(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】空調システム及び施設
(51)【国際特許分類】
F24F 7/10 20060101AFI20220112BHJP
F24F 13/06 20060101ALI20220112BHJP
F24F 5/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
F24F7/10 101A
F24F7/10 101B
F24F13/06 C
F24F5/00 K
(21)【出願番号】P 2017193463
(22)【出願日】2017-10-03
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175190
【氏名又は名称】大竹 裕明
(72)【発明者】
【氏名】清水 博昭
(72)【発明者】
【氏名】大矢 公則
(72)【発明者】
【氏名】桑原 健次
(72)【発明者】
【氏名】末松 辰朗
(72)【発明者】
【氏名】河内 博之
(72)【発明者】
【氏名】原 豊
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-015267(JP,A)
【文献】特許第5780892(JP,B2)
【文献】実開昭51-103823(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第1430024(CN,A)
【文献】特開2010-286122(JP,A)
【文献】特開平08-254327(JP,A)
【文献】実開昭62-060816(JP,U)
【文献】高砂熱学工業株式会社 広報誌,日本,2015年,No.69,https://www.tte-net.com/solution/support/pdf/no69_2015.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内の居室空間と天井空間とを、床面と平行に配置される格子状の
部材によって区分するシステム天井
用のフレームと、
冷却した空気を前記居室空間に給気し、前記給気された空気よりも温度が高い前記居室空間内の空気が
前記フレームの枠を通って前記天井空間に上昇して
前記天井空間に排出され
、前記天井空間に排出された温度が高い空気が還気又は屋外に排出されることで、前記居室空間
及び前記天井空間内の空気を換気する置換空調機と、
機内に熱交換器を有し、前記居室空間における局所的な冷却箇所に応じて、前記フレームにより形成される枠のいずれかに移設可能に設置され、機内で冷却した冷気を前記居室空間の床側に向けて送風するとともに、前記居室空間から前記
フレームの枠を通じて上昇する空気が通過する前記天井空間に排熱を排出する
ドレンレスのスポット空調機と、
前記フレームにより形成される枠のうちの少なくとも何れかに移設可能に設置されるパネルであって、前記居室空間から前記天井空間内への通風のための開口を有する通気パネルと、を備え
、
前記通気パネルは、前記居室空間から前記天井空間への空気の流れが停滞しないように前記開口の形状及び前記開口の数が定められている、
空調システム。
【請求項2】
前記居室空間に設置される機器から前記天井空間内の設備に接続される配管を通す貫通孔を有し、前記フレームにより形成される枠のいずれかに移設可能に設置される貫通パネルを、さらに備える、
請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
前記スポット空調機は、前記スポット空調機からの送風を、前記冷却箇所の向きに整流する整流部材を備える、
請求項1
又は2に記載の空調システム。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の空調システムを備える施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システム及び施設に関する。
【背景技術】
【0002】
工場内の生産エリアにおける作業領域での空調負荷を抑制するため、大型空間室に適した置換換気設備を提供する技術(例えば、特許文献1、2を参照)、空調設備の容量を削減して省力化可能な空調システムを提供する技術(例えば、特許文献3を参照)等が提案されている。
【0003】
また、作業領域での作業員の快適性の向上を図るため、室内ファンからの空気の風速を調整し快適な室内空間を提供する技術(例えば、特許文献4を参照)や、空調工事をすることなく簡単にかつ局所的に設置することができる仮設型空調ユニット(例えば、特許文献5及び非特許文献1を参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5490485号公報
