IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 不二製油株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】澱粉含有食品用ほぐれ改良剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20220127BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20220127BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20220127BHJP
   A23L 29/206 20160101ALN20220127BHJP
   A23L 29/212 20160101ALN20220127BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/10 Z
A23L29/00
A23L29/206
A23L29/212
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018535518
(86)(22)【出願日】2017-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2017025714
(87)【国際公開番号】W WO2018037759
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2016163696
(32)【優先日】2016-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀章
(72)【発明者】
【氏名】馬場 俊充
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-201947(JP,A)
【文献】特開2013-162753(JP,A)
【文献】国際公開第2012/099031(WO,A1)
【文献】特開2004-222550(JP,A)
【文献】国際公開第2006/129691(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/081916(WO,A1)
【文献】特開2015-192646(JP,A)
【文献】特開2005-013135(JP,A)
【文献】特開2008-092861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109 - 29/212
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉含有食品用ほぐれ改良剤であって、豆類由来の水溶性ヘミセルロース及び粘度調整剤を含み、かつ、該ほぐれ改良剤を澱粉含有食品に表面処理または添加する際のほぐれ改良剤の溶液のCasson粘度が39~285mPa・s、かつ、Casson降伏値が105~401mPa・sである澱粉含有食品用ほぐれ改良剤。
【請求項2】
豆類由来の水溶性ヘミセルロースが、大豆またはエンドウ豆由来の水溶性ヘミセルロースである、請求項1記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤。
【請求項3】
粘度調整剤が、グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム、発酵セルロース、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤。
【請求項4】
粘度調整剤が、グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤。
【請求項5】
粘度調整剤が、グアガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤。
【請求項6】
請求項1~5何れか1項記載のほぐれ改良剤が澱粉含有食品に対して水溶性へミセルロースとして0.01~10重量%含有する澱粉含有食品。
【請求項7】
請求項1~5何れか1項記載のほぐれ改良剤を澱粉含有食品に対して、水溶性ヘミセルロースとして0.01~10重量%表面処理または添加することを特徴とする澱粉含有食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は澱粉含有食品用ほぐれ改良剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の食の多様化により、加工食品のニーズが増大している。特に麺、米飯といった澱粉食品は、大量に加工・調理された製品が、コンビニエンスストア、スーパーマーケットなどで販売され、多くの消費者に食されるようになってきた。
