(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】X線検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20220112BHJP
G01N 23/083 20180101ALI20220112BHJP
G01N 23/18 20180101ALI20220112BHJP
【FI】
G01N23/04
G01N23/083
G01N23/18
(21)【出願番号】P 2017132219
(22)【出願日】2017-07-05
【審査請求日】2020-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000147833
【氏名又は名称】株式会社イシダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 一幸
(72)【発明者】
【氏名】万木 太
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-043474(JP,A)
【文献】特開2002-148211(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0291898(US,A1)
【文献】特開2017-072554(JP,A)
【文献】特開2005-308600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01T 1/00
A61B 6/00 - A61B 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物にX線を照射するX線源と、
前記X線源から照射される第1エネルギー帯のX線を検出し、検出されたX線に関する第1出力値を出力する第1センサと、前記X線源から照射される第2エネルギー帯のX線を検出し、検出されたX線に関する第2出力値を出力する第2センサとを含むセンサユニットと、
前記第1出力値と前記第2出力値との双方に基づき、前記センサユニット全体の劣化を判定する制御部と、
を備える、X線検査装置。
【請求項2】
前記第1センサが出力した前記第1出力値、および、前記第2センサが出力した前記第2出力値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記記憶部に記憶されている前記第1出力値および前記第2出力値に基づいて、
前記第1出力値が所定の値以上低下したことを検知したか否か、および、前記第2出力値が所定の値以上低下したことを検知したか否かに基づき、前記劣化を判定する、
請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1出力値と前記第2出力値との差が所定の値以上であることを検知した場合に、前記劣化を判定する、
請求項
1または2に記載のX線検査装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1出力値が前記第2出力値に一致または近似するように、前記第1出力値および前記第2出力値の少なくとも一方を変換する変換処理を実行し、変換された前記第1出力値と前記第2出力値との差が所定の値以上であることを検知した場合に、前記劣化を判定する、
請求項1から
3のいずれか1項に記載のX線検査装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記変換処理に用いられるデータを自動的に更新するか、または、前記データの更新を求める、
請求項
4に記載のX線検査装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1出力値および前記第2出力値を用いて前記被検査物を検査し、前記被検査物を検査する際に得られた前記第1出力値および前記第2出力値に基づいて、前記データを自動的に更新する、
請求項
5に記載のX線検査装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記劣化を判定した場合に、前記劣化に関する情報を報知する、
請求項1から
6のいずれか1項に記載のX線検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の被検査物にX線を照射して、被検査物の検査を行うX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1(特開平10-318943号公報)に開示されるように、エネルギー帯が互いに異なる2種類のX線を被検査物に照射して得られた2つの透過X線データに基づいて、被検査物を検査するX線検査装置が知られている。このようなX線検査装置として、例えば、エネルギー特性が異なる2つのX線透過画像の輝度の差分を求めて、被検査物に含まれる異物を検出する装置が広く用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、X線検査装置の長期間の使用によって、X線を検出するためのセンサが劣化すると、検出されたX線に関するセンサの出力値は徐々に低下する。X線検査装置が、エネルギー帯が互いに異なる2種類のX線のそれぞれを検出する2つのセンサを備える場合、当該2つのセンサが異なる速度で劣化することがある。その場合、2つのセンサの出力値が異なる速度で低下するため、2つのX線透過画像の輝度の差分が徐々に変化して、その結果、被検査物の検査の精度が低下するおそれがある。被検査物の検査の精度を維持するためには、2つのセンサがある程度劣化したことが判明した場合に、2つのセンサの出力値を調整する処理等を行う必要がある。そのため、X線検査装置が2つのセンサを備える場合、各センサの劣化を適切に検出できる機能が求められている。
【0004】
本発明の目的は、センサの劣化を適切に検出することができるX線検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るX線検査装置は、X線源と、第1センサと、第2センサと、検出部とを備える。X線源は、被検査物にX線を照射する。第1センサは、X線源から照射される第1エネルギー帯のX線を検出し、検出されたX線に関する第1出力値を出力する。第2センサは、X線源から照射される第2エネルギー帯のX線を検出し、検出されたX線に関する第2出力値を出力する。検出部は、第1出力値および第2出力値の少なくとも一方に基づいて、第1センサおよび第2センサの少なくとも一方の劣化を検出する。
【0006】
このX線検査装置は、2つのセンサを用いて被検査物を検査する。2つのセンサは、X線源から照射されて被検査物を透過した、エネルギー帯が互いに異なる2種類のX線をそれぞれ検出する。このX線検査装置は、センサの出力値に基づいて、センサの劣化を検出する機能を有する。センサの出力値は、例えば、被検査物を透過したX線の強度に関連する値である。このX線検査装置は、センサの出力値に基づいてセンサの劣化を検出するので、センサの劣化を適切なタイミングで検出することができる。
【0007】
また、X線検査装置は、第1センサが出力した第1出力値、および、第2センサが出力した第2出力値を記憶する記憶部をさらに備えることが好ましい。この場合、検出部は、記憶部に記憶されている第1出力値および第2出力値に基づいて、第1出力値および第2出力値の少なくとも一方が所定の値以上低下したことを検知した場合に、センサの劣化を検出することが好ましい。
