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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】積層造形用銅粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20220112BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20220112BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20220112BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20220112BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20220112BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220112BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20220112BHJP
【FI】
B22F1/00 L
C22C9/00
C22C1/04 A
B22F9/08 A
B22F10/28
B33Y70/00
B33Y80/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019524788
(86)(22)【出願日】2017-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2017022931
(87)【国際公開番号】W WO2018235213
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2020-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514227988
【氏名又は名称】技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 雄史
(72)【発明者】
【氏名】西澤 嘉人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 剛史
(72)【発明者】
【氏名】大久保 浩明
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-336403(JP,A)
【文献】特開2005-222737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
B22F 10/00-12/90
C22C 9/00
C22C 1/04
B33Y 70/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形法により積層造形物を造形するために用いられる積層造形用銅粉末であって、
純銅に、0.01重量%以上0.30重量%以下のリン元素が添加された積層造形用銅粉末。
【請求項2】
積層造形法により積層造形物を造形するために用いられる積層造形用銅粉末であって、
純銅に、0.01重量%以上0.30重量%以下のリン元素が添加されており、粒子の50%粒径が3~75μmの範囲に含まれる積層造形用銅粉末。
【請求項3】
純銅に、0.04重量%以上0.24重量%以下のリン元素が添加された請求項1または2に記載の積層造形用銅粉末。
【請求項4】
JIS Z 2504の測定法で測定したときの、粒子の見掛け密度が3.0g/cm3以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層造形用銅粉末。
【請求項5】
JIS Z 2502の測定法で測定したときの、粒子の流動性が60sec/50g以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の積層造形用銅粉末。
【請求項6】
積層造形法により積層造形物を造形するために用いられる積層造形用銅粉末の製造方法であって、
ガスアトマイズ法により、純銅に、0.01重量%以上0.30重量%以下のリン元素を添加した銅粉末を生成する工程と、
生成された前記銅粉末を分級サイズ10~45μmにより分級する工程と、
を含む積層造形用銅粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用銅材料およびその積層造形体に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームによる積層造形では、ファイバレーザを熱源とし、金属粉末を敷詰めた粉末床を溶融凝固することで任意の形状を成形していく。鉄合金(以下、Fe合金)、ニッケル合金(以下、Ni合金)では高密度な造形体が得られる事例がある。しかし、純銅は高い電気伝導率および熱伝導率を有する元素であり、レーザビームによる積層造形を用いた複雑形状の電気伝導品や熱伝導部品の作製が期待されるが、ガスや水といった冷却媒体などが漏れ出さない98.5%以上の高密度な積層造形体が出来ず実用化されていない。
