(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】河川流域に関する水文解析および管理のためのプロセスおよびシステム
(51)【国際特許分類】
E03F 1/00 20060101AFI20220112BHJP
G06Q 50/26 20120101ALI20220112BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
E03F1/00 Z
G06Q50/26
G01W1/00 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019025512
(22)【出願日】2019-02-15
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 20180100382
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519053832
【氏名又は名称】エンリケ・メノッティ・ペスカルモーナ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エンリケ・メノッティ・ペスカルモーナ
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-180109(JP,A)
【文献】特開2015-004245(JP,A)
【文献】特表2013-517547(JP,A)
【文献】特開2011-154029(JP,A)
【文献】特表2007-524170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00
G06Q 50/26
G01W 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより実施される河川流域のための水文解析および管理プロセスであって、以下の段階:
流域全体に予め設置され、分散された測候所を通じてデータを測定し、履歴データを調査する段階であって、前記測候所が、センサおよびデータ獲得の手段、ならびにデータ獲得センターおよびデータベースにオンラインでデータを送信することができる送信システムを備える、段階と、
前記測候所によって前処理され、収集されたデータ、および過去の現象に関する人工ニューラルネットワークの独自の予測に応じて予測を生成するように訓練された動的なニューラルネットワークを含む予測モジュールによって気象現象に対する前記流域の挙動を予測する段階と、
収集された情報に基づいて前記気象現象の影響を最小化するための緩和戦略を生成し、提供する段階と
を含み、そのような戦略の作成が、
評価対象の地域内に存在する洪水予報および水位の情報に基づいて前記地域をセルに分割する地理情報システムによってデータを評価すること、
評価対象の地域の社会経済的情報によって決定された重ねられた層
によって前記現象を分析することであって、前記重ねられた層の各々
は、社会経済的特性に関連する異なる発生重み付け値を有する
、分析すること、
MCDAベクトル最適化アルゴリズムを用いるAI支援型意思決定モジュールによって、前記流域に対する社会経済的影響を最小化する
単一の層を取得することであって、前記単一の層は、分析された残りの層の重なりから導出された水位を有する
、取得すること、ならびに
選択された保護基準に従って洪水を制御するために放水されるべき水量および
流出の方向を設定する特定の期間内に要求される状態を前記流域が実現するために必要とされる水門およびポンプの動作をシミュレーションすること
をともない、
前記緩和戦略の前記提供が、
動作報告を準備し、前記動作報告を、排水制御のために利用可能な前記水門およびポンプ場の駆動が指示され、実行される制御室にオンラインで送信すること
を含むことを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
測定し、前記履歴データを調査する前記段階が、雨量計、蒸発散計、風速センサ、環境および土壌湿度センサ、温度センサ、河川および小川の中の流量計、池、貯水池、河川、および小川の水位、ならびに測候所(1)に設置された浸透および透過センサによって実施されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
測定し、前記履歴データを調査する前記段階が、分水地点全体の状態を見ることを可能にする衛星画像を処理することであって、好ましくは、前記衛星画像が、SAR(合成開口レーダー)画像またはRGBおよびマルチスペクトル画像から選択される、処理することを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
気象現象に応じた前記流域の前記挙動を予測する前記段階が、連続して起こるまたは時間と共に変わり得るパターンを学習するために前記予測モジュールの動的なニューラルネットワークを訓練する前段階を含み、前記ニューラルネットワークが、少なくとも1つのメモリおよび1つのアソシエータを含むことを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
気象現象に応じた前記流域の挙動を予測する前記段階が、前記予測モジュールによって洪水予報付きの流域マップを発行し、その後、地形データを使用して研究対象の前記流域のハイドログラフを計算する段階と、計算された流れを確認し、将来の予測を改善するために予測モデルおよび前記ネットワークを恒久的に更新するために、重要な地域内に流れの測定点を有する系列全体にデータ供給する段階とを含むことを特徴とする、請求項1または4に記載のプロセス。
【請求項6】
緩和戦略を生成し、提供する前記段階が、
評価対象の地域内に存在する前記洪水予報および水位の前記情報に基づいて前記地域をセルに分割する地理情報システムによってデータを評価することと、
