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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】組成物及び抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/68 20060101AFI20220112BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220112BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220112BHJP
   A61K 8/9706 20170101ALI20220112BHJP
   A61K 31/7028 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 36/02 20060101ALI20220112BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220112BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220112BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A61K8/68
A23L5/00 L
A23L33/10
A61K8/9706
A61K31/7028
A61K36/02
A61P29/00
A61Q19/00
C12P13/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017234570
(22)【出願日】2017-12-06
(65)【公開番号】P2019099528
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】中島 綾香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】杉本 良太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】北垣 浩志
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-010946(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111276(WO,A1)
【文献】特開2016-108314(JP,A)
【文献】特開2015-127311(JP,A)
【文献】特開2014-147348(JP,A)
【文献】特表2008-526954(JP,A)
【文献】Archiv fur Protistenkunde, 1995, Vol.145,p.251-260
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/68
A23L 5/00
A23L 33/10
A61K 8/9706
A61K 31/7028
A61K 36/02
A61P 29/00
A61Q 19/00
C12P 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナ由来のグルコシルセラミドを含有し、
化粧料組成物、医薬組成物、食品組成物から選択される組成物であり、
前記グルコシルセラミドは、下記構造式(I)、構造式(II)、構造式(III)で表される少なくとも1種であることを特徴とする組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記組成物が、化粧料組成物であることを特徴とする請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記化粧料組成物が、抗炎症用化粧料組成物であることを特徴とする請求項に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、医薬組成物であることを特徴とする請求項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、食品組成物であることを特徴とする請求項に記載の組成物。
【請求項6】
ユーグレナ由来のグルコシルセラミドを有効成分として含有し、
前記グルコシルセラミドは、下記構造式(I)、構造式(II)、構造式(III)で表される少なくとも1種であることを特徴とする抗炎症剤。
【化4】
【化5】
【化6】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食糧、飼料、燃料等としての利用が有望視されている生物資源として、ユーグレナ(属名:Euglena、和名:ミドリムシ)が注目されている。
ユーグレナは、ビタミン,ミネラル,アミノ酸,不飽和脂肪酸など、人間が生きていくために必要な栄養素の大半に該当する59種類もの栄養素を備え、多種類の栄養素をバランスよく摂取するためのサプリメントとしての利用や、必要な栄養素を摂取できない貧困地域での食糧供給源としての利用の可能性が提案されている。
【0003】
ユーグレナは、食物連鎖の第一次生産者に位置し、捕食者により捕食されることや、光、温度条件、撹拌速度などの培養条件が他の微生物に比べて難しいなどの理由から、大量培養が難しいとされてきたが、近年、本発明者らの鋭意研究によって、大量培養技術が確立され、ユーグレナ及びユーグレナから抽出されるパラミロン等、ユーグレナ由来物質の大量供給の途が開かれた。
例えば、ユーグレナには、コレステロールを排出する働きや免疫賦活作用などの効能も確認されている(非特許文献1)。
【0004】
一方、スフィンゴ脂質やリン脂質などの脂質は、保湿成分として知られており、化粧品などの分野で広く用いられている。スフィンゴ脂質の一種であるセラミドは、皮膚の角質層における主要な成分として存在し、保湿機能に優れる物質である。セラミドは、加齢とともに減少するため、不足分を補うことを目的として、化粧品や健康食品において広く利用されている。
