(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/68 20060101AFI20220112BHJP
B60N 2/897 20180101ALI20220112BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
B60N2/68
B60N2/897
A47C7/40
(21)【出願番号】P 2018054601
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 隼人
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-135326(JP,U)
【文献】特開2018-020670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/68
B60N 2/897
A47C 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート幅方向に間隔を空けて配置された一対のサイドフレームと、
シート後方側が開放されたハット状の断面形状を有し、一対の前記サイドフレームの上部同士を連結するアッパフレームと、
前記アッパフレームに固定される一対のホルダーと、
一対のステーを有し、一対の前記ホルダーの各々に一対の前記ステーの各々が差し込まれることで前記アッパフレームに取り付けられるヘッドレストと、を備え、
前記アッパフレームは、
前記アッパフレームのシート前方側の位置に設けられた正面部と、
前記正面部の上縁からシート後方側に向かって延在する上面部と、
前記正面部の下縁からシート後方側に向かって延在する下面部と、を有し、
シート前後方向に対して平行であり且つ前記上面部に対して直交する平面によって規定される前記アッパフレームの断面形状を見た場合に、当該断面形状の中で前記正面部と前記上面部とは内角θをなしており、
前記アッパフレームのうちの前記シート幅方向の中央寄りに位置する第1領域において規定される前記内角θをθAと規定し、前記アッパフレームのうちの前記シート幅方向の端部寄りに位置する第2領域において規定される前記内角θをθBと規定したとき、θA×0.95≦θB≦θA×1.05の関係を満足して
おり、
前記アッパフレームのうちの前記シート幅方向において前記端部寄りに位置する前記第2領域には、ブラケットが接合されており、
シートベルトをガイドするユニット、または、リクライニングのロック状態を解除するユニットが、前記ブラケットを介して前記アッパフレームに取り付けられている、
乗物用シート。
【請求項2】
90°<θBの関係を満足している、
請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記アッパフレームのうちの前記シート幅方向において前記中央寄りに位置する前記第1領域と、前記アッパフレームのうちの前記シート幅方向において前記端部寄りに位置する前記第2領域とは、同一平面上に位置するように形成された部分を有している、
請求項1または2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記正面部には、前記正面部を前記シート前後方向に貫通する貫通孔が設けられており、
前記ヘッドレストが前記アッパフレームに取り付けられた状態では、前記正面部のうちの前記貫通孔を形成している部分は、一対の前記ステーが延びている方向に対して略平行となる平面形状を有している、
請求項1から3のいずれか1項に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-003584号公報(特許文献1)に開示されているように、乗物用シートのシートバックの内部にはシートバックフレームが配置される。シートバックフレームは、一対のサイドフレームと、一対のサイドフレームの上部同士を連結するアッパフレームとを有する。アッパフレームには、一対のホルダ(ヘッドレストホルダともいう)を介してヘッドレストが取り付けられる。
【0003】
