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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】衛生マスクおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021037826
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2021-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521055127
【氏名又は名称】株式会社Machiim
(72)【発明者】
【氏名】竹宮 孝子
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3229085(JP,U)
【文献】登録実用新案第3089472(JP,U)
【文献】特許第5961738(JP,B2)
【文献】特開2013-066643(JP,A)
【文献】特開2008-237358(JP,A)
【文献】登録実用新案第3142360(JP,U)
【文献】登録実用新案第3231131(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/11
A62B 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
請求項1記載の衛生マスクの使用方法であって、顔面を被覆する前記被覆本体部の下側縁部を外側上方へめくり上げると、前記被覆本体部上側縁部表面の曲がる方向とは反対方向に下側縁部が顔面に沿って湾曲して自立した半折り状態を維持し、口前を開放して飲食物を口に入れ、飲食物を咀嚼、嚥下する際には自立している前記被覆本体部の下側縁部を手で抓んで下側に降ろし口前を被覆することを特徴とする衛生マスクの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長時間衛生マスクを装着しても苦痛を感じることが少なく、顔が見えないことによるコミュニケーション上の不安感を与えず、しかも、装着しながらの食事も可能とした衛生マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウィルス感染の世界的大流行によって、対人接触、感染の可能性が高い外出先は勿論のこと、家庭内においても常時、衛生マスクの装着が求められる状況が続き、衛生マスク着用着用は、咳エチケットとして定着しつつある。
ウィルスや細菌に対するバリア性から考えると、より密閉度が高い衛生マスクが望ましいと考えられやすいが、密閉度が高いマスクは、息苦しく装着する人に苦痛を与えやすく日常的に長時間の使用には不適当である。苦痛を感じて衛生マスクを外したのでは、感染を防止できない。
【0003】
今後もコロナ禍が続くことを考えると、総合的な感染リスクの軽減は当然のことながら、生活の質や経済活動も担保し、衛生マスクによるストレスや二次被害も軽減する必要がある。そのためには、状況に応じて衛生マスクを使い分ける必要がある。
【0004】
顔の表情が見えるようにして、唾や飛沫などの拡散を防ぐためには、透明プラスチックを隔壁形成部材として使用しているフェースシールドやマウスシールドが存在する。
【0005】
しかし、これらの多くは、顔が明瞭に見えるが、呼吸した息や唾がシールド部材の表面に付着して曇って見えにくくなりやすく、数十分毎に拭き取る必要がある。また、装着時の圧迫感、他者への威圧感もあるだけでなく、顔面や口面との間の空間から外方への飛沫の拡散は防ぎようがない。
【0006】
これらに対し、特許文献1に開示されている衛生マスクは、光透過性及び細菌バリア性を有し、衛生マスク装着時に顔の表情が見えることや衛生マスクによる不快な印象の軽減を図っている。
【0007】
