(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】回転錘と共通の反動力を持つ調和振動子を備えた時計設定装置
(51)【国際特許分類】
G04B 17/04 20060101AFI20220112BHJP
G04B 15/14 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
G04B17/04
G04B15/14 Z
(21)【出願番号】P 2020539154
(86)(22)【出願日】2018-10-02
(86)【国際出願番号】 IB2018057658
(87)【国際公開番号】W WO2019106448
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-06-12
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】520110814
【氏名又は名称】マニュファクチュール・ドルロジュリ・オーデマ・ピゲ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】グジョン・ピエール
(72)【発明者】
【氏名】クラヴェル・レモン
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-142736(JP,A)
【文献】特開2016-118548(JP,A)
【文献】国際公開第2006/067597(WO,A2)
【文献】米国特許第1232285(US,A)
【文献】西独国特許出願公開第1773819(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 15/00-18/08
G04C 3/02-3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計に組み込むことを目的とした等方性高調波振動子を備える調整装置であって、調整装置は、
時計の枠を基準にして旋回すべく、そして旋回軸上でバランスをとるべく取り付けられることが意図されている少なくとも2つの異なる錘と、
振動子の軸を中心とした時計の動きによって回転駆動されるように適合されている駆動手段と、
駆動手段に力学的に接続され、前記振動子の軸線と接続要素の位置とについて実質的に直交し、実質的に半径方向に自由に平行移動する接続要素と、
接続要素と錘とを接続する伝達手段と
を備え、
調整装置が、接続要素を振動子の軸線に向かって戻す意図で、錘の中の少なくとも1つのサブセットに共通の戻り力を生成するべく構成されている、少なくとも1つの戻り弾性部材を備えることを特徴とする、調整装置。
【請求項2】
少なくとも1つの戻り弾性部材は、全ての錘に共通であることを特徴とする、請求項1に記載の調整装置。
【請求項3】
駆動手段は、接続要素を振動子の軸線を基準に実質的に半径方向の軌道上に案内するように配置されたレバーを備えることを特徴とする、請求項1に記載の調整装置。
【請求項4】
少なくとも1つの戻り弾性要素は、接続要素に実質的に半径方向の戻り力を及ぼすように駆動手段上に配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の調整装置。
【請求項5】
少なくとも1つの弾性要素が2つの錘の間に位置することを特徴とする、請求項1に記載の調整装置。
【請求項6】
少なくとも1つの戻り弾性体は、伝達手段であることを特徴とする、請求項1に記載の調整装置。
【請求項7】
錘を接続要素に接続する伝達手段と、少なくとも1つの戻り弾性要素は、伝達手段と錘の戻り弾性手段として同時に機能する可撓性腕部を有する構造体によって製造されていることと、
少なくとも1つの戻り弾性要素は、少なくとも3つの錘に接続された可撓性腕部を備える十字形部であることと、
十字形部と錘は一体的に作られていることと
を特徴とする、請求項6に記載の調整装置。
【請求項8】
少なくとも2組の錘を備え、
各組において一対の錘は弾性要素によって弾性的に結合されていることを特徴とする、請求項5に記載の調整装置。
【請求項9】
一対の錘は、実質的に平行な伝達手段によって接続要素に接続されている、請求項8に記載の調整装置。
【請求項10】
弾性戻り要素によって弾性的に結合された一対の錘を備え、一対の錘を接続要素に接続する伝達手段は実質的に直交していて、
複数の錘は共軸である、請求項2に記載の調整装置。
【請求項11】
伝達手
段は、