特許文献1に開示されているように、近年、ハット状の断面形状を有するアッパフレームが知られている。このようなアッパフレームは、正面部(特許文献1においては着座面部)、上面部および下面部を有している。正面部はアッパフレームのうちのシート前方側に位置する部分である。上面部は、アッパフレームのうちの正面部の上縁からシート後方側に向かって延在する部分であり、下面部は、アッパフレームのうちの正面部の下縁からシート後方側に向かって延在する部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アッパフレームには、ヘッドレストに限られず、必要(仕様など)に応じてたとえば、シートベルトをガイドするためのユニットや、リクライニングのロック状態を解除するためのユニットなどを取り付けることが可能である。これらのユニットを乗物用シートに搭載する場合、ブラケットをアッパフレームに台座として固定し、そのブラケットを介してこれらのユニットをアッパフレームに取り付けることができる。
【0006】
上述のとおり、ハット状の断面形状を有するアッパフレームにおいて、正面部とは、アッパフレームのうちのシート前方側に位置する部分である。ブラケットの少なくとも一部をアッパフレームの正面部に固定することを考えた場合、正面部の表面が大きくよじれるように湾曲した形状を有していると、ブラケットをアッパフレームに固定しにくくなる。換言すると、シート幅方向における中央から端の方に向かうにつれて正面部の傾斜角度が一定範囲を超えて変わる場合には、ブラケットを正面部に接合することが難しくなるとともに、高い位置精度でブラケットをアッパフレームに固定することも困難となる。
【0007】
本明細書は、シートベルトをガイドするためのユニットなどの各種のユニットを、ブラケットを介してアッパフレームに容易に取り付けることが可能な構成を備えた乗物用シートを開示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示された乗物用シートは、シート幅方向に間隔を空けて配置された一対のサイドフレームと、シート後方側が開放されたハット状の断面形状を有し、一対の上記サイドフレームの上部同士を連結するアッパフレームと、上記アッパフレームに固定される一対のホルダーと、一対のステーを有し、一対の上記ホルダーの各々に一対の上記ステーの各々が差し込まれることで上記アッパフレームに取り付けられるヘッドレストと、を備え、上記アッパフレームは、上記アッパフレームのシート前方側の位置に設けられた正面部と、上記正面部の上縁からシート後方側に向かって延在する上面部と、上記正面部の下縁からシート後方側に向かって延在する下面部と、を有し、シート前後方向に対して平行であり且つ上記上面部に対して直交する平面によって規定される上記アッパフレームの断面形状を見た場合に、当該断面形状の中で上記正面部と上記上面部とは内角θをなしており、上記アッパフレームのうちの上記シート幅方向の中央寄りに位置する第1領域において規定される上記内角θをθAと規定し、上記アッパフレームのうちの上記シート幅方向の端部寄りに位置する第2領域において規定される上記内角θをθBと規定したとき、θA×0.95≦θB≦θA×1.05の関係を満足している。
【0009】
上記乗物用シートにおいては、90°<θBの関係を満足するように構成されていてもよい。
【0010】
上記乗物用シートにおいては、上記アッパフレームのうちの上記シート幅方向において上記中央寄りに位置する上記第1領域と、上記アッパフレームのうちの上記シート幅方向において上記端部寄りに位置する上記第2領域とは、同一平面上に位置するように形成された部分を有しているように構成されていてもよい。
【0011】
上記乗物用シートにおいては、上記正面部には、上記正面部を上記シート前後方向に貫通する貫通孔が設けられており、上記ヘッドレストが上記アッパフレームに取り付けられた状態では、上記正面部のうちの上記貫通孔を形成している部分は、一対の上記ステーが延びている方向に対して略平行となる平面形状を有しているように構成されていてもよい。
【0012】
