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特許7001316特に有機分野に適した脱ミネラル乳タンパク質組成物を製造する方法及び脱ミネラル乳タンパク質組成物
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  • 特許-特に有機分野に適した脱ミネラル乳タンパク質組成物を製造する方法及び脱ミネラル乳タンパク質組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】特に有機分野に適した脱ミネラル乳タンパク質組成物を製造する方法及び脱ミネラル乳タンパク質組成物
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/08 20060101AFI20220112BHJP
   A23C 21/00 20060101ALI20220112BHJP
   A23C 9/16 20060101ALI20220112BHJP
   A23C 9/142 20060101ALI20220112BHJP
   A23C 9/144 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A23J3/08
A23C21/00
A23C9/16
A23C9/142
A23C9/144
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2017566267
(86)(22)【出願日】2016-06-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-07-26
(86)【国際出願番号】 FR2016051582
(87)【国際公開番号】W WO2016207579
(87)【国際公開日】2016-12-29
【審査請求日】2019-05-24
(31)【優先権主張番号】PCT/FR2015/000127
(32)【優先日】2015-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517442100
【氏名又は名称】ニュートラバイオ
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン オーデンアージュ、 マリーク
(72)【発明者】
【氏名】フェアリーズ、 ジャン-フランソワ
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/068653(WO,A2)
【文献】特開平07-111860(JP,A)
【文献】特開2000-300183(JP,A)
【文献】特表平11-509727(JP,A)
【文献】特開2000-236849(JP,A)
【文献】国際公開第2014/163485(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0093490(US,A1)
【文献】特表2010-524462(JP,A)
【文献】大手前女子短期大学・大手前栄養文化学院研究集録,Vol.20,2001年,pp.359-392
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 1/00-7/00
A23C 1/00-23/00
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質組成物を調製又は提供する工程と、
前記乳タンパク質組成物の限外ろ過を行う工程と、
前記限外ろ過を行う工程で得られた限外ろ過保持液のナノろ過を行う工程と、
前記ナノろ過を行う工程で得られたナノろ過保持液の電気透析を行う工程と、
を少なくとも含み、
イオン交換樹脂を通過させることを含む工程を含まないことを特徴とする、
脱ミネラル乳タンパク質組成物を製造する方法。
【請求項2】
前記限外ろ過保持液が、少なくとも乾燥抽出物の14%に等しい全窒素含有物質含有量を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乳タンパク質組成物がチーズホエーであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記チーズホエーが有機農法に由来することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記乳タンパク質組成物が
乳を提供する工程と、
前記生乳をクリーム化、熱処理及び除菌する工程と、
前記クリーム化、熱処理及び除菌する工程で得られた乳を膜で精密ろ過する工程と、
精密ろ過の透過物を回収して乳タンパク質組成物を形成する工程と、