【文献】特許第5785633号公報
【文献】特許第5780892号公報
【文献】特開2016-194388号公報
【文献】特開2014-114987号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】“空気熱源ヒートポンプユニット ドレンレス・スポット空調機 レスQ”,[online],日本ピーマック株式会社[平成29年8月18日検索],インターネット<URL:http://www.pmac.co.jp/products/aspac/catalog/catalog_aspac-22.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空調負荷を抑制し居室空間等の空調される空間の快適性の向上を図るため、既存の空調設備を改修したり生産設備のレイアウトを変更したりする場合、各種配管及び空調用ダクト等の改修工事が発生する。また、改修工事の間、生産ラインは停止される。このため、空調設備の改修及びレイアウト変更後の運用コストを抑制するとともに、改修工事に要するコストの低減及び工期の短縮が求められる。
【0007】
そこで、本発明は、既存の空調設備や生産設備変更に対する空調システムの改修工事に伴うコストを低減し工期を短縮する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、居室空間と天井空間とを区分し、居室空間に給気された空気よりも温度が高い居室空間内の空気が上昇して排出されることで、居室空間を局所的に冷却するスポット空調機からの排熱を排気することにした。
【0009】
詳細には、本発明は、空調システムであって、屋内の居室空間と天井空間とを、床面と平行に配置される格子状のフレームによって区分するシステム天井と、冷却した空気を居室空間に給気し、給気された空気よりも温度が高い居室空間内の空気が天井空間に上昇し
て排出されることで、居室空間内の空気を換気する置換空調機と、機内に熱交換器を有し、居室空間における局所的な冷却箇所に応じて、フレームにより形成される枠のいずれかに移設可能に設置され、機内で冷却した冷気を居室空間の床側に向けて送風するとともに、居室空間からシステム天井を通じて上昇する空気が通過する天井空間に排熱を排出するスポット空調機と、を備える。
【0010】
スポット空調機が有する熱交換器は、例えば、蒸発器及び凝縮器であり、熱交換を行うための熱交換機能を有する。上記の空調システムによれば、置換空調機からの給気よりも温度が高い空気が自然対流によって天井空間に上昇することで、居室空間内の空気は置換換気される。即ち、居室空間内の空気は、置換空調機からの給気との温度差によって生じる自然対流によって上昇することで、置換空調機から供給される清浄空気に換気される。また、置換換気によって、居室空間内の塵埃や油煙も自然対流とともに上昇するため、居室空間の清浄度を維持することが可能となる。居室空間から上昇した空気は、天井空間に設けられた排気口から屋外に排出されてもよい。また、居室空間から上昇した空気は、還気として置換空調機に取り込まれ、冷却されて屋内空間へ給気されるようにしてもよい。
【0011】
置換空調は、屋内の低層部である居室空間を対象に置換空調機から給気される清浄空気によって、居室空間内の空気を置換換気する空調方式である。置換空調は、屋内全体の空気質を均一にする混合空調方式よりも効率よく空調をすることができるため、居室空間の温度に対してより小さい温度差で給気することが可能である。また、置換空調は、混合空調方式より空調風量を減らしても、居住空間内の空気を清浄空気に置換換気することができるため、空気の清浄度を良好に維持することができる。したがって、上記空調システムは、置換換気によって居室空間の温度を所定の温度以下に保ち、局所的に冷気を送風するスポット空調を実施することで居室空間の快適性を向上させることができる。所定の温度は、例えば30℃である。また、空調システムは、置換換気とともにスポット空調を実施することで、空調負荷を抑制することができる。さらに、居室空間内におけるレイアウト変更により、スポット空調の位置を変更する場合、スポット空調機は電源工事のみでシステム天井上で容易に移設することができる。このため、レイアウト変更に伴う改修工事に要するコストは低減され、改修工事の工期短縮が可能となる。
【0012】
また、空調システムは、居室空間に設置される機器から天井空間内の設備に接続される配管を通す貫通孔を有し、フレームにより形成される枠のいずれかに移設可能に設置される貫通パネルを、さらに備えるものであってもよい。このような空調システムであれば、機器のレイアウト変更があった場合でも、機器の移設先に応じて貫通パネルをシステム天井上で容易に移設することができるため、機器と天井空間内の設備とを接続する配管は、容易に移設することが可能である。
