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特許7001330生分解性コポリマー及びその製造方法並びに生分解性向上法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】生分解性コポリマー及びその製造方法並びに生分解性向上法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/06 20060101AFI20220127BHJP
   C08G 63/199 20060101ALI20220127BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
C08G63/06
C08G63/199
C08L101/16 ZBP
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2015142354
(22)【出願日】2015-07-16
(65)【公開番号】P2017025138
(43)【公開日】2017-02-02
【審査請求日】2018-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 裕明
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】加藤 友也
【審判官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-157703(JP,A)
【文献】特開平10-81736(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101250258(CN,A)
【文献】特開平6-16790(JP,A)
【文献】特開2011-32457(JP,A)
【文献】特開平4-292619(JP,A)
【文献】特開平9-191893(JP,A)
【文献】特開2007-112849(JP,A)
【文献】特開2004-277454(JP,A)
【文献】岡 小天,高分子化学 上,日本,丸善株式会社,1955年12月 1日,82-85
【文献】STOYKO FAKIROV,Transreactions in Condensation Polymers,1999年,1-3,ISB N:3-527-29790-1
【文献】GIUSEPPE IMPALLOMENI,characterization of biodegradable poly(3ーhydroxybutyrate-co-butyleneadipate)copolymers obtained from their homopolymers by microwave-assisted transesterification
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/06
C08G63/199
C08L101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシ酪酸と、少なくとも脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、少なくとも脂肪族ジオールを含むジオールとの反応により得られるコポリエステルであって、前記コポリエステルが、構成単位として3-ヒドロキシ酪酸単位をコポリエステルの全構成単位に対して1~20モル%の割合で含む生分解性コポリエステル
【請求項2】
3-ヒドロキシ酪酸単位の割合が、コポリエステルの全構成単位に対して5~15モル%である請求項1記載の生分解性コポリエステル
【請求項3】
3-ヒドロキシ酪酸単位がランダムに導入されている請求項1又は2記載の生分解性コポリエステル
【請求項4】
3-ヒドロキシ酪酸単位の両末端が、ジカルボン酸単位及びジオール単位と結合したオリゴマー単位を含む請求項1~3のいずれかに記載の生分解性コポリエステル
【請求項5】
熱可塑性樹脂である請求項1~4のいずれかに記載の生分解性コポリエステル
【請求項6】
ジカルボン酸単位及びジオール単位が、少なくとも2-10アルカン骨格を有する請求項1~のいずれかに記載の生分解性コポリエステル
【請求項7】
さらにフルオレン骨格を有する単位を含む請求項1~のいずれかに記載の生分解性コポリエステル
【請求項8】
3-ヒドロキシ酪酸又はその反応性誘導体と、少なくとも脂肪族ジカルボン酸又はその反応性誘導体を含むジカルボン酸又はその反応性誘導体と、少なくとも脂肪族ジオールを含むジオールとの混合物を重合させる請求項1~のいずれかに記載の生分解性コポリエステルの製造方法。
【請求項9】
少なくとも脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、少なくとも脂肪族ジオールを含むジオールとの反応により得られるコポリエステルの生分解性を向上させる方法であって、3-ヒドロキシ酪酸単位を全構成単位に対して1~20モル%の割合で、前記コポリエステルに導入する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ酪酸(3-ヒドロキシブタン酸又は3HB)単位を含む生分解性コポリマー及びその製造方法並びに3HBをモノマーの一部に導入してポリマーの生分解性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全の観点から、生分解性プラスチックの利用が進んでいる。環境中に放出されたプラスチックは、分解に百年単位の月日が必要であり、海洋上を漂ってプラスチックベルトとよばれる海上汚染域を形成し、鳥獣類の生育に被害を及ぼしている。また、それらの分解過程で発生する1mm以下の微小なプラスチック片は、スモールマイクロプラスチックと称され、生体内に取り込まれると、内分泌かく乱を引きおこすことが懸念されている。これらの微小プラスチック片の中には、シャンプーや歯磨きなどの製品に予め人為的に添加されるプラスチックもあり、使用禁止となる地域も出始めている。
【0003】
また、欧州を中心に生分解性ゴミ袋の利用が進められている。このゴミ袋は、ゴミを堆肥化した場合に、プラスチックが残存しないことを目指している。しかし、堆肥化工程において生分解性ゴミ袋はすべて温暖化ガスの二酸化炭素となってしまう。従来販売されている生分解性ゴミ袋の殆どは嫌気条件でバイオガス化することができず、好気条件の堆肥化プロセスによってのみしか分解できないためである。
【0004】
