(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】電力変換装置、電力変換装置において出力電流の値を推定する方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
H02M3/155 H
(21)【出願番号】P 2019544519
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2018033355
(87)【国際公開番号】W WO2019065172
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2017189659
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 理
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-022170(JP,A)
【文献】特開2013-207914(JP,A)
【文献】特開2008-312278(JP,A)
【文献】特開2011-109884(JP,A)
【文献】特開2012-139084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電力を所定の出力電力に変換する電力変換装置であって、
インダクタと、
前記インダクタの一端に接続されるスイッチ素子と、
前記電力変換装置の出力電流を検出する電流センサと、
所定のサンプリング周期で前記電流センサにより検出された出力電流をサンプリングし、前記スイッチ素子のON期間中の所定のタイミングの出力電流の値である第1電流値を得る制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記スイッチ素子の前記ON期間の直前のOFF期間の少なくとも2つのタイミングにおける出力電流のサンプル値に基づいて、前記ON期間の開始タイミングの出力電流の値である第2電流値を算出し、
前記第2電流値と、前記インダクタのインダクタンスと、前記サンプリング周期とに基づいて算出した推定値を前記第1電流値とする、
電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記ON期間の長さが第1所定値以上である場合には、前記ON期間中の前記所定のタイミングにおける出力電流のサンプル値を前記第1電流値とし、
前記ON期間の長さが前記第1所定値未満である場合には、前記第2電流値と、前記インダクタンスと、前記サンプリング周期とに基づいて算出した推定値を前記第1電流値とする、
請求項1に記載された電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ON期間の長さが前記第1所定値未満である場合には、前記推定値と、前記ON期間中の前記所定のタイミングにおける出力電流のサンプル値との差分が、所定の基準に基づき小さいと判断した場合には、前記サンプル値を前記第1電流値とする、
請求項2に記載された電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2電流値が第2所定値以下である場合には、前記第2電流値が前記第2所定値であるとして前記第1電流値を推定する、
請求項1から3のいずれか1項に記載された電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1電流値に基づいて前記スイッチ素子のデューティ比を制御する、
請求項1から4のいずれか1項に記載された電力変換装置。
【請求項6】
ダイオードを更に備え、
前記ダイオードのアノード端子は、前記インダクタの前記一端に接続される、
請求項1から5のいずれか1項に記載された電力変換装置。
【請求項7】
ダイオードを更に備え、
前記ダイオードのカソード端子は、前記スイッチ素子の一端に接続される、
請求項1から5のいずれか1項に記載された電力変換装置。
【請求項8】
ブリッジ回路と、
前記ブリッジ回路に接続される平滑コンデンサと、
ダイオードと、を、更に備え、
前記ダイオードのアノード端子は、前記インダクタの前記一端に接続される、
請求項1から5のいずれか1項に記載された電力変換装置。
【請求項9】
ブリッジ回路と、
前記ブリッジ回路に接続される平滑コンデンサと、
ダイオードと、を、更に備え、
前記ダイオードのカソード端子は、前記スイッチ素子の一端に接続される、
請求項1から5のいずれか1項に記載された電力変換装置。
【請求項10】
入力電力を所定の出力電力に変換する電力変換装置において出力電流の値を推定する方法であって、
