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特許7001714化粧料組成物、化粧品、及び化粧料組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】化粧料組成物、化粧品、及び化粧料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20220203BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q1/02
A61K8/36
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019562103
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047831
(87)【国際公開番号】W WO2019131755
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2019-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2017249854
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391026210
【氏名又は名称】日本コーンスターチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 友香
(72)【発明者】
【氏名】榊原 ゆり
【審査官】山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-215616(JP,A)
【文献】特開2014-240479(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0099370(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0083306(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーンスターチ又は米澱粉である澱粉粒子と、
前記澱粉粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、ステアリン酸亜鉛を含有する滑沢剤と、を有する化粧料組成物であって
前記澱粉粒子と前記滑沢剤との総質量に対する前記滑沢剤の質量は、0.3質量%~20質量%であり、
Carrの指数表に基づく前記化粧料組成物の流動性指数が60以上である、化粧料組成物。
【請求項2】
前記化粧料組成物の平均摩擦係数が0.30~0.55である、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項3】
前記化粧料組成物の平均粒径は、2μm以上80μm以下である、請求項1又は2に記載の化粧料組成物。
【請求項4】
前記滑沢剤は、前記澱粉粒子の表面の90%以上を被覆している、請求項1~のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項5】
前記澱粉粒子がコーンスターチであり、前記滑沢剤がステアリン酸亜鉛である、請求項1~のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項6】
前記化粧料組成物の比表面積が0.60m/g以上0.85m/g以下である請求項1~のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項7】
前記化粧料組成物の平均粒径は、10μm以上20μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項8】
前記澱粉粒子と前記滑沢剤とが複合化されている、請求項1~のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の化粧料組成物を含む化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料組成物、化粧品、及び化粧料組成物の製造方法に関する。
本願は、2017年12月26日に、日本に出願された特願2017-249854号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーション、口紅、及びアイシャドウ等の化粧品には、肌に保湿感や柔軟性を付与し、且つ使用時の滑りをよくすることを目的として、感触付与剤が添加されている。感触付与剤としては、例えばシリコン、ナイロン、及びポリメタクリル酸メチル樹脂等の合成材料からなる球状粒子が挙げられる。
【0003】
また、一般的にスクラブと称され、人体や人体の一部を剥離若しくは洗浄する目的で使用されるクレンジング化粧品に配合される前記合成材料からなる球状粒子が用いられることがある。
【0004】
前記合成材料からなる球状粒子は、自然環境に排出されると分解されることなく自然界に残存するので、海洋汚染や人体への悪影響が懸念されている。これに対する対策として、例えば米国では、5mm未満のサイズの固形プラスチック微粒子(以下、プラスチックマイクロビーズ)を、前記スクラブとして用いることが規制されている。
そこで、プラスチックマイクロビーズの代替品として、生分解性の天然由来素材から形成する製品に注目が集まっている。
【0005】
化粧品に天然由来素材の球状粒子又は粉体を使用する例として、特許文献1は、微結晶セルロースを金属石鹸又は水添レシチンで表面処理することにより、化粧用粉体として使用することを開示している。特許文献2は、植物、動物、微生物、その抽出物及びその代謝物から選ばれる1種又は2種以上の粒子を基材として化粧料組成物を形成することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-146829号公報
【文献】特開2017-52706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の化粧用粉体は、水中で混合することにより製造する所謂湿式法により製造される。そのため製造物からの水の除去や、製造物の乾燥を必要とし、工程数や製造コストの面において改良の余地がある。また、より真球状に近く、使用感を向上させた天然由来素材の化粧料組成物が求められている。
【0008】
特許文献2に記載の化粧料組成物は、形状の崩れた基材を撹拌造粒機に投入し、円形度係数や形状係数を改善することにより製造されているが、より使用感を向上させた天然由来素材の化粧料組成物が求められている。また、天然由来素材の化粧料組成物である場合、廃棄される際の生分解性が重要である一方、化粧品として使用される場合の耐腐敗性を有していることが求められている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、効率的に製造可能であり、肌上での伸びが良く、耐腐敗性に優れた、天然由来素材の化粧料組成物、この化粧料組成物を含む化粧品、及び化粧料組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を有する。
[1]澱粉粒子と、前記澱粉粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、脂肪酸を含有する滑沢剤と、を有し、前記澱粉粒子と前記滑沢剤との総質量に対する前記滑沢剤の質量は、0.3質量%~20質量%であり、Carrの指数表に基づく前記化粧料組成物の流動性指数が60以上である、化粧料組成物。
[2]前記滑沢剤は、金属石鹸及び植物性油脂由来のロウからなる群より選択される少なくとも1つの物質である、[1]に記載の化粧料組成物。
[3]前記化粧料組成物の平均摩擦係数が0.30~0.55である、[1]又は[2]に記載の化粧料組成物。
[4]前記化粧料組成物の平均粒径は、2μm以上80μm以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の化粧料組成物
[5]前記滑沢剤は、前記澱粉粒子の表面の90%以上を被覆している、[1]~[]のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
]前記澱粉粒子がコーンスターチであり、前記滑沢剤がステアリン酸亜鉛である、[1]~[]のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
]前記化粧料組成物の比表面積が0.60m/g以上0.85m/g以下である[1]~[]のいずれか1項に記載の化粧料組成物
[8]前記化粧料組成物の平均粒径は、10μm以上20μm以下である、[1]~[]のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
