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  • 特許-栽培システム及び栽培方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】栽培システム及び栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20220112BHJP
   A01G 9/02 20180101ALI20220112BHJP
【FI】
A01G31/00 612
A01G31/00 601B
A01G9/02 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020501926
(86)(22)【出願日】2018-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2018006497
(87)【国際公開番号】W WO2019163057
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】519145115
【氏名又は名称】ヤンマーグリーンシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 進一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 将人
(72)【発明者】
【氏名】松尾 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】三須 英幸
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-253165(JP,A)
【文献】特開2015-053927(JP,A)
【文献】特開2015-053882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
A01G 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物を活着させる培地部と、
栽培液を貯留する貯留槽と、
上記貯留槽から上記培地部に毛管現象により栽培液を流通する送液部と、
上記貯留槽内の栽培液の水位が一定に保たれるよう上記貯留槽内の栽培液の減少量に応じて上記貯留槽に栽培液を供給する供給機構と、
上記貯留槽内の栽培液の減少量又は上記供給機構から上記貯留槽への栽培液の供給量に基づいて上記作物の吸液量を経時的に算出する演算部と、
少なくとも上記演算部で算出される吸液量を含む生育情報に基づいて上記作物の生育環境を制御する制御部と
を備え
上記生育環境が、光強度、上記栽培液の肥料濃度、風速、温度及び湿度の少なくともいずれか1つである栽培システム。
【請求項2】
上記作物を生育するのに適した上記生育情報に対応する最適生育情報を格納するデータベースをさらに備え、
上記制御部が、上記最適生育情報に近づくように上記生育環境を制御する請求項1に記載の栽培システム。
【請求項3】
上記生育情報が、さらに積算日射量、平均風速及び平均飽差の少なくともいずれか1つを含む請求項1又は請求項2に記載の栽培システム。
【請求項4】
作物を活着させる培地部と、
栽培液を貯留する貯留槽と、
上記貯留槽から上記培地部に毛管現象により栽培液を流通する送液部と
を備える栽培装置を用いた作物の栽培方法であって、
上記貯留槽内の栽培液の水位が一定に保たれるよう上記貯留槽内の栽培液の減少量に応じて上記貯留槽に栽培液を供給する栽培液供給工程と、
上記貯留槽内の栽培液の減少量又は上記栽培液供給工程で上記貯留槽へ供給される栽培液の供給量に基づいて上記作物の吸液量を経時的に算出する算出工程と、
少なくとも上記算出工程で算出される吸液量を含む生育情報に基づいて上記作物の生育環境を制御する制御工程と
を備え
上記生育環境が、光強度、上記栽培液の肥料濃度、風速、温度及び湿度の少なくともいずれか1つである栽培方法。
【請求項5】
上記作物が果菜類であり、
上記栽培液供給工程、算出工程及び制御工程を上記果菜類の活着時から果実肥大初期までの間通して行う請求項に記載の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培システム及び栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作物を栽培する場合、作業者は通常作物の生育具合を定期的に観察し、葉の大きさ等の樹姿を基に給水量や施肥量等を調整する。この従来の栽培方法では、作業者が自身の限られた経験や知識に基づいて給水量、施肥量等を判断している。しかしながら、この栽培方法によると、作業者が自身の経験又は知識に基づいて判断できないような場合や、作業者の熟練度が不十分な場合等には適切に対処できない場合がある。従って、この栽培方法によると、安定した収量を得られない場合がある。
【0003】
そのため、今日では作業者個人の経験や知識に基づかないで作物を栽培することが可能な栽培方法が発案されている(特開2003-79215号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-79215号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様に係る栽培システムは、作物を活着させる培地部と、栽培液を貯留する貯留槽と、上記貯留槽から上記培地部に毛管現象により栽培液を流通する送液部と、上記貯留槽内の栽培液の水位が一定に保たれるよう上記貯留槽内の栽培液の減少量に応じて上記貯留槽に栽培液を供給する供給機構と、上記貯留槽内の栽培液の減少量又は上記供給機構から上記貯留槽への栽培液の供給量に基づいて上記作物の吸液量を経時的に算出する演算部と、少なくとも上記演算部で算出される吸液量を含む生育情報に基づいて上記作物の生育環境を制御する制御部とを備える。
