(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】産業機械の移設機構
(51)【国際特許分類】
B25J 5/00 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
B25J5/00 A
(21)【出願番号】P 2021024129
(22)【出願日】2021-02-18
(62)【分割の表示】P 2020070290の分割
【原出願日】2017-09-28
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 一隆
(72)【発明者】
【氏名】森岡 昌宏
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-89212(JP,A)
【文献】特開平10-118973(JP,A)
【文献】実開昭63-119513(JP,U)
【文献】実開昭54-12725(JP,U)
【文献】米国特許第5457849(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に貫通する貫通孔を備え、該貫通孔を通して被設置面に第1締結具により設置されるベースを備える産業機械の前記第1締結具が取り外された状態の前記貫通孔に第2締結具により着脱可能に取り付けられるブラケットと、
該ブラケットに取り付けられた摩擦低減部材とを備え、
前記貫通孔を利用して前記第2締結具により前記ベースと前記ブラケットとの間に加えられる鉛直方向の力により、前記産業機械の移設時に、前記摩擦低減部材が前記ベースの底面より下方に下降させられる産業機械の移設機構。
【請求項2】
前記第2締結具がボルトであり、
前記貫通孔の内面に、前記第2締結具を締結可能な雌ねじが設けられている請求項1に記載の産業機械の移設機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械の移設機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットのベース下部にキャスタを備えるとともに、ベースを昇降させるアウトリガーを備えるロボットが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1のロボットは、設置する際には、アウトリガーを下降させてベースおよびキャスタを浮上させてアウトリガーによってロボットを支持するようになっている。一方、ロボットを移設する際には、アウトリガーを上昇させることにより、ロボット全体の重量をキャスタによって支持させた状態で、ロボットに水平方向の力を作用させることにより、キャスタを転動させてロボットを水平方向に移動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のロボットは、設置時にはアウトリガーによって押し上げられているだけの固定されていない状態で動作させる必要があるため、安定的に動作させることができないという不都合がある。また、ロボットのベースよりも側方に延びるアウトリガーが、設置状態においてロボット周囲の空間を占有した状態に維持されることになり、ロボットの動作あるいは作業者の邪魔になるという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、産業機械の移設を容易にすることができ、かつ、設置された状態で周囲の空間を占有することなく、安定して設置することができる産業機械の移設機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の参考態様は、ベースと、前記ベースの底面から出没可能に設けられ、前記ベースと被設置面との間の摩擦を低減する摩擦低減部材とを備え、前記摩擦低減部材が、前記ベースに加えられる鉛直方向の力により移動可能であり、移設時に前記ベースの底面より下方に下降させられ、前記ベースが前記被設置面に固定されると、前記摩擦低減部材は前記ベースの底面以上に上昇させられ、前記ベースが、前記ベースの中央部分に設けられ上方に延びる隆起部分と、前記隆起部分の外周に設けられ水平に延びる平板状の鍔部とを有し、前記ベースが前記被設置面に固定されると、前記摩擦低減部材が、前記隆起部分の内部の空間内に格納され、前記鍔部に、前記ベースを前記被設置面に固定するための貫通孔が設けられている、ロボット等の産業機械である。
