IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼニス羽田株式会社の特許一覧 ▶ 藤村ヒューム管株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社サンリツの特許一覧

<>
  • 特許-マンホールの補強構造 図1
  • 特許-マンホールの補強構造 図2
  • 特許-マンホールの補強構造 図3
  • 特許-マンホールの補強構造 図4
  • 特許-マンホールの補強構造 図5
  • 特許-マンホールの補強構造 図6
  • 特許-マンホールの補強構造 図7
  • 特許-マンホールの補強構造 図8
  • 特許-マンホールの補強構造 図9
  • 特許-マンホールの補強構造 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-01-20
(54)【発明の名称】マンホールの補強構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/12 20060101AFI20220113BHJP
【FI】
E02D29/12 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019073206
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2020172739
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000229128
【氏名又は名称】ベルテクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000224215
【氏名又は名称】藤村クレスト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599024001
【氏名又は名称】株式会社サンリツ
(74)【代理人】
【識別番号】100090206
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 信道
(72)【発明者】
【氏名】福永 一基
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 和也
(72)【発明者】
【氏名】大津賀 則男
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218791(JP,A)
【文献】特開2016-145484(JP,A)
【文献】特開2006-45764(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0137508(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に伸びる既設直壁(71)と、該既設直壁(71)の上部に載る既設斜壁(61)と、を有するマンホールの補強構造であって、
前記既設斜壁(61)の上部には、蓋(51)を載せるための受枠(53)を配置してあり、
前記既設直壁(71)の内周面を覆う更新直壁(41)と、前記既設斜壁(61)の内周面を覆う更新斜壁(21)と、用い、
前記既設斜壁(61)の上部には、前記受枠(53)の直下に位置する領域を削り落とした拡径部(65)を形成してあり、
前記更新斜壁(21)は、前記更新直壁(41)の上部に載り、且つ該更新斜壁(21)は、前記受枠(53)の内周側を通過できるよう複数の斜壁セグメント(22、23)に分割してあり、
前記更新斜壁(21)は前記拡径部(65)の中に入り込み、前記受枠(53)は該更新斜壁(21)によって支持されることを特徴とするマンホールの補強構造。
【請求項2】
前記更新斜壁(21)の上板(26)には、環状に並ぶように複数のメネジ(35)を形成してあり、該メネジ(35)の下方からジャッキボルト(31)を差し込み、その先端を上方に突出させるほか、該更新斜壁(21)と前記受枠(53)との間には、環状の調整フランジ(55、56)を挟み込み、該ジャッキボルト(31)の先端で該調整フランジ(55、56)を支持しており、
個々の該ジャッキボルト(31)の突出長さを調整することで、該調整フランジ(55、56)および該受枠(53)の姿勢が変更可能であることを特徴とする請求項1記載のマンホールの補強構造。
【請求項3】