【0006】
本発明の他の一態様に係る栽培方法は、作物を活着させる培地部と、栽培液を貯留する貯留槽と、上記貯留槽から上記培地部に毛管現象により栽培液を流通する送液部とを備える栽培装置を用いた作物の栽培方法であって、上記貯留槽内の栽培液の水位が一定に保たれるよう上記貯留槽内の栽培液の減少量に応じて上記貯留槽に栽培液を供給する栽培液供給工程と、上記貯留槽内の栽培液の減少量又は上記栽培液供給工程で上記貯留槽へ供給される栽培液の供給量に基づいて上記作物の吸液量を経時的に算出する算出工程と、少なくとも上記算出工程で算出される吸液量を含む生育情報に基づいて上記作物の生育環境を制御する制御工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係る栽培システムを示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る栽培方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本発明が解決しようとする課題]
上記公報に記載の作物の栽培方法は、塩素イオン及び硫酸イオンの寄与率を加味した土壌溶液の電気伝導度の管理目標を算出し、土壌溶液中の電気伝導度がこの管理目標の範囲内に含まれるように肥料溶液の濃度及び液量を調節する。
【0009】
上記公報に記載の作物の栽培方法によると、土壌溶液中の電気伝導度を一定範囲内に調節することで土壌溶液中の栄養状態を一定に保つことができる。しかしながら、この栽培方法によると、作物のストレスを緩和することはできるものの、作物の実際の生育状況に合わせて作物の吸水量や吸肥量(肥料の吸収量)を制御することは困難である。また、この栽培方法では、土壌溶液中の電気伝導度が管理目標に合致しているかどうかを毎日測定する必要があり作業者の負担が大きい。
【0010】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、作物を容易かつ適切に生長させることができる栽培システム及び栽培方法を提供することを課題とする。
【0011】
[本発明の効果]
本発明に係る栽培システム及び栽培方法は、作物を容易かつ適切に生長させることができる。
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本発明の一態様に係る栽培システムは、作物を活着させる培地部と、栽培液を貯留する貯留槽と、上記貯留槽から上記培地部に毛管現象により栽培液を流通する送液部と、上記貯留槽内の栽培液の水位が一定に保たれるよう上記貯留槽内の栽培液の減少量に応じて上記貯留槽に栽培液を供給する供給機構と、上記貯留槽内の栽培液の減少量又は上記供給機構から上記貯留槽への栽培液の供給量に基づいて上記作物の吸液量を経時的に算出する演算部と、少なくとも上記演算部で算出される吸液量を含む生育情報に基づいて上記作物の生育環境を制御する制御部とを備える。
【0014】
当該栽培システムは、送液部が毛管現象によって栽培液を培地部に流通するので、作物の吸液量を培地部への供給量と略一致させることができる。そのため、当該栽培システムは、上記演算部が上記貯留槽内の栽培液の減少量又は上記貯留槽への栽培液の供給量に基づいて上記作物の吸液量を算出することができる。当該栽培システムは、予め定めた特定の生育環境を保つことを主眼とする従来のシステムとは異なり、上記制御部が上記演算部で算出された吸液量を含む作物の実際の生育情報に基づいてこの作物の生育環境を制御するので作物を容易かつ適切に生長させることができる。
【0015】
当該栽培システムは、上記作物を生育するのに適した上記生育情報に対応する最適生育情報を格納するデータベースをさらに備え、上記制御部が、上記最適生育情報に近づくように上記生育環境を制御するとよい。このように、上記作物を生育するのに適した上記生育情報に対応する最適生育情報を格納するデータベースをさらに備え、上記制御部が、上記最適生育情報に近づくように上記生育環境を制御することで、上記作物をより容易かつ適切に生長させることができる。
【0016】
上記生育環境が、光強度、上記栽培液の肥料濃度、風速、温度及び湿度の少なくともいずれか1つであるとよい。上記制御部によって光強度、上記栽培液の肥料濃度、風速、温度及び湿度の少なくともいずれか1つを制御することで、上記作物をより容易かつ適切に生長させることができる。
【0017】
上記生育情報が、さらに積算日射量、平均風速及び平均飽差の少なくともいずれか1つを含むとよい。このように、上記生育情報が、上記吸液量に加え、積算日射量、平均風速及び平均飽差の少なくともいずれか1つを含むことによって、上記作物を生長させるうえでより適切な生育情報を得ることができる。
【0018】
また、本発明の他の一態様に係る栽培方法は、作物を活着させる培地部と、栽培液を貯留する貯留槽と、上記貯留槽から上記培地部に毛管現象により栽培液を流通する送液部とを備える栽培装置を用いた作物の栽培方法であって、上記貯留槽内の栽培液の水位が一定に保たれるよう上記貯留槽内の栽培液の減少量に応じて上記貯留槽に栽培液を供給する栽培液供給工程と、上記貯留槽内の栽培液の減少量又は上記栽培液供給工程で上記貯留槽へ供給される栽培液の供給量に基づいて上記作物の吸液量を経時的に算出する算出工程と、少なくとも上記算出工程で算出される吸液量を含む生育情報に基づいて上記作物の生育環境を制御する制御工程とを備える。