【0013】
また、空調システムは、居室空間から天井空間内への通風のための開口を有し、フレームにより形成される枠のいずれかに移設可能に設置される通気パネルを、さらに備えるものであってもよい。このような空調システムであれば、置換換気による上昇気流を遮ることなく、居室空間から天井空間内に空気を流入させることができる。
【0014】
また、スポット空調機は、スポット空調機からの送風を、冷却箇所の向きに整流する整流部材を備えるものであってもよい。このようなスポット空調機であれば、スポット空調機から居室空間の床側への局所的な送風が、置換換気による上昇気流に与える影響を低減することができる。
【0015】
また、本発明は、施設の側面から捉えることもできる。例えば、本発明は、上記空調システムを備える施設であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、既存の空調設備や生産設備変更に対する空調システムの改修工事に伴うコストを低減し工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係る空調システムの構成を例示する図である。
【
図2】
図2は、天井モジュールを例示する図である。
【
図3】
図3は、スポット空調機が備える整流部材を例示する図である。
【
図4】
図4は、建屋内のユーティリティボイドスペースの配置例を示す図である。
【
図5】
図5は、ユーティリティボイドスペースにおける置換空調機の配置例を示す図である。
【
図6】
図6は、置換空調機による空気の流れを例示する図である。
【
図7】
図7は、外気冷房時の置換空調機による空気の流れを例示する図である。
【
図8A】
図8Aは、生産機器及びユーティリティ取合部のレイアウトを例示する図である。
【
図9】
図9は、比較例に係る生産機器の入替えを説明するための図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係る生産機器の入替えを説明するための図である。
【
図11】
図11は、比較例に係る生産ラインの総入替又は複数ラインの変更を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本願発明の一態様を例示したものであり、本願発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0019】
図1は、実施形態に係る空調システムの構成を例示する図である。
図1の例では、空調システム1は、生産設備を備える工場に設置されている。空調システム1は、システム天井10、スポット空調機20、貫通パネル30、通気パネル31、置換空調機40を備える。置換空調機40は、生産機器50等が配置される生産エリアA1に給気し、汚れた暖かい空気を天井側の設備エリアA2に上昇させる。設備エリアA2に流入した空気は、排気口43から屋外に排出される。スポット空調機20は、生産エリアA1における作業員の行動領域を局所的に冷却し、作業員の快適性の向上を図る。スポット空調機20から設備エリアA2に排気される排熱は、置換空調機40からの給気により発生する上昇気流とともに上昇し、排気口43から屋外に排出される。このように、スポット空調機20から排気される排熱は、置換空調機40の給気により発生する上昇気流により、効率よく屋外に排出される。生産エリアA1は、「居室空間」の一例である。設備エリアA2は「天井空間」の一例である。生産機器50は、「機器」の一例である。
【0020】
システム天井10は、生産エリアA1と設備エリアA2とを区分する格子状のフレームである。システム天井10は、例えば、断面がT型のTバー等の棒状部材を、格子状に組むことにより構築される。格子状のフレームによって形成されるそれぞれの枠には、スポット空調機20等の各種装置、ならびに貫通パネル30及び通気パネル31等の各種パネルを設置することが可能である。以下、システム天井10の枠に設置される各種装置及び各種パネルは、天井モジュールと総称される。システム天井10のそれぞれの枠の大きさは、例えば、600mm×900mmとすることができるがこれに限られない。枠の大きさは、それぞれの枠に設置される天井モジュールの大きさに応じて変更されてもよい。
【0021】
図2は、天井モジュールを例示する図である。
図2では、天井モジュールとして、スポット空調機20、貫通パネル30及び通気パネル31が例示される。天井モジュールは、
この他、自然採光パネルであってもよい。例えば、排気口43に隣接する位置に自然採光用の窓を設置し、自然採光パネルによって自然光を生産エリアA1に取り込むことが可能である。各天井モジュールは、生産エリアA1での生産機器50等のレイアウト変更に伴い、システム天井10の任意の枠に移設可能である。