【0005】
セラミドは、需要が高い有用成分であるが、自然界では希少であり、その供給源は限られている。また、従来、ユーグレナにセラミドが含まれることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】嵐田亮 南方資源利用技術研究会誌 Vol.26 No.l,19-22(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を含有する化粧料組成物、医薬組成物、食品組成物などの組成物を提供することにある。
また、本発明の更に別の目的は、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する抗炎症剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ユーグレナにセラミド類などのスフィンゴ脂質が含まれることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
このとき、前記スフィンゴ脂質は、セラミド類であるとよい。
このとき、前記セラミド類は、グルコシルセラミドであるとよい。
【0011】
このとき、前記グルコシルセラミドは、下記構造式(I)構造式(II)、構造式(III)で表される少なくとも1種であるとよい。
【化1】
【化2】
【化3】
【0012】
また、前記課題は、本発明の組成物によれば、ユーグレナ由来のグルコシルセラミドを含有し、化粧料組成物、医薬組成物、食品組成物から選択される組成物であり、前記グルコシルセラミドは、下記構造式(I)、構造式(II)、構造式(III)で表される少なくとも1種であることにより解決される
【化1】
【化2】
【化3】
【0014】
このとき、前記組成物が、化粧料組成物であるとよい。
このとき、前記化粧料組成物が、抗炎症用化粧料組成物であるとよい。
このとき、前記組成物が、医薬組成物であるとよい。
このとき、前記組成物が、食品組成物であるとよい。
【0015】
た、前記課題は、本発明の抗炎症剤によれば、ユーグレナ由来のグルコシルセラミドを有効成分として含有し、前記グルコシルセラミドは、下記構造式(I)、構造式(II)、構造式(III)で表される少なくとも1種であることを特徴とする抗炎症剤により解決される
【化4】
【化5】
【化6】
【発明の効果】
【0016】
本発明のスフィンゴ脂質の製造方法によれば、大量培養が可能な藻類バイオマスであるユーグレナを利用して、有用物質であるセラミドなどのスフィンゴ脂質を製造することが可能となる。
また、ユーグレナは、これまでに副作用の報告がなく、食品衛生法に合致する水準の安全性を備えているため、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を化粧料組成物、医薬組成物、食品組成物などの組成物として利用することが可能である。
また、本発明によれば、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する保湿剤、抗炎症剤や皮膚バリア機能改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のスフィンゴ脂質の製造方法を示すフロー図である。
図2】試験1におけるHPLC後のTLCの結果を示す写真である。
図3】試験1におけるオープンカラム後のTLCの結果を示す写真である。
図4】試験1におけるHPLC後のTLCの結果を示す写真である。
図5A】試験1において測定されたメタノールのSingle MS(SMS)スペクトルである。
図5B】試験1において測定されたユーグレナ脂質抽出物(上部)のSMSスペクトルである。
図5C】試験1において測定されたユーグレナ脂質抽出物(中部)のSMSスペクトルである。
図5D】試験1において測定されたユーグレナ脂質抽出物(下部)のSMSスペクトルである。
図6】試験1において推定されたセラミドの構造である。
図7】試験2におけるオープンカラム後のTLCの結果を示す写真である。
図8】試験2におけるクロロホルムで夾雑物を除去して再度オープンカラムを行った後のTLCの結果を示す写真である。
図9】試験2におけるスフィンゴ脂質画分のHPLC後のTLCの結果を示す写真である。
図10】試験2におけるリン脂質画分のHPLC後のTLCの結果を示す写真である。
図11A】試験2において測定されたメタノールのSMSスペクトルである。
図11B】試験2において測定された上部スフィンゴ脂質のSMSスペクトルである。
図11C】試験2において測定された中部スフィンゴ脂質のSMSスペクトルである。
図11D】試験2において測定された下部スフィンゴ脂質のSMSスペクトルである。
図12】試験2において推定されたセラミドの構造である。
図13A】試験2において測定されたリン脂質(63~65)のSMSスペクトルである。
図13B】試験2において測定されたリン脂質(70~71)のSMSスペクトルである。
図13C】試験2において測定されたリン脂質(72)のSMSスペクトルである。
図13D】試験2において測定されたリン脂質(73)のSMSスペクトルである。
図13E】試験2において測定されたリン脂質(74)のSMSスペクトルである。
図13F】試験2において測定されたリン脂質(77~79)のSMSスペクトルである。
図14】試験2において推定されたリゾ体のフォスファチジルコリンの構造である。
図15】試験3におけるリン脂質画分のHPLC後のTLCの結果を示す写真である。
図16A】試験3において測定された上部Single MSスペクトル相対強度を示す図である。
図16B】試験3において測定された中部Single MSスペクトル相対強度を示す図である。
図16C】試験3において測定された下部Single MSスペクトル相対強度を示す図である。
図17A】試験3において推定されたグルコシルセラミドの構造である(構造式(I))。