伝達手段の断面に対して縮小した断面を有する首部によって形成された回動接続部によって、対応する錘に関節状に連結されている、請求項1に記載の調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計、特に腕時計に組み込むことを目的とした、複数の回転錘と共通の戻り力を有する調和振動子に基づく調整装置を主題としている。本発明の実施形態では、特に、2つ以上の自由度を持つ振動子が含まれていて、この振動子は、中心の戻り力によって作用すると、要素が実質的に円形又は楕円形の周期的な軌道をたどる。これらの振動子は、「等方性調和振動子」としても知られている。
【背景技術】
【0002】
脱進機を必要としない調整部材の製造を目的とした取り組みは、脱進機式の機械式時計ムーブメントが存在して以来、既に様々な時期に行われてきた。この種の努力の最近の例としては、特許文献1があり、この種の調和振動子を製造するための多数の理論的アプローチと、この種の振動子の物理学の理論的基礎についての構造化されたレビューが含まれている。
【0003】
別の例として、特許文献2には、剛性の高い枠と、時間的にも幾何学的にも位相のずれた複数の異なる一次共振器と、弾性的な戻り手段によって枠に向かって押し付けられる少なくとも1つの慣性質量体と、一次共振器の相互作用を可能にするように配置された結合手段と、制御手段の助けを借りて慣性質量体を駆動するように配置された駆動手段とを備える計時器振動子が開示されている。この装置は、一次共振器が、それぞれ独自の戻り手段を備えた回転共振器であり、一次共振器のうちの任意の2つの連接軸と制御手段の連接軸とが決して同一平面にないように配置されている、等方性調和振動子の特定の実施形態を生成する。本提案はより詳細であるが、具体的な構造としては、特に一次共振器の連接軸と制御手段の連接軸の位置と複数の戻り手段の位置については、調整が必要となるといった一定の制限がある。
【0004】
特許文献3(仏国FR6308310009)は、腕時計では使用できない等方性調和振動子を製造する手段を開示している。
【0005】
本特許出願の出願人に由来し、その内容全体が参照により本特許出願に組み込まれる特許文献4(スイス国特許出願CH00679/17)は、等方性調和振動子に基づく時計機構調整装置を開示し、これは時計に組み込むことが意図されているものである。
【0006】
等方性調和振動子に基づく調整部材を製造するための複数の従来技術の解決策が存在するという事実にもかかわらず、それらの解決策は、特に構造及び調整の複雑さ、それらのコンパクトさ及び正確さに関する場合、完全に満足できるものではない。
【0007】
特に、複数の独立した回転一次共振器を備える特許文献2に記載されている振動子は、戻り弾性要素の剛性と回動する錘の慣性モーメントの間で動作する変数を特定することが難しいため、調整が難しい。固有振動数を調整しようとすることにより不安定性を増大するおそれがある。さらに、システムの安定性を向上させる4つの振動子を備えた変形態様は、かさばり、時計のムーブメントに組み込むのが困難である。
【0008】
さらに、複数の回転共振器を使用する上記の振動子では、バランスホイール上の環の関節点の円弧軌道が不安定性の原因となっている。中央制御手段の円弧理論軌道では、連接点の零速度点と最高速度点が互いに等しい距離に位置せず、制動距離が加速距離と異なっていて、その結果、加速相において駆動手段によって感知される慣性が減速相の慣性と同一ではないという問題点がある。環の方向を基準とした中央制御手段の横方向の動きと、接続要素の軌道半径の変動は、この不斉性をさらに強調する。
【0009】
この不均衡は、接続エレメントの軌道を乱し、その影響を制限するために、例えば、環の長さと、環の回動点半径と、バランスホイールの角振幅のレベルで寸法制約を課す。この非対称性は、2つのバランスホイールを振動子の軸線を基準にして対称に配置することによっても補正される。これらの制約の少なくともいくつか、特に、回転式バランスホイールの数を制限し、振動の周波数を低減して振幅を増大させ、及び/又はバランスホイールの慣性を増大させることによってシステムの動作を可視化し、振動子の安定性を向上させ、レ調整部材の一般的な全体的なサイズを制限し、その統合を容易にするために、それら制約から振動子を解放することが好ましいであろう。
【0010】
さらに、環の連接点の円軌道と、駆動トルクの変動に起因する中央制御要素の軌道半径の変動は、上記のような種類の振動子の等時性を劣化させる原因となっている。また、中央制御要素の環状理論運動は、中央制御要素の環に平行な軸線上への突起の運動に対応するバランスホイール上の伝達手段の咬合軸の直線的理論運動の複数に分解されている。
