(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】コンジットケーブル及び溶接機
(51)【国際特許分類】
B23K 9/133 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
B23K9/133 504A
(21)【出願番号】P 2017117500
(22)【出願日】2017-06-15
【審査請求日】2020-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松坂 文夫
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-033479(JP,A)
【文献】実開昭60-146569(JP,U)
【文献】特開2016-159297(JP,A)
【文献】実開昭58-107269(JP,U)
【文献】実開昭59-49475(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3mm以上1mm以下の厚みの柔軟性と絶縁性を有する素材で構成される外皮管と、
該外皮管の内径よりも外径を小さく設定した密着コイルばねとして構成され、前記外皮管に収容されると共に内側に溶接ワイヤを通される内鞘管と
、
前記外皮管の先端に設置される管状の先端チップと、
該先端チップと前記外皮管とを連通させると共に、前記内鞘管を前記外皮管の先端から軸方向内側に非固定で封じる取付管とを備え、
前記取付管は、前記先端チップに対し、該先端チップの内側に挿入されるように取り付けられることを特徴とするコンジットケーブル。
【請求項2】
前記コンジットケーブルに溶接ワイヤを送り出すワイヤ供給部の出口管と、前記コンジットケーブルの基端とを連通させると共に、前記内鞘管を前記外皮管の基端から軸方向内側に非固定で封じる継手を備えた、請求項
1に記載のコンジットケーブル。
【請求項3】
前記溶接ワイヤへの通電を要しない方式の溶接に利用される、請求項
1又は2のいずれか一項に記載のコンジットケーブル。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか一項に記載のコンジットケーブルを備えた溶接機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチに対して溶接ワイヤを送給するコンジットケーブル、及びコンジットケーブルを備えた溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
金属同士を溶接するにあたっては、接合部に対し、溶加材が送給される場合がある。
【0003】
パイプ等を接合する自動溶接機では、溶接トーチが対象物の周囲を回転しつつ溶接を行うようになっている。こうした自動溶接機において溶加材の送給を行う場合、前記溶接トーチの回転に合わせ、該溶接トーチの先端に追従するように、溶加材としての溶接ワイヤを送り出す必要がある。この種の自動溶接機では、コンジットケーブルやコンジットチューブ等と呼ばれる管に溶接ワイヤを通し、前記溶接トーチの動きに前記コンジットケーブルを追従させながら、該コンジットケーブルから前記溶接トーチの先端へ向けて溶接ワイヤを送給することが行われている。
【0004】
コンジットケーブルに関連する先行技術文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の如きコンジットケーブルは、溶接トーチに追従し得る程度の可撓性を備えている必要がある。すなわち、前記溶接トーチが対象物の周囲を回転すると同時に、前記コンジットケーブルは対象物に巻き付くように動くことになるので、前記コンジットケーブルには、対象物に巻き付ける程度の柔軟性が要求される。
【0007】
一方で、前記コンジットケーブルにおいては、内側に通した溶接ワイヤを順次送り出すため、該溶接ワイヤとの間の摩擦力をなるべく小さくすることが望ましい。コンジットケーブルと溶接ワイヤの間の摩擦力は、該溶接ワイヤを送給するにあたっての抵抗となり得るからである。特に、対象物の周囲の空間が狭い場合には、対象物に対して前記コンジットケーブルが急な角度で巻き付き、該コンジットケーブルが大きく屈曲することになるため、内部を通る溶接ワイヤとの間に接触が生じやすく、また接触に伴う摩擦力も大きくなりがちである。
【0008】
このように、溶接機に備えられるコンジットケーブルには、柔軟性と低摩擦性の両方が要求される。しかしながら、従来のコンジットケーブルにおいては、柔軟性の高い素材を採用しようとすれば溶接ワイヤとの間で摩擦が大きくなる一方、摩擦係数の小さい素材は硬くて屈曲しにくいというジレンマを抱えていた。すなわち、溶接ワイヤの滞りない送給が可能な範囲において、コンジットケーブルに実現し得る柔軟性には限界があった。したがって、対象物としてのパイプが複数、密に配置されている等、対象物の周囲の空間が狭い場合には、コンジットケーブルが溶接トーチに追従して対象物に巻き付くだけの十分な空間が確保できないため、自動溶接機による溶接は難しいのが実情であった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、溶接トーチへコンジットケーブルを好適に追従させつつ、溶接ワイヤを溶接トーチに対し無理なく送給し得るコンジットケーブル及び溶接機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、0.3mm以上1mm以下の厚みの柔軟性と絶縁性を有する素材で構成される外皮管と、該外皮管の内径よりも外径を小さく設定した密着コイルばねとして構成され、前記外皮管に収容されると共に内側に溶接ワイヤを通される内鞘管と、前記外皮管の先端に設置される管状の先端チップと、該先端チップと前記外皮管とを連通させると共に、前記内鞘管を前記外皮管の先端から軸方向内側に非固定で封じる取付管とを備え、前記取付管は、前記先端チップに対し、該先端チップの内側に挿入されるように取り付けられることを特徴とするコンジットケーブルにかかるものである。
【0012】
本発明のコンジットケーブルは、前記コンジットケーブルに溶接ワイヤを送り出すワイヤ供給部の出口管と、前記コンジットケーブルの基端とを連通させると共に、前記内鞘管を前記外皮管の基端から軸方向内側に非固定で封じる継手を備えることができる。
【0013】
本発明のコンジットケーブルは、前記溶接ワイヤへの通電を要しない方式の溶接に利用することができる。
【0014】
また、本発明は、上述のコンジットケーブルを備えた溶接機にかかるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコンジットケーブル及び溶接機によれば、溶接トーチへコンジットケーブルを好適に追従させつつ、溶接ワイヤを溶接トーチに対し無理なく送給し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施による溶接機の形態の一例を示す正面図である。
【
図2】本発明の実施による溶接機の形態の一例を示す底面図である。
【
図3】本発明の実施によるコンジットケーブルの先端部の形態の一例を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施によるコンジットケーブルの基端部の形態の一例を示す断面図である。
【
図5】本発明の実施による溶接機の作動を説明する底面図であり、(A)は初期状態、(B)は溶接直後の状態を示している。
【
図6】本発明の実施によるコンジットケーブルの溶接ワイヤの送給中における一状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1~
図4は本発明の実施によるコンジットケーブル及び溶接機の形態の一例を示している。
図1に示す如く、本実施例の溶接機1は、溶接トーチ2を備えて該溶接トーチ2を対象物3の周囲で周回させるヘッド部4と、溶接トーチ2を含むヘッド部4の駆動や制御を行う機構を内蔵した本体部5を備えてなる。以下、本実施例では、鉛直方向に沿って延びる円筒形のパイプやチューブ等である対象物3の下端を水平面に対し隅肉溶接により溶接する場合を想定して説明を行う。ただし、対象物3や溶接機1の配置はこれに限らず、例えば対象物3の向きは水平方向や斜め方向であっても良い。また、隅肉溶接以外に突合せ溶接等にも適用し得る。
【0019】
本体部5は、水平面に載置されて対象物3に対しヘッド部4を適当な位置に支持するようになっている。本体部5は、ヘッド部4を対象物3の軸に沿った方向や対象物3の軸に直交する方向へ動かすための図示しない駆動機構を備えており、これによりヘッド部4の位置を対象物3に対し微調整することができるようになっている。尚、ここでは水平面に対し対象物3を隅肉溶接する場合を説明しているため、本体部5を水平面に載置すれば溶接機1全体を対象物3に対し適切な位置に配置することができるが、この他に、例えば鉛直面に対して対象物3を溶接する場合や、対象物3としてのパイプ同士を突合せ溶接により溶接する場合等を想定し、例えばパイプやチューブを挟み込むクランプ等、本体部5を適宜固定するための機構を別途備えるようにしても良い。