【0019】
当該栽培方法は、送液部が毛管現象によって栽培液を培地部に流通するので、作物の吸液量を培地部への供給量と略一致させることができる。そのため、当該栽培方法は、上記算出工程で上記貯留槽内の栽培液の減少量又は上記貯留槽への栽培液の供給量に基づいて上記作物の吸液量を算出することができる。当該栽培方法は、上記制御工程で、上記算出工程で算出された吸液量を含む作物の実際の生育情報に基づいてこの作物の生育環境を制御するので作物を容易かつ適切に生長させることができる。
【0020】
当該栽培方法は、上記作物が果菜類であり、上記栽培液供給工程、算出工程及び制御工程を上記果菜類の活着時から果実肥大初期までの間通して行うとよい。このように、上記作物が果菜類であり、上記栽培液供給工程、算出工程及び制御工程を上記果菜類の活着時から果実肥大初期までの間通して行うことによって、上記作物を適切に生長させ、容易かつ確実に所望の収量を得ることができる。
【0021】
なお、本発明において、「活着」とは、苗が根付いて生長し始めることをいい、「活着時」とは、苗が根付いて生長し始める時期をいう。この「活着時」とは、例えば根からの吸液が活発になることで生長点付近の伸長や本葉の展開が目視できる頃をいい、トマトについては育苗終了後5日目から14日目程度を意味する。「果実肥大初期」とは、第1花房に着果した果実の肥大初期をいう。
【0022】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の好適な実施形態について、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0023】
[第一実施形態]
<栽培システム>
図1の栽培システムは、作物Pを活着させる培地部1と、栽培液Qを貯留する貯留槽2と、貯留槽2から培地部1に毛管現象により栽培液Qを流通する送液部3と、貯留槽2内の栽培液Qの水位が一定に保たれるよう貯留槽2内の栽培液Qの減少量に応じて貯留槽2に栽培液Qを供給する供給機構4と、貯留槽2内の栽培液Qの減少量又は供給機構4から貯留槽2への栽培液Qの供給量に基づいて作物Pの吸液量を経時的に算出する演算部5と、少なくとも演算部5で算出される吸液量を含む生育情報に基づいて作物Pの生育環境を制御する制御部6と、培地部1、貯留槽2及び送液部3を支持する架台7とを備える。なお、「吸液量を含む生育情報」とは、栽培液の吸液量を生育情報としてそのまま含む場合の他、栽培液の吸液量に基づいて算出される情報(例えば積算吸液量)を生育情報として含む場合も包含する概念である。
【0024】
また、当該栽培システムは、上記生育情報に対応する作物Pを生育するのに適した最適生育情報を格納するデータベース8と、作物Pへの日射量を取得する日射量取得機構9と、作物Pの栽培空間の風速を取得する風速取得機構10と、作物Pの栽培空間の飽差を取得する飽差取得機構11と、作物Pへ照射される光強度を調節する光強度調節機構12と、作物Pに供給する栽培液Qの肥料濃度を調節する肥料濃度調節機構13と、作物Pの栽培空間の風速を調節する風速調節機構14と、作物Pの栽培空間の温度を調節する温度調節機構15と、作物Pの栽培空間の湿度を調節する湿度調節機構16とを備える。
【0025】
当該栽培システムは、室内空間を用いて作物Pを栽培するよう構成されていてもよく、屋外空間を用いて作物Pを栽培するよう構成されていてもよい。当該栽培システムが室内空間を用いたものである場合、「栽培空間」とは、この作物Pを栽培するために区画された室内空間をいう。また、当該栽培システムが屋外空間を用いたものである場合、「栽培空間」とは、圃場等によって画定される作物Pを栽培するために区画された空間をいう。
【0026】
当該栽培システムは、送液部3が毛管現象によって栽培液Qを培地部1に流通するので、作物Pの吸液量を培地部1への供給量と略一致させることができる。そのため、当該栽培システムは、演算部5が貯留槽2内の栽培液Qの減少量又は貯留槽2への栽培液Qの供給量に基づいて作物Pの吸液量を算出することができる。当該栽培システムは、予め定めた特定の生育環境を保つことを主眼とする従来のシステムとは異なり、制御部6が演算部5で算出された吸液量を含む作物Pの実際の生育情報に基づいてこの作物Pの生育環境を制御するので、作物Pを容易かつ適切に生長させることができる。より詳しくは、当該栽培システムは、日々変化し得る作物Pの生育情報に応じて作物Pの生育環境を随時修正しつつこの作物Pを適切に生長させることができる。また、当該栽培システムは、演算部5で経時的に算出される吸液量に基づいて制御部6が作物Pの生育環境を制御するので、作物Pの生育状況を目視にて確認しなくてもこの作物Pを適切に生長させることができる。
【0027】
〈作物〉
作物Pとしては、特に限定されるものではなく、例えば果菜類、根菜類、葉菜類、イネ科植物、花菜類等が挙げられるが、吸液量に基づいて適切に生長させやすい果菜類が好ましく、中でもトマトが特に好ましい。
【0028】
〈栽培液〉
栽培液Qは、水に肥料を配合したものである。この肥料は、雑菌が繁殖することを抑制する観点から、化学肥料を含むことが好ましい。
【0029】
(培地部)