駆動トルクが増加すると、中央制御要素の軌道半径は、バランスホイールの角振幅と同様に増加し、環を基準とした連接軸の動きの横方向成分は無視できないほどになる。咬合点の接線速度は、対応する環によって定義された軸への投影速度よりも著しく大きくなり、感知される慣性は、純粋に直線的な動きをする錘の慣性よりも大きくなる。この結果、駆動トルクの関数としての振動子の周波数が変化し、等時性を悪化させないように錘の振動の角振幅を制限することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2015/104692号
【文献】欧州特許出願公開第3054358号明細書
【文献】仏国特許発明第630831号明細書
【文献】スイス国特許発明出願第6792017号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、時計のムーブメントへの組み込みや調整が簡単になり、性能や安定性が向上する等方性調和振動子を提案することにより、従来の装置の欠点の少なくとも一部を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題のために、本発明は、請求項1に記載の特徴によって区別される前記タイプの等方性調和振動子に基づく時計機構調整装置を提案する。本発明による調整装置1は、全体として、錘の少なくとも1つのサブセットに共通の戻り力を生成するように配置された少なくとも1つの戻り弾性要素を備える。当該錘は、有利には、構造体に向かって錘を動かす固有の戻り手段をそれぞれ備えることをせず、有利には、それぞれが別個の振動子を形成していないので、調整装置の剛性フレームに回転可能に取り付けられた錘を用いた簡単な構造の恩恵を受けながら、先行技術の装置の前述の欠点のいくつかを回避可能である。
【0014】
本発明による調整装置の第1の好ましい実施形態では、戻り弾性要素は、駆動手段によって形成され、戻り弾性要素は、接続要素に実質的に半径方向の力を作用させて共通の戻り力を発生させ、接続要素は、接続要素を振動子の軸線に向かって戻す傾向を持つ。この種の駆動手段により、調整装置の構造及び調整の簡素化が可能となる。
【0015】
本発明による調節装置の第2の好ましい実施形態では、戻り弾性要素は、伝達手段によって形成される。この実施形態では、伝達手段と錘の戻り弾性手段とを同時に機能可能に選択された剛性を有する可撓性腕部によって製造されてもよい。これらの手段を介して、時計機構の調節装置は、特に、一体的にする方法で製造されることによって、特に簡単で効果的な方法で配置可能である。
【0016】
本発明による調整装置の第3の好ましい実施形態では、調整装置は、2対ずつ弾性的に結合された錘を備える。戻り弾性要素は、各対の錘の2本の錘の間に位置している。この実施形態では、枠を基準にした中立位置ではなく、接続要素の位置を基準にして定義されるフローティング振動子を製造してもよく、それにより、各送信手段を基準にしたこの接続要素の横方向の動きによって引き起こされる非対称性を補正可能である。この構成は、同一の回転錘に対して、弾性要素の変形と錘の相対速度を2倍にすることにより、システムのエネルギーを2倍にするという別の利点を有する。これにより、振動子の周波数を下げて振動を目に見えるようにしたり、回転錘のサイズを小さくして振動子を一体化しやすくしたりすることができる。同じ特性で、枠を基準とした錘の振動の角振幅を2で割ることで、駆動トルクが変化した場合の等時性を向上可能である。
【0017】
第4の好ましい実施形態では、調整装置は、2つの、好ましくは共軸の、2つの錘が、その2つの錘の間に位置する戻り弾性要素によって弾性的に結合され、実質的に垂直な伝達要素によって接続要素に接続されている。この構成では、2つの錘は、それらの間に形成される参照枠の虚数振動子枠内で位相が対向している間に、枠の参照枠内で4分の1周期だけ位相がずれている。この構成は、第3の実施形態と同様の利点があり、さらに、2つの重畳した回転錘のみを備える振動子を製造可能であるという付加的な利点があり、これはまた、低周波数で振動する大きなサイズの錘で壮大な振動子を着想可能であるか、又は統合が容易な非常にコンパクトな振動子を着想可能である。
【0018】
さらに、本発明はまた、機械式時計ムーブメント及び本発明による少なくとも1つの調整装置を備える時計に関する。
【0019】
他の特徴、及び対応する利点は、従属請求項及び本発明をより詳細に開示する以下の説明から明らかになるであろう。
【0020】