前記更新直壁(41)と前記更新斜壁(21)との間には、該更新斜壁(21)の高さを調整するための台座(11、12)を挟み込んであり、該台座(11、12)は、前記受枠(53)の内周側を通過可能な大きさに分割してあることを特徴とする請求項1または2記載のマンホールの補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のマンホールを改修し、その上を通行する自動車などの荷重を安全に受け止め可能なマンホールの補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、橋梁やトンネルなどの社会インフラの老朽化が問題になっているが、その全面更新には多大な費用と労力を要するため、既設のものをできるだけ活用することで、更新に要する工期や費用を節約可能な技術が待ち望まれている。そして、老朽化が問題になっている社会インフラは様々だが、その一つに下水道が挙げられる。下水道は、いわゆる高度成長期の昭和30年代から40年代にかけて、大都市を中心に急速に普及した経緯があり、これらが一斉に更新時期を迎えている。
【0003】
下水道には様々な異物が流れているため、管が詰まる恐れがあり、所定の間隔でマンホールを設置し、メンテナンスができるようにしてある。マンホールの大きさや形状は様々だが、既設のマンホールの形状例を図10に示す。このマンホールの底部には、管と接続されたインバートが形成されており、その上には円筒状の直壁が立ち上がっており、さらに直壁と路面との間には、斜壁が配置されている。そして斜壁の上には、蓋を保持するため、環状の受枠を載せてあるが、路面と蓋を段差なく揃えるため、斜壁と受枠との間には、調整モルタルが挟み込まれている。また直壁は、メンテナンスなどを考慮して相応の大きさを確保してあるが、蓋は必要最小限の大きさである。そのため斜壁は、上方に向かうに連れて先細り形状になることが多く、図10では円錐状になっている。
【0004】
マンホールの改修に関する技術開発の例として、下記特許文献が挙げられる。そのうちの特許文献1では、地盤の液状化現象に備えたマンホールの浮上防止装置が開示されている。この装置は、合成樹脂製の収容体を用い、マンホール周壁の内周面全域を収容体で覆い隠す構成になっており、個々の収容体は、作業員が無理なく取り扱うことのできる大きさに抑制してあり、しかもその内部に重りを詰め込むことができる。このように、重りが詰め込まれた収容体をマンホールの周方向と上下方向に隙間なく敷き詰めることで、既設のマンホール周壁が覆い隠され、腐食性ガスによる劣化を食い止めることができるほか、重量の増加により、液状化現象による浮き上がりを防ぐことができる。
【0005】
次の特許文献2では、耐酸性に優れ、工期が短く、耐久性に優れ、改修後の維持管理も容易なマンホール改修工法が開示されている。この工法の手順を列挙すると、まず内部を洗浄し、次にマンホールの周囲を掘削すると共に、マンホールの上部を塞ぐスラブなどを撤去し、筒状のマンホール躯体を露出させる。そして、マンホール躯体の内側に新製のレジンマンホールを挿入し、その後、既設管との接続を行い、さらにレジンマンホールの外側に充填材を注入する。このように、既設のマンホールの上部を一時的に撤去し、内部に新製のレジンマンホールを挿入することで、耐酸性や耐久性が向上し、改修後の維持管理が容易になる。また作業時、掘削範囲が上部に限定されるため、工期が短いという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-211354号公報
【文献】特開2012-154077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の特許文献1で開示された技術は、老朽化したマンホールを撤去することなく低コストで長寿命化を図ることができ、しかも重量の増加によって液状化現象による浮き上がりを防止できるといった特徴を有する。ただしマンホールの上部については、前記の図10のように、先細りの斜壁が形成されており、その内周面については、特許文献1のような収容体を敷き詰めることができない。しかし蓋の上を車両が通行するため、斜壁には圧縮荷重のほか、曲げモーメントも作用し、劣化が進みやすい。したがって斜壁についても、改修を行うための技術開発が必要である。
【0008】
通常、既設のマンホールの改修を行う際は、前記の特許文献2のように、マンホールの周囲を掘削する必要がある。特許文献2では、その掘削範囲をマンホールの上部に限定しているが、それでも、既設のマンホール躯体よりも広い範囲を掘削する必要があり、周辺の通行が大きく阻害されるほか、その残土の処理なども問題になる。そのため改修に際しては、掘削範囲をできるだけ狭めることが望ましい。
