(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】長時間作用型アドレノメデュリン誘導体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20220112BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220112BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20220112BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220112BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220112BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
A61K38/10
A61K47/68
A61P9/00
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2019510084
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2018013075
(87)【国際公開番号】W WO2018181638
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2019-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2017064369
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 和雄
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 基生
(72)【発明者】
【氏名】永田 さやか
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/046301(WO,A1)
【文献】特開平07-196693(JP,A)
【文献】国際公開第2016/014428(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/141819(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047788(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
A-L-B (I)
[式中、
Aは、免疫グロブリン
G1(IgG1)のFc領域、又は免疫グロブリンG4(IgG4)のFc領域であり、
Bは、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分であり、
Lは、
以下:
(GGGGS)n(配列番号27)(nは、2~6の範囲の整数である);又は
(GGGGS)n+GGGGK(配列番号27及び29)(nは、1~5の範囲の整数である)
のアミノ酸配列を有するペプチドからなる連結基である。]
で表され
、
Fc領域Aが、そのC末端のカルボキシル基が連結基LのN末端のαアミノ基とペプチド結合を形成することによって残部分と連結されており、且つ
ペプチド部分Bが、そのN末端のαアミノ基が連結基LのC末端のカルボキシル基とペプチド結合を形成することによって残部分と連結されている、
化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物。
【請求項2】
Lが、以下:
GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号22);又は
GGGGSGGGGSGGGGK(配列番号24);
のアミノ酸配列を有するペプチドからなる連結基で
ある、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体が、下記:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(iii)(ii)のペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(iv)(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、
N末端側から1~15
位、1~12位、1~10位、1~8位、1~5位又は1~3位のアミノ酸残基が欠
失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(v)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、並びに
(vi)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドである、請求項1
又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体が、下記:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号4のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号6のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号6のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号8のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号10のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号12のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号12のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(g)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(h)(a)~(g)のいずれかのペプチドにおいて、
N末端側から1~15
位、1~12位、1~10位、1~8位、1~5位又は1~3位のアミノ酸残基が欠
失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(i)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(j)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の化合物をコードする塩基配列を含む、単離された核酸。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物を有効成分として含有する医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長時間作用型アドレノメデュリン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
アドレノメデュリン(adrenomedullin、以下、「AM」とも記載する)は、1993年に褐色細胞組織より単離及び同定された生理活性ペプチドである(非特許文献1)。発見当初、AMは、強力な血管拡張性の降圧作用を発揮することが判明した。例えば、特許文献1は、ヒトAMのアミノ酸配列を含む血圧降下作用を有するペプチドを記載する。
【0003】
その後の研究により、AMは、心血管保護作用、抗炎症作用、血管新生作用及び組織修復促進作用等の、多彩な薬理作用を発揮することが明らかになった。また、AMの薬理作用を、疾患治療に応用することを目指して、種々の疾患患者に対するAMの投与研究が行われてきた。なかでも、炎症性腸疾患、肺高血圧症、末梢血管疾患又は急性心筋梗塞の治療薬としてのAMの有用性が期待されている。
【0004】
例えば、特許文献2は、アドレノメデュリン若しくはその誘導体であって、非細菌性の炎症を抑制する活性を有するもの、又はそれらの塩であって非細菌性の炎症を抑制する活性を有するものを有効成分として含有する非細菌性の炎症性腸疾患の予防又は治療剤を記載する。
【0005】
特許文献3は、ステロイド製剤、免疫抑制剤又は生物学的製剤の使用が困難又は効果不十分な炎症性腸疾患の予防又は治療を必要とする患者における前記炎症性腸疾患の予防又は治療方法であって、有効量のアドレノメデュリン、その修飾体であって炎症を抑制する活性を有するもの、又は前記アドレノメデュリン若しくは前記修飾体の塩であって炎症を抑制する活性を有するものを前記患者に投与することを含む前記予防又は治療方法を記載する。
【0006】
また、AMの構造活性相関研究から、AMの生物活性に寄与し得る必須配列の特定が進められた(非特許文献2~9)。
【0007】
一般に、ペプチドは、生体内(例えば血中)における代謝反応に起因して、生体内における半減期が短いことが知られている。このため、ペプチドを医薬の有効成分として使用する場合、該ペプチドに他の基を連結したペプチド誘導体の形態とすることにより、生体内における半減期を延長して薬物動態を改善できる場合がある。
【0008】
例えば、特許文献4は、1.5時間を超える血清半減期を有することを特徴とする生物学的に活性なインテルメジンペプチド又はアドレノメデュリンペプチドを記載する。当該文献は、アルキル基とペプチド部分とをアミド結合を介して連結することを記載する。
【0009】
特許文献5は、AMのTyr1のフェノール性水酸基を介してポリエチレングリコール(以下、「PEG」とも記載する)基と連結したAM誘導体を記載する。
【0010】
特許文献6は、PEG-アルデヒドとペプチドの遊離アミノ基とを反応させて、ペプチドの遊離アミノ基にPEG基が連結されたペプチド誘導体を製造する方法を記載する。当該文献は、ペプチドとしてAMを記載する。
【0011】
非特許文献10は、AMのN末端のαアミノ基にPEG基をアミド結合を介して連結したAM誘導体を記載する。当該文献は、PEG基を連結したAM誘導体は血中半減期が延長されたことを記載する。
【0012】
特許文献7は、融合タンパク質のアミノ末端に位置し、第1の生理活性ペプチド又はタンパク質の配列を含有する第1のセグメント;及び、融合タンパク質のカルボキシル末端に位置し、第2の生理活性タンパク質又はペプチドの配列を含有する第2のセグメントを含む融合タンパク質であって、前記第1及び第2のセグメントが、機能するように共有結合してなる、融合タンパク質を記載する。当該文献は、前記第1のセグメント及び前記第2のセグメントと結合する、免疫グロブリン又はその機能的等価物のFc断片のようなリンカーセグメントをさらに含み得ることを記載する。当該文献は、アドレノメデュリンについて言及していない。
【0013】
特許文献8は、アルブミン結合ドメインポリペプチド(ABD)と、レプチン、レプチン類似体又はその活性断片から選択される第1のペプチドホルモンドメイン(HD1)とを含む操作されたポリペプチドを記載する。当該文献は、HD1に含まれる水溶性ポリマー部分としてFcタンパク質を記載する。当該文献は、操作されたポリペプチドが、良好な作用持続期間を有することを記載する。当該文献は、操作されたポリペプチドと併用投与し得る薬剤として、アドレノメデュリンのようなアミリン又はその類似体を例示する。
【0014】
特許文献9は、(i)免疫グロブリンFc領域;及び(ii)ペプチド結合又はペプチドリンカー配列により免疫グロブリンFc領域のカルボキシ末端へ連結された、インターフェロン-βタンパク質を含む;フォールディングを改善し及び凝集を減少させたFc-インターフェロン-β融合タンパク質を記載する。当該文献は、前記融合タンパク質により、インターフェロン-βの血中半減期を改善し得ることを記載する。当該文献は、アドレノメデュリンについて言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特許第2774769号公報
【文献】特許第4830093号公報
【文献】国際公開第2012/096411号
【文献】国際公開第2012/138867号
【文献】国際公開第2013/064508号
【文献】米国特許出願公開第2009/0252703号明細書
【文献】特表2009-510999号公報
【文献】特表2014-528917号公報
【文献】特許第4808709号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】Kitamura K, Kangawa K, Kawamoto M, Ichiki Y, Nakamura S, Matsuo H, Eto T. Adrenomedullin: a novel hypotensive peptide isolated from human pheochromocytoma. Biochem Biophys Res Commun, 1993年4月30日, 第192(2)巻, pp. 553-560
【文献】Belloni, A.S. ら, Structure-activity relationships of adrenomedullin in the adrenal gland. Endocr Res, 1998年, 第24(3-4)巻, p. 729-30.
【文献】Champion, H.C. ら, Catecholamine release mediates pressor effects of adrenomedullin-(15-22) in the rat. Hypertension, 1996年, 第28(6)巻, p. 1041-6.
【文献】Champion, H.C., G.G. Nussdorfer, 及びP.J. Kadowitz, Structure-activity relationships of adrenomedullin in the circulation and adrenal gland. Regul Pept, 1999年, 第85(1)巻, p. 1-8.
【文献】Eguchi, S. ら, Structure-activity relationship of adrenomedullin, a novel vasodilatory peptide, in cultured rat vascular smooth muscle cells. Endocrinology, 1994年, 第135(6)巻, p. 2454-8.
【文献】Garcia, M.A. ら, Synthesis, biological evaluation, and three-dimensional quantitative structure-activity relationship study of small-molecule positive modulators of adrenomedullin. J Med Chem, 2005年, 第48(12)巻, p. 4068-75.
【文献】Mitsuda, Y. ら, Large-scale production of functional human adrenomedullin: expression, cleavage, amidation, and purification. Protein Expr Purif, 2002年, 第25(3)巻, p. 448-55.
【文献】Roldos, V. ら, Small-molecule negative modulators of adrenomedullin: design, synthesis, and 3D-QSAR study. ChemMedChem, 2008年, 第3(9)巻, p. 1345-55.
【文献】Watanabe, T.X. ら, Vasopressor activities of N-terminal fragments of adrenomedullin in anesthetized rat. Biochem Biophys Res Commun, 1996年, 第219(1)巻, p. 59-63.
