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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/18 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
F16H9/18 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020552950
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2019035330
(87)【国際公開番号】W WO2020084936
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018198804
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】黒木 淳至
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/151916(WO,A1)
【文献】特開2005-299698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィックスプーリと、
スライドプーリと、
前記フィックスプーリと、前記スライドプーリと、に挟まれた無端環状部材と、
前記フィックスプーリに固定され、プーリ受圧室の壁を構成するシリンダ筒部を有するシリンダ部材と、
前記プーリ受圧室に所定値以上の油圧が供給されたときに前記シリンダ部材と当接する位置に設けられたストッパ部材と、
を有する、無段変速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記ストッパ部材は、軸方向から視たときに前記シリンダ部材の最外周部とオーバーラップする位置に配置されている、無段変速機。
【請求項3】
請求項2において、
前記プーリ受圧室に供給される油圧が前記所定値未満であるときには、前記シリンダ部材は前記ストッパ部材と当接しない、無段変速機。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記プーリ受圧室に前記所定値以上の油圧が供給されたときに前記シリンダ部材が塑性変形する前に前記ストッパ部材と当接する、無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スライドプーリのシーブ面側から視て奥側に、プーリ油圧室の壁を構成するシリンダ部材が設けた無段変速機が開示されている。
【0003】
プーリ油圧供給用のアクチュエータの異常等により、予期せぬ高油圧がプーリ室に供給される場合があるが、通常は下記2点のいずれかの対応がとられている。
(A)そもそも高油圧がプーリ室に供給されないようにする。
例えば、所定油圧以上になるとオイルをリリースするバルブを設けて、プーリ油圧室に所定以上の油圧が供給されないようにする。
(B)所定油圧以上が供給されていてもシリンダ部材が変形しないようにする。
例えば、シリンダ部材は剛性を高めるべくシリンダ部材の板厚を厚くする。
【0004】
上記はいずれにせよ、シリンダ部材がそもそも変形しないようにする思想であるが、(A)の場合は部品点数の増加の要因となるし、(B)の場合は板厚増加に伴う重量増加の要因となる。
【0005】
そこで、部品点数の増加や重量増加を伴わずにシリンダ部材の変形を抑制できるようにすることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-263463号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、
フィックスプーリと、
スライドプーリと、
前記フィックスプーリと、前記スライドプーリと、に挟まれた無端環状部材と、
前記フィックスプーリに固定され、プーリ受圧室の壁を構成するシリンダ筒部を有するシリンダ部材と、
前記プーリ受圧室に所定値以上の油圧が供給されたときに前記シリンダ部材と当接する位置に設けられたストッパ部材と、を有する構成の無段変速機とした。
【0008】
本発明によれば、プーリ受圧室に所定値以上の油圧が供給されてシリンダ部材が変形するときに、ストッパ部材がシリンダ部材に当接する。これにより、部品点数の増加や重量増加を伴わずにシリンダ部材の変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】無段変速機の要部構成を説明する図である。
図2】無段変速機のプライマリプーリと前後進切替機構周りを説明する図である。
