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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】無線通信システム、基地局及び移動局
(51)【国際特許分類】
   H04W 36/36 20090101AFI20220112BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20220112BHJP
   H04W 24/10 20090101ALI20220112BHJP
   H04W 36/30 20090101ALI20220112BHJP
   H04W 72/04 20090101ALI20220112BHJP
【FI】
H04W36/36
H04W16/28 130
H04W24/10
H04W36/30
H04W72/04 131
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021503441
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2020000893
(87)【国際公開番号】W WO2020179227
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019038512
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大季
(72)【発明者】
【氏名】仲田 樹広
(72)【発明者】
【氏名】星 大樹
【審査官】深津 始
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-072778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24 -H04B 7/26
H04W 4/00 -H04W 99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局が基地局から受信したプリコーディング情報を適用して該基地局へのデータ送信を行う無線通信システムにおいて、
前記移動局は、現在の通信相手である第1の基地局からのプリコーディング情報を適用したデータ送信とは別に、プリコーディング情報を適用しない無指向の制御信号を送信し、
前記第1の基地局は、第1の送信タイミングで、前記第1の基地局による前記制御信号の受信状態情報と、前記第1の基地局へのデータ送信に使用されるプリコーディング情報とを前記移動局に送信し、
前記第1の基地局とは別の第2の基地局は、前記制御信号の受信状態が予め設定された閾値以上の場合に、前記第2の基地局の存在を通知する基地局通知信号を前記移動局に送信し、
前記移動局は、前記第2の基地局から前記基地局通知信号を受信した場合に、前記第1の送信タイミングとは異なる第2の送信タイミングを前記第2の基地局に通知し、
前記第2の基地局は、前記移動局から通知された前記第2の送信タイミングで、前記第2の基地局による前記制御信号の受信状態情報と、前記第2の基地局へのデータ送信に使用されるプリコーディング情報とを前記移動局に送信し、
前記移動局は、前記第1の基地局と前記第2の基地局のそれぞれから受信した受信状態情報を比較し、前記第2の基地局の受信状態が前記第1の基地局の受信状態に比べて予め設定された閾値以上に良好な場合に、前記第1の基地局からのプリコーディング情報に代えて前記第2の基地局からのプリコーディング情報を適用してデータ送信を行うことで、通信相手を前記第1の基地局から前記第2の基地局に切り替えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項に記載の無線通信システムにおいて、
前記第1の基地局から前記移動局へのデータ送信に用いるフレームは、プリアンブルシンボルと、パイロットシンボルと、複数のデータシンボルとを含み、
前記第2の基地局は、前記複数のデータシンボルのそれぞれの周波数方向の両側にあるNULLキャリアを使用して、前記基地局通知信号を送信することを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項又は請求項に記載の無線通信システムにおいて、
前記基地局通知信号は、立ち上がりと立下りの信号波形が緩やかであることを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
基地局から受信したプリコーディング情報を適用して該基地局へのデータ送信を行う移動局において、
現在の通信相手である第1の基地局からのプリコーディング情報を適用したデータ送信とは別に、プリコーディング情報を適用しない無指向の制御信号を送信し、
前記第1の基地局から第1の送信タイミングで送信される、前記第1の基地局による前記制御信号の受信状態情報と、前記第1の基地局へのデータ送信に使用されるプリコーディング情報とを受信し、
前記第1の基地局とは別の第2の基地局から、前記第2の受信局による前記制御信号の受信状態が予め設定された閾値以上の場合に送信される、前記第2の受信局の存在を通知する基地局通知信号を受信した場合に、前記第1の送信タイミングとは異なる第2の送信タイミングを前記第2の基地局に通知し、
前記第2の基地局から前記第2の送信タイミングで送信される、前記第2の基地局による前記制御信号の受信状態情報と、前記第2の基地局へのデータ送信に使用されるプリコーディング情報とを受信し、
前記第1の基地局と前記第2の基地局のそれぞれから受信した受信状態情報を比較し、前記第2の基地局の受信状態が前記第1の基地局の受信状態に比べて予め設定された閾値以上に良好な場合に、前記第1の基地局からのプリコーディング情報に代えて前記第2の基地局からのプリコーディング情報を適用してデータ送信を行うことで、通信相手を前記第1の基地局から前記第2の基地局に切り替えることを特徴とする移動局。
【請求項5】
移動局にプリコーディング情報を送信し、自基地局へのデータ送信に該プリコーディング情報を適用させる基地局において、
前記移動局から、プリコーディング情報を適用したデータ送信とは別に送信される、プリコーディング情報を適用しない無指向の制御信号を受信し、
前記移動局の現在の通信相手が自基地局である場合には、第1の送信タイミングで、自基地局による前記制御信号の受信状態情報と、自基地局へのデータ送信に使用されるプリコーディング情報とを前記移動局に送信し、
前記移動局の現在の通信相手が別の基地局である場合には、
前記制御信号の受信状態が予め設定された閾値以上の場合に、自基地局の存在を通知する基地局通知信号を前記移動局に送信し、
前記基地局通知信号の送信に対応して前記移動局から通知される、前記第1の送信タイミングとは異なる第2の送信タイミングで、自基地局による前記制御信号の受信状態情報と、自基地局へのデータ送信に使用されるプリコーディング情報を前記移動局に送信し、
