(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】がん転移をモデル化するためのin vitroでの方法および装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20220128BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220128BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12M3/00 A
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2018517132
(86)(22)【出願日】2016-09-30
(86)【国際出願番号】 US2016054611
(87)【国際公開番号】W WO2017059173
(87)【国際公開日】2017-04-06
【審査請求日】2019-09-26
(32)【優先日】2015-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507189574
【氏名又は名称】ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】スカーダル,アレクサンダー
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/112624(WO,A1)
【文献】特表2007-515949(JP,A)
【文献】特表2015-510391(JP,A)
【文献】国際公開第2014/127250(WO,A1)
【文献】特開2014-033626(JP,A)
【文献】特開2015-167521(JP,A)
【文献】Eslami Amirabadi, H et al,Cancer metastasis-on-a-chip,Poster session presented at Mate Poster Award 2013 : 18th Annual Poster Contest,2013年
【文献】Sung, J H et al,Lab on a chip,2009年,9(10),1385-1394
【文献】Devarasetty, M et al,Tissue Engineering, Part A,2014年,20(S1),p.S-15,O-182
【文献】Skardal, A et al,Annals of Biomedical Engineering,2015年10月01日,43(10),2361-2373
【文献】Brroks, B et al, ,International Journal of Cancer,1997年,73(5),690-696
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類がん細胞を含む第1のオルガノイドを含む一次チャンバー;
第2のオルガノイドを含む少なくとも1つの二次チャンバー;
前記一次および二次チャンバーを接続し、かつ、その間の流体連通をもたらす、少なくとも1つの一次導管;
作動している閉鎖流体システムであり、前記一次チャンバーおよび前記少なくとも1つの二次チャンバーを介して同一の流路において流体の流通をもたらす流体回路であって、前記流体回路が、前記一次および二次チャンバーを接続し、かつ、その間の流体連通をもたらす前記少なくとも1つの一次導管を含む、流体回路
;
前記一次チャンバーから前記少なくとも1つの二次チャンバーに増殖培地を循環させるための、前記一次チャンバーと作動可能に連結されたポンプ;ならびに
前記少なくとも1つの二次チャンバーを経て循環する増殖培地を前記一次チャンバーに戻すための、前記一次および二次チャンバーと作動可能に連結された戻り導管
を含む装置であって、前記第1および第2のオルガノイドがヒドロゲルをさらに含
み、前記ヒドロゲルがチオール化ヒアルロン酸、チオール化ゼラチンおよびポリエチレングリコールジアクリレートを含む、装置。
【請求項2】
前記一次チャンバー、1つ以上の前記二次チャンバーのそれぞれ、および前記一次導管中に増殖培地をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1のオルガノイドが、
哺乳類組織細胞;または
前記哺乳類がん細胞を支える細胞外マトリックス
をさらに含む、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記第1のオルガノイドが、
前記第1のオルガノイドを少なくとも部分的に取り囲むかその上にある、血管もしくはリンパ内皮細胞の層
をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
免疫系細胞をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記一次および/または二次チャンバーにおける光学的に透明な窓をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記一次チャンバーに接続された流体入口、および前記少なくとも1つの二次チャンバーのそれぞれに接続された流体出口をさらに含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの二次チャンバーが互いに直列、並列、またはそれらの組合せで接続されている、請求項1~
7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記がん細胞が検出可能な化合物を発現する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記第2のオルガノイドが、肺、リンパ節、肝臓、骨、中枢神経、皮膚、平滑筋または骨格筋オルガノイドを含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
(i)前記第1のオルガノイドが、結腸がん細胞と組み合わされた腸上皮細胞を含み、前記第2のオルガノイドが、肝臓、中枢神経、末梢神経もしくは骨オルガノイドを含む;
(ii)前記第1のオルガノイドが、小細胞肺がんもしくは肺腺がん細胞のいずれかと組み合わされた肺気道上皮細胞を含み、前記第2のオルガノイドが、末梢神経、中枢神経、肝臓もしくは骨オルガノイドを含む;
(iii)前記第1のオルガノイドが、乳がん、腺がんもしくは肉腫細胞と組み合わされた乳腺上皮細胞を含み、前記第2のオルガノイドが、肝臓、末梢神経、中枢神経、骨、肺、リンパ節、平滑筋、骨格筋もしくは皮膚オルガノイドを含む;
(iv)前記第1のオルガノイドが、前立腺腺房もしくは導管腺がん細胞と組み合わされた前立腺細胞を含み、前記第2のオルガノイドが、肝臓、末梢神経、中枢神経、骨、肺もしくはリンパ節オルガノイドを含む;または
(v)前記第1のオルガノイドが、ケラチノサイトおよび黒色腫細胞を組み合わせて含み、前記第2のオルガノイドが、肝臓、末梢神経、中枢神経、骨、肺、皮膚もしくはリンパ節オルガノイドを含む;
(vi)前記第1のオルガノイドが、中枢神経系腫瘍細胞を含み、第2のオルガノイドが、中枢神経オルガノイドを含む;
(vii)前記第1のオルガノイドが、肝がんもしくは肝細胞がん細胞と組み合わされた肝臓細胞を含み、前記第2のオルガノイドが、末梢神経、中枢神経、リンパ節、肺もしくは骨オルガノイドを含む;
(viii)前記第1のオルガノイドが、膵臓腺がん細胞と組み合わされた膵臓細胞を含み、前記第2のオルガノイドが、末梢神経、中枢神経、リンパ節、肝臓、肺もしくは骨オルガノイドを含む;
(ix)前記第1のオルガノイドが、子宮内膜がん、子宮肉腫もしくは子宮がん肉腫細胞と組み合わされた子宮内膜細胞を含み、前記第2のオルガノイドが、肺、リンパ節、肝臓、骨、中枢神経、皮膚、平滑筋もしくは骨格筋オルガノイドを含む;または
(x)前記第1のオルガノイドが、子宮頸部扁平細胞がんもしくは腺がん細胞と組み合わされた子宮頸部粘膜細胞を含み、前記第2のオルガノイドが、膀胱、骨、肺、肝臓、平滑筋、骨格筋もしくは腸オルガノイドを含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記一次チャンバーと作動可能に連結された増殖培地貯槽および/またはバブルトラップをさらに含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
ゲル状の前記一次および二次チャンバー内の一過性保護媒体とともに容器に包装された、請求項1~
12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記容器が冷却要素をさらに含む、請求項
13に記載の装置。
【請求項15】
がん細胞に対する抗転移活性について試験化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項1~
14のいずれか1項に記載の装置を用意するステップと、
(b)前記一次チャンバーから前記少なくとも1つの二次チャンバーに増殖培地を循環させるステップと、
(c)試験化合物を前記第1のオルガノイドに投与するステップと、
(d)前記試験化合物が投与されない場合に前記第2のオルガノイドに存在するがん細胞の数と比較して、前記第2のオルガノイドにおけるがん細胞の存在の減少を判定するステップと
