(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】ディスポーザブル型穿刺器具
(51)【国際特許分類】
A61B 5/151 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
A61B5/151 100
(21)【出願番号】P 2018558988
(86)(22)【出願日】2017-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2017044339
(87)【国際公開番号】W WO2018123535
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2016254122
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】石倉 弘三
(72)【発明者】
【氏名】内村 智彦
【審査官】松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-005518(JP,A)
【文献】特開平07-016218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/151
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに収容されたランセットがばね部材で付勢されて、該ランセットの先端部に設けた穿刺体が該ハウジングから突出することで穿刺作動されるディスポーザブル型穿刺器具において、
前記ハウジング内に係止リングが配設されて、前記ランセットが該係止リングを貫通して突出方向に変位可能とされていると共に、
該ランセットに係止突部が設けられて、該係止突部の該係止リングへの係止作用により、前記ばね部材が圧縮変形されて該ランセットが該ハウジングの奥方の穿刺準備位置に保持されるようになっている一方、
該係止リングを回動させることにより該係止リングへの前記係止突部の係止を解除して該ランセットを前記ばね部材で突出方向に変位させて穿刺作動させる操作部材が設けられており、更に、
該係止リングの回動が許容された状態下において、該係止リングの回動に抵抗を及ぼすことで、該操作部材の操作に基づかない該係止リングの回動を規制する規制手段が設けられている
と共に、
前記ハウジングと前記ランセットの少なくとも一方には、前記係止リングとの間において、相対的な回動に際して回動方向での当接によって抵抗を生ずる当接部が設けられており、該当接部によって該規制手段が構成されていることを特徴とするディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項2】
前記係止リングと、該係止リングを回動可能に支持する前記ハウジングとが径方向で対向する内外周面において
前記当接部を設けることによって前記規制手段が構成されている請求項1に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項3】
前記ハウジングが、ハウジング本体と該ハウジング本体の先端側に設けられるハウジング口体を含んで構成されており、該ハウジング口体には基端側に向かって延びる支持筒部が設けられている一方、該支持筒部に対して前記係止リングが外挿されていると共に、該支持筒部と該係止リングとの径方向間に前記当接部が設けられている請求項2に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項4】
前記支持筒部の外周面に軸方向に延びる内周側凸部が設けられていると共に、前記係止リングの内周面に軸方向に延びる外周側凸部が設けられており、該係止リングの該支持筒部に対する周方向の相対的な回動に際して、これら内周側凸部と外周側凸部が相互に当接することで前記ハウジングに対する前記係止リングの回動に抵抗を及ぼすと共に、該内周側凸部と該外周側凸部とが相互に乗り越えることで前記操作部材の操作に基づく該係止リングの回動を許容する前記当接部が構成されている請求項3に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項5】
前記内周側凸部と前記外周側凸部とが、周方向において前記支持筒部と前記係止リングとの各対応する位置に周方向で等間隔に複数設けられている請求項4に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項6】
前記係止リングにおける軸方向前方面と、該係止リングを回動可能に支持する前記ハウジングにおいて該係止リングの該軸方向前方面に対向する軸方向対向面との間に、
前記当接部を設けることによって前記規制手段が構成されている請求項1に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項7】
前記ハウジングの前記軸方向対向面には、該ハウジングに対する前記係止リングの相対的な回動に際して該係止リングへ当接して該係止リングを軸方向後方側へ移動させる前記当接部が設けられており、前記操作部材の操作に基づく該係止リングの回動が、該係止リングに係止された前記ランセットによって及ぼされる前記ばね部材の付勢力に抗しての該当接部による該係止リングの軸方向後方側への移動を伴って、許容されるようになっている請求項6に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項8】
前記係止リングにおける軸方向後方面と、該係止リングに係止された前記ランセットの前記係止突部との間
に、前記当接部を設けることによって前記規制手段が構成されている請求項1に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【請求項9】
前記係止リングの軸方向後方面に軸方向凸部が設けられて前記当接部が構成されており、該係止リングの前記ハウジングに対する周方向の相対的な回動に際して、前記ランセットの前記係止突部と該係止リングの該軸方向凸部が相互に当接することで該係止リングの回動に抵抗を及ぼすと共に、該ランセットが前記ばね部材による付勢力に抗して後方側へ移動して該係止リングの軸方向凸部を逃げることで前記操作部材の操作に基づく該係止リングの回動を許容するようになっている請求項8に記載のディスポーザブル型穿刺器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を穿刺して、少量の血液を採取するために用いられる穿刺器具に係り、特に、1回の使用で廃棄されるディスポーザブル型穿刺器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療目的で、少量の血液を自己採取しなければならない場合がある。例えば、糖尿病患者は、血糖レベルを定期的にチェック(血糖自己測定:SMBG)するために、患者自身が、自己の血液を採取する必要がある。このような血液の自己採取を安全且つ確実に行うことができるように、従来から、穿刺器具が用いられている。特に、感染防止の目的で、1回限りの使用で廃棄されるディスポーザブル型の穿刺器具が提供されている。
【0003】
かかる穿刺器具は、一般に、ハウジングに収容されたランセットをばね部材で付勢して、ランセットの先端部に設けた穿刺体をハウジングから突出させて穿刺作動させるようになっている。具体的には、特表2007-521031号公報(特許文献1)に記載されているように、ランセットをハウジング内に係止せしめた状態下で、ハウジングの操作部材を押してランセットより奥方に配したばね部材を圧縮変形させるようになっており、ばね部材の圧縮力が増大して係止が外れた時点でランセットがハウジングから突出して穿刺作動されるようになっている。
【0004】
ところが、このような従来構造の穿刺器具では、ランセットのハウジング内への係止が外れるのに必要とされるばね部材の圧縮力を精度良く設定することが難しかった。それ故、ばね部材が充分に圧縮されていないのにランセットの係止が外れて穿刺作動されるために、充分な穿刺力が及ぼされずに血液の滲出量が不足したり、反対に操作部材を強く押してもランセットの係止が外れずに穿刺作動を行い難い場合もあった。
【0005】
なお、特表2007-536008号公報(特許文献2)や特許第3964457号公報(特許文献3)には、ばね部材を圧縮変形させるための押圧操作部材に係止解除用の当接部を設け、該押圧操作部材が所定位置まで達した際に、かかる当接部が、ハウジングに係止されたランセットの係止片に当接して係止解除する構造が提案されている。しかし、これらの穿刺器具では、ばね部材を圧縮変形させることに加えてランセットの係止片を変形させて係止解除させるために必要な力を、押圧操作部材に及ぼさなければならず、操作力が大きくなってしまうことが避けられなかった。
【0006】
また、国際公開第2005/110225号(特許文献4)や米国特許出願公開第2005/0070945号明細書(特許文献5)には、ランセットのハウジングへの係止片を横方向から押圧することで係止を外して突出作動させる構造も開示されているが、ランセットに設けた係止片に対して横方向からの押圧力が及ぼされることで、ランセットの中心軸がズレて他部材に引っ掛かったり、他部材に押し付けられて突出作動時の摩擦抵抗が大きくなることで、ランセットの突出作動時の動きが阻害されるおそれがあった。
【0007】
また一方、特許第3993529号公報(特許文献6)には、ランセットをハウジングに対して周方向に回転可能にして、ハウジング内面に形成した座面に対するランセットの係止を、ランセットの回転作動で解除する構造も開示されているが、ランセットに回転力を及ぼしてランセットを回転させると、ランセットの変形や変位によって係止の解除や突出作動の安定性を充分に確保し難くなるおそれがあり、特にばね部材で付勢された状態でランセットだけを回転させることが難しく、ばね部材にまで変形が及ぼされて付勢作動に悪影響がでるおそれもあった。