この衛生マスクのマスク本体は、横長の矩形状の形状である。マスク本体の左右両側には、耳掛け紐固定部を備えている。マスク本体の横方向の両端部分を除く中央部分は、着用者の顔面の口を被覆する顔面被覆部分となっている。その顔面被覆部分は、規則的に貫通孔を形成した基材層と繊維径350nm以下で坪量が0.50g/m以下のナノファイバ層とを積層シートとして一体化し、顔面被覆部分の平行光線透過率は、10%以上に形成されている。
【0008】
特許文献2には、着用者の顔部分が透視可能な透明性を有する共に、花粉などの空中に浮遊する異物の吸入を防止したり、鼻や口などの呼吸器から発生する飛沫を充分に遮断したりすることのできる衛生マスクが技術開示されている。透明織布は、合成繊維フィラメントから構成され撥水処理加工が施されている。この透明織布の周辺端部は熱融着されるか、ナス形またはU字形に湾曲成形された樹脂シートで透明織布を囲んでいる。
【0009】
特許文献3には、息苦しさからの解放を第一として鼻部分を露出させた衛生マスクが開示されている。着用者の口の動きを外部から視認可能にする薄い素材や透光性の保持された構造にしているので、大勢の人が作業を行っている場においても着用者の口の動きから発話者が誰であるのか、どういった内容を話しているのかを判別可能である。
【0010】
この衛生マスクの本体部は、鼻下受部の上端中央部に切欠部を形成し、着用者の鼻の周りを本体部が防護するように形成され、着用者の顎下まで防護するには、本体部を下方向に延ばして形成することで、着用者が調理中などの作業中に輻射熱や飛び跳ねた油等からも防護できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5961738号公報
【文献】特開2013-66643号公報
【文献】実用新案登録第3210083号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1には、開示されている衛生マスクは、横長の矩形状の形状のマスク本体の横方向の両端部分を除く中央部分が着用者の顔面の口を被覆する顔面被覆部分となっているので、食事をするため口の前を開放するには、マスク本体の左右両側に設けられた耳掛け紐を両方の耳から外さなければならない。したがって、前記した行動とほぼ同様な行動をとらざるを得ず、マスクを装着したまま食事をすることは出来ない。
【0013】
特許文献2に開示されている衛生マスクも、特許文献1に開示された衛生マスク同様、食事するため、口の前を開放させるには、着用者の鼻や口などの呼吸器を覆うためのマスク本体と一体に形成されている耳掛け紐を両耳から外さなければならず、マスクを装着したまま食事をすることは出来ない。
【0014】
特許文献3に開示されている衛生マスクも、特許文献1及び特許文献2同様、着用者の口を被覆する口当て部に連なる本体部の裏面の上部と下部とにゴム紐の両端部を固着することによって着用部を形成しているので、食事をするため口の前を開放させるには、口当て部に連なる本体部と耳掛け紐とを両耳から外さなければならず、マスクを装着したまま食事をすることは出来ない。
【0015】
本体部が下方向に延びた実施例について開示されているが、この延びた部分は、料理人等のためのものであって、本体部の口当て部より下側にあり、着用者が調理中などの作業中に輻射熱や飛び跳ねた油等から顎や首を防護するためのものである。下方向に延びた部分は口を塞いでいるので、食事をすることは困難であり、結局、このマスクを装着したまま食事をすることは出来ない。
【0016】
このように、これらいずれの特許文献には、コミュニケーションを重要視する現場において、長時間衛生マスクを使用する場合の問題点、特に、ウィルス感染などで問題となっているコミュニケーションを円滑にする食事と衛生マスクとの関係、食事中に衛生マスクの使用者が、衛生マスクをどのように取り扱うかについて何ら言及されていない。
【0017】