評価対象の地域の社会経済的情報によって決定された重ねられた層
によって前記現象を分析することであって、前記重ねられた層の各々
は、社会経済的特性に関連する異なる発生重み付け値を有する
、分析することと、
MCDAベクトル最適化アルゴリズムを用いるAI支援型意思決定モジュールによって前記流域に対する前記社会経済的影響を最小化する
単一の層を実現することであって、前記単一の層は、残りの分析された層の前記重なりから導出された水位を有する
、実現することと、
選択された保護基準に基づいて洪水を制御するために放水されるべき水量および
流出の方向を決定する特定の期間内に前記要求される状態を前記流域が実現するために必要とされる水門およびポンプの前記動作をシミュレーションすることと
を含み、
前記緩和戦略の供給が、
前記動作報告を準備し、前記動作報告を、排水制御のために利用可能な前記水門および前記ポンプ場の前記駆動が指示され、実行される制御室へオンラインで送信すること
を含むことを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
緩和戦略を生成し、提供する前記段階が、評価地域が細分化される各研究セルにおける水の流入量、流出量、および貯水量に起因する物質収支を分析する段階をさらに含み、
前記セルの各々の領域が、次の式:
【数1】
を使用して解かれ、式中、
【数2】
が、前記システムの適合された細分化に対応するセル番号であり、
【数3】
が、各セル
【数4】
における流入量であり、
【数5】
が、各セル
【数6】
における流出量であり、
【数7】
が、各セル
【数8】
における貯水量または保持される量である
ことを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
水の前記流入量が、次の式:
【数9】
を使用して計算され、式中、
【数10】
が、降水が原因である流入量であり、
【数11】
が、研究対象のセルに隣接するセル
【数12】
から流入する、研究セル
【数13】
に入る表面上の量であり、
【数14】
が、研究対象のセルに隣接するセル
【数15】
から流入する、研究セル
【数16】
に入る地下水流の水である
ことを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
各セルの前記流出量
【数17】
が、垂直方向の流出量と水平方向の流出量との両方から生じ、前記垂直方向の量が、太陽放射および温度が原因である液体表面の蒸発、蒸発散、ならびに浸透に起因する量である一方で、前記水平方向の量が、天然のまたは人工的な水路を通じて隣接するセルに向けられ得る、特定の期間内の流出量によって決定されることを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
利用可能な水文リソースの管理が、低速発電機および流れ込み式タービンなどの先進的なコンバータシステムを使用して発電することを可能にすることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセスを実行するための、河川流域のための分析および水文管理システムであって、
データを獲得するように構成された、前記流域全体に分散された複数の測候所、ならびに獲得およびデータベースセンタと通信するように構成された衛星オンラインデータ送信システムと、
過去に収集された前処理されたデータによって、あり得る洪水が起こる地域についての予測を生成するように訓練された動的な人工ニューラルネットワークを含む予測モジュールであって、前記予測が、流域マップとして作成される、予測モジュールと、
評価コンピュータデバイスであって、
前記予測モジュールによって生成された前記マップを受信すること、
評価地域をセルに分割することであって、各セルが、評価対象の各地域における水位に関する情報を含む、分割すること、
社会経済的特性に関連する異なる発生重み付け値を有する重ねられた層として現象を分析することであって、前記重ねられた層の各々が、
評価対象の地域の社会経済的情報によって決定される、分析すること
を行うように構成された、評価コンピュータデバイスと、
MCDAベクトル最適化アルゴリズムを用いるAI支援型意思決定モジュールであって、
前記流域に対する社会経済的影響を最小化する前記洪水が起こる地域を発見し、
前記流域に対する社会経済的影響を最小化する単一の層を定義し、前記単一の層は、入力層の残りの重なりから導出された水位を
有し、
過去に定義された期間内に要求される状態を前記流域が実現するために必要とされる水門およびポンプの動作をシミュレートする
ように構成された、AI支援型意思決定モジュールと、
すべての情報をオンラインで利用され得るようにし、動作報告を生成し、排水制御のために利用可能な水門およびポンプ場の動作を実行し、指示するように構成された通信システムサーバおよびコンピュータと、
前記流域全体に分散された複数の水門およびポンプ場と
を含む、分析および水文管理システム。
【請求項12】
前記流域全体に分散された前記測候所が、少なくとも、雨量計、蒸発散計、風速センサ、環境および土壌湿度センサ、温度センサ、河床および河川の中の流量計、池、貯水池、河床、および河川の水位センサ、ならびに浸透および透過センサを含むことを特徴とする、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記予測モジュールが、メモリおよびアソシエータを含み、前記メモリが、タップ付き遅延線(TDL)を構成し、予測を改善するために使用される過去の関連する情報を記憶するシフトレジスタユニットによって生成され、一方、前記アソシエータが、パーセプトロン型多層ネットワークであり得ることを特徴とする、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記多層ネットワークの各層が、前記層に入るシナプス荷重行列の少なくとも1つの組、前記荷重行列を関連するTDLおよび入力と組み合わせるために使用される重み付けされた関数に関する関連付け規則、前記ネットワークへの前記入力を生成するために重み付けされた関数出力をバイアスベクトルと組み合わせるために使用されるネットワーク入力関数に関する規則、ならびに伝達関数を含むことを特徴とする、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記予測モジュールが、多変数モデルによって訓練されるように構成されることを特徴とする、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記AI支援型意思決定モジュールが、マルチタスク分散型コンピューティングセンタを含むことを特徴とする、請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測候所のネットワークと、水門およびポンプ場によって天然の貯水池および人工の貯水池を管理する人工的な排水システムとを用いる、人工知能(AI)を使用する河川流域、すなわち、分水地点(watershed)に関する水文解析および管理のためのプロセスおよびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
分水地点、すなわち、流域の水文解析のための既存の基本的なシステムは、古典的な計算技術によって手動で予測を行うために収集され、処理される大気データ、雨量計、湿度検出器などによる降水測定、流出(runoff)、温度、太陽放射測定などの分析結果によって動作する。データ収集は、気象データと水文データとを分ける傾向がある、様々な行政機関および民間団体によって実行される。しかし、米国の場合のように、気象データであるかまたは水文データであるかに関わらず、単一の団体があらゆる測定データを記録する場合がある。
【0003】
これらの知られているシステムは、通常は以下で説明されるように、気象学的な予測および分水地点のステータスの予測を行う数学的モデルに基づく。
【0004】
現行のテクノロジーによる、測候所のネットワークのための分水地点水文解析システムは、計算モデル、特に、分析されるべき気象モデルおよび流域モデルを使用する。
【0005】
概して、この1組のモデルは、洪水現象の3つの主なプロセス、すなわち、降水、浸透、および表面流出をシミュレーションし、浸水地域、河床の洪水水位(flood level)、保持されるおよび放水される量、ならびにその他の重要なデータに関する情報を短時間に得る。この現在のテクノロジーは、情報を受け取るのみであり、存在する問題を改善しない。つまり、この現在のテクノロジーは、水流を制御せず、提言を生み出すかまたは従うべき行為もしくはステップを調整することもない。
【0006】
気象モデルは、各雨量計によって記録されたデータから流域の副流域(sub-basin)の各々に降る降水を推定し、外挿するために必要である。気象情報は、2つの主な情報源、すなわち、時間増分における累積的な水量を報告する雨量計と、気象レーダーの出力とを有する。両方の情報源は、信頼できるハイドログラフ出力を得るために現場で手動により較正され、調整されなければならない。
【0007】
知られている気象モデルは、決められた地域をカバーする雨量計の相対的な配置を使用してそのような地域の降水を評価する。これらの地域は、ティーセン多角形(Thiessen Polygon) (2つの連続する雨量計の間の距離の半分とした各雨量計の範囲)と呼ばれる。
【0008】
一方、等雨量線法(isohyets method)は、等しい降水レベルの線を決定する。
【0009】
両方の結果を用いて、これらの知られているモデルは、標準的な手順および通常の提言に従って降水レベル、経時的な降水分布、および特定の地域の降水分布を計算する。それらは、気象現象に関する情報を提供するが、問題はやはり解決し得ない。
【0010】
一方、流域モデル自体は、排水面(drainage surface)の外形、異なる副水域の間の既存のつながり、および各副水域の形態的特徴を含む。この知られている分水地点モデルは、選ばれた計算方法およびそれらの関連する水理パラメータ(hydraulic parameter)も含む。
【0011】
流出は、表面流出を浸透が原因である地下水の流れと区別することを可能にする土壌保全サービス(SCS: Soil Conservation Service)法を使用して各副流域において計算される。浸透は、土地の特徴、吸収される水の量、植生の種類などによって変わる変数である。そのような変化は、地球物理学的特徴を知ることを必要とする。
【0012】
副流域のハイドログラフは、表面流出から得られる。各副流域は、土地による水の吸収の0%から100%までの間の百分率であるCN (流出曲線番号(Runoff Curve Number))によって較正される降水対流出比を有する。また、CNは、降水前の湿度条件に依存する。土地の勾配および地面の多孔性(porosity)に依存する地下水の流れからの水平方向の寄与(horizontal contribution)もある。
【0013】
蒸発および蒸発散は、アウトフロー変数である。前者は、貯水池または浸水地域において起こる蒸発の単位時間あたりの水の量をミリメートルで測定する。前者は、蒸発計を用いて記録所によって測定される。後者は、その代わりに、植生または作物の種類に依存し、これは、あふれる水の永続時間(permanence time)を減らすためにこの水収支(water balance)において重要な方針である可能性がある。
【0014】
そして、副流域の表面から河床および小川までのハイドログラフだけでなく、流出が推定される。各副流域の寄与を足して、河床および貯水池への流れが、広く受け入れられた計算方法および業界の規範を使用して計算され得る。
【0015】
