(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-28
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】水素生成方法
(51)【国際特許分類】
C12P 3/00 20060101AFI20220113BHJP
C02F 11/04 20060101ALI20220113BHJP
【FI】
C12P3/00 Z
C02F11/04 Z
(21)【出願番号】P 2021160972
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2021-10-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518413804
【氏名又は名称】株式会社グローバルサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100126620
【氏名又は名称】石井 豪
(72)【発明者】
【氏名】江幡 道士
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-209334(JP,A)
【文献】特開2016-049062(JP,A)
【文献】腐植土・フルボ酸について(エンザイム株式会社ホームページ),INTERNET ARCHIVE Wayback Machine [online], 2020年9月18日, [検索日 2021年10月21日], インターネット<URL: https://web.archive.org/web/20200918225403/https://www.enzyme.co.jp/about/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P1/00-41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素生成菌が生息する
レンコン水田水に、
少なくともグルコースを含むサツマイモ及び腐植物質を主成分とした濾材を投入することで水素を生成することを特徴とする水素生成方法。
【請求項2】
水素生成菌が生息する
レンコン水田水に
少なくともグルコースを含むサツマイモを投入することで、該水素生成菌による水素発酵を生じさせて水素を生成する水素生成方法であって、
前記
レンコン水田水に腐植物質を主成分とした濾材を投入することで、前記水素生成菌を増殖させるとともに、前記水素生成菌による水素の生成を阻害する要因となる前記
レンコン水田水のpHの低下を抑制することを特徴とする水素生成方法。
【請求項3】
水素生成菌が生息する
レンコン水田水に
少なくともグルコースを含むサツマイモ及び腐植物質を主成分とする濾材を投入し、所定期間経過後に、濾材は追加投入することなく、先に投入した量よりも少ない量の
前記サツマイモのみを追加投入することで、複数段階に亘り水素を生成することを特徴とする水素生成方法。
【請求項4】
前記サツマイモとして、商品価値が低く廃棄せざるを得ない焼き芋を用いるとともに、前記レンコン水田水として、栽培が完了した後のレンコン圃場から採取されるものを用いることを特徴とする請求項1、2又は3記載の水素生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生成菌等の嫌気性微生物により水素発酵を生じさせて水素を生成する水素生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の水素生成方法としては、従来から、環境水中に生息する水素生成菌等の嫌気性微生物に糖類等の有機物を分解させる(水素発酵)ことによって水素を生成する方法が知られている(特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-245219号
