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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】ホスアプレピタントを含有する医薬製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/675 20060101AFI20220112BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220112BHJP
   A61P 1/08 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A61K31/675
A61K47/18
A61K47/26
A61K9/19
A61P1/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017241538
(22)【出願日】2017-12-18
(65)【公開番号】P2019108287
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 晃
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/059587(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/031577(WO,A1)
【文献】特開2009-286738(JP,A)
【文献】特開2013-031151(JP,A)
【文献】特開2010-105965(JP,A)
【文献】特開2016-222667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩と、ニコチン酸アミドと、マルトース、乳糖及びトレハロースからなる群から選択される賦形剤、を含有する凍結乾燥製剤である、医薬製剤。
【請求項2】
ニコチン酸アミドをホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩1質量部に対して0.005質量部以上8質量部以下で含有する請求項1に記載の医薬製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を含有する医薬製剤に関する。特に、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を有効成分とする医薬製剤であって、類縁物質の生成を抑制し、安定性に優れた医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスアプレピタントは、非ペプチド性の選択的サブスタンスP/ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗型制吐剤アプレピタントの水溶性を向上させたリン酸化プロドラッグである。現在、ホスアプレピタントのジメグルミン塩は抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心嘔吐)(遅発期を含む)の治療剤として用いられている。臨床に供されているホスアプレピタントメグルミンの医薬製剤は、有効成分であるホスアプレピタントメグルミンとキレート剤のエデト酸ナトリウム水和物、可溶化剤のポリソルベート80、賦形剤の無水乳糖、pH調整剤として塩酸と水酸化ナトリウムを含む凍結乾燥製剤であって、ホスアプレピタントメグルミン点滴静注用製剤プロイメンド(PROEMEND 登録商標)として提供されている。該製剤は、生理食塩水5mLに溶解した後、最終容量が100~250mL(最終濃度として0.6~1.5mg/mL)となるように生理食塩水で希釈したものを点滴静注する。
【0003】
アプレピタントのリン酸化プロドラッグであるホスアプレピタントは、加水分解を受けやすく、不安定な物性であることが知られている。このため、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を有効成分とする医薬製剤を調製する場合、加水分解や熱に対する安定性を向上するための対策が必要である。
非特許文献1には、現在販売されているホスアプレピタントメグルミンを有効成分とする医薬製剤が記載されている。該製剤は安定性を考慮して凍結乾燥製剤として調製されており、貯法は冷所(2~8℃)保存となっている。
特許文献1の実施例にはホスアプレピタントの安定性を向上させるための注射可能な組成物として、ホスアプレピタント、ポリエチレングリコール、エタノール、D-ソルビトール、水酸化ナトリウムを含む非水系の組成物が開示されている。
以上のとおりホスアプレピタント及びその医薬的に許容な塩を有効成分とする医薬製剤の保存安定性に優れた医薬製剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2016/059587号
【文献】医薬品インタビューフォーム 選択的NK1受容体拮抗型制吐剤プロイメンド150mg2016年3月(第8版)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を有効成分とする医薬製剤であって、類縁物質の生成を抑制した医薬製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩とピリジン誘導体を含有する医薬製剤が、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の類縁物質の生成を抑制した医薬製剤を提供できることを見出した。本願は、以下の[1]~[4]に記載の発明を要旨とする。
【0007】
[1] ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩とピリジン誘導体を含有する医薬製剤。
[2] ピリジン誘導体がニコチン酸アミドである[1]に記載の医薬製剤。
[3] ピリジン誘導体をホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩1質量部に対して0.005質量部以上8質量部以下で含有する[1]に記載の医薬製剤。
[4] 医薬製剤が凍結乾燥製剤若しくは注射用液剤である[1]~[3]に記載の医薬製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の医薬製剤は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の分解に伴う類縁物質の生成を抑制することができ、安定性に優れたホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の医薬製剤を提供することができる。特に、ホスアプレピタントが加水分解されることによりアプレピタントが生成されることを抑制することで安定性に優れたホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の医薬製剤を提供することができる。
したがって、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の効能および安全性を長期に亘って保持する医薬製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を有効成分として含み、更にピリジン誘導体を含有する医薬製剤である。以下に、その詳細について説明する。
【0010】
