(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】プラズマ光源
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20220112BHJP
H05G 2/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F7/20 521
H05G2/00 K
(21)【出願番号】P 2017139849
(22)【出願日】2017-07-19
【審査請求日】2020-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】川崎 朋晃
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-162833(JP,A)
【文献】特開昭63-102147(JP,A)
【文献】特開2013-089634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
H05G 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照面に直交する軸線の周りに設けられる複数の外部電極、および、前記外部電極よりも前記軸線に近い位置に設けられる少なくとも1つの第1中心電極を有し、前記参照面を挟んで互いに対向配置される一対の同軸状電極と、
前記参照面と前記軸線の交点を挟んで対向配置される一対の第2中心電極と、
各前記同軸状電極における前記第1中心電極と前記外部電極の間に供給されるプラズマの媒質を保持する保持部と、
各前記同軸状電極における前記第1中心電極と前記外部電極の間に第1放電電圧を印加する第1放電回路と、
前記一対の第2中心電極の間に第2放電電圧を印加する第2放電回路と、
各前記同軸状電極の前記第1中心電極と前記外部電極の間に放電を誘発させる放電誘発装置と、
を備え
、
各前記第2中心電極は、対応する同軸状電極において前記軸線上に位置するプラズマ光源。
【請求項2】
前記第1中心電極は、前記軸線の周りに設けられた複数の棒状電極からなる請求項
1に記載のプラズマ光源。
【請求項3】
前記第1中心電極は、前記軸線を中心軸とする筒状電極からなる請求項
1に記載のプラズマ光源。
【請求項4】
参照面に直交する軸線の周りに設けられる複数の外部電極、および、前記外部電極よりも前記軸線に近い位置に設けられる少なくとも1つの第1中心電極を有し、前記参照面を挟んで互いに対向配置される一対の同軸状電極と、
前記参照面と前記軸線の交点を挟んで対向配置される一対の第2中心電極と、
各前記同軸状電極における前記第1中心電極と前記外部電極の間に供給されるプラズマの媒質を保持する保持部と、
各前記同軸状電極における前記第1中心電極と前記外部電極の間に第1放電電圧を印加する第1放電回路と、
前記一対の第2中心電極の間に第2放電電圧を印加する第2放電回路と、
各前記同軸状電極の前記第1中心電極と前記外部電極の間に放電を誘発させる放電誘発装置と、
を備え、
前記一対の第2中心電極は前記参照面上に位置す
るプラズマ光源。
【請求項5】
前記第2中心電極と、前記第1中心電極及び前記外部電極のうち前記第2中心電極に近い電極との間に設けられる絶縁部材を更に備える請求項1から
4の何れか一項に記載のプラズマ光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極端紫外光を生成するプラズマ光源に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの更なる微細化を図るためには、フォトリソグラフィにおける露光用光源の短波長化が必須である。近年ではそのための光として極端紫外光が注目されている。極端紫外光は高温・高密度のプラズマから得られ、このようなプラズマの発生源(換言すればプラズマを利用した光源、以下プラズマ光源)は多種多様である。産業上の観点から、プラズマ光源は小型化が図れるものが望ましく、その候補として、放電生成プラズマ(DPP:Discharge Produced Plasma)方式のプラズマ光源や、レーザー生成プラズマ(LPP:Laser Produced Plasma)方式のプラズマ光源が知られている。なお、これらのプラズマ光源から放出される極端紫外光は何れもパルス光である。
