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  • 特許-雨水循環利用システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】雨水循環利用システム
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/16 20060101AFI20220128BHJP
   E03B 1/00 20060101ALI20220128BHJP
   E03B 3/03 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
E04H9/16 K
E03B1/00 B
E03B3/03 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020082205
(22)【出願日】2020-05-07
(65)【公開番号】P2020186645
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2020-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019088948
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506389573
【氏名又は名称】株式会社住まい・環境プランニング
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】堀川 均
(72)【発明者】
【氏名】中島 範行
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-089491(JP,A)
【文献】特開2007-278054(JP,A)
【文献】特開2018-188915(JP,A)
【文献】特開平01-102184(JP,A)
【文献】特開2001-262868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
E03B 1/00 - 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収した雨水を溜める雨水タンクと、少なくとも有機酸の塩を含有する凍結防止剤が混合された雨水の水溶液を溜める凍結防止剤水溶液タンクと、前記雨水タンクの雨水と前記凍結防止剤水溶液タンクの水溶液とを選択的に送り出す切替弁と、前記切替弁により選択された前記雨水又は前記水溶液を送り出すポンプと、前記ポンプにより送り出された前記雨水又は前記水溶液を所定の箇所に配送し散水する配管と、前記配管から散水された前記雨水又は前記水溶液を回収する回収手段と、外気温を検出する外気温センサと、前記外気温センサの出力が入力し前記切替弁及び前記ポンプを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記外気温センサにより、外気温が3℃~-3℃の内の所定の温度を境に、それより高い場合は、前記切替弁を、前記雨水タンクから前記雨水を前記ポンプに送出可能に切り替え、前記所定の温度より低い場合には、前記切替弁を、前記凍結防止剤水溶液タンクから前記水溶液を前記ポンプに送出可能に切り替えて、前記配管を介して前記雨水又は前記水溶液を散水可能にすることを特徴とする雨水循環利用システム。
【請求項2】
前記有機酸は、酢酸、コハク酸、又はプロピオン酸である請求項1記載の雨水循環利用システム。
【請求項3】
前記有機酸の塩は、酢酸カリウム、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、又はプロピオン酸ナトリウムである請求項2記載の雨水循環利用システム。
【請求項4】
前記凍結防止剤は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種の塩化物と、コハク酸塩から成る凝固点降下剤を、前記塩化物100質量部に対して、前記凝固点降下剤を5~20質量部混合して成るものである請求項1記載の雨水循環利用システム。
【請求項5】
前記凍結防止剤は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種の塩化物と、プロピオン酸塩から成る凝固点降下剤を、前記塩化物100質量部に対して、前記凝固点降下剤を5~20質量部混合して成るものである請求項1記載の雨水循環利用システム。
【請求項6】
前記制御装置は、外気温が0℃~-3℃の内の所定の温度よりも低い値になった場合に、前記凍結防止剤水溶液タンクの前記水溶液を前記配管に配送可能に、前記切替弁を制御する請求項1乃至5のいずれか記載の雨水循環利用システム。
【請求項7】
