(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】塗工紙およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 19/54 20060101AFI20220203BHJP
D21H 19/44 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
D21H19/54
D21H19/44
(21)【出願番号】P 2021537275
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029304
(87)【国際公開番号】W WO2021024917
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019143831
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】外岡 遼
(72)【発明者】
【氏名】吉松 丈博
(72)【発明者】
【氏名】長 周太郎
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-526111(JP,A)
【文献】特開2014-208936(JP,A)
【文献】特開平05-195489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/54
D21H 19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と接着剤とを含む顔料塗工層を原紙上に有する塗工紙であって、
該接着剤が、第1のデキストリンと第2のデキストリンを含んでなり、第1のデキストリンの重量平均分子量(M1)と第2のデキストリンの重量平均分子量(M2)がいずれも500kDa未満であり、第1のデキストリンと第2のデキストリンの混合物の重量平均分子量が300kDa以下、M1-M2が
10kDa以上60kDa以下である、上記塗工紙。
【請求項2】
第1のデキストリンと第2のデキストリンの併用比率が、2:8~8:2である、請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
第1のデキストリンと第2のデキストリンが、いずれも白色デキストリンである、請求項1または2に記載の塗工紙。
【請求項4】
M1とM2がいずれも150~400kDaである、請求項1~3のいずれかに記載の塗工紙。
【請求項5】
顔料と接着剤とを含む塗工液を調整する工程と、
塗工液を原紙に塗工する工程と、
を含む、塗工紙の製造方法であって、
該接着剤が、第1のデキストリンと第2のデキストリンを含んでなり、第1のデキストリンの重量平均分子量(M1)と第2のデキストリンの重量平均分子量(M2)がいずれも500kDa未満であり、第1のデキストリンと第2のデキストリンの混合物の重量平均分子量が300kDa以下であり、M1-M2が
10kDa以上60kDa以下である、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工紙および塗工紙の製造方法に関する。特に、顔料塗工層の接着剤(バインダー)としてデキストリンを含有する塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に塗工紙を製造する場合、印刷適性を向上させるため顔料とそれを結着させるための接着剤とを主体とした塗工層を形成する。接着剤として、塗料流動性が良好であること、塗工装置での塗工適性が良好であること、塗工紙品質として印刷表面強度が付与しやすいこと、などの観点から、主に石油系の合成材料由来の接着剤が使用されている。
【0003】
しかしながら、近年、コスト削減や環境意識の高まりなどにより、石油系の合成材料でなく、安価で生分解性に優れた材料が注目を集めている。その中でも澱粉系材料を原料とする接着剤が注目されている(特許文献1)。ところが、塗料(顔料塗工液)に澱粉系材料を高配合すると塗料粘度が著しく増大し、操業性や塗工適性が悪化してしまう。塗料希釈により粘度調整を図ったとしても、水分が多くなるため塗工後の乾燥工程の負荷が大きくなり、塗工速度低下などの生産性への悪影響があった。また、仮に塗工速度を低下させて製造したとしても、塗料濃度が低く塗料の保水性が低下しているため、原紙内への塗料の浸透が大きく、白紙光沢度低下、表面強度低下などの品質低下が避けられない。