を少なくとも含む方法に由来することを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記精密ろ過の膜が、0.1~0.2マイクロメートルの多孔性を有することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記生乳が有機農法に由来することを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物におけるカルシウム含有量リン含有量に対する比が0.65を超えることを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法
【請求項9】
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物が、
カルシウムを、全窒素含有物質1グラム当たり11ミリグラム未満の含有量で、
ナトリウムを、全窒素含有物質1グラム当たり5ミリグラム未満の含有量で、
マグネシウムを、全窒素含有物質1グラム当たり3ミリグラム未満の含有量で、
カリウムを、全窒素含有物質1グラム当たり5.5ミリグラム未満の含有量で、
塩化物を、全窒素含有物質1グラム当たり1.7ミリグラム未満の含有量で、
リンを、全窒素含有物質1グラム当たり8.5ミリグラム未満の含有量で、
含むことを特徴とする、
請求項に記載の方法
【請求項10】
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物が、
カルシウムを、全窒素含有物質1グラム当たり7.7ミリグラム未満の含有量で、
ナトリウムを、全窒素含有物質1グラム当たり3.65ミリグラム未満の含有量で、
マグネシウムを、全窒素含有物質1グラム当たり2.15ミリグラム未満の含有量で、
カリウムを、全窒素含有物質1グラム当たり3.70ミリグラム未満の含有量で、
塩化物を、全窒素含有物質1グラム当たり1.5ミリグラム未満の含有量で、
リンを、全窒素含有物質1グラム当たり7.7ミリグラム未満の含有量で、
含むことを特徴とする、
請求項8又は請求項に記載の方法
【請求項11】
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物における総タンパク質に対する未変性の天然タンパク質の百分率が85を超えることを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法
【請求項12】
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物における総タンパク質に対する未変性の天然タンパク質の百分率が90を超えることを特徴とする、請求項11に記載の方法
【請求項13】
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物中のアルファ-ラクトアルブミンタンパク質のクラスター化率が5%未満であること特徴とする、請求項11又は請求項12に記載の方法
【請求項14】
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物の粒子のD4,3型の平均直径が0.3マイクロメートル未満であることを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法
【請求項15】
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物の粒子のD4,3型の平均直径が0.2マイクロメートル未満であり、体積で粒子の少なくとも40%が0.15マイクロメートル未満のサイズを有することを特徴とする、請求項14に記載の方法
【請求項16】
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物が乳児用ミルクを開発するための成分として使用される、請求項~請求項15のいずれか一項に記載の方法
【請求項17】
前記乳児用ミルクが有機農法に由来することを特徴とする、請求項16に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基本的に乳タンパク質組成物を脱ミネラルする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は又上記方法などにより得られ得る脱ミネラル乳タンパク質組成物に基づく。
【0003】
公知の乳タンパク質組成物の中で、ホエーはチーズ製造時の凝乳に由来する液体部分である。
【0004】
ホエーは基本的に、水、ラクトース、タンパク質及びミネラルから構成される。ホエーを強化する方法の一つは、乳児用ミルク製造用の成分としてのホエーパウダーを製造することに関する。そのためには、ミネラル含有量を減らしながら製造を行いタンパク質及びラクトースが豊富な生成物を得ることが特に必要となる。
