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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】予混合圧縮着火式エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/02 20060101AFI20220112BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20220112BHJP
   F02D 41/38 20060101ALI20220112BHJP
   F02B 17/00 20060101ALI20220112BHJP
   F02B 23/00 20060101ALI20220112BHJP
   F02B 23/02 20060101ALI20220112BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
F02D41/02
F02D41/04
F02D41/38
F02B17/00 F
F02B23/00 H
F02B23/02 H
F02B23/02 N
F02B23/10 320
F02B23/10 310A
F02B23/10 310E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018115767
(22)【出願日】2018-06-19
(65)【公開番号】P2019218883
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2020-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】乃生 芳尚
(72)【発明者】
【氏名】太田 統之
(72)【発明者】
【氏名】荒木 啓二
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-121410(JP,A)
【文献】特開2010-037947(JP,A)
【文献】特開2010-236477(JP,A)
【文献】特開2016-217224(JP,A)
【文献】特開2013-011247(JP,A)
【文献】特開2019-203399(JP,A)
【文献】特開2019-203400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/02
F02D 41/04
F02D 41/38
F02B 17/00
F02B 23/00
F02B 23/02
F02B 23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室が形成された気筒を有するエンジン本体を備え、該燃焼室内で燃料と空気との混合気を自着火させる予混合圧縮着火式エンジンであって、
上記エンジン本体の幾何学的圧縮比が、16以上であり、
上記燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
1つ又は複数の放電電極部を有し、該放電電極部での放電により該放電電極部に非平衡プラズマを生成するプラズマ生成手段と、
上記プラズマ生成手段の作動を制御する制御手段とを備え、
上記制御手段は、
上記エンジン本体の運転時における吸気行程において、上記燃焼室に吸入された空気、又は、該空気と上記燃料噴射弁により上記燃焼室内に噴射された燃料とによる、第1所定空燃比以上の燃料リーンな混合気に対して上記非平衡プラズマを照射するように、上記プラズマ生成手段の少なくとも1つの放電電極部で、第1の放電を実行させるとともに、
圧縮行程において、上記燃料噴射弁により上記燃焼室内に噴射された燃料、又は、上記空気と該燃料とによる、上記第1所定空燃比よりも小さい第2所定空燃比未満の燃料リッチな混合気に対して上記非平衡プラズマを照射するように、上記プラズマ生成手段の、上記第1の放電を実行させた放電電極部と同じか又は異なる放電電極部で、第2の放電を実行させる
ように構成されていることを特徴とする予混合圧縮着火式エンジン。
【請求項2】
請求項1記載の予混合圧縮着火式エンジンにおいて、
上記制御手段は、吸気行程において上記第1の放電を実行させることで、上記燃焼室内での混合気の燃焼を促進する物質である活性種を生成するとともに、圧縮行程において上記第2の放電を実行させることで、上記燃焼室内での混合気の燃焼を抑制する物質である抑制種を生成するように構成されていることを特徴とする予混合圧縮着火式エンジン。
【請求項3】
請求項1又は2記載の予混合圧縮着火式エンジンにおいて、
上記燃焼室内に、吸入された空気のタンブル流が生成されるようになされており、
上記プラズマ生成手段は、上記燃焼室の天井面中央の近傍から該燃焼室に臨みかつ上記第1の放電及び上記第2の放電の両方を実行する放電電極部を有していることを特徴とする予混合圧縮着火式エンジン。
【請求項4】
請求項1又は2記載の予混合圧縮着火式エンジンにおいて、
上記燃焼室内に、吸入された空気のスワール流が生成されるようになされており、
上記プラズマ生成手段は、上記燃焼室の天井面の外周部から該燃焼室に臨みかつ上記第1の放電を実行する放電電極部と、上記燃焼室の天井面中央の近傍から該燃焼室に臨みかつ上記第2の放電を実行する放電電極部とを有していることを特徴とする予混合圧縮着火式エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予混合圧縮着火式エンジンに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃焼室内で燃料と空気との混合気を自着火させる(HCCI燃焼させる)予混合圧縮着火式エンジンが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、幾何学的圧縮比が15以上40以下とされた高圧縮比のエンジンも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
