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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】耐火性マグネシアセメント
(51)【国際特許分類】
   C04B 9/00 20060101AFI20220112BHJP
   C04B 28/10 20060101ALI20220112BHJP
   C04B 35/66 20060101ALI20220112BHJP
   C01F 5/06 20060101ALI20220112BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C04B9/00
C04B28/10
C04B35/66
C01F5/06
F27D1/00 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018528048
(86)(22)【出願日】2016-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 EP2016079082
(87)【国際公開番号】W WO2017093222
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-26
(31)【優先権主張番号】15197374.0
(32)【優先日】2015-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516343088
【氏名又は名称】ケルネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ブガジスキー,イエジ
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-260476(JP,A)
【文献】特開昭49-050009(JP,A)
【文献】特開昭57-056362(JP,A)
【文献】特開平07-069706(JP,A)
【文献】特表2016-534009(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0105167(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 35/66
C01F 5/06
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が20.5~80m2/gの範囲内にある苛性マグネシア成分と、カルボン酸成分とを含有する水硬的に及び化学的に結合する耐火性のマグネシアセメントであって、
前記カルボン酸成分フマル酸、アジピン酸、安息香酸、フタル酸、フタル酸無水物、及びソルビン酸からなる群から選択され、これらの酸が60μm未満の平均粒径を有する室温で固体であることを特徴とするマグネシアセメント。
【請求項2】
苛性マグネシア成分対カルボン酸成分の重量比が500:1~1:1の範囲内である請求項1に記載のマグネシアセメント。
【請求項3】
マグネシア水和遅延剤、細かく粉砕された硬焼マグネシア、細かく粉砕された重焼マグネシア、及び細かく粉砕された溶融マグネシアからなる群から選択される1種以上の追加的な成分をさらに含有し、
前記マグネシア水和遅延剤は単糖、多糖、糖アルコール、鉱酸、鉱酸の塩からなる群から選択され、その少なくとも1種の水和遅延剤を全マグネシア成分に対して0.1~30重量%の総量で含有され、
前記の細かく粉砕されたマグネシアは前記耐火性マグネシアセメントの総乾燥質量に対して最大97重量%の総量で含有され、
前記の細かく粉砕された硬焼マグネシア、細かく粉砕された重焼マグネシア及び/または細かく粉砕された溶融マグネシアの全ての平均粒径が45μm未満の固体である、
請求項1または2に記載のマグネシアセメント。
【請求項4】
前記耐火性のマグネシアセメントの総乾燥質量に対して少なくとも3重量%の量の前記カルボン酸成分と共に、前記苛性マグネシアを含有する請求項1~3のいずれか1項に記載のマグネシアセメント。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のマグネシアセメントを含む耐火性材料であって、
この耐火性材料の総乾燥質量に対して15重量%以下の量の1種以上の機能性添加剤を更に含有し、この機能性添加剤は分散剤、湿潤剤、フラックス、亀裂なしに加熱するための非フラックス剤及び化学的、機械的、又は電気的にセメントを改質するための作用薬からなる群から選択され、
前記分散剤は、高分子電解質、ポリカルボキシレート、及び高性能減水剤からなる群から選択され、
前記湿潤剤は石鹸及びエーテル誘導体からなる群から選択され、
前記フラックスは酸化ホウ素及および酸化リチウムからなる群から選択され、
前記亀裂なしに加熱するための非フラックス剤は有機繊維及び金属繊維からなる群から選択され、この繊維は100℃未満で溶融、及び/又は分解、及び/又は反応することができ、
前記化学的、機械的、又は電気的にセメントを改質するための添加剤は金属粉末、金属繊維、半導体、磁気材料、及び有機繊維材料からなる群から選択される、
ことを特徴とする耐火性材料。
【請求項6】
少なくとも1重量%の前記マグネシアセメント又はその成分と、下記の成分を更に含む請求項5に記載の耐火性材料:
0.1~99重量%の、60μm~50mmの平均粒径を有する耐火物原料、セラミック原料または建築用原料;
0.1~99重量%の、0.1μm~60μmの平均粒径を有する耐火物原料、セラミック原料または建築用原料;及び
任意成分としての0.3~15重量%の分散剤、湿潤剤、フラックス、亀裂なしに加熱するための非フラックス剤及び化学的、機械的、又は電気的にセメントを改質するための作用薬からなる群から選択される機能性添加剤および単糖、多糖、糖アルコール、鉱酸、鉱酸の塩からなる群から選択され水和遅延剤の中から選択される1種または複数の成分、
ここで、
前記耐火物原料及び/又はセラミック原料は下記1)~3)の成分の少なくとも1つを含有し:
1)アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物なる群から選択される1種以上の金属酸化物;
2)Cr23、クロム鉱石、Al23、スピネル、SiO2、ケイ酸塩、TiO2、ZrO2、希土類金属の酸化物、鉄属金属の酸化物、及び他の遷移金属の酸化物からなる群から選択される1種以上の金属酸化物;
3)炭素、黒鉛、窒化物、及び炭化物からなる群から選択される1種以上の非酸化物耐火性材料及び/又はセラミック材料;
