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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】速度検出装置及び速度検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/49 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
G01P3/49
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2017152721
(22)【出願日】2017-08-07
(65)【公開番号】P2019032215
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル、フランクル
(72)【発明者】
【氏名】アルダ、トウスズ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン、ベー.コラー
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中村 和人
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-16363(JP,A)
【文献】米国特許第5939879(US,A)
【文献】米国特許第6064315(US,A)
【文献】特開2008-256718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00- 3/80
G01B 7/00- 7/34
G01D 5/00- 5/252
G01D 5/39- 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流に応じた磁束を発生するn個(nは3以上の整数)の励磁コイルと、
前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する複数の検出コイルと、
前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧に基づいて、前記移動体の移動速度を推定する速度推定部と、
前記励磁コイルに電流を流す第1期間と、電流を流さない第2期間とを交互に設け、前 記速度推定部が前記移動体の移動速度を推定するのに必要な時間長さ以上に前記第1期間 を設定する電流制御部と、を備え、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が前記複数の検出コイルの少なくとも一つを鎖交するように配置される、速度検出装置。
【請求項17】
n個(nは3以上の整数)の励磁コイルにより、交流電流に応じた磁束を発生し、
複数の検出コイルにより、前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生し、
前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が前記複数の検出コイルの少なくとも一つを鎖交し、
前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧に基づいて、前記移動体の移動速度を推定 し、
前記励磁コイルに電流を流す第1期間と、電流を流さない第2期間とを交互に設け、前 記移動体の移動速度を推定するのに必要な時間長さ以上に前記第1期間を設定する、速度 検出方法。
【請求項18】
交流電流に応じた磁束を発生するn個(nは3以上の整数)の励磁コイルと、
前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する複数の検出コイルと、
前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧に基づいて、前記移動体の移動速度を推定する速度推定部と、を備え、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が前記複数の検出コイルの少なくとも一つを鎖交するように配置され、
前記n個の励磁コイルのうち一つの励磁コイルを除く他の励磁コイルと、前記複数の検 出コイルとは、前記一つの励磁コイルを挟んで第1方向の両側と、前記第1方向に交差す る第2方向の両側とに配置される、速度検出装置。
【請求項19】
交流電流に応じた磁束を発生するn個(nは3以上の整数)の励磁コイルと、
前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する複数の検出コイルと、
前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧に基づいて、前記移動体の移動速度を推定する速度推定部と、