【0008】
この場合、X線検査装置は、センサの出力値の低下を検知して、センサの劣化を検出する。例えば、X線検査装置の使用開始時におけるセンサの出力値が記憶され、X線検査装置の使用開始時よりも所定の値以上、センサの出力値が低下したことが検知された場合に、センサの劣化が検出される。
【0009】
また、第1センサが第2センサよりもX線源に近い位置に配置される場合、検出部は、記憶部に記憶されている第1出力値に基づいて、第1出力値が所定の値以上低下したことを検知した場合に、センサの劣化を検出することが好ましい。
【0010】
この場合、X線検査装置は、2つのセンサのうち、X線源により近い方のセンサの出力値の低下を検知して、センサの劣化を検出する。すなわち、X線の影響で劣化しやすい方のセンサの劣化が検出される。
【0011】
また、検出部は、第1出力値と第2出力値との差が所定の値以上であることを検知した場合に、センサの劣化を検出することが好ましい。
【0012】
この場合、X線検査装置は、2つのセンサの出力値の差が所定の値以上になったことを検知した場合に、センサの劣化を検出する。そのため、2つのセンサの劣化の速度が異なる場合でも、センサの劣化が適切に検出される。
【0013】
また、X線検査装置は、第1出力値が第2出力値に一致または近似するように、第1出力値および第2出力値の少なくとも一方を変換する変換処理を実行する変換部をさらに備えることが好ましい。この場合、検出部は、変換部によって変換された第1出力値と第2出力値との差が所定の値以上であることを検知した場合に、センサの劣化を検出することが好ましい。
【0014】
この場合、X線検査装置は、例えば、2つのセンサの出力値から得られた2つのX線透過画像の一方を他方に合わせる変換関数に基づいて、2つのセンサの出力値を合わせる変換処理を行う。そのため、2つのセンサの劣化の速度が異なる場合でも、センサの劣化が適切に検出される。
【0015】
また、変換部は、変換処理に用いられるデータを自動的に更新するか、または、当該データの更新を提案することが好ましい。
【0016】
この場合、X線検査装置は、例えば、2つのセンサの出力値を合わせる変換処理に用いられる変換関数を定期的に更新するか、または、当該変換関数の更新作業をX線検査装置の操作者に提案する。
【0017】
また、X線検査装置は、第1出力値および第2出力値を用いて被検査物を検査する検査部をさらに備えることが好ましい。この場合、変換部は、検査部が被検査物を検査する際に得られた第1出力値および第2出力値に基づいて、変換処理に用いられるデータを自動的に実行することが好ましい。
【0018】
この場合、X線検査装置は、被検査物の検査で得られたセンサの出力値に基づいて、2つのセンサの出力値を合わせる変換処理に用いられる変換関数を自動的に更新する。そのため、被検査物の検査のためにX線検査装置を普通に使用するだけで、センサの劣化が適切に検出される。
【0019】
また、X線検査装置は、検出部がセンサの劣化を検出した場合に、センサの劣化に関する情報を報知する報知部をさらに備えることが好ましい。
【0020】
このX線検査装置は、例えば、X線検査装置の操作者に、センサが劣化したことを警告することができ、適切な時期にセンサの交換を促すことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るX線検査装置は、センサの劣化を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態であるX線検査装置10の外観を示す斜視図である。
【
図2】X線検査装置10が組み込まれる検査ライン100の概略図である。
【
図3】X線検査装置10のシールドボックス11の内部の概略図である。
【
図4】センサユニット30の詳細を示す模式図である。
【
図5】ラインセンサ31,32によって検出される透過X線の強度の例を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)は、被検査物Aの低エネルギー透過画像P1の一例である。
図7(b)は、被検査物Aの高エネルギー透過画像P2の一例である。
図7(c)は、
図7(a)の低エネルギー透過画像P1の輝度変換処理によって取得された輝度変換後低エネルギー透過画像P1aを表す。
【
図8】低エネルギーヒストグラムH1および高エネルギーヒストグラムH2の一例である。
【
図9】低エネルギーヒストグラム積算曲線C1および高エネルギーヒストグラム積算曲線C2の一例である。
【
図10】画像処理部61による画像処理のフローチャートである。
【
図11】ラインセンサ31,32の出力値の時間変化の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明される実施形態は、本発明の具体例の一つであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0024】
(1)X線検査装置の全体構成
図1は、本発明の一実施形態であるX線検査装置10の外観を示す斜視図である。
図2は、X線検査装置10が組み込まれる検査ライン100の概略図である。検査ライン100は、被検査物Aの検査を行う。被検査物Aは、例えば、包装された食品である。検査ライン100において、被検査物Aは、前段コンベア60によってX線検査装置10まで搬送される。
図2において、被検査物Aの搬送方向は、矢印で示されている。
【0025】
X線検査装置10は、前段コンベア60によって連続的に搬送されてくる被検査物AにX線を照射することにより、被検査物Aの良否判断を行う。具体的には、X線検査装置10は、被検査物Aの異物混入検査を行い、検査結果に基づいて被検査物Aを良品または不良品に分類する。X線検査装置10による検査結果は、X線検査装置10の下流側に配置されている振り分け機構70に送られる。振り分け機構70は、X線検査装置10において良品と判断された被検査物Aを、良品を排出する後段コンベア80へ送る。振り分け機構70は、X線検査装置10において不良品と判断された被検査物Aを、不良品排出方向90,91に振分けて検査ライン100から排出する。
【0026】
(2)X線検査装置の詳細説明
X線検査装置10は、主として、シールドボックス11と、搬送ユニット12と、X線照射器(X線源)20と、センサユニット30と、モニタ40と、制御装置50とから構成される。
【0027】
(2-1)シールドボックス
図3は、X線検査装置10のシールドボックス11の内部の概略図である。シールドボックス11は、X線検査装置10のケーシングである。
図1に示されるように、シールドボックス11の両側面には、被検査物Aを搬出入するための開口11aが形成されている。開口11aは、シールドボックス11の外部から内部に被検査物Aを搬入するため、または、シールドボックス11の内部から外部に被検査物Aを搬出するために用いられる。開口11aは、遮蔽のれん19により塞がれている。遮蔽のれん19は、シールドボックス11の内部から外部へのX線の漏洩を抑える。遮蔽のれん19は、鉛を含むゴムから成形される。遮蔽のれん19は、被検査物Aが搬出入される時に被検査物Aによって押しのけられる。
【0028】