【0005】
それ自体周知であるホエーの脱ミネラル方法は、具体的には、ホエーの脂肪含有量を低減可能なクリーム化工程及びそれに続く電気透析工程を含み、その結果ミネラル重量が50%~60%に減少した透析ホエーが得られる。その後クリーム化され透析されたホエーを陽イオンカラムに導入すると高度に陽イオン欠乏状態となり、その後陰イオンカラムへ導入して排出されるとホエーが脱ミネラル化されることが知られている。
【0006】
しかしながら、イオン交換樹脂の再生は、得られる脱ミネラル生成物の品質を損なう可能性のある水酸化ナトリウム、炭酸カリウム又は塩酸などの強塩基及び強酸の使用に繋がる。機能面からみると、イオン交換樹脂は外因性ミネラル種の添加を助長し、この関連で欧州規則EC889/2008によると技術的補助具と考えられる。有機分野におけるイオン交換樹脂の使用はこの点により禁止されている。
【発明の概要】
【0007】
上記に関連して、本発明の目指すところは、イオン交換樹脂を使用する操作を含まず、少なくとも90%に等しい脱ミネラルレベルを達成可能な、乳児用ミルクなどの製品の開発に適合するミネラルプロファイルに配慮した、乳タンパク質組成物を脱ミネラルする方法である。
この目的のために、脱ミネラル乳タンパク質組成物を製造する方法は、基本的に、
乳タンパク質組成物を調製又は提供する工程と、
前記乳タンパク質組成物の限外ろ過を行う工程と、
前記先行工程で得られた限外ろ過保持液のナノろ過を行う工程と、
前記先行工程で得られたナノろ過保持液の電気透析を行う工程と、
を少なくとも含み、
イオン交換樹脂を通過させることを含む工程を含まないこと、
を特徴とする。
【0008】
よって本発明の方法は、限外ろ過工程、ナノろ過工程及び電気透析工程を特定の順序で実施する膜法に限定される。本発明の方法により、具体的には乳に可能な限り近いカルシウム対リン比の維持を可能にすることにより、最大で90%にミネラル含有量が調節されている脱ミネラル乳タンパク質組成物を得ることが可能となり、カルシウム対リン比が低いイオン交換樹脂を通過させる従来の脱ミネラル方法の場合と異なる。前記乳タンパク質組成物はさらに、イオン交換樹脂を使用する先行技術の脱ミネラル方法により得られる組成物よりも低いタンパク質変性率を有している。
【0009】
本発明の方法は以下の任意の特徴を、それらだけで又は全ての可能な技術的組み合わせに従って、有することも可能である。
限外ろ過保持液が、少なくとも乾燥抽出物の14%に等しい全窒素含有物質含有量を有する。
第一の変型例では、前記乳タンパク質組成物がチーズホエーである。
前記チーズホエーが有機農法由来である。
第二の変型例では、前記乳タンパク質組成物が、
生乳を提供する工程と、
前記生乳をクリーム化、熱処理及び除菌する工程と、
前記先行工程で得られた乳を膜で精密ろ過する工程と、
精密ろ過の透過物を回収して乳タンパク質組成物を形成する工程と、
を少なくとも含む方法に由来する。
精密ろ過の膜が、0.1~0.2マイクロメートルの多孔性を有する。
前記生乳が有機農法に由来する。
【0010】
本発明は又上記方法などにより得られ得る脱ミネラル乳タンパク質組成物に基づく。
本発明の乳タンパク質組成物は以下の任意の特徴を、それらだけで又は全ての可能な技術的組み合わせに従って、有することも可能である。
上記に定義される方法により得られ得る乳タンパク質組成物において、カルシウム含有量対リン含有量の比が0.65を超える。
この場合、前記脱ミネラル乳タンパク質組成物は、
カルシウムを全窒素含有物質1グラム当たり11ミリグラム未満の含有量で、
ナトリウムを全窒素含有物質1グラム当たり5ミリグラム未満の含有量で、
マグネシウムを全窒素含有物質1グラム当たり3ミリグラム未満の含有量で、
カリウムを全窒素含有物質1グラム当たり5.5ミリグラム未満の含有量で、
塩化物を全窒素含有物質1グラム当たり1.7ミリグラム未満の含有量で、
リンを全窒素含有物質1グラム当たり8.5ミリグラム未満の含有量で、含み得る。
より詳細には、前記脱ミネラル乳タンパク質組成物は、
カルシウムを全窒素含有物質1グラム当たり7.7ミリグラム未満の含有量で、
ナトリウムを全窒素含有物質1グラム当たり3.65ミリグラム未満の含有量で、
マグネシウムを全窒素含有物質1グラム当たり2.15ミリグラム未満の含有量で、
カリウムを全窒素含有物質1グラム当たり3.70ミリグラム未満の含有量で、
塩化物を全窒素含有物質1グラム当たり1.5ミリグラム未満の含有量で、
リンを全窒素含有物質1グラム当たり7.7ミリグラム未満の含有量で、含み得る。
上記に定義される方法により得られ得る脱ミネラル乳タンパク質組成物の総タンパク質に対する天然タンパク質の百分率が85を超える。