【0003】
フォトリソグラフィでは露光時間の制御が極めて重要である。そのためには、極端紫外光の十分な発光量(強度)及び輝度を確保するだけでなく、これらを安定に得る必要がある。また、極端紫外光の放出時間は数μs程度以下と短いため、プラズマの発生(即ち、極端紫外光の放出)を高速に繰り返す必要がある。
【0004】
上記に関連するプラズマ光源が特許文献1に開示されている。同文献のプラズマ光源はDPP方式の一種であるプラズマフォーカス方式を採用したプラズマ光源であって、参照面に対して互いに対向配置され、極端紫外光を放射するプラズマを発生且つ閉じ込める一対の同軸状電極と、各同軸状電極に対して放電電圧(高電圧)を印加する電源装置とを備えている。各同軸状電極は、棒状の中心電極と、中心電極と一定の間隔を隔て、且つ中心電極の周方向に配置された複数の外部電極とを有している。
【0005】
特許文献1のプラズマ光源では、中心電極と外部電極との間に初期放電(初期プラズマ)を誘発する。この誘発は、同軸状電極の何れかの箇所においてレーザーアブレーションを行うことによって、或いは、中心電極と外部電極との間に放電電圧を印加した状態で、パルス状の高電圧を更に印加することによって遂行される。初期放電は中心電極の周りに分布し、プラズマの生成および成長を促しつつ電磁力によって中心電極の先端に向けて移動する。各同軸状電極のプラズマは電気エネルギーを受けつつ、各同軸状電極の間で融合し、閉じ込められ、収束することで、高温、高密度となる。そして、高温、高密度のプラズマからは、極端紫外光を含む光が放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のプラズマ光源において、放電電圧は、中心電極間の電位を等しくするように各同軸状電極に印加されてもよく、中心電極間に電位差が発生するように各同軸状電極に印加されてもよい。前者の場合、電位差は主に、各同軸状電極における中心電極と外部電極との間に生じる。従って、電源装置の電流は、プラズマを介して、各同軸状電極の中心電極と外部電極との間を流れることになる。
【0008】
一方、後者の場合、電位差は各同軸状電極における中心電極と外部電極との間に加え、各中心電極の間にも発生する。従って、電源装置の電流は、プラズマが各同軸状電極における中心電極と外部電極との間を移動している間は、移動中のプラズマを介して中心電極と外部電極との間を流れ、プラズマが融合した後は、融合したプラズマを介して2つの中心電極の間を流れる。換言すれば、プラズマは、中心電極と外部電極との間を流れる電流によって加熱される状態から、2つの中心電極の間を流れる電流によって加熱される状態に移行する。以下、説明の便宜上、この現象を「リコネクション」と称する。なお、電流経路が切り替わる際、短時間ではあるが、上述した2つの状態が重畳する期間が存在する。
【0009】
中心電極間に電位差がある場合(即ち上述した後者の場合)、プラズマを加熱する電流は、当該プラズマを介して中心電極間を流れる。この電流はZピンチ効果を生むため、プラズマの加熱及び高密度化を促進させることができる。しかしながら、一般的な傾向として、プラズマ中を流れる電流経路が一旦確立してしまうと、その経路を変更することは困難である。上述のリコネクションも電流経路の変更を伴う現象であるため、これが生じにくくなる場合も起こり得る。その場合、プラズマの加熱や高密度化(即ちプラズマ圧の増加)が促進されにくくなってしまう。
【0010】
本発明はこのような事情を鑑みて成されたものであって、参照面に対して互いに対向配置され、極端紫外光を放射するプラズマを発生すると共にプラズマを閉じ込める一対の同軸状電極を備えるプラズマ光源において、単位時間当たりの発光出力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様はプラズマ光源であって、参照面に直交する軸線の周りに設けられる複数の外部電極、および、前記外部電極よりも前記軸線に近い位置に設けられる少なくとも1つの第1中心電極を有し、前記参照面を挟んで互いに対向配置される一対の同軸状電極と、前記参照面と前記軸線の交点を挟んで対向配置される一対の第2中心電極と、各前記同軸状電極における前記第1中心電極と前記外部電極の間に供給されるプラズマの媒質を保持する保持部と、各前記同軸状電極における前記第1中心電極と前記外部電極の間に第1放電電圧を印加する第1放電回路と、前記一対の第2中心電極の間に第2放電電圧を印加する第2放電回路と、各前記同軸状電極の前記第1中心電極と前記外部電極の間に放電を誘発させる放電誘発装置と、を備え、各前記第2中心電極は、対応する同軸状電極において前記軸線上に位置することを要旨とする。
