(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】レンズユニット、撮像装置および撮像装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G03B 5/00 20210101AFI20220112BHJP
H04N 5/225 20060101ALI20220112BHJP
H04N 5/232 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
G03B5/00 J
H04N5/225 300
H04N5/225 400
H04N5/232 480
H04N5/232 450
(21)【出願番号】P 2018194966
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀弘
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-025429(JP,A)
【文献】特開平10-221726(JP,A)
【文献】特開2001-169176(JP,A)
【文献】特開2010-015107(JP,A)
【文献】特開2013-134385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00
H04N 5/222-5/257
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補正レンズと、
前記補正レンズを保持して前記補正レンズの光軸に直交する平面方向へ移動する移動枠と、
前記移動枠を移動させる第1アクチュエータと、
少なくとも、前記移動枠を移動不能となるように固定する第1状態と、前記移動枠の移動を妨げない第2状態と、前記第1状態と前記第2状態の間の第3状態とを取り得る可動式の制限機構と、
前記制限機構の状態を切り替える第2アクチュエータと、
前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータを制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記第2アクチュエータを駆動して前記制限機構を前記第3状態にした場合に、前記移動枠が前記制限機構の予め定められた接触箇所に対して押し当てられた状態を保つように前記第1アクチュエータを制御するレンズユニット。
【請求項2】
前記制限機構は、前記第1状態と前記第2状態の間で前記第2アクチュエータの駆動により前記移動枠の移動範囲を段階的に制限する複数の制限状態に切り替え可能であり、前記第3状態は、前記複数の制限状態のうちの一つが選択されて設定される請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記制御部は、前記制限機構の前記第3状態において、前記移動枠が移動できない規定位置を目標位置と定めてフィードバック制御を行うことにより、前記移動枠が前記制限機構の予め定められた接触箇所に対して押し当てられた状態を保つ請求項1または2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
撮像素子の受光面に被写体像を結像させるための結像光学系を備え、
前記接触箇所は、前記第3状態における前記補正レンズの光軸が前記結像光学系の光軸と一致するように定められる請求項1から3のいずれか1項に記載のレンズユニット。
【請求項5】
撮像素子と、
請求項4に記載のレンズユニットと、
前記制限機構の前記第2状態で前記補正レンズを移動させ像振れを軽減して前記撮像素子による撮像を実行する防振モードと、前記制限機構の第3状態で前記補正レンズの移動を停止させて前記撮像素子による撮像を実行する非防振モードとを切り替えるモード切替部と
を備える撮像装置。
【請求項6】
前記モード切替部は、撮像された画像を再生する再生モードに切り替え可能であり、
前記制御部は、前記モード切替部が前記再生モードに切り替えられた場合に、前記制限機構を前記第1状態にする請求項5に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記制御部は、電源オフの指示を受けた場合に、前記制限機構を前記第1状態にする請求項5または6に記載の撮像装置。
【請求項8】
補正レンズの移動を停止させて撮像を実行する非防振モードが選択されている場合に、
可動式の制限機構を、前記補正レンズを保持する移動枠を移動不能となるように固定する第1状態と前記移動枠の移動を妨げない第2状態の間の、予め定められた第3状態に切り替える状態切替ステップと、