上記乗物用シートにおいては、上記アッパフレームのうちの上記シート幅方向において上記端部寄りに位置する上記第2領域には、ブラケットが接合されており、シートベルトをガイドするユニット、または、リクライニングのロック状態を解除するユニットが、上記ブラケットを介して上記アッパフレームに取り付けられているように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本明細書に開示された乗物用シートは、アッパフレームの中央寄りに位置する第1領域において規定される内角θAと、端部寄りに位置する第2領域において規定される内角θBとが、θA×0.95≦θB≦θA×1.05の関係を満足しているため、第1領域と第2領域とが高い平面度を呈するように構成されており、ブラケットを第2領域の正面部に容易に接合することが可能であり、ひいては、シートベルトをガイドするためのユニットなどの各種のユニットを、ブラケットを介してアッパフレームに容易に取り付けることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】シートバックフレーム5およびブラケット10等を示す斜視図である。
【
図3】シートバックフレーム5およびブラケット10等の分解された状態を示す斜視図である。
【
図5】シートバックフレーム5およびブラケット10等の分解された状態を示す他の斜視図である。
【
図6】アッパフレーム7を拡大して示す正面図である。
【
図7】
図6中のVII-VII線に沿った矢視断面図である。
【
図8】
図6中のVIII-VIII線に沿った矢視断面図である。
【
図9】
図6中のIX-IX線に沿った矢視断面図である。
【
図10】
図6中のX-X線に沿った矢視断面図である。
【
図11】
図6中のXI-XI線に沿った矢視断面図である。
【
図12】
図6中のXII-XII線に沿った矢視断面図である。
【
図13】アッパフレーム7の貫通孔HRに治具21のボス部22が差し込まれている様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態における乗物用シート1について、
図1~
図13を参照しながら以下説明する。以下の説明において同一の部品および相当部品には同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0016】
図1~
図12には、矢印F,B,L,R,U,Dを示している。矢印F,B,L,R,U,Dが示す方向は、乗物用シート1に着座した乗員から見てそれぞれ前、後、左、右、上、下を示している。乗物用シート1の上下方向とは、矢印U,Dに示す方向に対応し、通常は、乗物用シート1が搭載される乗物の高さ方向に一致している。乗物用シート1のシート幅方向とは、矢印L,Rに示す方向に対応し、通常は、乗物用シート1が搭載される乗物の幅方向に一致する。乗物用シート1の前後方向とは、矢印F,Bに示す方向に対応し、通常は、乗物用シート1が搭載される乗物の前後方向に一致している。
【0017】
(乗物用シート1)
図1は、乗物用シート1を示す斜視図である。乗物用シート1は、ここでは車両用シートとして機能する。乗物用シート1は、シートクッション2、シートバック3、ヘッドレスト4、シートバックフレーム5、ブラケット10およびユニット3Uを備える。ユニット3Uはシートバック3の右肩の位置に設けられており、ユニット3Uからは図示しないシートベルトが引き出され、ユニット3Uはシートベルトをガイドすることが可能である。
【0018】
シートクッション2は、着座面をその上面に形成しており、シートバック3は、背凭れ面をその前面に形成している。ヘッドレスト4は、シートバック3の上部に設けられる。ヘッドレスト4は一対のステー4L,4Rを有する。ステー4L,4Rの各々は棒形状を有し、ヘッドレスト4のクッション部の下面から下方に向かって平行に延びている。
【0019】
(シートバックフレーム5)
シートバックフレーム5は、シートバック3の骨格を構成する。シートバックフレーム5は、アッパフレーム7、一対のサイドフレーム6L,6R、ロアフレーム16、一対のサポートブラケット8L,8R、および、一対のホルダー9L,9Rを備える。
【0020】
図2は、シートバックフレーム5およびブラケット10等を示す斜視図である。
図3は、シートバックフレーム5およびブラケット10等の分解された状態を示す斜視図である。
図4は、アッパフレーム7を示す正面図である。
図5は、シートバックフレーム5およびブラケット10等の分解された状態を示す他の斜視図である。
【0021】
(サイドフレーム6L,6R)
図2~
図5に示すように、サイドフレーム6L,6Rは、上下方向に延びる形状を有し、シート幅方向に間隔を空けて配置される。サイドフレーム6L,6Rは、プレス成形された鉄などの金属板から成り、サイドフレーム6L,6Rを構成している平面の殆どが前後方向に沿うように設けられる。