添付の図面は、本発明の複数の実施形態を図示的に、例示的に表す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1a】
図1a、
図1b、
図1cは、本発明による時計機構調整装置の第1の実施形態の異なる構成を示している。
【
図1b】
図1a、
図1b、
図1cは、本発明による時計機構調整装置の第1の実施形態の異なる構成を示している。
【
図1c】
図1a、
図1b、
図1cは、本発明による時計機構調整装置の第1の実施形態の異なる構成を示している。
【
図2】
図2は、本発明による調整装置の第2の実施形態の概略図である。
【
図3a】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3b】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3c】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3d】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3e】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3f】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3g】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3h】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3i】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3j】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3k】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図3l】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの構成を異なる位置で示す。
【
図4a】
図4aから
図4fは、本発明による調整装置の第4の実施形態を異なる位置で示す。
【
図4b】
図4aから
図4fは、本発明による調整装置の第4の実施形態を異なる位置で示す。
【
図4c】
図4aから
図4fは、本発明による調整装置の第4の実施形態を異なる位置で示す。
【
図4d】
図4aから
図4fは、本発明による調整装置の第4の実施形態を異なる位置で示す。
【
図4e】
図4aから
図4fは、本発明による調整装置の第4の実施形態を異なる位置で示す。
【
図4f】
図4aから
図4fは、本発明による調整装置の第4の実施形態を異なる位置で示す。
【
図5a】
図5aから
図5cは、接続要素に復帰力を及ぼすことを意図した弾性要素を含む駆動手段の2つの変形例を示す。
図5cは、
図5bの平面A-A上の断面図である。
【
図5b】
図5aから
図5cは、接続要素に復帰力を及ぼすことを意図した弾性要素を含む駆動手段の2つの変形例を示す。
図5cは、
図5bの平面A-A上の断面図である。
【
図5c】
図5aから
図5cは、接続要素に復帰力を及ぼすことを意図した弾性要素を含む駆動手段の2つの変形例を示す。
図5cは、
図5bの平面A-A上の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の複数の実施形態を例として示す添付図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明は、等方性調和振動子を備える時計機構の調整装置に関するものであり、この装置は時計に組み込まれることを意図している。
【0024】
図1aは、この種の装置の第1の実施形態を模式的に例示的に示す。この調整装置1は、図示されていないが、剛性のある枠部と、前記剛性のある枠部に回転軸2.1a、2.aについて回転するように取り付けられた時計のバランスホイールによって形成された2つの錘2.1、2.2とを備える。調整装置1はさらに、時計が振動子の回転軸線3aについて移動することによって回転駆動されるように適合された駆動手段3を備える。駆動手段3には、振動子の軸線3aを基準に半径方向に延在する溝3bがあり、その中には、溝に沿って移動できるようにピンの形をした接続要素4が収納されている。溝は、調整装置の起動を可能にするために、接続要素の最小偏心を保証するように配置されている。したがって、接続要素4は、振動子の軸線3aを基準にして実質的に半径方向に並進移動し、接続要素4を通過することは自由であり、一方、接続要素4は、振動子の軸線3aについて実質的に直交方向に駆動手段3に力学的に接続され、接続要素4の位置を基準にして、接続要素4を通過する。調整装置1はさらに、一方では接続要素4に、他方では錘2.1、2.2に結合された伝達手段5.1、5.2を備える。ここで、連結手段5.1、5.2は、接続要素4によって一端で枢動的に相互に連結された環の形態をとり、他端では連結軸2.1b、2.2bを介して錘2.1、2.2上に枢動するように取り付けられている。