前記移動枠が前記制限機構の予め定められた接触箇所に対して押し当てられた状態を保つように制御する静止制御ステップと
前記静止制御ステップにより前記移動枠が前記接触箇所に対して押し当てられた状態で撮像制御を行う撮像制御ステップと
をコンピュータに実行させる撮像装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズユニット、撮像装置および撮像装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
撮像中の手振れによる像振れを抑制する光学式の振れ補正ユニットを備える撮像装置が知られている。振れ補正ユニットを動作させない時には補正レンズを固定する固定手段を備える撮像装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撮像装置の使用者は、撮像中であっても振れ補正ユニットを動作させたくない場合がある。そのような振れ補正オフの撮像モードでは、補正レンズの光軸を、結像光学系を構成する他のレンズの光軸と一致させておくことが望ましい。両光軸を一致させるために、一般的には、補正レンズをメカ機構により固定するか、補正レンズを所定位置に保つフィードバック制御を行う。しかし、前者の手法によると、両光軸を精確に一致させるための複雑なメカ機構を要する。両光軸のズレを許容してしまうと、ズーム時に画像中央位置が変化するなどの映像品質の低下を招くことになる。後者の手法によると、わずかな衝撃に対しても補正レンズが動いてしまい、やはり映像品質の低下を招くことになる。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、簡易な構成でありながら、撮像中に補正レンズの光軸を他のレンズの光軸と精確に一致させた状態を安定的に保つことのできるレンズユニット等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様におけるレンズユニットは、補正レンズと、補正レンズを保持して補正レンズの光軸に直交する平面方向へ移動する移動枠と、移動枠を移動させる第1アクチュエータと、少なくとも、移動枠を移動不能となるように固定する第1状態と、移動枠の移動を妨げない第2状態と、第1状態と第2状態の間の第3状態とを取り得る可動式の制限機構と、制限機構の状態を切り替える第2アクチュエータと、第1アクチュエータと第2アクチュエータを制御する制御部とを備え、制御部は、第2アクチュエータを駆動して制限機構を第3状態にした場合に、移動枠が制限機構の予め定められた接触箇所に対して押し当てられた状態を保つように第1アクチュエータを制御する。
【0007】
また、本発明の第2の態様における撮像装置は、撮像素子と、上記のレンズユニットと、制限機構の第2状態で補正レンズを移動させ像振れを軽減して撮像素子による撮像を実行する防振モードと、制限機構の第3状態で補正レンズの移動を停止させて撮像素子による撮像を実行する非防振モードとを切り替えるモード切替部とを備える。
【0008】
また、本発明の第3の態様における撮像装置の制御プログラムは、補正レンズの移動を停止させて撮像を実行する非防振モードが選択されている場合に、可動式の制限機構を、補正レンズを保持する移動枠を移動不能となるように固定する第1状態と移動枠の移動を妨げない第2状態の間の、予め定められた第3状態に切り替える状態切替ステップと、移動枠が制限機構の予め定められた接触箇所に対して押し当てられた状態を保つように制御する静止制御ステップと静止制御ステップにより移動枠が接触箇所に対して押し当てられた状態で撮像制御を行う撮像制御ステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、簡易な構成でありながら、撮像中に補正レンズの光軸を他のレンズの光軸と精確に一致させた状態を安定的に保つことのできるレンズユニット等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る撮像装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】移動枠のアンロック状態を示す模式図である。
【
図3】制限機構の状態切替えを説明する模式図である。
【
図6】半ロック状態の調整を説明する模式図である。
【
図7】撮像装置の処理フローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る撮像装置100の構成を示すブロック図である。撮像装置100は、例えばハンディタイプのビデオカメラである。本実施形態に係る撮像装置100は、結像光学系110、補正光学系120およびこれらを動作させる機構と制御部とを含むレンズユニットを内蔵するが、撮像部を含む本体ユニットに対してレンズユニットが着脱可能な撮像装置であっても構わない。また、以下においては、動画像の撮像を前提として説明するが、静止画像の撮像機能を主たる機能とする撮像装置であっても構わない。