を含む方法。
【請求項16】
前記がん細胞が検出可能な化合物を発現し、前記少なくとも1つの二次チャンバーが光学的に透明な窓を有し、前記判定するステップが前記窓を通して前記検出可能な化合物を検出することによって行われる、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記判定するステップが、互いに連続的に間隔をあけて複数回行われる、請求項
15または
16に記載の方法。
【請求項18】
対象におけるがん細胞に対する抗がん活性または抗転移活性について試験化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)前記哺乳類がん細胞が前記対象から単離されたものである、請求項1~
14のいずれか1項に記載の装置を用意するステップと、
(b)前記一次チャンバーから前記少なくとも1つの二次チャンバーに増殖培地を循環させるステップと、
(c)試験化合物を前記第1のオルガノイドに投与するステップと、
(d)前記試験化合物が投与されない場合に前記第1および/または第2のオルガノイドに存在するがん細胞の数と比較して、前記第1および/または第2のオルガノイドにおけるがん細胞の存在の減少を判定するステップと
を含む方法。
【請求項19】
前記がん細胞が検出可能な化合物を発現し、前記一次および少なくとも1つの二次チャンバーが光学的に透明な窓を有し、前記判定するステップが前記窓を通して前記検出可能な化合物を検出することによって行われる、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記測定するステップが、互いに連続的に間隔をあけて複数回行われる、請求項
18または
19に記載の方法。
【請求項21】
前記試験化合物が、小分子毒素またはがん特異抗体のような抗がん治療薬である、請求項
15~
20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、その両方の開示がそれらの全体として参照により一部をなすものである、2015年10月2日に出願した米国仮特許出願公開第62/236,361号および米国仮特許出願第62/241,872号の恩恵を主張するものである。
【0002】
本発明は、それに対する可能な治療用化合物の効果を含めて、がんの広がりをin vitroで研究するのに有用な方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
医療の進歩にもかかわらず、がんの転移は、とりわけ、i)腫瘍細胞の増殖および悪性腫瘍の活性化の機構、ii)これらの機構が転移のロジスティクスおよび動力学にどのように影響を及ぼすのか、ならびにiii)これらの現象の調節において微小環境が果たす役割について、依然として十分に理解されていない1,2。がん研究は進歩し続けているが、制御された環境における腫瘍の進行および転移のモデルを正確に作ることができないため、近年ではがん研究が限定されつつある。動物モデルは、限定的な操作および進行の機構の研究を可能にするにすぎず、ヒトにおける結果を必ずしも予測できるものではない。他方で、伝統的な2D培養のようなin vitro法は、in vivo組織の3D微小環境を再現することができない3。薬物の拡散の動力学は劇的に異なり、2Dで有効な薬物の用量は、患者への規模の拡大を行った場合にしばしば無効であり、細胞の表現型は異なる可能性があり、細胞間/細胞-マトリックス相互作用は、不正確に模擬される4-6。これらの限界の結果、「トップレベル」の薬物候補は、それが正確なヒトベースのモデルにおいて試験されなかったため、しばしば臨床試験に到達しつつも失敗することとなっている。
【発明の概要】
【0004】
3D生体材料系およびヒト(または他の哺乳類)由来の細胞を用いて作製された3D組織構築物またはオルガノイドを含むプラットフォームは、天然生理機能を模倣し、疾患をモデル化し、薬物スクリーニングを実施するためのより十分な解決策を提供する7,8。
【0005】
本発明者らの研究室は、肝臓および腸を含め、様々な種類の組織構築物の作製および維持の広範な経験を有し、またそのための多くのヒドロゲル技術の開発および実現の参加してきた9-15。いくつかの実施形態において、ヒアルロン酸ヒドロゲルを利用し得る16-20、ヒドロゲルバイオファブリケーションへのこれらの種類のアプローチは、哺乳類の生理機能および疾患をより正確に再現することができる人工3D哺乳類固有モデルを創出するために用いることができる。
【0006】
転移の研究の場合、原発性腫瘍と遠隔転移性増殖とを区別するin vitroモデルが欠如している。ここで本発明者らは、1つのプラットフォームである「転移オン・チップ」(MOC)における環境に対する制御と、2つの異なる組織にわたり進行する転移の機構の研究を可能にする、閉鎖流体システム内の複数の3Dオルガノイドの最初の実現について述べる。宿主組織構築物内の腫瘍病巣の導入は、これまでに十分に用いられなかった概念である。実時間ライブ映像の可能性と組み合わされた、小規模または微小規模のデバイスと組織工学とのこの結び付きは、強力な試験および診断ツールをもたらす。流体デバイスオルガノイドシステムを経る流れを供給することによって、本発明者らは、腸オルガノイドから循環中への結腸がん細胞の播種と、その後、転移細胞が下流の肝臓オルガノイドに付着し、浸潤し得ることについて試験することができる。マイクロ流体モデルは、3D起源(originating)組織から3D標的組織への移動を再現する転移の最初のin vitroモデルの1つである。起源となる悪性腫瘍と転移部における細胞との表現型が著しく変化し得るものであり、例えば、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)分泌および幹細胞様遺伝子発現に起因する、様々なレベルの浸潤性をもたらすので21,22、様々な状況、それらの微小環境における、および移動中の腫瘍を試験する能力は極めて有益なことから、これは、注目に値する。
【0007】
したがって、本発明の第1の態様は、がん細胞の転移を検討するのに有用な装置であって、
(a)一次チャンバー、
(b)少なくとも1つの二次チャンバー、
(c)一次および二次チャンバーを接続し、かつ、その間の流体連通(例えば、増殖培地の流れのような)をもたらす、少なくとも1つの一次導管、
(d)前記一次チャンバー内に、哺乳類がん細胞を含む一次オルガノイド、
(e)前記二次チャンバーそれぞれの内に、少なくとも1つの二次オルガノイド、ならびに
(f)任意選択的に、前記一次チャンバー、前記二次チャンバーのそれぞれ、および前記一次導管中において、増殖培地
を含む装置である。
【0008】
いくつかの実施形態において、装置は、以下でさらに述べるように、任意選択的に、前記一次および/または二次チャンバーにおける透明窓をさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、装置は、前記一次チャンバーに接続された流体出口および前記二次チャンバーそれぞれに接続された流体出口をさらに含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、がん細胞は、検出可能な化合物を発現する。
【0011】
上記実施形態のうちのいくつかの実施形態において、前記第1のオルガノイドは、(i)任意選択的には細胞外マトリックス中にある、哺乳類組織細胞;または(ii)がん細胞を支える細胞外マトリックス;および(iii)任意選択的に、(例えば、がん細胞が循環に入るために浸透しなければならない内皮バリアの代わりとして役割を果たすための)前記第1のオルガノイドを少なくとも部分的に取り囲むかその上にある、血管もしくはリンパ内皮細胞の層;および(iv)任意選択的に、免疫系細胞(例えば、クッパー細胞、マクロファージ、単球、好中球等)をさらに含む。
【0012】
本発明のさらなる態様は、がん細胞に対する抗転移(または他の生理学的もしくは薬理学的)活性について試験化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)本明細書で述べる装置を用意するステップと、
(b)第1のチャンバーから第2のチャンバーに増殖培地を循環させるステップと、
(c)試験化合物を(例えば、試験化合物を増殖培地に加えることにより)一次オルガノイドに投与するステップと、
(d)試験化合物が投与されない場合に第2のオルガノイドに存在するがん細胞の数と比較して、第2のオルガノイドにおけるがん細胞の存在の減少(数または密度の変化)を判定するステップと
を含む方法である。
【0013】
本発明は、以下に示す図面および明細書により詳細に説明されている。本明細書で引用したすべての米国特許参考文献の開示は、それらの全体として参照により本明細書の一部をなすものとする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】腸から肝臓への結腸がんの転移を模倣するための2オルガノイド「転移オン・チップ」デバイスを示す図である。ポリマー溶液中の細胞の光重合により、3D組織構築物が形成される。
【
図1B】成型PDMS部片、入口および出口弁、ならびにプラスチッククランプを用いたデバイスの作製を示す図である。オルガノイドの配置(「Orgs.」)は、青色および黄色の区域によって示されている。