前記ロボットは、作業者が前記ロボットの近傍で作業を行える協働ロボットであってもよい。
【0007】
上記態様において、前記ベースが、前記貫通孔を通して締結具により前記被設置面に固定可能であってもよい。
このような態様によれば、産業機械を床面等の被設置面に設置する際には、ベースに設けられた貫通孔を利用してベースに加えられる鉛直方向の力により、摩擦低減部材をベースの底面以上に上昇させる。そして、ベースに備えられた貫通孔を通して締結具を締結することにより、ベースの底面を被設置面に密着させてその摩擦力により、産業機械を確実に被設置面に動かないように支持させることができる。また、締結具によれば設置状態において産業機械周辺の空間を占有することがなく、産業機械の動作および作業者の動作の妨げとなることがない。
【0008】
一方、産業機械を移設する際には、締結具を取り外すことにより、ベースの被設置面への固定を解除するとともに、貫通孔を利用してベースに鉛直方向の力を加えることにより、摩擦低減部材をベースの底面より下方に下降させる。これにより、ベースを被設置面から浮上させて、摩擦低減部材により摩擦力が低減された状態として、産業機械を被設置面に沿って容易に移動させることができる。
【0009】
上記態様においては、前記締結具が、前記貫通孔の内径より小さい外径を有するボルトであってもよい。
このようにすることで、貫通孔に挿入したボルトを被設置面に設けられたネジ孔に締結することができ、ベースの底面を容易に被設置面に密着させて固定することができる。
【0010】
また、上記態様においては、前記貫通孔の上部に、前記ボルトの頭部の少なくとも一部を収容する座グリが設けられていてもよい。
このようにすることで、ボルトを被設置面に設けられたネジ孔に締結すると、ボルトの頭部が貫通孔の上部に配置されるが、その少なくとも一部が座グリ内に収容されるので、ベースの上面からのボルトの突出を最小限に抑えて、設置状態における産業機械周辺の空間の締結具による占有を最小限に抑えることができる。
【0011】
また、上記態様においては、前記摩擦低減部材を前記被設置面に押し付けて前記ベースを前記被設置面から浮上させる弾性復元力を発生する弾性部材を備え、設置時に、前記締結具により前記ベースに加える鉛直方向の力により、前記弾性部材を弾性変形させて前記ベースを下降させ、該ベースの底面を前記被設置面に密着させ、移設時に、前記締結具により前記ベースに加えていた鉛直方向の力が緩められることにより、前記弾性部材が弾性復元力によって前記ベースを前記被設置面から浮上させてもよい。
【0012】
このようにすることで、産業機械を移設する際には、貫通孔を介して被設置面のネジ孔に締結されているボルトの締結を緩めることにより、弾性部材を弾性変形させていたボルトの軸力を低下させて、弾性復元力により摩擦低減部材を下降させる。これにより、ベースが被設置面から浮上させられて、産業機械が摩擦低減部材によって支持される。したがって、少ない摩擦で産業機械を被設置面に沿って容易に移動させることができる。
【0013】
一方、産業機械を被設置面に設置するために、ベースに設けられた貫通孔を通したボルトを被設置面に設けたネジ孔に締結して行くと、ボルトによりベースに加えられる鉛直方向の軸力が増大して弾性部材が弾性変形させられて、ベースが下降させられる。これにより、ベースの底面が被設置面に密着させられて、産業機械を被設置面により確実に固定することができる。産業機械を被設置面に固定するためのボルトによって、摩擦低減部材をベースの底面より下降させた移設時の状態と、摩擦低減部材をベースの底面以上に上昇させた設置時の状態とを切り替えることができる。
【0014】
本発明の一態様は、鉛直方向に貫通する貫通孔を備え、該貫通孔を通して被設置面に第1締結具により設置されるベースを備える産業機械の前記第1締結具が取り外された状態の前記貫通孔に第2締結具により着脱可能に取り付けられるブラケットと、該ブラケットに取り付けられた摩擦低減部材とを備え、前記貫通孔を利用して前記第2締結具により前記ベースと前記ブラケットとの間に加えられる鉛直方向の力により、前記産業機械の移設時に、前記摩擦低減部材が前記ベースの底面より下方に下降させられる産業機械の移設機構である。
【0015】
