(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】安全性が向上したパウチ型二次電池ケース
(51)【国際特許分類】
H01M 50/105 20210101AFI20220112BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20220112BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20220112BHJP
H01M 50/141 20210101ALI20220112BHJP
H01M 50/145 20210101ALI20220112BHJP
【FI】
H01M50/105
H01M50/121
H01M50/129
H01M50/141
H01M50/145
(21)【出願番号】P 2019142987
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2019-08-08
(31)【優先権主張番号】10-2018-0094657
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519283299
【氏名又は名称】ニューワン グローバル カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】キム,ホ ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジン ホン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨン イン
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-033706(JP,A)
【文献】特開2004-296174(JP,A)
【文献】特開2004-071179(JP,A)
【文献】特開2007-265989(JP,A)
【文献】特開2012-164680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースをなす上及び下ケースは、層構造が互いに対称となる形状を有し、前記層構造は、収納領域及び端縁領域の全体にまたがっており、
前記層構造は、
第1の貼合層、吸収層及び外皮が積層されてなり、前記吸収層及び前記外皮の間には、第2の貼合層または接着剤層のうちのどちらか一方またはそれらが組み合わせられた層が配置され、前記第1の貼合層は、前記収納領域では電極構造体に臨んでおり、前記端縁領域では貼合部をなし、前記吸収層は、吸水剤、または、吸水剤とHF吸収剤との組み合わせを含む層構造をなし、
前記吸水剤は水分と反応し、
前記吸収層は、前記吸水剤を含む吸水層の
積層、前記吸水層と前記HF吸収剤を含むHF吸収層との積層、前記吸水剤及び前記HF吸収剤を両方とも含む複合吸収層の
積層、前記複合吸収層と前記吸水層との積層、前記複合吸収層と前記HF吸収層との積層のうちから選ばれたいずれか一つの層構造をなし、
前記吸水層または前記複合吸収層またはそれらが組み合わせられた層は、
前記吸水剤を含み、かつ、吸水速度の異なる
複数の層が積層され、
前記電極構造体に対向する側の
前記吸水剤を含む層の前記吸水速度は、前記外皮が位置する側の
前記吸水剤を含む層の前記吸水速度よりも大きく、水分を速やかに取り除くことを特徴とする安全性が向上したパウチ型二次電池ケース。
【請求項2】
同じ材質の吸水剤における前記吸水剤の含量は、前記電極構造体に対向する側の方が前記外皮が位置する側よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の安全性が向上したパウチ型二次電池ケース。
【請求項3】
前記吸水層は、前記吸水速度を異にする領域に仕切られたことを特徴とする請求項1に記載の安全性が向上したパウチ型二次電池ケース。
【請求項4】
前記第1の貼合層は、無延伸ポリプロピレン(CPP)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)のうちのいずれか一種またはそれらの共重合体からなることを特徴とする請求項1に記載の安全性が向上したパウチ型二次電池ケース。
【請求項5】
