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  • 特許-応力特異性の検出および除去 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】応力特異性の検出および除去
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20220112BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20220112BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20220112BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06F30/10
G06F30/20
G06F30/23
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018566241
(86)(22)【出願日】2017-06-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 US2017037951
(87)【国際公開番号】W WO2017218940
(87)【国際公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】62/351,751
(32)【優先日】2016-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】201621020795
(32)【優先日】2016-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】500430693
【氏名又は名称】ダッソー システムズ ソリッドワークス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー-リン ホアン
(72)【発明者】
【氏名】プラサド ニンマガッダ
(72)【発明者】
【氏名】スッビ レディ シルラ
(72)【発明者】
【氏名】ナンディシュ ダッティ
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/184495(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0095507(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101517193(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0015827(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/10
G06F 30/20
G06F 30/23
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元(3D)コンピュータ支援設計(CAD)モデルにおいて応力特異性を自動的に検出するためにコンピュータ実施方法であって、
応力特異性を受けやすい高応力電位領域を検出することであって、前記電位領域は、(i)前記電位領域中の他の複数の要素の応力値に対してより高い高応力値を有しおよび(ii)応力勾配の急激な変化を伴う複数の要素によって囲まれた、1つの要素を有する、該検出することと、
少なくとも高応力の前記電位領域中の前記3D CADモデルの有限要素メッシュを細分化することと、
前記細分化するステップの後、前記高応力値が収束したかどうかを決定することと、
前記高応力値が収束しなかったと決定した場合、高応力の前記電位領域が、1つまたは複数の応力特異性の要素を持つ領域であることをユーザに警告することと、
前記ユーザに前記応力特異性を取り除く方法を提案することと、
前記ユーザが前記3D CADモデル設計を修正して、前記応力特異性を取り除くことを可能にすることと
を備えたことを特徴とするコンピュータ実施方法。
【請求項2】
前記検出するステップは、複数の有限要素の分析を、前記複数の有限要素の他の有限要素の歪値に対してより高い歪値を有する有限要素に絞ることをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項3】
前記検出するステップは、前記3D CADモデル中の部品の局所領域を分析することをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項4】
前記3D CADモデルを分析して、幾何学形状が形成する鋭角の位置を突き止めることをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項5】