前記移動局により、自基地局の受信状態が前記別の基地局の受信状態に比べて予め設定された閾値以上に良好と判定された場合に、前記別の基地局からのプリコーディング情報に代えて自基地局からのプリコーディング情報を適用したデータ送信が行われることで、前記移動局の通信相手が前記別の基地局から自基地局に切り替えられることを特徴とする基地局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局が基地局から受信したプリコーディング情報を適用して該基地局へのデータ送信を行う無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図2に示すような、単方向通信の移動通信装置と単方向通信の固定通信装置を組み合わせた構成の中継システムが実用されている。
図1の中継システムは、移動局201と、第1の基地局202-1と、第2の基地局202-2と、集約局203とを備えている。移動局201は、映像符号化部204と、移動通信装置(送信側)205とを有する。第1の基地局202-1は、移動通信装置(受信側)206-1と、固定通信装置(送信側)207-1とを有し、第2の基地局202-2も同様に、移動通信装置(受信側)206-2と、固定通信装置(送信側)207-2とを有する。集約局203は、2つの固定通信装置(受信側)208-1,208-2と、TS(Transport Stream)選択装置209と、映像復号化部210とを有する。
【0003】
集約局203に伝送する映像は、移動局201の映像符号化部204でTS信号に映像符号化され、移動通信装置(送信側)205で符号化・変調されて無線により送信される。移動局201の移動通信装置(送信側)205から送信された信号は、各基地局202-1,202-2の移動通信装置(受信側)206-1,206-2で受信され、復調・復号される。移動通信装置(受信側)206-1,206-2で復調されたTS信号は、固定通信装置(送信側)207-1,207-2に入力され、符号化・変調され、集約局203へ光回線により送信される。集約局203は、各基地局202-1,202-2から送信された信号をそれぞれの固定通信装置(受信側)208-1,208-2で受信し、復調・復号を行い、復号されたTS信号をTS選択装置209へ出力する。TS選択装置209は、2つの固定通信装置(受信側)208-1,208-2から入力されたTS信号のパケットを比較し、エラーが少ない方のパケットを映像復号化部210に出力する。このようなシステムにより、移動局201が移動しても映像を途切れさせずに伝送することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-133715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、図3に示すような、双方向通信の移動通信装置と単方向通信の固定通信装置を組み合わせた構成の中継システムが検討されている。図3のシステムは、図2の移動通信装置205,206-1,206-2を、双方向通信に対応した移動通信装置301,302-1,302-2に置き換えた構成となっている。
【0006】
移動通信装置301,302-1,302-2は、固有モードMIMO(Multiple Input Multiple Output)やビームフォーミングなどを用いる双方向通信が可能な装置を想定している。なお、移動局201からの映像データの送信が支配的なため、移動局側201の移動通信装置301を送信側、基地局202-1,202-2側の移動局通信装置302-1,302-2を受信側と呼称することとする。また、第1の基地局202-1から第2の基地局202-2に伝送経路を切り替えることを「ハンドオーバ」と定義し、ハンドオーバを行う前に通信を行っている第1の基地局202-1を「ハンドオーバ前の基地局」と呼称し、ハンドオーバを行った後に通信を行う第2の基地局202-2を「ハンドオーバ後の基地局」と呼称することとする。
【0007】
従来の単方向通信の移動通信装置205,206-1,206-2を用いたシステムでは、十分な受信電界がある場合、第1の基地局202-1及び第2の基地局202-2が共に移動局201からの信号を受信し、復調・復号することができる。しかしながら、固有モードMIMOやビームフォーミングを用いたシステムでは、第1の基地局202-1との通信中は第2の基地局202-2では信号を復調・復号できないという特徴がある。そのため、ハンドオーバを行う際に瞬時的な伝送エラーが発生する懸念がある。
【0008】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、ハンドオーバを行う際の瞬時的な伝送エラーを防ぐことが可能な無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、無線通信システムを以下のように構成した。
すなわち、移動局が基地局から受信したプリコーディング情報を適用して該基地局へのデータ送信を行う無線通信システムにおいて、前記移動局は、現在の通信相手である第1の基地局とは別の第2の基地局が新たな通信相手となり得る場合に、前記第1の基地局による受信状態情報とプリコーディング情報の送信タイミングとは異なる送信タイミングを前記第2の基地局に通知し、前記第2の基地局は、前記移動局から通知された送信タイミングで、自局の受信状態情報とプリコーディング情報を送信し、前記移動局は、前記第1の基地局と前記第2の基地局のそれぞれから受信した受信状態情報を比較し、前記第2の基地局の受信状態が前記第1の基地局の受信状態に比べて予め設定された閾値以上に良好な場合に、通信相手を前記第2の基地局に切り替えて、前記第2の基地局から受信したプリコーディング情報を適用して前記第2の基地局へのデータ送信を行うことを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、移動局は、新たな通信相手となり得る基地局が存在する場合に、現在の通信相手の基地局との通信に影響を与えずにハンドオーバ(基地局の切り替え)の必要性を判断することができる。また、移動局は、ハンドオーバ後の基地局のプリコーディング情報も事前に取得できるので、ハンドオーバが必要と判断された際に速やかにハンドオーバを実行することが可能となる。したがって、ハンドオーバを行う際の瞬時的な伝送エラーを防ぐことが可能となる。
【0011】
ここで、一構成例として、前記移動局は、プリコーディング情報を適用するデータ信号とは別に、プリコーディング情報を適用しない無指向の制御信号を送信し、前記第1の基地局及び前記第2の基地局はそれぞれ、前記制御信号の受信状態を測定して受信状態情報を生成する構成としてもよい。
【0012】
また、前記第2の基地局は、前記制御信号の受信状態が予め設定された閾値以上の場合に、自局の存在を通知する基地局通知信号を前記移動局に送信し、前記移動局は、前記第2の基地局から前記基地局通知信号を受信した場合に、前記第2の基地局に前記受信状態情報と前記プリコーディング情報の送信タイミングを通知する構成としてもよい。
【0013】
また、前記第1の基地局から前記移動局へのデータ送信に用いるフレームは、プリアンブルシンボルと、パイロットシンボルと、複数のデータシンボルとを含み、前記第2の基地局は、前記複数のデータシンボルのそれぞれの周波数方向の両側にあるNULLキャリアを使用して、前記基地局通知信号を送信する構成としてもよい。
【0014】