【0004】
そこで、特許文献2では、澱粉系高分子を含む水性スラリーを蒸煮した場合に、蒸煮開始から一定時間経過後の粘度が低い澱粉系高分子を接着剤として使用する技術が提案されている。また、特許文献3には、平均分子量が50kDa以上異なる複数のデキストリンを併用することによって塗工液の水分保持特性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-84311号公報
【文献】国際公開WO2012/133487
【文献】特表2016-526111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の技術では、オフセット印刷時にブランケットパイリングが発生しやすい傾向があり、特に塗工液濃度が低い場合、ブランケットパイリングが著しく悪化する。ブランケットパイリングとは、ブランケット上の画線部周縁に紙粉やインキが堆積し盛り上がってくることである。また、特許文献3に記載の技術では、塗工紙の光沢発現性が低下してしまう傾向があった。
【0007】
塗工液の高濃度化は、水分が少なくなることから乾燥負荷の低減による生産性の向上や、塗工液の原紙内への浸透を低減し表面強度の向上に寄与する。しかし、塗工液濃度が高いと粘度が増大し操業性や塗工適性の悪化を招くため、乾燥負荷や表面強度に悪影響を及ぼさない程度に塗工液を希釈して使用しているのが実情である。
【0008】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、塗料に高配合しても塗料粘度をあまり増大させず、塗工紙の白紙光沢度や印刷光沢度を向上させるとともに、オフセット印刷時のブランケットへのパイリングを抑制することのできる澱粉系接着剤を探索し、高品質の塗工紙を高い操業性で製造する技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、分子量の異なる特定のデキストリンを併用することによって、表面光沢性に優れた塗工紙を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、これに限定されるものはないが、以下の発明を包含する。
(1) 顔料と接着剤とを含む顔料塗工層を原紙上に有する塗工紙であって、該接着剤が、第1のデキストリンと第2のデキストリンを含んでなり、第1のデキストリンの重量平均分子量(M1)と第2のデキストリンの重量平均分子量(M2)がいずれも500kDa未満であり、M1-M2が60kDa以下である、上記塗工紙。
(2) 第1のデキストリンと第2のデキストリンの併用比率(重量比)が、2:8~8:2である、(1)に記載の塗工紙。
(3) 第1のデキストリンと第2のデキストリンが、いずれも白色デキストリンである、(1)または(2)に記載の塗工紙。
(4) M1とM2がいずれも150~400kDaである、(1)~(3)のいずれかに記載の塗工紙。
(5) 顔料と接着剤とを含む塗工液を調整する工程と、塗工液を原紙に塗工する工程と、を含む、塗工紙の製造方法であって、該接着剤が、第1のデキストリンと第2のデキストリンを含んでなり、第1のデキストリンの重量平均分子量(M1)と第2のデキストリンの重量平均分子量(M2)がいずれも500kDa未満であり、M1-M2が60kDa以下である、上記方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗工液の流動性が良好であり、また、塗工液のハンドリングが容易であるため塗工適性が優れており、塗工紙の製造における操業効率が向上する。また、塗工液の保水性が向上するため、原紙への塗工液のしみこみを抑制することから、得られた塗工紙の光沢発現性が向上し、パイリングの抑制など、種々の塗工紙品質が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の塗工紙は、白色顔料と接着剤を含む顔料塗工層が原紙上に設けられた塗工紙であれば特に制限はなく、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷などに用いられる印刷用塗工紙はもちろん、板紙原紙上に顔料塗工層を有する白板紙であってもよい。
【0013】
本発明の塗工紙は、原紙の上に、顔料を含む顔料塗工層を1層以上設ける。原紙上には、顔料を含まない塗工液(サイズプレス液)を塗工しても塗工しなくてもよい。
【0014】