【0003】
上記技術分野において、特許文献1には、相対密度が96%以上の積層造形体を形成する銅合金粉末として、Cr(クロム)およびSi(珪素)の少なくともいずれかを合計で1.00質量%以下含有し、残量が銅からなる銅合金粉末が開示されている。引用文献2には、積層造形体を形成する銅合金粉末の実施例として、主金属元素がCu(銅)であり、添加元素としてZn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)およびFe(鉄)を添加した銅合金粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-211062号公報
【文献】特開2016-053198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献においては、銅を主成分とする積層造形体の機械強度に影響する積層造形体の密度が、銅の電気伝導率により影響を受けることについての言及はない。
【0006】
本発明者らは、純銅は電気伝導率の高さから、ファイバレーザを熱源とする積層造形法で高密度な積層造形体が得られないことを見付けた。すなわち、レーザ照射時にレーザ光が反射し純銅粉末が溶融するために必要な熱エネルギーが得られないことが原因である。
【0007】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形用銅粉末は、積層造形法により積層造形物を造形するために用いられる積層造形用銅粉末であって、純銅に、0.01重量%以上0.30重量%以下のリン元素が添加された積層造形用銅粉末である。
また、上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形用銅粉末は、
積層造形法により積層造形物を造形するために用いられる積層造形用銅粉末であって、
純銅に、0.01重量%以上0.30重量%以下のリン元素が添加されており、粒子の50%粒径が3~75μmの範囲に含まれる積層造形用銅粉末である。
また、上記目的を達成するため、本発明に係る積層造形用銅粉末の製造方法は、積層造形法により積層造形物を造形するために用いられる積層造形用銅粉末の製造方法であって、
ガスアトマイズ法により、純銅に、0.01重量%以上0.30重量%以下のリン元素を添加した銅粉末を生成する工程と、
生成された前記銅粉末を分級サイズ10~45μmにより分級する工程と、
を含む積層造形用銅粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、銅の電気伝導率を適切に低減することでファイバレーザを熱源とする積層造形法で高密度な積層造形体が得られるよう、リン(P)を添加した積層造形用銅粉末を提供し、高密度で電気伝導率の高い積層造形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る実施形態の積層造形装置の構成例を示す図である。
図2A】本発明に係る実施例1における銅粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図2B】本発明に係る実施例2における銅粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図2C】本発明に係る実施例3における銅粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図2D】本発明に係る実施例4における銅粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図2E】本発明に係る実施例5における銅粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図3】比較例1における銅粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図4A】本発明に係る実施例1における銅粉末を用いた積層造形体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図4B】本発明に係る実施例2における銅粉末を用いた積層造形体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図4C】本発明に係る実施例3における銅粉末を用いた積層造形体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図4D】本発明に係る実施例4における銅粉末を用いた積層造形体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図4E】本発明に係る実施例5における銅粉末を用いた積層造形体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図5】比較例1における銅粉末を用いた積層造形体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。