シールドボックス11の内部には、搬送ユニット12、X線照射器20、センサユニット30および制御装置50等が収容されている。シールドボックス11の正面上部には、モニタ40、入力用のキー、および、電源スイッチ等が配置されている。
【0029】
(2-2)搬送ユニット
搬送ユニット12は、シールドボックス11の内部を通過するように被検査物Aを搬送するためのベルトコンベアである。
図1に示されるように、搬送ユニット12は、シールドボックス11の両側面に形成された開口11aを貫通するように配置されている。
【0030】
搬送ユニット12は、主として、コンベアモータ12aと、エンコーダ12bと、コンベアローラ12cと、無端状のベルト12dとから構成されている。コンベアローラ12cは、コンベアモータ12aによって駆動される。コンベアローラ12cの駆動により、ベルト12dが回転し、ベルト12d上の被検査物Aが搬送される。
図3において、被検査物Aの搬送方向は、矢印で示されている。
【0031】
搬送ユニット12による被検査物Aの搬送速度は、X線検査装置10の操作者によって入力された設定速度に応じて変動する。制御装置50は、設定速度に基づいてコンベアモータ12aをインバータ制御し、被検査物Aの搬送速度を細かく制御する。搬送ユニット12のエンコーダ12bは、被検査物Aの搬送速度を検出して制御装置50に送信する。
【0032】
なお、搬送ユニット12は、搬送機構としてベルトコンベアを用いているが、ベルトコンベアの代わりにトップチェーンコンベアおよび回転テーブル等を搬送機構として用いてもよい。
【0033】
(2-3)X線照射器
X線照射器20は、シールドボックス11内部の所定の位置まで搬送ユニット12によって搬送された被検査物AにX線を照射する。X線照射器20から照射されるX線には、様々なエネルギーのX線が含まれている。
【0034】
図3に示されるように、X線照射器20は、搬送ユニット12の上方に配置されている。X線照射器20は、搬送ユニット12の下方に配置されるセンサユニット30に向けて扇状のX線(放射光)を照射する。X線の照射範囲Xは、
図3に示されるように、搬送ユニット12の搬送面に対して垂直であり、かつ、搬送ユニット12による被検査物Aの搬送方向に対して直交する方向に広がる。すなわち、X線照射器20から照射されるX線は、ベルト12dの幅方向に広がる。
【0035】
(2-4)センサユニット
センサユニット30は、X線照射器20から照射されたX線を検出するセンサである。具体的には、センサユニット30は、搬送ユニット12によって搬送された被検査物Aを透過したX線である透過X線を検出する。
【0036】
図3に示されるように、センサユニット30は、搬送ユニット12の下方に配置されている。センサユニット30は、主として、低エネルギー用ラインセンサ(第1センサ)31と、高エネルギー用ラインセンサ(第2センサ)32と、フィルタ33とを有する。低エネルギー用ラインセンサ31、フィルタ33および高エネルギー用ラインセンサ32は、X線照射器20に近い方から、この順番で配置されている。すなわち、フィルタ33は、低エネルギー用ラインセンサ31と高エネルギー用ラインセンサ32との間に配置されている。以下、必要に応じて、低エネルギー用ラインセンサ31および高エネルギー用ラインセンサ32を、まとめてラインセンサ31,32と呼ぶ。
【0037】
低エネルギー用ラインセンサ31および高エネルギー用ラインセンサ32は、それぞれ、複数のX線検出素子から構成されている。複数のX線検出素子は、搬送ユニット12による被検査物Aの搬送方向に直交する方向(ベルト12dの幅方向)に沿って一直線に水平配置されている。
【0038】
図4は、センサユニット30の詳細を示す模式図である。以下、X線照射器20から照射されるX線には、低エネルギー帯(第1エネルギー帯)のX線と、中エネルギー帯のX線と、高エネルギー帯(第2エネルギー帯)のX線とが含まれるとする。中エネルギー帯のX線は、低エネルギー帯のX線と、高エネルギー帯のX線との間のエネルギー帯のX線である。
図4では、符号X1は低エネルギー帯のX線を表し、符号X2は中エネルギー帯のX線を表し、符号X3は高エネルギー帯のX線を表す。
【0039】
低エネルギー用ラインセンサ31は、低エネルギー帯のX線を吸収して検出する。中エネルギー帯のX線、および、高エネルギー帯のX線は、低エネルギー用ラインセンサ31を透過する。フィルタ33は、低エネルギー用ラインセンサ31を透過した中エネルギー帯のX線を吸収する。高エネルギー帯のX線は、フィルタ33を透過する。高エネルギー用ラインセンサ32は、低エネルギー用ラインセンサ31およびフィルタ33を透過した高エネルギー帯のX線を吸収して検出する。フィルタ33は、中エネルギー帯のX線を吸収することで、中エネルギー帯のX線が高エネルギー用ラインセンサ32に吸収されることを防止する。
【0040】
センサユニット30は、透過X線を検出し、検出された透過X線の強度に応じた電圧を示すX線透過信号を出力する。X線透過信号は、後述するように、被検査物Aの透過画像の生成に用いられる。
図5は、センサユニット30の低エネルギー用ラインセンサ31および高エネルギー用ラインセンサ32によって検出される透過X線の強度の例を示すグラフである。グラフの横軸は、各ラインセンサ31,32上の位置を表す。グラフの縦軸は、各ラインセンサ31,32が検出した透過X線の強度を表す。
図5において、符号D1は、低エネルギー用ラインセンサ31によって検出される透過X線の強度を表し、符号D2は、高エネルギー用ラインセンサ32によって検出される透過X線の強度を表す。被検査物Aの透過画像では、透過X線の検出量の多いところが明るく(輝度が高く)表示され、透過X線の検出量が少ないところが暗く(輝度が低く)表示される。すなわち、被検査物Aの透過画像の明暗(輝度値)は、透過X線の検出量に依存する。
図5に示されるように、被検査物Aを透過したX線の検出量は、被検査物Aを透過しなかったX線の検出量より低い。
【0041】
さらに、センサユニット30は、被検査物AがX線の扇状の照射範囲X(
図3参照)を通過するタイミングを検知するためのセンサとしても機能する。すなわち、センサユニット30は、搬送ユニット12のベルト12d上で搬送される被検査物Aがセンサユニット30の上方の位置(照射範囲Xと重なる位置)に来たとき、所定の閾値以下の電圧を示すX線透過信号(第1信号)を出力する。一方、センサユニット30は、被検査物Aが照射範囲Xを通過すると、所定の閾値を上回る電圧を示すX線透過信号(第2信号)を出力する。第1信号および第2信号が制御装置50に送られることにより、照射範囲Xにおける被検査物Aの有無が検出される。
【0042】
(2-5)モニタ
モニタ40は、タッチパネル機能付きの液晶ディスプレイである。モニタ40は、X線検査装置10の表示部および入力部として機能する。モニタ40には、被検査物Aの検査結果等が表示される。また、モニタ40には、初期設定、および、被検査物Aの良否判断に関するパラメータを入力するための画面等が表示される。
【0043】
X線検査装置10の操作者は、モニタ40を操作して、検査パラメータおよび動作設定情報等を入力することができる。検査パラメータとは、被検査物Aの良否を判定するために必要なパラメータである。具体的には、検査パラメータは、被検査物Aに含まれる異物の有無を判定するために用いられる透過X線の強度の閾値等である。動作設定情報とは、被検査物Aの検査速度、および、搬送ユニット12の搬送方向等の情報である。