起こり得るアウトフローも、計算され得る。これは、通常、マニング係数(マニング係数は、土地の粗度/植生に依存し、舗装された(lined)開水路に関する0.013から最大で植生のある開水路に関する0.045までの間の値を取る)と逆の関係にあり、(面と潤辺長(wet perimeter)との間の比として計算される)開水路の径深(hydraulic radius)の平方根および水路の勾配に正比例するシェジー/マニングなどの式に基づくモデルを使用する知られているシステムにおいて実行される。
【0016】
【0017】
式中、
C=シェジーの粗度係数(Chezy Roughness Coefficient)
【0018】
【0019】
R=径深[m]
n=マニングの粗度
【0020】
【0021】
である。
【0022】
【0023】
シェジーの式によって計算された粗度を代入することによって、マニングの式が得られる。
【0024】
【0025】
式中、
Q=排出(discharge)[m3/s]
A=面積[m2]
S=斜面の摩擦[m/m]
である。
【0026】
従来技術の分析システムにおいて使用される別の変数は、土地の浸潤(seepage)である自然の垂直なアウトフローである。これは、土地の種類と、地下水位(phreatic level)によって与えられるその土地の飽和レベルとに依存する。PULS法が使用され、MUSKINGUM法は、各ダムおよび貯水池のインフローおよびアウトフローにおけるハイドログラフ、余剰な流れ(surplus flow)、各貯水池の最高水位、余剰な流れの仕事の大きさ(dimensions of surplus flow works)、ならびに最高異常水位(maximum extraordinary water level)の決定を関連付ける。これを行うためには、貯水容量および面積対貯水量(reserved volume)比が決定され得るように、貯水池の底の形だけでなく天然の河床および人工的な水路の形が、知られるべきである。したがって、これらのテクノロジーのシステムは、主に、過去に獲得されたデータの信頼性に依存する。
【0027】
現在のモデルの各部には、決まった係数と、湿度、土壌湿度、作物の変化が原因である蒸発散の変化、太陽放射などの経時的に変わるその他の変数とがある。モデルは、これらの変数を用いて設定されてきた。これらの変数の一部は、直接的なまたは間接的な測定値である。多くの河床および貯水池を有する現在の分水地点モデルは、モデルの離散化(discretization)のサイズに応じて数百のパラメータを持つ可能性がある。
【0028】
水文解析のより古いシステムのよくある態様は、それらのシステムが制御室を必要とすることである。この制御室においては、水量および洪水調節を達成するために余剰な量がどこに導かれるべきかなどの何らかのデータが知られているが、必要とされる行為を実行することはできず、結果として、問題は未解決のままになる。
【0029】
現在、利用可能なツールは、関連する緩和戦略を持たない控え目な予報を生成する。それらのツールは、社会経済的影響の解決に介入することなく水文学的問題に関する警告を発する。これらの警告は、利害関係者に配信され、解決策は、対応する分水地点において利用可能なリソースを最適化することなく孤立して実施される。同様に、受け取られる予報に関連するいかなるインテリジェンスも持たない水管理システムが存在する。概して、これらの多くの学問分野にわたる問題に対処する統合システムの実装は、重大な意思決定の用意ができているかなりの数のよく訓練された人員を必要とする。
【0030】
米国特許第9,726,982(B2)号は、洪水現象への対応を生成するための方法、システム、およびソフトウェアストレージデバイスを実装することによって同様の問題を解決しようとする。この文献は、2つの総合的なサブシステムの実装を開示する。第1のサブシステムは、気象情報および地上局データからのフィードバックによって水文気象学的な洪水予測を生成するためにコンピュータに実装される。第2のサブシステムは、意思決定をサポートするために使用される。第2のサブシステムは、提言および過去のサブシステムからの測定の品質に関するフィードバックをともなう報告を生成する。例として、発明は、検出され、確認された洪水現象のために使用される手順を説明する。システムは、以下の点を報告し、実行することができる。
すなわち、
a)リソースの場所
b)洪水が起きた場合の推奨される行為のリストを作成するための意思決定サポートサブシステムからの情報の処理
c)洪水に関わるあらゆる行為主体への提言メッセージの伝達、住民の避難、輸送経路の確保、緊急援助物資の確保、影響を受けるインフラストラクチャの分離、重要な場所への適格な人員および機器の派遣を含む行為リストの、洪水に応じた提供。
d)実行された行為および現象の進行の継続的な伝達。
【0031】
しかし、この米国特許第9,726,982(B2)号は、水文気象学的な現象の推定値およびハイドログラフがどのようにして計算され、評価されるのかを説明しない。したがって、使用される方法は、より大きな誤りを有する可能性がある。さらに、米国特許第9,726,982(B2)号は、調節池(mitigation reservoir)の制御と、洪水が起こりやすい地域、より高い生産性の区画、重要な地域などの分水地点の統合的な計画との統合を含まない。その目的のために、米国特許第9,726,982(B2)号は、浸水地域、水量、土壌の質および植生情報などを推定するために航空機によるまたは衛星による撮像を用いない。
【0032】
まとめると、従来技術は、予測に関するフィードバックを提供し、現象の推定および水文モデルを動的に調整するために使用される可能性がある自動化された学習のツールを用いてオンラインで動作する可能性があるインテリジェントなシステムであって、システムの継続的な学習が、問題を迅速に解決し、実施の地域内の住民の状況を改善するためにシステムの継続的な使用次第で将来の現象の意思決定を強化する可能性がある、インテリジェントなシステムをまだ提供していない。
