュベートした。次いで、該培地を除去し、該細胞を6mLの予め加温した無血清Opti-MEM(登録商標)で洗浄して、2mLの無血清Opti-MEM(登録商標)を添加した。該細胞を7%CO2/残りは空気の雰囲気下で、37℃でさらに48時間インキュベートした。
【0095】
ウイルス含有上清を15mLプラスチック遠心チューブに回収し、1300rpmで5分間遠心分離して細胞および細胞破片を除去し、上清を別の15mLプラスチック遠心チューブに移した。使用直前に、20μLのPLUS(商標)試薬をウイルス懸濁液に加え、この混合物を室温で15分間インキュベートした。8μLのLipofectamine(商標)を該混合物に添加して、該混合物を室温でさらに15分間インキュベートした。
【0096】
実施例2:CD16組換えレトロウイルスへのIL-2遺伝子およびTK自殺遺伝子のクローニング
チミジンキナーゼ(TK)遺伝子および小胞体内在性(ER-resident)IL-2を生成するKDELタグ付き構築物(Konstantinidis et al. 2005 Experimental Hematology 33: 159-64)を使用して、IL-2の発現のための遺伝子を組み込んだ組換えレトロウイルスを調製し、かつ対応するcDNAをCD16 pBMN-IRES-EGFPベクターにライゲートする(Miah and Campbell 2010 Methods Mol. Biol. 612: 199-208)。次いで、このpBMN-IRES-EGFPベクターを、Lipofectamine(商標)Plusの存在下でPhoenix-Amphotropicパッケージング細胞株にトランスフェクトする。
【0097】
実施例3:NK-92細胞へのTK、CD16およびIL-2のレトロウイルス形質導入
12.5%FBS、12.5%ウマ胎児血清(FHS)および500IU rhIL-2/mL (Chiron社; Emeryville, CA)を補充したA-MEM (Sigma社; St. Louis、MO)中で培養したNK-92細胞を1300rpmで5分間遠心分離して集め、該細胞ペレットを10mLの無血清Opti-MEM(登録商標)培地に再懸濁させる。5×104個の細胞を含む細胞懸濁液のアリコートを1300rpmで5分間沈降させ、該細胞ペレットを実施例1に記載したレトロウイルス懸濁液2mLに再懸濁して、該細胞を12ウェル培養プレートにまく。該プレートを1800rpmで30分間遠心分離し、7%CO2/残りは空気の雰囲気下で、37℃で3時間インキュベートする。遠心分離とインキュベーションのこのサイクルを2回繰り返す。細胞を8mLのα-MEMで希釈し、T-25フラスコに移し、細胞がコンフルエントになるまで7%CO2/残りは空気の下で、37℃でインキュベートする。形質導入された細胞を回収し、無血清Opti-MEM(登録商標)培地に再懸濁し、蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いてEGFP発現のレベルに基づいて選別する;EGFPはCD16と共発現され、CD16の代理マーカーである。CD16の細胞表面発現は、形質導入された細胞を抗CD16抗体で免疫染色することによって確認される。IL-2の細胞表面発現は精製済みのラット抗ヒトIL-2抗体を用いた免疫染色により測定され、IL-2の細胞内局在はウサギ抗カルレティキュリンERマーカーを用いた免疫染色により確認される。NK-92-TK-CD16-IL2と命名された形質導入細胞は、使用前にCD16の細胞表面発現およびIL-2の細胞内発現についてアッセイされる。該細胞は、ガンシロビルに対する感受性を試験することによって、TKの発現についてアッセイされる。
【0098】
実施例4:外因性IL-2の存在下または非存在下におけるNK-92-TK-CD16-IL-2細胞および非改変NK-92細胞の増殖
最初にNK-92-TK-CD16-IL-2細胞および非改変NK-92細胞を外因性IL-2 (1,200IU/mL)の存在下で4~5週間培養し、その後IL-2不含培地に移して、外因性IL-2の非存在下で培養する。次いで、これらの細胞の増殖をアッセイする。
【0099】
CD16およびIL-2の表面発現をフローサイトメトリーにより測定する。外因性IL-2の非存在下でのNK-92-TK-CD16-IL-2細胞および非改変NK-92細胞の24時間インキュベーション後に実施されたフローサイトメトリー解析は、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞と非改変NK-92細胞において同様の細胞傷害作用を示すが、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞は、非改変NK-92細胞と比較して、増加したCD16表面発現およびはるかに低いIL-2表面発現を示す。