【0044】
モニタ40は、制御装置50に接続されており、制御装置50と信号の送受信を行う。モニタ40によって入力された検査パラメータおよび動作設定情報は、制御装置50の記憶部52に記憶される。
【0045】
(2-6)制御装置
制御装置50は、主として、CPU、ROM、RAMおよびHDD(ハードディスクドライブ)等によって構成されている。なお、HDDの代わりにSSD(ソリッドステートドライブ)が用いられてもよい。制御装置50は、図示されない表示制御回路、入力回路および通信ポート等も備えている。表示制御回路は、モニタ40の表示を制御する回路である。入力回路は、モニタ40のタッチパネルおよび入力キーを介して操作者によって入力された入力データを取り込む回路である。通信ポートは、プリンタ等の外部機器、および、LAN等のネットワークとの接続を可能にするポートである。
【0046】
図6は、制御装置50のブロック図である。制御装置50は、主として、制御部51と、記憶部52とを有する。制御装置50は、コンベアモータ12a、エンコーダ12b、X線照射器20、センサユニット30およびモニタ40等に電気的に接続されている。制御装置50は、エンコーダ12bからコンベアモータ12aの回転数に関するデータを取得し、そのデータに基づいて被検査物Aの移動距離を算出する。制御装置50は、センサユニット30から出力されたX線透過信号を受信し、搬送ユニット12のベルト12d上の被検査物AがX線の照射範囲Xに到達したタイミングを検出する。制御装置50は、透過X線の強度に基づいて、被検査物Aに含まれる異物の有無を判定して、被検査物Aの良否を判定する。
【0047】
(2-6-1)制御部
制御部51は、記憶部52に記憶されている各種プログラムを実行することにより、様々な機能を実現する。制御部51は、画像処理部61と、センサ劣化検出部62と、良否判定部63とを有する。
【0048】
(2-6-1-1)画像処理部
画像処理部61は、センサユニット30が出力したX線透過信号に基づいて、被検査物Aの透過画像を生成し、その透過画像に対して各種の画像処理を施し、最終画像を生成する。生成された最終画像は、被検査物Aに含まれる異物の有無の判定に用いられる。
【0049】
画像処理部61は、画像生成部61aと、画像拡縮部61bと、画像位置合わせ部61cと、ヒストグラム作成部61dと、ヒストグラム積算部61eと、輝度変換テーブル作成部61fと、画像変換部61gと、除算部61hと、フィルタ部61iと、二値化部61jとを有する。
【0050】
(a)画像生成部
画像生成部61aは、センサユニット30が出力したX線透過信号に基づいて、被検査物Aの透過画像を生成する。具体的には、画像生成部61aは、X線の扇状の照射範囲X(
図3参照)を被検査物Aが通過する度に、センサユニット30の各X線検出素子から所定の短い時間間隔ごとに出力されるX線透過信号のデータを時間順にマトリックス状につなぎ合わせて、被検査物Aの透過画像を生成する。照射範囲Xにおける被検査物Aの有無は、センサユニット30が出力する信号の有無により判定される。画像生成部61aが生成した透過画像は、画像記憶部52aに記憶される。
【0051】
画像生成部61aが生成する透過画像は、低エネルギー透過画像P1と高エネルギー透過画像P2とからなる。低エネルギー透過画像P1は、低エネルギー用ラインセンサ31が出力したX線透過信号(第1出力値)に基づいて生成された透過画像である。高エネルギー透過画像P2は、高エネルギー用ラインセンサ32が出力したX線透過信号(第2出力値)に基づいて生成された透過画像である。これらの透過画像は、マトリックス状に配置された複数の画素から構成される。透過画像の各画素は、複数の濃度レベル(明暗レベル)の内の一つを有する。
【0052】
図7(a)は、被検査物Aの低エネルギー透過画像P1の一例である。
図7(b)は、被検査物Aの高エネルギー透過画像P2の一例である。
図7(a)および
図7(b)は、異物Mを含む被検査物Aの透過画像である。
図7(a)および
図7(b)では、透過画像の濃度レベル(明暗レベル)は、ハッチングの間隔で表されている。すなわち、ある領域のハッチングの間隔が狭いほど、その領域を構成する画素の濃度レベルが高く、X線の検出量が少ないことを表す。言い換えると、ある領域のハッチングの間隔が狭いほど、その領域を構成する画素の輝度値が低くなり、その領域は暗くなる。低エネルギー透過画像P1は、高エネルギー透過画像P2と比べて、コントラストが高く、全体的に暗くなっている。これは、低エネルギー帯のX線は、高エネルギー帯のX線と比べて、被検査物Aおよび異物Mに吸収されやすいからである。また、被検査物AのX線吸収率は、異物MのX線吸収率と異なるため、低エネルギー透過画像P1および高エネルギー透過画像P2では、被検査物Aが占める領域の濃度レベルは、異物Mが占める領域の濃度レベルと異なっている。
【0053】
(b)画像拡縮部
画像拡縮部61bは、被検査物Aの低エネルギー透過画像P1の大きさと、被検査物Aの高エネルギー透過画像P2の大きさとを合わせる処理を行う。X線照射器20は、センサユニット30に向かってX線を扇状に照射する(
図3参照)。X線照射器20から高エネルギー用ラインセンサ32までの距離は、X線照射器20から低エネルギー用ラインセンサ31までの距離より長い。そのため、
図5に示されるように、高エネルギー用ラインセンサ32の被検査物Aの検出領域は、低エネルギー用ラインセンサ31の被検査物Aの検出領域よりわずかに広くなる。その結果、被検査物Aの高エネルギー透過画像P2の大きさは、被検査物Aの低エネルギー透過画像P1の大きさよりわずかに大きくなる。
【0054】
そこで、画像拡縮部61bは、低エネルギー透過画像P1を、変換比Rだけ、ラインセンサ31,32の長手方向に拡大する。変換比Rは、X線照射器20から高エネルギー用ラインセンサ32までの距離と、X線照射器20から低エネルギー用ラインセンサ31までの距離との比である。なお、画像拡縮部61bは、高エネルギー透過画像P2を、変換比1/Rだけ、ラインセンサ31,32の長手方向に縮小してもよい。
【0055】
(c)画像位置合わせ部
画像位置合わせ部61cは、被検査物Aの低エネルギー透過画像P1の位置と、被検査物Aの高エネルギー透過画像P2の位置とを合わせる処理を行う。画像位置合わせ部61cは、低エネルギー透過画像P1および高エネルギー透過画像P2の一方を移動させて、低エネルギー透過画像P1と高エネルギー透過画像P2との差異が最小になるようにする。
【0056】
具体的には、画像位置合わせ部61cは、2つの透過画像P1,P2を重ね合わせ、各画素において、2つの透過画像P1,P2の輝度の差の絶対値の総和を算出し、その総和が最小となるように位置合わせを行う。そのため、画像位置合わせ部61cが2つの透過画像P1,P2を重ね合わせた後では、2つの透過画像P1,P2の被検査物Aおよび異物Mの位置ズレがほぼ解消され、2つの透過画像P1,P2の輝度の差の絶対値がゼロに近くなる。そのため、被検査物Aに含まれる異物Mの判別が実質的に不可能になるので、以下に説明する低エネルギー透過画像P1の画像変換処理を施すことによって、被検査物Aに含まれる異物Mの判別を可能にする。
【0057】
(d)ヒストグラム作成部