さらに、例えば特許文献3には、放電電極部への電圧の印加による該放電電極部での放電により該放電電極部に非平衡プラズマ(低温プラズマとも呼ばれる)を生成するようにしたエンジンが開示されている。このエンジンは、中心電極及び接地電極で構成された放電電極部(中心電極及び接地電極間)に放電が生じる点火プラグ(放電プラグ)と、中心電極及び接地電極間に非平衡プラズマ状態を形成する短パルスの電界を発生可能な短パルス回路とを備え、この短パルス回路により、中心電極及び接地電極間に短パルスの電界を発生させることで、放電電極部に非平衡プラズマを生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-081527号公報
【文献】特開2013-194712号公報
【文献】特開2014-141919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らが鋭意研究したところ、放電プラグの放電電極部の周辺に、空気又は空燃比のかなり大きい燃料リーンな混合気(基本的に空気)が存在しているときに、放電電極部での放電により非平衡プラズマが生成されたときには、空気に非平衡プラズマが照射されることで、空気から、混合気の自着火及び燃焼を促進する物質である活性種(例えばオゾン、OH等)が生成されることが分かった。一方、放電電極部の周辺に、燃料又は比較的燃料リッチな混合気が存在しているときに、放電電極部での放電により非平衡プラズマが生成されたときには、燃料又は比較的燃料リッチな混合気に非平衡プラズマが照射されることで、燃料から、混合気の自着火及び燃焼を抑制する物質である抑制種(例えばホルムアルデヒド、二酸化窒素等)が生成されることが分かった。このように、放電電極部の周辺の空燃比に応じて、非平衡プラズマを生成することにより、混合気の燃焼を制御できることが分かった。
【0006】
ここで、高圧縮比の予混合圧縮着火式エンジンでは、圧縮行程における圧縮上死点付近において燃焼室の中央部から混合気の自着火が開始し、燃焼が燃え拡がることにより、燃焼室内の圧力が急激に上昇するとともに、最大圧力が非常に高くなり、この結果、燃焼騒音の増大やエンジンの信頼性の低下を招き易くなる。また、燃焼室内の温度も非常に高くなり、RawNOxの発生量が増大し易くなる。
【0007】
そこで、上記抑制種によって、自着火の開始時期を遅らせて圧縮上死点以降にすることが考えられる。このように自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせれば、燃焼室内の圧力の急上昇を抑制することができるとともに、燃焼室内の最大圧力及び温度が高くなり過ぎるのを抑制することができる。
【0008】
しかし、自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせると、燃焼室の外周部の領域では、ゆっくりとした熱発生にしかならず、このため、エンジンの熱効率を低下させるとともに、ピストンの下降による燃焼室内の圧力低下及び温度低下によって、特に燃焼後期の燃焼が不安定になるという問題がある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、非平衡プラズマを利用することによって、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせつつ、燃焼後期の燃焼を安定させることが可能な予混合圧縮着火式エンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明では、燃焼室が形成された気筒を有するエンジン本体を備え、該燃焼室内で燃料と空気との混合気を自着火させる予混合圧縮着火式エンジンを対象として、上記エンジン本体の幾何学的圧縮比が、16以上であり、上記燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁と、1つ又は複数の放電電極部を有し、該放電電極部での放電により該放電電極部に非平衡プラズマを生成するプラズマ生成手段と、上記プラズマ生成手段の作動を制御する制御手段とを備え、上記制御手段は、上記エンジン本体の運転時における吸気行程において、上記燃焼室に吸入された空気、又は、上記燃料噴射弁により上記燃焼室内に噴射された燃料により該燃焼室内に形成された第1所定空燃比以上の燃料リーンな混合気に対して上記非平衡プラズマを照射するように、上記プラズマ生成手段の少なくとも1つの放電電極部で、第1の放電を実行させるとともに、圧縮行程において、上記燃料噴射弁により上記燃焼室内に噴射された燃料又は該燃料により該燃焼室内に形成された、上記第1所定空燃比よりも小さい第2所定空燃比未満の燃料リッチな混合気に対して上記非平衡プラズマを照射するように、上記プラズマ生成手段の、上記第1の放電を実行させた放電電極部と同じか又は異なる放電電極部で、第2の放電を実行させるように構成されている、という構成とした。
【0011】
より詳細には、上記制御手段は、吸気行程において上記第1の放電を実行させることで、上記燃焼室内での混合気の燃焼を促進する物質である活性種を生成するとともに、圧縮行程において上記第2の放電を実行させることで、上記燃焼室内での混合気の燃焼を抑制する物質である抑制種を生成するように構成されている。
【0012】