【0022】
サイドフレーム6L,6Rの各々の上部には、一対のフランジ6F,6Bが相互に対向するように形成されている。サイドフレーム6Lに設けられたフランジ6F,6Bは、サイドフレーム6Rの側に向かって略平行に延びており、サイドフレーム6Rに設けられたフランジ6F,6Bは、サイドフレーム6Lの側に向かって略平行に延びている。
【0023】
(ロアフレーム16)
図1に示すように、ロアフレーム16は、パイプまたはプレス成形された鉄などの金属板からなり、サイドフレーム6L,6R間の下部に補強として設けられている。
【0024】
図6は、アッパフレーム7を拡大して示す正面図である。
図7は、
図6中のVII-VII線に沿った矢視断面図である。
図8は、
図6中のVIII-VIII線に沿った矢視断面図である。
図9は、
図6中のIX-IX線に沿った矢視断面図である。
図10は、
図6中のX-X線に沿った矢視断面図である。
図11は、
図6中のXI-XI線に沿った矢視断面図である。
図12は、
図6中のXII-XII線に沿った矢視断面図である。
【0025】
(アッパフレーム7)
アッパフレーム7は、シート幅方向に延びる形状を有する。アッパフレーム7は、プレス成形された鉄などの金属板から成り、シート後方側が開放されたハット状の断面形状を有している(
図7~
図12参照)。アッパフレーム7の左端部はサイドフレーム6Lのフランジ6F,6Bの間に配置され、アッパフレーム7の右端部はサイドフレーム6Rのフランジ6F,6Bの間に配置される。
【0026】
図4に示すように、アッパフレーム7は、シート幅方向における中央寄りに位置する第1領域R1と、同方向における右端部寄りに位置する第2領域R2と、同方向における左端部寄りに位置する第3領域R3との、計3つの領域から構成される。
図4および
図6に示すように、アッパフレーム7を正面視した場合に視認されるアッパフレーム7の上縁とアッパフレーム7の下縁との間の鉛直方向の距離を高さと定義したとすると、第1領域R1においては高さが略一定であり、第2領域R2および第3領域R3においては、中央側から端部の方に向かうにつれて高さが徐々に高くなる。
【0027】
アッパフレーム7のうちの第1領域R1に含まれる部分は、シート幅方向に対して平行な方向に延びている。アッパフレーム7のうちの第2領域R2に含まれる部分は、シート幅方向における中央側から右端の方に向かうにつれて、徐々に自身の位置が低くなるように斜め下に向かって延びており、アッパフレーム7のうちの第3領域R3に含まれる部分も、シート幅方向における中央から左端の方に向かうにつれて、徐々に自身の位置が低くなるように斜め下に向かって延びている。
【0028】
アッパフレーム7は、正面部7F、上面部7U、下面部7D、上側フランジ7Pおよび下側フランジ7Qを備える。正面部7Fはアッパフレーム7のうちのシート前方側に位置する部分であり、一般面として機能することができる。正面部7Fは、その構成要素として、平坦部7FA、立壁部7FB、および湾曲部7FCを有している。
【0029】
(正面部7Fの平坦部7FA)
正面部7Fの平坦部7FAは、アッパフレーム7の左端部から右端部に到達するようにシート幅方向に延在している。平坦部7FAは、同一平面上に位置するように形成されている。すなわち、平坦部7FAのうちの第1領域R1に含まれる部分、平坦部7FAのうちの第2領域R2に含まれる部分、および、平坦部7FAのうちの第3領域R3に含まれる部分は、いずれも同一平面上に位置するように形成されている。
【0030】
本実施の形態では、平坦部7FAのうちのシート前方側に位置する表面のすべてが、同一平面上に位置するように形成されている。平坦部7FAの左端部は、サイドフレーム6Lのフランジ6Fに接合され、平坦部7FAの右端部は、サイドフレーム6Rのフランジ6Fに接合される(
図3参照)。
【0031】
(正面部7Fの立壁部7FB)
正面部7Fの立壁部7FBは、平坦部7FAのうちの第1領域R1に含まれる部分の内側に設けられる。平坦部7FAのうちの第2領域R2に含まれる部分には立壁部7FBは形成されておらず(
図9~
図12参照)、平坦部7FAのうちの第3領域R3に含まれる部分にも立壁部7FBは形成されていない。
【0032】
立壁部7FBは全体として平板形状を呈している。ヘッドレスト4がアッパフレーム7に取り付けられた状態では(
図7,