前記配管は住宅の屋根に設けられた屋根散水管に接続され、前記屋根には太陽光発電パネルが設置され、前記屋根散水管は、前記太陽光発電パネルの表面に散水可能に設けられている請求項1乃至6のいずれか記載の雨水循環利用システム
【請求項8】
前記凍結防止剤水溶液タンクには、前記水溶液の濃度を検知する濃度センサが設けられ、前記凍結防止剤水溶液タンクに隣接して前記凍結防止剤を収容した容器が設けられ、前記凍結防止剤水溶液タンクの前記水溶液の濃度が一定値以下になった場合に、前記凍結防止剤を前記凍結防止剤水溶液タンクに投入する凍結防止剤補充装置を備える請求項1乃至7のいずれか記載の雨水循環利用システム。
【請求項9】
前記雨水タンクと前記凍結防止剤水溶液タンクは、開放された開口を有せず、遮光された空間に前記雨水又は前記水溶液を貯蔵し、前記雨水及び前記水溶液を循環利用する請求項1乃至8のいずれか記載の雨水循環利用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、雨水を融雪等に効果的に利用する雨水循環利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に開示されているように、雨水を貯蔵可能な貯水槽と、屋根や家の周りに設けられた散水装置とを配管とポンプとで連結し、配管の途中に加熱装置を設けた融雪装置が提案されている。さらに、特許文献2には、夏場の冷却手段として、雨水や風呂の残り湯を屋根に散水する雨水循環屋根冷却システムが提案されている。
【0003】
また、融雪のために散水する場合、氷点下の気温により凍結する場合があるので、特許文献3,4に開示されているように、融雪水に不凍液や凍結防止剤を混合し、融雪水を循環させる融雪システムも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-207754号公報
【文献】特開2004-76541号公報
【文献】特開2007-278054号公報
【文献】特開2018-188915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、雨水等の水を融雪に使用するには、融雪水が外気にさらされて循環するので、氷点下の気温の場合容易に凍結してしまい、融雪水を回収しにくく、凍結による断水や配管の破裂の恐れもある。特許文献1では循環する融雪水の水温を上げるための加熱装置が設けられているが、加熱のためのエネルギーコストがかかるという問題がある。また、特許文献2の屋根の冷却の場合、利用できるのが夏場だけであり、使用頻度が少なく、コストに対して効果が低いという問題がある。
【0006】
さらに、特許文献3,4に開示されているように、融雪水に不凍液や凍結防止剤を混合する場合、融雪水をそのまま周囲の土地や排水路に流すと、道路の周辺や家の敷地内の土壌に環境汚染が生じるので、不凍液が混合された融雪水の処理が問題となる。一般的な凍結防止剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩化物や、尿素等がある。これらのうち、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩化物が最も広く使用されている。これらの塩化物は凍結温度が低く、溶解性、即効性に優れ、価格が安価で供給量が豊富であり、貯蔵、運搬及び散布がしやすいこと等の理由により凍結防止剤として広く用いられている。しかし、塩化物は塩害を起こすものであり、金属の腐食や、コンクリートの劣化、周囲の土壌が汚染される等の問題がある。具体的には、自動車の車体が腐食したり、橋梁や道路標識、トンネル等道路周辺の構造物が劣化し破損したり、街路樹が枯れたりする被害がある。
【0007】
この発明は、上記従来の技術の問題点に鑑みてなされたもので、雨水を効果的に利用し、環境に優しく、使用頻度も高く、経済的な雨水循環利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、回収した雨水を溜める雨水タンクと、少なくとも有機酸の塩、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸等の、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アンモニム等の塩を含有する凍結防止剤が混合された雨水の水溶液を溜める凍結防止剤水溶液タンクと、前記雨水タンクの雨水と前記凍結防止剤水溶液タンクの水溶液とを選択的に送り出す切替弁と、前記切替弁により選択された前記雨水又は前記水溶液を送り出すポンプと、前記ポンプにより送り出された前記雨水又は前記水溶液を所定の箇所に配送し散水する配管と、前記配管から散水された前記雨水又は前記水溶液を回収する回収手段と、外気温を検出する外気温センサと、前記外気温センサの出力が入力し前記切替弁及び前記ポンプを制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記外気温センサからの信号により、外気温が3℃~-3℃の内の所定の温度を境に、それより高い場合は、前記切替弁を、前記雨水タンクから前記雨水を前記ポンプに送出可能に切り替え、前記所定の温度より低い場合には、前記切替弁を、前記凍結防止剤水溶液タンクから前記水溶液を前記ポンプに送出可能に切り替えて、前記配管を介して前記雨水又は前記水溶液を散水可能にする雨水循環利用システムである。