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物の総タンパク質に対する天然タンパク質の百分率が90を超える。
前記組成物中のA-ラクトアルブミンタンパク質のクラスター化率が5%未満である。
前記方法により得られ得る脱ミネラル乳タンパク質組成物の粒子のD4,3型の平均直径が0.3マイクロメートル未満である。
前記脱ミネラル乳タンパク質組成物の粒子のD4,3型の平均直径が0.2マイクロメートル未満であり、体積で粒子の少なくとも40%が0.15マイクロメートル未満のサイズを有する。
【0011】
本発明は、最終的には、乳児用ミルクを開発するための成分として本組成物を使用する、上記に定義される脱ミネラルタンパク質組成物の使用に基づくものである。
【0012】
乳児用ミルクは有機農法由来であることが有利である。
【0013】
本発明のその他の特徴及び有利な点は、網羅的ではない情報提供を目的としたもので下記図面を参照する以下の本明細書の記載により明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、脱ミネラル工程に供することを意図した乳タンパク質組成物を提供又は製造する異なる二つの方法および本発明による脱ミネラル乳タンパク質組成物を製造する方法の概略図である。
図2図2は、本発明の脱ミネラル組成物及び先行技術の組成物からそれぞれ得られたミネラル含有量を乳児用ミルクに含まれるミネラルの規制値上限と共に示した図である。
図3図3は、本発明の方法におけるpHレベルの変動の影響下にある精製α-ラクトアルブミン溶液の蛍光スペクトルを示す。
図4図4は、先行技術の方法におけるpHレベルの変動の影響下にある精製α-ラクトアルブミン溶液の蛍光スペクトルを示す。
図5図5は、本発明の組成物及び先行技術の組成物における粒子サイズの分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法は基本的に、乳タンパク質組成物の限外ろ過工程、ナノろ過工程及び電気透析工程をその順序で含む。この乳タンパク質組成物は、例えば、チーズホエーであってよく、又は、熱処理、遠心除菌及びマイクロフィルター処理されたクリーム化生乳であってよい。
【0016】
以下の記載において使用する「先行技術」という表現は、前記方法及びイオン交換樹脂を用いる場合に得られる関連する脱ミネラル組成物を指す。
【0017】
図1を参照して、乳タンパク質組成物1を生乳2から開発する第一の設定が規定される。前記生乳2は好ましくは有機分野由来である。
【0018】
前記生乳2を、上記第一の設定において、標準条件下50℃でクリーム化3に供した後、クリーム化乳4の熱処理5を65℃~68℃で1分未満で行う。この熱処理を任意に本工程に限定することにより、カゼインミセル上での乳清タンパク質のクラスター化を防ぎ、最良のタンパク質収率を後続の精密ろ過で得る。
【0019】
クリーム化され熱処理された乳6をその次に機械的遠心除菌7に供することにより、除菌を確実にし完全にクリーム化する。代わりに、例えば、精密ろ過などのその他の除菌操作を提供することも可能である。
【0020】
そして前記クリーム化され熱処理され遠心除菌された乳を、精密ろ過工程10用に調製することをふまえて保持工程(図示せず)に約50℃~52℃で供する。
【0021】
前記クリーム化され熱処理され遠心除菌された乳の組成を下記表1に示す。全窒素含有物質は主に、タンパク質、ペプチド及び、例えばウレアなどの非タンパク質窒素を包含する。下記に示す結果において、全窒素含有物質は、ケルダール(Kjeldahl)法に従い蒸留1回当たりの総窒素量により定量されている。
【0022】
【表1】
【0023】
精密ろ過10は、セラミック膜の多孔性が0.1マイクロメートルである接線精密ろ過である。動作温度は49℃~53℃、好ましくは52℃である。透過物11は、冷却処理12に供して、10℃~15℃、好ましくは12℃へ温度を戻す。前記冷却透過物11は、その後乳由来の乳タンパク質組成物1aを形成し、下記に定義される後続の連続した工程である濃縮及び脱ミネラル工程で処理される。
【0024】
得られた乳タンパク質組成物1aは、乾燥抽出物含有量が約57g/kg~62g/kgであり、全窒素含有物質が乾燥抽出物の約9%~12%であり、脂肪性物質含有量が乾燥抽出物の0.5%である。
【0025】
前記乳タンパク質組成物1を有機物起源のチーズホエー13由来とすることも可能であり、冷却14で10℃~15℃、好ましくは12℃へ戻し、乳タンパク質組成物1bを生成する。
【0026】
脱ミネラルされる前記乳タンパク質組成物1を、有機物起源由来の乳タンパク質組成物1a又は有機物起源のチーズホエー由来の乳タンパク質組成物1bのいずれかとすることも可能である。前記乳タンパク質組成物を有機物起源としないことも勿論可能である。