【0008】
また、特表2007-536000号公報(特許文献7)には、遮蔽物を皮膚に当接させハウジング内方に押し込むことでランセットが付勢されるとともに回動し、それによって遮蔽物と付勢されたランセットとの係合が外れて穿刺が行われる穿刺器具の開示がある。しかしながら、穿刺前に先端ガード(針キャップ)をねじ切ったり、引っ張ったりする操作によって、意図せずランセットが回動し遮蔽物とランセットとの係合が外れる誤作動が起きるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2007-521031号公報
【文献】特表2007-536008号公報
【文献】特許第3964457号公報
【文献】国際公開第2005/110225号
【文献】米国特許出願公開第2005/0070945号明細書
【文献】特許第3993529号公報
【文献】特表2007-536000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、ばね部材を圧縮した位置にランセットを係止した穿刺準備位置への保持と、係止解除による穿刺作動とを、確実に且つ安定した作動で行わせることが出来る新規な構造のディスポーザブル型穿刺器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、ハウジングに収容されたランセットがばね部材で付勢されて、該ランセットの先端部に設けた穿刺体が該ハウジングから突出することで穿刺作動されるディスポーザブル型穿刺器具において、前記ハウジング内に係止リングが配設されて、前記ランセットが該係止リングを貫通して突出方向に変位可能とされていると共に、該ランセットに係止突部が設けられて、該係止突部の該係止リングへの係止作用により、前記ばね部材が圧縮変形されて該ランセットが該ハウジングの奥方の穿刺準備位置に保持されるようになっている一方、該係止リングを回動させることにより該係止リングへの前記係止突部の係止を解除して該ランセットを前記ばね部材で突出方向に変位させて穿刺作動させる操作部材が設けられており、更に、該係止リングの回動が許容された状態下において、該係止リングの回動に抵抗を及ぼすことで、該操作部材の操作に基づかない該係止リングの回動を規制する規制手段が設けられていると共に、前記ハウジングと前記ランセットの少なくとも一方には、前記係止リングとの間において、相対的な回動に際して回動方向での当接によって抵抗を生ずる当接部が設けられており、該当接部によって該規制手段が構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本態様に従う構造とされたディスポーザブル型穿刺器具によれば、ハウジング及びランセットと別体の係止リングを採用し、この係止リングを回動操作することで、ばね部材で付勢されて穿刺準備位置へ保持させたランセットの係止を解除して穿刺作動させることができる。それ故、穿刺準備位置で予め圧縮されたばね部材により、ランセットに対して安定した付勢力が及ぼされて穿刺作動され得る。また、穿刺作動させるための操作力が、ランセットに対して横方向へ直接に及ぼされることが回避されることから、ランセットの中心軸のズレに起因する引っ掛かりや他部材への摩擦力の増大が防止されて安定した穿刺作動が実現される。しかも、回動操作される係止リングは、ばね部材で付勢されたランセットと異なり、それだけを回動させることが出来るから、穿刺作動の操作を容易に且つ安定して行うことが可能となる。
【0013】
ここにおいて、本態様では、係止リングの回動が許容された状態下において、操作部材の操作に基づかない係止リングの回動を規制する規制手段が設けられていることから、操作部材の操作前に係止リングが意図せず回動して係止リングへの係止突部の係止が解除されることが防止され得る。それ故、操作部材の操作前においてランセットの穿刺準備位置への保持が安定してなされ得て、操作部材の操作による穿刺作動が実現される。
【0014】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るディスポーザブル型穿刺器具において、前記係止リングと、該係止リングを回動可能に支持する前記ハウジングとが径方向で対向する内外周面において前記当接部を設けることによって前記規制手段が構成されているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされたディスポーザブル型穿刺器具によれば、規制手段を構成する当接部が、係止リングとハウジングとの径方向間に設けられていることから、当接部による抵抗力がランセットへ直接に及ぼされることを回避できる。
【0016】
本発明の第3の態様は、前記第2の態様に係るディスポーザブル型穿刺器具において、前記ハウジングが、ハウジング本体と該ハウジング本体の先端側に設けられるハウジング口体を含んで構成されており、該ハウジング口体には基端側に向かって延びる支持筒部が設けられている一方、該支持筒部に対して前記係止リングが外挿されていると共に、該支持筒部と該係止リングとの径方向間に前記当接部が設けられているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされたディスポーザブル型穿刺器具によれば、係止リングを内周面において回動可能に支持せしめてハウジング内に配設することができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、前記第3の態様に係るディスポーザブル型穿刺器具において、前記支持筒部の外周面に軸方向に延びる内周側凸部が設けられていると共に、前記係止リングの内周面に軸方向に延びる外周側凸部が設けられており、該係止リングの該支持筒部に対する周方向の相対的な回動に際して、これら内周側凸部と外周側凸部が相互に当接することで前記ハウジングに対する前記係止リングの回動に抵抗を及ぼすと共に、該内周側凸部と該外周側凸部とが相互に乗り越えることで前記操作部材の操作に基づく該係止リングの回動を許容する前記当接部が構成されているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされたディスポーザブル型穿刺器具によれば、内周側凸部と外周側凸部との当接により、係止リングの不用意な回動が規制される一方、操作部材で係止リングを回動させて外周側凸部が内周側凸部を乗り越えた後は、係止リングがスムーズに回動して良好な穿刺作動が実現され得る。
【0020】
本発明の第5の態様は、前記第4の態様に係るディスポーザブル型穿刺器具において、前記内周側凸部と前記外周側凸部とが、周方向において前記支持筒部と前記係止リングとの各対応する位置に周方向で等間隔に複数設けられているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされたディスポーザブル型穿刺器具によれば、操作部材による穿刺作動に際して、係止リングの軸直角方向へ及ぼされる外周側凸部の内周側凸部に対する乗越反力が、複数の内外周凸部の相互間で相殺される。その結果、穿刺作動されるランセットと係止リングとの軸直角方向のずれが抑えられて、穿刺作動の更なる安定化も図られ得る。
【0022】
本発明の第6の態様は、前記第1の態様に係るディスポーザブル型穿刺器具において、前記係止リングにおける軸方向前方面と、該係止リングを回動可能に支持する前記ハウジングにおいて該係止リングの該軸方向前方面に対向する軸方向対向面との間に、前記当接部を設けることによって前記規制手段が構成されているものである。
【0023】
本態様に従う構造とされたディスポーザブル型穿刺器具によれば、規制手段を構成する当接部が、係止リングとハウジングとの軸方向対向面間に設けられることから、操作部材による穿刺作動に際して係止リングを回動させた際にも、係止リングに対する軸直角方向の外力の作用、ひいては係止リングとランセットとの軸直角方向の軸ずれが抑えられ得る。
【0024】
本発明の第7の態様は、前記第6の態様に係るディスポーザブル型穿刺器具において、前記ハウジングの前記軸方向対向面には、該ハウジングに対する前記係止リングの相対的な回動に際して該係止リングへ当接して該係止リングを軸方向後方側へ移動させる前記当接部が設けられており、前記操作部材の操作に基づく該係止リングの回動が、該係止リングに係止された前記ランセットによって及ぼされる前記ばね部材の付勢力に抗しての該当接部による該係止リングの軸方向後方側への移動を伴って、許容されるようになっているものである。
【0025】
本態様に従う構造とされたディスポーザブル型穿刺器具によれば、ランセットを穿刺作動させるばね部材による付勢力を巧く利用して、係止リングの不用意な回動を規制する規制手段が構成され得る。
【0026】
本発明の第8の態様は、前記第1の態様に係るディスポーザブル型穿刺器具において、前記係止リングにおける軸方向後方面と、該係止リングに係止された前記ランセットの前記係止突部との間に、前記当接部を設けることによって前記規制手段が構成されているものである。
【0027】
本態様に従う構造とされたディスポーザブル型穿刺器具によれば、規制手段を構成する当接部が、係止リングとランセットの軸方向対向面間に設けられることから、操作部材による穿刺作動に際して係止リングを回動させた際にも、係止リングに対する軸直角方向の外力の作用、ひいては係止リングとランセットとの軸直角方向の軸ずれが抑えられ得る。また、係止リングの不用意な回動を規制する規制手段が、ランセットの係止突部を巧く利用して構成され得る。
【0028】
本発明の第9の態様は、前記第8の態様に係るディスポーザブル型穿刺器具において、前記係止リングの軸方向後方面に軸方向凸部が設けられて、該係止リングの前記ハウジングに対する周方向の相対的な回動に際して、前記ランセットの前記係止突部と該係止リングの該軸方向凸部が相互に当接することで該係止リングの回動に抵抗を及ぼすと共に、該ランセットが前記ばね部材による付勢力に抗して後方側へ移動して該係止リングの軸方向凸部を逃げることで前記操作部材の操作に基づく該係止リングの回動を許容するようになっているものである。