また、前記基地局通知信号は、立ち上がりと立下りの信号波形が緩やかである構成としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハンドオーバを行う際の瞬時的な伝送エラーを防ぐことが可能な無線通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明方式に係るハンドオーバ手順のフローチャート例を示す図である。
図2】単方向通信の移動通信装置と単方向通信の固定通信装置を組み合わせた中継システムの構成例を示す図である。
図3】双方向通信の移動通信装置と単方向通信の固定通信装置を組み合わせた中継システムの構成例を示す図である。
図4】本発明方式に係るOFDMシンボルの構成例を示す図である。
図5】本発明方式に係る基地局通知信号の送信タイミング例を示す図である。
図6A】本発明方式に係る基地局通知信号の受信タイミング例(ハンドオーバ後の基地局が移動局から近い場合)を示す図である。
図6B】本発明方式に係る基地局通知信号の受信タイミング例(ハンドオーバ後の基地局が移動局から近い場合)を示す図である。
図7】固有モードMIMO伝送装置における移動局側装置の構成例を示す図である。
図8図7の移動局側装置における移動局側送信タイミング生成部の構成例を示す図である。
図9】固有モードMIMO伝送装置における基地局側装置の構成例を示す図である。
図10図9の基地局側装置における基地局側送信タイミング生成部の構成例を示す図である。
図11】ハンドオーバに対応した固有モードMIMO伝送装置における移動局側装置の構成例を示す図である。
図12】ハンドオーバに対応した固有モードMIMO伝送装置における基地局側装置の構成例を示す図である。
図13図11の移動局側装置における移動局側送信タイミング生成部の構成例を示す図である。
図14図12の基地局側装置における基地局側送信タイミング生成部の構成例を示す図である。
図15図11の移動局側装置におけるハンドオーバステートマシンの状態遷移例を示す図である。
図16】基地局通知信号が12.5μs早く到達した場合の信号波形を示す図である。
図17】基地局通知信号が12.5μs早く到達した場合の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。まず、本発明方式のハンドオーバの手順と、ハンドオーバのトリガーとなる基地局通知信号の通知方法について説明する。基地局通知信号とは、移動局と基地局がTDD(Time Division Duplex)方式で通信を行っているシステムにおいて、基地局が移動局に対して自局の存在を通知するための信号である。
【0018】
図1に示すフローチャートを参照して、本発明方式に係るハンドオーバ手順について説明する。(ステップS101)
ハンドオーバ後の基地局202-2は、移動局201から無指向で送信される制御信号を常に受信し、その受信レベルやSINR(Signal-to-Interference Noise Ratio;信号対干渉雑音比)などの受信状態を示す情報(受信状態)を算出する。
【0019】
(ステップS102)
ハンドオーバ後の基地局202-2は、移動局201からの制御信号の受信状態が予め設定された閾値(Th1)を超えるか否かを判定し、閾値を超えた場合に次のステップS103に進む。一方、閾値を超えない場合は、ステップS101に戻る。この処理は、移動局201との通信を行える可能性がある基地局202のみが基地局通知信号を送信するために行う。
【0020】
(ステップS103)
ハンドオーバ後の基地局202-2は、移動局201の基地局通知信号受信タイミングで基地局通知信号を送信する。ただし、移動局201とハンドオーバ前の基地局202-1が通信を行っているので、その通信への干渉を避けるために、予め決められた周波数やタイミングで基地局通知信号を送信する必要がある。
【0021】
(ステップS104)
移動局201は、ハンドオーバ後の基地局202-2から基地局通知信号を受信する。
【0022】
(ステップS105)
移動局201は、ハンドオーバ前の基地局202-1だけでなくハンドオーバ後の基地局202-2からも信号を受信するための時間領域を追加したTDDフレーム周期に変更する。例えば、ハンドオーバ前の基地局202-1からの信号を受信する時間領域の後に、ハンドオーバ後の基地局202-2からの信号を受信する時間領域を設けたTDDフレーム周期などに変更する。移動局201は、TDDフレーム周期の変更を各基地局202に通知する。
【0023】
(ステップS106)
ハンドオーバ後の基地局202-2は、TDDフレーム周期の変更通知を受信する。
【0024】
(ステップS107)
ハンドオーバ後の基地局202-2は、プリコーディング情報と受信状態情報を、TDDフレーム周期に追加された時間領域を使用して移動局201に送信する。プリコーディング情報は、移動局201の各アンテナに個々に適用する位相や振幅などの重み付けを示す情報であり、通信相手の基地局200に向けてビーム形成する際に使用される。受信状態情報は、移動局201からの信号の受信状態を示す情報であり、受信レベルやSINR(Signal-to-Interference Noise Ratio;信号対干渉雑音比)などを用いることができる。なお、ハンドオーバ前の基地局202-1も、プリコーディング情報と受信状態情報を常に移動局201に送信している。
【0025】
(ステップS108)
移動局201は、ハンドオーバ前の基地局202-1とハンドオーバ後の基地局202-2の両方からプリコーディング情報と受信状態情報を受信する。
【0026】
(ステップS109)
移動局201は、ハンドオーバ前の基地局202-1とハンドオーバ後の基地局202-2について受信状態情報を比較し、ハンドオーバ後の基地局202-2の方がハンドオーバ前の基地局202-1に比べて予め設定した閾値(Th2)以上に受信状態が良いか否かを判定する。閾値以上に良い場合は次のステップS110に進み、そうでない場合はステップS108に戻る。
【0027】
(ステップS110)
移動局201は、データ信号に対するプリコーディングに、ハンドオーバ後の基地局202-2から受信したプリコーディング情報を用いる。これにより、移動局201からのデータ信号は、ハンドオーバ後の基地局202-2に向けて形成されたビームにより送信されることになる。
【0028】
(ステップS111)
移動局201は、ハンドオーバ前の基地局202-1の受信状態がハンドオーバ後の基地局202-2の受信状態に比べて予め設定した閾値(Th3)を下回るかを判定する。閾値を下回る場合は次のステップS112に進み、そうでない場合はステップS110に戻る。
【0029】
(ステップS112)
移動局201は、TDDフレーム周期からハンドオーバ前の基地局202-1との通信を行うための時間領域を削除して各基地局202に通知し、ハンドオーバを完了する。
【0030】
次に、先に述べた基地局通知信号の通知方法について説明する。本システムで使用されるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing;直交周波数分割多重)シンボルの両端は、周波数の中央部に比べてチャネル推定精度が低いので、データキャリアが配置されないことが多い。そこで、OFDMシンボルの両端を、基地局通知信号を挿入する領域とする。以下に、図4を参照して具体的に説明する。