【0020】
ヘッド部4は、対象物3に対し直交する面をなして本体部5に支持される台座部としてのテーブル6と、該テーブル6に対し対象物3の方向に沿った軸を中心に回転可能に支持されるリング状の回転体(回転リング)7を備えている。該回転リング7には溶接トーチ2が取り付けられ、溶接に際し該溶接トーチ2と共に対象物3の周囲を回転するようになっている。溶接トーチ2は、対象物3に対して放電を行う先端部2aと、該先端部2aを傾動可能に支持して溶接トーチ2全体を回転リング7に対し支持する支持部2bを備えている。
【0021】
回転リング7は、テーブル6に対し、例えば絶縁体にて構成されたターンテーブル様の機構により回転可能に支持される。ただし、この機構については本発明の要旨と直接関係するものではなく、また図示すれば図全体が煩雑になってしまうため、全図にて図示を省略している。
【0022】
図2に示す如く、ヘッド部4を構成するテーブル6のなす面には、対象物3を挟み込むための凹部6aが備えられており、この凹部6aに回転リング7が配置されている。また、回転リング7は一部に切欠き7aを有する環状の部材であり、全体として平面視でC字状に形成されている。そして、この切欠き7aに対象物3を通すことで回転リング7を対象物3の周囲に配置できるようになっている。回転リング7の下面には、回転リング7の周方向に関して切欠き7aと反対側の位置に溶接トーチ2が取り付けられている。溶接トーチ2の先端は、図示しない駆動機構により適宜角度を変更できるように構成されている。
【0023】
回転リング7は、該回転リング7を支持する台座部としてのテーブル6の下面に、該テーブル6に対し回転可能に取り付けられており、その回転はヘッド部4に備えた複数のギヤにより駆動されるようになっている。
【0024】
回転リング7に取り付けられた溶接トーチ2には、二本のパワー冷却ケーブル8と、パワーガスケーブル9、制御ケーブル10、コンジットケーブル11の計五本の配管の先端部が配置される。これら五本の配管のうち、二本のパワー冷却ケーブル8、パワーガスケーブル9、制御ケーブル10は溶接トーチ2の支持部2bに接続され、コンジットケーブル11は、先端部が溶接トーチ2の先端部2aに固定されている。二本のパワー冷却ケーブル8は、溶接トーチ2に電力を送給すると共に冷却液としての水を供給又は回収するケーブルである。パワーガスケーブル9は、溶接トーチ2に電力を送給すると共に、溶融金属を保護するためのシールドガスを供給するケーブルである。制御ケーブル10は、溶接トーチ2の作動を制御するための制御信号を入力する通信ケーブルである。コンジットケーブル11は、溶接トーチ2の先端に対し、後述する溶加材としての溶接ワイヤ12を送給するケーブルである。これら計五本の配管を構成するケーブルは、本体部5に備えた一対のガイドローラ13にまとめて挟み込まれ、該ガイドローラ13の回転により、溶接トーチ2の動きに応じて必要量が該溶接トーチ2に対して送り出され、また溶接トーチ2から引き戻されるようになっている。
【0025】
そして、本実施例の溶接機1は、コンジットケーブル11の構成に主要な特徴を有している。
【0026】
図3、
図4にコンジットケーブル11の構造を示す。本実施例のコンジットケーブル11は、外皮管14の内部に、密着コイルばねである内鞘管15を収容して構成されている。溶接ワイヤ12は、内鞘管15の内部を通って溶接トーチ2(
図1、
図2参照)へ送給される。
【0027】
外皮管14は、容易に屈曲可能な程度の柔軟性と、絶縁性を備えた素材で構成することができ、例えばフッ素樹脂等が適当である。外皮管14の厚みは、溶接トーチ2(
図1、
図2参照)への追従性を考慮すると、最大で1mm程度までとすることが好ましい。また、絶縁性や耐久性を確保するために、0.3mm程度以上の厚みを備えていることが好ましい。
【0028】
この他、外皮管14としては、溶接トーチ2に追従し得る適度な柔軟性と、溶接トーチ2へ送給される電気を遮断し得る絶縁性を備えた素材であれば、各種の素材を採用し得る。例えば、外皮管14を樹脂や金属箔等の素材を積層したラミネートチューブとしても良い。また、テープ状に成形した樹脂やラミネートシートを螺旋状に巻いたスパイラルチューブとして外皮管14を構成することもできる。