前記建築用原料は建築コンクリートの一般的成分、材木、木質材料、及び他の再生可能な植物原料からなる群から選択される。
【請求項7】
コンクリート、懸濁液、自己流動型キャスタブル、チキソトロピックキャスタブル、スリップキャスト成形、テープ成形、コーティング組成物、吹き付け材、ガンニング材、ラミング材、修復材、注入材、モルタル、及び接着又は連結剤からなる群から選択される少なくとも1つの製品の製造のための、または、耐火物、鋼材、非鉄金属、セメント、ガラス、セラミック、電子、及び建築産業からなる群から選択される少なくとも1つの産業で使用される、一体型の裏張り、プレキャスト形状、プレハブ要素、機能性製品、耐火製品、並びに、炉、容器、もしくは他の装置のための断熱製品のうちの少なくとも1つの製造のための、請求項1~4のいずれか1項に記載のマグネシアセメントの使用。
【請求項8】
コンクリート、懸濁液、自己流動型又はチキソトロピックキャスタブル、スリップキャスト成形、テープ成形、コーティング組成物、吹き付け材、ガンニング材、ラミング材、修復材、注入材、モルタル、及び接着又は連結剤からなる群から選択される少なくとも1つの製品の製造のための、または、耐火物、鋼材、非鉄金属、セメント、ガラス、セラミック、電子、及び建築産業からなる群から選択される少なくとも1つの産業で使用される、一体型の裏張り、プレキャスト形状、プレハブ要素、機能性製品、耐火製品、炉、容器、若しくは他の装置のための断熱製品の製造のための、マグネシアセメントを含む請求項5~7のいずれか1項に記載の耐火性材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性であり、水硬性であり、化学的に結合するマグネシアセメント、前記セメントを含む耐火製品、並びに前記セメント及び前記耐火製品の産業上の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のマグネシアセメントの水硬性-化学結合性及び耐火性の特徴は、最新のセメントと比較した場合に最もよく理解される。ポルトランドセメント又はアルミン酸カルシウムセメント及びこれらの様々な改質形態などの公知のセメントは、典型的には水硬性結合剤又は水硬性バインダーである。これらは、セメントクリンカと水との化学反応、並びにそれぞれケイ酸カルシウム水和物、エトリンガイト、ブラウンミラーライト、及びアルミン酸カルシウム水和物のような主結合相の形成の結果として凝結及び硬化する。アルミン酸カルシウムセメントは、主に耐火物及びセラミックのために使用されている。しかし、アルミン酸カルシウムセメントの石灰成分は、アルミナ又は塩基性の耐火製品の耐火性を下げてしまう。石灰を含まない水硬性セメント、いわゆる水和性アルミナが開発され、コランダム、アルミナスピネル、ケイ酸アルミニウムのために使用されており、また頻度は少ないものの塩基性耐火物のためにも使用されている。
【0003】
低温用途のために使用される水硬性セメントとは対照的に、有効な耐火物及びセラミックセメントに関して複数の要件が存在する。最も重要な特徴は:
-周囲温度だけではなく、セラミック結合の生成が生じる温度に近い温度範囲でも結合すること;
-高純度であるか、耐火性又は高温強度を低下させない成分でしか汚染されていないこと;
-加熱時に少量及び非毒性の排出物であること;
-加熱と冷却のサイクルの間に体積安定性が保証される相組成であること;
である。
【0004】
特に耐火物のために使用されている他の公知の結合剤は、主に、可溶性ケイ酸塩、シリカフューム、リン酸塩、及び有機ポリマー又は樹脂からなる。そのような結合剤は、促進剤としての、あるいは更にはマトリックス及び/又は骨材の主成分としての、マグネシアを含み得る。
【0005】
アルカリケイ酸塩、すなわち水ガラスは、セラミック及び耐火物のための化学的バインダーの別の分類である。残念なことには、製品に結合しているアルカリケイ酸塩は耐火性及び化学的摩耗(例えばスラグなどによる)に対する耐性をわずかしか有しておらず、そのため、主に高温パーマネントライニング又はウェアライニングのためではなく、ガンニング材又は修復材のために使用されている。
【0006】
リン酸塩は、塩基性耐火物、アルミナ耐火物、及びセラミックのための化学結合剤として広く使用されている。しかし、周囲温度での硬化は多くの場合遅く、そのため高温又は添加剤の混和材料(例えば1種以上の水硬性結合剤など)の利用が通常必要とされる。これも同様に、製品に結合しているリン酸塩の耐火性は、必ずしも満足できるものではない。更に、冶金炉の耐火ライニングのリン酸成分は、例えば鋼材などの製品の純度に悪影響を及ぼし得る。
【0007】
石灰及びマグネシアの、特には小粒径及び/又は焼成された石灰若しくはマグネシアの、低温での水硬特性は、テキスト及び事典版から広く知られている。この2つの化合物のいずれも、次の理由のため水硬性セメントとして単独で使用できない。
【0008】
-石灰の水和生成物である水酸化カルシウムは、一定の溶解性を示し、過剰の水の中に溶解して強度を低下させ得る。
【0009】
-通常は水酸化マグネシウム又は炭酸マグネシウムの焼成によって得られる、非常に細かく粉砕されたマグネシア又は低温で焼成されたマグネシアは、水和してブルーサイトと呼ばれるほぼ不溶性の水酸化マグネシウムを非常に速く形成し得る。制御不能な凝結は、最終生成物の機械的特性の低下を更にもたらし得る。マグネシアの水和は、MgOの石灰を含まない成分によって著しく増加する。MgO+H2O=Mg(OH)2の反応によるマグネシアの結合の大きな問題の1つは、典型的には約45~55%、頻繁には約50~51%の、体積の著しい増加であり、これは凝結時及び乾燥時の亀裂及び他の欠陥を生じやすくする。セメントの水和時に形成される水酸化マグネシウムがマグネシアマトリックス及び骨材の水和を加速するブルーサイト核として機能し得ることから、この特性はマグネシアセメントにより結合している塩基性耐火物で特に有害である。通常は45~55%、典型的には50~51%の体積の減少を伴う加熱時のブルーサイトの分解は、純粋なマグネシアセメントにより結合している耐火物及びセラミックの大きな欠点となるであろう。
【0010】
最も一般的に使用されているマグネシアセメントは、反応性マグネシアとマグネシア塩(硫酸塩及び/又は塩化物など)を主成分とするいわゆるソレルセメントであり、これはオキシ塩化マグネシウム及び/又はオキシ硫酸マグネシウムにより結合マトリックスを形成する。米国特許出願公開第2005103235号明細書には、ソレルセメントの特性及び欠点が記載されている。しかし、ソレルセメントは、加熱時の強度の喪失及び有害物の放出のため、耐火用途及び高温用途のためにはあまり適していない。
【0011】