【文献】特開2007-159534号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、上述のような水素生成菌は、環境水のpHが概ね4.0~7.5であるときに活動し水素発酵を生じさせるが、水素発酵の過程では酢酸や酪酸等の酸が生成されることにより環境水のpHが低下し酸性化が進むため、水素生成菌の活動が鈍くなり、水素発酵が停滞することが知られている。また、水素発酵を促進することによって水素の発生量を増やすべく、環境水に投入する糖類等の有機物の量を増やした場合、上述の酸の生成量も増えることから、酸性化が進みやすい。そこで、従来においては、特許文献1~2にも示すように、水素生成菌による水素発酵の工程において、環境水を所定の時間だけ加熱する等、温度、反応時間等を工夫することで、環境水のpHを人為的に調整する必要があり、水素の生成に手間がかかるという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑み、水素生成の手間を軽減することができるとともに、効率的により多くの水素を生成させることが可能な水素生成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明は次のように構成されている。
(1)本発明に係る水素生成方法は、水素生成菌が生息する液体に、糖類及び腐植物質を主成分とした濾材を投入することで水素を生成することを特徴とする。
また、本発明に係る水素生成方法は、水素生成菌が生息する液体に糖類を投入することで、該水素生成菌による水素発酵を生じさせて水素を生成する水素生成方法であって、前記液体に腐植物質を主成分とした濾材を投入することで、前記水素生成菌を増殖させるとともに、前記水素生成菌による水素の生成を阻害する要因となる前記液体のpHの低下を抑制することを特徴とする。
【0007】
(2)また、本発明に係る水素生成方法は、前記糖類の投入量が、前記液体の1.0~2.0重量%であるようにしてもよい。
【0008】
(3)また、本発明に係る水素生成方法は、前記濾材の投入量が、前記液体の0.7~2.0重量%であるようにしてもよい。
【0009】
(4)また、本発明に係る水素生成方法は、水素生成菌が生息する液体に糖類及び腐植物質を主成分とする濾材を投入し、所定期間経過後に、濾材は追加投入することなく、先に投入した量よりも少ない量の糖類のみを追加投入することで、複数段階に亘り水素を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水素生成の手間を軽減することができるとともに、効率的により多くの水素を発生させることが可能な水素生成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る水素生成方法の実施形態を説明する。
【0012】
本実施形態の水素生成方法においては、水素を生成するための水素発酵を生じさせるために、栽培が完了した後のレンコン圃場から採取される水田水(以下、「レンコン水田水」ともいう)と、サツマイモを焼いたものである焼き芋(糖類)と、腐植物質を主成分とした濾材とが用いられる。
【0013】
レンコン水田水は、一般に、pHが概ね5.5~7.5の範囲の弱酸性の液体(環境水)であり、溶存酸素量が少ないため嫌気性微生物が多数存在する。
具体的には、レンコン水田水には、嫌気条件で水素発酵を生じさせて水素を生成する水素生成菌、嫌気条件でメタンを生成するメタン生成菌、乳酸を生成する乳酸菌、酪酸を生成する酪酸生成菌等の様々な嫌気性微生物が生息している。また、水素生成菌としては、例えば、乳酸菌とともにグラム陽性菌に属するクロストリジウム属の菌等が挙げられる。
本実施形態では、環境に配慮して、栽培が完了した後のレンコン圃場から採取可能なレンコン水田水をそのまま水素生成に用いるようにしている。これにより、レンコン水田水の有効活用、及びレンコン圃場に蓄積される汚泥の効率的な処理を図ることができる。
【0014】
サツマイモは、一般に、重量の約30%がデンプンであり、加熱することで(焼き芋とすることで)βアミラーゼ(酵素)の活性が高まり、デンプンがグルコースやマルトース等へと変換される。このグルコースやマルトース等を含む焼き芋(糖類)は、嫌気性微生物の糧となり、水素発酵等に利用される。
本実施形態では、環境に配慮して、例えば、サイズが小さい等の理由により商品価値が低く廃棄せざるを得ないような焼き芋をそのまま水素生成に用いるようにしている。これにより、廃棄せざるを得ないような焼き芋の有効活用を図ることができる。
【0015】
また、本実施形態では、例えば、レンコン水田水250gに対して、焼き芋を2.5g投入するというように、レンコン水田水の量に対して1.0重量%の焼き芋を投入している。焼き芋の投入量は、レンコン水田水の量の1.0~2.0重量%の範囲とするのが望ましい。
【0016】
濾材は、腐植酸(フミン酸)、フルボ酸等の腐植物質を主成分とする所定形状の生物濾材(生物濾過材)である。本実施形態では、腐植物質を乾燥させて粉末状としたものをペレット形状に固めて形成したものを用いている。