【0013】
結像光学系110は、ズームレンズ111とフォーカスレンズ112を含む。補正光学系120は、補正レンズ121を含む。補正レンズ121は、移動枠160に保持されている。移動枠160は、補正レンズ121の光軸に直交する平面方向へ移動することができる。制限機構170は、移動枠160の周囲を取り囲むように配置され、移動枠160の移動を制限するメカ機構である。補正レンズ121、移動枠160、制限機構170は、手振れ補正ユニットを構成する。
【0014】
被写体像は結像光学系110および補正光学系120を通過して撮像素子130の結像面に結像する。なお、図においてはズームレンズ111、フォーカスレンズ112、補正レンズ121の順に示しているが、レンズ要素の配置はこの順に限らない。また、ひとつのレンズが複数の機能を担う構成であっても構わない。
【0015】
撮像素子130は、被写体像である光学像を光電変換する素子であり、例えばCMOSセンサが用いられる。撮像素子130で光電変換された被写体信号は、アナログフロントエンド(AFE)132を介してデジタル信号に変換され、バスライン131へ送られる。メモリ133は、例えばSRAMなどの揮発性メモリであるワークメモリと、例えばSSDなどの不揮発性記録媒体であるシステムメモリとを含む。ワークメモリは、AFE132から受け取った被写体信号をフレーム単位で画像処理部134へ引き渡したり、画像処理部134が画像処理する途中段階において一時的な記憶領域を提供したりする。システムメモリは、撮像装置100の動作時に必要な定数、変数、設定値、制御プログラム等を保持する。
【0016】
画像処理部134は、設定されている撮像モードやユーザからの指示に即して、画像データを特定の画像フォーマットに従った画像ファイルに変換する。例えば、動画像としてMPEGファイルを生成する場合、連続する静止画としてのフレーム画像に対して、フレーム内符号化、フレーム間符号化を施して圧縮処理を行う。また、画像処理部134は、例えば液晶ディスプレイであるモニタ136で表示する映像信号を、画像ファイルへの変換に並行して、あるいは画像ファイルへの変換を行うことなく単独で生成する。表示処理部135は、受け取った映像信号をモニタ136で表示するための表示信号に変換する。
【0017】
画像処理部134によって処理された動画像ファイルは、出力処理部137および記録媒体IF138を介して、記録媒体201に記録される。記録媒体201は、フラッシュメモリ等により構成される、撮像装置100に対して着脱可能な不揮発性メモリである。また、出力処理部137は、通信IF139を介して、外部機器へ動画像ファイルを送信することもできる。通信IF139は、例えばインターネットへ接続するための無線LANユニットである。
【0018】
撮像装置100は、ユーザからの操作を受け付ける操作部材140を複数備えている。制御部150は、これら操作部材140が操作されたことを検知し、操作に応じた動作を実行する。制御部150は、例えばCPUであり、撮像装置100を構成する各要素を直接的または間接的に制御する。制御部150による制御は、メモリ133から読みだされた制御プログラム等によって実現される。
【0019】
移動枠駆動部151および状態切替駆動部152は、手振れ補正ユニットを構成する。移動枠駆動部151は、移動枠160を移動させる第1アクチュエータとして、ボイスコイルモータを含む。手振れ補正ユニットは、図示する要素の他に移動枠160の位置を検出する位置検出センサと、撮像装置100に加えられるブレを検出する振れ検出センサを含む。制御部150は、後述する防振モードがオンである場合に、振れ検出センサで検出されたブレを打ち消すように移動枠160を目標位置へ移動させるための駆動信号を移動枠駆動部151へ送信する。移動枠駆動部151が当該駆動信号に従って移動枠160を移動させることにより、被写体像は、撮像素子130の受光面上で安定した結像状態を維持する。
【0020】
状態切替駆動部152は、制限機構170の状態を切り替える第2アクチュエータとして、ステッピングモータを含む。制限機構170は、後述するように少なくとも3つの状態を取り得る可動式のメカ機構である。制御部150は、制限機構170の状態を切り替えるための駆動信号を状態切替駆動部152へ送信する。状態切替駆動部152が当該駆動信号に従って制限機構170の状態を切り替えると、制限機構170は、切り替えられた状態を安定的に維持する。