米国特許出願公開第2005103235号明細書に開示のセメントは、耐火用途に適していることは明らかにされておらず、結合の特性は水硬性のみであり、主な結合種はブルーサイトである。更に、耐火性を低下させるとして知られているフラックス及び鉱化剤が焼成のために使用されており、粉砕された反応性マグネシアは、セメントの塩基性成分である。このため、許容可能な凝結時間を得るためには凝結促進剤が必要である。
【0012】
独国特許第1471297号明細書では、非プラスチック性の、マグネシア微粉末と0.1~15%の脂肪族ヒドロキシトリカルボン酸(好ましくはクエン酸)又はその塩とのセメント系混合物を含む耐火性材料が開示及び特許請求されている。しかし、当該技術分野では、大きい比表面積のマグネシアを、クエン酸などの易溶性の強く錯形成する有機酸(クエン酸など)と共に使用すると、水との混合の後に、凝結時間の調節が非常に困難になり、最終製品のレオロジー特性及び最終的な機械的特性が悪化し得ることが知られている。
【0013】
同様に、米国特許第3923534号明細書には、2m2/g未満の表面を有する低反応性マグネシアと、水溶性リン酸アルミニウム錯体結合剤の成分であるクエン酸などのカルボン酸のアニオンとを含有する低温凝結性の耐火性組成物が開示されている。しかし、本明細書で上述したように、クエン酸などの水によく溶けやすい有機酸の使用は、様々な望ましくない副作用を伴い得る。耐火物用のリン酸塩結合剤のいくつかの欠点は上で既に概説した。
【0014】
欧州特許第1953487号明細書には、カルボン酸(特にはヒドロキシカルボン酸)又は異なるカルボン酸の混合物である熱活性化バインダーと結合した公知の耐火原料、特には重焼マグネシア又は溶融マグネシアからなる耐火性材料が開示されている。しかし、金属容器のライニングのために使用される開示された耐火性材料は、周囲温度で水と混合した後に凝結及び硬化できる水硬性バインダーではない。
【0015】
マグネシア微粉末と、それぞれCrO3及びB23として計算して3:1~1:1.5の比率である0.25~5%のホウ素化合物及び可溶性クロム化合物を含有する、別のセメント系耐火性組成物が、英国特許第723924号明細書から公知である。しかしながら、耐火物のためにクロム酸及び可溶性クロム酸塩を使用することは、Cr(VI)化合物の発がん性の疑いのため現在禁止されている。
【0016】
米国特許第3751571号明細書には、キャスタブル耐火性セメントから形成されるコアレス誘導炉のための耐火性ライニングが記載されている。この明細書において、セメントという用語は、耐火性骨材と、反応性マグネシア及び少量の有機酸(すなわちシュウ酸)を含有する結合成分と、からなるセメント組成物のことをいう。しかし、実施例Iで使用されているシュウ酸は溶解し易く、難溶性のマグネシウム塩を形成する。米国特許第3751571号明細書の開示から、セメントの弱い結合のみが望まれており、特定の温度範囲では、すなわち軟らかくもろい区間では、この結合は完全に消失することが推測できる。
特開昭55-150972号公報には、歯科用途の砥石のためのセメントが示されている。3:1の比率の酸化マグネシウム粉末及びポリアクリル酸水溶液がセメントの主成分である。ポリアクリル酸は、マグネシウムにより架橋する分子とキレート結合を形成し、セメントは凝結して大きい機械的強度を与える。しかし、高温ではポリアクリル酸が分解するためこのセメントは高温用途には適切ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】米国特許出願公開第2005103235号明細書
【文献】独国特許第1471297号明細書
【文献】米国特許第3923534号明細書
【文献】欧州特許第1953487号明細書
【文献】米国特許第3751571号明細書
【文献】特開昭55-150972号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、高温に適しており、また高性能耐火物、セラミック、耐火用途、及び建築のための使用に適切な、水との混合後に周囲温度においてでさえも凝結及び硬化する、高純度であり低排出物であるマグネシアセメントに関する。可溶性マグネシウム塩を形成する低水溶性のカルボン酸の存在下での、任意選択的には1種以上のマグネシア水和遅延剤と組み合わされた、苛性であり任意選択的には細かく粉砕されたマグネシアの、水硬作用と化学結合の両方の作用は、高い強度を発現させ、凝結時間を調節することを可能にする。強い結合を得るために、追加的な金属塩又は他の結合添加剤は必要とされない。一般的に入手可能な原料を使用する、前記セメントの環境に優しい製造方法も、本明細書中で開示される。
【0019】
苛性マグネシアのための好ましい出発物質は、例えば沈降、噴霧、又は粉砕によって得られる水酸化マグネシウムの微粉末である。1100℃未満の温度で焼成された大きい比表面積の苛性マグネシアが必要とされる。前記苛性マグネシアは、その後、細かく粉砕されて重焼、硬焼、又は溶融されたマグネシアと共に、難水溶性のカルボン酸と共に、及び任意選択的には1種以上の水和遅延剤と共に、ブレンドすることができる。本発明のマグネシアセメントを含む耐火製品は、振動式、自己流動式、及びガンニング式技術などの様々な打設技術及びライニング技術のために適しており、コンクリート、キャスタブル、スラリー、及び他のミックス材としてのみならず、耐火物、セラミック、及び他の産業分野で利用されるプレキャスト形状の製造のためにも、使用することができる。
【0020】
そのため、独立項の中で特許請求される本発明は、耐火性マグネシアセメント及びその使用であって、マグネシアセメントが大きい比表面積(S.S.A.)の苛性マグネシアと、水溶液中で少なくとも1種の可溶性マグネシウム塩を形成する1種以上の徐々に及び/又はわずかに水に溶解するカルボン酸と、を含む、耐火性マグネシアセメント及びその使用に関する。選択された製品又は用途のためには、マグネシア水和遅延剤が添加されてもよい。本発明の更に有用な実施形態は、従属項の中で定義され、特許請求される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
耐火物、セラミック、及び建築用途のためのマグネシアセメントは、特定の要件を満たさなければならない。第1に、セメントは高性能ミックス材及び配合物のために適切である必要があり、分散剤及び減水剤の効果に悪影響を及ぼすべきではない。当該技術分野では、イオン種を形成する溶解し易い酸及び塩は、特に大きい電荷及び高い濃度では、効率的な分散を大きく妨げ得ることが知られている。そのような影響は、特に電気立体的又は静電的な分散剤が使用される場合に観察される。適切に分散された、低含水セメントの配合は、高強度で低空隙率のコンクリート製品を得るための鍵となる特徴である。