腐植物質は、含酸素官能基(ヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH))が、その構造中に多く含まれ、pH緩衝作用を有している。すなわち、一般に、酸やアルカリを加えるとpHは大きく変化するが、これらとともに腐植物質を加えるとpHの変化がわずかなものとなる(pH緩衝作用)。
また、腐植物質は、植物残滓、動物遺体、微生物遺体が土壌中で微生物分解を受けて生じた物質(例えば、腐植土)である。すなわち、腐植物質は動植物遺体から生成されているため、微生物の栄養源となり、上記水素生成菌の増殖を促進する作用も有する。
【0017】
また、本実施形態では、例えば、レンコン水田水250gに対して、濾材を2.5g投入するというように、レンコン水田水の量に対して1.0重量%の濾材を投入している。濾材の投入量は、レンコン水田水の量の0.7~2.0重量%の範囲とするのが望ましい。
【0018】
次に、上述のレンコン水田水、焼き芋、濾材を用いた水素の生成方法について説明する。
具体的には、密閉タンク内に、レンコン水田水を投入するとともに、このレンコン水田水の投入量の1重量%の焼き芋と1重量%の濾材とを投入する。そして、焼き芋と濾材とが投入されたレンコン水田水を攪拌した後、密閉タンクを密閉して所定期間(例えば、水素生成菌の活動が活発な4日間程度)静置する。なお、攪拌を行うことなくそのまま静置するようにしてもよい。
【0019】
密閉タンク内では、上述のレンコン水田水に生息する嫌気性微生物が、レンコン水田水内に投入された焼き芋を元に水素、酢酸、酪酸等を生成する。すなわち、レンコン水田水に生息する水素生成菌が、焼き芋に含まれるグルコースやマルトース等を糧に水素発酵を行う(水素を生成する)とともに、この水素発酵の過程で、酢酸や酪酸を副生成物として生成する(グルコースに基づく水素発酵の反応式:C6H12O6+2H2O→4H2+2CH3COOH+2CO2、C6H12O6→2H2+CH3CH2CH2COOH+2CO2)。また、酢酸は、レンコン水田水に生息するメタン生成菌によってメタンに変換される(2CH3COOH→2CH4+2CO2)。
【0020】
ここで、上記副生成物として酢酸や酪酸が生成されると、弱酸性のレンコン水田水のpHが急激に低下(例えば、レンコン水田水のpHを6.0とした場合、ここから1.5ほど低下する等)して急激な酸性化が進む。特に、レンコン水田水に焼き芋を投入したことで、この急激な酸性化は顕著となる。
一般に、水素生成菌の最適活動範囲は、pHが概ね4.0~7.5であるため、上記酸性化によってこの範囲から外れると、水素生成菌による水素生成が停滞してしまうこととなる。結果として、レンコン水田水の急激な酸性化は、水素生成菌による水素の生成を阻害する要因となる。
【0021】
しかしながら、本実施形態では、pH緩衝作用を有する濾材をレンコン水田水に投入しており、この濾材からpH緩衝作用を有する腐植物質がレンコン水田水内に溶出するため、レンコン水田水のpHの低下を防止する。この結果、水素生成菌による水素生成の停滞を防止することができる。
さらに、上述したように、腐植物質は動植物遺体から生成されているため、水素生成菌の栄養源となり、レンコン水田水の中での水素生成菌の増殖が促進される。この結果、水素生成菌による水素生成が活発となり、効率的により多くの水素を生成することができる。
【0022】
(評価実験)
(1)レンコン水田水のpH
レンコン水田水のpHを確認するための評価実験1を行ったので、その結果を下記表1に示す。
この評価実験1では、耐熱ねじ口瓶(NBO-500-SCI、ハリオサイエンス株式会社製)に、レンコン水田水250g(下記の表1~表3では単に「レンコン水」と表記)を投入し静置したケース1、レンコン水田水250g及び焼き芋2.5g(下記の表1~表3では単に「焼き芋」と表記)を投入し静置したケース2、レンコン水田水250g、焼き芋2.5g及び濾材2.5g(下記の表1~表3では単に「濾材」と表記)を投入し静置したケース3について、レンコン水田水のpHの変化を、pH計(D-71、pH電極:9625、株式会社堀場製作所製)によって確認した。なお、表1において、「初期pH」は静置開始初日のレンコン水田水のpHであり、「最終pH」は静置開始から4日経過後のレンコン水田水のpHを示す。
【0023】
【0024】