前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が通過するヨークと、を備え、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が前記複数の検出コイルの少なくとも一つを鎖交するように配置され、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記ヨークの周囲に配置され、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルのうち一部のコイルは、前記ヨークの 第1幅方向に巻回され、残りの少なくとも一部のコイルは、前記ヨークの前記第1幅方向 に交差する第2幅方向に巻回されている、速度検出装置。
【請求項20】
交流電流に応じた磁束を発生するn個(nは3以上の整数)の励磁コイルと、
前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する複数の検出コイルと、
前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧に基づいて、前記移動体の移動速度を推定する速度推定部と、
前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が通過するヨークと、を備え、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が前記複数の検出コイルの少なくとも一つを鎖交するように配置され、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記ヨークの周囲に配置され、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記ヨークの一方向に沿って配置 されており、
前記一方向の両側に2つの前記検出コイルが配置されており、
前記2つの検出コイルの間に前記n個の励磁コイルが配置されている、速度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で速度を検出する速度検出装置と、浮遊磁界抑制方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
非接触式の速度センサは、機械加工、組み立て、移動体など、広範囲の産業分野で使用されている。一般的に、これらの速度センサは、光学(カメラ、エンコーダ)若しくは電磁気(磁気抵抗、ホール素子)の技術を応用したものである。すなわち、従来の速度センサは、計測対象の移動体の光学的または磁気的な不連続特性の時間変化から速度を算出する。このため、不連続特性を持たない完全に平坦な移動体に対しては速度計測が不可能である。
【0003】
完全に平坦な移動体の移動速度を検出する方式として、渦電流による誘起電力を利用した速度センサが知られている(特許文献1、2参照)。この種の速度センサでは、励磁コイルによる磁束中を移動体が移動することにより移動体上に発生する渦電流による磁束を2つの検出コイルで検出する。移動体の速度に応じて、2つの検出コイルの誘起電圧に差違が生じるため、誘起電圧同士の差分電圧を検出して、速度を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-233843号公報
【文献】特開平8-146024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
励磁コイルに流れる交流電流によって移動体上に発生される渦電流と、この渦電流による磁束によって検出コイルに発生される誘起電圧はそれほど大きくないため、励磁コイルと検出コイルの周囲にヨークを設けて、磁束の漏れを防止して磁気効率を向上させるのが望ましい。
【0006】
しかしながら、ヨークの形状や、励磁コイルと検出コイルの配置、移動体までの距離などの種々の条件を最適化しないと、移動体の移動速度を精度よく検出することはできない。
【0007】
特に、上述した渦電流による誘起電力を利用した速度センサでは、励磁コイルで発生された磁束のうち検出コイルを鎖交しない磁束の割合が増えると、移動体が移動時に発生される渦電流の大きさが小さくなり、移動体の移動速度を精度よく検出できなくなる。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、非接触で精度よく移動体の速度を検出可能な速度検出装置及び浮遊磁界抑制装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、交流電流に応じた磁束を発生するn個(nは3以上の整数)の励磁コイルと、
前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する複数の検出コイルと、
前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧に基づいて、前記移動体の移動速度を推定する速度推定部と、を備え、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が前記複数の検出コイルの少なくとも一つを鎖交するように配置される、速度検出装置が提供される。
【0010】