前記接着剤層は、極性の官能基を含有するオレフィンオリゴマー、アイオノマー樹脂、ポリビニールクロリド(PVC)、ポリビニールアセテート(PVAc)、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリビニールアセテート(PVAc)とポリビニールアルコール(PVA)との共重合体のうちから選ばれたいずれか一種またはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の安全性が向上したパウチ型二次電池ケース。
【請求項6】
前記接着剤層には、前記ケースの内部に起因する水分またはケースの外部から流れ込む水分またはケースの内部に起因するHFのうちの少なくともいずれか一つを吸収する吸水剤またはHF吸収剤のうちの少なくともどちらか一方が分散されたことを特徴とする請求項1に記載の安全性が向上したパウチ型二次電池ケース。
【請求項7】
前記外皮を構成する金属箔は、HFによる腐食を防止するためのHF腐食防止層を備えることを特徴とする請求項1に記載の安全性が向上したパウチ型二次電池ケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウチ型二次電池ケースに係り、さらに詳しくは、電解質との反応による反応生成物による影響なしに、二次電池の内部の水分やHF(フッ化水素)を有効に取り除き、外部から水分が流れ込むことを遮断するパウチ型二次電池ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池としては、モバイル機器、電気自動車などに対応して、薄肉であり、形状が変形し易く、製造コストが安価である他、重量の小さなパウチ型電池が多用されている。リチウム二次電池は、活物質または電解質の中に微量の水分が存在するか、あるいは、酷い場合は、ケースの外部から水分が流れ込むことがある。このような水分が存在すれば、充電過程の電位エネルギーによって水分と電解質との反応でガスが生じて、電池セルが膨らむというスウェリング現象が起こる。特に、LiPF6リチウム塩は、水分と反応して強酸であるHFを形成してしまうが、形成されたHFは、電池の外皮の金属箔(例えば、アルミニウム箔)を腐食させて隙間の形成を誘起して水分が流れ込み、流れ込まれた水分が電解質と反応してガスが生じて電池が膨らむ。前記電池が膨らむと、これは、電池の寿命を低下させる原因となり、酷い場合は、発火のリスクがある。この理由から、ケースの内部に存在する水分及びHFを取り除くことを余儀なくされる。
【0003】
水分とHFを取り除くために、特開2008-235256号公報は、水分及びHF吸収物質を含む吸収シートを提示している。特に、同特許の
図12及び
図13を参照すると、ケースの端縁領域に吸収シートが挿入された構造を採択している。ところが、同特許において、前記吸収シートの水分及びHF吸収物質が電解質と反応して生じた反応生成物は、電池の動作不良の原因となる。また、前記電解質は、前記吸収シートと接着層との間の側面に浸透して、前記ケースの貼り合わせられた部分が引き離されることがある。さらに、同特許のように、吸収シートで電池の内部の電極構造体を包み込む場合、吸収シートの厚さに見合う分だけ電極構造体の厚さが減少して、電池の容量が減り、しかも、性能が低下してしまう。なお、リードタブの位置する部分に吸収シートをさらに挿入する場合、リードタブ付き部分とリードタブ無し部分との高さ差が大きいが故に、シールが正常に行われない虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、電解質との反応で生成される反応生成物により電池の動作不良を伴うことなく、ケースの貼り合わせを保持し続け、電極構造体の厚さに影響を与えることなく、ケースの内部に存在する水分と、HF及び外部から流れ込む水分を遮断する安全性が向上したパウチ型二次電池ケースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を達成するための安全性が向上したパウチ型二次電池ケースは、ケースをなす上及び下ケースは、層構造が互いに対称となる形状を有し、前記層構造は、収納領域及び端縁領域の全体にまたがっており、前記層構造は、第1の貼合層、吸収層及び外皮が積層されてなり、前記吸収層及び前記外皮の間には、第2の貼合層または接着剤層のうちのどちらか一方またはそれらが組み合わせられた層が配置され、前記第1の貼合層は、前記収納領域では電極構造体に臨んでおり、前記端縁領域では貼合部をなし、前記吸収層は、吸水剤または吸水剤/HF吸収剤のうちのどちらか一方を含む層構造をなす。
【0007】
本発明のケースにおいて、前記吸収層は、前記吸水剤を含む吸水層の単層または積層、前記吸水層と前記HF吸収剤を含むHF吸収層との積層、前記吸水剤及び前記HF吸収剤を両方とも含む複合吸収層の単層または積層、前記複合吸収層と前記吸水層との積層、前記複合吸収層と前記HF吸収層との積層のうちから選ばれたいずれか一つの層構造をなしてもよい。