【0013】
前記第1中心電極は、前記軸線の周りに設けられた複数の棒状電極からなっていてもよい。
【0014】
前記第1中心電極は、前記軸線を中心軸とする筒状電極からなっていてもよい。
【0015】
本発明の他の一態様はプラズマ光源であって、参照面に直交する軸線の周りに設けられる複数の外部電極、および、前記外部電極よりも前記軸線に近い位置に設けられる少なくとも1つの第1中心電極を有し、前記参照面を挟んで互いに対向配置される一対の同軸状電極と、前記参照面と前記軸線の交点を挟んで対向配置される一対の第2中心電極と、各前記同軸状電極における前記第1中心電極と前記外部電極の間に供給されるプラズマの媒質を保持する保持部と、各前記同軸状電極における前記第1中心電極と前記外部電極の間に第1放電電圧を印加する第1放電回路と、前記一対の第2中心電極の間に第2放電電圧を印加する第2放電回路と、各前記同軸状電極の前記第1中心電極と前記外部電極の間に放電を誘発させる放電誘発装置と、を備え、前記一対の第2中心電極は前記参照面上に位置していることを要旨とする。
【0016】
前記プラズマ光源は、各前記第2中心電極と、前記第1中心電極及び前記外部電極のうち前記第2中心電極に近い電極との間に設けられる絶縁部材を更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、参照面に対して互いに対向配置され、極端紫外光を放射するプラズマを発生すると共にプラズマを閉じ込める一対の同軸状電極を備えるプラズマ光源において、単位時間当たりの発光出力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るプラズマ光源を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の各実施形態に係るプラズマ光源の電気系統を示す図であり、(a)は第1放電回路の回路図の一例、(b)は第2放電回路の回路図の一例を示す図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るプラズマ光源の動作を説明するための図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るプラズマ光源を示す概略構成図である。
【
図7】本発明の各実施形態に係るプラズマ光源の変形例を示す図であり、(a)は第1実施形態の変形例、(b)は第2実施形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各実施形態に係るプラズマ光源について添付図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係るプラズマ光源を示す概略構成図である。
図2は、
図1のII-II断面を示す図である。
図3は、第1実施形態及び後述の第2実施形態に係るプラズマ光源の電気系統を示す図であり、
図3(a)は第1放電回路の回路図の一例、
図3(b)は第2放電回路の回路図の一例を示す図である。
【0021】
図1~
図3に示すように、プラズマ光源は、一対の同軸状電極10、10と、一対の第2中心電極13、13と、保持部14と、第1放電回路20と、第2放電回路30と、放電誘発装置としてのレーザー装置40とを備える。
【0022】
まず、本実施形態のプラズマ光源における各電極および保持部について説明する。
