(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】速度検出装置及び速度検出方法
(51)【国際特許分類】
G01P 3/49 20060101AFI20220112BHJP
G01D 5/20 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
G01P3/49
G01D5/20 K
(21)【出願番号】P 2017152723
(22)【出願日】2017-08-07
【審査請求日】2020-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル、フランクル
(72)【発明者】
【氏名】アルダ、トウスズ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン、ベー.コラー
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中村 和人
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-78170(JP,A)
【文献】特開2007-78558(JP,A)
【文献】特開2004-219383(JP,A)
【文献】米国特許第6064315(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00- 3/80
G01B 7/00- 7/34
G01D 5/00- 5/252
G01D 5/39- 5/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流に応じた磁束を発生する励磁コイルと、
前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する複数の検出コイルと、
前記励磁コイルに流れる電流および前記励磁コイルの両端の電圧に基づいて前記移動体と前記励磁コイルとのギャップを推定するギャップ推定部と、
前記ギャップ推定部にて推定されたギャップと、前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧と、に基づいて、前記移動体の移動速度を推定する速度推定部と、を備える、速度検出装置。
【請求項2】
前記ギャップ推定部は、
前記電流及び前記電圧に基づいて算出した前記励磁コイルのインダクタンスと、予め定めた前記ギャップの基準値に対応する前記励磁コイルのインダクタンスとの対比に基づいて前記ギャップを推定する、請求項1に記載の速度検出装置。
【請求項3】
前記ギャップ推定部は、
前記電流及び前記電圧に基づいて算出した前記励磁コイルのインピーダンスと、予め定めた前記ギャップの基準値に対応する前記励磁コイルのインピーダンスとの対比に基づいて前記ギャップを推定する、請求項1に記載の速度検出装置。
【請求項4】
前記ギャップ推定部は、前記移動体が磁性体である場合に、前記インダクタンスを用いて前記ギャップを推定する、請求項2に記載の速度検出装置。
【請求項5】
前記ギャップ推定部は、
前記電流と前記電圧との位相差に基づいて前記ギャップを推定する、請求項1に記載の速度検出装置。
【請求項6】
前記ギャップ推定部は、前記ギャップと、前記位相差との相関関係を記憶する記憶部を有し、
前記ギャップ推定部は、
前記位相差に対応する前記ギャップを前記記憶部から取得する、請求項5に記載の速度検出装置。
【請求項7】
前記ギャップ推定部は、前記移動体が非磁性体である場合に、前記位相差
に基づいて前記ギャップを推定する、請求項5または6に記載の速度検出装置。
【請求項8】
前記励磁コイルに電流を流す第1期間と、電流を流さない第2期間とを交互に設け、前記速度推定部が前記移動体の移動速度を推定するのに必要な時間長さ以上に前記第1期間を設定する電流制御部を備える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項9】
前記速度推定部は、前記第1期間が開始されてから所定時間が経過した後に前記移動体の移動速度を推定する、請求項8に記載の速度検出装置。
【請求項10】
前記励磁コイルを含み、前記交流電流の周波数で共振する第1共振回路を備える、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項11】
前記検出コイルを含み、前記交流電流の周波数と同じ共振周波数で共振する第2共振回路を備える、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項12】
前記交流電流は、前記移動体を備える機器の振動を含めた前記移動体の周囲の環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数を有する、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項13】
前記移動体の周囲の環境ノイズを検出する環境ノイズ検出部と、
前記交流電流の周波数を、前記環境ノイズ検出部にて検出された環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に調整する励磁周波数調整部と、を備える、請求項12に記載の速度検出装置。
【請求項14】
前記移動体は、列車の車輪であり、
前記交流電流は、前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数を有する、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項15】