前記n個の励磁コイルのうち一つの励磁コイルを除く他の励磁コイルと、前記複数の検出コイルとは、前記一つの励磁コイルを挟んで第1方向の両側と、前記第1方向に交差する第2方向の両側とに配置されてもよい。
【0011】
前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が通過するヨークを備え、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記ヨークの周囲に配置されてもよい。
【0012】
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルのうち少なくとも一つは、前記ヨークに巻回されていてもよい。
【0013】
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルのうち一部のコイルは、前記ヨークの第1幅方向に巻回され、残りの少なくとも一部のコイルは、前記ヨークの前記第1幅方向に交差する第2幅方向に巻回されていてもよい。
【0014】
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記ヨークの一方向に沿って配置されており、
前記一方向の両側に2つの前記検出コイルが配置されており、
前記2つの検出コイルの間に前記n個の励磁コイルが配置されていてもよい。
【0015】
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記ヨークの一方向に沿って配置されており、
前記一方向の両側に2つの前記励磁コイルが配置されており、
前記2つの励磁コイルの間に前記複数の検出コイルが配置されていてもよい。
【0016】
前記励磁コイルに電流を流す第1期間と、電流を流さない第2期間とを交互に設け、前記速度推定部が前記移動体の移動速度を推定するのに必要な時間長さ以上に前記第1期間を設定する電流制御部を備えてもよい。
【0017】
前記速度推定部は、前記第1期間が開始されてから所定時間が経過した後に前記移動体の移動速度を推定してもよい。
【0018】
前記励磁コイルを含み、前記交流電流の周波数で共振する第1共振回路を備えてもよい。
【0019】
前記検出コイルを含み、前記交流電流の周波数と同じ共振周波数で共振する第2共振回路を備えてもよい。
【0020】
前記交流電流は、前記移動体を備える機器の振動を含めた前記移動体の周囲の環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数を有してもよい。
【0021】
前記移動体の周囲の環境ノイズを検出する環境ノイズ検出部と、
前記交流電流の周波数を、前記環境ノイズ検出部にて検出された環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に調整する励磁周波数調整部と、を備えてもよい。
【0022】
前記移動体は、列車の車輪であり、
前記交流電流は、前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数を有してもよい。
【0023】
前記交流電流は、正弦波波形を有してもよい。
【0024】
前記n個の励磁コイルは、前記n個の励磁コイルのうち中央の励磁コイルを鎖交する磁束を集中させ、前記中央の励磁コイル以外の励磁コイルから外側に向かう磁束を互いに打ち消し合うように前記交流電流を流してもよい。
【0025】
前記n個の励磁コイルは、第1方向に沿って順に配置された第1~第3励磁コイルを有し、
前記第1励磁コイルにより発生される磁束の向きは、前記第2励磁コイルにより発生される磁束の向きとは逆であり、
前記第3励磁コイルにより発生される磁束の向きは、前記第2励磁コイルにより発生される磁束の向きとは逆であり、
前記第1励磁コイルの前記第1方向とは反対方向側では、前記第1励磁コイルの磁束と前記第2励磁コイルの磁束とが打ち消し合い、
前記第1励磁コイルの前記第1方向側では、前記第1励磁コイルの磁束と前記第2励磁コイルの磁束とが強め合い、
前記第3励磁コイルの前記第1方向では、前記第2励磁コイルの磁束と前記第3励磁コイルの磁束とが打ち消し合い、
前記第3励磁コイルの前記第1方向とは反対側では、前記第2励磁コイルの磁束と前記第3励磁コイルの磁束とが強め合ってもよい。
【0026】
本発明の一態様では、n個(nは3以上の整数)の励磁コイルにより、交流電流に応じた磁束を発生し、
複数の検出コイルにより、前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束とに応じた誘起電圧を発生し、
前記n個の励磁コイル及び前記複数の検出コイルは、前記n個の励磁コイルを流れる交流電流により発生される磁束が前記複数の検出コイルの少なくとも一つを鎖交するように配置される、浮遊磁界抑制方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、非接触で精度よく移動体の速度を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】一実施形態による速度検出装置の基本原理を説明する図。
図2A】渦電流の対称性を示す図。