一対の同軸状電極10、10は、参照面1に直交し且つ各同軸状電極10に共通する単一の軸線(中心軸)Zに沿って設置されている。また、一対の同軸状電極10、10は、参照面1を挟んで設置され、先端側(後述の面状放電2bが放出される側)が互いに対向している。後述するように、各同軸状電極10は、参照面1に向けて進行するプラズマを発生する。即ち、本実施形態のプラズマ光源は、対向型プラズマフォーカス方式を採用したプラズマ源でもある。なお、各同軸状電極10から参照面1までの距離は等しくてもよく、異なっていてもよい。
【0023】
各同軸状電極10は、複数の外部電極11と、少なくとも1つの第1中心電極12と、を有する。外部電極11及び第1中心電極12は、後述の第2中心電極13と共にセラミック等の絶縁体(図示せず)によって支持されている。
【0024】
外部電極11は第1中心電極12の外周を囲むように設けられ、軸線Zを中心とした円周に沿って角度θ毎に配置される。
図2に示す例では、6本の外部電極11が軸線Zの周りで60°毎に配置されている。外部電極11は、参照面1に向かって延びる棒状体であり、その直径は例えば3mmである。外部電極11は、高温に対して耐性をもつ導電材質によって形成される。このような材料は、例えばW(タングステン)やMo(モリブデン)等の高融点金属である。
【0025】
外部電極11は第1中心電極12の周りで等角度間隔に設置されることが望ましい。例えば、加工や組み立ての観点あるいは面状放電2bの形成の容易性から、各外部電極11は第1中心電極12に対して回転対称な位置に設置されることが望ましい。ただし、本発明はこのような配列に限定されない。また、外部電極11の本数も
図2に示す6本に限られることなく、第1中心電極12及び外部電極11の大きさや形状、両者の間隔などに応じて適宜設定される。
【0026】
図1に示すように、外部電極11の延伸方向は、参照面1に近づくに連れて軸線Zとの距離が小さくなるように傾斜していてもよい。また、外部電極11の延伸方向は、軸線Zに平行でもよい。何れの場合も、各外部電極11は第1中心電極12と略平行に配置される。
【0027】
第1中心電極12は、外部電極11よりも軸線Zに近い位置に設けられる。また、第1中心電極12は、軸線Zを中心軸とする筒状電極である。外部電極11と同じく、第1中心電極12も、高温に対して耐性をもつ導電材質によって形成される。
【0028】
図1に示すように、第1中心電極12の側面12aは、参照面1に近づくに連れて軸線Zとの距離が小さくなるように傾斜していてもよい。即ち、第1中心電極12は、参照面1に向く頂点を欠いた、中空の円錐形状を有してもよい。また、第1中心電極12の延伸方向は、軸線Zに平行でもよい。この場合、第1中心電極12は一定の直径を有する筒状に形成される。何れの場合も、第1中心電極12の側面は各外部電極11と略平行となるように形成される。
【0029】
また、
図2中の点線で示すように、第1中心電極12は、外部電極11よりも軸線Zに近い位置において、軸線Zを中心とした円周に沿って角度θ毎に複数配置されてもよい。この場合、第1中心電極12は、外部電極11と同様に、参照面1に向けて延びる複数の棒状電極として形成され、各棒状電極は最も近接する外部電極11と共に、軸線Zを含む平面上に位置する。即ち、第1中心電極12及び外部電極11は、軸線Zを基準として同じ位相に位置する。この場合、第1中心電極12が円筒電極である場合と比較して、部品点数が増えるものの、後述の初期放電2aの発生個所の設定が容易になる。
【0030】
一対の第2中心電極13は、参照面1と軸線Zの交点Pを挟んで軸線Z上に対向配置される。また、各第2中心電極13は、対応する同軸状電極10において軸線Z上に位置している。第2中心電極13は、軸線Zの周りに形成された側面13aと、参照面1に面する先端部13bとを有し、その直径は例えば5mmである。外部電極11や第1中心電極12と同じく、第2中心電極13も、高温に対して耐性をもつ導電材質によって形成される。
【0031】
第2中心電極13の先端部13bは、参照面1に対向する半球状の曲面を有する。ただし、参照面1に対向する面の形状は曲面に限られず、単なる平面でもよい。また、軸線Zに沿って窪んだ凹部(図示せず)を設けてもよい。
【0032】