【0022】
図2に示すスポット空調機20は、熱交換機能を果たすための蒸発器及び凝縮器を機内に搭載し、発生するドレン水を排出される空気の熱を利用して蒸発させる空調機器である。設備エリアA2においてシステム天井10に設置されるスポット空調機20は、生産エリアA1において作業員が作業をする作業領域に、局所的に送風することでスポット空調(タスク空調ともいう)をする。スポット空調機20は、
図3に示すように、給気口の周囲に整流部材21を備えるものであってもよい。
【0023】
スポット空調機20から設備エリアA2に排気される排熱は、置換空調機40からの給気により発生する上昇気流とともに上昇し、排気口43から屋外に排出される。したがって、スポット空調機20からの排熱による生産エリアA1内の温度上昇は抑制される。
【0024】
スポット空調機20は、熱交換機能を果たすための蒸発器及び凝縮器を機内に搭載しているため、室外機との間で冷媒又は冷水を循環させるための冷媒配管又は冷水配管の設置を要しない。また、スポット空調機20は、機内で発生するドレン水を排気熱によって蒸発させるため、ドレンパンを設置しなくてもよい。即ち、スポット空調機20は、設備エリアA2においてドレンパン、冷媒管、冷水管、ダクト、室外機の設置工事を要しない。このため、スポット空調機20は、電源工事のみで移設が可能である。スポット空調機20は、生産機器50等のレイアウト変更に伴い容易に移設することができるため、工事費を低減し、改修工事の工期を短縮することができる。このようなスポット空調機としては、日本ピーマック社製の「レスQ(AQP14AA型)」が利用できる。具体的には、給気側熱交換器、排気側熱交換器、給気側蒸発エレメント、排気側蒸発エレメント等を有するドレンレスのスポット空調機が利用できる。
【0025】
図3は、スポット空調機が備える整流部材を例示する図である。
図3に示すスポット空調機20は、生産エリアA1の作業領域に向けて送風する給気口の周囲を囲む整流部材21を備える。整流部材21は、例えば、一端が給気口に接続され、他端の開口が作業領域に向けられる筒状の部材である。筒状の部材の形状は、作業領域に向けて空気の流れを誘導することができればよく、円筒状又は角筒状であってもよい。また、筒状の部材は、給気口側に向けてテーパ状に形成されてもよい。整流部材21は、透明又は半透明の樹脂製とすることで、作業員の視界を妨げないようにすることができる。整流部材21は、スポット空調機20からの給気の流れをより局所的な領域に狭めることができる。スポット空調機20からの送風は、整流部材21によって局所的な領域に狭められるため、置換空調機40による空気の流れを乱すことなく、作業領域を効率よく冷却することができる。
【0026】
図2に示す貫通パネル30は、生産エリアA1に設置される生産機器50等と、設備エリアA2に設置される各種設備等とを、システム天井10を介して接続する配管又はダクトを貫通させるためのパネルである。貫通パネル30は、配管又はダクトを通すための貫通孔30aを有する。貫通孔30aの形状及び大きさは、貫通孔30aに通される配管又はダクトの形状及び大きさに基づいて変更可能である。
【0027】
具体的には、例えば、貫通パネル30は、生産機器50にエアー及び循環水等を供給するためのユーティリティ配管51を通す。生産機器50は、ユーティリティ配管51によって、設備エリアA2に設けられた供給口52に接続され、エアー及び循環水等の供給を受ける。
【0028】
また、貫通パネル30は、排熱及び塵埃や油煙等の有害物質を排出するための局排ダクト53を通す。生産機器50で発生した排熱及び塵埃や油煙等の有害物質は、吸引されて局排ダクト53を通り設備エリアA2に搬送され、局排ファン54によって排気ガラリ55を通じて屋外に排出される。
【0029】
図2に示す通気パネル31は、生産エリアA1から設備エリアA2に通風するための開口が設けられたパネルである。通気パネル31は、スポット空調機20又は貫通パネル30が設置されていないシステム天井10の枠に設置される。通気パネル31に設けられる開口は、
図2の例では、縞状の複数のスリットであるが、開口の形状及び開口の数はこれに限られない。通気パネル31の開口の形状及び開口の数は、置換換気による生産エリアA1から設備エリアA2への空気の流れが停滞しないように決められればよい。例えば、上昇する空気が設備エリアA2へ流入可能な開口面積が、天井面積の10%以上となることが望ましい。
【0030】
通気パネル31は、作業員の足場としても利用可能である。作業員は、通気パネル31上で、スポット空調機20の設置、又はユーティリティ配管51及び局排ダクト53の接続等の作業を実施することができる。設備エリアA2での作業を、生産エリアA1からの高所作業として実施しなくてもよく、作業員の安全性が向上する。通気パネル31は、システム天井10の枠のうち、少なくとも作業員が足場として利用する位置に設置されていればよい。システム天井10の枠のうち、各種天井モジュールが設置されていない枠があってもよい。