【0003】
これら流通・市販される加工食品において、特に問題となるのが加工の利便性と時間の経過による品質劣化である。
【0004】
麺、米飯等の澱粉含有食品は、加工・調理の際、食品表面に澱粉質が流出し、食品同士が結着してしまう。その結果、麺製品であれば、麺同士の付着により、一食分に小分けしたり、喫食時に汁やソースと混ぜたりすることが困難になる。即席麺の場合は、麺が結着した部分が湯戻りしにくくなる。また、米飯製品の場合、チャーハンで全体が均一に炒められない、おにぎりの成型機で飯粒がつぶれてしまうということが起こる。こういった問題は、生産効率の低下、コストアップを招き、さらに、できあがった食品も喫食事に食べ辛く、美味しくないという結果を招く。
【0005】
この食品同士の結着性をなくし、ほぐれ性を改善する従来の技術としては、油脂または乳化油脂を混合する方法(特許文献1)、HLBの高いショ糖脂肪酸エステルを添加する方法(特許文献2)、有機酸を添加する方法(特許文献3)、穀粉、澱粉、ゲル化能を有する天然多糖類のいずれか一つ以上を主体とする食品であって、アラビアガム、プルランまたは水溶性大豆多糖類のいずれか一つ以上を主剤とする溶液によりコーティングしたことを特徴とする食品(特許文献4)、油脂と、増粘多糖類と、水溶性へミセルロースとを含む混合物を乳化して得られるほぐれ改良剤(特許文献5)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-175940号公報
【文献】特公昭60-8103号公報
【文献】特開2011-177120号公報
【文献】特開平9-51764号公報
【文献】特開2005-013135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~5の技術では、十分なほぐれ効果は得られないといった問題があり、特許文献2のように乳化剤単独で使用する場合、食感や風味が悪くなるという問題もある。
また、これらのほぐれや風味の問題に加えて、作業性の問題がある。対象食品が麺類の場合、例えば、特許文献5のように粘性の強い素材を使用する場合、改良剤を麺食品に添加する際に粘性が高いため麺類に改良剤を均一に付着させることが困難となる問題がある。また、特許文献3のように、改良剤の粘性が低いと麺類に添加した時点で麺類から改良剤が流れ出て、麺類全体に均一に添加できないか改良剤を大量に添加しなければならない問題がある。
一方、対象食品が米飯類の場合でも添加する際の粘性が高いと、例えば蒸気炊飯設備において炊飯工程中もしくは炊飯前に打ち水として改良剤を添加する際、合わせ酢等の調味液、炒め油等と併せて炊飯後に改良剤を添加する際に均一に付着させることが困難となる問題がある。粘性が低いと炊飯後に添加する場合、水分が米飯に吸われてしまい食味が損なわれる問題や、米飯と絡み合わず容器の底に液だまりが生じてしまうという問題がある。
そこで、本発明は、保存においてほぐれ性が悪くなるなどの品質低下を従来よりも抑制し、なおかつ麺類や米飯類等の食品に均一に添加できるような作業性の優れた美味しい澱粉含有食品を製造する為のほぐれ改良剤及びそのほぐれ改良剤を使用した澱粉含有食品を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた。その結果、ある程度ほぐれ性と作業性を両立させるには豆類由来の水溶性ヘミセルロース及び粘度調整剤を含有させた製剤が必要であることがわかってきた。さらに検討を進めると、作業性に関して、製剤を食品に添加するときの付着性と製剤と食品を混合して製剤を食品に均一に付着させるためには、製剤が特定の物性を有することが必要であることがわかった。
具体的には製剤を食品に表面処理または添加する際の製剤の溶液の食品への付着性(食品からの製剤の流れにくさ)の指標として、Casson降伏値が重要であり、製剤の溶液を食品に均一に付着させる指標としてCasson粘度が重要であることを見出し本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)澱粉含有食品用ほぐれ改良剤であって、豆類由来の水溶性ヘミセルロース及び粘度調整剤を含み、かつ、該ほぐれ改良剤を澱粉含有食品に表面処理または添加する際のほぐれ改良剤の溶液のCasson粘度が500mPa・s以下、かつ、Casson降伏値が10mPa・s以上である澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(2)Casson粘度が400mPa・s以下、かつ、Casson降伏値が50mPa・s以上である、(1)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(3