【0009】
前記有機酸は好ましくは、酢酸、コハク酸、又はプロピオン酸である。前記有機酸の塩は好ましくは、酢酸カリウム、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、又はプロピオン酸ナトリウムである。
【0010】
さらに、前記凍結防止剤は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種の塩化物と、コハク酸塩又はプロピオン酸塩から成る凝固点降下剤を、前記塩化物100質量部に対して、前記凝固点降下剤を5~20質量部混合して成るものであると良い。
【0011】
前記制御装置は、外気温が0℃~-3℃の内の所定の温度よりも低い値になった場合に、前記凍結防止剤水溶液タンクの前記水溶液を前記配管に配送可能に、前記切替弁を制御する。前記配管は住宅の屋根に設けられた屋根散水管に接続され、前記屋根には太陽光発電パネルが設置され、前記屋根散水管は、前記太陽光発電パネルの表面に散水可能に設けられているものである。
【0012】
前記凍結防止剤水溶液タンク、又は前記凍結防止剤水溶液タンクに接続した配管である吸引管には、前記水溶液の濃度を検知する濃度センサが設けられ、前記凍結防止剤水溶液タンクに隣接して前記凍結防止剤を収容した容器が設けられ、前記凍結防止剤水溶液タンクの前記水溶液の濃度が一定値以下になった場合に、前記凍結防止剤を前記凍結防止剤水溶液タンクに投入する凍結防止剤補充装置を備えるものである。
【0013】
前記雨水タンクと前記凍結防止剤水溶液タンクは、開放された開口を有せず、遮光された空間に前記雨水又は前記水溶液を貯蔵し、前記雨水及び前記水溶液を循環利用するものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明の雨水循環利用システムは、雪解け水を含む雨水を融雪水や太陽光発電パネルの冷却用に利用して、屋根や敷地内、その他必要なエリアの融雪、発電効率の向上等に利用し、且つ外気温により、融雪に用いる融雪水を切り替えて、凍結を防止して効果的に融雪するものである。さらに、融雪水は、環境負荷の小さい凍結防止剤を混合したものであり、外部環境へ流出しても、影響が少ないものである。また、太陽光パネルの融雪や冷却に使用することにより、太陽光による発電効率を向上させることができる。
【0015】
さらに、酢酸カリウム、コハク酸二ナトリウムやプロピオン酸ナトリウム等の有機酸塩は、弱アルカリ性の水溶液となり、これを添加した凍結防止剤水溶液はpHのコントロールが容易であり、ポンプや弁、配管等の機材の酸化を抑え、耐久性を高めるとともに、排水に際しても水質規制に適合するpHの範囲内に容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の雨水循環利用システムの一実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1はこの発明の一実施形態を示すもので、雨水循環利用システム10を、家屋12の屋根14に設置された太陽光発電パネル16や屋根14の融雪と冷却、及び家屋12の周辺の駐車場や玄関18に至るエントランス等の敷地20の融雪や打ち水に用いるものである。
【0018】
家屋12の屋根14に設置された太陽光発電パネル16は、図1に示すように、所定の大きさの矩形の板状体であり、太陽電池や回路基板等を含む太陽電池モジュールが内部設けられている。太陽電池モジュールの表面側には、太陽電池モジュール表面を保護する保護ガラスが設けられている。太陽光発電パネル16は、家屋12の屋根14の南側の斜面に設置され、個々の発電パネルのユニットが並べられて取り付けられている。
【0019】
家屋12の敷地20内には、後述する回収手段により回収した雪解け水を含む雨水を溜める雨水タンク22と、後述するように少なくとも有機酸の塩を含有する凍結防止剤が混合された雨水である水溶液を回収して溜める凍結防止剤水溶液タンク24が設置されている。凍結防止剤水溶液タンク24に隣接して、有機酸の塩等を含有する凍結防止剤を溶解した原液である液体を収容した容器の凍結防止剤タンク26も設けられている。雨水タンク22と、凍結防止剤水溶液タンク24、及び凍結防止剤タンク26は互いに一体的に併設され、又は各々独立して近傍に設けられ、敷地20内の地上又は地中に設置されている。雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24及び凍結防止剤タンク26は、外気に開放された開口を有せず、遮光された空間に設定され、雨水又は凍結防止剤の水溶液を貯蔵し、後述する各配管等により雨水及び水溶液を循環利用可能に設置されている。