スイッチ素子のON期間の直前のOFF期間の少なくとも2つのタイミングにおける出力電流をサンプリングすることにより出力電流のサンプル値を取得し、当該サンプル値に基づいて、前記ON期間の開始タイミングの出力電流の値を算出し、
算出した出力電流の値と、前記電力変換装置のインダクタのインダクタンスと、出力電流のサンプリング周期とに基づいて、前記ON期間中の所定のタイミングにおける出力電流の値を推定する、
電力変換装置において出力電流の値を推定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、電力変換装置において出力電流の値を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、出力電流の検出値に基づいて、PWM信号のデューティ比をフィードバック制御する昇圧型や降圧型DC-DCコンバータ、または昇圧型、降圧型AC-DCコンバータが知られている。例えば日本国公開公報特開2017-085835号公報には、出力電圧又は出力電流の少なくともいずれかを反映した値を検出する検出部と、入力電圧から出力電圧への電圧変換をPWM信号により制御する制御部とを備える。当該制御部は、出力の目標値と検出部の検出結果とに基づいて、PWM信号のデューティ比を更新するフィードバック制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国公開公報:特開2017-085835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、GaNやSiCで作製したスイッチ素子の開発によって、電力変換装置のスイッチング周波数の高速化が進んでいる。しかしながら、スイッチング周波数の高速化によって、出力電流を適切に検出することが困難となってきている。すなわち、高速スイッチング時にスイッチ素子のOFF期間からON期間に切り替わった直後には、スイッチ素子等の各素子の寄生容量および寄生インダクタンスの存在により出力電流にノイズが重畳する場合があるため、出力電流の検出値が正しい値となっていない場合がある。特に、ON期間が短い場合には、出力電流にノイズが重畳している時間のON期間に占める割合が相対的に高くなるため、出力電流の検出値が正しい値となっていない状況が顕著になる。正しくない出力電流の検出値に基づいて制御を行った場合、出力電流に基づくスイッチ素子の制御が適切に行われないか、又は、出力電流の過電流検出が適切に行われない可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、電力変換装置のスイッチ素子のON期間が短い場合に、適切な出力電流を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の例示的な第1発明は、入力電力を所定の出力電力に変換する電力変換装置であって、インダクタと、前記インダクタの一端に接続されるスイッチ素子と、前記電力変換装置の出力電流を検出する電流センサと、所定のサンプリング周期で前記電流センサにより検出された出力電流をサンプリングし、前記スイッチ素子のON期間中の所定のタイミングの出力電流の値である第1電流値を得る制御部と、を備え、前記制御部は、前記スイッチ素子の前記ON期間の直前のOFF期間の少なくとも2つのタイミングにおける出力電流のサンプル値に基づいて、前記ON期間の開始タイミングの出力電流の値である第2電流値を算出し、前記第2電流値と、前記インダクタのインダクタンスと、前記サンプリング周期とに基づいて算出した推定値を前記第1電流値とする、電力変換装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力変換装置のスイッチ素子のON期間が短い場合に、適切な出力電流を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る昇圧型DC-DCコンバータの回路図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るDC-DCコンバータの出力電流について、理想的な波形と実際の波形について示す図である。
【
図3a】
図3aは、実施形態に係るDC-DCコンバータの制御内容を示すフローチャートである。
【
図3b】