]前記澱粉粒子と前記滑沢剤とが複合化されている、[1]~[]のいずれか1項に記載の化粧料組成物。
10][1]~[]のいずれか1項に記載の化粧料組成物を含む化粧品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、効率的に製造可能であり、肌上での伸びが良く、耐腐敗性に優れた、天然由来素材の化粧料組成物、この化粧料組成物を含む化粧品、及び化粧料組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一態様における化粧料組成物の概略断面図である。
図2】本発明の一態様における化粧料組成物のSEM画像である。
図3】本発明の一態様における化粧料組成物のSEM画像である。
図4】本発明の一態様における化粧料組成物のSEM画像である。
図5】本発明の一態様における化粧料組成物及び未処理のコーンスターチの粒度分布を示すグラフである。
図6】本発明の一態様における化粧料組成物に光を照射したときの反射光の強度分布について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。
【0014】
本明細書において、「平均粒径」とは、レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて測定された値であると定義する。具体的には、レーザー回折粒度分布計(島津製作所社製、SALD2300)を用い、測定対象物0.5gを、エタノール溶液10mlに投入し、測定対象物を分散させた分散液を得る。得られた分散液について粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。得られた累積粒度分布曲線において、50%累積時の微小粒子側から見た粒子径(D50)の値を、平均粒径とする。
【0015】
また、粒子径D10とは、上述の通り得られた累積粒度分布曲線において、10%累積時の微小粒子側から見た粒子径の値であると定義する。粒子径D90とは、上述の通り得られた累積粒度分布曲線において、90%累積時の微小粒子側から見た粒子径の値であると定義する。
【0016】
(化粧料組成物)
本発明の一態様における化粧料組成物は、澱粉粒子と、前記澱粉粒子の表面の少なくとも一部を被覆し、脂肪酸を含有する滑沢剤と、を有し、前記澱粉粒子と前記滑沢剤との総質量に対する前記滑沢剤の質量は、0.3質量%~20質量%である。
【0017】
本明細書における澱粉とは、α1-4結合のD-グルカンを主鎖とする多糖である。澱粉粒子の主成分は、α1-4結合のD-グルカンであるアミロースと、アミロースを主鎖とし、側鎖としてα1-6結合の側鎖が加わったアミロペクチンである。アミロースとアミロペクチンの割合は、その原料により異なるが、一般的に澱粉粒子全体に対するアミロペクチンの含有量は70~80質量%である。ハイアミロース種である場合は、澱粉粒子全体に対するアミロースの含有量が60~70質量%である。
【0018】
澱粉粒子としては、その由来に基づき、コーンスターチ、米澱粉、ジャガイモ澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、小豆澱粉、エンドウ澱粉、緑豆澱粉等が挙げられる。形状に丸みがあることから、コーンスターチが好ましい。
【0019】
澱粉粒子としては、上記材料を混合してもよい。例えば、コーンスターチと米澱粉を混合して原料とする場合、澱粉粒子全体の総質量に対するコーンスターチの質量は、30~95質量%であり、60~90質量%であることが好ましい。
【0020】
本明細書における澱粉は、化工澱粉であってもよい。化工澱粉とは、澱粉本来の物理的性状(例えば高粘性、冷却時のゲル化性等)を改善する目的で、天然の原料から入手した澱粉粒子に、酵素的又は化学的に加工を加えたものである。澱粉に対する酵素的又は化学的加工は、一種であってもよく、複数の酵素的又は化学的加工を組み合わせてもよい。本願で用いることのできる化工澱粉としては、酢酸デンプン、酸化デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、エステル化デンプン、グラフト重合デンプン、カチオンデンプン、デキストリン、加水分解デンプン、加水分解水添デンプン、ヒドロキシプロピルリン酸化デンプン等が挙げられる。また、アクリル酸ナトリウムグラフトデンプン、オクテニルコハク酸デンプンカルシウム、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム及びオクテニルコハク酸デンプンアルミニウム等の化工澱粉に金属塩を付加した化工澱粉誘導体であってもよい。
【0021】
本明細書における澱粉は、天然の原料から入手した澱粉粒子に物理的処理を行った加工澱粉であってもよい。本願で用いることのできる加工澱粉としては、デンプンを糊化させたアルファ化デンプンや湿熱処理デンプン等が挙げられる。
【0022】
澱粉粒子の平均粒径は、2μm以上80μm以下であり、好ましくは5μm以上20μm以下である。5μm以上20μm以下であると、肌上での感触が良好となる。
【0023】
本明細書において、原料となる澱粉は、市販品を用いるか、又はそれ自体公知の方法に従って、とうもろこし、米、ジャガイモ、タピオカ等から製造することができる。また、原料となる化工澱粉は、市販品を用いるか、又はそれ自体公知の方法に従って、前記澱粉に適宜化学的な処理を行うことにより容易に製造及び入手することができる。
【0024】
滑沢剤は、少なくとも脂肪酸を含有する。本明細書において、滑沢剤が脂肪酸を含有する、とは、滑沢剤が脂肪酸塩又は脂肪酸エステルである場合や、滑沢剤が脂肪酸又は脂肪酸エステルを成分として含んでいる場合に限定されず、滑沢剤が構造の一部に脂肪酸塩又は脂肪酸エステルが含まれている成分を含んでいる場合も含む。
【0025】
滑沢剤は、金属石鹸及び植物性油脂由来のロウからなる群より選択される少なくとも一種の物質を含んでいる。ここで「金属石鹸」とは、長鎖脂肪酸(例えば炭素数12~18の脂肪酸)と、ナトリウム及びカリウム以外の金属との塩の総称を表す。
【0026】
例えば、滑沢剤は、式(I)で表される金属石鹸の少なくとも一種を含有する。
【0027】
【化1】
(式中、Rは、分岐を有していてもよい炭素数11~17の飽和炭化水素基及び分岐を有していてもよい11~17の不飽和炭化水素基(Rで表される基は、それぞれ独立して、ヒドロキシ基、アルコキシル基、カルボキシル基及びオキソ基からなる群より選択される少なくとも1つの基によって置換されていてもよい)からなる群より選択され、そして、Mは2価のマグネシウムイオン、亜鉛イオン又はカルシウムイオンである。)
【0028】
炭素数11~17の飽和炭化水素基としては、例えば、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基等が挙げられる。
【0029】
炭素数11~17の不飽和脂肪酸基としては、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基等が挙げられる。
【0030】
式(I)で表される金属石鹸としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸亜鉛及びパルミチン酸亜鉛等、又はこれらの混合物が挙げられる。式(I)で表される金属石鹸としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、及びステアリン酸カルシウムが好ましく、ステアリン酸亜鉛がより好ましい。
【0031】
植物性油脂由来のロウは、ワックスとも称され、植物由来の高級脂肪酸(例えば炭素数12~24の脂肪酸)と、1価又は2価の高級アルコール(例えば炭素数8~22のアルコール)とのエステルを主成分とする物質であり、常温(例えば23℃)で固体の物質である。ここで「主成分」とは、前記ロウ又はワックス全体の質量に対し、60質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。より具体的にはカルナウバロウ及びキャンデリラロウ等が挙げられる。ここで「カルナウバロウ」とは、カルナウバヤシの葉及び葉柄から抽出されるロウを意味し、セロチン酸ミリシル等のエステルを主成分とする物質である。「主成分」とは前記の意味を有する。「キャンデリラロウ」とは、キャンデリラ植物の茎から抽出したロウを意味し、ヘントリアコンタン(C3164)を主成分とし、シトロステロール等を含む物質である。
【0032】
本明細書において、滑沢剤は、市販品を用いるか、又はそれ自体公知の方法に従って、容易に製造及び入手することができる。
【0033】
本明細書において、「滑沢剤が澱粉粒子の表面の少なくとも一部を被覆している」とは、滑沢剤が澱粉粒子の表面の少なくとも一部に付着し、前記滑沢剤が前記澱粉粒子の少なくとも一部を覆っていることを意味する。ここで「付着」とは、滑沢剤と澱粉粒子との分子間力等によって比較的容易に離脱可能な程度に結合している結合状態を含み、また、滑沢剤と澱粉粒子とが圧着されて澱粉粒子の表面に滑沢剤が固定化された結合状態を含む。
