(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】動力伝達装置及び破砕装置
(51)【国際特許分類】
F16H 35/10 20060101AFI20220112BHJP
F16D 7/02 20060101ALI20220112BHJP
B02C 18/24 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
F16H35/10 L
F16H35/10 A
F16D7/02 B
B02C18/24
(21)【出願番号】P 2017101184
(22)【出願日】2017-05-22
【審査請求日】2019-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境サ-ビス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【氏名又は名称】河崎 眞一
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕也
(72)【発明者】
【氏名】白井 淳彦
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223419(JP,A)
【文献】特開昭62-224766(JP,A)
【文献】特開昭63-240386(JP,A)
【文献】特開2002-106696(JP,A)
【文献】特開2009-108942(JP,A)
【文献】特開平8-303485(JP,A)
【文献】特開2011-68242(JP,A)
【文献】特公平5-7582(JP,B2)
【文献】特許第5967291(JP,B2)
【文献】特開2004-115002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 35/10
F16D 7/02
B02C 18/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機からの動力を被動機に伝達する変速機構と、前記変速機構に組み込まれ前記被動機側のトルクが所定トルク以上になるとクラッチ板が摺動することで前記変速機構による動力伝達を阻止するクラッチ式トルクリミッタと、前記クラッチ式トルクリミッタの作動状態を検知する滑り検出機構とを備えた動力伝達装置であって、
前記滑り検出機構は、前記変速機構の入力軸及び出力軸にそれぞれ設けられた一対のエンコーダと、一方のエンコーダの出力パルスの1周期、1周期のオン時間または1周期のオフ時間に検出される他方のエンコーダの出力パルス数を計測する第1滑り計測部と、前記一方のエンコーダの出力パルスが所定の複数周期検出される間に検出される前記他方のエンコーダの出力パルス数を計測する第2滑り計測部と、前記第1滑り計測部または前記第2滑り計測部で計測されたパルス数に基づいて、何れか一方で滑り判定すると前記クラッチ式トルクリミッタが作動していると判定する滑り判定部と、を備えている動力伝達装置。
【請求項2】
前記一対のエンコーダは、それぞれ歯車と前記歯車の歯部の通過を非接触で検知する歯部検知器とで構成され、前記入力軸及び出力軸のうち回転数が低い方に前記一方のエンコーダが設けられ、前記一方のエンコーダの歯車の歯のピッチは前記他方のエンコーダの歯車の歯のピッチより密に構成されている、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記一方のエンコーダの外径が前記他方のエンコーダの外径よりも大きい、請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記変速機構の入力軸と前記駆動機の出力軸を連結する継手機構、及び前記変速機構の出力軸と被動機の入力軸とを連結する継手機構のそれぞれに前記エンコーダを構成する歯車が回転可能に組み込まれている、請求項2または3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記クラッチ式トルクリミッタが油圧駆動されるクラッチ式トルクリミッタであり、前記滑り判定部は少なくとも前記クラッチ式トルクリミッタの作動油の圧力が所定圧力に立ち上がった後に滑り判定を実行するように構成されている、請求項1から
