(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】部分加圧ピンの油圧制御回路及び制御装置
(51)【国際特許分類】
B22D 17/22 20060101AFI20220112BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20220112BHJP
B22D 17/32 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
B22D17/22 E
B22C9/06 A
B22D17/32 Z
(21)【出願番号】P 2018038683
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2020-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】宇部興産機械株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 信也
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特許第3343041(JP,B2)
【文献】特開2000-005857(JP,A)
【文献】特開平06-226416(JP,A)
【文献】特開平08-155622(JP,A)
【文献】特開平04-182053(JP,A)
【文献】特開昭50-142425(JP,A)
【文献】特開昭63-095926(JP,A)
【文献】特開平04-057636(JP,A)
【文献】特開2007-245223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/00-17/32
B22C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイカストマシンの金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧する部分加圧ピンの油圧制御回路において、
部分加圧ピンを駆動する油圧シリンダと、
四方電磁弁が一方に励磁されている場合は、前記油圧シリンダのヘッド側に圧油が流入すると同時に、前記油圧シリンダのロッド側の油が比例電磁式圧力調整弁を介してタンクに流入し、四方電磁弁が他方に励磁されている場合は、前記比例電磁式圧力調整弁を介して前記油圧シリンダのロッド側に圧油が流入すると同時に、前記油圧シリンダのヘッド側の油がタンクに流入する、流れ方向を切換えるための四方電磁弁と、前記油圧シリンダのロッド側の油圧配
管に接続された背圧制御するための前記比例電磁式圧力調整弁と、前記油圧シリンダに設置された前記油圧シリンダのピストンの位置を検出するための位置検出器と、を備え、
前記部分加圧ピンの位置を前記比例電磁式圧力調整弁の設定圧力により制御することを特徴とする部分加圧ピンの油圧制御回路。
【請求項2】
前記比例電磁式圧力調整弁の最小設定圧力を決定したことを特徴とする請求項1に記載の部分加圧ピンの油圧制御回路。
【請求項3】
前記部分加圧ピンは、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯の凝固が完了するまで、前記溶湯を加圧し続けることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の部分加圧ピンの油圧制御回路。
【請求項4】
ダイカストマシンの金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧する部分加圧ピンの油圧制御回路を備えた、部分加圧ピンの制御装置において、
部分加圧ピンを駆動する油圧シリンダと、
四方電磁弁が一方に励磁されている場合は、前記油圧シリンダのヘッド側に圧油が流入すると同時に、前記油圧シリンダのロッド側の油が比例電磁式圧力調整弁を介してタンクに流入し、四方電磁弁が他方に励磁されている場合は、前記比例電磁式圧力調整弁を介して前記油圧シリンダのロッド側に圧油が流入すると同時に、前記油圧シリンダのヘッド側の油がタンクに流入する、流れ方向を切換えるための四方電磁弁と、前記油圧シリンダのロッド側の油圧配
管に接続された背圧制御するための前記比例電磁式圧力調整弁と、前記油圧シリンダに設置された前記油圧シリンダのピストンの位置を検出するための位置検出器と、前記部分加圧ピンの駆動タイミングの時間を決定する制御部と、を備え、
前記部分加圧ピンの位置を前記比例電磁式圧力調整弁の設定圧力により制御し、前記部分加圧ピンの位置と駆動時間を、予め設定した前記位置と前記駆動時間の曲線に追従するように、リアルタイムフィードバック制御することを特徴とする部分加圧ピンの制御装置。
【請求項5】
