(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20220113BHJP
【FI】
F16H57/04 D
(21)【出願番号】P 2021143346
(22)【出願日】2021-09-02
【審査請求日】2021-09-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000124188
【氏名又は名称】加茂精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003373
【氏名又は名称】特許業務法人石黒国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100124752
【氏名又は名称】長谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 政志
(72)【発明者】
【氏名】福岡 佑介
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-19435(JP,A)
【文献】特開2020-101271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の歯車に噛み合うピニオン、および、このピニオンに給油する給油部を備え、
前記ピニオンは、円柱状の複数のピンローラが、前記ピニオンの回転の軸方向と平行かつ円筒状に並ぶように配置され、それぞれのピンローラが歯先として前記他の歯車に噛み合う駆動力伝達装置において、
前記給油部は、
前記ピンローラに供給されるオイルの供給源であり、前記ピニオンが回転するときの前記ピンローラの最外周部の公転半径と実質的に同一の半径である円筒面を具備する給油体と、
前記円筒面が前記ピンローラの最外周部に接触するように前記給油体を付勢する付勢手段とを有し、
前記ピニオンの回転に伴い、前記ピンローラの最外周部が前記円筒面に摺設することで、前記給油体から前記ピンローラに給油し、
前記ピニオンの回転の軸方向を第1の方向と呼び、前記ピンローラの最外周部が公転するときに描く円の接線の内、特定の接線の方向を第2の方向と呼ぶと、
この付勢手段は、前記第1、第2の方向の両方と垂直な第3の方向に、少なくとも2か所で、前記給油体を付勢することを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力伝達装置において、
前記付勢手段は、自身が撓むことにより生じる弾性力によって前記給油体を前記第3の方向に付勢する付勢部材を具備し、
前記給油部は、前記付勢部材を前記給油体に対して前記第3の方向に進退させる進退手段を有することを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の駆動力伝達装置において、
前記付勢手段は、自身が撓むことにより生じる弾性力によって前記給油体を前記第3の方向に付勢する付勢部材を具備し、
前記給油部は、
前記付勢部材を、前記給油体の側に設けた第1の座とともに前記第3の方向に挟んで弾性力を発生させる第2の座を具備する座形成部材を有し、
前記座形成部材を前記第3の方向に進退させることで、前記付勢部材を前記給油体に対して前記第3の方向に進退させることができ、
さらに、前記座形成部材には、前記第2の座と相対的な位置を変えない一方側指標部が設けられ、
この一方側指標部は、前記第1の座と相対的な位置を変えない他方側指標部と、目視できる位置で係合しており、
前記給油体において前記円筒面が削られて後退すると、前記他方側指標部が前記一方側指標部から離れることを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3に記載の駆動力伝達装置の調節方法において、
前記円筒面の後退により、前記他方側指標部が前記一方側指標部から離れたときに、前記座形成部材を前記第3の方向に進退させることで、前記一方側指標部を前記他方側指標部に係合させることを特徴とする駆動力伝達装置の調節方法。
【請求項5】
他の歯車に噛み合うピニオン、および、このピニオンに給油する給油体を備え、
前記ピニオンは、円柱状の複数のピンローラが、前記ピニオンの回転の軸方向と平行かつ円筒状に並ぶように配置され、それぞれのピンローラが歯先として前記他の歯車に噛み合う駆動力伝達装置において、
前記給油体は、