4の何れかに記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記滑り判定部で前記クラッチ式トルクリミッタが作動していると判定した後に、その状態のクラッチ板の滑り量を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された滑り量に基づく累積滑り量に基づいて前記クラッチ式トルクリミッタの寿命を判定する寿命判定部を備えている、請求項1から
5の何れかに記載の動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1から
6の何れかに記載の動力伝達装置が組み込まれている破砕装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置及び破砕装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動機からの動力を被動機に伝達する変速機構と、前記変速機構に組み込まれ前記被動機側のトルクが所定トルク以上になると前記変速機構による動力伝達を阻止するクラッチ式トルクリミッタと、前記クラッチ式トルクリミッタの作動状態を検知する滑り検出機構とを備えた動力伝達装置が開示されている。
【0003】
当該動力伝達装置は、変速機構の入力軸及び出力軸の回転数を検知するエンコーダを備え、当該コーダの出力に基づいて、所定時間内の入力軸及び出力軸の回転数の比または差が所定の閾値を超えたときに、トルクリミッタが作動したと判断するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献1に記載された動力伝達装置では、入力軸及び出力軸の同相の変動が生じたときに誤検出を回避することができるが、回転数を正確に検出するためにある程度の時間を要し、実際にトルクリミッタが作動したと判断するまでの間の時間が長くなり、それだけクラッチ板の摩耗が進むという問題がった。
【0006】
そこで、エンコーダにより検出されるパルス周期から回転数を予測演算すると、ジッタなどの影響をうけて誤判定する虞があり、正確に検出することが困難となっていた。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑み、クラッチ式トルクリミッタの作動状態を迅速かつ正確に検知することができる動力伝達装置及び破砕装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明による動力伝達装置の第一特徴構成は、駆動機からの動力を被動機に伝達する変速機構と、前記変速機構に組み込まれ前記被動機側のトルクが所定トルク以上になるとクラッチ板が摺動することで前記変速機構による動力伝達を阻止するクラッチ式トルクリミッタと、前記クラッチ式トルクリミッタの作動状態を検知する滑り検出機構とを備えた動力伝達装置であって、前記滑り検出機構は、前記変速機構の入力軸及び出力軸にそれぞれ設けられた一対のエンコーダと、一方のエンコーダの出力パルスの1周期、1周期のオン時間または1周期のオフ時間に検出される他方のエンコーダの出力パルス数を計測する第1滑り計測部と、前記一方のエンコーダの出力パルスが所定の複数周期検出される間に検出される前記他方のエンコーダの出力パルス数を計測する第2滑り計測部と、前記第1滑り計測部または前記第2滑り計測部で計測されたパルス数に基づいて、何れか一方で滑り判定すると前記クラッチ式トルクリミッタが作動していると判定する滑り判定部と、を備えている点にある。
【0009】
変速機構の入力軸及び出力軸にそれぞれ設けられた一対のエンコーダの出力パルス相互の関係に基づいて相対的に滑り検出される。第1滑り計測部では、一方のエンコーダの出力パルスの1周期、1周期のオン時間またはオフ時間に検出される他方のエンコーダの出力パルス数が計測され、滑り判定部では当該1周期、1周期のオン時間またはオフ時間の出力パルス数に基づいて滑りが生じたか否かが判定されるので、大きな滑りが生じた場合に極めて迅速な検出が可能になる。
【0010】
第2滑り計測部では、一方のエンコーダが所定回転する間に検出される他方のエンコーダの出力パルス数が計測され、少ない滑りが生じた時でもその累積値として把握される。滑り判定部では、当該所定回転する間の出力パルス数の累積値に基づいて滑りが生じたか否かが判定されるので、僅かな滑りが継続していても正確に判定できるようになる。そして、滑り判定部では、第1滑り計測部または第2滑り計測部の何れか一方で計測されたパルス数に基づいて、何れか一方で滑りが発生したと判定すると、クラッチ式トルクリミッタが作動していると判定するので、極めて迅速且つ正確に滑り判定できるようになる。