ヒストグラム作成部61dは、低エネルギー透過画像P1の輝度分布を示す低エネルギーヒストグラムH1と、高エネルギー透過画像P2の輝度分布を示す高エネルギーヒストグラムH2とを作成する。
図8は、低エネルギーヒストグラムH1および高エネルギーヒストグラムH2の一例である。
図8において、横軸は、画素の輝度値を表し、左側に行くほど輝度値が小さくなるので、画素が暗くなる。縦軸は、透過画像に含まれる画素数を表す。
【0058】
上述したように、低エネルギー透過画像P1は、高エネルギー透過画像P2に比べて全体的に暗くなっているので、
図8に示されるように、低エネルギーヒストグラムH1は、高エネルギーヒストグラムH2に比べて、図中の左側(画素の輝度値が小さい側)に寄っている。
【0059】
(e)ヒストグラム積算部
ヒストグラム積算部61eは、低エネルギーヒストグラムH1を積分して低エネルギーヒストグラム積算曲線C1を算出すると共に、高エネルギーヒストグラムH2を積分して高エネルギーヒストグラム積算曲線C2を算出する。
図9は、低エネルギーヒストグラム積算曲線C1および高エネルギーヒストグラム積算曲線C2の一例である。
図9において、横軸は、画素の輝度値を表し、縦軸は、透過画像に含まれる画素数の積分値を表す。
【0060】
(f)輝度変換テーブル作成部
輝度変換テーブル作成部61fは、低エネルギーヒストグラム積算曲線C1と高エネルギーヒストグラム積算曲線C2とを比較して、低エネルギーヒストグラム積算曲線C1を高エネルギーヒストグラム積算曲線C2に一致または近似させる輝度変換テーブルを作成する。輝度変換テーブルは、各輝度値における輝度変換比Iからなる。輝度変換比Iは、低エネルギーヒストグラム積算曲線C1の積算値I1と、高エネルギーヒストグラム積算曲線C2の積算値I2との比である(
図9参照)。
【0061】
(g)画像変換部
画像変換部61gは、輝度変換テーブルに基づいて、低エネルギー透過画像P1の各画素の輝度変換を行い、輝度変換後低エネルギー透過画像P1aを取得する。
図7(c)は、
図7(a)の低エネルギー透過画像P1の輝度変換処理によって取得された輝度変換後低エネルギー透過画像P1aを表す。
【0062】
(h)除算部
除算部61hは、輝度変換後低エネルギー透過画像P1aの各画素の輝度値と、高エネルギー透過画像P2の各画素の輝度値との間で除算を行うことで、被検査物Aを消す処理を行う。除算部61hは、2つの透過画像P1a,P2の各画素の輝度値を除算した結果を有する結果画像を出力する。なお、除算部61hは、2つの透過画像P1a,P2の輝度値が異なる画素と、2つの透過画像P1a,P2の輝度値が同じ画素との区別を容易にするため、例えば除算結果を100倍してもよい。
【0063】
(i)フィルタ部
低エネルギー透過画像P1および高エネルギー透過画像P2には、ランダムノイズが含まれているので、除算部61hが出力した結果画像にも、当該ランダムノイズが含まれている。フィルタ部61iは、ガウシアンフィルタ等を用いて、除算部61hが出力した結果画像に含まれるランダムノイズを除去する。
【0064】
(j)二値化部
二値化部61jは、ランダムノイズが除去された結果画像を、所定の値を閾値として二値化する。これにより、二値化部61jは、被検査物Aに異物Mが含まれている場合に、異物Mのみが抽出された二値化画像を取得することができる。
【0065】
その後、画像処理部61は、二値化部61jが取得した二値化画像と高エネルギー透過画像P2とを重ね合わせて、最終画像を生成する。最終画像は、モニタ40に表示される。なお、二値化部61jは、二値化画像と低エネルギー透過画像P1とを重ね合わせてもよい。
【0066】
(2-6-1-2)センサ劣化検出部
センサ劣化検出部62は、低エネルギー用ラインセンサ31および高エネルギー用ラインセンサ32の劣化を検出する。X線検査装置10の累積使用時間が長くなるほど、ラインセンサ31,32のX線検出素子がX線に照射される積算時間が長くなる。X線は、可視光線と比較してエネルギーが高い電磁波であるので、X線検出素子は、X線に照射され続けることで徐々に劣化する。具体的には、X線検出素子が検出できる透過X線の強度が徐々に低下することで、X線検出素子が劣化する。その結果、ラインセンサ31,32が出力するX線透過信号のレベルが徐々に低下して、ラインセンサ31,32が劣化する。なお、ラインセンサ31,32が出力するX線透過信号は、X線検出素子が検出した透過X線の強度に応じた電圧を示す。そのため、ラインセンサ31,32の劣化とは、この電圧の低下を意味する。
【0067】
センサ劣化検出部62は、各ラインセンサ31,32の出力値(X線透過信号のレベル)に基づいて、各ラインセンサ31,32が劣化したか否かを判定する。具体的には、センサ劣化検出部62は、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値(第1出力値)が所定の値以上低下したことを検知した場合に、低エネルギー用ラインセンサ31が劣化したと判定し、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値(第2出力値)が所定の値以上低下したことを検知した場合に、高エネルギー用ラインセンサ32が劣化したと判定する。なお、ラインセンサ31,32の出力値としては、例えば、各ラインセンサ31,32の複数のX線検出素子が検出した透過X線の強度の最大値に応じた電圧が用いられる。
【0068】
センサ劣化検出部62は、ある時点におけるラインセンサ31,32の出力値と、比較用のラインセンサ31,32の出力値とを比較して、当該ある時点における出力値が比較用の出力値よりも所定の値以上低いことを検知した場合に、ラインセンサ31,32が劣化したと判定する。比較用の出力値としては、例えば、X線検査装置10の初回使用時における出力値が用いられる。この場合、センサ劣化検出部62は、X線検査装置10の初回使用時におけるラインセンサ31,32の出力値と、ある時点におけるラインセンサ31,32の出力値との差が所定の値以上となった場合に、ラインセンサ31,32が劣化したと判定する。X線検査装置10の初回使用時におけるラインセンサ31,32の出力値は、記憶部52に記憶される。
【0069】
(2-6-1-3)良否判定部
良否判定部63は、画像処理部61が出力した最終画像を解析して、被検査物Aに関する良品/不良品の判定を行う。良否判定部63は、被検査物Aに異物Mが含まれていないと判断した場合に、被検査物Aを良品と判定する。一方、良否判定部63は、被検査物Aに異物Mが含まれていると判断した場合に、被検査物Aを不良品と判定する。良否判定部63は、輝度値が所定の値以上である画素領域(異物Mを表す画素領域)が、画像処理部61が出力した最終画像に含まれている場合に、被検査物Aに異物Mが含まれていると判断する。
【0070】
良否判定部63は、被検査物Aの良品/不良品を判定すると、被検査物Aが良品/不良品のいずれかであるのかに関する信号を出力する。良否判定部63によって出力された信号は、振り分け機構70に送られる。振り分け機構70は、良否判定部63による判定結果に基づき、良品である被検査物Aを後段コンベア80へ送り、または、不良品である被検査物Aを不良品排出方向90,91に振り分ける。
【0071】
(2-6-2)記憶部
