(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】動物飼育ラック
(51)【国際特許分類】
A01K 1/03 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
A01K1/03 A
(21)【出願番号】P 2018080434
(22)【出願日】2018-04-19
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000222956
【氏名又は名称】東洋熱工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】杉田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】内山 憲一
(72)【発明者】
【氏名】溝下 真治
(72)【発明者】
【氏名】柳原 茂
(72)【発明者】
【氏名】石野 史子
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-17189(JP,A)
【文献】登録実用新案第3057907(JP,U)
【文献】実開平1-155352(JP,U)
【文献】特開2005-95004(JP,A)
【文献】登録実用新案第3100284(JP,U)
【文献】特開2000-69872(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0201581(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 1/00 - 1/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼育動物が収容されるケージと、
該ケージが左右方向に並べて配される棚空間と、
該棚空間が上下方向に複数配されている棚本体と、
該棚本体の前側に位置して前記ケージが出し入れされるために開口している前側開口と、
前記棚本体の後側に位置して前記棚空間内の空気を吸引して排気するために開口している排気口と、
上下方向に隣り合う前記棚空間を仕切って且つ間隔を存して上下方向に平行に配されている棚板と、
該棚板から前記ケージの左右の縁であるケージ左縁及びケージ右縁に向けて少なくとも前記ケージの全長に亘って延び且つ左右方向に隣り合う前記ケージの上方にある上方空間を互いに仕切るためのガイドと、
前記ケージの前記前側開口側に位置するケージ前縁から上方に延びて面として規定される前側面と、
該前側面の上側及び下側にてそれぞれ前後方向に空気を流通させるための上側通気部及び下側通気部と、
前記前側面に沿って配されて前記上側通気部及び前記下側通気部以外の前記前側面を覆う仕切り部とを備えたことを特徴とする動物飼育ラック。
【請求項2】
前記仕切り部は、前後方向に回動することを特徴とする請求項1に記載の動物飼育ラック。
【請求項3】
前記仕切り部は、可撓性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の動物飼育ラック。
【請求項4】
前記仕切り部は、前記棚板から下方に向けて延びる垂れ壁部材と、該垂れ壁部材と間隔を存して配された板形状の回動板とからなり、
該回動板には、その上側にて左右方向に前記ガイドとともに貫通されている回転軸が配され、
前記上側通気部は、前記垂れ壁部材と前記回動板との間に開口として形成され、
前記下側通気部は、前記回動板と前記ケージ前縁との間に開口として形成されていることを特徴とする請求項2に記載の動物飼育ラック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物を飼育しているケージが収容されている動物飼育ラックに関する。
【背景技術】
【0002】