後者の結合状態にすることを、本明細書では「滑沢剤と澱粉粒子とを複合化する」と称する場合があり、「複合化」によって、澱粉粒子の表面の少なくとも一部に滑沢剤層を形成することを「コーティング」と称する場合もある。
【0034】
本明細書において、滑沢剤が澱粉粒子の表面に比較的容易に離脱可能な程度に付着して、澱粉粒子の表面の少なくとも一部を被覆していれば澱粉粒子の特性を本発明に適した状態に改質できる場合があるが、本発明に係る化粧料組成物が化粧品に配合されて使用されることに鑑みると、化粧品の内部においてもかかる化粧料組成物の構造が維持されているように、滑沢剤と澱粉粒子とが複合化されていることがより好ましい。
【0035】
本発明の1つの側面において、澱粉粒子の表面を滑沢剤と複合化するように覆うことにより、滑沢剤が、澱粉粒子の表面において滑沢剤層として成膜(コーティングともいう)されている。
【0036】
化粧料組成物に含まれる滑沢剤の質量は、澱粉粒子と滑沢剤との総質量に対して0.3質量%~20質量%であり、0.5質量%~15質量%が好ましく、1質量%~10質量%がより好ましく、1質量%~7質量%がさらに好ましい。澱粉粒子と滑沢剤との総質量に対し、滑沢剤の質量が0.3質量%以上であれば、澱粉粒子の表面に十分な量の滑沢剤が付着した状態となり、化粧料組成物を化粧品に添加した際の肌上での伸びを向上することができる。滑沢剤の質量が5質量%以上であれば、さらに化粧料組成物の耐腐敗性を向上させることができる。澱粉粒子と滑沢剤との総質量に対し、滑沢剤の質量が20質量%以下であれば澱粉粒子の表面に付着されない滑沢剤による流動性の阻害が起こり難い。
【0037】
化粧料組成物は、澱粉粒子の表面を滑沢剤層が被覆していることにより、澱粉粒子単体である場合より粉体としての流動性が高い。具体的には、Carrの指数表に基づく流動性指数が60以上であり、好ましくは63以上であり、さらに好ましくは65以上である。流動性指数は高いほど好ましいが、上限としては、例えば85が挙げられる。
【0038】
Carrの指数表に基づく流動性指数は、測定対象物の圧縮度、安息角、スパチュラ角、及び均一度の測定結果を、Carrの指数表に基づいて指数化し、その指数合計を算出することで得られる(Carr, R. L.: Evaluating flow properties of solids. Chem. Eng. 1965; 72: 163-168参照)。流動性は、指数合計が40以上60未満の場合を「低い」、指数合計が60以上70未満の場合を「普通」、指数合計が70以上80未満の場合を「高い」、指数合計が80以上90未満の場合を「かなり高い」と評価する。圧縮度、安息角、スパチュラ角、及び均一度の測定方法は、以下の通りである。
【0039】
[圧縮度]
100cmの測定用容器に、測定試料である化粧料組成物をふるいに通しながら落下充填させ、前記容器が測定試料で満たされた状態の単位容積あたりの質量を「ゆるめかさ密度」とし、ストローク長50mmで200回タッピングを繰り返した後の試料の単位容積あたりの質量を「かためかさ密度」とする。圧縮密度は、式(1)により算出される。
圧縮度=[(かためかさ密度-ゆるめかさ密度)/かためかさ密度]×100 (%)・・・(1)
【0040】
[安息角]
漏斗を介して化粧料組成物100gを落下させ、漏斗先端から7cm下の基底板上に堆積体を形成した時の斜面が水平面となす角を測定する。
【0041】
[スパチュラ角]
スパチュラ(長さ8cm、幅2.2cm)を粉体の堆積体の底部に差し込み、スパチュラを静かに持ち上げ堆積体から取り出す。次にスパチュラを軽くたたき、堆積体を形成した時の斜面が水平面となす角を測定する。
【0042】
[均一度]
レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて測定されたる化粧料組成物の10%累積時の微小粒子側から見た粒子径(D10)を10%累積径とし、60%累積時の微小粒子側から見た粒子径(D60)を60%累積径としたとき、10%累積径と60%累積径との比(D10/D60)から算出される。
【0043】
本発明の一態様における化粧料組成物の平均粒径D50は、2μm以上80μm以下であり、好ましくは5μm以上40μm以下であり、より好ましくは5μm以上20μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上18μm以下である。化粧料組成物の平均粒径が2μm以上80μm以下であると、化粧料として使用した場合の肌上での感触が良好となる。なお、平均粒径D50は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて測定されたる化粧料組成物の50%累積時の微小粒子側から見た粒子径である。
【0044】
本発明の一態様における化粧料組成物の粒子径D10と粒子径D90の差である(D90-D10)は、20μm以下であることが好ましく16μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。粒子径D10と粒子径D90の差が小さいほど、粒子径のばらつきは小さいといえる。粒子径D10と粒子径D90の差が10μm以下であると、化粧料組成物を化粧品として使用したときの肌触りが向上する。すなわち、粒子径D10と粒子径D90の差が10μm以下であると、化粧料組成物を感触改良剤として用いることに優れる。本発明の一態様における化粧料組成物の粒子径D10と粒子径D90の差が10μm以下であることの理由として、化粧料組成物の製造における澱粉粒子の表面の少なくとも一部に滑沢剤を被覆する工程において、澱粉粒子の一次粒子の集合体である二次粒子が解砕されていることが考えられる。
【0045】
化粧料組成物の粒子径D10と粒子径D90の差の下限値は特に限定されないが、澱粉粒子の一次粒子の粒度分布を考慮すると、一例として3μmが挙げられる。
【0046】
化粧料組成物の粒子径D10と粒子径D90の差の上限値と下限値は任意に組み合わせることができ、例えば、化粧料組成物の粒子径D10と粒子径D90の差は、3μm以上20μm以下であることが好ましく、3μm以上16μm以下であることがより好ましい。
一例として、澱粉粒子がコーンスターチであり、滑沢剤がステアリン酸亜鉛を含む場合の化粧料組成物の粒子径D10と粒子径D90の差は、7μm以上10μm以下であることが好ましく、7μm以上9μm以下であることがより好ましい。このとき、滑沢剤の粒子に由来する1~8μm程度の頻度は、0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましい。滑沢剤のほぼすべてが澱粉粒子を被覆し、複合化されている状態であれば、滑沢剤に由来する粒子径の頻度は極めて小さくなるはずだからである。
【0047】
本発明の一態様における化粧料組成物の平均摩擦係数は、0.30以上0.55以下であり、好ましくは0.30以上0.50以下である。化粧料組成物の平均摩擦係数が、0.30以上0.55以下であることにより、化粧料として使用した場合、化粧料の肌上での伸びが良くなる。
【0048】
化粧料組成物の平均摩擦係数は、粉体層せん断力測定装置により測定することができる。具体的には、化粧料組成物を粉体層せん断力測定装置(ナノシーズ社製、NS-S500型)の上下二つのセルに充填し、90kPaの荷重をかけながらずらした際に生じる剪断応力(摩擦力)を測定する。
【0049】
本発明の一態様における化粧料組成物の平均動摩擦係数は、0.30以上0.48以下であり、好ましくは0.30以上0.45以下であり、より好ましくは0.30以上0.42以下である。化粧料組成物の平均動摩擦係数が、0.30以上0.48以下であると、化粧料として使用した場合、化粧料の肌上での伸びが良くなる。
【0050】
化粧料組成物の平均動摩擦係数は、静・動摩擦測定機により測定することができる。具体的には、スライドガラス上に固定された5cm×2cmの両面テープ上に、化粧料組成物30mgを計り取り、ニトリル手袋をつけた指先で均一に塗布してサンプルを作製する。静・動摩擦測定機(トリニティーラボ製、TL201Ts)を用い、室温22~25℃、相対湿度45~55%で、ウレタン製触覚接触子(接触面積1.5cm)を用いて、化粧料組成物を摺同速度10mm/秒、摺動距離20mm、垂直荷重30gの条件で摺り、表面摩擦測定を実施する。
平均動摩擦係数は、測定結果から摺動距離5~12mmの範囲における動摩擦係数の平均値を求め、5回測定して各平均動摩擦係数を算出しその平均値を得た。
【0051】