図3】プライマリプーリの要部を説明する図である。
図4】リアシリンダの外周の溝を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、車両用のベルト式の無段変速機1の場合を例に挙げて説明する。
図1は、無段変速機1の要部構成を説明する図である。
図2は、無段変速機のプライマリプーリ3と前後進切替機構5周りを説明する図である。
図3は、プライマリプーリ3の要部を説明する図である。図3の(a)は、バリエータ2の変速比が最Lowの場合のスライドプーリ32とリアシリンダ37との位置関係を説明する図である。図3の(b)は、バリエータ2の変速比が最Highの場合のスライドプーリ32とリアシリンダ37との位置関係を説明する図である。
図4は、リアシリンダ37の周壁部372の外周の溝38を説明する図である。図4の(a)は、図2におけるA-A断面図であり、図4の(b)は、図4の(a)におけるA-A矢視方向から周壁部372を見た展開図である。図4の(b)では、説明の便宜上、溝38の部分にハッチングを付して示している。
【0011】
図1に示すように、ベルト式の無段変速機1では、エンジン(図示せず)の回転駆動力が、トルクコンバータ(図示せず)を介して、前後進切替機構5に入力される。
前後進切替機構5は、遊星歯車組6と、前進クラッチ51と、後進ブレーキ52と、を有している。
前後進切替機構5では、前進クラッチ51が締結されると、トルクコンバータ側から入力された回転が、順回転でバリエータ2に出力される。後進ブレーキ52が締結されると、トルクコンバータ側から入力された回転が、逆回転でバリエータ2に出力される。
【0012】
バリエータ2は、一対のプーリ(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4)と、一対のプーリに巻き掛けられたベルトV(無端環状部材)と、を有している。
バリエータ2では、一対のプーリ(プライマリプーリ3、セカンダリプーリ4)におけるベルトVの巻き掛け半径を変更することで、前後進切替機構5側から入力された回転が、所望の変速機で変速されて、終減速機構(図示せず)側に出力される。
【0013】
プライマリプーリ3は、フィックスプーリ31(固定プーリ)と、スライドプーリ32(可動プーリ)とを有している。
フィックスプーリ31は、回転軸X1に沿って配置された軸部311と、軸部311の外周から径方向外側に延びるシーブ部312とを、有している。
【0014】
軸部311の長手方向の一端311aと他端311bには、それぞれベアリング34A、34Bが外挿されて固定されている。
軸部311の一端311aと他端311bは、それぞれベアリング34A、34Bを介して、サイドカバー13側の支持孔15と変速機ケース10側の支持部101で回転可能に支持されている。
【0015】
この状態において、軸部311の他端311bには、遊星歯車組6のキャリア64(図2参照)が備える連結部材641が相対回転不能に連結されている。
【0016】
スライドプーリ32は、フィックスプーリ31の軸部311に外挿された環状基部321と、環状基部321の外周から径方向外側に延びるシーブ部322と、を有している。
スライドプーリ32の環状基部321は、軸部311の外周にスプライン嵌合しており、スライドプーリ32は、フィックスプーリ31との相対回転が規制された状態で、軸部311の軸方向(回転軸X1方向)に移動可能に設けられている。
【0017】
フィックスプーリ31のシーブ部312と、スライドプーリ32のシーブ部322は、回転軸X1方向で間隔をあけて対向している。
プライマリプーリ3では、フィックスプーリ31のシーブ面312aと、スライドプーリ32のシーブ面322aの間に、ベルトVが巻き掛けられるV溝33が形成されている。
【0018】
図2に示すように、シーブ部322の外径側では、シーブ面322aとは反対側の受圧面322bに、円筒状のシリンダ部323が設けられている。
シリンダ部323は、回転軸X1に沿う向きで設けられており、シーブ部322から離れる方向に所定長さL1で形成されている。
【0019】
シリンダ部323の内周には、フロントプランジャ35の外周部35aが当接している。
フロントプランジャ35の外周部35aには、Dリング9が取り付けられており、シリンダ部323の内周と外周部35aとの隙間がDリング9で封止されている。
【0020】
フロントプランジャ35の内周部35bは、スライドプーリ32の環状基部321の外周に径方向外側から当接している。
フロントプランジャ35の内周部35bには、Dリング9が取り付けられており、環状基部321の外周と内周部35bとの隙間がDリング9で封止されている。