動物飼育ラックとしては、陰圧一方向タイプと、給排気タイプのものが知られている(例えば特許文献1及び2参照)。これらはいずれもケージと称されるプラスティック容器内に飼育動物を収容し、このケージを複数収容する棚のようなものである。特許文献1に示す陰圧一方向タイプの動物飼育ラックは、棚の後面に備わる排気口からケージ内の空気を直接吸引することにより、棚に収容されているケージ内を陰圧とし、ケージ前面の開口部における気流を陰圧一方向流れに維持するものである。特許文献2に示す給排気タイプの動物飼育ラックは、棚の前面から給気された空気の一部をケージ内に吹き込み、吹き込んだ空気を背面から押し出してケージ内を換気するとともに、ケージ内を微陽圧に維持することによりケージ周囲の空気がケージ内に流入することを防御するものである。ケージから押し出された空気は、ラック後面の排気チャンバに備わる排気口から中央に備えられた排気ファンにより吸引されて大気に排気される。どちらのタイプも、ケージ内の動物からの臭気やアレルギー性物質等を棚前面の室内に漏らすことなく、空調又は浄化された室内空気をケージ内に供給して実験動物を飼育するものである。
【0003】
特に給排気タイプの動物飼育ラックでは、ケージ上部と吹出口を備えた上部棚板との高さ方向の隙間を小さくすることで、棚の前面側でエアカーテン状に吹き出されて室内空気がケージ内に侵入することを防御するための気流の速度を弱く設定することができ(約5cm/秒)、この弱い風速でケージ内を陽圧に維持でき、防御機能を満足に機能させることができる。これにより、飼育動物の居住環境の快適化と省エネルギー化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-95004号公報
【文献】特開平7-203794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、動物飼育ラックはいずれも電動送風機により気流を形成しているため、停電時にはこの気流の流れが止まってしまう。このとき、ケージ内は十分な換気ができなくなるため、飼育動物の体温によりケージ内温度が上昇し、更に飼育動物の排泄物によりアンモニア濃度が急激に上昇し、ケージ内は飼育動物にとって劣悪な環境となる。このため停電復旧までにケージ内の飼育動物が死滅してしまう恐れがある。
【0006】
一方で、ケージには上方から給水瓶が取り付けられる。具体的には、給水瓶に備わる給水ノズルを下側にして、瓶の底部が上側に配されるようにして取り付けられる。飼育動物は、下向きになっている給水ノズルから補給水を摂取する。この給水瓶が大型(400cc~500cc)の場合、瓶の底部は大きくケージ上方に突出する。給排気タイプの動物飼育ラックの場合、ケージの上部には高さ1cm程度の空間しかないことが多いため、このような大型の給水瓶を取り付けることができない。
【0007】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、停電時にもケージ内にある程度の換気作用を与えることができ、さらには大型給水瓶を取り付けたケージを収容することができる動物飼育ラックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明では、飼育動物が収容されるケージと、該ケージが左右方向に並べて配される棚空間と、該棚空間が上下方向に複数配されている棚本体と、該棚本体の前側に位置して前記ケージが出し入れされるために開口している前側開口と、前記棚本体の後側に位置して前記棚空間内の空気を吸引して排気するために開口している排気口と、上下方向に隣り合う前記棚空間を仕切って且つ間隔を存して上下方向に平行に配されている棚板と、該棚板から前記ケージの左右の縁であるケージ左縁及びケージ右縁に向けて少なくとも前記ケージの全長に亘って延び且つ左右方向に隣り合う前記ケージの上方にある上方空間を互いに仕切るためのガイドと、前記ケージの前記前側開口側に位置するケージ前縁から上方に延びて面として規定される前側面と、該前側面の上側及び下側にてそれぞれ前後方向に空気を流通させるための上側通気部及び下側通気部と、前記前側面に沿って配されて前記上側通気部及び前記下側通気部以外の前記前側面を覆う仕切り部とを備えたことを特徴とする動物飼育ラックを提供する。
【0009】
好ましくは、前記仕切り部は、前後方向に回動する。
【0010】
好ましくは、前記仕切り部は、可撓性材料からなる。
【0011】