培地部1は、樋状の枠体1a内に複数の粒子1bが充填された構成を有する。培地部1は、枠体1aの長手方向に複数の作物Pを活着可能に構成されてもよく、1つの作物Pのみを活着可能に構成されてもよい。枠体1aは、長手方向と垂直方向の断面がU字状である。枠体1aは、透水性及び防根性を有する帯状の透水シートによって構成されている。上記透水シートは、幅方向(長手方向と垂直な水平方向)の中心部を下方に弛ませた状態で幅方向の両端部が後述する一対の上側桁材7dに固定されている。なお、枠体1aは、必ずしも1枚の透水シートから構成される必要はなく、複数枚の透水シートが連続的又は断続的に配設されて構成されてもよい。
【0030】
枠体1aの素材としては、特に限定されるものではなく、例えば紙、織布、不織布等が挙げられる。
【0031】
枠体1aの平均厚さの下限としては、0.1mmが好ましく、0.2mmがより好ましい。一方、枠体1aの平均厚さの上限としては、5.0mmが好ましく、3.0mmがより好ましい。枠体1aの平均厚さが上記下限より小さいと、防根性が不十分となるおそれがある。逆に、枠体1aの平均厚さが上記上限を超えると、上記透水シートのコストが高くなり過ぎるおそれがある。なお、「平均厚さ」とは、任意の10点の厚さの平均値をいう。
【0032】
複数の粒子1bは、枠体1a内に充填されて粒子層を構成する。粒子1bとしては、枠体1a内に充填されて毛管現象を発現するものであれば特に限定されないが、例えば土壌、パミスサンド等の微粒軽石、多孔性の火山岩の粉砕粒、粒状のロックウール、コーラルサンド、サンゴ、木炭等が挙げられる。これらは2種以上を混合して用いてもよい。中でも、良好な毛管現象が確保され、また不要になった場合に自然土に返せる観点から、土壌が好ましい。
【0033】
上記土壌としては、例えば市販の園芸用の培土、バーミキュライト、ベントナイト、ゼオライト、砂、鹿沼土、赤玉土、真砂土等が挙げられる。これらの中でも、作物Pの根病を発生し難い点から、一般的な培土に比べて有機物含量が低く微生物生息数も少ない砂が好ましい。
【0034】
粒子1bの粒子径の下限としては、0.10mmが好ましく、0.15mmがより好ましい。一方、粒子1bの粒子径の上限としては、1.0mmが好ましく、0.6mmがより好ましい。粒子1bの粒子径が上記下限に満たないと、栽培液Qを作物Pの根部に供給する領域の空隙部分が少なくなり過ぎて過湿となり、雑菌が繁殖し易くなるおそれがある。逆に、粒子1bの粒子径が上記上限を超えると、栽培液Qを作物Pの根部に供給する領域の空隙が大きくなり過ぎて毛管現象が弱くなり、所望される量の栽培液Qを作物Pの根部に供給できなくなるおそれがある。なお、「粒子径」とは、JIS-Z8801-1:2006に規定される篩を用い、目開きの大きい篩から順に粒子をかけて篩上の粒子数と各篩の目開きとから算出される粒子の平均径である。
【0035】
(貯留槽)
貯留槽2は、後述の栽培液槽4aから供給される栽培液Qを一時貯留する。貯留槽2は枠体1bの下方に配設されている。貯留槽2は樋状に形成されている。貯留槽2の長手方向と枠体1bの長手方向とは平行である。貯留槽2は、上端に帯状の開口を有する上部2aと、この上部2aの下端から下方に連続して設けられ、栽培液Qを貯留する下部2bとを有する。下部2bは上部2aよりも内部平均幅が小さい。
【0036】
貯留槽2の主構成材料としては、例えば金属、セラミック、樹脂等が挙げられ、軽量な点で樹脂が好ましい。また、上記樹脂としては、例えばABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0037】
(送液部)
送液部3はシート体である。送液部3の具体的な平面形状は特に限定されないが、例えば矩形状、好ましくは長方形状である。送液部3は、一端、好ましくは短手方向の一端、が貯留槽2に貯留される栽培液Q中に浸漬している。また、送液部3は、他端側(栽培液Q中に浸漬される側と反対側)の一部が枠体1aの底部と当接している。これにより、貯留槽2に貯留される栽培液Qを毛管現象により揚水し、枠体1aの底部に供給可能に構成されている。
【0038】
送液部3の材質としては、毛管現象により栽培液Qを揚水し、この栽培液Qを枠体1aの底部に供給できるものであれば特に限定されないが、例えば不織布、ロックウール、フェルト、ポリウレタン等の合成樹脂などが挙げられる。中でも、適度な毛管現象の発現及び適切な吸水率を発揮できる点から不織布が好ましい。
【0039】
送液部3の透水率の下限としては、0.01%が好ましく、1.00%がより好ましい。一方、送液部3の透水率の上限としては、40%が好ましく、30%がより好ましい。上記透水率が上記下限に満たないと、枠体1aの底部に供給される栽培液Qの量が不十分となるおそれがある。逆に、上記透水率が上記上限を超えると、送液部3に要するコストが不要に高くなるおそれがある。なお、「透水率」とは、平面状の送液部の表面から水を散布した際に送液部の裏面へ通過した水の比率を意味する。
【0040】
送液部3の厚さの下限としては、0.5mmが好ましく、0.7mmがより好ましい。一方、送液部3の厚さの上限としては、2.0mmが好ましく、1.5mmがより好ましい。送液部3の厚さが上記下限より小さいと、送液部3の強度が不十分となり破断するおそれがある。逆に、送液部3の厚さが上記上限を超えると、送液部3に要するコストが不要に高くなるおそれがある。
【0041】