【0027】
前記乳タンパク質組成物1をその次に連続する膜操作に供する。下記例は、有機物起源の乳2由来の乳タンパク質組成物1aを脱ミネラルすることに関する。
【0028】
まず、前記乳タンパク質組成物1aを、保持液16を回収する限外ろ過操作15に供す。この限外ろ過操作は、乳タンパク質組成物1の予備濃縮及び第一の脱ミネラルに例えられる。この限外ろ過操作15により、前記保持液16の乾燥抽出物含有量が60g/kg超に、乾燥抽出物における脂肪性物質含有量が0.5%未満に、特に乾燥抽出物における全窒素含有物質含有量が少なくとも15%に等しくなる。硝酸塩及び亜硝酸塩の含有量はゼロ又はほぼゼロである。さらに、本操作により、全窒素含有物質含有量の増加及び溶解性陽イオンの一部除去が可能になり、その結果二価陽イオン間の比及び全窒素含有物質含有量が減少することになる。
【0029】
続いて前記限外ろ過保持液16をナノろ過操作17に供し、前記限外ろ過保持液16を濃縮し、19%超の乾燥抽出物、好ましくは21%超の乾燥抽出物とすることが可能である。本操作では、さらに予備脱ミネラルがミネラル重量で30%~35%に至ることを確実にすることにより、後続の電気透析工程を最適に機能させることが可能となる。回収されるナノろ過保持液18は、乾燥抽出物含有量が21%超であるとともに、乾燥抽出物における全窒素含有物質含有量が13.6%超であり、乾燥抽出物における脂肪性物質含有量が0.5%未満である。
【0030】
続いて、前記ナノろ過保持液18を脱ミネラル乳タンパク質組成物20を得るために適した条件下で電気透析操作19に供する。電気透析の間、前記ナノろ過保持液18を希釈物室21内で循環させる。電場の影響下で、前記ナノろ過保持液18を脱ミネラルし、イオンを濃縮室22内に通して、選択的に陰イオン及び陽イオン膜23を通過させる。前記ナノろ過保持液18の循環を、脱ミネラルレベルが導電率で0.3mS/cm~0.5mS/cm、好ましくは0.3mS/cm~0.4mS/cmに達するまで行い、さらに良い脱ミネラル能を得る。
【0031】
脱ミネラルされたホエー20は、乾燥抽出物含有量がキログラム当たり約192~194グラム、いずれの場合においてもキログラム当たり190グラム超であり、乾燥抽出物における脂肪性物質含有量が0.5%未満、乾燥抽出物における窒素含有物質含有量が約15%~16%、いずれの場合においても14%に少なくとも等しく、乾燥抽出物におけるラクトース含有量が83%未満、乾燥抽出物における灰分含有量が1%未満、好ましくは0.7%未満である。硝酸塩及び亜硝酸塩の含有量はゼロ又はほぼゼロである。
【0032】
以下の表2に、ナノろ過操作及び電気透析操作同士の相乗効果を明示する。先に定義した処理に供した有機物起源の生乳から得られた乳タンパク質組成物1(カラム1)及びナノろ過(カラム2)及び電気透析(カラム4)による個々の脱ミネラル百分率から、脱ミネラルホエー(カラム5)の理論上の含有量を計算している。理論上の含有量は、ナノろ過及び電気透析による脱ミネラル百分率の合計に相当する。本発明の方法の枠組みにおいて、カラム6では、ナノろ過及び電気透析に供した後に実際に得られたミネラル含有量を報告している。
【0033】
【表2】
【0034】
下記の表3に、先行技術及び本発明の90%までの脱ミネラルホエーのミネラル組成をカルシウム及びリン含有量の比率と共にまとめる。
【0035】
【表3】
【0036】
表2及び3から、本発明の方法により、陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂を使用せずに、連続膜による方法により90%までの脱ミネラル乳タンパク質組成物を得ることが可能となることが分かる。
【0037】
さらに、上記表2に関連して、本発明の方法による実際の脱ミネラル率が理論上の計算値の少なくとも4倍であることが分かる。
【0038】
さらに、本発明の脱ミネラルホエーの有利な点は、低いリン含有量及び充分に調節されたカルシウム含有量であることによりカルシウム及びリン含有量の比が0.65~1.29となることである。この比率は約1.25である乳の場合に近く、カルシウム対リン比がそれぞれ0.49及び0.3である二つの先行技術の方法による脱ミネラルホエーの場合とは対照的である。
【0039】
カルシウム含有量及びリン含有量の比が高い程、後の段階の乳児用ミルクの開発時に添加するミネラルの量を限定することが可能となり、有利である。
【0040】