【0020】
雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24には、吸引管27,28が各々に挿通され、吸引管27,28は、各々ポンプ31,32に接続されている。ポンプ31,32は、後述する制御装置60により、雨水と凍結防止剤の水溶液とを選択的に送り出す切替弁29,30を介して、供給配管34に接続されている。供給配管34は、家屋12内外に雨水や水溶液を供給するもので、融雪パイプ33、屋根散水管36等に接続されている。融雪パイプ33は、敷地20内のエントランスや駐車場に散水して融雪を行うもので、屋根散水管36は、屋根14や太陽光発電パネル16の消雪及び冷却を行うものである。さらに、雨水タンク22に接続されたポンプ31は、屋内に繋がる屋内配管35、敷地20の立水栓37にも接続され、水洗トイレ38の水洗や、敷地20内で雨水を散水する場合に用いる。
【0021】
その他、散水された雨水等を回収するために、家屋12の雨樋40、及び雨樋40が接続した縦樋41は、敷地20内の集水桝42に接続され、集水桝42は、雨水や水溶液の回収手段である回収配管43に接続されている。回収配管43は、敷地20内の他の集水桝45に接続され、集水桝45はU字溝等の側溝44にも接続されている。側溝44は、敷地20内に降った雨水や融雪パイプ33から散水された雨水を集水桝45に集める。集水桝45は、流れ込んで回収した雨水等を、雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24に選択的に戻すための回収配管46に接続されている。なお、水洗トイレ38で用いた雨水は、下水管に繋がれ排水される。
【0022】
回収配管46は、切替弁29,30と連動する切替弁47,48に接続され、切替弁47,48は、雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24に各々接続された戻し配管49,50に各々接続されている。これにより、集水桝45から回収配管46により回収された雨水は、切替弁47,48により、雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24に選択的に接続され、戻される。集水桝42,45、回収配管43,46、側溝44、切替弁47,48、戻し配管49,50は、雨水や水溶液の回収手段を構成している。
【0023】
雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24には、各々図示しない水位センサが設けられているとともに、オーバーフロー防止のための排水用配管51,52が設けられている。排水用配管51,52は、雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24の各々のオーバーフロー水位に設けられた図示しない排水口に接続され、集水桝53を経て排水用側溝54に接続され、オーバーフロー水位を超えると排水可能に設置されている。さらに、雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24には、各々図示しない水位センサにより開閉される補充配管61,62が接続されている。凍結防止剤水溶液タンク24又はこれに接続した吸引管28内には、凍結防止剤の濃度を検知する濃度センサ56が設けられている。凍結防止剤水溶液タンク24は、凍結防止剤タンク26から凍結防止剤を供給する凍結防止剤補充配管57を有した、図示しない凍結防止剤補充装置を備えている。
【0024】
その他、家屋12の屋外には、降雪センサ58、外気温センサ59が設けられ、濃度センサ56、降雪センサ58、外気温センサ59の出力は、制御装置60に入力している。制御装置60は、降雪センサ58、外気温センサ59、濃度センサ56等のセンサからの信号を基に、切替弁29,30,47,48を切り替えて開閉するとともに、ポンプ31,32を作動させて、雨水等の水に凍結防止剤が混合された水溶液を循環させて利用可能にしている。
【0025】
次に、この実施形態の雨水循環利用システム10の使用方法について説明する。まず、雨水は、雨樋40、縦樋41、集水桝42、回収配管43を介して集水桝45に集まり、敷地20に降った雨水や散水された水も側溝44に流れ込んで集水桝45に集まる。集水桝45に流れ込んだ水は、降雪時以外は回収配管46、切替弁47を介して、雨水タンク22に回収される。雨水タンク22に溜められる雨水の量は、例えば一般住宅の場合は2m~3mで、災害時に最小限の使用量で水洗トイレ38等に用いた場合には、30日程度使用可能な量であると良い。