図6】本発明に係る実施例1~5および比較例1における銅粉末を用いた積層造形体の電気伝導率をグラフに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素は単なる例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
《本実施形態の銅粉末を用いて積層造形された積層造形体の用途》
本実施形態において使用される銅粉末は、積層造形の材料として使用される、銅粉末を用いた積層造形体が作成可能となれば、電気回路のコネクタ、ヒートシンクや熱交換器などの分野における微細な造形が可能となる。
【0014】
かかる用途においては、銅粉末を用いた積層造形体が十分な密度(アルキメデス法による測定密度が98.5%以上)を有するのが望ましい。また、銅の電気伝導性や熱伝導性を利用する場合には、銅製品として十分な電気伝導率(20%IACS以上)を有するのが望ましい。上記測定密度が98.5%に満たない場合には、水漏れなどの問題が発生する。また、例えば、積層造形体を端子用のバネ材とするには、20%IACS以上の導電率が求められる。なお、銅粉末を用いた積層造形体は上記例に限定されず、他に回路部品や電磁波シールド部品として利用されてもよい。
【0015】
《本実施形態の積層造形用銅粉末》
純銅粉末を使用した場合、電気伝導率の高さから、レーザ照射時にレーザ光が反射し純銅粉末が溶融するために必要な熱エネルギーが得られないため、ファイバレーザを熱源とする積層造形法で高密度な積層造形体が得られなかった。
【0016】
そこで、本実施形態においては、積層造形が可能な銅粉末で、それを用いた積層造形体が上述の十分な密度を有し、銅製品として上述の十分な電気伝導率を有する銅粉末を提供する。すなわち、銅にリン(P)元素を配合することで電気伝導率を調整することができる。そして、積層造形法に適した粒子形状、サイズに調整し、積層造形用銅合金粉末として提供することができる。
【0017】
(積層造形用銅粉末の条件)
積層造形が可能な銅粉末としては、以下の条件が必要とされる。
(1) レーザ回折法で測定したときの銅粉末粒子の50%粒径が3μm~75μmの範囲であること。銅粉末粒子の50%粒径が3μm未満の場合は流動性がなく、積層造形装置において粉末床を形成できない。一方、銅粉末粒子の50%粒径が75μmより大きい場合は、積層造形装置において粉末床の表面が荒れて造形に適切な粉末床を形成できない。
(2) 銅粉末の見掛け密度(AD:apparent density)が3.0g/cm3以上であること。銅粉末の見掛け密度が3.0未満の場合は、積層造形装置において粉末床の粉末充填率が下り適切な粉末床を形成できない。
(3) 銅粉末の流動性(FR:flow rate)が60sec/50g以下であること。銅粉末の流動性が60sec/50g以上の場合は、積層造形装置において供給ホッパーからの粉末供給ができず適切な粉末床を形成できない。
【0018】
(積層造形用銅粉末の製法)
本実施形態の積層造形用銅粉末は、例えば、「回転ディスク法」、「ガスアトマイズ法」、「水アトマイズ法」、「プラズマアトマイズ法」、「プラズマ回転電極法」などにより製造可能である。本実施形態においては、これらの内、「ガスアトマイズ法」を使用し、ガスアトマイズとしてはヘリウム、アルゴン、窒素などのガスを用い、ガスの圧力と流量とを調整し粉末化の制御を行って銅粉末を生成したが、他の製法によっても同様の銅粉末が製造できる。製造した銅粉末は、分級サイズ10~45μmにより分級された。
【0019】
(積層造形用銅粉末の特性測定)
製造された積層造形用銅粉末について、以下の特性を測定した。
(1) JIS Z 3264に準じた、リンバナドモリブデン酸吸光光度法により、リン元素が添加された銅粉のリン元素の含有量を測定した。
(2) JIS Z 2504に準じて、リン元素が添加された銅粉末の見掛け密度(g/cm3)を測定した。
(3) JIS Z 2502に準じて、リン元素が添加された銅粉末の流動性(sec/50g)を測定した。
(4) レーザ回折法により50%粒度(μm)を測定した。
(5) 走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により、製造された銅粉末を撮影した。
【0020】
(測定結果の評価)
本実施形態におけるリン元素が添加された積層造形用銅粉末は、積層造形装置で積層造形可能な上記条件である、(1)銅粉末粒子の50%粒径、(2)銅粉末の見掛け密度、(3)銅粉末の流動性のいずれをも満たす粉末であった。