図8参照)、立壁部7FBは、一対のステー4L,4R(
図1)が延びている方向に対して略平行となる平面形状を有している。
【0033】
立壁部7FBには、立壁部7FB(正面部7F)をシート前後方向に貫通する一対の貫通孔HR,HLが設けられている。貫通孔HR,HLの機能については、
図13を参照して後述する。シート前後方向に対して平行であり且つ上面部7Uに対して直交する平面を、貫通孔HRの丁度中心の位置を通るように規定した場合、
図7は、この平面によって規定されるアッパフレーム7の断面形状を表している。
【0034】
図1、
図4および
図7等を参照して、ヘッドレスト4のステー4L,4Rが、ホルダー9L,9Rおよびサポートブラケット8L,8Rを介してアッパフレーム7にそれぞれ取り付けられた状態では、正面部7F(ここでは立壁部7FB)のうちの貫通孔HL,HRを形成している部分、すなわち、正面部7F(ここでは立壁部7FB)のうちの貫通孔HL,HRの周縁部分は、一対のステー4L,4Rが延びている方向に対して略平行となる平面形状を有している。
【0035】
(正面部7Fの湾曲部7FC)
正面部7Fの湾曲部7FCも、平坦部7FAのうちの第1領域R1に含まれる部分の内側に設けられる。平坦部7FAのうちの第2領域R2に含まれる部分には湾曲部7FCは形成されておらず(
図9~
図12参照)、平坦部7FAのうちの第3領域R3に含まれる部分にも湾曲部7FCは形成されていない。
【0036】
湾曲部7FCは、平坦部7FAと立壁部7FBとの間に設けられ、湾曲部7FCの内側に立壁部7FBが形成され、湾曲部7FCの外側に平坦部7FAが形成されている。湾曲部7FCは、シート幅方向に対して平行に延在して上下方向の間隔を相互間に空けて並ぶ一対の直線部と、一対の直線部の各々の左端を接続するように延びる円弧状の部分と、一対の直線部の各々の右端を接続するように延びる円弧状の部分とを有し、全体として閉環状の形状を呈している。
【0037】
プレス成形加工が実施される前の状態、すなわちアッパフレーム7の母材の状態では、立壁部7FBおよび湾曲部7FCはこの母材には形成されていない。この母材にプレス成形加工を実施することによって、平坦部7FAの内側に湾曲部7FCが形成されるとともに、湾曲部7FCの内側に立壁部7FBが形成される。
【0038】
プレス加工が実施された後の状態、すなわちアッパフレーム7の完成品としての状態では、湾曲部7FCの上側に平坦部7FAが部分的に残存するような形で形成されており、湾曲部7FCの下側にも平坦部7FAが部分的に残存するような形で形成されている(
図7参照)。
【0039】
(上面部7Uおよび下面部7D)
上面部7Uは、アッパフレーム7の一部分であり、正面部7F(ここでは平坦部7FA)の上縁からシート後方側に向かって延在している。上側フランジ7Pは、上面部7Uの後縁を起点として上向きに屈曲するように形成されている。上面部7Uおよび上側フランジ7Pも、アッパフレーム7の左端部から右端部に到達するように、シート幅方向に延在している。
【0040】
下面部7Dは、アッパフレーム7の他の一部分であり、正面部7F(ここでは平坦部7FA)の下縁からシート後方側に向かって延在している。下側フランジ7Qは、下面部7Dの後縁を起点として下向きに屈曲するように形成されている。下面部7Dおよび下側フランジ7Qも、アッパフレーム7の左端部から右端部に到達するように、シート幅方向に延在している。
【0041】
図3~
図5に示すように、第2領域R2に含まれる上側フランジ7Pの右端部と、第2領域R2に含まれる下側フランジ7Qの右端部とは、サイドフレーム6Rのフランジ6Bに接合される。第3領域R3に含まれる上側フランジ7Pの左端部と、第3領域R3に含まれる下側フランジ7Qの左端部とは、サイドフレーム6Lのフランジ6Bに接合される。アッパフレーム7は、このような態様にてサイドフレーム6L,6Rに接合されるとともに、サイドフレーム6L,6Rの上部同士を連結する。
【0042】
上面部7Uには一対の嵌合孔7HU(
図3,
図8)が形成され、下面部7Dには一対の嵌合孔7HD(
図8)が形成される。一対のうちの右側に位置する嵌合孔7HUおよび一対のうちの右側に位置する嵌合孔7HDに関して、シート前後方向に対して平行であり且つ上面部7Uに対して直交する平面を、これらの嵌合孔7HU,7HDの各々の丁度中心の位置を通るように規定した場合、