【0011】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記一対のエンコーダは、それぞれ歯車と前記歯車の歯部の通過を非接触で検知する歯部検知器とで構成され、前記入力軸及び出力軸のうち回転数が低い方に前記一方のエンコーダが設けられ、前記一方のエンコーダの歯車の歯のピッチは前記他方のエンコーダの歯車の歯のピッチより密に構成されている点にある。
【0012】
入力軸及び出力軸のうち回転数が低い方に設けられた歯車の歯のピッチが、回転数が高い方に設けられた歯車の歯のピッチよりも密に構成されていると、回転数が低い方の一方のエンコーダの出力パルスの1周期に歯部検知器で検出される他方のエンコーダの出力パルス数がさほど多くならないため、パルス数の検出のための高速の演算部を備える必要が無く、演算部を安価に構成できる。
【0013】
同第三の特徴構成は、上述の第二の特徴構成に加えて、前記一方のエンコーダの外径が前記他方のエンコーダの外径よりも大きい点にある。
【0014】
回転数が低い方の一方のエンコーダとして、径の大きな歯車を設けることができ、それに伴い歯部検知部で検知可能な歯のピッチを小さくして回転状態の検出精度を高めることができるとともに、より早期に滑りを検出することができる。
【0015】
同第四の特徴構成は、上述の第二または第三の特徴構成に加えて、前記変速機構の入力軸と前記駆動機の出力軸を連結する継手機構、及び前記変速機構の出力軸と被動機の入力軸とを連結する継手機構のそれぞれに前記エンコーダを構成する歯車が回転可能に組み込まれている点にある。
【0016】
軸を連結する継手機構に歯車を回転可能に組み込むことにより、既設の機器の回転を検知する場合でも大掛かりな改造を伴うことなくエンコーダを取り付けることができ、またエンコーダを継手機構のケーシングで保護できるので、エンコーダ専用の保護用ケーシングを設ける必要もなくなる。
【0017】
同第五の特徴構成は、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記クラッチ式トルクリミッタが油圧駆動されるクラッチ式トルクリミッタであり、前記滑り判定部は少なくとも前記クラッチ式トルクリミッタの作動油の圧力が所定圧力に立ち上がった後に滑り判定を実行するように構成されている点にある。
【0018】
作動油の圧力が所定圧力に立ち上がったことを以ってクラッチ式トルクリミッタのクラッチ板が適切に加圧された状態、つまり通常のトルクで滑りが生じない状態になったと判断して、その後滑り判定を実行するので、作動油の圧力が所定圧力に立ち上がる前の誤判定を回避することができる。
【0019】
同第六の特徴構成は、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記滑り判定部で前記クラッチ式トルクリミッタが作動していると判定した後に、その状態のクラッチ板の滑り量を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された滑り量に基づく累積滑り量に基づいて前記クラッチ式トルクリミッタの寿命を判定する寿命判定部を備えている点にある。
【0020】
滑り判定部でクラッチ式トルクリミッタが作動していると判定されている間のクラッチ板の滑り量が記憶部に記憶されることにより、過去の累積滑り量を求めることができる。その結果、寿命判定部によって、クラッチ板の摩耗の程度が把握され、クラッチ式トルクリミッタの寿命が判定されるので、適切な時期に必要なメンテナンスが行なえるようになる。
【0021】
本発明による破砕装置の特徴構成は、上述した第一から第六の何れかの特徴構成を備えた動力伝達装置が組み込まれている点にある。
【発明の効果】
【0022】
以上説明した通り、本発明によれば、クラッチ式トルクリミッタの作動状態を迅速かつ正確に検知することができる動力伝達装置及び破砕装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)は本発明による破砕装置の平面視の説明図、(b)は左側面図、(c)は右側面図、(d)は