前記ゴミ袋などに利用される汎用の生分解性プラスチックとしては、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)などが知られている。しかし、前述のように、嫌気条件でのバイオガス化において十分な分解速度を有しておらず、例えば、海洋中での生分解性も低かった。
【0005】
H.Yagi et al., Polymer Degradation and Stability 110 (2014)278-283(非特許文献1)には、各種の生分解性ポリエステルの嫌気条件での生分解性が評価されており、PLA、PCL、PBSに比べて、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)が嫌気条件で高い生分解性を示すことが開示されている。このようにPHBなどのポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、嫌気条件で十分な分解性能を有するプラスチックである一方で、PHA以外の生分解性プラスチックは、自然界に存在しないため、自然界に存在する微生物によって緩やかに分解できる構造を有しているにすぎない。しかし、PHAは、汎用のプラスチック成形体に必要な機械的特性などが不足している上に、経済性も低いため、普及が進んでいなかった。
【0006】
また、機械的特性に優れた生分解性高分子として、特開平8-3296号公報(特許文献1)には、脂肪族オキシカルボン酸単位98~70モル%、脂肪族ジオール単位1~15モル%及び脂肪族ジカルボン酸単位1~15モル%から主としてなり、数平均分子量が1万~10万である脂肪族ポリエステル共重合体が開示されている。この文献の実施例では、L-乳酸、1,4-ブタンジオール、コハク酸を用いて得られたコポリエステルが製造されている。しかし、この脂肪族ポリエステル共重合体でも、嫌気条件での生分解性は低かった。
【0007】
そこで、安価に生産が可能で石油系プラスチックを代替できるPBS、PBSA、PBAT、PLAなどの生分解性の向上が待望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-3296号公報(請求項1、実施例)
【非特許文献】
【0009】
【文献】H.Yagi et al., Polymer Degradation and Stability 110 (2014)278-283(Table 1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、生分解性に優れ、かつ機械的特性にも優れた生分解性コポリマー及びその製造方法並びに生分解性向上法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、嫌気条件での生分解性を向上できる生分解性コポリマー及びその製造方法並びに生分解性向上法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、簡便かつ安価に製造できるとともに、生分解性も容易に制御できる生分解性コポリマー及びその製造方法並びに生分解性向上法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ポリヒドロキシアルカン酸の生分解性の高さに着目して検討を開始し、検討の当初は、生分解性プラスチックの高分子鎖に3-ヒドロキシ酪酸(3HB)のオリゴマー構造(繰り返し単位)を挿入できれば、3HB同士の結合部分が微生物的な分解を受けて生分解性を向上できると想定していた。ところが、検討が進むと、本発明者らは、驚くべきことに、3HBモノマー(単量体)がオリゴマー構造を形成せず、ポリマー中に単独で(3HBの単量体単位同士が結合せずに各々が独立して)含まれていても、3HBモノマーと他のモノマーとのエステル結合が環境中の微生物によって容易に分解されることを突き止めた。すなわち、煩雑な合成プロセスを必要とする3HBモノマーのオリゴマー化を経て3HBオリゴマー単位を含有するコポリマーを調製することなく、合成時に3HBモノマーを他のモノマーと一括して添加するだけで、ポリマーに生分解性を付与することに成功した。そのため、3HBモノマーは数%含有させるだけで生分解性を付与でき、得られたコポリマーは本来の生分解性プラスチックの物性をほぼ維持できることを見出した。さらに、3HBの添加量を調節するだけで、生分解速度を容易に調整できることも見出した。本技術は、エステル結合を有するポリエステルなどのポリマーに3HBを少量混合することにより生分解性を付与できる画期的な技術である。
【0014】
すなわち、本発明の生分解性コポリマーは、コポリマーの構成単位として3-ヒドロキシ酪酸単位を含み、かつ前記3-ヒドロキシ酪酸単位の割合が、コポリマーの全構成単位に対して1~20モル%である。前記3-ヒドロキシ酪酸単位の割合は、コポリマーの全構成単位に対して5~15モル%程度であってもよい。前記3-ヒドロキシ酪酸単位は、ランダムに導入されていてもよい。本発明の生分解性コポリマーは、前記3-ヒドロキシ酪酸単位の両末端が、他の構成単位と結合したオリゴマー単位を含んでいてもよい。本発明の生分解性コポリマーは、コポリエステルなどの熱可塑性樹脂であってもよい。本発明のコポリマーは、さらにC2-10アルカン骨格を有する単位を含んでいてもよい。本発明のコポリマーは、さらにフルオレン骨格を有する単位を含んでいてもよい。
【0015】
本発明には、3-ヒドロキシ酪酸又はその反応性誘導体と他のモノマーとの混合物を重合させる前記生分解性コポリマーの製造方法も含まれる。
【0016】
さらに、本発明には、コポリマーの全構成単位に対して1~20モル%の割合で、3-ヒドロキシ酪酸単位をコポリマーの構成単位に導入することにより、コポリマーの生分解性を向上させる方法も含まれる。
【0017】
本発明では、コポリマーの「構成単位(繰り返し単位又はモノマー単位)」とは、コポリマー中におけるモノマー由来(モノマー毎)の骨格又は残基を意味し、例えば、「3-ヒドロキシ酪酸単位(又は3-ヒドロキシ酪酸の単位)」は、コポリマー中における3-ヒドロキシ酪酸又はその反応性誘導体由来の骨格又は残基を意味する。さらに、「ヒドロキシアルカン酸単位」は、コポリマー中における骨格が同一であるラクトン由来の単位も含む意味で用いる場合がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、コポリマーの全構成単位に対して1~20モル%の割合で3-ヒドロキシ酪酸単位(3-ヒドロキシ酪酸骨格又は3-ヒドロキシ酪酸残基)を含有するため、生分解性と機械的特性とを両立できる。特に、好気条件だけでなく、嫌気条件での生分解性も向上できる。また、3-ヒドロキシ酪酸又はその反応性誘導体を他のモノマーと一括添加して重合させる簡便な方法で、高い生分解性を有するプラスチックを安価に製造できる。さらに、3-ヒドロキシ酪酸単位の割合を変えることにより、コポリマーの生分解性を容易に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例における好気条件でのポリマーの生分解性を示すグラフである。