本発明の医薬組成物は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を有効成分として含有することを特徴とする。ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩は、選択的NK1受容体拮抗作用を有する制吐剤である。特許第3073770号には、ホスアプレピタントが種々の無機及び有機酸ならびに塩基との塩を形成できることが記載されている。そのような酸付加塩の例として、酢酸塩、アジピン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨー化水素酸塩、メタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、蓚酸塩、パモ酸塩、過硫酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、トシレートおよびウンデカン酸塩が挙げられており、塩基塩は、アンモニウム塩、ナトリウム,リチウムおよびカリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウムおよびマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、ジシクロヘキシルアミン塩のような有機塩基との塩、N-メチル-D-グルカミン(メグルミン)、およびアルギニン、リシン,オルニチン等のようなアミノ酸との塩が挙げられている。ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩は、モルホリンタキキニン受容体拮抗薬であって、特許第3073770号に記載の方法により入手可能である。
ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩は、医薬品用の有効成分として用いることができる品質レベルである事が好ましい。
【0011】
本発明の医薬製剤において、ホスアプレピタントメグルミンを用いることが好ましい。ホスアプレピタントメグルミンは特許第3073770号にて開示されており、それに記載の方法により入手可能である。
【0012】
本明細書において、主な類縁物質にはホスアプレピタントが加水分解されて生成されるアプレピタントが挙げられる。本発明の医薬製剤は、ホスアプレピタントの加水分解を抑制することができる。
【0013】
本発明の医薬製剤は、ピリジン誘導体を含有することを特徴とする。ピリジン誘導体としてはニコチン、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン等を挙げることができる。好ましくはニコチン酸、ニコチン酸アミドがあげられる。より好ましくはニコチン酸アミドである。種々あるピリジン誘導体の中でも、ニコチン酸アミドを使用することで、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を有効成分とする医薬製剤の類縁物質の生成を抑制することができる。より具体的には、ホスアプレピタントが加水分解により水溶性の低いアプレピタントを生成することを抑制することができる。本発明の医薬製剤はニコチン酸アミドを用いることが殊更好ましい。
【0014】
本発明の医薬製剤において、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩に対してピリジン誘導体の適用量は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩1質量部に対し、ピリジン誘導体0.005~8質量部を含有することが好ましく、0.01~4質量部を含有することがより好ましく、0.05~2質量部を含有することが更に好ましい。ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩1質量部に対してピリジン誘導体がこの範囲である場合、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の類縁物質の生成抑制を行うことができる。すなわち、ホスアプレピタントが加水分解により水溶性の低いアプレピタントを生成することを抑制することができ、ホスアプレピタントを安定に保ち、医薬製剤としての安全性を長期に亘って保持することが可能な医薬製剤を提供することができる。
【0015】
本発明の医薬製剤は、賦形剤を含むことが好ましい。賦形剤としては、例えば、スクロース、トレハロース、マルトース、乳糖、D-マンニトール、イノシトール、グルコース、フルクトース、グルコン酸又はその塩、酒石酸又はその塩、クエン酸又はその塩、マクロゴール、シクロデキストリン、グリセリン等が挙げられる。本発明において、賦形剤はスクロース、トレハロース、マルトース、乳糖、D-マンニトールを使用することが好ましく、マルトース、乳糖、トレハロースを使用することがより好ましい。
【0016】
本発明の医薬製剤において、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩に対して賦形剤の適用量は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩1質量部に対し、賦形剤0.5~20質量部を含有することが好ましく、1~15質量部を含有することがより好ましく、1.5~10質量部を含有することが更に好ましい。
【0017】
本発明の医薬製剤は、pH調整剤を含むことが好ましい。なお、pH調整剤を含み、有効成分であるホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の濃度として0.6~50mg/mLとした本発明の医薬製剤水溶液において、pHが6~11である医薬製剤であることが好ましい。好ましくは、前記水溶液としてpH6.5~10である医薬製剤であり、pH7.0~9.0の範囲に調整するのが特に好ましい。
pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、アスコルビン酸、酢酸等の有機酸、といった酸性剤が挙げられる。また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機酸のアルカリ土類金属塩等といったアルカリ性剤を挙げることができる。また、前記酸性剤及びアルカリ性剤を混合してpH調整した緩衝剤を用いても良い。本発明において、pH調整剤はアルカリ性剤を用いることが好ましく、水酸化ナトリウムを用いることがより好ましい。
pH調整剤の使用量は、上記のpH範囲に調製するために適宜調整できる。
【0018】
本発明の医薬製剤は、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンひまし油、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤、デスオキシコール酸ナトリウム、ウルソデスオキシコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、塩化ベンゼトニウム等の陽イオン界面活性剤、レシチンといったものが挙げられ、これらの単独使用若しくは、2種以上の混合溶剤として用いても良い。本発明において、界面活性剤は非イオン性界面活性剤を用いることが好ましく、ポリソルベート80又はポリソルベート20を用いることがより好ましく、ポリソルベート80を用いることが更に好ましい。
【0019】
本発明の医薬製剤において、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩に対して界面活性剤の適用量は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩が1質量部に対し、界面活性剤が0.01~1質量部を含有することが好ましく、0.05~0.8質量部を含有することがより好ましく、0.1~0.6質量部を含有することが更に好ましい。
【0020】