前記比例電磁式圧力調整弁の最小設定圧力を決定したことを特徴とする請求項4に記載の部分加圧ピンの制御装置。
【請求項6】
前記部分加圧ピンは、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯の凝固が完了するまで、前記溶湯を加圧し続けることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の部分加圧ピンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシンの金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧する部分加圧ピンの油圧制御回路及び部分加圧ピンの制御装置、に関するものである。さらに詳しくは、部分加圧ピンを駆動する油圧シリンダのロッド側の油圧配管に接続された比例電磁式圧力調整弁の設定圧力により部分加圧ピンの位置を制御し、部分加圧ピンの位置と駆動時間を、予め設定した前記位置と前記駆動時間の曲線に追従するように、リアルタイムフィードバック制御するものであり、単純でコストダウンに繋がる部分加圧ピンの油圧制御回路及び部分加圧ピンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1の従来技術が知られている。本従来技術のスクイズピン(部分加圧ピンと同義語であり、局部加圧ピンと称することもある。)の制御装置は、スクイズピンを駆動するスクイズピンシリンダと、スクイズピンシリンダに接続され、スクイズピンシリンダに供給する圧油の圧力、流量を制御するスクイズピン油圧制御回路と、スクイズピンシリンダの背圧側に接続され、スクイズピンシリンダに供給される圧油の流量を検出する流量検出器と、を具備したことを特徴とする。
【0003】
本従来技術によれば、流量検出器がスクイズピンシリンダの背圧側にあるので、圧力のないタンクへの戻り側での流量計測となり、ホースの膨張、管路に混入するエアの収縮などによる流量検出誤差をなくすことができる。
【0004】
また、本従来技術のスクイズピンの制御方法は、スクイズピンを駆動するスクイズピンシリンダの背圧側の圧油の流量を検出し、検出された流量に基づいてスクイズピンのストロークを算出し、検出流量をパラメータとして前記スクイズピンのストロークを目標値に制御する、ことを特徴とする。
【0005】
本従来技術によれば、正確に検出された流量に基づいてスクイズピンのストロークを精度良く算出することができ、スクイズピンのストロークを目標値に確実に制御することができる。
【0006】
また、本従来技術のスクイズピンの制御方法は、スクイズピンシリンダにおける圧油のリーク量を検出し、リーク量を前記検出流量から差引き、リーク量を差引いた後の流量に基づいてスクイズピンのストロークを算出する、ことを特徴とする。
【0007】
本従来技術によれば、スクイズピンシリンダの加圧動作時に現実に生じる内部リーク量を検出値に算入することで、より厳密にスクイズピンのストロークを検出できる。
【0008】
さらに、本従来技術のスクイズピンの制御方法は、スクイズピンのストロークを目標値に制御するパラメータとして、さらにスクイズピンシリンダに供給する圧油の圧力および溶湯の充填完了からスクイズピン発進までの待機時間を各パラメータとして追加し、流量、圧力および待機時間の各パラメータの優先順位を設定し、スクイズピンのストロークが目標値になるまで優先順位に従って各パラメータを順次補正していく、ことを特徴とする。
【0009】
本従来技術によれば、例えば、圧力を最大限にしてもスクイズピンのストロークが目標値に到達しないといった補正限界や、パラメータを補正した結果が安定しないなどの状況に有効に対処してこれらの状況を解決し、確実にストロークを目標値に制御できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来技術においては、部分加圧ピンを駆動する油圧シリンダと、油圧シリンダに接続され、油圧シリンダに供給する圧油の圧力、流量を制御する部分加圧ピン油圧制御回路と、油圧シリンダの背圧側に接続され、油圧シリンダに供給される圧油の流量を検出する流量検出器と、を具備したことを特徴としており、使用される油圧機器が多く、そのため複雑でコストアップに繋がる部分加圧ピンの油圧制御回路及び部分加圧ピンの制御装置である、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、ダイカストマシンの金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧する部分加圧ピンの油圧制御回路において、