上記の構成により、吸気行程における第1の放電の実行により、空気又は第1所定空燃比以上の燃料リーンな混合気に対して非平衡プラズマを照射することで、空気から活性種が生成される。また、圧縮行程における第2の放電の実行により、燃焼室内に噴射された燃料又は第2所定空燃比未満の燃料リッチな混合気に対して非平衡プラズマを照射することで、燃料から抑制種が生成される。圧縮行程で噴射された燃料は、圧縮上死点付近において、燃焼室の中央部に、比較的燃料リッチな混合気層を形成する。圧縮行程で燃料から生成された抑制種は、基本的に、燃焼室の中央部における燃料リッチな混合気層中に存在することになる。また、圧縮上死点付近において、燃料リッチな混合気層の周囲には、吸気行程で燃焼室に吸入された空気、又は、該空気を含む、該混合気層よりも燃料リーンな混合気層が存在する。吸気行程で空気から生成された活性種は、燃料リーンな混合気層中に存在することになる。
【0013】
ここで、燃料リッチな混合気層中に抑制種が存在しなければ、高圧縮比であることから、圧縮行程における圧縮上死点付近で、混合気の自着火が開始される。また、混合気の自着火は、燃焼室において温度が最も高くなりかつ燃料リッチな混合気層が形成された中央部から開始される。これに対し、燃料リッチな混合気層中に抑制種が存在していると、その抑制種によって、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせることができるようになる。
【0014】
そして、圧縮上死点以降に混合気の自着火が開始された後、燃焼が燃料リッチな混合気層の周囲にまで拡がると、そこには活性種が存在するので、その活性種によって、燃焼が促進される。この結果、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせても、燃焼後期の燃焼性が向上して、燃焼後期の燃焼が安定するようになる。しかも、活性種が生成されない場合に比べて、燃焼の促進により、燃焼を早期に終了させることができ(燃焼期間を短くすることができ)、このことからも、燃焼後期の燃焼を安定させることができるようになる。したがって、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせつつ、燃焼後期の燃焼を安定させることができる。
【0015】
上記予混合圧縮着火式エンジンの一実施形態において、上記燃焼室内に、吸入された空気のタンブル流が生成されるようになされており、上記プラズマ生成手段は、上記燃焼室の天井面中央の近傍から該燃焼室に臨みかつ上記第1の放電及び上記第2の放電の両方を実行する放電電極部を有している。
【0016】
このことにより、燃焼室内に吸入空気のタンブル流が生成される場合、吸気行程において、燃焼室の天井面中央の近傍から該燃焼室に臨む放電電極部での第1の放電により、燃焼室内に吸入された直後の空気に対して非平衡プラズマを照射することができる。また、圧縮行程において、第1の放電を実行した放電電極部と同じ放電電極部での第2の放電により、燃焼室内に噴射された燃料又は燃料リッチな混合気に対して非平衡プラズマを照射することができる。
【0017】
上記予混合圧縮着火式エンジンの別の実施形態において、上記燃焼室内に、吸入された空気のスワール流が生成されるようになされており、上記プラズマ生成手段は、上記燃焼室の天井面の外周部から該燃焼室に臨みかつ上記第1の放電を実行する放電電極部と、上記燃焼室の天井面中央の近傍から該燃焼室に臨みかつ上記第2の放電を実行する放電電極部とを有している。
【0018】
このことで、燃焼室内に吸入空気のスワール流が生成される場合、吸気行程において、燃焼室の天井面の外周部から該燃焼室に臨む放電電極部での第1の放電により、燃焼室内に吸入された空気に対して非平衡プラズマを照射することができる。また、圧縮行程において、燃焼室の天井面中央の近傍から該燃焼室に臨む放電電極部での第2の放電により、燃焼室内に噴射された燃料又は燃料リッチな混合気に対して非平衡プラズマを照射することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の予混合圧縮着火式エンジンによると、燃料から生成された抑制種によって、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせることができるとともに、空気から生成された活性種によって、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせても、燃焼後期の燃焼を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る予混合圧縮着火式エンジンの概略構成を示す図である。
図2】上記エンジンの要部を拡大して示す断面図である。
図3】上記エンジンの或る1つの気筒の概略平面図である。
図4】上記エンジンの制御系を示すブロック図である。
図5】上記放電プラグの放電電極部に印加するパルス電圧のパルス幅とピーク値とに応じて、放電電極部での放電により生成されるプラズマの種類を示す図である。
図6】非平衡プラズマを生成する際のパルス電圧の波形の一例を示すグラフである。
図7】第1の放電及び第2の放電の実行タイミングと燃料噴射のタイミングとを示すタイムチャートである。
図8】圧縮上死点付近における燃焼室内の燃料分布を示す図である。
図9】本実施形態に係る予混合圧縮着火式エンジン、及び、圧縮上死点付近で自着火する予混合圧縮着火式エンジンのPV線図を示すグラフである。
図10】実施例及び比較例における熱発生率(dQ/dθ)の変化を示すグラフである。
図11】上記実施例及び上記比較例における圧力上昇率(dP/dθ)の変化を示すグラフである。
図12】変形例を示す図2相当図である。
図13】上記変形例を示す図3相当図である。
図14】更に別の変形例を示す図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る予混合圧縮着火式エンジン1(以下、エンジン1という)を示す。本実施形態では、エンジン1は、燃焼室6が形成された4つの気筒2(シリンダ)を有するエンジン本体1aを備えていて、各気筒2における燃焼室6内で燃料と空気との混合気を自着火させるエンジンである。