保持部14は、第1中心電極12と外部電極11との間に供給されるプラズマ媒質6を保持する。保持部14は、プラズマ媒質6を保持する容器として或いはプラズマ媒質6自体で構成され、軸線Zから見て、隣接する2本の外部電極11の間に位置している。また、保持部14は同軸状電極10の外側に設置される。この場合の「外側」とは、例えば、各外部電極11の中心によって囲まれる領域外の空間を意味する。
【0033】
図2に示すように、保持部14は同軸状電極10の周りに複数設けられ、軸線Zの周りに点対称な或いは回転対称な位置に位置することが望ましい。即ち、同軸状電極10へのプラズマ媒質6の供給箇所は、軸線Zに対して対称に分布していることが望ましい。ただし、保持部14の設置箇所はこれらに限定されない。また、何れの場合も、レーザー光41の照射点を含むプラズマ媒質6の表面は、プラズマ媒質6の放出角特性を考慮して、外部電極11と第1中心電極12の間の空間あるいは第1中心電極12に向いている。
【0034】
プラズマ媒質6の組成は、必要な紫外光の波長に応じて選択される。プラズマ媒質6は、例えば、13.5nmの紫外光が必要な場合はLi(リチウム)やSn(スズ)を含み、6.7nmの紫外光が必要な場合はガドリニウム(Gd)やテルビウム(Tb)を含み、3~4nmの紫外光が必要な場合はBi(ビスマス)を含む。
【0035】
次に、本実施形態のプラズマ光源における電気系統について説明する。
図3(a)及び
図3(b)に示すように、プラズマ光源は、第1放電回路20と、第2放電回路30とを備える。第1放電回路20は、各同軸状電極10における第1中心電極12と外部電極11の間に第1放電電圧を印加する。第2放電回路30は、一対の第2中心電極13、13の間に第2放電電圧を印加する。第1放電回路20には、第1放電電圧の電気エネルギーを供給する第1電源ユニット23が接続されている。一方、第2放電回路30には、第2放電電圧の電気エネルギーを供給する第2電源ユニット33が接続されている。このように、第1放電回路20と第2放電回路30はそれぞれ回路的に独立に設けられている。即ち、両者は互いの誘導電流に干渉されないように構成されている。これは、例えば、各電源ユニットを個別に用意することで達成できる。
【0036】
図3(a)に示すように、第1放電回路20は、第1エネルギー蓄積回路21と、第1放電電流阻止回路22とを備える。第1電源ユニット23は第1放電電圧を発生する高圧電源を備え、その出力は、各同軸状電極10の第1中心電極12に接続している。第1放電電圧は、初期放電(初期プラズマ)2aの誘発、成長及び加速に必要な値(例えば5kV)に設定される。
【0037】
ところで、第1中心電極12の周囲には外部電極11が複数設けられている。理想的な放電を得るには、全ての外部電極11と第1中心電極12との間で、放電が発生する必要がある。しかも、これらの放電が、第1中心電極12の周りで空間的に等間隔に分布していることが望ましい。しかしながら、第1電源ユニット23から供給される電気エネルギーは最初に発生した放電に対して優先的に費やされる傾向があり、この場合は複数の放電を異なる場所で略同時に発生させることが困難になる。
【0038】
そこで、第1エネルギー蓄積回路21は、第1放電電圧の電気エネルギーを外部電極11毎に蓄積する。第1エネルギー蓄積回路21は、例えば
図3(a)に示すように、第1中心電極12及び第1電源ユニット23の出力と、各外部電極11との間を個別に接続する複数のコンデンサC1で構成される。各コンデンサC1は、放電のピーク時に2kA程度の放電電流を流すことが可能な静電容量を持っている。
【0039】
第1エネルギー蓄積回路21を外部電極11毎に設けることで、全ての外部電極11において放電を発生させることができる。即ち、第1電源ユニット23で生成された電気エネルギーが、各同軸状電極10の何れかの箇所において最初に発生した放電に過剰に消費されることを防止でき、第1中心電極12の全周に亘る面状放電2bを発生させることができる。また、この放電に必要な電気エネルギーは第1エネルギー蓄積回路21が蓄積する。従って、第1電源ユニット23自体の電流容量を小さくすることができる。
【0040】
第1放電電流阻止回路22は、放電電流が帰還することを阻止する。第1放電電流阻止回路22は、例えば
