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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】融着層付き絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20220112BHJP
   H01B 7/40 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H01B7/40 307A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018240720
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020102392
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
(72)【発明者】
【氏名】安好 悠太
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-237219(JP,A)
【文献】特開平10-149725(JP,A)
【文献】特開2009-48934(JP,A)
【文献】特開2014-191885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆層と、
前記絶縁被覆層の外側に設けられ、熱により融着する融着層とを有し、
前記融着層は、
(A)変性ポリオレフィンと、
(B)ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマーから選択される1種以上
とを含有し、
前記融着層は、前記(A)成分と前記(B)成分との合計100質量部に対し、前記(B)成分を10~70質量部含有することを特徴とする融着層付き絶縁電線。
【請求項2】
前記絶縁被覆層は、ポリ塩化ビニルを含有することを特徴とする請求項1に記載の融着層付き絶縁電線。
【請求項3】
前記融着層が、(A)変性ポリオレフィンと、(B)ポリエステル樹脂とを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の融着層付き絶縁電線。
【請求項4】
前記融着層が、(A)変性ポリオレフィンと、(B)ポリエステルエラストマーとを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の融着層付き絶縁電線。
【請求項5】
前記融着層は、前記絶縁被覆層の外側に、周方向の全周にわたって設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の融着層付き絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融着層付き絶縁電線に関し、さらに詳しくは、導体を被覆する絶縁被覆の外側に熱融着性の融着層を有する融着層付き絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両や電気・電子機器には、導体と導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する絶縁電線が数多く使用されている。近年では、自動車等や電気・電子機器の高性能化に伴い、使用される絶縁電線の数が増加している。従来、このような絶縁電線は、クランプのような固定金具等を用いて、自動車のボディや機器の筐体等に固定して使用されてきた。しかしながら、使用される絶縁電線が増えることにより、固定金具等が占めるスペースが大きくなり、その省スペース化が求められている。
【0003】
上記課題に対し、例えば、特許文献1に開示されるような、変性ポリオレフィンより成る融着層を外周に有する絶縁電線を用いると、固定金具等を用いることなく、融着層を介して絶縁電線をボディや筐体等に直接固定することができ、省スペース化に有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-237219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、導体の外周を被覆する絶縁被覆の材料としては、ポリ塩化ビニル組成物が多く用いられている。融着層は、絶縁電線の絶縁被覆層の外側に、絶縁被覆層と接触するように設けられているが、絶縁被覆に用いられることの多いポリ塩化ビニルと、特許文献1の融着層を構成する変性ポリオレフィンとは、互いに接着強度が弱く、絶縁被覆層と融着層との界面において剥離が発生しやすい問題があった。電線に負荷がかかった際に、絶縁被覆層と融着層との界面が剥離すると、外側の融着層に負荷が集中し、結果として電線全体の接着強度が低下してしまう。
【0006】
また、絶縁被覆がポリ塩化ビニルを含有しない場合には、上記のような絶縁被覆層と融着層との界面における剥離は発生しにくいが、融着層付き絶縁電線を自動車のボディや機器の筐体等の被着体に安定に保持する目的から、融着層と被着体との接着強度の向上が求められている。
【0007】