【0031】
図4には、本発明方式に係るOFDMシンボルの構成例を示してある。本例のOFDMシンボルは、時間方向において、先頭にプリアンブルシンボル、次にパイロットシンボル、続いて3つのデータシンボルの順に配置されている。また、各データシンボルは、周波数方向の両端がNULLキャリアとなっている。図4の例では、各データシンボルは両端に8キャリアのNULLキャリアを持っており、その最も端のキャリアを基地局通知信号の通知領域に使用している。これにより、データキャリアへの影響を極力少なくすることができる。なお、両端のNULLキャリアを使用することに限定するものではなく、他のNULLキャリアを使用しても構わない。
【0032】
図5には、本発明方式に係る基地局通知信号の送信タイミング例を示してある。基地局通知信号は3つのシンボルにまたがり連続性のある信号とし、信号の始まりと終わりの振幅は緩やかにする構成、もしくはフィルター処理を行うことで周波数解析時に基地局通知信号の周波数広がりを抑える構成とする。このような基地局通知信号を用いることで、ハンドオーバ後の伝搬遅延が不明な場合でも、周波数解析時にデータシンボルの劣化を抑制することができる。
【0033】
図6には、本発明方式に係る基地局通知信号の受信タイミング例を示してある。図6Aに示すように、ハンドオーバ後の基地局202-2と移動局201の距離が近い場合は、ハンドオーバ前202-1の基地局からの信号に対して早めに基地局通知信号が到達する。一方、図6Bに示すように、ハンドオーバ後の基地局202-2と移動局201の距離が遠い場合は、ハンドオーバ前の基地局202-1からの信号に対して遅れて基地局通知信号が到達する。本発明方式に係る基地局通知信号であれば、±半シンボル長の遅延差を許容することができる。詳細については、後述のシミュレーション結果(図16図17)にて説明する。
【0034】
固有モードMIMO方式におけるハンドオーバを説明するに先立ち、ハンドオーバを行わない場合の動作について説明する。
図7には、固有モードMIMO伝送装置における移動局側装置700の構成例を示してある。また、図9には、固有モードMIMO伝送装置における基地局側装置900の構成例を示してある。図7の移動局側装置700は、図3の移動局201の映像符号化部204及び移動通信装置(送信側)301に対応しており、図9の基地局側装置900は、図3の基地局202の移動通信装置(受信側)302に対応している。以下では、説明の簡略化のために、移動局側装置を単に「移動局」と呼称し、基地局側装置を単に「基地局」と呼称する。
【0035】
移動局700は、映像符号化部701と、バッファ702と、移動局側送信タイミング生成部703と、通信路符号化部704と、マッピング部705と、プリコーディング部706と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)部707と、ガードインターバル付加部708と、周波数変換部709と、送受信アンテナ部710と、サブフレーム先頭位置検出部711と、FFT(Fast Fourier Transform)部712と、等化部713と、パイロットシンボル抽出部714と、伝搬路推定部715と、マッピング部716と、通信路復号部717とを備えている。
【0036】
基地局900は、送受信アンテナ部901と、周波数変換部902と、FFT部903と、サブフレーム先頭位置検出部904と、基地局側送信タイミング生成部905と、等化部906と、パイロットシンボル抽出部907と、伝搬路推定部908と、プリコーディング情報計算部909と、通信路符号化部910と、1フレーム遅延部911と、デマッピング部912と、通信路復号部913と、映像復号部914と、マッピング部915と、IFFT部916と、ガードインターバル付加部917と、バッファ918とを備えている。
【0037】
移動局700の映像符号化部701は、伝送する映像の情報量を削減するための映像符号化処理を行い、その結果の映像データ信号(TS信号)をバッファ702に出力する。バッファ702には、移動局側送信タイミング生成部703からタイミング信号も入力される。
【0038】
移動局側送信タイミング生成部703は、その内部構成を図8に示すように、通常フレーム周期カウンタ801を有する。通常フレーム周期カウンタ801は、移動局700から基地局900への上り方向の通信に使用されるUL(uplink)サブフレーム時間と、基地局900から移動局700への下り方向の通信に使用されるDL(downlink)サブフレーム時間と、各サブフレーム間のガードタイムとを合計した時間で、周期的にタイミング信号を出力する。
【0039】
バッファ702は、移動局側送信タイミング生成部703からのタイミング信号に従い、映像符号化部701から入力された映像データ信号を読み出して、通信路符号化部704へ出力する。通信路符号化部704は、入力された信号に対して通信路符号化処理を行い、マッピング部705へ出力する。マッピング部705は、通信路符号化部704から入力された信号を複素平面上にマッピングし、プリコーディング部706へ出力する。プリコーディング部706は、通信路符号化部704から入力された信号のうち、データ信号に対して後述するプリコーディング情報の乗算を行い、制御信号に対しては乗算を行わず、IFFT部707へ出力する。
【0040】
IFFT部707は、プリコーディング部706から入力された信号を時間領域の信号に変換し、ガードインターバル付加部708へ出力する。ガードインターバル付加部708は、IFFT部707から入力された信号に、予め設定された長さのガードインターバルを付加し、周波数変換部709へ出力する。周波数変換部709は、ガードインターバル付加部708から入力された信号を、空間伝送に使用する周波数に変換し、送受信アンテナ部710へ出力する。送受信アンテナ部710は、周波数変換部709から入力された信号を、空間に送出する。
【0041】
移動局700から送出されて空間を伝搬した信号は、図9に示す基地局900の送受信アンテナ部901で受信され、周波数変換部902へ出力される。周波数変換部902は、送受信アンテナ部901から入力された信号を、信号処理を行うのに適した周波数に変換し、FFT部903とサブフレーム先頭位置検出部904へ出力する。
【0042】
サブフレーム先頭位置検出部904は、周波数変換部902から入力された信号に対してプリアンブル信号の相互相関演算などを行うことにより、サブフレームの先頭位置を検出し、サブフレームの先頭位置を示すタイミング信号を基地局側送信タイミング生成部905とFFT部903へ出力する。FFT部903は、周波数変換部902から入力された信号に対し、サブフレーム先頭位置検出部904から入力されたタイミング信号を元にFFT窓を設けて周波数領域の信号に変換する処理を行い、その結果を等化部906とパイロットシンボル抽出部907へ出力する。
【0043】