部分加圧ピンを駆動する油圧シリンダと、四方電磁弁が一方に励磁されている場合は、前記油圧シリンダのヘッド側に圧油が流入すると同時に、前記油圧シリンダのロッド側の油が比例電磁式圧力調整弁を介してタンクに流入し、四方電磁弁が他方に励磁されている場合は、前記比例電磁式圧力調整弁を介して前記油圧シリンダのロッド側に圧油が流入すると同時に、前記油圧シリンダのヘッド側の油がタンクに流入する、流れ方向を切換えるための四方電磁弁と、前記油圧シリンダのロッド側の油圧配管に接続された背圧制御するための前記比例電磁式圧力調整弁と、前記油圧シリンダに設置された前記油圧シリンダのピストンの位置を検出するための位置検出器と、を備え、
前記部分加圧ピンの位置を前記比例電磁式圧力調整弁の設定圧力により制御することを特徴とする部分加圧ピンの油圧制御回路である。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記比例電磁式圧力調整弁の最小設定圧力を決定(予め定めること。)したことを特徴とする部分加圧ピンの油圧制御回路である。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明又は請求項2記載の発明において、前記部分加圧ピンは、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯の凝固が完了するまで、前記溶湯を加圧し続けることを特徴とする部分加圧ピンの油圧制御回路である。
【0015】
請求項4記載の発明は、ダイカストマシンの金型キャビティ内に充填された溶湯を加圧する部分加圧ピンの油圧制御回路を備えた、部分加圧ピンの制御装置において、
部分加圧ピンを駆動する油圧シリンダと、四方電磁弁が一方に励磁されている場合は、前記油圧シリンダのヘッド側に圧油が流入すると同時に、前記油圧シリンダのロッド側の油が比例電磁式圧力調整弁を介してタンクに流入し、四方電磁弁が他方に励磁されている場合は、前記比例電磁式圧力調整弁を介して前記油圧シリンダのロッド側に圧油が流入すると同時に、前記油圧シリンダのヘッド側の油がタンクに流入する、流れ方向を切換えるための四方電磁弁と、前記油圧シリンダのロッド側の油圧配管に接続された背圧制御するための前記比例電磁式圧力調整弁と、前記油圧シリンダに設置された前記油圧シリンダのピストンの位置を検出するための位置検出器と、前記部分加圧ピンの駆動タイミングの時間を決定する制御部と、を備え、
前記部分加圧ピンの位置を前記比例電磁式圧力調整弁の設定圧力により制御し、前記部分加圧ピンの位置と駆動時間を、予め設定した前記位置と前記駆動時間の曲線に追従するように、リアルタイムフィードバック制御することを特徴とする部分加圧ピンの制御装置である。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記比例電磁式圧力調整弁の最小設定圧力を決定(予め定めること。)したことを特徴とする部分加圧ピンの制御装置である。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項4記載の発明又は請求項5記載の発明において、前記部分加圧ピンは、前記金型キャビティ内に充填された前記溶湯の凝固が完了するまで、前記溶湯を加圧し続けることを特徴とする部分加圧ピンの制御装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、部分加圧ピンを駆動する油圧シリンダと、前記油圧シリンダのロッド側の油圧配管に接続された比例電磁式圧力調整弁と、前記油圧シリンダに設置された前記油圧シリンダのピストンの位置を検出するための位置検出器と、を備え、前記部分加圧ピンの位置を前記比例電磁式圧力調整弁の設定圧力のみで制御するため、部分加圧ピンの油圧制御回路が単純でコストダウンに繋がる、という効果がある。
【0019】
さらに、本発明によれば、前記部分加圧ピンの位置を前記比例電磁式圧力調整弁の設定圧力のみにより制御し、前記部分加圧ピンの位置と駆動時間を、予め設定した前記位置と前記駆動時間の曲線に追従するように、リアルタイムフィードバック制御するため、部分加圧ピンの制御装置が単純でコストダウンに繋がる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一態様である部分加圧ピンの油圧制御回路を説明する図である。
【
図2】本発明の一態様である部分加圧ピンの制御装置による制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明をより詳細に説明するために、以下、本発明を実施するための形態を、好適な例を挙げて、適宜図面を用いて説明する。
ここでは、例えばダイカストマシンに、部分加圧ピン(局部加圧ピン、スクイズピンと称されることもある。)を使用する場合の、油圧制御回路及び制御装置を備えた一態様について説明する。
【0022】