【0031】
図1において、置換空調機40は、床側から給気することにより、生産エリアA1で作業員が作業する領域、例えば、高さが2.0m以下の領域を所定の温度以下に保つ。具体的には、生産機器50等からの排熱は、置換空調機40からの給気との温度差によって発生する自然対流によって上昇し、設備エリアA2に移動する。さらに、設備エリアA2内に移動した空気は、自然対流によってさらに上昇し、排気口43から屋外に排出される。このように、生産エリアA1内の空気は、置換空調機40からの給気によって置換換気され、作業員が存在する領域を所定の温度以下に保つことができる。そして、置換空調機40は、給気との温度差による上昇気流を利用することで、排気用のダクトを設置することなく、置換空調機40からの排熱も屋外に排出をすることができる。
【0032】
置換空調機40は、冷水配管42を介して熱源機41に接続される。熱源機41で冷却された冷水は、冷水配管42を通り置換空調機40に送水される。置換空調機40は、熱源機41から送水された冷水により、外気口44から取り込まれる外気及び還気口45から取り込まれる還気を冷却し、屋内に給気する。置換空調機40は、旋回流を吹き出すことにより周囲の空気を誘引し、風量を抑制しつつ、生産エリアA1の温度により近い温度で運転できる。したがって、空調システム1は、空調負荷を抑制しコストを低減するとともに、快適な環境を維持することができる。置換空調機40は旋回流を形成する場合について説明したがこれに限られない。
【0033】
図1に示すように、置換空調機40は、ユーティリティボイドスペース(以下、UTボイドスペースともいう)A3の壁面に設置される。UTボイドスペースA3は、建屋の既設躯体の耐震補強のために設置され、ユーティリティ設備を収容するスペースとして使用されるスペースである。UTボイドスペースA3は、置換空調機40、冷水配管42、外気口44、還気口45、制御盤(図示なし)等の空調に関するユーティリティ設備を集約し、生産エリアA1との分離が可能である。
【0034】
外気口44は、UTボイドスペースA3の屋根に設置され外気を取り込む。外気口44は、例えば、風量調整が可能なモータダンパであり、UTボイドスペースA3に取り込む
外気の風量を制御する。還気口45は、UTボイドスペースA3が設備エリアA2と接する壁面に設置される。還気口45は、設備エリアA2からの還気をUTボイドスペースA3に取り込む。還気口45は、例えば、風量調整が可能なモータダンパであり、外気温に応じて開閉及び風量を制御する。UTボイドスペースA3は、外気口44及び還気口45が設置されることで、OAチャンバ又はRAチャンバとして使用される。したがって、空調用のダクトの設置が不要となり、レイアウト変更等の改修工事に伴うコストを低減し、工期を短縮することができる。
【0035】
図4は、建屋内のユーティリティボイドスペースの配置例を示す図である。UTボイドスペースA3は、例えば、建屋内に均等に配置されることで、建屋の耐震性を補強する。UTボイドスペースA3は、床側の壁面に沿って複数の置換空調機40(
図4において図示なし)が設置される。各置換空調機40は、給気口がUTボイドスペースA3の外側に向けられ、生産エリアA1に冷却された空気を給気する。
【0036】
図5は、ユーティリティボイドスペースにおける置換空調機の配置例を示す図である。
図5の例では、UTボイドスペースA3には12台の置換空調機40が設置される。UTボイドスペースA3の壁面に沿って置換空調機40がバランス良く設置されることで、生産エリアA1を効率良く空調することができる。
【0037】
図1において、生産機器50の下側にユーティリティ配管51を敷設するためのユーティリティスペース(以下、UTスペースともいう)A4が設けられている。供給口52から供給されるエアー又は循環水等は、UTスペースA4に敷設されるユーティリティ配管51を介して、生産エリアA1内の各生産機器50に供給される。生産機器50ごとに、天井の供給口52からユーティリティ配管51を立ち下げなくてもよいため、天井の供給口52と生産機器50とを接続するユーティリティ配管51は、設置数を減らすことができる。また、UTスペースA4を有効活用するため、UTスペースA4に空気の吸込み口56及び送風機57が設置されてもよい。吸込み口56は、生産エリアA1内の空気を吸い込む。送風機57は、UTスペースA4に吸い込まれた空気を、作業員の足元に送風する。送風機57からの送風により、空調対象の空間である生産エリアA1内の快適性は向上し、作業員の生産性が向上する。
【0038】