【0009】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、マンホール上部の斜壁を改修し、通行する自動車などの荷重を安全に受け止め可能で、また作業時に周辺を掘削する必要のないマンホールの補強構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、上下方向に伸びる既設直壁と、該既設直壁の上部に載る既設斜壁と、を有するマンホールの補強構造であって、前記既設斜壁の上部には、蓋を載せるための受枠を配置してあり、前記既設直壁の内周面を覆う更新直壁と、前記既設斜壁の内周面を覆う更新斜壁と、用い、前記既設斜壁の上部には、前記受枠の直下に位置する領域を削り落とした拡径部を形成してあり、前記更新斜壁は、前記更新直壁の上部に載り、且つ該更新斜壁は、前記受枠の内周側を通過できるよう複数の斜壁セグメントに分割してあり、前記更新斜壁は前記拡径部の中に入り込み、前記受枠は該更新斜壁によって支持されることを特徴とするマンホールの補強構造である。
【0011】
本発明は、老朽化した既設のマンホールを改修し、蓋に大型自動車が載った場合でも、その荷重を安全に受け止めることのできる補強構造であり、既設の斜壁の内周側に更新斜壁を配置し、これで蓋に作用する荷重を一手に受け止める。そして本発明では、既設のマンホールが直壁と斜壁で構成されていることを前提としており、そのうち直壁は、同一横断面で壁状に直立する。また斜壁は、直壁と路面との間に配置され、蓋に応じた先細り形状となっている。斜壁については、単純な円錐状になることが多いが、蓋の位置が直壁の中心からずれている場合、横から見て一方に偏った三角形などになることもある。なお以降、既設のマンホールの直壁および斜壁をそれぞれ「既設直壁」と「既設斜壁」と称するものとする。
【0012】
受枠は、路面上に配置される蓋を嵌め込むための環状の金属部品であり、改修前は、既設斜壁で支持されている。そして本発明では、原則として、受枠は取り外すことなくそのまま流用する。そのため、受枠が埋め込まれている路面を一切掘削する必要がなく、作業量が抑制される。ただし状況によっては、一連の改修作業に先立ち、既設の受枠を一旦取り外し、後で再使用することもある。その際は、受枠の周囲を掘削する必要があるが、その範囲が広域に及ぶことはない。
【0013】
更新直壁は、直壁の内周面を隙間なく覆い隠す筒状のものだが、その実体は様々で、一例としては、前記の特許文献1のように、補修セグメントと称するブロック状のものを周方向と上下方向に隙間なく敷き詰める形態が挙げられる。補修セグメントは、既設のマンホールの中で使用することを想定しており、マンホール上部の受枠の内周側を無理なく通過可能な大きさで、既設直壁の内周側に隙間なく敷き詰めることができる。また補修セグメント以外の例としては、既設直壁の内周側に型枠を組み、そこにコンクリートや樹脂を流し込み、更新直壁を形成することもできる。ただしいずれについても、更新直壁は垂直荷重の伝達を担うため、薄い板状ではなく相応の厚さが必要になる。
【0014】
更新斜壁は、既設斜壁の内周面を隙間なく覆い隠す筒状のもので、更新直壁の上部に載せる。また更新斜壁は、その目的から、既設斜壁の内周面に応じた形状にする必要があるが、更新斜壁の内周側には、作業員が出入り可能な空間を確保する。さらに更新斜壁は、既設の受枠の内周側を無理なく通過できるよう、複数に分割してあり、この分割されたものを斜壁セグメントと称するものとする。斜壁セグメントの形状や材質は自在だが、コストや軽量化のため、複数の鋼板を溶接で一体化した構造になることが多い。
【0015】
拡径部は、既設斜壁の上部を削り落とした部位で、受枠を更新斜壁で支持するために設ける。受枠は既設斜壁で支持されているが、既設斜壁が劣化すると、受枠から伝達する荷重を受け止められなくなる恐れがある。そこで既設斜壁の上部において、受枠の直下に位置する領域を削り落とした拡径部を設け、その中に更新斜壁の上部を入り込ませることで、既設斜壁に替わって更新斜壁で受枠を支持する。当然ながら拡径部の形状は、受枠や更新斜壁に基づいて決定し、場合によっては、既設斜壁の内周側だけに留まらず、外周面に到達することもある。なお拡径部を一気に形成すると、受枠が落下する恐れがある。そのため拡径部を段階的に形成し、都度、斜壁セグメントを組み込むこともある。
【0016】
このように、既設直壁の内周側には、相応の厚さを有する更新直壁を構築するほか、既設斜壁の上部を削り落として拡径部を設け、さらに更新直壁に更新斜壁を載せ、その上部を拡径部の中に入り込ませることで、受枠と蓋を更新斜壁で支持できるようになる。そのため蓋に作用した荷重は、受枠から更新斜壁と更新直壁を経て地盤に伝達され、既設直壁や既設斜壁については、自重以外の垂直荷重が作用しなくなる。
【0017】