図1(a)のA-A線断面の要部説明図
【
図3】減速機構に組み込まれたクラッチ式トルクリミッタの説明図
【
図4】クラッチ式トルクリミッタを駆動する油圧回路の説明図
【
図5】(a)は滑り検出機構の説明図、(b)はエンコーダの説明図
【
図6】(a)はエンコーダ72の出力パルスの説明図、(b)は滑りが生じていないときのエンコーダ71,72の出力パルスの説明図、(c)は滑りが生じているときのエンコーダ71,72の出力パルスの説明図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明による動力伝達装置及び動力伝達装置が組み込まれた破砕装置の好ましい実施形態を説明する。
[破砕装置の構成]
図1(a)~(d)には、被動機となる破砕装置の一例である二軸破砕装置1の要部が示されている。二軸破砕装置1は、略直方体の本体フレーム2の左右長手方向両端部に配された軸受3で支持され、互いに平行姿勢に配された一対の破砕軸4を備えている。
【0025】
本体フレーム2の一端側に変速機構としての減速機構10の出力軸12(
図2参照。)と連結する継手機構としてのカップリングC2が設けられている。カップリングC2を介して入力された駆動力は二軸破砕装置1の入力軸6に備えたギアを介して一方の破砕軸4を駆動する駆動軸7に駆動連結され、駆動軸7に備えたギア7Aが他方の破砕軸4に備えたギア7Bと噛合して、一対の破砕軸4が互いに反対方向に回転するように駆動連結されている。
【0026】
破砕軸4には、破砕軸4と一体回転する複数枚の刃体5がその軸心Pに沿って所定ピッチで配されている。刃体5は、外周部に5つのフック部5Aが等間隔に形成された複数枚の金属板で構成され、破砕軸4の上方空間から投入された被破砕物を一対の破砕軸4の内側に巻き込むように互いに反対方向に回転駆動される。互いの破砕軸4に固定された刃体5の噛み合い領域が破砕部となる。
【0027】
図示していないが、本体フレーム2の上部には破砕部に向けて被破砕物を押し込む油圧駆動式のプッシャ機構(
図4中、符号40参照)が設けられている。刃体5で破砕された被破砕物は、下部の回収部に落下回収される。なお、刃体5に備えたフック部5Aの数は5つに限定されるものではなく、3つや7つなど、被破砕物に応じて適宜選択される。また、1軸のセンター部にフック部5Aの数が3つの刃体5が配置され、両サイド部にフック部5Aの数が7つの刃体5が配置されるようにしてもよい。両サイド部よりもセンター部にフック部5Aの数が少ない刃体が配置されることが好ましい。
【0028】
[減速機構の構造]
図2に示すように、減速機構10は、電動機からの動力が伝達される入力軸11と、破砕軸4へ動力を伝達する出力軸12と、入力軸11から出力軸12へ動力を伝達する複数段のギア機構と、クラッチ式のトルクリミッタ30などが一対の上下ケーシング19に収容されている。
【0029】
複数段のギア機構は、入力軸11の周面に形成された第1ギア13と、第1ギア13と噛合する第2ギア14と、第2ギア14に挿通された回転軸15と、回転軸15の周面に形成された第3ギア16と、第3ギア16と噛合する第4ギア17で構成されている。第4ギア17は、中央に開孔が形成され軸受18を介して出力軸12に嵌挿されている。
【0030】
[トルクリミッタの構造]
図3に示すように、トルクリミッタ30は、回転軸15からの伝達動力で回転する環状の摩擦プレート21と、摩擦プレート21との摩擦力で出力軸12に動力伝達する環状の加圧プレート22とが、出力軸12の軸心周りに配置され、出力軸12側の要求トルクが設定トルク以上になると摩擦プレート21と加圧プレート22が滑り、設定トルク未満になると摩擦プレート21と加圧プレート22が一体に回転して出力軸12に動力伝達されるように加圧プレート22を摩擦プレート21に圧接する加圧機構26(26A~26D)を備えている。
【0031】
出力段のギアである第4ギア17の一側面に、摩擦プレート21と加圧プレート22及び加圧プレートの支持部23を収容可能な環状凹部17Aが形成され、支持部23には、加圧プレート22と摩擦プレート21を交互に整列配置した状態で保持するストッパ25と、摩擦プレート21と加圧プレート22を出力軸12の軸心に平行な方向に圧接する加圧機構26が設けられている。
【0032】