記憶部52は、検査パラメータ、動作設定情報、および、制御部51が実行する各種プログラムを記憶する。検査パラメータおよび動作設定情報は、モニタ40のタッチパネル機能を使って操作者によって入力される。
【0072】
また、記憶部52は、画像処理部61、センサ劣化検出部62および良否判定部63が生成、取得または使用する様々なデータを記憶する。記憶部52は、例えば、画像生成部61aが生成した低エネルギー透過画像P1および高エネルギー透過画像P2、ヒストグラム作成部61dが作成した低エネルギーヒストグラムH1および高エネルギーヒストグラムH2、ヒストグラム積算部61eが算出した低エネルギーヒストグラム積算曲線C1および高エネルギーヒストグラム積算曲線C2、輝度変換テーブル作成部61fが作成した輝度変換テーブル、画像変換部61gが取得した輝度変換後低エネルギー透過画像P1a、除算部61hが出力した結果画像、および、二値化部61jが生成した最終画像を記憶する。
【0073】
また、記憶部52は、センサ劣化検出部62が使用する比較用の出力値を記憶する。比較用の出力値は、例えば、X線検査装置10の初回使用時におけるラインセンサ31,32の出力値であり、センサ劣化検出部62によってセンサユニット30の劣化の判定に用いられる。
【0074】
(3)画像処理部61による画像処理
次に、画像処理部61による画像処理について説明する。この画像処理は、良否判定部63が被検査物Aに含まれる異物Mの有無を判定するために用いる最終画像を出力するための一連の処理である。
図10は、画像処理部61による画像処理のフローチャートである。
【0075】
(3-1)ステップS11「透過画像の生成」
最初に、シールドボックス11内部の所定の位置まで搬送された被検査物Aに対して、X線照射器20からX線が照射される。X線照射器20から照射され被検査物Aを透過したX線(透過X線)は、センサユニット30の低エネルギー用ラインセンサ31および高エネルギー用ラインセンサ32によって検出される。画像生成部61aは、低エネルギー用ラインセンサ31が出力したX線透過信号に基づいて低エネルギー透過画像P1を生成し、高エネルギー用ラインセンサ32が出力したX線透過信号に基づいて高エネルギー透過画像P2を生成する。
【0076】
(3-2)ステップS12「透過画像の位置・大きさ合わせ」
次に、画像拡縮部61bおよび画像位置合わせ部61cは、ステップS11で生成された低エネルギー透過画像P1および高エネルギー透過画像P2の位置および大きさを合わせる処理を行う。この処理は、例えば、低エネルギー透過画像P1のアフィン変換によって一度に実行されてもよい。
【0077】
(3-3)ステップS13「透過画像の輝度変換」
次に、低エネルギー透過画像P1の各画素の輝度と、高エネルギー透過画像P2の各画素の輝度とが完全に、または、実質的に一致するように、低エネルギー透過画像P1の輝度変換処理を行う。具体的には、画像変換部61gは、輝度変換テーブル作成部61fが作成した輝度変換テーブルに基づいて、低エネルギー透過画像P1の各画素の輝度変換を行い、輝度変換後低エネルギー透過画像P1aを取得する。
【0078】
輝度変換テーブル作成部61fは、ヒストグラム積算部61eが算出した低エネルギーヒストグラム積算曲線C1および高エネルギーヒストグラム積算曲線C2に基づいて、輝度変換テーブルを作成する。また、ヒストグラム積算部61eは、ヒストグラム作成部61dが作成した低エネルギーヒストグラムH1および高エネルギーヒストグラムH2に基づいて、それぞれ、低エネルギーヒストグラム積算曲線C1および高エネルギーヒストグラム積算曲線C2を算出する。
【0079】
(3-4)ステップS14「透過画像間の演算」
次に、除算部61hは、輝度変換後低エネルギー透過画像P1aと高エネルギー透過画像P2との間で除算を行い、これらの透過画像P1a,P2の間の差異が抽出された結果画像を取得する。具体的には、除算部61hは、2つの透過画像P1a,P2の各画素の輝度値を除算することで差異を抽出する。
【0080】
(3-5)ステップS15「ノイズの除去」
次に、フィルタ部61iは、ステップS14で取得された結果画像のランダムノイズを除去して、異物Mが占める画素領域以外の画素領域の輝度値が実質的にゼロとなるように輝度変換処理を行う。
【0081】
(3-6)ステップS16「二値化」
次に、二値化部61jは、ステップS15でランダムノイズが除去された結果画像を、所定の値を閾値として二値化して、異物Mのみが抽出された二値化画像を取得する。
【0082】
最後に、画像処理部61は、二値化画像と高エネルギー透過画像P2とを重ね合わせて、被検査物Aに含まれる異物Mが抽出された最終画像を出力する。
【0083】
(4)特徴
(4-1)
本実施形態のX線検査装置10は、低エネルギー用ラインセンサ31および高エネルギー用ラインセンサ32を用いて被検査物Aを検査する。これらのラインセンサ31,32は、X線照射器20から照射されて被検査物Aを透過した、エネルギー帯が互いに異なる2種類の透過X線をそれぞれ検出する。低エネルギー用ラインセンサ31は、低エネルギー帯の透過X線を検出し、高エネルギー用ラインセンサ32は、高エネルギー帯の透過X線を検出する。
【0084】
X線検査装置10のセンサ劣化検出部62は、ラインセンサ31,32の出力値に基づいて、ラインセンサ31,32の劣化を検出する。そのため、X線検査装置10の操作者等がラインセンサ31,32の劣化を判定するのではなく、X線検査装置10がラインセンサ31,32の劣化を自動で判定する。これにより、X線検査装置10は、被検査物Aの検査結果に悪影響を与えるほどラインセンサ31,32が劣化しているにも関わらず、ラインセンサ31,32が交換されずに使用され続けることを防止でき、また、被検査物Aの検査結果に悪影響を与えるほどラインセンサ31,32が劣化していないにも関わらず、ラインセンサ31,32が不必要に交換されてしまうことを防止することができる。従って、X線検査装置10は、ラインセンサ31,32の劣化を適切なタイミングで検出することができる。X線検査装置10の操作者は、劣化が検出されたラインセンサ31,32を新しいものに交換することで、X線検査装置10の異物Mの検出精度を維持することができる。
【0085】
(4-2)
X線検査装置10のセンサ劣化検出部62は、ラインセンサ31,32の出力値の低下を検知して、ラインセンサ31,32の劣化を検出する。
図11は、ラインセンサ31,32の出力値の時間変化の一例を表すグラフである。
図11において、横軸は、X線検査装置10の初回使用時からの経過時間を表し、縦軸は、ラインセンサ31,32の出力値を表す。
図11において、符号L1は、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値の経過時間を表し、符号L2は、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値の経過時間を表す。
【0086】
図11に示されるように、ラインセンサ31,32の出力値は、時間の経過と共に徐々に低下する。また、X線照射器20と低エネルギー用ラインセンサ31との間の距離は、X線照射器20と高エネルギー用ラインセンサ32との間の距離より短い。そのため、低エネルギー用ラインセンサ31がX線照射器20から直接受けるX線の強度は、高エネルギー用ラインセンサ32がX線照射器20から直接受けるX線の強度よりも高い。これにより、低エネルギー用ラインセンサ31の劣化の進行速度は、高エネルギー用ラインセンサ32の劣化の進行速度より大きくなる傾向がある。すなわち、ラインセンサ31,32の出力値の低下速度は互いに異なり、通常は