前記ピンローラに供給されるオイルの供給源であり、前記ピニオンが回転するときの前記ピンローラの最外周部の公転半径と実質的に同一の半径である円筒面を具備し、
自身の弾性により、前記円筒面を前記ピンローラの最外周部に接触させることを特徴とする駆動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、
図20に示すように、ラック・アンド・ピニオン式の駆動力伝達装置100のピニオン101には、バックラッシの発生防止等を目的として、いわゆるピンローラ型が採用される場合がある(例えば、特許文献1参照。)。
ここで、ピンローラ型のピニオン101は、例えば、以下に説明する複数のピンローラ102と、これらのピンローラ102を支持する2つの支持体103とを備える。
【0003】
すなわち、ピンローラ102は、例えば、金属製の円柱体であり、2つの支持体103は、複数のピンローラ102を、ピニオン101の回転の軸方向と平行かつ円筒状に並ぶように、軸方向の両端で支持する。
そして、駆動力伝達装置100では、それぞれのピンローラ102を、歯先として他の歯車に噛み合わせつつ、例えば、ピニオン101を回転駆動する。
【0004】
ところで、このようなピンローラ型のピニオン101を用いた駆動力伝達装置100では、ピンローラ102と他の歯車とを円滑に嚙み合わせるため、歯の表面に給油する必要がある。
そこで、歯に、直接、手作業でオイルを塗布する煩雑さを回避するため、ピニオン101に給油部104を取り付けてピンローラ102に給油する構成が開示されている。
【0005】
すなわち、給油部104は、次のような給油体105および付勢手段106を有する。ここで、給油体105は、ピンローラ102に供給されるオイルの供給源であり、例えば、含油性樹脂である。また、給油体105は、ピニオン101が回転するときのピンローラ102の最外周部の公転半径と実質的に同一の半径である円筒面107を具備する。さらに、付勢手段106は、円筒面107がピンローラ102の最外周部に接触するように給油体105を付勢する。
【0006】
そして、給油部104は、ピニオン101の回転に伴い、ピンローラ102の最外周部が円筒面107に摺設することで、給油体105からピンローラ102に給油する。
このような態様により、駆動力伝達装置100では、ピンローラ102に給油して噛み合わせの円滑性を確保しようとしている。
【0007】
ところで、駆動力伝達装置100によれば、給油体105は、円弧形状に設けられ、付勢手段106を構成するコイルスプリング106a、106bは、円弧の複数の箇所において、それぞれの箇所における円弧の接線と垂直、かつ、ピニオン101の回転軸と垂直な方向、つまり、それぞれの箇所において、径方向に給油体105を付勢して円筒面107をピンローラ102に押し当てている。
【0008】
また、駆動力伝達装置100では、給油体105の両端をそれぞれ、フック108で引っ掛けて、給油体105全体を保持している。
そして、ピニオン101に対する給油能力は、ピンローラ102に対する押し当て力に応じて定まっており、ピンローラ102に対する押し当て力は、付勢手段106の付勢力、および、給油体105の弾性変形に伴う弾性力の和と略一致する。
【0009】
しかし、このような態様では、円筒面107が摩耗して後退すると、給油体105の弾性係数が大きく変動する。このため、押し当て力も大きく変動してしまい、ピニオン101に対する給油能力も大幅に低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示は、ピンローラ型のピニオンを備え、給油体からピンローラへ給油して他の歯車との噛み合わせを円滑にする駆動力伝達装置において、給油体の摩耗によるピンローラへの給油能力の低下を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の第1の態様によれば、駆動力伝達装置は、他の歯車に噛み合うピニオン、および、このピニオンに給油する給油部を備える。また、ピニオンは、円柱状の複数のピンローラが、ピニオンの回転の軸方向と平行かつ円筒状に並ぶように配置され、それぞれのピンローラが歯先として他の歯車に噛み合う。
【0013】
また、給油部は、次の給油体、および、付勢手段を有する。すなわち、給油体は、ピンローラに供給されるオイルの供給源であり、ピニオンが回転するときのピンローラの最外周部の公転半径と実質的に同一の半径である円筒面を具備する。また、付勢手段は、円筒面がピンローラの最外周部に接触するように給油体を付勢する。