このようにすることで、産業機械を被設置面に設置する際には、ベースに設けられた貫通孔を通して第1締結具を締結する。一方、産業機械を移設する際には、第1締結具を取り外し、貫通孔に第2締結具を締結することによりブラケットを取り付ける。そして、第2締結具によるベースとブラケットとの間に加えられる鉛直方向の力を増大させていくことにより、ブラケットを下降させて、ブラケットに設けられた摩擦低減部材をベースの底面より下方に下降させる。これにより、ベースを被設置面から浮上させて、摩擦低減部材に摩擦が低減された状態として、被設置面に沿って産業機械を移設し易くすることができる。
【0016】
上記一態様においては、前記第2締結具がボルトであり、前記貫通孔の内面に、前記第2締結具を締結可能な雌ねじが設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、産業機械の移設を容易にすることができ、かつ、設置された状態で周囲の空間を占有することなく、安定して設置することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る産業機械を示す斜視図である。
【
図2】
図1の産業機械の移設時の姿勢を示す側面図である。
【
図4】
図1の産業機械のベースが床面に密着した状態を示す部分的な縦断面図である。
【
図5】
図1の産業機械のベースを固定するアンカーボルトを緩めた状態を示す部分的な縦断面図である。
【
図6】
図1の産業機械の移設時の重心位置を説明する側面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る産業機械の移設機構の移設時の状態を説明する部分的な縦断面図である。
【
図8】
図7の移設機構においてボルトを緩めてベースが床面に密着した状態を示す部分的な縦断面図である。
【
図9】
図7の移設機構を取り外して産業機械のベースを床面に固定した状態を示す部分的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る産業機械1について、図面を参照しながら以下に説明する。
本実施形態に係る産業機械1は、
図1に示されるように、床面(被設置面)Fに設置されるベース2と、該ベース2に対して鉛直な第1軸線(鉛直軸線)A回りに回転可能に支持された旋回胴3と、該旋回胴3に対して水平な第2軸線(第1水平軸線)B回りに揺動可能に支持された第1アーム4と、該第1アーム4の先端に第2軸線Bに平行な第3軸線(第2水平軸線)C回りに揺動可能に支持された第2アーム5と、該第2アーム5の先端に配置された3軸の手首6とを備えた6軸垂直多関節型ロボット(以下、ロボット1という。)である。
【0020】
ベース2は、床面Fに沿って広がる平坦な、平面視略正方形の形態の支持用脚部材7と、該支持用脚部材7の中央から鉛直上方に延びる円柱状の柱状部材8とを備えている。旋回胴3は、柱状部材8の上端に回転可能に支持されている。
【0021】
第1アーム4は、
図1に示されるように、柱状部材8に対して径方向一方向にオフセットして配置され、柱状部材8の長手軸に対して間隔をあけて平行に配置される平面に沿って回転するように配置されている。第1アーム4の長さはベース2の柱状部材8の長さより短く設定されており、360°の動作範囲を備えている。また、柱状部材8の太さ(横断面積)は第1アーム4の太さ(横断面積)とほぼ同等に設定されている。
【0022】
第2アーム5は、
図1に示されるように、柱状部材8に対する第1アーム4のオフセット方向とは逆方向に同じ量だけオフセットして配置され、柱状部材8の長手軸を含む平面に沿って回転するように配置されている。これにより、第2アーム5の中心軸は柱状部材8の中心軸と同一平面上に配置されている。
【0023】
ベース2の支持用脚部材7は、中央に若干上方に延びる円錐台状部分7aを備えるとともに、該円錐台状部分7aの外周に水平に延びる平板状の鍔部7bを備えている。鍔部7bは平面視略正方形に形成され、4隅に、鍔部7bを板厚方向に貫通する貫通孔9が設けられている。貫通孔9はアンカーボルト(締結具、第1締結具)10を貫通可能な内径を有し、アンカーボルト10を利用してロボット1を床面Fに固定設置することができるようになっている。
【0024】
貫通孔9の上部には、アンカーボルト10の頭部を収容可能な座グリ9aが設けられている。
図4に示す例では、座グリ9aはアンカーボルト10の頭部全体を収容可能な深さを有しているが、部分的に収容可能な深さを有していてもよい。
【0025】