この表1に示すように、焼き芋のみを投入し濾材を投入しなかったケース2ではpHの変化量が-3.40であるのに対し、焼き芋に加え濾材を投入したケース3ではpHの変化量が-3.09である。すなわち、濾材を投入しなかった場合よりも濾材を投入した場合の方がpHの変化量が少なく、酸性化が抑制されており、腐植物質を主成分とした濾材によるpH緩衝作用が有効であることが確認できた。なお、レンコン水田水のみのケース1の場合、当然にして、pH変化量はほとんどない。
【0025】
(2)水素生成菌の数
上述したように、レンコン水田水に投入された濾材の主成分である腐植物質は水素生成菌の増殖を促進する作用も有することから、レンコン水田水内に生息する水素生成菌が増殖し、この結果、水素の生成が促進されることとなる。
そこで、水素生成菌の数を確認するための評価実験2を行ったので、その結果を下記表2に示す。この評価実験2では、上記ケース1、ケース2、ケース3について静置開始から4日経過後の水素生成菌(ここでは、グラム陽性菌に属するクロストリジウム属の菌)の数を、PCR検査機(次世代シーケンサーMiseqシステム、SY-410-1003、和研薬株式会社製)を用いて確認した。
【0026】
【0027】
この表2に示すように、焼き芋のみを投入し濾材を投入しなかったケース2ではクロストリジウム属の菌の数が10650であったのに対し、焼き芋に加え濾材を投入したケース3ではクロストリジウム属の菌の数が25527であった。すなわち、濾材を投入しなかった場合よりも濾材を投入した場合の方が、水素生成菌であるクロストリジウム属の菌の数が多くなっており、腐植物質を主成分とした濾材による水素生成菌の増殖を促進する作用が有効であることが確認できた。
【0028】
(3)生成された水素の量
また、水素生成量を確認するための評価実験3を行ったので、その結果を下記表3に示す。この評価実験3では、上記ケース1、ケース2、ケース3について静置開始から4日経過までに生成された水素の量を、高濃度可燃性ガス検知器(XP-3140、新コスモス電機株式会社製)によって確認した。なお、表3における「水素生成量」は、4日経過後における耐熱ねじ口瓶内の気体のうち水素が占める割合(水素濃度)を示すものである。
【0029】
【0030】
この表3に示すように、焼き芋のみを投入し濾材を投入しなかったケース2では水素生成量が11.0%であったのに対し、焼き芋に加え濾材を投入したケース3では水素生成量が16.0%であった。すなわち、濾材を投入しなかった場合よりも濾材を投入した場合の方が、水素生成量が多くなっていることが確認できた。
【0031】
(4)焼き芋投入量の適正範囲
また、レンコン水田水に投入する焼き芋の量の適正範囲を確認するための評価実験4を行ったので、その結果を下記表4に示す。
この評価実験4では、上記耐熱ねじ口瓶に、レンコン水田水250g(表4では単に「レンコン水」と表記)、0.5重量%の焼き芋1.25g及び濾材2.5g(表4では単に「濾材」と表記)を投入し静置したケース4、レンコン水田水250g、0.7重量%の焼き芋1.75g及び濾材2.5gを投入し静置したケース5、レンコン水田水250g、1.0重量%の焼き芋2.5g及び濾材2.5gを投入し静置したケース6、レンコン水田水250g、2.0重量%の焼き芋5.0g及び濾材2.5gを投入し静置したケース7、レンコン水田水250gに3.0重量%の焼き芋7.5g及び濾材2.5gを投入し静置したケース8について、静置開始から4日経過までに生成された水素の量を、上記高濃度可燃性ガス検知器によって確認した。なお、表4における「水素生成量」は、4日経過後における耐熱ねじ口瓶内の気体のうち水素が占める割合(水素濃度)を示すものである。
【0032】
【0033】
この表4に示すように、レンコン水田水の量の0.5重量%の焼き芋を投入したケース4では水素生成量が7.5%、レンコン水田水の量の0.7重量%の焼き芋を投入したケース5では水素生成量が7.6%、レンコン水田水の量の1.0重量%の焼き芋を投入したケース6では水素生成量が16.0%、レンコン水田水の量の2.0重量%の焼き芋を投入したケース7では水素生成量が17.7%、レンコン水田水の量の3.0重量%の焼き芋を投入したケース8では水素生成量が17.9%であった。すなわち、1.0重量%未満の焼き芋を投入した場合には水素生成量が少なく、2.0重量%を超える焼き芋を投入した場合には焼き芋の投入量の増加に対する水素生成量の増加の割合が低下することから、経済的により多くの水素を生成するために適正な焼き芋の投入量は、レンコン水田水の量の1.0重量%~2.0重量%の範囲であることが確認できた。
【0034】
(5)濾材投入量の適正範囲
また、レンコン水田水に投入する濾材の量の適正範囲を確認するための評価実験5を行ったので、その結果を下記表5に示す。