図2図2は、実施例における嫌気条件でのポリマーの生分解性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[生分解性コポリマー]
本発明の生分解性コポリマーは、コポリマーの構成単位(繰り返し単位又はモノマー単位)として3-ヒドロキシ酪酸単位を全構成単位に対して1~20モル%の割合で含んでいればよい。特に、3-ヒドロキシ酪酸単位が少量でも生分解性を向上できるため、生分解性と機械的特性とを高度に両立できる点から、3-ヒドロキシ酪酸単位は、全構成単位に対して、例えば2~18モル%、好ましくは3~16モル%(例えば5~10モル%)、さらに好ましくは5~15モル%(特に8~12モル%)程度である。さらに、本発明では、3-ヒドロキシ酪酸単位の割合を調整することにより、生分解速度を容易に調整できるため、目的に応じて1~20モル%の範囲から選択でき、例えば、機械的特性よりも高度な生分解性が要求される用途では、3-ヒドロキシ酪酸単位は、全構成単位に対して、例えば10~20モル%(特に15~20モル%)程度であってもよい。3-ヒドロキシ酪酸単位の割合が少なすぎると、コポリマーの生分解性が低下し、多すぎると、コポリマーの機械的強度が低下する。
【0021】
なお、本発明では、3-ヒドロキシ酪酸単位の割合は、H-NMRスペクトルによって測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0022】
3-ヒドロキシ酪酸単位は、少なくとも一部がオリゴマー化(ブロック重合)していてもよいが、少量で生分解性及び機械的強度を向上できる点から、ランダムに導入して重合(ランダム重合)されているのが好ましい。すなわち、本発明の生分解性コポリマーは、3-ヒドロキシ酪酸単位が少量でも生分解性を向上できるため、3-ヒドロキシ酪酸単位の両末端が他の構成単位と結合したオリゴマー単位(共重合オリゴマー単位)を含んでいてもよい。このような共重合オリゴマー単位は、3-ヒドロキシ酪酸単位同士が結合した単独重合オリゴマー単位ではないにも拘わらず、生分解性に優れるため、本発明では、前記共重合オリゴマー単位の割合を増加させて、生分解性コポリマーの機械的特性を向上できる。前記共重合オリゴマー単位を構成する3-ヒドロキシ酪酸単位と、前記単独重合オリゴマー単位を構成する3-ヒドロキシ酪酸単位とのモル比は、例えば、前者/後者=100/0~10/90、好ましくは100/0~50/50、さらに好ましくは100/0~70/30(特に100/0~80/20)程度であり、共重合オリゴマー単位のみで形成されていてもよい。共重合オリゴマー単位の割合が少なすぎると、コポリマーの機械的特性が低下する虞がある。
【0023】
本発明の生分解性コポリマーは、硬化性樹脂であってもよいが、生分解性に優れる点から、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂としては、エステル結合及び/又はアミド結合を含むコポリマー、例えば、コポリエステル、コポリアミドなどが挙げられる。これらのうち、生分解性に優れる点から、コポリエステルが好ましい。
【0024】
コポリエステルにおいて、他の構成単位には、3-ヒドロキシ酪酸単位以外のヒドロキシカルボン酸単位(ラクトン単位を含む他のヒドロキシカルボン酸単位)、ジカルボン酸単位、ジオール単位が含まれる。
【0025】
(他のヒドロキシカルボン酸単位)
他のヒドロキシカルボン酸単位としては、例えば、ヒドロキシアルカン酸、ヒドロキシシクロアルカンカルボン酸(ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸など)、ヒドロキシ安息香酸(ヒドロキシアレーンカルボン酸など)などの単位が挙げられる。これらのヒドロキシカルボン酸単位は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのヒドロキシカルボン酸単位のうち、生分解性に優れる点から、ヒドロキシアルカン酸単位が好ましい。
【0026】
ヒドロキシアルカン酸単位としては、例えば、グリコール酸、2-ヒドロキシプロパン酸(乳酸)、3-ヒドロキシプロパン酸、2-ヒドロキシブタン酸(2-ヒドロキシ酪酸)、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシ-3-メチル-ブタン酸、2-ヒドロキシペンタン酸(2-ヒドロキシ吉草酸)、3-ヒドロキシペンタン酸、5-ヒドロキシペンタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル-ペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、6-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、7-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、8-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシナノン酸、9-ヒドロキシナノン酸、3-ヒドロキシデカン酸、10-ヒドロキシデカン酸などのC1-6アルキル基を有していてもよいヒドロキシC2-15アルカン酸などの単位が挙げられる。
【0027】
なお、ヒドロキシアルカン酸単位は、対応するラクトン単位であってもよい。ラクトン単位としては、例えば、β-プロピオラクトン、β-ジメチルプロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-ジメチルブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどのジC1-12アルキル基を有していてもよいC3-15ラクトンなどの単位が挙げられる。
【0028】
