(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-04
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】屈曲部を有する誘電体光導波路
(51)【国際特許分類】
G02B 6/125 20060101AFI20220128BHJP
【FI】
G02B6/125
(21)【出願番号】P 2017094009
(22)【出願日】2017-05-10
【審査請求日】2020-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2016138245
(32)【優先日】2016-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】山内 潤治
(72)【発明者】
【氏名】仁藤 雄大
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕人
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0076394(US,A1)
【文献】特開2006-323136(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093187(WO,A1)
【文献】特開平11-352344(JP,A)
【文献】特開平06-263452(JP,A)
【文献】欧州特許第01181592(EP,B1)
【文献】NITO, Yuta, et al,A waveguide configuration for reducing both pure bend and polarization dependent losses,2016 URSI Asia-Pacific Radio Science Conference (URSI AP-RASC),米国,IEEE,2016年08月21日,pp.1393-1394
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下クラッド上にメサ状の上クラッドが設けられ、コアが、前記コアの表面が前記下クラッドの表面と同一平面となる位置から前記上クラッドの内部となる位置の間となるように前記下クラッド及び/又は前記上クラッドに埋め込まれ、少なくとも前記上クラッドと前記上クラッドに覆われていない下クラッド表面とが空気層に接しており、
誘電体光導波路の横断面において、前記コアの横幅をwとしたとき、前記コアの右端と空気層までの距離sRと、前記コアの左端から空気層までの距離sLがそれぞれ0.3w~1.5wであるとともに、前記上クラッドの高さhがw以上
であり、
前記コアが石英系材料から構成されており、屈曲部の屈曲半径が6~8mmであることを特徴とする屈曲部を有する誘電体光導波路。
【請求項2】
下クラッド上にメサ状の上クラッドが設けられ、コアが、前記コアの表面が前記下クラッドの表面と同一平面となる位置から前記上クラッドの内部となる位置の間となるように前記下クラッド及び/又は前記上クラッドに埋め込まれ、少なくとも前記上クラッドと前記上クラッドに覆われていない下クラッド表面とが空気層に接しており、
誘電体光導波路の横断面において、前記コアの横幅をwとしたとき、前記コアの右端と空気層までの距離sRと、前記コアの左端から空気層までの距離sLがそれぞれ0.3w~1.5wであるとともに、前記上クラッドの高さhがw以上であり、
前記コアがシリコンから構成されており、屈曲部の屈曲半径が2μmであることを特徴とする屈曲部を有する誘電体光導波路。
【請求項3】
前記コアが、前記コアの表面が
前記下クラッドの表面と同一平面となるように前記下クラッドに埋め込まれていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の誘電体光導波路。
【請求項4】
前記コアが、前記コアの表面が前記上クラッドの内部となり、前記コアの下面が前記下クラッドの
内部となるように前記下クラッド及び前記上クラッドに埋め込まれていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の誘電体光導波路。
【請求項5】
前記コアが、前記コアの表面
が前記上クラッドの内部となり、前記コアの下面が前記下クラッドの表面と同一平面となるように前記上クラッドに埋め込まれていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の誘電体光導波路。
【請求項6】