衛生マスクの両耳掛け部を両耳から外すには時間が掛かる。なぜなら、右手片手で右耳から外せても、右手で反対方向の左耳からは外し難い。逆に、左手片手で左耳から外せても、左手で右耳から外し難い。両手で外すには、右手や左手での作業を止めることになり、作業を止めるために要する時間が必要となり、少なくとも数十秒から数分の時間を必要とする。しかるに、従来はこのような、食事中の会話とマスク装着との関係で存在する課題について認識していない。一般的な慣習では、食事中はマスクを取り外して、テーブルの上に置くか、ポケットや専用のケースに収納し、食事後、再びマスクを装着するという行動をとることを暗黙のルールとしている。
【0018】
したがって、食事中の会話による唾等の飛散を防止するためには、食事中の会話を厳禁し、食事中は無言で食事をすることに集中することを要求される。このような食事中の会話を厳禁するという食事しながらの会話という円滑なコミュニケーションを無視し阻害する感染対処法では、いくらルールの徹底を求めても効果は期待できない。
【0019】
本発明は、前述した従来の衛生マスクでは、課題として認識することが無かった光透過性を有してマスク装着時の美的外観を重視しつつ、長時間の衛生マスク着用の問題点を解決し、しかも、装着しながらの食事も可能とした衛生マスクを提供することを目的とするものである。
【0020】
食事しながらの会話という円滑なコミュニケーションの効果を活かしつつ、食事中の突然の咳やくしゃみなどによる飛沫の拡散に瞬時に対処出来るようにするためには、次の二つの行動に対処できなければならない。
【0021】
すなわち、食事中、食べ物や飲み物を口に中に入れるためには、口面を被覆する衛生マスクは、「存在してはならない」が、食事中の突然の咳やくしゃみなどによる飛沫の拡散防止のためには、「存在しなければならない」という二律背反的な矛盾問題を解決する衛生マスクを提供することを目的とする。
【0022】
この目的を達成するため、食事中に衛生マスクが口前に「存在する」、口前に「存在しない」という時間的課題を、衛生マスクの被覆本体部と耳掛け紐との空間的関係に着目して解決した。すなわち、被覆本体部の中央より上側の角部に耳掛け紐固定部を設け、被覆本体部の下端側を手で抓んで外側に半折り状態で持ち上げれば、被覆本体部の上部が顔面に沿って湾曲しているのに対し、上端部に連なっている被覆本体部の下端部を、顔面に沿って被覆本体部上端部の湾曲方向とは反対方向に湾曲させることになる。
【0023】
このような状態になれば、手を放しても、被覆本体部の下端部はそのまま自立した状態を保ち、「口前には被覆本体部が存在しない」という空間的な分離が可能となり、感染防止のためには、「衛生マスクは存在して欲しい」が、食事のためには、「衛生マスクは存在して欲しくない」という時間的課題を解決できるとの着想を得て課題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明による衛生マスクは、柔軟性が有り顔面を被覆する横長状の少なくとも2枚の生地の中央を離すこと可能に重ね合わせ、それぞれの上側縁部と下側縁部とを密着固定した被覆本体部と、この被覆本体部の縦方向中央部より上側の左右の角部に設けられた耳掛け紐固定部とを備えている。
【0025】
本発明による衛生マスクの両耳掛け紐固定部が、被覆本体部の縦方向中央部より上方の両端にそれぞれ約40度乃至50度傾斜して設けられている。
【0026】
本発明による衛生マスクの被覆本体部の縦方向中央部には、左右の端部にわたって横方向に伸びた折り返し部が設けられている。
【0027】
本発明による衛生マスクの被覆本体部は、ポリエステルのマルチフィラメントの経糸と緯糸を平織したオーガンジー生地から成る。
【0028】
本発明による衛生マスクの被覆本体部の内側上方端部は、柔軟な細幅のガーゼ帯で覆われている。
【0029】