これらのヒドロキシアルカン酸単位及びラクトン単位は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのヒドロキシアルカン酸単位のうち、生分解性の点から、3-ヒドロキシプロパン酸、4-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシナノン酸、3-ヒドロキシデカン酸などのヒドロキシC3-10アルカン酸単位(3-ヒドロキシ酪酸以外のヒドロキシC3-10アルカン酸単位)又は対応するラクトン単位が好ましい。
【0029】
(ジカルボン酸単位)
ジカルボン酸単位としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などの単位が挙げられる。
【0030】
脂肪族ジカルボン酸単位としては、例えば、アルカンジカルボン酸(例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などのC1-16アルカンジ-カルボン酸など)、不飽和脂肪族ジカルボン酸(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸など)などの単位が挙げられる。
【0031】
脂環族ジカルボン酸単位としては、例えば、シクロアルカンジカルボン酸(例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのC5-10シクロアルカン-ジカルボン酸など)、ジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸(例えば、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸など)、シクロアルケンジカルボン酸(例えば、シクロヘキセンジカルボン酸などのC5-10シクロアルケン-ジカルボン酸)、ジ又はトリシクロアルケンジカルボン酸(例えば、ノルボルネンジカルボン酸など)などの単位が挙げられる。
【0032】
芳香族ジカルボン酸単位としては、例えば、単環式芳香族ジカルボン酸[例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アルキルイソフタル酸(例えば、4-メチルイソフタル酸などのC1-4アルキルイソフタル酸など)などのC6-10アレーン-ジカルボン酸など]、多環式芳香族ジカルボン酸[例えば、縮合多環式芳香族ジカルボン酸[例えば、ナフタレンジカルボン酸(例えば、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの異なる環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸;1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸などの同一の環に2つのカルボキシル基を有するナフタレンジカルボン酸)、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、などの縮合多環式C10-24アレーン-ジカルボン酸、好ましくは縮合多環式C10-16アレーン-ジカルボン酸、さらに好ましくは縮合多環式C10-14アレーン-ジカルボン酸など]、アリールアレーンジカルボン酸[例えば、ビフェニルジカルボン酸(例えば、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸など)などのC6-10アリール-C6-10アレーン-ジカルボン酸など]、ジアリールアルカンジカルボン酸[例えば、ジフェニルアルカンジカルボン酸(例えば、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸など)などのジC6-10アリールC1-6アルカン-ジカルボン酸など]、ジアリールケトンジカルボン酸[例えば、ジフェニルケトンジカルボン酸(例えば、4.4’-ジフェニルケトンジカルボン酸など)などのジC6-10アリールケトン-ジカルボン酸)など]、フルオレン骨格を有するジカルボン酸など]などの単位が挙げられる。
【0033】
さらに、前記フルオレン骨格を有するジカルボン酸単位としては、例えば、ジカルボキシフルオレン(例えば、2,7-ジカルボキシフルオレンなど);9,9-ビス(カルボキシアルキル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレンなど];9-(カルボキシ-カルボキシアルキル)フルオレン[例えば、9-(1-カルボキシ-2-カルボキシエチル)フルオレン、9-(2-カルボキシ-3-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9-(カルボキシ-カルボキシC2-6アルキル)フルオレンなど];9,9-ビス(カルボキシアリール)フルオレン[例えば、9,9-ビス(3-カルボキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-カルボキシ-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-カルボキシ-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC6-12アリール)フルオレンなど];9,9-ビス(カルボキシアルキル-アリール)フルオレン[例えば、9,9-ビス(4-(カルボキシメチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-カルボキシエチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-(カルボキシメチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-(カルボキシメチル)-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-(カルボキシメチル)-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC1-6アルキル-C6-12アリール)フルオレンなど]などの単位が挙げられる。
【0034】
これらのジカルボン酸単位は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジカルボン酸単位は、用途に応じて選択でき、生分解性を向上できる点から、脂肪族ジカルボン酸単位(コハク酸、アジピン酸などのC2-6アルカン-ジカルボン酸単位など)であってもよく、耐熱性などを向上できる点から、芳香族ジカルボン酸単位(特にフルオレン骨格を有するジカルボン酸単位)であってもよい。