【0022】
第2の問題は、適切な凝結及び硬化時間並びに亀裂がない乾燥及び加熱を達成するためのマグネシアの制御方法、つまりカルボン酸の反応速度及びマグネシアの水和の程度の制御方法である。
【0023】
そのため、本発明のある目的は、これらの問題及び要求のための有用な解決策を提供することである。細かく粉砕された及び/又は大きい比表面積のマグネシアは、易溶性のカルボン酸がこのようなマグネシアセメントと組み合わせて使用される場合に、強い結合を促すが、速い酸/塩基反応速度、速いマグネシア水和速度も伴い、結果として急結又は望ましくないレオロジー特性も伴う。
【0024】
驚くべきことには、大きい比表面積の苛性マグネシアと共に、及び任意選択的には細かく粉砕された重焼マグネシア、細かく粉砕された溶融マグネシア、及びマグネシア水和遅延剤のうちの少なくとも1種と共に、わずかに及び/又は徐々に溶解するカルボン酸を含む混合物によって、調節可能な凝結時間及び更に望ましい特性のマグネシアセメントが得られることが本発明者によって見出された。両方の種類の成分、すなわちカルボン酸とマグネシア水和遅延剤は、望ましいセメント組成物の、マグネシア成分(類)の速すぎる水和を防止し、また、乾燥時及び加熱時に亀裂の形成をもたらし得るMgO結晶上での望ましくないブルーサイトのエピタキシャル成長を防止する。それと同時に、これらは、それぞれのマグネシアセメント又はそのようなマグネシアセメントを含む対応する耐火性材料の、成分の混合物の中での苛性マグネシアと任意選択的な追加的なマグネシア成分の、滑らかで均一な分散を有意に促進する。
【0025】
マグネシアセメントを補うために難溶性カルボン酸を有利に使用できるという驚くべき知見は、当該技術分野の一般的な認識の阻害要因のようである。これは、恐らく難溶性の酸は十分には反応しないであろうという当該技術分野における先入観によるものであろう。本発明のマグネシアセメントの、並びに前記セメントを含む耐火性材料の、凝結時、乾燥時、及び加熱時の望ましい低い又は穏やかな水和特性を裏付ける証拠は、本明細書の以降の実施例で開示するように、150℃での強力水熱オートクレーブ試験を使用して得られ、これは、亀裂がないコンクリートサンプルの開発を裏付けた。この試験は、例えば独国特許第1471297号明細書で使用されているような、サンプルが100℃の高湿度雰囲気で加熱され、その後にその膨張が決定される体積安定性試験よりも、亀裂を生じない加熱の予測のためにより適切である。
【0026】
本発明の第1の実施形態においては、耐火物、セラミック、及び/又は建築用の原料の強い水硬性-化学結合に好適な、マグネシアセメントが提供される。この目的のため、大きい比表面積の苛性マグネシアが必要とされる。これに関連して、主な結合相としてのブルーサイトとの唯一の水硬性結合剤であるマグネシアセメントに関して公知なこととは対照的に、マグネシアの焼成温度よりも苛性マグネシアの粒径又は比表面積に注意を払うことが一層重要である。本発明によれば、大きい比表面積(S.S.A.)、すなわち約0.5m2/g超、好ましくは約3.0~約80m2/g、任意選択的には80より大きく最大150m2/g、のS.S.A.を有する苛性マグネシアは、350℃超最大1100℃の温度でのマグネシウム化合物の焼成によって得ることができる。
【0027】
水溶液への溶解性が低い及び/又は溶解速度が低い1種以上のカルボン酸と組み合わせて、細かく粉砕されたマグネシアと共に、及び任意選択的にはセメントの他の成分と共に、様々な比表面積の苛性マグネシアのブレンド物を使用することにより、幅広い範囲内で凝結時間及び硬化時間を調節することができる。その際、少なくとも一部のカルボン酸成分は、水と接触すると、マグネシウム塩とカルシウム塩のいずれか又は両方などの水溶性が高い少なくとも1種のアルカリ土類金属塩を生じるかこれらへと変わる。低い溶解速度のカルボン酸は、控えめな水溶性のあるいは緩やかに溶ける保護層によって可溶性有機酸粒子が被覆されることによっても得ることができる。例えばフマル酸及び/又はアジピン酸などの緩やかに溶解するカルボン酸は、マグネシアの水和の長期間にわたる遅延剤として機能し、それと同時に、可溶性のマグネシウム塩及びカルシウム塩の形成における化学結合剤として少なくとも凝結の第1段階時に作用する。全ての苛性マグネシア対全てのカルボン酸の重量比は、約1:1~約500:1の範囲内で様々であってもよい。
【0028】
好適なカルボン酸は、20℃で約50g/L未満、典型的には約20g/L未満、任意選択的には約0.5~5g/Lの水への溶解度を有する有機酸からなる群から選択することができる。追加的な選択基準には、大量生産品として入手できること、適正価格で入手できること、並びに耐火物又はセラミック用途のために使用される場合に毒性排出物及び/又は望ましくない熱分解生成物が生成しないこと、のうちの少なくとも1つが含まれ得る。したがって、難溶性のカルボン酸は、フマル酸、アジピン酸、安息香酸、フタル酸、フタル酸無水物、及びソルビン酸からなる群から選択することができる。当業者であれば、本発明の趣旨から逸脱することなしに追加的な適切なカルボン酸を選択することができるであろう。
【0029】
マグネシアセメントに1種以上の水和遅延剤を補うことは、満足できる凝結時間への調節に、また、本発明のマグネシアセメント及び前記セメントを含む対応する耐火性材料の、凝結時の過剰のマグネシアの水和に対する耐性の改善に、並びに乾燥時及び加熱時の亀裂の発生に対する耐性の改善に、大きく寄与し得る。1種以上の水和遅延剤は、全マグネシア成分に対して0.1~30重量%の総量で添加されてもよい。これらは、単糖、二糖、多糖、糖アルコール、鉱酸及びその塩からなる群から選択されてもよく、典型的にはグルコース、ラクトース、サッカロース、マンニトール、ホウ酸、及びホウ酸の塩からなる群から選択することができる。
【0030】
カルボン酸と水和遅延剤の両方とも、これらの低い溶解性及び/又はこれらの非イオン特性及び/又は必要とされる低濃度のいずれかのため、セメントスラリー又は水セメント配合物の分散を妨げない。
【0031】
本発明の別の実施形態においては、苛性マグネシアセメントは、硬焼、重焼、又は溶融マグネシアとして知られる高温で焼成された細かく粉砕されたマグネシアとブレンドされる。45μm未満の平均粒径d50まで粉砕された場合、そのように細かく粉砕されたマグネシアは、カルボン酸と反応することもでき、その結果凝結時間及び特にはセメント結合の強度の調節に寄与することができる。多量の細かく粉砕されたマグネシアと少量の苛性マグネシアとの組み合わせ、例えば全マグネシア成分に対して約70~約99重量%の細かく粉砕されたマグネシアと約30~約1重量%の苛性マグネシアとの組み合わせは、例えばセメントの遅い凝結及び硬化のためなどに有用な場合がある。前記細かく粉砕されたマグネシアの総量は、耐火性セメント組成物の総乾燥質量の最大97重量%に調節されてもよい。