図2は、1歳以下の乳児用ミルクの開発を考慮し、ミネラル類添加前の脱ミネラル乳タンパク質組成物及び乳から作られた混合物において100kcal当たりの重量で表したいくつかのミネラル類(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン、マグネシウム及び塩化物)の含有量を示す。参照番号30は、脱ミネラル乳タンパク質組成物が本発明の脱ミネラル乳タンパク質組成物である場合の結果を示す。参照番号31は、脱ミネラル乳タンパク質組成物が先行技術の脱ミネラル乳タンパク質組成物である場合の結果を示す。図2において、1歳以下の乳児用ミルクにおけるこれらミネラル類(参照番号32)の規制値上限も示す。本発明の脱ミネラル乳タンパク質組成物は、例えば1歳以下の乳児用ミルクなどの乳児用ミルクを製造することを考慮して乳と混合した場合、公定規制値上限よりも低いミネラルプロファイルを有することが分かる。これらの結果は、対象となる乳児用ミルクのタイプによっていくつかのミネラルを添加することが可能となる高い潜在性及び公定規制値上限を超えることなくそうしたミネラルの添加が可能となる高い潜在性をも示す。
【0041】
一実施形態の本実施例で定義される本発明の方法は、いかなる乳タンパク質組成物の脱ミネラルにも適用される。
【0042】
本発明の方法により、乳児用ミルク処方に適合した、特定のミネラルプロファイルで90%までの脱ミネラル乳タンパク質組成物の新生産ラインをろ過膜及び脱ミネラル法のみにより製造することが可能になる。得られた脱ミネラル乳タンパク質組成物は、特定のイオン仕様を順守し、特に乳児用ミルク製造用の成分として使用される。本発明の方法は、前記製品の内因性の組成を変化させる如何なる技術的に補助的な追加を要するものではない。前記乳タンパク質組成物の製造に使用される生乳又はチーズホエーが有機農法由来であるという単一条件の場合、イオン交換樹脂が存在しないことにより、得られる脱ミネラル乳タンパク質組成物が有機物起源の形質転換物の製造を規制する欧州規則CE889/2008に規定される条件を満たすことが可能である。
【0043】
出願人は驚くべきことに、イオン交換樹脂を使用せずに脱ミネラル乳組成物を製造するという主要な目的以上に、本発明の方法が、得られた脱ミネラル乳タンパク質組成物についてより有利な結果につながることを認めた。
【0044】
前記第一の設定において、本発明の脱ミネラル乳タンパク質組成物における天然タンパク質の比率が、明らかに先行技術の脱ミネラル組成物に存在する天然タンパク質の比率より高いことが認められた。すなわち、本発明の脱ミネラル乳タンパク質組成物のタンパク質変性率は、先行技術の脱ミネラル組成物のタンパク質変性率よりも低い。
【0045】
この低い変性率は、上記で実証されるように、pH値の顕著な変動や実質的熱処理を伴わない本発明の方法に直接関連している。
【0046】
図3及び図4に、本発明の脱ミネラルタンパク質組成物及び先行技術の脱ミネラル組成物それぞれの、精製α-ラクトアルブミン溶液の内因性蛍光スペクトルを示す。これには本発明の方法によるpH値変動及び先行技術の方法によるpH値変動を適用している。図3及び図4は、α-ラクトアルブミン中に存在するアミノ酸「トリプトファン」の励起中に発光する蛍光を反映している。
【0047】
pH値の調整を行わない本発明の方法では、pH値は約6.7~5.3で変動する。
【0048】
図3を参照すると、曲線参照番号33は、pH値6.7におけるα-ラクトアルブミン溶液の蛍光スペクトルを示す。この曲線は、最大λが329ナノメートルであり、これは天然状態におけるこのタンパク質に特徴的である。曲線参照番号34は、pH値5.3におけるα-ラクトアルブミン溶液の蛍光スペクトルを示す。最大限低下した蛍光強度を拡大又は有することによりスペクトルの外観が変化することが分かる。このスペクトルの変化は、タンパク質のクラスター化現象に特徴的なタンパク質構造の構造変化を説明するものである。
【0049】
曲線参照番号35は、タンパク質構造の変化を元に戻すことが可能であるか確認するためにpH値5.3を6.7へ上げた場合のα-ラクトアルブミン溶液の蛍光スペクトルを示す。曲線の外観が元に戻り、最初の曲線33に重なることが分かった。特に、最大蛍光強度は再度329ナノメートルとなる。
【0050】
これらの結果は、最小pH値5.3の酸性化により、タンパク質のクラスター化現象を生じ、このクラスター化が完全に可逆性であることを示す。よって、pH値5.3の弱酸性化に供した本発明の脱ミネラル組成物のタンパク質構造は完全に保護されている。
【0051】
イオン交換樹脂が用いられる先行技術の方法において、pH値は、6.5に調整される前に約6.5から最大pH値の2~2.5へ低下する。先行技術の方法には、後述するように90℃超での熱処理も含まれる。
【0052】
図4を参照すると、曲線36は、図3の曲線33のように、pH値6.7におけるα-ラクトアルブミン溶液の蛍光スペクトルを示し、329ナノメートルの最大発光波長を有する。曲線37は、α-ラクトアルブミン溶液のpH値が2.4に調節される場合に得られるスペクトルを示し、曲線38は、pH値2.4のα-ラクトアルブミン溶液を95℃で熱処理に供した場合のスペクトルを示す。