【0035】
(ジオール単位)
ジオール単位としては、例えば、脂肪族ジオール単位、脂環族ジオール単位、芳香族ジオール単位などが挙げられる。
【0036】
脂肪族ジオール単位としては、例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2-10アルカンジオールなど)、ポリアルカンジオール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2-4アルカンジオールなど)などの単位が挙げられる。
【0037】
脂環族ジオール単位としては、例えば、シクロアルカンジオール(例えば、シクロヘキサンジオールなどのC5-8シクロアルカンジオール)、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1-4アルキル)C5-8シクロアルカンなど)、イソソルビドなどの単位が挙げられる。
【0038】
芳香族ジオール単位としては、例えば、ジヒドロキシアレーン(例えば、ヒドロキノン、レゾルシノールなど)、ジ(ヒドロキシアルキル)アレーン(例えば、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1-4アルキル)C6-10アレーンなど)、ビスフェノール類(例えば、ビフェノール、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1-10アルカンなど)、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加体、フルオレン骨格を有するジオールなどの単位が挙げられる。
【0039】
さらに、前記フルオレン骨格を有するジオール単位としては、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を有するジオール化合物、例えば、下記式(1)で表されるジオールの単位が挙げられる。
【0040】
【化1】
【0041】
(式中、環Zはアレーン環、Rはアルキレン基、R及びRは置換基を示し、nは0又は1以上の整数、kは0~4の整数、mは0又は1以上の整数である)。
【0042】
前記式(1)において、環Zで表されるアレーン環として、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環[例えば、縮合二環式アレーン(例えば、ナフタレン環などの縮合二環式C10-16アレーン)環などの縮合二乃至四環式アレーン環など]、環集合アレーン環[ビアレーン環(例えば、ビフェニル環、ビナフチル環)などのビC6-12アレーン環など]などが含まれる。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよい。好ましいアレーン環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などが挙げられる。
【0043】
前記式(1)において、アルキレン基Rとしては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基などのC2-6アルキレン基などが例示できる。なお、mが2以上の整数である場合、アルキレン基Rの種類は、同一又は異なっていてもよい。また、アルキレン基Rの種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0044】
オキシアルキレン基(OR)の数mは、例えば、0~15の整数(例えば、0~10の整数)程度の範囲から選択でき、例えば、0~8(例えば、1~8)の整数、好ましくは0~4(例えば、1~4)の整数、特に0~3(例えば、1~3)程度の整数であってもよく、通常、0~2の整数(例えば、0又は1)であってもよい。
【0045】
基[HO-(RO)-]は、環Zの適当な位置に置換でき、例えば、環Zがベンゼン環である場合には、フェニル基の2~4-位(特に、3-位又は4-位)に置換している場合が多く、環Zがナフタレン環である場合には、ナフチル基の5~8-位に置換している場合が多く、例えば、フルオレンの9-位に対してナフタレン環の1-位又は2-位が置換し(1-ナフチル又は2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5-位、2,6-位などの関係で基[HO-(RO)-]が置換している場合が多い。また、環集合アレーン環Zにおいて、基[HO-(RO)-]の置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9-位に結合したアレーン環及び/又はこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環Zの3-位又は4-位がフルオレンの9-位に結合していてもよく、ビフェニル環Zの4-位がフルオレンの9-位に結合しているとき、基[HO-(RO)-]の置換位置は、2-,3-,2’-,3’-,4’-位のいずれであってもよく、通常、2-,3’-,4’-位、好ましくは2-,4’-位(特に、2-位)に置換していてもよい。
【0046】
前記式(1)において、置換基Rとしては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのC1-6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5-8シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6-10アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基などのC1-6アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5-8シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基);アルキルチオ基(メチルチオ基などのC1-8アルキルチオ基など);アシル基(アセチル基などのC1-6アルキル-カルボニル基など);アルキルオキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1-4アルキルオキシ-カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基など);ジアルキルカルボニルアミノ基(例えば、ジアセチルアミノ基などのジC1-4アルキル-カルボニルアミノ基など)などが例示できる。