図11に示されるように、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値の低下速度は、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値の低下速度より大きい。
【0087】
X線検査装置10は、X線検査装置10の初回使用時におけるラインセンサ31,32の出力値を記憶しておき、定期的に現在の出力値と比較することで、ラインセンサ31,32の出力値の低下を検知することができる。具体的には、X線検査装置10は、X線検査装置10の使用開始時よりも所定の値以上、ラインセンサ31,32の出力値が低下したことを検知することができる。X線検査装置10は、各ラインセンサ31,32の出力値が所定の値以上低下した場合に、当該ラインセンサ31,32の劣化を検出する。これにより、X線検査装置10は、各ラインセンサ31,32の劣化を適切なタイミングで検出することができる。
【0088】
(5)変形例
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0089】
(5-1)変形例A
実施形態では、X線検査装置10は、ラインセンサ31,32の出力値の低下を検知して、ラインセンサ31,32の劣化を検出する。具体的には、センサ劣化検出部62は、ラインセンサ31,32の出力値が所定の値以上低下した場合に、ラインセンサ31,32が劣化したと判断する。
【0090】
しかし、センサ劣化検出部62は、低エネルギー用ラインセンサ31および高エネルギー用ラインセンサ32の一方のみの出力値の低下を検知して、当該一方のラインセンサのみの劣化を検出してもよい。この場合、X線検査装置10の操作者は、例えば、低エネルギー用ラインセンサ31および高エネルギー用ラインセンサ32の一方の劣化が検出された場合に、両方のラインセンサ31,32を新しいものに交換することが好ましい。両方のラインセンサ31,32を新品に交換することで、劣化が検出されたラインセンサ31,32のみを新品に交換する場合に比べて、ラインセンサ31,32の劣化の程度の差を常に所定のレベル以下に抑えることができる。言い換えると、ラインセンサ31,32の一方が新品同然でほとんど劣化していないにも関わらず、他方が相当劣化している状況が回避できる。ラインセンサ31,32の劣化の程度の差が大きいと、異物Mの検出精度に悪影響を与えるおそれがある。従って、両方のラインセンサ31,32を新品に交換することで、X線検査装置10の異物Mの検出精度を維持することができる。
【0091】
なお、本変形例では、センサ劣化検出部62は、低エネルギー用ラインセンサ31のみの出力値を検知して、低エネルギー用ラインセンサ31のみの劣化を検出することが好ましい。なぜなら、上述したように、低エネルギー用ラインセンサ31は、高エネルギー用ラインセンサ32よりも、X線照射器20に近いために劣化しやすいからである。この場合、低エネルギー用ラインセンサ31の劣化が検出された場合に、両方のラインセンサ31,32を新しいものに交換することで、ラインセンサ31,32の劣化の程度の差を常に所定のレベル以下に抑えることができるので、X線検査装置10の異物Mの検出精度を維持することができる。
【0092】
(5-2)変形例B
実施形態では、センサ劣化検出部62は、ラインセンサ31,32の出力値が所定の値以上低下した場合に、ラインセンサ31,32が劣化したと判断する。しかし、センサ劣化検出部62は、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値と、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値との差が所定の値以上になった場合に、ラインセンサ31,32の劣化を検出してもよい。
【0093】
図11には、両ラインセンサ31,32の出力値の差Dの例が示されている。上述したように、両ラインセンサ31,32の出力値の低下速度は互いに異なっている。具体的には、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値の低下速度は、通常、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値の低下速度より大きい。そのため、両ラインセンサ31,32の出力値の差は徐々に大きくなる。両ラインセンサ31,32の出力値の差が徐々に大きくなるほど、同じ輝度変換テーブルを使用し続けた場合に輝度変換後低エネルギー透過画像P1aと高エネルギー透過画像P2との間の輝度値の差が大きくなる傾向がある。その結果、画像処理部61が生成する最終画像に、異物Mを表す画素領域以外の画素領域が含まれるおそれがあり、X線検査装置10の異物Mの検出精度が低下する。そのため、両ラインセンサ31,32の出力値の差は、ラインセンサ31,32の劣化の程度の指標として用いることができる。
【0094】
従って、本変形では、X線検査装置10は、両ラインセンサ31,32の劣化の速度が異なる場合に、両ラインセンサ31,32の出力値の差を基準に劣化を判定することで、ラインセンサ31,32の劣化を適切に検出することができる。
【0095】
(5-3)変形例C
実施形態では、制御装置50の一機能である画像変換部61gは、低エネルギー透過画像P1の各画素の輝度と、高エネルギー透過画像P2の各画素の輝度とが完全に、または、実質的に一致するように、低エネルギー透過画像P1の輝度変換を行う。画像変換部61gは、輝度変換テーブル作成部61fが作成した輝度変換テーブルに基づいて、低エネルギー透過画像P1の輝度変換を行い、輝度変換後低エネルギー透過画像P1aを取得する。低エネルギー透過画像P1は、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値から得られる画像であり、高エネルギー透過画像P2は、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値から得られる画像である。
【0096】
しかし、センサ劣化検出部62は、輝度変換テーブルに基づいて、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値を変換する処理をさらに行ってもよい。これにより、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値と、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値とが完全に、または、実質的に一致するように、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値が変換される。この場合、センサ劣化検出部62は、輝度変換テーブルに基づいて変換された低エネルギー用ラインセンサ31の出力値と、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値との差が所定の値以上であることを検知した場合に、ラインセンサ31,32の劣化を検出することができる。なぜなら、同じ輝度変換テーブルを使用し続ける場合、両ラインセンサ31,32の劣化の速度の差によって、両ラインセンサ31,32の出力値の差は徐々に大きくなるからである。従って、X線検査装置10は、両ラインセンサ31,32の劣化の速度が異なる場合でも、ラインセンサ31,32の劣化を適切に検出することができる。