【
図1C】デバイス、ならびに移動がん細胞の流れのもとにあるデバイスにおける腸および肝臓構築物の、写真および描写である。
【
図1D】培地貯槽、バブルトラップ、および腸から肝臓への方向の循環流をもたらすマイクロ蠕動ポンプと直列に連結されたMOCデバイスを示す図である。
【
図2】腸から肝臓への結腸がんの転移を示す図である。A)一次構築物におけるHCT-116細胞の増殖、および循環中へのRFP標識HCT-116細胞のその後の流出を示す図である。B)(i-ii)肝臓-ヒドロゲルオルガノイドに浸潤する多細胞突起および凝集体を介する、RFP標識HCT-116細胞の肝臓オルガノイド中への浸潤を示す図である(矢印は浸潤の方向;点線はオルガノイド界面;L/Hは肝臓/ヒドロゲル構築物である)。スケールバーは250μmである。オルガノイド界面;L/Hは肝臓/ヒドロゲル構築物、スケールバーは250μmである。C)起源部位および下流転移部位における時間の経過に伴う複合オルガノイド画像内のRFP染色されたHCT-116腫瘍面積の百分率の定量を示す図である。
【
図3】2D組織培養プラスチック上のHCT-116細胞における細胞表面マーカーおよびMMPの発現を示す図である。組織培養プラスチック上のHCT-116細胞は、膜に結合したA)XO-1およびB)β-カテニンを示した。逆に、2Dにおいて、HCT-116細胞は、C)N-カドヘリンを発現せず、したがって、間葉および転移表現型でなく、2Dでは上皮表現型が示唆され、2Dがん細胞培養における生理学的正確さの欠如が実証された。スケールバーは250μMである。
【
図4】3DにおけるHCT-116細胞の転移性移動に対する、組織および腫瘍微小環境の弾性係数の影響を示す図である。A)様々な形状のアクリレート官能基化PEGベースの架橋剤を用いることで、ヒドロゲルベースのオルガノイドおよび腫瘍の機械的特性の操作が可能となる。レオロジーデータは、これらの架橋剤を用いて作製されたヒドロゲルの統計的に異なる(
*p<0.05)せん断弾性係数を示している。B)軟性100Paヒドロゲルベースの組織構築物により取り囲まれた4.5kPaの中心の剛性ゲルコア(左)に、または剛性4.5kPaヒドロゲルベースの組織構築物により取り囲まれた軟性100Paコア(右)に、HCT-116細胞を埋め込んだ。腫瘍および腫瘍の上の空間のC)上下、D)側面およびE)等角のマクロ共焦点画像を示す。剛性コア-軟性環境の腫瘍は、増殖するが、主として腫瘍の位置に留まる。軟性コア-剛性環境の腫瘍は、大きな多細胞突起および凝集体の形態で、腫瘍から剛性環境中への外向きの移動の増加を示す。
【
図5】HCT-116の移動に対するマリマスタット(Marimastat)の影響を示す図である。A)マリマスタットは、3DにおけるHCT-116腫瘍構築物からの凝集体の外向きの増殖を妨げるが、対照条件は妨げないことを示す図である。B)画素数により定量されたHCT-116細胞の移動の長さを示す図である。有意性:
*各時点における実験群間でp<0.05である。
【
図6】(A)in situパターニングによる各臓器構築物の作製の概略の作業の流れを示す図である。(i)各チャンバーにそれらの対応する流路を介してそれらの対応する細胞/HA混合物(ピンク)を満たす。(ii)フォトマスク(灰色)を介するUV架橋によりin situパターン形成を達成する。(iii-iv)非架橋溶液を除去する。システムの培地の流れが結腸構築物において始まり、肝臓、肺、内皮および試料に流入する。(B)生存率は、Live&deadアッセイにより評価し、生細胞が緑色に染色され、死細胞が赤色に染色された。対照(ゼロ時間)、結腸試料および肝臓培地(両方が7日目)中の、尿素(C)およびアルブミン(D)の濃度を各臓器の収集貯槽中で測定した。
【
図7】オーダーメイド医療腫瘍学のために実現される腫瘍オルガノイドおよび転移プラットフォームの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態が示されている、添付図面を参照して、本発明を以下でより十分に説明する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で具体化され得るものであり、本明細書に示す実施形態に限定されると解釈すべきではなく、むしろ本開示が詳細かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝達するようにこれらの実施形態が記載されている。
【0016】
本明細書で用いる術語は、特定の実施形態のみを記述する目的のためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で用いているように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上他の状態が明確に示されない限り、複数形も含むものとする。「含む」または「を含む」という用語は、本明細書で用いる場合、記載された特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分および/もしくは群またはそれらの組合せの存在を規定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分および/もしくは群またはそれらの組合せの存在または追加を排除しないことがさらに理解される。
【0017】
別途定義しない限り、本明細書で用いるすべての用語(技術および科学用語を含む)は、本発明が属する分野における通常の技能を有する者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書において定義されているような用語は、本明細書および特許請求の範囲の文脈におけるそれらの意味と一致している意味を有すると解釈すべきであり、本明細書で明確にそのように定義されない限り、理想化されたまたは過度に格式ばった意味に解釈すべきではない。周知の機能または構造は、簡潔および/または明瞭を期すために詳細に記載することができない。
【0018】
[A. 定義]
本発明で用いる「細胞」は、一般的に、動物細胞、とりわけ哺乳類および霊長類細胞であり、その例には、ヒト、イヌ、ネコ、ウサギ、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヤギが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、細胞は、がんの治療を受けている対象または患者から得られる。細胞は、好ましくは少なくとも一部は、肝臓、腸、膵臓、リンパ節、平滑筋、骨格筋、中枢神経、末梢神経、皮膚、免疫系等のような、特定の細胞または組織型に分化している。一部の細胞は、下でさらに議論するように、がん細胞であり得、その場合、それらは、これも下でさらに検討するように、任意選択であるが、好ましくは検出可能な化合物を(天然で、または組換え技術により)発現する。
【0019】
本明細書において「オルガノイド」は、「3次元組織構築物」と同義で用い、3次元または(単分子層と対立するものとしての)多層構造に配置された、一般的に担体媒体中の生きた細胞の組成物を意味する。適切な担体媒体は、下で述べるような架橋ヒドロゲルのような、ヒドロゲルを含む。オルガノイドは、モデル化または模倣される特定の組織または臓器によって、1つの分化細胞型または2つもしくはそれ以上の分化細胞型を含み得る。一部のオルガノイドは、下でさらに検討するように、がん細胞を含み得る。オルガノイドががん細胞を含む場合、それらは、組織細胞を含み得る、および/または細胞外マトリックス(またはタンパク質もしくはそれに由来するポリマー)、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸塩等や、それらの組合せを含むような、細胞を含まない組織模倣物を含み得る。したがって、いくつかの実施形態において、細胞を細胞外マトリックスまたは架橋マトリックスと一緒に混合して、オルガノイドまたは構築物を形成し、一方、他の実施形態において、スフェロイドまたはオルガノイドのような細胞凝集体をあらかじめ形成し、次に細胞外マトリックスと混ぜ合わせることができる。
【0020】
本明細書で用いられる「増殖培地」は、本発明を実施する際に用いられる細胞を維持する天然または人工増殖培地(一般的に水性液体)であり得る。例として、必須培地もしくは最少必須培地(MEM)、またはイーグルの最少必須培地(EMEM)やダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)のようなそれらの変形形態、ならびに血液、血清、血漿、リンパ液等およびそれらの合成模倣物を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、増殖培地は、pH呈色指示薬(例えば、フェノールレッド)を含む。
【0021】