パイロットシンボル抽出部907は、FFT部903から入力された信号からパイロットシンボルを抽出し、伝送路推定部908へ出力する。伝送路推定部908は、パイロットシンボル抽出部907から入力されたパイロットシンボルに基づいて伝送路推定を行い、その結果を等化部906とプリコーディング情報計算部909へ出力する。プリコーディング情報計算部909は、伝送路推定部908から入力された伝送路推定結果に基づいてプリコーディング情報を算出し、通信路符号化部910と1フレーム遅延部911へ出力する。
【0044】
1フレーム遅延部911は、プリコーディング情報計算部909から入力されたプリコーディング情報を1TDDフレーム分だけ遅延させ、等化部906へ出力する。1フレーム遅延部911は、受信した信号のプリコーディングに使用されたプリコーディング情報と等化時に使用するプリコーディング情報とを同じフレームのものにする必要があるため、挿入されている。
【0045】
等化部906は、FFT部903から入力された周波数変換結果と、伝送路推定部908から入力された伝送路推定結果と、1フレーム遅延部911から入力されたプリコーディング情報とを用いて等化処理を行い、その結果をデマッピング部912へ出力する。デマッピング部912は、等化部906から入力された複素平面上の信号からビット尤度を算出し、通信路復号部913へ出力する。通信路復号部913は、デマッピング部912から入力されたビット尤度に基づいて映像データ信号を復号し、映像復号部914へ出力する。
以上が、移動局700から基地局900へ送信されるUL信号の処理の流れである。
【0046】
次に、基地局900から移動局700へフィードバックされるDL信号の処理の流れについて説明する。
プリコーディング情報計算部909で計算されたプリコーディング情報を移動局700に伝送するために、通信路符号化部910は、プリコーディング情報計算部909から入力されたプリコーディング情報に対して通信路符号化処理を行い、その結果をマッピング部915へ出力する。マッピング部915は、通信路符号化部910から入力された信号を複素平面上にマッピングし、IFFT部916へ出力する。
【0047】
IFFT部916は、マッピング部915から入力された信号を時間領域の信号に変換し、ガードインターバル付加部917へ出力する。ガードインターバル付加部917は、IFFT部916から入力された信号に、予め設定された長さのガードインターバルを付加し、バッファ918へ出力する。バッファ918は、基地局側送信タイミング生成部905からのタイミング信号に従い、ガードインターバル付加部917から入力された信号を読み出して、周波数変換部902へ出力する。
【0048】
基地局側送信タイミング生成部905は、その内部構成を図10に示すように、ULサブフレーム遅延部1001を有する。ULサブフレーム遅延部1001は、サブフレーム先頭位置検出部904から入力されたタイミング信号(サブフレームの先頭位置を示す信号)を、ULサブフレーム時間分だけ遅延させてバッファ918へ出力する。この処理により、ULサブフレームの受信が完了した後に、DLサブフレームの送信を開始することができる。
【0049】
その後、周波数変換部902からFFT部712までの処理は、ULサブフレームの処理である周波数変換部709からFFT部903までの処理と同様であるため、具体的な説明は省略する。
【0050】
FFT部712は、周波数変換部709から入力された信号を周波数領域の信号に変換し、等化部713とパイロットシンボル抽出部714に出力する。パイロットシンボル抽出部714は、FFT部712から入力された信号からパイロットシンボルを抽出し、伝送路推定部715へ出力する。伝送路推定部715は、パイロットシンボル抽出部714から入力されたパイロットシンボルに基づいて伝送路推定を行い、その結果を等化部713へ出力する。
【0051】
等化部713は、FFT部712から入力された周波数変換結果と、伝送路推定部715から入力された伝送路推定結果とを用いて等化処理を行い、その結果をデマッピング部716へ出力する。デマッピング部716は、等化部713から入力された複素平面上の信号からビット尤度を算出し、通信路復号部717へ出力する。通信路復号部717は、デマッピング部716から入力されたビット尤度に基づいてプリコーディング情報を復号し、プリコーディング部706へ出力する。
以上が、基地局900から移動局700へフィードバックされるDL信号の処理の流れである。
【0052】
このような固有モードMIMO伝送装置を用いて、途切れのないハンドオーバを実現するために、図11図12に示すように、回路の追加や変更を行う。
図11は、ハンドオーバに対応した固有モードMIMO伝送装置の移動局700の構成例を示してある。図11に示す移動局700は、図7に示した構成に、基地局通知信号検出部1101と、ハンドオーバステートマシン1102と、受信状態情報比較部1103と、プリコーディング選択部1104と、制御信号多重部1105とを追加してある。また、移動局側送信タイミング生成部703の内部構成が、図13に示す構成に変更されている。
【0053】
図12は、ハンドオーバに対応した固有モードMIMO伝送装置の基地局900の構成例を示してある。図12に示す基地局900は、図9に示した構成に、受信状態情報計算部1201と、閾値判定部1202と、送信ゲート1203と、基地局通知信号生成部1204と、切替部1205と、制御信号分離部1206とを追加してある。また、基地局側送信タイミング生成部905の内部構成が、図14に示す構成に変更されている。
【0054】
上記の追加・変更を加えた構成(図11図14)について、先に説明したハンドオーバ手順(図1)に沿って説明する。なお、ハンドオーバ前の基地局を「900-1」、ハンドオーバ後の基地局を「900-2」のように区別して表記する。
【0055】
(ステップS101)
ハンドオーバ後の基地局900-2は、プリコーディングが行われないプリアンブルシンボルとパイロットシンボルを受信することができる。
【0056】
(ステップS102)
ハンドオーバ後の基地局900-2では、伝送路推定部908にて得られた伝送路推定結果が受信状態情報計算部1201に出力される。受信状態情報計算部1201は、伝送路推定部908から入力された伝送路推定結果に基づいて受信状態情報を算出し、閾値判定部1202と通信路符号化部910に出力する。ここでは、一例として、伝送路推定結果から受信状態情報を算出する構成としたが、受信電界や干渉電力等に基づいて受信状態情報を算出してもよい。
【0057】
閾値判定部1202は、受信状態情報計算部1201から入力された受信状態情報が予め設定された閾値(Th1)を上回るか否かを判定し、閾値判定結果を送信ゲート1203に出力する。具体的には、閾値判定部1202は、受信状態情報が閾値を上回る場合に、送信ゲート1203を開く信号を出力する。通信路符号化部910は、プリコーディング情報に加えて受信状態情報も符号化を行い、マッピング部915へ出力する。
【0058】
(ステップS103)
送信ゲート1203は、基地局通知信号生成部1204から入力される基地局通知信号を送信するために、閾値判定部1202から入力される閾値判定結果に従って、切替部1205に信号を出力する。切替部1205には、受信状態情報計算部1201及びプリコーディング情報計算部909にて計算された受信状態情報及びプリコーディング情報を移動局700に送信するための信号(以下、「フィードバック情報」と呼称する)も、ガードインターバル付加部917から入力される。