【0021】
《本実施形態の積層造形体の製造》
図1は、本実施形態の積層造形装置100の概略構成例を示す図である。積層造形装置100は、電子ビームあるいはファイバレーザ101aの発射機構101と、粉末タンクであるホッパー102と、粉末を一定厚で敷き詰めた粉末床を形成するためのスキージングブレード103と、積層のために一定厚だけ下降を繰り返すテーブル104と、を有する。スキージングブレード103とテーブル104との協働により、均一な一定厚の粉末積層部105が生成される。各層には、3D-CADデータより得られたスライスデータを基にファイバレーザ101aを照射し、金属粉末(本実施形態では銅粉末)を溶融して積層造形体105aが製造される。
【0022】
なお、使用したエネルギー密度E(J/mm3)は、E=P/(v×s×t)により調整した。ここで、t:粉末床の厚み、P:レーザの出力、v:レーザの操作速度、s:レーザ走査ピッチである。
【0023】
(積層造形体の条件)
本実施形態の有用な積層造形体としては、以下の条件が必要とされる。なお、以下の条件のうち、条件(1)は、積層造形体の強度を得るために必須の条件である。一方、条件(2)は、積層造形体に対して銅の電気伝導性や熱伝導性を求めない場合には必須の条件でなく、銅の電気伝導性や熱伝導性を利用する場合の条件である。
(1) 銅粉末を用いた積層造形体が十分な密度を有すること。例えば、アルキメデス法による測定密度が98.5%以上である。
(2) 銅粉末を用いた積層造形体が、銅製品として十分な電気伝導率を有すること。例えば、電気伝導率が20%IACS以上である。
【0024】
(積層造形体の特性測定)
積層造形用銅粉末について製造された積層造形体について、以下の特性を測定した。
(1) 積層造形体の電気伝導率(%IACS)を、渦電流方式の導電率計で測定した。
(2) 積層造形体の密度(%)を、置換媒体としてヘリウムガスを使用したアルキメデス法により測定した。
(3) 走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により、製造された積層造形体の表面を撮影した。
【0025】
(測定結果の評価)
本実施形態におけるリン元素が添加された積層造形用銅粉末を用いて積層造形装置で製造された積層造形体は、上記条件である、(1)密度が98.5%以上を満たす積層造形体が製造された。またさらに、(2)電気伝導率が20%IACS以上を満たす積層造形体が製造された。
【0026】
(好適な積層造形用銅粉末の組成)
本実施形態においては、純銅にリン元素を添加することで、上記積層造形用銅粉末の条件を満たし、かつ、積層造形装置による積層造形後の積層造形体が上記十分な密度、銅製品として十分な電気伝導率を有する銅粉末を提供する。
【0027】
本実施形態の積層造形用銅粉末としては、純銅にリン元素が0.01重量%以上含有された銅粉末が望ましい。純銅にリン元素が0.04重量%以上含有された銅粉末がさらに望ましい。
【0028】
また、本実施形態の積層造形用銅粉末としては、銅の電気伝導や熱伝導を利用する場合、純銅にリン元素が0.30重量%以下含有された銅粉末が望ましい。純銅にリン元素が0.24重量%以下含有された銅粉末がさらに望ましい。
【0029】
また、本実施形態の積層造形用銅粉末としては、リン元素以外の元素が添加されてない銅粉末が望ましい。
【0030】
《本実施形態の効果》
本実施形態によれば、リン元素を添加した積層造形用銅粉末を提供し、高密度の積層造形体を得ることができた。またさらに、電気伝導率の高い積層造形体を得ることができた。
【0031】
すなわち、レーザ回折法での測定したときの銅粉末の粒子の50%粒径が、3μm~75μmの範囲にあるため、粉末床の表面が荒れることなく、かつ、十分な流動性があってスキージングが容易である。また、銅粉末の見掛け密度が3.0以上あるため、粉末床の粉末充填率が十分で適切な粉末床を形成できる。また、銅粉末の流動性が60sec/50g以下であるため、供給ホッパーからの粉末供給がスムースに出来、適切な粉末床を形成できる。
【0032】
かつ、リン元素の添加により電気伝導率を下げて積層造形に必要な熱エネルギーを低減したので、高密度な積層造形体を得られた。すなわち、レーザパワー、スキャンスピード、スキャンピッチ、粉末床の積層厚より算出できるエネルギー密度で設定された条件で造形した際の造形体の密度が、アルキメデス法を用いた測定で98.5%以上となる銅粉末による積層造形体が製造できた。またさらに、電気伝導率が20%IACS以上を満たす銅粉末による積層造形体が製造された。なお、熱伝導率は、ヴィーデマン-フランツの法則により電気伝導率と対応しているので、所望の熱伝導率を満たす銅粉末による積層造形体でも同じである。
【実施例
【0033】
以下、本実施形態に従った実施例1~5と、比較例1とについて説明する。
【0034】
《積層造形用銅粉末の製造》