前記コアが、前記コアの表面及び下面が前記上クラッドの内部となるように前記上クラッドに埋め込まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘電体光導波路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲部を有する誘電体光導波路に関し、詳しくは、屈曲に伴う損失を著しく低減させることができる、屈曲部を有する誘電体光導波路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光導波路とは、光の屈折率の違いを利用して基板上に光の道を設け、光信号を導くように加工された回路のことをいう。光導波路には、光信号が直進伝搬される直線部と、光信号が途中で伝搬方向を変えられる屈曲部を備えたものがある。このような屈曲部を有する光導波路では、コア内を伝搬する光の一部が外部に漏れる屈曲損が生じるという問題がある。すなわち、屈曲そのものに関わる純粋屈曲損と、直線部との接続部で生じる遷移損の2種類の損失が生じる。また、光集積回路の高密度化のためには屈曲半径を小さくする必要があるが、屈曲半径を小さくすればする程、屈曲損が増加してしまう。
【0003】
光導波路の屈曲損を低減する従来の代表的な手法として、コアの近傍の基板にトレンチ(溝)を設置する方法(例えば、非特許文献1、2)や、ARROW(Anti-Resonant Reflecting Optical Waveguide)の原理に基づいて屈曲損を低減する方法(例えば、非特許文献3)が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの損失低減手法は、優れた損失低減効果を有しながらも、製造工程を複雑化したり、屈曲半径、使用波長に応じて、再設計を要したりするものであった。また、従来手法では、追加の製造工程を要することに加えて、偏波依存損が生じる欠点があった。また、遷移損の低減に関しては、導波路軸をオフセットする手法(例えば、非特許文献4、5)が提案されているが、純粋屈曲損の低減には効果がない。
【0005】
本発明者らは、コアをクラッドに埋め込んだ埋め込み型光導波路において、空気界面からのコア位置を調節するのみで屈曲損を低減させる方法を提案した(非特許文献6)。
図1に、この方法による、屈曲部を有する光導波路10を斜視図で示す。この光導波路10は、屈折率n
co=1.4675のコア11が屈折率n
cl=1.46のクラッド12に埋め込まれた構成を有する石英系材料から構成されている。クラッド12の外側は空気層13となっている。コア幅は2ρ
x=2ρ
y=6.0μm、屈曲半径R=7mm、コア11の表面(上面)から空気層13までの距離d
airは、固有モード界の広がり効果による損失を発生させないためには、例えば3.0μmに設定される。このような構成により、空気層13からのコア位置を調節するのみで、屈曲損(純粋屈曲損と遷移損)をある程度低減できることを確認した。
【0006】
しかしながら、非特許文献6で示した構造では、屈曲損の低減効果は限定的であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】E. G. Neumann, Low loss dielectric optical waveguide bend, Fiber and Integrated Optics, vol. 4, no. 2, pp. 203-211, 1982
【文献】M. Rajarajan et al., Design of compact optical bends with a trench by use of finite-element and beam-propagation methods, Applied Optics, vol. 39, no. 27, pp. 4946-4953, 2000
【文献】M. Galarza et al., Simple low-loss waveguide bends using ARROW effect, Applied Physics B, vol. 80, pp. 745-748m 2005
【文献】E. G. Neumann, Curved dielectric optical waveguide with reduced transition losses, IEE Proc. H, vol. 129, no. 5, pp. 278-280, 1982