【0023】
エンジン1は、エンジン本体1aの4つの気筒2が図1の紙面に垂直な方向に直列に配置された直列4気筒エンジンである。エンジン1は、車両に搭載されて、該車両の駆動源として利用される。本実施形態では、エンジン1は、少なくともガソリンを含有する燃料の供給を受けて駆動される。燃料は、ガソリンに加えて、例えばバイオエタノール等が含有されていてもよい。
【0024】
エンジン本体1aは、4つの気筒2が設けられたシリンダブロック3と、このシリンダブロック3上に配設されたシリンダヘッド4とを有している。各気筒2内には、シリンダヘッド4との間に燃焼室6を区画するピストン5が往復動(上下動)可能にそれぞれ嵌挿されている。各気筒2のピストン5は、コンロッド8を介して、気筒列方向に延びる不図示のクランクシャフトと連結されている。
【0025】
燃焼室6は、いわゆるペントルーフ型であり、シリンダヘッド4の下面で構成される、燃焼室6の天井面が、吸気側及び排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。
【0026】
ピストン5の冠面5aには、該冠面5aの中心部をシリンダヘッド4とは反対側(下側)に凹ませたキャビティ5bが形成されている。ピストン5の側周面における冠面5aの近傍には、複数(本実施形態では、3つ)のピストンリング5c(図2参照)が嵌められている。
【0027】
本実施形態では、エンジン本体1aの幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積に対して、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積の比が、16以上に設定されている。エンジン本体1aの幾何学的圧縮比は、16以上30以下に設定されていることが好ましく、20以上25以下に設定されていることがより一層好ましい。
【0028】
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気を気筒2(燃焼室6)内に導入するための吸気ポート9と、気筒2内で生成された排気ガスを排気通路30に導出するための排気ポート10とが形成されている。本実施形態では、吸気ポート9及び排気ポート10は、各気筒2毎にそれぞれ2つずつ形成されている。本実施形態では、吸気ポート9の形状により、燃焼室6内には、吸気ポート9から燃焼室6に吸入された空気のタンブル流T(図2参照)が生成されるようになっている。
【0029】
また、シリンダヘッド4には、各吸気ポート9の燃焼室6側の開口9a(図3参照)をそれぞれ開閉する吸気弁11と、各排気ポート10の燃焼室6側の開口10a(図3参照)をそれぞれ開閉する排気弁12とが設けられている。
【0030】
吸気弁11は、吸気動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。吸気動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とされている。本実施形態では、この可変動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)17を有している。吸気電動S-VT17は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、吸気弁11の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
【0031】
排気弁12は、排気動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。排気動弁機構も、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とされている。本実施形態では、この可変動弁機構は、排気電動S-VT18を有している。排気電動S-VT18は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、排気弁12の開弁時期及び閉弁時期は、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
【0032】
さらに、図2及び図3にも示すように、シリンダヘッド4には、各気筒2毎に、燃料をピストン5の冠面5aに向かって噴射する燃料噴射弁14が設けられている。燃料噴射弁14は、各気筒2の燃焼室6の天井壁の略中央に取り付けられている。燃料噴射弁14は、その先端部に、燃料を噴射する燃料噴射口を有し、該燃料噴射口が燃焼室6の天井面の略中央から燃焼室6に臨んでいる。燃料噴射弁14の燃料噴射口から噴射される燃料の燃圧は、15MPa以上60MPa以下に設定される。
【0033】
本実施形態では、燃料噴射弁14は、燃料噴射口を開閉する外開弁を有する、外開弁式の燃料噴射弁である。燃料噴射口は、先端側ほど径が大きくなるテーパ状に形成されている。そして、燃料噴射弁14は、燃料噴射口からピストン5の冠面に向かって略円錐状(詳しくはホローコーン状)に燃料を噴射する。この円錐のテーパ角は、例えば90°~100°である(内側の中空部のテーパ角は70°程度である)。燃料噴射弁14より噴射された燃料のペネトレーションは、燃焼室6の外周部にまでは届かないような長さとされている。尚、燃料噴射弁14は、外開弁式の燃料噴射弁に限らず、先端部に複数(例えば、10~20個)の噴孔(燃料噴射口)を有する多噴孔型の燃料噴射弁であってもよい。この場合も、該複数の噴孔から、燃料がピストン5の冠面5aに向かって、該複数の噴孔全体で略円錐状に拡がるように噴射される。
【0034】