【0021】
フォーカス駆動部153は、フォーカスレンズ112を光軸方向へ移動させるためのモータを含む。フォーカス駆動部153は、連続して取得される画像信号のコントラスト情報に基づいて、特定のフォーカスエリアの被写体像が撮像素子130の受光面上で合焦するように、フォーカスレンズ112を移動させる。ズーム駆動部154は、ズームレンズ111を光軸方向へ移動させるためのモータを含む。ズーム駆動部154は、ユーザの指示に応じて被写体像の画角を変更するように、ズームレンズ111を移動させる。
【0022】
次に、制限機構170が取り得る3つの状態について説明する。
図2は、制限機構170が移動枠160の移動を妨げないアンロック状態を示す模式図であり、光軸方向から補正レンズ121を観察した様子を表わす。ここでは、補正レンズ121を保持する移動枠160と、制限機構170のうち移動枠160の移動範囲を確定させる3つのアーム部材(第1アーム171a、第2アーム171b、第3アーム171c)を概略的に示している。
【0023】
移動枠160は、円筒形状をなし、内側面に補正レンズ121が嵌め込まれている。移動枠160は、光軸に直交する平面内で移動可能なように、例えば不図示のコイルバネに吊られて支持されている。移動枠160は、直交する二軸方向にそれぞれ配置された第1コイル161aと第2コイル161bを縁部に備える。第1コイル161aと第2コイル161bは、移動枠160を移動させるためのボイスコイルモータの一部であり、ベース部材に設けられた第1マグネットと第2マグネットにそれぞれ対向する。
【0024】
第1アーム171a、第2アーム171b、第3アーム171cは、移動枠160の外側面側に120度間隔で配置されている。それぞれのアームのうち、移動枠160の外側面に対向する対向面は、当該外側面に倣うような曲面となっている。
【0025】
第1アーム171aは、それぞれ光軸方向と平行に立設された、第1回動ピン172aと第1カムピン173aを有する。第1回動ピン172aの先端部は、不図示のベース部材に回動可能に支持されている。これにより、第1アーム171aは、第1回動ピン172aを回動軸として回動することができる。第1カムピン173aについては後述する。第2アーム171bも同様に第2回動ピン172bおよび第2カムピン173bを有し、第3アーム171cも同様に第3回動ピン172cおよび第3カムピン173cを有する。
【0026】
図2に示すアンロック状態は、移動枠160が振れ補正を行うための可動範囲内の移動を制限しないように、それぞれのアームの対向面が移動枠160の外側面から十分離れた状態である。それぞれのアームは、状態切替駆動部152のステッピングモータの作用により、そのような状態を安定的に維持することができる。
【0027】
図3は、制限機構170の状態切替えを説明する模式図である。
図3は、
図2と同様に補正レンズ121の光軸方向から観察した様子を示すが、補正レンズ121および移動枠160を省略して、制限機構170の主な要素を概略的に示している。
【0028】
制限機構170は、
図2で説明した第1アーム171a、第2アーム171b、第3アーム171cの他にも、駆動リング174、駆動歯車175を有する。駆動リング174は、被写体光束を遮らないように内部がくり抜かれた円盤形状をなす。また、駆動リング174は、第1カムピン173aを挿通させる第1カム溝174a、第2カムピン173bを挿通させる第2カム溝174b、第3カムピン173cを挿通させる第3カム溝174cを有する。さらに、駆動リング174の外周部のうちの一部には、駆動歯車175のギア175eと噛合するギア列174eが設けられている。
【0029】
駆動歯車175は、不図示のギア列を介して状態切替駆動部152のステッピングにより回転駆動される。駆動歯車175が回転駆動されると、駆動リング174が回転する。駆動リング174が回転すると、それぞれのカムピンに対するカム溝位置が変位する。カム溝位置の変位にカムピンが追従すると、アーム(第1アーム171a、第2アーム171b、第3アーム171c)が回動ピン(第1回動ピン172a、第2回動ピン172b、第3回動ピン172c)を軸として揺動する。それぞれのカム溝は、挿通されたカムピンが移動枠160側へ近づいたり遠ざかったりするように設けられている。したがって、駆動歯車175の駆動により、第1アーム171a、第2アーム171b、第3アーム171cのそれぞれの曲面(移動枠160の外側面に対向する対向面)は、移動枠160の外側面に近づいたり遠ざかったりする。
【0030】