前記ユーザに警告することは、応力特異性の前記領域を視覚的に示すことを含むことを特徴とする請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項6】
前記ユーザに提案することは、鋭い角度の幾何学形状を取り除くこと、新しい幾何学的エンティティを作成すること、および負荷を変更することのうちのいずれか1つまたはその組み合わせの提案を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項7】
前記提案は、ツールチップおよび表のいずれか一方またはその組み合わせの形態を採ることを特徴とする請求項6に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項8】
有限要素解析プロセスとコンピュータ支援設計システムとを統合することと、
前記ユーザが前記応力特異性を取り除く方法の提案を選択すると前記3D CADモデルを自動的に変更することと
ことをさらに含む請求項1に記載のコンピュータ実施方法。
【請求項9】
コンピュータ支援設計システムであって、
三次元(3D)コンピュータ支援設計(CAD)モデルを保存するデータ記憶システムに動作可能に結合されたプロセッサと、
前記プロセッサに動作可能に結合されたデータ記憶メモリであって、
応力特異性を受けやすい高応力電位領域を検出し、前記電位領域は、(i)前記電位領域中の他の複数の要素の応力値に対してより高い高応力値を有しおよび(ii)応力勾配の急激な変化を伴う複数の要素によって囲まれた、1つの要素を有し、
少なくとも高応力の前記電位領域中の3D CADモデルの有限要素メッシュを細分化し、
前記細分化するステップの後、前記高応力値が収束したかどうかを決定し、
前記高応力値が収束しなかったと決定した場合、高応力の前記電位領域が、1つまたは複数の応力特異性の要素を持つ前記領域であることをユーザに警告し、
前記ユーザに前記応力特異性を取り除く方法を提案し、
前記ユーザが前記3D CADモデルの設計を修正して、前記応力特異性を取り除くことを可能にするように、前記プロセッサを構成する命令を備える、該データ記憶メモリと
を備えたことを特徴とするコンピュータ支援設計システム。
【請求項10】
複数の有限要素の分析を、前記複数の有限要素の他の有限要素の歪値に対してより高い歪値を有する有限要素に絞ることによって高応力の前記電位領域を検出するように、前記プロセッサを構成する命令をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載のコンピュータ支援設計システム。
【請求項11】
前記3D CADモデル中の部品の局所領域を分析することによって高応力の前記電位領域を検出するように、前記プロセッサを構成する命令をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載のコンピュータ支援設計システム。
【請求項12】
前記3D CADモデルを分析して、幾何学形状が形成する鋭角の位置を突き止めることによって高応力の前記電位領域を検出するように、前記プロセッサを構成する命令をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載のコンピュータ支援設計システム。
【請求項13】
高応力の前記電位領域を視覚的に示すように、前記プロセッサを構成する命令をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載のコンピュータ支援設計システム。
【請求項14】
鋭い角度の幾何学形状を取り除くこと、新しい幾何学的エンティティを作成すること、および負荷を変更して応力特異性を取り除くことのうちのいずれか1つまたはその組み合わせを前記ユーザに提案するように、前記プロセッサを構成する命令をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載のコンピュータ支援設計システム。
【請求項15】
ツールチップと表のうちの一方または両方が、応力特異性を取り除く方法を提案することを特徴とする請求項14に記載のコンピュータ支援設計システム。
【請求項16】
有限要素解析プロセスとコンピュータ支援設計プロセスとを統合し、
前記応力特異性を取り除く方法の提案を前記ユーザが選択すると前記3D CADモデルを自動的に変更するように、前記プロセッサを構成する命令をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載のコンピュータ支援設計システム。
【請求項17】