摩擦プレート21の内周側に形成された歯部21Aと環状凹部の側壁に形成された溝部17Bがスプライン結合され、摩擦プレート21が第四ギア17に対して一体回転するとともに出力軸12の軸心方向に移動可能に配置されている。
【0033】
加圧プレート22の外周側に形成された歯部22Aと支持部23の側壁に形成された溝部23Aがスプライン結合され、加圧プレート22が支持部23に対して一体回転するとともに出力軸12の軸心方向に移動可能に配置されている。
【0034】
さらに、支持部23は、中央に出力軸12を挿嵌可能な開孔が形成され、出力軸12の周囲に形成された溝部17Cと、支持部23の内周に形成された溝部23Cが噛み合い一体回転するように構成されている。
【0035】
加圧機構26は、支持部23に形成された環状のシリンダ部と、シリンダ部内に配置され出力軸12の軸心と平行な方向に移動可能に環状のピストン26Aとピストン26Aを軸心方向に作動する作動油を注入する油圧室26Bとで構成されている。
【0036】
ピストン26Aの周面には、周面に沿って溝が設けられ、当該溝にシール部材26C,26Dが挿入されている。これらのシール部材26C,26Dにより油圧室26Bが油密保持されている。
【0037】
出力軸12の周部には加圧機構26の油圧室26Aに作動油を供給する作動油路17Aが軸心と平行な方向に沿って形成されている。トルクリミッタ20の外部から作動油路17Aを経て油圧室26B内に作動油が供給され、ピストン26Aを出力軸12の軸心と平行な方向に移動させることで加圧プレート22と摩擦プレート21が圧接される。
【0038】
さらに出力軸12には、環状凹部17Aの内側側壁と支持部23の間隙27から摩擦プレート21と加圧プレート22の接合部に冷却油を供給する冷却油路17Bが形成されている。尚、供給された冷却油は摩擦プレート21と加圧プレート22の外周縁からケーシング19内に漏れるように構成されている。
【0039】
作動油及び冷却油は、それぞれケーシング19に備えた給油口17D,17Eから供給される。出力軸12は、ケーシング19に対して相対回転するので、作動油路17A及び冷却油路17Bに作動油及び冷却油を供給するために、出力軸12の全周に亘って給油溝17F,17Gが形成されている。供給口17D,17Eから供給された作動油及び冷却油は、それぞれ給油溝17F,17Gから作動油路17A及び冷却油路17Bに供給される。
【0040】
図4に示すように、冷却油はケーシング19内に溜まった後にオイルポンプ60により循環供給される。作動油は油圧ポンプ50より押込プッシャ40に備えた油圧シリンダ41を進退作動させる圧油の供給配管51から分岐した供給配管52により供給される。供給配管51には、押込プッシャ40を進退駆動する方向制御弁54が設けられている。また、供給配管52に圧力センサを備えた減圧弁53を備え、加圧機構26に対する作動油の供給圧力を変更することで、加圧プレート22と摩擦プレート21の圧接力を調整可能に構成されている。尚、供給配管51,52には図示しないリリーフ弁やシーケンス弁が適宜設けられている。
【0041】
即ち、駆動機からの動力を被動機に伝達する減速機構10と、減速機構10に組み込まれ被動機側のトルクが所定トルク以上になると減速機構による動力伝達を阻止するクラッチ式のトルクリミッタ30を備えた動力伝達装置が構成されている。当該動力伝達装置には、さらにトルクリミッタ30の作動状態を検知する滑り検出機構70を備え、クラッチ板となる摩擦プレート21と加圧プレート22の摩耗を極力回避するように構成されている。
【0042】
[滑り検出機構の構造]
図5(a)に示すように、電動機Mと減速機10の入力軸11とが継手機構としての入力側カップリングC1を介して駆動連結され、二軸破砕装置1の入力軸6と減速機10の出力軸12とが継手機構としての出力側カップリングC2を介して駆動連結されている。入力側カップリングC1にエンコーダ72が入力軸11と一体回転可能に取り付けられ、出力側カップリングC2にエンコーダ71が出力軸12と一体回転可能に取り付けられている。なお、入力軸カップリングC1の外径よりも出力側カップリングC2の外径が大きくなるように設定されている。
【0043】