プライマリプーリ3では、フロントプランジャ35と、シーブ部322との間が、作動油圧が供給される油室R1となっている。
【0021】
環状基部321では、シーブ部322と反対側の端部に、小径部324が設けられている。
小径部324には、リング状のリアプランジャ36が圧入されている。リアプランジャ36の内周部36bは、小径部324のシーブ部322側(図中、右側)の段差部まで圧入された状態で固定されている。
この状態においてリアプランジャ36は、環状基部321との相対回転が規制された状態で、回転軸X1方向に移動不能に設けられている。
【0022】
リアプランジャ36の外周部36aは、リアシリンダ37の円筒状の周壁部372の内周に、回転軸X1側から当接している。
リアプランジャ36の外周部36aには、Dリング9が取り付けられており、周壁部372の内周と、外周部36aとの隙間がDリング9で封止されている。
【0023】
リアシリンダ37は、軸部311に外挿された円板部371と、円板部371の外周を全周に亘って囲む周壁部372と、から構成される。
円板部371の内周部371bには、軸部311が圧入されており、円板部371の内周部371bは、軸部311に設けた段部314と、軸部311に外挿されたベアリング34Aとの間に挟まれている。
【0024】
ベアリング34Aは、軸部311の外周に螺合したナットNで、回転軸X1方向の位置決めがされており、ベアリング34Aに隣接するリアシリンダ37は、スライドプーリ32から離れる方向への移動が、ベアリング34Aにより規制されている。
【0025】
周壁部372は、前記した円筒状のシリンダ部323の内径よりも小さい外径で形成されており、周壁部372の先端部372aは、シリンダ部323の内側で、回転軸X1方向からフロントプランジャ35に当接している。
周壁部372の先端部372aは、フロントプランジャ35のシーブ部322から離れる方向(図中、左方向)への移動を規制している。
【0026】
フロントプランジャ35は、外周部35aと内周部35bとが回転軸方向でオフセットしており、外周部35aの方が、内周部35bよりも、スライドプーリ32のシーブ部322側に位置している。
周壁部372の先端部372aは、フロントプランジャ35における外周部35a側の領域に、回転軸X1方向から当接している。
プライマリプーリ3では、リアプランジャ36とフロントプランジャ35とリアシリンダ37の周壁部372で囲まれた空間が、作動油圧が供給されるふたつめの油室R2となっている。
【0027】
スライドプーリ32では、シーブ面322aから見た奥側(図中、左側)で、油室R1と油室R2とが、フロントプランジャ35を間に挟んで隣接している。これら油室R1と油室R2とで、プライマリプーリ3側のプーリ受圧室を構成している。
そのため、1つずつのプーリ受圧室(油室R1、R2各々)の受圧面積を小さくすることができるので、プライマリプーリ3(シーブ部322、312)の外径の縮小が可能な構成となっている。
【0028】
フィックスプーリ31の軸部311では、油室R1、油室R2に作動用の油圧を供給するための軸内油路313が設けられている。
軸部311において軸内油路313は、サイドカバー13側(図中、左側)の一端311aに開口している。軸内油路313のサイドカバー13側(図中、左側)には、サイドカバー13に設けた支持筒152が遊嵌している。支持筒152には、円筒状のブッシュ153が外嵌しており、軸部311のサイドカバー13側は、軸内油路313に内嵌したブッシュ153で回転可能に支持されている。
この状態で、ブッシュ153の外周に設けたシールリングSは、ブッシュ153の外周と、軸内油路313の内周との間の隙間を封止している。
【0029】
サイドカバー13では、変速機ケース10との対向部に、ベアリング34Aの支持孔15が開口している。回転軸X1方向から見て支持孔15の中央部には、フィックスプーリ31の軸部311との干渉を避けるための凹部151が形成されている。凹部151の中央部には、前記した支持筒152が設けられている。
【0030】
支持筒152には、サイドカバー内の油路131を介して図示しない油圧制御回路から油圧(オイルOL)が供給される。支持筒152に供給された油圧は、軸内油路313を通って、スライドプーリ32に付設された油室R1、R2(プーリ受圧室)に供給される。
【0031】
プライマリプーリ3では、スライドプーリ32に付設された油室R1、R2(プーリ受圧室)への供給圧を調節することで、スライドプーリ32が回転軸X1方向に変位する。これにより、シーブ面312a、322aの間のV溝33の溝幅が、オイルOLの供給圧に応じて変更されて、プライマリプーリ3におけるベルトVの巻き掛け半径が変更される。