【0029】
本態様に従う構造とされたディスポーザブル型穿刺器具によれば、係止リングに設けられた軸方向凸部とランセットの係止突部が相互に当接することで操作部材の操作に基づかない係止リングの回動が規制されるとともに、操作部材を操作して穿刺作動させる際には、軸方向凸部によりランセットが軸方向後方側へ移動せしめられ、軸方向凸部と係止突部との当接が解除されて、係止リングの回動が許容され得る。
【発明の効果】
【0030】
本発明に従う構造とされたディスポーザル型穿刺器具によれば、係止リングを回動操作することで、ばね部材で付勢されて穿刺準備位置へ保持させたランセットの係止を解除して穿刺作動させることができる。特に、操作部材の操作に基づかない係止リングの回動を規制する規制手段が設けられていることから、意図せず係止リングが回動することが防止されて、操作部材の操作前においてランセットを穿刺準備位置へより確実に保持することができるとともに、操作部材を操作することでより確実に穿刺作動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第1の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具の標準状態を示す全体平面図。
【
図7】
図1に示された穿刺器具を構成する係止リングの斜視図。
【
図8】
図1に示された標準状態または穿刺準備状態における係止リングの作用を説明するための後面図。
【
図9】
図1に示された標準状態または穿刺準備状態における係止リングの作用を説明するための前面図。
【
図10】
図1に示された穿刺器具の穿刺準備状態を示す、
図3に対応する縦断面図。
【
図12】
図1に示された穿刺器具の穿刺作動を説明するための、
図5に対応する横断面図。
【
図13】
図12に示された穿刺作動状態における係止リングの作用を説明するための後面図。
【
図14】
図12に示された穿刺作動状態における係止リングの作用を説明するための前面図。
【
図15】
図1に示された穿刺器具の穿刺作動状態を示す、
図3に対応する縦断面図。
【
図17】
図1に示された穿刺器具の穿刺後を示す、
図3に対応する縦断面図。
【
図19】
図1に示された穿刺器具の再使用防止の作動を説明するための、
図3に対応する縦断面図。
【
図21】
図1に示された穿刺器具のハウジングを構成するハウジング口体の斜視図。
【
図22】
図1に示された穿刺器具を構成する係止リングの斜視図。
【
図23】
図21に示されたハウジング口体と
図22に示された係止リングとの組付体を標準状態または穿刺準備状態で示す斜視図。
【
図24】
図23におけるXXIV-XXIV断面を拡大して示す断面図。
【
図25】穿刺作動状態または穿刺後の状態におけるハウジング口体と係止リングとの組付体の横断面図であって、
図24に対応する図。
【
図26】本発明の第2の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具の標準状態を示す縦断面図。
【
図30】
図26に示された標準状態または穿刺準備状態における係止リングの作用の説明図であって、
図31におけるXXX-XXX断面図。
【
図31】
図26に示された穿刺準備状態における係止リングの作用を説明するための後方斜視図。
【
図34】
図33に示された穿刺作動状態または穿刺後の状態における係止リングの作用の説明図であって、
図35におけるXXXIV-XXXIV断面図。
【
図35】
図33に示された穿刺作動状態における係止リングの作用を説明するための後方斜視図。
【
図38】
図26に示された穿刺器具の再使用防止の作動を説明するための、
図26に対応する縦断面図。
【
図40】本発明の第3の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具のハウジングを構成するハウジング口体の斜視図。
【
図42】本発明の第3の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具を構成する係止リングの斜視図。
【
図44】
図40に示されたハウジング口体と
図42に示された係止リングとの組付体を標準状態または穿刺準備状態で示す縦断面図であって、
図41に対応する断面図。
【
図45】穿刺作動状態または穿刺後の状態におけるハウジング口体と係止リングとの組付体の縦断面図であって、
図44に対応する図。
【
図46】本発明の第4の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具を構成する係止リングの斜視図。
【
図48】
図46に示された係止リングをランセットとハウジング口体との組付状態で示す斜視図であって、穿刺準備状態で示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、ディスポーザブル型穿刺器具に係る本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。なお、以下の実施形態の説明においては、理解を容易とするために、先ず、ディスポーザブル型穿刺器具の基本的構造および作動について説明し、その後、本願発明の一つの特徴的な構成である、係止リングの不用意な回動を規制する規制手段を詳述する。それ故、基本的構造の説明欄で参照する
図1~20では、規制手段に関連する細部構造を省略してあり、かかる細部構造については、
図21~25を参照しつつ説明することとする。
【0033】
[i]第1の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具の基本的構造および作動
先ず、
図1には、本発明の第1の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具10の平面図が示されており、その分解斜視図、縦断面図及び横断面図が、
図2~5に示されている。なお、
図1,3,4,5は、何れも、市場でユーザーに商品として提供される状態(標準状態)での穿刺器具10を示している。かかる穿刺器具10は、ハウジング12に対して、ランセット14とばね部材としての圧縮コイルばね16が収容されており、ランセット14から針キャップ18を外してハウジング12の操作片20を押操作することで、ランセット14がハウジング12から突出して穿刺作動するようになっている。なお、以下の説明中、特に断りのない限り、中心軸方向とはハウジング12及びランセット14の中心軸方向(
図1中の左右方向)をいい、ランセット14の突出方向となる
図1中の左方向を前方または先端側、右方向を後方または基端側という。
【0034】
より詳細には、ハウジング12は、何れも樹脂成形品からなるハウジング本体22とハウジング口体24によって構成されている。ハウジング本体22は、深底の略有底円筒形状とされており、その先端側開口部分に対して略円筒形状のハウジング口体24が固定的に組み付けられている。
【0035】
ハウジング本体22の底壁には、内面中央から内方に突出するばね座26が設けられている。また、ハウジング本体22の筒壁には、内周面上に突出して軸方向に直線的に延びる複数本の案内突条28が設けられている。そして、これら複数本の案内突条28により、ハウジング本体22の筒壁内面において、軸直角方向で対向位置する一対のガイドレール30,30が形成されている。
【0036】
また、ハウジング本体22の筒壁には、底壁側部分よりも僅かに拡径された開口側部分に位置して、操作部材としての操作片20が形成されている。この操作片20は、ハウジング本体22の周壁に形成された貫通窓34内に配されて、ハウジング本体22に対して部分的に連結されている。そして、ハウジング本体22の外側から操作片20を手指で押すことにより、かかる連結部の弾性変形に基づいて、操作片20がハウジング本体22の内方に向けて変位されるようになっている。
【0037】
さらに、ハウジング本体22の筒壁の開口周縁部には、外周面上に突出して周方向に延びる係合リブ36が一体形成されている。一方、ハウジング口体24の軸方向後端側には、外周を周方向に延びる大径の係合リング38が一体形成されている。なお、係合リング38は、ハウジング口体24の外周面上で周上の複数箇所に突設された連結脚部40によって、ハウジング口体24に連結支持されている。
【0038】
そして、ハウジング本体22の開口部分にハウジング口体24が組み合わされ、ハウジング口体24の係合リング38に対してハウジング本体22の係合リブ36が係合されることで、ハウジング本体22にハウジング口体24が組み付けられている。なお、かかる組付状態下では、係合リブ36の係合リング38に対する係合作用で、ハウジング本体22に対してハウジング口体24が軸方向に位置決め固定されていると共に、係合リブ36の連結脚部40への係合作用でハウジング本体22に対してハウジング口体24が周方向でも位置決め固定されている。
【0039】
また、ハウジング口体24は、係合リング38の内周側で中心軸上を後方に向かって筒状に延び出しており、それによって、ハウジング本体22内に入り込む支持筒部42が形成されている。また、ハウジング口体24の外周面上に突設された連結脚部40は、支持筒部42の外周面上にまで軸方向に所定長さで延び出して形成されている。更にまた、ハウジング口体24の内周面には、前方側の開口部近くに位置する、一対のキャップ係止用突起47,47が、軸直角方向で対向位置して突出形成されている。
【0040】
さらに、ハウジング口体24の内周面には、一対の第一案内溝44,44と、一対の第二案内溝46,46とが、それぞれ径方向で対向位置して軸方向に平行に延びて形成されている。これら第一案内溝44,44と第二案内溝46,46は、何れも、ハウジング口体24の軸方向中間部分から支持筒部42の内周面にまで延びており、支持筒部42の後方端部に開口されている。
