IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

特許7001176データ処理方法、プログラム、データ処理装置および陽電子放出断層撮像装置
<>
  • 特許-データ処理方法、プログラム、データ処理装置および陽電子放出断層撮像装置 図1
  • 特許-データ処理方法、プログラム、データ処理装置および陽電子放出断層撮像装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】データ処理方法、プログラム、データ処理装置および陽電子放出断層撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
G01T1/161 C
G01T1/161 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020547593
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2018035152
(87)【国際公開番号】W WO2020059135
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山川 善之
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163362(WO,A1)
【文献】特開2013-238603(JP,A)
【文献】特開2015-145828(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0070050(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0040122(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽電子放出断層撮像により得られた、TOF情報を含むTOF計測データに対するデータ処理方法であって、
前記TOF計測データを、TOF情報を含まない非TOF計測データに変換するステップと、
前記非TOF計測データに対して、少なくともランダム補正処理と散乱補正処理と再構成処理とを行なうことにより、非TOF再構成画像を生成するステップと、
前記非TOF再構成画像を順投影することにより、TOF情報を含むTOF投影データを生成するステップと、
前記TOF計測データと前記TOF投影データとに基づいて、前記TOF投影データに含まれるバイアス成分を推定するステップとを備える、データ処理方法。
【請求項2】
前記再構成処理は、解析的再構成法に従った処理である、請求項1に記載のデータ処理方法。
【請求項3】
前記再構成処理は、逐次近似再構成法に従った処理である、請求項1に記載のデータ処理方法。
【請求項4】
前記TOF投影データは、以下の式(1)に従って算出され、
【数1】
iは同時計数線のインデックスであり、tはTOF情報のビンのインデックスであり、jは前記非TOF再構成画像におけるボクセルのインデックスであり、pは前記TOF投影データであり、ACFは減弱補正係数であり、λは前記非TOF再構成画像の画素値であり、Cは3次元システムマトリクスである、
請求項1から3のいずれか1項に記載のデータ処理方法。
【請求項5】
前記TOF投影データは、以下の式(2)に従って算出され、
【数2】
iは同時計数線のインデックスであり、tはTOF情報のビンのインデックスであり、t’はTOF情報のインデックスであり、jは前記非TOF再構成画像におけるボクセルのインデックスであり、pは前記TOF投影データであり、ACFは減弱補正係数であり、λは前記非TOF再構成画像の画素値であり、Rは3次元回転行列であり、Gはガウシアンカーネルである、
請求項1から3のいずれか1項に記載のデータ処理方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のデータ処理方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載のデータ処理方法を実行するデータ処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載のデータ処理装置を備える陽電子放出断層撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放出断層撮像(PET:Positron Emission Tomography)によって得られた、TOF(飛行時間:Time of Flight)情報を含むTOF計測データに対するデータ処理方法、プログラム、データ処理装置および陽電子放出断層撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性薬剤が投与された被検体から放出される放射線に基づいて、被検体の医学用データを求める核医学診断装置として、陽電子放出断層撮像装置(以下、「PET装置」という)が知られている。