【文献】E. C. M. Pennings et al., Low-loss bends in planar optical ridge waveguides, Electronics. Letters, vol. 24, no. 16, pp. 998-999, 1988
【文献】Y. Nito et al., Reduction in bend losses of a buried waveguide on a silicon substrate by adjusting the core location, IEEE/OSA Journal of Lightwave Technology, vol. 34, no. 4, pp. 1344-1349, Feb. 15, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、屈曲に伴う損失を、光通信波長全域にわたり偏波依存損を抑えながら、低減させることができる、製造が容易な、屈曲部を有する誘電体光導波路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によれば、第1に、下クラッド上にメサ状の上クラッドが設けられ、コアが、前記コアの表面が前記下クラッドの表面と同一平面となる位置から前記上クラッドの内部となる位置の間となるように前記下クラッド及び/又は前記上クラッドに埋め込まれ、少なくとも前記上クラッドと前記上クラッドに覆われていない下クラッド表面とが空気層に接していることを特徴とする屈曲部を有する誘電体光導波路が提供される。
【0010】
第2に、上記第1の発明において、前記コアが、前記コアの表面が前記下クラッドの表面と同一平面となるように前記下クラッドに埋め込まれていることを特徴とする誘電体光導波路が提供される。
【0011】
第3に、上記第1の発明において、前記コアが、前記コアの表面が前記上クラッドの内部となり、前記コアの下面が前記下クラッドの内部となるように前記下クラッド及び前記上クラッドに埋め込まれていることを特徴とする誘電体光導波路が提供される。
【0012】
第4に、上記第1の発明において、前記コアが、前記コアの表面が前記上クラッドの内部となり、前記コアの下面が前記下クラッドの表面と同一平面となるように前記上クラッドに埋め込まれていることを特徴とする誘電体光導波路が提供される。
【0013】
第5に、上記第1の発明において、前記コアが、前記コアの表面及び下面が前記上クラッドの内部となるように前記上クラッドに埋め込まれていることを特徴とする誘電体導波路が提供される。
【0014】
第6に、上記第1から第5のいずれかの発明において、前記誘電体光導波路の横断面において、前記コアの横幅をwとしたとき、前記コアの右端と空気層までの距離sRと、前記コアの左端から空気層までの距離sLがそれぞれ0.3w~1.5wであることを特徴とする誘電体光導波路が提供される。
【0015】
第7に、上記第1から第6のいずれかの発明において、前記上クラッドの高さhが0.5w以上であることを特徴とする誘電体光導波路が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、上記構成を採用したので、屈曲に伴う損失を、光通信波長全域にわたり偏波依存損を抑えながら、低減させることができる、製造が容易な、屈曲部を有する誘電体光導波路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明者らが非特許文献6で取り上げた屈曲部を有する光導波路の構造を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る屈曲部を有する光導波路における屈曲部の構造を示す断面図である。
【
図3】上クラッドの高さhを∞に固定し、距離s
Rと距離s
Lが純粋屈曲損へ及ぼす影響を調べた結果を等高線で示す図である。
【
図4】s
R=s
L=4.0μmとした場合の上クラッドの高さhに対する純粋屈曲損を調べた結果を示す図である。
【
図5】(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、コアと空気層までの距離d
airを0.0μmとした場合、従来の代表的な屈曲損低減手法であるトレンチを設置した場合、本発明の実施形態において上クラッドの高さhを6.0μm(=w)とした場合、非特許文献6で提案した光導波路でコアと空気層までの距離d
airを3.0μmとした場合、非特許文献6で取り上げた光導波路でコアと空気層までの距離d
airを∞とした場合における固有モード界分布をそれぞれ比較して示す図である。
【