図17B】試験3において推定されたグルコシルセラミドの構造である(構造式(II))。
図17C】試験3において推定されたグルコシルセラミドの構造である(構造式(III))。
図18】試験4において測定した吸光度と一酸化窒素(NO)産生量を示す図である。
図19】試験4において測定した一酸化窒素(NO)産生量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至19を参照しながら説明する。
本実施形態は、スフィンゴ脂質の製造方法、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を含有する組成物、保湿剤、抗炎症剤及び皮膚バリア機能改善剤に関するものである。
【0019】
<スフィンゴ脂質>
スフィンゴ脂質とは、スフィンゴイド塩基を構造骨格としてもつ複合脂質の総称である。スフィンゴ脂質の例として、スフィンゴ脂質、スフィンゴイド塩基のアミノ基にアシル基がアミド結合したセラミドや、スフィンゴ脂質に糖、リン、硫黄、アミノ酸など様々な極性基が付加した複合スフィンゴ脂質などが挙げられるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0020】
(セラミド類)
セラミド類とは、セラミド及びその誘導体を包含するものであり、スフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物をいう。セラミド類の例として、セラミドや、セラミドに糖、リン、硫黄、アミノ酸など様々な極性基が付加した複合セラミドなどが挙げられる。
【0021】
(スフィンゴ糖脂質)
スフィンゴ糖脂質とは、スフィンゴ脂質の第1級アルコール性ヒドロキシ基(1-ヒドロキシ残基)に糖が結合した化合物をいう。スフィンゴ糖脂質の例として、ガラクトシルセラミド、グルコシルセラミド、ガラクトシルセラミドに硫酸基が付加したスルホガラクトシルセラミド(スルファチド)、中性糖が数分子付加したセラミドオリゴヘキソシド、アミノ糖が付加したグロボシド、シアル酸が付加したガングリオシドなどが挙げられるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0022】
(グルコシルセラミド)
グルコシルセラミドとは、セラミドに糖が付加した化合物をいい、スフィンゴ脂質に糖が付加したスフィンゴ糖脂質の1種である。グルコシルセラミドの例として、セラミドの1-ヒドロキシ残基に単糖が結合した構造を持つセレブロシドや、単糖よりも長い糖鎖が結合したガングリオシド、ラクトシルセラミド、グロボセラミド等が挙げられる。
【0023】
セレブロシドとして、単糖がグルコースであるグルコセレブロシド、及び、単糖がガラクトースであるガラクトセレブロシドがある。ガラクトセレブロシドは神経組織に分布し、グルコセレブロシドはその他の組織に分布することが知られている。
なお、セラミドにグルコースが結合したものをグルコシルセラミドとも呼ぶ。
【0024】
<ユーグレナ>
本実施形態において、「ユーグレナ」とは、分類学上、ユーグレナ属(Euglena)に分類される微生物、その変種、その変異種及びユーグレナ科(Euglenaceae)の近縁種を含む。
ここで、ユーグレナ属(Euglena)とは、真核生物のうち、エクスカバータ、ユーグレノゾア門、ユーグレナ藻綱、ユーグレナ目、ユーグレナ科に属する生物の一群である。
【0025】
ユーグレナ属に含まれる種として、具体的には、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis、Euglena granulata、Euglena mutabilis、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridisなどが挙げられる。
ユーグレナとして、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis),特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株を用いることができるが、そのほか、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM-ZK株(葉緑体欠損株)や変種のE. gracilis
var. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株、Astasia longa等のその他のユーグレナ類であってもよい。
【0026】
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用しても良く、また、既に単離されている任意のユーグレナ属を使用してもよい。
ユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え、形質導入、形質転換等により得られたものも含有される。
【0027】
ユーグレナ細胞の培養において、培養液としては、例えば、窒素源,リン源,ミネラルなどの栄養塩類を添加した培養液、例えば、改変Cramer-Myers培地((NHHPO 1.0g/L,KHPO 1.0g/L,MgSO・7HO 0.2g/l,CaCl・2HO 0.02g/l,Fe(SO・7HO 3mg/l,MnCl・4HO 1.8mg/l,CoSO・7HO 1.5mg/l,ZnSO・7HO 0.4mg/l,NaMoO・2HO 0.2mg/l,CuSO・5HO 0.02g/l,チアミン塩酸塩(ビタミンB1) 0.1mg/l,シアノコバラミン(ビタミンB12)、(pH3.5))を用いることができる。なお、(NHHPOは、(NHSOやNHaqに変換することも可能である。また、そのほか、ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、(株)学会出版センター)の記載に基づき調製される公知のHutner培地,Koren-Hutner培地を用いてもよい。
【0028】