好ましくは、前記仕切り部は、前記棚板から下方に向けて延びる垂れ壁部材と、該垂れ壁部材と間隔を存して配された板形状の回動板とからなり、該回動板には、その上側にて左右方向に前記ガイドとともに回動板を貫通する回転軸が配され、前記上側通気部は、前記垂れ壁部材と前記回動板との間に開口として形成され、前記下側通気部は、前記回動板と前記ケージ前縁との間に開口として形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、停電時にケージ内の温度が飼育動物の体温により上昇して上昇気流が発生すると、この気流は棚板下面に沿って流れて上側通気部から棚本体の外部に漏出する。これと同時に、棚本体外部の温度の方がケージ内温度より低いため、下側通気部から棚本体外部の空気が棚本体内に流入するような気流が発生する。この現象は、周囲温度より高い温度の空間の開口部において気流逆転現象による換気として良く知られる現象である。このように停電時のケージ内の空間は飼育動物の体温による温度上昇により生じる自然対流により、給排気を行うことができる。すなわち、自然の作用でケージ内に十分な換気を行う、いわゆる自然換気を行うことが実現できる。そして、この自然換気は停電直後に特に作業を要することなく行われる。すなわち、動物飼育ラックを管理する者あるいは飼育員が停電時に飼育動物を保護するために特別な作業を行うことは必要とされないので、安全性が向上する。
【0013】
このような上側通気部及び下側通気部が仕切り部に形成されていることで、特に給排気タイプの動物飼育ラックでは、この仕切り部が給気の際の整流板としても作用するので、自然換気を形成するために特別な部材を用意することなく上記効果を実現できる。
【0014】
さらに、仕切り部が回動したり、あるいは可撓性材料で形成することで、仕切り部を介した棚本体に対してケージ上面から大きく突出したものの前後方向への移動が可能となる。ケージに大型給水瓶が取り付けられていて、その底部が大きくケージ上方に向けて突出していたとしても、給水瓶の底部は仕切り部に当たって、仕切り分が回動あるいは撓むことによりこれを通過し、何の問題もなく棚本体内に収容される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る動物飼育ラックの概略正面図である。
【
図2】本発明に係る動物飼育ラックのケージ部分の概略断面図である。
【
図3】本発明に係る動物飼育ラックの通常稼働時におけるケージ部分の概略断面図である。
【
図4】本発明に係る動物飼育ラックの停電時におけるケージ部分の概略断面図である。
【
図5】本発明に係る別の動物飼育ラックのケージ部分の概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、給排気タイプの動物飼育ラック1を例にして説明するが、本発明は陰圧一方向タイプの動物飼育ラックにも適用可能である。
図1及び
図2に示すように、本発明に係る動物飼育ラック1は、略直方体形状で前面が開口した棚本体2を有している。棚本体2の前側の開口は前側開口3として形成されている。棚本体2内には上下方向に複数の棚空間4が形成されていて、これら棚空間4はそれぞれ棚板5により仕切られている。すなわち、棚板5は上下方向に隣り合う棚空間4を仕切って且つ間隔を存して上下方向に平行に配されている。棚空間4には、例えばマウス等の飼育動物7を収容するケージ6が左右方向に並べて配されている。このケージ6の大きさは飼育動物7の種類(例えばラット等)に応じて適宜変更される。棚空間4に対してケージ6を出し入れする際は、棚本体2の前側に位置している上述した前側開口3から行う。なお、ケージ6は金網状のカバー16にて上側を覆われている。このカバー16はケージ6に取り付けられた状態でケージ6の内部に突出する部分を有し、ここに飼育動物7のための餌(不図示)や給水瓶17が配設される。
【0017】