ガスアトマイズ法を用いて、ガスアトマイズとしてはヘリウム、アルゴン、窒素などのガスを用い、ガスの圧力と流量とを調整し粉末化の制御を行って、リン元素が添加された銅粉末を生成した。
【0035】
添加後の純銅へのリン元素の含有量を、0.240(実施例1)、0.170(実施例2)、0.080(実施例3)、0.030(実施例4)、0.015(実施例5)、0.002(比較例1)と変化させて、銅粉末を製造した。
【0036】
《積層造形用銅粉末の特性測定》
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により、製造された銅粉末を撮影した(SEM×500)。図2A図2Eに、実施例1乃至5における銅粉末のSEM像を示す。また、図3に、比較例1における銅粉末のSEM像を示す。
【0037】
JIS Z 3264に準じた、リンバナドモリブデン酸吸光光度法により、リン元素が添加された銅粉末におけるリン元素の含有量を測定した(SHIMADZU UV-1800:株式会社島津製作所製)。また、JIS Z 2504に準じて、リン元素が添加された銅粉末の見掛け密度(g/cm3)を測定した。また、JIS Z 2502に準じて、リン元素が添加された銅粉末の流動性(sec/50g)を測定した。また、レーザ回折法により50%粒度(μm)を測定した(マイクロトラックMT3300:マイクロトラックベル株式会社製)。表1に、製造した実施例1~5と、比較例1との銅粉末の特性を示す。
【表1】
【0038】
表1によれば、本実施形態におけるリン元素が添加された積層造形用銅粉末は、積層造形装置で積層造形可能な上記条件である、(1)銅粉末粒子の50%粒径、(2)銅粉末の見掛け密度、(3)銅粉末の流動性のいずれをも満たす粉末であった。
【0039】
《積層造形体の製造》
上記実施例1~5および比較例1における銅粉末を用いて、3D積層造形機(粉末焼結積層造形/SLM方式)を用いて、積層造形体を製造した。
【0040】
各実施例1~5および比較例1における銅粉末を用いて、エネルギー密度(J/mm3)を変化させて、積層造形体を製造した。そのエネルギー密度(J/mm3)について、表2に示す。
【表2】

特性測定用の積層造形体の標本としては、幅10mm×奥行7mm×高さ5mmからなる直方体の積層造形体を製造した。
【0041】
《積層造形体の特性測定》
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により、製造された積層造形体の表面を撮影した(SEM×100)。図4A図4Eに、実施例1乃至5における積層造形体のSEM像を示す。また、図5に、比較例1における積層造形体のSEM像を示す。なお、実施例1~3、5および比較例1は、800J/mm3で積層造形した積層造形体のSEM像であり、実施例4(図4D)は、積層造形体の密度が目標以上(98.7%)となった、400J/mm3で積層造形した積層造形体のSEM像である。
【0042】
また、積層造形体の電気伝導率(%IACS)を、渦電流方式の導電率計で測定した(高性能渦流式導電率計 シグマチェッカー:日本マテック株式会社製)。また、積層造形体の密度(%)を、置換媒体としてヘリウムガスを使用したアルキメデス法により測定した(AccuPyc1330:株式会社島津製作所製)。表3に、製造した実施例1~5と、比較例1との積層造形物の特性を示す。
【表3】

図6は、本発明に係る実施例1~5および比較例1における銅粉末を用いた積層造形体の電気伝導率をグラフに示した図である。
【0043】
表3および図4A図4E図6によれば、本実施形態におけるリン元素が添加された積層造形用銅粉末を用いて積層造形装置で製造された積層造形体として、上記条件である、(1)密度が98.5%以上を満たす積層造形体が製造された。またさらに、(2)電気伝導率が20%IACS以上を満たす積層造形体が製造された。
【0044】
すなわち、密度が98.5%以上を満たす積層造形体は、リン元素の含有が0.01重量%未満の場合、800.0J/mm2以下のどのエネルギー密度においても造形できないが、リン元素の含有が0.01重量%以上の場合には、エネルギー密度を調整することで造形できることが分かる。さらに、密度が99.0%以上を満たす積層造形体は、リン元素の含有が0.04重量%未満の場合、800.0J/mm2以下のどのエネルギー密度においても造形できないが、リン元素の含有が0.04重量%以上の場合には、エネルギー密度を調整することで造形できることが分かる。
【0045】
また、電気伝導率が20.0%IACS以上を満たす積層造形体は、リン元素の含有が0.30重量%を超えると、800.0J/mm2以下のどのエネルギー密度においても造形できないが、リン元素の含有が0.30重量%以下の場合には、造形できることが分かる。特に、リン元素の含有が0.30重量%以下の場合には、どのエネルギー密度においても造形できることが分かる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6