本明細書において、滑沢剤が澱粉粒子の表面に比較的容易に離脱可能な程度に付着している状態と比較して、滑沢剤と澱粉粒子とが複合化されて滑沢剤層が形成されている状態の方が滑沢剤層の表面が平滑になる傾向がある。また、滑沢剤と澱粉粒子とが複合化されて滑沢剤層が形成されていることにより、原料の澱粉粒子よりも粒子が真球形状に近づく傾向がある。
【0052】
本発明の一態様における化粧料組成物の比表面積は、澱粉粒子の種類に依存するが0.55m/g以上10.00m/g以下であることが好ましく、0.60m/g以上2.00m/g以下であることがより好ましい。化粧料組成物の比表面積が0.60m/g以上2.00m/g以下であると、化粧料組成物の表面が平滑であり、化粧品に添加した際の肌触りが向上する。
一例として、澱粉粒子がコーンスターチである場合の化粧料組成物の比表面積は、0.58m/g以上0.95m/g以下であることが好ましく、0.60m/g以上0.85m/g以下であることがより好ましい。
【0053】
本明細書において、「比表面積」は、BET(Brunauer,Emmet,Teller)法によって測定される値である。BET比表面積の測定では、吸着ガスとして窒素ガスを用いる。測定試料の粉末約1gを窒素雰囲気中、50℃で240分間乾燥させた後、全自動BET比表面積計(マウンテック社製、Macsorb(登録商標))を用いて測定することにより得られる値である。
【0054】
本発明の一態様における化粧料組成物は、乱反射性を有することが好ましい。乱反射性は、三次元変角光度計によって反射強度分布を測定することにより確認することができる。具体的には、三次元変角光度計(村上色彩技術研究所製、GP-200)を用いて、測定対象物の粉末約0.5gを均一に塗布した面に、入射角45°の光を照射した際の反射光の強度分布を-90°~90°の範囲で測定することで、乱反射性を確認することができる。本発明の一態様における化粧料組成物は、-90°~90°の範囲で測定された反射光の最大値を85%とした場合、-70°~70°の全範囲において、反射光の強度が30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。但し、本明細書において「-70°~70°の全範囲における反射光の強度」は、測定法の性質上、照射光の入射角における反射光の強度は含めないこととする。
一例として、澱粉粒子がコーンスターチであり、滑沢剤がステアリン酸亜鉛を含む場合の化粧料組成物は、-90°~90°の範囲で測定された反射光の最大値を85%とした場合、-70°~70°の全範囲において、反射光の強度が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0055】
本発明の一態様における化粧料組成物について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の一態様における化粧料組成物の概略断面図である。化粧料組成物1は、澱粉粒子11と、澱粉粒子の表面を被覆する滑沢剤層12と、を有している。図1では、澱粉粒子11の表面全体を滑沢剤層12が被覆している例を示している。
【0056】
本発明の一態様における化粧料組成物は、澱粉粒子を滑沢剤により覆っていることにより、澱粉粒子のみの場合と比較して、耐腐敗性を有している。これは、滑沢剤に含まれる脂肪酸が撥水性及び疎水性を有しているため、澱粉粒子内への水分の浸透を抑制し、微生物の増殖を抑制していると考えられる。このように、本発明の一態様における化粧料組成物は、澱粉粒子のような天然素材を用いた場合においても耐腐敗性を有している。
【0057】
本発明の一態様における化粧料組成物は、化粧品における感触付与剤として用いることができる。本発明の一態様における化粧料組成物は、上述のように平均摩擦係数が小さいため、特にパウダー化粧品における滑り性を向上させる感触付与剤として用いることができる。
【0058】
なお、本発明の一態様における化粧料組成物は、人体や人体の一部を剥離若しくは洗浄する目的で使用されるスクラブとして使用することも可能である。
【0059】
本発明の一態様における化粧料組成物は、澱粉粒子と、澱粉粒子の表面を被覆する滑沢剤層のみからなっていてもよい。
【0060】
(化粧料組成物の製造方法)
以下に本発明の一態様における化粧料組成物の製造方法について説明する。
本発明の一態様における化粧料組成物の製造方法は、澱粉粒子と、脂肪酸を含有する滑沢剤とを乾式混合することにより、前記滑沢剤の粒子を微細化するとともに、前記澱粉粒子の表面の少なくとも一部を前記滑沢剤により覆うことを含む。
【0061】
澱粉粒子と滑沢剤との乾式混合には、高せん断ミキサー又は乾式複合化処理機等が用いられる。高せん断ミキサー又は乾式複合化処理機等を用いることにより、澱粉粒子と滑沢剤とに高いせん断力を付与しながら混合することにより、澱粉粒子と滑沢剤とが複合化された化粧料組成物を作製することができる。
【0062】
高せん断ミキサーとは、装置内部の中心軸から垂直に張り出した軸の先端に取り付けられたパドルや羽根等と装置壁の間で、粉体にせん断力を与えることにより、混合と同時に母粒子表面(すなわち澱粉粒子表面)へ子粒子(滑沢剤)を付着させる装置である。具体的には、高せん断ミキサー(日本コークス工業社製、FMミキサ)等が挙げられる。高せん断ミキサーを用いて澱粉粒子と滑沢剤との乾式混合を行う場合、澱粉粒子と滑沢剤の総質量に対し、滑沢剤の質量が0.3質量%~20質量%となるよう前記澱粉粒子と前記滑沢剤とを混合する。澱粉粒子と滑沢剤の総質量に対し、滑沢剤の質量が0.3質量%以上であれば、澱粉粒子表面に十分な量の滑沢剤を付着させることができる。澱粉粒子と滑沢剤の総質量に対し、滑沢剤の質量が20質量%以下であれば澱粉粒子表面に付着されない滑沢剤による流動性の阻害が起こり難い。
【0063】
高せん断ミキサーで乾式混合を行う場合、一般的に乾式複合化処理機で乾式混合を行う場合より混合中の装置内部の温度が低い。例えば、高せん断ミキサーによる乾式混合中の温度は30~60℃である。より高い温度で乾式混合を行う場合、高せん断ミキサーに温水ジャケット(例えば水温75℃)を装着することができる。この場合の乾式混合中の温度は、好ましくは60~90℃である。乾式混合中の温度は、乾式複合化処理機を用いた場合と同様に、滑沢剤の融点に応じて設定され、滑沢剤が軟化する温度から滑沢剤の融点より低い温度に設定されることが好ましい。このように混合中の温度を設定することにより、滑沢剤が滑らかにすり潰され、澱粉粒子表面を概ね均一に覆うことで、澱粉粒子と滑沢剤とを複合化することができる。
【0064】
高せん断ミキサーを用いて澱粉粒子と滑沢剤との乾式混合を行う場合、回転数3000~7000rpmで1~60分間処理すること好ましく、回転数4000~7000rpmで5~30分間処理することがより好ましい。
【0065】
乾式複合化処理機とは、高せん断ミキサーより強力なせん断力を与えることが可能であり、高せん断ミキサーの場合より硬い材料を処理できる装置である。具体的には、複合化処理機(日本コークス工業社製、COMPOSI)等が挙げられる。乾式複合化処理機を用いて澱粉粒子と滑沢剤との乾式混合を行う場合、澱粉粒子と滑沢剤の総質量に対し、滑沢剤の質量が0.3質量%~20質量%となるよう前記澱粉粒子と前記滑沢剤とを混合する。澱粉粒子と滑沢剤の総質量に対し、滑沢剤の質量が1.0質量%以上であれば、澱粉粒子表面に十分な量の滑沢剤を付着させることができる。澱粉粒子と滑沢剤の総質量に対し、滑沢剤の質量が20質量%以下であれば澱粉粒子表面に付着されない滑沢剤による流動性の阻害が起こり難い。
【0066】
乾式複合化処理機で乾式混合を行う場合、乾式混合中の槽内の温度は、装置の規模に依存するが、30~100℃であり、好ましくは60~98℃であり、さらに好ましくは85~95℃である。乾式混合中の温度は、滑沢剤の融点に応じて設定され、滑沢剤が軟化する温度から滑沢剤の融点より低い温度に設定されることが好ましい。このように混合中の温度を設定することにより、滑沢剤が滑らかにすり潰され、澱粉粒子表面を概ね均一に覆うことで、澱粉粒子と滑沢剤とを複合化することができる。
【0067】
乾式複合化処理機で乾式混合を行う場合、上記温度範囲より槽内の温度が高くなることが懸念される場合は、例えば乾式複合化処理機に冷却水ジャケット(例えば水温4℃)を装着することにより槽内の温度を調整することができる。
【0068】
乾式複合化処理機を用いて澱粉粒子と滑沢剤との乾式混合を行う場合、回転数2000~6000rpmで1~60分間が好ましく、回転数2500~5000rpmで5~30分間処理することがより好ましい。
【0069】
澱粉粒子と滑沢剤とに高いせん断力を付与しながら混合することにより、澱粉粒子と滑沢剤とが衝突し、澱粉粒子が滑沢剤を微細化する。滑沢剤は脂肪酸を含有することから、澱粉粒子の吸油性により滑沢剤が澱粉粒子表面に付着する。滑沢剤は、澱粉粒子径に対し十分に微細化されていることから、澱粉粒子表面を概ね均一に覆うことができる。なお、上述のように滑沢剤は必ずしも澱粉粒子表面全体を覆っていなくてもよく、澱粉粒子表面全体の少なくとも90%を覆っていればよい。