前記交流電流は、正弦波波形を有する、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項16】
前記複数の検出コイルのうち一部は、前記励磁コイルを挟んで第1方向の両側に配置され、前記複数の検出コイルのうち前記一部を除く残りは、前記励磁コイルを挟んで前記第1方向に交差する第2方向の両側に配置される、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項17】
交流電流に応じた磁束を励磁コイルにて発生させた状態で、前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を複数の検出コイルに発生させ、
前記励磁コイルに流れる電流および前記励磁コイルの両端の電圧に基づいて前記移動体と前記励磁コイルとのギャップを推定し、
前記推定されたギャップと、前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧と、に基づいて、前記移動体の移動速度を推定する、速度検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で速度を検出する速度検出装置及び速度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触式の速度センサは、機械加工、組み立て、移動体など、広範囲の産業分野で使用されている。一般的に、これらの速度センサは、光学(カメラ、エンコーダ)若しくは電磁気(磁気抵抗、ホール素子)の技術を応用したものである。すなわち、従来の速度センサは、計測対象の移動体の光学的または磁気的な不連続特性の時間変化から速度を算出する。このため、不連続特性を持たない完全に平坦な移動体に対しては速度計測が不可能である。
【0003】
完全に平坦な移動体の移動速度を検出する方式として、渦電流による誘起電力を利用した速度センサが知られている(特許文献1、2参照)。この種の速度センサでは、励磁コイルの両側に2つの検出コイルを配置し、励磁コイルに交流電流を流したときに移動体上に発生する渦電流による磁束を2つの検出コイルで検出する。移動体の速度に応じて、2つの検出コイルの誘起電圧に差違が生じるため、誘起電圧同士の差分電圧を検出して、速度を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-233843号公報
【文献】特開平8-146024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
励磁コイルに流れる交流電流によって移動体上に発生される渦電流と、この渦電流による磁束によって検出コイルに発生される誘起電圧はそれほど大きくないため、励磁コイルと検出コイルの周囲にヨークを設けて、磁束の漏れを防止して磁気効率を向上させるのが望ましい。
【0006】
しかしながら、ヨークの形状や、励磁コイルと検出コイルの配置、移動体までの距離などの種々の条件を最適化しないと、移動体の移動速度を精度よく検出することはできない。例えば、励磁コイルや検出コイルと移動体とのギャップが変動した場合には、移動体の移動速度の推定結果が変化してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、励磁コイルや検出コイルと移動体とのギャップが変動しても、移動体の移動速度を精度よく検出可能な速度検出装置及び速度検出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、交流電流に応じた磁束を発生させる励磁コイルと、
前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生させる複数の検出コイルと、
前記励磁コイルに流れる電流および前記励磁コイルの両端の電圧に基づいて前記移動体と前記励磁コイルとのギャップを推定するギャップ推定部と、
前記ギャップ推定部にて推定されたギャップと、前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧と、に基づいて、前記移動体の移動速度を推定する速度推定部と、を備える、速度検出装置が提供される。
【0009】
前記ギャップ推定部は、
前記電流及び電圧に基づいて算出した前記励磁コイルのインダクタンスと、予め定めた前記ギャップの基準値に対応する前記励磁コイルのインダクタンスとの対比に基づいて、前記ギャップを推定してもよい。
【0010】
前記ギャップ推定部は、
前記電流及び前記電圧に基づいて算出した前記励磁コイルのインピーダンスと、予め定めた前記ギャップの基準値に対応する前記励磁コイルのインピーダンスとの対比に基づいて前記ギャップを推定してもよい。
【0011】
前記ギャップ推定部は、前記移動体が磁性体である場合に、前記インダクタンスを用いて前記ギャップを推定してもよい。
【0012】
前記ギャップ推定部は、
前記電流と電圧との位相差に基づいて前記ギャップを推定してもよい。
【0013】
前記ギャップ推定部は、前記ギャップと、前記位相差との相関関係を記憶する記憶部を有し、
前記ギャップ推定部は、前記位相差検出部にて検出された位相差に対応する前記ギャップを前記記憶部から取得してもよい。
【0014】
前記ギャップ推定部は、前記移動体が非磁性体である場合に、前記位相差検出部を用いて前記ギャップを推定してもよい。
【0015】
前記励磁コイルに電流を流す第1期間と、電流を流さない第2期間とを交互に設け、前記速度推定部が前記移動体の移動速度を推定するのに必要な時間長さ以上に前記第1期間を設定する電流制御部を備えてもよい。