【文献】Kubo, Kら, Biological properties of adrenomedullin conjugated with polyethylene glycol. Peptides, 2014年, 第57巻, p. 118-21
【文献】Kato, J., Kitamura, K.. Bench-to-bedside pharmacology of adrenomedullin. European Journal of Pharmacology, 2015年, 第764巻, p. 140-148.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前記のように、生体内における持続性向上の観点からAMの薬物動態を改善するために、AMにPEG基のような他の基を連結したAM誘導体が知られている。しかしながら、公知のAM誘導体には改良の余地が存在した。例えば、AMのような比較的小さいペプチドにPEG基のような比較的大きな基を連結する場合、PEG基の分子量に依存して結果として得られるAM誘導体の様々な性質が大きく変動する可能性がある。また、特許文献5に記載のAM誘導体のように、AMのアミノ酸残基の側鎖に他の基を連結する場合、AM部分の立体構造が変化して、AMを認識するAM受容体との親和性が低下する可能性がある。このような場合、結果として得られるAM誘導体は、AMとしての薬理作用が低下する可能性がある。
【0018】
AMは、心血管保護作用、抗炎症作用、血管新生作用及び組織修復促進作用等の薬理作用に加えて、強力な血管拡張作用を有する。このため、AM又はAM誘導体を対象に投与する場合、強力な血管拡張作用に起因して過度の血圧低下のような望ましくない副反応を引き起こす可能性がある。このような副反応の発生は、特に血管拡張作用以外の薬理作用を発現することを期待してAM又はAM誘導体を使用する場合に問題となり得る。前記のような問題が生じることを回避するために、従来技術のアドレノメデュリン又はその誘導体を有効成分として含有する医薬は、望ましくない副反応を実質的に生じない投与量で、持続静注によって対象に投与される必要があった。このような投与方法は、対象に負担を強いる可能性がある。
【0019】
アドレノメデュリンの薬理作用を維持し、且つ生体内における持続性が向上したアドレノメデュリン誘導体は、対象に単回投与する場合であっても、望ましくない副反応を実質的に生じることなく、アドレノメデュリンの薬理効果を発現し得ると期待される。それ故、本発明は、アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、望ましくない副反応を実質的に抑制し得る、長期間持続的な新規アドレノメデュリン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、アドレノメデュリンのN末端のαアミノ基と免疫グロブリンのFc領域とを、特定のアミノ酸配列を有するペプチドの連結基を介して連結することにより、親化合物であるアドレノメデュリンと同程度の生物活性を保持し得ることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 式(I):
A-L-B (I)
[式中、
Aは、免疫グロブリンのFc領域であり、
Bは、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分であり、
Lは、任意のアミノ酸配列を有するペプチドからなる連結基である。]
で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物。
(2) Lが、以下:
GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号22);又は
GGGGSGGGGSGGGGK(配列番号24);
のアミノ酸配列を有するペプチドからなる連結基であり、
Fc領域Aが、そのC末端のカルボキシル基が連結基LのN末端のαアミノ基とペプチド結合を形成することによって残部分と連結されており、且つ
ペプチド部分Bが、そのN末端のαアミノ基が連結基LのC末端のカルボキシル基とペプチド結合を形成することによって残部分と連結されている、前記実施形態(1)に記載の化合物。
(3) Aが、免疫グロブリンG1(IgG1)のFc領域、又は免疫グロブリンG4(IgG4)のFc領域である、前記実施形態(1)又は(2)に記載の化合物。
(4) 前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体が、下記:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(iii)(ii)のペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(iv)(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、1~15個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(v)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、並びに
(vi)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドである、前記実施形態(1)~(3)のいずれかに記載の化合物。
(5) 前記アドレノメデュリン又はその修飾体が、下記:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(v)(i)又は(ii)のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、並びに
(vi)(i)又は(ii)のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドである、前記実施形態(4)に記載の化合物。
(6) 前記アドレノメデュリン又はその修飾体が、下記:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号4のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号6のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号6のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号8のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号10のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号12のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号12のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(g)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(h)(a)~(g)のいずれかのペプチドにおいて、1~15個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(i)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(j)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、前記実施形態(1)~(4)のいずれかに記載の化合物。
(7) 前記アドレノメデュリン又はその修飾体が、下記:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号4のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号6のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号6のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号8のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号10のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号12のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号12のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(i)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(j)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、前記実施形態(6)に記載の化合物。
(8) 式(I)で表される化合物が、下記:
(E-a-1)配列番号15のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号15のアミノ酸配列からなり、且つ259位のシステイン残基と264位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-2)配列番号17のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号17のアミノ酸配列からなり、且つ259位のシステイン残基と264位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-3)配列番号19のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号19のアミノ酸配列からなり、且つ256位のシステイン残基と261位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-4)配列番号21のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号21のアミノ酸配列からなり、且つ256位のシステイン残基と261位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-5)配列番号31のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号31のアミノ酸配列からなり、且つ254位のシステイン残基と259位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-6)配列番号33のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号33のアミノ酸配列からなり、且つ254位のシステイン残基と259位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-7)配列番号35のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号35のアミノ酸配列からなり、且つ249位のシステイン残基と254位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-8)配列番号37のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号37のアミノ酸配列からなり、且つ249位のシステイン残基と254位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-9)配列番号41のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号41のアミノ酸配列からなり、且つ251位のシステイン残基と256位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-10)配列番号43のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号43のアミノ酸配列からなり、且つ251位のシステイン残基と256位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-11)配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号45のアミノ酸配列からなり、且つ246位のシステイン残基と251位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-12)配列番号47のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号47のアミノ酸配列からなり、且つ246位のシステイン残基と251位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-g)(E-a-1)~(E-a-12)のいずれかのペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(E-h)(E-a-1)~(E-g)のいずれかのペプチドにおいて、1~15個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(E-i)(E-a-1)~(E-h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(E-j)(E-a-1)~(E-h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、前記実施形態(1)~(4)のいずれかに記載の化合物。
(9) 式(I)で表される化合物が、下記:
(E-a-1)配列番号15のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号15のアミノ酸配列からなり、且つ259位のシステイン残基と264位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-2)配列番号17のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号17のアミノ酸配列からなり、且つ259位のシステイン残基と264位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-3)配列番号19のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号19のアミノ酸配列からなり、且つ256位のシステイン残基と261位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-4)配列番号21のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号21のアミノ酸配列からなり、且つ256位のシステイン残基と261位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;並びに