)Casson粘度が300mPa・s以下、かつ、Casson降伏値が100mPa・s以上である、(1)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(4)豆類由来の水溶性ヘミセルロースが、大豆またはエンドウ豆由来の水溶性ヘミセルロースである、(1)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(5)豆類由来の水溶性ヘミセルロースが、大豆またはエンドウ豆由来の水溶性ヘミセルロースである、(2)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(6)豆類由来の水溶性ヘミセルロースが、大豆またはエンドウ豆由来の水溶性ヘミセルロースである、(3)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(7)粘度調整剤が、グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム、発酵セルロース、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、(1)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(8)粘度調整剤が、グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、(1)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(9)粘度調整剤が、グアガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、(1)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(10)粘度調整剤が、グアガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、(2)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(11)粘度調整剤が、グアガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、(3)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(12)粘度調整剤が、グアガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、(4)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(13)(1)記載のほぐれ改良剤が澱粉含有食品に対して水溶性へミセルロースとして0.01~10重量%含有する澱粉含有食品、
(14)(2)記載のほぐれ改良剤が澱粉含有食品に対して水溶性へミセルロースとして0.01~10重量%含有する澱粉含有食品、
(15)(3)記載のほぐれ改良剤が澱粉含有食品に対して水溶性へミセルロースとして0.01~10重量%含有する澱粉含有食品、
(16)(4)記載のほぐれ改良剤が澱粉含有食品に対して水溶性へミセルロースとして0.01~10重量%含有する澱粉含有食品、
(17)(1)記載のほぐれ改良剤を澱粉含有食品に対して、水溶性ヘミセルロースとして0.01~10重量%表面処理または添加することを特徴とする澱粉含有食品の製造方法、
(18)(2)記載のほぐれ改良剤を澱粉含有食品に対して、水溶性ヘミセルロースとして0.01~10重量%表面処理または添加することを特徴とする澱粉含有食品の製造方法、
(19)(3)記載のほぐれ改良剤を澱粉含有食品に対して、水溶性ヘミセルロースとして0.01~10重量%表面処理または添加することを特徴とする澱粉含有食品の製造方法、
(20)(4)記載のほぐれ改良剤を澱粉含有食品に対して、水溶性ヘミセルロースとして0.01~10重量%表面処理または添加することを特徴とする澱粉含有食品の製造方法、
である。
また、換言すれば本発明は、