【0032】
図1に示すように、セカンダリプーリ4は、フィックスプーリ41(固定プーリ)と、スライドプーリ42(可動プーリ)とを有している。
フィックスプーリ41は、回転軸X2に沿って配置された軸部411(プーリ軸)と、軸部411の外周から径方向外側に延びるシーブ部412とを、有している。
スライドプーリ42は、フィックスプーリ41の軸部411に外挿された環状基部421と、環状基部421の外周から径方向外側に延びるシーブ部422と、を有している。
【0033】
フィックスプーリ41のシーブ部412と、スライドプーリ42のシーブ部422は、回転軸X2方向で間隔をあけて対向している。
セカンダリプーリ4では、フィックスプーリ41のシーブ面412aと、スライドプーリ42のシーブ面422aとの間に、ベルトVが巻き掛けられるV溝43が形成されている。
【0034】
フィックスプーリ41の軸部411には、回転軸X2方向の一方の端部411aと他方の端部411bに、ベアリング44A、44Bが外挿されている。
回転軸X2方向における軸部411の他方の端部411bは、ベアリング44Bを介して、変速機ケース10側の支持部102で回転可能に支持されている。
回転軸X2方向における軸部411の一方の端部411aは、ベアリング44Aを介して、サイドカバー13側の支持孔16で回転可能に支持されている。
【0035】
サイドカバー13では、変速機ケース10との対向部に、ベアリング44Aの支持孔16が開口している。回転軸X2方向から見て支持孔16の中央部には、フィックスプーリ41の軸部411との干渉を避けるための凹部161が形成されている。
【0036】
凹部161の中央部には、支持筒162が設けられている。支持筒162は、変速機ケース10側(図中、右側)に突出しており、支持筒162の先端側は、フィックスプーリ41の軸内油路413に遊嵌している。
支持筒162には、円筒状のブッシュ163が外嵌しており、軸部411のサイドカバー13側は、軸内油路413に内嵌したブッシュ163で回転可能に支持されている。
この状態で、ブッシュ163の外周に設けたシールリングSは、ブッシュ163の外周と、軸内油路413の内周との間の隙間を封止している。
【0037】
軸内油路413は、軸部411の一方の端部411aに開口している。軸内油路413は、軸部411内をフィックスプーリ41の回転軸X2に沿って直線状に延びており、軸部411に外挿されたスライドプーリ42の内径側を、回転軸X2方向に横切っている。
【0038】
軸内油路413の先端側(図中、右側)には、軸内油路413と軸部411の外周とを連通させる油孔414が設けられている。
前記した支持筒162には、サイドカバー内の油路132を介して図示しない油圧制御回路から油圧が供給される。支持筒162に供給された油圧は、軸内油路413を通って、軸部411の外径側に位置する油室R3に供給される。
【0039】
セカンダリプーリ4では、スライドプーリ42に付設された油室R3(プーリ受圧室)への供給圧を調節することで、スライドプーリ42が回転軸X2方向に変位する。これにより、シーブ面412a、422aの間のV溝43の溝幅が、供給圧に応じて変更されて、セカンダリプーリ4におけるベルトVの巻き掛け半径が変更される。
【0040】
スライドプーリ42のシーブ部422では、シーブ面422aとは反対側の受圧面422bに、シリンダ部423が設けられている。
シリンダ部423は、回転軸X2に沿う向きで設けられており、シーブ部422から離れる方向に所定長さL2で形成されている。
【0041】
シリンダ部423の内周には、プランジャ45の外周部45aが当接している。
プランジャ45の外周部45aには、Dリング9が取り付けられており、シリンダ部423の内周と外周部45aとの隙間がDリング9で封止されている。
【0042】
プランジャ45の内径側には、筒状の嵌合部451が設けられている。嵌合部451は、フィックスプーリ41の軸部411の外周にスプライン嵌合している。プランジャ45の嵌合部451は、ベアリング44Bと、軸部411の段部411cとの間で、回転軸X2方向の位置決めされている。
【0043】
プランジャ45は、嵌合部451に隣接する領域が、スライドプーリ42の環状基部421の外径側を、シーブ部422に近づく方向(図中、左方向)に延びたのち、外径側に屈曲している。
プランジャ45では、この外径側に屈曲した領域452に、スプリングSpの一端が、回転軸X2方向から当接している。スプリングSpの他端は、シーブ部422の受圧面422bに当接している。スプリングSpは回転軸X2方向に圧縮された状態で設けられており、スライドプーリ42は、スプリングSpから作用する付勢力で、V溝43の溝幅を狭める方向(バリエータ2の変速比を最High側にする方向)に押圧されている。