本発明の塗工紙の紙中灰分は、10重量%以上であると好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。印刷用塗工紙の場合、灰分を多くして不透明度を高くすることが好ましい。
【0015】
デキストリン
本発明においては、顔料塗工層を設けるため、主として顔料、接着剤(バインダー)、水を含む顔料塗工液を用いるが、接着剤(バインダー)として、特定の分子量(重量平均分子量)を有する澱粉系高分子を添加する。本発明では、澱粉系高分子としてデキストリンを使用するが、蒸煮後の一定時間経過後における粘度が特に低いため、顔料塗工液に配合してもその粘度を大幅に増大させることがなく、顔料塗工液の濃度を高くすることができ、それにより、塗工紙の印刷品質を向上させることができる。すなわち、原紙への塗料のしみこみを抑制し、有効塗工層が増えることから、光沢発現性向上、表面強度向上など、種々の塗工紙品質が向上する。
【0016】
本発明においては、接着剤として、分子量の異なる複数のデキストリンを用いる。デキストリンは、澱粉を加水分解して得ることができ、加水分解の程度を調整することによって分子量の異なるデキストリンを製造できる。上述したように、本発明においては、顔料塗工層に用いる接着剤が、第1のデキストリンと第2のデキストリンを含んでなり、第1のデキストリンの重量平均分子量(M1)と第2のデキストリンの重量平均分子量(M2)がいずれも500kDa未満であり、M1-M2が60kDa以下である。
【0017】
本発明で使用する2種のデキストリン混合物の分子量は、重量平均分子量で500kDa未満である。好ましくは450kDa以下、より好ましくは400kDa以下、さらに好ましくは350kDa以下であり、300kDa以下であってもよい。分子量が大きすぎる場合には、糊液粘度が高くなり、塗料配合時の粘度が増粘して作業性に劣ることがある。本発明で使用する2種のデキストリンの混合物の分子量は、100kDa以上であることが好ましく、150kDa以上であることがより好ましく、200kDa以上であることがさらに好ましい。
【0018】
また、本発明で使用するデキストリンの重量平均分子量は、100kDa以上が好ましく、150kDa以上がより好ましく、200kDa以上がさらに好ましい。分子量が小さすぎる場合には、オフセット輪転機で印刷したときのブランケットパイリングが発生しやすくなる。この理由は、塗工液の保水性が低下してバインダーの沈み込みが生じ、バインダーが塗工層表面にとどまらないため塗工層の強度が不足して、印刷時に塗工層が剥がれブランケット上に堆積すると考えられる。これを防止するには塗工液濃度を高くすればよいが、塗工液濃度を高くすると操業性が悪化する問題がある。
【0019】
さらに、本発明においては、併用する2種のデキストリンそれぞれの重量平均分子量が100kDa以上500kDa未満であることが好ましい。低分子量のデキストリンが100kDa未満の場合、塗工液の粘度が低くなるため表面強度が低くなる恐れがある。また、高分子量デキストリンの分子量が500kDa以上の場合、デキストリンの糊液粘度が上昇しすぎて作業性に劣る恐れがあり、塗料配合時の粘度が高くなり過ぎる場合がある。本発明においては、上述の分子量範囲内のデキストリンを2種使用するため、分子量が高いデキストリンと低いデキストリンを使用した場合の利点を享受することができる。すなわち、作業性を損なうことなく、紙の表面強度を向上させることができる。
【0020】
また、2種のデキストリンの分子量差は60kDa未満であることが好ましい。2種のデキストリンの分子量差が60kDaを超える場合、高分子量デキストリンによって、紙表面の収縮が発生するため、光沢度が低下する恐れがある。2種のデキストリンの分子量差は小さくてもよいが、例えば、10kDa以上であってよい。
【0021】
なお、本発明において、重量平均分子量は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱法(SEC-MALS法)により測定することができる。
【0022】