【0029】
内鞘管15は、金属線を螺旋状に隙間なく巻いた密着コイルばねとして構成される。密着コイルばねである内鞘管15は、軸と直交する方向へ自由に曲がることができるほか、軸方向に引張力を受けて伸びたり、また圧縮力を受けて縮んだりすることができる。また、軸と直交する方向への屈曲や、軸方向の伸縮といった変形は、外力の付加がなくなれば、内鞘管15自体の反発力によって復元される。
【0030】
内鞘管15の外径は、該内鞘管15が外皮管14の内部で自由度を持って変形あるいは移動できるよう、外皮管14の内径より小さく設定される。具体的には、内鞘管15の外径は、外皮管14の内径より0.5mm以上小さくすることが好ましい。
【0031】
図3に示す如く、コンジットケーブル11の先端には、溶接ワイヤ12の出口構造としての先端チップ16が取り付けられる。先端チップ16は、円筒形の本体部16aの先端にテーパ部16bを形成した金属製の管状の部品である。テーパ部16bを先端チップ16の軸方向全体にわたって設ける、すなわち、例えば先端チップ16の全体を、先端に向かって縮径する円錐状に形成することも可能であるが、溶接ワイヤ12の送り出しに係る抵抗をなるべく減らす観点からは、本体部16aを円筒状とし、該本体部16aの先端部のみにテーパ部16bを形成することがより好ましい。コンジットケーブル11の内側では、先端に向かって縮径する部分に溶接ワイヤ12が当たると該溶接ワイヤ12の送り出しに対する抵抗力が生じ得るので、テーパ部16bの範囲をなるべく小さくすることで、前記抵抗力の生じる機会を減らすことができる。
【0032】
先端チップ16の本体部16aの基端部と、外皮管14の先端部とは、取付管17によって接続されている。取付管17は、両端を先端チップ16の本体部16aの内側及び外皮管14の内側に各々挿入される直管状の部品であり、先端チップ16と外皮管14とは、取付管17を介して連通する。取付管17の一端は、先端チップ16に対し、該先端チップ16と取付管17を径方向に貫通する留め具としての止めねじ18によって固定される。取付管17の他端は、外皮管14に対し、該外皮管14における取付管17の挿入された位置の外側を、固定具としてのバンド19により縛り付けられるようにして固定される。尚、先端チップ16と取付管17の間の固定や、取付管17と外皮管14の間の固定の仕方は、ここに示した例に限定されない。例えば、先端チップ16と取付管17とを溶接により互いに固定することもできるし、あるいは、先端チップ16の内面と取付管17の外面とに各々螺旋状のピッチを形成し、先端チップ16に対し取付管17をねじ込むことにより固定しても良い。また、取付管17と外皮管14とは、針金等により縛り付けても良いし、パイプクランプ等により固定しても良い。
【0033】
取付管17の内径は、内鞘管15の外径より小さく設定されている。外皮管14内に収容された内鞘管15は、外皮管14や先端チップ16、取付管17に固定はされないが、外皮管14の先端に嵌合された取付管17により、外皮管14からはみ出ないよう、外皮管14の先端から軸方向内側の位置に封じられている。
【0034】
また、取付管17の内径は、内鞘管15の内径以上に設定されることが望ましい。内鞘管15を通って送られてきた溶接ワイヤ12が、取付管17の縁に引っ掛かることを防止するためである。また、取付管17は先端チップ16に対し、該先端チップ16の内側に挿入されるように取り付けられることが望ましい。内鞘管15を通って送られてきた溶接ワイヤ12が、先端チップ16の縁に引っ掛かることを防止するためである。
【0035】
図4に示す如く、コンジットケーブル11の基端側には、継手20を介してワイヤ供給部21の出口管22が接続されている。継手20は、管同士の接続に用いられる一般的な直管状の継手であり、両端に外皮管14及び出口管22をそれぞれ接続することで、外皮管14と出口管22とを互いに連通させるようになっている。ワイヤ供給部21は、出口管22から継手20を通し、コンジットケーブル11内に溶接ワイヤ12を送り出すことができる。
【0036】