すなわち、本発明による衛生マスクに設けられている耳掛け紐は、被覆本体部の縦方向中央部より上方の左右両端にそれぞれ約40度乃至50度傾斜して設けられた耳掛け紐固定部に固定されているので、衛生マスクの被覆本体部の下端側を上方、外方へめくり上げると、被覆本体部上端部表面の曲がる方向とは反対方向に、下端部側が顔面に沿って湾曲し、手を放しても自立状態を維持し、衛生マスクを装着していながら、口前には被覆本体部が「存在する」「存在しない」の時間的・空間的な分離が可能となる。
【0030】
また、本発明による衛生マスクの被覆本体部は、ポリエステルのマルチフィラメントの経糸と緯糸を平織したオーガンジー生地の表布と裏布とを僅かにずらして重ね合わせてあるので、被覆本体部表布の表面にモアレ縞が表出される。
【発明の効果】
【0031】
本発明の衛生マスクは、光透過性、通気性が良く、着用者の表情の視認性に優れ、通気性が良く、被覆本体の軽い生地が上から顔面を覆うように顔面に沿ってふんわりと垂れ下っているだけなので息苦しさがなく、一日中、使用していても苦痛を与えることが無い。しかも、フェースシールドやフェスマスクのように、絶えず息や唾で曇った表面をきれいにしなければならないという煩わしい操作もなく使用できる。
【0032】
また、本発明による衛生マスクは、片手で被覆本体部を一瞬でめくりあげ自立状態することが可能なので、食事中、衛生マスクを耳から外す必要がなく、口に食べ物を入れる時だけ、片手で被覆本体部を一瞬でめくりあげ自立状態にして、咀嚼から嚥下までの間は被覆本体部の下側縁部を下側へ一瞬で下すことが可能である。このような使用方法により、食事中のコミュニケーションを円滑に行いながら、咀嚼中に飛び散る飛沫をキャッチできる。さらに、咳やくしゃみをしそうになったら、即座にその拡散を防止できるだけでなく、咀嚼中の会話に伴う飛沫の拡散も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の衛生マスクの一実施形態の正面図。
図2】本発明の衛生マスクの一実施形態の背面図。
図3】本発明のオーガンジー生地1枚の顕微鏡写真。
図4】本発明のオーガンジー生地2枚の顕微鏡写真。
図5】本発明のオーガンジー生地3枚の顕微鏡写真。
図6】本発明の衛生マスクが顔面を覆っている図。
図7】本発明の衛生マスクを装着し下側を手で抓んでいる図。
図8】本発明の衛生マスクを装着し下側が自立して口前が開放している図。
図9】本発明の衛生マスクを装着しながら飲み物を飲んでいる図。
図10】本発明8角形実施例表面のモアレ縞表出写真。
図11】本発明6角形実施例表面のモアレ縞表出写真。
図12】本発明衛生マスクを円筒状物上に置いたときのモアレ縞表出写真
図13】本発明衛生マスクを半折りした自立状態を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下本発明の好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
本発明の一実施形態である衛生マスク1は、図1の正面図、及び図2の背面図に示す構造から成る。
【0035】
図1及び図2に示すように、被覆本体部は、柔軟性、光透過性、通気性を有するポリエステルのマルチフィラメントを経糸20デニール、緯糸40デニール平織したオーガンジー布地2枚を、表布と裏布として使用し、横長状の表布と、ほぼ同じ形状、同じ特性のオーガンジー生地から成る横長状の裏布とを、中央部を離すことが可能に重ね合わせ、それぞれの上側縁部と下側縁部とを密着固定して、被覆本体部表布2.被覆本体部裏布3としている。
【0036】
なお、図1及び図2を用いた以下の説明においては、縫製による密着固定を示しているが、これは、被覆本体部表布2と被覆本体部裏布3を形成する複数枚の生地が前後・左右・上下にずれないように、それぞれの上側縁部と下側縁部とを密着固定することが目的であるため、縫製以外に、ポリエステル生地や不織布から成る生地を溶かしながら溶断し、溶断面にバリを発生させないで切断する超音波溶断カッターによる接合や、接着剤を用いた接着・熱による融着などの他の手段、方法を用いてもよい。
【0037】