【0100】
これらの結果は、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞がバイスタンダー非改変NK-92細胞の増殖を支持するかどうかを判定する実験によって確認されるが、こうした実験では、非改変NK-92細胞をNK-92-TK-CD16-IL-2と混合して、外因性IL-2の非存在下で共培養する。これらの実験から、NK-92-TK-CD16-IL-2は、培地中へのIL-2の放出が最小限であるため、非改変NK-92細胞の増殖を支持しないことが示される。実際に、非改変NK-92細胞は、外因性IL-2の非存在下で48時間インキュベートした後に増殖を停止する。これとは対照的に、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞の増殖は、72時間のインキュベーション後に依然として見られる。
【0101】
全体的に見て、これらの結果は、外因性IL-2を含まない環境でNK-92-TK-CD16-IL-2細胞を維持する場合には、小胞体(ER)-IL-2がこれらの細胞の増殖を刺激することを示す。
【0102】
実施例5:NK-92-TK-CD16-IL-2細胞の全身毒性および増殖は自殺遺伝子によって効果的に排除される
IL-2の内在的発現は、自律増殖を有するキラー細胞突然変異体の潜在的発生に導く可能性がある。そのため、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞および非改変NK-92細胞のインビボでの増殖が評価される。SCIDマウスを亜致死的(250ラド)に照射して、2群に分ける。15~20日後、腫瘍が触診可能(直径0.5~0.8cm)になったとき、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞を第1群の照射マウスに静脈内注入し、非改変NK-92細胞を第2群のマウスに静脈内注入する。該マウスには外因性サイトカインを投与しない。蛍光活性化セルソーター(FACS)によるEGFP発現の検出を用いて、局在および増殖をモニタリングする。両群のマウスは、注入の24時間後に標的指向局在および増殖を示す。24時間後、対照マウス群の非改変NK-92細胞は増殖を停止するが、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞は大いに増殖し続ける。注入の48時間後、対照マウスにおける非改変NK細胞のアポトーシスおよび試験群のマウスにおけるNK-92-TK-CD16-1L-2細胞の指数関数的増殖が見られる。対照マウスでは、腫瘍が急速に直径1.2cm以上の大きさに達し、マウスを安楽死させる。
【0103】
より小さい腫瘍または完全な腫瘍退縮を有する試験群からのマウスを2群に分離して、自殺遺伝子の機能性を評価する。第1群のマウスを、1日おきにガンシクロビル(50μg)を2回または3回腹腔内投与して治療する。第2群のマウスをプラセボで治療する。マウスにガンシクロビルを投与すると、24時間~72時間以内にNK-92-TK-CD16-IL-2細胞の大幅な減少が生じ、該細胞は増殖前のレベルに戻る。プラセボで治療したマウスでは、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞の増殖が時間の経過とともに拡大し続ける。
【0104】
これらの結果から、TK遺伝子の存在は、NK-92-TK-CD16-IL-2がガンシクロビルに対して依然として感受性であることを確実にし、かつNK-92-TK-CD16-IL-2細胞の指数関数的増殖を妨げることが示される。同じレトロウイルスベクター上のTKとIL-2のこの組み合わせは、NK-92細胞の染色体に組み込まれると、生物学的安全性の向上をもたらす。該細胞はIL-2に依存しているため、TK-CD16-IL-2配列を保持することに対する強力な選択が存在する。こうして、該細胞はガンシクロビルに対して感受性である。TK遺伝子を失って、ガンシクロビルに対して耐性になる細胞は、それらの増殖に必要なIL-2遺伝子をも失っているであろう。
【0105】
実施例6:異なる白血病細胞株に対するNK-92-TK-CD16-IL-2の細胞傷害活性