本明細書で用いられる「試験化合物」または「候補化合物」は、原発部位から第2の部位へのがん細胞の広がりを抑制する活性が決定されるべき任意の化合物であり得る。例証的目的のためには、マリマスタット(N-[2,2-ジメチル-1-(メチルカルバモイル)プロピル]-2-[ヒドロキシ-(ヒドロキシカルバモイル)メチル]-4-メチル-ペンタンアミド)を試験化合物として用いる。しかし、あらゆる化合物を用いることができ、一般的に、タンパク質、ペプチド、核酸、および小有機化合物(脂肪族、芳香族および混合脂肪族/芳香族化合物)のような有機化合物を用いることができる。候補化合物は、コンビナトリアル技術によりランダムに生成させることを含む、および/または特定の標的に基づいて合理的に設計された、適切な技術により生成させることができる。例えば、A.M.Stock et al.,Targets for anti-metastatic drug development,Curr.Pharm.Des.19(28):5127-34(2013)を参照されたい。
【0022】
「検出可能な化合物」は、本明細書で用いているように蛍光タンパク質(例えば、赤色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質等)、酵素、蛍光もしくは放射性基または他の標識に結合した抗体が特異的に結合する抗原性タンパク質もしくはペプチド、または他の適切な検出可能化合物であり得る。検出可能化合物は、がん細胞において天然に存在するもの(例えば、非がん細胞よりもがん細胞において高いレベルで発現する細胞マーカータンパク質)または遺伝子工学/組換えDNA技術によりがん細胞に挿入されたもの(すなわち、異種)であり得る。
【0023】
[B. 組成物]
本発明の組成物は、「バイオインク」中の生きた細胞を含み得るものであり、「バイオインク」はさらには、架橋性ポリマー、堆積後架橋基または剤、および増殖因子、(例えば、架橋の)開始剤、(バランスのための)水等を含むが、これらに限定されない、他の任意選択の構成要素から構成される。組成物は、好ましくはヒドロゲルの形態である。組成物の様々な構成要素および特性は、下でさらに検討する。
【0024】
<細胞>
上で言及したように、本発明を実施するために用いられる細胞は、好ましくは動物細胞(例えば、鳥、爬虫類、両生類等)であり、いくつかの実施形態において、好ましくは哺乳類細胞(例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラット、サル、類人猿、ヒト)である。細胞は、分化または非分化細胞であり得るが、いくつかの実施形態において、組織細胞(例えば、肝細胞のような肝臓細胞、膵臓細胞、心筋細胞、骨格筋細胞等)である。また上述のように、いくつかの実施形態において、細胞は、がんの治療を受けている対象または患者から得られる。
【0025】
細胞の選択は、創製される特定のオルガノイドに依存する。例えば、肝臓オルガノイドについては、肝臓の肝細胞を用いることができる。末梢または中枢神経オルガノイドについては、末梢神経細胞、中枢神経細胞、膠細胞またはそれらの組合せを用いることができる。骨オルガノイドについては、骨芽細胞、破骨細胞またはそれらの組合せを用いることができる。肺オルガノイドについては、肺気道上皮細胞を用いることができる。リンパ節オルガノイドについては、濾胞性樹状リンパ細胞、細網線維芽リンパ細胞、白血球、B細胞、T細胞またはそれらの組合せを用いることができる。平滑筋または骨格筋オルガノイドについては、平滑筋細胞、骨格筋細胞またはそれらの組合せを用いることができる。皮膚オルガノイドについては、皮膚ケラチノサイト、皮膚メラニン細胞またはそれらの組合せを用いることができる。細胞は、組成物への組込み時に分化していてもよいし、または、その後分化させる非分化細胞を用いることができる。患者から採取された細胞は、必要に応じて脱分化または再分化させることができる。追加の細胞は、上述の組成物のいずれかに加えることができ、下で述べるがん細胞は、一次または「第1」のオルガノイドに加えることができる。
【0026】
本発明に用いられるがん細胞は、黒色腫、がん腫、肉腫、芽細胞腫、神経膠腫および星状細胞腫細胞等を含むが、これらに限定されない、あらゆる種類のがん細胞であり得る。いくつかの実施形態において、本発明に用いるがん細胞は、本明細書で教示した方法においてN-カドヘリンを発現し、および/または上皮間葉転換を示す。
【0027】
したがって、様々なオルガノイドを形成するために、各チャンバー内に堆積させる組成物について細胞の異なる組合せを選択することによって、本発明は、様々ながんのいずれかおよびそれらの転移のモデルシステムとしての役割を果たすように実現することができる。細胞の異なる組合せの非限定的な例は、以下:
(i)第1のオルガノイドが、結腸がん細胞と組み合わされた腸上皮細胞を含み、第2のオルガノイドが肝臓、中枢神経、末梢神経もしくは骨オルガノイドを含む場合;
(ii)第1のオルガノイドが、小細胞肺がんもしくは肺腺がん細胞と組み合わされた肺気道上皮細胞を含み、第2のオルガノイドが末梢神経、中枢神経、肝臓もしくは骨オルガノイドを含む場合;
(iii)第1のオルガノイドが、乳がん、腺がんもしくは肉腫細胞と組み合わされた乳腺上皮細胞を含み、第2のオルガノイドが肝臓、末梢神経、中枢神経(例えば、脳組織)、骨、肺、リンパ節、平滑筋、骨格筋もしくは皮膚オルガノイドを含む場合;
(iv)第1のオルガノイドが、前立腺腺房もしくは導管腺がん細胞と組み合わされた前立腺細胞を含み、第2のオルガノイドが肝臓、末梢神経、中枢神経、骨、肺もしくはリンパ節オルガノイドを含む場合;
(v)第1のオルガノイドが、ケラチノサイト、任意選択的にメラノサイトおよび黒色腫細胞を組み合わせて含み、第2のオルガノイドが肝臓、末梢神経、中枢神経、骨、肺、皮膚もしくはリンパ節オルガノイドを含む場合;
(vi)第1のオルガノイドが中枢神経系腫瘍細胞(例えば、神経膠芽腫細胞、星状細胞腫細胞等)、任意選択的に分化した中枢神経系細胞(例えば、星状細胞、ニューロン等)を含み、第2のオルガノイドが中枢神経オルガノイドを含む場合;
(vii)第1のオルガノイドが、肝がんもしくは肝細胞がん細胞と組み合わされた肝臓細胞を含み、第2のオルガノイドが末梢神経、中枢神経、リンパ節、肺もしくは骨オルガノイドを含む場合;
(viii)第1のオルガノイドが、膵臓腺がん細胞と組み合わされた膵臓細胞を含み、第2のオルガノイドが末梢神経、中枢神経、リンパ節、肝臓、肺もしくは骨オルガノイドを含む場合;
(ix)第1のオルガノイドが、子宮内膜がん、子宮肉腫もしくは子宮がん肉腫細胞と組み合わされた子宮内膜細胞および任意選択的に子宮筋層細胞を含み、第2のオルガノイドが肺、リンパ節、肝臓、骨、中枢神経、皮膚、平滑筋もしくは骨格筋オルガノイドを含む場合;または
(x)第1のオルガノイドが、子宮頸部扁平細胞がんもしくは腺がん細胞と組み合わされた子宮頸部粘膜細胞および任意選択的に平滑筋細胞を含み、第2のオルガノイドが膀胱、骨、肺、肝臓、平滑筋、骨格筋もしくは腸オルガノイドを含む場合
を含む。
【0028】
細胞は、非封入細胞またはスフェロイドに事前に封入された細胞、またはあらかじめ形成したオルガノイド(上述のように)などのあらゆる適切な形態で組成物に組み込むことができる。ポリマースフェロイドに封入されたまたは含まれた動物組織細胞は、公知の技術により製造することができる、または場合によっては市販されている(例えば、Insphero AG, 3D Hepg2 Liver Microtissue Spheroids (2012); Inspherio AG, 3D InSightTM Human Liver Microtissues(2012)参照)。
【0029】
<架橋性プレポリマー>
本明細書で述べる方法に用いる場合、堆積後にその弾性係数を増加させるためにそれをさらに架橋させることができる限り、適切なプレポリマーを用いて、本発明を実施することができる。
【0030】
いくつかの実施形態において、プレポリマーは、(i)オリゴ糖(例えば、ヒアルロン酸、コラーゲン、それらの組合せおよびとりわけそのチオール置換誘導体)および(ii)第1の架橋剤(例えば、ポリアルキレングリコールジアクリレート、ポリアルキレングリコールメタクリレート等のようなチオール反応性架橋剤およびとりわけポリエチレングリコールジアクリレート等;チオール-チオールジスルフィド結合を形成するためのチオール化架橋剤;チオール-金結合を形成する金ナノ粒子金官能基化架橋剤;等、それらの組合せを含む)の少なくとも部分的架橋反応により形成される。
【0031】
<架橋基>
いくつかの実施形態において、組成物は、堆積後架橋基(post-deposition crosslinking group)を含む。ポリエチレングリコールジアルキン、他のアルキン官能基化基、アクリレートまたはメタクリレート基等のようなマルチアームチオール反応性(multi-arm thiol-reactive)架橋剤を含むが、これらに限定されず、それらの組合せを含む、適切な架橋基を用いることができる。
【0032】
<開始剤>
本発明の組成物は、任意選択的に、ただし、いくつかの実施形態においては、好ましくは、開始剤(例えば、熱または光開始剤)を含み得る。上記プレポリマーと第2の(または堆積後)架橋基との間の反応を触媒するあらゆる適切な開始剤を(例えば、加熱時または光への曝露時に)用いることができる。
【0033】
<増殖因子>