(1)澱粉含有食品用ほぐれ改良剤であって、豆類由来の水溶性ヘミセルロース及び粘度調整剤を含み、かつ、該ほぐれ改良剤を澱粉含有食品に表面処理または添加する際のほぐれ改良剤の溶液のCasson粘度が500mPa・s以下、かつ、Casson降伏値が10mPa・s以上である澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(2)Casson粘度が400mPa・s以下、かつ、Casson降伏値が50mPa・s以上である、(1)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(3)豆類由来の水溶性ヘミセルロースが、大豆またはエンドウ豆由来の水溶性ヘミセルロースである、(1)または(2)記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(4)粘度調整剤が、グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム、発酵セルロース、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体の群から選択される1種または2種以上である、(1)~(3)何れか1つに記載の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤、
(5)(1)~(4)の何れか1つに記載のほぐれ改良剤が澱粉含有食品に対して水溶性へミセルロースとして0.01~10重量%含有する澱粉含有食品、
(6)(1)~(4)何れか1つに記載のほぐれ改良剤を澱粉含有食品に対して、水溶性ヘミセルロースとして0.01~10重量%表面処理または添加することを特徴とする澱粉含有食品の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、麺及び米飯等の澱粉含有食品のほぐれ性が改良され、麺線や飯粒の結着を著しく抑制することができる。また、本発明のほぐれ改良剤が添加された澱粉含有食品は、例えば調製後1日間冷蔵保存した後においてもそのほぐれ性が維持され、麺や米飯等同士の結着が著しく抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(澱粉含有食品)
本願発明の澱粉含有食品とは、米,小麦,大麦,稗,粟,とうもろこしや、キャッサバ,馬鈴薯,甘藷等について、それらをそのまま、またはその粉砕品を、あるいはそれから得た澱粉を用いた、各種食品を指す。
また、米や大麦の加工品として米飯、麦飯、おにぎり、寿司、ピラフ、チャーハン、炊き込みご飯、混ぜご飯等が例示できる。
また、小麦粉,米や米粉,または他の穀物に由来する、澱粉を主要原料として生地を茹でることによって製造される食品として、例えば、麺類が挙げられ、乾麺、生麺、パスタ、そば、うどん、中華麺、素麺、即席麺等が例示できる。
【0012】
これらの澱粉含有食品には、家庭で調理されるものを始めその場で食べることを目的とする最終商品型の加工食品や食べる際に調理の必要な半製品が含まれ、常温、冷蔵、冷凍、氷温等の方法で市場に流通している食品が含まれる。
【0013】
(ほぐれ改良剤)
本ほぐれ改良剤は、豆類由来の水溶性ヘミセルロース及び粘度調整剤を含有し、該ほぐれ改良剤を澱粉含有食品に表面処理または添加する際のほぐれ改良剤の溶液のCasson粘度が500mPa・s以下、かつ、Casson降伏値が10mPa・s以上であることを特徴とする。
本ほぐれ改良剤の形態は、特に限定されない。例えば、水に、豆類由来の水溶性ヘミセルロース、及び粘度調整剤、その他の副剤を溶解した液体やペーストの状態、単にこれらを混合した粉末状のもの、さらに混合したものを造粒した顆粒状のものが例示される。
本発明の澱粉含有食品用ほぐれ改良剤は、上記澱粉含有食品に用いた場合に良好なほぐれ性を付与することができるものである。
【0014】
(豆類由来の水溶性ヘミセルロース)
豆類由来の水溶性ヘミセルロースは、大豆,小豆,エンドウ豆等を原料として得られるが、溶解性や工業性の面から、大豆またはエンドウ豆が好ましく、中でも子葉由来のものがより好ましい。
豆類由来の水溶性ヘミセルロースは、ヘミセルロースを含む原料から水抽出や熱水抽出する方法、酸、アルカリ条件下で加熱抽出する方法、酵素分解により抽出する方法等により得ることができる。
豆類由来の水溶性ヘミセルロースの製造法の好ましい一例を示すと以下の通りである。
豆類の原料を酸性乃至アルカリ性の条件下、好ましくは各々の蛋白質の等電点付近のpHで、好ましくは80℃以上130℃以下、より好ましくは100℃を超え、130℃以下にて加熱分解し、遠心分離等で水溶性画分を分画した後、そのまま乾燥するか、例えば活性炭処理或いは樹脂吸着処理或いはエタノール沈澱処理して疎水性物質あるいは低分子物質を除去し乾燥することによって、豆類由来の水溶性ヘミセルロースを得ることができる。
【0015】
(粘度調整剤)
本発明の粘度調整剤として、グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム、発酵セルロース、ジェランガム、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体から選ばれる1種又は2種以上の増粘剤を組み合わせて用いることが出来る。特に、グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガム、カルボキシメチルセルロースを用いることが好ましく、グアガム、キサンタンガム、ウェランガム、スクシノグリカンガムを用いることがより好ましい。