請求項2記載の発明は、受枠や蓋を安定して支持するためのもので、更新斜壁の上板には、環状に並ぶように複数のメネジを形成してあり、該メネジの下方からジャッキボルトを差し込み、その先端を上方に突出させるほか、該更新斜壁と受枠との間には、環状の調整フランジを挟み込み、該ジャッキボルトの先端で該調整フランジを支持しており、個々の該ジャッキボルトの突出長さを調整することで、該調整フランジおよび該受枠の姿勢が変更可能であることを特徴とする。既設のマンホールは、経年変形によって傾いている場合があるほか、排水などの理由で路面が傾いている場合もあり、更新斜壁の上面と受枠の下面が平行に揃うとは限らない。そこでこの発明のように、ジャッキボルトなどを用い、受枠や蓋の支持を安定させることがある。
【0018】
ジャッキボルトは、通常のボルトを流用したもので、その軸部を更新斜壁の上面に位置する上板から突出させる。そのため、更新斜壁の内部には空洞を設けるほか、更新斜壁の上板にはメネジを設け、この空洞から上方に向けてジャッキボルトを差し込む。なおジャッキボルトは、更新斜壁の周方向に沿って複数本を環状に配置するものとする。
【0019】
調整フランジは、内周側が切り抜かれた環状で、更新斜壁と受枠との間に挟み込まれ、受枠の下面を覆い隠すように面接触しており、ジャッキボルトと受枠が直に接触することを防ぐ。したがって調整フランジは、ジャッキボルトの先端に接触することで支持される。そして個々のジャッキボルトの突出長さを調整し、全てのジャッキボルトを調整フランジに接触させることで、既設のマンホールの傾きなどを吸収し、受枠や蓋を安定して支持できるようになる。なお調整フランジは、受枠の内周側を通過できるよう複数に分割し、所定の位置に組み込んだ後、溶接などで一体化することがある。
【0020】
なお、更新斜壁の上面と受枠の下面が平行に揃わない場合の対策については、請求項2記載の発明以外にも、金属やコンクリートで作られたクサビの打ち込みや、モルタルや樹脂の流し込みなど、様々な手段が考えられる。ただしこれらの手段は、クサビの落下防止や型枠の設置など、作業が煩雑になりやすい。対して本発明では、ジャッキボルトを回転させるだけの単純な作業で対応できるほか、ミリ単位での微調整も容易に実施できるなどの利点を有する。
【0021】
請求項3記載の発明は、更新斜壁の配置を最適化するためのもので、更新直壁と更新斜壁との間には、該更新斜壁の高さを調整するための台座を挟み込んであり、該台座は、受枠の内周側を通過可能な大きさに分割してあることを特徴とする。更新直壁を補修セグメントで構築する場合、補修セグメントは、大量に使用されることから、通常は量産品を用いる。そのため更新直壁の最上面は、更新斜壁を載せるのに適した高さとなっているとは限らない。仮にこの最上面が低いと、既設斜壁と更新斜壁が接触することなく大きな隙間ができてしまい、マンホールの内部空間が小さくなるほか、更新斜壁と受枠との距離が過大になる。
【0022】
そこで請求項3記載の発明のように、更新直壁と更新斜壁との間に台座を挟み込み、更新斜壁の高さを調整できることが望ましい。台座は、単純な板状のものでも構わないが、高さを確保するため、箱状とすることもある。そして台座についても、更新斜壁と同様、複数に分割することで、受枠の内周側を通過できるようにする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1記載の発明のように、マンホールの補強構造として更新斜壁と更新直壁を用い、既設直壁の内周側には、相応の厚さを有する更新直壁を構築するほか、既設斜壁の上部を削り落として拡径部を設け、さらに更新直壁に更新斜壁を載せ、その上部を拡径部の中に入り込ませることで、受枠と蓋を更新斜壁で支持できるようになる。そのため蓋に作用した荷重は、受枠から更新斜壁と更新直壁を経て地盤に伝達され、既設直壁や既設斜壁については、自重以外の垂直荷重が作用することがなくなり、通行する車両の荷重を安全に受け止め可能で、既設のマンホールの長寿命化が実現する。
【0024】
個々の補修セグメントや斜壁セグメントは、人力でも取り扱いが可能で、既設のマンホールの中に無理なく搬入可能で、作業性に優れている。しかも更新直壁や更新斜壁は、自立的に形状を維持できるため、これらを既設直壁や既設斜壁と一体化する作業も不要である。加えて本発明では、更新直壁や更新斜壁の構築や、拡径部の形成といった一連の作業をマンホールの内部だけで行うことが可能で、路面を一切掘削する必要がない。そのため、交通の妨げを最小限に抑制できるほか、作業に伴う許認可の手続も軽減される。
【0025】