【0003】
PET装置は、陽電子(Positron)の消滅によって発生する2本のγ線を複数個の検出器で検出する。具体的には、陽電子放出核種を含んだ放射性薬剤(放射性トレーサ)を被検体に投与し、投与された被検体内から放出される対消滅γ線を、多数の放射線検出器にて検出する。PET装置は、2つの放射線検出器で一定時間内にγ線が検出された場合に、それを対消滅γ線対として計数し、検出した2つの放射線検出位置とカウント数とを示す計測データを生成する。TOF型PET装置は、対消滅γ線対を検出した2つの放射線検出位置とカウント数とを示すとともに、対消滅γ線対の検出時間差を示すTOF情報を含む計測データを生成する。ここで、TOF情報を含まない計測データを「非TOF計測データ」といい、TOF情報を含む計測データを「TOF計測データ」という。TOF情報は、対消滅γ線の発生地点を特定するための情報である。そのため、非TOF計測データを用いるよりもTOF計測データを用いる方が、被検体内の各地点における放射線濃度を精度良く特定することができる。
【0004】
TOF計測データから被検体内の放射線濃度を定量的に特定するためには、様々な補正処理が施される。代表的な補正処理には、感度補正処理、減弱補正処理、散乱補正処理、ランダム補正処理、減衰補正処理、デットタイム補正処理がある。これらの補正処理のうち、ランダム補正処理は、TOF計測データに含まれるランダム同時計数の成分(以下、「ランダム成分」という)をTOF計測データから取り除く処理である。同様に、散乱補正処理は、TOF計測データに含まれる散乱同時計数の成分(以下、「散乱成分」という)をTOF計測データから取り除く処理である。本明細書において、ランダム成分と散乱成分とを合わせた成分を「バイアス成分」という。
【0005】
TOF計測データに対するランダム補正処理の手法として、非TOF計測データに対するランダム補正処理と同一の手法を用いることができる。ランダム同時計数がTOF情報に依存しないためである。一方、散乱同時計数はTOF情報に依存する。そのため、TOF計測データに対する散乱補正処理の方法として、TOF情報に応じた散乱成分を推定し、推定した散乱成分を用いて補正する方法が開発されている。なお、散乱補正処理の方法には、推定した散乱成分をTOF計測データから差分して散乱同時計数の影響が排除されたデータに変換する方法と、推定した散乱成分を画像再構成の計算式に組み込むことにより散乱同時計数の影響が排除された再構成画像を得る方法とが含まれる。
【0006】
たとえば、米国特許第7129496号明細書(特許文献1)には、TOF情報の計測誤差がない仮想的な散乱サイノグラムを推定し、当該散乱サイノグラムをPET装置のタイミング応答によって畳み込むことにより、散乱成分を推定する方法が開示されている。さらに、米国特許第7397035号明細書(特許文献2)には、非TOF計測データの散乱成分を推定するnon-TOF-SSS(Single Scatter Simulation:単一散乱シミュレーション)アルゴリズムを拡張した計算式に基づいて、TOF計測データの散乱成分を推定する方法が開示されている。
【0007】
米国特許第8265365号明細書(特許文献3)には、計測された同時計数データに基づいて、間接的に散乱成分を推定する方法が開示されている。具体的には、TOF投影データをTOF情報を含まない非TOF投影データに変換し、当該非TOF投影データに基づいて得られた、補正された再構成画像を順投影することにより、真のTOF分布データを得る。そして、即発(prompt)同時計数データから、計測されたランダム同時計数データと、真のTOF分布データとを減算することにより、散乱成分が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7129496号明細書
【文献】米国特許第7397035号明細書
【文献】米国特許第8265365号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1,2に記載の方法では、TOF計測データから直接的に散乱成分を計算する。TOF計測データは、非TOF計測データに比べて、TOF情報の次元が加わる。そのため、TOF計測データから直接的に散乱成分を計算する場合、計算時間が長くなる。
【0010】