【0016】
前記速度推定部は、前記第1期間が開始されてから所定時間が経過した後に前記移動体の移動速度を推定してもよい。
【0017】
前記励磁コイルを含み、前記交流電流の周波数で共振する第1共振回路を備えてもよい。
【0018】
前記検出コイルを含み、前記交流電流の周波数と同じ共振周波数で共振する第2共振回路を備えてもよい。
【0019】
前記交流電流は、前記移動体を備える機器の振動を含めた前記移動体の周囲の環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数を有してもよい。
【0020】
前記移動体の周囲の環境ノイズを検出する環境ノイズ検出部と、
前記交流電流の周波数を、前記環境ノイズ検出部にて検出された環境ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に調整する励磁周波数調整部と、を備えてもよい。
【0021】
前記移動体は、列車の車輪であり、
前記交流電流は、前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数を有してもよい。
【0022】
前記交流電流は、正弦波波形を有してもよい。
【0023】
前記複数の検出コイルのうち一部は、前記励磁コイルを挟んで第1方向の両側に配置され、前記複数の検出コイルのうち前記一部を除く残りは、前記励磁コイルを挟んで前記第1方向に交差する第2方向の両側に配置されてもよい。
【0024】
本発明の一実施形態では、交流電流に応じた磁束を励磁コイルにて発生させた状態で、前記磁束中を移動する導体からなる移動体の移動速度に応じて前記移動体上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を複数の検出コイルに発生させ、
前記励磁コイルに流れる電流および前記励磁コイルの両端の電圧に基づいて前記移動体と前記励磁コイルとのギャップを推定し、
前記推定されたギャップと、前記複数の検出コイルに発生される誘起電圧と、に基づいて、前記移動体の移動速度を推定する、速度検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、励磁コイルや検出コイルと移動体とのギャップが変動しても、移動体の移動速度を精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施形態による速度検出装置の基本原理を説明する図。
【
図3】移動体を移動させた場合の渦電流による磁束の通過経路を示す図。
【
図6】本実施形態による速度検出装置を説明する図。
【
図7】移動体が磁性体の場合のギャップ推定部の内部構成を示すブロック図。
【
図8】移動体が非磁性体の場合のギャップ推定部の内部構成を示すブロック図。
【
図9】励磁コイルの両端の電圧と励磁コイルを流れる電流との位相差、ギャップ、および移動体の移動速度の相関関係を示すグラフ。
【
図10】(a)~(d)は差分電圧と移動速度との相関関係がギャップにより変化する様子を示すグラフ。
【
図11】(a)~(d)は差分電圧の測定値に関するギャップの効果を示す図。
【
図15】
図14の回路構成に加えて、検出コイルも共振回路構成にした図。
【
図16】
図1に電流制御部を追加した速度検出装置を示す図。
【
図18】二次元方向に移動する移動体6の速度を検出可能な速度検出装置1を上方から見た模式的な平面図。
【
図19】中央の励磁コイル2を円環状にし、周囲の励磁コイル2を三日月形状にした例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本開示の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0028】
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0029】
<基本原理>
図1は本実施形態による速度検出装置1の基本原理を説明する図である。
図1の速度検出装置1は、励磁コイル2と、2つの検出コイル3と、速度推定部4とを備えている。2つの検出コイル3の巻数は同数である。励磁コイル2の数と検出コイル3の数は任意であるが、
図1では、励磁コイル2が1個で、検出コイル3が2個の例を示している。励磁コイル2は、交流電流に応じた磁束を発生する。検出コイル3は、磁束中を移動する導体からなる移動体6の移動速度に応じて移動体6上に発生される渦電流による磁束に応じた誘起電圧を発生する。
【0030】
励磁コイル2と2つの検出コイル3は、ヨーク5の周囲に配置されている。ヨーク5は、励磁コイル2と2つの検出コイル3を鎖交する磁束を集中的に通過させる磁束集中部材である。より具体的には、ヨーク5の一方向(長手方向)に沿って、励磁コイル2を挟んで両側に2つの検出コイル3が配置されている。ヨーク5は、
図1に示すように、3つの凸状部5aを備えており、これら凸状部5aに励磁コイル2と2つの検出コイル3が巻回されている。後述するように、ヨーク5の形状は任意であり、
図1のヨーク5は一例にすぎない。各凸状部5aに各コイルを巻回することで、磁束の漏れを抑制できる。また、各凸状部5aに銅線を巻き付けるだけで各コイル2,3を生成できるため、作業性がよくなる。
【0031】
ヨーク5の凸状部5aの先端部からギャップを隔てて移動体6が配置されている。この移動体6は導体である。移動体6は、導体であればよく、磁性体でも非磁性体でもよい。移動体6は、一方向(ヨーク5の長手方向)に移動自在とされている。ギャップは、典型的にはエアギャップであるが、本明細書では単にギャップと呼ぶ。以下では、ギャップが、励磁コイル2と移動体6との距離、および検出コイル3と移動体6との距離に等しいものとする。