エンコーダ71,72の出力は、第1滑り計測部73及び第2滑り計測部74に入力され、その検出結果が滑り判定部75に入力され、滑りが生じているか否かが判定される。第1滑り計測部73は、一方のエンコーダ71の出力パルスの1周期に検出される他方のエンコーダ72の出力パルス数を計測して、計測したパルス数を滑り判定部75に出力する。第2滑り計測部74は、一方のエンコーダ71が取り付けられた軸が所定回転する間に検出される他方のエンコーダ72の出力パルス数を計測して、計測したパルス数を滑り判定部75に出力する。滑り判定部75は、第1滑り計測部73または第2滑り計測部74で計測されたパルス数の何れか一方が予め設定された所定の閾値より多くなると、クラッチ式トルクリミッタが作動していると判定し、当該パルス数と閾値との差分値を滑り量として算出して、その値を記憶部に記憶する。
【0044】
第1滑り計測部73、第2滑り計測部74、滑り判定部75などは、二軸破砕装置1に備えたPLC(programmable logic controller)で構成される制御装置に組み込まれており、滑り判定部75によってクラッチ式トルクリミッタが作動していると判定されると、当該制御装置によって直ちに電動機が停止される。このとき、同時に警報を発し、或いは表示部に警告表示してもよい。
【0045】
図5(b)に示すように、エンコーダ71,72は、それぞれ金属歯車71A,72Aと、金属歯車71A,72Aの歯部の通過を検知する歯部検知器としてのホール素子71B,72Bとで構成されている。本実施形態では、減速機10の減速比が19.24に設定され、金属歯車71Aの外径が金属歯車72Aの外径よりも大きく設定され、金属歯車71Aの歯数が32、金属歯車72Aの歯数が7に設定されている。なお、歯部検知器としては、ホール効果を利用して磁界を検出するホール素子以外に、非接触で歯車の歯部を検知できる任意のセンサを用いることができる。そのようなセンサとして金属の歯部を検知する誘導形センサ、静電容量の変化を検知する静電容量形センサ、超音波形センサ、光電形センサ、磁器による直流磁界を利用した磁気形センサなどの近接センサを用いることも可能である。そして、歯車71A,72Aとして金属製の歯車を説明したが、超音波センサや光電形センサなどを用いる場合には、金属製以外の歯車、例えば樹脂製の歯車を用いることも可能である。
【0046】
カップリングとして、例えば、連結対象となる一対の軸にそれぞれ嵌着する一対のスリーブと、スリーブの一端に形成されたフランジを備え、フランジ同士をボルト固定するような構成を採用する場合には、金属歯車をスリーブに外嵌した状態でフランジにボルト固定すればよい。金属歯車を含むエンコーダがカップリングのケーシング内に収容されるので、既設の機器の回転を検知する場合でも大掛かりな改造を伴うことなくエンコーダを取り付けることができ、またエンコーダを継手機構のケーシングで保護できるので、エンコーダ専用の保護用ケーシングを設ける必要もなくなる。
【0047】
金属歯車71A,72Aを径方向に分割された分割構造で構成すれば、軸に対する取り付け作業が容易になり、例えば既設のカップリングに共締めすることで、後から取り付けることも可能となる。
【0048】
本実施形態では、入力軸11が19.24回転する間に出力軸12が1回転するため、エンコーダ71の金属歯車71Aが1回転する間にホール素子71Bによって32パルスが検出される。そして、エンコーダ71の金属歯車71Aが1回転する間にエンコーダ72の金属歯車72Aは19.24回転し、ホール素子72Bによって134.68(=7×19.24)パルスが検出される。
【0049】
トルクリミッタに滑りが発生していない場合には、エンコーダ71のホール素子71Bによってパルスの立上りから次のパルスの立上りまでの1周期の間に、エンコーダ72のホール素子72Bによって4.2(=134.68/32)パルスが検知される。
【0050】
図6(a)には、エンコーダ72のホール素子72Bによって検出されるパルス波形が示されている。
図6(b)には、エンコーダ71のホール素子71Bによってパルスの立上りから次のパルスの立上りまでの1周期の間に、4パルスが発生する様子が示され、
図6(c)には、エンコーダ71のホール素子71Bによってパルスの立上りから次のパルスの立上りまでの1周期の間に、5パルスが発生する様子が示されている。厳密に言えば、第1滑り計測部73によって検出されるパルス数は整数値であるため、5パルス検出されると正常であり6パルス検出されると滑りが発生していると検出されることになる。
【0051】