図3(a)に示すように、各外部電極11を接地させるインダクタL1で構成される。インダクタL1は、放電電流に対して十分に高いインピーダンスを有するため、第1中心電極12及び外部電極11を経由した放電電流を、その発生源である第1エネルギー蓄積回路21に戻すことができる。つまり、第1放電電流阻止回路22は、各コンデンサC1に蓄積された電気エネルギーが、当該コンデンサC1に直結した外部電極11以外の外部電極11に供給されることを防止する。従って、軸線Zの周りの放電分布に偏りが生じることを防止できる。
【0041】
なお、第1電源ユニット23の出力は、各外部電極11に接続されていてもよい。この場合、第1エネルギー蓄積回路21及び第1放電電流阻止回路22は、第1中心電極12に接続される。
【0042】
図3(b)に示すように、第2放電回路30は、第2エネルギー蓄積回路31と、第2放電電流阻止回路32とを備える。第2電源ユニット33は第2放電電圧を発生する高圧電源を備え、その出力は、一対の第2中心電極13、13のうちの一方に接続している。第2放電電圧は、各同軸状電極10(一対の第2中心電極13、13)の間に移動したプラズマの加熱に必要な値(例えば5kV)に設定される。
【0043】
第1エネルギー蓄積回路21の機能と同様に、第2エネルギー蓄積回路31も第2放電電圧の電気エネルギーを蓄積する。第2エネルギー蓄積回路31は、例えば
図3(b)に示すように、第2中心電極13のうちの他方と第2電源ユニット33の出力との間を接続するコンデンサC2で構成される。コンデンサC2は、放電のピーク時に2kA程度の放電電流を流すことが可能な静電容量を持っている。つまり、一対の第2中心電極13、13間のプラズマを加熱するために必要な電気エネルギーは第2エネルギー蓄積回路31が蓄積する。従って、第2電源ユニット33自体の電流容量を小さくすることができる。
【0044】
第1放電電流阻止回路22の機能と同様に、第2放電電流阻止回路32も放電電流が帰還することを阻止する。第2放電電流阻止回路32も、例えば
図3(b)に示すように、一対の第2中心電極13、13のうち、第2電源ユニット33の出力に接続されない電極を接地させるインダクタL2で構成される。インダクタL2は、放電電流に対して十分に高いインピーダンスを有するため、各第2中心電極13を経由した放電電流を、その発生源である第2エネルギー蓄積回路31に戻すことができる。
【0045】
なお、第1放電回路20と第2放電回路30に、一台の電源ユニットを接続してもよい。この場合、例えば、第2電源ユニット33を省略し、第1電源ユニット23の出力を第2放電回路30のA点(即ち、一対の第2中心電極13、13のうちの一方)に接続する。或いは、その逆の構成でもよい。
【0046】
次にレーザー装置40について説明する。
本実施形態のレーザー装置40は、プラズマ媒質6を含むプラズマ3の初期放電(初期プラズマ)2aを、各同軸状電極10の第1中心電極12と各外部電極11との間に発生させる放電誘発装置として機能する。即ち、レーザー装置40は、保持部14にレーザー光41を照射することで、プラズマ媒質6を放出させると共に、第1放電回路20と協働してプラズマ3の初期放電(初期プラズマ)2aを発生させる。レーザー装置40は例えばYAGレーザーであり、アブレーションを行うために基本波やその二倍波を短パルスのレーザー光41として出力する。パルスの周波数は例えば数~数十kHzであり、これはプラズマ光源における発光周波数でもある。レーザー光41は、ハーフミラー等の光学素子によって分岐し、保持部14に照射される。レーザー光41が照射された保持部14では、レーザー光41のアブレーションによって、プラズマ媒質6が中性粒子又はイオンとなって放出される。
【0047】
なお、放電誘発装置として、レーザー装置40の代わりに放電発生装置(図示せず)を用いてもよい。放電発生装置は、ギャップスイッチ(図示せず)と、このギャップスイッチに接続するパルス電源(図示せず)とを備える。ギャップスイッチは、第1中心電極12或いは外部電極11と第1放電回路20との間に挿入され、パルス電源からのトリガー電圧を受けることでオンになる。ギャップスイッチがオンになると、第1中心電極12と外部電極11の間に第1放電回路20の高電圧が瞬間的に印加され、初期放電2aが発生する。なお、放電発生装置は周知のものでよく、例えば特開2013-89634号公報に示された回路が適用できる。この場合、初期放電2aの発生に伴ってプラズマ媒質6が放出されるように、保持部14は初期放電2aの発生箇所或いはその近傍に設置される。例えば、保持部14は第1中心電極12の側面12a或いは外部電極11の側面に設置される。