したがって、衛生マスク1の左右は、被覆本体部表布2と被覆本体部裏布3とを中央部を離すことが可能に重ね合わされて中央端部25が、形成されているので、手で被覆本体部表布2と被覆本体部裏布3の中央部を抓んで両者を反対方向に引っ張ると両者の間に空隙が形成される。
【0038】
このように被覆本体部表布2と被覆本体部裏布3とを中央部を離すことが可能に重ね合わされているので、口から出た唾の水滴が、ポリエステルのマルチフィラメントの経糸と緯糸を平織で形成された被覆本体部裏布3の格子を通過しても、その進行方向に、同じくポリエステルのマルチフィラメントの経糸と緯糸を平織で形成されている被覆本体部裏布2の格子に衝突し、補足されてその先に飛散することはない。
【0039】
さらに、被覆本体部表布2と被覆本体部裏布3とのそれぞれの格子で光は干渉して被覆本体部表布2の表面にモアレ縞を表出する。このモアレ縞は、着用者の顔面形状に応じて光の散乱具合が様々に変化し、一つとして同じものはなく、独特の美的印象を、この衛生マスクの着用者と対面する人に与える。
【0040】
この被覆本体部表布2、被覆本体裏布3で、衛生マスク使用者の顔面を覆い、使用者の両耳に掛けることが出来るようにするため、ゴム製のリング状の耳掛け紐41を備えた耳掛け部4が設けられ、衛生マスクの長時間を可能にするため、この耳掛け部4の取り付け位置を工夫してある。
【0041】
従来の衛生マスクでは、耳掛け部が被覆本体部の左右に、被覆本体部の縦方向上角端と下角端との間に掛け渡され、耳掛け部が被覆本体部を顔面に引き付ける方向の引っ張り力が作用して、衛生マスクと顔面との間に隙間を生じないように耳掛け部が設けられ、被覆本体部が常に口前を覆っているので、一旦、衛生マスクを装着すると、衛生マスクを外さない限り、口前に被覆本体部が存在し続け、隙間を生じないにさせるためには、常に顔面を衛生マスクが圧迫し続けることになるので、絶えず衛生マスク使用者に苦痛を与え続ける。
【0042】
これに対し、本発明の実施形態に係る衛生マスク1では、長時間衛生マスクを着用しても、衛生マスク利用者に苦痛を与えることがないように、被覆本体部は上から垂れ下って顔面に軽く触れるように顔面を覆うことが可能なように、被覆本体部の左右の上端角部に耳掛け部がそれぞれ設けられている。
【0043】
すなわち、被覆本体部表地2、被覆本体裏布3の左右端部に係止するため、縦方向中央部より上側の左右の角部は、それぞれ約40度から50度、好ましくは45度傾斜した耳掛け紐固定部22が左右に設けられている。したがって、被覆本体部を顔面に引きつけるより、吊下げるために、斜めに傾斜している。
【0044】
耳掛け紐固定部22は、重ね合わせた被覆本体部表地2、及び被覆本体部裏布3の角部を、内側に中空になるように折り返して、縫い目9の個所を縫製してある。この耳掛け紐固定部22の中空部の中をリング状の耳掛け紐41が通してあり、耳掛け紐41の上側は、耳掛け紐固定部22の上側に位置する上側固定部42で係止し、耳掛け紐41の下側は、耳掛け紐固定部22の下側に位置する下側固定部43で係止される。耳掛け紐41として使用されるゴム紐は、柔らかく肌ざわりが優しく、ベビー用品・子供用品に多用されている弾力(伸び率250%)・強度・耐久性に優れた抗菌加工の天然ゴムを使用している。
【0045】
衛生マスク1の被覆本体部表布2と被覆本体部裏布3は重ね合わされ、上端縁部21で内側に折り返して上側折り返し部6を形成している。上側折り返し部6の上に、柔軟な細幅のガーゼ帯7がさらに重ね合わされ、縫い目9の位置を縫製している。そのため、オーガンジー生地が直接顔表面に接触して皮膚に炎症などを誘発することがない。顔面の皮膚に接触するのは、柔軟ガーゼであり、マスク下方部は解放されていて通気性もよいため、マスク装着時には化粧崩れをほとんど起こさない。
【0046】
柔軟ガーゼは、綿から作られた不織布ガーゼを使用しているが、これは線維の脱落が極めて少ないため毛羽が取れにくく摩擦が小さいので皮膚と擦れ合った時のダメージを抑えることができる。また、自重の約13倍の水分を素早く吸収・保持できるので、汗を吸収してもベタつかずにさらっとした感触を維持することができる。