【0047】
代表的な置換基Rとしては、C1-6アルキル基(特にメチル基)、C6-10アリール基(特にフェニル基)、C6-8アリール-C1-2アルキル基、C1-4アルコキシ基などが挙げられる。なお、置換基Rがアリール基であるとき、置換基Rは、環Zとともに、前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換基Rの種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0048】
置換数nは、環Zの種類などに応じて適宜選択でき、0~8程度の整数であってもよく、例えば0~4の整数、好ましくは0~3(例えば0~2)の整数、特に0又は1であってもよい。特に、nが1である場合、環Zがベンゼン環、ナフタレン環又はビフェニル環、置換基Rがメチル基であってもよい。
【0049】
置換基Rとしては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基などのC1-6アルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6-10アリール基)などが挙げられる。置換基Rはアルキル基(例えば、C1-4アルキル基、特にメチル基などのC1-3アルキル基)などである場合が多い。置換数kは0~4(例えば0~3)の整数、好ましくは0~2の整数(例えば0又は1)、特に0である。なお、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよく、kが2以上である場合、置換基Rの種類は互いに同一又は異なっていてもよく、フルオレン環の2つのベンゼン環に置換する置換基Rの種類は同一又は異なっていてもよい。また、置換基Rの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2-位乃至7-位(2-位、3-位及び/又は7-位など)であってもよい。
【0050】
前記式(1)において、mが0である化合物としては、9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類{例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC6-12アリール)フルオレン、9,9-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-フェニル-3-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-12アリール-ヒドロキシC6-12アリール)フルオレン、9,9-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-メチル-3-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C1-4アルキル-ヒドロキシC6-12アリール)フルオレンなどが例示できる。
【0051】
前記式(1)において、mが1である化合物としては、9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)フルオレン類{例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(2-ヒドロキシプロポキシ)-1-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシC6-12アリール)フルオレン、9,9-ビス[4-フェニル-3-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[C6-12アリール-ヒドロキシC2-4アルコキシC6-12アリール]フルオレン、9,9-ビス[3-メチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-メチル-3-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[C1-4アルキル-ヒドロキシC2-4アルコキシC6-12アリール]フルオレンなど}などが例示できる。
【0052】
前記式(1)において、mが2以上の化合物としては、前記mが0又は1の化合物に対応し、オキシアルキレン基(特にオキシC2-4アルキレン基)の繰り返し単位mが2~5の化合物などが挙げられる。
【0053】
これらのジオール単位は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのジオール単位は、用途に応じて選択でき、生分解性を向上できる点から、脂肪族ジオール単位[例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのC2-6アルカンジオール(特にC2-4アルカンジオール)単位など]であってもよく、耐熱性などを向上できる点から、芳香族ジオール単位(特にフルオレン骨格を有するジオール単位)であってもよい。
【0054】
(コポリマー又はコポリエステルの特性)
本発明のコポリエステルは、3-ヒドロキシ酪酸単位と他のヒドロキシカルボン酸単位との組み合わせ、3-ヒドロキシ酪酸単位とジカルボン酸単位とジオール単位との組み合わせ、3-ヒドロキシ酪酸単位と他のヒドロキシカルボン酸単位とジカルボン酸単位とジオール単位との組み合わせのいずれの組み合わせで形成されていてもよい。これらのうち、コポリマーの特性を制御し易く、生産性にも優れる点から、3-ヒドロキシ酪酸単位とジカルボン酸単位とジオール単位との組み合わせが好ましい。
【0055】
本発明のコポリマー(特にコポリエステル)は、生分解性を向上できる点から、3-ヒドロキシ酪酸単位に加えて、脂肪族単位[例えば、C2-10アルカン骨格(特にC2-6アルカン骨格)を有する単位]を含んでいてもよい。3-ヒドロキシ酪酸単位を含む脂肪族単位の割合は、コポリマーの全構成単位に対して1モル%以上であってもよく、例えば10モル%以上、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上(特に90~100モル%)であってもよく、生分解性を向上できる点から、脂肪族単位のみ(100モル%)であってもよい。すなわち、本発明のコポリマー(特にコポリエステル)は、生分解性を向上できる点から、脂肪族コポリマー(特に脂肪族コポリエステル)であってもよい。脂肪族単位の割合が少なすぎると、生分解性が低下する虞がある。
【0056】
