(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】建築物の木質構造材の強度表示システム、強度表示方法及び建築物の設計方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/13 20200101AFI20220112BHJP
E04B 1/00 20060101ALI20220112BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20220112BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20220112BHJP
【FI】
G06F30/13
E04B1/00 ESW
G06F30/10
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2019045405
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2020-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】397048287
【氏名又は名称】株式会社エヌ・シー・エヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】野中 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】藤代 東
(72)【発明者】
【氏名】伊東 洋路
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-164251(JP,A)
【文献】特開2013-020327(JP,A)
【文献】特開2002-259462(JP,A)
【文献】特開2010-275792(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106503405(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/13
E04B 1/00
G06F 30/10
G06F 30/20
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質構造材の下記(1)の第1の数値データと、下記(1)の第1の数値データに対応する木質構造材の下記(2)の第2の数値データとの数値の違いに基づいて木質構造材の火災時に想定される強度劣化状態を表示画面に表示させる制御手段を備えたことを特徴とする建築物の木質構造材の強度表示システム。
(1)所定の燃焼条件を設定し、その燃焼条件で燃えたと仮定した部分を燃え代として木質構造材の寸法データから燃え代部分を除いた木質構造材の修正寸法データと強度算出用データに基づいて当該木質構造材の強度を計算して得られた第1の数値データ。
(2)寸法と燃え代パターンのそれぞれが異なる複数の木質構造材を、異なる所定の燃焼条件で燃焼させ、燃え残った状態の木質構造材の実際の強度を測定して得られた第2の数値データ。
【請求項2】
前記第1の数値データを得るための前記修正寸法データは、前記第2の数値データにおける燃え残った状態の木質構造材の炭化していない部分の寸法と対応していることを特徴とする請求項1に記載の建築物の木質構造材の強度表示システム。
【請求項3】
前記第1の数値データと前記第2の数値データの両方
を前記表示画面に表示させることを特徴とする請求項1又は2に記載の建築物の木質構造材の強度表示システム。
【請求項4】
前記第1の数値データと前記第2の数値データの数値に応じて異なる色で強度を表示させるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の建築物の木質構造材の強度表示システム。
【請求項5】
前記第1の数値データと前記第2の数値データとの数値差を係数化
し前記表示画面に表示させることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の建築物の木質構造材の強度表示システム。
【請求項6】
前記係数の大きさに応じて異なる色で強度を表示させるようにしたことを特徴とする請求項5に記載の建築物の木質構造材の強度表示システム。
【請求項7】
前記木質構造材は樹種毎に前記第1の数値データと前記第2の数値データを取得することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の建築物の木質構造材の強度表示システム。
【請求項8】