【0026】
凍結防止剤水溶液タンク24に収容する凍結防止剤の水溶液は、雨水と凍結防止剤を混合したもので、回収配管46、切替弁48を介して回収した水溶液も含む。凍結防止剤は凝固点降下剤である。ここで用いる凍結防止剤は、少なくとも有機酸の塩、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸等の、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アンモニム等の塩を用いる。好ましくは、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、プロピオン酸ナトリウムのうち、いずれかが含まれているものを用いる。コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、プロピオン酸ナトリウムは、植物等の原料から発酵により生産することができるものであり、植物由来成分であるので、毒性や環境負荷で問題となる成分を含まず安全である。特に、コハク酸二ナトリウム及びプロピオン酸ナトリウムは、食品添加物として使用されている安全性の高い化合物であり、毒性や環境負荷で問題となる成分を含まず安全であり、無臭である。
【0027】
なお、コハク酸二ナトリウムの凝固点は-11.6℃、コハク酸二ナトリウム・六水和物の凝固点は-5.9℃、プロピオン酸ナトリウムの凝固点は-17℃である。この実施形態の凍結防止剤は、常温では固体であり、また水溶性であるため、固体でも水溶液でも取り扱うことができる。
【0028】
また、凍結防止剤として、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウム等の塩化物から選ばれた1種又は複数の塩化物と混合して用いると、経済的であり好ましい。これらの塩化物と混合する場合、混合割合は前記塩化物100質量部に対して、コハク酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム・六水和物、又はプロピオン酸ナトリウムが5~20質量部とすることが適当である。塩化物と混合する方法は、例えば塩化物の固形剤或いは水溶液を一旦作製してから、これに前記凝固点降下剤を所定量添加して、凍結防止剤とする。
【0029】
コハク酸二ナトリウム(pH8.9)とプロピオン酸ナトリウム(pH7.7)は弱アルカリ性の水溶液となるが、これを添加した凍結防止剤はpHのコントロールが容易であり、水質規制に適合するpHの範囲内に容易に調整することができる。散布された凍結防止剤は、溶けた氷雪とともに回収されて、再利用されるが、余剰分は最終的に公共水域に流れ込むため、水質関係法規の規制からpHは9.0以下が望ましく、さらには配管やポンプ等の機器の保護のためには、弱アルカリ領域であることが望ましい。
【0030】
また、屋根14や太陽光発電パネル16等の傾斜した領域に散布すると、容易に流れ出てしまうため、散布箇所に定着させておくことが好ましい。そこで、定着剤としてグリセリンを混合すると良い。グリセリンは無臭で安全性が高く、粘着性が高いからである。この実施形態の凍結防止剤にグリセリンを混合することにより、上記効果に加えて、高い定着性を有するものとなる。
【0031】
この他、凍結防止剤として、酢酸カリウムを基剤とする水溶液に、グリセリン及び/又はプロピレングリコールが配合され、有効成分を酢酸カリウムとグリセリン及び/又はプロピレングリコールとする液状凍結防止剤を用いても良い。液状凍結防止剤中における有効成分の含有率は、40質量%~50質量%であり、有効成分中のグリセリン及び/又はプロピレングリコールの含有率が、12質量%~70質量%、好ましくは21質量%~50質量%以下、より好ましくは21質量%~40質量%が良い。これは、液状凍結防止剤中の有効成分の含有率が40質量%未満の場合、凍結を防止する性能が十分でない。一方、液状凍結防止剤中の有効成分の含有率が45質量%以下であれば、液状凍結防止剤は液状であり、かつ粘度を低くできる。また、有効成分中のグリセリン及び/又はプロピレングリコールの含有率が12質量%以上の場合、質量減少率が50%より大きくなり、スケーリングの抑制効果が大きくなる。一方、有効成分中のグリセリン又は/及びプロピレングリコールの含有率が70質量%を越えると、散布面の凍結防止効果が小さくなる。そのため、有効成分中のグリセリン及び/又はプロピレングリコールの含有率を上記の範囲とすることで、散布面の改質効果を得ることができる。この液状凍結防止剤によれば、配合する材料割合により、-40℃乃至-70℃程度の低温でも凍結防止効果を発揮し、凍結を防止して、凍結面でのスリップや転倒その他の事故を防止することができ、環境に対しても害が少ない。