【0097】
なお、本変形例では、センサ劣化検出部62は、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値と、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値とが完全に、または、実質的に一致するように、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値を変換してもよい。
【0098】
(5-4)変形例D
変形例Cでは、センサ劣化検出部62は、輝度変換テーブルに基づいて、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値を変換する処理をさらに行う。しかし、センサ劣化検出部62は、この変換処理に用いられる輝度変換テーブルを自動で更新してもよく、また、輝度変換テーブルの更新作業をX線検査装置10の操作者に提案してもよい。
【0099】
例えば、センサ劣化検出部62は、輝度変換テーブルを定期的に自動で更新してもよく、また、被検査物Aの検査を所定の回数実行する度に輝度変換テーブルを自動で更新してもよい。また、センサ劣化検出部62は、輝度変換テーブルを自動で更新する代わりに、輝度変換テーブルの更新作業の許可を操作者に求める内容をモニタ40に表示してもよい。
【0100】
(5-5)変形例E
変形例Cでは、センサ劣化検出部62は、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値を変換する処理に用いられる輝度変換テーブルを定期的に自動で更新してもよい。この場合、センサ劣化検出部62は、良否判定部63が被検査物Aに関する良品/不良品の判定を行う際に得られた両ラインセンサ31,32の出力値に基づいて、輝度変換テーブルを自動で更新してもよい。
【0101】
具体的には、センサ劣化検出部62は、被検査物Aの通常の検査で得られた両ラインセンサ31,32の出力値に基づいて、両ラインセンサ31,32の出力値を合わせるために用いられる輝度変換テーブルを自動的に更新する。そのため、被検査物Aの検査のためにX線検査装置10を普通に使用するだけで、センサ劣化検出部62は、輝度変換テーブルを最適な状態に維持できるので、ラインセンサ31,32の劣化を適切に検出することができる。なお、被検査物Aに異物Mが含まれている確率は、通常は極めて低いので、十分に大きな数の被検査物Aの検査結果に基づいて輝度変換テーブルを更新すれば、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値と、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値とが完全に、または、実質的に一致するような輝度変換テーブルの作成が可能である。そのため、上記の方法は、輝度変換テーブルの更新の方法として有効である。
【0102】
なお、X線検査装置10は、既に良品と判定された被検査物Aの検査結果のみに基づいて、輝度変換テーブルを更新してもよい。また、必要であれば、X線検査装置10は、現在使用している輝度変換テーブル、および、被検査物Aの検査結果に基づいて新たに取得された輝度変換テーブルの両方を用いて、被検査物Aの異物混入検査を行って、検査結果を比較してもよい。この場合、例えば、新たに取得された輝度変換テーブルを使用した方が、最終画像に含まれる異物Mの画素領域がより明確になっている場合に、X線検査装置10は、新たに取得された輝度変換テーブルを今後採用してもよい。
【0103】
(5-6)変形例F
X線検査装置10の制御部51は、センサ劣化検出部62がラインセンサ31,32の劣化を検出した場合に、ラインセンサ31,32の劣化に関する情報を報知する報知部の機能をさらに備えてもよい。例えば、報知部は、ラインセンサ31,32が劣化したことをX線検査装置10の操作者に報知するための警告をモニタ40に表示する。これにより、X線検査装置10は、適切な時期に、ラインセンサ31,32の交換を操作者に促すことができる。
【0104】
(5-7)変形例G
実施形態では、センサ劣化検出部62は、ラインセンサ31,32の出力値が所定の値以上低下した場合に、ラインセンサ31,32の劣化を検出する。しかし、センサ劣化検出部62は、ラインセンサ31,32の出力値が所定の割合だけ低下した場合に、ラインセンサ31,32の劣化を検出してもよい。例えば、センサ劣化検出部62は、X線検査装置10の使用開始時におけるラインセンサ31,32の出力値と比較して、現在の出力値が20%以上低下した場合に、ラインセンサ31,32の劣化を検出してもよい。
【0105】
(5-8)変形例H
実施形態では、センサ劣化検出部62は、ラインセンサ31,32の出力値に基づいて、ラインセンサ31,32の劣化を検出する。しかし、センサ劣化検出部62は、ラインセンサ31,32の出力値の代わりに、これらの出力値に基づいて生成されたデータを用いてラインセンサ31,32の劣化を検出してもよい。例えば、センサ劣化検出部62は、低エネルギー用ラインセンサ31の出力値の代わりに低エネルギー透過画像P1の輝度値を用いてもよく、高エネルギー用ラインセンサ32の出力値の代わりに高エネルギー透過画像P2の輝度値を用いてもよい。この場合、センサ劣化検出部62は、例えば、低エネルギー透過画像P1および高エネルギー透過画像P2の輝度値の最大値が所定の値以上低下した場合に、ラインセンサ31,32の劣化を検出してもよい。
【0106】
(5-9)変形例I
実施形態では、X線検査装置10の制御部51はセンサ劣化検出部62を有し、センサ劣化検出部62はラインセンサ31,32の劣化を検出する。しかし、X線検査装置10は、ラインセンサ31,32の劣化に関する情報をサーバーに送信するための通信部をさらに有してもよい。これにより、大規模な工場等において複数台のX線検査装置10を管理する担当者は、各X線検査装置10のラインセンサ31,32の劣化情報を端末から確認することができる。また、X線検査装置10のメーカーのサポート部門と劣化情報を共有することで、ラインセンサ31,32が劣化により故障する前に部品交換等を行うことが可能になり、故障による設備のダウンタイムを短縮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係るX線検査装置は、センサの劣化を適切に検出することができるので、被検査物の検査の精度の低下を抑えることができるX線検査装置として有用である。
【符号の説明】
【0108】
10 X線検査装置
20 X線照射器(X線源)
31 低エネルギー用ラインセンサ(第1センサ)
32 高エネルギー用ラインセンサ(第2センサ)
52 記憶部
61g 画像変換部(変換部)
62 センサ劣化検出部(検出部)
63 良否判定部(検査部)
A 被検査物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0109】