前記第1の数値データと前記第2の数値データは前もって取得されて記憶手段に記憶されていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の建築物の木質構造材の強度表示システム。
【請求項9】
計算されるべき前記木質構造材の強度は接合金具によって支持された梁部材の接合部における剪断強度であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の建築物の木質構造材の強度表示システム。
【請求項10】
木質構造材の下記(1)の第1の数値データと、下記(1)の第1の数値データに対応する木質構造材の下記(2)の第2の数値データとの数値の違いに基づいて木質構造材の火災時に想定される強度劣化状態を表示画面に表示させるようにしたことを特徴とする
コンピュータ装置による建築物の木質構造材の強度表示方法。
(1)所定の燃焼条件を設定し、その燃焼条件で燃えたと仮定した部分を燃え代として木質構造材の寸法データから燃え代部分を除いた木質構造材の修正寸法データと強度算出用データに基づいて当該木質構造材の強度を計算して得られた第1の数値データ。
(2)寸法と燃え代パターンのそれぞれが異なる複数の木質構造材を、異なる所定の燃焼条件で燃焼させ、燃え残った状態の木質構造材の実際の強度を測定して得られた第2の数値データ。
【請求項11】
請求項10の建築物の木質構造材の強度表示方法を使用した
コンピュータ装置による建築物の設計
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は火災を想定した建築物の木質構造材の強度表示システム、強度表示方法及び建築物の設計方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木造建築物において唯一設計した強度に影響を与える外部要素は火事である。火事になって木質構造材が燃えて細くなれば剪断力や曲げに対する強度が小さくなってしまう。そのために、火事を想定した設計をすることは木造建築物において重要である。万一火事になって木質構造材が燃えてしまった場合にどの程度強度が低下するかを想定する技術として特許文献1を挙げる。構造材の太さや樹種や構造材が壁内部に隠れているか現し(あらわし)になっているか等で燃え方が均等ではないため、燃えたと仮定した構造材の強度も同じではない。そのため、特許文献1では燃えたと仮定した構造材の強度をわかりやすく対応した異なる色で区別して示すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えばこの特許文献1では、あくまでも燃えたことを「想定」して炭化したであろう部分を強度計算から除くという机上の計算から得られた値に基づく強度計算である。実際に燃えた場合にその計算値からどの程度ずれているかはわからないため、誤差が非常に大きいことが予想される。一般には計算値と実験値では計算値の方が強度が低くなる傾向にあるが、燃焼時間が長ければ逆に実験値が計算値よりも低くなる場合もある。燃焼によって材が燃え残っても木材強度が劣化してしまうためである。また、接合金具を有する建築構造ではこの金具が熱で軟化してしまうことになるためそれも考慮されるべきである。これらのようなことから、熱で低下した木質構造材の強度が実際にはどの程度計算上の数値からずれているかをより実際に即した正確さで把握したいという要請がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、手段1として、建築物の木質構造材の強度表示システムにおいて、木質構造材の下記(1)の第1の数値データと、下記(1)の第1の数値データに対応する木質構造材の下記(2)の第2の数値データとの数値の違いに基づいて木質構造材の火災時に想定される強度劣化状態を表示画面に表示させる制御手段を備えるようにした。
(1)所定の燃焼条件を設定し、その燃焼条件で燃えたと仮定した部分を燃え代として木質構造材の寸法データから燃え代部分を除いた木質構造材の修正寸法データと強度算出用データに基づいて当該木質構造材の強度を計算して得られた第1の数値データ。
(2)寸法と燃え代パターンのそれぞれが異なる複数の木質構造材を、異なる所定の燃焼条件で燃焼させ、燃え残った状態の木質構造材の実際の強度を測定して得られた第2の数値データ。
これによって、木材が実際に燃焼してしまった場合の強度の低下状態をより反映して木質構造材の火災時に想定される強度劣化状態を判断できるため、火災を想定した設計における強度計算の正確性が向上する。
【0006】