【0032】
次に、この実施形態の雨水循環利用システムの動作について述べる。先ず、冬場の降雪時には、雨水循環利用システム10の制御装置60は、外気温センサ59により外気温が例えば3℃以下になり、降雪センサ58により降雪を検知すると、ポンプ31を作動させ、切替弁29,47を開き、切替弁30,48は閉じておく。外気温が0℃以上であれば、雨水の凍結の恐れがないので、雨水タンク22に繋がった吸引管27、ポンプ31、切替弁29,47、戻し配管49が連通するように設定する。これにより、外気温が3℃~0℃の間で降雪センサ58により降雪を検知した場合は、雨水タンク22から雨水がポンプ31により、供給配管34に送られ、供給配管34を経て、融雪パイプ33、屋根散水管36等に雨水が供給され、敷地20や屋根14及び太陽光発電パネル16の消雪等が行われる。
【0033】
屋根散水管36を介して消雪等に用いられた雨水は、家屋12の屋根14や太陽光発電パネル16から雨樋40及び縦樋41を経て敷地20内の集水桝42に集まり、回収配管43から集水桝45に集まる。敷地20の融雪パイプ33により散水された雨水は、敷地20の側溝44等を介して、集水桝45に集まる。そして、集水桝45に集まった雨水は、回収配管46に流れ、切替弁47を経て雨水タンク22に回収され、降雪中は融雪水として循環する。
【0034】
なお、雨水タンク22内の雨水は、制御装置60により、外部操作又は自動的にポンプ31により、切替弁29を介さず屋内配管35や敷地20の立水栓37等に、外気温に関係なく必要に応じて供給される。従って、消雪しない場合も、制御装置60により必要に応じて、切替弁29を閉じた状態でポンプ31を動作させる。さらに、雨水タンク22には水位センサが設けられ、一定の水位を超えると、雨水タンク22内の雨水は、排水用配管51、集水桝53を経て、排水用側溝54に排水される。一方、不足した場合には、補充配管61を介して、水道水や地下水等が供給される。
【0035】
さらに気温が低下して、外気温が0℃未満になった場合は、降雪センサ58により降雪を検知すると、凍結を防止するために、凍結防止剤が雨水に溶解した消雪水である水溶液を供給する。そこで、制御装置60は、ポンプ32を作動させ、切替弁30,48を開き、切替弁29,47は閉じて、凍結防止剤水溶液タンク24に繋がった吸引管28、ポンプ32、切替弁30,48、戻し配管50が連通するように切り替える。そして、ポンプ32が作動して散水された凍結防止剤と雨水の水溶液は、上記と同様に、家屋12の屋根14や太陽光発電パネル16から雨樋40及び縦樋41を経て敷地20内の集水桝42に集まり、回収配管43から集水桝45に集まる。敷地20の融雪パイプ33により、散水された水溶液も敷地20の側溝44等を介して、集水桝45に集まる。集水桝45に集まった水溶液は、回収配管46に流れ、切替弁48を経て凍結防止剤水溶液タンク24に回収され、降雪中は融雪水として循環する。
【0036】
なお、外気温が0℃未満の場合、切替弁29は閉じておくが、屋内配管35を介した水洗トイレ38や、敷地20の立水栓37等には、ポンプ31により雨水を供給可能にしておく。さらに、凍結防止剤水溶液タンク24には水位センサが設けられ、一定の水位を超えると、凍結防止剤水溶液タンク24内の水溶液は、排水用配管52、集水桝53を経て、排水用側溝54に排水される。排水される水溶液は、凍結防止剤として、コハク酸塩又はプロピオン酸塩、酢酸カリウム、プロピレングリコール等を溶解させたものであり、環境に無害なものである。また、コハク酸塩又はプロピオン酸塩と、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種の塩化物を上記の割合で混合した水溶液の場合も、上記の通り環境負荷の小さいものであり、pHも所定の範囲に収められているので、排水用側溝54に排水しても問題のないものである。一方、不足した場合には、補充配管62を介して、水道水や地下水等が供給される。
【0037】
凍結防止剤水溶液タンク24から供給される凍結防止剤の水溶液の濃度は、融雪して戻って来ると濃度が低くなっているので、凍結防止剤水溶液タンク24内の水溶液の濃度は徐々に低下する。従って、水溶液の濃度が一定の値以下になると、濃度センサ56からの信号により制御装置60は、図示しない凍結防止剤補充装置により、凍結防止剤補充配管57を介して、凍結防止剤タンク26から凍結防止剤を供給する。そして、凍結防止剤水溶液タンク24内の水溶液が一定の濃度になると、濃度センサ56により制御装置60が凍結防止剤補充装置の作動を止めて、凍結防止剤の供給を止める。この動作により、凍結防止剤水溶液タンク24内の水溶液の濃度は一定の範囲に保たれる。
【0038】