【0070】
乾式混合する前の滑沢剤の平均粒径は、1.0μm以上であってよい。本発明の一態様における化粧料組成物の製造方法においては、澱粉粒子と滑沢剤とに高いせん断力を付与しながら混合することにより、滑沢剤を微細化することができるため、混合する前に滑沢剤を微細化処理しなくてもよい。よって、乾式混合する前の滑沢剤の平均粒径は、20μm以上であってよい。もちろん20μm以下となるよう微細化された滑沢剤を用いて乾式混合しても構わない。
【0071】
本発明の一態様における化粧料組成物の製造方法は、澱粉粒子と滑沢剤とを乾式混合するため、湿式混合と比較して1バッチあたりの製造量が多い。また、湿式混合において必須である溶媒の回収工程や乾燥工程が不要である。
【0072】
(化粧品)
本発明の一態様における化粧品は、上述の化粧料組成物を含む。以下に本発明の一態様における化粧品について説明する。
【0073】
本発明の一態様における化粧品の形態は、固形剤又は液剤等の各種剤型が挙げられる。
固形剤の化粧品としては、ファンデーション、白粉、頬紅、口紅、アイシャドウ、アイブロウ、及びコンシーラー等のメーキャップ化粧品等が挙げられる。また、本発明の固形剤の化粧品の形態は、ケーキ状、スティック状及び球状等が挙げられる。
【0074】
液剤の化粧品としては、化粧水、乳液、クリーム、美容液、化粧下地、マスカラ、日焼け止めクリーム、頭髪用化粧品、クレンジング化粧品、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、整髪料、ヘアトニック及び育毛剤等が挙げられる。
【0075】
本発明の一態様における化粧品は、化粧品全体の質量に対し、本発明の一態様における化粧料組成物を、0.5質量%~60質量%が好ましく、3質量%~30質量%含有することがより好ましく、5質量%~10質量%含有することがさらに好ましい。
【0076】
本発明の一態様における化粧料組成物を含有する固形剤の化粧品は、平均動摩擦係数が0.60以下であることが好ましく、0.59以下であることがより好ましい。好ましい平均動摩擦係数の範囲は、固形剤の化粧品の種類により異なる。例えば、固形剤の化粧品が頬紅である場合、平均動摩擦係数の範囲は、0.54以下であることが好ましく、0.53以下であることがより好ましく、0.52以下であることがより好ましい。固形剤の化粧品がアイシャドウである場合、平均動摩擦係数の範囲は、0.60以下であることが好ましく、0.59以下であることがより好ましい。固形剤の化粧品の平均動摩擦係数の下限値は特に限定されないが、一例として0.2が挙げられる。
【0077】
固形剤の化粧品がアイシャドウである場合、平均動摩擦係数は上述の化粧料組成物の平均動摩擦係数の測定方法により測定することができる。固形剤の化粧品が頬紅である場合は、サンプルとして金皿に頬紅を充填して固めたものを使用し、摺動距離を10mmとする以外は、化粧料組成物の平均動摩擦係数の測定方法と同じである。
【0078】
本発明の一態様における化粧品には、上記成分の他に、感触調整、肌への付着性向上及び化粧持続性の向上等を目的とし、油剤を含有することができる。このような油剤としては、通常、化粧品に用いられるものであれば何れでもよく、例えば、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、プリスタン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、オゾケライト、セレシン、カルナウバロウ、ミツロウ、ラノリン、ラノリンアルコール、液状ラノリン、硬質ラノリン、ポリブテン、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、セタノール、ステリルアルコール、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オレイン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリオクタン酸グリセリン、トリイソステアリン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン、オリーブ油、サフラワー油、アボカド油、マカデミアナッツ油、ホホバ油、小麦胚芽油、茶実油、卵黄油、及びミンク油等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0079】
本発明の一態様における化粧品は、上記成分の他に、着色剤、紫外線遮蔽剤、賦形剤、及び感触調整剤等の目的で、前記化粧料組成物以外の粉体を含有する。このような粉体は、通常、化粧品に用いられる粉体であればよく、例えば、黄酸化鉄、ベンガラ、黒酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、雲母チタン、酸化クロム、水酸化クロム、オキシ塩化ビスマス、群青、紺青、酸化チタン被覆処理雲母、コチニール被覆処理雲母、カラミン被覆処理雲母、酸化クロム被覆処理雲母、カラミン、タール系色素、微粒子化酸化亜鉛、微粒子化酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム、酸化ジリコニウム、シルクパウダー、シリカ、タルク、マイカ、及びカオリン等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。尚、これら粉体は、通常公知の処理剤により表面処理を施して用いても良い。
【0080】
本発明の一態様における化粧品は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤は、分散剤及び感触調整剤等の目的で用いられるものであり、グリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物等の非イオン性界面活性剤類、アルキルベンゼン硫酸塩等の陰イオン性界面活性剤類、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤類及びレシチン等の両性界面活性剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0081】
本発明の一態様における化粧品は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、通常、化粧品に用いられるものであればよく、例えば、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4,6-トリアニリノ-パラ-(カルボ-2’-エチルヘキシル-1’-オキシ)-1,3,5-トリアジン等のベンゾフェノン系、サリチル酸-2-エチルヘキシル等のサリチル酸系、パラジヒドロキシプロピル安息香酸エチル等のPABA系、パラメトキシ桂皮酸-2-エチルヘキシル等の桂皮酸系、及び4-tert-4’-メトキシジベンゾイルメタン等のジベンゾイルメタン系等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0082】
本発明に用いられる水溶性高分子は、肌への付着性向上、化粧持続性向上及び感触改良等を目的として含有されるものである。具体的には、メチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体類、アルギン酸ソーダ、カラギーナン、寒天及びゼラチンペクチン等の天然高分子類、及びポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、アルキル付加カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ソーダ、ポリメタクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸グリセリンエステル及びポリビニルピロリドン等の合成高分子類等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0083】
本発明の一態様における化粧品は、上記成分の他に、通常、化粧品に使用される成分、例えば、界面活性剤、油ゲル化剤、紫外線吸収剤、水溶性高分子、油溶性被膜形成剤、水性成分、パラオキシ安息香酸誘導体、フェノキシエタノール等の防腐剤、ビタミン類、美容成分及び香料等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0084】
本発明の一態様における化粧品の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記化粧料組成物及びその他の粉体を混合し、必要に応じて、油剤等を添加し、粉砕し、金皿や樹脂皿等の容器に圧縮成型する方法等が挙げられる。
【0085】