棚本体2の後側全域は筐形状の排気チャンバ8にて塞がれている。排気チャンバ8は各棚空間4と通じるように開口した排気口9が設けられている。すなわち、この排気口9は、棚本体2の後側に位置して棚空間4内の空気を吸引して排気チャンバ8に排気するためのものである。好ましくは、排気口9はケージ6に対応する数だけケージ6の後方に設けられる。好ましくは排気口9の入口側は除毛フィルタ10にて覆われている。この除毛フィルタ10により飼育動物7の体毛が排気チャンバ8内に流入することが防止される。一方で、棚空間4への給気は棚板5の内部を通り、棚板5の前側から下向きにエアカーテン状に流れる空気として供給される。したがって棚板5の前方下側は開口した給気口30が形成され、この給気口30には整流用の整流フィルタ31が備わっている。整流フィルタ31は棚板5の前面に備わる取出しつまみ32を操作することで開口させ、棚板5の前方から出し入れ可能に配されている。
【0018】
動物飼育ラック1にはキャスタ11が備わっている。このため、動物飼育ラック1は部屋のレイアウト変更等に応じて適宜移動可能である。また、動物飼育ラック1の下部には、キャスタ11の他に脚部となる固定脚12も備わっている。この固定脚12は、上下方向に伸長可能なアジャスタ機構を有している。動物飼育ラック1の位置を固定する場合は、固定脚12をキャスタ11よりも下方向に長くすればよい。
【0019】
棚板5からは、下方向に向けて複数のガイド13が左右方向に間隔を存して配されている。ガイド13の下端は左右方向に突出しているので、その断面は逆T字形状となっている。このガイド13は、棚空間4の前後方向の略全長に亘って形成されている。一方でケージ6は上側が開口した容器となっていて、上側の外縁は若干外側に突出している。ケージ6の左右の縁である左右縁部14は、ガイド13の下端から突出した部分に載置される。したがって、ガイド13はケージ6の左右縁部14に向けて少なくともケージ6の全長に亘って形成されている。このようにしてケージ6はガイド13にその左右縁部14を引っかけられて保持されるので、吊られた状態で収容されることになる。このため、ケージ6の底部は下側の棚板5に接していてもよいし、接していなくてもよい(図では接した状態を示している)。ケージ6が下側の棚板5に接している場合は、棚板5の上方に突出するストッパ23を設け、ケージ6が地震時に室外側に飛び出してしまうことを防止してもよい。好ましくは、ケージストッパ23はガイド13の下端の左右方向に突出している部分の上面にケージの前縁部18と当接する位置に設けられている。
【0020】
左右縁部14がガイド13に載置されることで、ケージ6の上方に形成される上方空間15は前後方向のみが開放された状態となる(上方空間15の左右両側はガイド13により塞がれている)。すなわち、棚空間4において隣り合うケージ6の上方空間15はガイド13によって仕切られ、前側は前側開口3により開放され、後側は排気口9に通じるように形成されている。
【0021】
ケージ6の前側開口3側に位置する前側の縁である前縁部18も左右縁部14と同様に突出している。この前縁部18から上方に向け、面として延びる前側面19が規定されている。この前側面19は、給排気タイプの動物飼育ラック1では、給気される空気がケージ6内に流入するか、あるいは棚本体2外に排出されるかの基準面となる。この前側面19に沿って仕切り部20が配設されている。前側面19には、その上側及び下側にてそれぞれ前後方向に空気を流通させるための上側通気部21及び下側通気部22が形成されている。
【0022】
図の例では、仕切り部20は上側の棚板5から前側面19に沿って下方に向けて延びる垂れ壁部材24と、この垂れ壁部材24の下側にさらに配された板形状の回動壁25にて形成されている。回動壁25は、垂れ壁部材25と間隔を存して配される。回動壁25の上側にはこの回動壁25の左右方向に回動壁を貫通して形成された回転軸26が配されている。回転軸26は例えば棚本体2の左右方向全長に亘って挿通されていて、回動壁25は各上方空間15に対応する数だけ上方空間15の前側にそれぞれ配される。したがって回転軸26は、隣り合うガイド13に架け渡されるようにして貫通される。この場合、上側通気部21は垂れ壁部材24と回動壁26との間に開口として形成され、下側通気部22は回動壁26とケージ6の前縁部18との間に開口として形成される。換言すれば、仕切り部20は、この上側通気部21及び下側通気部22以外の前側面19を覆っているといえる。
【0023】