図6】(a)と(b)は、純粋屈曲損と偏波依存損(PDL)の波長特性をそれぞれ示す図である。
【
図7】屈曲部を有する光導波路における屈曲半径の依存性を調べた結果(屈曲半径Rに対する純粋屈曲損)を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係る屈曲部を有する光導波路における屈曲部の構造を示す断面図である。
【
図9】本発明の実施形態3に係る屈曲部を有する光導波路における屈曲部の構造を示す断面図である。
【
図10】本発明の実施形態4に係る屈曲部を有する光導波路における屈曲部の構造を示す断面図である。
【
図11】(a)、(b)、(c)は、それぞれコアの表面を下クラッドの表面に対し2μm、6μm、8μm上側にシフトした場合の
図5と同様の図を示す。
【
図12】コアの表面を下クラッドの表面に対し上側にシフトさせた値をy
shiftとした場合の純粋屈曲損を調べた結果を示す図である。
【
図13】上クラッドの高さhを∞に固定し、距離s
Rと距離s
Lが純粋屈曲損へ及ぼす影響を調べた結果を等高線で示す図((a)はTEモード、(b)はTMモード)である。
【
図14】(a)と(b)は、純粋屈曲損と偏波依存損(PDL)の波長特性をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による屈曲部を有する誘電体光導波路(以下、光導波路とも称する)は、下クラッド上にメサ状の上クラッドが設けられ、コアが、前記コアの表面が前記下クラッドの表面と同一平面となる位置から前記上クラッドの内部となる位置の間となるように前記下クラッド及び/又は前記上クラッドに埋め込まれ、少なくとも前記上クラッドと前記上クラッドに覆われていない下クラッド表面とが空気層に接していることを大きな特徴とするものである。
【0019】
以下、本発明を実施形態により詳細に説明する。
【0020】
図2は、本発明の実施形態1に係る屈曲部を有する誘電体光導波路20における屈曲部の断面を示す図である。この光導波路20は、コア21の表面21Aが下クラッド22の表面22Aと同一平面となるように、断面が正方形のコア21が下クラッド22に埋め込まれている。したがって、コア21の下面21Bは下クラッド22内に位置する。コア21の表面21A全体と下クラッド22の一部表面22A
L、22A
Rを覆うように断面矩形状の上クラッド23が設けられ、上クラッド23と、上クラッド23に覆われていない下クラッド22表面とが空気層24に接している。上クラッド23と下クラッド22は一体に形成されていてもよいし、別々に形成されていてもよい。これらのクラッドの形成は従来から使用されている方法により行うことができる。
【0021】
なお、本実施形態では、コア21の断面形状を正方形としているが、長方形や台形等その他適宜の形状とすることができる。また、上クラッドも台形とすることができる。
【0022】
本実施形態の光導波路20は石英系材料(SiO2)で構成されている。ここで、コア21の幅(高さも同様)をw、コア21の屈折率をnco、下クラッド22と上クラッド23の屈折率をncl、上クラッド23の高さをh、コア21の左端から空気層24までの距離をsL、コア21の右端から空気層24までの距離をsRとする。
【0023】
各パラメータの数値例を示すと、コア幅wが6.0μm×6.0μm、n
co=1.4675、n
cl=1.46、h=6.0μm、s
L=s
R=4.0μmとなっている。使用動作波長λは
図6を除き、1.55μmとしている。また、図示はしていないが屈曲部の半径Rは
図7を除き7mmとなっている。もちろん、ここの数値例は、好ましい値を例示したものであり、適宜適切な値に設定される。また、上クラッド23の形状や高さも所期の効果が得られるものであれば変更可能である。例えば、台形構造でも構わない。
【0024】
ここで、上クラッド23の高さhを∞に固定し、コア21の右端から空気層24までの距離s
Rとコア21の左端から空気層23までの距離s
Lが純粋屈曲損へ及ぼす影響を調べる。
図3に、距離s
Rと距離s
Lに対するTMモードにおける純粋屈曲損の等高線を示す。距離s
Rは、-y方向への界の広がり度合いに影響するだけでなく、界の折り返し効果にも影響するパラメータである。距離s
Rを大きく選ぶことで界の広がりを抑制可能であるが、大き過ぎると界の折り返し効果が減少し、純粋屈曲損を増加させる。そのため、距離s
Rを放射点と呼ばれる漏れ波の生成位置よりも小さく選ぶことが望ましい。距離s
Lは、屈曲の内側のパラメータであり、界の広がり効果にのみ寄与する。
図3より、距離s