コンピュータに請求項1ないし8のいずれか1つに記載のコンピュータ実施方法を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項18】
請求項17記載のコンピュータプログラムを記録したことを特徴とする非一時的コンピュータ可読データ記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2016年6月17日出願の米国仮特許出願第62/351,751号の利益を主張し、米国特許法第119条または第365条に基づき、2016年6月17日出願の米国特許出願第201621020795号のインドへの優先権を主張する。上記出願の全体の教授は、参照することによって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェアは、ユーザが複雑な三次元(3D)モデルを構築し、操作することを可能にする。いくつかの異なるモデリング技法を使用して、3Dモデルを生成することができる。1つのこうした技法は、ソリッドモデリング技法であり、それは、トポロジカルなエンティティが対応する支持する幾何学的エンティティを有するトポロジカルな3Dモデルを提供する。
【0003】
設計技術者は、3Dモデルの物理的および美的態様を設計し、3Dモデリング技法に熟練している。設計技術者は、部品を作成し、部品を部分組立体または組立体に組み立てることができる。部分組立体はまた、他の部分組立体で構成されてもよい。組立体は、部品および部分組立体を用いて設計される。部品および部分組立体は、これ以降、一括して構成要素と呼ばれる。
【0004】
設計プロセスの間および3Dモデルが構築されると、技術者は、モデルの設計をシミュレーションして、設計された製品の実世界の性能を解析し評価する場合がある。こうしたシミュレーションは、エンジニアリングシミュレーションアプリケーションによって実行することができる。こうしたアプリケーションの例として、Dassault Systemes SolidWorks Corporation of Waltham,Massachusettsから入手可能なSOLIDWORKS(登録商標)Simulationがあり、それは、CADモデルデータを使用して、シミュレーションの研究をセットアップし実行する。シミュレーションは、有限要素解析(FEA)技法を含んでもよい。FEAは、製造用の製品の3D設計に関して内部負荷および外部負荷の下で歪および応力を決定する一助になりうる。
FEAプロセスは、3Dモデルを特色のある要素に細分し、それにより、問題の難易度を減らす目的を持ってメッシュを作成する。一般的な理解では、メッシュが細分化されればされるほど、結果は正確になる。これは、高応力領域においてメッシュを細分化するためのFEAにおける周知の自動的な方法である「アダプティブメッシュ」技術の基本的な概念である。
【0005】
しかし、応力特異性は、こうした収束の実行における一般的な困難である。応力特異性は、数値誤差がより小さいメッシュ要素と共に増加するとき、起こる。言い換えると、メッシュがいかに細分化されても、応力は真の解に収束しない。反対に、応力は発散してしまう。数学的な方法が原因のこの人工的な高応力は、シミュレーションFEA分析者(機械工学または関連分野でPh.Dを取得した多くの者)の間ではよく知られているが、FEAの知識が乏しいCADシステムのユーザは、どの結果が正確であるかおよびシミュレーションの結果が信用できるかについて困惑することが多い。CADシステムのベンダーは、顧客の質問に応答するため高度な教育およびFEAの知識を持った技術サポート社員を採用することが必要でありうる。さらに、応答を受けた後でよく、ユーザは、どのように応力特異性を取り除いて設計を確認するのに役立てるのかと質問する場合がある。
【0006】
本発明は、応力特異性および他の一般的なFEAの難点(例えば、材料、メッシュ、および応力集中など)を識別するツールを提供することによって、FEAに熟練していないユーザを支援する。さらに、本発明は、これらの難点を克服する手引きをユーザに提供する。時間の節約の利点および現在のCADシステムに対する強化が、応力特異性を識別し、それを扱うためより効率的な手段を提供することによって達成される。
【発明の概要】
【0007】
一般に、一態様では、本発明の実施形態は、電位領域中に高応力値を有する要素が、応力勾配の急激な変化を伴う周囲要素を有する、高応力の電位領域を自動的に検出するコンピュータ実施方法を特徴とする。本発明は、高応力の少なくとも電位領域において3D CADモデルの有限要素メッシュを細分化し、高応力値が収束するかどうかを判定する。ユーザは、1つまたは複数の応力特異性の要素を有する領域中の高応力の電位領域に対して警告され、応力特異性を取り除く方法に関する提案が、ユーザに成される。ユーザは、3D CADモデルの設計を修正して、応力特異性を取り除くことができる。