継手20の一端側には、外皮管14を挿入可能な挿入口20aが開口している。挿入口20aの奥には、該挿入口20aの内壁に突出するように備えられた段部20bが備えられている。また、挿入口20aにおける段部20bより手前側の位置には、挿入口20aに沿ってリング状の固定爪20cが嵌合されている。挿入口20aの内径は外皮管14の外径と略一致すると共に、固定爪20cの外皮管14の挿入前の内径は外皮管14の外径よりやや小さく設定されている。そして、外皮管14の基端部を挿入口20aの奥の段部20bに突き当たるまで挿入すると、固定爪20cが拡径しつつ外皮管14によって貫通され、反発力により外皮管14を外側から締め付けるようになっている。こうして、外皮管14の基端部を、挿入口20aに対して段部20bに突き当たるまで挿入することで、外皮管14を継手20に固定することができる。
【0037】
段部20bにおける内径は、外皮管14に収容される内鞘管15の外径よりも小さく設定されている。外皮管14内に収容された内鞘管15は、外皮管14や継手20に固定はされないが、外皮管14の基端に設置された継手20により、外皮管14からはみ出ないよう、外皮管14の基端から軸方向内側の位置に封じられている。
【0038】
継手20の他端側には、一端側と同様の挿入口20a、段部20b、固定爪20cが備えられており、これにより、一端側に外皮管14を固定するのと同様の手順で、他端側に出口管22を固定できるようになっている。
【0039】
こうして、ワイヤ供給部21の出口管22から送り出される溶接ワイヤ12は、継手20を介してコンジットケーブル11に進入し、内鞘管15の内側を通って先端チップ16から送り出されるようになっている。
【0040】
次に、上記した本実施例の作動を説明する。
【0041】
溶接機1にて対象物3の溶接を行う際には、まず
図5(A)に示す如く、対象物3を取り囲むようにテーブル6の凹部6a及び回転リング7が位置するよう、溶接機1を配置する。このとき、回転リング7は、切欠き7aの位置が凹部6aの開口と一致する初期位置にあり、凹部6aと切欠き7aに対象物3を通すことで、溶接にあたり溶接機1を適切な位置に配置することができる。溶接機1を配置したら、図示しない駆動機構によりヘッド部4を適宜動作させ、回転リング7及び溶接トーチ2を対象物3の溶接箇所に対して位置決めする。この際、あわせて溶接トーチ2の先端部2aの角度も操作し、先端の放電部が対象物3の溶接箇所に位置するよう調整する(
図1参照)。
【0042】
この状態から、対象物3の溶接を行う。溶接トーチ2にパワー冷却ケーブル8とパワーガスケーブル9から電力と共に水とシールドガスを送給し、またコンジットケーブル11から溶接ワイヤ12を送り出しつつ、
図5(A)に示す配置から、回転リング7を360°回転させる。この間、パワー冷却ケーブル8、パワーガスケーブル9及びコンジットケーブル11は、溶接トーチ2に追従して対象物3に巻き付くように移動する(
図5(B)参照)。
【0043】
溶接が完了したら、回転リング7を溶接中とは反対方向に360°回転させ、再度
図5(A)に示す初期位置に戻す。以上で溶接に係る工程は終了する。
【0044】
このように、上述の一連の工程において、コンジットケーブル11は回転リング7側の溶接トーチ2に追従し、対象物3の周囲に巻き付くように動く。ここで、コンジットケーブル11を構成する最大で1mmの厚みの外皮管14は、容易に屈曲可能な柔軟性を備えている。また、外皮管14に収容される密着コイルばねである内鞘管15は、軸と直交する方向に自由に変形することができる。したがって、コンジットケーブル11全体が自由且つ容易に大きく変形でき、溶接トーチ2の動作に伴って対象物3に巻き付くにあたり、急な角度であっても無理なく曲がることができる。しかも、密着コイルばねである内鞘管15は変形に対する復元力を備えているため、対象物3に巻き付いたコンジットケーブル11が元に戻る際(
図5(B)に示す状態から
図5(A)に示す状態へ戻る際)には、溶接トーチ2に追従するだけでコンジットケーブル11全体の形状が自然に復元する。
【0045】
また、コンジットケーブル11内で溶接ワイヤ12と接する内鞘管15は金属製であるため、コンジットケーブル11と溶接ワイヤ12との間に生じる摩擦が小さい。このため、例えば
図6に示す如く、コンジットケーブル11が大きく屈曲した結果、内鞘管15の内面に溶接ワイヤ12が強く接触することになったとしても、溶接ワイヤ12の送り出しに際して抵抗として働く摩擦力は小さく済む。つまり、溶接ワイヤ12が内鞘管15の内面に対し滑るように動くことで、溶接ワイヤ12の送り出しを維持することができる。
【0046】
しかも、内鞘管15は隙間なく巻かれた密着コイルばねであるため、内鞘管15が溶接ワイヤ12と接触しても、相互間の接触点の数が多く、各点毎に生じる摩擦力は一層小さい。