本発明の医薬製剤は、安定化剤を含むことが好ましい。安定化剤としては、アスコルビン酸又はその塩、アスパラギン酸又はその塩、アセチルトリプトファン又はその塩、アルギニン又はその塩、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、イノシトール、エデト酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩、塩化ナトリウム、フルクトース、キシリトール、クエン酸又はその塩、グリシン、グリセリン、グルコン酸又はその塩、グルタミン酸又はその塩、クレアチニン、酢酸又はその塩、シクロデキストリン、システイン又はその塩、酒石酸又はその塩、ソルビトール、チオグリコール酸又はその塩、チオ硫酸又はその塩、トロメタモール、乳酸又はその塩、尿素、スクロース、ヒスチジン又はその塩、ピロ亜硫酸又はその塩、グルコース、プロピレングリコール、マクロゴール、メチオニン、リシン又はその塩、リン酸又はその塩、ロイシン等が挙げられる.本発明の医薬製剤において、エデト酸又はその塩を用いることが好ましく、エデト酸又はその塩としては、エデト酸、エデト酸一ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム等が挙げられ、エデト酸二ナトリウムを用いることがより好ましく、エデト酸二ナトリウム二水和物(エデト酸ナトリウム水和物)が更に好ましい。
【0021】
本発明の医薬製剤において、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩に対してエデト酸又はその塩の適用量は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩が1質量部に対し、エデト酸又はその塩が0.001~2質量部を含有することが好ましく、0.005~1質量部を含有することがより好ましく、0.01~0.5質量部を含有することが更に好ましい。
【0022】
本発明の医薬製剤において、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩、ピリジン誘導体、賦形剤、pH調整剤、界面活性剤、安定化剤以外の任意の添加成分として等張化剤等の通常の医薬製剤に用いられる他の添加剤を含有していても良い。
等張化剤としては、塩化ナトリウム、乳糖、スクロース、イノシトール、フルクトース、グルコース、グリシン、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、ニコチン酸アミド、マクロゴール、プロピレングリコール、ピロリン酸又はその塩等が挙げられる.
これらの任意の添加成分は、本発明に係る医薬製剤のホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の安定性を維持する範囲において通常の医薬製剤に用いられる添加剤を用いて良く、その適用量も適宜設定されて良い。他の添加剤の含有量は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の安定性を考慮して適切な量を適宜設定して用いられるが、有効成分であるホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩1質量部に対し、それぞれ30質量部以下で添加して用いることが好ましい。より好ましくは、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩1質量部に対し、それぞれ15質量部以下の適用量である。
【0023】
本発明の医薬製剤において、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩1質量部に対して、ピリジン誘導体を0.005~8質量部、賦形剤を0.5~20質量部、界面活性剤を0.01~1質量部、安定化剤を0.001~2質量部を含有し、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩の濃度として0.6~50mg/mLとした本発明の医薬製剤水溶液において、pHが6~11になるpH調整剤を含むことが好ましい。
【0024】
本発明の医薬製剤は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を有効成分とする医薬品が注射剤の製剤形で静脈内投与にて制吐剤として提供されていることから、本発明の医薬製剤も注射用製剤であることが好ましい。すなわち凍結乾燥製剤若しくは注射液製剤等の製剤形であることが好ましい。本発明の医薬製剤は、凍結乾燥製剤であることがより好ましい。
【0025】
本発明の医薬製剤は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩とピリジン誘導体及びピリジン誘導体以外の添加剤を含有する溶液を調製し、これをメンブランフィルターにて濾過し、ガラス製バイアルに分注することで調製できる。注射液製剤の場合は、これを無菌的に封止することで調製することができ、凍結乾燥製剤の場合は、溶液を分注したバイアルを凍結乾燥して無菌的に封止すれば良い。
前記成分ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩とピリジン誘導体及びピリジン誘導体以外の添加剤を含有する溶液を調製するための溶剤は、これらの成分を溶解でき、医薬的に許容される溶剤であれば特に限定されるものではなく、適宜選択して適当な溶剤を用いて良い。例えば、水、tert-ブタノール等が挙げられ、これらの単独使用若しくは、2種の混合溶剤として用いても良く、水のみを用いることが好ましい。
【0026】
本発明の医薬製剤は、pH調整剤を用いて調製することが好ましい。pH調整剤はホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を溶剤に溶解させる前に溶剤に添加しても良く、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を溶剤に溶解させた後に添加しても良く、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を溶剤に溶解させる前と後の両方で添加しても良い。
【0027】
本発明の医薬製剤は、界面活性剤を溶剤に溶解させた後に安定化剤と賦形剤、ピリジン誘導体を溶解し、pH調整剤を加え、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を溶解させ、任意でpH調整剤を添加しその溶液をメンブランフィルターにて濾過し、ガラス製バイアルに分注することで調製できる。注射液製剤の場合は、これを無菌的に封止することで調製することができ、凍結乾燥製剤の場合は、溶液を分注したバイアルを凍結乾燥して無菌的に封止すれば良い。
【0028】
本発明の医薬製剤は、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を有効成分とする医薬として使用することができる。ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩製剤は、選択的NK1受容体拮抗作用に基づく抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心嘔吐)(遅発期を含む)への制吐剤として適用することができる。
【実施例
【0029】
以下に、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、無水乳糖375mg、ニコチン酸アミド150mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.7であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、実施例1に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0031】