【0008】
他の実施形態では、データ記憶システムに動作可能に結合されたプロセッサおよびプロセッサに動作可能に結合されたデータ記憶メモリを有するコンピュータ支援設計(CAD)システムを含む。こうした実施形態では、データ記憶システムは三次元モデルを保存し、データ記憶メモリは、電位領域中に高応力値を有する要素が、応力値の急激な変化を伴う周囲要素を有する高応力の電位領域を検出し、少なくとも高応力の電位領域中の3D CADモデルの有限要素メッシュを細分化し、その細分化するステップの後、高応力値が収束しないことを決定するようにプロセッサを構成する命令を備える。命令はまた、高応力の電位領域は、応力特異性の1つまたは複数の要素を有する領域であるとユーザに警告し、応力特異性を取り除く方法をユーザに提案し、ユーザが3D CADモデルの設計を修正して応力特異性を取り除くことができるようプロセッサを構成する。
【0009】
さらに実施形態によっては、電位領域中に高応力値を有する要素が、応力値の急激な変化を伴う周囲要素を有する、高応力の電位領域を検出するための命令を含むコンピュータ可読データ記憶媒体を含む。3Dモデルの有限要素メッシュは、少なくとも高応力の電位領域を細分化される。メッシュを細分化した後、高応力値が収束したかどうかが判定される。ユーザは、高応力の電位領域が、1つまたは複数の応力特異性の要素を持つ領域であることに対して警告される。応力特異性を取り除く方法に関する提案がユーザになされ、ユーザは、3D CADモデルの設計を修正して、応力特異性を取り除くことができる。
【0010】
高応力の電位領域を検出するため、本発明の態様は、有限要素の分析を有限要素の別のものより高い歪値を有するこれらの有限要素に絞るかつ/または3D CADモデルの一部の局所領域を分析する。本発明の態様によっては、3Dモデルを分析して幾何学形状が形成する鋭角の場所を突き止めること、応力特異性の領域を視覚的に示すこと、およびユーザに鋭い角度の幾何学形状を取り除くことを提案すること、新しい幾何学的エンティティを作成すること、および負荷を変更して応力特異性を取り除くことを含む。ユーザへの提案は、ツールチップおよび表の一方または両方の形態を採ってもよい。さらに、本発明の実施形態は、有限要素解析プロセスとコンピュータ支援設計システムとを統合し、応力特異性を取り除く方法の提案をユーザが選択すると基礎をなす3D CADモデルを自動的に変更することができる。
【0011】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細については、添付の図面および以下の説明に記載される。本発明の他の特長、目的、および利点については、その説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
前述は、類似の参照文字が、異なる図に渡って同じ部品を指す、添付図面に図示する通り、本発明の例示の実施形態に関する、以下のより具体的な記載から明らかとなるであろう。図面は、必ずしも正確な縮尺ではなく、代わりに、本発明の実施形態を図示することに重点が置かれている。
図1A図1aは、コンピュータ支援設計(CAD)モデルおよび応力特異性を示す図である。
図1B図1bは、CADモデルおよび応力特異性を示す図である。
図1C図1cは、CADモデルおよび応力特異性を示す図である。
図1D図1dは、CADモデルおよび応力特異性を示す図である。
図2図2は、応力特異性を検出し取り除くためのステップを含む流れ図である。
図3図3は、応力特異性を受け易い領域を示す図である。
図4A図4aおよび4bは、結果の可視化を例示する。
図4B】同上。
図5図5aは、応力集中および応力特異性領域をユーザに通知するための表を示す図である。図5bは、応力特異性を取り除く支援をするために使用されるユーザインタフェースを示す図である。
図6図6は、本発明の実施形態が実装されうるコンピュータシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、応力特異性および材料、メッシュ、および応力集中など他の一般的な有限要素解析(FEA)の難点を自動的に検出し、識別する。応力が局所的に高い1つまたは複数の領域を検出した後、本発明は、応力特異性を取り除くために設定される3Dモデルおよびシミュレーションを提案し、自動的に調整する。さらに、本明細書に記載の発明の概念は、自己学習プロセスを提供して、ユーザの知識および経験を広げることである。
【0014】
図1a、1b、および1cを参照すると、応力特異性のいくつかの原因が、非限定的な例として図示されている。図1aは、稜角102の黄色および赤色で示される、応力特異性を引き起こす稜角102を有する3Dモデル100を示す。鋭くない角および鋭くない辺の領域(例えば、鋭くない角104および鋭くない辺106)は、緑色または青色で示される。