【0016】
(Casson粘度、Casson降伏値の測定方法)
ほぐれ改良剤を食品に表面処理または添加する際の製剤の溶液の食品への付着性(食品からの製剤の流れにくさ)の指標として、Casson降伏値が重要であり、ほぐれ改良剤の溶液を食品に均一に付着させる指標としてCasson粘度が重要である。
本発明におけるCasson粘度およびCasson降伏値の測定は、回転式レオメーター(RheolabQC、Anton Paar製)によって行うことができる。コーン型測定冶具(CC39)を装着し、測定カップに5℃に温調した所定量の改良剤溶液を導入し、せん断速度0~50/sにおけるせん断応力を記録し、得られたせん断速度とせん断応力の数値を用いて下記に示すCassonの計算式からCasson粘度とCasson降伏値を算出した。
(Cassonの計算式)
( 式中、D:せん断速度、s:せん断応力、η∞:Casson粘度、τ0:Casson降伏値である。)

Casson降伏値τ0は、2点以上のせん断速度-せん断応力(測定値)のそれぞれの平方根からプロットした1次直線の切片の2乗がτ0である。この場合せん断速度の平方根(特に高せん断速度領域)に対してせん断応力の平方根をプロットして得られる直線の傾きがCasson粘度(η∞)に対応することが知られている。
【0017】
改良剤溶液の添加または表面処理する際の物性としては、Casson粘度が500mPa・s以下、かつ、Casson降伏値が10mPa・s以上であり、好ましくはCasson粘度が400mPa・s以下、かつ、Casson降伏値が50mPa・s以上、より好ましくはCasson粘度が300mPa・s以下、かつ、Casson降伏値が100mPa・s以上であることが望ましい。また、Casson降伏値の上限は特に制限はないが、好ましくは1000mPa・s以下である。
【0018】
本発明のほぐれ改良剤の澱粉含有食品に対する添加量は、澱粉含有食品に対する水溶性ヘミセルロースの添加量として、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~3重量%となるように配合する。
澱粉含有食品に対する本発明のほぐれ剤の添加量が少なすぎると、澱粉含有食品に対して十分なほぐれ性を付与できない場合があり、多すぎると澱粉含有食品の風味を変化させてしまう場合がある。
【0019】
本ほぐれ改良剤は、通常のほぐれ剤に比べて粘度が高くなる場合があるため、起泡してしまうと泡が消えにくい可能性がある。泡が消えにくい場合には、消泡剤を使用することが好ましい。消泡剤としては、シリコンや各種の乳化剤、油脂等が例示される。
【0020】
本ほぐれ改良剤には、適宜、本発明の効果に影響を与えない範囲で、他の添加剤と併用することができる。他の添加剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸塩、ポリソルベート、レシチン等の乳化剤、或いは一般の動植物性油脂や脂溶性ビタミンであるトコフェロール等の油性物質、グルコース、フルクトース等の単糖類、蔗糖、マルトース、フラクトース、ラフィノース、マルトトリオース、トレハロ─ス、スタキオース、マルトテトラオース等の少糖類、及び糖アルコール、デキストリン、布海苔、ゼラチン、ホエー等のアルブミン、カゼインナトリウム、可溶性コラーゲン、卵白、卵黄末、大豆蛋白等の蛋白性物質や、カルシウム強化剤等の塩類、酢酸ソーダ等のpH調整剤が挙げられる。また、カラギナン、タマリンドシードガム、アラビアガム、カードラン、アルギン酸およびその誘導体、寒天、ファーセレラン、プルラン、ヒアルロン酸、サイクロデキストリン、キトサン、加工澱粉など各種澱粉類等の多糖類やこれら多糖類の加水分解物等も併用することが出来る。
【0021】
本ほぐれ改良剤は、粉末状態は勿論のこと、水、食塩水等の溶液として、さらには酢酸等の有機酸溶液に添加した溶液の状態で流通販売することができる。
【0022】
本ほぐれ改良剤を澱粉含有食品に表面処理する方法は特に限定されないが、次のような方法がある。
(1)加熱調理後の澱粉含有食品に本ほぐれ改良剤の水溶液を絡ませて表面処理する。(2)加熱調理後の澱粉含有食品に本ほぐれ改良剤の水溶液を噴霧する。(3)予め調味液に本ほぐれ改良剤を溶解しておき、澱粉含有食品にまぶして表面処理する。(4)本ほぐれ改良剤を粉末調味料と混合し、澱粉含有食品にまぶして表面処理する。等の方法が例示できる。これらの方法は製造ライン、販売形態等の個々の食品特性により選択される。
【0023】