【0025】
本発明の内容においては、「直交方向」とは、接続要素4を通過する振動子の軸線を基準とした半径方向に垂直な方向を意味する。
【0026】
質量体2.1、2.2は、接続要素が振動子の軸線3aを中心にしたときに、2つの剛体環5.1、5.2が互いに実質的に直角に配向し、それらのそれぞれの連結軸2.1b、2.2bを通る半径方向に対して直角になるように、剛体枠部上に配置される。錘2.1、2.2は、振動子が直線的な加速度に対して反応しないように、それらの軸についての回転でバランスがとれている。
【0027】
本発明による調整装置は、接続要素を振動子の軸線3aに向けて戻す性質の戻り弾性要素6をさらに備える。第1の実施形態では、
図1aに模式的に示されているように、戻り弾性要素6は駆動手段3と同じ高さに位置している。この特定の配置により、接続要素4及び伝達手段5.1、5.2を介して錘2.1、2.2に共通の戻り力の生成を可能にする。戻り弾性要素6は、目標の安定化された回転周波数に適合した弾性定数Kを有し、直線的な戻り力を生成するように適合されている。
【0028】
図5aから
図5cは、戻り弾性要素6を備える駆動手段3の2つの実施形態を示し、第1の実施形態による調整装置にまとめられる。駆動手段3は、振動子の軸線3aについて時計の歯車列によって回転駆動される板7を備える。駆動手段3はまた、一端が板7に固定されたリーフスプリングの形をした戻り弾性要素6を備え、接続要素4を振動子の軸線3aに向けて半径方向に戻す力を発揮する。接続要素4は、例えばブッシング45を介して、リーフスプリング上に直接形成されたV字形の切り欠き、又は図示されている、板7上に枢支されたレバー7b上に形成されたV字形の切り欠き45と、協働する。レバー7bは、駆動手段3及び振動子の軸線3aを基準にして、接続要素4を実質的に半径方向の軌道上に案内することを可能にする。偏心部35は、振動子が停止しているときの接続要素の静止位置の調整を可能にする。駆動手段3に一体化された戻り弾性要素6は、この場合、全ての錘に共通の戻り力を発生させる。
【0029】
図1aに示された調整装置の説明から、時計のエネルギー源が作動するとすぐに歯車列の駆動が駆動手段3の回転を引き起こし、それによって接続要素4が移動することが明らかとなる。接続要素4の二次元平面運動は、伝達手段5.1、5.2を介して錘2.1、2.2に伝達された2つの直交する直線運動に分解され、振動を開始する。戻り弾性要素6は、振動軸線3aに向かって実質的に半径方向に線形の復帰力を発揮する。駆動手段3の回転と、駆動手段3を基準とした接続要素4の実質的に半径方向への案内と、振動する錘に連結された接続要素4に及ぼされる線形かつ等方的な中心復帰力との効果のため、接続要素4は、したがって、歯車列の回転速度を安定化させる所定の周波数で実質的に円形又は楕円形の軌道を示す。
【0030】
ここに記載された第1の実施形態による調整装置は、それが1つの戻り弾性要素のみを備えることにおいて、製造の簡素化と、等方性振動子の較正及び調整の容易化とを可能にする。
【0031】
図1b及び
図1cは、本発明による時計機構調整装置の第1の実施形態の変形例を示す。
図1bは、互いに約120°の角度で配置された環の形で伝送手段5.1、5.2、5.3によって接続要素4に接続された3つの錘2.1、2.2、2.3を備える振動子を示している。
図1cは、互いに約90°の角度で配置された環の形態で伝達手段5.1、5.2、5.3、5.4によって接続要素4に接続された4つの錘2.1、2.2、2.3、2.4を備える振動子を示す。対向する2つのバランスホイールが反対の回転速度を有する4つのバランスホイールを有する提案された構成は、角加速度の補正を可能にする。
【0032】
回転する錘をさらに備える振動子を想像することと、錘の幾何学的な配置を変化させることとの少なくとも一方が可能である。
【0033】
図2は、本発明による時計機構調整装置の第2の実施形態の概略図である。示された構成では、振動子は、剛体枠部に回転可能に取り付けられ、