(E-a-5)配列番号31のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号31のアミノ酸配列からなり、且つ254位のシステイン残基と259位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-6)配列番号33のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号33のアミノ酸配列からなり、且つ254位のシステイン残基と259位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-7)配列番号35のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号35のアミノ酸配列からなり、且つ249位のシステイン残基と254位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-8)配列番号37のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号37のアミノ酸配列からなり、且つ249位のシステイン残基と254位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-9)配列番号41のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号41のアミノ酸配列からなり、且つ251位のシステイン残基と256位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-10)配列番号43のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号43のアミノ酸配列からなり、且つ251位のシステイン残基と256位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-11)配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号45のアミノ酸配列からなり、且つ246位のシステイン残基と251位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-12)配列番号47のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号47のアミノ酸配列からなり、且つ246位のシステイン残基と251位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-i)(E-a-1)~(E-a-12)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、前記実施形態(8)に記載の化合物。
(10) 前記実施形態(1)~(9)のいずれかに記載の化合物をコードする塩基配列を含む、単離された核酸。
(11) 前記実施形態(1)~(9)のいずれかに記載の化合物を産生し得る宿主細胞において、該化合物を大量発現させる、発現工程を含む、前記実施形態(1)~(9)のいずれかに記載の化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物の製造方法。
(12) 前記実施形態(1)~(9)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物を有効成分として含有する医薬。
(13) 循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患の予防又は治療に使用するための、前記実施形態(12)に記載の医薬。
(14) 前記実施形態(1)~(9)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物を有効成分として含有する、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患の予防又は治療剤。
(15) 前記実施形態(1)~(9)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物と、1種以上の薬学的に許容し得る担体とを含有する医薬組成物。
(16) 循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患の予防又は治療に使用するための、前記実施形態(15)に記載の医薬組成物。
(17) 症状、疾患及び/若しくは障害の予防又は治療を必要とする対象に、有効量の前記実施形態(1)~(9)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物を投与することを含む、前記症状、疾患及び/若しくは障害の予防又は治療方法。
(18) 前記症状、疾患及び/若しくは障害が、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患である、前記実施形態(17)に記載の方法。
(19) 症状、疾患及び/若しくは障害の予防又は治療に使用するための、前記実施形態(1)~(9)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物。
(20) 前記症状、疾患及び/若しくは障害が、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患である、前記実施形態(19)に記載の化合物。
(21) 症状、疾患及び/若しくは障害の予防又は治療に用いるための医薬の製造のための、前記実施形態(1)~(9)のいずれかに記載の化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物の使用。
(22) 前記症状、疾患及び/若しくは障害が、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患である、前記実施形態(21)に記載の使用。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、望ましくない副反応を実質的に抑制し得る、長期間持続的な新規アドレノメデュリン誘導体を提供することが可能となる。
【0023】
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願第2017-064369号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施例1、2、3及び4のアドレノメデュリン誘導体を、SDS-PAGEによって分離した結果を示す図である。図中、レーン1及び6は分子量標準物質を、レーン2、3、4及び5は、実施例1、2、3及び4のアドレノメデュリン誘導体の組換え体から得られた沈殿画分を、それぞれ示す。
【
図2】
図2は、実施例1又は5のアドレノメデュリン誘導体の皮下投与におけるアドレノメデュリン誘導体の血中濃度の経時変化を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1又は5のアドレノメデュリン誘導体の尾静脈投与におけるアドレノメデュリン誘導体の投与2日後の血中濃度を示す図である。
【
図4】
図4は、高血圧自然発症ラット(SHR)に対する実施例5のアドレノメデュリン誘導体の皮下投与による血圧上昇の抑制効果を示す図である。図中、縦軸は、投与9日後の収縮期血圧から投与前の収縮期血圧を差し引いた血圧の差(mmHg)を示す。*は、スチューデントt-検定(n=5)により算出した、生理食塩水投与の対照群に対するp値が0.05未満であることを示す。
【
図5】
図5は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎モデルマウスに対する実施例5のアドレノメデュリン誘導体の皮下投与による炎症改善効果を示す図である。図中、縦軸は、対照群又は実施例5のアドレノメデュリン誘導体投与群における5日目の総スコアを示す。*は、スチューデントt-検定(n=10)により算出した、生理食塩水投与の対照群に対するp値が0.05未満であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<1. アドレノメデュリン誘導体>
本発明の一態様は、式(I):
A-L-B (I)
で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物に関する。本明細書において、式(I)で表される化合物を、「アドレノメデュリン誘導体」と記載する場合がある。
【0026】
本発明において、アドレノメデュリン(AM)は、ヒト褐色細胞組織より単離及び同定されたヒト由来のペプチド(配列番号1、非特許文献1)だけでなく、例えばブタ(配列番号4)、イヌ(配列番号6)、ウシ(配列番号8)、ラット(配列番号10)又はマウス(配列番号12)等の他の非ヒト哺乳動物(例えば温血動物)由来のペプチド(オーソログ)であってもよい。生体内において、これらのペプチドは、そのアミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しており、且つC末端がアミド化されている。本明細書において、前記ペプチドであってジスルフィド結合及びC末端アミド基を有するものを、「天然型アドレノメデュリン」又は単に「アドレノメデュリン」と記載する場合がある。本発明は、前記のいずれのペプチドに対しても適用することができる。
【0027】
本明細書において、「C末端のアミド化」は、生体内におけるペプチドの翻訳後修飾の一態様を意味し、具体的には、ペプチドのC末端アミノ酸残基の主鎖カルボキシル基がアミド基の形態へ変換される反応を意味する。また、本明細書において、「システイン残基のジスルフィド結合の形成」又は「システイン残基のジスルフィド化」は、生体内におけるペプチドの翻訳後修飾の一態様を意味し、具体的には、ペプチドのアミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合(-S-S-)を形成する反応を意味する。生体内で産生される多くの生理活性ペプチドは、はじめ分子量のより大きな前駆体タンパク質として生合成され、これが細胞内移行の過程で、C末端アミド化及び/又はシステイン残基のジスルフィド化のような翻訳後修飾反応を受けて、成熟した生理活性ペプチドとなる。C末端のアミド化は、通常は、前駆体タンパク質に対し、C末端アミド化酵素が作用することによって進行する。C末端アミド基を有する生理活性ペプチドの場合、その前駆体タンパク質においては、アミド化されるC末端カルボキシル基にGly残基が結合しており、該Gly残基がC末端アミド化酵素によってC末端アミド基に変換される。また、前駆体タンパク質のC末端側プロペプチドには、例えばLys-Arg又はArg-Arg等の塩基性アミノ酸残基の組合せの繰返し配列が存在する(水野、生化学第61巻、第12号、1435~1461頁(1989))。システイン残基のジスルフィド化は、酸化的条件下で進行し得る。生体内においては、システイン残基のジスルフィド化は、通常は、前駆体タンパク質に対し、タンパク質ジスルフィド異性化酵素が作用することによって進行する。
【0028】
公知の生理活性物質であるアドレノメデュリンは、ペプチドである。このため、アドレノメデュリンを有効成分として含有する医薬は、対象(例えばヒト患者)の生体内において有効に作用し得る時間が極めて短時間となる可能性がある。そこで、アドレノメデュリンにポリエチレングリコール(PEG)等の他の基を連結したアドレノメデュリン誘導体の形態とすることにより、生体内における半減期を延長して薬物動態を改善する試みが行われてきた(特許文献4~6及び非特許文献10)。しかしながら、アドレノメデュリンのような比較的小さいペプチドにPEG基のような比較的大きな基を連結する場合、PEG基の分子量に依存して結果として得られるアドレノメデュリン誘導体の様々な性質が大きく変動する可能性がある。また、アドレノメデュリンのアミノ酸残基の側鎖に他の基を連結する場合、アドレノメデュリン部分の立体構造が変化して、アドレノメデュリンを認識するアドレノメデュリン受容体との親和性が低下する可能性がある。このような場合、結果として得られるアドレノメデュリン誘導体は、アドレノメデュリンとしての薬理作用が低下する可能性がある。
【0029】
アドレノメデュリンは、強力な血管拡張作用を有する。このため、治療上有効な量のアドレノメデュリン又はその誘導体を単回投与する場合、強力な血管拡張作用に起因して、望ましくない副反応(例えば、過度の血圧低下、反射性の交感神経活性上昇に伴う頻脈、及び/又はレニン活性の上昇等)を引き起こす可能性がある。このような副反応の発生は、特に血管拡張作用以外の薬理作用を発現することを期待してアドレノメデュリン又はその誘導体を使用する場合に問題となり得る。前記のような問題が生じることを回避するために、アドレノメデュリン又はその誘導体を有効成分として含有する医薬は、持続静注によって対象に投与される必要があった。このような投与方法は、対象に負担を強いる可能性がある。
【0030】
アドレノメデュリンの薬理作用を維持し、且つ生体内における持続性が向上したアドレノメデュリン誘導体は、対象に単回投与する場合であっても、望ましくない副反応を実質的に生じることなく、アドレノメデュリンの薬理効果を発現し得ると期待される。
【0031】
本発明者らは、アドレノメデュリンのN末端のαアミノ基と免疫グロブリンのFc領域とを、特定のアミノ酸配列を有するペプチドの連結基を介して連結することにより、アドレノメデュリンの生物活性を保持し得ることを見出した。当該技術分野において、免疫グロブリンのFc領域と特定のタンパク質又はペプチドとを連結した融合タンパク質は、対象に投与した場合、親化合物であるタンパク質又はペプチドと比較して、対象の体内における半減期を延長し得ることが知られている(例えば、特許文献8及び9)。したがって、本態様の式(I)で表される化合物を、アドレノメデュリンによって予防又は治療し得る症状、疾患及び/又は障害に対して適用することにより、望ましくない副反応を実質的に抑制しつつ、該症状、疾患及び/又は障害を持続的に予防又は治療することができる。