図8は、この平面によって規定されるアッパフレーム7の断面形状を表している。
【0043】
サポートブラケット8L,8Rの各々は、上下の嵌合孔7HU,7HDに跨るように挿入され(
図3)、溶接によりアッパフレーム7に固定される(
図8参照)。サポートブラケット8L,8Rにはホルダー9L,9R(
図1,
図8)がそれぞれ挿入される。ホルダー9L,9Rにはヘッドレスト4のステー4L,4R(
図1)がそれぞれ挿入される。ヘッドレスト4は、ホルダー9L,9Rおよびサポートブラケット8L,8Rを介してアッパフレーム7に上下動自在に取り付けられることとなる。
【0044】
(内角θ,θA,θB)
図6および
図7~
図12を参照して、上述のとおり、
図7~
図12はいずれも矢視断面図であり、
図6の中に示された一対の矢視(L字状の矢印)の位置で規定されるアッパフレーム7の断面形状を表している。符号VIIが付された一対の矢視(L字状の矢印)によって規定される平面は、シート前後方向に対して平行であり、且つ、上面部7Uに対して直交する。
図7は、この平面(仮想断面)によって規定されるアッパフレーム7の断面形状を表している。
【0045】
同様に、符号VIIIが付された一対の矢視(L字状の矢印)によって規定される平面は、シート前後方向に対して平行であり、且つ、上面部7Uに対して直交する。
図8は、この平面(仮想断面)によって規定されるアッパフレーム7の断面形状を表している。これらについては、符号IXが付された一対の矢視(
図9)、符号Xが付された一対の矢視(
図10)、符号XIが付された一対の矢視(
図11)、および、符号XIIが付された一対の矢視(
図12)についても同様である。
【0046】
図7および
図8の各々は、アッパフレーム7のうちの第1領域R1に含まれる部分の断面形状を表している。
図9~
図12の各々は、アッパフレーム7のうちの第2領域R2に含まれる部分の断面形状を表している。
図7~
図12に示すように、シート前後方向に対して平行であり且つ上面部7Uに対して直交する平面によって規定されるアッパフレーム7の断面形状を見た場合、当該断面形状の中では、正面部7Fと上面部7Uとは内角θをなしている。
【0047】
アッパフレーム7のうちのシート幅方向の中央寄りに位置する第1領域R1において規定される内角θをθAと規定し、アッパフレーム7のうちのシート幅方向の右端部寄りに位置する第2領域R2において規定される内角θをθBと規定したとき、本実施の形態のアッパフレーム7は、θA×0.95≦θB≦θA×1.05の関係を満足している。本実施の形態では、好適な態様として、アッパフレーム7が90°<θBの関係を満足している。すなわち、正面部7Fと上面部7Uとは、少なくとも第2領域R2においては鈍角をなして交差している。
【0048】
(ブラケット10)
ブラケット10は、ユニット3Uを乗物用シート1に搭載する場合に利用される。ブラケット10は、アッパフレーム7のうちのシート幅方向において右端部寄りに位置する第2領域R2が接合される。ブラケット10をアッパフレーム7に台座として固定し、ブラケット10を介してユニット3Uをアッパフレーム7に取り付けることができる。
【0049】
ユニット3Uは、図示しないシートベルトをガイドするための機構を備えている。リクライニングのロック状態を解除するための機構を備えた他のユニットを、ユニット3Uと同様に乗物用シート1の右肩に配置してもよい。ブラケット10はこれらの機構を乗物用シート1に搭載する場合にアッパフレーム7に台座として固定されるものであり、そのような仕様を備えていない乗物用シートにはブラケット10は必須ではない。
【0050】
図2~
図5(主として
図5)に示すように、本実施の形態のブラケット10は、前方下部11、後方下部12、凹所13、当接部14、および、溶接用長穴15を有している。前方下部11および後方下部12は、間隔を空けて相互に対向するようにブラケット10に形成されており、前方下部11と後方下部12との間に凹所13が設けられている。ブラケット10は、前方下部11と後方下部12との間にサイドフレーム6Rの上部が位置するようにアッパフレーム7の上に配置される。
【0051】
前方下部11と後方下部12との間にサイドフレーム6Rの上部が位置している状態において、ブラケット10の当接部14は、アッパフレーム7の平坦部7FAのうちの第2領域R2に含まれる部分に当接する(