本発明のデキストリンは、好ましい態様において、一定条件で蒸煮した後のスラリー粘度が1000mPa・s以下である。デキストリンを塗工液に含有させる場合は、デキストリンを溶解させるための加熱を必要とする。よって、一定条件で蒸煮した後のスラリーの粘度が重要となるところ、本発明のデキストリンは、蒸煮した後のスラリーの粘度が低いため、スラリーを高濃度化することができる。澱粉化合物は、通常、水中に懸濁し加熱すると、デンプン粒は吸水して次第に膨張する。加熱を続けると最終的にはデンプン粒が崩壊し、ゲル状に変化する。この現象を糊化(こか)という。このとき、デンプン懸濁液は白濁した状態から次第に透明になり、急激に粘度を増す。粒子が最大限吸水した時に粘度が最大となり、粒子の崩壊により粘度は低下する。本発明においては、蒸煮により粘度が最大となった後、温度を下げて静置した時の粘度が一定の範囲のものを用いる。
【0023】
例えば、α化澱粉などに代表される、冷水可溶澱粉もスラリー粘度は低いが、それらの冷水可溶澱粉は、冷水に溶けるように処理されており、デキストリンなどの方が表面強度の発現性が高く有利である。それ故に本発明の澱粉系高分子化合物としては、20℃への水への溶解度が20%未満であることが好ましい。
【0024】
このような澱粉系高分子の挙動は、ラピッドビスコアナライザー(Rapid Visco Analyzer:RVA、型式RVA-4、New Port Scientific社製)という測定機器を用いて測定することができる。本発明の好ましい態様においては、濃度35重量%の澱粉系高分子スラリーを、以下の蒸煮条件で蒸煮したとき、蒸煮開始から16分後の50℃における粘度が1000mPa・s以下であるデキストリンを用いる。本発明の一態様ではデキストリンを顔料塗工層の接着剤として使用するが、そのスラリーを蒸煮(クッキング)することによってバインダーとしての接着力が発現する。
【0025】
<RVA粘度測定条件>
以下の条件でパドルを回転させ、攪拌しているパドルにかかるトルクを測定し、粘度を算出する。
(攪拌条件)
・測定開始後10秒:960rpm
・その後 :160rpm
(蒸煮条件)
・ 0~ 5分:5分間で98℃まで昇温
・ 5~ 9分:98℃にて保持
・ 9~12分:3分間で50℃まで降温
・12~16分:50℃にて保持
上記の通り測定したデキストリンの蒸煮後16分後の50℃にて保持する段階における粘度は、好ましくは1000mPa・s以下であり、より好ましくは850mPa・s以下である。
【0026】
また、本発明のデキストリンは、RVAを用いて上記条件で粘度を測定した際に澱粉の糊化による最大粘度が2000mPa・s以下であることが好ましく、1600mPa・s以下であることがより好ましい。糊化の際の最大粘度がこのような範囲であるとハンドリングが容易であり、塗工液に配合した場合に過度の粘度上昇を生じることがない。
【0027】
本発明のデキストリンは、上記粘度を有することが好ましいが、変性方法などは特に制限されず、原料の品種なども自由である。また、本発明で使用するデキストリンの好ましい原料としては、トウモロコシ、ポテト、タピオカなどを挙げることができ、ワキシー種のトウモロコシ(ワキシーコーン)やタピオカが特に好ましい。
【0028】
本発明においては、粘度が低く、かつ粘度安定性が高いため、接着剤として白色デキストリンなどの焙焼デキストリンが好ましい。デキストリンとは、澱粉を加水分解して得られる澱粉系高分子の総称であり、α-グルコースがグリコシド結合によって重合しており、糊精(こせい)とも呼ばれる。通常の澱粉は分子量が大きいが、デキストリンは澱粉の加水分解の工程で生ずる中間生成物であり、従来はオリゴマー(グルコースが数個~数十個程度が結合したもの)程度の分子量が一般的であった。焙焼デキストリンは、酸を加えて乾熱で焼いて生成したデキストリンであり、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリティッシュガムなどの種類がある。本発明においては、特に白色デキストリンを使用することが好ましい。白色デキストリンをさらに加水分解するといわゆる黄色デキストリンとなるが、黄色デキストリンだと安定性が低く、顔料塗工層が着色するおそれがあるため、本発明においては白色デキストリンの使用が好ましい。
【0029】
本発明の白色デキストリンは、デキストリン中の分岐が多い方が好ましい。分岐が多いと強度が発現しやすい。分岐の程度は、慣性半径と関係があり、同じ分子量であれば慣性半径が小さいと分岐が多く、慣性半径が大きいと分岐が少ない直鎖状と考えられる。よって、本発明の白色デキストリンは、慣性半径が小さい方が好ましい。
【0030】
本発明のデキストリンは、塗工液に配合した際に流動性が良好となる。流動性が向上すると、塗工液の高濃度化が可能となり、塗工液のしみこみを抑制し、有効塗工層が増えることから、光沢発現性向上、白色度向上、表面強度向上など、種々の塗工紙品質が向上する。