【0033】
加えて、従来技術は、航空画像および衛星画像ならびにレーダーを使用して浸水地域、水量、土壌の質、および植生情報を推定する水文解析および管理のシステムをまだ提供しておらず、電動ポンプおよびポンプタービンによる分散され、最適化された方法で人工の貯水池を利用する統合的な計画の中での潜在的なエネルギー生成を理解するインテリジェントなシステムもまだ提供していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明は、気象観測ネットワークと、水門およびポンプ場による天然のおよび人工の貯水池の管理を用いる人工的な排水システムとを有する分水地点のための水文解析および管理システムおよびプロセスであって、各地域の潜在的な水文学的リスクが、評価され、将来の降水の結果が、人工知能システムを使用して実行されるシミュレーションを使用して前もって分析され、目下の流域内の各副流域、小川、および河床に関するハイドログラフが、各シミュレーションのために計算され、その後、水門および/またはポンプの動作の異なる管理に対応する異なる筋書きの下での流域の挙動が、シミュレーションされ、結果が、浸水地域が原因である表面損失(surface loss)、各セクタに関する経済的損失、都市地域の洪水が原因である損失などと比較され、人工知能(メタヒューリスティックアルゴリズム、ニューラルネットワークなど)によるシミュレーションの最適化が、最良の可能な解決策と、水文学的現象に直面する分水地点内の社会経済的影響の最小化を可能にするリソース管理の最良の構成とを探すための検索エンジンになる、水文解析および管理システムおよびプロセスを提供することによって従来技術の欠点を解決することを目的とする。
【0036】
本発明の別の目的は、システムが分割される各研究セル(study cell)においてそのような量を保持することを可能にする流入量および流出量によって生み出される物質収支を解決が含む水文解析および管理システムであって、前記水量が、すべての情報が迅速に得られ、オンラインで利用可能であり、排水制御のための水門の開閉および利用可能なポンプ場の動作が整然と指示され得る制御室および意思決定プロセスによって選択された保護基準に従って洪水調整を実現するために特定の送り先に導かれ得る、水文解析および管理システムを供給することである。
【0037】
本発明の別の目的は、分水地点に関して、村および町、最も生産的な地域、最良の土壌、および戦略的な場所を守るために人工知能を使用して戦略がたてられ、それによって、将来の干ばつに対応して後で水を使用する目的で未使用の土地に水を蓄えることを可能にし、利用可能な水資源の管理を通じて、先進的な変換システム(低速発電機および流れ込み式タービン)を使用する発電である重要な戦略的副産物を促進する分水地点水文解析および管理のシステムのプロセスを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】測候所および流量センサのネットワーク、収集およびデータ管理システム、データ送信、人工知能判断システム、ポンプ場および水門管理を示す本発明の基本的な概略図である。
【
図2】本発明によるプロセスの実施形態の異なる段階を示す簡略化された流れ図である。段階1: 測定および履歴データの調査。段階2: 統合的な水文モデル--シナリオ計算、最適なケース選択、モデルの確認および再訓練。段階3: 気象現象の影響を最小化するための緩和戦略の作成。
【
図3】モデルの再訓練のためのモデルによるハイドログラフの推定、ハイドログラフの測定、および比較の単純化された方式を示す図である。
【
図4】入力、メモリ、およびアソシエータを有する線形再帰型ニューラルネットワーク(Lineal Recurrent Neural Network)を示す図である。
【
図5】3層LDDNネットワークを示す図である。変数LWは隠れ層に対する重みを意味し、IWは入力層に対する重みであり、bはバイアスユニットを表し、fは層間の伝達関数である。
【
図6】人工ニューラルネットワークの予報の結果としての洪水マップ(flooding map)の例の図である。水門を正しく操作した場合(緑)および操作しない場合(赤)の洪水が示される。
【
図7】人工知能によって支援された意思決定システムへの多層化された入力である。
【
図8】AI意思決定モジュールと、制御室と、通信システムと、排水制御システム(ポンプ場、水門、および発電所)との間の情報のフローの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、その好ましい実装の形態において、問題の発生中にその問題へのリアルタイムの対応を提供し、それによって、本発明が適用される分水地点における洪水調節を最適化する、測候所のネットワークと、水門およびポンプ場によって天然のおよび人工の貯水池を管理する人工的な排水システムとを有する分水地点のための、人工知能(AI)を使用した水文解析および管理のプロセスおよびシステムをともなう。「リアルタイム」という用語は、気象現象の推移の計時の長さの中でのシステムの応答時間として理解されるべきである。
【0040】
プロセスとシステムとの両方は、いくつかの学問分野の手段を組み合わせる。気象現象およびその水文学的結果の分析によって、流出、洪水、および干ばつを予測するだけでなく分水地点の水文学的状態を説明することができる統合水文モデルが訓練される。多数の多パラメータ式からなるこのモデルは、異なる気象予報のために分水地点の水文学的状態における筋書きを計算する。このようにして、多くの場合が、前記予報の前に準備され得る。特定の気象現象の発生に基づいて、システムは、測定値をもっともうまく説明する計算された場合を自動的に選択する。したがって、水文学的予測が、数時間で利用され得る。
【0041】