【0044】
図2に示すように、サイドカバー13におけるプライマリプーリ3側の領域では、ベアリング34Aの支持孔15に隣接する位置に、ボルト孔17aを有するボス部17が設けられている。
このボス部17は、回転軸X1周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0045】
ボルト孔17aは、軸線Xaに沿う向きで形成されており、サイドカバー13を厚み方向に貫通している。ここで、軸線Xaは、プライマリプーリ3の回転軸X1に平行な軸線である。
【0046】
サイドカバー13の内部には、ベアリング34Aの支持孔15を囲むリング状のリテーナ18が設けられている。リテーナ18は、ベアリング34Aの支持孔15からの脱落を阻止するために、支持孔15の開口径よりも小さい内径で形成されている。
【0047】
リテーナ18を、サイドカバー13の変速機ケース10側の面に位置決めした後、ボルト孔17aにボルトBを螺入すると、ボルトBの軸部B1が、サイドカバー13内でリテーナ18を軸線Xa方向に貫通する。これにより、リテーナ18がベアリング34Aのアウタレースを支持する位置に配置される。
【0048】
図3の(a)に示すように、サイドカバー13では、ボス部17のボルト孔17aの中心を通る軸線Xaの延長上に、前記したリアシリンダ37の周壁部372が位置している。
すなわち、ボルトBは、軸線Xa(回転軸X1)方向から視たときにリアシリンダ37の最外周部に位置する周壁部372とオーバーラップする位置に配置されている。
【0049】
そして、ボルトBの先端Bxは、リアシリンダ37の円板部371と周壁部372との境界部373に、軸線Xa方向から対向しており、境界部373との間に隙間CL1をあけて設けられている。
【0050】
この隙間CL1は、実験やシミュレーションの結果を踏まえて、プーリ受圧室(油室R1、油室R2)内に所定値以上の油圧が供給されてリアシリンダ37が変形した際に、リアシリンダ37の境界部373が、ボルトBの先端Bxに当接する幅に設定されている。
プーリ受圧室(油室R1、油室R2)内に所定値以上の油圧が供給される場合とは、一例として、図示しないコントロールバルブ内のバルブの不具合等が発生した場合である。
【0051】
そして、この当接するタイミングは、リアシリンダ37の変形が、弾性変形の領域を超えて塑性変形の領域に到達する前(降伏する前)となるように設定されている。塑性変形の領域に到達すると、プーリ受圧室(油室R1、油室R2)内の油圧が正常圧に戻っても、リアシリンダ37の形状が元に戻らなくなる場合があるからである。
【0052】
そのため、本実施形態では、リアシリンダ37の弾性変形までは許容しつつ、塑性変形を抑制できるようにするために、隙間CL1が設定されている。
即ち、リアシリンダ37の変形が始まったときに、ストッパ部材であるボルトBがリアシリンダ37とが当接するので、リアシリンダ37の塑性変形を阻止する。少なくとも、リアシリンダ37の塑性変形を必要最小限にとどめるようにしている。
【0053】
リアシリンダ37の塑性変形を抑えることができると、リアシリンダ37(円板部371、周壁部372)の厚みを薄くして、プライマリプーリ3を軽量化することが可能になる。
【0054】
なお、リアシリンダ37の円板部371と周壁部372との境界部373の外周には、R加工が施されている。ボルトBの先端Bxに当接したときに、境界部373周りが損傷などを受け難くするためである。
【0055】
ボルトBの先端Bxが対向する周壁部372では、回転軸X1に沿って直線状に延びる溝38が設けられている。
図4の(a)、(b)に示すように、回転軸X1の径方向から見て溝38は、円板部371と重なる領域から、周壁部372の先端部372aの近傍まで及ぶ回転軸X1方向の長さLxで形成されている。
溝38は、回転軸X1方向の全長に亘って等しい幅Wxで形成されている。
【0056】
周壁部372の外周において溝38は、回転軸X1周りの周方向に所定間隔(所定の幅Wx)で設けられている。溝38は、回転軸X1周りの周方向の全周に亘って設けられている。
周壁部372の外周では、溝38が形成された領域と、形成されていない領域が、周方向に同じ幅Wxで形成されていると共に、溝38が形成された領域と、形成されていない領域とが交互に位置している。
【0057】
周壁部372の先端部372aは、回転軸X1方向からフロントプランジャ35に当接する当接部である。この先端部372aには、油室R1に供給される油圧に応じた押圧力が、フロントプランジャ35側から作用する。