【0041】
特に本実施形態では、一対の第一案内溝44,44が対向する径方向と、一対の第二案内溝46,46が対向する径方向とが、互いに直交している。また、第一案内溝44は、第二案内溝46に比して、その周方向幅寸法と径方向深さ寸法とが、何れも大きくされており、支持筒部42では、第一案内溝44が支持筒部42の周壁を貫通してスリット形状とされている。
【0042】
そして、このようにハウジング本体22とハウジング口体24から構成されたハウジング12には、その内部空間に対してランセット14が収容状態で組み込まれている。なお、ハウジング口体24は、穿刺後の血液溜まりを目視可能とするために透明または半透明とすることが好適である。
【0043】
かかるランセット14は、インサート成形品であって、ロッド形状を有する合成樹脂製のランセットハブ50に対して、その中心軸上に穿刺体としての穿刺針52が埋設固着されている。そして、ランセットハブ50の先端部中央から前方に向かって穿刺針52の先端が突設されている。
【0044】
また、ランセットハブ50の後端部には、周方向に延びる環状支持突部を備えたばね座54が形成されている。更に、ランセットハブ50の後端部分の外周面上には、軸直角方向両側に突出する一対のガイド突起56,56が、一体形成されている。一方、ランセットハブ50の前端部分の外周面上には、軸直角方向両側に突出する一対の再使用防止突部58,58が一体形成されている。更に、かかる一対の再使用防止突部58,58よりも所定寸法だけ軸方向後方に位置して、ランセットハブ50の外周面上で軸直角方向両側に突出する一対の係止突部60,60が一体形成されている。
【0045】
ここにおいて、一対の再使用防止突部58,58の突出方向と、一対の係止突部60,60の突出方向とは、互いに異ならされている。特に本実施形態では、一対の再使用防止突部58,58の突出方向と、一対の係止突部60,60の突出方向とが、互いに中心軸回りで90度異ならされており、また、一対の再使用防止突部58,58の突出方向が、一対のガイド突起56,56の突出方向と、中心軸回りで同じ方向に設定されている。
【0046】
さらに、ランセットハブ50の先端側には、針キャップ18が設けられている。この針キャップ18は、ロッド形状とされており、穿刺針52が突設されたランセットハブ50の先端から同一中心軸上に延び出して一体成形されている。ランセットハブ50と針キャップ18との境界部分は括れ状に外径寸法が小さくされたねじ切部64とされており、ランセットハブ50に対して針キャップ18を中心軸回りに捩じってねじ切部64で離脱させることで、針キャップ18を手作業でランセットハブ50から取り外すことが出来るようになっている。そして、針キャップ18をランセットハブ50から取り外すことで、針キャップ18で覆われていた穿刺針52の先端部を露出させ得るようになっている。
【0047】
また、
図6に示されているように、針キャップ18の先端部分は、扁平な摘み部66とされており、この摘み部66の後端部分には、幅方向両側部分において、それぞれ、突起68と舌片状の弾性爪部70とが軸方向で対向位置して突出形成されている。
【0048】
そして、かかるランセット14は、ハウジング本体22に対してランセットハブ50の後端側が差し入れられ、ハウジング口体24に対して針キャップ18が挿通された状態で、ハウジング12の中心軸上に配設されて組み付けられている。また、かかるランセット14のハウジング12への組み付けに際しては、圧縮コイルばね16と係止リング72とがハウジング12内に組み付けられて装着されている。
【0049】
すなわち、圧縮コイルばね16は、ハウジング本体22の底部に収容されて中心軸上に配されており、その後方端部がハウジング本体22のばね座26に嵌められて位置決めされていると共に、その前方端部がランセットハブ50のばね座54に嵌め合わされている。これにより、かかる圧縮コイルばね16が、ハウジング本体22の底部とランセットハブ50の後端部との軸方向対向面間に介装されており、ランセットハブ50が軸方向後方(ハウジング本体22の奥方)に変位されることで圧縮変形させられ、圧縮変形に伴う付勢力がランセットハブ50をハウジング本体22から前方に押し出す方向に及ぼされるようになっている。
【0050】
一方、係止リング72は、
図6~9にも示されているように、略円形のリング形状を有する樹脂成形品であり、ハウジング口体24の支持筒部42に外挿されて回動可能に装着されている。なお、係止リング72には、前方に向かって突出する一対の当接脚部74,74が一体形成されており、かかる当接脚部74が、支持筒部42において周上で隣り合う連結脚部40,40間に差し入れられている。そして、係止リング72が回動した際、当接脚部74が連結脚部40に対して周方向で当接することにより、支持筒部42上での係止リング72の周方向の回動許容範囲が45度よりも小さく設定されている。
【0051】
また、係止リング72には、後方端部に位置して内フランジ状の係合部75が一体形成されており、この係合部75の内周面には、一対の第一通過溝76,76と、一対の第二通過溝78,78とが、それぞれ径方向で対向位置して軸方向に平行に延びて形成されている。これら第一通過溝76,76と第二通過溝78,78は、何れも、係合部75の軸方向全長に亘って直線的に延びている。
【0052】
更にまた、係合部75の内径寸法は、ランセットハブ50及び針キャップ18の外径寸法よりも僅かに大きくされており、それらランセットハブ50及び針キャップ18に対して係止リング72が外挿装着されている。また、係合部75の第一通過溝76は、ランセットハブ50の再使用防止突部58よりも僅かに大きな断面形状とされており、かかる再使用防止突部58が第一通過溝76内を軸方向に移動可能とされている。また一方、係合部75の第二通過溝78は、ランセットハブ50の係止突部60よりも僅かに大きな断面形状とされており、かかる係止突部60が第二通過溝78内を軸方向に移動可能とされている。
【0053】
また、係止リング72では、一対の第一通過溝76,76が対向する径方向と一対の第二通過溝78,78が対向する径方向との為す角度(交角)が、ランセットハブ50において一対の再使用防止突部58,58が対向する径方向と一対の係止突部60,60が対向する径方向との為す角度(交角)と異ならされている。特に本実施形態では、一対の第一通過溝76,76が対向する径方向と一対の第二通過溝78,78が対向する径方向とが、相互に略60度で交差するようにされている。
【0054】
これにより、
図8,9からも明らかなように、係止リング72に対してランセットハブ50が挿通された状態下で、ランセットハブ50の一対の再使用防止突部58,58が係止リング72の一対の第一通過溝76,76に位置合わせされて軸方向への通過が許容された周方向の相対位置では、ランセットハブ50の一対の係止突部60,60が係止リング72の一対の第二通過溝78,78に対して位置ずれ状態にあり、係止突部60,60が係止リング72に係止されて軸方向前方への移動が阻止されるようになっている。一方、ランセットハブ50の一対の係止突部60,60が係止リング72の一対の第二通過溝78,78に位置合わせされて軸方向への通過が許容された状態下では、ランセットハブ50の一対の再使用防止突部58,58が係止リング72の一対の第一通過溝76,76に対して位置ずれ状態にあり、再使用防止突部58,58が係止リング72に係止されて係止リング72に対するランセットハブ50の軸方向後方への移動が阻止されるようになっている。
【0055】
なお、ランセットハブ50における一対の再使用防止突部58,58と一対の係止突部60,60とは、中心軸方向で係止リング72における係合部75の厚さ寸法より僅かに大きな距離だけ離れている。これにより、係合部75の軸方向前方に再使用防止突部58,58が外れて位置し且つ係合部75の軸方向後方に係止突部60,60が外れて位置した状態下、ランセットハブ50に外挿された係止リング72をランセットハブ50に対して回動させることができるようになっている。そして、この係止リング72の回動により、一対の再使用防止突部58,58と一対の係止突部60,60との何れか一方を、選択的に、第一通過溝76,76または第二通過溝78,78に対して位置合わせして、軸方向への通過変位を許容し得るようになっている。
【0056】
また、係止リング72の外周面には、一対の押圧片80,80が、径方向両側に突出して一体形成されている。この押圧片80は、係止リング72の軸方向視において不等辺直角三角形状を有しており、その斜辺に相当する面が、係止リング72の中心軸回りで傾斜した押圧傾斜面82とされている。そして、
図3及び
図5に示されているように、これらの押圧片80,80は、係止リング72を支持筒部42に装着した状態下で、ハウジング本体22の操作片20の内方に位置するように位置合わせされている。
【0057】
このようにして、圧縮コイルばね16及び係止リング72と共にランセット14をハウジング12に組み込むことによって、本実施形態の穿刺器具10が構成されている。なお、ハウジング12に組み込まれたランセット14は、ランセットハブ50に突設されたガイド突起56,56が、ランセット14を突出方向に案内する案内機構としてのガイドレール30,30に差し入れられており、ランセット14のハウジング12に対する周方向変位である中心軸回りの回転を阻止された状態で軸方向の移動が許容されている。
【0058】
また、ユーザーに提供される商品としての標準状態では、
図4に示されているとおり、ハウジング口体24のキャップ係止用突起47,47が、それぞれ、針キャップ18に形成された突起68と弾性爪部70の間で軸方向に挟まれて係止されており、針キャップ18の摘み部66がハウジング口体24から外方に所定長さで突出する状態で、ランセット14がハウジング12に対して軸方向で位置決めされている。
【0059】
かかる標準状態では、