また、シリンダヘッド4には、各気筒2毎に、燃焼室6の天井壁に取り付けられた放電プラグ13が設けられている。本実施形態では、放電プラグ13は、燃焼室6の天井壁の燃料噴射弁14の近傍における2つの排気ポート10の間の部分に設けられている。放電プラグ13は、金属製の放電電極部13aを有している。この放電電極部13aは、燃焼室6の天井面における上記燃料噴射弁口の近傍(天井面の中央近傍)における2つの排気ポート10の燃焼室6側の開口10aの間から燃焼室6に臨んでいる。
【0035】
放電電極部13aは、放電プラグ13の中心軸方向に互いに対向する金属製の中心電極13b及び接地電極13cで構成されている。中心電極13bは、中心電極13b及び接地電極13c間(つまり放電電極部13a)にプラズマを生成するための所定の電圧を印加する電圧印加回路91(図4参照)に接続されており、該電圧印加回路91により中心電極13b及び接地電極13c間に上記所定の電圧が印加されると、中心電極13bと接地電極13cとの間で放電して、該放電のエネルギーにより、放電電極部13aにプラズマ(本実施形態では、非平衡プラズマ)が生成されるようになっている。
【0036】
吸気ポート9には、吸気通路20が連通接続されている。この吸気通路20の上流側端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ21が配設されており、このエアクリーナ21で濾過した吸入空気が吸気通路20及び吸気ポート9を介して各気筒2の燃焼室6に供給される。
【0037】
吸気通路20におけるエアクリーナ21の下流側近傍には、吸気通路20に吸入された吸入空気量を検出するエアフローセンサSN2が配設されている。また、吸気通路20における下流端の近傍には、サージタンク25が配設されている。このサージタンク25よりも下流側の吸気通路20は、各気筒2毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒2の2つの吸気ポート9にそれぞれ接続されている。
【0038】
さらに、吸気通路20におけるエアフローセンサSN2とサージタンク25との間には、吸気通路20を開閉するためのスロットル弁22が配設されている。本実施形態では、スロットル弁22は、エンジン1の運転中、基本的に全開又はこれに近い開度に維持され、エンジン1を停止させるとき等の限られた運転条件のときにのみ閉弁されて吸気通路20を遮断する。
【0039】
排気ポート10には、各気筒2の燃焼室6からの排気ガスを排出する排気通路30が連通接続されている。この排気通路30の上流側の部分は、各気筒2毎に分岐して排気ポート10に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
【0040】
排気通路30(排気マニホールドよりも下流側の部分)には、排気を浄化する排気浄化装置31が設けられている。本実施形態では、排気浄化装置31は、3元触媒を含む。
【0041】
エンジン1は、排気ガスの一部を排気通路30から吸気通路20にEGRガスとして還流するためのEGR通路41を備える。このEGR通路41は、排気通路30における排気浄化装置31よりも上流側でかつ上記排気マニホールドよりも下流側の部分と、吸気通路20におけるサージタンク25の部分とを連通するように、該両部分に接続されている。
【0042】
EGR通路41には、該EGR通路41を開閉するEGR弁42と、該EGR通路41を通過するEGRガスを冷却するためのEGRクーラ43とが設けられている。EGRガスは、EGRクーラ43によって冷却された後に吸気通路20に還流される。
【0043】
尚、本実施形態では、エンジン1は、過給機を備えていないが、過給機を備えていてもよい。
【0044】
図4に示すように、エンジン1は、ECU(Engine ControlUnit)100によって制御される。ECU100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーである。ECU100は、CPU101、メモリ102、入出力バス103等を備えている。CPU101は、コンピュータプログラム(OS等の基本制御プログラム、及び、OS上で起動されて特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)を実行する中央演算処理装置である。メモリ102は、RAM及びROMにより構成されている。ROMには、種々のコンピュータプログラム(特にエンジン1を制御するための制御プログラム)や、該コンピュータプログラムの実行時に用いられる後述のマップを含むデータ等が格納されている。RAMは、CPU101が一連の処理を行う際に使用される処理領域が設けられるメモリである。入出力バス103は、ECU100に対して電気信号の入出力をするものである。
【0045】
ECU100には、クランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、アクセル開度センサSN3等の各種のセンサが電気的に接続されている。クランク角センサSN1は、シリンダブロック3に設けられていて、クランクシャフトの回転角を検出する。アクセル開度センサSN3は、車両のアクセルペダル機構に取り付けられていて、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検出する。これらセンサSN1~SN3等は、検知信号をECU100に出力する。
【0046】
ECU100は、センサSN1~SN3等からの入力信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断するとともに、電圧印加回路91、燃料噴射弁14、吸気電動S-VT17、排気電動S-VT18、スロットル弁22、EGR弁42等といった、エンジン1の各デバイスに対して制御信号を出力して、各デバイスを制御する。