【0032】
速度検出を行う際には、励磁コイル2に所定の周波数の交流電流が供給される。この交流電流は、等価的には
図1に示すように電流源15から供給される。検出コイル3に流れる交流電流によって磁束が発生し、この磁束は、移動体6を通って検出コイル3を鎖交して励磁コイル2に戻る経路p1,p2に沿って流れる。
図1は、移動体6が停止している例を示している。本実施形態では、紙面の裏から表に向かう方向の電流を「●」で表記し、紙面の表から裏に向かう方向の電流を「×」で表記する。また、磁束のN極側を矢印の矢先にしている。
【0033】
移動体6上には、励磁コイル2にて発生された磁束による渦電流が発生する。この渦電流は、励磁コイル2にて発生された磁束の変化を妨げる方向に磁束を発生するものである。渦電流は、励磁コイル2に流れる交流電流の振幅、周波数、励磁コイル2と移動体6とのギャップ、励磁コイル2の巻き数、移動体6の速度及び材料に応じて変化する。渦電流は、移動体6が停止している間は、
図2Aに示すように、励磁コイル2を挟んで両側で対称になる。
【0034】
励磁コイル2の両側に設けられる2つの検出コイル3には、励磁コイル2を流れる交流電流による磁束と、移動体6上の渦電流による磁束とが鎖交する。移動体6が停止している状態では、2つの検出コイル3を鎖交する移動体6上の渦電流による磁束は同一である。よって、2つの検出コイル3を鎖交する磁束の総量は同一になり、各検出コイル3の誘起電圧は互いに打ち消し合って、速度推定部4に入力される電圧はゼロになる。よって、速度推定部4は移動体6が停止していると推定する。
【0035】
ここで、
図3に示すように、移動体6が矢印の向き(図示の右方向)に、移動速度vで移動すると、
図2Bに示すように移動体6上の渦電流に歪みが生じる。
図3では、
図1と同様に、励磁コイル2を上向きに鎖交する磁束が発生する例を示している。この渦電流の歪は、移動体6が励磁コイル2により発生される磁束中を移動することで生じる。具体的には、移動体6上の渦電流は、移動体6が停止している状態で、励磁コイル2の磁束によって発生する渦電流と、移動体6が励磁コイル2の磁束中を移動することによって発生する渦電流との和になる。移動体6が励磁コイル2の磁界中を移動することによって発生する渦電流は主に、励磁コイル2の直下に紙面奥から手前方向の向きに流れる。この渦電流により発生される磁束は、移動体6の進行方向前方に配置された右側の検出コイル3を上向きに鎖交し、また移動体6の進行方向後方に配置された左側の検出コイル3を下向きに鎖交する。これにより、移動体6の進行方向前方の検出コイル3を鎖交する磁束量と、移動体6の進行方向後方の検出コイル3を鎖交する磁束量とに差違が生じ、2つの検出コイル3の誘起電圧の差分電圧がゼロでなくなる。移動体6の移動速度が速いほど、上述した検出コイル3を鎖交する磁束量の差異が大きくなり、その結果検出コイル3に発生する差電圧は大きくなる。よって、速度推定部4は、上述した差分電圧に応じて、移動体6の速度を推定することができる。
【0036】
このように、移動体6が移動すると、励磁コイル2の両側の移動体6上で渦電流が非対称になり、この非対称性により、2つの検出コイル3を鎖交する磁束にわずかな差違が生じる。この磁束の差違が誘起電圧の差分電圧として検出される。
【0037】
速度推定部4は、
図1に示すように、バンドパスフィルタ7と、増幅復調部8とを有する。バンドパスフィルタ7は、2つの検出コイル3の誘起電圧同士の差分電圧に含まれるノイズを除去する。増幅復調部8は、バンドパスフィルタ7でフィルタリングした後の電圧信号に基づいて、移動体6の移動速度を検出する。
【0038】
図4Aは差分電圧udiffの波形図、
図4Bは速度推定部4の出力信号ulpの波形図、
図4Cは励磁コイル2を流れる交流電流iinjの波形図である。
図4Aの波形w1(v1)と
図4Bの波形w2(v1)は、移動体6が停止している状態を示し、
図4Aの波形w1(v2)と
図4Bの波形w2(v2)は、移動体6がゆっくりとした速度v2で移動している状態を示し、
図4Aの波形w1(v3)と
図4Bの波形w2(v3)は、移動体6が速い速度v3で移動している状態を示している。これらの波形図からわかるように、移動体6の移動速度が速くなるほど、差分電圧udiffの振幅が大きくなり、速度推定部4の出力信号の振幅も大きくなる。よって、速度推定部4は、差分電圧udiffの振幅により、移動体6の速度を推定できる。
【0039】
ヨーク5の形状と、励磁コイル2および検出コイル3の配置は任意であり、種々の変形例が考えられる。
図5Aは第1変形例による速度検出装置1を示している。
図5Aの速度検出装置1は、長手方向の中央部に凸状部5aを有するT型のヨーク5を備えており、この凸状部5aに励磁コイル2が巻回されている。この励磁コイル2の両側には、2つの検出コイル3が配置されているが、2つの検出コイル3の巻回方向が
図1とは90度異なっている。すなわち、励磁コイル2はヨーク5の凸状部5aの第1幅方向に巻回されており、2つの検出コイル3はヨーク5の本体部である第1幅に交差する第2幅方向に巻回されている。検出コイル3をヨーク5の本体部に巻回するため、ヨーク5の本体部を磁束が飽和しない程度に細くすることで、検出コイル3のサイズを増加させることなく、検出コイル3の巻数を増加させることができる。これにより、検出感度を向上できるため、移動体6の移動速度の変化を敏感に検出できる。その結果、励磁コイル2の電流を削減することができ、消費電力も削減できる。
【0040】
図5Bは第2変形例による速度検出装置1を示している。