図3bは、実施形態に係るDC-DCコンバータの制御内容を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、連続したデューティサイクルにおける出力電流の波形を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る降圧型DC-DCコンバータの回路図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る昇圧型AC-DCコンバータの回路図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る降圧型AC-DCコンバータの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の電力変換装置の一実施形態である昇圧型のDC-DCコンバータ1について説明する。
【0010】
(1)本実施形態に係るDC-DCコンバータ1の構成
図1は、本実施形態に係るDC-DCコンバータ1の回路図である。
図1に示すように、本実施形態のDC-DCコンバータ1は、入力電源2の入力電圧V
INを昇圧させて負荷R
Lに出力電圧V
OUTを供給する非絶縁型の昇圧型コンバータである。入力電圧V
INは、例えば直流電圧(定電圧や全波整流された電圧等)である。
【0011】
DC-DCコンバータ1は、基本的な昇圧回路の構成として、インダクタL1、ダイオードD1、キャパシタC1、および、インダクタL1の一端に接続されるスイッチ素子としてのNMOSトランジスタQ1を含む。DC-DCコンバータ1はさらに、DC-DCコンバータ1の出力電流を検出する電流センサ3と、制御部4とを備える。
後述するが、制御部4は、所定のサンプリング周期で電流センサ3により検出された出力電流をサンプリングし、NMOSトランジスタQ1(スイッチ素子の一例)のON期間中の所定のタイミングの出力電流の値である電流値(第1電流値)を得る。制御部4は、当該電流値(第1電流値)に基づいてNMOSトランジスタQ1のデューティ比を制御する。
【0012】
入力電源2の一方の端子はノードN1に接続され、入力電源2の他方の端子はノードN2に接続されている。インダクタL1の一方の端はノードN2に接続され、インダクタL1の他方の端は、ダイオードD1のアノード端子とNMOSトランジスタQ1のドレイン端子とに接続されている。NMOSトランジスタQ1のソース端子は、ノードN1に接続されている。ダイオードD1のカソード端子とノードN1の間には、負荷RLと並列にキャパシタC1が接続されている。
【0013】
NMOSトランジスタQ1のゲート端子には、制御部4によって制御されたデューティ比のゲート電圧VGが印加される。
NMOSトランジスタQ1のON期間では、インダクタL1に電流が流れてインダクタL1にエネルギーが蓄積される。このとき、ダイオードD1は非導通状態となっており、負荷RLに対してキャパシタC1から電流が供給される。 他方、NMOSトランジスタQ1のOFF期間では、インダクタL1に蓄積されたエネルギーが逆起電力として放出されて、ダイオードD1が導通状態となる。そのため、インダクタL1に流れる電流は、キャパシタC1を充電すると同時に負荷RLへも供給される。このとき、負荷RLにかかる出力電圧は、入力電源2の入力電圧VINとインダクタL1で生ずる逆起電力の和からダイオードD1の順方向電圧を引いた値となる。
【0014】
電流センサ3は、DC-DCコンバータ1の出力電流に比例した電圧を制御部4へ出力する。電流センサ3は、例えばシャント抵抗器を備え、シャント抵抗器の両端電圧を検出する。電流センサ3の電流検出原理は特に限定するものではなく、他の検出原理を採用してもよい。他の検出原理として、例えばホール素子を用いた電流検出方法が挙げられる。
以下の説明では、電流センサ3によって検出した、DC-DCコンバータ1の出力電流に比例した電圧を「検出電圧」という。
【0015】
制御部4は、入力電源2の両端のノードN1,N2の電圧である入力電圧VINと、電流センサ3の検出電圧とを取り込むマイクロコントローラ(図示せず)と、マイクロコントローラにより決定されたデューティ比に基づいて、当該デューティ比のパルス波形のゲート電圧VGを生成するパルス生成回路(図示せず)と、を備える。マイクロコントローラは、所定のサンプリング周期で、入力電圧VINと、電流センサ3の検出電圧とをデジタル値(サンプル値)に変換し、後述するアルゴリズムに従ってDC-DCコンバータ1の出力電流を得る。
マイクロコントローラはさらに、得られたDC-DCコンバータ1の出力電流に基づいて、NMOSトランジスタQ1のゲート電圧VGのデューティ比を決定する。すなわち、制御部4は、例えば出力電流が一定となるようにフィードバック制御によりデューティ比を決定する。
【0016】
図2に、実施形態に係るDC-DCコンバータ1の出力電流について、理想的な波形と実際の波形について示す。出力電流の理想的な波形とは、仮にNMOSトランジスタQ1等の各素子の寄生容量および寄生インダクタンスがないとした場合の出力電流の波形である。