図2B】渦電流の非対称性を示す図。
図3】移動体を移動させた場合の渦電流による磁束の通過経路を示す図。
図4A】差分電圧の波形図。
図4B】速度推定部の出力信号の波形図。
図4C】励磁コイルを流れる交流電流の波形図。
図5A】第1変形例による速度検出装置を示す図。
図5B】第2変形例による速度検出装置を示す図。
図6図1の速度検出装置の磁束の経路を示す図。
図7】一実施形態による速度検出装置を示す図。
図8図7の速度検出装置の磁束の経路を示す図。
図9図7の第1変形例による速度検出装置1を示す図。
図10図7の速度検出装置をより簡略化した第1例を示す図。
図11図7の速度検出装置をより簡略化した第2例を示す図。
図12図11の一変形例を示す図。
図13】本実施形態による速度検出装置を上方から見た模式的な平面図。
図14】中央の励磁コイルを円環状にし、周囲の励磁コイルを三日月形状にした例を示す図。
図15図9の速度検出装置を二次元方向に配置した場合の平面図。
図16】共振回路の一例を示す回路図。
図17図16の回路構成に加えて、検出コイルも共振回路構成にした図。
図18図1に電流制御部を追加した速度検出装置を示す図。
図19】励磁コイルに流れる交流電流の波形図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本開示の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0030】
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0031】
<基本原理>
図1は本実施形態による速度検出装置1の基本原理を説明する図である。図1の速度検出装置1は、励磁コイル2と、2つの検出コイル3と、速度推定部4とを備えている。2つの検出コイル3の巻数は同数である。励磁コイル2の数と検出コイル3の数は任意であるが、図1では、励磁コイル2が1個で、検出コイル3が2個の例を示している。励磁コイル2は、交流電流に応じた磁束を発生する。検出コイル3は、磁束中を移動する導体からなる移動体6の移動速度に応じて移動体6上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する。
【0032】
励磁コイル2と2つの検出コイル3は、ヨーク5の周囲に配置されている。ヨーク5は、励磁コイル2と2つの検出コイル3を鎖交する磁束を集中的に通過させる磁束集中部材である。より具体的には、ヨーク5の一方向(長手方向)に沿って、励磁コイル2を挟んで両側に2つの検出コイル3が配置されている。ヨーク5は、図1に示すように、3つの凸状部5aを備えており、これら凸状部5aに励磁コイル2と2つの検出コイル3が巻回されている。後述するように、ヨーク5の形状は任意であり、図1のヨーク5は一例にすぎない。各凸状部5aに各コイルを巻回することで、磁束の漏れを抑制できる。また、各凸状部5aに銅線を巻き付けるだけで各コイル2,3を生成できるため、作業性がよくなる。
【0033】
ヨーク5の凸状部5aの先端部からギャップを隔てて移動体6が配置されている。この移動体6は導体である。移動体6は、導体であればよく、磁性体でも非磁性体でもよい。移動体6は、一方向(ヨーク5の長手方向)に移動自在とされている。ギャップは、典型的にはエアギャップであるが、本明細書では単にギャップと呼ぶ。以下では、ギャップが、励磁コイル2と移動体6との距離、および検出コイル3と移動体6との距離に等しいものとする。
【0034】
速度検出を行う際には、励磁コイル2に所定の周波数の交流電流が供給される。この交流電流は、等価的には図1に示すように電流源15から供給される。検出コイル3に流れる交流電流によって磁束が発生し、この磁束は、移動体6を通って検出コイル3を鎖交して励磁コイル2に戻る経路p1,p2に沿って流れる。図1は、移動体6が停止している例を示している。本実施形態では、紙面の裏から表に向かう方向の電流を「●」で表記し、紙面の表から裏に向かう方向の電流を「×」で表記する。また、磁束のN極側を矢印の矢先にしている。
【0035】
移動体6上には、励磁コイル2にて発生された磁束による渦電流が発生する。この渦電流は、励磁コイル2にて発生された磁束の変化を妨げる方向に磁束を発生するものである。渦電流は、励磁コイル2に流れる交流電流の振幅、周波数、励磁コイル2と移動体6とのギャップ、励磁コイル2の巻き数、移動体6の速度及び材料に応じて変化する。渦電流は、移動体6が停止している間は、図2Aに示すように、励磁コイル2を挟んで両側で対称になる。
【0036】
励磁コイル2の両側に設けられる2つの検出コイル3には、励磁コイル2を流れる交流電流による磁束と、移動体6上の渦電流による磁束とが鎖交する。移動体6が停止している状態では、2つの検出コイル3を鎖交する移動体6上の渦電流による磁束は同一である。よって、2つの検出コイル3を鎖交する磁束の総量は同一になり、各検出コイル3の誘起電圧は互いに打ち消し合って、速度推定部4に入力される電圧はゼロになる。よって、速度推定部4は移動体6が停止していると推定する。
【0037】