図5Bは、
図5Aと比べて、励磁コイル2の巻回方向を90度回転させた点で相違する。
図5Bの励磁コイル2は、ヨーク5の本体部の第2幅方向に巻回されている。この構成では、第2幅を第1幅よりも小さくすることで、励磁コイル2と検出コイル3のコイル径を
図1よりも小さくでき、各コイルの材料使用量を削減でき、各コイルの抵抗成分による電力損失を抑制できる。なお、各コイルの材料としては、例えば銅が用いられ、各コイルの巻線長が短いほど、銅損が少なくなる。また、
図5Bでは各コイルがヨーク5の凸状部5aではなく、本体部に直接巻回されており、凸状部5aに巻回するための製造設備が不要となり、製造費用を削減できる。
【0041】
なお、
図1、
図5Aおよび
図5Bでは、便宜上、電流源15から励磁コイル2に交流電流iinjを流す例を示しているが、実際には、励磁コイル2に交流電圧源を接続して、励磁コイル2に交流電流iinjを流す。簡略化のため、本明細書では、電流源15から励磁コイル2に交流電流iinjを流すものとして説明する。
【0042】
<本実施形態の特徴>
本実施形態は、速度検出装置1と移動体6とのギャップを推定するものである。
移動体6上の渦電流による誘起電圧を検出して移動体6の移動速度を推定する速度センサの検出感度はギャップの大きさに依存する。このため、ギャップに応じて、誘起電圧と移動体6の推定速度とを相関づける必要がある。そこで、本実施形態は、ギャップの大きさを検出することを特徴とする。
【0043】
図6は本実施形態による速度検出装置1を説明する図である。
図6の速度検出装置1は、ヨーク5の周囲に配置された励磁コイル2および検出コイル3と、速度推定部4と、励磁コイル2に流れる交流電流iinjを測定する電流計16と、励磁コイル2の両端の電圧を測定する電圧計17と、ギャップ推定部18とを備えている。電流計16と電圧計17を合わせたものが電流電圧計測部である。
【0044】
励磁コイル2と検出コイル3の配置は、上述した
図1、
図3、
図5Aおよび
図5Bのいずれでもよいし、あるいは上述した以外の配置でもよい。
図6では、最も簡易的な構成として、中央に励磁コイル2を配置し、その両側に2つの検出コイル3を配置した例を示している。
図6の場合においても、励磁コイル2に流れる交流電流iinjによって磁束が発生し、この磁束により移動体6上に渦電流が発生する。この状態で移動体6が移動すると、別の渦電流が移動体6上に発生し、この渦電流による磁束が2つの検出コイル3を鎖交する。2つの検出コイル3を鎖交する磁束の大きさが互いに異なるため、2つの検出コイル3に誘起される誘起電圧にも差違が生じる。速度推定部4は、これら誘起電圧同士の差分電圧udiffに基づいて、移動体6の移動速度を推定する。
【0045】
また、移動体6が移動している最中に励磁コイル2に流れる電流を電流計16で測定するとともに、励磁コイル2の両端の電圧を電圧計17で測定し、測定された電流と電圧はギャップ推定部18に入力される。ギャップ推定部18は、測定された電流と電圧に基づいて、導体と励磁コイル2とのギャップを推定する。すなわち、ギャップ推定部18は、励磁コイル2に流れる電流および励磁コイル2の両端の電圧に基づいて、移動体6と励磁コイル2とのギャップを推定する。
【0046】
ギャップ推定部18は、インピーダンス解析手法によってギャップを推定する。より具体的には、ギャップ推定部18は、励磁コイル2に流れる電流および励磁コイル2の両端の電圧に基づいて算出した励磁コイル2のインダクタンスと、予め定めたギャップの基準値に対応する励磁コイル2のインダクタンスとの対比に基づいてギャップを推定する。あるいは、ギャップ推定部18は、励磁コイル2に流れる電流および励磁コイル2の両端の電圧に基づいて算出した励磁コイル2のインピーダンスと、予め定めたギャップの基準値に対応する励磁コイルのインピーダンスとの対比に基づいてギャップを推定する。あるいは、ギャップ推定部18は、励磁コイル2の電流と電圧との位相差に基づいてギャップを推定してもよい。ギャップ推定部18の詳細な動作原理は、移動体6の材料により最適化されうる。例えば、簡易的なインピーダンス解析は、移動体6が高透磁率を持つ強磁性体(例えば、鉄)で形成されている場合である。ここで、移動体6とヨーク5の透磁率が無限大であると仮定すると、励磁コイル2のインダクタンスLicはギャップに依存し、例えばLic=f(g)という関数で表される。ギャップが小さい場合には、インダクタンスLicとギャップとの依存性は、以下の(1)で表される。
【数1】
【0047】
(1)式において、Licはギャップgでの励磁コイル2のインダクタンス、Lic,nomは基準ギャップgnomでの励磁コイル2の基準インダクタンスである。
【0048】
より正確な解析では、Lic,nomは実システムでの電磁界シミュレーションまたは実測定から求めることができる。また、Licは、ルックアップテーブルの形態にて求めることもできる。
【0049】
図7は移動体6が磁性体の場合のギャップ推定部18の内部構成を示すブロック図である。
図7のギャップ推定部18は、インピーダンス検出部19と、インダクタンス検出部20と、ギャップ検出部21とを有する。
【0050】
インピーダンス検出部19は、電流計16で測定された電流と、電圧計17で測定された電圧とに基づいて、励磁コイル2のインピーダンスを検出する。より詳細には、インピーダンスは、励磁コイル2の両端の電圧波形と、励磁コイル2に流れる交流電流iinjの電流波形とを用いて、以下の(2)式で表される。
インピーダンス=電圧波形/電流波形 …(2)
【0051】