本発明は上記問題に鑑み、絶縁被覆層と被着体との双方に対する接着強度に優れる融着層を外層に有する融着層付き絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る融着層付き絶縁電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆層と、前記絶縁被覆層の外側に設けられ、熱により融着する融着層とを有し、前記融着層は、(A)変性ポリオレフィンと、(B)ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマーから選択される1種以上とを含有し、前記融着層は、前記(A)成分と前記(B)成分との合計100質量部に対し、(B)成分を10~70質量部含有することを要旨とするものである。
【0009】
前記絶縁被覆層は、ポリ塩化ビニルを含有することが好ましい。
【0010】
前記融着層は、(A)変性ポリオレフィンと、(B)ポリエステル樹脂とを含有することが好ましい。
【0011】
前記融着層は、(A)変性ポリオレフィンと、(B)ポリエステルエラストマーとを含有することが好ましい。
【0012】
前記融着層は、前記絶縁被覆層の外側に、周方向の全周にわたって設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、(A)変性ポリオレフィンと、(B)ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマーから選択される1種以上とを含有する熱融着性の融着層を有することにより、絶縁被覆層にポリ塩化ビニルを含有する場合であっても、絶縁被覆層と融着層との接着強度に優れ、さらに、被着体と融着層との接着強度にも優れることから、融着層付き絶縁電線を被着体に対して安定に保持することができる。
【0014】
絶縁被覆層と融着層との接着強度が不十分であると、電線に負荷がかかった際に、絶縁被覆層と融着層との界面において剥離が発生し、被着体に直接接着している融着層に負荷が集中する。さらに、融着層が引き伸ばされ、薄くなった箇所から破断し、電線が被着体から脱落する。本発明にかかる融着層付き電線は、絶縁被覆層と融着層との接着強度に優れることから、融着層の一部が引き伸ばされるようなことがなく、電線全体に負荷が分散するため、電線が脱落しにくくなる。
【0015】
従来一般に用いられてきた融着層は、ポリ塩化ビニルを含有する絶縁被覆層に対する接着強度に劣るものであったが、本発明にかかる融着層によれば、ポリ塩化ビニルを含有する絶縁被覆層に対しても優れた接着強度を有し、本発明による効果が顕著である。
【0016】
(B)ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマーから選択される1種以上は、ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマーのいずれか一方でもよいし、両方を組み合わせて用いてもよい。(B)成分がポリエステル樹脂であると、絶縁被覆層との接着強度に優れ、(B)成分がポリエステルエラストマーであると、柔軟性に優れる。
【0017】
融着層と絶縁被覆層との接着面積は大きい方が好ましい。このような観点から、融着層が絶縁被覆層の外側の全周にわたって設けられていることが好ましい。また、融着層が絶縁被覆層の外側の全周にわたって設けられていると、融着層が断面輪状になり、仮に融着層と絶縁被覆とが剥離した場合においても、電線が直ちに脱落することはなく、電線を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る融着層付き絶縁電線の外観を示す斜視図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】本発明に係る融着層付き絶縁電線を、被着体に融着させた断面図である。
図4】本発明に係る融着層付き絶縁電線2本を、束ねて融着させた断面図である。
図5】融着層付き電線の接着強度の評価方法を示す図である。(a)は融着層付き電線を被着体に融着させる方法を示す図であり、(b)は融着層付き電線の引きはがし試験の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明に係る融着層付き絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆層3を有する絶縁電線を有し、さらにその外側に、(A)変性ポリオレフィンと(B)ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマーから選択される1種以上とを含有する融着層4を有する。融着層4は、絶縁被覆層3の耐熱温度よりも低い温度において、軟化、融着する。
【0021】
融着層4は、(A)変性ポリオレフィンを含有する。融着層4を構成する(A)成分は、α-オレフィンをモノマーとするベースポリオレフィンに対し、カルボキシ基、エステル基、酸無水物基等の官能基を有する重合性モノマーを共重合またはグラフト重合することにより官能基を導入したポリオレフィンである。これらの官能基を導入することにより、融着時に被着体5に対する接着強度に優れる。変性ポリオレフィンが、酸無水物基を有すると接着強度に特に優れる。変性ポリオレフィンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(A)成分は、融点が185℃以下のものが好ましく、160℃以下のものがより好ましい。融点が185℃以下であると、融着層4の軟化点の上昇を抑制でき、融着させる際の加熱による導体2や絶縁被覆層3の劣化が起こりにくい。一方、融点の下限としては、特に限定しないが、80℃以上であることが好ましい。融点が80℃以上であると、融着層付き絶縁電線1の使用温度において、融着層4が安定しやすい。
【0023】