図11参照)。平坦部7FAのうちの第2領域R2に含まれる部分に当接部14を当接させた状態で、溶接用長穴15を通して溶接作業が実施される。溶接によってブラケット10はアッパフレーム7に固定される。シートベルトをガイドすることが可能なユニット3U(
図1)は、台座としてのブラケット10を介してアッパフレーム7に容易に取り付けられることができる。
【0052】
(作用および効果)
冒頭に述べたとおり、ブラケット10の少なくとも一部(ここでは当接部14)をアッパフレーム7の正面部7Fに固定することを考えた場合、正面部7Fの表面が大きくよじれるように湾曲した形状を有していると、ブラケット10をアッパフレーム7に固定しにくくなる。換言すると、シート幅方向における中央から端の方に向かうにつれて正面部7Fの傾斜角度が一定範囲を超えて変わるような場合には、ブラケット10を正面部7Fに接合することが難しくなるとともに、高い位置精度でブラケット10をアッパフレーム7に固定することも困難となる。
【0053】
これに対して本実施の形態においては、
図7~
図12に示される上面部7Uが互いに平行となる関係を有しており、この上面部7Uに対して正面部7Fが内角θをなしている。第1領域R1において規定される内角θをθAと規定し、第2領域R2において規定される内角θをθBと規定したとき、本実施の形態のアッパフレーム7は、θA×0.95≦θB≦θA×1.05の関係を満足している。この関係を満足しているという技術的特徴によれば、正面部7Fの表面(ここでは平坦部7FA)がほとんどよじれておらず極めて平面に近い形状を呈していることとなり、ブラケット10の当接部14をアッパフレーム7の平坦部7FAに容易に接合することが可能になるとともに、高い位置精度でブラケット10をアッパフレーム7に固定することも可能となっている。したがって本実施の形態で開示した技術的思想を備えた乗物用シート1によれば、製品としての品質を向上させることも可能となっている。
【0054】
本実施の形態では、好適な態様として、アッパフレーム7が90°<θBの関係を満足している。当該構成の効果を説明するために、便宜上、シートバック3の通常の使用状態(シートバック3が運転に適したリクライニング角度に設定された状態)を上下方向および前後方向の基準とする。サイドフレーム6L,6Rは一般的に、鉛直方向に対して平行に延びるようには形成されておらず、下方側から上方側に向かうにつれて前方側から後方側に向かうように斜め上に向かって延びている。一般的な車両用シートにおいては、サイドフレーム6L,6Rがこのような構成を備えていることが多い。
【0055】
上述のとおり、サイドフレーム6L,6Rの各々の上部には、一対のフランジ6F,6Bが相互に対向するように形成されている。一対のフランジ6F,6Bも、鉛直方向に対して平行に延びるようには形成されておらず、下方側から上方側に向かうにつれて前方側から後方側に向かうように斜め上に向かって延びている。一般的な車両用シートにおいては、フランジ6F,6Bがこのような構成を備えていることが多い。
【0056】
フランジ6F,6B(特に、フランジ6F)が上記のような傾斜した構成を備えている場合には、アッパフレーム7の平坦部7FAの左端部および右端部も、これらの傾斜形状に対応した形状(追従するような形状)を有していることが接合の観点から望ましい。アッパフレーム7が90°<θBの関係を満足していることによって、すなわち、正面部7Fと上面部7Uとが少なくとも第2領域R2において鈍角をなして交差していることによって、上面部7Uを水平に配置しやすくなるという効果が得られるとともに、上記のような追従形状をアッパフレーム7の側において実現しやすくなるという効果が得られ、フランジ6Fをアッパフレーム7の平坦部7FAに接合しやすくすることが可能となる。
【0057】
(アッパフレーム7の検査およびアッパフレーム7に対する溶接作業について)
図13は、アッパフレーム7の貫通孔HRに治具21のボス部22が差し込まれている様子を示す断面図である。アッパフレーム7が作製された後、アッパフレーム7に対して加工精度などが検査されたり、アッパフレーム7に対してサポートブラケット8L,8Rなどが溶接にて接合されたりする。これらの作業を行なう場合、
図13に示すような治具21を用いることができる。載置台20の上に一対の治具21が立設されている。一対の治具21の各々は、先端にボス部22を有しており、ボス部22の周囲には段差23が形成されている。