本発明の1つの側面における化粧料組成物は、以下であり得る。
[1]コーンスターチと、前記コーンスターチの表面の少なくとも一部を被覆し、ステアリン酸亜鉛である滑沢剤と、を有し、前記コーンスターチと前記滑沢剤との総質量に対する前記滑沢剤の質量は、1質量%~10質量%である、化粧料組成物。
[2]前記コーンスターチと前記滑沢剤とが複合化されている、[1]に記載の化粧料組成物。
[3]前記化粧料組成物の比表面積が0.60m/g以上0.85m/g以下である[1]又は[2]に記載の化粧料組成物。
[4]前記化粧料組成物の平均摩擦係数が0.30~0.55である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の化粧料組成物。
[5]前記化粧料組成物の平均粒径は、10μm以上20μm以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の化粧料組成物。
[6]Carrの指数表に基づく前記化粧料組成物の流動性指数が60以上である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の化粧料組成物。
[7]前記滑沢剤は、前記コーンスターチの表面の90%以上を被覆している、[1]~[6]のいずれか1つに記載の化粧料組成物。
[8][1]~[7]のいずれか1つに記載の化粧料組成物を含む化粧品。
【0086】
[9]コーンスターチと、ステアリン酸亜鉛を含有する滑沢剤とを乾式混合することにより、前記滑沢剤の粒子を微細化するとともに、前記コーンスターチの表面の少なくとも一部を前記滑沢剤により覆うことを含む、化粧料組成物の製造方法。
[10]前記コーンスターチと前記滑沢剤の総質量に対し、前記滑沢剤の質量が0.3質量%~20質量%となるよう前記コーンスターチと前記滑沢剤とを乾式混合する、[9]に記載の化粧料組成物の製造方法。
[11]乾式複合化処理機又は高せん断ミキサーを用いて前記コーンスターチと前記滑沢剤とを乾式混合する、[9]又は[10]に記載の化粧料組成物の製造方法。
[12]前記乾式混合前の前記滑沢剤の平均粒径が1.0μm以上である、[9]~[11]のいずれか1つに記載の化粧料組成物の製造方法。
[13]前記乾式混合は、30℃以上90℃以下で行われる、[9]~[12]のいずれか1つに記載の化粧料組成物の製造方法。
【実施例
【0087】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0088】
(Carrの指数表に基づく化粧料組成物の流動性の評価)
Carrの指数表に基づく流動性指数は、測定対象物の圧縮度、安息角、スパチュラ角、及び均一度の測定結果を、Carrの指数表に基づいて指数化し、その指数合計を算出することで得られた。流動性は、指数合計が40~59の場合を「低い」、指数合計が60~69の場合を「普通」、指数合計が70~79の場合を「高い」と評価した。圧縮度、安息角、スパチュラ角、及び均一度の測定方法は、以下の通り行った。
【0089】
[圧縮度]
100cmの測定用容器に、測定試料である化粧料組成物をふるいに通しながら落下充填させ、前記容器が測定試料で満たされた状態を「ゆるめかさ密度」とし、この容器に蓋をし、ストローク長50mmで200回タッピングを繰り返した後の試料容積「かためかさ密度」とした。圧縮密度は、式(1)により算出した。
圧縮度=(かためかさ密度-ゆるめかさ密度)/かためかさ密度×100 (%)・・・(1)
【0090】
[安息角]
漏斗を介して化粧料組成物100gを落下させ、漏斗先端から7cm下の基底板上に堆積体を形成した時の斜面が水平面となす角を測定した。
【0091】
[スパチュラ角]
スパチュラ(長さ8cm、幅2.2cm)を粉体の堆積体の底部に差し込み、スパチュラを静かに持ち上げ堆積体から取り出した。次にスパチュラを軽くたたき、堆積体を形成した時の斜面が水平面となす角を測定した。
【0092】
[均一度]
レーザー回折散乱粒度分布測定装置を用いて測定される化粧料組成物の10%累積時の微小粒子側から見た粒子径(D10)を10%累積径とし、60%累積時の微小粒子側から見た粒子径(D60)を60%累積径としたとき、10%累積径と60%累積径との比から算出した。
【0093】
(化粧料組成物の粒度分布の測定)
レーザー回折粒度分布計(島津製作所社製、SALD2300)を用い、測定対象物0.5gを、エタノール溶液10mlに投入し、測定対象物を分散させた分散液を得た。得られた分散液について粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得た。
【0094】
(化粧料組成物の平均摩擦係数の測定)
化粧料組成物の平均摩擦係数は、粉体層せん断力測定装置(ナノシーズ社製、NS-S500型)の上下二つのセルに化粧料組成物を充填し、90kPaの荷重をかけながらずらした際に生じる剪断応力(摩擦力)を測定した。
【0095】
(化粧料組成物又は化粧品の平均動摩擦係数の測定)
静・動摩擦測定機(トリニティーラボ製、TL201Ts)を用いて化粧料組成物又は化粧品の平均動摩擦係数を測定した。
[試験方法1]
スライドガラス上に固定された5cm×2cmの両面テープ上に、測定試料30mgを計り取り、ニトリル手袋をつけた指先で均一に塗布してサンプルを作製した。静・動摩擦測定機(トリニティーラボ製、TL201Ts)を用いて、室温22~25℃、相対湿度45~55%で、ウレタン製触覚接触子(接触面積1.5cm)を用いて、化粧料組成物を摺同速度10mm/秒、摺動距離20mm、垂直荷重30gの条件で摺り、表面摩擦測定を実施した。平均動摩擦係数は、測定結果から摺動距離5~12mmの範囲における動摩擦係数の平均値を求め、5回測定して各平均動摩擦係数を算出しその平均値を得た。
[試験方法2]
金皿に測定試料を充填して固めたものをサンプルとして作製した。静・動摩擦測定機(トリニティーラボ製、TL201Ts)を用いて、室温22~25℃、相対湿度45~55%で、ウレタン製触覚接触子(接触面積1.5cm)を用いて、化粧料組成物を摺同速度10mm/秒、摺動距離10mm、垂直荷重30gの条件で摺り、表面摩擦測定を実施した。これを5回繰り返し、摺動距離3~9mmにおける動摩擦係数の5回の測定値の各平均動摩擦係数を算出し、その平均値を得た。動摩擦係数の平均値は、上述の試験方法1と同一の方法で算出した。
【0096】
(化粧料組成物の接触角の測定)
両面テープを固定し、粘着面に一様に化粧料組成物を塗布した。塗布された化粧料組成物上にマイクロピペットで水5μLを滴下し、静置した。静置から一分間経過後、デジタルカメラで水滴を撮影し、撮影された画像から水滴と化粧料組成物塗布面との接触角を測定した。
【0097】
(化粧料組成物の耐腐敗性の評価)
化粧料組成物の耐腐敗性は、生菌数により評価した。具体的には、希釈瓶に化粧料組成物1.0gと滅菌済みの生理食塩水(0.84%塩化ナトリウム水溶液)を加えて適宜希釈する。これをよく懸濁した後、一般細菌検査用ペトリフィルムに1mL滴下し、35℃で48時間培養することにより、化粧料組成物を製造した直後と、25℃、湿度45%下で3か月間静置した後の生菌数を測定した。
【0098】
(化粧料組成物の反射強度分布の測定)
三次元変角光度計(村上色彩技術研究所製、GP-200)を用いて、測定対象物の粉末約0.5gを均一に塗布した面に、入射角45°の光を照射した際の反射光の強度分布を-90°~90°の範囲で測定した。
【0099】
(化粧料組成物の比表面積の測定)
吸着ガスとして窒素ガスを用い、測定試料の粉末約1gを窒素雰囲気中、50℃で240分間乾燥させた後、全自動BET比表面積計(マウンテック社製、Macsorb(登録商標))を用いて測定した。
【0100】
(化粧品のブラシへの付着量の測定)
金皿に測定試料を充填して固めたものをサンプルとして作製した。ブラシ(刷毛部分の長さが30mm、幅が20mm、厚さが10mm)で、一方向に3cm擦り取ることを10回繰り返し、ブラシについた測定試料の質量を分析用電子天秤(エー・アンド・デイ社製、HR-150AZ)により測定した。
【0101】
(化粧品の官能評価)
化粧料組成物0.6g、ベースパウダーとしてマイカ、シリカ、二酸化チタン及び酸化亜鉛の混合物4.5g、及び着色剤0.9gを混合し、ファンデーションを得た。得られたファンデーションについて官能評価を行った。評価項目は、「のびやすさ」、「つきやすさ」、「肌なじみ」、「きしまない」及び「しっとり感」とした。それぞれの評価項目について、評価者10名により評価し、使用感が良いものを5、悪いものを1とした5段階で評価した。各項目について、平均値が4以上の場合を使用感が良いと判断した。
【0102】
(実施例1)