L≧4.0μmに選ぶことで、十分に界の広がり効果を抑制できることがわかる。また、s
R=s
L=4.0μmに選ぶことで最小の純粋屈曲損0.05dB/cmを得ることができる。一般に、s
Rとs
Lは、それぞれ0.3w~1.5w、より好ましくは0.5w~wである。
【0025】
次に、s
R=s
L=4.0μmとした場合の、上クラッド23の高さhに対する純粋屈曲損を調べる。
図4にその結果を示す。
図4には、参考として、積層するクラッド層の高さh=∞の結果も破線で併記している。
【0026】
図4から、上クラッド23の高さh=0.0μm(半埋め込み導波路)では界の広がり効果が大きく、漏れ波が生成されやすく、上クラッド23の高さhを大きく選ぶと、界の非対称性が緩和されることで界分布がコアに集中し、漏れ波が抑制されることがわかる。また、上クラッド23の高さh≧6.0μmに選ぶことで上クラッド23の高さh=∞の場合と同等の屈曲損低減効果が得られることがわかる。
【0027】
図5の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)に、コアと空気層までの距離d
airを0.0μmとした場合(半埋め込み導波路)、従来の代表的な屈曲損低減手法であるトレンチを有する構造の場合、本発明の実施形態において上クラッドの高さhを6.0μmとした場合、非特許文献6で提案した光導波路でコアと空気層までの距離d
airを3.0μmとした場合(埋め込み導波路)、非特許文献6で取り上げた光導波路でコアと空気層までの距離d
airを∞とした場合(完全埋め込み導波路)における固有モード界分布をそれぞれ比較して示す。
図5(b)では、コアとトレンチとの間隔を3.0μmとし、トレンチ部の屈折率を1.0(空気)としている。これらの図では、位相の変化を明確にするために、界の実部Re{Hx}を表示している。
【0028】
図5(a)のコアと空気層までの距離d
air=0.0μmの半埋め込み導波路では、コアに局在する界の重心が-y方向にシフトし、顕著な漏れ波が観察される。
図5(b)のトレンチを有する構造の光導波路では、漏れ波が抑圧されているが界の重心の-y方向へのシフトは改善されていない。
図5(d)の埋め込み導波路では、漏れ波が抑圧されているが、コア中心(y=0)軸に対する界の非対称性が残っている。
図5(e)の完全埋め込み導波路では、界はコア中心軸に関して対称になっているが、漏れ波が+y領域にも生じている。これに対し、本発明の実施形態において上クラッドの高さhを6.0μmとした導波路では、コアのほぼ中心に界のピークが現れ、同時に漏れ波が抑制されていることがわかる。また、この構造では、界の折り返し効果によって最も効率良く漏れ波を打ち消すため、半埋め込み導波路や埋め込み導波路や完全埋め込み導波路よりも純粋屈曲損を低減することができることがわかる。
【0029】
図6の(a)と(b)に、純粋屈曲損と偏波依存損(PDL)の波長特性をそれぞれ示す。これらの図には、比較として、埋め込み導波路とトレンチを有する導波路の結果を併記している。
図6(a)より、本実施形態の光導波路では、波長1.3μmから1.65μmの広帯域に渡って、埋め込み導波路やトレンチを有する導波路よりも純粋屈曲損が低減されることがわかる。また、本実施形態の光導波路では、上クラッドを積層することによって、界の対称性が改善された状態で界がコアに集中するため、偏波依存損(PDL)も低減されることがわかる。更に、
図6(b)より、本実施形態の光導波路では、偏波依存損(PDL)が0.007dB/cm以下に抑圧されることがわかる。
【0030】
次に、屈曲部を有する光導波路における屈曲半径の依存性を調べた結果(屈曲半径Rに対する純粋屈曲損)を
図7に示す。
図7から、トレンチを有する光導波路では純粋屈曲損の偏波間差が大きいのに対し、埋め込み構造の光導波路や本実施形態の光導波路では偏波間差が殆どないことがわかる。
【0031】
また、本実施形態の導波路では、その他の手法による導波路に比べ、屈曲半径R=6.0mmからR=8.0mmの屈曲半径で大きな損失低減効果が得られる利点がある。
【0032】
次に、本発明による実施形態2~4に係る光導波路について
図8~
図10を参照して述べる。
図8~
図10において、
図2と同様な要素には同じ番号を付して説明を省略する。
【0033】
図8は、本発明による実施形態2の光導波路20における屈曲部の断面を示す図である。この光導波路20では、コア21が、コア21の表面21Aが上クラッド23の内部となり、下面21Bが下クラッド22の内部となるように上クラッド23及び下クラッド22に埋め込まれる。