仮定される筋書きの訓練は、分水地点挙動曲線(behavior curve)をもたらす。これらの曲線は、入力(雨および分水地点の実際の状態)と出力(雨の後の筋書き)との間のシステムの伝達関数(TF)である。その伝達関数は、数百の要因に依存する非線関数である。それらの要因の一部は、確率的な要因であり、一方、その他の要因は、時間、湿度、気候条件、温度などに依存して変わる決定性の要因である。
【0042】
【0043】
挙動曲線は、分水地点の副流域、水位観測(gauging)、蓄え(reserve)、および流域の各々のハイドログラフH = f (表面,DEM,土壌の構造など)、流出E = f (H,浸透,土壌湿度など)、およびアベニュー(avenue) A = f (E,底の形)、貯水池の水位NR = f (量,インフロー,アウトフロー,蒸発)の複雑な連関である。
【0044】
このようにして、予測される雨の筋書きと同様の現象が起こるとき、システムは、分水地点の予測される挙動を即座に認識する。水文解析および管理のシステムは、早期の警報を生成し、コミュニティに警告するように設定される。届けられる情報は、分水地点内のそれぞれの場所の予測の条件に依存する。情報は、例として、ある副流域から他の副流域に水をポンプで送ると決定する可能性がある貯水池管理制御計画と一緒に、モバイル電話による自動化されたアプリケーション、電子メール、およびスマートまたは同様のアプリによって利害関係者に届けられる。
【0045】
これが行われる間、排水システムの動作状態は、閉ループ通信システムを有する1組のセンサ、機器、およびコンピュータを通じて分水地点の物質収支を維持する、つまり、1つの貯水池から他の貯水池へ水を導くためにポンプを動かすまたは水門を閉じる/開けるために分析条件を継続的に再分類する地上測定所を使用するエキスパートシステムにフィードバックを提供する。
【0046】
時間の経過とともに、データベースは、異なる降水の筋書きに関する追加的な情報、傾向、および分水地点挙動曲線によって満たされる。加えて、各挙動曲線が、各副流域モデルの変数によって較正される。土壌の構造、作物、温度、湿度などのこれらのパラメータは、経時的に変化する。この成長するデータベースは、決定性のおよび確率的な現象の系を予測するためにAIによって支援されるシステムにデータを供給する。
【0047】
モデルは、測定されたデータを用いる適応フィルタを通じた調整アルゴリズムを使用して特に各副流域およびそれを取り巻く環境から継続的に較正され、これは、後でより詳細に説明される。
【0048】
これがAIおよび機械学習システムであるものとすると、結果の応答時間および正確性が、より多くの経験が獲得されるにつれて使用および学習を通じて向上する。
【0049】
好ましい実施形態の際の水文解析および管理のプロセスは、
図2の簡略化された図に示されるように、そのプロセスの推移に関する3つの基本的段階を含む。
【0050】
第1の段階は、測定および履歴データの調査を含み、第2の段階において、我々は、機械学習の方法および水文モデリングを使用して予測システムを区別する。これらの予測は、小川の流れおよび貯水池の水位監視所によって集められた情報を使用して確認される必要がある。第3の段階は、すべて動的に集められる分水地点の生産的な社会経済データに追加される予測サブモジュールによって集められた情報およびその継続的な確認に基づいて気象現象の影響を最小化するための緩和戦略を作成する。
【0051】
以下は、本発明の好ましい実行形態に基づく段階のそれぞれの詳細である。
【0052】
プロセスのこの第1の段階は、測定を行い、分水地点の記述などの履歴データを調査し、データ管理のロジスティクスおよび監視所の分布を重視する。継続的なサポートが、後続の段階にデータを供給するこの第1の段階のオンライン動作を保証しなければならず、これが、プロセスの集合的動作における第1の段階の重要性が不可欠である理由である。この第1の段階の図が、
図1に示される。
【0053】
分水地点およびその分水地点に寄与する地域内に配置された獲得センターおよびデータベースと通信する衛星を通じたデータ獲得およびオンラインデータ送信能力を有する測候所。システムに含まれるセンサの一部は、以下の通りである。
センサ1:雨量計
センサ2:蒸発散センサ
センサ3:風速
センサ4:大気および土壌湿度
センサ5:温度
センサ6:河川および小川の流量計
センサ7:人造湖、ダム、河川、および小川の水位
センサ8:浸透および浸潤
【0054】
データベースへの別の入力は、サービスを提供するエンティティのサーバまたはデータベースに自動的にアクセスするツールを通じて取得される衛星情報である。
【0055】
これらの衛星データは、浸水地域、干ばつ地域を推定するために分水地点の全体的な状態を視覚化し、嵐の追跡および説明を視覚化するために使用される。これらの衛星データは、作物の特徴に基づいて水の消費の度合いを推定するために作物を分類することも可能にする。
【0056】
一部の衛星データは、画像である。以下の2種類の衛星画像が、使用され得る。
・浸水地域を監視するためのSAR(合成開口レーダー)画像、ならびに
・グリーンインデックス(green index)、作物の分類などを計算するためのRGBおよびマルチスペクトル画像
【0057】
本発明の好ましい実行形態によれば、水文解析および管理のプロセスの第2の段階において、我々は、機械学習の方法および水文モデリングを使用して予測システムを区別する。予測は、監視所によって河床の流れおよび貯水池の水位に関して集められたデータにより確認される。
【0058】
プロセスのこの第2の段階においては、予測モジュールまたはプレディクタの動作が基礎となる。
【0059】