そして、給油部は、ピニオンの回転に伴い、ピンローラの最外周部が円筒面に摺設することで、給油体からピンローラに給油する。
【0014】
さらに、ピニオンの回転の軸方向を第1の方向と呼び、ピンローラの最外周部が公転するときに描く円の接線の内、特定の接線の方向を第2の方向と呼ぶと、付勢手段は、第1、第2の方向の両方と垂直な第3の方向に、少なくとも2か所で、給油体を付勢する。
また、本開示の第2の態様の駆動力伝達装置によれば、給油体は、自身の弾性により、円筒面をピンローラの最外周部に接触させる。
これにより、本開示の駆動力伝達装置は、潜在的に、ピンローラ型のピニオンを備え、給油体からピンローラへ給油して他の歯車との噛み合わせを円滑にする駆動力伝達装置において、給油体の摩耗によるピンローラへの給油能力の低下を抑制する、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】駆動力伝達装置の内部を示す正面図である(実施例1)。
【
図2】駆動力伝達装置の斜視図である(実施例1)。
【
図3】駆動力伝達装置の内部を示す斜視図である(実施例1)。
【
図9】摩耗前の給油部の状態を示す説明図である(実施例1)。
【
図10】摩耗後の給油部の状態を示す説明図である(実施例1)。
【
図11】調節後の給油部の状態を示す説明図である(実施例1)。
【
図13】摩耗前の給油部における配置を示す説明図である(実施例2)。
【
図14】摩耗後の給油部における配置を示す説明図である(実施例2)。
【
図15】調節後の給油部における配置を示す説明図である(実施例2)。
【
図16】摩耗前の一方側、他方側指標部の係合構造を示す説明図である(実施例2)。
【
図17】摩耗後の一方側、他方側指標部の係合構造を示す説明図である(実施例2)。
【
図18】駆動力伝達装置の内部を示す正面図である(実施例3)。
【
図19】駆動力伝達装置の内部を示す斜視図である(実施例4)。
【
図20】摩耗前の駆動力伝達装置の内部を示す正面図である(従来例)。
【
図21】摩耗後の駆動力伝達装置の内部を示す正面図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示を実施するための形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
〔実施例1の構成〕
実施例1の駆動力伝達装置1(以下、伝達装置1と呼ぶ。)を、
図1~
図11を用いて説明する。
伝達装置1は、例えば、
図1に示すように、ピニオン2とラック3とを噛み合わせたラック・アンド・ピニオン式である。また、伝達装置1は、例えば、ピニオン2を収容するハウジング(図示せず)を移動させることで、各種の物品を移動させる。そして、例えば、ピニオン2を回転駆動することにより、ピニオン2の歯部をラック3の歯部に噛み合わせながらピニオン2をラック3に沿って進行させる。なお、ラック3の歯部は、所定のサイクロイド曲線に倣うプロフィールを有する。
【0018】
次に、ピニオン2の構成を説明する(
図1~
図3等参照。)。ピニオン2は、いわゆるピンローラ型である。
すなわち、ピニオン2は、円柱状かつ金属製の複数のピンローラ4と、複数のピンローラ4を、ピニオン2の回転の軸方向と平行かつ円筒状に並ぶように、軸方向の両端で支持する2つの支持体5A、5Bとを備える。なお、2つの支持体5A、5Bは、それぞれ、例えば、円筒付きフランジ型の支持体5Aと、円筒なしフランジ型の支持体5Bである。そして、伝達装置1は、それぞれのピンローラ4を歯先としてラック3の歯部に噛み合わせつつピニオン2を回転駆動することで、ピニオン2をラック3に沿って進行させる。
【0019】
ここで、支持体5A、5Bは、それぞれに、図示しないベアリングを収容する円孔がピンローラ4と同数だけ等角度間隔で設けられている。
また、支持体5A、5Bは、それぞれの円孔同士が互いに向かい合うように配置されており、それぞれのピンローラ4は、支持体5A、5Bの間を架け渡すように組み入れられている。さらに、ピンローラ4の軸方向の一端側、他端側の部分は、それぞれ、ベアリングを介して、それぞれの円孔内で回転可能に支持されている。
【0020】
また、伝達装置1は、ピンローラ4とラック3の歯部とを円滑に嚙み合わせるため、次のような給油部7を備える。