ここに「木質構造材」とは、構築した木造建築物の強度を担保する部材を広く含む意味であり、例えば壁、柱、横架材(梁、桁等)、土台、母屋、床のフローリング、板壁等を広くいう。また、ムク材でも集成材、例えば、CLT(Cross Laminated Timber)と称される直交集成板であってもよい。また、第1及び第2の数値データを取得する際には寸法や現しの違いごとに異なるデータを取ることがよいが、更に樹種(ここでは集成材も一種の「樹種」と考える)ごとに異なるデータを取るようにしてもよい。つまり、寸法×現しの違い×樹種というような多くのデータを取得することが実際に燃えた場合の正確なデータを得る観点からよい。
表示させる対象となり得る木質構造材はすべて火災時に想定される強度劣化状態を表示させてもよく、すべてではなく操作によって任意に選択的に表示させてもよい。
「木質構造材の強度」は、例えば木質構造材の接合部の剪断強度、木質構造材自体の曲げ強度や剪断強度、圧縮強度、引っ張り強度等である。これらを組み合わせた火災時に想定される強度劣化状態を評価するようにしてもよい。木質構造材の接合部に接合金具が使用されている場合には接合金具を含めて強度は評価される。
「強度劣化状態を、下記(1)の第1の数値データと、対応する木質構造材の下記(2)の第2の数値データとの数値の違いに基づいて表示画面に表示させる」は第1の数値データと第2の数値データの数値を数値の違いそのままに両方を表示するだけではなく、数値を引いたり、徐したりすることでもよく、数値の違いを他の表現、例えば色やアイコン等で表現したりしてもよい。例えば、色であれば違いが大きい場合と小さい場合で段階的に異なる色で表示したり、アイコンの種類や大きさを変えることで違いの大きさを表現したりすることである。
「第1の数値データ」は計算で取得するものであるが、前もって寸法×現しの違い×樹種ごとに計算しておいて多くのデータを取得しておいてもよく、表示させる際に寸法データ、現しの違いによる係数、樹種の違いによる係数等のパラメータに基づいてリアルタイムで強度を計算するようにしてもよい。ここに、第1の数値データは計算で得られる「想定」した値なので実際に燃えた値と必ずしも一致するわけではない。
「所定の燃焼条件」は、例えば燃焼時間の条件燃焼温度の条件等が挙げられる。
「強度算出用データ」は、例えば、架構を構成している種々の木質構造材の寸法データや位置データや重量データ等の諸元データである。強度によってパラメータが異なるため、これらすべてのデータを使用するわけではない。木質構造材が接合金物で接合されている場合には強度算出用データに接合金物の情報を含む。
「第2の数値データ」は実際に寸法と燃え代パターンのそれぞれが異なる複数の木質構造材(更に樹種の異なる木質構造材)を多数燃焼実験をして得られる数値である。とはいえ、実際の火事でも実験値とは異なる要因で数値が同じになるとは言えず、木材は同じ樹種でも水分量や密度や成分の違いで強度は変化する。しかし、このような変化は実際に燃焼させない場合に比較すれば誤差は少ない。本発明では計算値と実際に燃やした場合での強度の違いについて着目したことが重要であり、実験値と実際の火事の際でも強度の違いがあることは想定内である。木材は例え同じ樹種であっても生育環境や加工管理状況、施工後の環境等によって強度は一定にはならない。そのため、単に計算値のみに頼る場合に比べて、誤差は依然としてあるものの実際に燃やした場合の強度データとして第2の数値データを基準とできることは強度計算上大きな意義がある。
尚、これら用語の定義は以下の各手段でも同様である。
【0007】
また、手段2として前記第1の数値データを得るための前記修正寸法データは、前記第2の数値データにおける燃え残った状態の木質構造材の炭化していない部分の寸法と対応しているようにした。
つまり、炭化した部分はまったく強度に寄与しないとし、燃え残った部分だけを基準に強度を求めるようにしている。これによってある選択された木質構造材の第1の数値データと対応する第2の数値データの1対1の対応関係が明確化できる。
【0008】
また、手段3として、前記第1の数値データと前記第2の数値データの両方を木質構造材との関係で前記表示画面に表示させるようにした。
計算上の火災時の強度と、より実際の強度に近い実験値の強度の両方を表示することで、一見して計算値と実験値の差を理解でき、当該木質構造材の設計上の判断指標として検討がしやすくなる。表示手法としては、例えば表示モニターに色の画面を別途ダイアログ化して示してもよく、その木質構造材の上に重ねて表示させたり、木質構造材の近くに数値を表示させたりすることができる。
また、手段4として、前記第1の数値データと前記第2の数値データの数値に応じて異なる色で強度を表示させるようにした。
このようにすることで、一見して強度数値の乖離状態、逆に強度数値の近似状態がわかりやすくなり、どの部分の設計を変更すればよいかという判断の指標になる。