本発明の組成物は、任意選択的に、ただし、いくつかの実施形態においては好ましくは、(例えば、含められる特定の細胞および/または生成される個別の組織代替物に適切な)少なくとも1つの増殖因子を含み得る。いくつかの実施形態において、増殖因子および/または他の増殖促進タンパク質は、組織細胞に対応する組織に由来する脱細胞化細胞外マトリックス組成物(「ECM」)(例えば、生きている動物細胞が肝臓細胞である場合には、脱細胞化細胞外肝臓マトリックス;生きている動物細胞が心筋細胞である場合には、脱細胞化細胞外心筋マトリックス;生きている動物細胞が骨格筋である場合には、脱細胞化骨格筋マトリックス;等)に加えることができる。追加のコラーゲン、グリコサミノグリカン、および/またはエラスチン(例えば、細胞外マトリックス組成物を補うために加えることができる)等も含めることができる。
【0034】
<弾性係数>
組成物は、好ましくは、どのような堆積方法が用いられるとしても(例えば、押出堆積)、操作し、基材上に堆積させることができるような、室温かつ大気圧で十分に低い弾性係数を有する。さらに、任意選択的に、ただし、いくつかの実施形態においては、好ましくは、それが、後に架橋するまで(架橋が自発的、熱または光開始等かを問わず)堆積される形状または構造を実質的に保持するように再び室温かつ大気圧で十分に高い弾性係数を有する。いくつかの実施形態において、組成物は、堆積の前に、室温かつ大気圧で0.05、0.1または0.5から1.5または10キロパスカルまで、またはそれ以上の剛性を有する。
【0035】
[B. デバイスを製造する方法]
1つの非限定的であるが、好ましい使用方法において、組成物は、本明細書で述べたオルガノイドを製造する方法に用いられる。そのような方法は、
(a)上述の押出し可能なヒドロゲル組成物を含む貯槽を用意するステップと、次いで
(b)ヒドロゲル組成物を(例えば、注射器による押出しにより)基材上に堆積させるステップと、次いで
(c)上記ヒドロゲルの剛性を増加させ、かつ、上記3次元臓器構築物を形成するのに十分な量で、上記第2の架橋基により、(例えば、ヒドロゲルを加熱すること、ヒドロゲル組成物に光(例えば、環境光、UV光)を照射すること、ヒドロゲルのpHを変化させること等により)上記プレポリマーを架橋するステップと
を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、細胞を含むヒドロゲル組成物が、細胞を含まないあらかじめ形成された3Dオルガノイド基材の中央領域に加えられて、外側オルガノイドゾーンの内部に、別個の細胞含有ゾーン(例えば、腫瘍細胞含有ゾーン)がもたらされる。
【0037】
堆積ステップは、適切な装置(H.-W. Kang、S. J. Lee、A. AtalaおよびJ. J. Yoo、米国特許出願公開第2012/0089238号(2012年4月12日)に記載されている装置を含むが、これに限定されない)を用いて行うことができる。いくつかの実施形態において、堆積ステップは、パターン化された堆積ステップである。すなわち、堆積される組成物が、規則または不規則格子、グリッド、らせん等のような、規則または不規則パターンの形態で堆積されるように堆積が行われる。
【0038】
いくつかの実施形態において、架橋ステップは、上記ヒドロゲルの剛性を室温かつ大気圧で1または5から10、20または50キロパスカルまで、またはそれ以上の剛性を増加させる。
【0039】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルは、室温かつ大気圧で1または5から10、20または50キロパスカルまでの上記架橋ステップ(c)の後の剛性を有する。
【0040】
いくつかの実施形態において、該方法は、上記ヒドロゲル組成物の位置に隣接する位置の上記基材上に支持ポリマー(例えば、ポリL-乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン;ポリスチレン;ポリエチレングリコール等、乳酸-グリコール酸コポリマーのようなそれらのコポリマーを含む)を堆積させるステップを(例えば、上記ヒドロゲルを堆積させるステップと同時か、その後か、またはそれと交互の反復で、および、いくつかの実施形態においては架橋ステップの前に)さらに含む。
【0041】
有機および無機基材を含む、ならびにその上に形成されたウェル、チャンバーまたは流路のような特徴を有するまたは有さない基材を含む、適切な基材を堆積に用いることができる。本明細書で述べる個別の製品について、基材は、増殖培地が循環し得る一次流体導管により接続された少なくとも2つのチャンバー(チャンバーは、任意選択であるが、好ましくは入口流路および/または出口流路を伴う)を有し、堆積が各チャンバーにおいて独立に行われるマイクロ流体デバイスを含み得る。あるいは、基材は、第1および第2の平面部材(例えば、顕微鏡カバースリップ)を含み得、堆積ステップを当平面部材上で行うことができ、方法は、各平面部材をマイクロ流体デバイスの別個のチャンバーに挿入するステップをさらに含み得る。チャンバーの密封および細胞の生存能力の維持のような、後処理ステップは、公知の技術により行うことができる。
【0042】
本発明を主として単一の二次チャンバーに関して説明するが、所望ならば、同じまたは異なるオルガノイドを含む複数の二次チャンバーを基材上に含めることができることは、理解されよう。したがって、二次チャンバーは、互いに、および一次チャンバーに対して、直列、並列またはそれらの組合せを含むいずれかの適切な配置で接続することができる。
【0043】
一次および二次チャンバー、関連オルガノイド、入口、出口および導管を有する基材は、使用する追加の構成要素と組み合わせてより大きい装置内に取り付けることができる独立した「カートリッジ」または部分的組合せの形態で提供することができる。したがって、いくつかのそのようなより大きい装置の実施形態において、装置は、一次チャンバーから二次チャンバーに増殖培地を循環させるための一次チャンバーと作動可能に連結されたポンプをさらに含む。
【0044】
いくつかの実施形態において、装置は、一次チャンバーと作動可能に連結された増殖培地貯槽および/またはバブルトラップをさらに含む。
【0045】
いくつかの実施形態において、装置は、二次チャンバーを経て循環する増殖培地を一次チャンバーに戻すための、一次および二次チャンバー(ならびにポンプ、ならびに貯槽および/または存在する場合にはバブルトラップ)と作動可能に連結された戻り導管をさらに含む。
【0046】
[C. 包装、貯蔵および出荷]
製造されると、上述の部分的組合せまたは「カートリッジ」は、直ちに使用する、または貯蔵および/もしくは輸送のために用意することができる。
【0047】
製品を貯蔵および輸送するために、水と混合されたゼラチンのような、室温(例えば、25℃)で流動性液体であるが冷蔵温度(例えば、4℃)でゲルであるか固化する、一過性の保護支持媒体を、チャンバーに実質的または完全に満たすように、デバイス中に、および好ましくは連結された導管にも、加えることができる。入口および出口ポートは、適切なキャッピング要素(例えば、栓)またはキャッピング材(例えば、ワックス)により蓋をすることができる。次いで、デバイスを冷却要素(例えば、氷、ドライアイス、熱電冷却器等)と一緒に、すべてを(好ましくは断熱)包装中に入れて包装することができる。
【0048】
あるいは、製品を貯蔵および輸送するために、ポリN-イソプロピルアクリルアミドおよびポリエチレングリコールのブロックコポリマーのような、冷却温度(例えば、4℃)で流動性液体であるが、室温(例えば、20℃)または体温(例えば、37℃)のような加温温度でゲルであるまたは固化する、一過性の保護支持媒体を用いることができる。
【0049】
受取り時に、エンドユーザーは、付随した包装および冷却要素からデバイスを単に除去し、温度を上昇または低下させ(一過性の保護支持媒体の選択によって)、ポートの蓋を除去し、注射器で(例えば、増殖培地で洗い流すことにより)一過性の保護支持媒体を除去することができる。
【0050】
[D. 使用方法]
上述のように、本発明のさらなる態様は、がん細胞に対する抗転移(または他の生理学的もしくは薬理学的)活性について試験化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)本明細書で述べる装置を用意するステップと、
(b)第1のチャンバーから第2のチャンバーに増殖培地を循環させるステップと、
(c)試験化合物を(例えば、試験化合物を増殖培地に加えることにより)一次オルガノイドに投与するステップと、
(d)試験化合物が投与されない場合に第2のオルガノイドに存在するがん細胞の数と比較して、第2のオルガノイドにおけるがん細胞の存在の減少(数または密度の変化)を判定するステップと
を含む方法である。
【0051】
がん細胞が検出可能な化合物を発現する場合、第2のチャンバーは、上述のように、光学的に透明な窓を有することができ、判定するステップは、窓を通して検出可能な化合物を検出することによって行うことができる。あるいは、処置の終了時に装置を分解し、オルガノイドを直接検査することができる。
【0052】
判定するステップは、1回または互いに連続的に間隔をあけて異なる時点に複数回(例えば、少なくとも1日の間隔をあけて少なくとも2回)行うことができる。
【0053】
上記実施形態のうちのいくつかの実施形態において、スクリーニングは、特定の試験化合物の代謝を含む、細胞代謝、またはがん細胞によりもしくは特定の試験化合物により誘発された細胞毒性を含み得る。
【0054】
以下の非限定的な実施例において本発明をより詳細に説明する。
【0055】
[実験]