本実施形態では、先端部372a側の剛性と強度を確保するために、溝38は、周壁部372の先端部372aの近傍まで及ぶ回転軸X1方向の長さLxの範囲内で形成されている。
【0058】
溝38は、回転速度センサ120の被検出部としての利用と、リアシリンダ37の軽量化のための肉抜きを目的として設けられている。
周壁部372の外径側の円板部371寄りの位置には、回転速度センサ120が設けられており、回転速度センサ120は、検知面120aを周壁部372に向けて設けられている。この状態において回転速度センサ120の検出部である検知面120aは、径方向に向かって配置されている。
溝38では、検知面120aが対向する領域が、回転速度センサ120の被検出部として機能する領域である第1溝部381となっており、第1溝部381を除いた領域である第2溝部382が、肉抜き部となっている。
【0059】
溝38では、第1溝部381と第2溝部382とが直列に連なっており、第1溝部381のほうが円板部371側に位置している。
そして、回転軸X1方向における第1溝部381の長さLaは、第2溝部382の長さLbよりも短くなっている(La<Lb)。
【0060】
ここで、プライマリプーリ3では、バリエータ2における変速比の変更に連動して、スライドプーリ32を回転軸X1方向に変位させることで、V溝33の溝幅(回転軸X1方向の幅)が変更される。
ここで、V溝33の溝幅は、変速比が最Lowの時に最大となり(図3の(a)参照)、最Highの時に最小となる(図3の(b)参照)。
【0061】
そして、スライドプーリ32が回転軸X1方向に変位すると、スライドプーリ32のシリンダ部323もまた回転軸X1方向に変位する。
本実施形態では、回転軸X1方向に変位するシリンダ部323が、回転速度センサ120に干渉しないようにするために、第1溝部381の長さLaを設定している。
【0062】
そのため、第1溝部381は、回転軸X1の径方向においてシリンダ部323(プーリ筒部)とオーバーラップしていない。すなわち、本実施形態では、径方向から見て、スライドプーリ32の回転軸X1方向への変動に連動するシリンダ部323の移動範囲と、第1溝部381とが重ならないように設定されている。
一方、第2溝部382は、V溝33の溝幅が所定幅以上になると、径方向においてシリンダ部323とオーバーラップする。
【0063】
このように、回転速度センサ120の被検知部である第1溝部381が、バリエータ2の全変速比の領域において、シリンダ部323と径方向でオーバーラップしないようにすることで、回転速度センサ120とシリンダ部323との干渉を避けている。
【0064】
一方で、第2溝部382は、回転速度センサ120の被検知部として機能しない領域であるため、バリエータ2の所定の変速比の領域において、シリンダ部323と径方向でオーバーラップする。そして、第2溝部382が、シリンダ部323の内周側にまで及ぶ範囲に延在していることで、周壁部372の肉抜きによる軽量化への寄与が大きくなる。
【0065】
なお、第2溝部382は全変速比の領域においてシリンダ部323とオーバーラップする長さであることが軽量化の面から好ましいが、一部の変速比の領域においてオーバーラップし、他の一部の変速比の領域においてオーバーラップしないように設計しても良い。
【0066】
以上の通り、本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(1)無段変速機1は、
フィックスプーリ31と、
スライドプーリ32と、
フィックスプーリ31と、スライドプーリ32と、に挟まれたベルトV(無端環状部材)と、
フィックスプーリ31に固定され、油室R1、R2(プーリ受圧室)の周壁部372(シリンダ筒部)を有するリアシリンダ37(シリンダ部材)と、
油室R1、R2(プーリ受圧室)に所定値以上の油圧が供給されたときに、リアシリンダ37と当接する位置に設けられたボルトB(ストッパ部材)と、を有する。
【0067】
このように構成すると、油室R1、R2(プーリ受圧室)に所定値以上の油圧が供給されてリアシリンダ37が変形するときに、ボルトB(ストッパ部材)が、リアシリンダ37に当接して、リアシリンダ37の変形を抑制する。これにより、部品点数の増加や重量増加を伴わずにリアシリンダ37の変形を抑制できる。
【0068】
この際に、リアシリンダ37の弾性変形を許容しつつ、塑性変形が抑制されるように、ボルトBの位置やリアシリンダ37の厚みなどを設定し、リアシリンダ37の変形が始まったときに、塑性変形が生ずる前にリアシリンダ37をボルトBに当接させる。
そうすると、リアシリンダ37を塑性変形させない、若しくは、塑性変形を必要最小限に留めることができる。