図6は、置換空調機による空気の流れを例示する図である。生産機器50等の熱によって暖められた空気は、置換空調機40からの給気との温度差によって発生する自然対流により、システム天井10の通気パネル31又は各種パネル等が設置されていない枠を通り、設備エリアA2に上昇する。設備エリアA2に流入した空気は、自然対流によってさらに上昇し、開放状態の排気口43を通って、屋外に排出される。
【0039】
スポット空調機20は、生産エリアA1で作業をする作業員に向けて局所的に送風する。スポット空調機20による送風の風速は、スポット空調機20間の距離、置換空調機40からの距離、生産エリアA1と設備エリアA2との温度差等の条件に応じて、置換換気による上昇気流を乱さない範囲で制御される。また、スポット空調機20から設備エリアA2に排気される排熱は、生産エリアA1からの上昇気流によって、排気口43から屋外に排出される。
【0040】
外気口44は、外気をUTボイドスペースA3に取り込む。また、還気口45は、生産エリアA1から設備エリアA2に流入する空気の一部をUTボイドスペースA3に取り込む。外気口44及び還気口45は、排気口43及び
図1に示す排気ガラリ55から屋外への排気量に応じて開閉が調整され、UTボイドスペースA3に取り込む空気の量を制御する。UTボイドスペースA3に取り込まれた外気及び還気は、置換空調機40により冷却され、生産エリアA1に旋回流を形成しながら給気されることで、周囲の空気を誘因しな
がら生産エリアA1の床面に流れる。そして、居室空間内の空気は、生産装置が発する熱や置換空調機からの給気との温度差によって生じる自然対流によって上昇し、置換換気が実施される。
【0041】
図7は、外気冷房時の置換空調機による空気の流れを例示する図である。外気による冷房が可能な場合、例えば、外気温が屋内温度より低い場合等、還気はUTボイドスペースA3に取り込まず、外気により空調を実施するようにしてもよい。この場合、還気口45は閉鎖され、外気口44は開放される。外気温が十分に低い場合は、UTボイドスペースA3に取り込む外気と還気口45から還流する換気の比率を調整することで長期に渡って熱源を停止することができる。この場合、外気の冷熱だけで生産エリア内を十分に冷やせるため、中間季や冬季においてはスポット空調機も停止することができる。
【0042】
図8Aは、生産機器及びユーティリティ取合部のレイアウトを例示する図である。
図8Aは、天井側からみた生産エリアA1の生産機器50等のレイアウトを例示する平面図である。斜線で示される生産機器50のレイアウトに沿って、各作業領域A11が配置される。
図8Aでは、ユーティリティ取合部として、エアー供給口A12、循環水供給口A13、熱排気口A14、排出口A15が示される。エアー供給口A12は、設備エリアA2の屋根側に設置される供給口52(
図1参照)から、ユーティリティ配管51を介して生産機器50にエアーを供給するための取合部である。同様に、循環水供給口A13は、供給口52から、ユーティリティ配管51を介して生産機器50に循環水を供給するための取合部である。熱排気口A14は、生産機器50からの排熱を、局排ダクト53(
図1参照)を介して局排ファン54(
図1参照)により排気ガラリ55(
図1参照)から排出するための取合部である。同様に、排出口A15は、生産機器50から排出される塵埃や油煙等の有害物質を、局排ダクト53を介して局排ファン54により排気ガラリ55から排出するための取合部である。
【0043】
図8Bは、
図8Aに対応するシステム天井の設置レイアウトを例示する図である。
図8Bは、システム天井10に設置されたスポット空調機20及び貫通パネル30のレイアウトと、
図8Aに示す生産機器50のレイアウトとを重ね合わせた平面図である。スポット空調機20は、生産エリアA1の作業領域A11の位置に応じたシステム天井10の枠に設置される。スポット空調機20は、電源工事のみで移設が可能であるため、生産エリアA1でのレイアウト変更に応じて簡易に移設することができる。また、貫通パネル30は、生産機器50のユーティリティ取合部の位置に応じたシステム天井10の枠に設置される。貫通パネル30は、ユーティリティ取合部が移動した場合、移動先により近いシステム天井10の枠に移設すればよく、生産エリアA1でのレイアウト変更に柔軟に対応することができる。
【0044】
図9は、比較例に係る生産機器の入替えを説明するための図である。ダクトを使用して給気、還気、排気等の空気を搬送する比較例において、生産機器50の入替え等が発生した場合、点線で囲まれた設備の改修工事が実施される。具体的には、(1A)給気ダクト保温材の撤去及び新設、(2A)給気ダクトの撤去及び新設の作業が発生する。また、給気ダクト等の撤去及び新設の作業は、生産機器50と同フロアから実施される高所作業であるため、作業工数が増大するとともに作業員の安全性が損なわれる。また、スポット空調を実施しない比較例では、設定温度は、季節に応じて変更される。例えば、夏季は28℃、中間季は25℃、冬季は20℃に設定される。