NK-92-TK-CD16-IL-2エフェクター細胞をα-MEM(IL-2なし)中に懸濁して洗浄し、1300rpmで5分間沈降させる。細胞ペレットをα-MEMに懸濁し、細胞を計数し、1×105個/mL (エフェクター対標的細胞比(E:T)=1:1)、5×105個/mL (E:T=5:1)、1×106個/mL (E:T=10:1)、2×106個/mL (E:T=20:1)の細胞濃度で、または実施される測定に応じて適切に、アリコートを調製する。
【0106】
K562、Daudi、TF-1、AML-193、およびSR-91細胞に対するNK-92-TK-CD16-IL-2エフェクター細胞の細胞傷害活性を測定する(Gong et al. (1994))。K562(赤白血病)およびDaudi(バーキット)リンパ腫細胞株はATCCから得られる。それらを、10%ウシ胎児血清(FCS)を補充したRPMI 1640培地中に連続懸濁培養で維持する。TF-1は、2ng/mLのヒトGM-CSFを含む培地の存在を必要とする骨髄単球系細胞株である(Kitamura et al., J. Cell Physiol. 140:323-334 (1989))。AML-193は、10%の5637馴化培地(Lange et al., Blood 70: 192-199 (1987))の存在下で維持される骨髄系細胞株である。TF-1とAML-193の両細胞は、ブリティッシュコロンビア大学(Vancouver, BC)、Terry Fox LaboratoryのD. Hogge博士より入手する。SR-91は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)患者からGong et al. (1994)によって樹立された初期前駆細胞の特徴を有する細胞株である(Klingemann et al., Leuk. Lymphoma, 12, 463-470 (1994))。これはNK細胞と活性化NK(A-NK)細胞の両方の細胞傷害性に対して耐性である。SR-91もまた、RPMI 1640/10%FCS中に維持される。この細胞株は、サイトカインで処理することによって、NK-92による殺傷に対して感受性になり得る。
【0107】
これらの標的細胞に対するNK-92-TK-CD16-IL-2エフェクター細胞の細胞傷害活性は、標準的な4時間51Cr放出アッセイにより3つ組で測定される。簡単に述べると、1×106個のNK-92-TK-CD16-IL-2細胞を100μLの51Cr (比活性1mCi/mL)で標識し、37℃で1時間インキュベートする。エフェクター細胞をトリパンブルー色素排除により計数し、標的細胞と混合して、エフェクター:標的比を10:1、3:1、1:1および0.3:1とする。CellGro培地を陰性対照として使用し、陽性対照では細胞を1%Triton Xと共にインキュベートする。V字底96ウェルプレートにて37℃で4時間インキュベートした後、70μLの上清を各ウェルから吸引し、Packard Cobra Auto-Gamma 5000シリーズ計数システム(Meriden, CT, 米国)を用いて計数する。自然放出の比率を次式から算出する:%特異的51Cr放出=(サンプル放出-自然放出)/(最大放出-自然放出)×100。
【0108】
K562およびDaudi細胞に対するNK-92-TK-CD16-IL-2細胞の細胞傷害活性は、非改変NK-92細胞の細胞傷害活性よりも有意に高い。TF-1細胞およびAML-193細胞に対するNK-92-TK-CD16-IL-2細胞の細胞溶解活性は、あまり強力ではないが、非改変NK-92細胞の細胞溶解活性よりもまだ高い。SR-91細胞は、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞と非改変NK-92細胞の両方の細胞傷害効果に対して耐性である。SR-91細胞に対する細胞傷害活性のこの欠如は、NK-92細胞との最初の結合を媒介するのに必要な接着分子のSR-91細胞における欠如と一致する。
【0109】
実施例7:NK-92-TK-CD16-IL-2細胞によるヒト初代白血病細胞の細胞溶解
新たに診断されたまたは再発した白血病の患者から、定期的な診断血液検査または骨髄(BM)穿刺の間に、インフォームドコンセントを得て、サンプルを入手する。芽細胞に富む単核細胞をFicoll Hypaque (Pharmacia社, Piscataway, N.J.)密度勾配分離により単離し、RPMI 1640培地で洗浄する。NK-92-TK-CD16-IL-2細胞および非改変NK-92細胞を、12.5%FCSおよび12.5%ウマ血清を補充したα-MEM培地中で培養して維持する。その後、標準的な4時間クロム放出アッセイを用いて、白血病サンプルに対するNK-92-TK-CD16-IL-2細胞と非改変NK-92細胞の細胞傷害活性を比較する。