請求項2記載の発明のように、更新斜壁の上板から複数本のジャッキボルトを突出させ、ジャッキボルトの先端に調整フランジを載せ、さらに調整フランジに受枠を載せ、個々のジャッキボルトの突出長さを調整することで、調整フランジおよび受枠の姿勢を自在に変更できるようになる。そのため、既設のマンホールが傾いている場合でも、受枠や蓋を水平に保持することができる。またジャッキボルトは、工具類で容易に回転させることができ、しかもミリ単位での微調整も容易である。
【0026】
請求項3記載の発明のように、更新直壁と更新斜壁との境界に台座を挟み込むことで、更新斜壁の配置を最適化することができ、更新斜壁と既設斜壁との隙間を無くすることができる。そのため、マンホールの内部空間が一段と小さくなることを防止できるほか、更新斜壁と受枠との距離が過大になることもない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明によるマンホールの補強構造の具体例を示す斜視図で、既設のマンホールに更新直壁と更新斜壁を構築し、これらで蓋を支持する。
図2図1の台座や斜壁セグメントなどの詳細を示す斜視図である。
図3図1のマンホールを改修する際の初期段階を示す斜視図である。
図4図3の後、内部に台座を構築する段階を示す斜視図である。
図5図4の後、内部に更新斜壁を構築する段階を示す斜視図である。
図6図5の後、調整フランジを組み込む段階を示す斜視図である。
図7図6の後、改修が完了した最終段階を示す斜視図である。
図8】既設直壁と既設斜壁が同心ではなく偏心しているマンホールを改修する場合を示す斜視図である。
図9図8の後、改修が完了した最終段階を示す斜視図である。
図10】既設のマンホールの形状例を示す斜視図で、インバートの上に円筒状の直壁が形成され、その上に円錐状の斜壁が載っている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明によるマンホールの補強構造の具体例を示し、既設のマンホールに更新直壁41と更新斜壁21を構築し、これらで蓋51を支持する。既設のマンホールは、既設直壁71の上部に既設斜壁61を載せた構造で、既設直壁71は単純な円筒状だが、その上部には、半径方向にせり出した上フランジ72を設けてある。また既設斜壁61は先細りの円錐状で、その下部には、半径方向にせり出した下フランジ62を設けてあり、上部についても、半径方向にせり出した上フランジ64を設けてあり、下フランジ62と上フランジ64を円錐状の中間部63で結んでおり、上フランジ64は下フランジ62よりも小径である。
【0029】
既設斜壁61は路面Sの近傍に埋め込まれており、既設斜壁61で受枠53を支持している。受枠53は、蓋51を保持するための金属製の部品で、同一断面が連続する環状になっており、その最上面が路面Sと段差なく並ぶほか、上部内周に蓋51が嵌まり込む。また既設斜壁61と受枠53との間については、本来、図10に描くように調整モルタルを挟み込んであるが、作業時にはこれを破砕して取り除く。なお受枠53は、一連の作業においても取り外す必要がなく、既設の物をそのまま流用する。
【0030】
既設直壁71の内周面は、更新直壁41で覆い隠されている。更新直壁41は、補修セグメント42を周方向と上下方向に隙間なく敷き詰めたもので、個々の補修セグメント42は、既設直壁71の曲率に応じて湾曲した箱状で、隣接する補修セグメント42同士は隙間なく密着し、垂直荷重などを伝達できる。なお補修セグメント42は、一定の形状で大量に製造される。そのため更新直壁41の最上面は、既設直壁71の上面と揃えることが難しく、図ではやや低い位置になっている。
【0031】
更新斜壁21は、既設斜壁61の内周面を覆うように配置するが、受枠53の内周側を無理なく通過できるよう複数に分割してあり、このように分割されたものを斜壁セグメント22、23と称するものとする。図1では、五個の斜壁セグメント22、23がまとまって更新斜壁21になり、個々の斜壁セグメント22、23は、いずれも扇形の下板24と上板26を直立するリブ25で結び、さらに外周面を周板27で塞いだ構成で、これらを溶接で一体化してある。なお唯一の斜壁セグメント23は、他の物に比べて小さい。これは、既設斜壁61の内周面に配置する際、最後に組み込むことを考慮したもので、左右両側のリブ25が放射状ではなく平行に配置してある。当然ながら、更新斜壁21の分割数や、個々の斜壁セグメント22、23の形状は、実情に応じて異なる。
【0032】
斜壁セグメント22の上板26からは、ジャッキボルト31が突出している。ジャッキボルト31は、汎用のボルトであり、斜壁セグメント22の内部から差し込まれ、さらに上板26と螺合しており、その軸部が上板26から突出している。したがってジャッキボルト31を回転させることで、上板26からの突出長さを自在に調整することができる。なお図1では、ジャッキボルト31を一本だけ描いてあるが、実際には、全ての斜壁セグメント22に複数本のジャッキボルト31を配置する。