[実施例2]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、マルトース375mg、ニコチン酸アミド150mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.7であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、実施例2に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0032】
[実施例3]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、トレハロース375mg、ニコチン酸アミド150mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.7であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、実施例3に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0033】
[実施例4]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、D-マンニトール375mg、ニコチン酸アミド150mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.7であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、実施例4に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0034】
[実施例5]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、マルトース375mg、ニコチン酸アミド15mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.8であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、実施例5に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0035】
[実施例6]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、マルトース375mg、ニコチン酸アミド50mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.8であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、実施例6に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0036】
[実施例7]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、マルトース375mg、ニコチン酸アミド250mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.8であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、実施例7に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0037】
[比較例1]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、無水乳糖375mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.7であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、比較例1に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0038】
[比較例2]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、マルトース375mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.7であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、比較例2に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0039】
[比較例3]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、トレハロース375mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.3であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、比較例3に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0040】
[比較例4]
ポリソルベート80 75.0mgとエデト酸ナトリウム水和物5.4mg、D-マンニトール375mgを4mLの注射用水に溶解し、0.5M水酸化ナトリウム溶液を適量加えてpHを約10とした液に、ホスアプレピタントメグルミンを245.3mg加えて溶解した。この水溶液に注射用水を加えて全量を5mLとした。その溶液はpH8.3であった。
この溶液を、孔径0.22μmのメンブランフィルターを用いて無菌ろ過を行い、バイアルにろ過した液を充填し、凍結乾燥を行い、比較例4に係る凍結乾燥製剤を調製した。
【0041】
実施例1~4に係る医薬製剤の1バイアル当たりの各成分組成を表1に、実施例5~7に係る医薬製剤の1バイアル当たりの各成分組成を表3にまとめた。また、比較例1~4に係る医薬製剤の1バイアル当たりの各成分組成を表2にまとめた。
【0042】
【表1】
*1;生理食塩水で0.6mg/mLに希釈したときのpH値。
【0043】
【表2】
*1;生理食塩水で0.6mg/mLに希釈したときのpH値。
【0044】
【表3】
*1;生理食塩水で0.6mg/mLに希釈したときのpH値。
【0045】
[試験例1]25℃保存安定性試験(類縁物質)
実施例1と比較例1の注射用凍結乾燥製剤を、25℃の条件下にて6か月、実施例2~7及び比較例2~4の注射用凍結乾燥製剤を、25℃の条件下において1か月保存した。
保存後の各製剤について、1バイアルに生理食塩水5mLを加え溶解後、更に生理食塩水でホスアプレピタント換算0.6mg/mLに希釈したものを試料溶液とし、ホスアプレピタント由来の類縁物質をHPLCにて分析した。ホスアプレピタント類縁物質のHPLC分析条件を下に示した。分析結果を表5~7に示す。
【0046】
[ホスアプレピタント由来の類縁物質の分析条件]
実施例及び比較例のホスアプレピタント分解由来の類縁物質を、以下の液体クロマトグラフィー(HPLC)条件にて分析した。
カラム:C-18 5μm 4.6×250
カラム温度:20℃
移動相A:水/リン酸混液(1000:1)
移動相B:アセトニトリル
送液量:1.5mL/min.
波長:215nm
移動相の送液:表4に示す条件で送液した。
【0047】
【表4】
【0048】
実施例1~7及び比較例1~4の注射用凍結乾燥製剤の25℃保存安定性試験における各類縁物質含量を表5~7にまとめた。
【0049】
【表5】
【表6】
【表7】
【0050】
試験例1の結果より、本発明の医薬製剤は、ホスアプレピタントの加水分解によるアプレピタントの生成を、比較例と同等以上に抑制することが示された。ピリジン誘導体であるニコチン酸アミドを用いた実施例1での6か月間の保存試験、実施例2~7での1か月間の保存試験後において、比較例よりもアプレピタントの生成を抑制することが示された。すなわち、本発明の医薬製剤は、ホスアプレピタントを安定に保ち、ホスアプレピタント又はその医薬的に許容な塩を有効成分とする医薬製剤としての安全性を長期に亘って保持することが可能な医薬製剤を提供することができる。