【0045】
図10は、実施形態に係る生産機器の入替えを説明するための図である。本実施形態は、空気の搬送にダクトを使用しないため、生産機器50の入替え等が発生した場合、ダクト等の撤去及び新設の作業は発生せず、スポット空調機20が移設されればよい。スポット空調機20の移設は、システム天井10を足場とした作業となる。ダクト関連工事及び
高所作業が発生しないため、作業工数は短縮され、作業員の安全性は向上する。本実施形態における作業費は、比較例の場合よりも50%程度低減されることが想定される。また、本実施形態は、スポット空調機20により、例えば22℃の冷気を送風することで局所的なスポット空調を実施する。このため、生産エリアA1の温度設定は、季節に関わらず30℃に設定しても快適に過ごすことができ、空調負荷を抑制することができる。
【0046】
図11は、比較例に係る生産ラインの総入替又は複数ラインの変更を説明するための図である。ダクトを使用して給気、還気、排気等の空気を搬送する比較例において、生産ラインの総入替又は複数ラインの変更等が発生した場合、点線で囲まれた設備の改修工事が実施される。具体的には、(1B)給気ダクト保温材の撤去及び新設、(2B)給気ダクト、還気ダクト、排気ダクトの撤去及び新設、(3B)空調機移設、(4B)空調配管保温材の撤去及び新設、(5B)空調配管の撤去及び新設、(6B)空調機、排気ファンの電源盛替(電源工事に伴う配管又は配線等の移設)等の作業が発生する。上記の作業は、生産機器50と同フロアから実施される高所作業であるため、作業工数が増大するとともに作業員の安全性が損なわれる。また、
図9と同様に、スポット空調を実施しない比較例では、設定温度は、季節に応じて変更される。例えば、夏季は28℃、中間季は25℃、冬季は20℃に設定される。
【0047】
一方、本実施形態では、空気の搬送にダクトを使用しないため、生産ラインの総入替又は複数ラインの変更等が発生した場合、(1B)から(6B)に示すような作業は発生しない。本実施形態では、
図10で説明したように、スポット空調機20が移設されればよい。スポット空調機20の移設は、システム天井10を足場とした作業となる。ダクト関連工事及び高所作業が発生しないため、作業工数は短縮され、作業員の安全性は向上する。生産ラインの総入替又は複数ラインの変更等が発生した場合には、本実施形態における作業費は、比較例の場合よりも90%程度低減されることが想定される。また、本実施形態は、スポット空調機20によるスポット空調を実施するため、生産エリアA1の温度設定は、季節に関わらず30℃に設定しても快適に過ごすことができ、空調負荷を抑制することができる。
【0048】
上記実施形態では、生産エリアA1から設備エリアA2に流入した空気は、自然対流によってさらに上昇し、天井空間に設けられた排気口43を通って屋外に排出される場合について説明したが、これに限られない。設備エリアA2に流入した空気は、還気口45を通りUTボイドスペースA3に排出されるようにしてもよい。置換空調機40は、UTボイドスペースA3に取り込まれた(排出された)空気を空気調和し、清浄空気を生産エリアA1に給気することができる。このように、空調システム1は、屋内の空気を循環させることにより置換空調をすることも可能である。
【0049】
上記実施形態では、空調システム1は、生産機器50が設置された工場に適用された例によって説明されたが、工場に限られず、ホール、レジャー施設等の大型施設における空調に適用することも可能である。
【0050】
<作用効果>
本実施形態に係る空調システム1は、置換換気によって生産エリアA1の温度を所定の温度以下に保ち、局所的に冷気を送風するスポット空調を実施することで、居室空間等の空調される空間の快適性を向上させるとともに、空調負荷を抑制することができる。居室空間の快適性が向上することで作業員の快適性も向上する。また、レイアウト変更に伴うスポット空調機20、ユーティリティ配管51及び局排ダクト53の移設又は新設が容易に実施できるため、改修工事に要するコストは低減され、改修工事の工期短縮が可能となる。工場や施設における生産性も向上する。
【符号の説明】
【0051】
1・・空調システム:10・・システム天井:20・・スポット空調機:21・・整流部材:30・・貫通パネル:31・・通気パネル:40・・置換空調機:41・・熱源機:42・・冷水配管:43・・排気口:44・・外気口:45・・還気口:50・・生産機器:51・・ユーティリティ配管:52・・供給口:53・・局排ダクト:54・・局排ファン:55・・排気ガラリ:56・・吸込み口57・・送風機