図1cに示されたものと同様に配置された4つの錘2.1、2.2、2.3、2.4を備える。本来の態様では、この調整装置の戻り弾性要素6は、伝達手段によって形成されていて、この伝達手段は、錘に共通の戻り力を生成する。伝達手段5.1、5.2、5.3、5.4は、十字形の一体的で柔軟な構造によって形成され、その腕は、錘2.1、2.2、2.3、2.4のための伝達手段と弾性復帰手段として同時に機能するように選択された剛性を有している。伝達手段は主に可撓性腕部の長手方向に作用し、戻り力は主に可撓性腕部の横方向への撓みによって生じる。結果として、この場合、共通の戻り力は、錘と接続要素4との間の伝達手段として同時に機能する可撓性腕部、対向する錘の連結手段、横方向の錘の弾性戻り手段、及び錘と一体である場合には、錘に固定された端部の連結手段によって生成される。この場合、十字形状部の可撓性腕部の端部は、有利には、回動可能な接続を生成するために、伝達手段の断面に対して縮小された断面を有する首部を介して、対応する錘に接続可能である。可撓性腕部によって及ぼされる共通の戻り力は、例えば、腕部の厚さ、高さ及び/又は長さ、及び/又はそれらが作られている材料によって調整可能である。特に、戻りばねが除去され得るか、又は異なるように較正され得る、本明細書に記載された駆動手段3のうちの1つを使用することが可能である。
【0034】
第2の実施形態による調整装置は、有利には、
図2に模式的に示されるように、錘2.1、2.2、2.3、2.4及び伝達手段を形成する可撓性腕部が一体的部材によって製造されるように製造されてもよい。これは、非常に平坦な調整部材を製造する可能性を提供するという有利点を有する。従来の技術を用いて調整装置を製造することは明らかに可能である。すなわち、錘と可撓性の十字形部のために別々の部品を使用し、回動を利用する従来の方法で錘上の腕部の連結部を製造可能である。回動錘を用いて示された実施形態は、この種の回動錘の1つの有利な構成に過ぎない。本発明は、3つ以上の錘に連結された可撓性十字形部を備える構成も包含する。偶数本の腕部を持つ十字形部は、2つの反対側の錘を互いに結合する同一の屈曲区間で製造可能である。錘の回動は、可撓性十字形部と比較して剛性が低いままで、従来の方法で製造してもよく、あるいは可撓性要素、例えば断面が縮小された首部の援用を伴って、互換的に製造してもよいだろう。
【0035】
図3aから
図3lは、本発明による調整装置の第3の実施形態の2つの変形例を異なる位置で表している。この調整装置の駆動手段3は、回転板によってのみ象徴的に示されている。この調整装置は、バランスホイールの形をした2組の錘2.1、2.3、2.2、2.4からなり、各組の錘は、その2組の錘の間に配置された戻り弾性要素6.1、6.2を備える。さらに、対の各錘2.1、2.3、2.2、2.4は、接続要素4への環の形で伝達手段5.1、5.3、5.2、5.4を介して連結されている。錘は、バランスがとれていて、一方の組の伝達手段が他方の組の伝達手段に対して実質的に90°の位置に配置されるように配置されている。一対の錘の環は、バランスホイールの実質的に径方向に反対の点で連結化されていて、これにより、所定の一対の錘の2つのバランスホイールの反対方向への回動が生じる。一対の錘の2つのバランスホイールの反対方向への回動は、角加速度に対する調整装置の感度の低減を可能にする。
【0036】
図3aから
図3fは、各組のバランスホイールが、渦巻ばねの形で戻り弾性要素6.1、6.2によって互いに共軸で弾性的に結合されている第1の変形例を示している。
【0037】
図3gから
図3lは、一対のバランスホイールが、リーフスプリングの形で戻り弾性要素6.1、6.2によって結合され、それらのそれぞれの伝達手段が実質的に平行になるように並置されている第2の変形例を示す。
【0038】
いずれの変形例においても、一対の錘は、一方の対の伝達手段が他方の対の伝達手段と実質的に直交するように配置されていて、これにより、接続要素4の平面的な動きを、バランスホイール上の環の連結点の2つの準線形成分に分解することが可能となる。戻り弾性要素6.1、6.2は、2つの戻り弾性要素が変形していないときに、接続要素4が振動子の軸線3a上に位置するように較正又は調整される。接続要素が振動子の軸線3aに対して偏心した位置にあるとき、戻り弾性要素6.1、6.2は、接続要素4に力を伝達することにより、バランスホイールを相互に相対的な角度位置に戻すトルクを発揮し、その結果、接続要素4を振動子の軸線3aに向けて戻す求心力となる。
【0039】