例えば、第1の数値データ(計算値)と第2の数値データ(実験値)の差の大きさに応じた色を用意し、差が大きいほど注意喚起するような色とすることがよい。また例えば計算値の強度に応じて色を用意し、実験値との差が大きくなければ実験値に対して同じ色を示し、実験値との差が大きくなるとその差に応じて計算値と実験値とで2色の色を表示するようにしてもよい。表示手法としては、例えば表示モニターに色の画面を別途ダイアログ化して示してもよく、その木質構造材自体を着色したりしてもよい。
【0009】
また、手段5として、前記第1の数値データと前記第2の数値データとの数値差を係数化し木質構造材との関係で前記表示画面に表示させるようにした。
計数化すると2つの数値を比べなくともその木質構造材の火事に対する特性が容易に理解できるからである。
例えば第2の数値データを第1の数値データで除してそれを係数として使用するような場合である。除数と被除数の関係は逆でもよい。
表示手法としては、例えば表示モニターに色の画面を別途ダイアログ化して示してもよく、その木質構造材の上に重ねて表示させたり、木質構造材の近くに数値を表示させたりすることができる。
また、手段6として、前記係数の大きさに応じて異なる色で強度を表示させるようにした。このようにすることで、一見して強度数値の乖離状態、逆に強度数値の近似状態がわかりやすくなり、どの部分の設計を変更すればよいかという判断の指標になる。異なる色は例えば表示するダイアログの背景に色づけするようにしてもよく、木質構造材自体を着色してもよく、なんらかの形状のアイコン等の表示画面に表示される表示体に色づけしてもよい。
【0010】
また、手段7として、前記木質構造材は樹種毎に前記第1の数値データと前記第2の数値データを取得するようにした。
樹種毎に燃えやすさ、燃えにくさは違うため、樹種毎に寸法や燃え代パターンの違いによるデータを取得することで、より実際の火事の際の実際の強度に近づけた設計が可能となる。
また、手段8として、前記第1の数値データと前記第2の数値データは前もって取得されて記憶手段に記憶されているようにした。
第2の数値データは実験値であるため、これは前もって記憶手段に記憶されていないと利用することはできない。一方第1の数値データは都度計算することも可能である。しかし、前もって計算して記憶手段に記憶させることによって瞬時に制御手段が呼び出して計算等が可能であるため、表示画面への表示上有利である。
また、手段9として、計算されるべき前記木質構造材の強度は接合金具によって支持された梁部材の接合部における剪断強度であるようにした。
梁部材の接合部における剪断強度は重要であり、特に木材とは異なる素材である接合金具で構造材が接合されている場合では火災による強度劣化は予想しにくい、そのため、特にこのような箇所に本発明を適用することがよい。
【0011】
また、手段10として、建築物の木質構造材の強度表示方法において、木質構造材の下記(1)の第1の数値データと、下記(1)の第1の数値データに対応する木質構造材の下記(2)の第2の数値データとの数値の違いに基づいて木質構造材の火災時に想定される強度劣化状態を表示画面に表示させるようにした。
(1)所定の燃焼条件を設定し、その燃焼条件で燃えたと仮定した部分を燃え代として木質構造材の寸法データから燃え代部分を除いた木質構造材の修正寸法データと強度算出用データに基づいて当該木質構造材の強度を計算して得られた第1の数値データ。
(2)寸法と燃え代パターンのそれぞれが異なる複数の木質構造材を、異なる所定の燃焼条件で燃焼させ、燃え残った状態の木質構造材の実際の強度を測定して得られた第2の数値データ。
これは手段1を方法の観点からクレームしたものであり、手段1と同様に手段2~7の構成を適宜適用することが可能である。
また、手段11では手段10の建築物の木質構造材の強度表示方法を使用した建築物の設計とした。
つまり、本発明の強度表示方法を一部にしようして建築物の設計がなされた場合をクレームした。
上述した手段1~手段11の各発明は、任意に組み合わせることができる。手段1~手段11の各発明の任意の構成要素を抽出し、他の構成要素と組み合わせてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、木材が実際に燃焼してしまった場合の強度の低下状態をより反映して木質構造材の火災時に想定される強度劣化状態を判断できるため、火災を想定した設計における強度計算の正確性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態のシステムを構成するコンピュータ装置の電気的構成を説明するブロック図。
【
図2】同じ実施形態において梁の燃え代パターンを同種ごとに分類して説明する説明図。
【
図4】実験値を取得するための手法を説明する説明図であって(a)は実験用の試料材を組み立てた状態、(b)は加熱炉に収容した状態、(c)は燃焼実験完了後の試料材において露出した外周面が炭化した状態、(d)は(c)に荷重をかけた状態。