澱粉粒子としてコーンスターチ(日本コーンスターチ社製、Y-3P、水分量:12.7%)を用い、滑沢剤としてステアリン酸亜鉛(日東化成工業社製)を用いた。コーンスターチ1900g、ステアリン酸亜鉛100g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し、5質量%)を乾式複合化処理機(日本コークス工業社製、FM20C/ICP仕様)によって、回転数を3960rpmとし、10分間混合し、化粧料組成物を得た。装置には20℃の冷却水を通しており、混合処理中の温度は、30~40℃であった。
【0103】
(実施例2)
ステアリン酸亜鉛を210g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し10質量%)とした以外は、実施例1と同じ方法で化粧料組成物を得た。
【0104】
(実施例3)
ステアリン酸亜鉛を335g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し15質量%)とした以外は、実施例1と同じ方法で化粧料組成物を得た。
【0105】
(実施例4)
澱粉粒子としてコーンスターチ(日本コーンスターチ社製、Y-3P、水分量:12.7%)を用い、滑沢剤としてステアリン酸亜鉛(日東化成工業社製)を用いた。コーンスターチ3800g、ステアリン酸亜鉛200g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し、5質量%)を高せん断ミキサー(日本コークス工業社製、FM20C/IFM仕様)によって、回転数を4900rpmとし、10分間処理し、化粧料組成物を得た。混合処理中の温度は、61℃であった。
【0106】
(実施例5)
ステアリン酸亜鉛を422g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し10質量%)とした以外は、実施例4と同じ方法で化粧料組成物を得た。
【0107】
(実施例6)
ステアリン酸亜鉛を671g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し15質量%)とした以外は、実施例4と同じ方法で化粧料組成物を得た。
【0108】
(実施例7)
澱粉粒子として米澱粉(日本コーンスターチ社製、食品用米澱粉、水分量:8.9%)を用い、ステアリン酸亜鉛を210g(米澱粉とステアリン酸亜鉛の総質量に対し10質量%)とした以外は、実施例1と同じ方法で化粧料組成物を得た。
【0109】
(実施例8)
ステアリン酸亜鉛を39g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し2質量%)とした以外は、実施例1と同じ方法で化粧料組成物を得た。
【0110】
(実施例9)
高せん断ミキサーに温水(75℃)ジャケットを装着し、混合処理中の温度が80℃以上となるようにした以外は、実施例4と同じ方法で化粧料組成物を得た。
【0111】
(実施例10)
澱粉粒子としてコーンスターチ(日本コーンスターチ社製、Y-3P、水分量:12.7%)を用い、滑沢剤としてステアリン酸亜鉛(日東化成工業社製)を用いた。コーンスターチ29.1g、ステアリン酸亜鉛0.9g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し、3質量%)を乳鉢によって10分間混合し、化粧料組成物を得た。コーンスターチ表面にステアリン酸亜鉛の付着が見られたが、化粧料組成物中にはステアリン酸亜鉛単独の粒子が残り、全てのステアリン酸亜鉛がコーンスターチ表面に被覆された状態とはならなかった。
【0112】
(実施例11)
コーンスターチ28.5g、ステアリン酸亜鉛を1.5g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し5質量%)とした以外は、実施例10と同じ方法で化粧料組成物を得た。
【0113】
(実施例12)
ステアリン酸亜鉛を59g(コーンスターチとステアリン酸亜鉛の総質量に対し3質量%)とした以外は、実施例1と同じ方法で化粧料組成物を得た。
【0114】
(比較例1)
未処理のコーンスターチ(日本コーンスターチ社製、Y-3P、水分量:12.7%)を比較例1の組成物とした。
【0115】
(比較例2)
コーンスターチ(日本コーンスターチ社製、Y-3P、水分量:12.7%)に2000gに対し、ステアリン酸亜鉛を加えず、実施例1と同じ条件で乾式複合化処理機(日本コークス工業社製、FM20C/ICP仕様)によって処理し、比較例2の組成物を得た。
【0116】
実施例1~6,9及び比較例1の化粧料組成物のCarrの指数表に基づく流動性の評価の結果を表1-1及び1-2に示す。
【0117】
【表1-1】
【0118】
【表1-2】
【0119】
(Carrの指数表に基づく化粧料組成物の流動性の評価結果)
実施例1~6及び9の化粧料組成物の流動性指数は、比較例1の化粧料組成物に対し1.43~1.66倍であった。流動性の評価は、比較例1の化粧料組成物では「低い」であったのに対し、実施例1~3、5、6及び9の化粧料組成物では「普通」、実施例4では「高い」に改善された。以上より、澱粉粒子の表面を滑沢剤が被覆することにより、澱粉粒子単体の場合と比較して、流動性が向上することが確認された。
【0120】
(混合処理における温度の影響)
また、混合処理における温度の影響について検討した。図2~4は、それぞれ実施例1、4及び9の化粧料組成物のSEM画像である。混合処理における最高温度が61℃である実施例4の化粧料組成物では、表面に滑沢剤の粒子形状が残ったままであることが確認された。一方で、混合処理における最高温度が90℃であった実施例9の化粧料組成物では、滑沢剤の粒子形状は確認されず、実施例1の化粧料組成物と同様の表面状態であることが確認できた。
【0121】
実施例1、4及び9の化粧料組成物における滑沢剤はステアリン酸亜鉛であり、融点は120℃である。実施例9において、混合処理における温度を80~90℃とすることにより、滑沢剤が軟化し、滑沢剤が十分にすり潰され、澱粉粒子表面を覆っていることが確認された。したがって、滑沢剤の融点に達しない程度の高温で混合処理を行うことにより、滑沢剤が軟化し、乾式複合化処理機ほどの高いせん断力を与えなくとも、滑沢剤が十分にすり潰され、澱粉粒子表面を覆うことができることが確認された。
【0122】
(化粧料組成物の粒度分布)
図5は、実施例12の化粧料組成物(丸で示す)と比較例1の未処理のコーンスターチ(三角で示す)の粒度分布を示す。比較例1の未処理のコーンスターチでは、一次粒子の集合体である二次粒子を含んでいるため、粒子径が約20~40μmの粒子が観察された。比較例1の粒子径D10は、11.69μm、粒子径D50は、16.95μm、粒子径D90は、25.81μmであった。比較例1の粒子径D10と粒子径D90の差は、14.12μmであった。また、比較例1の粒度分布の最頻値に対応する粒子径は、14.99μmであった。
【0123】
一方で、実施例12の化粧料組成物では、粒子径が約20~40μmの粒子は確認されず、比較例1と比較してシャープなピークを有する粒度分布が得られた。実施例12の粒子径D10は、11.47μm、粒子径D50は、15.16μm、粒子径D90は、19.76μmであった。実施例12の粒子径D10と粒子径D90の差は、8.29μmであった。また、実施例12の粒度分布の最頻値に対応する粒子径は、14.99μmであった。
【0124】
比較例1と比較してシャープなピークを有する粒度分布が得られた理由として、澱粉粒子であるコーンスターチを滑沢剤により被覆する工程において、コーンスターチの二次粒子が解砕されたこと考えられる。
【0125】
(化粧料組成物の平均摩擦係数)
実施例1、2、4及び5の化粧料組成物の平均摩擦係数を測定した結果は、それぞれ0.48、0.42、0.48及び0.53であった。比較例1及び球状ナイロン(東レ社製、SP-500)の化粧料組成物の平均摩擦係数を測定した結果は、0.62及び0.48であった。
【0126】
実施例5の化粧料組成物では、球状ナイロンに対し、平均摩擦係数が増加したが、比較例1の化粧料組成物と比較すると15%程度減少した。実施例1、2及び4の化粧料組成物では、比較例1の化粧料組成物に対し23%~32%平均摩擦係数が減少し、球状ナイロンの平均摩擦係数以下であった。
【0127】
以上より、澱粉粒子の表面を滑沢剤が被覆することにより、化粧料組成物の平均摩擦係数は、澱粉粒子単体の場合と比較して小さいことが確認され、且つ球状ナイロンと同等又はそれ以下となることが確認された。
【0128】
なお、実施例5の化粧料組成物での平均摩擦係数が他の実施例より大きかった原因としては、滑沢剤全てが澱粉粒子の表面に付着せず、滑沢剤のみの粒子が存在し、滑沢剤のみの粒子により摩擦力が上昇したためと考えられる。
【0129】
(化粧料組成物の平均動摩擦係数)
実施例10及び実施例12の化粧料組成物、比較例1、マイカ(ヤマグチマイカ社製)、ステアリン酸亜鉛(日東化成工業社製)、球状ナイロン(東レ社製、SP-500)、及びPMMA(ポリメタクリル酸メチル、東亜合成社製)の平均動摩擦係数を表2に示す。なお、これらの平均動摩擦係数は、試験方法1により測定を行った。