予測モジュールは、起こり得る浸水地域の予測を生成するために動的な人工ニューラルネットワークを訓練することをともなう。この種の再帰型トポロジーのネットワークは、地上局、衛星、レーダーにおいて集められた前処理されたデータ、および分散された気象システムからの情報、ならびに以前の場合に行われたネットワークの予測を使用する。動的なネットワークは、(訓練に関連してより高い度合いの困難がある)静的なネットワークよりも通常より高性能である。動的なネットワークは、メモリを有するので、連続して起こるパターンまたは時間変動を学習するために訓練され得る。この特徴は、とりわけ、金融市場の予測、通信チャネルの等化、電力システムにおける位相検出、故障検出、言語認識、および気象予報などの異なる分野に適用され得る。
【0060】
時間的パターンを予測するために、人工ニューラルネットワークは、2つの異なる構成要素、すなわち、メモリおよびアソシエータを必要とする。この基本構造が、
図4に示される。
【0061】
メモリは、タップ付き遅延線(TDL: tapped delay line)を構成する時間遅延ユニット、つまり、シフトレジスタユニットによって生成され、予測を改善するために使用される過去の関連する情報を記憶する。
【0062】
アソシエータは、たとえば、静的な、複雑な、および非線形のマッピングのための効率的な多層パーセプトロン型ネットワークである。上記に準じるネットワークトポロジーは、層状デジタルダイナミックネットワーク(LDDN: Layered Digital Dynamic Network)と呼ばれる。このネットワークの各層は、以下の部分からなる。
・(その他の層または外部入力から相互接続し得る)層に入るシナプス荷重行列の組、荷重行列を入力および関連するTDLと組み合わせるために使用される重み付けされた関数に関する組合せ規則
・影響バイアスベクトル(influence-bias vector)
・ネットワークへの入力を生成するために重み付けされた関数出力をバイアスベクトルと組み合わせるために使用されるネットワーク入力関数に関する規則、ならびに
・伝達関数
【0063】
LDDN多層ネットワークの例は、3層ネットワークの構造が示され、変数LWが隠れ層に対する重みを意味し、IWが入力層に対する重みであり、Bがバイアスユニットを表し、fが層間の伝達関数である
図5に見られ得る。
【0064】
したがって、予報が望まれる地域と同じ数のネットワークが必要とされる。各ネットワークは、存在を決定する地域の利用可能な変数および前に調査されたデータを用いて訓練され、浸水する土地が存在するか否かを浸水の水位と一緒に判定しなければならない。
【0065】
この種のネットワークの訓練は、とりわけ、水文学、ニューラルネットワーク、機械学習、情報システム、ならびに地質学、地形学、力学、電子工学、および通信などの関連する科学に高度に精通している人員を必要とする。この種のネットワークの訓練は、最も都合のよい判断を行うために最も社会経済的影響の少ない最良の解決策をこの分析によって短時間で知ることを可能にするベクトル配列(vector array)内で層と接続された多数のコンピュータも必要とする。
【0066】
完全な分析が、分類および予報を改善するための最良のパラメータを決定するために実行されるべきである。この作業は、並列コンピューティングの方法によって最適化され得る。
図6に示されるように、それぞれの分析される瞬間に関して、洪水予報付きのマップが得られる。そのとき、全体的なプレディクタの出力は、洪水予報付きの流域のマップである。この結果は、流域の地形データも考慮に入れて流域のハイドログラフを計算するために使用される。計算された流れは、確認され、この情報は、流域のすべての重要な地域内に流れの測定点を有する系列全体にフィードバックされる。このようにして、モデルおよび予報ネットワークは、その予測を改善するために継続的に更新される。
【0067】
流域の動的な挙動の複雑な計算物理モデルの使用は、予測システムのための訓練ツールとして働く。収集された経験によって最適化された多変数モデルは、前に記録されていない場合に関するプレディクタの訓練を可能にし、
図3に示すように、ニューラルネットワークの迅速な処理のおかげで速い応答時間を可能にする。このようにして、統合予測ツールは、物理モデルおよびネットワークの自己訓練(self-training)の計算時間を含む。
【0068】
最後に、本発明の好ましい実行形態によれば、水文解析および管理プロセスの第3の段階において、緩和戦略が、動的に集められる流域の生産的な社会経済データに追加される予測サブモジュールによって集められた情報およびその不断の確認に応じて気象現象の影響を最小化するために生成される。
【0069】
評価ソフトウェアは、地理的にセル(cell)に分割された洪水予報の結果を入力として使用する地理情報システム(GIS)に基づく。各セルは、各評価地域内の水位の情報を有する。このようにして、現象は、一緒に考慮されるときに、駆動操作が実行される問題の地域および可能性のある地域を特定する層(ラスタ(raster))において分析される。
【0070】
各セルの評価層は、発生(incidence)重み値を有する。たとえば、層が人口密度を表す場合、農業地域の重み値は、ゼロに近くなり、一方、都市の重み値は、より高くなる。
【0071】
加えて、各層が有する可能性がある重みの発生に依存して、それは、現象において与えられる関連性である。たとえば、農業活動ではなく牛の放牧により低い重みが与えられる場合、システムは、作物よりも牛をより高い地域に移動させる方が容易であるとの仮定の下で農業地域を冠水させる傾向がある。層におけるこの分析の例が、
図7に示される。
【0072】
このようにして、各層は、社会経済的特性に関連する係数によって重み付けされる。
【0073】
多基準意思決定分析(MCDA: Multi-Criteria Decision Analysis)ベクトル最適化アルゴリズムを用いるAI支援型判断モジュールが、流域への社会経済的影響を最小化する洪水が起こる地域を発見する役割を担う。この判断モジュールは、マルチタスク分散型コンピュータセンタを含む。
【0074】