【0047】
放電プラグ13の放電電極部13a及び電圧印加回路91は、放電電極部13aでの放電により放電電極部13aに非平衡プラズマを生成するプラズマ生成手段を構成する。また、ECU100は、該プラズマ生成手段の作動を制御する制御手段を構成する。
【0048】
本実施形態では、エンジン本体1aの燃焼サイクルにおいて、放電プラグ13の放電電極部13aでの放電により非平衡プラズマ(低温プラズマとも呼ばれる)を生成することによって、燃焼室6内での燃焼を制御するようにしている。尚、非平衡プラズマとは、燃焼室6内のガス温度の上昇を伴わず、燃焼室6内の電子と、燃焼室6内のガスのイオンや分子とが熱平衡状態にないプラズマのことをいう。
【0049】
非平衡プラズマは、放電プラグ13の放電電極部13a(中心電極13b及び接地電極13c間)に印加するパルス電圧のパルス幅及びピーク値を適切な値に設定することによって生成することができる。図5は、パルス電圧のパルス幅とピーク値とに応じて、放電電極部13aでの放電により生成されるプラズマの種類を示す。図5の横軸はパルス電圧のパルス幅であり、対数スケールで示している。一方、図5の縦軸はパルス電圧のピーク値であり、対数スケールで示している。図5に示すように、パルス幅を短くすると(具体的には、0.01μsec以上かつ1μsec未満にすると)、非平衡プラズマが生成されることが分かる。これは、パルス幅の短いパルス電圧では、電子のみが反応して、イオンや分子はほとんど反応しないためである。一方、パルス幅を長くすると(1μsec以上にすると)、熱平衡プラズマ(高温プラズマとも呼ばれる)が生成されることが分かる。非平衡プラズマは、混合気を着火する点火源とはならないが、熱平衡プラズマは、混合気を着火する点火源となる。
【0050】
本実施形態では、図6に示すように、電圧印加回路91により放電プラグ13の放電電極部13aに印加する上記所定の電圧は、ピーク値が10kVでかつパルス幅が0.1μsecのパルス電圧であり、このパルス電圧により、非平衡プラズマを生成する。ECU100は、非平衡プラズマを生成する際には、電圧印加回路91を作動させて、該電圧印加回路91により、上記パルス電圧を100kHzの周波数でもって放電電極部13aに繰り返し印加させるようにする。図6では、パルス電圧は三角波であるが、方形波であってもよい。
【0051】
尚、非平衡プラズマを生成する際の放電電極部13aに印加するパルス電圧のピーク値は、10kVに固定する必要はなく、例えば燃焼室6内の圧力(圧力センサにより検出する)等に基づいて、1kV~30kVの範囲で変更してもよい。詳しくは、燃焼室6内の圧力が高いほど、パルス電圧のピーク値を高く設定してもよい。
【0052】
放電電極部13aに非平衡プラズマが生成されたとき、放電電極部13aの周辺の空燃比に応じて、燃焼室6内において生成される物質が異なる。すなわち、放電電極部13aの周辺に、空気、又は、空気と燃料とによる、第1所定空燃比以上の燃料リーンな混合気(基本的に空気)が存在している場合に、放電電極部13aに非平衡プラズマが生成されると、その空気又は燃料リーンな混合気に非平衡プラズマが照射されて、空気から、オゾン(O)やOH等のような、燃焼室6内での混合気の自着火及び燃焼を促進させる物質である活性種が生成される。一方、放電電極部13aの周辺に、燃料、又は、空気と燃料とによる、上記第1所定空燃比よりも小さい第2所定空燃比未満の燃料リッチな混合気が存在している場合に、放電電極部13aに非平衡プラズマが生成されると、その燃料又は燃料リッチな混合気に非平衡プラズマが照射されて、燃料を基にして、ホルムアルデヒド(CHO)や二酸化窒素(NO)等のような、燃焼室6内での混合気の自着火及び燃焼を抑制させる物質である抑制種が生成される。
【0053】
したがって、基本的に、放電電極部13aの近傍に位置する燃料噴射弁14より燃料を噴射しているときに、放電電極部13aに非平衡プラズマが生成されたときには、抑制種が生成される一方、吸気行程で吸気を行っていて燃料を噴射してないときに、非平衡プラズマが生成されたときには、活性種が生成されることになる。このようにして燃焼室6に活性種及び/又は抑制種を生成することによって、混合気の燃焼を早めたり遅らせたりすることで燃焼を制御する。
【0054】
本実施形態では、エンジン本体1aの全運転領域において、圧縮着火燃焼(CI燃焼)が実施される。具体的には、エンジン本体1aの運転時における圧縮上死点よりも前に燃料噴射弁14から燃焼室6内に燃料が噴射され、この燃料と空気との混合気を圧縮することで昇温して、混合気を自着火させる。本実施形態では、後に説明するように、圧縮上死点以降に混合気を自着火させる。
【0055】
より具体的には、図7に示すように、ECU100は、燃料噴射弁14に対して、吸気行程における吸気下死点の付近、及び、圧縮行程の後半に燃料噴射を行わせる。特に圧縮行程では、複数回(本実施形態では、3回)に分けて燃料噴射を行わせることが好ましい。
【0056】
このような燃料の噴射によって、図8に示すように、圧縮上死点付近において、燃焼室6の中央部に、比較的燃料リッチな混合気層51(圧縮行程で噴射された燃料と空気との混合気層)が形成されるとともに、混合気層51の周囲には、混合気層51よりも燃料リーンな混合気層52(吸気行程で噴射された燃料と空気との混合気層)が形成される。
【0057】
また、ECU100は、吸気行程において、燃焼室6に吸入された直後の空気に対して非平衡プラズマを照射するように、放電プラグ13の放電電極部13aで、第1の放電を実行させる。すなわち、図7に示すように、吸気行程における燃料噴射の前に(燃料噴射弁14の非作動時に)、電圧印加回路91を作動させて、放電プラグ13の放電電極部13aに上記所定の電圧(上記パルス電圧)を印加することで、放電電極部13aに非平衡プラズマを生成する。この第1の放電の実行時、各吸気ポート9の燃焼室6側の開口9aから燃焼室6内に空気が流入した直後に、該空気が放電電極部13aの近傍を通るので、その空気に対して非平衡プラズマが照射されることになる。これにより、空気から上記活性種が生成される。