【0008】
好適な本発明のケースにおいて、前記吸水層または前記複合吸収層またはそれらが組み合わせられた層は、吸水速度の異なる層が積層されてもよい。前記収納領域側の前記吸水速度は、前記収納領域の反対側の前記吸水速度よりも大きいことが好ましい。同じ材質の吸水剤における前記吸水剤の含量は、前記収納領域側の方が前記収納領域の反対側よりも多い方がよい。前記吸水層は、前記吸水速度を異にする領域に仕切られてもよい。
【0009】
本発明のケースにおいて、前記第1の貼合層は、無延伸ポリプロピレン(CPP)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)のうちのいずれか一種またはそれらの共重合体からなってもよい。前記第1の貼合層は、極性の官能基を含有するオレフィンオリゴマー、アイオノマー樹脂、ポリビニールクロリド(PVC)、ポリビニールアセテート(PVAc)、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリビニールアセテート(PVAc)とポリビニールアルコール(PVA)との共重合体のうちから選ばれたいずれか一種またはそれらの混合物を含んでいてもよい。
【0010】
好適な本発明のケースにおいて、前記接着剤層には、前記ケースの内部に起因する水分またはケースの外部から流れ込む水分またはケースの内部に起因するHFのうちの少なくともいずれか一つを吸収する吸水剤またはHF吸収剤のうちの少なくともどちらか一方が分散されてもよい。前記外皮を構成する金属箔は、HFによる腐食を防止するためのHF腐食防止層を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の安全性が向上したパウチ型二次電池ケースによれば、電解質と直接的に接触することなく水分を吸収する層構造を備えることにより、電解質との反応で生成される反応生成物により電池の動作不良を伴うことなく、ケースの貼り合わせを保持し続ける。なお、電極構造体の厚さに影響を与えることなく、ケースの内部に存在する水分と、HF及び外部から流れ込む水分を遮断する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明によるパウチ型二次電池ケースを説明するための分解斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿って切り取った断面図である。
【
図3】本発明によるケースに水分及びHFが吸収される過程を概説する部分断面図である。
【
図4】本発明のケースの吸収層に対する事例を示す断面図である。
【
図5】本発明のケースの吸収層に対する事例を示す断面図である。
【
図6】本発明のケースの吸収層に対する事例を示す断面図である。
【
図7】本発明のケースの吸収層に対する事例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好適な実施形態をより詳しく説明する。しかしながら、後述する実施形態は、異なる様々な形態に変形可能であり、本発明の範囲が下記において詳述される実施形態に限定されることはない。本発明の実施形態は、当分野において通常の知識を有する者に本発明をより完全に知らせるために提供されるものである。一方、図面において、膜(層、パターン)及び領域の厚さは、明確性を図るために誇張されてもよい。なお、膜(層、パターン)が他の膜(層、パターン)の上、上部、下部、一方の面にあると言及された場合、他の膜(層、パターン)に直接的に形成されてもよく、または、これらの間に他の膜(層、パターン)が介在されてもよい。
【0014】
本発明の実施形態は、電解質と直接的に接触することなく水分を吸収する層構造を備えることにより、電解質との反応で生成される反応生成物により電池の動作不良を伴うことなく、ケースの貼り合わせを保持し続け、電極構造体の厚さに影響を与えることなく、ケースの内部に存在する水分と、HF及び外部から流れ込む水分を遮断するパウチ型二次電池ケースを提示する。このために、水分及びHFを吸収可能な層構造を有するケースについて具体的に説明し、前記層構造により水分及びHFが吸収される過程について詳しく説明する。なお、電解質との反応による反応生成物が収納領域に散布されない過程について詳しく説明する。電池の水分は、電解質との反応でガスが生じ、LiPF6リチウム塩と反応してHFを生成する。この理由から、リチウム二次電池は、水分及びHFを両方とも取り除くことが好ましい。