【0031】
本発明のデキストリンの配合量は、好ましい態様において、顔料100重量部当たり0.1~30重量部、より好ましくは0.5~15重量部程度の範囲で使用される。
【0032】
本発明においては、接着剤として、上記のデキストリンのみを用いることもできるが、上記のデキストリン以外にも塗工紙用に従来から用いられている接着剤を併用することもできる。上記のデキストリン以外の接着剤の例には、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、ブタジエン・メチルメタクリレート系、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系等の各種共重合体(ラテックス)、ポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体、およびアクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体等の合成系接着剤;カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白質類;上記の澱粉由来の高分子化合物以外の酸化澱粉、陽性澱粉、尿素燐酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉等のエーテル化澱粉などの澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体等の通常の塗工紙用接着剤が含まれる。接着剤は、1種類以上を適宜選択して使用できる。本発明では、澱粉系高分子化合物とは特性の異なるラテックスを接着剤として併用することが好ましく、その場合、ラテックスの使用量よりもデキストリンの使用より多くすることが好ましい。併用によりデキストリンとラテックスの利点を両方得られるが、本発明の効果を大きく発揮させるにはデキストリンの使用量を多くすることが好ましい。
【0033】
また、本発明の好ましい態様においては、接着剤としてラテックスを使用しないか、または、ラテックスの使用量を顔料100重量部に対して4重量部以下とする。また、ラテックスの使用量を2.5重量部以下とすると好ましい。ラテックスを使用しないか、その使用量を少なくすることによって、バッキングロール汚れの防止、耐ブリスター性の向上、さらには、高価なラテックスの使用削減によるコストダウンという利点が得られる。
【0034】
本発明において塗工液中の接着剤合計の配合量は特に制限されないが、顔料100重量部あたり5~50重量部が好ましく、5~30重量部程度がより好ましく、さらには5~12重量部が好ましい。接着剤として、デキストリンとそれ以外の接着剤とを併用する場合は、その合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0035】
本発明において、塗工液の調製方法は特に限定されず、コータの種類によって適宜調整できる。ブレード方式のコータを用いる場合は、塗工液の固形分濃度は40~70重量%が好ましく、より好ましくは50~65重量%である。塗工液の粘度は、JIS K 7117-1 のB型粘度計で、50~3500mPa・sが好ましく、100~2500mPa・sがより好ましく、150~1500mPa・sや200~500mPa・sとしてもよい。
【0036】
本発明においては、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤等、通常の塗工紙用顔料に配合される各種助剤を適宜使用できる。
【0037】
塗工顔料
本発明の塗工層に用いる顔料(白色顔料)は特に制限されず、塗工紙用に従来から用いられているものを使用することができ、例えば、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコアーシェル型などの有機顔料などを必要に応じて単独または2種類以上混合して使用することができる。また、顔料の種類としては、バインダー要求量が少なく少量の接着剤で表面強度を向上できることと、高い白色度の観点から、重質炭酸カルシウムおよび軽質炭酸カルシウムが好ましく、また不透明度をも向上させる観点から、粒子径や形状が揃った軽質炭酸カルシウムが特に好ましい。嵩高な塗工層構造は光を効率的に散乱するためである。
【0038】