給油部7は、ピンローラ4に給油する部分であって、次の給油体8、および、付勢手段9を有する。
【0021】
まず、給油体8は、ピンローラ4に供給されるオイルの供給源であり、例えば、含油性樹脂である。また、給油体8は、ピニオン2が回転するときのピンローラ4の最外周部の公転半径と実質的に同一の半径である円筒面11を具備する(
図1等参照。)。
また、付勢手段9は、円筒面11がピンローラ4の最外周部に接触するように給油体8を付勢する。そして、付勢手段9は、ピニオン2の回転時にも、円筒面11をピンローラ4に押し当てることで、ピンローラ4に給油する。
【0022】
つまり、給油部7は、ピニオン2の回転に伴い、ピンローラ4の最外周部が円筒面11に摺設することで、給油体8からピンローラ4に給油する。
なお、付勢手段9は、例えば、後記するように、付勢部材としての2つのコイルスプリング9a、9bである。
【0023】
以下の説明では、ピニオン2の回転の軸方向を第1の方向D1と呼ぶことがある。また、ピンローラ4の最外周部が公転するときに描く円の接線の内、特定の接線の方向を第2の方向D2と呼ぶことがある。さらに、第1、第2の方向D1、D2の両方と垂直な方向を第3の方向D3と呼ぶことがある。
なお、実施例1では、第2の方向D2は、ピニオン2の進行方向に一致している。
【0024】
付勢手段9は、例えば、2か所で、第3の方向D3に給油体8を付勢する(
図3、
図4、
図9~
図11等参照。)。
より具体的には、付勢手段9は、2つのコイルスプリング9a、9bを有し、次の平坦面12上に、コイルスプリング9a、9bの座が、長手方向に並ぶように設けられている。
【0025】
つまり、給油体8は、第3の方向D3に関して円筒面11と反対側に矩形状の平坦面12を有し、平坦面12は、第1、第2の方向D1、D2と平行、かつ、第3の方向D3と垂直である。また、平坦面12の長手方向は、第2の方向D2と略一致する。そして、平坦面12上に、コイルスプリング9a、9bの座が長手方向に並んでおり、コイルスプリング9a、9bは、それぞれ、第3の方向D3に、平坦面12から給油体8を付勢するように組み付けられている。
なお、平坦面12と円筒面11との間に設けられた4つの側面13a~13d(
図5、
図6等参照。)は、後記するケース15の内周壁に摺接する。
【0026】
また、給油部7は、次のような進退手段16を有する。すなわち、進退手段16は、コイルスプリング9a、9bを給油体8に対して第3の方向D3に進退させる。
より具体的には、進退手段16は、例えば、押しネジであり(
図9~
図11等参照。)、次のようなケース15に螺合している(以下、進退手段16を押しネジ16と呼ぶことがある。)。ここで、ケース15は、給油体8の平坦面12側の部分を覆うように組み付けられており、次のような天壁部17、および、4つの側壁部18a~18dを有する(
図7、
図8等参照。)。
【0027】
すなわち、天壁部17は、押しネジ16が螺合する部分であり、平坦面12に対向する。また、側壁部18a~18dは、それぞれ、押しネジ16によりコイルスプリング9a、9bの位置を変化させるときに、側面13a~13dに摺接する。なお、天壁部17の長手方向の両端には、ハウジングにケース15をネジ締結するための締結代19が設けられている。
【0028】
ここで、天壁部17および側壁部18a~18dそれぞれの内面と平坦面12とで形成される空間には、押しネジ16の先端が突き当たるプレート21が収まっており(
図9~
図11等参照。)、プレート21は、平坦面12と略同一の矩形状である。
さらに、プレート21では、押しネジ16が突き当たる面とは反対側の面から、2つのガイド棒22a、22bが突き出している(
図4、
図9~
図11等参照。)。ガイド棒22a、22bは、それぞれコイルスプリング9a、9bの内周を通って平坦面12に突き当たっており、コイルスプリング9a、9bをガイドする。
【0029】
これにより、コイルスプリング9a、9bは、給油体8の側、つまり、平坦面12に設けた座と、進退手段16の側、つまり、プレート21に設けた座とに、第3の方向D3に挟まれて弾性力を発生している。以下、給油体8の側に設けた座を第1の座と呼ぶことがある。また、進退手段16の側に設けた座を第2の座と呼ぶことがある。さらに、第2の座を具備する部材を座形成部材と呼ぶことがある(実施例1では、プレート21が座形成部材である。)。