本発明において、(B)成分であるポリエステル樹脂およびポリエステルエラストマーは、二塩基性酸とポリオールとからなり、結晶性の高いハードセグメントと結晶性の低いソフトセグメントとのブロック共重合体をポリエステルエラストマーと呼び、ハードセグメントとソフトセグメントとの区別なく、全体的に略均一な結晶性を有するものをポリエステル樹脂と呼ぶ。
【0024】
融着層4は、(B)ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマーから選択される1種以上を含有する。融着層4を構成する(B)成分としては、ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマーのいずれか一方でもよいし、両方を組み合わせて用いてもよい。(B)成分がポリエステル樹脂であると、絶縁被覆層3との接着強度に優れ、(B)成分がポリエステルエラストマーであると、柔軟性に優れる。(B)成分は、融点が低く、引張強度に優れるものが好ましい。
【0025】
(B)成分は、融点が185℃以下のものが好ましく、160℃以下のものがより好ましい。融点が185℃以下であると、融着層4の軟化点の上昇を抑制でき、融着させる際の加熱による導体2や絶縁被覆層3の劣化が起こりにくい。一方、融点の下限としては、特に限定しないが、80℃以上であることが好ましい。融点が80℃以上であると、融着層付き絶縁電線1の使用温度において融着層4が安定しやすい。
【0026】
ポリエステル樹脂としては、特に限定されるものではないが、芳香族二塩基性酸と短鎖の脂肪族グリコールを主原料とする重合体、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などが挙げられる。融着層4を構成するポリエステル樹脂は、融点を下げる観点から、重合度の低いものや、上記の樹脂を重合する際に、脂肪族二塩基性酸、イソフタル酸、長鎖または脂環式グリコール、ポリエーテルポリオールなどを第3成分として共重合させ、分子の対称性を低下させたものが特に好ましい。
【0027】
ポリエステルエラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントのブロック共重合体からなる。ハードセグメントは、上記のPETやPBNなどの結晶性のポリエステルが挙げられる。ソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテルや脂肪族ポリエステルなどが挙げられる。
【0028】
(B)成分は、JIS K7161に準拠して測定される引張強度が19MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であることがより好ましい。例えば、ポリエステル樹脂の引張強度は、重合度や共重合させる成分により、適宜調整することができ、ポリエステルエラストマーの引張強度は、ハードセグメントとソフトセグメントの種類や割合により、適宜調整することができる。
【0029】
(B)成分は、(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して10質量部以上含有することが好ましい。より好ましくは20質量部以上である。(B)成分を10質量部以上含有すると、絶縁被覆層3との接着強度に優れる。一方、例えば、被着体5がポリオレフィンを含む場合、融着層4の(B)成分の含有量が多くなりすぎると、被着体5との接着強度が低下する虞がある。このような観点から、(B)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して70質量部以下とすることが好ましい。被着体5が、ポリオレフィンを含まず、ポリエステル系の樹脂や金属からなる場合、融着層4は70質量部を超えて、(B)成分を含有していてもかまわない。
【0030】
融着層4は、一層よりなってもよいし、複数の層を積層していてもよい。複数の層からなる場合、例えば、絶縁被覆層3に近い内側の層に、(B)成分を多く含む層を配置することで、絶縁被覆層3と融着層4との接着強度が向上する。このとき、融着層全体の総和において、(A)成分および(B)成分を含有し、(B)成分を10~70質量部含有していればよい。
【0031】
融着層4は、本発明の目的を損なわない範囲内で、(A)変性ポリオレフィン、(B)ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマー以外の他の成分を含有していても良い。他の成分としては、例えば、無機フィラー、可塑剤、安定剤、顔料、酸化防止剤、粘着性付与剤などの添加剤を挙げることができる。また、融着層4は、(A)成分および(B)成分以外の他のポリマー成分を含有していても良い。他のポリマー成分を含有する場合には、絶縁被覆層3や被着体5に対する融着層4の接着強度を確保する観点から、融着層4を構成するポリマー成分の合計100質量部に対して30質量部以下であることが好ましい。
【0032】
例えば、添加剤である無機フィラーとしては、シリカ、珪藻土、ガラス球、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、酸化モリブデン等の金属酸化物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウムなどの金属ホウ酸、ハイドロタルサイト類などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