【0047】
同様に、被覆本体部表布2と被覆本体部裏布3とを中央部を離すことを可能に重ね合わせ、下端縁部23で内側に折り返し、縫い目10の位置を縫製して、下側折り返し部8を形成している。
【0048】
この衛生マスク1は、柔軟性、光透過性、通気性を必要とするため、ポリエステルのマルチフィラメントの経糸と緯糸を平織したオーガンジー生地を使用している。このオーガンジー生地の選定にあたり、走査電子顕微鏡で観察した結果について説明する。
【0049】
図3は、オーガンジー生地1枚の表面を走査電子顕微鏡で観察した結果である。オーガンジー生地1枚の繊維間の距離は約200μmであった。一般的に水滴は一滴50μl程度と考えられているので、くしゃみや咳などで飛散するしぶき水滴も同程度と考えられる。したがって、このオーガンジー生地を1枚被覆本体部に使用した場合、顔面、口元の表情、動きは透き通って見えるが、唾やくしゃみでの水滴の飛散に対して、200μm対50μlということで、飛散防止効果が弱まると考えられる。
【0050】
図4は、オーガンジー生地2枚重ねたときの、生地表面を走査電子顕微鏡で観察した結果である。オーガジー生地を2枚重ねたときの繊維間の距離は約50μm~100μmとなる。前述したとおり、くしゃみや咳などで飛散する50μl程度のしぶきであれば、十分キャッチすることが出来ると言える。表布と裏布を光が通過するとき、光の屈折、相互干渉によって、表布の表面に、図10図11図12の走査電子顕微鏡で観察して得た結果である。
【0051】
図5は、オーガンジー生地3枚重ねたときの、生地表面を走査電子顕微鏡で観察した結果である。オーガジー生地を3枚重ねたときの繊維間の距離は約10μm~50μmとなる。オーガジー生地を2枚重ねたときよりも、くしゃみや咳などで飛散する50μl程度のしぶきを十分キャッチすることができるが、柔軟性、光透過性、通気性は、オーガジー生地を2枚重ねたときよりも劣ることになる。
【0052】
このように、本発明の実施形態の衛生マスク1は、被覆本体部にオーガンジー生地を2枚以上使用すれば、鮮明に被覆本体部の表面にモアレ縞を表出して、衛生マスクを装着した人を見る人の立ち位置、視線、角度に応じて、モアレ縞模様は微妙に変化して見え、モアレ縞独特の美的な印象を与えると共に安心感を与える。
【0053】
次に、衛生マスク1の被覆本体部表布2の中央より下端部側を手で抓んで、外側上方へ顔面に沿って持ち上げると、手を放しても下端部側が自立状態を維持し、衛生マスク1の耳掛け部4を耳に装着させていながら、口前には被覆本体部表布2、裏布3が「存在する」「存在しない」の時間的・空間的な分離が可能となる仕組みと本衛生マスク1の使い方について、図6乃至図9を用いて説明する。
【0054】
図6は、衛生マスク1の耳掛け部4を両耳に掛けて装着した説明図である。図7は、食事中に、衛生マスク1の下側折り返し部8を手で抓んで上側に持ち上げている状態を示している。
【0055】
このような状態では、衛生マスク1は、左右の耳掛け用ゴム紐41の引っ張り力に抗して、上方向に下側折り返し部8を手で持ち上げることになる。このとき、被覆本体部表布2、被覆本体部3は、柔軟性があるオーガンジー生地で構成されており、被覆本体部表布2の上側折り返し部6の折り返しによる剛性、縫製されたガーゼ部7、表布2と裏布3を形成している経糸、緯糸の織り目による重なり接触抵抗等によって、衛生マスク1の縦方向のほぼ中央線C―C線上の31近傍で折り返されて、左右の端部にわたって横方向に伸びた折り返し部を形成することになる。つまり、被覆本体部上布2の上側に連なる下側部分が、顔面輪郭に沿って、上側の湾曲方向とは反対方向に湾曲して折り返されるので、図8に示すように、下側折り返し部8が上側に位置するように、自立した状態が保持される。
【0056】