【0015】
図1bでは、3Dモデル110は鋭いカット112を含む。鋭いカット112は、赤色114で着色されたメッシュの領域内に応力特異性を引き起こしているが、鋭くない角116は、応力特異性を生じず、青色で着色されている。鋭くない角から赤色114で着色されたメッシュの領域まで、要素が緑色から青色、そして赤色に着色される方法で示されるように応力の段階的な変化が起こっている。
【0016】
図1cを参照すると、点負荷122、124によって引き起こされた応力特異性を有する3Dモデル120の図が示されている。さらに、応力特異性126、128の領域が赤色で示されている。図1cに明らかなことは、同じ点を共有する赤い要素の頂点と青い要素の頂点によって図示された青から赤い要素への劇的な変化である。
【0017】
図1dは、3Dモデル130の分離した局所領域132、134、136における応力を示す。局所領域132、134、136は、広い意味で、すなわち、フォン・ミーゼス色スペクトルに関する全体としての3Dモデル130およびその全体的な着色を考慮するとき、高応力の領域とは思えない。
【0018】
ここで本発明の一実施形態を示す図2を参照すると、応力を検出し取り除くプロセス200が示されている。第1のステップでは、高歪領域が突き止められる(ステップ202)。一般に、応力特異性は、高歪領域で発生する。これらの領域を突き止めるため、各要素を分析して、それぞれの要素が特異かどうか判定する(すなわち、メッシュが細分化されるとき、それぞれの要素に対する応力値が成長し、収束しない)。一般に特異要素に対して、歪値は、すべてのモデルに対する歪値のより高い側にある。しかし、特異の複数の領域が存在してもよく、歪は局地的に高いが、全体の最も高い値に比べると低い。
【0019】
本発明は、ユーザが個々のソリッド体または表面体の高歪領域の探索を狭くすることを可能にする。このように複数の体上の複数の特異を識別することができる。探索を狭くするため、かつこのように要求される処理量を減らすため、ユーザは、最も高い歪値(すなわち、ピーク歪)の割合を特定して、考慮に入れることができる。例えば、局地の最も高い歪値が0.80であった場合、ユーザは、プロセス200に歪値の最も高い30%を有する要素を考慮することだけを望み、0.56以上の歪値を有する有限要素だけが考慮される。そして、特定の有限要素のフォン・ミーゼス値が、メッシュ内の全ての有限要素に対して計算される。
【0020】
次のステップでは、応力ホットスポットの領域を識別する(ステップ204)。応力ホットスポットは、応力特異性と応力集中の両方を含みうるモデル内の高応力領域である。応力ホットスポットは、局所の応力ピークを見つけ、鋭角の幾何学形状および応力勾配の急激な変化を備える領域を見つけることによって決定される。応力集中領域は、悪いメッシュ、多彩に見える応力特異性(図1a~図1dに示すように)、またはその両方により視覚的に明らかでありうる。
【0021】
各要素に対するフォン・ミーゼス(Von Mises)応力値を計算した後、応力特異性を受け易い領域(例えば、鋭い辺、鋭いカット、および鋭い角)に位置する要素が、応力ホットスポットとして識別される。特異性に付加された高応力集中要素もまた、応力ホットスポットとして識別されてもよい。まず、ソリッド体または表面体の辺上に位置する有限要素が、ソリッド体または表面体の幾何学形状に基づいて、位置づけられる。次にこれらの辺それぞれの2つの隣接する面の間の角度が決定される。2つの隣接する面の間の角度が特定の値より小さい場合、これらの2つの面から生じる角は、鋭角と考えられる。そうでなければ、その角は、鋭角でないと考えられる。一実施形態では、鋭さを決定する角度の値は、デフォルトで90度以下になり、ユーザが修正してもよい。応力特異性を受け易い領域に位置する要素を識別することは、シミュレーションプロセスのCADシステムとの統合により可能であり、シミュレーションプロセスによって作成されたメッシュおよびCADシステムによって作成されたCADフィーチャー(feature)に基づいている。非限定的な例として、フィレット(fillet)または円形の面がメッシュ領域に存在する場合、そのメッシュ領域は応力特異性を受け易いと考えることはできない。
【0022】
次に、高応力勾配を持つ要素を識別する。応力勾配は、一有限要素から次へ、一連の要素にわたる応力の変化率である。応力特異性を受け易い領域(ステップ202で突き止める)と仮定すると、その領域の要素を選択し、選択された要素を囲む要素の2つの輪を識別する。
【0023】