この評価実験5では、上記耐熱ねじ口瓶に、レンコン水田水250g(表5では単に「レンコン水」と表記)、1.0重量%の焼き芋2.5g(表5では単に「焼き芋」と表記)及び約0.25重量%の濾材0.62gを投入し静置したケース9、レンコン水田水250g、焼き芋2.5g及び0.5重量%の濾材1.25gを投入し静置したケース10、レンコン水田水250g、焼き芋2.5g及び約0.7重量%の濾材1.75gを投入し静置したケース11、レンコン水田水250g、焼き芋2.5g及び1.0重量%の濾材2.5gを投入し静置したケース12、レンコン水田水250g、焼き芋2.5g及び2.0重量%の濾材5.0gを投入し静置したケース13、レンコン水田水250g、焼き芋2.5g及び3.0重量%の濾材7.5gを投入し静置したケース14について、静置開始から4日経過までに生成された水素の量を上記高濃度可燃性ガス検知器によって確認した。なお、表5における「水素生成量」は、4日経過後における耐熱ねじ口瓶内の気体のうち水素が占める割合(水素濃度)を示すものである。
【0035】
【0036】
この表5に示すように、レンコン水田水の量の約0.25重量%の濾材を投入したケース9では水素生成量が10.0%、レンコン水田水の量の0.5重量%の濾材を投入したケース10では水素生成量が11.0%、レンコン水田水の量の約0.7重量%の濾材を投入したケース11では水素生成量が18.0%、レンコン水田水の量の1.0重量%の濾材を投入したケース12では水素生成量が16.0%、レンコン水田水の量の2.0重量%の濾材を投入したケース13では水素生成量が16.0%、レンコン水田水の量の3.0重量%の濾材を投入したケース14では水素生成量が15.0%であった。すなわち、0.7重量%未満の濾材を投入した場合には水素生成量が少なく、2.0重量%を超える濾材を投入した場合には2.0重量%の濾材を投入した場合と比較して水素生成量が若干減少していることから、経済的により多くの水素を生成するために適正な濾材の投入量は、レンコン水田水の量の0.7重量%~2.0重量%の範囲であることが確認できた。
【0037】
以上説明したように、本実施形態では、レンコン水田水に焼き芋と濾材とを投入することで、この焼き芋に含まれるグルコースやマルトース等を糧とするレンコン水田水中の水素生成菌による水素発酵を行えるとともに、投入した濾材によって水素生成菌の水素発酵の停滞を防止することができ、効率の良い水素の生成を行うことができる。特に、投入した濾材のpH緩衝作用によってレンコン水田水のpHの低下を防止することができ(換言すれば、濾材によってレンコン水田水のpHを自動的に調整しているともいえる)、従来のように、温度や反応時間の調整といったレンコン水田水のpHの低下を人為的に調整する手間がかからず、水素の生成を容易に行うことができる。
また、濾材に含まれる腐植物質は水素生成菌の栄養源となり、レンコン水田水の中での水素生成菌の増殖が促進されるため、水素生成菌による水素生成が活発となり、効率的により多くの水素を生成することができる。
しかも、本実施形態では、水素の生成にあたり、既に栽培の完了したレンコン圃場の水田水や廃棄対象となり得る焼き芋を用いており、この種の廃棄物の有効活用を図ることができ、廃棄物による汚染といった環境問題の解決の一助とすることができる。
【0038】
(変形例)
上述の実施形態では、レンコン水田水(水素生成菌が生息する液体)にグルコースを含む焼き芋(糖類)及び濾材(腐植物質を主成分とする濾材)を1回投入することで、この焼き芋に含まれるグルコースを糧とするレンコン水田水中の水素生成菌による水素発酵を生じさせて水素を生成するようになっていたが、これに限定されるものではない。
【0039】
例えば、レンコン水田水に焼き芋及び濾材を投入して水素発酵を生じさせた後、所定期間が経過してから、濾材は追加投入することなく、先に投入した量よりも少ない量の焼き芋のみ追加投入することで、複数段階に亘り水素を生成するようにしてもよい。
【0040】
より具体的には、第1段階として、レンコン水田水に、当該レンコン水田水の量の1.0~2.0重量%の範囲の焼き芋と0.7~2.0重量%の範囲の濾材を投入して静置する。この静置から所定期間(例えば、水素生成菌の活動が活発な4日間程度)が経過した後、第2段階として、第1段階で投入した焼き芋よりも少ない量(第1工程で投入した焼き芋の量の約3割程度が望ましい、例えば、第1段階でレンコン水田水の量の1.0重量%の焼き芋を投入した場合には、当該レンコン水田水の量の0.3重量%の焼き芋)を追加投入するものの、この第2段階においては濾材の追加投入は行わないようにしてもよい。