【0059】
切替部1205は、FFT部903と等化部906の間に新たに追加された制御信号分離部1206から入力された信号に基づいて、移動局700に送信する信号を選択し、バッファ918に出力する。詳細は後述するが、移動局700から制御信号により、移動局700が通常状態(T1501)かハンドオーバ状態(T1502)かを示すステート情報と、移動局700がプリコーディングに使用しているプリコーディング情報の送信元基地局を識別する基地局IDとが通知される。切替部1205は、ステート情報が通常状態であり、かつ、基地局IDが自局以外の場合は基地局通知信号の送信を選択し、それ以外の場合はフィードバック情報の送信を選択する。
【0060】
基地局通知信号の送信は、ハンドオーバ前の基地局900-1と移動局700との通信に干渉しないように行う必要がある。そこで、基地局送信タイミング生成部905は、図14に示す構成に変更され、制御信号分離部1206からの信号が新たに入力される。基地局送信タイミング生成部905は、サブフレーム先頭位置検出部904から入力されたタイミング信号(サブフレームの先頭位置を示す信号)を3つの遅延部1401~1403に分岐し、いずれかの遅延部で遅延されたタイミング信号を選択部1404で選択してバッファ918へ出力する。
【0061】
以下に、3つの遅延部1401~1403について説明する。
ULサブフレーム分の遅延を持つULサブフレーム遅延部1401は、ULサブフレームの受信完了後に送信を開始する必要がある場合に用いられる。すなわち、移動局700と基地局900が一対一で通信している場合と、移動局700と2つの基地局900が通信し且つ自局のプリコーディング情報が選択されている場合に用いられる。
ULサブフレームとDLサブフレーム分の遅延を持つULサブフレーム+DLサブフレーム遅延部1402は、他局がDLサブフレームの送信が完了した後に送信を開始する必要がある場合に用いられる。すなわち、移動局700と2つの基地局900が通信し且つ他局のプリコーディング情報が選択されている場合に用いられる。
ULサブフレームとプリアンブル長とパイロットシンボル長と半シンボル長の遅延を持つ基地局通知信号用遅延部1403は、基地局通知信号を送信する場合に用いられる。
【0062】
したがって、選択部1404による遅延部1401~1403の選択は、以下の論理で行われる。選択部1404は、基地局IDが自局の場合はULサブフレーム遅延部1401を選択し、基地局IDが自局以外で且つハンドオーバ状態(T1502)の場合はULサブフレーム+DLサブフレーム遅延部1402を選択し、それ以外の場合は基地局通知信号用遅延部1403を選択する。ステップS303では、ハンドオーバ後の基地局900は制御信号の基地局IDが自局以外で且つハンドオーバ状態ではないため、基地局通知信号用遅延部1403で遅延された信号を選択する。
以上により、基地局通知信号がTDDフレームの基地局通知信号受信タイミングで送信されることになる。
【0063】
(ステップS104)
移動局700では、ハンドオーバ後の基地局900-2から通知された基地局通知信号が、FFT部712を介して基地局通知信号検出部1101に入力され、検出される。
【0064】
(ステップS105)
基地局通知信号検出部1101は、基地局通知信号が検出されたことをハンドオーバステートマシン1102に通知する。図15には、ハンドオーバステートマシン1102の状態遷移を示してある。ハンドオーバステートマシン1102は、移動局700と基地局900が一対一で通信を行っている場合は通常状態(T1501)であり、基地局通知信号が連続して受信された場合にハンドオーバ状態(T1502)に遷移し、ハンドオーバ前の基地局900-1の受信状態がハンドオーバ後の基地局900-2の受信状態に比べて予め設定した閾値(Th3)を下回る場合に通常状態(T1501)へ遷移する。
【0065】
ステップS305では基地局通知信号が連続して受信され、ハンドオーバステートマシン1102は、通常状態(T1501)からハンドオーバ状態(T1502)に遷移し、ハンドオーバ状態であることを通知する信号(ステート情報)を移動局側送信タイミング生成部703と制御信号多重部1105へ出力する。なお、ハンドオーバ状態への遷移は、本例のように基地局通知信号を複数回連続して受信した場合に行うことが好ましいが、基地局通知信号を1回受信した場合に遷移する構成としてもよい。
【0066】
制御信号多重部1105は、後述する受信状態情報比較部1103から入力される基地局IDとハンドオーバステートマシン1102から入力されるステート情報を、ULサブフレームの制御信号に多重して基地局900に通知する。なお、制御信号はプリコーディング処理されずに無指向で送信されるので、受信電界を十分に確保できれば、ハンドオーバ前の基地局900-1とハンドオーバ後の基地局900-2のどちらでも受信可能である。
【0067】
ここで、移動局側送信タイミング生成部703について、図13を用いて説明する。移動局側送信タイミング生成部703の選択部1301には、通常フレーム周期カウンタ801のタイミング信号と、ハンドオーバ用フレーム周期カウンタ1302のタイミング信号とが入力される。選択部1301は、ハンドオーバステートマシン1102が通常状態(T1501)の場合は通常フレーム周期カウンタ801のタイミング信号を選択し、ハンドオーバ状態(T1502)の場合はハンドオーバ用フレーム周期カウンタ1302のタイミング信号を選択して、バッファ702へ出力する。
これにより、ハンドオーバ状態の場合には、ハンドオーバ後の基地局900-2からのDL信号を受信するための時間領域を追加したTDDフレーム周期に変更することができる。
【0068】
(ステップS106)
ハンドオーバ後の基地局900-2では、ステート情報と基地局IDが多重されたUL信号を受信すると、制御信号分離部904にてステート情報と基地局IDを分離する。
【0069】
(ステップS107)
移動局700から通知されたステート情報と基地局IDは、切替部1205と基地局側送信タイミング生成部905に出力される。切替部1205は、先に説明した通り、ハンドオーバ状態(T1502)の場合は、ガードインターバル付加部915から入力されるフィードバック情報(プリコーディング情報と受信状態情報)を選択し、バッファ918に出力する。また、基地局側送信タイミング生成部905は、先に説明した通り、基地局IDが自局以外で且つハンドオーバ状態の場合となるので、ULサブフレーム+DLサブフレーム遅延部1402の出力信号が選択される。
これにより、ハンドオーバ前の基地局900-1から送信されるDLサブフレームの後にハンドオーバ後の基地局900-2からDLサブフレームを送信することができる。
【0070】
(ステップS108)
移動局700では、ハンドオーバ前の基地局900-1とハンドオーバ後の基地局900-2のそれぞれからフィードバック情報を受信し、通信路復号部710にて復号する。通信路復号部710は、復号した2つの基地局900からのプリコーディング情報をプリコーディング選択部1104へ出力し、復号した2つの基地局900からの受信状態情報は受信状態情報比較部1103へ出力する。