【0047】
また、内鞘管15が密着コイルばねであることは、溶接ワイヤ12の引っかかりによる局所的な伸びを抑える効果も有している。密着コイルばねを構成する金属線は、一巻き毎に別の金属線と隣接する形になっている。このため、仮に内鞘管15の一点にて溶接ワイヤ12との間に引っ掛かりが生じ、溶接ワイヤ12が前記一点の金属線を引っ掛けながら先端側へ向かって移動しようとしたとしても、前記金属線の動きは、直後に隣接する別の金属線に受け止められ、これが前記一点の金属線のさらなる移動を妨げることになる。したがって、溶接ワイヤ12は、内鞘管15を構成する金属線の一点を引っ掛けることはあっても、そのままコンジットケーブル11内を大きく移動することはなく、すぐに内鞘管15の内面を滑るような動きに変わってコンジットケーブル11内を送られることになる。
【0048】
尤も、
図6に示す如くコンジットケーブル11が大きく屈曲している場合には、屈曲の外側にあたる部分では内鞘管15を構成する金属線の巻き同士の間が開くため、この隙間に溶接ワイヤ12が屈曲して部分的に入り込むことで、金属線との間に引っかかりが生じてしまう可能性が考えられる。ただし、この場合でも、内鞘管15はもともと密着コイルばねであるため、金属線の巻き同士の間に生じる隙間は大きくはならない。したがって、溶接ワイヤ12が内鞘管15とある一点(
図6中に接触点Pとして図示する)にて強く接触し、該接触点Pの位置にあたる金属線を伴ってコンジットケーブル11内を移動しようとしても、接触点Pの位置にあたる金属線は、やはりすぐに隣接する別の金属線と接触し、接触点Pの位置にあたる金属線のそれ以上の移動は妨げられることになる。
【0049】
また、接触点Pの位置にあたる金属線と、前記別の金属線とが接触した状態で、さらに溶接ワイヤ12が接触点Pの位置にあたる金属線を伴って移動しようとした場合には、接触点Pの位置にあたる金属線と、前記別の金属線との間を軸方向に圧縮する力が加わることになる。密着コイルばねを軸方向に圧縮する力は前記密着コイルばねを拡径するように作用するため、溶接ワイヤ12が移動しようとする先では内鞘管15の径が拡がり、これにより、溶接ワイヤ12と内鞘管15との引っ掛かりが解消されやすくなる効果が期待できる。
【0050】
この際、上述の如く、内鞘管15の外面と外皮管14の内面との間にはある程度の隙間が設けられているので、内鞘管15は軸方向の圧縮力を受けて容易に拡径することができる。また、前記隙間が設けられていれば、内鞘管15が部分的に拡径したとしても、内鞘管15が外皮管14に強く接触して内鞘管15と外皮管14の相互間に反発力が生じたりするようなこともない。したがって、内鞘管15と外皮管14との間に強い摩擦力が生じ、内鞘管15が外皮管14に対して拘束され、さらに溶接ワイヤ12が内鞘管15に引っ掛かって溶接ワイヤ12の送給が困難になる、といった事態は防止される。
【0051】
また、溶接ワイヤ12の一部が接触点Pの位置にあたる金属線を伴って前進するような事態が生じた場合、内鞘管15のうち接触点Pから後ろ側にあたる部分も前方へ引っ張られることになる。このとき、仮に内鞘管15のうち、接触点Pから後ろ側にあたるいずこかの部分が、外皮管14や継手20に固定ないし拘束されていれば、該拘束された部分と接触点Pとの間で内鞘管15が伸びることになる。密着コイルばねである内鞘管15に伸びが生じれば、ばね定数に応じた力が溶接ワイヤ12の送り出しに対する抵抗力として作用してしまう。さらに、内鞘管15の伸びが著しく大きくなれば、延びた分だけ大きく縮径した内鞘管15が溶接ワイヤ12を締め付けることにより、抵抗力の一層の増大を招きかねない。
【0052】
しかしながら、本実施例のコンジットケーブル11では、上述の如く内鞘管15と外皮管14の間に隙間が設定され、内鞘管15の外面と外皮管14の内面との間に大きい摩擦力が生じないようになっている。また、内鞘管15の基端部についても、外皮管14や継手20に対し固定されてはいない。よって、仮に内鞘管15内面の接触点Pが溶接ワイヤ12により前方へ引っ張られた場合、接触点Pから後ろ側にあたる部分が外皮管14の内部を特に大きい抵抗を受けることなく前方へ移動することになる。このような状態では、内鞘管15が基端部と接触点Pとの間で大きく伸ばされることはなく、溶接ワイヤ12の送り出しへの抵抗力は大きくならない。また、内鞘管15の縮径による溶接ワイヤ12の締め付けのような事態も防止される。
【0053】