【0048】
次に、本実施形態のプラズマ光源の動作について説明する。
図4は、本実施形態に係るプラズマ光源の動作を説明するための図である。まず、一対の同軸状電極10が設置された真空槽(図示せず)が排気され、プラズマ3の発生に適した温度及び圧力(真空度)に保持される。次に、第1放電回路20によって各同軸状電極10に第1放電電圧が印加され、第2放電回路30によって一対の第2中心電極13、13間に第2放電電圧が印加される。
【0049】
各同軸状電極10に第1放電電圧が印加された状態で、レーザー光41が各保持部14に照射される。レーザー光41は各保持部14内のプラズマ媒質6を蒸発させ、蒸発したプラズマ媒質(即ち媒質ガス)6は各同軸状電極10の第1中心電極12と各外部電極11との間に供給される。即ち、レーザー光41のアブレーションによりプラズマ媒質6は中性ガス又はイオンとなって、各同軸状電極10の第1中心電極12と外部電極11との間に拡散する。
【0050】
上述の通り、レーザー光41の照射時には既に、第1放電電圧が第1中心電極12と各外部電極11の間に印加されている。従って、アブレーションの発生により、第1中心電極12と各外部電極11間の初期放電(初期プラズマ)2aが誘発される。
【0051】
初期放電2aは、自己の電流及び磁場によるローレンツ力を受け、参照面1に向けて進行する。また、初期放電2aは、アブレーションによって放出されたプラズマ媒質6を電離しつつ取り込みながら、軸線Zの周りに分布する面状放電2bに成長する。このときの面状放電2bは、軸線Zから見て略環状に分布する。なお、面状放電とは2次元的に広がる面状の放電電流のことであり、電流シート又はプラズマシートとも呼ばれている。
【0052】
面状放電2bが同軸状電極10の先端に達すると、面状放電2bの放電電流の出発点は第1中心電極12の側面12aから先端部12bに移行する。換言すれば、放電電流は先端部12bから集中的に流れ出す。この電流密度の増加によってピンチ効果が促進され、面状放電2bは軸線Zに向けて収縮する。
【0053】
各同軸状電極10の先端で収縮を開始した面状放電2bは、一対の第2中心電極13、13間で融合し、プラズマ媒質6を成分とする単一のプラズマ3になる。即ち、各同軸状電極10で発生したプラズマは、第1中心電極12と外部電極11との間を流れる電流によって加熱される状態から、両者の融合を経て、2つの第2中心電極13、13の間を流れる電流によって加熱される単一のプラズマ3に移行する。
【0054】
上述の通り、一対の第2中心電極13、13間には第2放電電圧が既に印加されているため、プラズマ3には第2放電回路30(第2エネルギー蓄積回路31)からの電流が流れ出す。この電流は、プラズマ3に対するピンチ効果を促進すると共に、プラズマ3内のプラズマ媒質6の電離を促進する。その結果、プラズマ3の密度及び温度が上昇し、プラズマ3からは極端紫外光を含む光が放射される。
【0055】
本実施形態では、第1放電回路20が各同軸状電極10においてプラズマを発生及び成長させた後、第2放電回路30が各同軸状電極10の間に到達したプラズマを更に加熱する。つまり、プラズマをその初期から成長させるために費やされる電気エネルギーと、成長後のプラズマを更に加熱するために費やされる電気エネルギーとが分離している。換言すれば、単一の電気エネルギーがプラズマの発生から最終的な加熱までを担う場合と比較して、プラズマの発生及び成長のための電気エネルギーと、最終的な加熱を遂行するための電気エネルギーとが常に確保されている。従って、プラズマ中を流れる電流は、当該プラズマの発生及び成長のための経路から、最終的な加熱を遂行する経路へ円滑に移行する。換言すれば、上述のリコネクションを模擬するように、第1中心電極12と外部電極11との間と、一対の第2中心電極13、13間で、別々の放電が生じる。これにより、Zピンチによる最終的な加熱と高密度化を安定に行うことができ、単位時間当たりの発光出力を向上させることができる。