【0071】
(ステップS109)
受信状態情報比較部1103は、ハンドオーバ前の基地局900-1からの受信状態情報とハンドオーバ後の基地局900-2からの受信状態情報とを比較し、予め設定された閾値(Th2)以上にハンドオーバ後の受信状態が良い場合に、ハンドオーバ後の基地局900-2からのプリコーディング情報を選択させる信号をプリコーディング選択部1104へ出力する。プリコーディング選択部1104は、受信状態情報比較部1103から入力される受信状態の比較結果を元に、ハンドオーバ後の基地局900-2からのプリコーディング情報を選択してプリコーディング部706へ出力する。
【0072】
(ステップS110)
プリコーディング部706は、ハンドオーバ後の基地局900-2からのプリコーディング情報を使用してプリコーディングを行う。これにより、移動局700からのデータ信号は、ハンドオーバ後の基地局900-2へ送信されることになる。
【0073】
(ステップS111)
受信状態情報比較部1103は、ハンドオーバ前の基地局900-1からの受信状態情報とハンドオーバ後の基地局900-2からの受信状態情報とを比較し、予め設定された閾値(Th3)以上にハンドオーバ前の受信状態が悪化した場合に、ハンドオーバ前の基地局900-1の受信状態が低下したことを伝える信号をハンドオーバステートマシン1102へ出力する。
【0074】
(ステップS112)
ハンドオーバステートマシン1102の状態が通常状態(T1501)へと遷移し、移動局側送信タイミング生成部703では通常フレーム周期カウンタ801のタイミング信号に切り替えが行われる。これにより、TDDフレーム周期からハンドオーバ前の基地局900-1との通信をするための時間領域が削除される。また、ハンドオーバ前の基地局900-1の受信状態の低下に応じて送信ゲート1203が閉じられ、切替部1205には信号が出力されないので、ハンドオーバ前の基地局900-1からの基地局通知送信は停止されることになる。
【0075】
次に、本発明方式のハンドオーバ手順を適用した場合のシミュレーション結果について、図16図17を参照して説明する。ここでは、ハンドオーバ前の基地局からプリアンブルシンボル、パイロットシンボル、3つのデータシンボルからなるフレームが送信されており、ハンドオーバ後の基地局がデータシンボル部分に基地局通知信号を挿入して送信することとする。また、3シンボル分の基地局通知信号をそのまま挿入する場合を「対策なし」とし、基地局通知信号の立ち上がり及び立ち下がりが緩やかにして挿入する場合を「対策あり」とする。
【0076】
図16は、伝送遅延の影響により基地局通知信号が12.5μs早く到達した場合の信号波形を示す図である。上から順に、ハンドオーバ前の基地局からの送信信号の信号波形、基地局通知信号(対策なし)が12.5μs早く到達した場合の信号波形、基地局通知信号(対策あり)が12.5μs早く到達した場合の信号波形を例示してある。
【0077】
図17は、伝送遅延の影響により基地局通知信号が12.5μs早く到達した場合の影響を示す図である。上から順に、パイロットシンボル、1番目のデータシンボル、2番目のデータシンボル、3番目のデータシンボルのそれぞれについて、ハンドオーバ前の基地局からのDL信号における各シンボルのサブキャリアのSIR(Signal to Interference Radio;信号電力対干渉電力比)を例示してある。ここで、グラフ中の「〇」は「対策なし」の場合のSIRであり、「×」は「対策あり」の場合のSIRである。また、2段目~4段目のグラフにおいて、背景色を付した領域は、データサブキャリア領域(図4の右側のデータサブキャリアに対応)を表している。
【0078】
(パイロットシンボルへの影響について)
基地局通知信号(対策なし)の場合は、図16の2段目のグラフに示すように、パイロットシンボルの後半で基地局通知信号が干渉している。その結果、図17の1段目のグラフに「〇」で示すように、帯域端(グラフ右側)に近づくほどSIRが大きく劣化してしまう。
【0079】
一方、基地局通知信号(対策あり)の場合は、図16の3段目のグラフに示すように、パイロットシンボルの領域では基地局通知信号はまだ立ち上がっておらず、パイロットシンボルへの干渉はない。また、図17の1段目のグラフに「×」で示すように、SIRは無劣化である。
【0080】
(1番目のデータシンボルへの影響について)
基地局通知信号(対策なし)の場合は、図16の2段目のグラフに示すように、1番目のデータシンボルに基地局通知信号が一定の振幅で連続的に干渉している。しかし、図17の2段目のグラフに「〇」で示すように、データサブキャリア領域の外側にある一つのサブキャリアに干渉成分が集中しており、データサブキャリア領域に対する干渉はない。
【0081】
一方、基地局通知信号(対策あり)の場合は、図16の3段目のグラフに示すように、1番目のデータシンボルの領域内で基地局通知信号が緩やかに立ち上がって干渉している。図17の2段目のグラフに「×」で示すように、なだらかに干渉成分が広がっているが、データサブキャリア領域の端(最も外側)でも35dB以上のSIRが得られている。
【0082】
(2番目のデータシンボルへの影響について)
基地局通知信号(対策なし)の場合は、1番目のデータシンボルと同じである。
一方、基地局通知信号(対策あり)の場合は、図16の3段目のグラフに示すように、2番目のデータシンボルの領域の後半に基地局通知信号が緩やかに立ち下がって干渉している。図17の3段目のグラフに「×」で示すように、なだらかに干渉成分が広がっているが、データサブキャリア領域の端でも40dB程度のSIRが得られている。
【0083】
(3番目のデータシンボルへの影響について)
基地局通知信号(対策なし)の場合は、図16の2段目のグラフに示すように、3番目のデータシンボルの領域の後半で基地局通知信号が急に立ち下がるまで干渉している。その結果、図17の2段目のグラフに「〇」で示すように、干渉成分が広く広がってしまい、データサブキャリア領域の端ではSIRが30dB程度に低下している。
【0084】
一方、基地局通知信号(対策あり)の場合は、図16の3段目のグラフに示すように、3番目のデータシンボルの領域の前半に基地局通知信号が僅かに干渉している。図17の4段目のグラフに「×」で示すように、僅かに干渉成分が広がっているが、データサブキャリア領域の端ではほぼ無干渉である。
以上より、対策ありの基地局通知信号を用いることで、ハンドオーバ前の基地局のDL信号に対する干渉を低減できることがわかる。
【0085】
以上のように、本例の無線通信システムでは、移動局700(201)は、現在の通信相手である第1の基地局900-1(202-1)とは別の第2の基地局900-2(202-2)が新たな通信相手となり得る場合に、第1の基地局900-1による受信状態情報とプリコーディング情報の送信タイミングとは異なる送信タイミングを第2の基地局900-2に通知し、第2の基地局900-2は、移動局700から通知された送信タイミングで、自局の受信状態情報とプリコーディング情報を送信し、移動局700は、第1の基地局900-1と第2の基地局900-2のそれぞれから受信した受信状態情報を比較し、第2の基地局900-2の受信状態が第1の基地局900-1の受信状態に比べて予め設定された閾値以上に良好な場合に、通信相手を第2の基地局900-2に切り替えて、第2の基地局900-2から受信したプリコーディング情報を適用して第2の基地局900-2へのデータ送信を行う。