【0110】
白血病標的に対するNK-92-TK-CD16-IL-2細胞の細胞溶解活性は、非改変NK-92細胞の該活性よりも有意に高い。本発明のNK-92-TK-CD16-IL-2細胞は、患者由来の腫瘍細胞を溶解するのに非改変NK-92細胞よりも驚くほどかつ顕著に効果的であり、より短時間でその効果を発揮する。
【0111】
実施例8:ヒト白血病異種移植SCIDマウスモデルにおけるNK-92-TK-CD16-IL-2細胞の抗白血病効果
NK-92-TK-CD16-IL-2細胞のインビボ殺腫瘍能力の研究のために、T系統急性リンパ芽球性白血病(ALL)患者、急性骨髄性白血病(AML)患者、およびプレB細胞性ALL患者に由来する白血病細胞を、皮下(S.C.)接種によってSCIDマウスにおいて養子成長させ、増殖させる。該マウスの白血病小結節から回収された白血病細胞(第1継代)をこれらの実験に使用する。各群のSCIDマウスに、0.2mL PBS中の第1継代からの5×106個の白血病細胞を腹腔内(I.P.)接種し、24時間後0.4mL PBS中の2×107個のNK-92-TK-CD16-IL-2細胞をLP.注入により投与する。動物は、外因性IL-2の有無にかかわらず、NK-92-TK-CD16-1L-2細胞の1回投与または1、3、5、7および9日目に投与される一連の5回投与を受ける。
【0112】
全てのヒト白血病は、SCIDマウスにおいて活発に増殖する。T-ALL患者、AML患者およびプレB-ALL患者に由来する白血病細胞は、NK-92-TK-CD16-IL-2細胞および非改変NK-92細胞に対してインビトロで非常に感受性である。
【0113】
NK-92-TK-CD16-IL-2細胞による治療は、非改変NK-92細胞による治療と比較して、有意にマウスの寿命を延ばし、かつ生存を延長する。NK-92-TK-CD16-IL-2細胞の注入を5回受けた数匹の動物は、接種6ヶ月後に白血病発症の兆候もなく生き残る。NK-92で治療したマウスは初期の改善を示すものの、少数のマウスには白血病細胞が6ヶ月で観察される。
【0114】
これらの結果は、NK-92-CD16-IL-2細胞による白血病腫瘍のインビボ治療が非常に効果的であり、延命および健康の改善をもたらすことを示す。
【0115】
実施例9:ADCCを介した細胞溶解
高度に選択的で有効な抗腫瘍剤である数種の抗体の活性は、少なくとも一部には、該抗体のFc(定常)部分へのナチュラルキラー細胞の結合に依存しており、その結果、腫瘍細胞の溶解が抗体依存性細胞傷害(ADCC)機序を介して起こるようになる。NK-92細胞は、NK細胞に関連する活性化受容体および細胞溶解経路のほとんど全てを保持するが、それらはCD16受容体を発現せず、したがって、ADCC機序を介して標的細胞を溶解することができない。NK-92細胞へのCD16発現のトランスジェニック挿入は、該細胞が有効な抗体に対する十分な結合親和性を有する場合、NK-92細胞がADCC機序を介して作用することを可能にする。
【0116】
様々な抗体への結合の効果は、白血病を有する対象をアレムツズマブで治療してから24~72時間後に該対象に投与されるFcR発現NK-92細胞において評価される。FcR発現NK-92細胞および標的がん細胞に対する抗体結合の細胞傷害効果を、非改変NK-92細胞の細胞傷害効果と比較する。抗体および対応する標的がん細胞を表2に従って選択して、アッセイする。
【0117】
選択された標的細胞を[51Cr]クロム酸Naで標識する。[51Cr]標識した標的細胞のアリコートを、0.01μg~5μg/mLの複数の濃度の選択された抗体と共に室温で15分間さらにインキュベートし、α-MEMで洗浄し、使用前に1×105個/mLの細胞濃度に調整する。100μLの選択されたタイプの標的細胞および100μLのエフェクター細胞を、1×105個/mL (E:T=1:1)、5×105個/mL (E:T=5:1)、1×106個/mL (E:T=10:1)、2×106個/mL (E:T=20:1)の細胞濃度で、または実施される測定に応じて適切に、96ウェルV底プレートの各ウェルに添加する。評価される各E:T比で3~6個のレプリケートウェルを調製する。自然溶解対照(エフェクター細胞を100μLのα-MEMで置き換える)および全放出対照(エフェクター細胞を100μLの2%Triton X-100界面活性剤/α-MEMで置き換える)のそれぞれに、少なくとも6個のウェルを割り当てる。標的細胞が抗体に曝露されなかった「非ADCC」対照に、各E:T比でさらに3個のウェルを割り当てる。手順対照および内部標準としてCD16を発現しない非改変NK-92エフェクター細胞の使用に、さらに6個またはそれ以上のウェルを割り当てる。その後、プレートを500rpmで3分間遠心分離し、7%CO2/残りは空気の雰囲気下で、37℃で4時間インキュベートする。インキュベーション時間の終了時に、プレートを1500rpmで8分間遠心分離し、細胞傷害性による51[Cr]放出の尺度としてγカウンターで計数するために各ウェルから100mLの上清を回収する。その後、特異的溶解の比率を計算する。