【0030】
また、押しネジ16を第3の方向D3に給油体8に対して進退させることで、プレート21、つまり、第2の座を第3の方向D3に進退させることができる。そして、第2の座の第3の方向D3への進退に伴って、コイルスプリング9a、9bの給油体8に対する第3の方向D3に関する相対的な位置を変化させることができる。
【0031】
〔実施例1の調節方法〕
実施例1の伝達装置1における給油能力の調節方法を、
図9~
図11等を用いて説明する。
円筒面11の摩耗等により、例えば、円筒面11が平坦面12の方に長さLだけ後退するとともに、コイルスプリング9a、9bが第3の方向D3に長さLだけ伸びると、円筒面11のピンローラ4に対する押し当て力が弱くなり、ピンローラ4に対する給油能力が低下する(
図9、
図10等参照。)。
【0032】
そこで、押しネジ16を進行させてケース15内でプレート21を第3の方向D3に長さLだけ進行させる(
図11等参照。)。これにより、第2の座が第3の方向D3に進行する。この結果、コイルスプリング9a、9bの長さが、未使用の状態に復元するので、円筒面11のピンローラ4に対する押し当て力が復元し、ピンローラ4に対する給油能力も復元する。
【0033】
〔実施例1の効果〕
実施例1の駆動力伝達装置1は、他の歯車に噛み合うピンローラ型のピニオン2、および、ピニオン2に給油する給油部7を備え、給油部7は、次の給油体8、および、付勢部材としてのコイルスプリング9a、9bを有する。まず、給油体8は、ピニオン2が回転するときのピンローラ4の最外周部の公転半径と実質的に同一の半径である円筒面11を具備する。また、コイルスプリング9a、9bは、ピニオン2の回転に伴い、円筒面11をピンローラ4の最外周部が摺動するように給油体8を付勢する。
【0034】
そして、ピニオン2の回転の軸方向を第1の方向D1と呼び、ピンローラ4の最外周部が公転するときに描く円の接線の内、特定の接線の方向を第2の方向D2と呼ぶと、コイルスプリング9a、9bは、それぞれ、第1、第2の方向D1、D2の両方と垂直な第3の方向D3に、給油体8を付勢する。
【0035】
これにより、伝達装置1では、コイルスプリング9a、9bによる付勢方向が全て同じ方向であるから、それぞれのコイルスプリング9a、9bが円筒面11をピンローラ4に押し当てる力の方向も全て同じになる。つまり、コイルスプリング9a、9bそれぞれの押し当て力の方向が全て同じになる。
【0036】
このため、円筒面11が、例えば、摩耗により平坦面12の方に後退しても、押し当ての方向における給油体8の弾性係数の変動を抑えることができる。この結果、給油体8が摩耗しても、弾性係数の変動に伴う弾性力の変動を抑制することができるので、円筒面11の摩耗に伴う押し当て力の変動を抑えることができる。
以上により、給油体8の摩耗によるピンローラ4への給油能力の低下を抑制することができる。
【0037】
また、摩耗によって給油能力が低下しても、給油能力を復元することができる。
すなわち、従来の駆動力伝達装置100の給油部104では、押し当て力の方向が、コイルスプリング106a、106bそれぞれの位置で異なる(
図20参照。)。これにより、給油体105の円筒面107が摩耗して後退したときに、給油体105に設けたコイルスプリング106a、106bそれぞれの座がずれたり、コイルスプリング106a、106b自体が傾斜したりする(
図21参照。)。このため、コイルスプリング106a、106bの押し当て力を復元することが困難であるから、摩耗によって給油能力が低下すると、給油能力を復元することが難しい。
【0038】
これに対し、伝達装置1によれば、コイルスプリング9a、9bによる付勢方向が、同じ方向であるから、円筒面11が摩耗して後退したときに、コイルスプリング9a、9bを付勢方向(つまり、第3の方向D3)に移動させることで、押し当て力を調節することができる。このため、摩耗によって給油能力が低下しても、給油能力を復元することができる。
【0039】
また、実施例1の伝達装置1によれば、給油部7は、次のような進退手段16を有する。すなわち進退手段16としての押しネジ16は、コイルスプリング9a、9bの給油体8に対する第3の方向D3に関する相対的な位置を変化させる。
このため、摩耗によって給油能力が低下したときに、進退手段としての押しネジ16を進退させることで、給油能力を復元することができる。
【0040】
〔実施例2の構成〕