これは、水位がすべてのその他の入力層の組合せから導出されるようにして一意のラスタをもたらす。この結果によって、判断モジュールは、決定された時間枠内で必要とされる状態を流域が実現するために必要とされる水門およびポンプの動作のシミュレーションを実行する。
【0075】
どの水量がどこに移動されるべきかが決定されると、選択された保護基準に従って洪水調整を達成するために排水制御のために利用可能な水門およびポンプ場の駆動が実行され、監視される制御室において動作報告が生成される。AI意思決定モジュールと、制御室と、通信システムと、排水制御システム(ポンプ場、水門、および発電所)との間の情報のフローの概略図が、
図8に示される。
【0076】
制御室は、マン-マシンインターフェースに関する国際的な安全および信頼性基準に基づく規格化された基準に従う。好ましい実行形態において、制御室は、応用に応じて決定される3つのセクタを含むが、最も厳しい安全基準に常に沿う。
【0077】
1つのセクタは、正常な線のエネルギーおよびバックアップのエネルギーまたはバッテリーパックへの無停電のサポートの供給である。第2のセクタは、使用される機器およびローカルの条件に応じた環境の調整のための空調機器室であり、第3のセクタは、2つの部分、すなわち、(アルゴリズムに基づく、モデル化された)視覚化およびオンライン計算に細分化されるシステム運用室、ならびに通信システムを含むサーバ室を含む。
【0078】
前記制御および意思決定室において、すべての情報が、迅速に意思決定を行うためにオンラインで利用され得る。
【0079】
このようにして、
・都市地域を保護する
・最も生産的な地域を保護する
・流域の最良の土壌、最も生産的な地域、および戦略的な場所を保護する
・将来の干ばつの際に灌漑の目的で水を使用するために非生産的な地域に水を蓄える
ための戦略が生成される。
【0080】
本発明を既に知られている応用と比較したときの本発明のさらなる利点は、利用可能な水文リソースの管理が、例として、低速発電機および流れ込み式タービンなどの先進的なコンバータシステムを使用して戦略的に重要な副産物、すなわち、発電を得ることを可能にすることである。
【0081】
本発明の好ましい実行形態に基づくシステムによって起動されるプロセスの解決は、システムが分割される各研究セルにおけるインフロー、アウトフロー、および貯水量に起因する物質収支の分析に存する。従って、各セルの領域において、システムは、次の式を解く。
【0082】
【0083】
式中、
「i」は、システムの適合された細分化に対応するセル番号であり、
Vi
Iは、各セルiにおける流入量であり、
Vi
Eは、各セルiにおける流出量であり、
Vi
Rは、各セルiにおける貯水量または保持される量である。
【0084】
各研究セルの数および表面の選択は、システムの各セクタにおいて変数が決定されるために必要とされる正確さの関数として定義される。したがって、各システムは、各研究地域の経済的、社会的、および環境的重要性に応じてより大きなまたはより小さなセルに分割される。
【0085】
流入量Vi
Iは、垂直方向の寄与(vertical contribution)および水平方向の寄与によって決定される。主な垂直方向の寄与は、降水であり、一方、水平方向の寄与は、表面の水平方向の流出および地下水の流れに起因する隣接するセルの流出量Vi+n
Eに対応する。
【0086】
【数8】
であり、式中、
V
IPは、降水が原因である流入量であり、
V
i+n
ESは、研究対象のセルに隣接するセル「i+n」から入ってくる研究セル「i」に入る表面上の量であり、
V
i+n
RSUは、研究対象のセルに隣接するセル「i+n」から入ってくる研究セル「i」に入る地下水流(groundflow)の水である。
【0087】
各セルの流出量Vi+n
ESは、垂直方向と水平方向との両方における流出量から生じる。
【0088】
垂直方向の量は、太陽放射および温度が原因である液体表面の蒸発(mm/時間)、(自然の植生または作物に依存する)蒸発散、ならびに(各研究セル内の既存の区画の土壌の種類および飽和の度合いおよび地下水面の水位に依存する変数である)浸透に起因する量である。
【0089】
一方、水平方向の量は、天然のまたは人工的な水路を通じて隣接するセルに向かって移送され得る特定の期間内の流出量(流量)によって決定される。
【0090】
各セルの流入量Vi
Iと流出量Vi
Eとの間の差は、正であるかまたは負であるかどちらかである可能性がある。差が正である、つまり、流入量が流出量よりも多い場合、その差は、天然のもしくは人工的な貯水池による制御された方法でまたはセルの地域内で望ましくない洪水を生む制御されない方法で蓄えられ得るかもしくはダムでせき止められ得る研究セルにおける貯水量または保持される量Vi
Rを生じる。
【0091】
蓄えられる量は、人工的な貯水池からの放水によって、つまり、水門および排出バルブを開けることによって、またはその目的のために天然の貯水池に置かれたポンプ場によってゆっくりと減らされ、それによって、下流にあるセルにおける洪水を緩和するかまたは防止する目的で各セルのアウトフローを時間に沿って分散させることができる。
【0092】
差が負である、つまり、降水が乏しい時期の間に流出量Vi
Eが流入量Vi
Iよりも多い場合、表面と地下との両方で天然のおよび人工的な貯水池に蓄えられた量が、等しい状態を安定させ、干ばつの期間を改善しようと試みるために使用され得る。異なる貯水池における水量の管理は、流域内で相互に接続された利用可能なポンプおよび水門を動作させることによって実現される。
【0093】
上の説明は、動作の1つまたは複数の手段の例を含む。明らかに、あり得る構成要素または方法の組合せの各々が、上述の実行を説明する目的で説明されることは不可能であり、当業者は、多くのその他の使用可能な組合せおよび入れ替えが可能であることを認識し得る。したがって、説明された動作方法は、本明細書に添付の特許請求の範囲の範囲内にあるすべての改変、修正、および変更を包含するように定められている。