インダクタンス検出部20は、インピーダンス検出部19で検出されたインピーダンスに基づいて、励磁コイル2のインダクタンスを検出する。より詳細には、インダクタンスは、(2)式で求めた励磁コイル2のインピーダンスと、励磁コイル2の抵抗成分と、角速度ωとを用いて、以下の(3)式で求められる。
インダクタンス=(インピーダンス-抵抗成分)/jω …(3)
【0052】
ギャップ検出部21は、インダクタンス検出部20で検出されたインダクタンスと、導体と励磁コイル2との距離が予め定めた基準ギャップのときの励磁コイル2のインダクタンスとに基づいて、ギャップを検出する。より具体的には、ギャップ検出部21は、(3)式で求めたインダクタンスを上述した(1)式に代入して、対応するギャップを計算してもよい。あるいは、ギャップ検出部21は、インダクタンスとギャップとの相関関係を記録したルックアップテーブルを予め用意して、このテーブルに(3)式で求めたインダクタンスを与えて、対応するギャップを検出してもよい。
【0053】
一方、移動体6がアルミニウムのような非磁性体の場合、上述した(1)式の関係は成り立たなくなる。その理由は、移動体6が非磁性体の場合には、ギャップが変動しても、インダクタンスの値はほとんど変化しないと考えられるためである。ただし、ギャップが小さい場合には、励磁コイル2と移動体6との磁気結合が強くなり、移動体6の表面に発生する渦電流が増大して、(3)式における抵抗成分が増大し、励磁コイル2の電圧と電流の位相差が小さくなる。よって、移動体6が非磁性体の場合には、励磁コイル2の電圧と電流の位相差を用いて、移動体6の移動速度を推定する。
【0054】
図8は移動体6が非磁性体の場合のギャップ推定部18の内部構成を示すブロック図である。
図8のギャップ推定部18は、位相差検出部22と、記憶部23と、ギャップ取得部24とを有する。
【0055】
位相差検出部22は、電流計16で測定された電流と、電圧計17で測定された電圧とに基づいて、電流と電圧との位相差を検出する。
【0056】
記憶部23は、ギャップと位相差との相関関係を記憶する。ギャップ取得部24は、位相差検出部22にて検出された位相差に対応するギャップを記憶部23から取得する。なお、ギャップ取得部24は、位相差とギャップとの相関関数を用いて、位相差に対応するギャップを計算してもよい。
【0057】
図9は、励磁コイル2の両端の電圧と励磁コイル2を流れる電流との位相差、ギャップ、および移動体6の移動速度の相関関係を示すグラフである。
図9のグラフは、実効電流が250mAで、周波数が250Hzの交流電流iinjを励磁コイル2に連続的に流した速度検出装置1の特性を示している。
図9のグラフからわかるように、位相差とギャップとの相関関係は、移動体6の移動速度にはほとんど影響しない。このため、ギャップは、移動体6の移動速度の大小にかかわらず、位相差から求めることができる。
【0058】
図10(a)~
図10(d)は差分電圧udiffと移動速度との相関関係がギャップにより変化する様子を示すグラフである。各グラフの横軸は移動体6の移動速度v(m/s)、縦軸は検出コイル3の誘起電圧同士の差分電圧udiff(V)である。
図10(a)と
図10(b)はギャップg=8mmのグラフを示し、
図10(c)と
図10(d)はギャップg=12mmのグラフを示している。また、
図10(a)と
図10(c)はシミュレーションによるグラフを示し、
図10(c)と
図10(d)は実測値によるグラフを示している。各図には、4種類の励磁周波数finv(=100Hz、200Hz、300Hz、400Hz)の交流電流iinjを励磁コイル2に流した場合のグラフが示されている。
【0059】
図10(a)~
図10(d)からわかるように、移動速度v=12m/sかつfinv=100Hzのときには、非線形性応答性が強くなる。これは、励磁周波数は測定されるべき最大速度を考慮して選択する必要があることを示している。また、励磁周波数には最適な周波数があることもわかる。例えば、励磁周波数が200Hzを超えると、移動体6の表皮効果により検出感度が低下すると考えられる。
【0060】
図10(a)~
図10(d)の各グラフからわかるように、シミュレーション結果と実測値との平均的なずれは10%以下である。このずれは、3Dモデル化による誤差や、移動体6のモデル化による電気特性と形状の誤差などによって生じる。
【0061】
図11(a)~
図11(d)は差分電圧udiffの測定値udiff,ampに関するギャップgの効果を示す図であり、差分電圧udiff、ギャップ、移動速度の相関関係図を示している。
図11(a)と
図11(b)は励磁周波数finj=200Hzの場合、
図11(c)と
図11(d)は励磁周波数finj=400Hzの場合の相関関係図を示している。
図11(a)と(c)はオフセット補正をしない場合、
図11(b)と
図11(d)はオフセット補正をした場合の相関関係図を示している。
【0062】
ここでオフセットとは、移動体6が停止しているにもかかわらず、検出コイル3の誘起電圧同士の差分電圧udiffがゼロ以外の電圧値になることを指す。オフセットは、励磁コイル2の両側の検出コイル3が完全な対称構造でないことで生じる。オフセットは、移動体6が停止しているときの差分電圧udiffを時間領域で減算することで除去できる。この処理をオフセット補正と呼ぶ。
【0063】
図11(b)と
図11(d)のように、オフセット補正を行うことにより、移動体6が停止しているときには差分電圧udiffを0Vにすることができる。
【0064】