【0032】
マグネシウム化合物の、典型的には水酸化マグネシウムMg(OH)2又は炭酸マグネシウムMgCO3の焼成温度は、得られる苛性マグネシア、MgOの反応性を決定することが当該技術分野で知られている。本発明の目的のためには、焼成温度は1100℃未満の幅広い温度の中で、すなわち350℃~1100℃、好ましくは750℃~900℃の温度範囲の中で選択することができる。750℃未満の温度で焼成することにより製造された苛性マグネシアは、水及びカルボン酸ととても速く反応する傾向があるようであり、そのため望ましい又は適切な凝結時間を調節することが困難になる場合がある。これは、大きい比表面積を有する苛性マグネシアを使用する場合に特に当てはまる。
【0033】
この場合、焼成のために選択された選択温度のみを考慮して苛性マグネシアの反応性を予測すると、ほとんど満足できる結果が得られないことが言及されるべきである。これは、苛性マグネシアの反応性が、加熱速度、最も高い焼成温度での保持時間、及び冷却速度にも大きく依存するためである。予備試験では、速い加熱速度及び短い保持時間でより高い温度範囲で焼成することにより得た多くの苛性マグネシアサンプルは、より低い温度範囲で長い保持時間焼成したマグネシアサンプルよりも反応性が高かった。
【0034】
苛性マグネシアの反応性を測定する1つの方法は、実験用苛性マグネシアサンプルを含むセメントの凝結時間を決定することによる。
【0035】
苛性マグネシアの反応性に関してのもう1つの指標は、公知のクエン酸反応性試験である。この試験の結果は、マグネシアサンプルの比表面積と焼成温度の両方によって影響を受ける。本発明のセメント組成物のために使用される苛性マグネシアサンプルの大部分は、試験開始後25~50秒の間にpHの変化、すなわちクエン酸活性を示した(試験条件:T=30℃;2.0gのマグネシアサンプル;100mlの試験用液:クエン酸25g/l、安息香酸ナトリウム0.5g/l、フェノールフタレイン0.1g/l)。しかし、クエン酸活性試験の結果単独では、実験用苛性マグネシアを含むセメント組成物の凝結時間を正確に予測することはできなかった。
【0036】
マグネシアと水との間の反応の効率的な速度及び程度を、マグネシア焼成の温度及び追加的なパラメーターによってのみならず、使用されるカルボン酸及び水和遅延剤の選択及び量によっても制御できることは、本発明により製造されるマグネシアセメント及び前記セメントを含む製品の注目すべき優位性である。
【0037】
本発明の目的のために好適なカルボン酸は、控えめな水溶性、あるいは幾分遅い速度にて水性溶媒に溶解する。この文脈における低い溶解性は、20℃の温度で約0.5~約50g/L、好ましくは約1~約20g/Lの溶解度を意味する。遅い溶解は、1リットル及び1時間当たり約1~約50g、典型的には約2~10g/L/hの、20℃で水溶液の中へカルボン酸が溶解する速度を意味する。しかし、緩やかに溶解する有機酸には、1種以上の保護層により被覆されているか水性溶媒中でこれらを緩やかに溶解させるように徐放性マトリックスの中に組み込まれている、より水に溶けやすい有機酸も含まれていてもよい。徐放性製剤及び薬品コーティングのために使用される好適な遅延剤又は徐放剤は当該技術分野で公知であり、特に医薬産業において公知である。したがって、水性溶媒中での低い溶解度又は遅い溶解の要件を満たす限り、及び毒性のある又は他の有害な物質へと加熱により分解しない限り、事実上あらゆる有機酸を本発明の目的のために使用することができる。具体的な目的のために使用される徐放剤に応じて、カルボン酸の緩やかな放出及びその後の溶解は、徐放コーティング若しくはマトリックスの化学的分解によって、又はマトリックスの漏れやすさを増加させる通常は高分子である徐放マトリックスの水和及び膨潤によって、達成される。
【0038】
そのような遅延剤又は徐放剤は、例えば水素化植物油、蜜蝋、脂肪酸、長鎖脂肪族アルコール、グリセリド、オイル、エチルセルロース、ステアリン酸及びその塩、パラフィン、カルナバワックス、タルク、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのポリマー、セルロース、セルロース誘導体、又はこれらの混合物からなる群の中から選択することができる。
【0039】
本発明のある実施形態においては、苛性マグネシアセメントに機能性添加剤が補われてもよい。そのようなセメント組成物は、しばしばセメントプレミックスと呼ばれ、例えばマグネシアセメントを多量に含む、使用準備済(ready for use)セメントスラリー又は他のセメント組成物の調製などの様々な用途で有用な場合がある。
【0040】
機能性添加剤は、耐火性材料の総乾燥質量に対して、典型的には最大20重量%の量で、例えば0.1~15重量%の量で添加される。これらは、分散剤、湿潤剤、フラックス、及び亀裂なしに加熱するための作用薬からなる群から選択することができる。分散剤は、高分子電解質、ポリカルボキシレート、及び高性能減水剤からなる群から選択することができる。湿潤剤は、石鹸及びエーテル誘導体からなる群から選択することができ、フラックスは、低融点化合物、及び焼結を促進する共溶融混合物からなる群から選択することができる。亀裂なしに加熱するための作用薬は、有機繊維及び金属繊維からなる群から選択することができ、この中の繊維は、好ましくは、100℃未満の温度で溶融、及び/又は分解、及び/又は、マグネシアセメントの若しくは前記セメントを含む対応する耐火性材料の成分の少なくとも1つの他の成分と反応することができる。
【0041】
本発明の様々な実施形態のためには、分散剤及び減水剤はマグネシアセメントと相溶性があるだけではなく、最終製品の所定の用途のために任意選択的に混和される追加的な耐火性材料及びセラミック材料とも相溶性を有することが好ましい場合がある。
【0042】
例えば酸化ホウ素及び/又は酸化リチウムなどのフラックスを添加することは、マグネシアセメント及び耐火性材料又はセラミック材料の焼結が、例えば1000℃未満などの特定の温度範囲内を必要とする場合に推奨される。この目的のために最も好ましいものは、仮フラックス、すなわち液相を形成して低温での焼結を促進する一方で、高温で分解、蒸発、又はいわゆる固溶体を形成して高い耐火性を有するセラミックス材料を形成するフラックスである。
【0043】