培養液のpHは好ましくは2以上、また、その上限は、好ましくは6以下、より好ましくは4.5以下である。pHを酸性側にすることにより、光合成微生物は他の微生物よりも優勢に生育することができるため、コンタミネーションを抑制できる。
ユーグレナ細胞の培養は、太陽光を直接利用するオープンポンド方式、集光装置で集光した太陽光を光ファイバー等で送り、培養槽で照射させ光合成に利用する集光方式等により行っても良い。
また、ユーグレナ細胞の培養は、例えば供給バッチ法を用いて行われ得るが、フラスコ培養や発酵槽を用いた培養、回分培養法、半回分培養法(流加培養法)、連続培養法(灌流培養法)等、いずれの液体培養法により行っても良い。
ユーグレナ細胞の分離は、例えば培養液の遠心分離,濾過又は単純な沈降によって行われる。
【0029】
<スフィンゴ脂質の製造方法>
本実施形態のスフィンゴ脂質の製造方法は、ユーグレナを用意するユーグレナ用意工程と、前記ユーグレナからスフィンゴ脂質を含有するスフィンゴ脂質画分を分離する分離工程と、前記分離工程で分離した前記スフィンゴ脂質画分から前記スフィンゴ脂質を精製する精製工程と、を行うことを特徴とする。
以下、各工程について、図1を参照して詳細に説明する。
【0030】
(ユーグレナ用意工程)
ユーグレナ用意工程では、スフィンゴ脂質の原料となるユーグレナを用意する(ステップS1)。
原料となるユーグレナとしては、スフィンゴ脂質の分離・精製の観点からユーグレナ藻体の乾燥品を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。本実施形態において、ユーグレナ生細胞を凍結乾燥処理やスプレー乾燥処理して得たユーグレナの乾燥藻体を原料として用いると好適である。
【0031】
また、培養後に、遠心分離,濾過又は沈降等によって回収したユーグレナ生細胞を原料とすることもできる。ユーグレナ生細胞は、培養槽から収穫後そのままの状態で使用することもできるが、水若しくは生理食塩水で洗浄するのが好ましい。また、ユーグレナ藻体が培養液や水などの液体に分散した分散液の状態で用いてもよい。
更に、ユーグレナ細胞を超音波照射処理や、ホモゲナイズ等の機械処理を行うことにより得た藻体の機械的処理物を原料としてもよい。また、機械的処理物に乾燥処理を施した機械的処理物乾燥物を原料としてもよい。
【0032】
(分離工程)
分離工程では、ユーグレナ用意工程で用意したユーグレナからスフィンゴ脂質を含有するスフィンゴ脂質画分を分離する(ステップS2)。
スフィンゴ脂質画分を分離することができれば、分離(分画)の方法は特に限定されるものではないが、例えば、適当な分離手段(例えば、分配抽出、ゲル濾過法、シリカゲルクロマト法、逆相若しくは順相の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)など)によりスフィンゴ脂質含有量の高い画分を分画して得る方法や、粉砕されたユーグレナ及びスフィンゴ脂質を含む抽出物の抽出混合物をろ過し、抽出液と残渣に分離し、抽出液を濃縮して液体クロマトググラフィーにより分画する方法が挙げられる。
【0033】
ユーグレナ用意工程で、培養したユーグレナを含む培養液を用意した場合、培養液の遠心分離または単純な沈降、膜濾過等の公知の方法によってユーグレナ藻体を回収して、ユーグレナ藻体を洗浄後、公知の乾燥方法(真空凍結乾燥、噴霧乾燥、加熱真空乾燥等)で乾燥することによりユーグレナの藻体乾燥物を分離工程で用いてもよい。
【0034】
また、ユーグレナ用意工程で用意したユーグレナを、超音波破砕機等の公知の粉砕方法で粉砕してもよい。
【0035】
分離工程で用いる抽出溶媒は、スフィンゴ脂質を抽出することができ、その後の精製が容易に行える溶媒であれば特に限定はされないが、例えばメタノール、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール及びこれらの混合物等の極性溶媒を挙げることができる。
【0036】
(精製工程)
精製工程では、前記分離工程で分離した前記スフィンゴ脂質画分から前記スフィンゴ脂質を精製する(ステップS3)。
目的とするスフィンゴ脂質を精製することができれば、精製の方法は特に限定されるものではないが、例えば、適切な分離カラムや再結晶によってスフィンゴ脂質を精製する方法が挙げられる。
【0037】
<保湿剤>
本実施形態に係る保湿剤は、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する保湿剤である。
ユーグレナに含まれるスフィンゴ脂質には、グルコシルセラミドなどのセラミド類が含まれるため、皮膚や粘膜を保湿するための皮膚保湿剤や粘膜保湿剤として用いることが可能である。
【0038】
<抗炎症剤>
本実施形態に係る抗炎症剤は、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する保湿剤である。
ユーグレナに含まれるスフィンゴ脂質には、グルコシルセラミドなどのセラミド類が含まれるため、皮膚や粘膜などにおける炎症を治療、改善、予防するために用いることが可能である。
【0039】
<皮膚バリア機能改善剤>
本実施形態に係る皮膚バリア機能改善剤は、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する皮膚バリア機能改善剤である。
ユーグレナに含まれるスフィンゴ脂質には、グルコシルセラミドなどのセラミド類が含まれるため、皮膚のバリア機能を改善するために用いることが可能である。
【0040】
<用途>
本実施形態に係るユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する保湿剤、抗炎症剤は、化粧料組成物、健康食品等の食品組成物、医薬組成物として構成され、肌の保湿機能が低下した生体や、肌に炎症を有する生体、皮膚のバリア機能が低下した生体に投与される。
【0041】
ユーグレナ藻体は、食品としても摂取可能で副作用がないため、特定の疾病の確定診断を受ける前であっても、投与可能である。
【0042】