ここで図3を参照すると、応力特異性300を受け易い領域が図示されている。要素A 302は、「B」で始まるラベルを持つ要素(例えば、B4、B5、およびB6の要素304)の第1の輪に囲まれている。要素の第1の輪は、文字「C」で始まる(例えば、Cの要素306)要素の第2の輪に囲まれている。応力勾配に近づけるために使用される第1および第2の応力比は、次のように計算される。
【0024】
応力比G1=Aにおける応力/Bにおける応力
応力比G2=Bにおける応力/Cにおける応力

要素A 302は、
G1/G2>Xの場合、特異と考えられる。式中Xは1.0より大きく、領域Aに近づくに連れ、応力が拡大することを示す。Xの典型的な値は、1.1~2.0の範囲である。
【0025】
一実施形態では、Xの値は、1.30に設定されるが、ユーザが変更してもよい。G1/G2>Xという条件が、要素Aおよび輪B、ならびに輪C内の要素を満たす場合、要素Aは、応力ホットスポットと考えられる。
図2に戻り参照すると、次のステップは応力特異性(ステップ208)の領域を識別する。このステップは、少なくとも応力ホットスポットの領域において、メッシュを細分化する。例えば、応力ホットスポットと仮定すると、プロセス200は問題のある辺を検出する。そして、高応力領域を突き止め(ステップ202)、応力ホットスポット(ステップ204)領域を識別するステップが繰り返される。これらのステップは、反復の最大数(ステップ206でテストされる)まで繰り返されてもよく、それぞれの反復に対して、現在と以前の反復の結果を比較する。領域がまだ発散している場合、これらは、応力特異性領域である。プロセス200の終わり(ステップ206)までのこの反復サイクルに対する基準は、反復の最大数および/または実行時間と組み合わされる、数%以内に収束される最大歪に対して設定される。基準は、デフォルトまたはユーザの好みに設定されてもよく、非限定的な例として、反復サイクルを完了する時間の長さにより決定されてもよい。
【0026】
反復サイクルの後、ホットスポットにある問題のあるエンティティの(例えば、問題のある辺および頂点エンティティ)最も高いフォン・ミーゼス応力が保存される。この情報を使用して、すべての問題のあるエンティティに沿った全ての反復にわたる応力変動が、評価される。応力の発散または収束の性質に基づいて、プロセス200は、それぞれの問題のあるエンティティに対する応力特異性の存在を確認する。問題のあるエンティティのいずれかに属する要素が応力の収束する動きを見せる場合、全ての反復の後で、これらの要素は、高応力集中領域として扱われる。
【0027】
次のステップでは、視覚フィードバックがユーザに与えられて、応力特異性の領域に対してユーザに警告する(ステップ210)。視覚フィードバックは、対比色で応力特異性の領域を示す形態を採ることができる。(図4aおよび4bを参照、それは、特異要素または領域に値を分離することにより、結果を視覚化している)視覚フィードバックは、非限定的な例として、応力特異性の領域を除いて、3Dモデルを半透明にする形態を採ってもよい。一実施形態では、ユーザが応力特異性の領域を指しているとき、ツールチップが現れ、どのように領域を修正して、応力特異性を取り除くことが必要かを提案することができる。その上、表をユーザインタフェース内に表示することができる。表は、問題のある辺および頂点のリスト、ならびに応力特異性を問題のある辺の領域内で取り除くことができる方法に関する提案を表示することができる。非限定的な例として、提案は幾何学形状を変える、または負荷を変えることであってもよい。提案は、ある角度の半径を有する辺にフィレットするまたは辺を面取りすることであってもよい。
【0028】
一実施形態では、チェックボックスが、各提案のそばに現れる。ユーザが提案に同意した場合、チェックボックスを選択してその選択を確認した後で、本発明は、自動的に応力特異性を取り除く。有限要素解析プロセスは、コンピュータ支援設計システムと統合されているので、これが可能である。このように、設計反復は、FEAの結果により簡単に変更を含むことができる。
【0029】
ここで図5aを参照すると、本発明の実施形態の表500の図が示されている。表500中のカラムは、応力特異性を持つとして検出された問題のある辺および頂点のリストを表示する。辺および頂点は、組立体モデルの中の3つの部品、すなわち、部品1、部品2、部品3に属する。検出された領域502と題されたカラムにリストされた辺および頂点は、関連する領域の問題のあるエンティティである。応力集中504と題されたカラムにチェックがついた領域は、図2のステップ204の終わりに特定される。細分化1および細分化2と題するカラム506、508は、図2を参照して、ステップ202、204、206について以前論じられた、メッシュを細分化する反復に関連するデータを含む。細分化2のカラム508は、最後の細分化の結果を表し、表500でチェックの付いた領域、すなわち、(i)部品2辺2/負荷1、(ii)部品3、辺1、および(iii)部品3、頂点1が、プロセス200により検出された組立体モデル内の応力特異性の領域であることを示す。視覚フィードバック用に、ユーザは特定のカラムを選択することができ、呼応して、3Dモデルの対応する領域が、コンピュータ画面上でハイライトされる。