【0015】
図1は、本発明の実施形態によるパウチ型二次電池ケースを説明するための分解斜視図である。但し、厳密な意味の図面を表現したわけではなく、説明のしやすさのために、図示しない構成要素があり得る。
【0016】
図1によれば、パウチ型二次電池100は、上及び下ケース10a、10bからなるケース10及び電極構造体20を備える。ケース10は、電極構造体20が収納される空間を提供する収納領域A、上及び下ケース10a、10bが貼り合わせられる端縁領域Bと、に仕切られる。本発明の実施形態によるケース10の詳しい構造については、今後、
図2に基づいて詳しく説明する。電極構造体20は、正極、セパレーター及び負極を一つの単位として複数が積層され、電極構造体20から延びた電極タブ21は、電極リード23に溶接やリベット(rivet)などにより結合される。電極タブ21は、電極リード23を介して電極構造体20から引き出されて外部端子と接続される。
【0017】
シール部22は、電極リード23を封止して、電極リード23を経て電解質やガスが流出されないようにする。電極リード23は、一般に、板状または棒状であり、電気伝導性を有する金属材質からなる。電極リード23は、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及びその合金のうちから選ばれたいずれか一種の金属から形成されてもよい。電極リード23は、シール部22との接着力の向上及び腐食の防止のために、クロム化合物、リン化合物などにより表面処理されてもよい。
【0018】
図2は、
図1のII-II線に沿って切り取った断面図である。説明のし易さのために、一部は省略されている。
【0019】
図2によれば、ケース10をなす上及び下ケース10a、10bは、層構造が互いに対称となる形状を有する。上ケース10aは、第1の貼合層30、吸収層31、第2の貼合層32、接着剤層33、HF腐食防止層34及び外皮35がこの順に積層されてなる。下ケース10bは、第1の貼合層30、吸収層31、第2の貼合層32、接着剤層33、HF腐食防止層34及び外皮35がこの順に積層されてなる。このとき、上ケース10aの第1の貼合層30、吸収層31、第2の貼合層32、接着剤層33、HF腐食防止層34及び外皮35のそれぞれは、下ケース10bの第1の貼合層30、吸収層31、第2の貼合層32、接着剤層33、HF腐食防止層34及び外皮35と同様である。
【0020】
第1の貼合層30、吸収層31、第2の貼合層32、接着剤層33、HF腐食防止層34のそれぞれの厚さは、製造される二次電池の形状、用途などに応じて自由に定めることができ、本発明がこれに限定されることはないが、0.1~50μm、好ましくは、5~15μmであってもよい。このとき、吸収層31は吸収物質を含むため、他の層に比べて相対的に厚くてもよい。
【0021】
本発明の実施形態による第1の貼合層30、吸収層31、第2の貼合層32、接着剤層33、HF腐食防止層34及び外皮35は、層構造に積層されて、ケース10の収納領域A及び端縁領域Bの全体にまたがっている。収納領域Aに満たされている電解質は、第1の貼合層30に直接的に接触し、吸収層31とは直接的に接触しない。なぜならば、吸収層31は、第1の貼合層30により前記電解質と引き離されるためである。こうなると、電解質が吸収層31の水分及びHF吸収物質と反応して生成された反応生成物が収納領域Aに散布されることを防止する。すなわち、前記電解質のHFや水分が第1の貼合層30に浸透して吸収層31の前記吸収物質と反応するとしても、反応生成物は吸収層31に存在することになるため、収納領域Aには存在しない。これにより、本発明の実施形態においては、反応生成物が収納領域Aに散布して引き起こされる電池の動作不良を遮断することができる。
【0022】
外皮35は、基本的に、保護層及び金属箔を備える。前記保護層は、外部の環境から前記金属箔を保護する役割を果たし、厚さに比べて優れた引っ張り強度と耐候性などが求められる。前記保護層には、ポリエステル、延伸ナイロンフィルムなどが多用されている。前記金属箔は、湿気や空気の出入りを遮断するため、バリア層とも呼ばれる。前記金属箔としては、主としてアルミニウムが用いられ、アルミニウムは、ガスなどに対する遮断特性と薄膜状の加工を可能にする軟性を有し、しかも、安価である。いうまでもなく、前記保護層及び金属箔の材質は、本発明の範囲内において制限なしに適用可能である。外皮35は、本発明の範囲内において絶縁、剥離などの機能を発揮する別途の層を種々に備えていてもよい。