塗工液に炭酸カルシウムを配合する場合、軽質炭酸カルシウムもしくは重質炭酸カルシウム、またはその両方をあわせた含有量は、顔料100重量部あたり50重量部以上が好ましく、70重量部以上がより好ましく、80重量以上がさらに好ましい。また、原紙上に均一な塗工層を形成させる観点の点から平均粒子径は、Malvern社製Mastersizer Sなどのレーザー回折式粒度分布測定機で測定した値で0.2~5μmが好ましく、0.3~3μmがより好ましい。
【0039】
塗工
本発明においては、通常用いられるコータであればいずれを用いても良い。オンマシンコータでもオフマシンコータでも良く、オンマシンコータであれば、サイズプレスコータ、ゲートロールコータ、ロッドメタリングサイズプレスコーターなどのロールコータ、ビルブレイドコータ、ブレードメタリングサイズプレスコータ、ショートドゥエルブレードコーター、ジェットファウンテンブレードコーターなどのコータを使用できる。塗工速度は、特に限定されないが、現在の技術ではブレードコータでは500~1800m/分、サイズプレスコータでは500~2000m/分が好ましい。
【0040】
本発明において、湿潤塗工層を乾燥させる方法に制限はなく、例えば蒸気過熱シリンダ、加熱熱風エアドライヤ、ガスヒータードライヤ、電気ヒータードライヤ、赤外線ヒータードライヤ等各種の方法が単独もしくは併用して用いることができる。
【0041】
本発明における塗工液の塗工量は、用途に応じて適宜選定できるが、一般的には、片面あたり固形分で2~13g/m2であり、4~11g/m2や6~9g/m2としてもよい。
【0042】
本発明の塗工液の濃度は、特に限定されないが、印刷品質を考慮すると、40重量%以上であるとよく、55重量%以上、75重量%以下程度が好ましい。本発明では特定のデキストリンを接着剤として用いているため、塗工液を高濃度化することができる。しかし、塗工液の濃度が高すぎると塗工液が増粘し操業性が悪化する。本発明においては、より好ましくは65重量%以下とすることにより、操業性を良好に保つことが可能となる。また、本発明の塗工液のブルックフィールド粘度(B型粘度、60rpm)は、操業性などの点から、50mPa・s以上3500mPa・s以下であるとよく、100mPa・s以上3000mPa・s以下程度が好ましく、150mPa・s以上2000mPa・s以下がより好ましく、200mPa・s以上1000mPa・s以下としてもよい。
【0043】
原紙
本発明の塗工紙は少なくとも原紙層を有する。原紙は公知の方法により製造することができ、例えば、抄紙原料(紙料)をワイヤーパートにて抄紙し、次いでプレスパート、プレドライヤーパートに供して原紙を製造することができる。本発明に用いる原紙は、単層抄きであっても多層抄きであってもよいが、白板紙を製造する場合は多層抄き原紙を用いることが好ましい。本発明の原紙の製法は特に制限されず、公知の原料を用いて公知の方法によることができる。本発明で使用される原紙は特に制限されず、一般に使用される上質紙、中質紙、更紙、マシンコート紙、アート紙、キャストコート紙、合成紙、レジンコーテッド紙、プラスチックフィルム等を例外なく使用できる。
【0044】
本発明の原紙の坪量は特に限定されず、用途に応じて適宜選定できるが、例えば、30~150g/m2とすることができ、33~100g/m2や35~75g/m2としてもよい。
【0045】
本発明の原紙に用いるパルプ原料としては、化学パルプを使用することができる。化学パルプ以外にも、用途に応じて各種パルプを使用することができ、例えば、脱墨パルプ(DIP)、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)などが挙げられる。脱墨パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙を原料とする脱墨パルプなどを使用することができる。
【0046】
本発明においては、原紙の填料として公知の填料を任意に使用でき、例えば、重質炭酸カルシム、軽質炭酸カルシウム、クレー、シリカ、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、ホワイトカーボン、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸ナトリウムの鉱産による中和で製造される非晶質シリカ等の無機填料や、尿素-ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などの有機填料を単用又は併用できる。この中でも、中性抄紙やアルカリ抄紙における代表的な填料である重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムが不透明度向上のためにも好ましく使用される。紙中填料率は特に制限されないが、1~40固形分重量%が好ましく、10~35固形分重量%がさらに好ましい。