また、ベース2の円錐台状部分7aは、下部が中空に構成され、内部に、支持用脚部材7の底面から出没させられる複数(例えば、4個)の車輪(
図3参照:摩擦低減部材)11が収容されている。各車輪11は、
図4および
図5に示されるように、円錐台状部分7aの内部に固定された支持軸11aに対して鉛直方向に移動可能に支持された可動部材11bに、水平な軸線回りに回転可能に支持されている。支持軸11aと可動部材11bとの間には、両者を鉛直方向に引き離す方向に弾性復元力を作用させるバネ(弾性部材)11cが配置されている。
【0026】
バネ11cは、
図5に示される伸張した第1の状態で、全ての車輪11のバネ11cによってロボット1の自重を支えることができる弾性復元力を発生可能な剛性を有している。これにより、
図5に示される第1の状態では、ロボット1は、車輪11のみによって自立することができるようになっている。
【0027】
一方、バネ11cは、
図4に示されるようにアンカーボルト10を床面Fのネジ孔21に締結していくことによりベース2が鉛直下方に押し下げられると、その鉛直方向の力によって圧縮されて、車輪11が円錐台状部分7aの内部に収容され、ベース2の底面以上の位置まで車輪11が上昇させられた第2の状態となる。これにより、ベース2の底面が床面Fに密着させられ、両者間の摩擦により、ベース2が床面Fに動かないように確実に固定されるようになっている。
【0028】
このように構成された本実施形態に係るロボット1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係るロボット1を使用するには、支持用脚部材7の鍔部7bの4隅の貫通孔9にアンカーボルト10を挿入し、アンカーボルト10を床面Fに設けられたネジ孔21に締結する。
【0029】
アンカーボルト10を締結していない状態では、
図5に示されるように、ロボット1は車輪11のみによって支持され、ベース2の支持用脚部材7の鍔部7bは床面Fから浮上した状態となっている。この状態から、アンカーボルト10を締結していくことにより、アンカーボルト10に発生する軸力によってベース2がバネ11cの弾性復元力に抗して下降させられ、
図4に示されるように、車輪11が支持用脚部材7の円錐台状部分7aの内部に完全に収容される。
【0030】
これにより、ベース2の底面が床面Fに密着させられ、両者間に発生する摩擦力によって、ロボット1を床面Fに動かないように確りと固定することができる。
すなわち、ベース2を床面Fにアンカーボルト10によって固定することにより、第1アーム4および第2アーム5を水平方向に延ばした状態としてもロボット1は安定した状態に維持される。また、手首6の先端に重量物を支持して動作させられる場合や、高速に動作させられる場合のように大きな慣性力がベース2にかかる場合であっても、ロボット1を安定して動作させることができるという利点がある。
【0031】
また、本実施形態に係るロボット1は、ベース2を床面Fに固定するので、床面設置型の6軸垂直多関節型ロボットとして動作させることができる。
この場合において、ロボット1は、ベース2が平坦な支持用脚部材7とその中心から鉛直上方に延びる円柱状の柱状部材8とにより構成されており、柱状部材8の太さが第1アーム4と同等であるので、大きな空間を占有せず、作業者の作業空間を広く確保することができるという利点がある。
【0032】
また、旋回胴3を細長い柱状部材8の上端に配置し、柱状部材8を第1アーム4より長く構成することで、
図1に示されるように第1アーム4を第2軸線Bより上方に配置した動作状態のみならず、第1アーム4を第2軸線Bより下方に配置した天井吊り下げ式ロボットと同様の動作状態をも実現することができる。
【0033】
そして、ロボット1を床面Fに固定した状態では、固定に使用するアンカーボルト10の頭部がベース2の貫通孔9の上部に設けられた座グリ9a内に完全に収容されることにより、鍔部7bの上面が突起のない平坦な形態となる。したがって、従来技術のアウトリガーのようにロボット1のベース2の側方の大きな空間を占有する障害物がなく、ロボット1の動作範囲を広く確保することができる。また、作業者がアンカーボルト10の頭部に躓くことを防止することができるという利点もある。
【0034】
そして、ロボット1を移設する際には、
図2に示されるように、第2アーム5を柱状部材8に沿わせるように第1アーム4および第2アーム5を折り畳んだ状態とすることにより、全体の重心位置を低い位置に配置して倒れにくくすることができる。この状態では、