図3に示されているとおり、ランセット14は、圧縮コイルばね16を圧縮変形させて、ランセットハブ50の係止突部60,60が係止リング72よりも更に後方に位置するまで、ハウジング本体22の奥方まで押し込まれている。そして、かかる状態下、
図4に示されているように、ランセットハブ50の再使用防止突部58,58は、係止リング72の第一通過溝76,76と、ハウジング口体24の支持筒部42の第一案内溝44,44との間に跨がって位置されている。即ち、係止リング72の第一通過溝76とハウジング口体24の第一案内溝44とが、再使用防止突部58で係合されることによって、係止リング72がハウジング口体24に対して周方向で相対回転不能に係合されて誤操作防止機構が構成されている。
【0060】
また、この位置決め状態下、
図5に示されているように、係止リング72の押圧片80の押圧傾斜面82が、操作片20の内方に対向位置している。そして、操作片20を手指でハウジング12内に押し込むことで、操作片20の周方向一方の端部が押圧傾斜面82に押し付けられ、押圧傾斜面82の傾斜角度に応じて発揮される分力作用に基づいて、操作片20の押圧力が係止リング72に対して回転力に変換されて及ぼされるようになっている。尤も、
図3,4に示された標準状態では、前述のとおり係止リング72のハウジング12に対する回転が阻止されていることから、操作片20を誤って押圧しても、穿刺器具10が予期せずに穿刺作動することはない。
【0061】
[穿刺準備状態]
次に、上述の如き標準状態で提供された穿刺器具10を用いて穿刺作動させる操作を説明するが、それには先ず、
図3,4に示された標準状態の穿刺器具10において、そのハウジング12を片手で把持し、他方の手で針キャップ18を摘まみ、針キャップ18を回転させる。これにより、針キャップ18の突起68と弾性爪部70を、ハウジング口体24のキャップ係止用突起47から離脱させると共に、ランセットハブ50から針キャップ18をねじ切部64でねじ切って、針キャップ18をハウジング口体24から抜き取る。このような操作により、穿刺器具10が、標準状態から、
図10,11に示されている穿刺準備状態とされる。
【0062】
この穿刺準備状態とされた穿刺器具10では、針キャップ18のハウジング口体24への軸方向の位置決めが解除されたことで、ランセットハブ50が、圧縮コイルばね16の付勢力で軸方向前方に移動させられる。そして、ランセットハブ50の係止突部60が、係止リング72の係合部75の後端面に当接して軸方向前方への変位が阻止されることとなる。この係止突部60の係止リング72への係止作用により、ランセット14が穿刺準備位置に保持されることとなる。
【0063】
また、この位置までランセットハブ50が前方に移動されることで、ランセットハブ50の再使用防止突部58,58は、係止リング72の第一通過溝76,76への係合位置から前方に外れて、ハウジング口体24の第一案内溝44,44だけに係合して位置させられる。
【0064】
このように、穿刺準備状態では、ランセットハブ50の再使用防止突部58,58と係止突部60,60が、係止リング72の第一通過溝76,76と第二通過溝78,78に対して、軸方向前方及び後方にそれぞれ外れて非係合状態とされていることにより、ハウジング12内において係止リング72の回転が許容されている。
【0065】
[穿刺作動状態]
それ故、穿刺準備状態から穿刺作動させて穿刺作動状態とするには、
図12に示されているように、穿刺準備状態にある穿刺器具10を把持して操作片20を手指で押し込めば良い。
図12中に二点鎖線で示すように操作片20を押し込んで係止リング72の押圧傾斜面82に押し付けることで、係止リング72が中心軸回りでハウジング12及びランセット14に対して回転する。そして、
図13,14に示されているように、係止リング72の後端面に当接されていたランセットハブ50の係止突部60,60に対して、係止リング72の第二通過溝78,78が位置合わせされると、係止突部60,60の係止リング72による軸方向の変位阻止力が解除され、係止突部60,60が係止リング72の第二通過溝78,78を通って軸方向前方への変位が許容される。
【0066】
その結果、
図15,16に示されているように、ランセット14が圧縮コイルばね16の付勢力に基づいてハウジング12内を軸方向前方に勢い良く移動する。そして、ランセット14のガイド突起56,56が係止リング72の後端面に当接するまでランセット14が軸方向前方に移動することで、ランセット14におけるガイド突起56,56より先端側が係止リング72を貫通するとともに、ランセット14の先端の穿刺針52が、ハウジング口体24の先端開口部から外方に所定長さで突出して、穿刺作動が実現されるのである。
【0067】
[穿刺後]
なお、上述の穿刺作動に際しては、圧縮コイルばね16の付勢力によって圧縮コイルばね16の自由長を超えてランセット14が軸方向前方に移動する。その際、圧縮コイルばね16の軸方向両端部は、ハウジング本体22の底部とランセット14の後端部とにそれぞれ固着されていることから、穿刺針52がハウジング口体24から突出した穿刺時において、ランセット14に対して圧縮コイルばね16の復元力がハウジング12内に引き戻す方向に及ぼされる。
【0068】
その結果、ハウジング口体24から穿刺針52が突出する穿刺作動が瞬間的に行われ、穿刺後には、
図17,18に示されているように、速やかにランセット14がハウジング12内に引き戻されて穿刺針52の針先がハウジング口体24内に収納されることとなる。
【0069】
[再使用防止]
また、上述の如き穿刺後には、
図17,18に示されているようにランセット14が、自由長とされた圧縮コイルばね16で位置決めされた軸方向位置に保持されることとなる。また、操作片20で回動された係止リング72も、
図13,14に示されている如き回動後の位置のままとされる。即ち、穿刺後には係止リング72に回転力が及ぼされずに係止解除状態とされた回動位置に保たれていることから、ランセット14がハウジング12の奥方に押し込まれても、係止突部60は第二通過溝78内を移動するだけであり、係止突部60が係止リング72に対して係止されない。それ故、穿刺後に、たとえ操作片20を操作してもランセット14が軸方向前方に突出する穿刺作動は再現されない。
【0070】
加えて、穿刺後に、ハウジング12の前方開口部から線材等を差し入れてランセット14をハウジング12の奥方に押し込むことで強制的に再使用を試みた場合でも、
図13,14に示されているように、ランセット14における再使用防止突部58,58と係止突部60,60との周方向の相対位置が、係止リング72における第一通過溝76,76と第二通過溝78,78との周方向の相対位置に比して、異ならされていることから、再使用がより確実に防止され得る。
【0071】
すなわち、ハウジング12の奥方にランセット14を強制的に押し込むに際して、たとえランセット14の係止突部60,60を第二通過溝78,78に対して周方向で位置合わせすることが出来て、係止突部60,60を係止リング72より奥方まで移動させ得たとしても、その時点で、既に、再使用防止突部58,58が第一通過溝76,76に対して位置ずれしている。それ故、
図19,20に示されているように、そこから更にランセット14を押し込むと、再使用防止突部58,58が係止リング72の係合部75の前端面に当接して、係止リング72もランセット14と一緒にハウジング12の奥方に移動するだけで、係止リング72に対してランセット14を再び係止させて
図8~11に示されている如き穿刺準備状態とすることが実質的に不可能である。
【0072】
特に本実施形態では、係止リング72が、ハウジング口体24の奥方向に位置して、ハウジング口体24の支持筒部42より大径とされて該支持筒部42に外挿配置されている。それ故、ハウジング口体24の前方開口部から覗き込んでも、係止リング72を視認することが殆ど出来ず、従って、ハウジング口体24の小さな前方開口部を通じて、ランセット14を押し込みつつ同時に係止リング72を回転変位させることなど、実質的に不可能である。
【0073】
また、ランセット14は、ガイド突起56,56のガイドレール30,30への係合作用で、ハウジング12に対する中心軸回りの回転が阻止されていることから、ランセット14を回転させて係止リング72に相対回転作用を及ぼすこともできない。ましてや、上述のとおり、係止リング72は、ハウジング本体22の奥方への移動が許容されていることから、ハウジング口体24の前方開口部から差し入れた線材等で係止リング72を回転させようとしても、線材等の係止リング72に対する軸方向の当接反力を得ることさえ困難である。
【0074】
[ii]ディスポーザブル型穿刺器具における規制手段の具体的構造および作動
本実施形態では、穿刺準備状態において操作片20の操作に基づかない係止リング72の回動を規制するために、以下の如き構造の規制手段が採用されている。本実施形態におけるハウジング口体24を
図21において詳細に説明するとともに、本実施形態における係止リング72を
図22において詳細に説明する。
【0075】
本実施形態のハウジング口体24には、支持筒部42の外周面における連結脚部40,40の周方向間において、軸方向に延びる内周側凸部84が設けられている。この内周側凸部84は、支持筒部42の外周面において径方向の両側に一対設けられている。特に、本実施形態では、それぞれの内周側凸部84が、連結脚部40に隣接する端側凸部84aと、当該端側凸部84aから周方向で離隔して連結脚部40,40間の周方向略中央に位置する中央凸部84bとから構成されている。これにより、これら端側凸部84aと中央凸部84bとの周方向間には、両凸部84a,84bに対して相対的に凹となる凹部86が形成されている。なお、中央凸部84bは、それぞれ略半円形断面を有しており、外周面が湾曲面形状とされている。また、端側凸部84aは、それぞれ連結脚部40に隣接する部分の外周面が略平坦面形状とされている一方、中央凸部84b側の外周面が湾曲面形状とされている。さらに、支持筒部42の外周面において、中央凸部84bに対して端側凸部84aと反対側には何等の凹凸は設けられておらず、支持筒部42の外周面が滑らかに広がっている。