図2に示すように、理想的な波形では、時間の経過に伴う出力電流の変化が線形となる。
【0017】
それに対して、実際のDC-DCコンバータ1では、NMOSトランジスタQ1や他の素子の寄生容量および寄生インダクタンスが存在する。したがって、
図2の実際の波形に示すように、出力電流にはスイッチングの切り替え直後にノイズが重畳する。そのため、DC-DCコンバータ1の出力電圧の上記マイクロコントローラによるサンプル値に基づいてデューティ比を決定したならば、フィードバック制御が適切に行われないか、又は過電流の検出が適切に行われない可能性がある。
そこで、本実施形態のDC-DCコンバータ1では、以下で述べるアルゴリズムにより出力電流の値を得るようにする。
【0018】
(2)本実施形態に係る出力電流の決定アルゴリズム
次に、本実施形態に係るDC-DCコンバータ1の制御部4での、出力電流の決定アルゴリズムについて、
図3~5を参照して説明する。
図3aおよび
図3bは、それぞれ実施形態に係るDC-DCコンバータの制御内容を示すフローチャートである。
図4は、連続したデューティサイクルにおける出力電流の波形を示す図である。
図5は、
図4の波形の一部を拡大した図である。
以下では、
図4に示すように、N-1回目(N≧2)およびN回目の連続した2回のデューティサイクルにおける処理を、
図3aおよび
図3bのフローチャートに関連付けて説明する。なお、
図3aおよび
図3bのフローチャートにおいて、予測フラグは、次回のデューティサイクルについて、出力電流のサンプル値に基づいて行うか(予測フラグ=「0」)、又は、後述する推定値に基づいて行うか(予測フラグ=「1」)の目安となるフラグであり、初期値は「0」である。
【0019】
図3aおよび
図3bのフローチャートの処理開始タイミングは、NMOSトランジスタQ1のON期間の所定のタイミングである。例えば、ON期間の中央の時刻であってもよい。ここでは、
図4のN-1回目デューティサイクルの時刻t1が処理開始タイミングであるとする(ステップS10:YES)。先ず、制御部4は、時刻t1において入力電圧V
INのサンプル値を取得する(ステップS12)。
【0020】
次いで、制御部4は、デューティ比(Duty)が所定値TH1未満であるか否かを判定する(ステップS14)。N-1回目デューティサイクルのデューティ比は時刻t1で既知であるため、当該デューティ比に従って、ステップS14は判定される。
デューティ比が大きい場合、つまりON期間が比較的長い場合には、当該ON期間の所定のタイミングでの出力電流(以下、「ON期間出力電流」という。)は安定しており、当該出力電流のサンプル値が適切な値である可能性が高い。
デューティ比が小さい場合、つまりON期間が比較的短い場合には、当該ON期間の所定のタイミングにおいてノイズが重畳している可能性が高い。そのため、当該所定のタイミングにおいて出力電流が安定しておらず、出力電流のサンプル値が適切な値である可能性が低いため、出力電流の推定値を算出する方がよい。
そこで、ステップS14では、デューティ比の大きさに応じて以降の処理を分岐させるようにしている。
【0021】
図4に示す例では、N-1回目のデューティサイクルのデューティ比が所定値TH1以上である場合を想定している。
デューティ比が所定値TH1以上である場合(ステップS14:NO)、制御部4は、予測フラグを「0」とし(ステップS16)、N-1回目ON期間のON期間出力電流のサンプル値(つまり、時刻t1の出力電流のサンプル値)を取得する(ステップS18)。そして、制御部4は、ステップS18で取得したサンプル値を、N-1回目処理のデューティ比の算出に用いる出力電流の値(以下、「制御電流値I
CONT」という。)とする(ステップS20)。 制御電流値I
CONTは第1電流値の一例であり、所定値TH1のデューティ比によって特定されるON期間の長さは第1所定値の一例である。すなわち、制御部4は、ON期間の長さが第1所定値以上である場合には、ON期間中の所定のタイミングにおける出力電流のサンプル値を第1電流値とする。
【0022】
次いで、N-1回目処理では、次のN回目処理のために、N回目のON期間開始電流値I
ON_STARTを算出しておく。ON期間開始電流値I
ON_STARTとは、ON期間の開始タイミングにおける出力電流推定値である。
先ず、制御部4は、OFF期間の出力電流(OFF期間出力電流)のサンプル値を2点取得する(ステップS34)。