上記の特許文献3に記載の方法では、即発同時計数データから、ランダム同時計数データと真のTOF分布データとを減算するため、当該減算によって統計誤差が大きく伝播され、得られた散乱成分の精度が低くなる。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、TOF計測データに含まれるバイアス成分を容易かつ高精度に推定することができるデータ処理方法、プログラム、データ処理装置および陽電子放出断層撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、陽電子放出断層撮像により得られた、TOF情報を含むTOF計測データに対するデータ処理方法である。データ処理方法は、前記TOF計測データを、TOF情報を含まない非TOF計測データに変換するステップと、非TOF計測データに対して、少なくともランダム補正処理と散乱補正処理と再構成処理とを行なうことにより、非TOF再構成画像を生成するステップと、非TOF再構成画像を順投影することにより、TOF情報を含むTOF投影データを生成するステップと、TOF計測データと前記TOF投影データとに基づいて、前記TOF投影データに含まれるバイアス成分を推定するステップとを備える。
【0013】
好ましくは、再構成処理は、解析的再構成法に従った処理である。あるいは、再構成処理は、逐次近似再構成法に従った処理である。
【0014】
好ましくは、TOF投影データは、以下の式(1)に従って算出される。
【数1】
ここで、iは同時計数線のインデックスであり、tはTOF情報のビンのインデックスであり、jは非TOF再構成画像におけるボクセルのインデックスであり、pは前記TOF投影データであり、ACFは減弱補正係数であり、λは非TOF再構成画像の画素値であり、Cは3次元システムマトリクスである。
【0015】
あるいは、TOF投影データは、以下の式(2)に従って算出される。
【数2】
ここで、iは同時計数線のインデックスであり、tはTOF情報のビンのインデックスであり、t’はTOF情報のインデックスであり、jは非TOF再構成画像におけるボクセルのインデックスであり、pは前記TOF投影データであり、ACFは減弱補正係数であり、λは非TOF再構成画像の画素値であり、Rは3次元回転行列であり、Gはガウシアンカーネルである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、TOF計測データに含まれるバイアス成分を容易かつ高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態に係るPET装置の全体概略図である。
図2図1に示すPET装置に備えられるデータ処理装置のデータ処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0019】
図1は、本実施の形態に係るPET装置(陽電子放出断層撮像装置)の全体概略図である。図1を参照して、PET装置100は、架台装置10と、制御装置60と、操作部70と、データ処理装置80と、表示装置90とを備える。なお、図1の(a)は架台装置10の正面図であり、(b)は架台装置10の側面図である。
【0020】
架台装置10は、被検体15を載置するための天板20と、天板20を移動させる移動装置22と、開口部を有する略円筒形状のガントリ30と、ガントリ30内に配置された検出器リング40とを含む。
【0021】
被検体15は、天板20に設けられたクッション24上に載置される。天板20は、ガントリ30と検出器リング40の開口部を、図中の矢印ARで示されるZ方向に貫通するように設けられており、Z方向に沿って往復可能である。移動装置22は、制御装置60からの駆動信号によって制御され、天板20の高さを調整するとともに、天板20をZ方向に沿って移動させて、天板20上に載置された被検体15をガントリ30の開口部内へと導入する。
【0022】
検出器リング40は、複数のγ線検出器42をZ方向に垂直な平面上に放射状に配置することで形成された単位リングを、Z方向に複数個配列することによって構成されている。γ線検出器42は、アレイ状の複数のシンチレータからなるシンチレータブロックと、受光センサとを含んで構成される。シンチレータは、被検体15に投与された陽電子放出核種を含んだ放射性薬剤(放射性トレーサ)50(たとえば、フルオロデオキシグルコース(FDG))から放射されるγ線52を紫外線領域にピークを持つ蛍光に変換する。受光センサは、対応するシンチレータで変換された光電子を増倍して電気信号に変換する。γ線検出器42は、生成した電気信号を制御装置60に出力する。
【0023】
制御装置60は、データ収集部61と、駆動部62とを含む。データ収集部61および駆動部62は、たとえばマイクロプロセッサまたはFPGA(Field Programmable Gate Array)で構成される。
【0024】
駆動部62は、移動装置22に対して、天板20の高さおよびZ方向の座標(Z座標)を指定する駆動信号を出力することにより、移動装置22の駆動を制御する。駆動部62は、現在の天板20のZ座標をデータ収集部61に出力する。
【0025】
データ収集部61は、γ線検出器42から受けた信号に基づいて、被検体15ごとにTOF計測データを生成し、生成したTOF計測データをデータ処理装置80へ出力する。TOF計測データは、γ線を同時に検出した2つのγ線検出器42の検出時間差を示すTOF情報を含む。
【0026】