部分加圧ピンは、ダイカストマシンによる鋳造において、金型キャビティ内への溶湯の充填が完了した後、溶湯が凝固する過程中に、金型キャビティ内の溶湯の一部分を直接加圧するものである。この部分加圧ピンの駆動によって、溶湯の凝固収縮に相当する量の溶湯を部分的に補給が可能なため、鋳造欠陥の一つである引け巣の少ない高品質な鋳造品を得ることができる。
【0023】
部分加圧ピンには、溶湯の凝固過程中に収縮相当量の溶湯を補給するための機能が要求される。つまり、部分加圧ピンを駆動するためのアクチュエータ(例えば、油圧シリンダ)が、予め設定したタイミングから、予め設定した時間内に、予め設定した距離だけ、移動することが重要な機能になる。なお、部分加圧ピンは、一つの金型の複数箇所に設置する場合がある。
【0024】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に適用した油圧制御回路を示しており、1は油圧源であり、油圧ポンプ、モータ(図示せず)、フィルタ(図示せず)などの各種の油圧機器から構成されている。油圧源1から供給される圧油は、四方電磁弁2において、流れ方向が切換えられる。
【0025】
四方電磁弁2が
図1の状態に励磁(通電)されている場合は、油圧シリンダ3のヘッド側に圧油が流入すると同時に、油圧シリンダ3のロッド側の油が比例電磁式圧力調整弁4を介してタンク5に流入する。一方、四方電磁弁2が
図1と逆の状態に励磁されている場合は、比例電磁式圧力調整弁4を介して油圧シリンダ3のロッド側に圧油が流入すると同時に、油圧シリンダ3のヘッド側の油がタンク5に流入する。なお、四方電磁弁2が励磁されていない中立状態の場合は、油圧シリンダ3のヘッド側にもロッド側にも圧油が流入することはない。
【0026】
11は部分加圧ピンであり、油圧シリンダ3のピストンのロッドに、適宜、好適な方法によって固定されている。部分加圧ピン11は、油圧シリンダ3のヘッド側に圧油が流入することにより、前進して金型キャビティ内の溶湯を加圧する。一方、鋳造が完了すると、部分加圧ピン11は、油圧シリンダ3のロッド側に圧油が流入することにより、後退する。
【0027】
21は油圧シリンダ3のピストンの位置を検出するための位置検出器であり、油圧シリンダ3のヘッド側あるいはロッド側に圧油が流入して、油圧シリンダ3のピストンが進退駆動した際の油圧シリンダ3のピストンの位置を検出する。つまり、位置検出器21は、油圧シリンダ3のピストンのロッドに固定されている部分加圧ピン11が進退駆動した際の部分加圧ピン11の位置をリアルタイムで検出することが可能である。なお、位置検出器21は、部分加圧ピン11の位置を検出することが可能であれば、適宜、好適な位置検出器を選定できる。また、位置検出器21は、部分加圧ピン11の位置を検出することが可能であれば、適宜、好適な箇所に設置することができる。
【0028】
比例電磁式圧力調整弁4は、油圧シリンダ3のロッド側に設置された背圧制御を構成しており、遠隔操作が可能である。部分加圧ピン11が前進して金型キャビティ内の溶湯を加圧する場合、比例電磁式圧力調整弁4の設定圧力の大小によって、部分加圧ピン11の駆動する速度が制御される。つまり、比例電磁式圧力調整弁4の設定圧力を下げると、油の流量が増加して、部分加圧ピン11の前進する速度が上がる。逆に、比例電磁式圧力調整弁4の設定圧力を上げると、油の流量が減少して、部分加圧ピン11の前進する速度が下がる。
【0029】
本来、圧力調整弁には、流量を制御する機能は無いが、ここでは、設定圧力を調整することにより、結果的に通過する流量が変動する、ということを利用している。
【0030】
比例電磁式圧力調整弁4の遠隔操作により、設定圧力を時間の経過とともに適宜、変更して、部分加圧ピン11の前進駆動する速度を制御することが可能である。これは、部分加圧ピン11の前進駆動中の時間の経過に対する位置(位置検出器21により検出)を制御することが可能であることを意味する。
【0031】
部分加圧ピン11は、高品質な鋳造品を得る目的のために、目標の前進限の位置(油圧シリンダ3のストロークエンドではない位置)において、予め設定した一定の力で金型キャビティ内の溶湯を加圧する機能が必要となる。これは、比例電磁式圧力調整弁4の最小設定圧力を決定することによって、実現が可能となる。なお、比例電磁式圧力調整弁4の最小設定圧力を決定することには、溶湯に必要以上の加圧を与えず、鋳造に対して種々の悪影響(例えば、バリ吹き、鋳造品の変形、鋳造品のクラック、部分加圧ピンの外周部隙間からの差し込み、など)を及ぼさないことも目的の一つである。
【0032】
比例電磁式圧力調整弁4の最小設定圧力を決定する方法について、以下に説明する。
一定のメタル圧力(溶湯の圧力であり、鋳造圧力と称することもある。)が発生している場合、下記数1に示す式が成立する。
【0033】
【数1】
但し、Pm:部分加圧ピン11の目標の前進限の位置での所望の一定のメタル圧力
Ap:部分加圧ピン11の面積