図4に示す例では、時刻t2,t3の出力電流のサンプル値を取得する。取得する2点のサンプル値は、ONからOFFへの切り替わり直後ではなく、比較的安定したOFF期間後半の2点であることが好ましい。制御部4は、時刻t2,t3の間の出力電流のサンプル値の勾配から、OFF期間終了電流値I
OFF_ENDを算出する(ステップS36)。OFF期間終了電流値I
OFF_ENDとは、OFF期間の終了タイミングにおける出力電流推定値(
図4では、時刻t4の出力電流の推定値)である。
【0023】
ここで、OFF期間の終了タイミングにおける出力電流がゼロとなる場合(つまり、不連続モードの場合)には、制御電流値ICONTの推定値の算出(後述するN回目処理のステップS24)が適切に行われない可能性が高い。そのため、ステップS36で算出したOFF期間終了電流値IOFF_ENDの下限値を所定値TH2に制限する処理を行う(ステップS38,S40)。
【0024】
N-1回目デューティサイクルのOFF期間の終了時刻とN回目のデューティサイクルのON期間の開始時刻とは一致するため、制御部4は、ステップS36~S40を経て得られたOFF期間終了電流値IOFF_ENDをN回目のON期間開始電流値ION_STARTとする(ステップS42)。ON期間開始電流値ION_STARTは、第2電流値の一例である。
ステップS38の所定値TH2は、第2所定値の一例である。すなわち、制御部4は、ON期間開始電流値ION_START(第2電流値)が第2所定値以下である場合には、ON期間開始電流値ION_START(第2電流値)が第2所定値であるとして、次のN回目処理の制御電流値ICONT(第1電流値)を推定する。
【0025】
上述したように、制御部4は、NMOSトランジスタQ1のON期間の直前のOFF期間の少なくとも2つのタイミングにおける出力電流のサンプル値に基づいて、ON期間の開始タイミングの出力電流の値である第2電流値を算出する。
次いで、予測フラグの値を「1」とし(ステップS44)、N-1回目処理を終了する。
図示しないが、制御部4は、N-1回目処理において得られた制御電流値ICONTに基づいて、N回目のデューティ比を決定し、出力電流が過電流であるか否かを判断する。
【0026】
図4の時刻t5になると、制御部4は、N回目処理を開始する(ステップS10)。先ず、制御部4は、時刻t5において入力電圧V
INのサンプル値を取得する(ステップS12)。
図4に示す例では、N回目のデューティサイクルのデューティ比が所定値TH1未満である場合を想定している。
時刻t5の時点でN回目のデューティ比は既知である。デューティ比が所定値TH1未満である場合(ステップS14:YES)、制御部4は、予測フラグが「1」であるか否かを判定する(ステップS22)。N-1回目処理のステップS44において予測フラグは「1」とされているため、ステップS24へ進む。
【0027】
ステップS24では、制御部4は、N-1回目処理のステップS42で算出したON期間開始電流値ION_START(第2電流値の例)と、下記式(1)の関係とに基づいて、時刻t5における制御電流値ICONTの推定値IPDを算出する。
なお、式(1)において、LはインダクタL1のインダクタンスであり、入力電圧VINはステップS12で取得した値であり、サンプリング周期は既知である。そのため、式(1)からIの変化率を算出することができ、時刻t5における推定値IPDがもとめられる。
【0028】
【0029】
ステップS24で算出した推定値IPDをN回目処理の制御電流値ICONTとしてもよいが、ON期間出力電流のサンプル値(時刻t5の出力電流のサンプル値)が異常値でなければ当該サンプル値をN回目処理の制御電流値ICONTとする方が好ましい。すなわち、デューティ比が所定値TH1未満である場合であってもサンプル値が適切な値であれば、サンプル値を制御電流値ICONTとした方が、より適切な制御を行う観点から好ましいと考えられる。
そこで、制御部4は、ON期間出力電流のサンプル値(時刻t5の出力電流のサンプル値)を取得し(ステップS26)、当該サンプル値が異常な値であるか否かを判定する(ステップS28)。
【0030】
図5に、
図4のN回目ON期間を拡大した図を示す。ステップS28では、制御部4は、
図5に示すように、時刻t5のON期間出力電流のサンプル値I
SAMPLEと、ステップS24で算出した推定値I
PDとを比較する。そして、制御部4は、推定値I
PDとサンプル値I
SAMPLEとの差分が所定の基準に基づいて大きい場合にサンプル値I
SAMPLEが異常であると判断し、当該差分が所定の基準に基づいて小さい場合にサンプル値I
SAMPLEが正常であると判断する。
【0031】