【0058】
上記のように空気から生成された活性種は、基本的に、混合気層52中に存在することになる。尚、特にエンジン本体1aの回転数が高くなると、生成された活性種が拡散し易くなるので、第1の放電の実行は、吸気行程の中期及び後期(吸気行程を初期、中期及び後期と3等分したときの中期及び後期)が好ましい。
【0059】
さらに、ECU100は、その後の圧縮行程(詳細には、圧縮行程の後半であって、本実施形態では、2回目の分割噴射の開始から3回目の分割噴射の終了までの期間)において、燃料噴射弁14により燃焼室6内に噴射された燃料に対して非平衡プラズマを照射するように、放電電極部13a(本実施形態では、上記第1の放電を実行させた放電電極部と同じ放電電極部)で、第2の放電を実行させる。すなわち、図7に示すように、圧縮行程における2回目の分割噴射の開始から3回目の分割噴射の終了までの期間において、電圧印加回路91を連続的に作動させて、放電プラグ13の放電電極部13aに上記所定の電圧(上記パルス電圧)を印加することで、放電電極部13aに非平衡プラズマを生成する。この第2の放電の実行時、放電電極部13aの周辺には、燃料噴射弁14により噴射された燃料が存在する。2回目の分割噴射と3回目の分割噴射との間における燃料の非噴射時においても、その間が短くかつ燃料のペネトレーションが短いので、基本的に、放電電極部13aの周辺に燃料が存在する。この放電電極部13aの周辺に存在する燃料に対して非平衡プラズマが照射されて、燃料から上記抑制種が生成される。
【0060】
尚、燃料リッチな混合気層51が放電電極部13aの周辺に位置する場合もあり、この混合気層51の空燃比が上記第2所定空燃比未満であれば、この第2所定空燃比未満の燃料リッチな混合気に対しても非平衡プラズマを照射して、上記抑制種を生成することができる。この場合、圧縮行程における2回目の分割噴射の開始から、混合気の自着火の開始時期まで、電圧印加回路91を連続的に作動させてもよい。また、電圧印加回路91の作動開始を、1回目の分割噴射の開始時とすることも可能である。
【0061】
上記のようにして燃料から生成された抑制種は、基本的に、混合気層51中に存在することになる。したがって、圧縮上死点付近において、抑制種は、燃焼室の中央部(混合気層51)に存在し、活性種は、その周囲(混合気層52)に存在する。
【0062】
ここで、混合気層51中に抑制種が存在しなければ、高圧縮比であることから、圧縮行程における圧縮上死点付近で、混合気の自着火が開始される。また、混合気の自着火は、燃焼室6において温度が最も高くなりかつ燃料リッチな混合気層51が形成された中央部から開始される。
【0063】
しかし、本実施形態では、混合気層51中に抑制種が存在するので、その抑制種によって、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせることができるようになる。混合気の自着火の開始時期は、その後の燃焼性を考慮して、膨張行程における圧縮上死点付近(例えば、クランク角度で圧縮上死点後5°~10°)であることが好ましい。これにより、燃焼室6内の圧力の急上昇を抑制することができるとともに、燃焼室6内の最大圧力及び温度が高くなるのを抑制することができる。
【0064】
そして、圧縮上死点以降に混合気の自着火が開始された後、燃焼が混合気層51の周囲にまで拡がると、そこには活性種が存在するので、その活性種によって、燃焼が促進される。この結果、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせても、燃焼後期の燃焼性が向上して、燃焼後期の燃焼が安定するようになる。しかも、活性種が生成されない場合に比べて、燃焼の促進により燃焼を早期に終了させることができ(燃焼期間を短くすることができ)、このことからも、燃焼後期の燃焼を安定させることができるようになる。
【0065】
図9は、本実施形態に係るエンジン1、及び、抑制種及び活性種を生成させずに圧縮上死点付近で自着火する予混合圧縮着火式エンジン(以下、従来のエンジンという)のPV線図を示す。エンジン1では、混合気の自着火の開始時期が、圧縮上死点後5°~10°とされている。従来のエンジンでは、燃焼室6内の最大圧力(Pmax)及び時間の変化に対する燃焼室6内の圧力の変化である圧力上昇率(dP/dt)が、特に異常燃焼時に大きくなり過ぎる(図9の破線参照)。これに対し、エンジン1では、Pmax及びdP/dtの値を小さくすることができる(図9の実線参照)。
【0066】
図10は、本実施形態に係るエンジン1(実施例)における、クランク角度の変化に対する熱発生量の変化である熱発生率(dQ/dθ)の変化を示す。実施例では、混合気の自着火の開始時期が、圧縮上死点後5°~10°とされている。比較のために、従来のエンジンにおいて、混合気の自着火をエンジン1と同じ程度に遅くした場合(比較例)のdQ/dθの変化を図10に合わせて示す。
【0067】
図11は、上記実施例における、クランク角度に対する燃焼室6内の圧力の変化である圧力上昇率(dP/dθ)を示す。比較のために、上記比較例におけるdP/dθの変化を図11に合わせて示す。
【0068】
図10に示すように、本実施形態に係るエンジン1においては、活性種によってdQ/dθが比較例よりも大きく増大し、その後、dQ/dθが急激に低下して、燃焼が早期に終了する。また、エンジン1においては、dQ/dθの増大によりdP/dθが上昇するが、dP/dθが上昇しても、ピストン5が或る程度下降していて燃焼室6内の圧力が低下している段階で上昇しているので、dP/dθが、燃焼騒音が懸念されるようなレベルに達するまでには余裕がある。