【0047】
本発明においては、公知の製紙用添加剤を使用することができる。例えば、硫酸バンドや各種のアニオン性、カチオン性、ノニオン性あるいは、両性の歩留まり向上剤、濾水性向上剤、各種紙力増強剤や内添サイズ剤等の抄紙用内添助剤を必要に応じて使用することができる。乾燥紙力向上剤としてはポリアクリルアミド、カチオン化澱粉が挙げられ、湿潤紙力向上剤としてはポリアミドアミンエピクロロヒドリンなどが挙げられる。これらの薬品は地合や操業性などの影響の無い範囲で添加される。中性サイズ剤としてはアルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸、中性ロジンサイズ剤などが挙げられる。更に、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等も必要に応じて添加することができる。
【0048】
本発明における原紙の抄紙方法は特に限定されるものではなく、トップワイヤー等を含む長網抄紙機、オントップフォーマー、ギャップフォーマ、丸網抄紙機、長網抄紙機と丸網抄紙機を併用した板紙抄紙機、ヤンキードライヤーマシン等を用いて行うことができる。抄紙時のpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよいが、中性またはアルカリ性が好ましい。抄紙速度は、特に限定されない。
【0049】
本発明の塗工紙は、上述した原紙の片面または両面にクリア(透明)塗工層を有していてもよい。原紙上にクリア塗工を施すことにより、原紙の表面強度や平滑性を向上させることができ、また、顔料塗工をする際の塗工性を向上させることができる。本発明においては、クリア塗工層にバインダーとして、本発明の澱粉由来の高分子化合物を含有してもよい。クリア塗工の量は、片面あたり固形分で0.1~4.0g/m2が好ましく、0.5~2.5g/m2がより好ましい。
【0050】
本発明においてクリア塗工とは、例えば、サイズプレス、ゲートロールコータ、プレメタリングサイズプレス、カーテンコータ、スプレーコータなどのコータ(塗工機)を使用して、澱粉、酸化澱粉などの各種澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を主成分とする塗布液(表面処理液)を原紙上に塗布(サイズプレス)することをいう。
【0051】
本発明においては、オンラインソフトカレンダー、オンラインチルドカレンダーなどにより塗工前の原紙にプレカレンダー処理を行い、原紙を予め平滑化しておくことが、塗工後の塗工層を均一化する上で好ましい。この場合、処理線圧は、好ましくは30~100kN/m、より好ましくは50~100kN/mである。また、プレカレンダー処理する際の原紙の水分率も重要であり、水分率は3~5%が好ましい。
【0052】
表面処理
本発明においては、以上のように製造した紙を必要に応じて表面処理する。平滑化処理には、通常のスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー、熱カレンダー、シューカレンダー等の平滑化処理装置を用いることができる。平滑化処理装置は、オンマシンやオフマシンで適宜用いられ、加圧装置の形態、加圧ニップの数、加温等も適宜調整される。好ましい態様において、本発明の塗工紙は、スーパーカレンダーや高温ソフトニップカレンダー等のカレンダーで表面処理を行うことができる。表面処理により、塗工紙の平滑度や光沢性を向上させることができる。本発明においては、ソフトニップカレンダー処理が好ましい。ソフトニップカレンダー処理をすることにより、白色度、不透明度共に向上する。ソフトニップカレンダー処理において、金属ロールの表面温度が20℃~60℃の線圧は、30~60kN/m、より好ましくは、40~60kN/mである。また、金属ロールの表面温度が40℃~250℃の高温ソフトニップカレンダー処理であれば、線圧は60~400kN/m、好ましくは、150~300kN/m、より好ましくは100~350kN/mである。温度を上げると、塗工紙の表面の光沢、平滑度が向上する。