実施例2の伝達装置1によれば、付勢手段9は、3つのコイルスプリング9a、9b、9cを有し(
図12等参照。)、平坦面12上に、コイルスプリング9a、9b、9cの座が、長手方向に等間隔で並ぶように設けられている。また、コイルスプリング9a~9cごとにガイド棒22a、22b、22cが存在するが、ケース15内にプレート21が存在せず、ガイド棒22a、22b、22cは、天壁部17の内面から第3の方向D3に伸びてコイルスプリング9a、9b、9cの内周に入り込み、コイルスプリング9a、9b、9cをガイドする(
図13~
図15等参照。)。また、ケース15自体に、第2の座が設けられている。つまり、実施例2では、ケース15自体が座形成部材である。
【0041】
そして、実施例2のケース15では、締結代19が側壁部18cの両端に設けられており、締結代19におけるネジ穴19aは、第3の方向D3に長い孔である(
図12等参照。)。このため、締結代19におけるネジ締結を緩めることで、ケース15を第3の方向D3に進退させることができ、ケース15を第3の方向D3に進退させることで、コイルスプリング9a、9b、9cを給油体8に対して第3の方向D3に進退させることができる。
【0042】
また、実施例2の伝達装置1には、次のような一方側、他方側指標部23、24の係合構造が設けられている(
図12~
図17等参照。)。すなわち、ケース15には、第2の座と相対的な位置を変えない一方側指標部23が設けられ、一方側指標部23は、第1の座と相対的な位置を変えない他方側指標部24と、目視できる位置で係合している。
【0043】
より具体的には、一方側指標部23は、ケース15の側壁部18aの内、側壁部18aに設けた長孔23aの周辺部である。また、長孔23aは、側壁部18aの中央で、第3の方向D3に長くなるように設けられている。また、他方側指標部24は、給油体8の側面13aから垂直に伸びる突起24aである。
【0044】
さらに、長孔23aおよび突起24aは、突起24aが長孔23aを貫通しつつ第3の方向D3に移動できるように設けられている。そして、未使用の状態、つまり、給油体8の円筒面11が摩耗等により削られていない状態では、突起24aは、長孔23aの内壁の内、天壁部17側の壁に係合している。また、円筒面11が摩耗等により削られて平坦面12の方に後退するのに伴い、突起24aは、天壁部17側の壁から離れてケース15の開口側に向かって移動する。
【0045】
〔実施例2の調節方法〕
実施例2の伝達装置1における給油能力の調節方法を、
図13~
図15を用いて説明する。
円筒面11の摩耗等により、例えば、円筒面11が平坦面12の方に長さLだけ後退するとともに、コイルスプリング9a、9b、9cが第3の方向D3に長さLだけ伸びると、円筒面11のピンローラ4に対する押し当て力が弱くなり、ピンローラ4に対する給油能力が低下する(
図13、
図14等参照。)。
【0046】
この状態では、突起24aが天壁部17側の壁から離れているので、締結代19におけるネジ締結を緩めてケース15を第3の方向D3に長さLだけ進行させる。これにより、長孔23aが長さLだけ第3の方向D3に進行し、長孔23aの内壁の内、天壁部17側の壁が突起24aに係合する(
図15等参照。)。この結果、コイルスプリング9a、9b、9cの長さが、未使用の状態に復元するので、円筒面11のピンローラ4に対する押し当て力が復元し、ピンローラ4に対する給油能力も復元する。
【0047】
〔実施例2の効果〕
実施例2の伝達装置1によれば、ケース15自体に第2の座が設けられている。
このため、ケース15を第3の方向D3に進退させることで、コイルスプリング9a、9b、9cを給油体8に対して第3の方向D3に進退させて給油能力を調節することができる。
また、締結代19におけるネジ穴19aは、第3の方向D3に長い孔である。
このため、締結代19におけるネジ締結を緩めてケース15を第3の方向D3に進退させることで、給油能力を調節することができる。
【0048】
また、実施例2の伝達装置1によれば、ケース15に設けた長孔23aの内壁の内、天壁部17側の壁と、給油体8に設けた突起24aとが目視できる位置で係合している。また、給油体8において円筒面11が、例えば、摩耗により削られて後退すると、突起24aが天壁部17側の壁から離れる。
これにより、突起24aの天壁部17側の壁からの離間幅を目視することで、給油能力の調節を行うか否かを判断することができる。