【0023】
上及び下ケース10a、10bの第1の貼合層30は、収納領域Aでは電極構造体20に臨んでおり、端縁領域Bでは貼合部をなす。前記貼合部は、熱接着(ヒートシール)(heat sealing)、乾式貼り合わせ(ドライラミネーション)(dry lamination)などの公知の方式により互いに貼り合わせられる。第1の貼合層30には、これに何ら限定されるものではないが、主として、無延伸ポリプロピレン(CPP)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などの低融点樹脂が用いられる。例えば、第1の貼合層30は、ランダムポリプロピレン(PP)、変性ポリオレフィン(PO)及び熱可塑性エラストマー(elastomer)を含んでなってもよい。ここで、ランダムポリプロピレン(PP)とは、ランダムコポリマー(copolymer)またはランダムターポリマー(terpolymer)のことをいい、ランダムターポリマーが好適に用いられる。ランダムポリプロピレン(PP)は、溶融指数(g/10min)が0.3~30であり、融点が145℃以上、好ましくは、150℃以上のポリプロピレン系の樹脂であればよい。変性ポリオレフィンは極性基を有するので、接着性シール性に優れた酸変性ポリオレフィンであってもよい。酸変性ポリオレフィンとは、無水マレイン酸などの酸をグラフト変性したポリオレフィンのことである。
【0024】
熱可塑性エラストマーは、典型的な分子構造がトリブロック共重合体であり、特に、オレフィン系の熱可塑性エラストマーは、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂とオレフィン系(例えば:EDPM、エチレンプロピレンジエンモノマー)を主成分として結合した物質である。ポリオレフィン系のエラストマーは、軽質相にポリスチレンやポリプロピレン、軟質相にスチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EDPM)を有する。オレフィン系の熱可塑性エラストマーは、オレフィン系の樹脂の含量に応じて、50~120℃の広い範囲において融点が調節可能である。
【0025】
熱可塑性エラストマーのゲル(gel)分率は、20~90%であることが好ましい。ゲル分率が20%未満では、架橋の度合いが不十分であり、熱融着するときにエラストマーが溶融する量が多過ぎる。ゲル分率が90%を超えると、架橋の度合いが大き過ぎて接着性が悪くなる。本発明の第1の貼合層30は、ランダムポリプロピレンとエラストマーを95:5~50:50の比率にて含有することが好ましい。エラストマーの含有量が上記の割合よりも低ければ、第1の貼合層30の弾性率が低下する。エラストマーの含有量が上記の割合よりも多くなると、熱融着するときに流下する樹脂の量が余計に多くなる。ランダムポリプロピレンと熱可塑性エラストマーとの混合比は、80:20~60:40であることがさらに好ましい。
【0026】
第1の貼合層30は、従来とは異なり、吸収シートを挿入しないことから、従来に比べて工程を簡単にすることができる。従来には、吸収シートを挿入する工程が別途に求められていた。例えば、特開2008-235256号公報の
図12及び
図13を参照すると、吸収シートをケースに配置する過程が必要である。しかしながら、本発明は、第1の貼合層30、吸収層31、第2の貼合層32、接着剤層33及び外皮35の層構造を備える上及び下ケース10a、10bを互いに熱接着などで貼り合わせるので、工程が簡単である。このような熱接着などは、本発明の吸収層31がない場合にも適用される一般的な方法である。
【0027】
周知の如く、第1の貼合層30をなす物質は、電解質に対して安定的な物質である。これにより、第1の貼合層30は、収納領域A及び端縁領域Bの全体にまたがっているが、たとえ電解質に晒されるとしても、第1の貼合層30は、電解質によりダメージを受けない。なお、第1の貼合層30を熱接着、ドライラミネーションなどで貼り合わせると、前記電解質がケース10の外部に漏れ出ない程度の十分な接合力を有する。
【0028】
吸収層31は、第1の貼合層30と同じ材質からなり、ケース10の内部と外部の水分を吸収し、さらに、HFを吸収するための層であって、これについては、今後、
図3から
図7に基づいて詳しく説明する。第2の貼合層32は、吸収層31を保護しながら貼り合わせ可能な物質からなり、第2の貼合層32の材質は、第1の貼合層30と同様である。場合によって、吸収層31の保護が十分に行われている限り、第2の貼合層32は備えなくても構わない。すなわち、第1の貼合層30、吸収層31及び第2の貼合層32は、同種の材質であり、但し、吸収層31には、水分またはHFまたはこれらを両方とも吸収するための吸収剤が分散されている点で相違点がある。