本ほぐれ改良剤を澱粉含有食品に添加または表面処理する方法により得られた、麺及びや米飯等の澱粉含有食品は、良好なほぐれ性を有している。従って、本発明により得られた澱粉含有食品は非常に食べやすく、おいしく感じることができる。また、例えば、調製後1日間冷蔵保存した後においてもそのほぐれ性が維持され、澱粉含有食品同士の結着が著しく抑制されている。
また、良好なほぐれ性が付与されることにより、澱粉含有食品の製造において混ぜやすい、潰れにくい等の優れた加工適正を有する。
【実施例
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの例示によって制限されるものではない。なお、例中の部および%は何れも重量基準を意味する。
【0025】
以下に示す実施例において、豆類由来の水溶性ヘミセルロースとして、「ソヤファイブーS」(不二製油株式会社製)として市販されている、大豆由来の水溶性大豆ヘミセルロースを使用した。
【0026】
(ほぐれ改良剤の評価)(実施例1~4、比較例1~5)
表1の配合に基づき、水に水溶性大豆ヘミセルロース、グアガム(SUPERGEL CSA:三晶株式会社製)、キサンタンガム(サンエース:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、ウェランガム(ビストップW:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)、スクシノグリカンガム(GRINDSTED SUCCINOGLYCAN‐J:デュポン ニュートリション&ヘルス社製)、タマリンドシードガム(グリロイド3S:DSP五協フード&ケミカル株式会社製)を添加した後加熱溶解することにより、ほぐれ改良剤A~Iを調製した。
それぞれの改良剤は常法にてCasson粘度、Casson降伏値を測定した。また、BM型粘度計によって通常粘度(20℃)の測定も行った。
続いてそれぞれについて麺のほぐれ性評価を行った。まず、準強力粉600g、そば粉400g、食塩10g、水350gを配合し、ミキサーで15分間混捏し、常法に従って圧延、切り出し(切り歯#22角、麺線厚み1.3mm)を行って得られた麺を沸騰水中で2分間茹で上げ、流水で30秒間水洗し、茹で麺を得た。次に、各ほぐれ改良剤を茹で麺200gあたり6g均一に噴霧し、容器に充填、密封し、1日間冷蔵保存後のほぐれ性をパネラー10名で評価した。各パネラーは表2の基準に基づき1~5点で評価し、その平均点をほぐれ性評価とした。平均点が4.0点以上であれば、ほぐれ性が良好と判断した。また、作業性の評価として、表面処理を行う際、簡単に均一に処理できるものを○、均一にするのが難しいものを×とした。ほぐれ性の評価が良好であり、かつ、作業性の評価が「○」のものを合格と判断した。
以上の評価結果を表1に示した。
【0027】
(表1)配合表(%)とほぐれ性評価結果
【0028】
(表2)ほぐれ性評価基準
【0029】
粘度調整剤を添加したものはCasson粘度、Casson降伏値が上がり、劇的にほぐれ性が改善され、作業性も良好であった。しかし、Casson粘度が上がりすぎると、麺に均一に表面処理するのが困難になり、作業性が低下した。なお、BM型粘度計で測定した通常粘度の値が同程度のものでも、Casson降伏値が低いもののほぐれ性は不十分であった。また、比較例3~4のようにCasson降伏値が10mPa・s未満のものは、麺に対する製剤の付着性が低下するため、麺のほぐれ性が悪い結果となった。また、比較例2のように、グアガムのみ溶解して表面処理しても、麺のほぐれ性は悪く、豆類由来の水溶性ヘミセルロースの併用が必要であることが確認された。
【0030】
(水溶性へミセルロースとしての添加量)(実施例5~8)
改良剤の添加量について検討を行った。表3の配合に従い、改良剤Dを用いて実施例1と同様にして麺のほぐれ性の評価を行った。
評価結果を表3に示した。
【0031】
(表3)配合表(%)とほぐれ性評価結果
【0032】
実施例5~8の結果より、本ほぐれ改良剤の添加量は、澱粉含有食品に対する水溶性ヘミセルロースの添加量として0.01%以上であれば良好なほぐれ性を付与できることが確認された。
【0033】
(市販の澱粉含有食品のほぐれ性評価)(実施例9、比較例7)
市販の澱粉含有食品である乾燥タピオカパール(キャッサバ由来澱粉の加工食品)(ブラックタピオカ:株式会社GABAN製)を常法に従って沸騰水でゆで上げ、茹でたタピオカパールを調製した。次に表4に従って改良剤Dをタピオカパールの重量に対して5%均一に添加し、1日間冷蔵保存後のタピオカパールのほぐれ性を、○:ほぐれる、△:やや結着しほぐれにくい、×:塊になりほぐれない、の3段階で評価した。ほぐれ性の評価結果を表4に示した。
【0034】
(表4)配合表(部)と結着性評価結果
【0035】
表4の結果のように、実施例9のほぐれ改良剤を添加したタピオカパールは、茹で後のほぐれ性が改善された。