また、本発明のコポリマー(特にコポリエステル)は、耐熱性や機械的特性、光学特性などを改良するために、芳香族単位(特にフルオレン骨格を有する単位)を含んでいてもよく、芳香族単位の割合は、コポリマーの全構成単位に対して0.1モル%以上であってもよく、例えば1~50モル%、好ましくは2~30モル%(例えば3~20モル%)、さらに好ましくは4~15モル%(特に5~10モル%)であってもよい。
【0057】
コポリマー(特にコポリエステル)の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)で測定したとき、ポリスチレン換算で、1000以上であってもよく、例えば2000~200000(例えば3000~100000)、好ましくは4000~50000、さらに好ましくは5000~30000(特に6000~10000)程度であってもよい。分子量が小さすぎると、コポリマーの機械的特性が低下する虞がある。
【0058】
[生分解性コポリマーの製造方法]
本発明の生分解性コポリマーは、3-ヒドロキシ酪酸又はその反応性誘導体と他のモノマーとの混合物を重合させて得られる。本発明では、3-ヒドロキシ酪酸又はその反応性誘導体と他のモノマーとは混合すればよく、3-ヒドロキシ酪酸単位同士が結合したオリゴマー単位を形成するための工程を別工程として設ける必要がないため、混合して重合するだけの簡便な方法で生分解性コポリマーを製造できる。3-ヒドロキシ酪酸又はその反応性誘導体と他のモノマーとは、例えば、両モノマーを一括添加して又は別個に添加して混合した後、重合してもよい。
【0059】
3-ヒドロキシ酪酸の反応性誘導体としては、3-ヒドロキシ酪酸のアルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステルなどのC1-4アルキルエステルなど)、酸ハライド(例えば、酸クロライド、酸ブロマイドなど)などが挙げられる。
【0060】
コポリエステルを製造する場合、ヒドロキシアルカン酸単位を形成するためのモノマーとしては、ヒドロキシアルカン酸に加えて、その反応性誘導体(エステル形成性誘導体)も含まれる。反応性誘導体としては、例えば、前記アルキルエステル、前記酸ハライドなどが挙げられる。
【0061】
ジカルボン酸単位を形成するためのモノマーとしては、ジカルボン酸に加えて、その反応性誘導体も含まれる。反応性誘導体としては、例えば、酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸などの飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物;無水フタル酸などの芳香族ジカルボン酸無水物など)、前記アルキルエステル、前記酸ハライドなどが挙げられる。
【0062】
コポリエステルを製造するための反応は、無触媒であってもよく、特定の触媒に限定されず、慣用の触媒を利用してもよい。触媒としては、例えば、金属触媒[例えば、アルカリ金属(ナトリウムなど)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)、遷移金属(マンガン、亜鉛、カドミウム、鉛、コバルト、チタンなど)、周期表第13族金属(アルミニウムなど)、周期表第14族金属(ゲルマニウム、スズなど)、周期表第15族金属(アンチモンなど)などを含む金属化合物など]、塩基触媒(例えば、第三級アミン類(トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン類、第4級アンモニウム塩(塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムハライド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムハライドなど)など)、酸触媒[例えば、無機酸(例えば、硫酸、塩化水素(又は塩酸)、硝酸、リン酸など)、有機酸(例えば、スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのアレーンスルホン酸)など)など]などが挙げられる。金属化合物としては、例えば、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩など)、無機酸塩(ホウ酸塩、炭酸塩など)、金属酸化物(酸化ゲルマニウムなど)、金属塩化物(塩化スズなど)、金属アルコキシド(チタンテトラアルコキシド、チタンテトラt-ブトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、亜鉛t-ブトキシド、カリウムt-ブトキシドなど)、アルキル金属(トリアルキルアルミニウムなど)などが例示できる。これらの触媒は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0063】
触媒の使用量は、例えば、全モノマー100モルに対して0.001~1モル、好ましくは0.005~0.5モル、さらに好ましくは0.01~0.1モル程度である。
【0064】
コポリエステルは、前記モノマーを縮合重合させることにより製造できる。重合方法(製造方法)としては、慣用の方法、例えば、溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などを利用できる。
【0065】
反応は、重合方法に応じて、溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、炭化水素類(ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、トルエンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素など)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテートなどのC1-4アルキルセロソルブアセテートなど)などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
反応は、通常、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うことができる。また、反応は、常温下又は減圧下で行ってもよく、生成する水などを反応系外に留出しつつ、行ってもよい。
【0067】
反応温度は、例えば70~250℃、好ましくは150~240℃、さらに好ましくは180~230℃程度であってもよい。反応時間は、特に限定されず、例えば、30分~48時間、通常、1~36時間程度であってもよい。