送液部3の揚水高さの下限としては、3cmが好ましく、10cmがより好ましく、20cmがさらに好ましい。一方、送液部3の揚水高さの上限としては、300cmが好ましく、200cmがより好ましく、40cmがさらに好ましい。送液部3の揚水高さが上記下限より小さいと、枠体1aの底部に供給される栽培液Qの量が不十分となるおそれがある。逆に、送液部3の揚水高さが上記上限を超えると、送液部3に要するコストが不要に高くなるおそれがある。なお、「揚水高さ」とは、以下の手法により測定される値をいう。まず、送液部を幅4cm、長さ120cmに切断したシートを平均厚さ0.03mmのポリエチレンフィルムで被覆(熱圧着で袋状としたフィルムにシートを挿入して周りを被覆)したものを測定サンプルとし、鉛直に測定サンプルを吊り下げられるようにした架台にセットする。このとき、上部及び下部を5cm開放して液面に接しておくようにする。そして、24時間で液面から揚水した高さを5回測定し、これらの平均値を揚水高さとする。
【0042】
(供給機構)
供給機構4は、栽培液Qを貯留する栽培液槽4aと、栽培液槽4aに貯留される栽培液Qを貯留槽2に圧送可能なポンプ4bと、貯留槽2の水位を検出するセンサ4cと、貯留槽2における栽培液Qの水位が一定以下である場合に栽培液槽4aから貯留槽2に栽培液Qを供給するようにポンプ4bを駆動すると共に、貯留槽2における栽培液Qの水位が一定以上となった場合にポンプ4bの駆動を停止する駆動制御部4dとを有する。
【0043】
〈栽培液槽〉
栽培液槽4aは、貯留槽2に供給される栽培液Qを貯留する。栽培液槽4aは、例えばポリエチレン等の合成樹脂を主成分とする容器である。なお、「主成分」とは質量換算で最も含有量の多い成分をいい、例えば含有量が50質量%以上の成分をいう。
【0044】
〈センサ〉
センサ4cは、所定間隔で経時的に貯留槽2の水位を検出する。センサ4cによる水位の検出間隔としては、特に限定されないが、例えば1秒以上60秒以下の一定間隔とすることができる。センサ4cの種類としては、貯留槽2の水位を経時的に検出することができる限り特に限定されるものではなく、光学式、フロート式、静電容量式、超音波式等のレベルセンサを用いることができる。
【0045】
〈駆動制御部〉
駆動制御部4dは、センサ4cで検出された貯留槽2の水位を基にポンプ4bを駆動制御する。当該栽培システムは、後述するように演算部5がセンサ4cで検出された貯留槽2の水位の変化を容量に換算するよう構成されていてもよい。駆動制御部4dは、演算部5で算出される容量分の栽培液Qを貯留槽2に供給するようポンプ4bを駆動制御するよう構成されてもよく、センサ4cで検出される貯留槽2の水位が一定になるまでポンプ4bを駆動制御するよう構成されてもよい。
【0046】
(演算部)
演算部5は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。当該栽培システムは、毛管現象によって栽培液Qを培地部1に流通するので、貯留槽2内の栽培液Qの減少量を作物Pの吸液量と一致させることができる。演算部5は、例えばセンサ4cで検出された貯留槽2の水位の変化を容量に換算し、この容量を作物Pの吸液量として算出する。一方、演算部5は、栽培液槽4aから貯留槽2に栽培液Qを供給する供給管内に設けられる流量計17によって計測される栽培液Qの流量から作物Pの吸液量を求めてもよい。なお、演算部5が貯留槽2への栽培液Qの供給量に基づいて作物Pの吸液量を求める場合、流量計17が演算部5を兼ねることも可能である。
【0047】
(データベース)
データベース8は、作物Pの吸液量、日射量、風速及び飽差の少なくともいずれか1つに基づく最適生育情報を格納する。データベース8は、例えば作物Pの生育日数をM[日]、積算吸液量をA[L]とした場合、A=nM(但し、nは正の定数)によって求められる最適生育情報を格納する。中でも、データベース8は、作物Pの積算吸収肥料量、積算日射量及び平均飽差に基づく最適生育情報を格納することが好ましい。具体的には、データベース8は、作物Pの栽培液Qの活着時以降の積算吸液量[L]にこの栽培液Qの肥料濃度[me/L]を乗じて求められる積算吸収肥料量をF[me]、日射量計によって求められる作物Pの活着時以降における作物Pへの積算日射量をS[W・hr/m]、作物Pの活着時以降における平均温度及び平均湿度によって求められる上記栽培空間における平均飽差をD[g/m]とし、作物Pの生長指標をGとした場合、G=F/(Sαβ)(但し、α及びβは定数)で算出される最適生育情報を格納することが好ましい。また、データベース8は、作物Pの積算吸収肥料量、積算日射量、平均風速及び平均飽差に基づく最適生育情報を格納することも好ましい。具体的には、風速計によって求められる上記栽培空間における作物Pの活着時以降の平均風速をC[m/s]とした場合、G=F/(Sαβγ)(但し、α、β及びγは定数)で算出される最適生育情報を格納することも好ましい。なお、上記最適生育情報は、作物Pの種類毎に設定されてもよく、さらに作物Pの生長段階に応じて設定されてもよい。例えば作物Pがトマトである場合、作物Pの生長段階は、栽培期間の各日の平均温度を積算して求められる積算温度を基に定めることが可能である。具体的には、播種日から起算した積算温度が1000℃となった時点を第1花房開花期、1210℃となった時点を第2花房開花期と規定することが可能である。また、上記「平均温度」、「平均湿度」及び「平均風速」とは、活着時以降における各日の温度、湿度及び風速の平均値を平均した値であってもよく、活着時以降の各日の作物Pへの日射時間(例えば日中)における温度、湿度及び風速の平均値を平均した値であってもよい。
【0048】
(制御部)