そのため、衛生マスク1から手を放しても、自立した半折り状態はそのまま維持される。このような状態であれば、口面の前は開放されるので、図9に示すように、食べ物や飲み物11を口に入れ食事することが可能となる。そして、咀嚼から嚥下までの間は、被覆本体部の下側縁部を下側へ下すことで咀嚼中の飛沫をキャッチできる。さらに咳やくしゃみをしそうになったら、即座にその拡散を防止できるだけでなく、咀嚼中の会話に伴う飛沫の拡散も防止することができる。したがって、この被覆本体部の縦方向中央から上側に耳掛け部を斜め方向に設けてあることは、機能的にもデザイン的にも重要な意味を持っている。
【0057】
前記の実施形態では、被覆本体部表布2、被覆本体部裏布3は、それぞれフラットな生地であり、それぞれの中央部において折り返した場所が、左右の端部にわたって横方向に伸びた折り返し部を形成していたが、衛生マスク1の下側を抓んで、スムーズに被覆本体部裏布3を表側に裏返し、被覆本体部裏布3の下側折り返し部8を被覆本体部裏布2の上側に位置するように反転させるため、予め被覆本体部表布2、被覆本体部裏布3の中央線C―Cに沿って折り目を1本乃至複数本、或いはプリーツスカート生地のように波型に数本、アイロンかけ、プレスなどの方法によって折り返し部を形成しておけば、被覆本体部の反転が容易になるだけでなく、モアレ縞とは違った美的な印象も与えることができる。
【0058】
さらに他の実施形態としては、折り返し部を横長の溝状に形成したり、逆に突出させて、細紐状、細帯状の折り返し部を縫製、融着、接着などの手段、方法で形成してもよい。要するに、折り返し部とそれ以外の被覆本体部の生地との剛性に若干差異が生じさせるように形成しておけばよい。
【0059】
本実施形態の衛生マスク1の重量は約2.9gであり、一般の不織布製の衛生マスクの重量、約3.4gに対し、約0.5gも軽量であり、耳掛け紐41を上方左右に固定して上から被覆本体部を吊下げるように形成し、被覆本体部の下方左右が解放されたため、マスク装着時の息苦しさや閉塞感が感じられず、付けているのを忘れるくらいの快適さを維持することができる。
【0060】
従来の衛生マスクでは、無理して装着し続けたとしても、2、3時間が限度であったのに対し、本発明の実施形態の衛生マスク1であれば、12時間以上付けていても苦痛を感じないので、長時間の講義、作業などにも好適である。
【0061】
本実施形態の衛生マスク1は、使用後は、ぬるま湯または水と石けんによって手洗いで洗浄し、タオルドライ後に室内干しすれば数時間後には元の状態で再利用することができる。耐久性に優れた素材と形態であることから、連日使用・洗浄を繰り返しても、1か月以上問題なく同条件・同状態で使用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 衛生マスク
2 被覆本体部表布
3 被覆本体部裏布
4 耳掛け部
5 耳掛け固定部
6 上側折り返し部
7 ガーゼ帯
8 下側折り返し部
9 上側縫い目
10 下側縫い目
21 表布折り返し部
22 上側斜め折り返し部
23 下側折り返し部
24 下側斜め折り返し部
25 中央端部
41 耳掛け紐
42 耳掛け紐上側固定部
43 耳掛け紐下側固定部
【要約】      (修正有)
【課題】装着時に、口元が透けて見えながら、マスク表面が美的な印象を与え、唾など外方へ飛散しないようにすると共に、食事時には、衛生マスクの下側を軽く持ち上げて、食事をするのに支障を与えない衛生マスクを提供する。
【解決手段】ポリエステルのマルチフィラメントの経糸と緯糸を平織した横長状の柔軟性が有り、顔面を被覆する少なくとも2枚の生地の中央を離すことが可能に重ね合わせ、それぞれの上側縁部21と下側縁部23とを密着固定した被覆本体部と、該被覆本体部の縦方向中央部より上側の左右の角部に設けられた耳掛け紐固定部22とを備えている。
【選択図】図1
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図13