<材料および方法>
細胞培養:ヒト結腸がん細胞(HCT-116、赤色蛍光タンパク質[RFP]を事前にトランスフェクトした)、ヒト腸上皮細胞(INT-407)、およびヒト肝がん細胞(HepG2)を、10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone、Logan、UT)含有ダルベッコ最少必須培地(DMEM、Sigma、St.Louis、MO)を含む15cm組織処理皿を用いて、組織培養プラスチック上に2Dで90%集密度まで増殖培養した。トリプシン/EDTA(Hyclone)を用いて細胞を基材から脱離させ、さらなる試験に用いる前に培地に再懸濁した。
【0056】
流体デバイスの作製および流体回路の操作:各デバイスは、個別にアドレス指定可能な入口および出口を有するそれ自体の流体流路を介してそれぞれアクセスできる2つの円形チャンバー(直径10mm、厚さ3mm)から構成されている。これらの構築物は、通常のソフトリソグラフィー、レプリカモデリングおよび層ごとの積み重ねを用いて作製される23。手短に述べると、反転チャンバー/流路構造を3Dプリンティングにより作製し(Zprinter 450,Z Corp.,Rock Hill,SC)、型として用いた。ポリジメチルシロキサン(Sylgard 184、Dow Corning Corporation、Midland、MI)をその硬化剤と十分に混合し、型に直接注加し、60℃で60分間硬化させる前に乾燥チャンバー内にて真空中で脱気した。硬化後、カミソリを用いてデバイスを不必要な材料から分離し、型から除去した。エタノールによる洗浄の後、PDMSの層を積み重ね、オルガノイドの統合の準備を整えた。オルガノイドの導入の後、入口および出口ポートを含むPDMSの平らな部片を用いてチャンバーと流路を覆い、デバイス全体を密封し、固定した。流体連結は、ステンレススチールカテーテルカプラー(Instech Laboratories、Plymouth Meeting、PA)およびあらかじめ作製されたアクセスできるポートを介してPDMSデバイスと連結されたSylasticチューブ(Corning、Corning、NY)を用いて行った。
【0057】
ヒドロゲルオルガノイドの形成:オルガノイドは、チオール化ヒアルロン酸、チオール化ゼラチンおよびポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)ベースのヒドロゲルシステム(ESI-BIO、Alameda、CA)を用いて形成した。チオール化HAおよびゼラチン成分を、0.1重量/容積%光開始剤(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、Sigma、St.Louis、MO)を含む水に、それぞれ1重量/容積%で溶解し、2重量/容積%直鎖ポリエチレングリコールジアクリレート架橋剤溶液と2:2:1容積比で混合した。オルガノイドの形成のために、ヒドロゲル前駆溶液を用いて、10x106細胞/mLの細胞密度で細胞を再懸濁した。結腸がん腫瘍病巣を含む原発部位腸オルガノイドは、10:1の細胞数比で混合したInt-407腸上皮細胞および赤色蛍光タンパク質(RFP)標識HCT-116結腸がん細胞を用いて形成した。二次部位肝臓オルガノイドは、HepG2肝臓細胞のみを用いて形成した。ヒドロゲル中細胞懸濁液を25μLずつ適切なデバイスチャンバー内にピペットで移し、その後、UV光への曝露を用いて構築物の光重合を達成させた。実験は、上述のDMEMを用いて行った。
【0058】
転移オン・チップ培養:MOCデバイス上の二連オルガノイドの培養は、デバイスチャンバーのそれぞれにおいてオルガノイドが形成された後に実施し、デバイス部片を密封し、一緒に固定した。Sylasticチューブを用いて、MOC、培地貯槽およびバブルトラップをMP2 Precisionマイクロ蠕動ポンプ(Elemental Scientific,Inc.、Omaha、NE)に接続した。追加のチューブでポンプをデバイスに接続し、貯槽に戻して、複数の閉並列回路を形成した。培養の開始時に、4mLの培地(DMEM)を各貯槽に入れ、その後、マイクロ蠕動ポンプによる流体の流通を開始させた。培地の流通を開始させ、実験中5μL/分の速度に維持した。デバイスを連続的に操作し、培地中のフェノールレッド成分により示される、培地貯槽のpHレベルが低下した場合、培地の交換を行った。培地の交換中に、使用済み培地をシステムから除去し、コニカルチューブに入れ、万が一循環に入って腫瘍細胞が失われることを避けるために遠心分離した。使用済み培地を吸引し、新たなDMEMと交換した。細胞ペレットが存在するかのようにコニカルチューブを取り扱い、培地を上下にピペッティングし、この培地および存在した細胞を、培地貯槽に戻した。MOCシステム培養の間、オルガノイドおよび蛍光RFP標識腫瘍病巣の存在を顕微鏡法により経時的に記録した。1、4、9、11、14および17日目に一次オルガノイドの、ならびに、14、18、20および24日目に一次オルガノイド腫瘍細胞を播種した後の二次部位の複合画像を撮影した。この際、オルガノイドを光学顕微鏡法および594nmの落射蛍光により撮像し、非蛍光宿主肝臓オルガノイド内のRFP標識HCT-116細胞の進行を解析した。RFP標識HCT-116腫瘍細胞含量の百分率は、特注MatLabセグメンテーションスクリプトを用いて測定した。組織学的解析のために21日目にオルガノイドのサブセットを固定した。
【0059】
免疫組織化学:オルガノイドを4%パラホルムアルデヒドで1時間固定し、段階的エタノール洗浄とそれに続くキシレンにより脱水し、パラフィンに包埋し、5μmに薄切した。IHCのために、別途述べない限り、すべてのインキュベーションを室温で行った。スライドを60℃で1時間加温して、スライドへの結合を増大させた。抗原賦活化は、すべてのスライドについて実施し、プロテイナーゼK(Dako、Carpinteria、CA)中の5分間のインキュベーションにより達成された。0.05%Triton-X中、5分間のインキュベーションにより、切片を透過処理した。Protein Block Solution (Abcam)中、15分間のインキュベーションにより、非特異的抗体結合をブロックした。切片は、加湿チャンバー内で、以下、すべてが抗体希釈剤(Abcam)により1:200希釈された、一次ZO-1(ウサギにおいて産生、カタログ#61-7300、Invitrogen)、β-カテニン(ウサギにおいて産生、カタログ#71-2700、Invitrogen)、ビンクリン(マウスにおいて産生、カタログ#V9264、Sigma Aldrich)、N-カドヘリン(マウスにおいて産生、610921、BD Biosciences)、およびPCNA(ウサギにおいて産生、カタログ#07-2162、Millipore)とともに、60分間インキュベートした。
【0060】
一次インキュベーションの後、スライドをPBSで5分間にわたり3回洗浄した。次いで試料を適宜、抗体希釈剤(1:200希釈)中で抗ウサギもしくは抗マウスAlexa Fluor 488二次抗体(Invitrogen)とともに1時間インキュベートした。細胞をDAPIで5分間対比染色し、蛍光撮像の前に1×PBSで3回洗浄した。陰性対照は、一次抗体インキュベーションと並行して実施し、一次抗体の代わりにブロッキング溶液とのインキュベーションを含んでいた。陰性対照切片において免疫反応性は認められなかった。試料は、Leica DM 4000B正立顕微鏡(Leica Microsystems、Buffalo Grove、IL)により中央励起波長380nm、488nmおよび594nmの励起バンドフィルターを用いて落射蛍光により撮影した。
【0061】
オルガノイド環境剛性の操作および移動の追跡:腫瘍細胞の移動に対する物理的腫瘍微小環境パラメーターの影響を評価するために、上述のオルガノイドの変形形態を形成した。ヒドロゲル全体にわたって均一に混合された細胞を封入する代わりに、3Dオルガノイド総量を最初に形成させ、その後、ヒドロゲル前駆溶液中5μLの容積のHCT-116細胞を、オルガノイドの空間の中心部にピペッティングし、定位置でUV光への1秒間の曝露により重合させた。この作製スキームは、外側オルガノイドゾーンと、その内部に異なる腫瘍ゾーンが存在することをもたらした。オルガノイドおよび腫瘍ゾーンの弾性係数は、直鎖PEGDA架橋剤分子(3.4kDa MW)を、4アームPEG-アクリレート分子(10kDa MW、Creative PEGWorks、Winston-Salem、NC)または8アームPEG-アクリレート架橋剤分子(10kDa MW、Creative PEGWorks)と取り替えることによって調節し、剛性ヒドロゲルを作製した。オルガノイド構築物は、条件1:軟性環境(直鎖架橋剤)の内側の剛性(8アーム架橋剤)HCT-116腫瘍病巣;または条件2:剛性環境(8アーム架橋剤)の内側の軟性(直鎖架橋剤)HCT-116腫瘍病巣、の2つの主要な条件で作製した。オルガノイドは、DMEMを用いて上述のように維持した。7日後に、オルガノイドを固定し、Leica TCS LSIマクロ共焦点顕微鏡を用いて撮像した。最初の腫瘍ゾーンの上部の近くの各構築物の150μmのZスタックを取得し、それから最大画像(2D圧縮画像)を得た。
【0062】