【0053】
曲線37及び曲線38が互いに重なるとき、334ナノメートルの最大発光波長を有する曲線36との差を示すことが分かる。このより大きな最大発光波長への差は、タンパク質の単位構造の部分的な展開を意味する。
【0054】
曲線39は、熱処理(曲線38)した場合のpH値2.4が6.5へ上げられた時のα-ラクトアルブミン溶液の蛍光スペクトルを示す。
【0055】
曲線39は、最初の曲線36に重なることが出来ず、蛍光強度が低く、最大波長が約324ナノメートルへ低下していることが分かる。
【0056】
結果として、熱処理を伴う又は伴わないpH値2.4における酸性化により生じたタンパク質構造の変化は、先行技術の脱ミネラル組成物にとって不可逆的であり、これはタンパク質が天然状態を失っていることを示す。
【0057】
先行技術の方法と比較して、本発明の方法ではpH値の変化が顕著でないことに加えて、本発明の方法におけるタンパク質の温度の変化は、先行技術の方法と比較して顕著ではない。これはタンパク質の天然構造が保持されることを保証している。
【0058】
本発明の方法では、約65℃~68℃の温度をクリーム化乳の熱処理時に適用した後、脱ミネラル時には温度を10℃~12℃へ下げる。所望により、72℃で数秒間の低温殺菌工程を脱ミネラル組成物に適用することが可能である。先行技術の方法では、チーズホエーを原材料として使用するには、72℃超の温度で実施される第一の低温殺菌工程、そして脱ミネラル後に90℃超で実施される第二の低温殺菌工程を必要とする。
【0059】
乳の溶解性相に存在する三大タンパク質種、すなわちウシ血清アルブミン、α-ラクトアルブミン及びβラクトグロブリン、それぞれの不可逆的熱変性温度が63℃、69℃及び72℃であることを考慮すると、本発明の方法の温度は、α-ラクトアルブミン及びβラクトアルブミンの変性温度より低いことが分かる。その結果、本発明の方法ではこれらタンパク質の状態が変化しないことになる。反対に先行技術の方法における温度は、これら三つのタンパク質種の構造に変化をもたらす。
【0060】
下記表4は、天然の状態及びクラスター化率という点においてタンパク質含有量を特徴づけることが可能であるタンパク質量分析結果を示す。
【0061】
脱ミネラル乳タンパク質組成物のタンパク質組成は、異なる操作条件での解析による化学的方法(ケルダール(Kjeldahl)法による窒素量)による手段及び逆相液体クロマトグラフィーによる手段により決定されている。
【0062】
溶解性タンパク質における組成は、変性タンパク質及び残留カゼインのpH値4.6での沈澱による除去後に液相クロマトグラフィーで決定されている。この分析により、天然状態で存在するタンパク質含有量を決定可能である。
【0063】
総タンパク質の分析についてもクラスターの分離後に決定された。この手法により、特に、試料の全体のタンパク質変性(クラスター化率)だけでなく個々のタンパク質の変性についても測定可能である。
【0064】
表4の結果は、熱処理の影響下で共クラスター化する熱に弱いタンパク質二種であるβラクトグロブリン及びκカゼインといった最も代表的なタンパク質と、乳児の栄養において目的の栄養タンパク質であるα-ラクトアルブミンについても示される。
【0065】
【表4】
【0066】
表4の結果から、本発明の脱ミネラル組成物中の天然タンパク質の百分率は、明らかに先行技術の組成物における当該百分率よりも高いことが確認される。さらに、βラクトグロブリン及びκカゼインのクラスター化率は、本発明の組成物ではより低いことが分かる。結果として、α-ラクトアルブミンのクラスター化率も低い。
【0067】
図5は、本発明の組成物(曲線41)及び先行技術の組成物(曲線42)中に存在する粒子のサイズを図示している。粒子のサイズは、粒径手法により測定される。本発明の組成物では、小サイズ粒子の高度に主要な集団と、わずかに大きいサイズの粒子(又は粒子クラスター)に相当する非常に低いピークと、を有する非常に一貫性のある粒子のサイズ分布が観察される。D4,3型の平均直径は、0.19マイクロメートルであり、粒子の50%(体積で)は、0.14マイクロメートルより小さいサイズを有する。
【0068】
対照的に、先行技術の組成物のサイズ分布は、小サイズ集団及び大きいクラスターに相当する集団の二峰性である。特徴的なサイズという点において、本データは、D4,3型の平均直径が5.17マイクロメートルであり、50%及び90%の粒子(体積で)が、それぞれ0.75マイクロメートル及び11.8マイクロメートルよりも大きいサイズを有していることを示す。
【0069】