当該技術分野では、耐火性材料及びセラミック材料に結合している高密度セメントを亀裂なく加熱するためには、通常例えばマイクロファイバーなどの繊維の存在が必要とされることが知られている。マイクロファイバーの溶融及び分解の後も、細孔のネットワークは水の輸送及び蒸発を依然として促進し、また製品に結合しているセメント内部の高い水分圧を防ぐ。マグネシアの水和速度への、及び典型的に高い結晶化圧及び亀裂を生じるマグネシア結晶上でのブルーサイトのエピタキシャル成長への、温度及び水分圧の強い影響のため、この問題はマグネシアセメントの加熱との関連で特に重要である。コンクリート産業でよく使用される繊維は、ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維である。しかしながら、MgOの水和は100℃未満の温度でも既に非常に速いことから、そのような繊維は、マグネシアを主成分とする耐火性材料及びセラミック材料のためには完全には適していない。そのため、本発明によれば、100℃未満の温度で既に融解及び/又は分解及び/又は化学的に反応できる繊維を使用することが好ましい。これらは加熱時の亀裂及び生じ得る爆発を防止するためにより適切であり、アルミニウム、アルミニウム合金、又は低融点ポリビニルアルコール(PVA)から製造されるマイクロファイバーを含む繊維からなる群から選択されてもよい。
【0044】
マグネシアセメントの製造:
本発明のある実施形態においては、焼成マグネシアを得るための出発物質は、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウムなどのマグネシウム化合物の、好ましくは水酸化マグネシウムの、微粉末である。適切な水酸化マグネシウム粉末は市販されている。それぞれの要件に応じて、焼成後に約90~99重量%のMgO含有率を示す水酸化マグネシウム粉末のグレードを、多くの用途のために選択することができる。特に大きい比表面積の苛性マグネシアが必要とされる場合、二重焼成製品が好ましい。そのような場合、1回目の焼成の後に得られる苛性マグネシアは、100℃に近い温度すなわちその前後で再びMg(OH)2へと水和されてから、2回目の焼成を受ける。焼成は、典型的にはロータリーキルン又は複数の炉床炉の中で連続的に又は半連続的に行われるが、固定炉又は他の炉の中でバッチ式にて行うこともできる。
【0045】
市場で入手可能な様々な苛性マグネシア製品が、900~1100℃の温度で焼成された。そのような苛性マグネシアを単独で使用すると、望ましい又は所定の(通常は十分に速い)セメントの凝結時間に適切に調節することがいくつかの用途のためには難しい場合がある。この問題は、焼成前に微粉末であり、好ましくは焼成前に例えば20~40μmなどの45μm未満の平均粒径を有するマグネシウム化合物、及び/又は例えば沈降、噴霧、粉砕、又はジェットミル粉砕により得られる、焼成前に例えば0.5~20.0m2/gなどの0.4m2/g超の比表面積を有するマグネシウム化合物を、900℃未満、任意選択的には750℃~900℃の温度で焼成することによって得られた一部の苛性マグネシアを混和させることにより、回避することができる。マグネシウム化合物のそのような微粉末を焼成することによって、典型的には少なくとも0.5m2/g、通常は3.0~80.0m2/g、任意選択的には最大150m2/gの比表面積を有する苛性マグネシアが得られる。
【0046】
本発明により使用されるカルボン酸が20℃で固体である場合には、前記カルボン酸を少なくとも60μm以下の平均粒径まで微粉砕することが好ましい。これは、それぞれのカルボン酸の低い溶解度又は遅い溶解速度を考慮しており、また凝結後にマトリックス中に粒子状物質として残る溶解しなかったカルボン酸が、得られる製品に結合しているセメントの強度及び空隙率に悪影響を及ぼす場合があるという事実も考慮している。そのため、本発明のいくつかの実施形態においては、この影響を回避するために、例えば1~5μmなどの10μmよりも更に小さい平均粒径の混和されるカルボン酸が必要とされる場合がある。
【0047】
本発明のマグネシアセメント組成物の1種以上の成分の粉砕が推奨されるか必要とされる場合、これらの成分の同時粉砕を行ってもよい。機能性添加剤として繊維が存在する場合、これらがダメージを受ける可能性があることから、ブレンドする目的のためには粉砕は推奨されない。
【0048】
使用準備済セメント組成物は、単一のセメント成分を使用することに対して、及び使用場所でこれらを後に混合することに対して、様々な利点を有している。例えば、結合は、プレミックスされた反応成分の緊密な接触のためより効果的である。また、貯蔵時の水和に対する焼成された及び微粉砕されたマグネシアの保護は、これが既に1種以上のカルボン酸及び任意選択的な水和遅延剤と十分に混合されているため、使用準備済セメント組成物においてより優れている。
【0049】
本発明のある実施形態は、本発明に従って、すなわちプレミックスされた使用準備済セメント又は前記セメントの別個に得られる単一の成分のいずれかによって、製造される耐火マグネシアセメントの成分を一方で含み、他方で粒子状の耐火物、セラミック、及び/又は建築用の原料と、1種以上の機能性添加剤と、任意選択的な追加的な水和遅延剤とを含む、有用な粒子状耐火性材料に関する。耐火物及びセラミック原料は、1種以上の金属酸化物だけでなくこれら由来の化合物及び混合物、特にはアルカリ金属、MgO、CaO、及び他のアルカリ土類金属酸化物、Cr2O3、クロム鉱石、Al2O3、スピネル、SiO2、ケイ酸塩、TiO2、ZrO2、希土類金属の酸化物、鉄属金属の酸化物、他の遷移金属の酸化物からなる群から選択される化合物も含んでいてもよい。更なる耐火物及びセラミック材料の添加剤は、炭素、黒鉛、窒化物、及び炭化物などの酸化物ではない耐火物及びセラミック原料からなる群から選択することができる。建築原料の粒子状添加剤は、一般的な建築コンクリート、材木又は木質材料、及び他の再生可能な通常は繊維質の原料、からなる群から選択される1種以上の典型的な成分を含んでいてもよい。
【0050】
そのような耐火性セメント製品は、少なくとも1重量%であり最大99.5重量%の耐火性マグネシアセメントと共に、
-0.1~99重量%の、約60μm~約50mmの平均粒径を有する耐火物、セラミック、及び建築用の原料のうちの少なくとも1つ;
-0.1~99重量%の、約0.1μm~約60μmの平均粒径を有する耐火物、セラミック、及び建築用の原料のうちの少なくとも1つ;及び、任意選択的な
-0.3~15重量%の、機能性添加剤及び水和遅延剤からなる群から選択される1種以上の成分
の成分のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0051】