図6に示されるように、全体の重心位置が、支持用脚部材7を底面とし、支持用脚部材7の中心を通る鉛直線と第2軸線Bを含む平面との交点を頂点とする錐体状の空間(図中、斜線部)内に配置される。これにより、ロボット1がある程度傾いても重心が支持用脚部材7から外側に出ないように維持され、転倒しにくくすることができる。
【0035】
そして、この状態で、ベース2を床面Fに固定しているアンカーボルト10の締結を緩めることにより、アンカーボルト10の軸力を低下させていくと、車輪11を支持しているバネ11cの弾性復元力によって車輪11が押し下げられる結果、ベース2の底面が床面Fから浮上して、ロボット1全体が車輪11のみによって支持されるようになる。
【0036】
これにより、ベース2の底面よりも下方に少なくとも一部が突出した車輪11により、床面Fとベース2の鍔部7bとの間の摩擦が低減される。したがって、この状態で作業者がロボット1に水平方向の力を加えることにより車輪11が水平な軸線回りに回転して床面F上を転動する。これにより、ロボット1を床面Fに沿って容易に移動させることができる。
【0037】
また、本実施形態に係るロボット1によれば、ベース2を床面Fに固定するためのアンカーボルト10を利用してベース2を昇降させるので、ベース2の底面から車輪11を出没させるためのハンドルや電動機構等の特別な機構を必要とせず、ロボット1の大型化を防止することができるとともに、安価に構成することができるという利点がある。
【0038】
なお、本実施形態においては、摩擦低減部材として、車輪11を例示したが、これに限定されるものではなく、水平な軸線回りに回転可能なコロや球体の他、摺動抵抗の少ない材質からなるシート状あるいはブロック状の部材であってもよい。摺動抵抗の少ない材質としては、ポリアミドに二酸化モリブデンを添加した材質やメラニン樹脂、四フッ化エチレン樹脂等を挙げることができる。
【0039】
また、バネ11cとしては、コイルバネ、さらバネ、トーションバネ等任意のバネを採用してもよい。また、バネ11cに代えて、ゴム等の他の弾性部材を採用してもよい。
車輪11の数として4つを例示したが、これに限定されるものではなく任意でよい。数が多い程、コストは高くつくが、より剛性の低いバネ11cを採用することが可能となり設計が容易である。またアンカーボルト10の数も4つに限られるものではなく任意でよい。
【0040】
また、本実施形態においては、ロボット1として、ベース2の上部に第1軸線A回りに回転可能な旋回胴3、旋回胴3に第2軸線B回りに揺動可能な第1アーム4、第1アーム4の先端に第3軸線C回りに揺動可能な第2アーム5および第2アーム5の先端に配置された3軸手首6を備える6軸垂直多関節型ロボットを例示したが、これに代えて、他の任意の軸構成のロボットを採用してもよい。
【0041】
また、本実施形態においては、ベース2が支持用脚部材7と柱状部材8とを備えるロボット1を例示したが、これに限定されるものではなく、他の任意の構造のロボットを採用してもよい。さらに、産業機械1としてロボット1を例示したが、これに限定されるものではなく、工作機械等任意の産業機械1に適用してもよい。
また、被設置面として床面Fを例示したが、床面F以外の被設置面に設置する場合に適用してもよい。
【0042】
次に、本発明の一実施形態に係る産業機械1の移設機構12について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る移設機構12は、ロボット1の移設機構であって、
図7および
図8に示されるように、
図1と同様のロボット1のベース2に備えられ、設置される際に床面Fに密着させられる平板状の鍔部7bに着脱可能に取り付けられるブラケット13と、該ブラケット13の下部に支持された摩擦低減部材とを備えている。
【0043】
本実施形態においては、ロボット1の平面視略正方形の鍔部7bの4隅には、
図9に示されるように、アンカーボルト(第1締結具)15を挿入するネジ孔(貫通孔)16が2つずつ設けられている。
各ネジ孔16は、アンカーボルト15の外径より大きい内径を有しており、後述するボルト18を締結可能な雌ねじが設けられている。各貫通孔16の上部にはアンカーボルト15の頭部を収容可能な座グリ16aが設けられている。
【0044】
ブラケット13は、