本実施形態のユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する保湿剤、抗炎症剤、皮膚バリア機能改善剤を、生活環境、加齢、生活習慣、食生活、運動不足など、何らかの理由に起因して、肌の保湿機能が低下する可能性の高い人や、肌に炎症を有する可能性の高い人、皮膚のバリア機能が低下する可能性の高い人に対して、長期間継続投与できる。
【0043】
本実施形態に係るユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する保湿剤、抗炎症剤、皮膚バリア機能改善剤を投与する対象は、上記状態の者や、ヒト以外の動物に限定されるものではない。
【0044】
また、肌の老化が始まる20歳以降の年齢のヒトに、特に30歳以上のヒトにユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する保湿剤、抗炎症剤、皮膚バリア機能改善剤を投与することができる。
30歳以上のヒト、特に40歳以上のヒトは、加齢によって皮膚や粘膜の保湿機能やバリア機能が低下する傾向があるが、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質が備える、保湿作用や抗炎症作用により、皮膚や粘膜の保湿機能やバリア機能を改善することができる。
【0045】
また、本実施形態に係るユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を有効成分として含有する保湿剤、抗炎症剤は、各種添加剤を加え、化粧料組成物、食品組成物、医薬組成物等の組成物等として用いることができる。
【0046】
(化粧料組成物)
本実施形態のユーグレナ由来のスフィンゴ脂質は、その保湿作用、抗炎症作用、皮膚バリア機能改善作用を利用して、化粧料組成物に好適に用いることができる。
該化粧料組成物は、あらゆる形態の化粧料に適用することができる。例えば、ローション、乳液、クリーム、美容液などのスキンケア化粧料、ファンデーション、コンシーラー、化粧下地、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナーなどのメイクアップ化粧料、日焼け止め化粧料などに適用することができる。
【0047】
本実施形態に係る化粧料組成物には、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質に加え、通常化粧料組成物に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。
例えば、基材、保存剤、乳化剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、紫外線吸収剤、香料、防腐防黴剤、体質顔料、着色顔料、アルコール、水などの、化粧品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0048】
本実施形態に係る化粧料組成物において、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能である。
【0049】
(食品組成物)
本実施形態のユーグレナ由来のスフィンゴ脂質は、食品にも用いることが可能である。
本実施形態の食品組成物は、食品の分野では、保湿作用、抗炎症作用や皮膚バリア機能改善作用を有効に発揮できる有効な量のユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を食品素材として、各種食品に配合することにより、当該作用を有する食品組成物を提供することができる。
また、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質を、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、病院患者用食品、サプリメント等と組み合わせて食品組成物を提供することも可能である。
当該食品組成物としては、例えば、調味料、畜肉加工品、農産加工品、飲料(清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、濃縮飲料、菓子類(キャンディ(のど飴)、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チョコレート等)、パン、シリアル等が挙げられる。また、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の場合、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末等の形状であっても良い。
【0050】
ここで特定保健用食品とは、生理学的機能等に影響を与える保健機能成分を含む食品であって、消費者庁長官の許可を得て特定の保健の用途に適する旨を表示可能なものである。本発明においては、特定の保健用途として「肌の潤い(水分)を逃しにくくする」、「潤いを守るのに役立つ」、「肌の潤いを守るのを助ける」、「肌のうるおいを維持する」、「潤いを守る」、「肌のバリア機能(保湿力)を高める」、「顔やからだ(頬、くび、背中、足の甲)の肌を乾燥しにくくするのを助け、潤いを守るのに役立つ」、「顔やからだ(頬、背中、ひじ、足の甲)の肌の水分を逃がしにくくする」、「肌から水分を逃がしにくくする機能」、「肌を乾燥しにくくするのを助ける」、「肌の保湿力(バリア機能)を高める機能があるため、肌の調子を整える」、などと表示して販売される食品となる。
【0051】
また栄養機能食品とは、栄養成分(ビタミン、ミネラル)の補給のために利用される食品であって、栄養成分の機能を表示するものである。栄養機能食品として販売するためには、一日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が定められた上限値、下限値の範囲内にある必要があり、栄養機能表示だけでなく注意喚起表示等もする必要がある。