これらの結果は、本発明の組成物の粒子の大部分がクラスター化していないことから本発明の方法によるタンパク質構造の維持が継続しているのに対し、一方対照的に、先行技術の組成物においては、変性が起こりタンパク質の大部分がクラスター状態になっていることを示す。
【0070】
よって、本発明の脱ミネラル組成物の乳清タンパク質は、大部分がクラスター化されていない天然状態で保持されていることが、前述の通り実証された。一方、先行技術の組成物の乳清タンパク質は、部分的に変性しクラスター化し、個々のタンパク質及び大きいサイズのクラスターの混合物となっている。
【0071】
本発明の組成物及び先行技術の組成物の乳清タンパク質の性能において異なる結果となっている。詳細には、乳幼児処方における乳成分によって提供されるカゼインミセルとの相互作用において異なる。
【0072】
この乳清タンパク質の構造状態の差異が、乳児用ミルクを脱水する前の熱処理工程時に、ミセル構造と相互作用する能力に影響を与える。
【0073】
実際に、天然乳清タンパク質は、変性しクラスター化した乳清タンパク質と比較して、ミセル構造の表面への結合能が高い。ミセル表面を覆う乳清の一貫性及び厚みは、本発明の組成物ではより顕著であり、それによりカゼインミセルへの到達性に影響を与え、消化管での分解酵素による分解を遅らせ、本発明の組成物の事実上のアレルゲン性を低減することによりカゼインのアレルゲン性の度合いに影響をもたらす。
【0074】
下記表5は、本発明の脱ミネラル組成物及び先行技術の脱ミネラル組成物に関連する必須及び準必須アミノ酸並びにアミノ酸類における、主な栄養素である必須アミノ酸(ヒスチジン、トリプトファン、チロシン及びロイシン)の含有量を示す。必須アミノ酸含有量は、乳児用ミルクでは特に顕著なパラメーターである。必須アミノ酸を合成する能力がない乳幼児では、詳細には離乳時期前に食物として提供される必要がある。
【0075】
【表5】
【0076】
本発明の組成物は、必須アミノ酸含有量が高く、特に主な栄養素の含有量が高いことが分かる。
【0077】
この結果はトリプトファンにおいて特に顕著である。実際に、規制により有機乳児用ミルクの全形態においてトリプトファンの添加が禁止されている。しかし、トリプトファンは多量に母乳に存在し、乳幼児の適切な発達における活性成分である。よって、トリプトファン含有量という観点からも、本発明の組成物は自然に母乳の組成に近いものとなっている。
【0078】
さらに、トリプトファンはセロトニン及びメラトニンの前駆体として定義される。よってトリプトファンは、睡眠及びストレスの制御さらには集中力にも肯定的に介在する。
【0079】
最後に、本発明の組成物又は先行技術の組成物から開発される再構成乳児用ミルクの遠心分離後の上清を形成する脂肪性物質について、粒度の分析を行った。
【0080】
粒子サイズは、計測をSDSの存在下で実施する場合は個々の脂質小滴のサイズの測定が、軟凝集がある場合(水中での測定のみ)は脂質小滴クラスターのサイズの測定が可能な粒度法により測定される。ここでは、結果を、小滴のクラスター化率と共に増加するD4,3(マイクロメートル単位)で表す。
【0081】
本発明の組成物におけるD4,3型の平均直径は0.75±0.03マイクロメートルであり、この時先行技術の組成物におけるD4,3型の平均直径が4.59±0.05マイクロメートルという測定結果であった。よって、本発明の組成物から開発された再構成乳児用ミルクでは軟凝集現象があまり顕著ではなく、脂肪球の大部分が独立した状態であることが分かる。対照的に、先行技術の組成物から開発された再構成乳では、脂肪球クラスターが顕著な比率で認められた。
【0082】
本発明の組成物における個々の脂肪球の平均サイズは、0.51±0.02マイクロメートルであり、先行技術の組成物における個々の脂肪球の平均サイズは、0.59±0.02マイクロメートルであることも測定された。
【0083】
本発明の組成物由来の再構成乳児用ミルクの安定性がより顕著であるという結果となっている。疑いなく、このより好ましい脂肪性物質の機構は、本発明の方法でのタンパク質変性の低減及び上述のミセル構造と組成物のタンパク質との好ましい相互作用に関連している。
【0084】
よって、タンパク質の品質への有利な効果に加えて、本発明の方法及びそれにより得られる脱ミネラル組成物は最終生成物の機能の改善に寄与することも上記の通り実証された。
【0085】
上述の本発明の組成物の品質は、本発明の方法がタンパク質及び原材料の他の成分を変化させる過度の酸性化又は熱処理を用いないという事実に大きく関連している。
【0086】
本発明の枠組み内で、上記で定義される脱ミネラル組成物を、上記方法とは異なる他の方法で得ることも可能であるが、但し当該方法はpH値及び温度の低い変動に従うものとする。
図1
図2
図3
図4
図5