【0049】
さらに、実施例2の伝達装置1の調節方法によれば、円筒面11の後退により、突起24aが天壁部17側の壁から離れたときに、締結代19におけるネジ締結を緩めてケース15を第3の方向D3に進退させることで、天壁部17側の壁を突起24aに係合させる。
これにより、給油能力の復元を、目視しながら行うことができる。
【0050】
〔実施例3〕
実施例3の伝達装置1によれば、実施例1の伝達装置1と異なり、
図18に示すように、ピニオン2と平歯車26とを噛み合わせている。なお、給油部7の構成は、実施例1と同様である。また、第2の方向D2は、例えば、ピニオン2の回転軸と平歯車26の回転軸の両方に直交する直線に対して垂直となるように設定されている。
このような伝達装置1でも、実施例1と同様の効果を奏することができる。
【0051】
〔実施例4の構成〕
実施例4の伝達装置1によれば、実施例1~3の伝達装置1と異なり、
図19に示すように、給油部7は、付勢手段9を有さず。給油体8自身の弾性により、円筒面11をピンローラ4の最外周部に接触させて押し当てる。すなわち、給油体8は、例えば、発泡樹脂にオイルを含侵させたものであり、ケース15内に平坦面12の側の部分が収まり、給油体8自身の弾性により、円筒面11がピンローラ4の最外周部に圧接するとともに、平坦面12が天壁部17に圧接している。
これにより、ピンローラ4への円筒面11の押し当て力の変動を抑えることができるので、ピンローラ4への給油能力の低下を抑制することができる。
【0052】
〔変形例〕
本願発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形例を考えることができる。
例えば、実施例1、2の伝達装置1は、ピニオン2を回転駆動することでピニオン2をラック3に沿って進行させていたが、ピニオン2の位置を固定したままピニオン2を回転駆動してラック3を進行させてもよく、さらに、ピニオン2をラック3や平歯車26以外の歯車に噛み合わせて伝達装置1を構成してもよい。
【0053】
また、実施例1~3の伝達装置1によれば、付勢手段9は、付勢部材としてのコイルスプリングであったが、付勢部材には、コイルスプリング以外に、板バネを用いてもよく、ゴムのような弾性体を用いてもよい。また、付勢手段9として、上記のような付勢部材を用いない構成を採用してもよい。例えば、給油体8の平坦面12とケース15の天壁部17との間に形成される空間の気密性を保つように設けるとともに、この空間に、特定の圧力を有する圧力空気を供給するようにして給油体8を付勢してもよい。
また、実施例1~3の伝達装置1によれば、給油体8は、含油性樹脂であったが、例えば、油脂の固体や、含油性の金属を、給油体8として採用してもよい。
【0054】
また、実施例1~3の伝達装置1によれば、進退手段は、円筒面11が摩耗等により削れて後退したときに、コイルスプリング9a等の付勢部材を進退させるものであったが、進退手段の使用は、円筒面11の後退時に限定されない。例えば、伝達装置1の製造時に、付勢部材のセット力を調節するときに進退手段を用いて付勢部材を進退させてもよい。
さらに、実施例1~3の伝達装置1によれば、第2の方向D2は、ピニオン2の進行方向に一致していたが、第2の方向D2の態様は実施例1、2に限定されず、第2の方向D2を、ピニオン2の進行方向に対して傾斜させてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 伝達装置(駆動力伝達装置) 2 ピニオン 3 ラック(他の歯車) 7 給油部 4 ピンローラ 11 円筒面 8 給油体 9 付勢手段 D1 第1の方向 D2 第2の方向 D3 第3の方向
【要約】
【課題】ピンローラ型のピニオン2、および、給油体8によりピンローラ4へ給油する給油部7を備える伝達装置1において、給油体8の摩耗によるピンローラ4への給油能力の低下を抑制する。
【解決手段】伝達装置1の給油部7によれば、コイルスプリング9a、9bは、次の第3の方向に、給油体8を付勢する。すなわち、第3の方向とは、ピニオン2の回転の軸方向を第1の方向とし、ピンローラ4の最外周部が公転するときに描く円の接線の内、特定の接線の方向を第2の方向とすると、第3の方向とは、第1、第2の方向の両方と垂直な方向である。これにより、給油体8の摩耗によるピンローラ4への給油能力の低下を抑制することができる。
【選択図】
図3