融着層4の軟化点は、少なくとも絶縁被覆層3の軟化点よりも低温であることが好ましい。具体的には、80~170℃であることが好ましい。軟化点が170℃以下であると、融着層4を融着させる際に、加熱による導体2や絶縁被覆層3の劣化や絶縁被覆層3の変形が起こりにくい。一方、軟化点が80℃以上であると、融着層付き絶縁電線1の使用温度において融着層4が安定しやすい。
【0034】
融着層4の内側に位置する絶縁電線は、従来一般に用いられる通常の絶縁電線を用いることができる。具体的には、導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁被覆層3を有する絶縁電線であればよい。
【0035】
導体2は、銅を用いることが一般的であるが、銅以外にも、アルミニウム、マグネシウムなどの金属材料を用いることもできる。これらの金属材料は、合金であってもよい。合金とするための他の金属材料としては、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン、これらの組み合わせなどが挙げられる。導体2は、単線から構成されていてもよいし、複数本の素線を撚り合わせてなる撚線から構成されていてもよい。
【0036】
絶縁被覆層3を構成する材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ゴム、ポリオレフィンなどを例示することができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料中には、適宜、各種添加剤が添加されてもよい。
【0037】
一般に、絶縁被覆は、ポリ塩化ビニルを含んで構成される場合が多い。しかしながら、ポリ塩化ビニルと融着層4に含まれる変性ポリオレフィンとは、接着強度が弱く、従来の融着層では、融着層と絶縁被覆層との界面において剥離が発生しやすかった。本発明においては、融着層4が、(A)変性ポリオレフィンと(B)ポリエステル樹脂、ポリエステルエラストマーから選択される1種以上とを含有することにより、絶縁被覆層3がポリ塩化ビニルを含んでいる場合であっても、融着層4と絶縁被覆層3との接着強度に優れる。
【0038】
絶縁被覆層3および融着層4は、例えば、それぞれの層を構成する材料を加熱混練し、押出成形機により形成することができる。すなわち、絶縁被覆層3を構成するポリマーと必要に応じて添加される各種添加成分を配合し、加熱混練した組成物を押出成形機により、導体2の周囲に押出し、絶縁被覆層3を形成し、絶縁電線を作製する。その後、(A)成分と(B)成分、および必要に応じて添加される各種添加成分を配合し、加熱混練した組成物を押出成形機により、絶縁電線の外側に押出し、融着層4を形成することにより、融着層付き絶縁電線1を作製することができる。このとき、二層押出成形機を用いて、絶縁被覆層3と融着層4とを同時に押出成形すると、それぞれの層が溶融した状態で積層されるため、絶縁被覆層3と融着層4との接着強度に優れる。
【0039】
融着層4は、図1、2に示すように、絶縁被覆層3の外側に周方向の全周にわたって、断面輪状となるように形成されてもよいし、絶縁被覆層3の外側の周方向に対して一部にのみ形成されてもよい。融着層4が、絶縁被覆層3の外側の全周にわたって形成されていると、融着層4と絶縁被覆層3との接着面積が大きくなり、接着強度に優れる。また、融着層4が輪状に形成されることにより、仮に融着層4と絶縁被覆層3とが剥離した場合においても、電線が直ちに脱落することはなく、融着層4の引張強度の範囲ではあるが電線を保持することができる。また、融着層4は、絶縁電線の長さ方向に対して、全域にわたって形成される必要はない。
【0040】
導体2の太さおよび絶縁被覆層3の厚さは、通常用いられる絶縁電線の範囲でかまわない。一方、融着層4の厚さは、0.03~0.3mmであることが好ましい。0.03mm以上であると、十分な融着面を確保しやすく、また、0.3mm以下であると、融着層付き絶縁電線1全体の太さが、過度に増大することを防げる。
【0041】
融着層付き絶縁電線1は、加熱することにより、融着層4が軟化し、融着することができる。加熱の方法は、特に限定されるものではないが、融着層付き絶縁電線1または被着体5を直接加熱する他、図3に示すように、ホーンHなどの超音波発生器を用い、融着層4と被着体5との間に摩擦熱を発生させる方法などが挙げられる。超音波発生器により加熱すると、融着層付き絶縁電線1の全体を過度に昇温することなく、融着箇所を局所的に加熱することができるため、導体2や絶縁被覆層3の熱による劣化を抑制することができる。
【0042】
このとき、絶縁被覆層3と融着層4とを別に設け、融着層4の軟化点以上であり、かつ、絶縁被覆層3の軟化点以下の温度で加熱することにより、融着時に絶縁被覆層3の変形を抑制でき、絶縁電線としての性能を損なうことなく融着層付き絶縁電線1を融着することができる。
【0043】
融着層付き絶縁電線1を融着させる被着体5は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル等の樹脂製部材や、鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属製部材等が挙げられる。自動車等の車両には、ポリオレフィン製の部材が多く用いられているが、本発明に係る融着層付き絶縁電線1は、融着層4に変性ポリオレフィンを含有することから、ポリオレフィン製部材への接着強度に特に優れる。
【0044】