上方空間15の後側には、上側の棚板5から下方に向けて延びるフラップ27が形成されている。フラップ27には前後方向に貫通する排気孔28が形成され、ここから上方空間15内の空気は排気口9に向けて排気される。多少の空気はフラップ27の下側から後方に抜けることも許容されている。なお、ガイド13の下端から突出した部分の後端には、上方に跳ね上がる係止部29が設けられ、これによりケージ6の最後方位置が規定される。フラップ27は可撓性材料で形成、又は上側を支軸として回動可能に形成されるので、このフラップ27を前後方向に避ける等して棚空間4の後側の清掃作業を可能としている。このとき、フラップ27の下端を上側の棚板5に固定するようにマグネット等を用いてもよい。
【0024】
図1及び
図2の例で示した給排気タイプの動物飼育ラック1において、通常稼働時、すなわち通電時には気流の流れは
図3に示すようになる。なお、
図3では便宜上給水瓶17は省略し、符号については
図2と同様であるため省略している。棚空間4への給気は棚本体2の一方の側壁内から各棚板5の内部を通じて供給される。給気空気は棚板5に設けられた整流フィルタ31を通過し、給気口30から下方に向けてエアカーテン状に吹き出される。給気口30は仕切り部20(前側面19)の前後方向に跨がって形成されているので、給気は仕切り部20の前側及び後側にて吹き出される。仕切り部20の前側にて吹き出された給気は、そのまま仕切り部20に沿って下降し(矢印A)、一部は棚本体2の前方に吹き出され(矢印B)、一部はケージ6の外周に沿って流れ排気口9から排気される(矢印C)。仕切り部20の後側にて吹き出された給気は、そのまま仕切り部20に沿って下降し、ケージ6内に流入する(矢印D)。ケージ6内で飼育動物7の居住域に到達した空気は、飼育動物の体温により暖められ飼育動物由来の臭気やアレルギー性物質等を含む汚染空気となってケージ6の後方から上方空間15に向けて上昇する(矢印E)。上昇した気流は上側の棚板5に突き当たり、一部は前方へ(矢印F)、一部は後方へ(矢印G)流れる。矢印Fの気流は矢印Dの吹き出し気流と合流して再びケージ6内に流入する。このため、矢印Fの気流で示される汚染空気が棚本体2の外側に漏れることはない。矢印Gの気流は排気孔28から棚空間4に押し出される(矢印H)。押し出された空気は排気チャンバ8の排気口に吸引される。矢印Gの気流の一部はフラップ27に沿って下方に流れ、フラップ27の下側から棚空間4に押し出される(矢印I)。押し出された空気は排気チャンバ8の排気口に吸引される。矢印H及び矢印Iの気流は排気ファン(不図示)により除毛フィルタ10を通って吸引され排気チャンバ8内を上昇する(矢印J)。このような気流の流れを形成することで、飼育動物7の居住域を通過した汚染空気は全て確実に排気チャンバ8に吸引され大気に放出される。また、矢印Aの気流がエアカーテンとなるので、飼育室内の空気が飼育動物7に供給されることも防止される。
【0025】
このような動物飼育ラック1が停電時となったとき、気流の流れは
図4に示すようになる。なお、
図4でも
図3と同様、便宜上給水瓶17は省略し、符号については
図2と同様であるため省略している。停電時では、電動送風機による給気口30からの給気も、排気口9を通じた排気チャンバ8への排気も行われない。このため停電当初はケージ6内での気流の流れはストップする。時間の経過とともに、飼育動物の体温による周囲空気温度の上昇によって飼育動物7を起点として上昇気流が発生する(矢印K)。矢印Kの気流の一部は上側の棚板5に突き当たり、前方へと流れる(矢印L)。他の一部は後方へと流れ、排気孔28から漏出し、フラップ27の下側から流入する(矢印M)。矢印Lの暖かく軽い空気はそのまま上側の棚板5に沿って前方に流れ、一部は上側通気部21を通って前側開口3から棚本体2の外部に漏出し(矢印O)、他の一部は回動壁25に沿って下降する。漏出したケージ内の空気を補填する形で、棚本体2の外部からこれよりも冷たい空気が下部通気部22を通ってケージ内に流入してくる。この自然対流による換気は空気の温度差、すなわち密度差により生じる現象であり、冷たい空気は暖かい空気が排出される上側通気部21から流入することはできず、その下側に位置する下側通気部22から流入する(矢印P)。矢印Pの気流は矢印KやLの気流があるため一旦ケージ6内を下降し、飼育動物7の居住域を通過(矢印Q)し、飼育動物の体温で暖められて矢印Kに示すような昇気流となる。