図4は、移動枠160が固定されたロック状態を示す模式図である。駆動リング174の回転により第1アーム171a、第2アーム171b、第3アーム171cがそれぞれ第1回動ピン172a、第2回動ピン172b、第3回動ピン172c周りに矢印方向へ回動すると、やがてそれぞれの曲面が移動枠160の外側面と接触する。それぞれの曲面が移動枠160の外側面と接触すると、移動枠160は固定される。すなわち、移動枠160は、接触点を×印で示すように、外側面を離間した3点で拘束されると、物理的に移動不能となる。ロック状態は、制限機構170が取り得る状態のうち、このように移動枠160を固定した状態である。
【0031】
ここで、制限機構170のロック状態において、結像光学系110の光軸opと、補正レンズ121の光軸cpとは、一致していない。本来であれば、両光軸は一致することが好ましい。しかし、制限機構170のようなメカ機構によりロック状態において両光軸を精確に一致させようとすると、制限機構の複雑化を招き、ユニットコストの増大、組み付け工程の難化を招いてしまう。そこで、本実施形態においては、制限機構170のような比較的簡易なメカ機構を採用し、ロック状態における両光軸の不一致を許容する。ただし、ロック状態において両光軸が一致していないと、振れ補正オフの撮像モードでは、ズーム時に画像中央位置が変化するなどの映像品質の低下を招くことになる。そこで、振れ補正オフの撮像モードに対応すべく、本実施形態における制限機構170は、半ロック状態を取り得る。
【0032】
図5は、移動枠160が半固定された半ロック状態を示す模式図である。半ロック状態は、
図2に示すアンロック状態と
図4に示すロック状態の中間の状態であり、第1アーム171a、第2アーム171b、第3アーム171cのそれぞれの曲面のうちの1つが移動枠160の外側面と接触した状態である。
【0033】
上述のように、制限機構170は、そのロック状態において結像光学系110の光軸opと補正レンズ121の光軸cpとが一致しないことを許容して、レンズ鏡筒に組み付けられている。このような場合に、移動枠160を両光軸が一致する位置に留めて各アームを実線の矢印方向へ回動させると、いずれか一つのアームの曲面が最初に移動枠160の外側面と接触する。図においては、第2アーム171bの曲面が×印において移動枠160の外側面と接触した様子を示している。この各アームの状態を、制限機構170における半ロック状態と定める。
【0034】
この状態で、制御部150が補正レンズ121の移動目標位置を実際には移動できない破線矢印の先端である座標(x0、y0)に定めてフィードバック制御を行うと、移動枠160は、×印で示される接触箇所に対して押し当てられた状態を保つ。規定位置である座標(x0、y0)は、一致した両光軸と×印で示される接触箇所とを結ぶ直線上であって、接触箇所に対して光軸側とは反対側に定められる。
【0035】
このように、各アームを半ロック状態に固定し、移動枠160を特定アームの予め定められた接触箇所に対して押し当てた状態を保つようにボイスコイルモータを制御すると、補正レンズ121の光軸を結像光学系110の光軸に一致させた状態を維持できる。このような状態が維持されていると、撮像中にズーム動作を行っても画像の中央が変化することなく、高品質のズームイン、ズームアウトの映像を得ることができる。
【0036】
図5で示す半ロック状態は、大量生産される撮像装置100のうちのある製品固体の様子を例示するものである。すなわち、制限機構170がレンズ鏡筒に取り付けられる取付誤差や、制限機構170の個体差等の要因によって、半ロック状態は個々の製品ごとに異なり得る。そこで、半ロック状態となるアーム位置、接触箇所およびフィードバック制御の目標位置を定めるべく、撮像装置100の製造時に調整を行う。
【0037】
図6は、半ロック状態の調整を説明する模式図である。ここでは、アンロック状態から各アームを徐々に回動させると、
図5と同様に第2アーム171bの曲面が最初に移動枠160の外側面と接触するものとする。
【0038】
各アームは、ステッピングモータのステップ駆動量に応じて回動ピン周りの回動角が定まる。例えば、アンロック状態の回動ステップ数をst=0としたときにロック状態の回動ステップ数がst=255であれば、制限機構170は、アンロック状態とロック状態の間で移動枠160の移動範囲を254段階に制限する制限状態を取り得ることになる。半ロック状態は、このような複数の制限状態のうちの一つが選択されて設定される。
【0039】
図6(a)は、回動ステップ数がst=35の状態を示す。この状態は、半ロック状態に対して第2アーム171bの回動量が不足している。この状態で移動枠160の外側面を第2アーム171bの曲面に接触させると、補正レンズ121の光軸cpは、結像光学系110の光軸opと一致せず、曲面側に寄ってしまう。