【0076】
また、本実施形態の係止リング72には、その内周面に、軸方向に延びる外周側凸部88が設けられている。この外周側凸部88は、係止リング72における当接脚部74の周方向略中央において、係止リング72の軸方向略全長に亘って設けられている。本実施形態では、一対の当接脚部74,74が径方向で対向する位置に設けられていることから、外周側凸部88も、径方向で対向して一対設けられている。なお、外周側凸部88も、略半円形断面を有しており、内周面が湾曲面形状とされている。
【0077】
そして、かかるハウジング口体24と係止リング72とが、標準状態においては、
図23,24に示されるように組み付けられている。すなわち、係止リング72の当接脚部74,74が、ハウジング口体24の連結脚部40,40の周方向間に挿し入れられるとともに、係止リング72がハウジング口体24に設けられた支持筒部42に外挿されて回動可能に支持されている。
【0078】
ここにおいて、標準状態では、支持筒部42の外周面に設けられた内周側凸部84,84における端側凸部84a,84aと中央凸部84b,84bの周方向間に形成された凹部86,86に対して、係止リング72の内周面に設けられた外周側凸部88,88が入り込んでいる。すなわち、これら内周側凸部84,84と外周側凸部88,88とは、支持筒部42と係止リング72との各対応する位置に形成されており、内周側凸部84,84と外周側凸部88,88とが、それぞれ周方向で等間隔に形成されている。なお、支持筒部42の外周面に設けられた内周側凸部84(端側凸部84aおよび中央凸部84b)は、係止リング72における当接脚部74の内周面(外周側凸部88の設けられていない部分)に略ゼロタッチで当接するか僅かな離隔距離をもって対向している。一方、当接脚部74の内周面に設けられた外周側凸部88は、支持筒部42の外周面(内周側凸部84の設けられていない部分)に略ゼロタッチで当接するか僅かな離隔距離をもって対向している。
【0079】
かかる標準状態から、ランセット14の先端に設けられた針キャップ18を捩じ切って穿刺準備状態とされることで、支持筒部42に対する係止リング72の回動が許容されることとなるが、本実施形態では、支持筒部42に対して係止リング72の回動が許容された状態下においても、支持筒部42に対して係止リング72が周方向で位置決めされている。すなわち、かかる係止リング72の回動が許容された状態下において、外周側凸部88,88と、内周側凸部84,84の特に中央凸部84b,84bとが相互に当接することにより、支持筒部42に対する係止リング72の自由な回動が規制されている。さらに、穿刺準備状態だけでなく、ランセット14の先端に設けられた針キャップ18を捩じ切って標準状態から穿刺準備状態とする操作の過程においても、針キャップ18を捩じ切る力が係止リング72に伝わることで支持筒部42に対して係止リング72が周方向に回動することが防止され得る。
【0080】
したがって、本実施形態では、支持筒部42(ハウジング口体24)と係止リング72との径方向間に設けられた内周側凸部84,84と外周側凸部88,88とが、支持筒部42に対する係止リング72の回動に際して相互に当接することで抵抗を生じる当接部とされている。すなわち、当該当接部が設けられることで、係止リング72の回動が許容された状態下において、係止リング72の回動に際して抵抗が及ぼされて、操作片(操作部材)20の操作に基づかない係止リング72の回動が規制されるものであることから、本実施形態では、かかる当接部によって規制手段が構成されている。
【0081】
そして、穿刺作動に伴い、操作片20を押し込んで押圧傾斜面82に外力を及ぼすことで、
図25に示されるように、外周側凸部88,88が内周側凸部84,84の中央凸部84b,84bを乗り越えて、支持筒部42に対する係止リング72の回動が許容される。かかる外周側凸部88,88による中央凸部84b,84bの乗越えは、例えば係止リング72の当接脚部74,74が外周側に撓み変形することなどによりなされ得る。これにより、係止リング72とランセットハブ50の係止突部60,60との軸方向の変位阻止力が解除されて、係止突部60,60の軸方向前方への変位が許容され得る。その結果、ランセット14が圧縮コイルばね16の付勢力に基づいてハウジング12内を軸方向前方に勢いよく移動して、穿刺作動が実現される。
【0082】
以上の如き構造とされた本実施形態のディスポーザブル型穿刺器具10では、針キャップ18を抜き取って穿刺準備状態とした際に、係止リング72は回動が許容された状態となるが、当該状態において、係止リング72の回動に抵抗が及ぼされることで、操作片20の操作に基づかない係止リング72の回動が規制されるようになっている。これにより、操作片20の操作前に係止リング72が支持筒部42に対して意図せず回転してランセット14が軸方向前方に移動してしまうことが回避され得る。
【0083】
特に、係止リング72の回動を規制する規制手段が、内周側凸部84,84と外周側凸部88,88とにより構成されており、係止リング72の回動が、内周側凸部84,84の中央凸部84b,84bと外周側凸部88,88との当接により規制される一方、外周側凸部88,88が中央凸部84b,84bを乗り越えることによって許容されている。すなわち、係止リング72の回動に際して、例えば係止リング72やランセット14が軸方向に移動することがないことから、係止リング72やランセット14が軸方向に移動することに伴う振動などが抑制されて、ランセット14がぶれることなどが回避される。
【0084】
また、外周側凸部88,88が中央凸部84b,84bを乗り越えた後は、如何なる凹凸も設けられていないことから、外周側凸部88,88が支持筒部42の外周面にゼロタッチまたは僅かに離隔して対向した状態で、係止リング72が支持筒部42に対して回動せしめられる。それ故、外周側凸部88,88が中央凸部84b,84bを乗り越えた後の、係止リング72の回動がスムーズに行われて、使用者が引っ掛かり感などの抵抗感を感じることなく操作することができる。
【0085】
[iii]第2の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具
次に、別構造の係止リングを採用したディスポーザブル型穿刺器具を、
図26~39において、本発明の第2の実施形態として例示する。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位については、それぞれ、図中に第1の実施形態と同じ符号を付することにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0086】
本実施形態の穿刺器具100は、その分解図が
図29に示されていると共に、市場でユーザーに商品として提供される標準状態が
図26~28に示されているように、第1の実施形態に比して、ランセットハブ50に突設された一対の再使用防止突部(58,58)を備えていない。なお、本実施形態では、第1の実施形態における一対の再使用防止突部(58,58)と略同じ位置に、一対の回転阻止突部102,102が形成されている。
【0087】
また、それに対応して、係止リング72における係合部75の形状が、第1の実施形態と異なっている。具体的には、内フランジ状の係合部75には、略1/4周に亘る一対の切欠部104,104が、径方向で対向位置して形成されている。なお、係止リング72の係合部75の後端面には、肉厚が部分的に切除された一対の肉欠部106,106が、径方向で対向位置して形成されている。そして、係止リング72の係合部75の後端面に位置する、肉欠部106の境界線上の段差面によって、押圧傾斜面82が構成されている。即ち、第1の実施形態において係止リング72の外周面上に突設された押圧片80,80に代えて、本実施形態では肉欠部106,106が設けられており、かかる肉欠部106の境界線上の段差面で構成された押圧傾斜面82によって、ハウジング12に設けられた操作片20の押し込み力の分力が係止リング72に対して回転力として及ぼされるようになっているのである。
【0088】
そして、
図26~28に示された標準状態において、針キャップ18のハウジング口体24への係止によりランセット14がハウジング12に対して軸方向で位置決めされた状態下では、係止突部60が係合部75の後端面から軸方向後方に離れて位置している一方、
図30にも示されているように、回転阻止突部102,102が、係合部75,75内に位置している。かかる状態下、各回転阻止突部102の周方向両端部が、各切欠部104の周方向端面に対して、中心軸回りで対向位置している。これにより、係止リング72が中心軸回りで回転すると、その係合部75の切欠部104に対して、ランセット14の回転阻止突部102が当接するようになっている。また、ランセット14は、そのガイド突起56,56がハウジング本体22のガイドレール30,30に差し入れられて、中心軸回りの回転が阻止されている。それ故、標準状態では、回転阻止突部102,102の切欠部104,104に対する当接およびガイド突起56,56がガイドレール30,30に差し入れられて、中心軸回りの回転が阻止される誤操作防止機構により、係止リング72の回転が、ランセット14を介してのハウジング12への係合作用によって阻止されているのである。
【0089】
次に、上述の如き標準状態で提供された穿刺器具100を用いて穿刺作動させるには、第1の実施形態と同様に針キャップ18をランセットハブ50からねじ切ってハウジング口体24から抜き取ることにより、