速度推定部4は、複数のギャップのそれぞれごとに、検出コイル3の誘起電圧同士の差分電圧udiffと移動体6の移動速度との相関関係を示すルックアップテーブルを予め用意して、ギャップ推定部18で推定されたギャップに対応するルックアップテーブルに差分電圧udiffを与えて、対応する移動速度を取得する。あるいは、速度推定部4は、複数のギャップのそれぞれごとに、差分電圧udiffと移動速度との相関関数を求めておき、ギャップ推定部18で推定されたギャップに対応する相関関数に差分電圧udiffを与えて、移動速度を計算する。
【0065】
図6の速度検出装置1の一変形例として、検出された環境ノイズに応じて励磁周波数を切り替えてもよい。
図12は
図6の速度検出装置1の一変形例を示す図である。
図12の速度検出装置1は、
図6の構成に加えて、環境ノイズ検出部25と励磁周波数調整部26とを備えている。
【0066】
環境ノイズ検出部25は、圧電素子や加速度センサ等を用いて速度検出装置1の周辺の環境ノイズを検出する。なお、環境ノイズの検出には種々の手法があり、いずれを採用してもよい。例えば、検出コイル3の誘起電圧からノイズ成分を推定してもよい。励磁周波数調整部26は、検出した環境ノイズの周波数帯域とは異なるように励磁コイル2の励磁周波数を調整する。また、励磁周波数調整部26は、調整した励磁周波数に合わせて、速度推定部4内のバンドパスフィルタ7の通過周波数帯域も調整する。
【0067】
図12の速度検出装置1によれば、ギャップの推定結果に加えて、周囲の環境ノイズの周波数帯域とは重複しない励磁周波数を用いて移動体6の移動速度を推定するため、環境ノイズの影響を受けずに精度よく移動速度を推定できる。なお、
図13に示すように、
図12の速度検出装置1からギャップ推定部18を省略してもよい。
【0068】
<共振動作>
励磁コイル2は、等価的にはR-L直列回路である。ギャップと移動体6の表面での磁界を励起するには、有効電力と無効電力を励磁コイル2に供給する必要がある。また、励磁コイル2に流す交流電流iinjは、正弦波電流が望ましい。その理由は、交流電流iinjに高調波成分が含まれていると、検出コイル3に誘起される誘起電圧にノイズ成分となる高調波成分が重畳してしまい、速度推定部4にてその高調波成分を除去しなければならないためである。
【0069】
以上のことから、速度検出装置1内に、励磁コイル2を有する共振回路(第1共振回路)11を備えてもよい。
図14は共振回路11の一例を示す回路図である。
図14の共振回路11は、無効電力補償を行うだけでなく、最小のスイッチング損失にて正弦波電流励起を行う。
【0070】
図14の共振回路11は、直流電圧が供給される直流電圧端子間に直列接続される2つのキャパシタCiと、同じく直流電圧端子間に直列接続される2つのスイッチSW1,SW2とを有する。励磁コイル2の一端は、キャパシタCi同士の接続ノードに接続され、励磁コイル2の他端は、電流計11aを介して、スイッチSW1,SW2同士の接続ノードに接続されている。
【0071】
図14のスイッチSW1,SW2は、共振回路11の共振周波数に合わせて、交互にオンオフする。
図14では、スイッチSW1,SW2のオン/オフを切り替える回路を省略している。
図14の励磁コイル2に流れる交流電流iinjの周波数は、共振回路11の共振周波数となる。
【0072】
図15は、
図14の回路構成に加えて、検出コイル3も共振回路構成にしたものである。
図15の2つの検出コイル3のそれぞれには、キャパシタCpが並列接続されている。検出コイル3とキャパシタCpとを並列接続することで共振回路(第2共振回路)12が構成される。励磁コイル2の励磁電流周波数と共振回路12の共振周波数が一致するように、検出コイル3のインダクタンスとキャパシタCpを設定しておけば、速度推定に利用する励磁電流周波数と同じ周波数の検出コイル3の誘起電圧の検出感度を上げることができ、共振周波数とは異なる周波数の外乱ノイズの検出を抑えることが出来る。
【0073】
本実施形態による速度検出装置1の適用範囲は特に問わないが、例えば列車の速度を検出するために本実施形態による速度検出装置1を用いる場合、検出結果が列車の振動によるノイズの影響を受けないようにする必要がある。列車の平均的な振動周波数帯域を予め調べて、この周波数帯域とは無相関の周波数となるよう、
図14または
図15の共振回路11、12の共振周波数を設定するのが望ましい。無相関とは、列車の振動周波数だけではなく、その高調波周波数とも重ならないように共振周波数を設定する趣旨である。あるいは、後述するように、環境ノイズを常時検出して、検出されたノイズの周波数とは無相関の周波数となるように、共振回路11、12の共振周波数を設定してもよい。
【0074】
また、励磁コイル2に流す交流電流iinjをできるだけ理想的な正弦波波形にして、検出コイル3に誘起される誘起電圧に交流電流iinjの高調波成分が重畳されないようにするのが望ましい。交流電流iinjを理想的な正弦波波形にするのは、
図14の共振回路11により実現可能である。
【0075】
本実施形態による速度検出装置1は、
図14の共振回路11と
図15の共振回路12の両方、あるいはいずれか一方を備えていてもよい。これら共振回路11,12は、上述した
図1、
図3、
図5A、
図5B、
図7、
図9~
図15のいずれの速度検出装置1にも適用可能である。
【0076】
<励磁コイル2の間欠駆動>
本実施形態による速度検出装置1では、ヨーク5のコア損失、励磁コイル2の銅損、移動体6上の渦電流損失の計3つの損失に対する対策を施すのが望ましい。ヨーク5のコア損失は、フェライト、鉄粉又は積層鋼板等の低損失ヨーク材料を用いることにより最小化できる。一方、励磁コイル2の銅損と移動体6上の渦電流損は、速度検出装置1の本質的要素であり、避けられないものである。特に、ギャップが大きくなるほど励磁コイル2に必要な電流は増大し、励磁コイル2の銅損も増大してしまう。これにより、バッテリ電源を利用して、大きいギャップのある移動体6の速度を推定する場合への適用が困難になりうる。