ここで、図3に示すように、移動体6が矢印の向き(図示の右方向)に、移動速度vで移動すると、図2Bに示すように移動体6上の渦電流に歪みが生じる。図3では、図1と同様に、励磁コイル2を上向きに鎖交する磁束が発生する例を示している。この渦電流の歪は、移動体6が励磁コイル2により発生される磁束中を移動することで生じる。具体的には、移動体6上の渦電流は、移動体6が停止している状態で、励磁コイル2の磁束によって発生する渦電流と、移動体6が励磁コイル2の磁束中を移動することによって発生する渦電流との和になる。移動体6が励磁コイル2の磁界中を移動することによって発生する渦電流は主に、励磁コイル2の直下に紙面奥から手前方向の向きに流れる。この渦電流により発生される磁束は、移動体6の進行方向前方に配置された右側の検出コイル3を上向きに鎖交し、また移動体6の進行方向後方に配置された左側の検出コイル3を下向きに鎖交する。これにより、移動体6の進行方向前方の検出コイル3を鎖交する磁束量と、移動体6の進行方向後方の検出コイル3を鎖交する磁束量とに差違が生じ、2つの検出コイル3の誘起電圧の差分電圧がゼロでなくなる。移動体6の移動速度が速いほど、上述した検出コイル3を鎖交する磁束量の差異が大きくなり、その結果検出コイル3に発生する差電圧は大きくなる。よって、速度推定部4は、上述した差分電圧に応じて、移動体6の速度を推定することができる。
【0038】
このように、移動体6が移動すると、励磁コイル2の両側の移動体6上で渦電流が非対称になり、この非対称性により、2つの検出コイル3を鎖交する磁束にわずかな差違が生じる。この磁束の差違が誘起電圧の差分電圧として検出される。
【0039】
速度推定部4は、図1に示すように、バンドパスフィルタ7と、増幅復調部8とを有する。バンドパスフィルタ7は、2つの検出コイル3の誘起電圧同士の差分電圧に含まれるノイズを除去する。増幅復調部8は、バンドパスフィルタ7でフィルタリングした後の電圧信号に基づいて、移動体6の移動速度を検出する。
【0040】
図4Aは差分電圧udiffの波形図、図4Bは速度推定部4の出力信号ulpの波形図、図4Cは励磁コイル2を流れる交流電流iinjの波形図である。図4Aの波形w1(v1)と図4Bの波形w2(v1)は、移動体6が停止している状態を示し、図4Aの波形w1(v2)と図4Bの波形w2(v2)は、移動体6がゆっくりとした速度v2で移動している状態を示し、図4Aの波形w1(v3)と図4Bの波形w2(v3)は、移動体6が速い速度v3で移動している状態を示している。これらの波形図からわかるように、移動体6の移動速度が速くなるほど、差分電圧udiffの振幅が大きくなり、速度推定部4の出力信号の振幅も大きくなる。よって、速度推定部4は、差分電圧udiffの振幅により、移動体6の速度を推定できる。
【0041】
ヨーク5の形状と、励磁コイル2および検出コイル3の配置は任意であり、種々の変形例が考えられる。図5Aは第1変形例による速度検出装置1を示している。図5Aの速度検出装置1は、長手方向の中央部に凸状部5aを有するT型のヨーク5を備えており、この凸状部5aに励磁コイル2が巻回されている。この励磁コイル2の両側には、2つの検出コイル3が配置されているが、2つの検出コイル3の巻回方向が図1とは90度異なっている。すなわち、励磁コイル2はヨーク5の凸状部5aの第1幅方向に巻回されており、2つの検出コイル3はヨーク5の本体部である第1幅に交差する第2幅方向に巻回されている。検出コイル3をヨーク5の本体部に巻回するため、ヨーク5の本体部を磁束が飽和しない程度に細くすることで、検出コイル3のサイズを増加させることなく、検出コイル3の巻数を増加させることができる。これにより、検出感度を向上できるため、移動体6の移動速度の変化を敏感に検出できる。その結果、励磁コイル2の電流を削減することができ、消費電力も削減できる。
【0042】
図5Bは第2変形例による速度検出装置1を示している。図5Bは、図5Aと比べて、励磁コイル2の巻回方向を90度回転させた点で相違する。図5Bの励磁コイル2は、ヨーク5の本体部の第2幅方向に巻回されている。この構成では、第2幅を第1幅よりも小さくすることで、励磁コイル2と検出コイル3のコイル径を図1よりも小さくでき、各コイルの材料使用量を削減でき、各コイルの抵抗成分による電力損失を抑制できる。なお、各コイルの材料としては、例えば銅が用いられ、各コイルの巻線長が短いほど、銅損が少なくなる。また、図5Bでは各コイルがヨーク5の凸状部5aではなく、本体部に直接巻回されており、凸状部5aに巻回するための製造設備が不要となり、製造費用を削減できる。
【0043】
なお、図1図5Aおよび図5Bでは、便宜上、電流源15から励磁コイル2に交流電流iinjを流す例を示しているが、実際には、励磁コイル2に交流電圧源を接続して、励磁コイル2に交流電流iinjを流す。簡略化のため、本明細書では、電流源15から励磁コイル2に交流電流iinjを流すものとして説明する。
【0044】
<浮遊磁界の抑制>
図1に示すように、ヨーク5の長手方向に沿って、中央に励磁コイル2を配置し、その両側に2つの検出コイル3を配置し、励磁コイル2はヨーク5の長手方向長さの1/3を占めるようにした配置した場合、励磁コイル2の両端側から磁束の漏れが生じてしまう。この磁束の漏れにより、速度検出装置1の周囲に置かれた機器類に何らかの悪影響を与えるおそれがある。