次に、夏場等で太陽光発電パネル16の冷却や、屋根14の冷却、その他敷地20に打ち水をして涼を得たい場合等には、雨水循環利用システム10の制御装置60を操作者が外部から操作し、又は外気温が一定の温度、例えば25℃になると、外気温センサ59及び制御装置60により、雨水タンク22に繋がった吸引管27、供給配管34が連通するように切替弁29,47を開き、ポンプ31を作動させる。これにより、雨水タンク22からポンプ31により、雨水が供給配管34に送られ、供給配管34を経て、融雪パイプ33、屋根散水管36等に雨水が供給され、敷地20や屋根14及び太陽光発電パネル16の冷却や敷地20の打ち水等が行われる。なお、雨水タンク22には、梅雨の時期に、家屋12の屋根14や太陽光発電パネル16から雨樋40及び縦樋41、側溝44等を経て、回収配管43,46を介して戻し配管49から雨水タンク22に溜められる。
【0039】
この実施形態の雨水循環利用システム10は、雨水タンク22に雨水や融雪水を溜めて、循環利用することにより、融雪のみならず、夏場の家屋12の屋根や太陽光発電パネル16の冷却に利用することができる。さらに、屋内配管35を経てトイレ38の水洗や、敷地20の融雪パイプ33や立水栓37からの散水等に雨水を使用することができ、年間を通じて使用頻度が高く経済効率が良い。さらに、冬場においては、環境負荷のない凍結防止剤を用いた雨水の水溶液により、必要に応じて融雪動作を行うことができ、効率よく融雪することができ、太陽光発電パネル16の表面の融雪も行うことができ、冬場の発電効率の向上に寄与する。
【0040】
使用する凍結防止剤は、環境負荷の小さいものであり、弱アルカリ性に調整されているため、システムに使用するポンプ31,32や切替弁29,30,47,48、その他の配管や設備への影響も極めて小さく、凍結防止剤の水溶液の循環利用に好適であり、排水も問題なく行うことができる。また、雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24は、開放された開口を有せず、遮光された空間に雨水及び水溶液を貯蔵し、雨水及び水溶液を循環利用可能に設けられているので、内部に藻等が発生しない。さらに、凍結防止剤水溶液タンク24は、凍結防止剤が抗菌作用を有し、雑菌が繁殖することもない。
【0041】
その他、災害時には、水洗トイレの水洗用水にも雨水を利用することができ、非常用の設備としても機能する。また、太陽光発電や電気自動車、蓄電池の電力を利用することにより、災害時にも水洗トイレやその他の住宅設備の最低限の利用や、水の確保を保証することができる。
【0042】
なお、この発明の雨水循環利用システムの用途は、上記実施形態に限定されるものではなく、集合住宅設備、市役所、公民館、図書館等の公共施設、ショッピングセンター等の商業施設、オフィスビル、その他空港、鉄道等の設備、駐車場等の消雪、給水設備等に利用しても良い。特に、この発明の雨水循環利用システムは、空港等において、流出した燃料等の油分を回収し、雨水タンク22や凍結防止剤水溶液タンク24に回収した上層の油分を分離して排出させることができ、油分のみを分離回収することもできる。従って、油水分離装置を兼ねた装置にすることも可能であり、効率的な設備の利用になり、設備コストを抑えることができる。
【0043】
これらの用途に利用することにより、環境に優しく経済的な雨水利用システムにすることができ、災害時にも太陽光発電パネルや蓄電池とともに、水洗トイレ等の給水設備として利用することもできる。その他、配管の設置位置や、ポンプの能力や数、切替弁の数は適宜設定可能なものであり、例えばポンプ31,32を1台のポンプにして、切替弁により雨水タンク22と凍結防止剤水溶液タンク24を切り替えて、複数の配管に供給可能に構成してもよい。また、降雪センサや温度センサによらず、手動によりポンプを作動させて、散水を行っても良いものであり、太陽光パネルに温度センサ等を設けて所定の温度で散水しても良く、温度や降雪の検知方法や散水方法は問わないものである。凍結防止剤の種類も、環境負荷の少ないものであれば、適宜選択可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 雨水循環利用システム
12 家屋
14 屋根
16 太陽光発電パネル
18 玄関
20 敷地
22 雨水タンク
24 凍結防止剤水溶液タンク
26 凍結防止剤タンク
27,28 吸引管
34 供給配管
29,30,47,48 切替弁
31,32 ポンプ
33 融雪パイプ
35 屋内配管
36 屋根散水管
37 立水栓
38 水洗トイレ
40 雨樋
41 縦樋
42,45,53 集水桝
43,46 回収配管
44 側溝
49,50 戻し配管
51,52 排水用配管
54 排水用側溝
56 濃度センサ
57 凍結防止剤補充配管
58 降雪センサ
59 外気温センサ
60 制御装置
61,62 補充配管
図1