図11(a)に、コア21Aの表面を下クラッド22の表面に対し2μm上側にシフトした場合の
図5と同様の図を示す。h=6.0μmである。
図11(a)から、
図5(c)の場合に比べ、漏れ波がさらに抑圧され、損失低減効果が顕著であることがわかる。
【0034】
図9は、本発明による実施形態3の光導波路20における屈曲部の断面を示す図である。この光導波路20では、コア21が、コア21の表面21Aが上クラッド23の内部となり、かつ下面21Bが下クラッド22の表面22Aと同一表面となるように上クラッド23に埋め込まれる。
図11(b)に、コア21Aの表面を下クラッド22の表面に対し6μm上側にシフトした場合の
図5と同様の図を示す。h=6.0μmである。
図11(b)から、
図5(c)、
図11(a)の場合に比べ、漏れ波がさらに抑圧され、損失低減効果が顕著であることがわかる。
【0035】
図10は、本発明による実施形態4の光導波路20における屈曲部の断面を示す図である。この光導波路20では、コア21が、コア21の表面21Aが上クラッド23の内部となり、かつ下面21Bも上クラッド23の内部となるように上クラッド23に埋め込まれる。
図11(c)に、コア21Aの表面21Aを下クラッド22の表面に対し8μm上側にシフトした場合の
図5と同様の図を示す。h=6.0μmである。
図11(c)から、
図5(c)、
図11(a)、(b)の場合に比べ、漏れ波がさらに抑圧され、損失低減効果が顕著であることがわかる。
【0036】
図12に、コア21Aの表面21Aを下クラッド22の表面に対し上側にシフトさせた値をy
shiftとした場合の純粋屈曲損を調べた結果を示す。R=7.0mm、λ=1.55μm、h=6.0μm、TMモードとした。
図4に示すようにy
shiftが0の状態でも損失低減効果は顕著であるが、y
shiftが増えるに従い漏れ波がより抑圧され、損失低減効果がさらに顕著になることがわかる。
【0037】
次に、本発明による実施形態5に係る光導波路について述べる。本実施形態では、各パラメータの表記は実施形態1~4と同様とする。
【0038】
本実施形態の光導波路のコアはシリコンで構成されている。各パラメータの数値例を示すと、コア幅wが0.32μm×0.32μm、nco=3.476、ncl=1.444、屈曲部の半径Rが2.0μmである。
【0039】
図13の(a)と(b)に、本実施形態の光導波路において断面構造を
図2とした場合、距離s
Lと距離s
Rが純粋屈曲損へ及ぼす影響を調べた結果を示す。
図13の(a)に距離s
Lと距離s
Rに対するTEモードにおける純粋屈曲損の等高線を示し、
図13の(b)に距離s
Lと距離s
Rに対するTMモードにおける純粋屈曲損の等高線を示す。ここでは、hを∞に固定し、使用動作波長λは1.55μmとした。
図3の結果を得るために用いた石英系光導波路では、コアとクラッドの屈折率差が小さかったため、両モードの結果が同一となったが、シリコン光導波路では、コアとクラッドの屈折率差が大きいため、偏波で特性が異なる。なお、同程度に低損失となる位置は存在する。
図13より、s
L≧0.22μmに選ぶことで、十分に界の広がり効果を抑制できることがわかる。また、s
L=s
R=0.22μmに選ぶことで最小の純粋屈曲損を得ることができる。シリコン光導波路も、一般に、s
Lとs
Rは、それぞれ0.3w~1.5w、より好ましくは0.5w~wである。
【0040】
図14の(a)と(b)に、純粋屈曲損と偏波依存損(PDL)の波長特性をそれぞれ示す。ここでは、s
L=s
R=0.22μm、h=0.2μmとした。これらの図には、比較として、トレンチを有する光導波路の結果を併記している。
図13(a)より、本実施形態の光導波路では、広帯域の波長に渡って、トレンチを有する光導波路よりも純粋屈曲損が低減されることがわかる。また、本実施形態の光導波路では、上クラッドを積層することによって、界の対称性が改善された状態で界がコアに集中するため、偏波依存損(PDL)も低減されることがわかる。更に、
図14(b)より、本実施形態の光導波路では、偏波依存損が0.01dB/cm以下に抑圧されることがわかる。なお、シリコン光導波路において断面構造を
図8,9,10としても石英系光導波路と同様に屈曲損低減効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0041】
20 誘電体光導波路
21 コア
21A コアの表面
21B コアの下面
22 下クラッド
22A 下クラッドの表面
22AL、22AR 下クラッドの一部表面
23 上クラッド
24 空気層