図31,32に示されている如き穿刺準備状態とする。この穿刺準備状態の穿刺器具100では、第1の実施形態と同様に、針キャップ18によるランセットハブ50の位置決めが解除されて、ランセットハブ50が、圧縮コイルばね16の付勢力で軸方向前方に移動させられ、係止リング72の係合部75の後端面に対して、ランセットハブ50の係止突部60,60が当接した状態となる。
【0090】
また、この位置までランセットハブ50が前方に移動されることで、ランセットハブ50の回転阻止突部102,102が、係止リング72の係合部75から前方に外れ、それによって、係止リング72のハウジング12内での回転が許容される。
【0091】
それ故、かかる穿刺準備状態において、第1の実施形態と同様に操作片20をハウジング12の内方に押し込むと、操作片20が係止リング72の押圧傾斜面82に押し付けられ、回転方向の分力によって係止リング72が中心軸回りでハウジング12及びランセット14に対して回転される。これにより、
図33~35に示されているように、係止リング72の係合部75の後端面に当接されていたランセットハブ50の係止突部60,60が、係止リング72の切欠部104,104に位置合わせされると、ランセットハブ50に及ぼされていた軸方向の変位阻止力が解除され、係止突部60,60が係止リング72の切欠部104,104を通って軸方向前方へ変位許容される。
【0092】
その結果、
図36に示されているように、ランセット14が圧縮コイルばね16の付勢力に基づいてハウジング12内を軸方向前方に勢い良く移動し、第1の実施形態と同様に穿刺針52がハウジング12の前方開口部から瞬間的に突出することで、穿刺作動が実現されるのである。なお、本実施形態では、ハウジング本体22の筒部の内周面には、複数条の位置決めリブ108が、圧縮コイルばね16が配設される底部側を軸方向に延びて突設されている。そして、これら複数条の位置決めリブ108により、圧縮コイルばね16がハウジング本体22内の中心軸上で安定位置して伸縮変形されるようになっている。
【0093】
また、
図37に示されているように、穿刺針52の針先がハウジング口体24内に収納された穿刺後では、操作片20で回動された係止リング72が、
図34,35に示されている如き回動後の位置のままとされる。それ故、穿刺後に、
図38,39に示されているように、たとえランセット14をハウジング12の奥方に押し込むことで強制的に再使用を試みた場合でも、ランセット14の係止突部60,60が係止リング72の切欠部104,104を通じてハウジング本体22の奥方に移動するだけで、係止リング72に対してランセット14を再び係止させて
図30~32に示されている如き穿刺準備状態とすることが実質的に不可能である。
【0094】
特に本実施形態では、ランセット14のハウジング12に対する中心軸回りの回転が、ガイド突起56,56がガイドレール30,30へ差し入れられることで阻止されていることから、押し込んだランセット14を回転させて係止リング72に係止させることも出来ない。それ故、穿刺後に再び穿刺準備状態とするには、ハウジング口体24の小さな前方開口部を通じて、ランセット14を押し込みつつ同時に係止リング72を回転変位させることが必要とされていることから、再使用が一層困難となっている。
【0095】
本実施形態においても、前記[ii]欄に記載したものと同様な規制手段が採用されており、かかる規制手段によって、穿刺準備状態における係止リング72の不用意な回転が阻止されていることで、意図しないランセット14の係止離脱と突出方向への変位の防止が図られていると共に、操作片20の押込操作による穿刺作動に際しては係止リング72が規制手段による規制をこえて強制的に回動されることで、目的とする穿刺作動が実現されるようになっている。
【0096】
[iv]第3の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具
次に、
図40~45を示して、本発明の第3の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具を説明する。なお、本実施形態におけるハウジング口体120と係止リング122以外の部材は、前記第1の実施形態と同様の構造のものが採用され得ることから、詳細な説明を省略する。すなわち、本実施形態では、
図40,41に示されるハウジング口体120と
図42,43に示される係止リング122が採用されている。
【0097】
すなわち、本実施形態のハウジング口体120には、支持筒部42の外周面における連結脚部40,40の周方向間において、外周側に突出して周方向に延びる外周突部124が設けられている。この外周突部124は、連結脚部40,40の周方向間において、一方の連結脚部40に隣接して設けられているとともに、支持筒部42の外周面において径方向の両側に一対設けられている。なお、本実施形態では、かかる外周突部124が、所定の軸方向寸法(
図40,41中の上下方向寸法)を有しているとともに、連結脚部40,40間の周方向距離の1/3程度の周方向寸法をもって形成されている。
【0098】
そして、かかる外周突部124,124における軸方向後方面(
図40,41中の上方面)には、周方向における連結脚部40に隣接する側から隣接していない側に向かって軸方向寸法が次第に大きくなる傾斜面126,126が設けられており、本実施形態では、外周突部124,124における軸方向後方面の略全面が傾斜面126,126とされている。
【0099】
一方、本実施形態の係止リング122では、当接脚部74,74の軸方向前方面が、周方向の一方から他方に向かって軸方向寸法が小さくなる傾斜面128,128が設けられており、特に本実施形態では、当接脚部74,74の軸方向前方面の略全面が傾斜面128,128とされている。
【0100】
かかる構造とされたハウジング口体120と係止リング122とが、標準状態においては、
図44のように組み付けられている。すなわち、係止リング122から延びる当接脚部74,74がハウジング口体120の連結脚部40,40間に挿入されるとともに、係止リング122が支持筒部42に外挿されている。ここにおいて、ハウジング口体120に設けられた傾斜面126,126と係止リング122に設けられた傾斜面128,128とは略同じ傾斜角度をもって形成されており、標準状態では、これら傾斜面126,128が相互に当接するか、僅かな離隔距離をもって軸方向で対向している。したがって、本実施形態では、係止リング122の軸方向前方面(傾斜面128,128)に対向する軸方向対向面が、ハウジング口体120に設けられた傾斜面126,126によって構成されている。
【0101】
かかる標準状態からランセット(14)の先端に設けられた針キャップ(18)を捩じ切って穿刺準備状態とされることとなるが、本実施形態では、穿刺準備状態とされて支持筒部42に対して係止リング122の回動が許容された状態下においても、ハウジング口体120に設けられた外周突部124,124の傾斜面126,126と係止リング122に設けられた傾斜面128,128とが相互に当接することで支持筒部42に対する係止リング122の自由な回動が規制されている。
【0102】
すなわち、本実施形態では、係止リング122の回動に際して、係止リング122の軸方向前方面である傾斜面128,128に対して相互に当接して抵抗を生じる当接部が、ハウジング口体120に設けられた外周突部124,124の傾斜面126,126によって構成されている。ようするに、かかる当接部が、係止リング122の軸方向前方面である傾斜面128,128と対向する軸方向対向面(傾斜面126,126)に設けられている。そして、当該当接部により、係止リング122の回動が許容された状態下において、係止リング122の回動に際して抵抗が及ぼされて、操作片(操作部材)(20)の操作に基づかない係止リング122の回動が規制されるものであることから、本実施形態では、かかる当接部によって規制手段が構成されている。
【0103】
そして、穿刺作動に伴い、操作片(20)を押し込んで押圧傾斜面82に外力を及ぼすことで、
図45に示されるように、係止リング122に設けられた傾斜面128,128がハウジング口体120に設けられた傾斜面126,126を乗り越えて、支持筒部42に対する係止リング122の回動が許容される。かかる傾斜面128,128による傾斜面126,126の乗越えは、操作片20の押込みに伴い傾斜面126,126と傾斜面128,128とを相互に当接させ、その当接力の分力を係止リング122の軸方向後方への押込力として作用させて、係止リング122およびランセット(14)を圧縮コイルばね(16)の付勢力に抗して軸方向後方側に移動させることによってなされる。そして、傾斜面128,128が傾斜面126,126を乗り越えることにより、係止リング122の支持筒部42に対する回動が許容されるとともに、係止リング122とランセットハブ(50)の係止突部(60,60)との軸方向の変位阻止力が解除されて、係止突部(60,60)の軸方向前方への変位が許容され得る。その結果、ランセット(14)が圧縮コイルばね(16)の付勢力に基づいてハウジング(12)内を軸方向前方に勢いよく移動して、穿刺作動が実現される。
【0104】
以上の如き構造とされた本実施形態のディスポーザブル型穿刺装置においても、前記第1の実施形態と同様に、操作片(20)の操作前に係止リング122が支持筒部42に対して意図せず回転してランセット(14)が軸方向前方に移動してしまうことが回避され得る。特に、本実施形態では、係止リング122の回動に際して、係止リング122およびランセット(14)が軸方向後方に移動するに過ぎず、軸直角方向にずれるものでないことから、穿刺作動時におけるランセット(14)のぶれなどが効果的に低減され得る。
【0105】
[v]第4の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具
次に、
図46~49を示して、本発明の第4の実施形態としてのディスポーザブル型穿刺器具を説明する。なお、本実施形態における係止リング130とランセット132以外の部材は、前記第1の実施形態と同様の構造のものが採用され得ることから、詳細な説明を省略する。すなわち、本実施形態では、