また機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品である。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものである。
【0052】
本実施形態に係る食品組成物には、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質に加え、通常食品組成物に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、各種調味料、保存剤、乳化剤、安定剤、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤などの、食品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0053】
本実施形態に係る食品組成物には、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質に、保湿作用があることが知られているその他の物質を1種以上添加することも可能である。
【0054】
(医薬組成物)
本実施形態のユーグレナ由来のスフィンゴ脂質は、医薬組成物として利用することができる。
本実施形態の医薬組成物は、保湿作用、抗炎症作用や皮膚バリア機能改善作用を有効に発揮できる量のユーグレナ由来のスフィンゴ脂質と共に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合することにより、当該作用を有する医薬組成物が提供される。当該医薬組成物は、医薬品であっても医薬部外品であってもよい。
当該医薬組成物は、外用的に適用されても、また内用的に適用されても良い。従って、当該医薬組成物は、内服剤、皮下注射、静脈注射、皮内注射、筋肉注射及び/又は腹腔内注射等の注射剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用することができる。
当該医薬組成物の剤型としては、適用の形態により、適当に設定できるが、例えば、液剤、懸濁剤などの液状製剤、軟膏剤、またはゲル剤等の半固形剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤などの固形製剤が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係る医薬組成物には、薬学的に許容される添加剤を1種または2種以上自由に選択して含有させることができる。
例えば、本実施形態に係る医薬組成物を経口剤に適用させる場合、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。また、ドラックデリバリーシステム(DDS)を利用して、徐放性製剤等にすることもできる。
【0056】
本実施形態に係る医薬組成物には、ユーグレナ由来のスフィンゴ脂質以外に、保湿作用や抗炎症作用があることが知られているその他の物質を1種以上添加することも可能である。
【実施例
【0057】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の試験では、ユーグレナに含有される有用脂質を同定することを目的としている。
【0058】
<試験1 ユーグレナに含まれる脂質の同定>
(試験方法)
以下、試験1の試験方法について説明する。
【0059】
(1.ユーグレナからの脂質抽出)
ユーグレナ9gから抽出を行った。ユーグレナ0.3gに対して、メタノール1ml、クロロホルム0.5mlを加え、1分間ボルテックスした。再びクロロホルムを0.5ml加えて、1分間ボルテックスし、5分間超音波処理を行った。0.8MのKOHメタノール溶液2mlを加え、42℃、160rpmで30分間震盪しながらインキュベートした。クロロホルム5ml、蒸留水2.5mlを加えて乳化するまでボルテックスした。2300rpmで10分間遠心し、下層を回収した。
【0060】
(2.オープンカラムによる粗精製)
回収した脂質をロータリーエバポレータにて濃縮し、クロロホルムに溶解させた。クロロホルムの溶媒でカラムクロマト管にシリカを7.5cmの高さまで充填した。クロロホルムを注ぎ入れ、シリカを洗浄した。その上にクロロホルム10mlに溶解させたユーグレナ抽出液をサンプルとしてロードした。クロロホルム600mlを3回に分けて注ぎ入れ、溶出液を回収した。酢酸エチル:メタノール=9:1の混合溶媒を用いて精製し、溶出液を50本の試験管に10mlずつ回収した。最後にメタノールを流して残りの脂質を回収した。回収したサンプルを乾燥後、薄層クロマトグラフィー(TLC)にスポットし、バンドの確認を行った。
【0061】
(3.削り取りによる精製)
該当のバンド部分のシリカゲルを薬さじで削り取り、クロロホルム:メタノール(2:1)を2ml加えて超音波処理を5分かけ、遠心して上澄みを新しいチューブに移した。
【0062】
(4.HPLCによる精製)
オープンカラム後のフラクション7~20(スフィンゴ脂質)、21~55(リン脂質)をそれぞれ1本にまとめた。脂質量を2mg/mlに調製し、精製を行った。回収した各フラクションをTLCにスポットした。スタンダードとしてセレブロシド(5μg/μg)4μlをスポットした。ドライヤーで乾燥させ、展開溶媒に浸した。オルシノール硫酸を噴霧し、アルミで包んで100℃のオーブンで40分間焼いて、目的とする物質のバンドの確認を行った。
【0063】
(5.MSによる構造解析)
乾燥させたサンプルをクロロホルム:メタノール=1:1の混合溶媒950μlを加えて1mlに調製した。エレクトロスプレーイオン化タンデム型質量分析(ESI/MS/MS)法を用いてサンプルの解析を行った。
【0064】
(試験1の結果)
図2に、HPLC後のTLCの結果を示す。
フラクション65~67、71、73、74においてリン脂質と推定されるバンドが確認できた。
【0065】
図3にオープンカラム後のTLCの結果を示す。
フラクション7~20をスフィンゴ脂質、21~55をリン脂質として、HPLCによって分離精製を行った。