【0033】
台座11、12は、更新直壁41と更新斜壁21との間に挟み込み、更新斜壁21の高さを調整し、更新斜壁21の周板27を既設斜壁61の内周面に接近させる。そして台座11、12についても、受枠53の内周側を通過できるよう五分割してあり、個々の台座11、12は、いずれも扇形の下板14と上板16をリブ15で結び、さらに外周面を周板17で塞いだ構成で、これらを溶接で一体化してある。なお台座11、12の高さは、施工箇所毎に決定するが、場合によっては、単純な板状のものを用いることもある。そのほか唯一の台座12は、他の物に比べて小さい。これは、前記の斜壁セグメント23と同様、最後に組み込むことを考慮したものである。
【0034】
調整フランジ55、56は、更新斜壁21と受枠53との間に配置され、ジャッキボルト31の先端だけで架空に支持される。したがって、個々のジャッキボルト31の突出長さを調整することで、調整フランジ55、56は、更新斜壁21に対して傾いて配置することができる。本来、調整フランジ55、56は、受枠53と同様の環状にすればよいが、本発明では既設の受枠53の下に配置するため、その内周側を通過させる必要があり、調整フランジ55、56は計五個に分割してあり、そのうち唯一の調整フランジ56は、他の物に比べて小さく、最後に組み込む。そして、組み込みを終えた調整フランジ55、56は、受枠53と接触し、蓋51に作用する荷重を受け止める。
【0035】
マンホールの改修前、受枠53は、既設斜壁61で支持されている。しかし一連の改修により、更新斜壁21で支持されるように変更する。そのため、既設斜壁61の内周面の上部を環状に削り落とし、内径を拡大させた拡径部65を形成する。拡径部65の外径は、概ね受枠53の外径と一致させる。さらに斜壁セグメント22、23は、拡径部65の中に入り込む形状とする。その結果、受枠53の直下に更新斜壁21が配置され、受枠53は、既設斜壁61に替わって更新斜壁21で支持されるようになる。
【0036】
更新斜壁21と受枠53との間には、調整フランジ55、56が挟み込まれる。したがって、既設のマンホールが何らかの理由で傾いていた場合でも、個々のジャッキボルト31の突出長さを調整することで、調整フランジ55、56や受枠53や蓋51を水平に配置することができる。また仮に路面Sが水平でなければ、それに応じて傾けることもできる。
【0037】
図1の下方に描くように、既設直壁71の内周面に更新直壁41を構築し、その後、更新直壁41の最上面に台座11、12を載せ、その上面に斜壁セグメント22、23を並べ、更新斜壁21を構築する。さらに調整フランジ55、56を組み込み、受枠53を更新斜壁21で支持することで、蓋51に作用する自動車などの荷重は、更新斜壁21と更新直壁41を介して地盤Gに伝達され、既設斜壁61に荷重が伝達することはない。そのため既設斜壁61の劣化が進んだ場合でも、安全性が低下することはない。当然ながら更新斜壁21などは、想定される荷重に耐えられるだけの強度を確保してある。
【0038】
図2は、図1の台座11や斜壁セグメント22などの詳細を示す。台座11は、いずれも扇形の下板14と上板16をリブ15で結び、さらに外周面を周板17で覆った構造である。そして下板14と上板16は同形で、またリブ15は、想定される垂直荷重に耐えられるよう、所定の間隔で複数枚を配置してあり、下板14とリブ15と上板16と周板17は、溶接で一体化してある。そのほか上板16には、ボルト38を差し込むため、丸穴18を設けてある。このボルト38により、台座11を斜壁セグメント22と一体化することができる。なお台座11の高さなどの諸形状は、使用箇所に基づいて決定する。仮に台座11の高さがわずかであれば、リブ15のない単純な板を用いることもある。
【0039】
斜壁セグメント22は、いずれも扇形の下板24と上板26をリブ25で結んだ構造だが、図1に描くように、既設斜壁61の内周側に配置する。そのため上板26の外径は、下板24の外径よりも小さくなっているほか、リブ25の外周側は、中央付近が絞り込まれた「く」の字状になっている。なおリブ25については、垂直荷重に耐えられるような間隔で配置してある。さらに斜壁セグメント22については、その外周面が周板27で覆われており、既設斜壁61を覆い隠すことができる。
【0040】