そこで、第1滑り計測部73は、一方のエンコーダ71の出力パルスの1周期に検出される他方のエンコーダ72の出力パルス数を計測するように構成されている。また、第2滑り計測部74は、一方のエンコーダ71が取り付けられた軸が所定の閾値回転数(例えば1回転)回転する間に検出される他方のエンコーダ72の出力パルス数を計測するように構成されている。
【0052】
滑り判定部75は、第1滑り計測部73または第2滑り計測部74で計測されたパルス数に基づいて、何れか一方で滑り判定するとクラッチ式トルクリミッタが作動していると判定するように構成されている。
【0053】
具体的に、滑り判定部75は、第1滑り計測部73で計測されたパルス数が予め設定された第1閾値(例えば5パルス)より多いと滑りが生じていると判定して、その差分値を滑り量として計測する。さらに滑り判定部75は、第2滑り計測部74で検出された出力パルス数が予め設定された第2閾値(例えば140パルス)より多いと滑りが生じていると判定して、その差分値を滑り量として計測する。従って、滑り判定部75は、第1滑り計測部73または第2滑り計測部74で計測されたパルス数に基づいて、何れか一方で滑りが発生していると判断すると、クラッチ式トルクリミッタが作動していると判定することになる。
【0054】
滑り判定部75は、第1滑り計測部73で計測された一方のエンコーダ71の出力パルスの1周期に検出される他方のエンコーダ72の出力パルス数が所定の閾値より多くなった場合に滑り検出するため、大きな滑りが生じた場合に極めて迅速な検出が可能になる。また、第2滑り計測部74で計測された一方のエンコーダ71が所定回転する間に検出される他方のエンコーダ72の出力パルス数が所定の閾値より多くなった場合に滑り検出するため、少ない滑りが継続して生じた時でも極めて正確な検出が可能になる。そのため、滑り判定部75では、極めて迅速且つ正確に滑り判定できるようになる。
【0055】
さらに、滑り判定部75で滑り検出する閾値を可変に設定する閾値設定部76が設けられている。滑り検出するための判定閾値を低くすると、例えばジッタなどに過敏に反応して滑り発生との誤判定を招く虞があり、逆に判定閾値を高くすると滑っているにもかかわらず鈍感になって滑り未発生との誤判定を招くことになる。閾値設定部を備えていれば、動力伝達装置が動作する環境に応じて閾値を適切な値に可変に設定することができるようになる。
【0056】
例えば、上述の例では、第1閾値を5パルスに設定すると電動機に生じるジッタなどが原因で6パルス検出された場合に直ちに滑りが生じていると判定され、頻繁に電動機が停止される結果、効率的な破砕作業が滞る虞がある。そのため、例えば第1閾値を7パルスに設定することにより検出感度を鈍くして、電動機に生じるジッタなどが原因で6パルス検出されるような場合にはクラッチ式トルクリミッタに滑りが発生したとは検出されないように構成することができる。
【0057】
このように第1閾値を大きな値に設定すると、実際に僅かに滑りが生じている場合に第1滑り計測部73により計測された出力パルス数で滑り検出できない虞もある。そこで、閾値回転数や第2閾値を適切に設定することにより、第2滑り計測部74により計測された出力パルス数により適切に滑り検出できるようになる。第1滑り計測部73で瞬時の滑り検出が可能になり、第2滑り計測部74で累積的な滑り検出が可能になるのである。
【0058】
判定部75には、クラッチ式トルクリミッタ30が作動していると判定した後に、その状態の滑り量を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された滑り量を加算した累積滑り量に基づいてクラッチ式トルクリミッタの寿命を判定する寿命判定部を備えている。滑り量とは、第1滑り計測部73及び/または第2滑り計測部74で滑り検出されたときのパルス数と閾値との差分値である。
【0059】
滑り量が記憶部に記憶されることにより、過去の累積滑り量を求めることができる。その結果、寿命判定部によって、クラッチ板の摩耗の程度が把握され、クラッチ式トルクリミッタの寿命が判定されるので、適切な時期に必要なメンテナンスが行なえるようになる。寿命判定部の出力は図外の制御部に入力され、制御部の表示装置に表示される。
【0060】
このとき、寿命判定部は、滑り判定部75が滑り判定したときの電動機の駆動電流を加味してクラッチ式トルクリミッタの寿命を判定するように構成されていることが好ましい。クラッチ板の摩耗が進んで滑りが大きくなると、駆動機である電動機の負荷トルクが正常状態の負荷トルクと比較して極めて低くなる。この状態がどの程度であるかを駆動電流で推定するのである。