【0029】
接着剤層33は、第2の貼合層32及び外皮35を接着剤で接着する。このとき、外皮35の金属箔には、HFによる前記金属箔の腐食を防止するためのHF腐食防止層34が存在することがある。前記接着剤は、何ら制限はないが、ホットメルト型接着剤が好適に用いられる。接着剤層33には、外皮35の金属箔との接着力を高めるために、接着剤層33には、極性の官能基を含有するオレフィンオリゴマー(oligomer)、アイオノマー(ionomer)樹脂、ポリビニールクロリド(PVC)、ポリビニールアセテート(PVAc)、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリビニールアセテート(PVAc)とポリビニールアルコール(PVA)との共重合体のうちから選ばれたいずれか一種またはそれらの混合物を添加してもよい。前記オレフィン系のオリゴマーは、ほとんど炭素及び水素のみの原子の組み合わせからなり、直鎖状若しくは分岐状の重合体のことをいう。前記オレフィン系のオリゴマーに含有される官能基は、オレフィン系のオリゴマーに共有結合でグラフトしたものである。極性を有する官能基の好適な例としては、酸無水物基、水酸基、カルボキシル基、アミド基、ウレタン基、イミド基、マレイミド基、チオール基などが挙げられ、特に好適な例としては、無水マレイン酸基が挙げられる。
【0030】
前記アイオノマー樹脂は、エチレン系のアイオノマー樹脂であることが好ましい。エチレン系のアイオノマー樹脂は、エチレンメタクリル酸共重合体若しくはエチレンアクリル酸共重合体などのエチレン共重合体に亜鉛イオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオンなどの金属イオンで擬似架橋した樹脂である。エチレン系のアイオノマー樹脂には、分子内にカルボキシル基を有するエチレン共重合体と金属酸化物、金属水酸化物、または金属塩を混合して得られるものも含まれる。カルボキシル基を有するエチレン共重合体と金属塩などを混合すれば、カルボキシル基は金属イオンにより中和されてカルボン酸イオンとなって、金属イオンとの塩を形成する。複数のカルボン酸イオンが金属イオンと会合することにより、エチレン共重合体などの種類が擬似架橋されてアイオノマー樹脂となる。
【0031】
接着剤層33には、ケース10の内部に起因する水分及びケースの外部から流れ込む水分を必須的に吸収し、選択的に、ケース10の内部に起因するHFを吸収する吸水剤または吸水剤/HF吸収剤のうちのどちらか一方が分散されていてもよい。前記HF吸収剤は、公知のものであれば、制限なしに使用可能であり、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、活性炭、硅藻土、パーライト、ゼオライト、ハイドロタルサイト、焼成ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト酸化物などが挙げられる。
【0032】
前記吸水剤は、公知の物質であれば、制限なしに使用可能であり、無機物質、有機物質またはそれらが組み合わせられたハイブリッド物質であってもよい。無機物質は、活性炭、ゼオライト、BaTiO3、(HfO2)SrTiO3、SiO2、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO2、Y2O3、Al2O3、TiO2、ソーダ石灰、リチウム-シリカ、一般式MSO4またはM2SO4で表わされる硫酸塩(Mは、Na、K、Mg、Caのうちのいずれか一種)などが挙げられる。有機物質は、アクリル酸またはアクリルアミド単量体がグラフトされた共重合体を含むアクリレート系の吸水剤、エチレンマレイン酸無水物共重合体、カルボキシメチルセルロース及びポリエチレンオキシドなどが挙げられる。ハイブリッド物質は、ナノ分散工法などにより前記無機物質及び有機物質がハイブリッドされた物質である。
【0033】
接着剤層33は、外皮35の金属箔との接着のためのものであるため、第2の貼合層32がその機能を十分に発揮する限り、接着剤層33は省略されてもよい。この場合、前記金属箔との接着力を高めるために、接着剤層33に添加された物質が第2の貼合層32に添加されてもよい。また、接着剤層33は、吸収層31に比べて収納領域Aから遠く離れているため、収納領域Aの内部に起因する(内部からの)水分及びHFの吸収に対してほとんど寄与しないこともある。これにより、接着剤層33は、ケース10の外部から流れ込む水分の吸収を防ぐための吸水剤のみを含んでいてもよい。