これにより、所定値以上の油圧の供給が解消されると、リアシリンダ37は、速やかに元の形状に復帰するので、油室R1、R2にリアシリンダ37の変形に起因する支障が生ずることを好適に防止できる。
よって、リアシリンダ37の構成部位の厚みを薄くすることが可能となり、厚みが薄くなった分だけ、リアシリンダ37の軽量化が可能となる。
また、油室R1、R2(プーリ受圧室)に所定値以上の油圧が供給されないようにするための安全弁(バルブ)を別途用意する必要がないので、部品点数の増加を防ぐことができる。
【0069】
本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(2)ストッパ部材であるボルトBは、回転軸X1方向から視たときにリアシリンダ37の最外周部に位置する周壁部372とオーバーラップする位置に配置されている。
【0070】
リアシリンダ37がボルトBに当接した後に、リアシリンダ37が、ボルトBとの当接点を支点として、てこの原理で更に変形することは好ましくない。
リアシリンダ37の最外周部に位置する周壁部372付近にボルトBを設けることで、リアシリンダ37が変形した際に、ボルトBとの当接点を支点として、てこの原理で更に変形することを好適に防止できる。
【0071】
特に、リアシリンダ37は、ボルトBの延長線に沿って配置された筒状の周壁部372と、周壁部372のボルトB側の開口を封止する円板部371と、から有底筒形状に形成されている。そして、ボルトBの先端Bxを、円板部371と周壁部372との境界部373に対向する位置で、境界部373との間に隙間CL1をあけて配置した。
このように構成すると、円板部371と周壁部372との境界部373は、他の部位よりも剛性と強度が高いので、リアシリンダ37が変形した際に、境界部373がボルトBに当接するようにすることで、リアシリンダ37の変形をより好適に防止できる。
【0072】
なお、リアシリンダ37におけるボルトBが当接する位置は、リアシリンダ37を塑性変形させない、若しくは、塑性変形を必要最小限にとどめることができるので、境界部373以外の他の部位であっても良い。
【0073】
さらに、本実施形態では、ストッパ部材がボルトBである場合を例示したが、リアシリンダ37に接触して、リアシリンダ37の塑性変形を防止できるものであれば他のものであっても良い。例えば、サイドカバー13の内周に膨出部を設けて、リアシリンダがこの膨出部に当接して、塑性変形が抑制されるようにした構成としても良い。
【0074】
本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(3)油室R1、R2(プーリ受圧室)に供給される油圧が所定値未満であるときには、リアシリンダ37は、ストッパ部材であるボルトBと当接しない。
【0075】
ボルトBは、サイドカバー13(ケース)に固定されている固定要素であり、リアシリンダ37はプライマリプーリ3(プーリ)とともに回転する回転要素である。
そのため、リアシリンダ37と、ストッパ部材であるボルトBとを常に当接させると、干渉して騒音の原因となる。よって、油室R1、R2(プーリ受圧室)に供給される油圧が所定値未満である通常時には、リアシリンダ37とボルトBとが当接しないようにしておくことで、騒音の発生を好適に防止できる。
【0076】
本実施形態にかかる無段変速機1は、以下の構成を有している。
(4)油室R1、R2(プーリ受圧室)に所定値以上の油圧が供給されたときに、リアシリンダ37が塑性変形する前に、ストッパ部材であるボルトBと当接する。
【0077】
本発明は、リアシリンダ37を塑性変形させない、若しくは、塑性変形を必要最小限にとどめることができればよいが、リアシリンダの塑性変形をさせないことが好ましい。
上記規定は言い換えると、「前記プーリ受圧室に前記所定値以上の油圧が供給されたときに前記シリンダ部材が塑性変形する前に前記ストッパ部材と当接するように、前記シリンダ部材と前記ストッパ部材との距離が設定されている」という表現で表すことが可能である。
【0078】
なお、リアシリンダ37の周壁部372の外周に、回転軸X1方向に延びる溝38が形成されており、溝38が、回転軸X1周りの周方向に所定間隔で複数設けられている構成とした。
そのため、複数の溝38を設けたことで、隣接する溝38、38の間の領域が補強リブとして機能する。よって、リアシリンダ37がボルトBに当接した際に、周壁部372の部分での大きな変形の発生を抑制できるようになっている。
【0079】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
図1
図2
図3
図4