【0066】
図4に、HPLC後のTLC結果を示す。
フラクション65~67、71、73、74において複数のバンドが確認された。
【0067】
図5A~5Dに、各サンプルのMSスペクトルを示す。
図5AはメタノールのSMSスペクトル、図5Bはユーグレナ脂質抽出物(上部、図3「上」)のSMSスペクトル、図5Cはユーグレナ脂質抽出物(中部、図3「中」)のSMSスペクトル、図5Dはユーグレナ脂質抽出物(下部、図3「下」)のSMSスペクトルである。
【0068】
図5Cのユーグレナ脂質抽出物(中部)のSMSスペクトルから、C18スフィンゴイド塩基とC16脂肪酸を持つセミラドの構造が推定された(図6)。相対強度が0.56%と低いが、C18スフィンゴイド塩基と思われるm/z値も確認された。さらに、スフィンゴイド塩基から水分子が離脱したm/z値も確認された。これらの値は、メタノールでは観測されておらず、サンプル由来のものであると考えられる。
【0069】
上部や下部の(図5B図5D)のSMSスペクトルから、スフィンゴ脂質の分子イオンは観測されなかった。
【0070】
<試験2 ユーグレナに含まれるリン脂質の同定>
(試験方法)
以下、試験2の試験方法について説明する。
【0071】
(1.ユーグレナからの脂質抽出)
ユーグレナ9gから抽出を行った。ユーグレナ0.3gに対して、メタノール1ml、クロロホルム0.5mlを加え、1分間ボルテックスした。再びクロロホルムを0.5ml加えて、1分間ボルテックスし、5分間超音波処理を行った。0.8MのKOHメタノール溶液2mlを加え、42℃、160rpmで30分間震盪しながらインキュベートした。クロロホルム5ml、蒸留水2.5mlを加えて乳化するまでボルテックスした。2300rpmで10分間遠心し、下層を回収した。
【0072】
(2.オープンカラムによる粗精製)
回収した脂質をロータリーエバポレータにて濃縮し、クロロホルムに溶解させた。クロロホルムの溶媒でカラムクロマト管にシリカを7.5cmの高さまで充填した。クロロホルムを注ぎ入れ、シリカを洗浄した。その上にクロロホルム10mlに溶解させたユーグレナ抽出液をサンプルとしてロードした。クロロホルム600mlを3回に分けて注ぎ入れ、溶出液を回収した。酢酸エチル:メタノール=9:1の混合溶媒を用いて精製し、溶出液を50本の試験管に10mlずつ回収した。最後にメタノールを流して残りの脂質を回収した。回収したサンプルを乾燥後、薄層クロマトグラフィー(TLC)にスポットし、バンドの確認を行った。
【0073】
(3.HPLCによる精製)
オープンカラム後のフラクション7~20(スフィンゴ脂質)、21~55(リン脂質)をそれぞれ1本にまとめた。脂質量を2mg/mlに調製し、精製を行った。回収した各フラクションをTLCにスポットした。スタンダードとしてセレブロシド(5μg/μg)4μlをスポットした。ドライヤーで乾燥させ、展開溶媒に浸した。オルシノール硫酸を噴霧し、アルミで包んで100℃のオーブンで40分間焼いて、目的とする物質のバンドの確認を行った。
【0074】
(4.MSによる構造解析)
乾燥させたサンプルをクロロホルム:メタノール=1:1の混合溶媒950μlを加えて1mlに調製した。エレクトロスプレーイオン化タンデム型質量分析(ESI/MS/MS)法を用いてサンプルの解析を行った。
【0075】
(試験2の結果)
図7に、オープンカラムによる粗精製後のTLCの結果を示す。
クロロホルムによる夾雑物除去を行わなかったため、夾雑物の除去が上手くできていなかった。夾雑物を洗い流すことを目的として、初めにクロロホルムを流して、再度オープンカラムを行った結果を図8に示す。
【0076】
クロロホルムを初めに流すことで、大部分の夾雑物を除去することができた。フラクション6~17をスフィンゴ脂質画分、フラクション18以降をリン脂質画分としてまとめてHPLCにてさらに精製を行った。
【0077】
図9にスフィンゴ脂質画分のHPLC後のTLCの結果を示し、図10にリン脂質画分のHPLC後のTLCの結果を示す。
スフィンゴ脂質画分のフラクション33(上部)、38(中部)、49~52(下部)を回収した。リン脂質画分のフラクション63~65、70~71、72、73、74、77~79を回収した。回収した9つのバンドを、ESI/MS/MSにて構造解析を行った。
【0078】
図11A~11Dに、メタノール及びスフィンゴ脂質画分のSMSスペクトルを示す。
図11AはメタノールのSMSスペクトル、図11Bは上部スフィンゴ脂質のSMSスペクトル、図11Cは中部スフィンゴ脂質のSMSスペクトル、図11Dは下部スフィンゴ脂質のSMSスペクトルである。
【0079】
図11Aに示すように、試験2ではLC-MS用のメタノールを用いたため、各ピークの強度が低く、メタノール由来のピークを除去する必要がなかった。
【0080】
図12に示すように、試験1のMS解析で推定された構造と同じm/z値が観測されたが、相対強度が5.8と低い値を示したため、他の主要なピークで構造の推測を行う必要があることがわかった。
【0081】
図11B~11Dのスフィンゴ脂質のスペクトルにおいて、試験1の解析結果で確認された主要なピークはほとんど観察されなかった。試験1及び試験2のMS解析のデータを総合してスフィンゴ脂質の解析を行う必要があることがわかった。
【0082】
図13A~13Fに、リン脂質画分のMSスペクトルを示す。
図13Aはリン脂質(63~65)のSMSスペクトル、図13Bはリン脂質(71~72)のSMSスペクトル、図13Cはリン脂質(72)のSMSスペクトル、図13Dはリン脂質(73)のSMSスペクトル、図13Eはリン脂質(74)のSMSスペクトル、図13Fはリン脂質(77~79)のSMSスペクトルである。
【0083】
図13Aのm/z=551.4の値から、図14に示すC20:0脂肪酸(アラキジン酸)を持つリゾ体のフォスファチジルコリンであることが推測された。