【0040】
図6(b)は、回動ステップ数がst=81の状態を示す。この状態は、
図5の状態と同様の半ロック状態である。この状態で移動枠160の外側面を第2アーム171bの曲面に接触させると、補正レンズ121の光軸cpは、結像光学系110の光軸opと一致する。すなわち、補正レンズ121の光軸cpから接触箇所までの距離は、移動枠160の外側面の半径r
0と等しくなる。このように補正レンズ121の光軸cpと結像光学系110の光軸opの一致が確認できたら、その回動ステップ数(ここでは、st=81)を半ロック状態の回動ステップ数としてメモリ133に記憶する。また、光軸cpと接触箇所を結ぶ直線上であって、接触箇所に対して光軸cpとは反対側に補正レンズ121の移動目標位置としての座標(x
0、y
0)を定めてメモリ133に記憶する。
【0041】
図6(c)は、回動ステップ数がst=113の状態を示す。この状態は、半ロック状態に対して第2アーム171bの回動量が超過している。この状態で移動枠160の外側面を第2アーム171bの曲面に接触させると、補正レンズ121の光軸cpは、結像光学系110の光軸opと一致せず、曲面とは反対側に寄ってしまう。
【0042】
このような調整を経て上述の回動ステップ数、座標値をメモリ133に記憶させると、制御部150は、撮像装置100の使用時において、半ロック状態を繰り返し精確に再現することができる。すなわち、制御部150は、ステップモータを記憶された回動ステップ数まで駆動して制限機構170を半ロック状態にする。そして、移動枠160が予め定められた接触箇所に対して押し当てられた状態を保つように、記憶された座標に対してボイスコイルモータをフィードバック制御する。このような制御により、振れ補正オフの撮像モード時に補正レンズ121の光軸cpが結像光学系110の光軸opに一致した状態を保つことができる。また、移動枠160の外側面が一定の力でアームの接触箇所に押し当てられているので、多少の外力が撮像装置に加わっても両光軸の一致が保たれる。
【0043】
次に、ユーザ使用時において撮像装置100が実行する処理フローについて説明する。
図7は、撮像装置100の処理フローを示すフロー図である。ここで示す処理フローは、手振れ補正ユニットに関係する主な処理を示し、これらの処理に伴う他の処理については省略している。
【0044】
撮像装置100が起動すると、制御部150は、ステップS201で、現在のモードが撮像モードか再生モードであるかを確認する。ここで、撮像モードは、画像データを記録する場合に限らず、画像データの記録を伴わないビューファインダーの場合を含む。制御部150は、撮像モードであると確認したらステップS202へ進み、再生モードであると確認したらステップS207へ進む。
【0045】
ステップS202へ進むと、制御部150は、防振モードがオンに設定されているかオフに設定されているかを確認する。ユーザは、操作部材140の一つである防振モードか非防振モードを切り替えるモード切替スイッチを操作して、防振モードのオンオフを設定することができる。防振モードがオンに設定されていると確認したらステップS203へ進み、オフに設定されていると確認したらステップS205へ進む。
【0046】
ステップS203へ進むと、制御部150は、防振モードの処理を行う。防振モードは、撮像装置100に加えられるブレに対応して補正レンズ121を移動させることにより、撮像素子130に結像する被写体像の像振れを軽減して撮像を実行するモードである。具体的には、制御部150は、ステップS203で、状態切替駆動部152に対して駆動信号を送ることにより、制限機構170を
図2に示すアンロック状態に切り替える。そして、ステップS204へ進み、移動枠駆動部151に対してブレ検出信号に応じた駆動信号を送ることにより、補正レンズ121を保持する移動枠160を移動させる。制御部150は、ステップS204の処理を継続した状態でユーザから撮像指示を受け付けて、撮像処理を実行する。この間に撮像される画像は、像振れが軽減されている。その後ステップS209へ進む。
【0047】
ステップS205へ進むと、制御部150は、非防振モードの処理を行う。非防振モードは、補正レンズ121の移動を上述のように停止させて撮像を実行するモードである。具体的には、制御部150は、ステップS205で、メモリ133から半ロック状態の回動ステップ数を読み出し、これに対応した駆動信号を状態切替駆動部152に送ることにより、制限機構170を
図5に示す半ロック状態に切り替える。そして、ステップS206へ進み、メモリ133から移動目標位置(x
0、y