一例として、制御部4は、サンプル値ISAMPLEが推定値IPDの所定の比率の範囲を外れた値である場合には、サンプル値ISAMPLEが異常であると判断する。例えば、サンプル値ISAMPLEが推定値IPDの0.7~1.3倍の範囲外である場合には、サンプル値ISAMPLEが異常であると判断する。逆に、サンプル値ISAMPLEが推定値IPDの0.7~1.3倍の範囲内である場合には、サンプル値ISAMPLEが正常であると判断する。
【0032】
制御部4は、サンプル値ISAMPLEが異常であると判断した場合には(ステップS28:YES)、ステップS24で算出した推定値IPDを制御電流値ICONTとする(ステップS30)。すなわち、制御部4は、ON期間の長さが第1所定値未満である場合に、ON期間開始電流値ION_START(第2電流値)と、インダクタL1のインダクタンスLと、サンプリング周期とに基づいて算出した推定値IPDを制御電流値ICONT(第1電流値)とする。
制御部4は、サンプル値ISAMPLEが異常でないと判断した場合には(ステップS28:NO)、サンプル値ISAMPLEを制御電流値ICONTとする(ステップS32)。すなわち、制御部4は、ON期間の長さが第1所定値未満である場合に、推定値IPDと、ON期間中の所定のタイミングにおける出力電流のサンプル値ISAMPLEとの差分が、所定の基準に基づき小さいと判断した場合には、サンプル値ISAMPLEを制御電流値ICONT(第1電流値)とする。
【0033】
次いで、N回目処理では、次のN+1回目処理のために、N+1回目のON期間開始電流値ION_STARTを、ステップS34~S44により算出しておく。ステップS34~S44の処理は、N-1回目処理と同じであるため、重複説明を省略する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態のDC-DCコンバータ1において制御部4は、NMOSトランジスタQ1のON期間の直前のOFF期間の少なくとも2つのタイミングにおける出力電流のサンプル値に基づいて、ON期間開始電流値ION_START(第2電流値)を算出する。そして、制御部4は、ON期間開始電流値ION_START(第2電流値)と、インダクタL1のインダクタンスと、サンプリング周期とに基づいて算出した推定値IPDを、ON期間の所定のタイミングにおける出力電流である第1電流値(上記制御電流値ICONT)と推定する。そのため、高速スイッチング時にNMOSトランジスタQ1のOFF期間からON期間に切り替わった直後に出力電流にノイズが重畳する場合があっても、ON期間の所定のタイミングにおける適切な出力電流の値を得ることができる。結果として、NMOSトランジスタQ1のデューティ比の制御、および/または、出力電流の過電流の検出を適切に行うことができる。
【0035】
以上、本発明の電力変換装置の一実施形態である昇圧型DC-DCコンバータについて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。
【0036】
例えば、上述した実施形態では、スイッチ素子としてNMOSトランジスタの場合について説明したが、その限りではない。スイッチ素子としてPMOSトランジスタを適用してもよいし、IGBT等の他の半導体素子を適用してもよい。SiC製の半導体素子は、Si製の半導体素子と比較して極めてオン抵抗が小さいため、本発明が適用されるスイッチ素子として好ましい。
【0037】
上述した実施形態では、
図3bのフローチャートのステップS36において、2点の出力電流のサンプル値からOFF期間終了電流値I
OFF_ENDを算出する場合について説明したが、その限りではない。3点以上の出力電流のサンプル値からOFF期間終了電流値I
OFF_ENDを算出してもよい。その場合、3点以上の出力電流のサンプル値を基に最小自乗法によりもとめた直線に基づいて、OFF期間終了電流値I
OFF_ENDを算出してもよい。
【0038】
上述した実施形態では、スイッチ素子のデューティ比をフィードバック制御する場合について説明したが、本発明の適用は、デューティ比を制御するDC-DCコンバータに限られない。スイッチ素子のON期間の所定のタイミングにおける出力電流が適切に得られればよく、デューティ比の制御を必ずしも行わなくてもよい。例えば、出力電流の過電流検出を行う目的のみに本発明は適用できる。例えば、本発明は、AC-DCコンバータまたは、PFC回路(力率改善回路)等に適用されてもよい。したがって、本発明は、電力変換装置のスイッチ素子のON期間の所定のタイミングにおける出力電流を適切に得るために適用され得る。
以下、上述した昇圧型DC-DCコンバータとは異なる電力変換装置の適用例について説明する。
【0039】