制御部6は、CPUと、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリとを含んで構成される。制御部6は、上述のように演算部5で算出される吸液量を含む生育情報に基づいて作物Pの生育環境を制御する。制御部6は、データベース8に格納される最適生育情報に近づくように作物Pの生育環境を制御する。なお、培地部1に複数の作物Pが活着される場合、制御部6は作物P毎に生育環境を制御してもよく、複数の作物Pの生育環境を一括して制御してもよい。
【0049】
制御部6は、演算部5で算出される吸液量のみに基づいて作物Pの生育環境を制御してもよい。この場合、当該栽培システムは、例えばデータベース8が、上述のようにA=nM(但し、nは正の定数)によって求められる最適生育情報を格納し、制御部6が演算部5で算出される吸液量を上記最適生育情報と比較し、作物Pの吸液量が上記最適生育情報に近づくように作物Pの生育環境を制御すればよい。
【0050】
一方、制御部6は、演算部5で算出される吸液量に加え、積算日射量、平均風速及び平均飽差の少なくともいずれか1つに基づいて作物Pの生育環境を制御することが好ましい。中でも、制御部6は、積算日射量及び平均飽差の両方に基づいて作物Pの生育環境を制御することがより好ましく、積算日射量、平均風速及び平均飽差の全てに基づいて作物Pの生育環境を制御することがさらに好ましい。つまり、上記生育情報は、上記吸液量に加え、積算日射量、平均風速及び平均飽差の少なくともいずれか1つを含むことが好ましく、積算日射量及び平均飽差の両方を含むことがより好ましく、積算日射量、平均風速及び平均飽差の全てを含むことがさらに好ましい。具体的には、上記生育情報が積算日射量及び平均飽差の両方を含む場合、当該栽培システムは、データベース8が、上述のようにG=F/(Sαβ)(但し、α及びβは定数)で算出される最適生育情報を格納し、制御部6が上記生育情報を上記最適生育情報と比較し、上記生育情報が上記最適生育情報に近づくように作物Pの生育環境を制御することが好ましい。また、上記生育情報が積算日射量、平均風速及び平均飽差の全てを含む場合、当該栽培システムは、データベース8が、上述のようにG=F/(Sαβγ)(但し、α、β及びγは定数)で算出される最適生育情報を格納し、制御部6が上記生育情報を上記最適生育情報と比較し、上記生育情報が上記最適生育情報に近づくように作物Pの生育環境を制御することが好ましい。
【0051】
当該栽培システムは、データベース8が上記生育情報に対応する作物Pを生育するのに適した最適生育情報を格納し、制御部6が上記最適生育情報に近づくように上記生育環境を制御することで、作物Pをより容易かつ適切に生長させることができる。
【0052】
また、当該栽培システムは、上記生育情報が、演算部5で算出される吸液量に加え、積算日射量、平均風速及び平均飽差の少なくともいずれか1つを含むことによって、外的環境条件を加味した作物Pを生長させるうえでより適切な生育情報を得ることができる。
【0053】
制御部6によって制御する上記生育環境は、光強度、栽培液Qの肥料濃度、風速、温度及び湿度の少なくともいずれか1つであるとよい。上記生育環境は、例えば1日毎の光強度、栽培液Qの肥料濃度、風速、温度及び湿度であってもよく、活着時等、特定の時期を始期とする積算光強度、積算肥料濃度、積算風速、積算温度及び積算湿度であってもよい。制御部6は、後述の日射量取得機構9によって作物Pへの日射量情報を取得し、風速取得機構10によって上記栽培空間の風速情報を取得し、飽差取得機構11によって上記栽培空間の飽差情報を取得可能に構成されている。また、制御部6は、後述の光強度調節機構12を制御することで作物Pに照射する光の光強度を制御し、肥料濃度調節機構13を制御することで栽培液Qの肥料濃度を制御し、風速調節機構14を制御することで上記栽培空間の風速を制御し、温度調節機構15を制御することで上記栽培空間の温度を制御し、湿度調節機構16を制御することで上記栽培空間の湿度を制御可能に構成されている。制御部6は、例えばデータベース8に格納される上記最適生育情報に対し、積算日射量が過剰又は不足する場合には上記最適生育情報に近づくように光強度調節機構12を制御する。また、制御部6は、上記最適生育情報に対し、栽培液Qの積算吸収肥料量が過剰又は不足する場合には上記最適生育情報に近づくように肥料濃度調節機構13を制御する。また、制御部6は、上記最適生育情報に対し、平均風速が過剰又は不足する場合には上記最適生育情報に近づくように風速調節機構14を制御する。また、制御部6は、上記最適生育情報に対し、平均飽差が過剰又は不足する場合には上記最適生育情報に近づくように温度調節機構15及び/又は湿度調節機構16を制御する。当該栽培システムは、制御部6によって光強度、栽培液Qの肥料濃度、風速、温度及び湿度の少なくともいずれか1つを制御することで、作物Pを容易かつ適切に生長させることができる。
【0054】
(架台)
架台7は、枠体1aの幅方向両側にこの枠体1aの長手方向に沿って立設される複数対の支柱7aと、枠体1aの幅方向に延在し、各対の支柱7aにそれぞれ連結される上側桟材7b及び下側桟材7cと、枠体1aの長手方向に延在し、複数の上側桟材7bに連結される互いに平行な一対の上側桁材7dと、枠体1aの長手方向に延在し、複数の下側桟材7cに連結される互いに平行な一対の下側桁材7eとを含む。一対の上側桁材7dは、枠体1aの幅方向の両端部をこの枠体1aの長手方向に沿って固定している。具体的には、一対の上側桁材7dは、枠体1aの幅方向の両端部をC字状の固定部材(不図示)との間に挟み込むことで枠体1aを固定している。一対の下側桁材7eは、送液部3を介在させた状態で枠体1aを下方から支持している。各下側桟材7dは、貯留槽2の上部2aを幅方向に貫通しており、これにより貯留槽2に連結されている。