Ph:油圧シリンダ3のヘッド側の圧力(一定値)
Ah:油圧シリンダ3のヘッド側の面積
Pr:油圧シリンダ3のロッド側の圧力(可変値)
Ar:油圧シリンダ3のロッド側の面積
【0034】
上記数1より、下記数2が求められる。
【0035】
【数2】
ここで、
Phはポンプにより吐出する圧油の設定値であり、
Ahは油圧シリンダ3のヘッド側の寸法から導き出した演算値であり、
Pmは目標の前進限の位置における所望のメタル圧力の設定値であり、
Apは部分加圧ピン11の寸法から導き出した演算値であり、
Arは油圧シリンダ3のロッド側の寸法から導き出した演算値であり、
Ph、Ah、Pm、Ap、Arは、事前に値の決定が可能である。
したがって、Prの値を求めることが可能となる。
【0036】
上記数2により求めたPrの値を、比例電磁式圧力調整弁4の最小設定圧力として決定し、この最小設定圧力以上の範囲において、部分加圧ピン11の前進の駆動を制御する。
【0037】
比例電磁式圧力調整弁4の最小設定圧力を決定したことにより、部分加圧ピン11が、目標の前進限の位置(油圧シリンダ3のストロークエンドではない位置)に到達すれば、比例電磁式圧力調整弁4による背圧制御により、金型キャビティ内に充填された溶湯の凝固が完了するまで、溶湯を一定の力で加圧し続けることが可能となる。
【0038】
なお、部分加圧ピン11を後退させる駆動タイミングは、予め決定して設定しておくが、この部分加圧ピン11を後退させる駆動タイミングを早めの時間に設定した場合は、部分加圧ピン11による加圧する力が一定とならない場合もある。したがって、部分加圧ピン11を後退させる駆動タイミングは、鋳造条件を検討する際に、適宜、好適な時間に決定すれば良い。
【0039】
以上のように部分加圧ピンの油圧制御回路を構成することにより、比例電磁式圧力調整弁4だけ(流量制御弁等は不要)で、
部分加圧ピン11が前進する位置、
部分加圧ピン11が目標の前進限の位置(油圧シリンダ3のストロークエンドではない位置)で加圧し続ける力
を制御することが可能となり、部分加圧ピンの油圧制御回路が単純でコストダウンに繋がる、という作用効果がある。
【0040】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態を図に基づいて説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態による部分加圧ピンの油圧制御回路を使用した制御装置において、部分加圧ピン11を前進駆動制御した際の時間的変化を示しており、下図は位置と時間の関係、上図はメタル圧力と時間の関係を説明した図である。なお、
図2は、本発明に適用した制御装置における部分加圧ピン11の前進駆動制御の実測値ではなく、シミュレーションであり、模式的に概念を説明したものである。
【0041】
図2の下図は、部分加圧ピン11が前進する際の位置と時間の関係を示したグラフであり、31は位置設定値、32は位置実測値を示している。
図2の上図は、部分加圧ピン11が前進する際のメタル圧力と時間の関係を示したグラフであり、41はメタル圧力設定値、42はメタル圧力実測値を示している。
また、51は前進開始時間、52は前進限到達時間を示している。
【0042】
前進開始時間51は、部分加圧ピン11の駆動タイミングである前進を開始する時間であり、油流れ解析や凝固解析など、適宜、好適な解析を実施して、予め決定しておく必要があるタイマー設定値である。
【0043】
前進開始時間51から部分加圧ピン11の前進が開始されるが、部分加圧ピン11が前進開始時間51と同時に飛び出すのを防止する必要がある。そのため、前進開始時間51においては、比例電磁式圧力調整弁4の設定圧力が最大値になるように制御される。したがって、前進開始時間51の直後の時間においては、位置設定値31に追従せず、前進開始時間51より遅れた時間に位置実測値32がゼロから右肩上がりに上昇し始める。
【0044】
前進開始時間51におけるメタル圧力実測値42は、部分加圧ピン11の先端面が金型キャビティ内の溶湯に接触(到達)していないため、ゼロとなる。部分加圧ピン11の先端面が金型キャビティ内の溶湯に接触した直後から、メタル圧力実測値42が右肩上がりに上昇し始める。つまり、前進開始時間51の直後の時間においては、前進開始時間51より遅れた時間にメタル圧力実測値42がゼロから右肩上がりに上昇し始める。
【0045】
部分加圧ピン11の前進駆動制御における、位置と時間の関係について説明する。
図2の時間区間Aにおいては、位置設定値31に対して位置実測値32が低い値を示している。そのため、位置実測値32が位置設定値31に追従するように制御される。つまり、比例電磁式圧力調整弁4の設定圧力を下げることにより、油圧シリンダ3のロッド側の油の流量を増加させ、部分加圧ピン11の前進する速度を上げて、位置実測値32が位置設定値31に追従するように制御される。