図6は、実施形態に係る降圧型DC-DCコンバータの回路図である。
図6に示すように、当該降圧型DC-DCコンバータは、ダイオードをD2備え、ダイオードD2のカソード端子は、NMOSトランジスタQ2の一端に接続される。
図6の降圧型DC-DCコンバータでは、NMOSトランジスタQ2がオンになる期間と、NMOSトランジスタQ2がオフになる期間とが繰り返され、入力電源2の直流電圧を方形波電圧に変換する。当該方形波電圧はインダクタL2およびキャパシタC2によるLC型ローパスフィルタで平滑され、直流の出力電圧が得られる。出力電圧V
OUTの大きさは、NMOSトランジスタQ2に与えられるゲート電圧V
Gのデューティ比で決定される。NMOSトランジスタQ2がオフになった場合には、インダクタL2は、NMOSトランジスタQ2がオンのときに流れていた電流を維持しようとしてダイオードD2をオンさせる。
図6には図示しないが、
図1と同様に、制御部4が設けられる。制御部4は、入力電源2の両端ノードN1,N2の電圧、および電流センサ3の検出電圧を取り込み、NMOSトランジスタQ2のゲート電圧を制御する。そして、
図1の昇圧型DC-DCコンバータ1と同様に、NMOSトランジスタQ2のON期間の所定のタイミングにおける適切な出力電流の値が得られるように制御される。
【0040】
降圧型DC-DCコンバータの場合、
図3aのステップS24では、制御部4は、N-1回目処理のステップS42で算出したON期間開始電流値I
ON_STARTと、下記式(2)の関係とに基づいて、時刻t5(
図4参照)における制御電流値I
CONTの推定値I
PDを算出する。
なお、式(2)において、LはインダクタL2のインダクタンスであり、サンプリング周期は既知である。制御部4は、入力電圧V
INおよび出力電圧V
OUTのサンプル値を逐次取り込む。そのため、式(2)からIの変化率を算出することができ、時刻t5における推定値I
PDがもとめられる。後述する降圧型AC-DCコンバータについても同様である。
【0041】
【0042】
図7は、実施形態に係る昇圧型AC-DCコンバータの回路図である。
図7に示す昇圧型AC-DCコンバータは、
図1に示した昇圧型DC-DCコンバータ1の入力側において、入力電源2に代えて、入力電源2A、ブリッジ回路7、および、ブリッジ回路7に接続されるキャパシタC3(平滑コンデンサ)を備える。入力電源2Aは、所定の振幅および周波数で動作する交流電源である。
図1同様、ダイオードD1のアノード端子は、インダクタL1の一端に接続される。
図1と同じ構成要素については
図1と同一符号を付してある。
図7に示す昇圧型AC-DCコンバータでは、入力電源2Aによって発生する交流電圧は、ダイオードによるブリッジ回路7によって全波整流され、キャパシタC3によって平滑化される。
図7には図示しないが。
図1と同様に制御部4が設けられる。制御部4は、キャパシタC3の両端ノードN1,N2の電圧、および電流センサ3の検出電圧を取り込み、NMOSトランジスタQ1のゲート電圧を制御する。そして、
図1の昇圧型DC-DCコンバータ1と同様に、NMOSトランジスタQ1のON期間の所定のタイミングにおける適切な出力電流の値が得られるように制御される。
【0043】
図8は、実施形態に係る降圧型AC-DCコンバータの回路図である。
図8に示す降圧型AC-DCコンバータは、
図6に示した降圧型DC-DCコンバータの入力側において、入力電源2に代えて、入力電源2A、ブリッジ回路7、および、ブリッジ回路7に接続されるキャパシタC3(平滑コンデンサ)を備える。ダイオードD2のカソード端子は、NMOSトランジスタQ2の一端に接続される。入力電源2Aは、所定の振幅および周波数で動作する交流電源である。
図6と同じ構成要素については
図6と同一符号を付してある。
図8に示す降圧型AC-DCコンバータでは、入力電源2Aによって発生する交流電圧は、ダイオードによるブリッジ回路7によって全波整流され、キャパシタC3によって平滑化される。
図8には図示しないが。
図1と同様に制御部4が設けられる。制御部4は、キャパシタC3の両端ノードN1,N2の電圧、および電流センサ3の検出電圧を取り込み、NMOSトランジスタQ2のゲート電圧を制御する。そして、
図1の昇圧型DC-DCコンバータ1と同様に、NMOSトランジスタQ2のON期間の所定のタイミングにおける適切な出力電流の値が得られるように制御される。
【符号の説明】
【0044】
1…昇圧型DC-DCコンバータ、2,2A…入力電源、3…電流センサ、4…制御部、7…ブリッジ回路、L1,L2…インダクタ、D1,D2…ダイオード、Q1,Q2…NMOSトランジスタ、C1~C3…キャパシタ、RL…負荷、N1,N2…ノード