【0068】
また、反応終了後、コポリエステルは、慣用の分離方法、例えば、反応生成物を貧溶媒により再沈殿する方法により分離精製してもよい。
【0069】
得られた生分解性コポリマー(特にコポリエステル)は、生分解に優れるだけでなく、機械的特性に優れるため、各種の成形法(押出成形法、射出成形法などの慣用の成形方法)によって成形体を作製できる。
【実施例
【0070】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、得られたコポリマーの特性及び評価は以下のようにして測定した。
【0071】
(分子量)
重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(東ソー(株)製「HLC-8320GPC」)を用い、試料をクロロホルムに溶解させ、ポリスチレン換算で測定した。
【0072】
(3-ヒドロキシ酪酸単位の割合)
3-ヒドロキシ酪酸単位は、H-NMR(ブルカーバイオスピン(株)製「AVANCE III HD 300MHz」)を用いてCDClに溶解させ、5.2ppm近傍のエステル化による化学シフト変化を見ることで定量した。
【0073】
(好気条件での生分解性)
試験体である各ポリエステルについて、JIS K6950のプラスチック-活性汚泥による好気的生分解度試験方法に準拠し、好気条件下で28日後の分解性(分解率)を測定した。
【0074】
(嫌気条件での生分解性)
試験体である各ポリエステル0.5gをメタン発酵汚泥40mlに添加し、55℃の高温嫌気条件下で20日後の分解性(バイオガス化率)を測定した。なお、「20日間」という処理時間は、一般的なバイオガス化プラントで採用されている処理時間である。
【0075】
比較例1(PBS)
コハク酸35.4g(0.30モル)、1,4-ブタンジオール28.4g(0.32モル)、GeO33mgを200mLフラスコに投入し、窒素フロー下、180℃で1時間加熱した。その後、徐々に減圧しながら220℃まで昇温し、220℃で3時間加熱してコポリエステルを得た。得られたポリエステルの重量平均分子量Mwは8190であった。
【0076】
実施例1(PBS+3HB5%)
コハク酸35.4g(0.30モル)、1,4-ブタンジオール28.4g(0.32モル)、(R)-3-ヒドロキシ酪酸2.98g(0.11モル)、GeO33mgを200mLフラスコに投入し、窒素フロー下、180℃で1時間加熱した。その後、徐々に減圧しながら220℃まで昇温し、220℃で3時間加熱してコポリエステルを得た。得られたコポリエステルの重量平均分子量Mwは6480であった。また、コポリエステルの構成単位のうち、(R)-3-ヒドロキシ酪酸単位の割合は4.6モル%であった。
【0077】
実施例2(PBS+3HB10%)
(R)-3-ヒドロキシ酪酸の配合割合を5.96g(0.22モル)に変更する以外は実施例1と同様の方法でコポリエステルを得た。得られたコポリエステルの重量平均分子量Mwは5790であった。また、コポリエステルの構成単位のうち、(R)-3-ヒドロキシ酪酸単位の割合は8.7モル%であった。
【0078】
比較例2(PBSA)
PBSAの市販品(昭和電工(株)製「ビオノーレ3020MD」)を用いた。
【0079】
実施例3(PBSA+3HB5%)
コハク酸35.4g(0.30モル)の代わりにコハク酸17.7g(0.15モル)とアジピン酸21.9g(0.15モル)との混合物を用いる以外は実施例1と同じ方法で重合した。得られたコポリエステルの重量平均分子量Mwは6820であった。また、コポリエステルの構成単位のうち、(R)-3-ヒドロキシ酪酸単位の割合は4.6モル%であった。
【0080】
比較例3(BPEF)
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、BPEF)自体を生分解性試験に供した。
【0081】
実施例4(PBS+BPEF+3HB5%)
1,4-ブタンジオール28.4g(0.32モル)の代わりに1,4-ブタンジオール25.6g(0.28モル)とBPEF13.8g(0.03モル)との混合物を用いる以外は実施例1と同様の方法で重合した。得られたコポリエステルの重量平均分子量Mwは6460であった。また、コポリエステルの構成単位のうち、(R)-3-ヒドロキシ酪酸単位の割合は4.6モル%であった。
【0082】
実施例及び比較例で得られたポリエステル又はBPEFについて、好気条件下及び嫌気条件下で生分解性を評価した結果を、それぞれ図1及び2に示す。
【0083】
図1の結果から明らかなように、好気条件下において、PBSでは、3HBを約5%含むことにより分解率が2.9倍向上し、3HBを約10%含むことにより分解率が7.3倍向上した。また、PBSAでは、3HBを約5%含むことにより分解率が8.5倍向上し、PBSA+BPEFでは、3HBを約5%含むことにより非分解性プラスチックに分解性を付与できた。
【0084】
一方、図2の結果から明らかなように、嫌気条件下において、PBSでは、3HBを約5%含むことにより分解率が1.8倍向上し、3HBを約10%含むことにより分解率が3.3倍向上した。また、PBSAでは、3HBを約5%含むことにより分解率が10倍向上し、PBSA+BPEFでは、3HBを約5%含むことにより非分解性プラスチックに分解性を付与できた。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の生分解性コポリマーは、高い生分解性を有するため、各種の分野、例えば、塗料、帯電防止剤、インキ、接着剤、粘着剤、電気・電子材料(例えば、キャリア輸送剤、発光体、有機感光体など)、電気・電子部品又は機器(例えば、光学レンズ、光学フィルム、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池など)、機械部品又は機器(例えば、自動車、航空・宇宙材料、センサなど)などに利用できる。特に、機械的特性が高いため、押出成形、射出成形などによって容易に成形でき、各種分野の成形部材(例えば、ケーシング、ハウジングなどの成形体)、容器(食品、日用品、電気、電子機器及び部品などの容器)、フィルムやシートなどの包装材料などに好適に利用できる。また、近年新たな問題となっているマイクロプラスチックの問題も、高い生分解性を活かして解決できる。なお、コポリマーは、3HB由来の骨格を含み、生体適合性も有するため、医療分野(例えば、医療機器など)にも利用できる。
図1
図2