【0061】
例えば、トルクリミッタが作動した累積滑り量と、滑りが生じたときの電動機の駆動電流を定常時の駆動電流で正規化した値の逆数でなる重みを掛け合わせて、その値が所定の閾値より大きくなると摩擦板の交換時期であると判定するのである。
【0062】
なお、上述したクラッチ式トルクリミッタ30は、加圧機構26によって摩擦プレート21と加圧プレート22が圧接するまでに時間を要するため、誤判定を回避するため、減圧弁53に備えた圧力センサで検出される圧力が所定圧力に立ち上がった後に滑り判定を実行するように構成されていることが好ましい。
【0063】
さらに付言すると、図外の制御部は、二軸破砕装置1を起動する際に、先ず油圧ポンプ50を起動して減圧弁53に備えた圧力センサで検出される圧力が所定圧力に立ち上がった後に電動機を立ち上げるように制御し、二軸破砕装置1停止する際に、電動機を立ち下げた後に油圧ポンプ50を停止することで、起動時や停止時にクラッチ式トルクリミッタ30に滑りが生じないように制御されている。
【0064】
上述したように、減速機10の入力軸11及び出力軸12のうち回転数が低い方に一方のエンコーダ71が設けられ、一方のエンコーダ71の金属歯車の歯のピッチは他方のエンコーダの金属歯車の歯のピッチより密に構成されている。
【0065】
入力軸11及び出力軸12のうち回転数が低い方に設けられた金属歯車の歯のピッチが、回転数が高い方に設けられた金属歯車の歯のピッチよりも密に構成されていると、一方のエンコーダの出力パルスの1周期に検出される他方のエンコーダの出力パルス数がさほど多くならないため、第1滑り計測部73または第2滑り計測部74でパルス数の検出のための高速の演算部を備える必要が無く、演算部を安価に構成できる。
【0066】
以下に別実施形態を説明する。
【0067】
上述した実施形態では、第1滑り計測部73が一方のエンコーダの出力パルスの1周期に検出される他方のエンコーダの出力パルス数を計測する例を説明したが、第1滑り計測部73が一方のエンコーダの出力パルスの1周期のオン時間またはオフ時間の何れかに検出される他方のエンコーダの出力パルス数を計測するように構成してもよい。
【0068】
上述した実施形態では、滑り検出機構に第1滑り計測部73及び第2滑り計測部74を備え、滑り判定部で双方の何れかが滑り検出すれば滑りが発生していると判定する例を説明したが、滑り検出機構に第1滑り計測部73及び第2滑り計測部74の双方を設けるのではなく、第1滑り計測部73及び第2滑り計測部74の何れか一方のみを設けるように構成してもよい。
【0069】
上述した実施形態では、動力伝達装置が破砕装置に用いられる例を説明したが、破砕装置以外の被動機に用いられるものであってもよい。
【0070】
上述した実施形態では、破砕装置として二軸破砕装置を例に本発明を説明したが、破砕装置は二軸破砕装置に限るものではなく、駆動機の動力により所定軸心周りに回転する破砕ロータの周囲に固定された回転刃と、破砕ロータの回転軸心に沿って対向配置された固定刃で構成された破砕処理部を備え、破砕処理部で電化製品などの被破砕物を破砕する一軸破砕装置にも適用可能である。
【0071】
また、上述した実施形態では、変速機構として減速機構を用い、減速比が19.24である例を説明したが、減速比はこの値に限るものでないことは言うまでもない。また変速機構として減速機構以外に増速機構を用いる場合にも適用可能である。
【0072】
上述した実施形態では、トルクリミッタ30が湿式の多板式のトルクリミッタである場合について説明したが、摩擦プレートと加圧プレートの枚数は、破砕装置のトルクなどに対応して適宜選択すればよい。また、その場合必ずしも複数枚用いる必要はなく単数枚でもよい。さらに、トルクリミッタ30は乾式のトルクリミッタでもよく、摩擦プレートと加圧プレートの圧接力は空気圧や、バネの伸縮力等により調節するように構成してもよい。
【0073】
上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0074】
1:破砕装置
10:変速機構
30:クラッチ式トルクリミッタ
71,72:エンコーダ
73:第1滑り計測部
74:第2滑り計測部
75:滑り判定部