図46,47に示される係止リング130と
図48,49に示されるランセット132が採用されている。
【0106】
本実施形態における係止リング130には、軸方向後方面となる係合部134の軸方向後端面135に、軸方向後方側に突出する軸方向凸部136が設けられている。本実施形態では、係合部134の軸方向後端面135において、第二通過溝78,78に略隣接する位置に、径方向で対向して、一対の軸方向凸部136,136が軸直角方向に延びて形成されている。
【0107】
一方、本実施形態におけるランセット132では、係止突部138,138が、段付形状をもって形成されている。すなわち、係止突部138,138が、内周側に位置する周方向寸法の大きい広幅部140,140と、当該広幅部140の周方向中央から外周側に突出する狭幅部142,142とから構成されている。
【0108】
そして、かかる係止リング130とランセット132とハウジング口体24とが、組み付けられる。すなわち、標準状態では、係止リング130の係合部134に対して、ランセット132の係止突部138,138の特に狭幅部142,142が軸方向で当接するとともに、係止リング130の軸方向凸部136,136に対して、ランセット132の係止突部138,138の特に狭幅部142,142が周方向で当接するか僅かな離隔距離をもって周方向で対向している。
【0109】
かかる標準状態からランセット132の先端に設けられた針キャップ(18)を捩じ切って穿刺準備状態とされることとなるが、本実施形態では、
図48,49に示されるように、穿刺準備状態とされて支持筒部42に対して係止リング130の回動が許容された状態下においても、係止リング130に設けられた軸方向凸部136,136とランセット132に設けられた係止突部138,138の特に狭幅部142,142とが相互に当接することで支持筒部42に対する係止リング130の回動に抵抗を及ぼして、係止リング130の自由な回動が規制されている。
【0110】
すなわち、本実施形態では、係止リング130の回動に際して、ランセット132の係止突部138,138に対して相互に当接して抵抗を生じる当接部が、係止リング130の軸方向後方面(軸方向後端面135)に設けられた軸方向凸部136,136によって構成されている。そして、当該当接部により、係止リング130の回動が許容された状態下において、係止リング130の回動に際して抵抗が及ぼされて、操作片(操作部材)(20)の操作に基づかない係止リング130の回動が規制されるものであることから、本実施形態では、かかる当接部によって規制手段が構成されている。
【0111】
そして、穿刺作動に伴い、操作片(20)を押し込んで押圧傾斜面82に外力を及ぼすことで、ランセット132に設けられた係止突部138,138が係止リング130に設けられた軸方向凸部136,136を乗り越えて(逃げて)、支持筒部42に対する係止リング130の回動が許容される。かかる係止突部138,138による軸方向凸部136,136の乗越えは、操作片20の押込みに伴い係止突部138,138と軸方向凸部136,136とを相互に当接させ、その当接力をランセット132の軸方向後方への押込力として作用させて、ランセット132を圧縮コイルばね(16)の付勢力に抗して軸方向後方側に移動させることによってなされる。そして、係止突部138,138が軸方向凸部136,136を乗り越えることにより、係止リング130の支持筒部42に対する回動が許容されるとともに、係止リング130とランセット132の係止突部138,138との軸方向の変位阻止力が解除されて、係止突部138,138の軸方向前方への変位が許容され得る。その結果、ランセット132が圧縮コイルばね(16)の付勢力に基づいてハウジング(12)内を軸方向前方に勢いよく移動して、穿刺作動が実現される。
【0112】
以上の如き構造とされた本実施形態のディスポーザブル型穿刺装置においても、前記第1の実施形態と同様に、操作片(20)の操作前に係止リング122が支持筒部42に対して意図せず回転してランセット(14)が軸方向前方に移動してしまうことが回避され得る。また、本実施形態においても、係止リング130の回動に際して、ランセット132が軸方向後方に移動するに過ぎず、軸直角方向にずれるものでないことから、穿刺作動時におけるランセット132のぶれなどが効果的に低減され得る。
【0113】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態に関する具体的な記載によって、何等限定的に解釈されるものではない。
【0114】
すなわち、前記実施形態のディスポーザブル型穿刺器具10,100では、何れも、ハウジング12内に、ランセット14,132に対して突出力と引込力の両方を及ぼす圧縮コイルばね16が1つだけ配設されていたが、例えば、ランセット14,132に対して突出方向の付勢力を及ぼすばね部材と引込方向の付勢力を及ぼすばね部材とを各別に設ける等しても良い。
【0115】
また、穿刺体として、例示の如き穿刺針52に代えて、ブレード等を用いることもできる。
【0116】
さらに、前記第1の実施形態では、ハウジング口体24の支持筒部42の外周面に内周側凸部84,84を設けるとともに、係止リング72の内周面に外周側凸部88,88を設けてこれら内周側凸部84,84と外周側凸部88,88とにより当接部が構成されていたが、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、支持筒部42の外周面と係止リング72の内周面との一方に凸部を設けるとともに、他方に凹部を設けて、かかる凹部に対して凸部が嵌まり込むことで操作部材(操作片20)の操作に基づかない係止リング72の回動を規制する規制手段が構成されていてもよい。
【0117】
なお、前記第1の実施形態において、内周側凸部84,84における端側凸部84a,84aは必須なものではない。すなわち、係止リング72は、係止突部60の係止が解除される方向への回動が規制されていればよく、反対方向への回動は必ずしも規制されなくてもよい。尤も、係止リング72の反対方向への回動は、当接脚部74が連結脚部40に当接することで規制され得る。
【0118】
また、前記第1,3,4の実施形態では、それぞれ当接部(内周側凸部84および外周側凸部88、傾斜面126、軸方向凸部136)が径方向で対向して一対設けられていたが、周上で1箇所に設けられるだけでもよいし、3箇所以上に設けられてもよい。なお、かかる当接部が複数設けられる場合には周方向で等間隔に設けられることが好適であるが、必ずしも等間隔に設けられなくてもよい。
【0119】
さらに、前記第1,3,4の実施形態では、係止リング72,122,130の、それぞれ内周面、軸方向前方面(傾斜面128)、軸方向後方面(軸方向後端面135)に当接部が設けられていたが、これらのうち2つまたは3つが相互に組み合わされて採用されてもよく、例えば係止リング72,122,130の内周面と軸方向前方面に当接部が設けられてもよいし、係止リング72,122,130の内周面と軸方向前方面と軸方向後方面の全てに当接部が設けられてもよい。
【0120】
更にまた、前記第1,3,4の実施形態では、操作部材(操作片20)の操作に基づかない係止リング72,122,130の回動を規制する規制手段が当接部(内周側凸部84および外周側凸部88、傾斜面126、軸方向凸部136)によって構成されていたが、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、係止リング72,122,130を回動方向と反対方向に付勢する付勢部材を設けて、当該付勢部材による付勢力により係止リング72,122,130の回動に抵抗を及ぼすことで、操作部材の操作に基づかない係止リング72,122,130の回動を規制する規制手段が設けられるようになっていてもよい。かかる規制手段が設けられる場合には、付勢力を上回る操作力を操作部材に及ぼすことで、係止リング72,122,130が付勢部材による付勢力を振り切って回動するようにされる。なお、かかる付勢部材は、係止リング72,122,130やランセット14,132、ハウジング口体24,120やハウジング本体22などの何れに設けられてもよい。
【0121】
なお、前記第1の実施形態の穿刺器具10では、誤操作防止機構(係止リング72の第一通過溝76およびハウジング口体24の第一案内溝44とランセットハブ50の再使用防止突部58)との係合によって、標準状態や針キャップ18のねじ切り時における係止リング72の回動が阻止されていたが、当該誤操作防止機構とは別個に設けられた規制手段(内周側凸部84,84と外周側凸部88,88との当接)によっても標準状態や針キャップ18のねじ切り時における係止リング72の回動阻止効果が発揮され得る。また、前記第2および第3の実施形態においても誤操作防止機構とは別個に設けられた規制手段によって、標準状態や針キャップ18のねじ切り時における係止リング72,122の回動阻止効果が発揮され得る。尤も、本発明に係る規制手段は、少なくとも穿刺準備状態(即ち、係止リング72の回動が許容された状態下)において、係止リングの回動阻止効果が発揮されればよく、標準状態や針キャップ18のねじ切り時において回動阻止効果が発揮される必要はない。
【符号の説明】
【0122】
10,100:ディスポーザブル型穿刺器具、12:ハウジング、14,132:ランセット、16:圧縮コイルばね(ばね部材)、20:操作片(操作部材)、22:ハウジング本体、24,120:ハウジング口体、42:支持筒部、52:穿刺針(穿刺体)、60,138:係止突部、72,122,130:係止リング、84:内周側凸部(当接部)、88:外周側凸部(当接部)、126:傾斜面(軸方向対向面、当接部)、128:傾斜面(軸方向前方面)、135:軸方向後端面(軸方向後方面)、136:軸方向凸部(当接部)