【0130】
【表2】
【0131】
マイカは、一般的に固形剤の化粧品の主成分として用いられる板状粒子である。実施例10及び実施例12の化粧料組成物は、マイカと比較してそれぞれ27%及び31%程度平均動摩擦係数が小さく、滑り性が高いことが分かった。また、比較例1と比較すると、実施例10及び実施例12の化粧料組成物は、それぞれ20%及び24%程度平均動摩擦係数が小さかった。ステアリン酸亜鉛と比較すると、実施例10及び実施例12の化粧料組成物は、それぞれ10%及び15%程度平均動摩擦係数が小さかった。
【0132】
ナイロン及びPMMAは、滑り性を向上させる目的で固形剤の化粧品に配合される真球状プラスチック粒子である。実施例10及び実施例12の化粧料組成物は、ナイロンと同等又はそれ以下の平均動摩擦係数であった。
【0133】
実施例10と実施例12とを比較すると、実施例12の平均動摩擦係数の方が5%程度小さく、滑沢剤が単にコーンスターチ表面に付着している場合より、滑沢剤がコーンスターチ表面をコーティングし複合化されている方が、滑り性が高いことが確認された。
【0134】
(化粧料組成物の接触角)
実施例1、実施例4、実施例8の化粧料組成物の接触角の測定結果は、それぞれ117°、125°、74°であった。比較例1では、水滴がコーンスターチに接触すると同時に吸水されてしまった。これにより、滑沢剤により澱粉粒子がコーティングされることにより、水滴の接触角が大きく、撥水性を有することが確認された。また、実施例1及び8の比較により、滑沢剤の割合が大きいほど、接触角が大きいことが確認された。
【0135】
(化粧料組成物の耐腐敗性)
実施例7の化粧料組成物及び米澱粉(食品用)の耐腐敗性評価の結果を表3-1に示す。
【0136】
【表3-1】
【0137】
澱粉粒子が米澱粉である実施例7の化粧料組成物と米澱粉とを比較すると、製造直後の生菌数では実施例7の化粧料組成物の方が23%生菌数が少なく、製造から3か月後の生菌数では実施例7の化粧料組成の方が38%生菌数が少なかった。これは、実施例7の化粧料組成物の澱粉粒子表面を滑沢剤で覆うことにより、撥水性及び疎水性が向上し、細菌の増殖が抑制されたためと考えられる。以上より、化粧料組成物の澱粉粒子表面を滑沢剤で覆うことにより、耐腐敗性が付与されることが確認された。
【0138】
(化粧料組成物の反射強度の測定)
実施例12の化粧料組成物の反射強度分布を測定した。実施例12の化粧料組成物のほかに、マイカ、球状ナイロン、及びPMMAについても反射強度分布を測定した。その結果を図6に示す。なお反射光の強度は、実施例12の化粧料組成物における最大反射強度を85%としたときの相対値で表している。
【0139】
ファンデーション等の化粧品においては、肌のしわや凹凸を目立ちにくくする目的で、ファンデーション等に含まれる粒子が乱反射性、所謂ソフトフォーカス効果を有することが好ましい。
【0140】
マイカは板状粒子であるため、入射光がほとんど正反射してしまう。PMMAは、乱反射性があり、ソフトフォーカス効果があるが、反射角0°付近での反射強度が弱い。
【0141】
実施例12の化粧料組成物は、乱反射性を有し、PMMAより反射角0°付近での反射強度が強いことから、PMMAよりソフトフォーカス効果が高いと言える。
【0142】
(化粧料組成物の比表面積)
実施例1、11、及び12と比較例1及び2の比表面積を測定した。その結果を表3-2に示す。
【0143】
【表3-2】
【0144】
ステアリン酸亜鉛がコーンスターチ表面を被覆している実施例1及び実施例12では、ステアリン酸亜鉛の割合が増えると(3質量%から5質量%に増加)、比表面積が増加する傾向(0.635m/gから0.814m/gに増加)がみられた。
【0145】
実施例1と実施例11を比較すると、ステアリン酸亜鉛の割合は5%と同一だが、実施例11の比表面積は0.996m/gとなった。実施例1と実施例11とで比表面積に差がある原因として、実施例1はステアリン酸亜鉛がコーンスターチ表面を被覆し、ステアリン酸亜鉛がコーンスターチとが複合化されている状態であるのに対し、実施例11ではステアリン酸亜鉛単独の粒子が残り、全てのステアリン酸亜鉛がコーンスターチ表面に被覆された状態ではなかったことが考えられる。
【0146】
比較例1及び比較例2の比表面積は、ほぼ同程度ではあったが、実施例1及び12と比較すると小さい値となった。比較例2では乾式複合化処理機によりコーンスターチの二次粒子が解砕され、比表面積が大きくなると思われたが、ステアリン酸亜鉛等の滑沢剤の非存在下では解砕された粒子が再度凝集し、実施例1及び12と比較して比表面積が小さい値となったものと考えられる。
【0147】
(化粧品の平均動摩擦係数)
(1)アイシャドウ
アイシャドウの感触改良剤として実施例12及び実施例10の化粧料組成物を配合した場合のアイシャドウの平均動摩擦係数を、試験方法1にて測定した。感触改良剤として、実施例12及び実施例10の化粧料組成物のほかに、比較例1のコーンスターチ、ステアリン酸亜鉛、球状ナイロン、及びPMMAを用い、アイシャドウの平均動摩擦係数について測定した。アイシャドウに含まれる各成分の配合割合を表4-1に、感触改良剤を含まないアイシャドウ及び各感触改良剤を含むアイシャドウの平均動摩擦係数を表4-2に示す。
【0148】
【表4-1】

【0149】
【表4-2】

【0150】
実施例12及び実施例10の化粧料組成物を含むアイシャドウは、感触改良剤を含まないアイシャドウと比較して、それぞれ9%及び4%平均動摩擦係数が小さかった。特に、実施例12の化粧料組成物を含むアイシャドウは、従来感触改良剤として用いられている球状ナイロンやPMMAと同程度まで平均動摩擦係数が小さくなることが分かった。また、ステアリン酸亜鉛単体は、感触改良剤として滑り性改善効果が得られないことが分かった。
【0151】
(2)頬紅
頬紅の感触改良剤として実施例8化粧料組成物を配合した場合の頬紅の平均動摩擦係数を、試験方法2にて測定した。感触改良剤として、球状ナイロンを用いた頬紅の平均動摩擦係数についても測定した。頬紅に含まれる各成分の配合割合は、頬紅の総質量に対し、マイカを主成分として52.5質量%又は47.5質量%、着色剤を13質量%、感触改良剤5質量%又は10質量%、その他成分として29.5質量%であった。各頬紅の平均動摩擦係数を表4-3に示す。
【0152】
【表4-3】
【0153】
実施例8の化粧料組成物を配合した頬紅は、球状ナイロンを配合した頬紅と同程度の平均動摩擦係数であることが確認された。さらに、球状ナイロンの配合割合を10質量%とするとかえって平均動摩擦係数が上昇することが確認された。一方で実施例8の化粧料組成物の配合割合を10質量%とすると、さらに平均動摩擦係数が低下し、頬紅ののびやすさを向上させることが示唆された。
【0154】
(化粧品のブラシへの付着量の測定)
「化粧品の動摩擦係数」(2)で用いた頬紅を用いて、化粧品のブラシへの付着量を測定した。その結果を表4-4に示す。
【0155】
【表4-4】
【0156】
球状ナイロンを含む化粧品と比較して、実施例8の化粧料組成物を含む化粧品は、ブラシへの付着量が増加した。また、化粧品における実施例8の化粧料組成物の配合割合を上げることにより、ブラシへの化粧品の付着量が増加した。一方で、球状ナイロンの割合を上げても、ブラシへの化粧品の付着量はほとんど増加しなかった。
【0157】
サンプルとして用いた頬紅のように、プレス等により粉体を固める化粧品においては、割れにくいことが重要である。実施例8の化粧料組成物をこのような化粧品に配合することにより、割れにくさを維持しつつ、ブラシへの付着量を改善することが可能である。
【0158】
(化粧品の官能評価)
実施例1、比較例1及び球状ナイロン(東レ社製、SP-500)をそれぞれ化粧料組成物として用いた化粧品の官能評価結果を表4-5に示す。
【0159】
【表4-5】
【0160】
球状ナイロンを用いた化粧品では、「のびやすさ」及び「つきやすさ」の評価が良かったが、「しっとり感」の評価に劣った。比較例1を用いた化粧品では、全体的に評価が低い結果となった。実施例1を用いた化粧品では、球状ナイロンを用いた化粧品と比較して、「肌なじみ」、「きしまない」及び「しっとり感」の項目において評価が高く、項目全体において4以上の高い評価となった。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明によれば、効率的に製造可能であり、肌上での伸びが良く、耐腐敗性に優れた、天然由来素材の化粧料組成物、この化粧料組成物を含む化粧料、及び化粧料組成物の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0162】
1…化粧料組成物、11…澱粉粒子、12…滑沢剤層
図1
図2
図3
図4
図5
図6