【0032】
式(I)において、Bは、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分であることが必要である。本発明において、「アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分」は、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から1個の水素原子(通常は、アミノ基の1個の水素原子、典型的にはN末端のαアミノ基の1個の水素原子)を取り除いた構造を有する1価の遊離基を意味する。本発明において、「アドレノメデュリンの修飾体」は、前記で説明した天然型アドレノメデュリンが化学修飾されたペプチドを意味する。また、本発明において、「アドレノメデュリン活性」は、アドレノメデュリンの有する生物活性を意味する。アドレノメデュリン活性としては、下記のものを挙げることができる。
【0033】
(1)心血管系:血管拡張作用、血圧降下作用、血圧上昇抑制作用、心拍出量増加・心不全改善作用、肺高血圧症改善作用、血管新生作用、リンパ管新生作用、血管内皮機能改善作用、抗動脈硬化作用、心筋保護作用(例えば、虚血再灌流障害又は炎症における心筋保護作用)、心筋梗塞後のリモデリング抑制作用、心肥大抑制作用、及びアンジオテンシン変換酵素抑制作用。
(2)腎臓・水電解質系:利尿作用、ナトリウム利尿作用、抗利尿ホルモン抑制作用、アルドステロン低下作用、腎保護作用(例えば、高血圧又は虚血再灌流障害における腎保護作用)、飲水行動抑制作用、及び食塩要求抑制作用。
(3)脳・神経系:神経保護・脳障害抑制作用、抗炎症作用、アポトーシス抑制作用(例えば、虚血再灌流障害又は炎症におけるアポトーシス抑制作用)、自動調節能維持作用、酸化ストレス抑制作用、認知症改善作用、及び交感神経抑制作用。
(4)泌尿生殖器:勃起改善作用、血流改善作用、及び着床促進作用。
(5)消化器系:抗潰瘍作用、組織修復作用、粘膜新生作用、血流改善作用、抗炎症作用、及び肝機能改善作用。
(6)整形外科系:骨芽細胞刺激作用、及び関節炎改善作用。
(7)内分泌代謝系:脂肪細胞分化作用、脂肪分解制御作用、インスリン感受性改善作用、インスリン分泌制御作用、抗利尿ホルモン分泌抑制作用、及びアルドステロン分泌抑制作用。
(8)その他:循環改善作用、抗炎症作用、サイトカイン制御作用、臓器保護作用、酸化ストレス抑制作用、組織修復作用(例えば、抗褥瘡作用)、敗血症性ショックの改善作用、多臓器不全の抑制作用、自己免疫疾患の抑制作用、抗菌作用、育毛作用、及び養毛作用。
【0034】
前記血圧降下作用は、血管拡張性の降圧作用であることが好ましい。前記消化器系における抗炎症作用は、ステロイド抵抗性又はステロイド依存性の炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病又は腸管ベーチェット病)のような炎症性腸疾患の予防又は治療作用であることが好ましい。前記のアドレノメデュリン活性は、細胞内cAMPの濃度上昇を介して発現する。このため、細胞内cAMPの濃度上昇を、アドレノメデュリン活性の指標とすることができる。前記のような生物活性を有するアドレノメデュリン又はその修飾体から誘導されるペプチド部分Bを含むことにより、本態様の式(I)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等の生物活性(すなわち、アドレノメデュリン活性)を発現することができる。
【0035】
前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体は、下記:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(iii)(ii)のペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(iv)(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、1~15個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(v)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、並びに
(vi)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドであることが好ましい。
【0036】
一実施形態において、前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体は、下記:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(v)(i)又は(ii)のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、並びに
(vi)(i)又は(ii)のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドであることがより好ましい。
【0037】
前記(i)~(vi)のペプチドにおいて、(v)に包含される、アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、C末端がアミド化されており、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチドは、成熟した天然型アドレノメデュリンに相当する。(i)のアドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチドは、C末端アミド化及びシステイン残基のジスルフィド化の翻訳後修飾を受ける前の(すなわち未成熟な)形態の天然型アドレノメデュリンに相当する。前記(i)~(vi)のペプチドにおいて、前記で説明したペプチドを除く他のペプチドは、アドレノメデュリンの修飾体に相当する。
【0038】
前記(ii)のペプチドは、前記(i)のペプチドの2個のシステイン残基のチオール基を空気酸化するか、又は適切な酸化剤を用いて酸化してジスルフィド結合に変換することにより、形成させることができる。前記(ii)のペプチドを用いることにより、ペプチド部分Bの立体構造を、天然型アドレノメデュリンの立体構造に類似させることができる。これにより、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。
【0039】
前記(iii)のペプチドは、前記(ii)のペプチドのジスルフィド結合をエチレン基に変換することにより、形成させることができる。ジスルフィド結合からエチレン基への置換は、当該技術分野で周知の方法により、行うことができる(O. Kellerら, Helv. Chim. Acta, 1974年, 第57巻, p. 1253)。前記(iii)のペプチドを用いることにより、ペプチド部分Bの立体構造を安定化させることができる。これにより、式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0040】
前記(iv)のペプチドにおいて、欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸残基は、1~15個の範囲であることが好ましく、1~10個の範囲であることがより好ましく、1~8個の範囲であることがさらに好ましく、1~5個の範囲であることが特に好ましく、1~3個の範囲であることがもっとも好ましい。好適な(iv)のペプチドは、(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~12位、1~10位、1~8位、1~5位又は1~3位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチドであり、より好適な(iv)のペプチドは、(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~10位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチドである。前記好適なペプチドにおいて、1又は複数個(例えば、1~5個、1~3個、又は1若しくは2個)のアミノ酸残基がさらに欠失、置換若しくは付加されていてもよい。前記(iv)のペプチドを用いることにより、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、前記(iv)のペプチドを用いることにより、式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0041】
前記(vi)のペプチドは、C末端アミド化酵素の作用によってC末端のグリシン残基がC末端アミド基に変換されて、前記(v)のペプチドに変換されることができる。それ故、前記(vi)のペプチドを対象に投与することにより、該対象の生体内において、一定時間経過後に、C末端アミド化されたペプチドを形成させることができる。これにより、式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0042】
前記アドレノメデュリン又はその修飾体は、下記:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号4のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号6のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号6のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号8のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号10のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号12のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号12のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(g)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(h)(a)~(g)のいずれかのペプチドにおいて、1~15個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(i)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(j)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドであることがより好ましい。
【0043】
一実施形態において、前記アドレノメデュリン又はその修飾体は、下記:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号4のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号6のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号6のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号8のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号10のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号12のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号12のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(i)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(j)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドであることがさらに好ましい。
【0044】
前記(h)のペプチドにおいて、欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸残基は、1~12個の範囲であることが好ましく、1~10個の範囲であることがより好ましく、1~8個の範囲であることがさらに好ましく、1~5個の範囲であることが特に好ましく、1~3個の範囲であることがもっとも好ましい。好適な(h)のペプチドは、(a)~(g)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~12位、1~10位、1~8位、1~5位又は1~3位のアミノ酸が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチドであり、より好適な(h)のペプチドは、(a)~(d)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~10位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有する、或いは、(e)又は(f)のペプチドにおいて、N末端側から1~13位、1~8位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチドである。前記好適なペプチドにおいて、1又は複数個(例えば、1~5個、1~3個、又は1若しくは2個)のアミノ酸がさらに欠失、置換若しくは付加されていてもよい。前記(h)のペプチドを用いることにより、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、前記(h)のペプチドを用いることにより、式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0045】
式(I)において、Aは、免疫グロブリンのFc領域である。Aは、免疫グロブリンG1(IgG1)のFc領域、又は免疫グロブリンG4(IgG4)のFc領域であることが好ましい。当該技術分野において、免疫グロブリンのFc領域と特定のタンパク質又はペプチドとを連結した融合タンパク質は、対象に投与した場合、親化合物であるタンパク質又はペプチドと比較して、対象の体内における半減期を延長し得ることが知られている(例えば、特許文献8及び9)。それ故、免疫グロブリンのFc領域Aを有する本態様の式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0046】