薬物処理および移動の評価:MOCシステム内における移動のあり得る機構を検討し、腫瘍細胞が薬物介入に対する感受性を有していたかどうかを確認するために、上述のマルチゾーン移動モデルを用いて、抗マトリックスメタロプロテイナーゼ薬であるマリマスタットの有効性を試験した。結果で述べるように、HCT-116細胞が移動挙動の増大を示した上述の条件2(軟性腫瘍、剛性組織)を用いて、腫瘍オルガノイドをもう一度作製した。作製されたシステムの半分に、通常のDMEMを投与し、一方、他の半分に50μMマリマスタット(Sigma)/DMEMを投与した。薬物含有培地のpHを生理的pHに調整して、薬物に起因するpH変化が結果を乱さないことを確保した。3日目、7日目および10日目に蛍光および明視野オーバーレイ画像を撮り、それから、ImageJソフトウエアを用いて腫瘍からの細胞の移動距離を経時的に測定した。
【0063】
統計解析:データは、一般的に繰返し数の平均値±標準偏差として表す。すべての実験は、n=3以上で実施した。値は、2標本不等分散のStudentのt検定(両側)を用いて比較し、p<0.05またはそれ未満を統計的に有意とみなした。
【0064】
<結果>
MOCシステムにおける腫瘍オルガノイドは腸から肝臓に移動する:オルガノイドは、3D培養
11,15、腫瘍モデル
10およびバイオファブリケーション技術
12-14のような応用において組織工学および再生医療
16,24で広範に用いられているヒアルロン酸(HA)およびゼラチンベースのヒドロゲル、HyStemを用いた細胞封入(
図1A)により作製した。架橋剤の形状(直鎖、4アームおよび8アーム)の調節は、後に述べる、オルガノイドの弾性係数を調節するために用いることができる。各マイクロ流体デバイスは、通常のソフトリソグラフィー、レプリカモデリングおよび層ごとの積み重ねを用いて作製された、流体流路により接続された2つの円形チャンバー(直径10mm、厚さ3mm)から構成されていた(
図1B)
23。各組のチャンバーは、回路を経る流れを駆動するためのマイクロ蠕動ポンプおよび培地貯槽に接続された入口および出口を有していた(
図1C-D)。密封デバイスにおいて、25μLの腸-腫瘍オルガノイドおよび肝臓オルガノイドを形成し、次いで、マイクロ蠕動ポンプにより貯槽から供給された一定の流れ(10μL/分)のもとで維持した。一次オルガノイド内の腫瘍病巣を含む培養されたRFP標識HCT-116細胞は、時間の経過とともに増殖し、典型的には培養のほぼ14日目に、オルガノイドから循環中への播種が起こるまでRFP陽性腫瘍領域のサイズが成長した(
図2A)。循環に入った後、転移細胞は、二次肝臓オルガノイドに到達し、生着し、増殖し続けた多細胞の突出および凝集体を介してそれらに浸潤することができた(
図2B)。播種から生着までの時間にはばらつきがあるが、典型的には循環中への播種後2~3日以内に起こる。腫瘍により占有されたオルガノイド面積の百分率は、特注MatLabセグメンテーションコードを用いて各部位における複合画像を評価し(
図2C)、一次オルガノイドにおける腫瘍の増殖の傾向をさらに実証した。蛍光HCT-116細胞は、1日目の評価では視野の低い割合(0.05%未満)を占めていたが、時間の経過とともに増殖し、評価した視野のほぼ20%となった。重要なことに、このデータは、転移下流部位における定着後の腫瘍増殖の開始および継続も示している。この第2の増殖曲線において、14日目(本発明者らが、腫瘍細胞が循環に入ることを初めて認めた時点である)にはHCT-116細胞はゼロであったが、それらは、18日目までに急速に足場を確立し、続く6日間にわたって数と腫瘍の割合が速やかに増加している。
【0065】
転移した結腸がん腫瘍病巣は腫瘍形成および間葉表現型のマーカーを示す:肝臓オルガノイドへの生着および浸潤を認めた後、転移部を含む二次部位構築物を固定し、処理して、免疫染色プロトコール用の組織切片を作製した。構築物のHepG2ベースの肝臓領域(RFPの欠如により同定)は、典型的な上皮表現型を示した。これらの領域は、ZO-1密着結合タンパク質、β-カテニンおよびビンクリン(すべて細胞間接着のマーカーである)を有し、細胞膜周囲の集中的な発現を示した細胞が見られた。RFPによって強調された転移領域においては、ZO-1、β-カテニンおよびビンクリンは、典型的には細胞膜に沿って発現しなかった(データは示さず)。この細胞間結合の欠如は、HCT-116細胞が運動性表現型を有していたことを示唆するものであり、移動してこれらの転移部を形成したと予期された
25,26。興味深いことに、HCT-116細胞の細胞質および核領域に陽性β-カテニン染色が存在していたが、これは、WNT/β-カテニン経路が活性化された場合の上皮間葉転換(EMT)において一般的に説明される現象である。活性化は、β-カテニンが核に移動し、浸潤転移性表現型を誘導し得る転写因子として作用することをもたらす
27-29。さらに、N-カドヘリンおよびPCNAが腫瘍領域において陽性に染色されたことは、間葉および増殖性表現型を示すものである(データは示さず)
30。これと比較して、2D組織培養プラスチック上で培養されたHCT-116細胞は、上皮のように見え、膜結合ZO-1およびβ-カテニンの陽性発現を示すが、N-カドヘリンを発現せず(
図3)、したがって、これは、腫瘍の生物学を十分な正確さで再現するためには3Dシステムを用いることが必要であることを裏付けるものである。
【0066】
これらのデータは、本発明者らのMOCシステムが腸から肝臓への転移中に起こるロジスティクスを模倣したものを提供することを示すものである。さらに、本発明者らが肝臓オルガノイドにおける転移を評価する場合、本発明者らは、それぞれ転移/間葉および上皮マーカープロファイルに対応する、転移性RFP陽性領域とRFP陰性肝臓領域との間の明確な差異の証拠を確認する。
【0067】
3Dにおける腫瘍細胞の移動は環境の機械的特性の変化および薬物処理に反応する:調節可能なヒドロゲルシステム、新しい培地、または他の物質を、容易に導入するための貯槽を含む閉鎖循環システム、および撮像用の透明な覆いから構成されるこのシステムは、したがって、システムを操作し、下流の結果を評価し、進行の生物学的機構を研究し、薬物の試験研究を実施することができる強力なツールである。このシステムの有用性を実証するために、本発明者らは、そのような実験を開始した。1つの応用において、本発明者らは、転移浸潤に対する物理的微小環境パラメーターの影響を探究するために、このプラットフォームを用いた。他の応用において、本発明者らは、確立された抗がん薬がヒト患者において有するのと同じ作用を、本発明者らのシステムにおいて有するかどうかを判断するために、MOCシステムを用いることを始めた。この相関を立証することができるならば、本発明者らは、MOCシステムを薬物候補スクリーニングにおいて確実に用い、後に患者由来の腫瘍生検材料を組み込むことにより予測手段として個別医療に適応することができると考えている。
【0068】
用いたヒドロゲルシステムのモジュール性は有益である。その理由は、モジュール性のため、架橋剤を交換することが可能であり、それにより、架橋剤の形状を変化させることにより、ヒドロゲルの網状構造内の有効架橋が変化し、続いて弾性係数が変化して
14、組織および腫瘍の弾性係数E’またはせん断係数G’に対する調節が可能となるためである。上述の直鎖PEGDA架橋剤(MW 3.4kDa)を用いることにより、約100PaのG’を有するヒドロゲルが生成する。しかし、代わりに8アームPEGアクリレート架橋剤を用いることにより、約4500PaのG’値を達成することができる(
図4A)。4アーム架橋剤を使用することにより、2000Paに近いG’を有するヒドロゲルが得られる。本発明者らの転移プラットフォームにこれらの3D環境を用いることにより、本発明者らは、これらの機械的特性の操作がHCT-116の移動挙動に重大な影響を及ぼしたことを認めた。HCT-116腫瘍病巣は、個別の剛性(100Paまたは4500Pa)を有する周囲ヒドロゲルの内部に、個別の微小環境剛性レベル(100Paまたは4500Pa)を有するものとして形成された(
図4B)。
図4C~Eに、軟性ヒドロゲル中剛性腫瘍構築物(条件1)または剛性ヒドロゲル中軟性腫瘍構築物(条件2)のマクロ共焦点上下画像、側面画像および等角画像を示す。条件1では、本発明者らは、腫瘍の上部界面近くの細胞の、周囲ヒドロゲル中へのある程度の増殖を認めた。しかし、条件2では、本発明者らは、腫瘍構築物の上部から上方および外向きの、大きな多細胞突起および凝集体の移動を認めた。これは、組織または腫瘍の剛性レベルが腫瘍細胞の移動および浸潤挙動の増大を誘導または準備し、おそらく、転移を加速し得ることを本発明者らに示唆するものである。興味深いことに、マウスモデルにおいて、WNT経路の上方制御に関連して、正常組織が浸潤性転移部を支持していたことが実証された。逆に、コラーゲン架橋が減少した、ノックアウトマウスモデルにおける組織のE’が低下した状態では、同じ転移性腫瘍は、転移しなかったが、それらの最初の位置で増殖した
31。腫瘍の侵襲性に対する物理的パラメーターの影響のこの概念は、本発明の新たな標的を得ることにつながる可能性がある。おそらく、組織の機械的特性の変化を一時的に人工的に引き起こし、それにより、転移の可能性を低くすることができる。あるいは、腫瘍およびそれらの周囲環境の物理的パラメーターは、最低でも、腫瘍の悪性度および転移の可能性を示すバイオマーカーとしての役割を果たす可能性がある。