【0118】
これらのアッセイは、CD16の様々な表面レベルを発現するFcR発現NK-92細胞を用いて繰り返される。
【0119】
FcR発現NK-92細胞は、選択された抗体の存在下で標的がん細胞に対して高い細胞傷害活性を示す。非改変NK-92細胞は、標的がん細胞に対してより低い細胞傷害活性を示す。これらの結果から、FcR発現NK-92細胞はADCC機序を介して作用する能力があり、したがって、抗体の存在下で腫瘍細胞に対して増強された治療効果を与えることが実証される。
【0120】
実施例10:ヒト白血病異種移植SCIDマウスモデルにおけるFcR発現NK-92細胞とゲムツズマブとの併用抗白血病効果
FcR発現NK-92細胞のインビボ殺腫瘍能力の研究のために、急性骨髄性白血病(AML)患者由来の白血病細胞を、S.C.接種によりSCIDマウスにおいて養子成長させ、増殖させる。該マウスの白血病小結節から回収された白血病細胞(第1継代)をこれらの実験に使用する。各群のSCIDマウスに、0.2mL PBS中の第1継代からの5×106個の白血病細胞をI.P.接種し、24時間後0.4mL PBS中の2×107個のFcR発現NK-92細胞およびゲムツズマブをLP.注入により投与する。動物は、ゲムツズマブと共にまたはゲムツズマブなしで、FcR発現NK-92細胞の1回投与または1、3、5、7および9日目に投与される一連の5回投与を受ける。対照動物は、ゲムツズマブの有無にかかわらず、非改変NK-92細胞で治療される。
【0121】
ヒト白血病は、SCIDマウスにおいて活発に増殖する。ゲムツズマブと組み合わせてFcR発現NK-92細胞で治療したマウスは腫瘍退縮を示し、抗腫瘍効果は、ゲムツズマブを用いることなくFcR発現NK-92細胞のみで治療したマウスよりも高く、NK-92で治療したマウスよりも高い。
【0122】
これらの結果は、ゲムツズマブなどのモノクローナル抗体と組み合わせたFcR発現NK-92細胞による白血病腫瘍のインビボ治療が非常に効果的であり、延命および健康の改善をもたらすことを示す。
【0123】
実施例11:CD16および小胞体標的指向IL-2のプラスミド発現ベクターの構築
GeneArt (Life Technologies社)のGene Stringプログラムを使用して、プラスミド骨格をデノボ設計した。その最小構造は、colE1細菌複製起点と、アンピシリン耐性カセットと、マルチクローニングサイト(MCS)の両側に位置するEF1αプロモーターおよびSV40ポリアデニル化部位からなる哺乳動物発現カセットとを含む。
【0124】
哺乳動物発現カセットは両側にBamH1部位があり、該部位はプラスミドの線状化のみならず全ての非真核生物配列の除去をも可能にする。
【0125】
発現されるトランスジーンは、ヒトCD16 158V配列と、これに続くIRES配列それ自体と、これに続いて、IL-2を小胞体に標的指向すれるようにERIL-2配列(IL-2 KDEL)である。CD16およびERIL-2の両配列は、ヒトにおける発現を最大にするためにGeneArtによってコドン最適化された。該トランスジーンはEcoRIとNotIを用いて切り出すことができる。得られるmRNAはEF1αプロモーターの制御下にあるバイシストロン性の転写産物であり、ERIL-2はIRES配列の制御下でCD16から独立して翻訳される。このプラスミドの模式図を
図1に示す。NK-92細胞にトランスフェクトするために、このプラスミドを使用した。
【0126】
実施例12:プラスミド発現ベクターを用いたNK-92.W細胞のトランスフェクション
NK-92.W細胞は、現在までのほとんどの臨床試験のための親株である。Bioreliance社のワーキングセルバンク(WCB、pl5 11/30/00)のバイアル1本を、12mlのX-vivo10 5%HS+500IU/ml rhIL-2を含むT25フラスコに解凍し、2~4日ごとに継代した(新鮮なX-Vivo10 5%HS+IL-2中に×2~×4希釈、合計18~20スプリット/継代)。
【0127】