データ収集部61は、各γ線検出器42から受けた信号に基づいて、信号のエネルギーがともに一定のエネルギーウィンドウ幅以内にあり、かつγ線の入射タイミング(検出時間)が一定の時間ウィンドウ幅以内にある2つのγ線検出器42の組合せを検索する。データ収集部61は、検索によって抽出された2つのγ線検出器42の組合せと、当該2つのγ線検出器42がγ線を検出したときの検出時間差を基にTOF計測データを生成する。
【0027】
TOF計測データの形式は特に限定されず、たとえばリストモード形式またはサイノグラム形式である。リストモード形式のTOF計測データは、上記の検索により抽出された2つのγ線検出器42を結ぶ線である同時計数線(LOR:Line of Response)を特定するLOR情報と、当該2つのγ線検出器42による検出時間差を示すTOF情報とを時系列に配列したデータである。LORの一方の端点に位置するγ線検出器42とLOR上に存在する放射性薬剤50との距離をTA、LORの他方の端点に位置するγ線検出器42と放射性薬剤50との距離をTB、光速をcとするとき、TOF情報は、(TA-TB)/cによって示される。LORの長さがdである場合、TOF情報は、-d/c~+d/cまでの値を取り得る。
【0028】
サイノグラム形式のTOF計測データは、投影位置、投影角度、スライス位置、傾斜角度およびTOF情報を座標(変数)とする5次元空間上の各点におけるカウント数を示すデータである。サイノグラム形式のTOF計測データを生成する際、LORは、その方向ごとにグループ化される。そして、グループごとに、当該グループに属するLORが当該LORに直交する投影面上に投影される。ここで、投影角度はLORの方向を示す。投影位置は投影面上の投影点の位置を示す。傾斜角度は、Z方向に垂直な平面とLORとのなす角度を示す。
【0029】
なお、以下では、TOF計測データがサイノグラム形式である場合を例にとり説明する。
【0030】
操作部70は、たとえばキーボード、タッチパネル、マウス(いずれも図示せず)などのようなポインティングデバイスを含んで構成される。操作部70は、架台装置10の移動装置22を動作させるための指示、ならびに撮像の開始/停止などの指示を操作者から受ける。操作部70は、操作者の操作に従った信号を制御装置60へ出力する。制御装置60の駆動部62は、操作部70からの信号に応じて、移動装置22を駆動する。
【0031】
データ処理装置80は、TOF計測データに含まれるランダム成分と散乱成分とを合わせたバイアス成分を推定するデータ処理を行なう。データ処理装置80は、たとえばCPU(中央演算処理装置)やGPU(Graphics Processing Unit)およびメモリなどの記憶装置を含むコンピュータによって構成される。
【0032】
図2は、データ処理装置80のデータ処理の流れを示すフローチャートである。図2に示されるように、まずステップS1において、データ処理装置80は、データ収集部61からTOF計測データを取得する。
【0033】
次にステップS2において、データ処理装置80は、TOF計測データを、TOF情報を含まない非TOF計測データに変換する。具体的には、データ処理装置80は、TOF計測データをTOF情報で積分することにより非TOF計測データを生成する。
【0034】
ステップS3において、データ処理装置80は、非TOF計測データに対して補正処理と再構成処理とを行なうことにより、被検体15における放射性薬剤50の分布画像(以下、非TOF再構成画像という)を生成する。
【0035】
補正処理には、少なくともランダム補正処理および散乱補正処理が含まれる。非TOF計測データに対する補正処理として公知技術を用いればよい。非TOF計測データに対する公知のランダム補正処理としては、遅延同時計数法、シングル計数による推定法などによりランダム同時計数を推定し、推定したランダム同時計数を処理対象のデータから減算する方法がある。非TOF計測データに対する公知の散乱補正処理としては、non-TOF-SSSアルゴリズム法、エネルギーウィンドウ法、コンボリューション法などにより散乱同時計数を推定し、推定した散乱同時計数を処理対象のデータから減算する方法がある。なお、補正処理には、その他の補正処理(たとえば、感度補正、減弱補正処理、減衰補正処理、デットタイム補正処理など)が含まれてもよい。
【0036】
非TOF計測データに対する再構成処理として公知技術を用いればよい。たとえば、解析的再構成法または逐次近似再構成法を用いることができる。解析的再構成法としては、FBP(Filtered Back Projection)法がある。逐次近似再構成法としては、MLEM(Maximum Likelihood Expectation Maximization)法、OSEM(Ordered Subset Expectation Maximization)法、DRAMA(Dynamic Row-Action Maximum-likelihood Algorithm)法がある。