隣接する斜壁セグメント22同士は、ボルト38とナット39で一体化する。そのためリブ25には、丸穴29を設けてある。また、斜壁セグメント22と台座11を一体化するため、下板24にも丸穴28を設けてある。当然ながらこの丸穴28は、台座11の丸穴18と同心になるように配置してある。そして、図1に描いてある小形の台座12や斜壁セグメント23についても、これらと同等の構成であり、マンホールの内部に台座11、12や斜壁セグメント22、23を配置した後、隣接する斜壁セグメント22、23同士や、上下に並ぶ台座11、12と斜壁セグメント22、23について、ボルト38とナット39で一体化すると、台座11、12と斜壁セグメント22、23の全てが一体化し、自然に安定した状態を維持する。したがって台座11、12や斜壁セグメント22、23は、既設のマンホールと連結する必要がない。
【0041】
斜壁セグメント22の上板26にはメネジ35を設けてあり、ここにジャッキボルト31を螺合させる。ジャッキボルト31は、斜壁セグメント22の内部から上方に向けて差し込み、その先端を上板26から突出させる。そしてメネジ35は、上板26の周方向に沿って複数が環状に並ぶように設けてあり、斜壁セグメント22から多数のジャッキボルト31が突出し、その先端で調整フランジ55、56を支持する。したがって、個々のジャッキボルト31の突出長さを調整することで、調整フランジ55、56は、上板26に対して自在に傾けることができる。
【0042】
図3は、図1のマンホールを改修する際の初期段階を示し、路面Sに埋まった受枠53は取り外すことなく流用するが、受枠53の直下に調整モルタル58が形成されている場合、これを破砕して取り外す。さらに図3では、既設直壁71を覆い隠す更新直壁41を構築するため、内部に多数の補修セグメント42を搬入するほか、既設斜壁61の内周上部を環状に削り取り、拡径部65を形成する。なおこの図では、拡径部65の形成直前の状態を描いてある。このように改修に際しては、調整モルタル58を破砕するほか、拡径部65を形成する必要があるが、これらを一気に行うと、受枠53の支持が不安定になる。そこで実際の作業時は、これらを段階的に行う。
【0043】
図3の更新直壁41は、多数の補修セグメント42を周方向と上下方向に隙間なく敷き詰めた形態である。ただし更新直壁41の形態は、これに限定される訳ではなく、既設直壁71の内周側に型枠を組み、そこにコンクリートや樹脂を流し込むなどの方法で形成することもできる。なおいずれの場合についても、更新直壁41は、所定の垂直荷重に耐えられるだけの強度が必要である。
【0044】
図4は、図3の後、内部に台座11、12を構築する段階を示す。既設直壁71の内周側には、補修セグメント42が隙間なく敷き詰められており、更新直壁41が構築されている。そしてマンホールの内部に台座11、12を搬入し、これを更新直壁41の最上部に載せていく。個々の台座11、12は、既設斜壁61の内周側を通過可能な大きさだが、全数を並べると図の右下に描くように、途切れることのない環状になる。なお、小形の台座12は最後に搬入し、既に配置されている台座11同士の隙間に差し込む。
【0045】
図5は、図4の後、内部に更新斜壁21を構築する段階を示す。更新直壁41の最上部には、台座11、12が環状に載せられており、その上に斜壁セグメント22、23を並べ、更新斜壁21を構築する。既設斜壁61の内周面は、拡径部65により、中央が最も小径の「く」の字状になっており、これに対応し、斜壁セグメント22、23についても、外周面の中央付近が絞り込まれた「く」の字状になっており、双方はわずかな隙間を隔てて対向する。そして斜壁セグメント22、23は、既設斜壁61の内周側に搬入可能な大きさとしてあり、無理なく台座11、12の上に載せることができ、全数を並べると図の右下に描くように、環状の更新斜壁21が構築される。
【0046】
実際の作業では、受枠53の落下を防ぐため、拡径部65の形成範囲を一個の斜壁セグメント22だけに限定し、そこに斜壁セグメント22を配置して受枠53を支持させる。以降、拡径部65を延長し、そこに別の斜壁セグメント22を配置し、さらに拡径部65を延長するといった作業を繰り返していく。なお、小形の斜壁セグメント23は最後に搬入し、既に配置されている斜壁セグメント22同士の隙間に差し込む。
【0047】
図6は、図5の後、調整フランジ55、56を組み込む段階を示す。台座11、12と斜壁セグメント22、23の搬入を終えた後、先の図2に描くように、これらをボルト38とナット39で一体化すると、更新斜壁21は、安定した状態で更新直壁41に載った状態になる。また既設斜壁61の拡径部65には、斜壁セグメント22、23が入り込み、受枠53の直下に更新斜壁21が配置されており、ジャッキボルト31を突出させて受枠53を暫定的に支持しているが、以降、更新斜壁21と受枠53との間に調整フランジ55、56を挟み込む。
【0048】