【0056】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態に対する第2実施形態の相違点は、第1中心電極12の形状及び配置、並びに、第2中心電極13の配置だけであり、その他の構成については両者において同一である。従って、第2実施形態の電気系統については、
図3(a)及び
図3(b)に示すものが適用される。以下、上述の相違点だけを説明し、重複する構成の説明を省略する。
【0057】
図5は、第2実施形態に係るプラズマ光源を示す概略構成図である。
図6は、
図5のVI-VI断面を示す図である。
図5及び
図6に示すように、本実施形態では、各同軸状電極10の第1中心電極12が軸線Z上に配置される。即ち、第1中心電極12は、外部電極11よりも軸線Zに近い位置に設けられ、その軸線Zとの距離はゼロとも言える。また、第1中心電極12は、外部電極11の配置及び延伸方向に合わせて、略円錐状に形成されている。
【0058】
一方、一対の第2中心電極13は参照面1上に位置する。換言すれば、一対の第2中心電極13は、参照面1と軸線Zの交点Pを挟んで参照面1上に対向配置される。
図6に示すように、一対の第2中心電極13は、例えば、軸線Zの延伸方向から見て、互いに隣接する2つの外部電極11の間に配列する。
【0059】
本実施形態においても、第1放電回路20(
図3(a)参照)は、各同軸状電極10における第1中心電極12と外部電極11の間に第1放電電圧を印加する。また、第2放電回路30は、一対の第2中心電極13、13の間に第2放電電圧を印加する。従って、第1実施形態と同じく、第1放電回路20が各同軸状電極10においてプラズマを発生及び成長させた後、第2放電回路30が各同軸状電極10の間に到達したプラズマを更に加熱する。各同軸状電極10から放出された面状放電2bは融合し、軸線Zに向けて収縮し、2つの第2中心電極13、13の間で加熱される単一のプラズマ3に移行する。第1実施形態と同じく、第2中心電極13の間に流れる電流は、第1放電回路20から独立した第2放電回路30から供給される。従って、第1実施形態と同じく、単位時間当たりの発光出力を向上させることができる。
【0060】
次に上記各実施形態の変形例について説明する。
図7は、本発明の実施形態に係るプラズマ光源の変形例を示す図であり、
図7(a)は第1実施形態の変形例、
図7(b)は第2実施形態の変形例を示す図である。これらの図に示すように、プラズマ光源は、各第2中心電極13と、第1中心電極12及び外部電極11のうち第2中心電極13に近い電極との間に設けられる絶縁部材15を更に備えてもよい。例えば、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、絶縁部材15は第2中心電極13の側面(外周面)を囲み且つ第2中心電極13の先端を露出させる筒状に形成される。絶縁部材15は例えばセラミックを用いて形成される。
【0061】
上述の通り、プラズマ光源が稼働している間は、第1放電電圧が第1中心電極12と各外部電極11の間に印加され、第2放電電圧が一対の第2中心電極13、13間に印加されている。一方、最終的なプラズマ3を得るには、電流経路の変更が必要である。従って、何れの実施形態においても、第2中心電極13とこれに最も近い電極は互いに近接し、且つ、両電極間には大きな電位差が生じている。従って、レーザーアブレーション等によって両電極間に不測の放電が発生するおそれがある。絶縁部材15はこの発生を防止し、単位時間当たりの発光出力の向上に寄与する。
【0062】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0063】
1…参照面、2a…初期放電、2b…面状放電、3…プラズマ、6…プラズマ媒質、10…同軸状電極、11…外部電極、12…第1中心電極、13…第2中心電極、14…保持部、15…絶縁部材、20…第1放電回路、21…第1エネルギー蓄積回路、22…第1放電電流阻止回路、23…第1電源ユニット、30…第2放電回路、31…第2エネルギー蓄積回路、32…第2放電電流阻止回路、33…第2電源ユニット、40…レーザー装置(放電誘発装置)、41…レーザー光、Z…軸線(中心軸)、P…交点