同様に、本実施例のコンジットケーブル11では、内鞘管15の先端部についても、外皮管14や取付管17あるいは先端チップ16に対し固定されてはいない。溶接ワイヤ12の送給の際、コンジットケーブル11内における溶接ワイヤ12の曲り具合によっては、溶接ワイヤ12が内鞘管15の一部を引っ掛けつつ、部分的に後方へ引き戻される、つまり先端側から基端側に向かって移動するような場合も起こり得る。こういった場合も、内鞘管15の先端部が上述の如く非固定である結果、内鞘管15が溶接ワイヤ12との接触点と先端部との間で大きく伸ばされるような事態は防止され、溶接ワイヤ12の送り出しに係る抵抗力の発生が抑えられる。
【0054】
このように、本発明のコンジットケーブル11では、内鞘管15の外径を外皮管14の内径より小さく設定し、内鞘管15と外皮管14との間に隙間を設けていることに加え、内鞘管15の両端を取付管17及び継手20により非固定で封じることで、内鞘管15の保持に関し、径方向及び軸方向の両方について自由度を持たせている。こうすることにより、内鞘管15が外皮管14の内部において一定の空間内を自由に移動ないし変形し、溶接ワイヤ12の送り出しに対する抵抗力の発生を低減することができるのである。
【0055】
上述の如きコンジットケーブル11、ないし該コンジットケーブル11を備えた溶接機1は、TIG溶接やプラズマ溶接といった非消耗電極式のアーク溶接や、溶接ワイヤを使用するレーザ溶接のように、溶加材として溶接ワイヤを送給し、且つ該溶接ワイヤへの通電を必要としない方式の溶接に特に有用である。消耗電極式のアーク溶接のように、溶接ワイヤに対し通電が行われる場合、例えば上記特許文献1に記載のコンジットケーブルの如く、コンジットケーブルの外側を構成する部材に導電体を配設する必要がある。そして、この場合、溶接ワイヤへの通電量を確保しようと前記導電体の厚みを大きくすれば、コンジットケーブルの柔軟性が損なわれてしまう虞がある。したがって、本発明のコンジットケーブルを消耗電極式の溶接に適用しようとした場合、溶接ワイヤへの通電量をあまり大きくはできない。
【0056】
以上のように、本実施例のコンジットケーブル11は、0.3mm以上1mm以下の厚みの柔軟性と絶縁性を有する素材で構成される外皮管14と、該外皮管14の内径よりも外径を小さく設定した密着コイルばねとして構成され、前記外皮管14に収容されると共に内側に溶接ワイヤ12を通される内鞘管15とを備えているので、コンジットケーブル11全体が自由且つ容易に大きく変形でき、溶接トーチ2の動作に伴って対象物3に巻き付くにあたり、急な角度であっても無理なく曲がることができる。一方、溶接ワイヤ12に接する内鞘管15では、溶接ワイヤ12との間に生じる摩擦が小さく、内鞘管15の内面に溶接ワイヤ12が強く接触することになっても、溶接ワイヤ12の送り出しを維持することができる。また、内鞘管15は密着コイルばねであるため、溶接ワイヤ12の引っかかりによる局所的な伸びをも抑えることができる。
【0057】
また、本実施例のコンジットケーブル11は、前記外皮管14の先端に設置される管状の先端チップ16と、該先端チップ16と前記外皮管14とを連通させると共に、前記内鞘管15を前記外皮管14の先端から軸方向内側に非固定で封じる取付管17とを備えているので、内鞘管15が溶接ワイヤ12との接触点と先端部との間で大きく伸ばされるような事態を防止し、溶接ワイヤ12の送り出しに係る抵抗力の発生を抑えることができる。
【0058】
また、本実施例のコンジットケーブル11は、前記コンジットケーブル11に溶接ワイヤ12を送り出すワイヤ供給部21の出口管22と、前記コンジットケーブル11の基端とを連通させると共に、前記内鞘管15を前記外皮管14の基端から軸方向内側に非固定で封じる継手20を備えているので、内鞘管15が溶接ワイヤ12との接触点と基端部との間で大きく伸ばされるような事態を防止し、溶接ワイヤ12の送り出しに係る抵抗力の発生を抑えることができる。
【0059】
したがって、上記本実施例によれば、溶接トーチへコンジットケーブルを好適に追従させつつ、溶接ワイヤを溶接トーチに対し無理なく送給し得る。
【0060】
尚、本発明のコンジットケーブル及び溶接機は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0061】
1 溶接機
11 コンジットケーブル
12 溶接ワイヤ
14 外皮管
15 内鞘管
16 先端チップ
17 取付管
20 継手
21 ワイヤ供給部
22 出口管