調整フランジ55、56は、受枠53の内周側を通過できるよう複数に分割してあり、当初は、更新斜壁21と受枠53との間に大形の調整フランジ55を挟み込み、最後に小形の調整フランジ56を挟み込む。なおその際、必要があれば、全ての調整フランジ55、56を溶接で一体化する。そして調整フランジ55、56の組み込みを終えると、受枠53は調整フランジ55、56に載る。またジャッキボルト31は、作業の進展に応じて出し入れさせ、最終的には、全てのジャッキボルト31の先端を調整フランジ55、56の底面に接触させる。これらの作業を終えると、調整フランジ55、56は、既設斜壁61ではなく更新斜壁21で受け止められる。
【0049】
更新斜壁21の上面と調整フランジ55、56の底面は、様々な要因によって平行に揃わないこともある。しかし、個々のジャッキボルト31の突出長さを調整することで、受枠53をバランスよく支持することができ、マンホールや路面Sの傾きに無理なく対応することができる。なお図では、一部のジャッキボルト31だけを描いてあるが、実際には複数本が環状に並んでいる。
【0050】
図7は、図6の後、改修が完了した最終段階を示す。受枠53は、更新斜壁21と更新直壁41で支持されており、蓋51に作用する垂直荷重は、既設斜壁61や既設直壁71を介することなくインバート75に伝達される。また既設斜壁61は、更新斜壁21で覆い隠されるほか、既設直壁71は、更新直壁41で覆い隠されるため、以降、既設斜壁61や既設直壁71の劣化が抑制され、引き続き、マンホールとしての機能を維持することができる。しかも本発明では、路面Sや地盤Gを掘削することなく、マンホールを改修可能である。なお実際の施工においては、斜壁セグメント22、23の内部空間のほか、更新斜壁21周辺の隙間を埋めるため、最終段階で各種充填材を注入することが多い。
【0051】
図8は、既設直壁71と既設斜壁61が同心ではなく偏心しているマンホールを改修する場合を示す。通常のマンホールは、既設直壁71と既設斜壁61が同心円状に配置されるが、諸事情がある場合、この図のように、既設直壁71と既設斜壁61が同心ではなく偏心していることもある。本発明はこのような状況にも対応可能で、既設斜壁61の形状に対応した更新斜壁21を用いればよい。なおこの場合でも、既設斜壁61の内周上部に拡径部65を形成するほか、更新斜壁21は複数の斜壁セグメント22、23で構成する。
【0052】
この図の既設直壁71と既設斜壁61は、双方の境界面に段差を設け、その嵌まり込みで移動を防いでいる。さらに拡径部65は、既設斜壁61の内周側だけに留まらず、外周面にまで到達しており、その結果、既設斜壁61の上部が完全に撤去される。このように、拡径部65の具体的な構成は様々で、既設斜壁61の大半を削り落とすこともある。また更新斜壁21は、計五個の斜壁セグメント22、23で構成されるが、個々に形状が異なり、そのうち小形の斜壁セグメント23は、最後に組み込む。なお、既設直壁71の内周面に更新直壁41を構築する点や、更新直壁41の最上面に台座11を載せる点は、これまでの各図と同じである。そのほか、ここでは作図を省略しているが、これまでの各図と同様、更新斜壁21と受枠53との間には、調整フランジ55、56を挟み込む。
【0053】
図9は、図8の後、改修が完了した最終段階を示す。受枠53は、更新斜壁21と更新直壁41で支持されており、蓋51に作用する垂直荷重は、既設斜壁61や既設直壁71を介することなくインバート75に伝達される。また、既設斜壁61は更新斜壁21で覆い隠され、既設直壁71は更新直壁41で覆い隠されるため、以降、既設斜壁61や既設直壁71の劣化が抑制され、引き続き、マンホールとしての機能を維持することができる。この図に描くように、拡径部65や更新斜壁21などの形状を調整することで、あらゆる構造のマンホールを改修することができる。
【符号の説明】
【0054】
11 台座
12 台座(最後に組み込むもの)
14 下板
15 リブ
16 上板
17 周板
18 丸穴(台座の上板にあるもの)
21 更新斜壁
22 斜壁セグメント
23 斜壁セグメント(最後に組み込むもの)
24 下板
25 リブ
26 上板
27 周板
28 丸穴(斜壁セグメントの下板にあるもの)
29 丸穴(斜壁セグメントのリブにあるもの)
31 ジャッキボルト
35 メネジ(斜壁セグメントの上板にあるもの)
38 ボルト
39 ナット
41 更新直壁
42 補修セグメント
51 蓋
53 受枠
55 調整フランジ
56 調整フランジ(最後に組み込むもの)
58 調整モルタル
61 既設斜壁
62 下フランジ
63 中間部
64 上フランジ
65 拡径部
71 既設直壁
72 上フランジ
75 インバート
G 地盤
S 路面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10