また、本発明に係る融着層付き絶縁電線1は、自動車のボディや機器の筐体等に電線を固定する目的のほか、図4に示すように、複数の融着層付き絶縁電線1を互いに融着させ、束ねて使用する際にも有効である。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0047】
(ポリ塩化ビニル絶縁被覆層用組成物の調製)
ポリ塩化ビニル(信越化学製、「TK-1300」)100質量部と、可塑剤(DIC製、n-MOTM「モノサイザーW-750」)30質量部と、Ca-Zn系熱安定剤(アデカ製、「アデカスタブRUP-100」)5質量部と、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム製、「スーパー1700」)5質量部とを二軸押出機を用いて混練し、ポリ塩化ビニル絶縁被覆層用組成物とした。
【0048】
(ポリプロピレン絶縁被覆層用組成物の調製)
ポリプロピレン(日本ポリプロ製、「ノバテックEC9」)92質量部と、熱可塑性エラストマー(旭化成製、「タフテックM-1913」)8質量部と、水酸化マグネシウム(協和化学製、「キスマ5」)70質量部と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF製、「イルガノックス1010」0.5質量部とを二軸押出機を用いて混練し、ポリプロピレン絶縁被覆層用組成物とした。
【0049】
(絶縁電線の作製)
調製した絶縁被覆材用組成物を、導体断面積0.13mmの撚線導体の周囲に被覆厚0.2mmで押出成形することにより絶縁電線を作製した。
【0050】
(融着層用組成物の調製)
下記に示す材料を用い、表1~3に示す割合(質量部)で、(A)成分および(B)成分を配合し、二軸押出機を用いて混練し、融着層用組成物を調製した。なお、比較例1~3、参考例1、2は、(A)成分または(B)成分の一方のみである。
【0051】
(A)成分
・変性PP1 東洋紡製:トーヨータック M-312(引張破断強度25.8MPa)
・変性PP2 三井化学製:アドマー QE060(引張破断強度35.0MPa)
(B)成分
・ポリエステル樹脂1 東洋紡製:バイロショット GM-955-RK20(引張破断強度4.0MPa、融点160℃)
・ポリエステル樹脂2 東亞合成製:アロンメルト PES-120L(引張破断強度36.5MPa、融点120℃)
・ポリエステルエラストマー1 東レ・デュポン製:ハイトレル 3046(引張破断強度23.4MPa、融点160℃)
・ポリエステルエラストマー2 東レ・デュポン製:ハイトレル 4047N(引張破断強度19.1MPa、融点182℃)
【0052】
(融着層の形成)
ポリ塩化ビニル製またはポリプロピレン製の絶縁被覆層を有する絶縁電線の外側全周に対し、各融着層用組成物を200℃で押出成形することにより、厚さ0.1mmの融着層を形成した。
【0053】
(評価)
図5(a)に示すように、被着体16上に、融着層付き絶縁電線11を端部から1cmが接するように置き、その他の部分を剥離シート17で保護した後、上方から、ホーンHにより、20kHzの超音波を10秒間照射し、融着層付き絶縁電線11と被着体16とを融着させた。融着箇所が常温になるまで放置し、図5(b)に示すように、剥離シートで保護していた箇所を融着している端部の方向に180度折り返し、軸線方向に50mm/秒の速さで引っ張り、融着層付き絶縁電線11の引き剥がしを行った。引き剥がし時の最大試験力を表1~3に示す。なお、被着体16は、表1~3に示すポリプロピレン製(PP)、ポリエチレンテレフタレート製(PET)、またはアルミニウム製(AL)のいずれかによる板状のものを使用した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
融着層に(A)成分と(B)成分とを含有し、(B)成分の含有量が本発明の範囲内である実施例1~12は、絶縁被覆層および被着体の双方に対し優れた接着強度を示し、被着体に対する電線の保持力が大きい。特に、(B)成分にポリエステル樹脂を用いた実施例1~8は、絶縁被覆層および被着体に対して、特に優れた接着強度を示し、絶縁被覆層と融着層、被着体と融着層の界面においては剥離が生じにくく、融着層内部での凝集破壊が発生した。このような場合において、実施例7、8のように、(A)成分または(B)成分に引張破断強度の大きいものを使用すると、融着層が破壊されにくくなり、電線の保持力が増大する。また、(B)成分としてポリエステルエラストマーを用いた実施例9、10は、(B)成分にポリエステル樹脂を用いた実施例1、8に比べ、電線の保持力はわずかに劣るものの、柔軟性に優れる。
【0058】
一方、融着層に(B)成分を含まない比較例1および、(B)成分の含有量が少ない比較例4は、ポリ塩化ビニルよりなる絶縁被覆層との接着強度に劣る。また、融着層に(A)成分を含まない比較例2、3および、(B)成分の含有量が多い比較例5は、ポリプロピレンよりなる被着体に対し接着強度に劣る。なお、融着層に(B)成分を含まない場合であっても、絶縁被覆層がポリプロピレンよりなるときには(参考例1、2)、絶縁被覆層と融着層との接着強度を満足し、被着体に対して、電線を十分に保持することができているが、参考例1、2と実施例5、6とを比較すると、融着層が(A)成分に加えて(B)成分を含むことにより、融着層と被着体との接着強度が向上し、電線の保持力が向上したことがわかる。
【符号の説明】
【0059】
1 融着層付き絶縁電線
2 導体
3 絶縁被覆層
4 融着層
5 被着体
11 融着層付き絶縁電線
16 被着体
17 剥離シート
H ホーン(超音波発生器)
図1
図2
図3
図4
図5