【0030】
ここで図5bを参照すると、本発明の実施形態のユーザインタフェース510の図が示されている。ユーザインタフェース510は、表500に示された組立体モデル内の応力特異性をユーザが除去することを支援できる。カラム512の細分化2に示された領域は、図5aのカラム508の細分化2でチェックされた領域に対応する。カラム514の調整することを選択(Select to Adjust)は、どの領域を本発明が自動的に調整するかをユーザが示すことができるようにする。図5bに示すように、2つの領域、すなわち、部品2辺2/負荷1および部品3、辺1が選択される。第3のカラム516のユーザインタフェース(UI)スライダは、本発明が組立体モデルの設計に加えることを提案したもので、ユーザがフィレットの半径を調整することができる。フィレットの初期の値もまた、本発明により提案されている。UIスライダの値は、第4のカラム518に表示されている。さらに、ユーザは、第4のカラム518の値を直接入力して、フィレットの半径を設定することができる。ユーザインタフェース510の第5および第6のカラムの選択アイコンにより、ユーザはフィレットの特定の特性および特定の領域の負荷(例えば、コーナーフィレット、接線伝播、方向性負荷)を設定できる。最後に、ユーザは、ランボタン520を選択して、ユーザインタフェース510に明記されるように3D組立体モデルを変更するように本発明を方向づけることができる。
【0031】
図6は、CPU602、コンピュータのモニタ604、キーボード入力装置606、マウス入力装置608、および記憶装置610を含むコンピュータ化されたモデリングシステム600を示す。CPU602、コンピュータのモニタ604、キーボード606、マウス608、および記憶装置610は、一般に入手可能なコンピュータハードウェア装置を含んでもよい。例えば、CPU602は、インテルベースのプロセッサを含んでもよい。マウス608は、設計技術者が押下して、CPU602によって実行されるソフトウェアプログラムにコマンドを発行することができる従来の左ボタンおよび右ボタンを有してもよい。マウス608の代替で、または追加で、コンピュータ化されたモデリングシステム600は、トラックボール、タッチセンス式パッド、またはキーボード606に組み込まれたポインティング装置およびボタンなどのポインティング装置を含んでもよい。同業者であれば、マウス装置に関連して本明細に説明したものと同じ結果が、別の入手可能なポインティング装置を使用して得られることを理解するであろう。以下の議論から明らかになるように、他の適切なコンピュータハードウェアのプラットフォームが好適である。こうしたコンピュータハードウェアのプラットフォームは、Microsoft Windows(登録商標)7またはWindows(登録商標)10、UNIX(登録商標)、Linux(登録商標)、またはMAC OSオペレーティングシステムを動作させることができることが好ましい。
【0032】
さらなるコンピュータプロセシングユニットおよびハードウェア装置(例えば、ラピッドプロトタイプ装置、ビデオ、およびプリンタ装置)が、コンピュータ化されたモデリングシステム600に含まれてもよい。さらに、コンピュータ化されたモデリングシステム600は、ネットワークハードウェアおよびソフトウェアを含んでもよく、それによりハードウェアプラットフォーム612への通信を可能にし、他のコンピュータ構成要素の中でも、CPUおよび記憶システムを含む多数のコンピュータシステム間の通信を容易にする。
【0033】
コンピュータ支援モデリングソフトウェア(例えば、プロセス200)は、記憶装置610に保存され、CPU602に読み込まれ、CPU602に実行されてもよい。モデリングソフトウェアは、設計技術者が3Dモデルを作成し修正することを可能にし、本明細書に記載の本発明の態様を実施する。CPU602は、コンピュータのモニタ604を使用して、3Dモデルおよび上述の他の態様を表示する。キーボード606およびマウス608を使用して、設計技術者は、3Dモデルに関連するデータを入力し、修正することができる。CPU602は、キーボード606およびマウス608からの入力を受け付け、処理する。CPU602は、3Dモデルに関連するデータと共に入力を処理し、モデリングソフトウェアによって命令された通りコンピュータのモニタ604に表示される対応する適切な変更を行う。一実施形態では、モデリングソフトウェアは、1つまたは複数のソリッドおよびサーフェス体から構成される3Dモデルを構築するために使用することができるソリッドモデリングシステムに基づいている。