このようにした場合には、濾材を追加投入することなく、かつ最初に投入した焼き芋の量よりも少ない量の焼き芋を投入したのみで継続して水素の生成を行うことができるため、効率的に多くの水素を生成することができる。
なお、上記では2段階に亘り水素の生成を行っているものの、3段階以上に亘る水素の生成を行うようにしてもよい。ただし、水素の生成効率の観点から2段階までとするのが望ましい。
【0041】
(2段階目において追加投入する焼き芋の適正量、及び、適正段階数の評価)
2段階目においてレンコン水田水に追加投入する焼き芋の適正量、及び、水素生成の適正段階数を確認するための評価実験6を行ったので、その結果を下記表6に示す。
この評価実験6では、上記耐熱ねじ口瓶に、1段階目としてレンコン水田水250g(表6では単に「レンコン水」と表記)、1.0重量%の焼き芋2.5g及び1.0重量%の濾材2.5g(表6では単に「濾材」と表記)を投入し4日間静置したケース15及びケース16、2段階目としてケース15に対して0.3重量%の焼き芋0.75gを追加投入し4日間静置したケース17、2段階目としてケース16に対して1.0重量%の焼き芋2.5gを追加投入し4日間静置したケース18、3段階目としてケース17に対して0.3重量%の焼き芋0.75gを追加投入し4日間静置したケース19、3段階目としてケース18に対して1.0重量%の焼き芋2.5gを追加投入し4日間静置したケース20について、各静置期間経過後に生成された水素の量を、上記高濃度可燃性ガス検知器によって確認した。なお、表6における「水素生成量」は、各静置期間経過後における耐熱ねじ口瓶内の気体のうち水素が占める割合(水素濃度)を示すものである。
【0042】
【0043】
この表6に示すように、1段階目として1.0重量%の焼き芋を投入したケース15及びケース16では水素生成量が15.0%、2段階目としてケース15に対して0.3重量%の焼き芋を追加投入したケース17では水素生成量が15.0%、2段階目としてケース16に対して1.0重量%の焼き芋を追加投入したケース18では水素生成量が11.5%、3段階目としてケース17に対して0.3重量%の焼き芋を追加投入したケース19では水素生成量が9.7%、3段階目としてケース18に対して1.0重量%の焼き芋を追加投入したケース20では水素生成量が9.1%であった。
すなわち、2段階目として1段階目と同量の焼き芋を追加投入した場合よりも1段階目の3割程度の焼き芋を追加投入した場合の方が水素生成量が多いことから、経済的により多くの水素を生成するために2段階目においてレンコン水田水に追加投入する焼き芋の適正量は、1段階目の3割程度であることが確認できた。
また、2段階目における水素生成量よりも3段階目における水素生成量の方が少ないことから、経済的に多くの水素を生成するためには2段階の水素生成が適正であることが確認できた。
【0044】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形が可能である。
上述の実施形態では、水素を生成するための液体としてレンコン水田水を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、生ごみの処理に使用した処理水(生ごみには水素生成菌が含まれている)、他の嫌気性環境下で採取され水素生成菌が含まれる環境水等、水素生成菌が生息する液体であれば適宜採用可能である。
また、上述の実施形態では、水素を生成するための糖類としてグルコースやマルトースを含む焼き芋を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、生のサツマイモ(収穫した後、デンプンがグルコースに変化する程度寝かせたものが望ましい)、グルコースやマルトース以外の糖類(フルクトース、スクロース等)の穀物等、いわゆる糖類であれば適宜採用可能である。
【要約】 (修正有)
【課題】水素生成の手間を軽減することができるとともに、効率的により多くの水素を生成させることが可能な水素生成方法を提供する。
【解決手段】水素生成菌が生息する液体に糖類を投入することで、水素生成菌による水素発酵を生じさせて水素を生成する水素生成方法において、水素生成菌が生息する液体に腐植物質を主成分とした濾材を投入することで、水素生成菌を増殖させるとともに、水素生成菌による水素の生成を阻害する要因となる前記液体のpHの低下を抑制する。
【選択図】なし