図7および
図8に示されるように、鍔部7bの上面に沿って配置される平板部17を備えている。平板部17には、鍔部7bの各隅に設けられた2つの貫通孔16のピッチと同一ピッチで、鍔部7bのネジ孔16に締結されるボルト(第2締結具)18の外径より大きく、ボルト18の頭部の外径より小さい2つの貫通孔19が設けられている。貫通孔19に挿入したボルト18を鍔部7bのネジ孔16に締結することにより、ブラケット13を鍔部7bに固定することができるようになっている。
【0045】
摩擦低減部材は、ブラケット13が鍔部7bの上面に固定された状態で、水平な軸線回りに回転可能に支持される車輪14である。車輪14は、ブラケット13が鍔部7bの上面に確りと密着するように固定された
図7の状態で、その一部がベース2の底面から下方に突出させられるようになっている。これにより、鍔部7bのネジ孔16にボルト18を締結していくと、ボルト18にかかる軸力によって押し下げられた車輪14が床面Fを押圧することにより、床面Fからベース2を浮上させることができるようになっている。
【0046】
このように構成された本実施形態に係るロボット1の移設機構12の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る移設機構12を用いてロボット1を移設する際には、
図9に示されるように、アンカーボルト15によって床面Fにベース2が固定されている状態から、アンカーボルト15を取り去ることにより、ロボット1を移設可能な状態とする。
【0047】
次いで、
図8に示されるように、鍔部7bの2つのネジ孔16に2つの貫通孔19を合わせるようにブラケット13の平板部17を鍔部7bの上面に配置し、貫通孔19を貫通させたボルト18を鍔部7bのネジ孔16に締結していく。
そして、
図7に示されるように、ボルト18が確りと締結されると、ブラケット13の下部に設けられた車輪14が床面Fを押すことにより、ベース2の底面が床面Fから浮上させられる。これにより、ベース2と床面Fとの間の摩擦が低減される。したがって、作業者がロボット1に水平方向の力を加えることにより車輪14が水平な軸線回りに回転して床面F上を転動する。これにより、ロボット1を床面Fに沿って容易に移動させることができる。
【0048】
ロボット1を所定の位置に設置する場合には、所定の位置に移動した状態で、上記とは逆の手順で、
図7の状態から
図8に示されるようにボルト18を緩めてベース2の底面を床面Fに密着させ、
図9に示されるようにブラケット13を鍔部7bから取り外し、鍔部7bのネジ孔16に挿通させたアンカーボルト15を床面Fのネジ孔21に締結する。これにより、ロボット1を床面Fに確りと固定することができる。この場合、アンカーボルト15のおねじ部外径は、ボルト18のおねじ部外径よりも小さくする必要がある。
【0049】
本実施形態に係る移設機構12においても、
図9に示されるようにロボット1が床面Fに設置された状態では、設置のためのアンカーボルト15が鍔部7bの上面から突出せず、ロボット1周辺の空間を占有しないので、ロボット1や作業者の動作の邪魔となることがない。そして、アンカーボルト15によりロボット1を床面Fに固定するためのネジ孔21を用いてベース2の底面を床面Fから容易に浮上させることができ、車輪14の回転によって容易に移設することができるという利点がある。
【0050】
なお、本実施形態においては、鍔部7bに設けた2つのネジ孔16に2つのボルト18によってブラケット13を固定するので、ブラケット13が鉛直軸線回りに回転することがなく、移設時の状態をさらに安定させることができる。ネジ孔16およびボルト18は3以上でもよい。また、ブラケット13の鉛直軸線回りのある程度の回転を許容する場合には、ネジ孔16およびボルト18は1つでもよい。
また、本実施形態においても、摩擦低減部材としては、車輪14の他、コロや球体、床面との摺動抵抗が低いシート状あるいはブロック状の部材を採用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ロボット(産業機械)
2 ベース
9 貫通孔
9a,16a 座グリ
10,15 アンカーボルト(締結具、第1締結具)
11,14 車輪(摩擦低減部材)
11c バネ(弾性部材)
12 移設機構
13 ブラケット
16 ネジ孔(貫通孔)
18 ボルト(第2締結具)
F 床面(被設置面)