【0055】
(日射量取得機構)
日射量取得機構9としては、作物Pに照射される日射量を取得可能な公知の器具を用いることができ、例えば照度計を用いることができる。
【0056】
(風速取得機構)
風速取得機構10としては、上記栽培空間における風速を測定可能な公知の器具を用いることができ、例えば風速計を用いることができる。風速取得機構10は、上記栽培空間の複数個所で測定した風速の平均値を上記栽培空間の風速として求めてもよく、上記栽培空間の任意の1点の風速を上記栽培空間の風速として求めてもよい。
【0057】
(飽差取得機構)
飽差取得機構11としては、上記栽培空間における飽差を直接取得可能な器具を用いてもよいし、温度及び相対湿度を計測し、これらの値から飽差を間接的に取得するものでもよい。相対湿度を計測する湿度計としては、公知のものが使用でき、例えば乾湿計を用いることができる。なお、飽差取得機構11は、上記栽培空間の複数個所で測定した飽差の平均値を上記栽培空間の飽差として求めてもよく、上記栽培空間の任意の1点の飽差を上記栽培空間の飽差として求めてもよい。
【0058】
(光強度調節機構)
光強度調節機構12は、制御部6の制御に基づいて作物Pへ照射される光の光強度を調節可能に構成されている。光強度調節機構12としては、例えば遮光カーテン等の遮光部材が挙げられる。
【0059】
(肥料濃度調節機構)
肥料濃度調節機構13は、制御部6の制御に基づいて作物Pに供給する栽培液Qの肥料濃度を調節可能に構成されている。肥料濃度調節機構13は、例えば栽培液槽4aに貯留される栽培液Qの肥料濃度を調節するものであってもよく、栽培液槽4aから排出された栽培液Qの肥料濃度を調節するものであってもよい。また、肥料濃度調節機構13は、栽培液Qにおける水量を調節することで肥料濃度を調節するものであってもよく、栽培液Qにおける肥料の含有量を調節することで肥料濃度を調節するものであってもよい。
【0060】
(風速調節機構)
風速調節機構14は、制御部6の制御に基づいて上記栽培空間の風速を調節可能に構成されている。風速調節機構14としては、例えば当該栽培システムが室内空間を用いたものである場合、天窓や側窓等、屋外に連通する窓の開閉機構や循環ファンが挙げられる。
【0061】
制御部6によって制御する上記栽培空間の風速の下限としては、0.2m/sが好ましく、0.3m/sがより好ましい。一方、制御部6によって制御する上記栽培空間の風速の上限としては、1.0m/sが好ましく、0.5m/sがより好ましい。上記風速が上記下限に満たないと、風速が不十分のため植物Pの光合成量が不十分となるおそれがある。逆に、上記風速が上記上限を超えると、植物Pの乾燥に起因して果実の収量が不十分となるおそれがある。
【0062】
(温度調節機構)
温度調節機構15は、制御部6の制御に基づいて上記栽培空間の温度を調節可能に構成されている。温度調節機構15としては、例えばスプリンクラー、ミスト発生器、送風ファン等が挙げられる。また、温度調節機構15としては、当該栽培システムが室内空間を用いたものである場合、ヒートポンプ等の冷暖房器、窓の開閉機構等を用いることも可能である。
【0063】
(湿度調節機構)
湿度調節機構16は、制御部6の制御に基づいて上記栽培空間の湿度を調節可能に構成されている。湿度調節機構16としては、例えば上述の遮光カーテン、スプリンクラー、ミスト発生器、送風ファン、窓の開閉機構等が挙げられる。
【0064】
<栽培方法>
次に、図2を参照して本発明の一実施形態に係る栽培方法について説明する。当該栽培方法は、図1の栽培システムを用いて好適に実施することができる。そのため、以下では図1の栽培システムを用いる場合について説明する。
【0065】
当該栽培方法は、作物Pを活着させる培地部1と、栽培液Qを貯留する貯留槽2と、貯留槽2から培地部1に毛管現象により栽培液Qを流通する送液部3とを備える栽培装置を用いた栽培方法であって、貯留槽2内の栽培液Qの水位が一定に保たれるよう貯留槽2内の栽培液Qの減少量に応じて貯留槽2に栽培液Qを供給する栽培液供給工程(S01)と、貯留槽2内の栽培液Qの減少量又は栽培液供給工程(S01)で貯留槽2へ供給される栽培液Qの供給量に基づいて作物Pの吸液量を経時的に算出する算出工程(S02)と、少なくとも算出工程(S02)で算出される吸液量を含む生育情報に基づいて作物Pの生育環境を制御する制御工程(S03)とを備える。
【0066】
当該栽培方法は、送液部3が毛管現象によって栽培液Qを培地部1に流通するので、作物Qの吸液量を培地部1への供給量と略一致させることができる。そのため、当該栽培方法は、算出工程(S02)で貯留槽2内の栽培液Qの減少量又は貯留槽2への栽培液Qの供給量に基づいて作物Pの吸液量を算出することができる。当該栽培方法は、制御工程(S03)で、算出工程(S02)で算出された吸液量を含む作物Pの実際の生育情報に基づいてこの作物Pの生育環境を制御するので作物Pを容易かつ適切に生長させることができる。
【0067】
〈作物〉
当該栽培方法で栽培可能な作物Pとしては、図1の栽培システムと同様、例えば果菜類、根菜類、葉菜類、イネ科植物、花菜類等が挙げられるが、吸液量に基づいて適切に生長させやすい果菜類が好ましく、中でもトマトが特に好ましい。
【0068】
〈栽培液〉