【0046】
図2の時間区間Bにおいては、位置設定値31に対して位置実測値32が高い値を示している。そのため、位置実測値32が位置設定値31に追従するように制御される。つまり、比例電磁式圧力調整弁4の設定圧力を上げることにより、油圧シリンダ3のロッド側の油の流量を減少させ、部分加圧ピン11の前進する速度を下げて、位置実測値32が位置設定値31に追従するように制御される。
【0047】
部分加圧ピン11の位置については、位置検出器21によって、リアルタイムで検出することが可能となっており、時間の経過とともに、時間区間Aと時間区間Bを交互に繰り返しながら、予め設定した位置設定値31の曲線に追従するように、位置実測値32がリアルタイムフィードバック制御される。
【0048】
次に、前進限到達時間52における部分加圧ピン11の位置について説明する。
前進限到達時間52では、メタル圧力実測値42が徐々に上昇した後、メタル圧力設定値41に到達し、部分加圧ピン11を前進駆動させる力と、金型キャビティ内の溶湯の圧力によって発生する力が一致し、釣り合いの状態となる。この時、比例電磁式圧力調整弁4の設定圧力は、予め決定した最小設定圧力に到達した状態となっている。
【0049】
したがって、前進限到達時間52以降の時間区間Cにおいては、メタル圧力実測値42とメタル圧力設定値41が一致した状態であり、部分加圧ピン11は常に一定の力で金型キャビティ内の溶湯を加圧し続けていることになる。
【0050】
また、比例電磁式圧力調整弁4による背圧制御により、前進限到達時間52では、部分加圧ピン11の前進駆動が完了し、前進限到達時間52以降の時間区間Cにおいては、部分加圧ピン11の位置は一定となる。その後は、時間区間Cの範囲の特定の時間を、部分加圧ピン11の後退開始時間として、適宜、好適な値に予めタイマー設定しておき、後退開始時間に到達すれば、部分加圧ピン11が後退限の位置まで駆動される。
【0051】
時間区間Cにおいて、位置設定値31の曲線を右肩上がりの一次関数に設定しているが、これは、部分加圧ピン11により、常に一定の力で金型キャビティ内の溶湯を加圧し続けさせる必要があるためであり、便宜上の設定である。したがって、時間区間Cにおける位置設定値31の曲線は、部分加圧ピン11により、常に一定の力で金型キャビティ内の溶湯を加圧し続けさせることが可能であれば、適宜、好適な曲線に設定することが可能である。
【0052】
ここでは、メタル圧力実測値42が、ゼロからメタル圧力設定値41に到達するまでの時間的変化の曲線を、便宜的に一次関数で示したが、実際の鋳造では、各種の鋳造条件の違いにより、種々の曲線が描かれることになる。
【0053】
以上のように部分加圧ピンの制御装置を構成することにより、比例電磁式圧力調整弁4だけ(流量制御弁等は不要)で、
部分加圧ピン11が前進する位置、
部分加圧ピン11が目標の前進限の位置(油圧シリンダ3のストロークエンドではない位置)で加圧し続ける力
を制御し、
予め設定した位置設定値31の曲線に追従するように、位置実測値32がリアルタイムフィードバック制御され、
予め設定したメタル圧力設定値41にメタル圧力実測値42を一致させ、常に一定の力で金型キャビティ内の溶湯を加圧し続けさせる、
ことが可能となり、部分加圧ピンの制御装置が単純でコストダウンに繋がる、という作用効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、部分加圧ピンを駆動する油圧シリンダと、前記油圧シリンダのロッド側の油圧配管に接続された比例電磁式圧力調整弁と、前記油圧シリンダに設置された前記油圧シリンダのピストンの位置を検出するための位置検出器と、を備え、前記部分加圧ピンの位置を前記比例電磁式圧力調整弁の設定圧力のみで制御するため、部分加圧ピンの油圧制御回路が単純でコストダウンに繋がる、という優れた作用効果がある。
【0055】
さらに、本発明によれば、前記部分加圧ピンの位置を前記比例電磁式圧力調整弁の設定圧力のみにより制御し、前記部分加圧ピンの位置と駆動時間を、予め設定した前記位置と前記駆動時間の曲線に追従するように、リアルタイムフィードバック制御するため、部分加圧ピンの制御装置が単純でコストダウンに繋がる、という優れた作用効果がある。
【0056】
以上のように、本発明によれば、優れた作用効果がある部分加圧ピンの油圧制御回路及び部分加圧ピンの制御装置を提供でき、ダイカストマシンにおいて、部分加圧ピンを使用して鋳造を実施する分野で利用、貢献することができるものである。
【符号の説明】
【0057】
1 油圧源
2 四方電磁弁
3 油圧シリンダ
4 比例電磁式圧力調整弁
5 タンク
11 部分加圧ピン
21 位置検出器
31 位置設定値
32 位置実測値
41 メタル圧力設定値
42 メタル圧力実測値
51 前進開始時間
52 前進限到達時間