【0069】
したがって、本実施形態では、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせることにより、燃焼室6内の圧力の急上昇を抑制することができるとともに、燃焼室6内の最大圧力及び温度が高くなるのを抑制することができる。この結果、燃焼騒音の低減、エンジン本体1aの信頼性の向上、及び、RawNOxの発生量の低減を図ることができる。また、混合気の自着火の開始時期を圧縮上死点以降に遅らせても、燃焼後期の燃焼を安定させることができる。
【0070】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0071】
例えば、上記実施形態では、放電プラグ13が、燃焼室6の天井壁の燃料噴射弁14の近傍における2つの排気ポート10の間の部分に設けられているが、これに代えて、又は加えて、燃焼室6の天井壁の燃料噴射弁14の近傍における2つの吸気ポート9の間の部分に設けられてもよい。該2つの吸気ポート9の間の部分に設けられた放電プラグ13の放電電極部13aは、燃焼室6の天井面の中央近傍における2つの吸気ポート9の燃焼室6側の開口9aの間から燃焼室6に臨んで、上記実施形態と同様に、第1の放電及び第2の放電の両方を実行する。
【0072】
また、複数の放電プラグ13を設け、該複数の放電プラグ13のうちの少なくとも1つの放電プラグ13の放電電極部13aが第1の放電を実行し、残りの放電プラグ13の放電電極部13aが第2の放電を実行するようにしてもよい。燃焼室6内に、吸入された空気のタンブル流Tが生成される場合、例えば図12及び図13に示すように、第1の放電を実行する放電電極部13aを有する放電プラグ13(図12及び図13では、符号を13Aとしている)は、燃焼室6の天井壁の燃料噴射弁14の近傍における2つの排気ポート10の間の部分に配置され、第2の放電を実行する放電電極部13aを有する放電プラグ13(図12及び図13では、符号を13Bとしている)は、燃焼室6の天井壁の燃料噴射弁14の近傍における2つの吸気ポート9の間の部分に配置される。すなわち、放電プラグ13Aの放電電極部13aは、燃焼室6の天井面の中央近傍における2つの開口10aの間の部分から燃焼室6に臨み、放電プラグ13Bの放電電極部13aは、燃焼室6の天井面の中央近傍における2つの開口9aの間の部分から燃焼室6に臨むことになる。尚、図12及び図13に示す放電プラグ13Bを、放電プラグ13Aと共に第1の放電を実行するようにしてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、燃焼室6内に、吸入された空気のタンブル流Tが生成されるようになっているが、燃焼室6内に、吸入された空気のスワール流Sが生成されるようになっていてもよい。この場合、図14に示すように、各気筒2の2つの吸気ポート9のうちの一方の吸気ポート9に接続される上記独立通路(図14では、符号を20aとしている)に、スワール弁16を設けて、該スワール弁16の閉弁により、他方の吸気ポート9から空気を燃焼室6内に流入させる。
【0074】
上記のように燃焼室6内にスワール流Sが生成される場合、複数の放電プラグ13を設け、該複数の放電プラグ13のうちの少なくとも1つの放電プラグ13(放電プラグ13A)の放電電極部13aが第1の放電を実行し、残りの放電プラグ13(放電プラグ13B)の放電電極部13aが第2の放電を実行する。図14に示すように、放電プラグ13Aは、燃焼室6の天井壁の外周部に配置される。図14では、放電プラグ13Aは、燃焼室6の天井壁の外周部において、気筒2の中心軸方向から見て気筒2の中心を通りかつ気筒列方向に延びる直線L上の2箇所に配置されている。放電プラグ13Aは、該2箇所のうちのいずれか一箇所に配置されてもよく、この場合、上記他方の吸気ポート9に近い側の箇所に配置されることが好ましい。放電プラグ13Bは、上記実施形態と同様に、燃焼室6の天井壁の燃料噴射弁14の近傍に配置される。放電プラグ13Aの放電電極部13aは、燃焼室6の天井面の外周部(例えば、上記他方の吸気ポート9の開口9aと、該開口9aに対してスワール流Sの流れ方向進み側に隣接する開口10aとの間の部分)から燃焼室6に臨み、放電プラグ13Bの放電電極部13aは、燃焼室6の天井面の中央近傍(2つの開口9aの間の部分)から燃焼室6に臨むことになる。
【0075】
また、燃焼室6内にスワール流Sが生成される場合、放電プラグ13Aの、燃焼室6に臨む放電電極部13aが第1の放電を実行しているときに、燃料噴射弁14より燃料を噴射してもよい。この場合、第1の放電を実行している放電電極部13aの周辺が、燃焼室6に吸入された空気と燃料噴射弁14より噴射された燃料とによる、第1所定空燃比以上の燃料リーンな混合気(基本的に空気と見做すことが可能なかなり大きな空燃比の混合気)であれば、第1の放電の実行により活性種を生成可能である。
【0076】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、燃焼室が形成された気筒を有しかつ幾何学的圧縮比が16以上であるエンジン本体を備え、該燃焼室内で燃料と空気との混合気を自着火させる予混合圧縮着火式エンジンに有用である。
【符号の説明】
【0078】
1 予混合圧縮着火式エンジン
1a エンジン本体
2 気筒
5 ピストン
5a 冠面
6 燃焼室
13 放電プラグ
13a 放電電極部(プラズマ生成手段)
14 燃料噴射弁
91 電圧印加回路(プラズマ生成手段)
100 ECU(制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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