式(I)において、Aとして使用する免疫グロブリンのFc領域の由来となる哺乳動物は、以下において説明する、本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬を適用する対象に基づき、適宜選択することができる。Aは、ヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、ブタ、イヌ、ウシ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ヒツジ、ネコ、サル、マントヒヒ若しくはチンパンジー等の温血動物)由来の免疫グロブリンのFc領域であることが好ましく、本発明の一態様の医薬を適用する対象と同一のヒト又は非ヒト哺乳動物に由来する免疫グロブリンのFc領域であることがより好ましい。前記ヒト又は非ヒト哺乳動物に由来する免疫グロブリンのFc領域を有することにより、本態様の式(I)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0047】
式(I)において、Lは、任意のアミノ酸配列を有するペプチドからなる連結基である。Lは、限定されるものではないが、nを繰り返し数として、(GGGS)n(配列番号26)(nは、2~10の範囲の整数、好ましくは4~6の範囲の整数である)、(GGGGS)n(配列番号27)(nは、2~6の範囲の整数、好ましくは3である)、(GGGS)n+GGGK(配列番号26及び28)(nは、1~9の範囲の整数、好ましくは3~5の範囲の整数である)、又は(GGGGS)n+GGGGK(配列番号27及び29)(nは、1~5の範囲の整数、好ましくは2である)のアミノ酸配列を有するペプチドからなる連結基を用いることができる。前記アミノ酸配列において、繰り返し単位中のGの数及び繰り返し数nは、適宜変更可能である。Lは、以下:
GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号22);又は
GGGGSGGGGSGGGGK(配列番号24);
のアミノ酸配列を有するペプチドからなる連結基であることが特に好ましい。前記アミノ酸配列を有する連結基Lで、免疫グロブリンのFc領域Aとアドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分Bとが連結されることにより、本態様の式(I)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0048】
式(I)において、Fc領域Aは、そのC末端のカルボキシル基が連結基LのN末端のαアミノ基とペプチド結合を形成することによって残部分と連結されており、且つ、ペプチド部分Bは、そのN末端のαアミノ基が連結基LのC末端のカルボキシル基とペプチド結合を形成することによって残部分と連結されていることが好ましい。すなわち、本態様の式(I)で表される化合物は、全体として、タンパク質又はポリペプチドの構造を有する。このような構造を有することにより、本態様の式(I)で表される化合物は、高い生体適合性を有し得る。それ故、本態様の式(I)で表される化合物は、望ましくない副反応を抑制しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0049】
好適な式(I)で表される化合物は、
Aが、免疫グロブリンG1(IgG1)のFc領域、又は免疫グロブリンG4(IgG4)のFc領域であり、
Bが、下記:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号4のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号4のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号6のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号6のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号8のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号8のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号10のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号12のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号12のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(i)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(j)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分であり、
Lが、以下:
GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号22);又は
GGGGSGGGGSGGGGK(配列番号24);
のアミノ酸配列を有するペプチドからなる連結基であり、
Fc領域Aが、そのC末端のカルボキシル基が連結基LのN末端のαアミノ基とペプチド結合を形成することによって残部分と連結されており、且つ
ペプチド部分Bが、そのN末端のαアミノ基が連結基LのC末端のカルボキシル基とペプチド結合を形成することによって残部分と連結されている。
【0050】
特に好適な式(I)で表される化合物は、下記:
(E-a-1)配列番号15のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号15のアミノ酸配列からなり、且つ259位のシステイン残基と264位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-2)配列番号17のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号17のアミノ酸配列からなり、且つ259位のシステイン残基と264位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-3)配列番号19のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号19のアミノ酸配列からなり、且つ256位のシステイン残基と261位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-4)配列番号21のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号21のアミノ酸配列からなり、且つ256位のシステイン残基と261位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-5)配列番号31のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号31のアミノ酸配列からなり、且つ254位のシステイン残基と259位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-6)配列番号33のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号33のアミノ酸配列からなり、且つ254位のシステイン残基と259位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-7)配列番号35のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号35のアミノ酸配列からなり、且つ249位のシステイン残基と254位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-8)配列番号37のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号37のアミノ酸配列からなり、且つ249位のシステイン残基と254位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-9)配列番号41のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号41のアミノ酸配列からなり、且つ251位のシステイン残基と256位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-10)配列番号43のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号43のアミノ酸配列からなり、且つ251位のシステイン残基と256位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-11)配列番号45のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号45のアミノ酸配列からなり、且つ246位のシステイン残基と251位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-a-12)配列番号47のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号47のアミノ酸配列からなり、且つ246位のシステイン残基と251位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(E-g)(E-a-1)~(E-a-12)のいずれかのペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(E-h)(E-a-1)~(E-g)のいずれかのペプチドにおいて、1~15個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(E-i)(E-a-1)~(E-h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;並びに
(E-j)(E-a)~(E-h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである。
【0051】
前記特徴を有する本態様の式(I)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ且つ望ましくない副反応を実質的に抑制して、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0052】
本発明において、式(I)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、その塩も包含する。式(I)で表される化合物が塩の形態である場合、薬学的に許容し得る塩であることが好ましい。式(I)で表される化合物の塩の対イオンとしては、限定するものではないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、若しくは置換若しくは非置換のアンモニウムイオンのようなカチオン、又は塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、過塩素酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、乳酸イオン、マレイン酸イオン、ヒドロキシマレイン酸イオン、メチルマレイン酸イオン、フマル酸イオン、アジピン酸イオン、安息香酸イオン、2-アセトキシ安息香酸イオン、p-アミノ安息香酸イオン、ニコチン酸イオン、ケイ皮酸イオン、アスコルビン酸イオン、パモ酸イオン、コハク酸イオン、サリチル酸イオン、ビスメチレンサリチル酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン、リンゴ酸イオン、クエン酸イオン、グルコン酸イオン、アスパラギン酸イオン、ステアリン酸イオン、パルミチン酸イオン、イタコン酸イオン、グリコール酸イオン、グルタミン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、シクロヘキシルスルファミン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、イセチオン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、若しくはナフタレンスルホン酸イオンのようなアニオンが好ましい。式(I)で表される化合物が前記の対イオンとの塩の形態である場合、該化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。
【0053】
本発明において、式(I)で表される化合物は、前記の化合物自体だけでなく、該化合物又はその塩の溶媒和物も包含する。式(I)で表される化合物又はその塩が溶媒和物の形態である場合、薬学的に許容し得る溶媒和物であることが好ましい。前記化合物又はその塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、水、或いはメタノール、エタノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン、アセトニトリル又は酢酸エチルのような有機溶媒が好ましい。式(I)で表される化合物又はその塩が前記の溶媒との溶媒和物の形態である場合、該化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。
【0054】