本発明の一態様では、各対のバランスホイールは枠部を基準にして浮いていて、その中立位置は接続要素4の動きに追従するように回動する。したがって、錘の中立位置は、もはや枠部を参照して画定されるのではなく、接続要素を参照して画定される。この第3の実施形態の第1の利点は、接続要素4の相対的な横方向の動きが、連結点の円軌道に起因し、かつ駆動トルクの関数としての軌道半径の変動に起因して、錘上の伝達手段の連結点に対する接続要素4の相対的な横方向の動きに起因して生じる非対称性に起因して生じる等時性誤差を修正することである。
【0040】
この構成は、枠部を基準とした錘の振動の角振幅を変更することなく、システムのエネルギーを2倍にする別の特性、あるいは代替的に同じエネルギーで、この振幅を半分にする、又はバランスホイールのサイズの小型化を可能にする別の特性を持つ。実際には、枠部を基準とした錘の振動の振幅が同じであれば、弾性要素の角度変形量は2倍になる。これにより、環の連結点に要求される理論的な直線軌道への適合性が向上するため、等時性の点で有利になり、また、システムの慣性を変更することなく、錘の相対的な回転速度が大きくなるため、統合が容易になる。
【0041】
図4aから
図4fは、時計機構の調整装置の第4の実施形態を示し、2つの錘2.1、2.2の間に配置された戻り弾性要素6によって弾性的に結合された2つの錘2.1、2.2から構成されている。二つの錘は、弾性要素6が静止しているとき、例えば
図4c及び
図4eに示される構成では、実質的に垂直な伝達要素5.1、5.2によって、2つの錘は接続要素に接続されている。この構成では、錘上の接続要素の連結点は、錘の回動軸を基準として90°ずらされている。この配置の結果、2つの振動錘は、枠部の参照枠部内では1/4周期で位相がずれている一方で、互いに形成される仮想の振動枠部内では位相が対立していることになる。接続要素の戻り力は、一方では、2つの接続要素の作用のうち、錘の回転軸を基準とした半径方向の結果によって、他方では、駆動手段に対する接続要素の作用のうち、振動子の軸線を基準とした半径方向の成分によって生成される。
【0042】
この構成は、第3の実施形態と同様の利点があるが、2つの回転錘だけで振動子を製作できるという有利点もあり、低周波で振動する大型の錘を使った見応えのある振動子を着想可能であり、非常にコンパクトで集積化が容易な振動子を着想可能である。4分の1周期で位相がずれた振動するバランスホイールと、8分の1周期で位相がずれた振動台を重ね合わせることで、独創的な視覚効果を生み出せる。
【0043】
第2、第3及び第4の実施形態による時計機構調整装置は、全て、錘2.1、2.2、2.3、2.4の少なくとも2つの間に位置し、錘2.1、2.2、2.3、2.4の少なくとも1つのサブセットに対して共通の戻り力を生じるように配置された戻り弾性要素を備えることは、上述の説明からも明らかである。第1の実施形態と同様に、このような配置は、先行技術のものと比較して、この種の装置の構築、較正又は調整の簡素化を可能にする。様々な実施形態を互いに組み合わせることが可能であり、特に、実施形態2から4の
図5aから
図5cに示されたものと同様の駆動手段を使用することが明らかである。
【0044】
さらに、回動の限られた角度振幅のために、枠部に対する回動錘の回動接続部及び錘への接続要素の回動接続部は、従来の方法で製造されてもよいし、変形可能な可撓性要素を用いた一体的構造で製造されてもよい。一体的構造の場合、回動接続部を提供する可撓性要素の剛性は、戻り弾性要素の剛性と比較して低いままである。
【0045】
これまで記載した時計機構の調整装置の全ての実施形態において、装置は、錘2.1、2.2、2.3、2.4のうちの少なくとも1つのサブセット又は全てに戻り力を生成するように配置された少なくとも1つの戻り弾性要素6、6.1、6.2を備える。戻り弾性要素は、錘と剛性枠部との間に位置せず、錘のいずれも、その錘と従来と異なる共振器を形成するように、特定の戻り弾性部材を有していない。
【0046】
また、本発明は、上記のような種類の調整装置を統合した時計のムーブメントと、そのムーブメントを備える時計に関する。
【符号の説明】
【0047】
1 調整装置
2.1、2.2、2.3、2.4 錘、バランスホイール
2.1a、2.2a、2.3a、2.4a 錘の回転軸線
2.1b、2.2b 連接部
3 駆動手段
3a 駆動手段の回転軸線
3b 溝
4 接続要素
5.1、5.2、5.3、5.4 伝達手段
6、6.1、6.2 戻り弾性要素
7b レバー
7c リーフスプリング
35 偏心部
A-A 断面(
図5C)