トランスフェクション用のNK-92.W細胞を500gで10分間スピンした。上清を捨て、細胞ペレットを15mlのD-PBS 1×に再懸濁し、500gで10分間遠心分離した。ペレットを10e7細胞/mlの細胞密度で緩衝液R (Neonキット、Invitrogen社)に再懸濁した。NK-92.W細胞にpNEUKv1 CD16(158V)-ERIL2プラスミドを、Neonエレクトロポレータ(100μlの緩衝液R中の10e6個の細胞について5μgのDNA;エレクトロポレーションチューブに3mlの緩衝液E2を入れて1250V/10ms/3パルス)を使って、エレクトロポレーションした。エレクトロポレーション済みの細胞をIL-2含有培地(6ウェルプレート、4ml培地/ウェル)中で一晩インキュベートし、2014年10月16日にIL-2不含培地に移した(1回のPBSスピン/洗浄)。CD16発現は、APC-Cy7にコンジュゲートした抗CD16抗体(クローン3G8、マウスIgG1k)(Bd Pharmingen社)を用いてアッセイした。わずか2週間あまりで、細胞の約78%がCD16陽性であった(右のピーク、
図2a)。細胞の約90%は約4週間で陽性であった(右のピーク、
図2b)。
【0128】
NK-92.W CD16(158V)-ERIL2細胞を凍結し(1バイアルにつき約1×10e6細胞を5バイアル)、2014年12月15日に凍結した(1バイアルにつき約1×10e6細胞を5バイアル)。凍結培地は10%DMSO、50%HS、40%である。
【0129】
凍結したNK-92.W FcR-ERIL2細胞を評価した。細胞を解凍し、T25フラスコ内のIL-2を含まないX-Vivo10 5%HS中で培養した。CD16(158V)の発現は、アッセイ間のMFIの比較を可能にするために同じ設定を使用して、APC-Cy7にコンジュゲートした抗CD16抗体クローン3G8を用いるフローサイトメトリー(Attune)により経時的に追跡した。CD16の発現は経時的に安定していた(
図3)。
【0130】
実施例13:ADCC活性の評価
ADCC活性は、最初にリツキシマブと組み合わせてCD20+細胞株DoHH2に対して試験した。この試験を経時的に繰り返し(n=9)、ハーセプチンと組み合わせてHer2/Neu+細胞株SKOV3に対しても繰り返した(n=5)。結果を
図4に示す。CD16および小胞体標的指向IL-2を発現する改変型NK-92.W細胞(
図4ではHaNK.12/15と表示)は、ハーセプチンと一緒に使用した場合にSKOV-3細胞に対して増強されたADCC活性を、また、リツキシマブと併用した場合にDoHH2細胞に対してADCC活性を示した。haNK.12/15細胞は、対照(DoHH2細胞、ハーセプチン抗体;SKOV-3細胞/リツキシマブ)においてはADCC活性を示さなかった。非改変NK-92.2細胞もまた、抗体と一緒に投与したときADCC活性を示さなかった。
【0131】
したがって、実施例11~13から、プラスミドベクターを用いてCD16およびIL-2を発現するように改変されたNK-92細胞は、モノクローナル抗体と組み合わせて使用したとき、増強されたADCC活性を示したことが実証される。
【0132】
本明細書に記載された実施例および実施態様は例示のみを目的としたものであり、それらの観点で様々な修正または変更が当業者には示唆され、それらは本出願の精神および範囲内にかつ添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解されよう。本明細書に引用された全ての刊行物、配列アクセッション番号、特許および特許出願は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0133】
例示的な配列
SEQ ID NO:1 低親和性免疫グロブリンγFc領域受容体III-Aのアミノ酸配列(成熟形態)。158位のフェニルアラニンには下線が引かれている。
SEQ ID NO:2 高親和性変異型F158V免疫グロブリンγFc領域受容体III-Aのアミノ酸配列(成熟形態)。158位のバリンには下線が引かれている。
SEQ ID NO:3 低親和性免疫グロブリンγFc領域受容体III-Aのアミノ酸配列(前駆体形態)。前駆体形態の176位は成熟形態の158位に対応する。176位のPheには下線が引かれている。
SEQ ID NO:4 高親和性変異型免疫グロブリンγFc領域受容体III-Aのアミノ酸配列(前駆体形態)。前駆体形態の176位は成熟形態の158位に対応する。176位のValには下線が引かれている。
SEQ ID NO:5 低親和性免疫グロブリンγFc領域受容体III-A(前駆体)をコードするポリヌクレオチド(158位にフェニルアラニンをコードする)
SEQ ID NO:6 野生型IL-2
SEQ ID NO:7 IL-2-ER
【配列表】