本発明において、式(I)で表される化合物は、前記又は下記の化合物自体だけでなく、その保護形態も包含する。本明細書において、「保護形態」は、1個又は複数個の官能基(例えばリジン残基の側鎖アミノ基)に保護基が導入された形態を意味する。また、本明細書において、「保護基」は、望ましくない反応の進行を防止するために、特定の官能基に導入される基であって、特定の反応条件において定量的に除去され、且つそれ以外の反応条件においては実質的に安定、即ち反応不活性である基を意味する。前記化合物の保護形態を形成し得る保護基としては、限定するものではないが、例えば、t-ブトキシカルボニル(Boc)、2-ブロモベンジルオキシカルボニル(BrZ)、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、p-トルエンスルホニル(Tos)、ベンジル(Bzl)、4-メチルベンジル(4-MeBzl)、2-クロロベンジルオキシカルボニル(ClZ)、シクロヘキシル(cHex)、及びフェナシル(Pac);アミノ基の他の保護基として、ベンジルオキシカルボニル、p-クロロベンジルオキシカルボニル、p-ブロモベンジルオキシカルボニル、p-ニトロベンジルオキシカルボニル、p-メトキシベンジルオキシカルボニル、ベンズヒドリルオキシカルボニル、2-(p-ビフェニル)イソプロピルオキシカルボニル、2-(3,5-ジメトキシフェニル)イソプロピルオキシカルボニル、p-フェニルアゾベンジルオキシカルボニル、トリフェニルホスホノエチルオキシカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル、t-アミルオキシオキシカルボニル、ジイソプロピルメチルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、エチルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル、2-メチルスルホニルエチルオキシカルボニル、2,2,2-トリクロロエチルオキシカルボニル、シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、ベンゼンスルホニル、メシチレンスルフォニル、メトキシトリメチルフェニルスルホニル、2-ニトロベンゼンスルホニル、2-ニトロベンゼンスルフェニル、4-ニトロベンゼンスルホニル、及び4-ニトロベンゼンスルフェニル;カルボキシル基の他の保護基として、メチルエステル、エチルエステル、t-ブチルエステル、p-メトキシベンジルエステル、及びp-ニトロベンジルエステル;Argの他の側鎖保護基として、2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル、及び2-メトキシベンゼンスルホニル;Tyrの他の保護基として、2,6-ジクロロベンジル、t-ブチル、及びシクロヘキシル;Cysの他の保護基として、4-メトキシベンジル、t-ブチル、トリチル、アセトアミドメチル、及び3-ニトロ-2-ピリジンスルフェニル;Hisの他の保護基として、ベンジルオキシメチル、p-メトキシベンジルオキシメチル、t-ブトキシメチル、トリチル、及び2,4-ジニトロフェニル;並びに、Ser及びThrの他の保護基として、t-ブチル等を挙げることができる。式(I)で表される化合物が前記の保護基による保護形態である場合、該化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。
【0055】
また、本発明において、式(I)で表される化合物は、該化合物の個々のエナンチオマー及びジアステレオマー、並びにラセミ体のような、該化合物の立体異性体の混合物も包含する。
【0056】
前記特徴を有することにより、本態様の式(I)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発現することができる。
【0057】
<2. アドレノメデュリン誘導体の医薬用途>
本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、生体内において、親分子であるアドレノメデュリンと実質的に略同等の生物活性(すなわちアドレノメデュリン活性)を、持続的に発現することができる。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬に関する。
【0058】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物を医薬用途に適用する場合、該化合物を単独で使用してもよく、1種以上の薬学的に許容し得る成分と組み合わせて使用してもよい。本態様の医薬は、所望の投与方法に応じて、当該技術分野で通常使用される様々な剤形に製剤されることができる。それ故、本態様の医薬はまた、本発明の一態様の式(I)で表される化合物と、1種以上の薬学的に許容し得る担体とを含有する医薬組成物の形態で提供されることもできる。本発明の一態様の医薬組成物は、前記成分に加えて、薬学的に許容し得る1種以上の担体、賦形剤、結合剤、ビヒクル、溶解補助剤、防腐剤、安定剤、膨化剤、潤滑剤、界面活性剤、油性液、緩衝剤、無痛化剤、酸化防止剤、甘味剤及び香味剤等を含んでもよい。
【0059】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬の剤形は、特に限定されず、非経口投与に使用するための製剤であってもよく、経口投与に使用するための製剤であってもよい。また、本態様の医薬の剤形は、単位用量形態の製剤であってもよく、複数投与形態の製剤であってもよい。非経口投与に使用するための製剤としては、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液又は懸濁液等の注射剤を挙げることができる。注射剤に混和することができる添加剤としては、限定するものではないが、例えば、生理食塩水、ブドウ糖若しくはその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール若しくは塩化ナトリウム)を含む等張液のようなビヒクル、アルコール(例えばエタノール若しくはベンジルアルコール)、エステル(例えば安息香酸ベンジル)、ポリアルコール(例えばプロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール)のような溶解補助剤、ポリソルベート80又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のような非イオン性界面活性剤、ゴマ油又は大豆油のような油性液、リン酸塩緩衝液又は酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝剤、塩化ベンザルコニウム又は塩酸プロカインのような無痛化剤、ヒト血清アルブミン又はポリエチレングリコールのような安定剤、保存剤、並びに酸化防止剤等を挙げることができる。調製された注射剤は、通常、適当なバイアル(例えばアンプル)に充填され、使用時まで適切な環境下で保存される。
【0060】
経口投与に使用するための製剤としては、例えば、必要に応じて糖衣や溶解性被膜を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤、シロップ、懸濁液等を挙げることができる。錠剤又はカプセル剤等に混和することができる添加剤としては、限定するものではないが、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム及びアラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン及びアルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油又はチェリーのような香味剤等を挙げることができる。製剤がカプセル剤の場合、さらに油脂のような液状担体を含有してもよい。
【0061】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、生体内において、親分子であるアドレノメデュリンと実質的に略同等のアドレノメデュリン活性を、持続的に発現することができる。それ故、本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬は、デポー製剤として製剤化することもできる。この場合、デポー製剤の剤形の本態様の医薬を、例えば皮下若しくは筋肉に埋め込み、又は筋肉注射により投与することができる。本態様の医薬をデポー製剤に適用することにより、本発明の一態様の式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、長期間に亘って持続的に発現することができる。
【0062】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬は、医薬として有用な1種以上の他の薬剤と併用することもできる。この場合、本態様の医薬は、本発明の一態様の式(I)で表される化合物と1種以上の他の薬剤とを含む単一の医薬の形態で提供されてもよく、本発明の一態様の式(I)で表される化合物と1種以上の他の薬剤とが別々に製剤化された複数の製剤を含む医薬組合せ又はキットの形態で提供されてもよい。医薬組合せ又はキットの形態の場合、それぞれの製剤を同時又は別々に(例えば連続的に)投与することができる。
【0063】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物を医薬用途に適用する場合、式(I)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、該化合物の製薬上許容される塩、及びそれらの製薬上許容される溶媒和物も包含する。本発明の一態様の式(I)で表される化合物の製薬上許容される塩、及びそれらの製薬上許容される溶媒和物としては、限定するものではないが、例えば、前記で例示した塩又は溶媒和物が好ましい。式(I)で表される化合物が前記の塩又は溶媒和物の形態である場合、該化合物を所望の医薬用途に適用することができる。
【0064】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬は、アドレノメデュリンによって予防又は治療される種々の症状、疾患及び/又は障害を、同様に予防又は治療することができる。前記症状、疾患及び/又は障害としては、限定するものではないが、例えば下記のものを挙げることができる。
【0065】
(1)循環器疾患:心不全、肺高血圧症、閉塞性動脈硬化症、バージャー病、心筋梗塞、リンパ浮腫、川崎病、心筋炎、高血圧、高血圧による臓器障害、及び動脈硬化症。
(2)腎臓・水電解質系疾患:腎不全、及び腎炎。
(3)脳・神経疾患:脳梗塞、認知症、及び脳炎。
(4)泌尿生殖器疾患:勃起不全(ED)。
(5)消化器疾患:炎症性腸疾患、潰瘍性疾患、腸管ベーチェット、及び肝不全。
(6)整形外科疾患:関節炎。
(7)内分泌代謝疾患:糖尿病及び糖尿病による臓器障害、並びに原発性アルドステロン症。
(8)その他:敗血症性ショック、自己免疫疾患、多臓器不全、褥瘡、創傷治癒、及び脱毛症。
【0066】
前記循環器疾患は、心筋梗塞、肺高血圧症又は心不全等であることが好ましい。前記消化器疾患は、ステロイド抵抗性又はステロイド依存性の炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病又は腸管ベーチェット病)のような炎症性疾患であることが好ましい。
【0067】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、天然の生理活性ペプチドであるアドレノメデュリンと免疫グロブリンのFc領域とを、ペプチドの連結基を介して連結した構造を有する。このため、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、安全で低毒性である。それ故、本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬は、前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする様々な対象に適用することができる。前記対象は、ヒト又は非ヒト哺乳動物(例えば、ブタ、イヌ、ウシ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ヒツジ、ネコ、サル、マントヒヒ若しくはチンパンジー等の温血動物)の被験体又は患者であることが好ましい。前記対象に本態様の医薬を投与することにより、アドレノメデュリンによって予防又は治療される種々の症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0068】
本明細書において、「予防」は、症状、疾患及び/又は障害の発生(発症又は発現)を実質的に防止することを意味する。また、本明細書において、「治療」は、発生(発症又は発現)した症状、疾患及び/又は障害を抑制(例えば進行の抑制)、軽快、修復及び/又は治癒することを意味する。
【0069】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害(例えば、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患)を有する対象において、該症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することができる。それ故、本態様の医薬は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用するための医薬であることが好ましく、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患の予防又は治療に使用するための医薬であることがより好ましい。また、本発明は、本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患の予防又は治療剤に関する。本発明の一態様の式(I)で表される化合物を前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することにより、該症状、疾患及び/又は障害を持続的に予防又は治療することができる。
【0070】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害(例えば、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患)を有する対象において、該症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することができる。それ故、本発明の別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする対象に、有効量の本発明の式(I)で表される化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物を投与することを含む、前記疾患若しくは症状の予防又は治療方法である。前記症状、疾患及び/又は障害は、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患であることが好ましい。前記症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療を必要とする対象に、本発明の一態様の式(I)で表される化合物を投与することにより、該症状、疾患及び/又は障害を予防又は治療することができる。