【0037】
データ処理装置80は、非TOF計測データのうち傾斜角度が0度である2次元データに対してのみ補正処理および再構成処理を行ない、非TOF再構成画像を生成してもよい。これにより、非TOF再構成画像を生成するのに要する計算時間を短縮することができる。
【0038】
データ処理装置80は、非TOF計測データに対する再構成処理の際に公知のノイズ低減処理を合わせて行なってもよい。ノイズ低減処理としては、ガウシアンフィルタまたはNon-Local Means Filterを用いた画像処理が知られている。ノイズ低減処理は、非TOF計測データに適用される事前処理、再構成処理と並行した処理、非TOF再構成画像の生成後の事後処理のいずれであってもよい。
【0039】
次にステップS4において、データ処理装置80は、非TOF再構成画像を順投影することにより、TOF情報を含むTOF投影データを生成する。非TOF再構成画像を順投影する方法として公知技術を用いればよい。たとえば、データ処理装置80は、以下の式(1)を従って、PET装置100のシステムマトリクスを用いたTOF順投影計算を行なう。
【数3】
【0040】
式(1)において、iはLORインデックスであり、tはTOF情報のビン(bin、区分)のインデックスであり、jは非TOF再構成画像におけるボクセルインデックスであり、pはTOF投影データであり、ACFは減弱補正係数であり、λは非TOF再構成画像の画素値(カウント数)であり、Cは、画像データと投影データとを対応付ける、PET装置の3次元システムマトリクスである。
【0041】
あるいは、データ処理装置80は、システムマトリクスを用いずに、以下の式(2)に従ってTOF順投影を行なってもよい。
【数4】
【0042】
式(2)において、iはLORインデックスであり、tはTOF情報のビン(bin、区分)のインデックスであり、t’はTOF情報のインデックスであり、jは非TOF再構成画像におけるボクセルインデックスであり、pはTOF投影データであり、ACFは減弱補正係数であり、λは非TOF再構成画像の画素値(カウント数)である。Ri,t’は、対象となるiのLORの方向および当該方向に直交する方向に沿ってボクセルを再配列させるための3次元回転行列である。Gは、PET装置100の時間分解能に応じて設定されるガウシアンカーネルであり、Ri,t’λに畳み込まれる。
【0043】
次にステップS5において、データ処理装置80は、TOF計測データとTOF投影データとに基づいて、TOF計測データに含まれるバイアス成分を推定する。たとえば、データ処理装置80は、TOF計測データからTOF投影データを減算することにより、バイアス成分を推定する。あるいは、データ処理装置80は、TOF計測データから、重み付け係数が乗算されたTOF投影データを減算することにより、バイアス成分を推定してもよい。このとき、データ処理装置80は、TOF計測データおよびTOF投影データの少なくとも一方に対して、ノイズ低減処理を行なってもよい。さらに、データ処理装置80は、推定したバイアス成分に対してノイズ低減処理を行なってもよい。ノイズ低減処理の種類およびパラメータは特に限定されるものではなく、公知の手法を用いることができる。たとえば、ガウシアンフィルタまたはNon-Local Means Filterを用いた画像処理を用いることができる。
【0044】
データ処理装置80は、上記ステップS1~S5で得られる各データで示される画像を適宜表示装置90に表示してもよい。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態では、PET(陽電子放出断層撮像)により得られた、TOF情報を含むTOF計測データに対するデータ処理方法が開示される。このデータ処理方法は、TOF計測データを、TOF情報を含まない非TOF計測データに変換するステップS2と、非TOF計測データに対して、少なくともランダム補正処理および散乱補正処理を含む補正処理と再構成処理とを行なうことにより、非TOF再構成画像を生成するステップS3と、非TOF再構成画像を順投影することにより、TOF情報を含むTOF投影データを生成するステップS4と、TOF計測データとTOF投影データとに基づいて、TOF計測データに含まれるバイアス成分を推定するステップS5とを備える。
【0046】
上記の方法によれば、特許文献1,2に開示されるような、TOF情報を含むTOF計測データから直接的に散乱成分を計算することがなく、簡便かつ短時間でTOF計測データに含まれるバイアス成分を推定することができる。
【0047】