本明細書において、「マグネシアセメント」という用語が使用される場合、別の記載がない限り、あるいは与えられた文脈から異なる意味が導き出せない限り、プレミックスされたすなわち使用準備済のマグネシアセメント又は、前記マグネシアセメントを構成する単一の成分全体を意味するものとする。本発明の実施のためには、プレミックスされた使用準備済のマグネシアセメントまたは、例えば使用現場など後でこれらを混合するために別個に入手可能であってもよい前記セメントの単なる成分のいずれかを、任意選択的には機能性添加剤及び/又は粒子状材料などの追加的な成分と共に、使用することができる。
【0052】
本発明のマグネシアセメントを含む粒子状耐火性材料の粒径は、通常は用語「微細」粒、「微細/粗大」粒、及び「粗大」粒に包含されることは当業者に明白である。本発明に沿うこの目的のために適切な耐火物、セラミック、及び建築用の原料は、球形状の粒子に限定されない。粒子は、例えば円盤状、棒状、又はブレード状などの不規則な形状であってもよく、また繊維及びチューブが含まれていてもよい。不規則な形状、すなわち非球形の粒子に対しては、不規則な形状の粒子と同一の体積を有する仮想的な球での実際の粒子の置換に基づく粒径の拡張された定義を適用することができる。この体積に基づいた粒径の定義は、不規則な形状の耐火物、セラミック、及び建築用の原料の平均粒径の決定を可能にし、また粒径分布の定量化のために有効である。
【0053】
いくつかの用途のためには、マグネシアセメントに加えて、あるいはマグネシアセメントが別個の成分により供給される場合には本発明に従う全てのその成分に加えて、化学的、機械的、又は電気的な改質のための添加剤を含む、耐火性材料、典型的には粒子状耐火性材料を提供することが有用な場合がある。そのような改質用添加剤は、主にセメントの結合特性に影響を与えることは意図されておらず、むしろ色、濡れ性、機械的特性、導電率、及び/又は磁気特性などの特性を改良することが意図されている。この目的のために、様々な化学元素、化合物、金属粉末及び/又は金属繊維、半導体、磁気材料、並びに有機材料を、適切に使用することができる。
【0054】
上で言及した耐火物、セラミック、及び/又は建築用の原料は、本発明のマグネシアセメントとの結合が有意義であり望ましい場合には、酸化物、非酸化物、合成物、天然鉱物、高密度材料、又は断熱材料などの任意のセラミック又は耐火原料から選択することができる。コンクリートの一般的な成分などの建築用原料、すなわち砂利、砂、及び他の微細な又は粗大な成分も、本発明のセメントを使用して結合させることができる。本発明の有利な特徴は、マグネシアセメントが少量のみであっても効果的な結合が生じることである。
【0055】
本発明のマグネシアセメント及びそのようなマグネシアセメントを含む対応する耐火性材料、又は別個に供給される場合には本発明に従うその全ての構成成分は、コンクリート、懸濁液、自己流動型又はチキソトロピックキャスタブル、スリップキャスト成形、テープ成形、コーティング組成物、吹き付け材、ガンニング材、ラミング材、修復材、注入材、モルタル、及び接着又は連結剤などの耐火製品としての用途のために、又はこれらなどの耐火製品の作製のために、有利に使用することができる。そのような耐火製品は、特に一体型の裏張り、プレキャスト形状、プレハブ要素、機能性製品、耐火製品、炉用断熱製品、容器もしくは他の装置の製造のための、又は耐火物、鋼材、非鉄金属、セメント、ガラス、セラミック、電子、建築、若しくは他の産業分野などの様々な産業分野において使用される耐火若しくは防炎製品の製造のための産業用途において有用である。
【0056】
次の実施例及び比較例は、本発明をこれらの中に開示されている具体的な実施形態に限定することなしに本発明を更に詳しく説明する。
【実施例
【0057】
実施例1
主成分としての、Aと標識されたグレードの苛性マグネシアと、微粉砕溶融マグネシアとを含有するマグネシアセメントが開示される。苛性マグネシアAは、水酸化マグネシウムを760℃で焼成することによって得た。水酸化マグネシウムは、4.6m2/gのBET比表面積(BET S.S.A)を有しており、塩化マグネシウムの熱加水分解によって得たマグネシア粉末の水和によって工業的に製造した。微粒子状物質の比表面積を決定するためのBET(Brunauer-Emmett-Teller)法は当該技術分野で公知である。苛性マグネシアグレードAは、次の組成及び比表面積によって特徴付けられる:MgO 98.7重量%、CaO 0.3重量%、SiO2<0.1重量%、BET S.S.A=41.9m2/g。セメントは次の通りに構成される(表1):
【0058】
【表1】
【0059】
高性能減水剤は、当該技術分野で公知である。実施例の中で開示の実験用組成物のために、変性カルボン酸塩(Sika Schweiz AG)を使用した。
【0060】
実施例2
主成分が2つの苛性マグネシアグレードであるマグネシアセメントが開示される。760℃で焼成されたAと標識された1つのグレードは、実施例1と同じである。Bと標識された2つ目のグレードは、BET S.S.A=20.5m2/gであり、最大約1000℃の温度でフローテーション法の後に天然のマグネサイトを焼成することによって工業的に製造した。苛性マグネシアBは、次の組成によって特徴付けられる:MgO 98.1重量%、CaO 0.8重量%、SiO2 0.3重量%、Fe23 0.5重量%。セメントは表2に示されている通りに構成される:
【0061】
【表2】
【0062】
実施例3
主成分として耐火性マグネシアと苛性マグネシアグレードAとを含む微粉砕された耐火性材料が開示される。耐火性材料は、次の成分から本質的になる(表3):
【0063】
【表3】
【0064】
実施例4
主成分として耐火性マグネシアと苛性マグネシアグレードCとを含む微粉砕された耐火性材料が開示される。苛性マグネシアCは、苛性マグネシアグレードBを150℃で2時間オートクレーブにより水和した後、760℃で2回目の焼成を行うことにより得た。苛性マグネシアCのBET S.S.Aは72.0m2/gである。耐火性材料は、次の成分から本質的になる(表4):
【0065】
【表4】
【0066】
実施例5
主成分として耐火性マグネシアと苛性マグネシアグレードAとを含む、粗大/微細に粉砕された粒子状耐火性材料が開示される。耐火性材料は、表5に記載の成分から本質的になる:
【0067】
【表5】
【0068】
実施例6
主成分としてケイ砂と苛性マグネシアグレードAとを含む、粗大/微細に粉砕された粒子状耐火性材料が開示される。耐火性材料は、表6に記載の成分から本質的になる:
【0069】
【表6】
【0070】
実施例7