【
図5】(a)はモニター上に表示される柱に三方現しの状態の梁を固定した状態の説明図、(b)は(a)の木質構造材内部に接合金具等が埋設されている状態を説明する説明図。
【
図6】ダイアログボックスに表示される選択項目において「火災を想定した剪断強度」を選択した状態を説明する説明図。
【
図7】ダイアログボックスに表示される選択項目において一例として「45分」を選択した状態を説明する説明図。
【
図8】火災時に想定される強度劣化状態がダイアログボックスに表示された状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態である建築物の木質構造材の強度表示システム及び強度表示について図面に基づいて説明する。尚、本実施の形態では接合金具によって柱に接合された梁の剪断強度について特化しているが、他の木質構造材や他の強度についての火事を想定した強度表示もこれに準じて可能である。
図1に示すように、システムを構成するコンピュータ装置10は制御手段としてのCPU(中央演算装置)11を有し、同CPU11には記憶手段としてのROM12及びRAM13、入力装置15、マウス16、モニター17及びプリンタ18が接続されている。また、コンピュータ装置10には外付けハードディスク装置19が接続されている。
ROM12はシステム全体の動作を制御するためのプログラム、木質構造材を表示させるプログラム、木質構造材の寸法データ、位置データ等を含む諸元データと燃え代パターンデータに基づいて木質構造材の剪断強度を計算する計算プログラム、並びにプログラム動作に必要な各種データが予め記憶された書き替え不能な記憶部である。また、RAM13はCPU11の演算に必要な各種情報を一時的に記憶する書き込み及び書き替え可能な記憶部である。外付けハードディスク装置19には火事を想定して燃焼実験をした木質構造材の剪断強度データ(実験データ)が格納されており命令に応じてCPU11はRAM13にこれらデータを転送する。また、CPU11は計算プログラムに基づいてRAM13に読み出しした実験データを使用して所定の表示や所定の計算を行う。
【0015】
入力装置15はCPU11に対して各種指令を与えるとともにデータ入力を行う。入力装置15は選択キー15aとテンキー15bと入力キー15cを備えている。選択キー15aは所望の2次元線図を選択したり所望の処理を選択したりする。テンキー15bは新たなデータや数値等の入力を行う。入力キー15cは選択された処理を実行させたりデータ内容の確定を行う。マウス16は入力装置15の補助装置とされ、モニター17の表示画面に表示された指示アイコン上にマウスカーソルを移動させ、入力操作をすることで上記選択キー15a及び入力キー15cと同様の機能を果たす。また、モニター17の表示画面に表示された2次元線図の梁等の上にマウスカーソルを移動させて入力操作をすることで木質構造材を指定する。
モニター17はRAM13から読み出された木質構造材の2次元線図の画像を表示させる。また、2次元線図に付帯して火災時の強度情報等その木質構造材の種々の情報を表示させる。プリンタ18はモニター17の表示画面に表示された画像を記録用紙に印刷する。
【0016】
次に使用者の入力装置15から入力に基づくCPU11が実行するモニター17の表示画面への木質構造材の強度表示の内容について説明する。
(イ)前提
本実施の形態ではコンピュータ装置10を稼動させて火災時を想定した強度情報を表示する前提として第2の数値データとしての実験データを取得して外付けハードディスク装置19を介してコンピュータ装置10に利用可能に接続する必要がある。実施の形態では剪断強度ついて例にとって説明する。
実験データは種々の条件によって特定された木質構造材を実際に所定の条件で燃やし、その燃やした試料材について剪断強度を測定する。本実施の形態では樹種×部位×形状×接合部に配置される金物の種類×ドリフトピンの数×燃え代パターン×燃焼時間の組み合わせ数に対応する試料材が用意され、それら試料材について実際の施工状態を想定して燃焼させ荷重をかけて強度を測定することになる。
「樹種」としては、例えばスギ、ヒノキ、アカマツ、集成材等である。
「部位」としては、例えば梁、柱、桁、束、土台、母屋、床のフローリング、板壁等である。
「形状」は「部位」における形状であって、例えば具体的な規格化された3方向(縦、横、高さ)の寸法である。
「燃え代パターン」は、例えば梁であれば天井や床や壁によって包囲されずに現しになるパターンは
図2のように示される。このような燃え代パターンでは
図3に示すように梁の背をaとし、幅をbとし、燃え代厚みをpとすると、
・A群の残余面積:A=a×b
・B群の残余面積:B=a×b-a×p
・C群の残余面積:C=a×b-b×p