【0058】
上述のとおり、アッパフレーム7の正面部7Fは、平坦部7FAの内側に立壁部7FBを有しており、立壁部7FBには、立壁部7FB(正面部7F)をシート前後方向に貫通する一対の貫通孔HR,HL(
図4等参照)が設けられている。貫通孔HR,HLの各々の内側にボス部22が位置するように立壁部7FBが段差23の上に載置され、これによりアッパフレーム7が治具21によって支持される。
【0059】
上述のとおり、ヘッドレスト4のステー4L,4R(
図1,
図7)が、ホルダー9L,9Rおよびサポートブラケット8L,8Rを介してアッパフレーム7にそれぞれ取り付けられた状態では、正面部7F(ここでは立壁部7FB)のうちの貫通孔HL,HRを形成している部分、すなわち、正面部7F(ここでは立壁部7FB)のうちの貫通孔HL,HRの周縁部分は、一対のステー4L,4Rが延びている方向に対して略平行となる平面形状を有している。
【0060】
アッパフレーム7がこのような構成を有していることによって、
図13に示すようにアッパフレーム7が治具21によって支持された状態では(アッパフレーム7に溶接や検査が行なわれる状態では)、載置台20の表面(基準面)と正面部7Fの平坦部7FAとは互いに平行な関係を有することとなり、この基準面に基づきアッパフレーム7の加工精度などを容易かつ正確に検査することが可能となる。また、アッパフレーム7が治具21によって位置決めされた状態で、アッパフレーム7に対してサポートブラケット8L,8Rなどを溶接にて容易かつ正確に接合することも可能となる。
【0061】
上述のとおり、サイドフレーム6L,6Rおよびこれらに形成されたフランジ6Fは、一般的には、下方側から上方側に向かうにつれて前方側から後方側に向かうように斜め上に向かって延びている。フランジ6Fと正面部7Fとを接合する上での利便性を考えた場合には、正面部7Fも下方側から上方側に向かうにつれて前方側から後方側に向かうように斜め上に向かって延びていることが好ましい。一方で、アッパフレーム7を治具21(
図13)によって支持させた場合には、各種作業の利便性を考えると、正面部7Fのうちの貫通孔HR,HLの周縁部分は、載置台20の表面に対して平行になることが好ましい。本実施の形態では、アッパフレーム7の正面部7Fに平坦部7FAおよび立壁部7FBの双方が設けられていることによって、これら利便性の両立を得ることが可能となっている。また、本実施の形態においてはアッパフレーム7の平坦部7FAの中央に立壁部7FBが設けられていることによって、アッパフレーム7の全体としての剛性向上を図ることも可能となっている。
【0062】
より好適な態様としては、アッパフレーム7のうちのシート幅方向において中央寄りに位置する第1領域R1と、アッパフレーム7のうちのシート幅方向において右端部寄りに位置する第2領域R2とは、同一平面上に位置するように形成された部分を有しているとよい。当該構成は、θA=θBであることと同義である。この関係を満足しているという技術的特徴によれば、正面部7Fの表面(ここでは平坦部7FA)が実質的に全くよじれておらず極めて平面に近い形状を呈していることとなり、ブラケット10の当接部14をアッパフレーム7の平坦部7FAに容易に接合することが可能になるとともに、高い位置精度でブラケット10をアッパフレーム7に固定することも可能となる。
【0063】
以上、実施の形態について説明したが、上記の開示内容はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
1 乗物用シート、2 シートクッション、3 シートバック、3U ユニット、4 ヘッドレスト、4L,4R ステー、5 バックフレーム、6B,6F フランジ、6L,6R サイドフレーム、7 アッパフレーム、7D 下面部、7F 正面部、7FA 平坦部、7FB 立壁部、7FC 湾曲部、7HD,7HU 嵌合孔、7P 上側フランジ、7Q 下側フランジ、7U 上面部、8L,8R サポートブラケット、9L,9R ホルダー、10 ブラケット、11 前方下部、12 後方下部、13 凹所、14 当接部、15 溶接用長穴、16 ロアフレーム、20 載置台、21 治具、22 ボス部、23 段差、B,D,F,L,R,U 矢印、HL,HR 貫通孔、R1 第1領域、R2 第2領域、R3 第3領域。