リン脂質(64)で構造が推定されたm/z値のピークは相対強度が90.8%と高い値であった。また、弱アルカリ処理を行って脂質の抽出を行ったため、リン脂質を完全に抽出できていなかった可能性があるため、弱アルカリ処理の工程を省略して抽出を行うとよいことがわかった。
【0084】
<試験3 ユーグレナに含まれるスフィンゴ脂質の同定>
(試験方法)
以下、試験3の試験方法について説明する。
【0085】
(1.ユーグレナからの脂質抽出)
ユーグレナ9gから抽出を行った。ユーグレナ0.3gに対して、メタノール1ml、クロロホルム0.5mlを加え、1分間ボルテックスした。再びクロロホルムを0.5ml加えて、1分間ボルテックスし、5分間超音波処理を行った。0.8MのKOHメタノール溶液2mlを加え、42℃、160rpmで30分間震盪しながらインキュベートした。クロロホルム5ml、蒸留水2.5mlを加えて乳化するまでボルテックスした。2300rpmで10分間遠心し、下層を回収した。
【0086】
(2.オープンカラムによる粗精製)
回収した脂質をロータリーエバポレータにて濃縮し、クロロホルムに溶解させた。クロロホルムの溶媒でカラムクロマト管にシリカを7.5cmの高さまで充填した。クロロホルムを注ぎ入れ、シリカを洗浄した。その上にクロロホルム10mlに溶解させたユーグレナ抽出液をサンプルとしてロードした。クロロホルム600mlを3回に分けて注ぎ入れ、溶出液を回収した。酢酸エチル:メタノール=9:1の混合溶媒を用いて精製し、溶出液を50本の試験管に10mlずつ回収した。最後にメタノールを流して残りの脂質を回収した。回収したサンプルを乾燥後、TLCにスポットし、バンドの確認を行った。
【0087】
(3.削り取りによる精製)
該当のバンド部分のシリカゲルを薬さじで削り取り、クロロホルム:メタノール(2:1)を2ml加えて超音波処理を5分かけ、遠心して上澄みを新しいチューブに移した。
【0088】
(4.HPLCによる精製)
オープンカラム後のリン脂質画分を濃縮し脂質量を2mg/mlに調製し、精製を行った。60~80分を1分ずつ、30~60、80~100分を5分ずつそれぞれ回収した。各フラクションから700μl乾燥させ、クロロホルム:メタノール=2:1混合溶媒50μlに溶かして、30μlスポットし、薄層クロマトグラフィー(TLC)にてバンドの確認を行った。
【0089】
(5.MSによる構造解析)
乾燥させたサンプルをクロロホルム:メタノール=1:1の混合溶媒950μlを加えて1mlに調製した。エレクトロスプレーイオン化タンデム型質量分析(ESI/MS/MS)法を用いてサンプルの解析を行った。
【0090】
(試験3の結果)
図15に、リン脂質画分のHPLC後のTLCの結果を示す。フラクション68~74においてバンドがいくつか確認され、分離が十分にはできていないことがわかった。フラクション80~95においてもバンドが確認された。HPLCにてバンドが分離できなかったこと、また、MSにおいて各成分が多少混ざっていても分析が可能なため、HPLCは行わずに削り取りにて精製後のサンプルをMS解析に用いた。
【0091】
図16に、MSによる構造解析の結果を示す。図16Aは上部Single MSスペクトル相対強度、図16Bは中部Single MSスペクトル相対強度、図16Cは下部Single MSスペクトル相対強度を示す。
【0092】
を考慮して構造決定を行ったところ、図17A~Cに示す3つの構造が推測された。図17A~Cに同定されたスフィンゴ脂質の構造を示す。図17Aはm/z=838.25の分子量をもつスフィンゴ脂質の構造を示し(構造式(I))、図17Bはm/z=888.35の分子量をもつスフィンゴ脂質の構造を示し(構造式(II))、図17Cはm/z=762.24の分子量をもつスフィンゴ脂質の構造を示す(構造式(III))。
【0093】
今回推測された全てのスフィンゴ脂質の脂肪酸がC24であるため、リグノセリン酸を骨格に持つ可能性が高いと考えられる。図17A~Cの物質は、セラミドに単糖が結合したグルコシルセラミドであり、肌の保湿や、抗炎症作用、皮膚バリア機能改善作用を有していることが予想される。
【0094】
<試験4 ユーグレナ由来の脂質がマクロファージに及ぼす影響の検討>
試験4では、ユーグレナ由来の脂質によるマクロファージの活性化を検討することにより、免役応答作用を明らかにすることを目的とした。
【0095】
(実験手順)
脂質の抽出は、ユーグレナ0.15g(×2本)にメタノール0.5mL、クロロホルム0.5mLを加え、2300rpm、10分で遠心後、上清を回収することで行った。脂質抽出液500μlをTLC用に使用し、濃縮後クロロホルム:メタノール(2:1)70μlに溶かしTLC板に全量スポットし乾燥後に展開した。100℃のオーブンで40分焼成した。
【0096】
残りの抽出液(約1.5ml)を濃縮後、DMSO300μlに溶かし、遠心後に沈殿や半固体状のものを除き液体部分を回収した。
【0097】
一酸化窒素(NO)産生量の試験は、以下の手順で行った(n=6)。
RAW264.7細胞が4×10cpmとなるように細胞懸濁液を調製し、マイクロプレートの各ウェルに200μlずつ播種した。均一化した後、19時間培養した。細胞を洗浄後、0.5%DMSO含有培地、または被験物質/DMSO・DMEM培地を180μl/well添加した。30分培養し、0.5%DMSO含有培地またはLPS(リポ多糖)を20μl添加し24時間培養した。培養上清を90μlずつ新しいプレートに移し、Griess試薬(I:II=2:1)を90μlずつ添加した。10分静置後に、波長545/630nmで吸光度を測定した。DMEM培地とCell counting reagent(50:1)の混合液を100μl/well加えた。4時間培養した後、波長545/630nmで吸光度を測定した。
【0098】
(試験4の結果)
結果を図18及び19に示す。
ユーグレナ由来の脂質を添加した場合の一酸化窒素(NO)産生量は有意に減少していた。したがって、ユーグレナ由来の脂質には、抗炎症作用があることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図17C
図18
図19