【0045】
図6図1の速度検出装置1の磁束の経路を示す図である。図示のように、励磁コイル2を流れる交流電流iinjにより発生された磁束は、励磁コイル2の両側の検出コイル3を通過するだけでなく、検出コイル3の外側にも進行し、検出コイル3と鎖交しない磁束も発生する。本明細書では、検出コイル3と鎖交しない磁束を浮遊磁界と呼ぶ。
【0046】
図7は速度検出装置1を示す図、図8図7の速度検出装置1の磁束の経路を示す図である。図7の速度検出装置1は、n個(nは3以上の整数)の励磁コイル2と、複数の検出コイル3と、速度推定部4とを備えている。
【0047】
n個の励磁コイル2は、交流電流iinjに応じて発生される磁束にて、導体からなる移動体6上に渦電流を発生する。図7の例では、3つの励磁コイル2を備えている。各励磁コイル2の巻数は同一であり、中央の励磁コイル2にはiinjを、両サイドの励磁コイルには、iinjの1/2の電流を流している。また、中央の励磁コイル2により発生される磁束と、両サイドの励磁コイル2により発生される磁束が逆方向になるように接続している。
【0048】
複数の検出コイル3には、n個の励磁コイル2に流れる交流電流iinjに応じた磁束中を移動する移動体6の移動速度に応じて移動体6上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧が発生する。図7の例では、2つの検出コイル3を備えている。各検出コイル3の巻数は同一である。
【0049】
速度推定部4は、図1と同様に、複数の検出コイル3に発生された誘起電圧に基づいて、移動体6の移動速度を推定する。
【0050】
図7における3つの励磁コイル2のうち、中央の励磁コイル2と左側の励磁コイル2により発生される磁束は逆方向となるように接続してある。これにより、左側の励磁コイル2の左側では、中央の励磁コイル2と左側の励磁コイル2により発生される磁束の向きが逆方向となって打ち消し合い、左側の励磁コイル2の右側では、中央の励磁コイル2と左側の励磁コイル2により発生される磁束の向きが同方向となって強めあう。同様に、中央の励磁コイル2と右側の励磁コイル2においても、右側の励磁コイル2の右側では磁束が打ち消し合い、右側の励磁コイル2の左側では磁束が強めあう。これにより、速度検出装置1の中央に磁束を集中させて、速度検出装置1の両サイドの浮遊磁界を抑制することが出来る。なお、図6図8の励磁コイル2の銅損は同程度である。
【0051】
左右両側の励磁コイル2のそれぞれを取り囲むように、2つ検出コイル3が設けられている。図7では、励磁コイル2に流れる交流電流に応じた磁束の通過経路を破線で示し、移動体6の移動速度に応じて移動体6に発生する渦電流による磁束の通過経路を一点鎖線で示している。
【0052】
浮遊磁界を抑制可能な励磁コイル2と検出コイル3の配置は、必ずしも図7に示した配置に限定されない。図9図7の第1変形例による速度検出装置1を示す図である。図9の速度検出装置1は、2つの検出コイル3の向きが図7とは異なっている。図9のヨーク5は3つの凸状部5aを有し、各凸状部5aに励磁コイル2が巻回されている。このヨーク5の本体部は、凸状部5aの幅である第1幅よりも幅狭の第2幅を有しており、この本体部に2つの検出コイル3が巻回されている。
【0053】
図9の速度検出装置1では、ヨーク5の本体部を磁束が飽和しない程度に細くすることで、検出コイル3のサイズを増加させることなく、検出コイル3の巻数を増加させることができ、検出感度を向上できるため、移動体6の移動速度の変化を敏感に検出できる。その結果、励磁コイルの電流を削減することができ、消費電力も削減できる。
【0054】
浮遊磁界を抑制するには、図7図9の速度検出装置1に示すように、3つ以上の励磁コイル2と2つ以上の検出コイル3が必要になり、速度検出装置1の構成が複雑化してしまう。そこで、浮遊磁界の抑制効果は若干劣るものの、速度検出装置1をより簡略化した構成も考えられる。
【0055】
図10図7の速度検出装置1をより簡略化した第1例を示す図である。図10の速度検出装置1は、ヨーク5に3つの凸状部5aを設け、そのうちの中央の凸状部5aに検出コイル3を巻回し、その両側の2つの凸状部5aに励磁コイル2を巻回した構成を備えている。また、左右の励磁コイル2により発生される磁束の向きは逆方向である。左右の励磁コイル2により発生される磁束は広がりを持っているが、速度検出装置1の外側では、それぞれ左右の励磁コイルにより発生される磁束の向きが逆方向となり、それぞれを弱める向きに働くため、速度検出装置1の外部への浮遊磁界を抑制できる。
【0056】
また、検出コイル3を鎖交する磁束の向きは逆であり、検出コイル3は、左右の励磁コイル2に流れる交流電流iinjにより発生された磁束を相殺することができる。なお、移動体6が移動することにより移動体6上に発生した渦電流による磁束は、検出コイル3を鎖交するため、検出コイル3に誘起電圧が発生する。よって、単一の検出コイル3だけで、移動体6が移動することにより移動体6上に発生した渦電流による磁束のみを検出することができ、移動体6の移動速度を推定することができる。