【実施例】
【0053】
以下に具体的な例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。本明細書において、%、部などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0054】
焙焼デキストリンの製法
生コーンデンプンに塩酸を添加し、プロシェアミキサ(大平洋機工)を用いて130℃で90分間加熱して焙焼デキストリンを製造した。具体的には、以下のように塩酸添加量を変えて分子量が異なる白色焙焼デキストリンを得た。
【0055】
【0056】
焙焼デキストリンの重量平均分子量については、以下の測定条件でGPCを用いて測定可能である。
・分離カラム:Shodex GPC KB-806M 2本、Shodex GPC KB-802 1本
・カラム温度:40℃
・移動相溶媒:硝酸ナトリウム水溶液(0.1mol/L)
・移動相流速:0.5mL/min
・注入量:300μL
・検出器1:多角度光散乱検出器(Wyatt社製、「DAWN HELEOSII」)
・検出器2:屈折率(RI)検出器(Waters社製、「2414型」)
・試料:[蒸煮]100℃で20分間攪拌、[濃度]0.4w/v%、[濾過]クロマトディスク 孔径0.45μm(クラボウ製)
・データ処理:ASTRA(Wyatt社製)
【0057】
評価方法
(1)坪量:JIS P 8124に準じて測定した。
(2)紙厚:JIS P 8118に準じて測定した。
(3)密度:JIS P 8118に準じて坪量と紙厚から求めた。
(4)白紙光沢度
JIS P-8142に従い、角度75度で測定した。
(5)印刷光沢度
オフセット輪転機(東芝オフセットBT600)、オフセット印刷用インキ(東洋インキ製造(株)製:レオエックスM)を使用し4色(墨、藍、紅、黄)印刷した後、印刷物の藍ベタ部の表面をJIS P 8142に基づいて測定した。
(6)灰分:JIS P8251に従い測定した。
(7)塗料のB型粘度
調製した塗液をB型粘度計(型式:LVDV-I、英弘精機社製)により、液温30℃、回転数60rpmで測定した。
(8)塗料のハイシェア粘度
調製した塗液をハーキュリー・ハイシェア粘度計(型式:DV-10、Kaltec Scientific社製)により、液温30℃、回転数8800rpm、F2.5のボブで測定した。
【0058】
顔料塗工紙の製造と評価
古紙パルプ65部とNBKP20部、LBKP15部とからなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウムを紙中灰分が16%になるように添加し、内添紙力剤としてカチオン化澱粉を0.7部、ポリアクリルアミド(PAM)を0.3部添加して紙料を調整した。
【0059】
この紙料を用いて、抄紙速度1500m/分にてロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機で抄紙し、プレスパートに2基のタンデムシュープレス(プレス線圧1000kN/m、2基目の紙のワイヤー面側にトランスファーベルトが接触)を用いて湿紙を搾水して乾燥し、35.7g/m2の中質塗工原紙を得た。
【0060】
次に、顔料として、重質炭酸カルシウム(FMT97:平均粒子径0.90μm)100部に対して、接着剤として、カルボキシ変性スチレン・ブタジエン共重合ラテックス(NP100C)1.5部と焙焼デキストリン10.0部を配合して塗工液を調製した。製造例1(比較例)では、平均分子量が300kDa以上離れているデキストリンを併用したが、製造例2(実施例)では、平均分子量の差が約50kDaであるデキストリンを併用した。
【0061】
この塗工液を用いて、塗工量が原紙片面当たり7.0g/m2となるようにジェットファウンテン方式のブレードコータで両面に上記塗工液を連続して塗工し、乾燥した。
【0062】
引き続き、仕上げ工程にてショア硬度がD94°の弾性ロールを有する2ロール・6スタックのソフトカレンダーを使用し、各金属ロール表面温度130℃、各ニップ線圧を250kN/mとして塗工紙の表面処理を行った。
【0063】
抄紙、塗工、カレンダー処理を連続して行ったため、塗工速度、カレンダー速度も1500m/分であった。
【0064】
【0065】
表から明らかなように、分子量の異なるデキストリンを併用する場合、デキストリンの重量平均分子量の差が50kDaである製造例2において、白紙光沢度および印刷光沢度に優れた塗工紙が得られた。