・D群の残余面積:D=a×b+2p×p-a×p-b×p
・E群の残余面積:E=a×b+2p×p-2a×p-b×p
で表される。
「燃焼時間」は任意に設定可能であるが、火災が発生した際に避難可能な時間で、かつ火災が建物の強度に影響を与えるであろうということから、例えば30分、45分、60分の3種類の時間を設定する。
尚、これらの条件の組み合わせは数が非常に多くなるため一挙に実験をすることは事実上困難である。そのため、徐々にデータを蓄積して更新していうことがよい
。
【0017】
実験は具体的にはJIS規格に準拠して
図4に示すような手順で行われる。
図4(a)に示すように、左右の柱21に対して試料材となる梁22を連結する。柱21と梁22の接合においては接合面を刻んで仕口として連結する場合も、連結金具とドリフトピンのような接合金具セットを使用して連結する場合もどちらの連結手法もこの実験の対象とできる。
図4では後述する
図5(a)に対応する三方現しのE群の例として梁22の上面に床を模したプレート23を配置する。これを火災を想定した加熱するための加熱炉25内に図示しないクレーン装置を使用して設置し(
図4(b))、条件に応じた時間で燃焼させる。
図4(c)のように所定の燃焼が完了して表面が炭化した状態で、
図4(d)のように荷重をかけていきA位置が剪断破壊に至った状態の終局耐力値をその試料材の実験値として得る。尚、この際に試料材がどのくらい燃え残っているかを実測することで対応する計算値ベースとなる寸法データを得る。燃える前の寸法から燃え代厚みp分を除いた後の寸法を採寸することとなる。この例では梁22が三方現しであるとして一例を挙げたが、燃え代パターンに応じて現し状態は変更して実験する。
このように取得した実験値データは上記の条件と関連付けをし、つまり実験値データ毎にアドレスを付与しテーブル化しデータベースとして保存される。このデータベースを外付けハードディスク装置19に格納する。
【0018】
(ロ)CPU11の実行する内容について
1)画面への木質構造材の表示
操作者は入力装置15やマウス16を使用してモニター17の表示画面に求める建築物の木質構造材を表示させる。CPU11は操作者からの所定の入力に基づいて建築物の架構構造をGUI画面として表示させる。本実施の形態では「梁」を対象の木質構造材とする。操作者から任意の「梁」が指定されると、CPU11はモニター17上にその「梁」をクローズアップして表示させる。尚、指定とは実施の形態ではモニター17にGUI画面として表示される操作画面上のカーソルを当該「梁」の上に移動させて入力することである(以下、「指定する」という場合、操作者は同様の操作を実行する)。
ここでは
図5(a)に示すように、任意の「梁」として梁31が指定される。梁31は柱32の側面に接合されており、破線で表示される床33に上面が接しており、三方現しの燃え代パターンを有する。
図5(b)に示すように、梁31は柱32に対して平面形状T字状の接合金具34を介して接合されている。接合金具34は柱32に対してボルトセット(ボルト、ナット、ワッシャ等)35によって固着されている。接合金具34は固着状態で差し込みプレート36が柱32の側面に張り出し状に延出され、梁31は図示しないスリット内に差し込みプレート36が差し込まれた状態でドリフトピン37を側面から打ち込むことで固定されている。梁31は柱32に対して差し込みプレート36を介してドリフトピン37が挿通されることで剪断力に対する応力を有している。
指定操作に基づいてCPU11はモニター17の表示画面上に梁31及びその周辺とともに例えば
図6のような選択させるダイアログボックスG1を表示させる。本実施の形態では三番目の「火災を想定した剪断強度」という項目を指定する。
2)選択
その指定を受けて次にCPU11は、例えば
図7のような条件を選択させるダイアログボックスG2を表示させる。本実施の形態では「45分」を選択して指定し、次いで操作者はボックスG2下部に配置された「計算実行」を指定する。
3)算出
算出においては木質構造材の燃え代パターン毎に時間に応じた燃え代厚みp(つまり燃えて炭化した部分)を考慮して燃えたと仮定した計算がされる必要がある。燃焼時間が長いほどpが厚くなるため、相対的に燃焼時間が多い場合には強度算出のベースとなる材の寸法は小さくなる。燃え代厚みpは実際にある寸法の試料材を任意の時間で燃やした際のデータから経験的燃焼時間に対応した所定の値として与えることが可能である。
CPU11は「計算実行」の指定(命令)に基づいて火災を想定した剪断強度の計算を実行する。CPU11は指定されている「梁」の諸元データと燃え代パターンデータをROM12から読み出す。更に、CPU11はROM12内の強度算出プログラムを呼び出し、読み出された「梁」の諸元データと燃え代パターンデータに基づいて45分燃えたと仮定して45分燃焼の燃え代厚みp分を除いた後の寸法での剪断強度の計算を実行する。