【0057】
図11図7の速度検出装置1をより簡略化した第2例を示す図である。図11の速度検出装置1は、検出コイル3を2つ備えており、各検出コイル3はヨーク5の本体部に巻回されている点で図10とは異なっている。各検出コイル3は、対応する励磁コイル2にて発生された磁束を鎖交させている。移動体6が停止している状態では、各検出コイル3を鎖交する磁束の大きさは同じであるため、各検出コイル3で発生される誘起電圧も同じになり、両者が相殺されて速度ゼロが推定される。一方、移動体6が移動した場合には、各検出コイル3を鎖交する磁束の大きさが相違し、各検出コイル3で発生される誘起電圧にも差が生じる。速度推定部4は、誘起電圧同士の差分電圧udiffにより速度を推定する。
【0058】
図12図11の一変形例を示す図である。図12の速度検出装置1は、図11よりも検出コイル3の数を増やしている。より具体的には、図11の構成に加えて、ヨーク5の長手方向の両端部に2つの検出コイル3を追加したものである。ヨーク5の長手方向の両側に2つの検出コイル3を追加することにより、左右の励磁コイル2から外側に向かう磁束を両側の検出コイル3に鎖交させることができ、磁束がヨーク5よりも外側に広がりにくくなる。
【0059】
<二次元方向への浮遊磁界の抑制>
上記では、主に一次元方向への浮遊磁界の抑制について説明したが、二次元方向への浮遊磁界の抑制を図る速度検出装置1にも適用が可能である。図13は本実施形態による速度検出装置1を上方から見た模式的な平面図である。図13は、例えば図7の速度検出装置1の平面図である。中央に励磁コイル2が配置され、その第1方向Xの両側と、第1方向Xに交差する第2方向Yの両側とに励磁コイル2が配置されている。また、中央以外の励磁コイル2を取り囲むように検出コイル3が配置されている。図13の速度検出装置1では、励磁コイル2から4方向に進行する浮遊磁界を抑制することができる。
【0060】
図13では、各コイルを矩形状にしているが、各コイルの形状やサイズは任意である。例えば、図14は中央の励磁コイル2を円環状にし、周囲の励磁コイル2を三日月形状にした例を示している。周囲の励磁コイル2の内側に、同じく三日月形状の検出コイル3を配置してもよい。図14の検出コイル3は、隣接する2つの励磁コイル2の間に、励磁コイル2の巻回方向とは略90度異なる方向に配置されている点で図13とは異なっている。
【0061】
図15図9の速度検出装置1を二次元方向に配置した場合の平面図である。図15の検出コイル3は、図14と同様に、隣接する2つの励磁コイル2の間に、励磁コイル2の巻回方向とは略90度異なる方向に配置されている点で図13とは異なっている。図13図15の二次元配置は、図7図9図12のいずれの速度検出装置1にも適用可能である。
【0062】
<共振動作>
励磁コイル2は、等価的にはR-L直列回路である。ギャップと移動体6の表面での磁界を励起するには、有効電力と無効電力を励磁コイル2に供給する必要がある。また、励磁コイル2に流す交流電流iinjは、正弦波電流が望ましい。その理由は、交流電流iinjに高調波成分が含まれていると、検出コイル3に誘起される誘起電圧にノイズ成分となる高調波成分が重畳してしまい、速度推定部4にてその高調波成分を除去しなければならないためである。
【0063】
以上のことから、速度検出装置1内に、励磁コイル2を有する共振回路(第1共振回路)11を備えてもよい。図16は共振回路11の一例を示す回路図である。図16の共振回路11は、無効電力補償を行うだけでなく、最小のスイッチング損失にて正弦波電流励起を行う。
【0064】
図16の共振回路11は、直流電圧が供給される直流電圧端子間に直列接続される2つのキャパシタCiと、同じく直流電圧端子間に直列接続される2つのスイッチSW1,SW2とを有する。励磁コイル2の一端は、キャパシタCi同士の接続ノードに接続され、励磁コイル2の他端は、電流計11aを介して、スイッチSW1,SW2同士の接続ノードに接続されている。
【0065】
図16のスイッチSW1,SW2は、共振回路11の共振周波数に合わせて、交互にオンオフする。図16では、スイッチSW1,SW2のオン/オフを切り替える回路を省略している。図16の励磁コイル2に流れる交流電流iinjの周波数は、共振回路11の共振周波数となる。
【0066】
図17は、図16の回路構成に加えて、検出コイル3も共振回路構成にしたものである。図17の2つの検出コイル3のそれぞれには、キャパシタCpが並列接続されている。検出コイル3とキャパシタCpとを並列接続することで共振回路(第2共振回路)12が構成される。励磁コイル2の励磁電流周波数と共振回路12の共振周波数が一致するように、検出コイル3のインダクタンスとキャパシタCpを設定しておけば、速度推定に利用する励磁電流周波数と同じ周波数の検出コイル3の誘起電圧の検出感度を上げることができ、共振周波数とは異なる周波数の外乱ノイズの検出を抑えることが出来る。
【0067】