【0034】
HF腐食防止層34は、金や銀またはポリエチレン、テフロン(登録商標)、ナトリウム、カルシウム、ガラスパウダー、ニトロベンゼン、アニリン、アセトアニリド、アミド、塩化ベンゼンなどのHFに対して強い耐性を有する材料または不活性化させ得る材料を外皮層にコーティングする方法で外皮35の金属箔をHFから保護するためのものであり、吸収層31がその機能を十分に発揮する限り、HF腐食防止層34は省略されてもよい。
【0035】
図3は、本発明の実施形態によるケースに水分及びHFが吸収される過程を概説する部分断面図である。このとき、本発明のケースについては、
図1及び
図2を参照されたい。
【0036】
図3によれば、吸収層31には、上述した吸水剤が含まれ、場合によって、前記HF吸収剤がさらに含まれていてもよい。換言すれば、吸収層31は、前記吸水剤を必須的に含み、前記HF吸収剤を選択的に含む。一方、ケース10においては、欠陥または自然的な拡散路により水分または水分/HFが吸収されたり放出されたりする現象が起こる。収納領域Aにおける欠陥の例を挙げると、ケース10を作製する過程において金属箔の変形が起こるため、金属箔に微細なひび割れ(crack)が生じる。なお、端縁領域Bにおける欠陥の例を挙げると、第1の貼合層30間の貼合部(点線にて示す領域)において拡散路が自然に生じることがある。前記吸水剤及び前記HF吸収剤をまとめて吸収物質Pと称する。
【0037】
収納領域Aにおいて、外部の水分EWは吸収層31に拡散されて吸収物質Pの吸水剤により吸収される。また、第1の貼合層30を貫通して流れる内部の水分IWまたは水分/HF[IW(F)]は、吸収層31に拡散されて吸収物質Pの吸水剤または吸水剤/HF吸収剤により吸収される。こうなると、たとえ収納領域Aに欠陥(微細なひび割れ、接着不良、拡散炉など)があるとしても、外部の水分EWが収納領域Aの電極構造体20に浸透されないようにする。図示はしないが、接着剤層33には、外部の水分EWを吸収する吸水剤が存在するため、外部の水分EWの浸透をさらに確実に遮断することができる。なお、内部の水分IWまたは水分/HF[IW(F)]は、吸収層31、さらには、接着剤層33により吸収されて、収納領域Aの内部の水分IWまたは水分/HF[IW(F)]の含量を大幅に減らすことができる。
【0038】
端縁領域Bにおいて、外部の水分EWは貼合部に拡散されて、収納領域Aに達すると、ほとんどの外部の水分EWは吸収層31の吸水剤に吸収される。具体的に、外部の水分EWは、前記貼り合わせ領域に触れるところで最大限に吸収され、収納領域Aの近くには外部の水分EWが存在しなくなる。第1の貼合層30に沿って流れる内部の水分IWまたは水分/HF[IW(F)]は、吸収層31に拡散されて吸収物質Pの吸水剤または吸水剤/HF吸収剤により吸収される。これにより、収納領域Aの内部の水分IWまたは水分/HF[IW(F)]の含量を大幅に減らすことができる。
【0039】
図4から
図7は、本発明の実施形態によるケース10の吸収層31に対する事例を示す断面図である。それぞれの事例には、説明のし易さのために、それぞれ参照符号40、41、42及び43を付する。このとき、パウチ型二次電池100については、
図1及び
図2を参照されたい。ここで、第1の事例は、吸水剤のみを含む層は31Wと示し、HF吸収剤のみを含む層は31Fと示し、且つ、吸水剤/HF吸収剤を含む層は31WFと示す。
【0040】
図4によれば、第1の事例40の第1の吸収層31aは、収納領域A及び端縁領域Bの全体にまたがっている。第1の事例40の第1の吸収層31aは、第1の吸水剤を含む吸水層31W及び第2の吸水剤を含む吸水層31Wが単層として存在するか、または、積層されたものである。換言すれば、第1の事例40の第1の吸収層31aは、HF吸収剤を含んでいない。ここで、単層とは、第1の吸水剤を含む吸水層31W及び第2の吸水剤を含む吸水層31Wのうちのどちらか一方の層のことをいう。積層の場合、第1の吸水剤を含む吸水層31Wは、収納領域Aの電極構造体20を向いていて、ケース10の内部からの水分を吸収する。なお、第2の吸水剤を含む吸水層31Wは、ケース10の外部からの水分を吸収する。前記第1及び第2の吸水剤は、上述した吸水剤と同様である。
【0041】