【0026】
以上のような気流の流れが形成できるので、本発明によれば、停電時にケージ6内の温度が飼育動物7の体温により上昇して上昇気流(
図4の矢印K)が発生し、この気流(
図4の矢印K)は棚板5下面に沿って流れてその一部が上側通気部21から棚本体2の外部に排出される(
図4の矢印O)。これと同時に、棚本体2の外部の温度がケージ内温度より低いため、下側通気部22から棚本体2の外部の空気が棚本体2内に流入する気流が発生する(
図4の矢印P)。したがって、いわゆる温度差により生じる自然対流による換気により十分にケージ6内を換気することができる。そしてこの自然換気を行うために、特に作業を要することはない(停電となれば自動的に自然換気は発生する)。例えば動物飼育ラック1を管理する管理者あるいは飼育者が、停電時に飼育動物7を保護するために特別な作業を行うことは必要とされないので、震災時でも安全である。
【0027】
また、上側通気部21及び下側通気部22が形成されている仕切り部20は、給排気タイプの動物飼育ラック1では、通電による通常稼働時に給気の際の整流板として作用するので、停電時に自然換気を形成するために特別な部材を用意あるいは作業することなく、上記自然対流による換気を実現できる。この上側通気部21及び下側通気部22が本発明においては重要な概念であり、このような構造を有することで、通常は電動送風機を用いた換気によりケージ内の飼育環境温度が維持される給排気タイプの飼育ラックが、停電時における電動送風機停止の状態でも、特別な対応を要することなく、自然換気による飼育動物7の保全を図ることができるようになる。飼育動物は環境温度が30℃を越すと死亡するリスクが増大すると言われているが、停電時にケージ内の自然換気ができることで、このリスクを低減させることができる。
【0028】
また、上述したように、仕切り部20を構成する回動壁25は前後方向に回動可能である。このため、仕切り部20を介した前後方向への物体の移動が可能となる。例えば、ケージ6(カバー16)に大型の給水瓶17が取り付けられていて、その底部が大きくケージ6の上方に向けて突出していたとしても、給水瓶17の底部は仕切り部20に当たってこれを通過し、何の問題もなく棚本体2内に収容される。したがって上方空間15の高さを取り付けるべき給水瓶17の大きさに応じて設定可能であり、どのような値に設定したとしても上述した自然換気は発生させることができる。このような大型の給水瓶17に対応するため、回動壁25は回動機構を備えなくても、それ自体を可撓性材料で形成することで実現できる。
【0029】
例えば、
図5に示すように、仕切り部20として垂れ壁部材24や回動壁25を備えなくても、可撓性材料からなる1枚のシート33で仕切り部20を形成してもよい。この場合、シート33(仕切り部20)には上側通気部21及び下側通気部22が貫通孔として形成される。すなわち、この場合の仕切り部20は、上側通気部21及び下側通気部22以外の前側面19を覆っていることになる。このような構成であっても、自然換気は上側通気部21及び下側通気部22により発生させることができ、大型の給水瓶17もケージ6に取り付けたままシート33を撓ませて前後方向に移動可能となる。ケージ6を棚本体2内に収容する際、給水瓶17の底部がシート33に当接するが、シート33は給水瓶17の移動に伴って追従して撓み、給水瓶17が通過し終えると元の位置に戻る。
【符号の説明】
【0030】
1:動物飼育ラック、2:棚本体、3:前側開口、4:棚空間、5:棚板、6:ケージ、7:飼育動物、8:排気チャンバ、9:排気口、10:除毛フィルタ、11:キャスタ、12:固定脚、13:ガイド、14:左右縁部、15:上方空間、16:カバー、17:給水瓶、18:前縁部、19:前側面、20:仕切り部、21:上側通気部、22:下側通気部、23:ストッパ、24:垂れ壁部材、25:回動壁、26:回転軸、27:フラップ、28:排気孔、29:係止部、30:給気口、31:整流フィルタ、32:取出しつまみ、33:シート