主成分としてアルミナ原料と苛性マグネシアグレードAとを含む、粗大/微細に粉砕された粒子状耐火性材料が開示される。アルミナ原料は、Almatis B.V.から供給された。耐火性材料は、表7に記載の成分から本質的になる:
【0071】
【表7】
【0072】
実施例8-比較例
比較例8は、カルボン酸と水和遅延剤がない苛性マグネシアのみに基づいたセメントの劣った特性を実証するために開示されている。
【0073】
【表8】
【0074】
次の比較例9及び10は、同様の最新技術のセメント系耐火性材料、すなわち独国特許第1471297号明細書に開示のもののいくつかの特性を、本発明の実施例5の耐火性材料と比較するために示されている。2つの比較例の中で使用したマグネシア微粉末は、重焼グレードであり、海水から製造した97.2%のMgOであった。これらの微粉末は、d50=15μmの平均粒径と、3075cm2/gのBlaine法によって決定される比表面積を有しており、独国特許第1471297号明細書で使用されているマグネシアとよく一致した。比較例9及び10の中のマグネシア骨材の組成は、実施例5のものと同様であった。比較例中のクエン酸は、乾燥成分との混合前に水の中に溶解させた。
【0075】
実施例9-比較例
【0076】
【表9】
【0077】
実施例10-比較例
【0078】
【表10】
【0079】
材料及び方法:
マグネシアセメント並びに実施例1~7で言及されている耐火性材料及び比較例のものの乾燥成分は、最初に乾式混合し、次いで周囲温度(すなわち約20~25℃の温度範囲)で表11に示されている量の水と併せて混合し、円筒形状に注型した。凝結時間は針貫入法によって測定した。12時間後に型から取り外したサンプルを周囲温度で48時間乾燥してからサンプルの冷間圧縮強さ(CCS)の決定及び150℃のオートクレーブ中での水和試験を行った。マグネシアセメント及び耐火性材料の水和試験後の亀裂が生じない挙動の時単位の時間は、表11に示されている。マグネシアセメントを含む耐火性材料のサンプルについても、150℃/hの平均加熱速度での1000℃までの加熱挙動を試験した。実施例3~5で言及されている耐火性材料のサンプル、すなわちPVAマイクロファイバーを含むサンプルは、加熱後に亀裂又はダメージを全く示さなかった。他方で、同じであるが繊維を含まない耐火性材料のサンプルは、深刻なダメージを受けた。
【0080】
実施例1~7及び比較例8~10に従って製造したサンプルを用いて行った試験の結果は、下の表11に記載されている。
【0081】
【表11】
【0082】
結論
実施例1及び2は、本発明のセメントを得るために、苛性マグネシア単独、又は苛性マグネシアと高度に焼成したマグネシア(例えば溶融マグネシア)の微粉末との混合物のいずれも使用できることを教示している。大きいBET S.S.Aが存在することを条件として、苛性マグネシアの両方の変形型(例えば760℃で焼成したもの、又は1000℃で焼成したもの)を、好ましくは組み合わせて、使用することができる。実施例1及び2のマグネシアセメントを比較例8のセメントと比較すると、カルボン酸及び水和遅延剤がないと性能が劣る結果になること、特には長すぎる凝結時間と多量の水が必要とされる点において劣ることが明らかになる。
【0083】
実施例3及び4で言及されている細かく粉砕された耐火性材料の唯一の相違は、異なる苛性マグネシアグレード、すなわちA及びCと標識されたグレードの使用である。760℃の同じ焼成温度にも関わらず、より大きいBET S.S.Aの苛性マグネシアCを有するセメントは、はるかに速い凝結時間を有している。この比較は、大きいBET S.S.Aのマグネシアが使用され、より長い凝結時間が必要とされる場合には、760℃より高い焼成温度が有利な場合があることを教示している。
【0084】
実施例5により粗大/微細に粉砕された耐火性材料は、様々な塩基性耐火製品のための、本発明により提供されるマグネシアセメントの適合性を示している。150℃でのオートクレーブ水和試験によって確認及び裏付けされているように、既に少ない量のセメントが、骨材と微粉末との強い結合を可能にし、満足できる水和に対する耐性及び亀裂が生じない加熱を保証する。
【0085】
実施例6は、非塩基性材料(この場合ケイ砂及び砂利)の結合も、本発明に従うマグネシアセメントを使用して実現できることを教示している。
【0086】
実施例7は、アルミナ系製品のための本発明のマグネシアセメントの実用上関連がある及び有用な用途を開示している。そのような低セメントスピネル形成キャスタブルは、ほぼ石灰を含まず、強く結合し、高い耐火性を有する。
【0087】
上述の全ての実施例中の粒径及び原料組成は最適化されていなかったことに留意すべきである。したがって、最適化された処方が使用される場合には一層優れた物理的特性及び化学的特性を期待することができる。
【0088】
比較例9及び10は、結合のもう1つの概念を実証すること、並びに、独国特許第1471297号明細書に開示されているセメント系耐火性材料に対する本発明のマグネシアセメント及び前記セメントを含む対応する耐火性材料の優位性を裏付けることに役立つ。
【0089】
独国特許第1471297号明細書に記載されているセメント系材料の結合は、トリカルボン酸又はその塩と共に、重焼、硬焼、又は中程度に焼成されたマグネシアを使用することが必要とされる。そのような概念の結果は、水硬性の結合、すなわちブルーサイトの形成が極端に遅延するほどに非常に遅く、クエン酸の塩による化学結合が優勢になることである。これは、比較例9で使用されている組成物の非常に長い凝結時間から推論することができる。そのような長い凝結時間は、高生産効率の操業のためには受け入れられない。
【0090】
独国特許第1471297号明細書とは異なり、実施例5の中で最もよく示されているように、適切な凝結時間を達成するために水硬性の結合だけでなく化学結合も確保するために、本発明による苛性マグネシアの使用は必須である。独国特許第1471297号明細書に開示され推奨されており比較例10で再現した、硫酸マグネシウムやフュームドシリカなどの追加的な結合剤のマグネシア耐火性材料への混和にもかかわらず、得られた組成物の凝結には長い時間がかかった。硫酸マグネシウム及びシリカフュームの塩基性耐火物に対する望ましくない副作用は先に既に述べた。同様に、本発明に従って作製されたマグネシアセメント又はその成分を含む耐火性材料(すなわち実施例5)と、独国特許第1471297号明細書によるセメント系耐火マグネシア材料(すなわち比較例10)の耐水和性の直接的な比較から、すぐに改良される変形形態においてでさえも、特にはオートクレーブ水和試験によって決定されるように、本発明の有意性は疑う余地はない。