【0034】
本発明の実施形態は、デジタル電子回路、あるいはコンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、またはその組み合わせで実施されてもよい。装置は、プログラム可能プロセッサにより実行するため機械可読記憶装置内で有形に具現化されたコンピュータプログラム製品に実装されてもよく、方法のステップは、命令プログラムを実行するプログラム可能プロセッサによって実施されて、入力データで動作し、出力を生成することにより機能を実施してもよい。本発明の実施形態は、データ記憶システム、少なくとも1つの入力装置、および少なくとも1つの出力装置からデータおよび命令を受け取り、データ記憶システム、少なくとも1つの入力装置、および少なくとも1つの出力装置へデータおよび命令を伝送するように結合された少なくとも1つのプログラム可能プロセッサを含むプログラム可能システム上で実行可能な1つまたは複数のコンピュータプログラムで実施することができるので有利である。各コンピュータプログラムは、高水準の手続き型言語またはオブジェクト指向プログラミング言語で、あるいは所望であれば組立体言語または機械言語で実装されてもよい。いずれにしても、言語は、コンパイラ言語またはインタープリタ言語であってもよい。適切なプロセッサは、非限定的な例として、汎用および専用マイクロプロセッサの両方を含む。一般に、プロセッサは、命令およびデータを読み出し専用メモリおよび/またはランダムアクセスメモリから受け取り、実施形態によっては、命令およびデータをグローバルネットワークを介してダウンロードすることができる。有形に具現化するコンピュータプログラム命令およびデータのための好適な記憶装置は、例として、EPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリ装置などの半導体メモリ装置、内部ハードディスクおよびリムーバブルディスクなどの磁気ディスク、光磁気ディスク、およびCD-ROMディスクを含む全ての非揮発性メモリの形態を含む。上述のいずれも、カスタム設計されたASIC(特定用途向け集積回路)によって補完されても、またはこれに組み入れられてもよい。
【0035】
本明細書に記載された本発明の実施形態またはその態様は、ハードウェア、ファームウェア、またはソフトウェアの形態で実施することができる。ソフトウェアで実施された場合、そのソフトウェアは、プロセッサがソフトウェアまたはその命令のサブセットをロードできるように構成される任意の非一時的コンピュータ可読媒体に保存されてもよい。そして、そのプロセッサは命令を実行して、本明細書に記載された方法で作動するまたは装置を動作させるよう構成される。
【0036】
本明細書に開示された実施形態は、応力特異性を検出し取り除くための自動処理を可能にする。手動処理は、教育および経験の高度なまたは熟練した水準にあるユーザを必要とする場合が多い。さらに、手動処理は、非常に時間がかかり、退屈で、幾何学的エンティティに関する問題により、例えば、1群の要素、および/または複数の細分化したメッシュ反復における様々な数値結果の追跡を続けることが困難でありうる。結局、ユーザがあきらめる可能性がある。
【0037】
本発明により提供された他の利点は、局所領域および関心の領域を処理することを含み、高歪、応力集中、および応力特異性に共通の問題点が、検出される。さらに、シミュレーションパラメータが微調整される。例えば、メッシュの第1の細分化では、最も高い歪は、100であってもよく、上部30%を見ると70~100の値であり、メッシュの第2細分化では、最も高い歪値は、例え収束があっても、異なる可能性がある。
【0038】
本発明は、応力特異性の検出および除去を通してユーザを手引する教育ツールであるので重要である。製造用の製品のモデルの材料、メッシュ、および応力集中の困難さを克服することにおいてユーザを支援する。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態が説明されてきた。それにもかかわらず、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正がなされてもよいことは、理解されよう。例えば、本発明の実施形態では、操作が実行される順序を変更してもよい。さらに、実施の必要に応じて、本明細書に記載の特定の操作が組み合わされた、排除された、追加された、またはその他の方法で再配置された操作として実施されてもよい。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6