【0071】
本発明の別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用するための、本発明の一態様の式(I)で表される化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物である。本発明のさらに別の一態様は、前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に用いるための医薬の製造のための、本発明の一態様の式(I)で表される化合物若しくはその製薬上許容される塩、又はそれらの製薬上許容される水和物の使用である。前記症状、疾患及び/又は障害は、循環器疾患、炎症性疾患、血管疾患又は腎疾患であることが好ましい。本発明の一態様の式(I)で表される化合物又は医薬を前記で説明した症状、疾患及び/又は障害の予防又は治療に使用することにより、該症状、疾患及び/又は障害を持続的に予防又は治療することができる。
【0072】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬を、対象、特にヒト患者に投与する場合、正確な投与量及び投与回数は、対象の年齢、性別、予防又は治療されるべき症状、疾患及び/又は障害の正確な状態(例えば重症度)、並びに投与経路等の多くの要因を鑑みて、担当医が治療上有効な投与量及び投与回数を最終的に決定すべきである。それ故、本態様の医薬において、有効成分である式(I)で表される化合物は、治療上有効な量及び回数で、対象に投与される。例えば、本態様の医薬をヒト患者に投与する場合、有効成分である式(I)で表される化合物の投与量は、通常は、1日に体重60 kg当り0.01~100 mgの範囲であり、典型的には、1日に体重60 kg当り0.01~10 mgの範囲である。
【0073】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬の投与経路及び投与回数は、特に限定されず、経口的に単回若しくは複数回投与されてもよく、非経口的に単回若しくは複数回投与されてもよい。本態様の医薬は、静脈投与、注腸投与、皮下投与、筋肉内投与又は腹腔内投与のような非経口的経路で投与されることが好ましく、静脈投与又は皮下投与されることがより好ましい。また、本態様の医薬は、単回投与されることが好ましい。本態様の医薬は、静脈又は皮下に単回投与するために使用されることが特に好ましい。本発明の一態様の式(I)で表される化合物の親分子であるアドレノメデュリンは、強力な血管拡張作用を有する。このため、治療上有効な量のアドレノメデュリンを単回投与する場合、強力な血管拡張作用により、過度の血圧低下、反射性の交感神経活性上昇に伴う頻脈、及び/又はレニン活性の上昇のような望ましくない副反応を引き起こす可能性がある。これに対し、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のアドレノメデュリン活性を保持しつつ、天然型アドレノメデュリンと比較して、血中半減期を有意に延長し得る。それ故、本発明の一態様の式(I)で表される化合物を有効成分として含有する医薬を対象の静脈に単回投与することにより、アドレノメデュリンの血管拡張作用に起因する望ましくない副反応を抑制しつつ、対象の症状、疾患及び/又は障害を持続的に予防又は治療することができる。
【0074】
<3. アドレノメデュリン誘導体の製造方法>
本発明のさらに別の一態様は、本発明の一態様の式(I)で表される化合物の製造方法に関する。
【0075】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、全体として、タンパク質又はポリペプチドの構造を有する。このため、本発明の一態様の式(I)で表される化合物は、タンパク質又はポリペプチドを合成するために当該技術分野で使用される合成的手段又は培養的手段等の各種の手段に基づき、製造することができる。
【0076】
例えば、培養的手段に基づき本発明の一態様の式(I)で表される化合物を製造する場合、本発明の一態様の式(I)で表される化合物を産生し得る宿主細胞を作製し、次いで、該宿主細胞において目的の化合物を大量発現させる。それ故、培養的手段に基づく場合、本態様の方法は、本発明の一態様の式(I)で表される化合物を産生し得る宿主細胞において、該化合物を大量発現させる、発現工程を含む。
【0077】
本発明の一態様の式(I)で表される化合物を産生し得る宿主細胞は、本発明の一態様の式(I)で表される化合物をコードする塩基配列を有する、単離された核酸を得て、次いで、この核酸を、ベクターと連結して大腸菌又は出芽酵母等の細胞に導入し、形質転換することにより、得ることができる。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の式(I)で表される化合物をコードする塩基配列を含む、単離された核酸に関する。また、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の核酸を含む、ベクター又は宿主細胞に関する。
【0078】
本発明の一態様の単離された核酸は、前記で説明した本発明の一態様の式(I)で表される化合物の様々な実施形態に対応する塩基配列を有することが好ましく、配列番号14、16、18、20、30、32、34、36、40、42、44及び46からなる群より選択される塩基配列を有することがより好ましい。
【0079】
本発明の一態様のベクター及び宿主細胞は、当該技術分野で組換え遺伝子の発現及び/又は組換えの発現に通常使用される様々なベクター及び宿主細胞を用いて、得ることができる。本態様のベクターを得るために使用されるベクターとしては、例えば、遺伝子発現用として、pUC119、pUC118及びpGEM T-Easyベクター等のプラスミドベクターを、タンパク質発現用として、pET-11a、pET-3a及びpET-32a等のプラスミドベクターを、挙げることができる。また、本態様の宿主細胞を得るために使用される細胞としては、例えば、大腸菌、出芽酵母、及び動物細胞(HEK293及びCHO等)等の細胞を挙げることができる。
【0080】
例えば、合成的手段に基づき本発明の一態様の式(I)で表される化合物を製造する場合、固相系又は液相系のペプチド合成により、本発明の一態様の式(I)で表される化合物のアミノ酸配列を有するペプチド鎖を合成し得る。それ故、合成的手段に基づく場合、本態様の方法は、固相系又は液相系のペプチド合成により、本発明の一態様の式(I)で表される化合物のアミノ酸配列を有するペプチド鎖を合成する、ペプチド鎖合成工程を含む。
【0081】
合成的手段に基づく本態様の方法において、ペプチド鎖合成工程によって得られたペプチド鎖のアミノ酸配列中の2個のシステイン残基のチオール基をジスルフィド化することにより、該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成している式(I)で表される化合物を得ることができる。また、ペプチド鎖合成工程によって得られたペプチド鎖のアミノ酸配列中の2個のシステイン残基の間で形成されたジスルフィド結合をエチレン基によって置換することにより、該ジスルフィド結合がエチレン基によって置換された式(I)で表される化合物を得ることができる。前記ジスルフィド化反応及びエチレン基による置換反応は、当該技術分野で通常使用される条件に基づき実施することができる。
【0082】
合成的手段に基づく本態様の方法において、ペプチド鎖合成工程によって得られたペプチド鎖又はその前駆体の少なくともいずれかがそれらの保護形態である場合、本態様の方法は、所望により、ペプチド鎖若しくはその前駆体に1種以上の保護基を導入する保護工程、並びに/又は、ペプチド鎖若しくはその前駆体の保護形態の少なくともいずれかの1種以上の保護基を脱保護する脱保護工程を含んでもよい。前記保護工程及び脱保護工程は、当該技術分野で通常使用される保護化反応及び脱保護化反応によって実施することができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0084】
<実験I:アドレノメデュリン誘導体をコードする組換え遺伝子の作製>
[実験I-1:組換え遺伝子の設計及び解析]
免疫グロブリンG1(IgG1)のFc領域、免疫グロブリンG4(IgG4)のFc領域、ヒトアドレノメデュリン(AM)、及び下記の連結基に基づき、下記の構造を有するアドレノメデュリン誘導体の組換え遺伝子を設計した。使用する遺伝子に関して、塩基配列中の制限酵素部位の特定、塩基配列の確認及びプライマーの設計、並びに対応するタンパク質のアミノ酸配列、分子量及び等電点等の解析は、遺伝情報処理ソフトウェアGENETIX Ver.13(ゼネテックス社)を用いて行った。
実施例1:(IgG1 Fc領域)+(リンカーS)+(AM-Gly);(配列番号14及び15)
実施例2:(IgG1 Fc領域)+(リンカーK)+(AM-Gly);(配列番号16及び17)
実施例3:(IgG4 Fc領域)+(リンカーS)+(AM-Gly);(配列番号18及び19)
実施例4:(IgG4 Fc領域)+(リンカーK)+(AM-Gly);(配列番号20及び21)
実施例5:(IgG1 Fc 領域)+(リンカーS)+(AM (6-52) -Gly);(配列番号30及び31)
実施例6:(IgG1 Fc 領域)+(リンカーK)+(AM (6-52) -Gly);(配列番号32及び33)
実施例7:(IgG1 Fc 領域)+(リンカーS)+(AM (11-52) -Gly);(配列番号34及び35)
実施例8:(IgG1 Fc 領域)+(リンカーK)+(AM (11-52) -Gly);(配列番号36及び37)
比較例1:(IgG1 Fc 領域)+(AM-Gly);(配列番号38及び39)
実施例9:(IgG4 Fc 領域)+(リンカーS)+(AM (6-52) -Gly);(配列番号40及び41)
実施例10:(IgG4 Fc 領域)+(リンカーK)+(AM (6-52) -Gly);(配列番号42及び43)
実施例11:(IgG4 Fc 領域)+(リンカーS)+(AM (11-52) -Gly);(配列番号44及び45)
実施例12:(IgG4 Fc 領域)+(リンカーK)+(AM (11-52) -Gly);(配列番号46及び47)
比較例2:(IgG4 Fc 領域)+(AM-Gly);(配列番号48及び49)
リンカーS:
アミノ酸配列:GGGGSGGGGSGGGGS;(配列番号22)
塩基配列:GGA GGA GGA GGA TCA GGA GGA GGA GGA TCA GGA GGA GGA GGA TCA
(配列番号23)
リンカーK:
アミノ酸配列:GGGGSGGGGSGGGGK(配列番号24)
塩基配列:GGA GGA GGA GGA TCA GGA GGA GGA GGA TCA GGA GGA GGA GGA AAG
(配列番号25)
【0085】
[実験I-2:DNA断片の作製]
IgG1のFc領域、IgG4のFc領域及びヒトアドレノメデュリン(AM)をコードするDNA断片をクローニングした。IgG1のFc領域は、Ellison らの文献(Ellison JW, Nucleic Acids Res. 1982;10(10);4071-9)及びGenBank:JN222933を参考にした。IgG4のFc領域は、Labrijnらの文献(Labrijn AF, J Immunol. 2011; 187(6):3238-46.)を参考にした。AMは、Kitamuraらの文献(Kitamura K et.al.BBRC.1993;194(2);720-5.)を参考にした。各DNA断片のクローニングは、rTaq(タカラ)を用いて行った。PCRは、94℃、2分後に94℃で30秒間、50℃で30秒間、及び72℃で1分間を30サイクル行った後に、72℃で10分間の反応条件で行った。連結基部分については、下記の塩基配列を有するDNA断片を、DNA合成装置を使って合成した。
【0086】
[実験I-3:DNA断片の精製]
PCRで増幅したDNA断片を、アガロースゲル電気泳動で分離した。QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン)を用いて、目的のDNA断片を、アガロースゲルより切り出し、精製した。
【0087】
[実験I-4:制限酵素処理]
ハイフィデリティー(HF)制限酵素セット(New England BioLabs社)のプロトコールにしたがい、精製したDNA断片及びベクターのDNAの制限酵素処理を行った。ベクターは、遺伝子発現用ベクターpUC119(タカラ)(Novagen)を使用した。
【0088】
[実験I-5:ライゲーション]
制限酵素処理した目的のDNA断片(インサートDNA)及び50 ngのベクターDNAを、インサートDNA:ベクターのモル比が3:1となるように混和した。この混合液に、混合液と等量の2×Ligation Mix(NIPPON GENE)を加え、16℃で30分間反応させた。
【0089】
[実験I-6:形質転換]
遺伝子発現用の大腸菌(HST04 dam-/dcm-コンピテントセル(タカラ))のプロトコールにしたがい、ライゲーション後のプラスミドDNAを、大腸菌に導入して形質転換した。
【0090】
[実験I-7:組換え遺伝子の塩基配列の確認]
QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて、形質転換後の大腸菌のコロニーから組換えプラスミドを精製した。Applied Biosystems 3730xl DNA analyzer(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、精製したプラスミドの塩基配列を確認した。その結果、実施例1~12、並びに比較例1及び2のいずれも、所定の塩基配列を有することが確認された。
【0091】
<実験II:アドレノメデュリン誘導体タンパク質の調製>
[実験II-1:組換え遺伝子の設計及び解析]
New England BioLabsのプロトコールにしたがい、遺伝子発現用ベクターpUC119に組み込まれた目的とするDNA断片とタンパク質発現用ベクターpET-11a(Novagen)とを、Nde I及びBam HIを用いて制限酵素処理した。制限酵素処理によって得られたDNA断片を、アガロースゲル電気泳動で分離した。QIA quick Gel Extraction Kit(キアゲン)を用いて、目的のDNA断片を、アガロースゲルより切り出し、精製した。
【0092】
[実験II-2:ライゲーション]
制限酵素処理した目的のDNA断片(インサートDNA)及び50 ngのベクターDNAを、インサートDNA:ベクターのモル比が3:1となるように混和した。この混合液に、混合液と等量の2×Ligation Mix(NIPPON GENE)を加え、16℃で30分間反応させた。