【0086】
このような構成によれば、移動局700は、新たな通信相手となり得る基地局900-2が存在する場合に、現在の通信相手の基地局900-1との通信に影響を与えずにハンドオーバの必要性を判断することができる。また、移動局700は、ハンドオーバ後の基地局900-2のプリコーディング情報も事前に取得できるので、ハンドオーバが必要と判断された際に速やかにハンドオーバを実行することが可能となる。したがって、ハンドオーバを行う際の瞬時的な伝送エラーを防ぐことが可能となる。
【0087】
また、本例の無線通信システムでは、移動局700は、プリコーディング情報を適用するデータ信号とは別に、プリコーディング情報を適用しない無指向の制御信号を送信し、第1の基地局900-1及び第2の基地局900-2はそれぞれ、制御信号の受信状態を測定して受信状態情報を生成する。したがって、現在の通信相手ではない基地局900-2でも、制御信号を受信して受信状態を測定することが可能となる。
【0088】
また、本例の無線通信システムでは、第2の基地局900-2は、制御信号の受信状態が予め設定された閾値以上の場合に、自局の存在を通知する基地局通知信号を移動局700に送信し、移動局700は、第2の基地局900-2から基地局通知信号を受信した場合に、第2の基地局900-2に受信状態情報とプリコーディング情報の送信タイミングを通知する構成としてもよい。したがって、現在の通信相手ではない基地局900-2が、新たな通信相手となり得ることを移動局700に認識させて、自局の受信状態情報とプリコーディング情報の送信タイミングを得ることが可能となる。
【0089】
また、本例の無線通信システムでは、第1の基地局900-1から移動局700へのデータ送信に用いるフレームは、プリアンブルシンボルと、パイロットシンボルと、複数のデータシンボルとを含み、第2の基地局900-2は、複数のデータシンボルのそれぞれの周波数方向の両側にあるNULLキャリアを使用して、基地局通知信号を送信する。したがって、第1の基地局900-1のDL信号に対する基地局通知信号の影響を少なくすることができる。なお、データシンボルの周波数方向の両側には複数のNULLキャリアがあり、どのNULLキャリアを基地局通知信号の送信に使用してもよいが、最も外側にあるNULLキャリアを使用した方が、第1の基地局900-1のDL信号に対する影響を最小にできるので好ましい。
【0090】
また、本例の無線通信システムでは、基地局通知信号は、立ち上がりと立下りの信号波形が緩やかな形状となっている。したがって、移動局700が第1の基地局900-1のDL信号の周波数解析を行う際の周波数解析時に基地局通知信号の周波数広がりが抑えられ、DL信号に対する基地局通知信号の干渉を低減することができる。また、ハンドオーバ後の伝搬遅延が不明な場合でも、周波数解析時にデータシンボルの劣化を抑制することができる。
【0091】
なお、上記の実施例では、基地局が2つの場合を例に説明したが、移動局が通信可能な基地局が3つ以上存在する場合も考えられる。この場合には、例えば、新たな通信相手となり得る基地局が自局の基地局IDを基地局通知信号に多重する方法や、基地局通知信号を送信するサブキャリアを基地局毎に変える方法などにより、移動局に基地局通知信号の送信元を識別させ、移動局がハンドオーバする基地局を選択して各基地局にフィードバック情報(受信状態情報及びプリコーディング情報)の送信可否を通知すればよい。
【0092】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は、ここに記載された無線通信システムに限定されるものではなく、上記以外の無線通信システムに広く適用することができることは言うまでもない。また、本発明は、上記のような無線通信システムを構成する送信局や受信局として把握することもできる。
また、本発明は、例えば、本発明に係る処理を実行する方法や方式、そのような方法や方式を実現するためのプログラム、そのプログラムを記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0093】
この出願は、2019年3月4日に出願された日本出願特願2019-038512を基礎として優先権の利益を主張するものであり、その開示の全てを引用によってここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、移動局が基地局から受信したプリコーディング情報を適用して該基地局へのデータ送信を行う無線通信システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
201:移動局、 202:基地局、 203:集約局、 204:映像符号化部、 205:移動通信装置(送信側)、 206:移動通信装置(受信側)、 207:固定通信装置(送信側)、 208:固定通信装置(受信側)、 209:TS選択装置、 210:映像復号化部、 301:移動通信装置(送信側)、 302:移動通信装置(受信側)、 700:移動局側装置、 701:映像符号化部、 702:バッファ、 703:移動局側送信タイミング生成部、 704:通信路符号化部、 705:マッピング部、 706:プリコーディング部、 707:IFFT部、 708:ガードインターバル付加部、 709:周波数変換部、 710:送受信アンテナ部、 711:サブフレーム先頭位置検出部、 712:FFT部、 713:等化部、 714:パイロットシンボル抽出部、 715:伝搬路推定部、 716:マッピング部、 717:通信路復号部、 801:通常フレーム周期カウンタ、 900:受信局側装置、 901:送受信アンテナ部、 902:周波数変換部、 903:FFT部、 904:サブフレーム先頭位置検出部、 905:基地局側送信タイミング生成部、 906:等化部、 907:パイロットシンボル抽出部、 908:伝搬路推定部、 909:プリコーディング情報計算部、 910:通信路符号化部、 911:1フレーム遅延部、 912:デマッピング部、 913:通信路復号部、 914:映像復号部、 915:マッピング部、 916:IFFT部、 917:ガードインターバル付加部、 918:バッファ918、 1001:ULサブフレーム遅延部、 1101:基地局通知信号検出部、 1102:ハンドオーバステートマシン、 1103:受信状態情報比較部、 1104:プリコーディング選択部、 1105:制御信号多重部、 1201:受信状態情報計算部、 1202:閾値判定部、 1203:送信ゲート、 1204:基地局通知信号生成部、 1205:切替部、 1206:制御信号分離部、 1301:選択部、 1302:ハンドオーバ用フレーム周期カウンタ、 1401:ULサブフレーム遅延部、 1402:ULサブフレーム+DLサブフレーム遅延部、 1403:基地局通知信号用遅延部、 1404:選択部
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