特許文献3に開示される技術では、即発同時計数データから、計測されたランダム同時計数データと、真のTOF分布データとを減算することにより、散乱成分が推定される。ここで、即発同時計数データをP、計測されたランダム同時計数データをD、真のTOF分布データをT、推定される散乱成分をS、散乱成分とランダム成分(ランダム同時計数)とを合わせたバイアス成分をBとし、P,D,S,Bの統計誤差をそれぞれδP,δD,δS,δBとする。ただし、簡便のためTの統計誤差を0とする。各成分の統計誤差が独立であると仮定した場合、S=P-T-Dであるため、δS={(δP)+(δD)1/2となり、δB={(δS)+(δD)1/2={(δP)+2(δD)1/2となる。
【0048】
これに対し、本実施の形態によって推定されるバイアス成分の統計誤差は次のようになる。すなわち、上記と同様に、TOF計測データをP’、TOF投影データをT’、バイアス成分をB’とし、P’,B’の統計誤差をそれぞれδP’,δB’とし、T’の統計誤差を0とする。各成分の統計誤差が独立であると仮定した場合、B’=P’-T’であるため、δB’=δP’となる。δPとδP’とは同じであるため、本実施の形態によって推定されるバイアス成分の統計誤差は、特許文献3によって推定されるバイアス成分の統計誤差よりも小さくなる。
【0049】
このように、本実施の形態によれば、TOF計測データに含まれるバイアス成分を容易かつ高精度に推定することができる。
【0050】
推定されたバイアス成分は、様々なデータ処理に利用され得る。たとえば、データ処理装置80は、TOF計測データとバイアス成分とに基づいて、バイアス成分を含まない非バイアス計測データを生成し、非バイアス計測データに対してTOF情報を用いた再構成処理を行なうことにより、再構成画像を生成するステップを行なう。そして、データ処理装置80は、生成した再構成画像を表示装置90に表示する。データ処理装置80は、たとえば、TOF計測データからバイアス成分を減算することにより、非バイアス計測データを生成する。このとき、データ処理装置80は、ランダム補正処理および散乱補正処理以外の補正処理を適宜行なってもよい。
【0051】
特許文献3によって推定されるバイアス成分を即発同時計数データから減算することにより生成される再構成画像Iconventionalは、上記のP,S,Dを用いて、Iconventional=P-S-Dと表される。そのため、再構成画像の統計誤差δIconventionalは、以下の式で表される。
δIconventional={(δP)+(δS)+(δD)1/2
={(δP)+(δP)+(δD)+(δD)1/2
=21/2{(δP)+(δD)1/2
【0052】
これに対し、本実施の形態によって推定されるバイアス成分をTOF計測データから減算することにより生成される再構成画像Iproposalは、上記のP’,B’を用いて、Iproposal=P’-B’と表される。そのため、再構成画像の統計誤差δIproposalは、以下の式で表される。
δIproposal={(δP’)+(δB’)1/2
=21/2(δP’)
【0053】
このように、本実施の形態によって推定されるバイアス成分を用いて生成される再構成画像の統計誤差は、特許文献3によって推定されるバイアス成分を用いて生成される再構成画像の統計誤差よりも小さくなる。その結果、精度の高い再構成画像を得ることができる。
【0054】
なお、上記の実施の形態では、データ処理装置80は、PET装置100に備えられるものとした。しかしながら、データ処理装置80は、PET装置100の外部の装置であり、有線または無線によって制御装置60に通信接続され、データ収集部61からTOF計測データを取得してもよい。
【0055】
上記の実施の形態では、TOF計測データがサイノグラム形式である場合におけるデータ処理装置80の処理例を説明した。TOF計測データがリストデータ形式である場合、データ処理装置80は、ステップS2において、TOF計測データからTOF情報を削除することにより非TOF計測データを生成すればよい。さらに、データ処理装置80は、ステップS5において、たとえば、TOF計測データをサイノグラム形式のデータに変換し、変換後のTOF計測データからTOF投影データを減算することにより、バイアス成分を推定すればよい。
【0056】
上記の動作(図2に示すステップS1~ステップS5)をデータ処理装置80に実行させるためのプログラムが提供されてもよい。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0057】
提供されるプログラム製品は、ハードディスクなどのプログラム格納部にインストールされて実行される。なお、プログラム製品は、プログラム自体と、プログラムが記録された記録媒体とを含む。
【0058】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
10 架台装置、15 被検体、20 天板、22 移動装置、24 クッション、30 ガントリ、40 検出器リング、42 γ線検出器、50 放射性薬剤、52 γ線、60 制御装置、61 データ収集部、62 駆動部、70 操作部、80 データ処理装置、90 表示装置、100 PET装置。
図1
図2