0)を読み出し、移動枠160の目標位置を当該座標に定めて移動枠駆動部151に駆動信号を送る。制御部150は、ステップS206の処理を継続した状態でユーザから撮像指示を受け付けて、撮像処理を実行する。この間に撮像される画像は、光軸cpと光軸opが一致した状態のレンズ群を通過した被写体像を撮像したものである。その後ステップS209へ進む。
【0048】
ステップS207へ進むと、制御部150は、再生モードの処理を行う。再生モードは、既に記録された画像ファイルを再生するモードである。再生モードの場合は、制御部150は、ステップS207で、状態切替駆動部152に対して駆動信号を送ることにより、制限機構170を
図4に示すロック状態に切り替える。これにより、移動枠160は物理的に移動不能となる。そして、ステップS208へ進み、移動枠駆動部151の駆動を停止する。ステップS207とS208の順序は逆であっても良い。これにより、再生モードの処理中に撮像装置100が振られても、移動枠160がカタカタと音を発生することがない。その後ステップS209へ進む。
【0049】
制御部150は、ステップS209で、電源オフの指示を受けたか否かを確認する。指示を受けていなければステップS201へ戻る。指示を受けたならばステップS210へ進む。制御部150は、ステップS210で、状態切替駆動部152に対して駆動信号を送ることにより、制限機構170を
図4に示すロック状態に切り替える。制限機構170は、電力を供給されない場合でもロック状態を維持することができるので、撮像装置100が非使用時に振られても、移動枠160がカタカタと音を発生することがない。制御部150は、制限機構170をロック状態に切り替えたら、電力の供給を遮断して一連の処理を終了する。
【0050】
以上説明した本実施形態では、制限機構170は、ロック状態とアンロック状態の間に複数の制限状態を取ることができ、そのうちの一つが半ロック状態として選択される態様を説明したが、これに限らない。ロック状態とアンロック状態の間の制限状態が一つであっても、その状態が半ロック状態として機能することが設計上担保されるような場合には、そのような制限機構を採用することができる。
【0051】
また、以上説明した本実施形態では、移動枠160が予め定められた接触箇所に対して押し当てられた状態を保つために、移動枠160が移動できない座標(x0、y0)を目標位置とするフィードバック制御を説明したが、制御手法はこれに限らない。例えば、移動方向を規定するベクトル制御であっても構わない。
【0052】
また、以上説明した本実施形態では、レンズユニットを内蔵する撮像装置100を説明したが、上述のようにレンズユニットが本体ユニットに着脱される構成であっても良い。その場合に、レンズユニットは更に、互いに連結される結像光学系のユニットと補正光学系のユニットから構成されても良い。制限機構を含む補正光学系のユニットが、様々なタイプの結像光学系のユニットに連結され得る場合には、それぞれの結像光学系のユニットに合わせて、半ロック状態、接触箇所、移動目標位置を調整しても良い。
【0053】
また、以上説明した本実施形態では、移動枠160の外側面を円周面とし、各アームの対向面を曲面として説明した。この場合、両者の接触は点接触あるいは線接触となる。しかし、例えば移動枠160の外側面をその断面が多角形となるように構成し、矩形平面の連なりで構成しても構わない。この場合、アームの対向面も当該矩形平面のそれぞれに対応するように、小平面が連なる連続平面で構成すれば良い。このように構成すれば、両者の接触を面接触とすることができる。移動枠160の外側面とアームの対向面とが面接触すれば、半ロック状態においても、補正レンズ121の位置をより安定的に維持することができる。
【符号の説明】
【0054】
100 撮像装置、110 結像光学系、111 ズームレンズ、112 フォーカスレンズ、120 補正光学系、121 補正レンズ、130 撮像素子、131 バスライン、132 AFE、133 メモリ、134 画像処理部、135 表示処理部、136 モニタ、137 出力処理部、138 記録媒体IF、139 通信IF、140 操作部材、150 制御部、151 移動枠駆動部、152 状態切替駆動部、153 フォーカス駆動部、154 ズーム駆動部、160 移動枠、161a 第1コイル、161b 第2コイル、170 制限機構、171a 第1アーム、171b 第2アーム、171c 第3アーム、172a 第1回動ピン、172b 第2回動ピン、172c 第3回動ピン、173a 第1カムピン、173b 第2カムピン、173c 第3カムピン、174 駆動リング、174a 第1カム溝、174b 第2カム溝、174c 第3カム溝、174e ギア列、175 駆動歯車、175e ギア、201 記録媒体