当該栽培方法で使用可能な栽培液Qとしては、図1の栽培システムと同様、水に肥料を配合したものを用いることができる。
【0069】
(栽培液供給工程)
S01は、供給機構4によって行われる。S01では、センサ4cによって所定間隔で経時的に貯留槽2の水位を検出する。また、S01では、センサ4cで検出された貯留槽2の水位を基に貯留槽2の水位が一定に保たれるよう駆動制御部4dによってポンプ4bを駆動制御する。S01では、後述のS02で算出される容量部の栽培液Qを貯留槽2に供給するようポンプ4bを駆動制御してもよく、センサ4cで検出される貯留槽2の水位が一定になるまでポンプ4bを駆動制御してもよい。
【0070】
(算出工程)
S02は、演算部5によって行われる。S02では、例えばセンサ4cで検出された貯留槽2の水位の変化を容量に換算し、この容量を作物Pの吸液量として算出する。また、S02では、栽培液槽4aから貯留槽2に栽培液Qを供給する供給管内に設けられる流量計17によって計測される栽培液Qの流量から作物Pの吸液量を求めてもよい。
【0071】
(制御工程)
S03は、制御部6によって行われる。S03では、S02で算出される吸液量のみに基づいて作物Pの生育環境を制御してもよい。この場合、S03では、例えばデータベース8に格納され、作物Pの生育日数をM[日]、積算吸液量をA[L]とした場合、A=nM(但し、nは正の定数)によって求められる最適生育情報に近づくように作物Pの生育環境を制御すればよい。
【0072】
一方、S03では、S02で算出される吸液量に加え、積算日射量、平均風速及び平均飽差の少なくともいずれか1つに基づいて作物Pの生育環境を制御することが好ましい。中でも、S03では、積算日射量及び平均飽差の両方に基づいて作物Pの生育環境を制御することがより好ましく、積算日射量、平均風速及び平均飽差の全てに基づいて作物Pの生育環境を制御することがさらに好ましい。つまり、上記生育情報は、上記吸液量に加え、積算日射量、平均風速及び平均飽差の少なくともいずれか1つを含むことが好ましく、積算日射量及び平均飽差の両方を含むことがより好ましく、積算日射量、平均風速及び平均飽差の全てを含むことがさらに好ましい。具体的には、上記生育情報が積算日射量及び平均飽差の両方を含む場合、S03では、データベース8に格納され、作物Pの栽培液Qの活着時以降の積算吸液量[L]にこの栽培液Qの肥料濃度[me/L]を乗じて求められる積算吸収肥料量をF[me]、日射量計によって求められる作物Pの活着時以降における作物Pへの積算日射量をS[W・hr/m]、作物Pの活着時以降における平均温度及び平均湿度によって求められる上記栽培空間における平均飽差をD[g/m]とし、作物Pの生長指標をGとした場合、G=F/(Sαβ)(但し、α及びβは定数)で算出される最適生育情報に近づくように作物Pの生育環境を制御することができる。また、上記生育情報が積算日射量、平均風速及び平均飽差の全てを含む場合、S03では、データベース8に格納され、風速計によって求められる上記栽培空間における作物Pの活着時以降の平均風速をC[m/s]とした場合、G=F/(Sαβγ)(但し、α、β及びγは定数)で算出される最適生育情報に近づくように作物Pの生育環境を制御することができる。
【0073】
S03で制御する上記生育環境は、光強度、栽培液Qの肥料濃度、風速、温度及び湿度の少なくともいずれか1つであるとよい。上記生育環境は、例えば1日毎の光強度、栽培液Qの肥料濃度、風速、温度及び湿度であってもよく、活着時等、特定の時期を始期とする積算光強度、積算肥料濃度、積算風速、積算温度及び積算湿度であってもよい。
【0074】
(実施時期)
当該栽培方法は、栽培液供給工程(S01)、算出工程(S02)及び制御工程(S03)を果菜類の活着時から果実肥大初期までの間通して行うことが好ましい。本発明者らの知見によると、果菜類の果実の品質及び収量は活着時から果実肥大初期までの生育環境の影響を受けやすい。そのため、S01~S03を果菜類の活着時から果実肥大初期までの間通して行うことによって、作物Pを適切に生長させ、容易かつ確実に所望の収量を得ることができる。
【0075】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0076】
例えば培地部、貯留槽、送液部、供給機構、架台等、当該栽培システムの具体的構造は上記実施形態に記載の構成に限定されるものではない。
【0077】
当該栽培システムは、必ずしも作物を生育するのに適した最適生育情報を格納するデータベースを有する必要はない。また、当該栽培システムは、上記データベースを有する場合でも、制御部が上記最適生育情報に近づくように生育環境を制御しなくてもよい。上記制御部は、例えば果実の収穫時期を意図的に遅くしたり、果実の品質を高めるため、敢えて生育速度を遅らせるよう作物の生育環境を制御してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 培地部
1a 枠体
1b 粒子
2 貯留槽
2a 上部
2b 下部
3 送液部
4 供給機構
4a 栽培液槽
4b ポンプ
4c センサ
4d 駆動制御部
5 演算部
6 制御部
7 架台
7a 支柱
7b 上側桟材
7c 下側桟材
7d 上側桁材
7e 下側桁材
8 データベース
9 日射量取得機構
10 風速取得機構
11 飽差取得機構
12 光強度調節機構
13 肥料濃度調節機構
14 風速調節機構
15 温度調節機構
16 湿度調節機構
17 流量計
P 作物
Q 栽培液
図1
図2