剪断強度(応力度)は柱と梁の接合部分が荷重によって梁が柱に対してずれて崩壊することに対する耐力である。CPU11が計算プログラムで実行する計算の前提となる剪断耐力の求め方(計算方法)を接合金具によって柱に接合された梁を例にとって説明する。
【0019】
本実施の形態で選択された梁31の強度は剪断力(上方からの荷重)に対して、
Pa=(1/3)×jK×Puo
で評価される。ここに、Paは基準許容剪断耐力、jKは荷重継続期間・靱性・含水率等の影響係数、Puoが基準終局剪断耐力である。jKは木質構造材の属性として固有の係数として設定されるため、計算で基準終局剪断耐力(Puo)を求める。
1)木材が割裂又は剪断破壊しない場合の終局耐力(Puj:単位はニュートン(N))、と
2)木材が割裂又は剪断破壊する場合の終局耐力(Puw:単位はニュートン(N))、
のいずれか小さい方が剪断耐力(Puo)となる。1)は荷重に対してドリフトピン37が座屈する場合であり、それは数1の式で示される。一方、2)は荷重に対して梁31が破壊される場合であり、それは数2の式で示される。
1)又は2)において耐力が弱い側が求める強度となり、また、2)においては割裂(Puw1)又は剪断破壊(Puw2)のいずれか耐力の弱い側が求める強度となる。CPU11は梁31における諸元データからこの計算に必要なデータを取得して剪断強度を計算し、求める強度を決定する。
また、CPU11は外付けハードディスク装置19から梁31に対応した実験値データを読み出す。ここでは、梁31に附属している属性(樹種、部位、形状、接合部に配置される金物の種類、ドリフトピンの数、燃え代パターン)に加え入力した燃焼時間(このケースでは45分)という条件に対応して外付けハードディスク装置19に格納されているデータベースから実験値データを読み出すことになる。
4)結果の表示
CPU11は、例えば
図8のようなダイアログボックスG3を梁31の近傍に表示させる。ダイアログボックスG3には45分燃えたと仮定した場合の計算した剪断強度値と実験で得られた剪断強度値を表示させる。実験で得られた剪断強度値のデータは、梁31と同じ現し条件で同じ寸法の梁材のものを実際に45分燃焼させた実験値が選択されることとなる。併せて実験値の剪断強度値を計算値の剪断強度値で除した比を係数として表示する。この係数は1よりも小さく、1に近いほど計算値に近く、1より小さいほど実際の強度と計算値が乖離していることになる。この係数は火災における加熱の影響係数といえる。尚、ダイアログボックスG3に表示された計算結果はプリンタ18によって印刷可能である。
ここでは接合金具34やドリフトピン37で固定されたある梁31を例に挙げたが、操作者は他の木質構造材の「梁」を指定することでCPU11は同様に所定の計算プログラムによって強度を計算し表示させることができる。また、「梁」以外にも柱、桁、束、板壁、筋交い等々に適用して実施することができる。
【0020】
【0021】
【0022】
以上、本実施の形態のように構成することにより、次のような効果が奏されることとなる。
(1)設計者や工務店等の利用者が操作者であれば、設計試行段階で木質構造材の火災時の強度劣化について計算値と、より実際の火事の際の強度劣化に近い実験値とを比較することができるため、実際の火事を想定してその木質構造材の設計、例えば材の大きさ(太さ)や現し状態をより火災に強いように改善することができる。
(2)火事の際の強度劣化について単に数値の比較だけでなく係数、つまり実験値と計算値の「比」として見ることができるため、どのくらい強度が低下するか実際の火事の際の強度劣化に近い実験値を実感することができる。
(3)梁31の近傍にその梁との関連で表示させることができるため、どの木質構造材の数値か一見して把握できる。
【0023】
上記実施の形態は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記で計算した剪断強度値と実験で得られた剪断強度値の違いを具体的な数値を表示したり「比」として表示させるようにしていたが、一見して両者の数値の乖離度合いがわかるような色で表示する表示手段としてもよい。例えば、実験値の剪断強度値を計算値の剪断強度値で除した比が、0~0.24であれば赤色で、0.25~0.49であれば黄色で、0.50~であれば青色で示すようにしてもよい。例えば
図8のダイアログボックスG3の背景色をそれらの色で表現するごときである。また、例えば木質構造材に着色して表示するようにしてもよい。