【0069】
薬物試験のためのこのシステムの使用を実証するために、本発明者らは、HCT-116構築物において、マリマスタットが実際に周囲環境への腫瘍細胞の浸潤を減少させることができることを示した(
図5)。さらに、この試験は、MOCにおける腫瘍がマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害薬に予想通りに反応することを実証して、
図2に示した本発明者らの転移の観察所見の妥当性の確認としての役割も果たしている。腫瘍オルガノイドは、周囲の3D環境への転移浸潤を激化させた上述の第2の条件(軟性腫瘍[~100Pa]、剛性組織[~4500Pa])を用いて、上述のように作製した。作製されたシステムの半分に、通常のDMEMを投与し、一方、他の半分に50μMマリマスタット(Sigma)/DMEMを投与した。3日目、7日目および10日目にオーバーレイ蛍光および明視野画像を撮り、腫瘍からの細胞の移動の距離を経時的に測定した。
図5Aに、より少数のRFP陽性細胞凝集体が存在するマリマスタット群と比較して、無薬物状態の腫瘍コアから移動するRFP陽性多細胞HCT-116凝集体の存在の増加を例示する、10日目のオーバーレイを示す。
図5Bに、無薬物対照条件で各時点における移動距離(画素数)の有意な増加が示されている、この移動活性の定量化を示す。換言すると、マリマスタットの投与は、転移性HCT-116細胞の移動を有意に妨げたが、これは、MMPの阻害
21,32による可能性が最も高い。さらに、この特定のシステムで実施しなかったが、本発明者らは、類似の3D腫瘍オルガノイドシステムがin vivo組織と同様に5-FUに反応したことを最近示した
33。
【0070】
<考察>
3Dオルガノイドを用いるMOCシステムの概念は、がん研究における多くの現在の短所に対処するものである。第一に、動物モデルは、しばしば長い実験時間および試験規模の調節が困難であるため、迅速な試験および高処理能力シナリオには最適ではない。それらは、限定された機械的操作の能力を支援するにすぎず、結果をモニターする簡単な方法を提供するとは限らない。おそらく、最も重要なことに、動物における結果は、ヒトにおける結果を必ずしも予測するものでない。がん研究における他の最も一般的なツールである、伝統的な2D培養は、in vivo組織の3D微小環境を再現することができない3。多くの理由のため、2Dで有効であると見いだされる薬物の用量は、患者に拡大した場合、しばしばさほど有効ではない4,5。MOCシステムは、ヒトに由来する細胞を用い、それらを3Dヒドロゲル支持環境において用いることによってこれらの問題に対処する。本発明者らは、宿主組織または腫瘍領域によって適切な細胞間相互作用、および、腫瘍が薬物に適切に反応することを観察した。多くの研究アプローチにおいて欠けている他の面は、転移の原発腫瘍部位、および下流部位または転移の部位の両方を考慮しないことである。MOCは、研究者が起源組織から標的組織への転移性移動の動力学を再現することを可能にする、これらの部位を表す組織工学により作製された3Dオルガノイドを具体的に含むように概念化された。起源腫瘍および転移部における細胞の表現型がかなり異なり得る21,22ため、これは重要である。腫瘍型および微小環境の両方を研究する能力を有することは、転移をその全体として正確にモデル化(model)するために不可欠である。本発明者らのシステムは、原発部位オルガノイドにおける腫瘍の増殖を長期にわたり維持することに成功した。本発明者らが用いた転移性結腸がん細胞である、HCT-116は、オルガノイドから脱出し、次いで循環に入ることができた。さらに、また重要なことに、循環細胞は、デバイス内の下流オルガノイド中に生着し、オルガノイドの3D空間に浸潤し、サイズが成長し続ける。これは、転移性腫瘍が肝臓宿主組織内で時間の経過とともに成長した6、本発明者らが最近開発した肝臓腫瘍スフェロイドベースのオルガノイドモデルと一致している。重要なことに、これおよび以前に言及した試験からの免疫染色データは、両方が上皮オルガノイド環境と間葉マーカー発現腫瘍病巣との間の明確な差異を実証している。特に、これは、HCT-116細胞が間葉性および転移性ではなく、上皮のように見える、HCT-116細胞を伝統的な2D組織培養プラスチック上で培養する場合と劇的に異なる。本発明者らがここで述べたデータは、本システムを用いて実施された最初の妥当性確認および検証実験の集積である。しかし、本発明者らはまた、腫瘍微小環境の変化を作り出すためにモジュラーヒドロゲル技術を用いて、または化学療法薬を投与し、その後、これらの因子の効果を簡単な方法で観察し、記録することができ、ひいては、このプラットフォームが有すると本発明者らが考える重要な可能性が多くの機械的およびスクリーニング応用に用いられることを実証することによって、システムを操作する能力を実証した。
【0071】
【0072】
[実施例2]
<転移の動的試験用の多重生体機能チッププラットフォーム>
がんの転移に関与する細胞現象は、「種子および土壌」仮説のもとに試験されまたは解剖学的および機械的ルーティングにより定義された[1]。大腸直腸がん(CRC)の場合、腫瘍細胞は、おそらく隣接リンパ液排出に起因して、主として肝臓に転移する。生体機能チップ(OC)プラットフォームのモジュールおよびマイクロ流体レイアウトの進歩は、統合細胞外マトリックス(ECM)ベースの足場とともに、in vivoでの環境組成物および力学を再現する助けとなっている[2-3]。in situでパターン化されたヒアルロン酸ヒドロゲル臓器であるHepG2/C3A(肝臓)、A549(肺)、HUVEC(内皮)およびHCT-116(結腸)細胞を、等距離マイクロ流体潅流チャンバー内に配置した。本発明者らは、3D-ECMベースの足場に埋め込まれた>500μmのin situパターン化臓器を用いた高度に精密な多重OCデバイスの作製を達成した。
【0073】
図6に示すように、本発明者らは、3D-ECM構築物を含み、等距離マイクロ流体システムにより接続された多重臓器プラットフォームを作製した。臓器構築物は、in situパターン化を用いて個別のマイクロ流体チャンバーに隔離し、これまでに1週間生存を維持することができている。各構築物の健康状態は、代表的な代謝物によって評価した。本システムは、in vivoにおける環境組成物および物質の流れを、in vitroで模倣することを可能にする。本プラットフォームは、大腸直腸がんの転移に対する流体ネットワーク設計の影響と組織環境因子の影響とを対比して評価するのに有用である。
【0074】
【0075】
[実施例3]
<精密医療主導の療法をスクリーニングするための腫瘍オルガノイド・オン・チッププラットフォーム>
精密医療、つまり患者の腫瘍遺伝子プロファイルに基づいて治療法を特定することは、かなりの影響力を獲得してきた。しかし、実際には、主要な突然変異の特定の後でさえ、腫瘍学者は、しばしばいくつかの薬物の選択肢があり、有効な治療法の予測のためのシステムが必要であることが示唆される。
図7に概要を示したように、上記した方法および装置は、臨床で一般的に観察される突然変異を有する腫瘍細胞株の「ツールボックス」を用いて突然変異に固有の微妙な薬物反応を実証することにより、腫瘍オルガノイドを精密医療における使用に移行するためのプラットフォームを提供する。非限定的な実施例において、大腸直腸がん(CRC)オルガノイドは、CRC細胞(Caco2およびSW480はWT;HCT-116はKRASMT;およびHT29はBRAFMTである)をマイクロ流体デバイス中でヒアルロン酸およびゼラチンヒドロゲルに封入することによって作製した。次いで、それぞれのタイプのCRCオルガノイドを、5-FUまたはオキサリプラチン(WT腫瘍に有効な第一選択薬)、トラマチニブ(KRASMT腫瘍に有効なEGFR経路薬)およびソラフェニブまたはレゴラフェニブ(BRAFMT腫瘍に有効なEGFR経路薬)の臨床CRC薬のパネルにかけた。48時間の処置の後に、MTSアッセイにより、オルガノイドをミトコンドリア代謝について評価した。EGFR遺伝子状態と相関して、薬物反応性の明確な差異があると思われた。Caco2およびSW480オルガノイド(WT)の両方が5-FUに対して特に感受性であり、他の薬剤に対してさほど感受性でなかった。HCT-116オルガノイドは、5-FUおよびソラフェニブの両方に対して特に感受性であった。HT29オルガノイドは、ボードにわたって一般的により抵抗性であったが、レゴラフェニブに対してわずかに感受性の傾向を示した。ここで述べた結果は、腫瘍の遺伝子プロファイルに基づいて薬剤をスクリーニングするのに3D腫瘍オルガノイドを用いて成功を収めることができることを実証するものである。方法およびシステムは、患者生検由来の腫瘍細胞への移行と同様に、転移の動力学を評価するために有用であり、個々の患者に合わせた上述のような腫瘍・オン・チップシステムを用いて潜在的に有効な薬物をスクリーニングし、最も有効で、投与するのに最も安全である治療薬を決定するために実行に移すことができる。
【0076】
【0077】
上記は、本発明を例示するものであり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。本発明は、以下のクレームにより規定され、クレームの同等物は、それに含まれるものとする。