本実施形態による速度検出装置1の適用範囲は特に問わないが、例えば列車の速度を検出するために本実施形態による速度検出装置1を用いる場合、検出結果が列車の振動によるノイズの影響を受けないようにする必要がある。列車の平均的な振動周波数帯域を予め調べて、この周波数帯域とは無相関の周波数となるよう、図16または図17の共振回路11、12の共振周波数を設定するのが望ましい。無相関とは、列車の振動周波数だけではなく、その高調波周波数とも重ならないように共振周波数を設定する趣旨である。あるいは、後述するように、環境ノイズを常時検出して、検出されたノイズの周波数とは無相関の周波数となるように、共振回路11、12の共振周波数を設定してもよい。
【0068】
また、励磁コイル2に流す交流電流iinjをできるだけ理想的な正弦波波形にして、検出コイル3に誘起される誘起電圧に交流電流iinjの高調波成分が重畳されないようにするのが望ましい。交流電流iinjを理想的な正弦波波形にするのは、図16の共振回路11により実現可能である。
【0069】
本実施形態による速度検出装置1は、図16の共振回路11と図17の共振回路12の両方、あるいはいずれか一方を備えていてもよい。これら共振回路11,12は、上述した図1図3図5A図5B図7図9図15のいずれの速度検出装置1にも適用可能である。
【0070】
<励磁コイル2の間欠駆動>
本実施形態による速度検出装置1では、ヨーク5のコア損失、励磁コイル2の銅損、移動体6上の渦電流損失の計3つの損失に対する対策を施すのが望ましい。ヨーク5のコア損失は、フェライト、鉄粉又は積層鋼板等の低損失ヨーク材料を用いることにより最小化できる。一方、励磁コイル2の銅損と移動体6上の渦電流損は、速度検出装置1の本質的要素であり、避けられないものである。特に、ギャップが大きくなるほど励磁コイル2に必要な電流は増大し、励磁コイル2の銅損も増大してしまう。これにより、バッテリ電源を利用して、大きいギャップのある移動体6の速度を推定する場合への適用が困難になりうる。
【0071】
速度検出装置1の消費電力を削減する一手法として、励磁コイル2を間欠的に駆動してもよい。図18図1に電流制御部13を追加した速度検出装置1を示している。電流制御部13は、励磁コイル2の電流を流す第1期間と電流を流さない第2期間とを交互に設け、速度推定部4が移動体6の移動速度を推定し、かつ速度推定部4が移動体6の移動速度を推定するのに必要な時間長さ以上に第1期間を設定する。
【0072】
図19は励磁コイル2に流れる交流電流iinjの波形図である。交流電流iinjは周期Tpを有する間欠電流である。電流制御部13は、周期Tp内の第1期間Tbのみ、所定の周波数の交流電流iinjを励磁コイル2に流す。第1期間Tbの開始直後は、電流波形にオーバーシュートやアンダーシュートが生じるおそれがあり、交流電流波形が不安定である。そこで、第1期間Tbが開始してから所定時間が経過した後(図19の期間Tc)に移動体6の移動速度を推定してもよい。
【0073】
図18の電流制御部13は、上述した図1図3図5A図5B図7図9図17のいずれの速度検出装置1にも適用可能である。
【0074】
このように、本実施形態では、励磁コイル2に流れる交流電流iinjにより移動体6上に磁束を発生させた状態で移動体6を移動させ、移動体6の移動により生じた新たな渦電流による磁束を検出コイル3に鎖交させて、検出コイル3に誘起電圧を誘起させ、この誘起電圧に基づいて移動体6の移動速度を推定する。また、本実施形態では、励磁コイル2にて発生された磁束が速度検出装置1の外側にまで広がることを防止するために、励磁コイル2と検出コイル3の配置を工夫する。これにより、浮遊磁界を抑制して磁気効率を向上でき、低消費電力でありながら、精度よく移動体6の移動速度を推定できる。
【0075】
また、図13図15のように二次元方向に励磁コイル2と検出コイル3を配置することで、二次元方向への浮遊磁界を抑制できる。
【0076】
さらに、励磁コイル2を共振回路11の構成にすることで、励磁電流(交流電流)を流すための電源電圧を低く抑えることができ、励磁電流用の高電圧発生回路が不要となる。また、少ないスイッチング回数で励磁電流を正弦波波形にすることができる。また、検出コイル3を共振回路12の構成にすることで、共振周波数以外の周波数成分を抑制でき、S/N比を向上できる。また、小さい励磁電流でも検出コイル3にて誘起電圧を検出でき、検出感度の向上と省電力化を図れる。
【0077】
また、励磁コイル2に流れる交流電流iinjを正弦波波形にすることで、検出コイル3に誘起される誘起電圧に交流電流iinjの高調波成分が含まれなくなり、移動体6の移動速度を精度よく推定できる。
【0078】
さらに、励磁コイル2に間欠的に交流電流iinjを供給することにより、速度検出装置1の消費電力を削減できる。
【0079】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 速度検出装置、2 励磁コイル、3 検出コイル、4 速度推定部、5 ヨーク、6 移動体、7 バンドパスフィルタ、8 増幅復調部、11,12 共振回路、13 電流制御部、15 電流源
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19