第1の吸水剤を含む吸水層31Wにおける水分を吸収する速度は、第2の吸水剤を含む吸水層31Wにおける水分を吸収する速度に比べて大きいことが好ましい。二次電池の製造過程中に電極構造体20に水分が含まれていてもよく、電極構造体20の収納過程において水分が流れ込む可能性があるため、収納領域Aに存在する水分は速やかに取り除かなければならない。これにより、第1の吸水剤を含む吸水層31Wが水分を吸収する速度を高めて、二次電池の性能を保つことができる。これに対し、ケース10の外部から流れ込む水分は、第2の吸水剤を含む吸水層31Wに沿って徐々に吸収されるため、水分を吸収する速度が相対的に遅くても構わない。
【0042】
一方、第1の吸水剤を含む吸水層31W及び第2の吸水剤を含む吸水層31Wにおける吸水速度は、吸水剤の含量及び種類などに応じて調節される。例えば、同じ材質の吸水剤であるとしたとき、吸水剤の含量が大きければ、吸水速度は大きい。含量という観点からみたとき、第1の吸水剤を含む吸水層31Wにおける吸水剤の含量は、第2の吸水剤を含む吸水層31Wにおける吸水剤の含量よりも大きい。
【0043】
本発明の吸水剤による吸水速度は、第2の吸水剤を含む吸水層31Wの特性を考慮した技術的な思想に基づく。これにより、前記吸水速度の差は、前記技術的思想を考慮することなく、吸水のための繰り返し実験を通して得られないものである。なお、前記吸水速度の差は、本発明の実施形態によるパウチ型二次電池の容量、電解質の種類、大きさ、形状、吸水剤の種類などを考慮して調節可能である。
【0044】
図5によれば、第2の事例41の第2の吸収層31bは、収納領域A及び端縁領域Bの全体にまたがっている。第2の事例41の第2の吸収層31bは、吸水剤のみを含む吸水層31W及びHF吸収剤のみを含むHF吸収層31Fが積層されている。このとき、吸水層31W及びHF吸収層31Fの数、厚さなどは、本発明の二次電池の大きさ、電解質の特性を考慮して定められる。このとき、前記吸水剤及びHF吸収剤は、上述したものと同様である。なお、吸水層31Wは、
図4に基づいて説明したように、吸水速度が異なるように設計されてもよい。
【0045】
図6によれば、第3の事例42の第3の吸収層31cは、収納領域A及び端縁領域Bの全体にまたがっている。第3の事例42の第3の吸収層31cは、水分及びHFを両方とも吸収する複合吸収層31WFが単層として存在するか、または、積層されたものである。換言すれば、第3の事例42の第3の吸収層31cは、吸水剤及びHF吸収剤を両方とも含む。このとき、前記吸水剤及びHF吸収剤は、上述したものと同様である。なお、吸水層31Wは、
図4に基づいて説明したように、吸水速度が異なるように設計されてもよい。
【0046】
図7によれば、第4の事例43の第4の吸収層31dは、端縁領域Bには吸水剤を含む吸水層31W及びHF吸収剤を含むHF吸収層31Fが積層され、吸水層31Wは、吸水速度の異なる第1の領域a及び第2の領域bに仕切られる。第1の領域aは、ケース10の外部からの水分を吸収し、第2の領域bは、ケース10の内部からの水分を吸収する。このために、第1の領域aは、第2の領域bよりもケース10の外側に位置する。なお、第1の領域aの吸水は相対的に遅くし、第2の領域bの吸水は相対的に速くしてもよい。収納領域Bには端縁領域Bの第2の領域bが延びて、ケース10の内部からの水分を吸収する。
【0047】
本発明の実施形態による吸収層31は、吸水剤を必須的に含み、HF吸収剤を選択的に含む層構造をなす。具体的に、吸水層31Wの単層または積層、吸水層31WとHF吸収層31Fとの積層、複合吸収層31WFの単層または積層、複合吸収層31WFと吸水層31Wとの積層、複合吸収層31WFとHF吸収層31Fとの積層などにより実現されてもよい。なお、吸水剤を含む吸水層31W及び複合吸収層31WFの吸水速度をそれぞれ異ならせてもよい。さらに、吸水層31W内には、吸水速度を異にするように領域を仕切ってもよい。
【0048】
以上、本発明について、好適な実施形態を挙げて詳しく説明したが、本発明は、上記の実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内であれば、当分野において通常の知識を有する者により種々に変形可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 ケース
10a、10b 上及び下ケース
20 電極構造体
21 電極タブ
22 シール部
23 電極リード
30 第1の貼合層
31 吸収層
31a、31b、31c、31d 第1乃至第4の吸収層
31W 吸水層
31F HF吸収層
31WF 複合吸収層
32 第2の貼合層
33 接着剤層
34 HF腐食防止層
35 外皮
a、b 第1及び第2の領域