【0077】
速度検出装置1の消費電力を削減する一手法として、励磁コイル2を間欠的に駆動してもよい。
図16は
図1に電流制御部13を追加した速度検出装置1を示している。電流制御部13は、励磁コイル2の電流を流す第1期間と電流を流さない第2期間とを交互に設け、速度推定部4が移動体6の移動速度を推定し、かつ速度推定部4が移動体6の移動速度を推定するのに必要な時間長さ以上に第1期間を設定する。
【0078】
図17は励磁コイル2に流れる交流電流iinjの波形図である。交流電流iinjは周期Tpを有する間欠電流である。電流制御部13は、周期Tp内の第1期間Tbのみ、所定の周波数の交流電流iinjを励磁コイル2に流す。第1期間Tbの開始直後は、電流波形にオーバーシュートやアンダーシュートが生じるおそれがあり、交流電流波形が不安定である。そこで、第1期間Tbが開始してから所定時間が経過した後(
図17の期間Tc)に移動体6の移動速度を推定してもよい。
【0079】
【0080】
上述した実施形態では、一方向に移動する移動体6の速度を検出する例を説明したが、二次元方向に移動する移動体6の速度を検出可能な速度検出装置1を構成することも可能である。
図18は二次元方向に移動する移動体6の速度を検出可能な速度検出装置1を上方から見た模式的な平面図である。中央に励磁コイル2が配置され、その第1方向Xの両側と、第1方向Xに交差する第2方向Yの両側とに検出コイル3が配置されている。
図18の速度検出装置1では、移動体6が第1方向Xに移動した場合の移動速度と、第2方向Yに移動した場合の移動速度とを推定できる。
図18の速度検出装置1の内部構成は、上述した
図1、
図3、
図5A、
図5B、
図6、
図12、
図13及び
図16のいずれであってもよい。
【0081】
図18では、各コイル2,3を矩形状にしているが、各コイルの形状やサイズは任意である。例えば、
図19は、中央の励磁コイル2を円環状にし、周囲の励磁コイル2を三日月形状にした例を示している。
【0082】
このように、本実施形態では、励磁コイル2に流れる交流電流iinjにより移動体6上に磁束を発生させた状態で移動体6を移動させ、移動体6の移動により生じた新たな渦電流による磁束を検出コイル3に鎖交させて、検出コイル3に誘起電圧を誘起させ、この誘起電圧に基づいて移動体6の移動速度を推定する。また、本実施形態では、励磁コイル2にて発生された磁束が速度検出装置1の外側にまで広がることを防止するために、励磁コイル2と検出コイル3の配置を工夫する。これにより、浮遊磁界を抑制して磁気効率を向上でき、低消費電力でありながら、精度よく移動体6の移動速度を推定できる。
【0083】
また、
図13や
図15のように二次元方向に励磁コイル2と検出コイル3を配置することで、二次元方向への浮遊磁界を抑制できる。
【0084】
さらに、励磁コイル2を共振回路11の構成にすることで、励磁電流(交流電流)を流すための電源電圧を低く抑えることができ、励磁電流用の高電圧発生回路が不要となる。また、少ないスイッチング回数で励磁電流を正弦波波形にすることができる。また、検出コイル3を共振回路12の構成にすることで、共振周波数以外の周波数成分を抑制でき、S/N比を向上できる。また、小さい励磁電流でも検出コイル3にて誘起電圧を検出でき、検出感度の向上と省電力化を図れる。
【0085】
また、励磁コイル2に流れる交流電流iinjを正弦波波形にすることで、検出コイル3に誘起される誘起電圧に交流電流iinjの高調波成分が含まれなくなり、移動体6の移動速度を精度よく推定できる。
【0086】
さらに、励磁コイル2に間欠的に交流電流iinjを供給することにより、速度検出装置1の消費電力を削減できる。
【0087】
このように、本実施形態では、励磁コイル2及び検出コイル3と移動体6とのギャップの大小により、移動体6の移動速度の推定結果が異なることから、まずはギャップを推定し、ギャップに応じた差分電圧udiffと移動速度との相関関係に基づいて移動速度を推定する。これにより、ギャップが変動しても、移動体6の移動速度を精度よく推定できる。
【0088】
また、本実施形態では、ギャップを推定する際には、移動体6が磁性体か非磁性体かにより、推定手法を変えている。具体的には、移動体6が磁性体の場合には、励磁コイル2の電流と電圧からインピーダンスを計算した後、計算したインピーダンスからインダクタンスを計算し、次に、計算したインダクタンスを(1)式に代入してギャップを推定する。一方、移動体6が非磁性体の場合には、励磁コイル2の電流と電圧から位相差を検出し、位相差とギャップとの相関関係に基づいてギャップを推定する。これにより、移動体6が磁性体または非磁性体であっても、精度よくギャップを推定できる。また、移動体6の材質やギャップ距離、速度センサの大きさや形状などによって、最適なギャップ推定手法が異なるため、移動体6が磁性体であっても、励磁コイル2の電流と電圧の位相差をギャップ推定に利用することもできる。
【0089】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 速度検出装置、2 励磁コイル、3 検出コイル、4 速度推定部、5 ヨーク、6 移動体、7 バンドパスフィルタ、8 増幅復調部、11,12 共振回路、13 電流制御部、15 電流源、18 ギャップ推定部、19 インピーダンス検出部、20 インダクタンス検出部、21 ギャップ検出部、22 位相差検出部、23 記憶部、24 ギャップ取得部