・また、表示手段として色ではなく記号であれば種類やを変えることで表現するごときである。例えば、実験値の剪断強度値を計算値の剪断強度値で除した比が、0~0.24であれば「A」で、0.25~0.49であれば「B」で、0.50~であれば「C」を表示するようにしてもよい。
・表示手段としてアイコン、例えば火事を模した特有のアイコンで表現するようにしてもよい。両者の数値の乖離度合いが大きければ、アイコンを大きく表示し、乖離度合いが大きくなければ相対的に小さく表示する。実験値の剪断強度値を計算値の剪断強度値で除した比の大きさに応じて大きさを変えることがよい。
・上記では任意の木質構造材の選択行為として個々の木質構造材を画面上で選択するようにしていたが、必ずしも選択しなくてはいけないわけではなく、例えば画面上に表示されている木質構造材のすべての実験値の剪断強度値を計算値の剪断強度値の違いを表示させるようにしてもよい。また、一括操作でそのような表示をさせるようにしてもよい。
・すべての木質構造材にこのような表示をさせなくともよい。また、任意に選択された木質構造材だけをこのような表示態様の対象としてもよい。
・上記では選択することでクローズアップするような表示態様であったが、例えば伏せ図における架構造全体をモニター17に表示させ、その画面に表示させる複数種類の木質構造材において同時にこのように火災時に想定される強度劣化状態を表示させるようにしてもよい。
【0024】
・上記では選択した木質構造材の近傍にダイアログボックスG3を配置して数値を表示させるようにしていたが、ダイアログボックスを用いずに木質構造材の上に直接表示させるようにしてもよい。
・上記ではコンピュータ装置10は卓上コンピュータ装置のように入力装置としてモニター17とは別個にマウス16を備えるような例で説明したが、システムをタブレット端末のようなコンピュータ装置で実現するようにしてもよい。また、メモリ(ROM12、RAM13や外付けハードディスク装置19等)はインターネット上のクラウド上に設置するようにしてもよい。
・上記では外付けハードディスク装置19に実験データを格納するようにしていたが、実験データを読み込む際にはデータが格納されたSDカード、microSDカードをコンピュータ装置10に附属のスロットに接続したり、DVD装置等をコンピュータ装置10に接続してデータが格納されたCD-ROM等から読み込むようにしてもよい。また、ROM12に実験データを格納するようにしてもよい。
・上記実施の形態では火災時に想定される木質構造材の強度劣化について、剪断強度を例に挙げて具体的に説明したが、剪断強度以外の指標となる構造材の強度、例えば曲げ強度や圧縮強度や引っ張り強度について上記と同様に計算値と実験値の数値の違いに基づいて表示画面に表示させるようにしてもよい。
・上記実施の形態ではCPU11はモニター17の表示画面上に梁31及びその周辺を表示させたが、上記以外の表示態様、例えば伏せ図として同じ平面上の木質構造材の二次元線図を表示させたり、三次元的な斜視図で表示させたりするようにしてもよい。
・上記実施の形態で示した強度の評価をする式は一例であり、他の剪断強度を評価する式を用いることも可能である。
・上記実施の形態での燃え代パターンは一例であり、他のパターンを設定することは自由である。
・上記実施の形態では梁を例として計算を行ったが、その他の建築構造部材について行うことも自由である。
・上記実施の形態では梁の剪断強度を例として火災時の強度劣化状態を想定したが、剪断強度以外の強度について実行するようにしてもよく、剪断強度と併せていくつかの強度について火災を想定した計算値との比較を行うようにしてもよい。剪断強度以外の強度は、例えば曲げ強度、圧縮強度、引っ張り強度等であり、これらを組み合わせた火災時の強度劣化状態を想定してもよい。
・上記実施の形態では燃え代厚みpは実際にある寸法の試料材を任意の時間で燃やした際のデータから経験的に燃焼時間に対応した所定の値として与えるようにしていたが、ある程度のデータを取得した状態で燃え代厚みpを最適化計算で求めることができる。例えば、所定の樹種でいくつもの寸法の梁材の燃焼実験を行い異なる種類の燃焼後の燃え残った部分の寸法群から実際に実験をしていないある寸法の梁材のある燃焼時間での燃え残った部分の寸法を予想することも可能である。
・印刷するしないは自由である。従って、プリンタは必須ではない。
【0025】
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成には限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材としてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【符号の説明】
【0026】
10…システムを構成するコンピュータ装置、11…制御手段としてのCPU、31…木質構造材としての梁。