【0093】
[実験II-3:形質転換]
メルクミリポアの遺伝子発現用の大腸菌のプロトコールにしたがい、ライゲーション後のプラスミドDNAを、大腸菌に導入して形質転換した。遺伝子発現用の大腸菌として、実施例1、2及び5~12、並びに比較例1及び2のアドレノメデュリン誘導体の組換え体には、BL21コンピテントセルを、実施例3及び4のアドレノメデュリン誘導体の組換え体には、Rosettaコンピテントセルを、それぞれ用いた。
【0094】
[実験II-4:目的タンパク質の発現誘導]
目的のDNA断片が組み込まれたプラスミドDNAが導入されていることを確認した大腸菌を用いて、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)による目的タンパク質の発現誘導を行った。本培養の前日に、アンピシリン入りLB寒天培地で培養した大腸菌のコロニーから、爪楊枝を用いて菌体を釣菌して、アンピシリン入りのLB液体培地に植菌した。このLB液体培地に植菌した大腸菌を、37℃で一晩、振盪培養した(前培養)。アンピシリン入りのLB液体培地に、前培養の菌液を総体積の10%の量で加えて、37℃で振盪培養した(本培養)。本培養は、培養液の600 nmにおける吸収強度が0.5~1.0の範囲になるまで継続した。BL21株の場合は3時間、Rosetta株の場合は4時間で、所定の吸収強度に達した。培養液に、1 mMの濃度となるようにIPTGを加えた。振盪培養を35℃で4時間行った後に、培養液から菌体を回収した。
【0095】
[実験II-5:菌体の回収]
50 mLチューブに、実験II-4で得られた本培養の培養液を50 mL入れて、10,000×gで5分間、4℃で遠心分離した。上清を除いた後に、同じチューブに50 mLの培養液を追加して、同じ条件で遠心分離した。上清を除いた後に、25 mM Tris-HCl + 2.5 mM EDTA + 1% NaCl + 0.2 mM DTT (pH7.2)を、培養液10 mLに対して5 mL加えて菌体を懸濁した。懸濁液を、10,000×gで5分間、4℃で遠心分離した。上清を除いた後に、菌体の沈殿を、-80℃で一晩凍結した。凍結した菌体を、-20℃で保存した。
【0096】
[実験II-6:菌体の粉砕]
実験II-5で得られた菌体に、25 mM Tris-HCl + 2.5 mM EDTA + 1% NaCl + 0.2 mM DTT (pH7.2)を、菌体の回収に用いた培養液の5分の1量加えて、菌体を懸濁した。懸濁液を、20,000×gで5分間、室温で遠心分離した。上清を除いた後に、沈殿に、BugBuster Master Mix(メルクミリポア)を、菌体の回収に用いた培養液100 mLに対して5 mL加えて、菌体を懸濁した。懸濁液を、室温で20分間振盪した後、16,000×gで20分間、4℃で遠心分離した。上清を回収した後に、沈殿に、25 mM Tris-HCl + 2.5 mM EDTA + 0.1% Triton + 0.2 mM DTT (pH7.2)を、菌体の回収に用いた培養液の10分の1量加えて、菌体を懸濁した。懸濁液を、20,000×gで5分間、室温で遠心分離した。その後、上清と沈殿とに分けて、それぞれを保存した。
【0097】
[実験II-7:SDS-PAGEによるタンパク質の確認]
実験書(「PAGE初めての電気泳動タンパク質のPAGE編」(http://www.atto.co.jp/site/download_request/experiment)、アトー社)に基づき、SDS-PAGEによって、実験II-6で得られた粉砕後の菌体の上清及び沈殿に目的タンパク質が含まれているかを確認した。実験II-6で得られた粉砕後の菌体の沈殿画分をSDS-PAGEによって分離した結果を
図1に示す。図中、レーン1及び6は分子量標準物質を、レーン2、3、4及び5は、実施例1、2、3及び4のアドレノメデュリン誘導体の組換え体から得られた沈殿画分を、それぞれ示す。
図1に示すように、沈殿画分に、封入体として目的タンパク質が含まれていることを確認した(図中、矢印)。
【0098】
<実験III:組換えタンパク質のリフォールディング、並びにその単離及び精製>
[実験III-1:リフォールディング]
封入体に、8 M 尿素 + 25 mM Tris-HCl + 2.5 mM EDTA + 0.2 mM DTT (pH7.5)を加えて懸濁した。超音波処理により、懸濁液に含まれる沈殿を十分に溶解させた。溶解した沈殿を、200μg/mL濃度に調整した。この溶液を、Snake Skin(商標)透析チューブ(Thermo)に入れて、25 mM Tris-HCl + 2.5 mM EDTA + 0.1 mM GSSG (pH7.2)を透析外液として、4℃で5時間透析を行った。外液を、新しい25 mM Tris-HCl + 2.5 mM EDTA + 0.1 mM GSSG (pH7.2)に交換して、4℃でさらに一晩、透析を行った。なお、外液の交換は、1又は2回行うこととした。この透析において、アルギニンを含む外液の使用も可能である。透析後のサンプルを、チューブに回収して、20,000×g、4℃、20分間遠心分離を行った。以下の精製には、遠心分離後の上清を用いた。
【0099】
実施例1~12について、培養液400 mL当たりのリフォールディング後の精製物の回収量を表1に示す。比較例1及び2は、大腸菌での発現生産は問題なかったものの、実験III-1のリフォールディング工程において、不良な物性に起因すると推測される会合及び沈殿が顕著に発生した。その結果、これらの比較例においては、精製物取得が困難であった。
【表1】
【0100】
[実験III-2:リフォールディングした組換えタンパク質の精製]
HiTrap Protein A HP及びAb Buffer Kit(GE Healthcare)のプロトコールにしたがって、実験III-1で得られた遠心分離後の上清から、リフォールディングした組換えタンパク質を精製した。精製後の組換えタンパク質を、20 mMクエン酸緩衝液(pH7.2)で希釈した。Amicon Ultra-15 Ultracel-10K(メルクミリポア)を用いて、希釈液の濃縮及び溶媒置換を行った。
【0101】
[実験III-3:プロテインシーケンサーによる組換えタンパク質のアミノ酸配列の確認] 実験III-2で得られた実施例1、2、3、4及び5のリフォールディングした組換えタンパク質を、SDS-PAGEによって分離した。EzBlot(アトー社)を用いて、SDS-PAGE後のゲルを、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。プロテインシーケンサー(実施例1~4:Procise 494 HT Protein Sequencing System、アプライドバイオシステムズ社;実施例5:PPSQ-33A、島津製作所)を用いて、PVDF膜に転写したサンプルに含まれる実施例1、2、3、4及び5の組換えタンパク質のN末端側のアミノ配列を確認した。その結果、実施例1、2及び5の組換えタンパク質は、IgG1のN末端アミノ酸配列と、実施例3及び4の組換えタンパク質は、IgG4のN末端アミノ酸配列と、それぞれ同一であることが確認された。
【0102】
[実験III-4:組換えタンパク質のアミド化]
130 μgの実施例1の組換えタンパク質に、4 mMアスコルビン酸、10 μM CuSO4、100 μg/mLカタラーゼ、及び500 ng/mLアミド化酵素(Recombinant Human Peptidylglycine α-Amidating Monooxygenase/PAM、R&D Systems社)を加えて、50 mM 酢酸ナトリウム溶液(pH 5.5)で合計200 μLに調整した。反応液を、37℃で一時間反応させた。その後、反応液に、250 mM EDTAを20 μL加えて反応を止めた。アドレノメデュリンのアミド化C末端を認識する抗体を用いて,IRMA法(Ohta H, Tsuji T, Asai Sら, One-step direct assay for mature-type adrenomedullin with monoclonal antibodies. Clin Chem, 第45巻, p. 244-251, 1999年)により、組換えタンパク質がアミド化されたことを確認した。
【0103】
<実験IV:アドレノメデュリン誘導体の使用例(1)>
[実験IV-1:アドレノメデュリン誘導体による細胞内cAMP濃度上昇作用]
AMの生理作用は、細胞内cAMPの濃度の上昇を介して発現することが知られている(非特許文献1参照)。そこで、AM受容体を発現させた培養細胞株(HEK293細胞株)に、実施例のアドレノメデュリン誘導体を添加して、細胞内cAMPの産生量を測定した。コンフルエントのHEK293細胞に、0.5 mMのIBMXの存在下、10-7 Mの実施例1若しくは2のアドレノメデュリン誘導体、又はアドレノメデュリン-グリシン(AM-Gly)を添加して、15分間インキュベートした。その後、cAMP測定用ELISAキット(GEヘルスケアー、#RPN2251)を用いて、各試験区のHEK293細胞における細胞内cAMP濃度を測定した。その結果、試験した実施例1及び2のアドレノメデュリン誘導体は、いずれもAM-Glyと同程度の細胞内cAMP濃度上昇作用を示した。それ故、免疫グロブリンのFc領域を連結したアドレノメデュリン誘導体は、親化合物であるAM-Glyと同程度の生物活性を維持していると推測される。
【0104】
[実験IV-2:アミド化したアドレノメデュリン誘導体による細胞内cAMP濃度上昇作用]
AM受容体を発現させた培養細胞株HEK293細胞に、アミド化した実施例1~12の化合物、並びにヒトAM(hAM)のいずれかを添加して、15分間インキュベートした。その他の手順は、実験IV-1に記載の手順と同様に行った。hAMを添加した際の最大活性を100%として、10
-6 Mの実施例1~12の化合物を添加した際の結果を相対値として算出した。結果を表2に示す。
【表2】
【0105】
表2に示すように、N末端側が欠失されたAMのFc融合体の場合、全長、すなわちhAMのFc融合体と比較して、相対的に活性が高い傾向が確認された。特に、実施例5~8のようなIgG1のFc領域との融合体は、顕著に高い活性を示した。
【0106】
[実験IV-3:アドレノメデュリン誘導体の皮下投与時の経時的血中濃度の推移]
7週齢のWistarラット(約300 g)に、10 nmol/kgの実施例1の化合物(以下、単に「実施例1」とも記載する)又は実施例5の化合物(以下、単に「実施例5」とも記載する)の生理食塩水溶液を皮下投与した。投与前(0)、投与60分後、160分後、8時間後、1日後及び2日後に、イソフルランで吸入麻酔を行った。麻酔下で、鎖骨下静脈よりEDTA-2Na及びアプロチニンを添加した状態で、200 μL採血した。得られた血液を、3,000回転で10分間遠心分離することにより、血漿を得た。血漿中のAM濃度を、IRMA法にて測定した。実施例1又は5の皮下投与におけるAM誘導体の血中濃度の経時変化を
図2に示す。
【0107】
図2に示すように、実施例1又は5のいずれの皮下投与の場合も、投与2日後も治療域に十分な量のAM誘導体が血中に存在していた。
【0108】
[実験IV-4:アドレノメデュリン誘導体の尾静脈投与時の経時的血中濃度の推移]
7週齢のWistarラット(約300 g)に、10 nmol/kgの実施例1又は実施例5の生理食塩水溶液を尾静脈より投与した。投与前(0)及び投与2日後に、イソフルランで吸入麻酔を行った。麻酔下で、鎖骨下静脈よりEDTA-2Na及びアプロチニンを添加した状態で、200 μL採血した。得られた血液を、3,000回転で10分間遠心分離することにより、血漿を得た。血漿中のAM濃度を、IRMA法にて測定した。実施例1又は5の尾静脈投与におけるAM誘導体の投与2日後の血中濃度を
図3に示す。
【0109】
図3に示すように、実施例1又は5のいずれの尾静脈投与の場合も、投与2日後も治療域に十分な量のAM誘導体が血中に存在していた。
【0110】
<実験V:アドレノメデュリン誘導体の使用例(2)>
[実験V-1:アドレノメデュリン誘導体の高血圧自然発症ラット(SHR)における血圧上昇抑制効果]
以下の手順で、SHRに対する実施例5の皮下投与による血圧上昇の抑制効果を検討した。高塩食を与えた8週齢のSHRに、50 nmol/kgの実施例5の生理食塩水溶液を皮下に単回投与した。対照群として、同量の生理食塩水を皮下に単回投与した。血圧は、テールカフにて投与前及び投与9日後に測定した。実験終了時(投与10日後)に採血し、実施例5の血中濃度を測定した。SHRに対する実施例5の皮下投与による血圧上昇の抑制効果を
図4に示す。図中、縦軸は、投与9日後の収縮期血圧から投与前の収縮期血圧を差し引いた血圧の差(mmHg)を示す。*は、スチューデントt-検定(n=5)により算出した、生理食塩水投与の対照群に対するp値が0.05未満であることを示す。
【0111】
図4に示すように、生理食塩水投与の対照群と比較して、実施例5投与群においては、血圧の上昇が有意に抑制された。また、投与10日後においても、実施例5は血中に存在した(データは示していない)。
【0112】
[実験V-2:デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎モデルにおける薬理効果]
以下の手順で、マウスDSS誘発大腸炎モデルに対する実施例5の皮下投与による炎症改善効果を検討した。50 nmol/kgの実施例5の生理食塩水溶液を、マウスの背部に皮下投与した。対照群として、同量の生理食塩水を皮下に単回投与した。投与翌日に、3% DSSの5日間飲水投与により大腸炎モデルの作製を開始した(0日とする)。0、3及び5日目に、体重及び便の性状を観察して、表3に示すスコアで評価した。最終日に腸管を採取して、その湿重量を比較した。DSS誘発大腸炎モデルマウスに対する実施例5の皮下投与による炎症改善効果を
図5に示す。図中、縦軸は、対照群又は実施例5投与群における5日目の総スコアを示す。*は、スチューデントt-検定(n=10)により算出した、生理食塩水投与の対照群に対するp値が0.05未満であることを示す。
【表3】
【0113】
図5に示すように、5日目において、生理食塩水投与の対照群と比較して、実施例5投与群においては、炎症スコアが有意に軽減していた。また、腸管の湿重量は、生理食塩水投与の対照群と比較して、実施例5投与群においては、有意に軽かった(データは示していない)。これらの結果から、実施例5の投与により、大腸の炎症が軽減されたことが示唆される。
【0114】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表】